ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は、刀奈・箒ペアと、明日奈・シャルペアの決着です。



第86話 ライトニング・スピード

「箒ちゃん、やっぱり強いね!」

 

「明日奈さん、自分も充分強いって事を自覚してくだ、さい!」

 

 

 

二刀と細剣が幾度も打ち交わされる。

まるで光の雨、流れ星のように飛んでくる明日奈の剣戟を、正直、箒はよく凌いでいると思う。

それを《紅椿》の展開装甲を駆使してだが、初撃の刺突からはあまり攻撃をもらっていない。

だが、こちらの攻撃をするタイミングは減る一方であるのも事実だ。

 

 

 

「篠ノ之流剣舞 《月影》‼︎」

 

 

《雨月》と《空裂》を逆手に持って、二刀を交互に下段から切り上げる。

この技は、一夏の使うドラグーンアーツ《龍翔閃》に酷似している。

ただ違うのが、一夏の方が速いというのと、箒の場合、一撃を躱しても続いてくる二撃目があるという事だろう。

 

 

 

「これはっ……!」

 

 

 

さすがに間合いに入った距離ならば、躱されることもなく、明日奈は《ランベントライト》で受ける。

だが、受けて衝撃を利用し、そのまま後方へと引き下がってしまった。

咄嗟の判断で、強固に守りを固めるのではなく、そのまま勢いに任せて後退したのだ。

この判断力もまた、SAO……アインクラッドでの戦いで覚えたのだろうか……。

 

 

「ふぅー。その箒ちゃんの《剣舞》も、中々に手強いなぁ」

 

「それで防いでいる明日奈さんこそ、私には『手強い』という印象を受けるのですが……」

 

「私は別にそんなんじゃないよ。相手が箒ちゃんだから、たまたま防げているだけなんだもん。

これがセシリアちゃんや、シャルロットちゃんが相手になると、私の戦い方じゃ、とてもじゃないけど歯が立たないよ」

 

 

 

 

だが、ここに来るまでに、明日奈は多くの飛び道具、銃火器を持った相手とも戦ってきている。

たとえシャルロットの援護があっての勝利だったとしても、充分通用するのではないだろうかと思う。

 

 

 

 

「和人さんも、明日奈さんも……私にとっては、充分に強敵たり得る人たちですよ……。

そして、あなた方から多くを学べると思っているんです……だから私は、もっと強くなるために、明日奈さんとも戦いたいと思っていたんですよ?」

 

「っ……それは、光栄だね。私は別に、他人に誇れるような技を身に付けてきたわけじゃないから、そう言われると、なんだかその……照れるね」

 

 

 

ほんわかとした雰囲気の明日奈の表情。

どう見ても、お淑やかなお嬢様の様にしか見えない。

そんな彼女も、歴戦の剣士だ。

愛する和人を守るために、仮想世界の浮遊城《アインクラッド》を攻略するために鍛え上げられた剣技は、紛れもない現実。

そんな彼女の剣に、自分の剣がどこまで通用するのだろうか……。

刀奈の槍捌き、和人の剣戟、一夏の剣術、そして明日奈の剣速。

以前なら所詮はゲームの技だと馬鹿にしていたかもしれない……だが、ラウラたちとの戦闘も経験した上で、改めて思う。

この剣技は本物なのだと……。

何度でも痛感させられることだろう……。

未熟者の自分には、未だ届かないところに、目の前の女性もいるのだ。

だから、そんな彼女にも多くを学ぶべきだ。

自分とは違うスタイルで戦う先駆者。その人から、もっと多くの事を……。

 

 

 

「行くぞ紅椿………共に明日奈さんを討ち破るぞ……っ!」

 

 

 

箒の意気込みに応える様に、《紅椿》の背部展開装甲が開いた。

紅い翼を広げるその姿は、先の戦いでラウラを討ち破った、高機動モード。

 

 

 

「いざッ!」

 

「行くよ!」

 

 

 

二機の姿が、一瞬だけ消えた。

そして再び二機が見えた時には、激しい金属同士がぶつかる音と衝撃、そして四散する火花。

箒の《雨月》と、明日奈の《ランベントライト》の刀身がこすれ合い、互いの切っ先が、互いの顔のすぐ横を通り過ぎる。

もしもどちらかが刀身を弾いていなかったのなら、その刀身は真っ直ぐ顔面に向けて突き刺さっていたかもしれない。

 

 

 

「くっ……!?」

 

「まだまだ行くよ、箒ちゃん……ッ!」

 

「私だって……っ!」

 

 

 

