ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく書き終えた……(ーー;)

これで残すところ決勝戦のみ!
しかも最近は仕事が忙しくて、投稿が遅くなりました。
申し訳ないです!




第88話 決戦へと道

千冬たちの計らいにより、アリーナの強度そのものが強化された試合会場。

刀奈とセシリー、箒と麻由里、一夏と時雨、簪と千影の計8名の戦いが行われているアリーナでは、銃弾の雨が降り、刀槍剣戟の舞台が催されていた。

水弾と鉛弾が飛び交う第二アリーナ。

三点バーストのガトリングガン《バイタル・スパイラル》と、アサルトライフル《ガルム》・サブマシンガン《デザート・フォックス》から次々に弾が発射される。

その傍らで、短剣ブレードの二刀流状態の麻由里と、《雨月》、《空裂》の二刀流で斬り合う箒。

 

 

 

 

「くっ、やはり操縦に関する技量では、相手が一枚、いや、二枚ほど上か……!」

 

「第四世代……世界に二機しか無い機体かぁ……。想像以上の機体性能……だけど……」

 

 

 

麻由里の手持ちの武器は短剣型ブレード二本のみ。

その戦い方に関しては、完全な近接戦闘型なのだが、箒の完全な剣術タイプとは違い、蹴りや肘打ちなども入れた格闘術も取り込んでいる為、箒からしたらやりにくい相手だ。

 

 

 

「戦闘には慣れていないようだね……っ!」

 

「っ! これしきのことで!」

 

 

 

アクロバティックな動きで縦、横、斜めと三次元的に動き回る麻由里。

そこからかかと落とし、横薙ぎに一閃、袈裟斬り、刺突。

小回りの効く短剣ブレードであるため、その分連撃が出しやすい。

結果的に、箒は防御に専念することになる。

背部の展開装甲をシールドに回して、剣戟を受けている。

 

 

「くっ!」

 

「チィ、硬い……!」

 

 

短剣は連撃が出しやすいが、斬撃が軽いため、決定打に欠ける。

 

 

「なんのっ!」

 

 

展開装甲で麻由里を弾き返し、逆に箒が斬りかかる。

 

 

「篠ノ之流剣舞《朧月》ッ!」

 

 

自身の体を大きく回転させて、遠心力を利用した一撃を放つ。

《雨月》《空裂》の二刀による重単発攻撃であるため、短剣型ブレードだけでは到底受けきれないため、麻由里は突如、体の力を抜いた。

 

 

「っ……?!」

 

 

斬撃が直撃し、麻由里は思いっきり吹っ飛んだ。

しかし、箒はその手ごたえに違和感を感じていた……。

それは何故か……?

あまりにも軽すぎたからだ。

 

 

 

「………」

 

「手ごたえが軽い事が不可解?」

 

「っ!」

 

「そんなの簡単だよ。私はあえてあなたの斬撃を受けて、その勢いを殺すためにわざと飛ばされただけ」

 

 

 

奥歯を噛み締める箒。

あの一瞬でそれをやろうと思った麻由里の操縦技術に、舌をまくしかない。

 

 

「これが……三年生の実力という事か……!」

 

 

接近戦……とくに格闘戦術が得意な箒にとって、一夏や和人、明日奈や刀奈たち以外の実力者だ。

それも、かなり実戦に近い形で戦ってくる。

しかし、これは逆に…………

 

 

「ふっ…………面白い……っ!」

 

「っ…………?」

 

 

 

ニヤリと笑う箒の表情は、麻由里にはどうやって映ったのか……。

 

 

「なにを考えているのかわからないけど、生半可な攻撃じゃ、私は倒せないよ……?」

 

 

 

麻由里は箒の表情から、少し違和感を感じ取り、早々に決着をつけるべきだと判断したようだ。

再び、三次元的な動きで箒を撹乱する。

だが、ここへ来て、箒の動きがさっきとまるっきり変わってしまった。

下手に目で追うことをやめて、じっとして動かない。

 

 

 

(諦めた……? いや、そんな事はないはず。だったら……!)

