ごめんなさい!
決勝に行くとか言っておいて、ちょっと触り程度で書いた準決勝戦を思いの外書いてしまいました( ̄▽ ̄)
なので、準決勝が終わってから、決勝戦をやりたいと思います!
準々決勝が終わり、ベスト4が出揃った。
ここまで勝ち残ったのは、一夏と簪のペア、刀奈と箒のペアと、残り二組のペアは、どちらも三年生のペアだった。
ここに来て、専用機持ちは四人だけとなった。
それも、念願叶ったかのような、一夏と箒、簪と刀奈の対決が実現できる。
このまま勝ち続ければ、この二組が戦うのは、決勝戦……つまり、最終戦が二組の対決の場になるのだ。
「楯無さん、あと10分で準決勝ですけど、槍は大丈夫なんですか?」
「うーん……《龍牙》と《煌焔》は難しいかも……。一応形は直ってるけど、耐久性に問題アリ……ね」
「まさか、二本とも折られるとは……」
「ほーんと、ビックリしたわ……! パイルバンカーは一番警戒してたんだけどね。
アスナちゃんが助言しただけで、あそこまで積極的になるなんてねぇ〜」
「あの助言をしたのは、一夏らしいですね?」
「ええ。対人戦闘が得意なチナツだからこそ、教えられる事なんだと思うわ。
ISも仮想世界も、世界は違うけど、戦っているのは同じ人間なんだもの……」
一夏と刀奈の二人は、暗部で動いていた期間が長いため、モンスターとの戦闘もこなしていたが、それよりも対人戦闘の方が慣れている。
ゆえに、二人は人間相手の戦い方に慣れている……そう思った方がいいだろう。
だからこそ、それに精通するものならば、ある程度は驚異的な力を発揮するが、それを覆すとしたら……それ以上の技量を持っているか、二人が対応できない何らかのスキルを身につけているかだが……。
「まぁ、どちらにせよ、勝ったのは私たち。次も勝って、決勝でチナツたちと当たるのを期待しましょう」
「そうですね……そうでなくては困りますが」
「ふふっ……。さぁーて、簪ちゃん達は一体どういう作戦を練ってくるのかしらねぇ〜。
とっても楽しみだわぁ……♪」
とても楽しそうに話す刀奈。
余程この瞬間を待ち望んでいたのだろう……。
それもそうだ。
妹の簪と、真正面からやれる機会なんてそうそうないだろう。ましてや、簪の方から姉に挑戦したいと望んで来て、断る刀奈ではない。
箒とて、刀奈から受けた特訓の成果を、一夏に見せるためにこんな舞台まで用意してもらったのだから、正直嬉しいし、楽しみだ。
今や代表候補生たちの中でも、上位の成績を収めている一夏と、同じ第四世代型を扱い、幼馴染にして篠ノ之流の同門として負けられないと感じている箒。
次の試合だって、当然勝つつもりでいる。
「何としても勝って、一夏達とやりあえるのを期待しましょう」
「ええ……。それじゃあ、そろそろ時間みたいだし、行きますか」
「はい」
二人は控え室を出て、アリーナのカタパルトデッキに向かう。
この先にいる宿敵を倒すために、まずは目の前の敵を…………。
「ん、んんっ……」
「あ、気がついた? シャルロットちゃん」
「ん……あれ? 明日奈さん?」
「おはよう」
「お、はようございます…………あれ?」
寝ぼけたようにぱちくりと瞬きするシャル。
今シャルの視界には、明日奈の顔と、白いカーテン、妙な点模様の白い天井があった。
どことなく薬っぽい臭いが漂う部屋のベッドに寝かされているとわかり、体を起こした。
「ここって……」
「うん、保健室だよ。試合はさっき終わっちゃってね、シャルロットちゃんが気絶してたから、カタナちゃんがここまで運んでくれたの」
「気絶……はっ、試合はっ?!」
「私たちの負けだったよ……私も頑張ったけど、最後の最後でギリギリ負けちゃった」
その割には、何とも微笑ましい笑顔を見せる明日奈。
「そうですか……僕も、あの時の会長さんの一撃を、もっと警戒しておくべきでした……」
「うん……。私もだよ……速さじゃ、箒ちゃんにだって負けないって思ってたんだけど……。
最後はもう、執念の強さで負けたのかもね……」
それほどまでに、二人は勝ち残ることに強い意志を示していたのかもしれない。
決勝で一夏と簪のペアと当たる可能性を考えていた時から、目指す場所は、初めからそこだったのだろう。
「もっと、強くなりたいなぁ……」
「っ……シャルロットちゃん」