剣を弾いて、再び振り被る。

またしても剣と刀がせめぎ合い、凄まじい衝撃と金属の不協和音が、まるで波の様にアリーナ全体へと響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「はあああッ!」

 

 

 

一方、こちらでも激しい刀槍剣戟が繰り広げられていた。

 

 

「どうしたの? こんな物じゃ私は倒せないわよ?」

 

「くっ、まだです! まだいけるッ!」

 

 

 

剣から光が迸る。

いや、剣の刀身そのものが光輝いている。

シャルの持つリニアサーベルが、刀奈の挑発に呼応したかの様に、バチバチッ、と音を立てた。

普段の彼女は、実弾の連射火器を用いて、面制圧力を高めた戦術をとってくるのだが、今回ばかりは事情が違う。

刀奈は17歳にして、シャルたち各国の代表候補生たちの上の存在である国家代表生としての立場にある人物だ。

その実力は、今まで否応なしに見せつけられた。

肉弾戦でも、今戦っているIS戦でも同じ……巧みな操縦技術と、可憐な槍捌き。その専用機である《ミステリアス・レイディ》の能力を十全に使い分けている。

シャル自身も、第二世代型の量産機《ラファール・リヴァイヴ》のシャル専用カスタマイズ機を駆使して、それなりの実力をつけたはずだが、目の前の女性は、それを遥かに越えている様に見せつける。

銃器ではなく槍を使い、特殊能力である『水』とともに舞う彼女は、麗水の淑女の様だ。

 

 

 

「僕だって、強くなれるんだ……っ! もっと、高みに登れるんだっ!」

 

「その瞳……いいわね。昔の私を思い出すわ……私もそうだった。更識の名に恥じない当主になるために、産まれてからというものの、必死で戦い続けたわ……自分という存在と!」

 

 

 

高速で槍の矛先が飛んでくる。

それを盾で受けながら、反撃の機会を待つシャル。

今動けば、即座に槍の餌食だ……。

慎重に、そして的確に動かなければ、刀奈を倒すことはできない。

リニアサーベルを振り抜く。しかし、刀奈の長槍がそれを阻む。

ただ真正面から真っ向勝負に行くのではなく、空中という場所を生かして、三次元かつ、多方向から攻撃を仕掛けるが、刀奈の槍はどこから攻撃しても、必ず剣の刀身を弾いてしまう。

 

 

 

(まるで、楯無さんの周りに、障壁があるみたいに……!)

 

 

 

何故だろう?

どこから攻撃でも、刀奈の槍がそれを阻む。

まるで、こちらの動きが読まれているかの様に……。

 

 

 

「まさか、僕の攻撃を読んでいる……? そんな馬鹿な……!」

 

「そんな馬鹿な事、あり得ない?」

 

「っ?!」

 

「そうでもないわよ? 今の私ならね……っ!」

 

 

 

いつの間にか間合いに入ってきていた刀奈に驚き、シャルは急いで後退すると、左手にリニアガンを展開し、急いで連射する。

だが、再び槍が立ち塞がる。

水を纏った《龍牙》を、バトンの様にくるくると回して、雷弾を弾いている。

 

 

「これも防いだっ?!」

 

「言ったでしょう? 今のあなたの動きは読まれているのよ」

 

「そんな、どうやってっ?!」

 

 

 

先読み……?

しかし、あれは一夏にしかできないと思っていた。

長い間、対人戦闘を続けて培われた技術。

人の表情から感情を読んで、その感情から露わになる動きを先読みする。

それが、一夏の《神速》と呼べる動きになっているのだ。

だが、刀奈にはそこまでの技術は無かったはず……なのに何故?

そんな疑問が頭をよぎる中、刀奈はそれを悟った様に話してくれた。

 

 

 

「見ようとしなければ、観えてくる物があるのよ」

 

「えっ?」

 

 

 

見ようとしなければ……?

何かの口伝だろうか?

