ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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いよいよ決勝戦!

いや〜、長かった。ここまで来るまでが……( ̄▽ ̄)




第89話 決勝戦

時間が午後へと周り、あんなに空高く登っていた太陽も、今は海へと消えかかっている……。

夕日が暖かく学園を照らしている最中、ようやく今大会の最強を決める舞台が整った。

決勝の舞台となる、IS学園第一アリーナには、学園全生徒が集まった。

観客席には、押し詰められるように座っている生徒や、残念ながら席に座れず、通路となっている階段の方に座っている者も何人か……。

その他にも、第二アリーナなどで整備を終えた教職員たちも、大会最後の決戦の舞台を見ようと、最上階にある屋根を支える柱あたりにもたれかかってみている。

今はまだ、対戦者たちは控え室に篭り、整備や補給、システムの調整や精神集中の時間などを行っているため、アリーナには姿を見せていない。

皆、決勝の舞台に上がってきた四人を、今か今かと待ち続けているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「箒ちゃん、紅椿はどう?」

 

「問題ありません……。今回は、なるべく《絢爛舞踏》を使わないようにしますので、その調整を……」

 

「あら、使わないの?」

 

「はい……。この力が、紅椿の特徴なんですけど、あいつと戦うのに、この力を使いたくないと思って……」

 

 

 

 

あくまでも正々堂々と……。

確かに、《紅椿》としての能力ではあるが、使うのはせいぜい展開装甲くらいだろう。

あとは、純粋に剣での勝負か、あとは、機体の特殊装備同士のみでの対決になるか……。

 

 

 

「あくまで、剣での勝負がお望み?」

 

「はい……。あいつも、そうだと思います」

 

「あら、なんだか二人だけわかったような言い方ねぇ〜……。ちょっと妬けちゃうわ」

 

「いやいや、楯無さんに言われると、なんだか変な気分なんですが……」

 

「ん〜? それはぁ〜、どういう意味かな?」

 

「な、なんでもないです!」

 

「こらこらぁ〜……そこまで言っておいて口籠ることはないでしょう〜? さぁさぁ、お姉さんに全部言ってみなさいな……♪」

 

「ちょ、近づかないで! その手はやめてください!」

 

「ウヘヘヘ〜♪」

 

 

 

手をワシャワシャと動かす刀奈に、箒は特大級の警戒心を発して刀奈から距離を取る。

 

 

 

「もぉ〜、そんなに逃げなくてもいいじゃない」

 

「それに今までどんだけ被害に遭ってきたと思ってるんですかっ!?」

 

「あれ? そうだった?」

 

「そうです!」

 

「まぁ、そうよねぇ〜♪ おかげで箒ちゃんの弱いところとか、色々と分かっちゃったわけだしぃ〜?」

 

「なっ、何を言い出すんですかっ!?」

 

「うっふふふ♪ 冗談よ、冗談」

 

 

 

顔を赤くして、全力でツッコミを入れる箒。

そんな様子を、ニコニコと笑いながら見ている刀奈。

 

 

 

(やはり……楯無さんには敵わないな……)

 

 

 

おそらく、こういった行為も、緊張を和らげるためのものだろう。

ここ最近は一緒にいることが多かった為、少しずつそう言うのがわかってきた。

自分のペースに他人を巻き込む……それが刀奈だと思ったのだが、何でもかんでもペースに巻き込むのではなく、人それぞれに応じて、絡むペースを変えているのだ。

それは、他人を思いやる気持ちも、当然含んでの事なのだろう。

 

 

 

 

「楯無さん……」

 

「なぁに?」

 

「ありがとうございます」

 

「ふふっ……どういたしまして♪」

 

 

 

笑顔を見せ、二人はカタパルトデッキに向かう。

 

 

 

「絶対に勝ちましょう!」

 

「ええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪、機体調整は終わったか?」

 

「うん……バッチリ。ストレアを貸してくれて、ありがとう」

 

「いや、いいっていいって……。にしても、すごいな……《絶天》……」

 

 

 

 