「僕も、もっと強くなりたいです……一夏からもらった物、それを返せるくらいに……もっと強く……!」
自分の掌を見る。
そして、その掌をギュッと力を込めて握り拳を作った。
一夏からもらった物ならたくさんある。
自分の居場所を、自分の思いを、自分の目指すべき目標の一端を……それらを与えてくれたのは、他でもない、一夏だ。
本当なら、一夏のことを恋慕し、自分の事をもっとアピールしたいところだが、彼の恋人に対する想いの強さを知ってからは、何も出来ないと諦めた。
だが、せめてこれだけは……。
「そうだね……。なら、一緒に強くなっていこう? 私も、もっと強くならなきゃって、改めて思ったよ」
「明日奈さんは、十分強いと思いますけど……?」
明日奈の強さは、誰もが認めるほどのものになってきている。
それはパートナーを務めたシャルもわかっている。
しかし、当人はまだまだ物足りないと言っているかのように答えるので、すごく疑問に思う。
しかし、シャルの問いかけに、明日奈は首を横に振った。
「ううん……。私もまだまだ強くなれると思うの……ISの知識、技術、VRの世界で得た知識も技術が、全てが通用わけじゃないけど、通用するものだってあった。
だから、これからはISでの戦闘もいっぱい勉強して、キリトくんを守れるようになりたいの!」
両手をギュッと握り、「頑張るぞ」と意気込んでいる明日奈。
彼女は常に自分の為に言いながらも、和人の為に頑張る人だ。かつて和人と共に過ごしたあの世界で、どんな約束ごとをしたのかはわからないが、それでも、二人の絆と呼べる物は余程大きいのだろう。
「いいなぁ……」
「え?」
「あっ! いや、その……〜〜っ!」
シャルの思いがけない一言に、明日奈はキョトンとしてしまう。
当のシャル本人は、耳まで真っ赤にして、首を横に振る。
「いや、あの、違うんですよっ?! これは、その、あれで……っ!」
「ふふっ……そんなに拒否しなくてもいいじゃない♪」
「いや、そんなんじゃなくって……」
「シャルロットちゃんも、チナツくんが好きなんだもんね?」
「ふぇっ?! え、えっと、い、一夏のことはその……〜〜っ!!!!」
慌てふためくシャルを見ながら、明日奈はそっとシャルを抱きしめた。
「チナツくんも罪作りだよねぇ〜。こんなに可愛い子が好意を寄せてるっていうのに……♪」
「いや、だから、その……」
「…………チナツくんは、とても優しいし、かっこいいし……」
「ううっ〜〜……!!!!」
明日奈にほだされるように言われると、顔がどんどん熱くなっていき、胸がドキドキとしてくる。
「でも……一夏には、楯無さんが……」
「うん……」
「僕は、あの人に勝ち目なんてないですよ………」
「そんなこと……!」
「いいえ……。今日だって結局、楯無さんには敵わなかったですし……」
「えっ……今日のは、そういうのも……入ってたの?」
「いや、えっと……その、気持ち的なもので、実際にそうしようとは……」
思わぬ発言に唖然とする明日奈。
自分の周りにも、今でも和人に好意を寄せて、とにかくお近づきになりたいと思う友人たちがちらほらと見える……。
これはどうしたらいいのかと悩んでしまった……。
「…………」
「でも、これでいいんだって思えてるんです」
「え?」
「もしも、僕が楯無さんに勝っていたなら、チャンスかなぁ〜なんて思ってたんですけど……。
やっぱり、一夏は楯無さんといるべきなんだろうなぁ〜って」
「どうして、そう思うの?」
「うーん……。一夏の過去の事を聞いて、僕は正直、ただ唖然としてたっていうか……ただ見ている事しか出来なかった。
多分、僕がSAOの中で同じ光景を見ていたとしても、僕には、楯無さんのように、一夏を支えることはできなかったんじゃないかって思って……」
「……うん」
「一夏の壮絶な過去……それを、僕が知ることはできないし、僕も想像が付かないと思います。
だから、一夏を支えられるのは、楯無さん以外にいないんだって……その気持ちに、僕自身の勝手ですけど……勝手に決着をつけようとして、今回は戦ったんです」
少し、悲しげな瞳で見てくるシャルに、明日奈は抱きしめる力を強くした。
「シャルロットちゃんは優しいね……」
「そんなんじゃ……」
「ううん……。そうやって、他人の気持ちになれるのは、想像できることじゃないことだよ?