 

 

「シャルロットちゃんの動きは、確かに速い。でも、それは捉えきれないほどの動きじゃない。

シャルロットちゃんの《ラピッド・スイッチ》の高速切替は見えなくても、切り替えたあと……シャルロットちゃんがどう動くのかは、その初期動作……つまり、モーションでわかるじゃない」

 

「っ……! それは、つまり……」

 

「一部だけじゃ見えないことでも、全体を満遍なく観察してれば、観えてくる物もある……。つまりはそういうことよ」

 

 

 

これだけ撃ち込んでおいて、それを冷静に対処したことに、シャルは驚きを隠せない。

しかもそれを、水の中に電流を流し続けたまま行っているのだ。

それは、生半可な集中力じゃあ出来ない芸当だ。

しかもそれをしながら、シャルの動きを観察していたとなると……とてもじゃないが、自分にはできないとシャルは思っただろう。

 

 

 

 

 

「なるほど、『観の目』ってやつだな……」

 

「ん? なんだそれは?」

 

 

 

観客席で見ていた和人が、刀奈が行っていたテクニックの正体を看破し、聞きなれない言葉に、ラウラは疑問を抱いた。

 

 

 

「以前チナツに聞いたことがあってな……。 どうすれば、直感的に動けるのかを聞いたら、チナツから『観の目』っていう言葉を聞いたんだ」

 

「かんのめ……?」

 

「そう……観察の『観』っていう字を書くんだけど、文字通り、相手の動きを観るんだってさ」

 

「しかし、それがどうして直感的に動けることに繋がるんだ?」

 

「これは、チナツから説明してもらったことなんだけど……例えば、一つの物に集中してみていると、他の物への意識がおろそかになるだろう?」

 

「ああ……」

 

「確かに集中していれば、細かいこと……細部の違いは見て取れるかもしれないけど、どうしても周りに意識を割いている余裕がなくなるわな。

だけど、あやふやだが、全体を観ていると、小さいことでも変化に気づくらしい。

剣術でもソードスキルでもそうだけど、何かをするのに、人は一度ためを作らないと、十分な力を発揮できない。

それは、人間の体そういう風に出来ているからだそうだ……。だから、どんなに最小限の力で振り抜いた一撃でも、それなりの初期動作がある……。

戦いの最中は、意識は相手の剣や動きしか見えてないから、どうして相手が行動した後にしか行動できないが、チナツの場合、その初期動作を見分けているから、相手が動くよりも速く動けるんだと……」

 

「なるほどな………」

 

 

 

和人の言っている言葉はわかった。しかし、それをやるには、並大抵の努力では到底できない。

しかもそれが、命のやり取りを行っている最中にある状態でだ……。

 

 

 

(いや……むしろ、そう言う時だったからこそ、身につけたのか……?)

 

 

 

火事場の馬鹿力と言うものなのか、それともその根幹である人間の生存本能が、そうさせたのかはわからないが、目の前で戦っている刀奈も、一夏と似通った技術を持っていることが確認できた。

 

「これで打つ手がなくなったか……?」

 

「わからない……でも、シャルロットは器用で、大抵のことはなんでもこなしてしまうけど、それが今は仇になっているのかもな」

 

「ふむ……それはつまり、決定打に欠けるということか?」

 

「ああ。俺もアスナも、チナツやカタナだってそうだ……近接武器。剣や槍には絶対の自信がある。

それは突き詰めれば、そいつの強みになるわけだが……シャルロットは、その……器用になんでもできるから、手段は多いが、威力……唯一あるのは、あのパイルバンカーくらいなんだけど……」

 

 

 

唯一、絶対的な威力を誇るのが、パイルバンカーだ。

リボルバー式に弾を装填できるので、連射が可能なのだが、今の刀奈の間合いに入ること自体が難しい状態で、どうやってパイルバンカーを届かせるか……。

 

 

 

「では、シャルロットが勝つには、その決定打を打てる事が必須だな……」

 

「ああ……。だけど、カタナがそう簡単に間合いに入らせるかは、難しいだろうけどな……」

 

 

 

二人で渋い顔を作って、刀奈とシャルの対戦を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ! 全然崩せない……っ!」

 

 

 

 

先ほどから、何度となく斬り込んでいるのだが、刀奈は涼しい顔でそれを迎え打ち、何度となく打ち払う。

刀奈は終始槍を基本に戦っている。

今は両手に二本の長槍を持っており、どう攻めようかと悩んでいるシャルを見下ろす形となっている。

こちらの武装はまだ色々とある。

手にしているリニアサーベルにリニアガン。実弾装備だってあるのだから、なんらかの攻略法があるはずなのだが、考えれば考えるほど、どうも切り崩せる可能性が潰えてしまう……。

 

 

 

(どうしよう……このままじゃ、僕の方が後手に回っちゃうよ……)

 

 

 

シャルの額から汗が流れる。

目の前の女性が、自分たちよりも強いことは知っている。

でも、ここまで来てからには、勝ちたいという気持ちでいっぱいだ。

それに、刀奈は一夏の想い人。

シャル自身……もしも、一夏に刀奈という女性がいなかったのなら……と何度か考えたことがある。

一夏は優しくて、強い男性だ。

自分の居場所を作ってくれた、とても好意を寄せられる人……。

だが転入した時から、刀奈の存在を知っていたので、すぐに諦めた。

この人には、多分敵わないと……。

そして、現に今も、刀奈に自分の刃が届かない。

 

 

 

(悔しいなぁ……僕だって、勝ちたいって……こんなに強く思ってるのに……!)