改めて見る簪の機体の姿に、一夏は唖然とするしかなかった。

これまで使ってきた《蒼覇》《破軍》《双星》の3パターンの武器を見てきたが、この《絶天》に至っては、もう圧巻の一言でしか評価できない。

これまでは、重砲撃という何ふさわしい、高火力の銃砲だったが、《絶天》に至っては、もはや『要塞』と思った方がわかりやすいかもしれない。

 

 

 

「高インパルス収束砲二門……腰部設置型の小型レールガン二門……背部の可動式ガトリングガン二門に、両手に持つ高エネルギービームライフル二挺」

 

「随分とまぁ、これでもかと乗せたな……」

 

「うん……勝つためには、必然な答え」

 

「カタナ……無事で済むかな……」

 

「そこは……お姉ちゃんを信じるしかない」

 

「せ、せめて、威力は抑えようぜ!? お、おい、ストレア!」

 

『はいはぁーい?』

 

「今の話、聞こえていたか?」

 

『うん! 出力を落とせばいいんでしょう? わかってるって』

 

 

電子音を聞きながら、一夏も自分の機体の最終チェックを済ませる。

 

 

「《極光神威》の出力調整……エネルギー分配率、正常。システム障害無し……展開装甲の稼働……正常っと。

最後の対決だからな…………頼むぜ、相棒……!」

 

 

 

自身の愛機《白式・熾天》を見ながら、機体に触れた。

その瞬間、《白式》の方から光を放ち、まるで一夏の言葉に反応したかのようだった。

 

 

 

「ふ……」

 

「…………」

 

「ん? どうしたんだ、簪」

 

「いや。えっと……なんか、一夏と白式って、不思議だなぁ〜って」

 

「え? そうか?」

 

「うん……。一夏、まるでISとお話ししてるみたいだったから……」

 

「うーん……俺はあまりそういうのを意識したことないんだけど、やっぱり変なのかな?」

 

「普通は、ほとんど無いと言ってもいいくらいの現象……」

 

「そういうもんか……」

 

 

 

確かに、セシリアや鈴、シャルやラウラなどの他国の代表候補生達は、ずっと前から専用機をもらい、それで訓練を行ってきた。

だからある意味、自身の専用機とは、長年連れ添ってきたことになる筈……。

だが、そう言った話を、この四人から聞いたことはなかった。

 

 

 

(だが……今の俺は、まるで手足を動かしてるみたいに、ISが動かせれるんだよな……。

てっきり、白式が合わせてくれているんだとばかり思っていたが……)

 

 

 

確かに、それも間違いでは無いだろう。

だが、それ以外にも要因がありそうだ……。

 

 

 

『っと! 終わったよー!』

 

「あ、ありがとう、ストレア」

 

『いえいえ、どーいたしましてー♪』

 

「さすが、ストレアだな。お前が来てくれたから、調整も少し楽になったよ」

 

『えっへへ〜♪ そんなに褒めてくれるんならぁ〜、今度イグシティにあると言われている絶品ケーキ……ご馳走してもらおうかなぁ〜』

 

「えっ!?」

 

『あ、でもでも〜、その他にもパフェとかもあったんだよねぇ〜……どうしようかなぁ〜』

 

「う、うーん……まぁ、わかったよ。ストレアには、いつも世話になってるからな」

 

『ほんとっ!? ヤッタァーーー!!!!』

 

 

 

今まさに、その場で飛び跳ねている光景が目に浮かぶようだ。

 

 

『ありがとう、パパ♪』

 

「「パパっ?!!!」」

 

『えっへへ〜。だってぇー、ユイはキリト達のことをパパ、ママって呼ぶでしょう? なら、私はチナツのことをパパって呼ぼうかなぁ〜って』

 

「いやいや! ユイちゃんは、ユイちゃんだからいいとしても、ストレアのは、なんか違うだろっ!?」

 

『ええっ〜〜? そうかなぁ〜? じゃあ、何がいい? お兄ちゃん?』

 

「いや、普通に『チナツ』でよくねぇ?」

 

『ええっ〜〜! やだよぉ〜……私もなんかユイみたいにしたいし、言いたいよぉ〜!』

 