 

 

箒の背後から、ブースター全開で間合いを侵略する。

逆手に持った短剣を思いっきり袈裟斬り気味に振り抜いた。

が……。

 

 

「っーーーー!!!!」

 

「えっ……?」

 

 

振り抜いた刃が、突如、何かに阻まれるように止められる。

その斬撃を止めていた物……それは他でもない、箒の武器《雨月》だった。

 

 

「篠ノ之流剣舞ーーーー」

 

「くっ!?」

 

「《犀牙》ッ!!!!」

 

「がっ!?」

 

 

受け止めた斬撃を、《雨月》で大きく回すように払いのけ、空いた懐に向かって《空裂》で刺突を放つ。

本来ならば、小刀である《空裂》を防御に回し、大刀である《雨月》を攻撃に使うのだが……《犀牙》は大刀を防御に使い、小刀を攻撃に使う技なのだ。

これには麻由里も意表を突かれたように驚いている。

 

 

「びっくりした……! でも、同じ手は通じない!」

 

「篠ノ之流剣舞ーーーー」

 

 

今度はわかりやすい上段斬りの姿勢をとる箒。麻由里も短剣に角度をつけて、受け流す態勢のようだ。

だが、箒の斬撃は意外にも軽かった。

短剣二本でも十分受け止められるほどに……。

しかし、その理由はすぐにわかった。

初めからこの一撃を捨てて、続く左の《空裂》で、刺突を放ってきた。先ほどの《犀牙》と同じパターンだ。

これにはさすがに対応してきた麻由里。

難なく躱し、一旦距離を取ろうかと思っていた矢先。再び鳩尾に衝撃が走った。

 

 

「《砕破》ッ!!!!」

 

「くっ!? 肘打ち……っ!」

 

「篠ノ之流にも、組討ち術くらいあります!」

 

 

 

刺突を放った左腕を折り曲げ、体重移動する要領で上から斜め下へとショートパンチならぬショート肘打ちを打つ。

篠ノ之流は剣術だけに留まっていない。

合気術だってあるし、もともとが古流武術ゆえに、実戦仕様の技だってあるのだ。

 

 

「篠ノ之流剣舞は、それらの術理を舞の型に当てはめて作られた物……むろん、蹴り技なども当然ありますよ」

 

「ちぇっ……油断したなぁ……。今までは本気じゃなかったって事?」

 

「いえ……。今までも十分本気でした。でも、自分の中で、まだ何か噛み合っていないような感覚があっただけです……。

でも……それも今は、凄く噛み合ってる……ッ!」

 

「っ……ここでようやくスタートラインに立った……って言いたいのかな。

参ったなぁ……これだから今年の一年は……」

 

 

 

本当に困った……というような表情で箒を見る麻由里。

しかし、すぐに顔色を変えて、鋭い目つきで箒を見る。

 

 

 

「確かに面白い……今年の一年は、本当に面白いッーーーー‼︎」

 

 

獰猛な笑みを浮かべ、思いっきり斬りかかってくる麻由里。

それに応じるように、箒もブースター全開で斬りかかる。

一撃が重いのは箒の方だが、そこは経験の差で埋められる。あとは、勝負を決める決定的な一撃を、どちらが出してくるかだが……。

 

 

 

「おおっ!」

「だあっ!」

 

 

一瞬の交錯から、最初に攻撃を繰り出してきたのは、麻由里だった。

左手の短剣を順手に持ち替えて、箒の顔めがけて刺突を放ち、箒はそれを躱して、斬りかかろうとするが、麻由里はそれを許すはずがない。

刺突を放った勢いを利用して、時計回りに体を回転させると、逆手に持ったままの右手の短剣を、横薙ぎに一閃した。

箒はなんとか体を屈めて躱したが、短剣が髪の毛を数本ほどに斬り裂いた。

あと一瞬でも遅ければ、間違いなく首元を斬られていただろう。

だが、その体勢は麻由里にとっては好都合だ。

箒が顔を上げた瞬間、麻由里の左脚が急速に迫ってきて、防御しようと腕を上げるが、間に合わない。

 

 

 

「ぐあっ!!」

 

「もらったぁぁぁッ!!!!!」

 

 

強烈な蹴りを受け、吹き飛ばされる箒。

顔自体は、絶対防御が発動しているため、傷などは見受けられないが、その衝撃までは消すことができない。

これは好機と、麻由里は一気にけりをつけるつもりのようだ。

 