 

 

 

自分らしくないと思いつつも、それでいいのかもしれないと思う。

 

 

 

(有効な手段は……? ガルム? レイン・オブ・サタディ? ダメだ、どれも楯無さんの水で止められちゃう……。

パイルバンカーは有効……でも、あれを当てるのに、懐に接近しないといけない……。なにか、なにか僕にできることは……)

 

 

 

考える。

どうすれば刀奈を追いつめられるか……。どうすれば、刀奈のあの鉄壁の防御を崩せるか。

 

 

 

 

「どうしたの? 来ないのなら、こちらから行くわよ?」

 

「うう……!」

 

「私の『制空圏』を打ち破るには、相当な力が無ければ到底不可能よ?」

 

「せい……くう、けん?」

 

「そう。制する空の圏内で『制空圏』」

 

 

 

なんだそれは……。

そんな感情が顔に出ていたのだろう。

刀奈は「ふふっ」と笑うと、槍の構えを解いてから、適当に槍を振り回し始めた。

 

 

「ほら、ここからここまで……それにここからここ……」

 

「…………?」

 

 

 

刀奈は槍を上下左右、斜めや前後に動かす。

その度に、真紅の二槍が、陽射しに照らされてキラキラと光る。

しかし、シャルには、それが何を示しているのか、見当もつかない。

 

 

 

「この槍が届く範囲……これが私の『制空圏』。つまり、ここから中に入ろうとする物は、この槍が穿ち、撲ち貫き、斬り刻むわ」

 

「っ……じゃあ、さっきから、僕の攻撃が当たらないのは……!」

 

「ええ……私の『制空圏』に、シャルロットちゃんが入ってきてるから♪」

 

 

 

 

とんでもないことを聞いたかもしれない。

つまり、あれはもはや結界と同じだ。

ラウラのAICの類いだと思った方がいいかもしれない。

しかも、銃弾を撃とうが、今度は水の障壁が、本物のAICのような働きをする。

道理で攻撃が届かないわけだ。

 

 

 

(なら、それを崩すには……? 楯無さんの『制空圏』を打ち破るには……?)

 

 

 

だが、何故刀奈は今それを言ったのだろうか……?

そして何故、今の今までそれを使ってこなかったのか……?

 

 

 

(制空圏を使うのに、条件が必要? でも、そんなの多分なさそうだし……それに、和人と戦った時も、その前に戦った先輩たちにも使わなかったし……なんでだろう?)

 

 

 

相手が遠距離射撃型の機体ならば、水を操って防いでいたし、和人との対戦では《クイーン・ザ・スカイ》を使っていた。

その二人に共通する事…………。

 

 

 

(どちらも連射や連撃が得意な武器、バトルスタンス……でも、それだけじゃあ、あまり……僕と変わらないはずなのに)

 

 

 

しかし、それ以外で考えれば、シャルロットには和人たちにないものを持っている。

 

 

 

「やっぱり、パイルバンカーを一回は使わないとダメかな……」

 

 

 

間合いに入れたくない理由……一撃でもシールドエネルギーをごっそりと持っていける武器が、シャルにもあったからだ。

しかし、もしもそのパイルバンカーを外した時は、一気に形勢は元通りだ。

 

 

 

「止まっちゃダメッ!」

 

「っ?!」

 

 

 

悩みの渦から抜け出せなくなっていたシャル。

そんなシャルに、背後から鋭い声がかけられた。

 

 

 

「明日奈さん?」

 

 

視線を後ろに向けた時、箒と激しく斬り合っていた明日奈が、視線だけこちらに向けて、そう言ったのだ。

ギリギリと《雨月》と《ランベントライト》の刃が音を掻き立てている。

それだけ切迫した中で、明日奈は必死にこちらに言葉を投げかける。

 

 

 

「止まっちゃダメ! 流れに乗らないと、自分自身に飲み込まれちゃうよ!」

 

「飲み込まれる……?」

 

「止まる事が一番いけないの! 流れを作る……それができないなら、元々の流れに乗って、自分の流れに変えていく……!