「駄々っ子かよ…………。わかったよ……もうそれでいいです……」

 

『ほんとっ!? イェーイっ! ありがと、おにぃちゃん♪』

 

「ぶふっーーーー!!!!」

 

 

 

改めて言われると、なんだか恥ずかしくてしょうがない。

 

 

「じゃあ、私もお兄ちゃんって呼ばなくちゃ……」

 

「いや、別に簪が言う必要はーーーー」

 

「だって、一夏がお姉ちゃんと結婚したら、事実上、私のお兄ちゃんになるんだよ?」

 

「あー………」

 

 

もっとも反論できない意見が投じられた。

 

 

「じゃあ決勝戦、頑張ろう、お兄ちゃん」

 

『うんうん! 頑張ろうね、お兄ちゃん!』

 

「ぬああッーー! やっぱりやめようぜ、そのお兄ちゃんっていうの!」

 

『ええ〜〜っ! 良いって今言ったじゃーん』

 

「いや、なんかもう、恥ずかしいんだよ……その兄妹ゴッコ……」

 

『ゴッコじゃないよ! お兄ちゃん!』

 

「ゴッコじゃなくて、事実そのものだよ、お兄ちゃん」

 

「…………」

 

 

 

何かよくわからない二人のコンビネーションに負け、一夏は再度許す事にした。

 

 

 

「もう、ほら! さっさといくぞ」

 

「『はーい! お兄ちゃん』」

 

「はぁ……勘弁してくれ……」

 

 

 

 

どことなく嬉しそうな声だ。

まぁ、二人が良いのなら、それでも良いだろう。

そこまで考えて、一夏は右手に意識を集中した。

 

 

 

「さぁ、行こうか……白式!」

 

 

 

体が光に包まれ、鋼の鎧が現れる。

蒼い翼、薄紫の外装、四本ある純白の日本刀。

一夏の専用機《白式・熾天》が、今ここに顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、キリトくーん! こっちこっちぃ〜!」

 

「おう、ごめんごめん」

 

 

 

試合会場となる第一アリーナには、全校生徒がほぼほぼ集まった。

ラウラと共に訓練をしていた和人も、明日奈たちが座っている席へとやってきた。

 

 

 

「ずっとラウラちゃんと特訓してたの?」

 

「あぁ……」

 

「っ!? ラ、ラウラちゃん!? どうしたの?」

 

 

和人の後ろから、フラフラと歩いてくるラウラの姿を見て、明日奈が慌ててラウラを支える。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「はぁ……疲れた……」

 

「キ、キリトくん! ラウラちゃんに一体何をしたのっ!!」

 

「いやっ、何をって言われると……特訓?」

 

「どんな特訓をしたらラウラちゃんがこんなになるのよ!!」

 

 

 

軍人であるラウラがIS戦闘でここまで疲弊するとは……。

 

 

「いや……明日奈……別にやましい事はしていない……だが、お前の彼氏は、どれだけ訓練に付き合わされれば気がすむんだ……?」

 

 

何かしたのではなく、純粋な戦闘訓練だったようなのだが……。

問題は、それをどれくらい長時間続けていたのかということだ。

 

 

「もう、どれくらい打ち合っていたのかさえ、朧げだぞ……」

 

「もうっ! 集中するとすぐに周りが見えなくなるんだからっ!」

 

「あ、いや、その……ごめんなさい……」

 

「ほらっ、ラウラちゃんにも謝って!」

 

「ごめんな、ラウラ。その……今度から自重するよ」

 

「いや、構わんさ。強くなりたいという思いは、私も共感できる。だが、何事もペース配分だ。

メリハリをつけてやらねば、時間の無駄になるぞ?」

 

「肝に銘じておきます……少佐殿」

 

「ならばいい。今後は私が作ったメニューで訓練してやるから、覚悟しておけよ、ルーキー」

 

 

 

軍隊での訓練メニューをこなしてきたラウラの操縦技術は、専用機持ちの中でも上位に君臨するものだ。

そんな彼女から、マンツーマンで指導してもらえるならば、それは願ったり叶ったりだ。

 