それは、シャルロットちゃんだからこそでしょう? それは、謙遜することはない……もっと誇っていいと思うよ?」
「そう、でしょうか……」
「シャルロットちゃん」
「はい?」
「可愛い♪」
「ふぇっ?!」
「うん……可愛い♪」
「ちょっ、明日奈さん……っ!?」
抱きしめるだけでは飽き足らず、頭を撫で始める明日奈に、シャルは少々困惑気味だった。
「大丈夫。シャルロットちゃんにも大事な人が見つかるよ、絶対に!」
「……はい、そうだといいですね……」
「ううん! 絶対に見つかる! っていうか、私が見つけてあげたいくらいだもん!」
「い、いえ、そ、そこまでしていただかなくても……!」
「ええ〜? うーん……まぁ、そうだよねぇ……」
「ま、まぁ、その気持ちだけで……」
「うん……。あ、もうそろそろカタナちゃん達の試合が始まっちゃう!」
「あ、あぁ……そう言えば、もうそろそろでしたね」
「どうする? シャルロットちゃんは、まだ寝てる?」
「いえ、もう大丈夫です。でも、その前に機体の状態を見ておきたいので、整備室に寄って行きます」
「ああ……。そう言えば、パイルバンカーをカタナちゃんに破壊されたっけ……」
「はい……。予備のパーツは一応ありますけど、損傷の規模によっちゃ、本国から物資を送ってもらわないといけないかもです」
「じゃあ、私は試合会場に行ってるね? また、あとでね」
「はい」
保健室を出て、明日奈は会場に向かい、シャルは整備室に直行していった。
「簪、武装はどうするんだ?」
「うーん……鈴との対決で、《破軍》が壊れちゃったから、別の装備をつけるつもり」
「最後の《天》の字は、カタナとの対決に使うんだろ?」
「うん。だから、もう一回《双星》を使う」
「《蒼覇》じゃなくて《双星》を?」
「うん。相手は先輩たち……それも三年生。純粋な破壊力なら《蒼覇》が高いけど、先輩たち相手にそれだけじゃ、無謀。
だから、多彩な攻撃ができる《双星》がいいと、思う……!」
「なるほどな。相手はかなりの実力者らしいしな」
「うん。今のところ、代表候補生になれる可能性がある先輩達だから……」
「マジか……!?」
「うん。専用機を持っていないけど、ここまで勝ち上がってきた先輩だよ?