それが、戦う上で大事な事だって、昔教えてもらった事があるから……ッ!」

 

「流れに……乗る……」

 

 

 

それは、一種の口伝のようなものなのだろうか。

極限の命のやり取りの中で、その体に染み付いたバトルスタンスなのだろう。

確かに、銃撃戦でも立ち止まったらそこで終わりだ。

相手の動き、弾道予測、回避行動の予測……などなど。それらを戦いの中でやっておかなくてはならなかった。

慣れない近接戦をしていた事……相手が、あの刀奈である事だった事ためか、それをすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 

「流れに……乗る…………っ」

 

 

 

呟くように、ボソ、と言葉を紡ぐ。

 

 

 

「流れに乗る……流れに、乗る……っ」

 

 

 

確信にはまだ遠い……しかし、なにかが見えたような……そんな気がした。

 

 

 

「行くよ……リヴァイヴ……ッ!!!!!」

 

 

 

速攻の《瞬時加速》で仕掛ける。

一気に刀奈の『制空圏』に迫る勢いで斬りかかる。

刀奈は半ばほどの長さで持った長槍を振るい、矛先だけで剣撃を弾いた。

だが、またしても剣で刺突を繰り出す。

それも弾くと、また剣で袈裟斬りを放つ。

 

 

 

(ほほ〜ん……少しずつ、アスナちゃんの言った意味を理解しようとしてるみたいね……)

 

 

 

今までは弾かれると、一旦距離を置いといたシャルの動きが変わった。

今はまだ、剣のみを使って強引に攻め込んできているが、これが従来のように重火器を駆使し始めたのならば、それはそれで恐ろしく化けてくる事だろう。

 

 

 

「でも、それを待ってやれるほど、私は大人じゃないわよ……っ!」

 

「っ!?」

 

 

 

剣を流され、カウンターの要領で《煌焔》で薙ぎ払われる。

それを盾で受け止めたが、また間合いの外に弾き出された。

そして今度は刀奈から間合いを詰めてくる。

刺突、唐竹、袈裟斬り、右薙……長槍をまるで刀や剣のように振るう刀奈。

シャルは盾とリニアサーベルで、できるだけ捌ききる。

 

 

 

「くっ!?」

 

「ほらほら! 止まってちゃただの的よ!」

 

「っ……うわあああぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

刺突を放った《龍牙》を盾に角度をつけて受け流し、一気に間合いの中に入った。

 

 

「おおっ……?!」

 

「もらったっ!」

 

 

槍は、間合いに入られた瞬間に攻撃の手段を失う。

特に、両手に槍を持っている刀奈はその中に入る。

右手に持つリニアサーベルを振り上げ、刀奈の左肩から右脇下にかけて、思いっきり振り抜こうした…………だが。

 

 

「ぐうっ?!!」

 

「間合いに入ってきた事は褒めてあげる……でも、甘いわよ……!」

 

 

 

自身の腹部に、強烈な衝撃が届いた。

その反動で視線が少しだけ下に向いた……そこにあったのは、腹部に突き刺さるように存在していた《煌焔》の石突だった。

 

 

 

「ぐふっ……あの一瞬で……っ?!」

 

「槍の扱いは……アインクラッドの中じゃ、私が一番だった……だから、私にはこのスキルが備わった……!」

 

 

 

あの一瞬で、槍を持ち替えて腹部を突いたのだ。

しかも、シャル自身が突撃したスピードをも利用しているため、シャルが受けた反動は、思ったよりも大きかったはずだ。

いくらISに絶対防御があるとはいえ、衝撃までも殺してくれるわけではない。

苦しい表情のシャルを見ながら、二本の紅槍をクルクルと振り回す刀奈。

 

 

「ユニークスキルは、ただ持っているだけじゃ意味がないの……。それを使いこなして初めて、その力を発揮する……。

団長の《神聖剣》……キリトの《二刀流》……チナツの《抜刀術》……私の《二槍流》……。

誰もが扱えるものだけど、そう簡単に習得はできない……ユニークスキルは、その条件を満たした者にしか付与されないもの。

私をそんじょそこらの槍使いと一緒にされちゃ、困るわね……!」

 

「っ…………それでも、僕は、僕のできる事をやるだけです……接近戦じゃ、会長には勝てないかもしれないけど……僕にだって、意地はあるッ!」

 

 

 

再び斬り込む。

何度でも、向かっていく気持ちでいっぱいだ。

 

 

 

(止まるな……止まってちゃ、やられる……!)

 

 

 

パァーーーンッ!