 

「オーケー。よろしく頼みます、教官」

 

「ふむ……教官と呼ばれるのは、なかなかに良いものだな……!」

 

「だからって、ラウラちゃんもあんまり無理しちゃダメだからね?」

 

「わかっている。それに安心しろ、明日奈。私の訓練を終えた後の和人は、見違えるように強くなっているはずだ!」

 

「うん。キリトくんの事、よろしくね」

 

「うむ。任された」

 

 

 

一夏という師がいて、ラウラという弟子がいて、さらにその下に訓練生という和人がいると言うなんとも変な関係性になってきたが、この後に、和人が化けることになる事を、この時は誰も知る由もなかった。

 

 

 

「あ、ほら! みんなが出てきたよ!」

 

 

 

明日奈の指差す方向を見た。

すると、すでにアリーナの中央部に、四機のISが集っていた。

一夏の《白式》、箒の《紅椿》はいつも通りなのだが、刀奈の《ミステリアス・レイディは、先の準決勝で使用した三連バーストのガトリングガンを装備し、簪の《打鉄弐式》に至っては、もはや元の原型をとどめてないほどに、武装が追加されている。

 

 

 

 

 

 

「わお〜っ! これまた見事な武装ね、簪ちゃん」

 

「これも、お姉ちゃんに勝つため……! ねぇ、お兄ちゃん」

 

「「お兄ちゃんっ!?」」

 

「あぁ〜……えっと……」

 

 

 

 

簪の言葉に、刀奈と箒は驚きを隠せず、『お兄ちゃん』と呼ばれた一夏に視線を向ける。

 

 

 

「なんかわかんないけど、ストレアと一緒に、今度からこう呼ぶと……」

 

「意味がわからんぞ! だいたい、簪と一夏は同い年ではないか!」

 

「違うよ、箒。一夏がお姉ちゃんと結婚したのなら、事実上、私は一夏の義妹ということになる」

 

「う……まぁ、それはそうだが……」

 

「まぁ、間違ってはないわね……。なるほど、今の内に、言っておくことで、今後の関係性をスムーズにして行こうということかしら?」

 

「うん……まぁ、そんな感じ」

 

「いやん♪ 簪ちゃんったらぁ〜♪」

 

 

 

両手で両頬を包み込む刀奈。

妹にまで結婚を歓迎されているならば、もう怖いものは何もない言うかの如く……だ。

 

 

「お前はそれで良いのか? 一夏」

 

「良いも何も……二人がこの呼び方をやめないからなぁ……。俺も別に良いよって言っちゃったし……」

 

「全く、お前というやつは……」

 

 

 

いいように流されやすい性格だ。

千冬に刀奈、さらにはストレアと簪にまで尻に敷かれるとは……。

 

 

 

「まぁいい。では、そろそろ始めるぞ。先ほどから、速くやりあいたくてな、我慢しているのがやっとだ……!」

 

「へぇ〜……箒がそんな事を言うなんて……珍しいじゃないか」

 

 

 

しかも好戦的な笑みを浮かべている。

だがまぁ、実を言うと一夏も楽しみではあった。

この大会で、箒はメキメキと力をつけてきている。

それが感じられたのは、ラウラとの試合だった。

正直に言うと、ラウラは手強い。伊達にIS操縦者たちで構成された特殊部隊の隊長をやっているわけではない。

その操縦技術は、他の代表候補生に比べれば、上位にランクインするほど……。

そんな相手に、苦戦を強いられながらも、勝ち抜いてきたのは大きな成長だ。

無論、次やれば、ラウラが勝つ可能性はあるが、それでも、最新鋭機である第四世代機を使いこなし始めている。

 

 

 

「実はまぁ、俺も、お前と打ち合えるのは少し楽しみにしてたよ」

 

「ふん……いいだろう。お前の相手は私がしてやる」

 

「ほほう? いいのか、そんな強い言葉を言って……。負けた時の言い訳が大変になるぜ?」

 

「なっ!? 負けるかっ! 今日こそお前を叩きのめして、地べたを舐めさせてやるからなっ!」

 