基本的に、訓練機を動かすのと、専用機を動かすのとでは、感覚が全然違う……。自分の思い通りに動かないし、感覚に誤差が生じるから、多少のズレが出てくる。
そんな中でうまく操縦できるのは、並大抵の努力じゃできない……。
だから、先輩たちは今もっとも代表候補生になれる可能性を秘めている人たち」
「そんなすごい人たちと戦えるっていうのも、なんか、光栄だな」
基本的に、代表候補生になるのだって、軍の訓練を受けてから専用機受諾に適性のある者を選び、その者が代表候補生の専用機持ちとなり、その他の何人かが、専用機無しの代表候補生となれる。
今から一夏たちや刀奈たちと戦う三年生たちは、一番代表候補生になれる資格を有している者たちだ。
そんな彼女たちと、どこまで渡り合えるかが勝負の決め手になる。
「じゃあ、初めっから油断無しでガンガン攻めていくしかないな」
「うん……。せっかく専用機の特殊装備がある、から……闘うなら、それくらいはしないと勝てない」
「よし、それじゃあ、行きますか……!」
「うん……! 絶対に勝とうね……!」
「ああ……っ!」
かくして二人は、控え室を出て、カタパルトデッキの方へと脚を進めた。
この先に待つ相手を倒して、決勝へと進むために。
「ここなら使用していいと言われたのでな……。早速始めるか?」
「ああ、頼む」
ここは第四アリーナ。
そこに、黒い機体を纏った二人の少年少女の姿があった。
巨大なリボルバーキャノン砲を搭載した機体と、七本の剣を装備した機体の二機。
どちらもわかりやすいほどに黒いのが特徴で、向かい合う操縦者である二人も、緊張感漂う雰囲気に、表情を険しくしていた。
「いよいよ準決勝だな……。師匠はおそらく勝ち残るだろうが、相手はこの学園でしっかりとした技術を習得してきたある意味での猛者たちだからな……。
少し試合が気になるが……今は……」
「ああ……。俺も気になるけど、それよりももっと、あいつらを乗り越えられる技術が欲しいからな。
次は絶対、カタナにも、チナツにだって負けてられないからな……っ!」
「よろしい……では、始めようか……!」
「ああ、いつでも来い……っ!」
ラウラが両手のプラズマ手刀を展開し、和人は《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》を抜き放ち、戦闘態勢に入る。
「行くぞっーー!!!!」
「ッーーーー!!!!」
二機の姿が消えて、次に目にできた瞬間には、二人の刃が斬り合っていた瞬間だった。
激しい閃光と火花を散らして、二機は鍔迫り合いの状態で止まる。
それと時を同じくして、第一、第二アリーナの方では、準決勝の試合が開始されたのであった。
「箒ちゃん、前衛は任せたわよ!」
「はい!」
箒は《雨月》と《空裂》を展開し、刀奈は後方で超高圧水弾ガトリングガンの《バイタル・スパイラル》を展開して、支援砲撃に徹するようだ。
「作戦開始!」
「了解!」
刀奈の言葉と同時に、箒は斬り込む。
相手は三年の中でも、近接戦闘を得意とする先輩だ。
相手はナイフ型ブレードを二本展開して、箒の剣戟を迎え打つ。
「白坂 麻由里……いざ」
「篠ノ之 箒。全力でいきます……!」
どこか物静かな雰囲気を感じる先輩ではあったが、その瞳の奥で猛っている業火に、箒は気づいた。
麻由里は、箒との打ち合いを全力でやるつもりだ。
一方、その後方では、刀奈と麻由里のペアになっていたもう一人が銃撃戦を行っていた。
「さすがね、セシリー先輩。息つく暇もないわ」
「それはこっちのセリフだよ! いやらしいな、お前はいっつもよ!」
「あら、ひどい。私ったら、セシリー先輩に何かしたかしら?」
「その腹黒い顔見たら大体想像つくっての!」
セシリー・ウォン。刀奈が戦っている先輩の名前だ。
アメリカ人と中国人のハーフで、幼い頃からアメリカに住んでいたそうだ。
そのせいなのか、幼い頃から銃の扱いには慣れている様子で、今もショットガンとアサルトライフルを両手に持ちながら、刀奈相手に善戦している。
「あいにく、銃撃戦なら私の方が強いぜ?」
「勝負はやってみないとわからないですよ? セシリー先輩?」
「言いやがったな……! ならお望み通り、テメェを穴あきチーズにしてやるぜ!」
「…………蜂の巣のことかしら?」
これは文化の違いなのだろうか?