 

「ぐっ……蹴り技ならーーーー」

 

「っ?!」

 

「ーーーーこちらにもあるッ!!!!!」

 

 

《紅椿》の脚部に装備されている展開装甲が稼働し、右足の先端にエネルギーブレードが生成された。

こちらに向かってくる麻由里は、急停止を試みるも、間に合わず。

振り上げた右脚を、箒は思いっきり振り切った。

 

 

「くっ、この……っ!」

 

 

技名自体は無いが、下から思いっきり上へと振り抜く空手の前蹴りに近い。

その鋭い蹴りが、腕をクロスさせて防御していた麻由里の体を斬り裂く。

今の一撃で、シールドエネルギーの残量が、残り少なくなっていた。

 

 

 

「こんなところで、負けられるかぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

麻由里はもう、ほとんど意地で動いている。

残り少ないエネルギーを使い切っても構わない……ただ、目の前にいる相手、箒という存在に勝つためならば……!

そう思わせる勢いだ。

その覚悟が決まった姿が、箒にもしかと見てとれた。

 

 

 

「ならば私も……決死の覚悟で挑まねばな……っ!」

 

 

 

箒は《雨月》と《空裂》を、腰の両サイドに展開していた鞘に納めた。

そして、左側に納刀した《雨月》の柄を右手で握り、左手はその鞘を握る。

 

 

 

「篠ノ之流 “居合術” ーーーー」

 

 

 

鋭い視線とは裏腹に、箒を覆っていた闘気のオーラが、次第に小さくなっていく。

居合術……つまりは『居合抜き』、または『抜刀術』とよばれるものだが、《篠ノ之流剣舞》ではなく、何故ここで居合を選んだのか……?

そんな疑惑が、麻由里の頭を過ぎったが、もはや躊躇する時間も隙も無い。

麻由里はすべての迷いを振り払い、短剣を突き立てた。

そして、箒は………。

 

 

 

 

「ーーーー《零閃》」

 

「っ?!」

 

 

 

交錯した後……麻由里が箒の姿を捉えたのは、既に自身が斬られた時だった。

 

 

「えっ…………?」

 

 

 

何が起こったのか、全く分からない……そう言っているような表情をしている。

しかし、自身の乗っているISが知らせる『Energy Empty』の文字と警告音が、自身の敗北を告げていることを理解した。

 

 

 

「篠ノ之流居合術《零閃》は、特殊な呼吸法を用いて、相手の意識外の場所から一刀を抜く居合抜き。

篠ノ之流の歩法《零拍子》を使った居合抜きなんです。まだ未熟な私では、完璧には使いこなせていない技ですけどね……。うまく行ってよかった……」

 

 

苦笑いでこちらを見る箒の姿に、麻由里は呆然としているしかなかった。

 

 

「は、ははっ……! いやぁ〜、負けた負けた。くっそぉー……勝てると思ったのになぁ〜」

 

 

 

少し大げさに敗北宣言をする麻由里。

どこかいじけている様にも見えるのだが……。

しかし、その傍らで、箒は冷や汗をかきながら、麻由里のその姿を見ていた。

 

 

(……私は専用機だったから、勝てた様なものだが……)

 

 

もしも麻由里が専用機を持っていたなら……もしくは、箒が《紅椿》ではなく、訓練機で対戦していたなら負けていたのは、箒の方だったかもしれない。

あそこで《篠ノ之流剣舞》ではなく、《篠ノ之流居合術》にしたのは、剣舞では、決定的な何かを持っていた麻由里に敗北してしまうという予感があったからだ。

奇しくも勝敗を決めたのは、一夏の得意とする居合抜き……抜刀術だった。

 

 

 

「ふぅ……一夏、私は勝ったぞ……!」

 

 

今も戦っているであろう一夏の事を思いながら、箒は空を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃ! 腹立つなぁっ、その水の壁っ!」

 

「シューターが冷静さを欠いてていいのぉ〜?」

 

「はっ、この程度で命中率が下がるかよっ!」

 

 

 