「いいねぇ、出来るもんなら、やってもらおうかな……っ!」

 

 

 

 

昔もこんなやり取りをしたような気がする。

まだ幼い頃だったが、二人で道場に残って居残り稽古をしていた時。

いつものように一夏が箒をからかって、箒がそれに乗せられて……。

気づけば二人して激しい打ち合いに体が保たず、肩で息をしていた。

そんな幼馴染同士の会話を聞きながら、こちらの姉妹もやる気充分のようだった。

 

 

 

 

「準備はいいからしら、簪ちゃん?」

 

「うん……。今日のことために、いっぱい特訓したし、倉持技研の装備を使いこなせるようにした。

《覇軍天星》……最終兵装《絶天》。この武器で、お姉ちゃんを倒すよ……っ!」

 

 

 

自信に満ち溢れたような表情。

今までこんな表情をした妹を、見たことがあっただろうか……。

いや、多分なかったと思う。

 

 

 

「やっぱり……チナツに預けてて良かったのかもね……」

 

「え? 何か言った? お姉ちゃん」

 

「ううん。なんでもないわ……それじゃあ、私たちも……」

 

「うん……全力でいくよ……!」

 

 

 

 

こちらも準備はよろしいようだ。

一夏と箒は、互いに刀を取り、刀奈と簪は、少し離れて銃を構える。

 

 

 

5……4……3……2……

 

 

 

カウントダウンの数字が減っていき、四人の緊張感は増していく。

だが、それに負けないくらい、戦えることへの喜びと昂りが増加していくのがわかる。

ようやくここまで来た……。

ここに来るまでに、様々な戦いがあった。いろんな人との戦いがあった。

それを乗り越えて、今、四人はここにいる。

 

 

 

1……Battle Stert!!!!

 

 

 

「参る!」

 

「行くぞ!」

 

 

 

二刀を振りかぶる箒と、鞘に収まった白刃を一気に抜き放つ一夏。

刃と刃が衝突した瞬間、とてつもない衝撃が空気を震わせ、アリーナ内に響き渡る。

しかも、《雨月》《空裂》《雪華楼》ともにエネルギー刃をまとわせていたためか、衝突と瞬間に紅と蒼の光が四散する。

 

 

 

(くっ……! 相変わらず速い!)

 

(斬撃の重さが一段と上がったな……っ!)

 

 

その後、何度か刃を打ち合い、今度は高速機動に変更。

アリーナの上空、地上、空中……様々な場所で刀がぶつかり合う。

その度に、甲高い金属音と火花が散る

同じ第四世代の、同じ近接戦闘型であり、同門の剣士だった。

だが今は、二人ともそんなこと御構い無しに、ただただ剣を交わしている。

《篠ノ之流剣舞》と、アインクラッドの《抜刀術スキル》と《ドラグーンアーツ》の戦いでもあるのだ。

 

 

 

 

「ほ〜……結構初っ端から全開じゃない……」

 

「当然だよ……一夏も、箒と対戦するの、楽しみにしてたし」

 

 

 

 

簪は両手に持ったビームライフルを、刀奈は三連バーストのガトリングガン状態にした《バイタル・スパイラル》で撃ち合う。

これもまた、空中を水弾と光弾が飛び交う。

 

 

「わおっ!? なかなかの高出力……! お姉ちゃん、黒焦げになっちゃうかも〜」

 

「そう言いながら、ちゃっかり躱して反撃してくるね……!」

 

 

 

簪がライフルを一発撃つ間に、刀奈は三発の水弾を撃つ。

しかも、撃ってくる光弾をアクロバティックな動きで躱しながら、自分は水弾をお返しとばかりに撃ってくる。

それもまた、あくまで正確無比に……。

 

 

 

「《ダブルブラスト》ッ!」

 

「えっ!?」

 

 

 

アンロック・ユニットとして展開していた二門の高インパルス収束砲の砲口が、刀奈の方へと射線を合わせた。

 

 

 

「バーストッ!!」

 

 

 