 

 

 

炸裂音が鳴り、《リヴァイヴ》の左腕についていた盾が勢いよくパージされる。

灰色の鱗殻(グレー・スケール)》が、その本来の姿を現した。

装填される炸薬。いつでも撃てる態勢が整った。

 

 

 

「やあああぁぁッ!!」

 

「当たらなければどうってことない‼︎」

 

 

《龍牙》の矛先を、パイルバンカーの杭の部分に当てて受け止める。

続いて放つリニアサーベルは、《煌焔》を間に入れ込ませることで防御し、二人はそのまま鍔迫り合いの状態になる。

 

 

「ぬううっ……!」

 

「ふっ……!」

 

 

 

まだここは刀奈の領域。

少し離れただけでも、刀奈の槍はシャルに届く。

だが、それに反して、シャルは思い切った行動に出た。

 

 

 

「翔んで! リヴァイヴッ!!!!!」

 

「んっ?!」

 

 

 

鍔迫り合いのまま、スラスターを全開。

そのまま刀奈が押しこまれる形になった。

その行動には、刀奈も驚いた。

彼女が……シャルがここまで強引な行動を取るとは思っていなかったからだ。

これもまた、代表候補生としてプライドか……それとも、女としての意地なのか……。

刀奈はすぐさまシャルとの鍔迫り合いを解いた。

勢いを殺しつつ、シャルを追撃するように迫る。

 

 

 

「《メテオストライク》ッ!」

 

 

 

二槍を振り上げて、上段から思いっきり叩きつけるように斬り下ろす《二槍流》のスキル。

シャルはそれを躱すと、左手にリニアガンを呼び出し、背後から刀奈を撃つ。

《メテオストライク》自体は、スキル使用後の硬直時間が短いため、すぐさま振り返ると、二槍で雷弾を次々と斬り刻む。

 

 

 

「まだまだッ!」

 

「ッーーー‼︎」

 

 

 

リニアサーベルを突き出し、最速の攻撃である刺突を放つシャル。

雷弾を斬り込むことで、二槍を振り切っていた刀奈の意表を突いた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

刀奈は咄嗟に二槍をクロスに構え、防御の姿勢をとった。

一撃目のリニアサーベルは防げた。

だが、“続く二撃目” が、刀奈には迫っていた。

 

 

「あ……っ!?」

 

「でぇやあああぁぁッ!!!!!」

 

 

 

左腕のパイルバンカー。

クロスに構えていた二槍を直撃し、リボルバー式に装填された炸薬が、強烈な衝撃を起こした。

 

 

 

パキィーーーーーン…………ッ!!!!!

 

 

 

「っ…………!?」

 

 

 

 

呆然とする刀奈。

手に持っていた二槍が、パイルバンカーを受けた個所でひび割れて折れてしまったのだ。

続いてやってくる衝撃に、刀奈はそのまま後方へと飛ばされてしまう。

 

 

 

「っ!? や、やったぁっ!?」

 

 

 

自分でも信じられない…………。

そういった表情をしているシャル。

 

 

「このままーーッ!」

 

 

 

 

後方へと飛ばされた刀奈を追って、シャルは再びパイルバンカーの炸薬を再装填した。

今の刀奈には武器がない。

仮に《蜻蛉切》を出したとしても、さっきと同じように、パイルバンカーでへし折れば問題ない。

シャルは最後の攻撃と覚悟を決め、刀奈に向かって高速機動へとシフトした。

 

 

「もらったっ!」

 

 

パイルバンカーを突き出そうとしたその時…………刀奈の手に、一本の槍が現れた。

その槍は、何を隠そう《クイーン・ザ・スカイ》のビット兵器にもなっている《蜻蛉切》だった。

しかし、一本だけでどうしようというのか……?

先ほど《龍牙》と《煌焔》の二本を折られてしまったため、六本全てを投入してくるかと思ったのだが、一体何を考えているのか……?

 

 

 

「ーーーーっ?!」

 

 

 

と、その時……。

シャルは、途轍もない寒気を感じた。

目の前を見れば、すでに体勢を整え、槍を腰だめに構える刀奈の姿があった。

《蜻蛉切》に、《ミステリアス・レイディ》の操っていた水が集まって行き、それが螺旋状に高速回転していく。

何かがある…………。そう思ったが、ここまで来て停止はあり得ない。

シャルはそのままパイルバンカーを突き出して、再び刀奈に一撃を見舞おうとした。

が、その瞬間……。

 

 

 

「ーーーー雷刃槍……ッ!!!!!」

 

 

 

高速回転する水から、蒼白の電流が迸る。

やがてそれは大きなランスへと形状を変えて、刀奈はそれを、パイルバンカーに向けて放った。

 