まぁ、意味は同じなのだが……。
しかし、そうもふざけていられない。相手は銃撃のエキスパートだ。
同じ銃撃戦をやるなら、一瞬たりとも気は抜けない。
「さて、『学園最強』の力……ちょっと出しておきましょうか……っ!」
三つの銃口が一斉に火を……いや、水を噴く。
水弾を放つ三点バーストのガトリングガンと、実弾銃のアサルトライフルとショットガンの弾が射出された。
もうそろそろ夕暮れになりかけの空に、水と鉛の弾丸が飛び交う。
「一夏、河野先輩はお願い。私じゃあ、先輩の近接戦闘能力に敵わない」
「了解!」
打鉄の日本刀型ブレード《葵》を手に、斬り込んでくる黒髪ポニーテールの三年生。
名前は『河野 時雨』だったはずだ……。
やはり、一年生や二年生に比べると、その操縦技術や戦闘技術が段違いだ。
鋭く放つ一撃に、一夏は驚きながらも愛刀《雪華楼》で弾いていく。
「っ?! 凄い剣戟だ……っ! 先輩、剣道部に居ましたっけ?」
学園祭以降、刀奈の指示の下、各部活動へボランティアに参加させられている一夏と和人。
当然その中には、剣道部も含まれているのだが、一夏は時雨の姿を見たことがない。
しかし、これほど鋭い剣戟を放てる者を、忘れるはずもなく…………。
「残念だけど、私は剣道部には、所属してない」
ボソボソっと、淡々とした声で答えてくれた。
黒髪にポニーテールときているから、どことなく箒に似ているような感覚だが、箒の派手な《剣舞》とは違い、こちらは的確に狙いを定めて斬撃を放ってくる。
「マジですかっ!? にしてこの剣戟は……っ!」
「ああ……。私、お父さんが警視庁の刑事だから……」
「っ?! ということは、剣術もそこで?」
無言の頷き。
警視庁に存在する剣術……以前その名前を、一夏は刀奈との組合稽古をしていた時に聞いたことがあった。
IS戦を行うに当たって、少しでも自分の手札……あるいは、攻撃パターンを増やしたいと思っていた時に、やはり自分には剣術が合っていると思った。
しかし、自分は既に、《ドラグーンアーツ》という剣技を習得しているため、それ以外を覚えると言うのも、なかなかに酷な話だ。
神速を旨とする高速剣技。
それに合わなければ、いかに一夏の技量といえども、噛み合わずに打ち負けることになる。
その話をした時、刀奈から教えてもらった剣術があった。
警視庁……日本の治安を守る警察の総本山。
そこに勤める警官たちも、柔道や剣道などを学んでいるが、その剣道の技こそが、今目の前で時雨が繰り出している技そのもの。
明治10年代……警視庁が制定した剣術流派。
10の各剣術流派の技を一本ずつ採用して構築した剣術。
その名は…………
「《警視流木太刀形》………ッ!」
「っ!? へぇ……知ってたんだ」
「ええ……。って言っても、生で見るのは初めてだったんで……!」
「なら……そんな君に、ご褒美をあげ、よぅ!」
「っ!?」
時雨が《イグニッション・ブースト》で間合いを詰め、袈裟斬りを放つ。
「《示現流》一二の太刀」
「っ!」
刀を合わせたかと思いきや、そこから一、二と連続で唐竹割りが飛んでくる。
一夏はこれを躱し、反撃の刺突を放つが、今度は刀を合わせたかと思いきや、ぐるりと時計回しに刀を回して、逆に刺突を放ってきた。
「《立身流》巻落」
「ぬおっ?!」
流派の違う剣術を、ここまで多様に使い分けることが可能な《警視流》。
そして、それを巧みに扱う時雨の技量に、一夏は天晴れと感じるしかなかった。
「これは、俺も本気にならなきゃな……!」
一夏は通常の《正眼の構え》を取り、時雨は刀を地面と水平にした状態で構える《水平正眼の構え》を取った。
今の今までは、ISの性能と、自分の剣技がうまいこと噛み合っていたから勝ててきたが、これが熟練のIS操縦者となると、簡単にはいかない。
ましてや得意の剣術でも圧されかけている状態なのだ。
ならば、一剣士として、相手とは尋常なる勝負をしなくては、無礼というものだ。
一夏の目つきが変わった事に、時雨も気づいた。