ターゲットをロックし、簪は躊躇いなく撃ち放った。

すると、二門の砲口から、紅い高出力のビームが放たれる。

光の奔流は、螺旋を描いて、まっすぐ刀奈に向かって飛んでくる。

刀奈は一瞬、《アクア・ヴェール》で防御しようと思ったが、それを止めて、急いで回避行動をとった。

そのおかげで、砲撃自体は躱せたが、その背後に着弾したアリーナの地面が、跡形もなく吹っ飛んだ。

 

 

「あ……えええぇぇ…………」

 

「………………ごめん、思ったより、出力が高かったかも……」

 

「お姉ちゃん死んじゃうよっ!?」

 

 

 

 

もしもあれを真正面から受けていたのなら、《アクア・ヴェール》は一瞬で蒸発し、間違いなく刀奈自身が吹き飛んでいたはずだ。

簪も慌てて機体の出力調整のシステムを起動させ、もう一度出力を確かめる。

 

 

 

「ス、ストレア! もうちょっと出力を落として……!」

 

『うーん……思ったよりも高かったねぇ〜』

 

「本当にお姉ちゃんが消し飛んじゃうところだった……」

 

『あちゃー……それはちょっとまずいねぇ。はい、多分これで大丈夫だと思う!』

 

「多分っ!?」

 

『うん。さっきのは75パーセントくらいにしてたけど、思いっきり下げて半分くらいにしたから、大丈夫じゃない?』

 

「うーん……本当に大丈夫かな……」

 

『じゃあ、実際に撃って確かめてみれば?』

 

「えっ? じゃあ……」

 

 

 

ウインドウに向かって相談事をしていた妹が、いきなり姉の顔を見て…………。

 

 

「お姉ちゃん、ちょっと試し撃ちしてもいい?」

 

「お姉ちゃんじゃなくて、地面に向かってすれば良くないっ!?」

 

「あ……そっか……」

 

 

 

本当にそんなことを考えてすらいなかったらしい。

あれだけ冷静な簪が、ここまで取り乱すとなると、とんでもない事になる予感がある。

 

 

 

「じゃあ、一発だけ……えいっ!」

 

 

 

再び放たれた紅い砲撃。

着弾と同時に、爆発が起きたが、先ほどの衝撃に比べたら、微々たるものだった。

 

 

「はぁー、良かった……。お姉ちゃん消し飛ぶところだったわ」

 

「うう……ごめんなさい」

 

「まぁまぁ……。じゃあ、続きをしようか?」

 

「うん……!」

 

 

 

 

気を取り直して、二人は再び動き出した。

刀奈は《バイタル・スパイラル》をガトリングモードからスナイプモードに切り替えて、簪は二挺のライフルを縦に連結させる。

互いに砲身の長いライフル銃を形成した。

 

 

 

「「シュートッ!!!!!」」

 

 

 

ほぼ同時に引き金が引かれる。

高出力のビームと、ジャイロ回転の加わった水弾が放たれた。

本来ならば、水弾が一気に蒸発するものだが、《ミステリアス・レイディ》の生成する水は特別製だ。

ジャイロ回転が加わった事により、簪のビーム砲にも負けない一撃を放てる。

現に、ビームと水弾がぶつかると、大きな衝撃を生み、光と水蒸気が一気に拡散した。

 

 

 

 

「やるじゃない!」

 

 

 

《バイタル・スパイラル》をもう一度三連ガトリングモードに切り替えて、水弾を連射する。

 

 

 

「私にもそのは武器はある!」

 

 

 

背部につけられた二門のガトリングガンが可動し、刀奈に照準を合わせて光弾が放たれる。

二人とも《シューター・フロー》と《サークル・ロンド》を駆使して戦っている為、中々互いの銃弾が命中しない。

 

 

 

「っ……そこっ!」

 

「障壁展開ッ!」

 

 

 

二挺のライフルと腰部につけたレールガンを展開し、一気に撃ち放つ簪。

しかし刀奈もそれに反応して、《アクア・ヴェール》を展開する。

ビームと電磁砲の両方を食らっても、アンロック・ユニットの《ダブルブラスト》よりも威力が劣る為、《アクア・ヴェール》は破られない。

 