現在、上空……アリーナを優に見下ろせる場所で、刀奈とセシリーは銃撃戦を続けていた。

刀奈の《バイタル・スパイラル》は、銃口が三つある三連ガトリングの三点バーストの銃。

設定を変えて、フルオート状態にも変更可能なのだが、なぜか三点バーストの状態で戦っている。

対するセシリーは、アサルトライフル《ガルム》を格納し、新たにショットガン《レイン・オブ・サタディ》を呼び出し、左手に持っているサブマシンガン《デザート・フォックス》とともに連射し続けている。

もう十数分以上は銃弾を撃ち続けているのだが、一向に決着がつかない。

圧力的にはセシリーの方が圧倒的に上なのだが、やはり『学園最強』ほ名は伊達ではなく、刀奈の専用機《ミステリアス・レイディ》の特殊武装《アクア・ヴェール》によって、銃弾を止められてしまう。

 

 

 

「なろう……!」

 

 

 

セシリーが煮えを切らしたのか、右手に持っていた《レイン・オブ・サタディ》を捨てて、新たにグレネードランチャーを取り出した。

 

 

 

「あらまぁ……そんな物があったんなんて……」

 

「その間抜け面、一瞬で崩壊させてやるっ!」

 

 

 

引き金が引かれ、大きな銃口からドンッ、という低くも破裂した様な音が鳴った。

それに続いて、銃口からは大きな弾丸……いや、ミサイルが出てきた。

着弾面は赤く塗装された、わかりやすい配色と形。

そのミサイルが、まっすぐ刀奈の方へと向かってくる。

いくら《アクア・ヴェール》が有能だったとしても、グレネードランチャーの威力が壁を通り越えて、本体にダメージを負わせることは可能だ。

だが、そんな状況においても、刀奈は冷静を保っていた。

 

 

 

「ふふっ……」

 

 

 

刀奈に銃を構えた。

そして、次の瞬間……刀奈の銃、《バイタル・スパイラル》の形状が変化した。

縦に三門あった銃口……その三つが前方にスライドしたかと思うと、

次々に連結していき、一本の細長い砲身へと変わった。

 

 

 

「な、んだっ、それは……っ!?」

 

「うふふっ……狙い撃ちだゼ☆」

 

 

 

その言葉とともに引き金が引かれた。

先ほどまで、ガトリングガンだった銃が一変、スナイパーライフルへと変形し、さらには、水の弾丸にジャイロ回転を付与したらしく、貫通力が一段と跳ね上がる仕組みになっている。

螺旋運動をしながら放たれた弾丸は、グレネードランチャーのミサイルを撃ち抜き、その後方にいたセシリーの持つグレネードランチャーの本体をも撃ち抜いた。

 

 

 

「ぐおっ!?」

 

 

咄嗟に手を離し、その場を離れようとしたが、時すでに遅し。

爆発の余波に当てられて、軽く吹き飛んだセシリー。

体勢を立て直して、再び刀奈の方へと向き直るが、そこにはすでに、銃身をこちらに向け、ニヤリと笑いながらこちらを狙っている刀奈の姿があった。

 

 

 

「く、そぉ……!」

 

「ふふふっ……こういう時って、何て言えばいいんだっけ?」

 

「くっ……!」

 

 

 

わざとらしく笑いながら、刀奈はセシリーに問いかけた。

刀奈の眼前には、ホロスコープが投影されており、より精密な射撃が行える様にサポートされている。

この場面での回避は不可能に近く、セシリーの銃が火を噴く前に、刀奈のライフルが撃ち抜く方が速い。

 

 

 

「ーーーーチェックメイト」

 

 

 

凛とした声が聞こえた。

その瞬間、セシリーは自分が撃たれた事に気づく。

絶対防御が発動し、シールドエネルギーが急速に減っていく。

だが、たった一発だけでは、シールドエネルギーを全て削るのは無理だ。

反撃しようと《デザート・フォックス》と《ガルム》の銃口を向けたが、その二つの銃を撃ち抜く水弾が二つと、セシリーのおでこに当たった一発の水弾……計三発の水弾が放たれた。

 

 

 

「詰みよ♪」

 

「がっ……!」

 

 

 

今度こそ、エネルギーが全損し、アリーナのアナウンスが勝者を告げた。

 