本気の一夏とやりあって、勝てたものは今までいないと聞く。
しかし、だからこそ時雨は、楽しみにしていたのだ。
同じ剣士である一夏と自分、どちらが上なのか……。
「いざーーーー」
「ーーーー勝負……ッ!!!!」
二機が近づき、再び剣戟がその場に鳴り響いた。
一方、そんな激しい剣劇が行われている最中、簪と、時雨のペアである先輩もまた、高速機動にのり、激しく撃ち合っていた。
「そぉら、落ちろッ!」
「っ……!」
オレンジ気味の長い髪を揺らし、アサルトライフルを連射するのは、時雨のペアになった三年生。
風間 千影だった。
時雨が《打鉄》で近接戦をしているなら、千影は《リヴァイヴ》で中距離射撃戦闘を駆使して勝ち抜いてきた選手だ。
しかも、間合いの取り方がうまい上に、早くも簪の武装に対応してきているようで、簪も苦戦を余儀なくされていた。
(っ……! 荒い言葉遣いだけど、その射撃は正確。機動力も負けてない)
見た感じの武装は、右手にアサルトライフルと、左手に盾を持っているだけ。
汎用性の高い《リヴァイヴ》は、様々な戦闘スタイルを作れるが、千影の武装からは、特に注意すべき事が見当たらない。
ただ、背面部にある大きな二つのブースターだけが気になった。
(機動力を上げるだけなら、あんな大型の物にしなくても……)
確かに背面部のブースターで、通常の《リヴァイヴ》よりは機動力が上がっているが、《白式》や《閃華》ほどのスピードは出ていない。
あのブースターには、まだ何か隠し球があるのでは……?
と思っていた時に、その答えを教えてくれた。
ブースターのエンジン可動部とは反対のパーツが、不意にパカッと開いて…………
「どっ、セイィッ!」
「っ!? ミサイル!」
小型の誘導ミサイルを射出した。
簪はすぐに距離を取り、右手に握り銃砲《流星》の銃口を向けた。
「まとめて、落とす!」
ガンランチャーの散弾が、満遍なくミサイルに向かって散らされて、直撃と同時に大爆発を起こす。
その余波で、他のミサイルも爆発を起こし、大量の爆煙が立ちこめた。
「ちぃっ! なんなんだよその装備! チートだろうよ、チート!」
「違います。ちゃんとした開発元の実験装備です」
「いいよなぁー専用機持ちってのはさぁ〜! そんな凄い装備をたくさん使えるしぃー」
「別にいいものでは、ないと思います。でも、何でそんな事を?」
「何でってそりゃあ……ロマンじゃん!」
「…………」
風間 千影……三年生であり、整備科に在籍中。
そして、極度のミリタリーオタクだった事を、簪は思い出した。
整備室で機体のチェックをしている時にも、ほとんどその場にいた記憶がある。
よほど機械や武器、兵器の類が好きなようだ。
機体の整備をしながら、彼女の話し声に耳を傾けていたのだが、何でも、中学の頃からそう言うのが好きなり、よくミリタリーオタク仲間と一緒にサバゲーをしに行ったとか……。
しかもオンラインゲームの戦争ゲームもしており、そのゲームでも、マシンガンやらライフルなどをばら撒き、熟練プレイヤー達の仲間入りを果たしているらしい。
その二つ名は『ブラッディー・チカゲ』……だそうだ。
「先輩は……その、専用機が欲しいんですか?」
「うん! 欲しい! だから頑張って代表になって、専用機貰う!」
ここまでわかりやすい性格だと、どこか清々しい気持ちになる。
「でも、今回だけはここを譲ってもらいます……。私にも、やらなきゃならない事があるから……」
「っ…………ほほ〜う。いつも隅っこで機械弄りしてる内気そうな簪ちゃんが、ここまでやる気になってるなんて……。
もしかして、彼の影響かい?」
ニヤニヤと視線を一夏に向ける千影。
簪は一瞬だけ顔を赤くしたが、すぐに頭を振る。
「それも、あります。でも、理由は他にもあります……。私の目的は、お姉ちゃんと、戦うことだから。
だから、ここで負けるわけにはいきません……! 先輩、ここは倒させてもらいます……!」
「くぅ〜〜ッ!!! いいねぇー! 燃えるじゃん! やっぱバトルの展開はこうじゃなくっちゃねぇー!