 

 

「それだけの武装……ばかすか撃ってるけど、エネルギー消耗は平気なの?」

 

「大丈夫。《双星》の時に使ったバッテリーパックを積んであるから、しばらくはエネルギー残量の心配はない……!」

 

「あらら〜……」

 

 

 

エネルギー切れを狙った時間稼ぎも考えたが、それでは長時間も簪の砲撃を躱さなくてはならない。

それでは万が一の時もあるし、そもそもその間に《ミステリアス・レイディ》のエネルギーが先に尽きてしまう可能性もある。

 

 

 

「これは……早めに決着をつけたほうがいいかなっ!」

 

「っ!?」

 

 

 

刀奈の動きが変わった。

《シューター・フロー》の円軌道から、《イグニッション・ブースト》の直線運動に変えてきた。

しかしこれでは、単に簪の的になってしまう……ならば、何か考えがあってのことなのだろう。

 

 

 

(何かを仕掛けてくる前にーーーー!!!!)

 

 

 

簪は刀奈に向けてライフルの光弾を放った。

そしてそれを、刀奈は躱そうとせずに、あえて《アクア・ヴェール》を展開して受けてきた。

そして、光弾が着弾したのと同時に、刀奈の姿が、霧となって消えてしまった。

 

 

「っ!?」

 

「行くわよ、《霧幻分身》ッ!!!」

 

「お姉ちゃんがっ、増えたっ!?」

 

 

 

 

簪の目の前で、刀奈の姿が複数人に増えていた。

分身体は五人……本人を入れて、六人いることになる。

それも、五人とも手に持っている武装に違いがある。

《バイタル・スパイラル》《ラスティー・ネイル》《蒼流旋》《龍牙》《煌焔》《蜻蛉切》。

六人が六人とも別々の武器を持っている。

 

 

 

「でも、本物は一人!」

 

 

簪はもう一度ライフルの光弾を撃った。

目標は、《バイタル・スパイラル》を持っている刀奈だった。

だが………。

 

 

「えっ……?!」

 

「「「「「ざぁーんねーん」」」」」

 

 

《バイタル・スパイラル》を持っていた刀奈に光弾が直撃した瞬間、その刀奈は霧散してしまった……つまりは水で作った分身体だったのだ。

残された五人の刀奈が、ニヤリと笑った。

 

 

 

「銃を持っていた私が」

 

「本物だとは」

 

「限らないわよ」

 

「簪ちゃん?」

 

「じゃあーーーー」

 

 

五人の刀奈が、簪に対して鶴翼に広がった。

 

 

 

「「「「「本物はどれでしょーか?」」」」」

 

「っ!!!?」

 

 

五人が一気に攻めてきた。

残っているのは、《蜻蛉切》《蒼流旋》《龍牙》《煌焔》《ラスティー・ネイル》を持った刀奈。

《ラスティー・ネイル》は蛇腹剣なので、遠距離からでも攻撃できるし、《蒼流旋》にはガトリングガンが搭載されている為、銃撃も出来る。

残るは槍だが、それが三体もいるのは、少々厄介だ。

 

 

 

「さぁ、行くわよ、簪ちゃん!」

 

「っ……!」

 

 

 

迫り来る刀奈に、負けじと銃を向ける簪。

この異様な光景に、アリーナに集まっていた生徒たちは、息を呑んで見守っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあああああッ!!!!」

 

「せぇええやあッ!!!!」

 

 

 

 

上空では、姉妹よりも激しい戦闘が行われていた。

紅の閃光と蒼の閃光がぶつかり合い、今もなお凄まじい衝撃と剣戟の音を轟かせていた。

箒の《雨月》と一夏の《雪華楼》が鍔ぜりあっており、両者一歩も引かない状態だ。

 

 

 

「うおおおおおッ!!!!!」

 

「ぐっぬうううッ!!!!!」

 

 