 

 

『試合終了。勝者 更識楯無、篠ノ之 箒』

 

 

 

決勝進出を決める一枠が決まった。

刀奈と箒のペアが決勝へと一足先に上がり、あとは一夏と簪の試合を待つのみ。

 

 

 

「待ってるわよ……チナツ、簪ちゃん」

 

 

今も対戦を続けているであろう二人がいる第一アリーナの方へと視線を向ける刀奈。

その一方で、刀奈の方を睨みつけていたセシリアの姿があったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふふふ……っ! 上等ですわ……BIT兵器に飽き足らず、狙撃手としても私の面目を潰しに来たとあっては、ここで引き下がるわけにはいきませんわね……っ!」

 

「はいはい。勝負すんのはこの大会が終わった後でねぇー」

 

「ちょっ、鈴さん! 何をしますの、離しなさい! 私は楯無会長に決闘を……」

 

「だから大会終わった後にすればいいじゃないのよ……。ほら、さっさと第一アリーナに行くわよ。

一夏たちとの決勝戦を観る席が埋まっちゃうじゃない」

 

「は、離しなさい! ええいっ……! 狙撃では、わたくしが一番ですからねぇっ!」

 

「はいもう、わかったから……っ!」

 

「決闘ですわ! 更識会ーーーー」

 

「はいもう、行くわよ!」

 

「むうううっ!? むうううっ!!!!」

 

 

 

羽交い締め+口を塞がれながら、第二アリーナを去っていった鈴とセシリア。

鈴の柔軟な対応には、周りにいた生徒や職員たちも感心していた。

 

 

 

 

 

 

 

「《堤宝山流》八天切」

 

「っ!?」

 

 

一夏の横を通り過ぎ、振り向きざまに一撃を見舞う剣技。

これはどこか《龍巻閃》に似た剣技にも見える。

時雨の使う剣術……それは《警視流木太刀形》と呼ばれるもの。

現在の警視庁が、明治10年代に形成した剣術だと言われている。

各流派……十の流派の技を一つずつ採用したもので、今見ただけでも、三つの剣技が放たれたが、それぞれ違う流派だ。

それがあと残り七つもあると思うと、これはもうチャンポン剣術だと思えなくもない。

 

 

 

(くっ……この剣術、かなり厄介だぞ……)

 

 

 

基本的な剣術としての動きや足運び、重心の移動に斬りつける角度やタイミング……。

それだけでも、時雨の剣技は他者よりも上をいくだろう。

そして、多種多様な技を出せる《警視流》となると、それぞれに流派が異なるため、本当に自由自在な攻撃を出せる。

だが、そんな中で、時雨は不可解な疑念を抱いていた。

 

 

 

(最初は驚いて対応出来なかったみたいだけど、今はそうでもない………まさか、見切られた……?)

 

 

 

そんな筈はない……そう思いたい所だったが、時雨の剣士としての勘が、とても嫌な予感がする……と、警告を鳴らしていた。

 

 

 

「《直心影流》八相ッ‼︎」

 

「《龍巣閃》ッ!」

 

「っ!?」

 

 

脛斬りに対する応じ技でもある剣技を放つ時雨。

しかし、その技に、乱撃術である《龍巣閃》で迎え撃つ一夏。

乱撃を乱撃で返すような一夏の戦い方に、時雨は今度こそ本当に驚いた。

 

 

 

(っ………まだ半分も技を見せてないのに、もう対応し始めてるっ……?!)

 

 

 

一夏の剣の腕は、望まなくても耳に入ってきていた。

IS学園にやってきた、男性IS操縦者二名。

そのうちの一人が、かの世界最強《ブリュンヒルデ》の称号を得た織斑 千冬の弟であると、テレビのニュース番組で知った。

もう一人の男子、和人とともに、VRゲームの虜囚となった人物と聞いて、はじめは興味すらなかったのだが、クラス代表対抗戦に起きた所属不明機乱入事件に、一学期の時にやったタッグマッチトーナメントの機体の暴走事件。

そして、学園から離れて起きた臨海学校でも、何やら事件が起きたことを聞き、その全てを生き残り、存在感をあらわにし始めた時に、ようやく興味を持った。

その後も、一夏の剣技の凄さに魅了された。

迷いなく振り抜く剣閃は、鋭く、そして速く、空を駆ける。

自分も剣士としての誇りにも似た信念が心に内にあった……そんな信念が、一夏という存在を目の前にして、激しく燃えたぎっているのを……時雨はここ最近で理解したばかりだった……。

 

 

 

(あぁ……そうか……私、楽しいんだ……!)