 

「《ブリューナク》ッッ!!!!!」

 

 

雷光が空間を走り、凄まじい放電とともに、高速回転する水流圧によって破壊力が増した槍が、パイルバンカーの杭の先端とぶつかった。

弾ける炸薬と、迸る電撃と水流。

二つの矛先がぶつかった……。

しかし、拮抗していたと思っていたのは、ほんの一瞬だった。

 

 

 

「なっ?!」

 

「はぁぁぁああああああッーーーー!!!!」

 

 

 

パイルバンカーの杭が、徐々に削れ、砕けて行っていた。

凄まじい勢いで高速回転する水流が杭に負荷をかけ、ダメ押しの一撃を、今まで吸収していたリニアガンの電撃で放っているのだ。

やがて杭は全て砕け散り、その絶槍は、炸薬が装填されているカートリッジをも貫いた。

 

 

 

「うわあああっ!?」

 

 

左腕が爆発を起こした。

小規模ではあるが、ダメージを負うには十分なレベルの威力。

あまりの衝撃に、シャルはそのまま後方へと吹き飛ばされた。

アリーナの地面に背中から落ちて、仰向けになったまま動けなくなった。

 

 

「……はっ……! シャルロットちゃんっ!」

 

 

今の一撃は、全神経を集中させて放っていたのだろう。

ようやく正気に戻った刀奈は、急いでシャルロットの元へと向かった。左腕のパイルバンカーは、見るも無惨に破壊されていた。

まぁ、それは刀奈自身がやったことなので、仕方ないのだが、今はそんな事どうでもいい。

刀奈はシャルロットの隣に降り立って、シャルロットの様子を確認した。

 

 

 

「ん……」

 

「シャルロットちゃん……!」

 

「ん…ぁ……」

 

「脈拍は……大丈夫ね……。他に怪我をしているところもなさそうだし……」

 

 

ISが解除されているところを見ると、気を失っただけのようだ。

だが、今ここで寝かしておくわけにもいかないため、刀奈はシャルを抱き抱えると、そのままアリーナのシールド壁がある所まで後退して行った。

 

 

 

「全く…………私の槍を折るなんてね……しかも、まさかあなたがやるとは、思ってもみなかったわ……シャルロットちゃん」

 

 

 

意識のないシャルの顔を見ながら、刀奈は静かに賞賛を送ったのだった。

シャルロット・デュノア……意識消失の為、試合続行不可能。

この勝負の勝者は、学園最強である刀奈の勝利で終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

一方で、未だ斬り合いを続けている二機にもまた、いよいよ決着の時が近づいてきていた。

 

 

 

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 

「はぁー……はぁー……」

 

 

 

二人とも、荒い息を整えようと、肩で息をしていた。

箒の手には、今は《雨月》しか握っていない。

二刀で戦おうにも、明日奈の高速刺突に、二刀では追いつけないと判断したのだろう。

互いに一刀だけで、ここまで斬り合っていた。

箒が斬れば、明日奈が突き返し、明日奈が突けば、箒が斬り返す。

その繰り返しだった。

しかもそれが、高速機動の最中で行われていたのだから驚きだ。

 

 

 

「ふぅー……」

 

 

 

先に呼吸を整えた箒が、《雨月》を正眼に構える。

その後、明日奈が《ランベントライト》の切っ先を箒に向け、八相気味の構えをとる。

互いに視線を合わせるだけで、あとは何もしない。言葉を発することも、動くこともしない。

その姿は、さながら美しい彫刻のようだ。

武士と騎士という、二つ『武』を象徴する存在同士が向かい合っている……。そんな雰囲気に、アリーナで試合を見ていた生徒たちも呑まれていた。

 

 

 

「スゥー…………フッ!!!!」

 

「ッーーーー!!!!」

 

 

 

先に動いたのは、明日奈の方だった。

得意の連続刺突を放つ。

その速度は、まさに『閃光』のようだ……。

 

 

「篠ノ之流剣舞 防の舞《剛羅》‼︎」

 

 

無駄な力を抜き、手首、腕の関節を柔軟にしならせて、舞の型にもある円運動の要領で、明日奈の剣を弾き流す。《剛羅》という名に反して、とても柔和は技だ。

本来ならば、これは斬り込んでくる相手などに使うため、カウンター技へと繋げれるのだが、今はそんな事ができる状態ではない。

一つ目の刺突技を回避しても、今度は二撃目、三撃目と剣が飛んでくる。

かつて一夏も言っていたが、明日奈の剣は、たとえソードスキルがなくても、正確な上に速い……。

そんな明日奈の剣を、一夏と、彼女の恋人である和人は、こう表現していたらしい…………。

 

 

 

ーーーーまるで、“流れ星” みたいだった……。

 

 

 

(確かに流れ星だな……! 弾いても弾いてもキリがない……っ!)