両者の機体によるブーストと、腕の力、それらが刀に注ぎ込まれている為、刀の刃がジャリジャリと擦れるような音が響き、さらにその刀身に込められた紅と蒼のエネルギーのオーラが、激しく四散する。

 

 

 

「っ!」

 

「っお?!」

 

 

箒の方から一夏を払いのけ、一旦距離を取る。

だが、すぐにまた《イグニッション・ブースト》で距離を詰める。

 

 

「ッーーーー!!!!」

 

 

だが、一夏とほぼ同時に《イグニッション・ブースト》をかけて、これを迎え撃つ。

 

 

 

「「はああッ!!!!!」」

 

 

 

再び刃が打ち合う。

そして、先ほどの衝撃とは比べものにならないほどの衝撃が、波となってアリーナを揺らす。

その衝撃は、会場で見ていた生徒たちにも轟いて、その何割かの生徒はその揺れに驚き、その他の何割かはその衝撃を生み出した二人を見つめて動けなくなっていた。

 

 

 

 

「す、凄い…………!」

 

 

 

沈黙していた観客席で、誰かがそう言葉を漏らした。

現に、専用機持ち達ですら、その光景に唖然としていた。

ただの斬り合いで、ここまでの衝撃が生み出せるものなのか……。

そういった様な表情をしていた。

 

 

 

 

「くっ!」

 

「でやあっ!」

 

「はあっ!」

 

 

 

迫り来る箒からの刀刃を、一夏は払いのけて、仕切り直した。

右手に握る《雪華楼》を、両手で握りしめて、正眼の構えを取る。

対して箒も、《雨月》と《空裂》の切っ先を一夏に向け、半身の姿勢で構える。

両者、いっこうに動こうとしない。

二人とも、相手がどう動き、どう対応しようかと模索している様だった。

 

 

 

(一刀だけでここまで渡り合うか……! さすがは一夏だな)

 

(二刀の扱いが上手くなってる……! 相当鍛練を積んだみたいだな)

 

 

 

 

拮抗している二人の力量に、管制室にいた教師達も驚いていた。

 

 

 

「織斑くんと篠ノ之さん……凄いですね!」

 

「……ああ」

 

「『ああ』って、なんだか感想が薄すぎませんか、織斑先生」

 

「別に……あの二人ならば、こうなってもおかしくはないと思っただけですよ」

 

「えっ?」

 

「今のあいつらは、一度も自分たちが得意としている剣術や剣舞を使ってなかった……。

あれはただ単純に、決められた型に沿って剣を振っていただけなんですよ」

 

「えっ?! そうなんですか?」

 

「そして、二人は同じ剣術流派の門下。つまり同門ゆえに相手の攻撃パターンを把握している……。

機体の性能もほぼ同じものです。機動特化になった織斑の白式が、篠ノ之の紅椿の速度について行ってるのがその証拠。

ならば、こういう風に拮抗するのも当然です。今のところ五分五分の対戦ですが、これからあいつらも、自分の得意な戦い方にシフトチェンジしてくるでしょう……。そうなった時が……」

 

「勝負の分かれ目……ですか?」

 

「その通り」

 

 

 

冷静な分析で試合を見守る千冬に、真耶は舌を巻いた。

 

 

 

「さて、先ほどの更識妹のこともある。あの馬鹿どもがこれ以上アリーナを破壊しないように、シールドをもう一枚展開。防爆ハッチに耐爆ジェルを入れておけ」

 

「それは厳重過ぎませんか?」

 

「これくらいやって、ようやくアリーナの損害を軽減できるんですよ……。

今のあいつらには、そこらへんの加減が出来ないはずですからね。たとえアリーナの一部が壊れようが、関係ありません」

 

「そんな……」

 

「仕方ないことだ。この組み合わせで決勝戦になった時から、こうなる事は、山田先生も薄々感づいていたでしょう?」

 

「まぁ、それは……そう、ですね」

 

「では、急いで準備してください」

 

「はい!」

 

 

 

 

一夏達の知らないところで、アリーナの防御性能がまた一段と上がってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 






次回でこの大会の決着をつけて、その次からは、ワールド・パージ編でもやろうかと思います!


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