王道のバトルマンガ並みの展開キタァァァァーーーー!!!!」
もう一個。
千影は大のバトルマンガ好きでもあった。
ここに訂正しよう。
「じゃあ、いいぜぇ。とことん付き合ってやんよ……正直私も会長とはやってみたいって思ってたところだし?
勝った方が更識会長とやり合うっていう条件でどうよ?」
「わかりました……。全力でいきます……っ!」
「よっしゃあっ! 派手にブチかますぜーッ!!!!!」
左手にサブマシンガンを呼び出し、右手のアサルトライフルとともに銃弾の雨を降らせる。
簪は弾道を算出し、回避行動を取る。
弾幕の薄い場所に移動した直後、《桜星》と《流星》を連結。
《桜星》の銃口を千影に向けた。
「《桜閃火》ッ!!!!!」
高出力の砲撃が、千影に向かって放たれる。
千影はそれを躱し、体勢を整える。
その背後では、放たれた砲撃によって起こった爆発と、舞い上がる土煙。その衝撃の余波と、露わになったクレーターが出現する。
「くぅ〜〜っ、私も使いてぇ〜〜ッ!」
思いの外タフな精神の持ち主だ。
簪は《桜星》と《流星》を分裂させ、集中砲火。
それを嬉々として撃ち合いに応じる千影。
今この場では、トリガーハッピー同士の撃ち合いと、侍同士の斬り合いという、惨劇の場となりつつあった。
「お、織斑先生。このまま続けさせてもいいんですかね? あまりひどいと、アリーナ自体が破壊され兼ねませんよ?!」
「ふむ……」
第一アリーナの管制室から、両アリーナの試合をモニター越しに見ていた千冬と真耶の二人。
その他にも、アリーナのシステムを制御させるために入室している三年生や教員たちも、あまりの白熱したバトル展開に、作業の手を休めず動かしている。
一番問題となっているのが、千影と簪の撃ち合いだ。
ミサイル、ビーム兵器、ガンランチャーに、実弾の雨。
特に簪の装備は、今戦っている八機の中でも破壊力がずば抜けている。
それを今は空や地面に向かって放たれているが、これがアリーナの防壁に当たったなら、大惨事になり兼ねない。
「第一、第二アリーナの防壁の出力を最大。アンチビーム、対衝撃フィルターを展開させろ」
「は、はい!」
千冬の指示の下、第一、第二アリーナの防壁のシステムが、その強度をランクアップさせられる。
「全く……白熱するのは構わんが、事後処理が面倒になるのは勘弁だな」
「書類の山は、もう見たく無いですもんね……」
「全くだ」
あと一話くらいやって、決勝に持っていけたらいいかな……。
そのあとはワールドパージ。そのあとは京都編。その間に閑話っぽい話を入れてみるのもいいかな。
それらが終わってから、ファントム・バレット編、キャリバー編、ロザリオ編と行って、どうせならオーディナル・スケールもやろうかな?
そのあとに、もう一度IS編に戻るという感じで、今考えています。
感想、よろしくお願いします!