 

 

 

剣道部員になることもなく、ただ黙々と剣術の鍛練をしていた時雨。

同学年に、自分と渡り合えるような生徒はいなかったし、ルールで縛られた剣道をする気にもなれなかった……。

だからこそ、年下の男である一夏の存在に、ここまで看過されているのだろう。

 

 

「織斑くん……」

 

「っ? はい」

 

「私……楽しいわ……!」

 

「え?」

 

「凄く楽しい……! 私とここまで打ち合えるのって、あなたが初めてかも」

 

「っ……! それは、とても光栄な事ですね」

 

「だから……もっと、私を楽しませてよ」

 

「えっ?」

 

 

 

時雨はニヤリと笑うと、急に呼吸を整え始めた。

 

 

「はぁーーー、んんんんッ!!!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

上段から打ちおろす一撃が、途端に強くなった。

それも、連続して繰り出してくる。

一夏は無理に《雪華楼》を振り抜く事をせず、ただただ時雨の斬撃を受け続ける。

 

 

(なんだ……?! 急に力が跳ね上がった!?)

 

 

今までは速さを主体にした連撃を繰り出してきていたが、ここへきて打ち込む力が増した。

一夏は疑問に思ったが、その前に時雨が行った特殊な呼吸を思い出した。

 

 

(呼吸で身体に伝える力加減を変えたのか……っ!? この独特の呼吸法……薩摩の《直心影流》剣術に似たようなのが……!)

 

 

さすがに受け続けるのはまずいと思ったのか、一夏は即座に距離を取り、再び正眼に構える。

その後、時雨は「ぷはぁー」と息を吐き出す。

やはり、呼吸を止めていたのだろう。

 

 

 

「《直心影流》に存在する特殊な呼吸法『阿吽の呼吸』」

 

「そうだよ……。じゃあ、タネがわれたところで、再戦と行こうか……!」

 

「っ!」

 

 

 

ブースターを使い、一気に一夏に近づいてくる時雨。

いきなり左手を刀の刀身に添えるように構えたと思いきや、その状態で水平刺突を放ってきた。

これは躱せると思った一夏は、軽く体を捻る事でこれを回避……しかし……

 

 

 

「その手は悪手だったね」

 

「っ!?」

 

「《引き斬り》っ!」

 

「くっ!?」

 

 

 

添えていた左手を一夏の体に押しつけて、それを一気に自身の体の方へと引く。

咄嗟に体を退いたものの、エネルギーを削られる事になった。

 

 

 

「大きく振れなくても、この剣術には咄嗟の対応技がある」

 

「ちっ!」

 

 

 

今度もまた接近を仕掛けたのは時雨。

また同じ技が来るかと思いきや、今度は右半身を一夏の方へと向け、横向きの体勢になり、刀を持つ右手と刀身に添えている左手を、頭上へと持って行き、まるで刀を掲げているような構えを取る。

突然そんな構えをとった事で、一夏も一瞬だけ対応に困り、動きを止めてしまった。

しかし、それもまた悪手。

上段から、鋭い唐竹割りが放たれたのを、一夏は見逃さなかった。

 

 

「っ!? これは……っ!」

 

「ちっ、掠っただけか」

 

 

斬撃を放つ瞬間、急に剣の動きが速くなった。

あの体勢から、なんの予備動作もなしで、高速の唐竹を放てるものなのだろうか……?

 

 

(そうか……添えていた左手で、刀自体にストッパーをかけてたのか!)

 

 

右腕は打ちおろす動きを取っていたが、左手で刀身自体を止めて、一気に離す事で、放つ斬撃の速さが変わった……。

つまりは、デコピンの要領と同じというわけだ。

それよって、速度が急激に上がったのだろう。

左手を刀身に添える型……デコピンの要領を取り入れた技……この剣術は……

 

 

「《神道無念流》……っ!」

 

「これも知ってたか……ならもう、隠す必要もないね」

 

 

 

上段からの唐竹を一夏は受け、鍔迫り合いとなり、そのまま膠着する。

だが、時雨の方から力を抜き、一夏の脇腹めがけて肘打ちを放つ。

寸での所で一夏も肘を割り込ませて受け止めるが、そこからさらに斬りつけてくる。

 

 

(くっ……! また《警視流》に戻った!)

 

「《浅山一伝流》阿吽……。これを防いだ人って、あまりいないんだけどな……」

 

 

 

それもそうだろう……。

純粋な剣術では、まず見られない肘打ちによる近接打撃術を取り入れた総合剣術だ。

しかも、それを鍔迫り合いの絶妙なタイミングで繰り出してくるのだから、反応が遅れていたら、一夏とてまともに食らっていた可能性が高かったのだから……。

 

 

 

「そろそろ決着をつけねぇと、ちょっとヤバいかな……!」

 

「そんな事言わずに……。出来ればもっと打ち合いたいんだけどね」

 

「あいにく、長い間時間をかけてると、文句を言ってくる奴がいるもんですから……」

 

 

 

 

戦いの最中に聞こえた第二アリーナからのサイレン。

おそらく、試合終了を知らせるものだったのだろう……。

となると、当然刀奈たちの試合は終わり、決勝戦に向けての準備を施している最中だろう……。

ならば、こちらも速く決着を付けて、早々に決勝戦に臨む態勢でいたいものだ。

一夏の覚悟が決まった表情を読み取り、時雨はより一層警戒を強めた。

今は自分の方が有利に進んでいるが、一夏の剣は、全てが一撃必殺の破壊力を持っている。

目にも留まらぬ、神の如き速さで放たれる抜刀術……。

それが出された時点で、自分の敗北がほぼほぼ決まるということは、時雨自身もわかっている。

 

 

 

「そっか……残念だね。じゃあ、終わりにしようか」

 

「望むところですよ、先輩」

 

 

 

互いに体の中心に刀を持って行き、正眼の構えを取る。

互いの力量はだいたい把握できた……ならば、技や駆け引きで勝負を有利に進めるか、圧倒的な力を持って一気に叩くか……。

 

 

(このまま有利な状況に持ち込んで、一気に叩く……!)

 

(逆転の一撃……なら、もうアレをやるしかないな……!)

 

 

 

互いに覚悟は決めた様だ……。

 

 

 

「いざッ!!!!!」

 

「勝負ーーーーッ!」

 

 

 

答えは、互いに後者だった。

時雨は正眼に構えていた刀を、自分の右肩の位置まで持っていくと、そのままイグニッション・ブーストで一夏に迫る。

対して一夏は、《雪華楼》を鞘に納め、抜刀術の体勢。

両者の間合いがどんどん近づいていき、互いの間合いに入った。

 

 

 

「《示現流》雲耀 疾風ッ!!!!!」

 

 

イグニッション・ブーストで加速した状態から、薩摩の《示現流》の一撃を放つ。

雲耀とは、雷を意味する言葉だ。

一夏が抜刀術を放つよりも速く、その雷がまっすぐ一夏の頭上めがけて落ちてくる。

だが、一夏はまだ、刀を抜き放たない……。

 

 

 

「抜刀術スキルーーーー」

 

 

 

白刃がもう目の前に迫ってきた……。

だがその瞬間、時雨の目の前で、三本の黄閃が閃めいた。

 

 

 

「閃ノ型 《雲耀 閃刃》…………ッ!!!!!」

 

 

 

同じ《雲耀》の名を持つ技同士がぶつかった。

だが、拮抗して見えたのも、ほんの一瞬だった……。

究極の一撃を放つ《雲耀 疾風》と、神速の一瞬三撃を放つ《雲耀 閃刃》。

どちらが速く、そして強く届いたのかは……言うまでもなかった。

光と風……どちらが速かったのか……。

 

 

 

「っ…………これでも、全速力だったのに……!」

 

「さすがに、抜刀術を使ってまで、負けるわけにはいきませんからね……」

 

「同じ『雲耀』を使っていながら、このザマじゃね……。まだまだ修行が足りなかったか……」

 

 

 

 

互いの刃が交錯した瞬間、一夏の刀が、三本の同時に存在したように見えた。

それはあくまで、ライトエフェクトの残滓が残っているために、そう見えていたのかもしれないが、時雨の目には、はっきりと見えた。

自分の放った《雲耀 疾風》が、一夏に直撃しようかというその寸前で、一夏の姿が消えた。

そして、気がついた時には、すでに自分の間合いを侵略していた三本の黄閃。

その黄閃を纏った刀は、確かに三本存在した。

『一瞬にして三撃』。

いや、ここは、『一撃にして三撃』と言っておこう。

たった一回の攻撃で、三本もの斬撃を放つ一夏の剣技は、もはや同年代のものとは思えない。

 

 

 

「私の、負け……参りました」

 

「俺も、勉強になりました……ありがとうございました、時雨先輩」

 

 

 

互いに礼をしあって、相方達が戦っている方へと視線を向けたのだが…………。

 

 

 

 

 

 

「あうう〜〜……」

 

「………………」

 

 

 

 

連結したガンランチャーの砲口を向けたまま、簪は平静を保ったように千影を見ていた。

千影は千影で、アリーナの地面に大の字になりながら、仰向けに倒れている。

目が回っているのか、起き上がれない状況のようだ。

 

 

 

『試合終了。勝者 織斑 一夏、更識 簪』

 

 

アリーナの勝者宣言がなされ、会場は大いに湧き上がったのだが、一夏達は目の前のこの状況のせいで、どうして良いものなのか、困惑していた。

 

 

 

「えっと……これは、簪が勝った……ってことで良いんだよな?」

 

「うん……そう、なんだけど……」

 

「……どうかしたのか?」

 

「えっと、千影先輩が、自爆しちゃった……から」

 

「あ…………」

 

 

 

簪の話によると、簪の高火力の砲撃に魅せられて、自分も高火力の爆薬やら重火器を使って応戦したそうだ。

そして、最終的にグレネードでも投げようかとしていたところ、手を滑らせて自分の足元に落としてしまい、ドカーン……ということらしい。

 

 

 

「ま、まぁ、勝ったから……良いんじゃないか?」

 

「う、うん……そ、そうだよね! 勝ちは……勝ち、だよね?」

 

「うん。そうだと思う、ぞ?」

 

 

 

なんとも煮え切らないような決着だったが、これで、決勝のカードが揃ったことになる。

一夏・簪のペアと、刀奈・箒のペアでの対決となった。

 

 

 

 

「さて、俺たちも戻って、整備と補給して、あいつらに対抗するための作戦会議をしなきゃな」

 

「うん。私も、早く最後の武装をインストールしなきゃないけないし……」

 

「あぁ、そうだったな……。そういえば、最後の『天』の字って名前はなんて言うんだ?」

 

「うーん……まぁ、もう言ってもいいかな……。最後の武装の名は、《絶天》。

絶対の『絶』に『天』で《絶天》」

 

「ほう……なんか、強そうだな」

 

「うん……火力だけなら、《覇軍天星》の中じゃ一番」

 

「ほう……」

 

 

 

 

簪の言葉に、一夏は思い返す。

《蒼覇》《双星》《破軍》……どれも高火力だったような気がするが、《絶天》はその上を行くということになる……。

果たして、そんな火器を用いた簪相手に、刀奈は無事でいられるのだろうか……。

 

 

 

「まぁ、とにかく、速くインストールしとかないと……。色々と調整もしなきゃなだろ?」

 

「うん……。あまり出力が高過ぎると、アリーナを破壊しかねないし……」

 

「お、おう……」

 

 

 

 

そんな怖い言葉を聞きながら、一夏と簪はアリーナのカタパルトへと向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 






というわけで、決勝カードは一夏・簪ペアと、刀奈・箒ペアでの対決。

これが終わって、ようやくワールドパージやら、京都旅行やらができます!
そのあとは、ちょっと閑話とかを挟んでみようかなぁ〜とか考えている今日この頃。
決定ではないので、ないかもしれませんが……( ̄▽ ̄)


感想よろしくお願いします!


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