 

 

 

降り注ぐ流星の雨。

完全にスイッチが入りきった本気の明日奈の刺突は、和人でも回避できないらしいが、まさにその通りだと思う。

現に今、箒は防御に専念しているために、わりかし防げてはいるが、それでも被弾する数が増えてきた。

 

 

 

「篠ノ之流剣舞 兵の舞《楼嵐》‼︎」

 

 

 

刀を逆手に持ち、左脚を軸にして回転斬りを放つ。

逆胴のように、刀を反対側から高速で斬りつけてきた。

だが、明日奈はこれに反応し、《ランベントライト》を自身の体と《雨月》の間に割り込ませた。

剣と刀が接触し、再び火花が散る。

だが、体勢的には箒の方が力が伝わっているため、《雨月》が徐々に《ランベントライト》を推し始めた。

 

 

「くっ!」

 

 

 

明日奈は防ぎきれないと思い、体を空に投げ出すように力を抜いた。

《雨月》の刀身は、明日奈の体を斬り刻む事なく通り過ぎ、明日奈は刀の勢いを利用して、体を回転させて回避する。

クロスレンジの斬り合い……一進一退の攻防戦を、目の前で繰り広げられて、黙っている観客達ではなかった。

二人の健闘を称えるように歓声が飛んでくるのを、箒と明日奈は、鍔迫り合いの状態で聞いていた。

 

 

 

「はぁ……っ、凄い…! 明日奈さんとここまで戦えるなんて……っ!」

 

「それは私の方だよ、箒ちゃん。何度も決め手となり得る一撃を放ったのに、箒ちゃん全然倒れてくれないんだもん……!」

 

「当然です……! 私は、あなたに勝って、一夏と勝負をしないといけないんですから……っ!」

 

「ああ……そうだったね……。でも、だからって手加減はしてあげられないよ?」

 

「ええ……そうしてもらっては、私も困ります!」

 

 

 

 

力では箒の方が上だ。

明日奈を弾いて、距離を開けた。

だが……。

 

 

「っ、こうやって……こうッ!」

 

「っ?! それは……っ!」

 

 

距離を開けたはずの明日奈が、急加速して間合いに入ってくる。

それは、何度も目にしてきたISの操縦技術の一つ。

加速系統のスキル《イグニッション・ブースト》だ。

一夏はその上である《リボルバーイグニッション・ブースト》と、まだ未完ではあるが、《ダブルイグニッション・ブースト》も使える。

《イグニッション・ブースト》は、箒も練習中の技術だが、未だに成功率は半分ほどの確率しかない。

明日奈はすでに、それをマスターしているのかと思うと、驚きしか湧いてこない。

 

 

「はああッ!」

 

「っ! フンッ!」

 

 

 

刺突に対して斬撃。

《ランベントライト》の刀身を流すように《雨月》を振り切る。

機動性ならば、まだ《紅椿》の方が速い為、箒は一旦距離を置いた。

あのまま近づいていても、明日奈の攻撃にやられていたからだろう……。

 

 

 

「ふぅ……そろそろ決めなければ、こちらのエネルギーも残り少ない」

 

 

 

単一仕様能力《絢爛舞踏》を使えば、エネルギーを回復させて、もっと優位に立ち回れるだろうが……。

今はそんな事をしたくないと思った。

相手と同じ土俵に立った上で、明日奈に勝ちたいという思いが強いのだ。ならば、とことんその信念を貫く。

 

 

 

「スゥー……ハァー……」

 

 

一旦深呼吸をして、箒は再び集中する。

覚悟を決めたかの様に箒の顔つきが変わり、八相の構えをとった。

 

 

 

「次で決めるつもりだね……。なら、私も覚悟を決めるわ……!」

 

 

 

明日奈はさらに距離をあけると、《ランベントライト》の切っ先を箒に向け、半身の姿勢になる。

箒と同じ八相の構えだが、明日奈の場合は、左腕を突き出して構えている。

刺突技が最大の強みである細剣で、明日奈の必殺級のソードスキルを放つには、相当な間合いを開けなければならないのだ。

足場のない空中で、最大限のパワーを伝わらせる為に、加速する必要がある。

二人の姿勢が変わらないまま、緊迫した空気が、その場を支配する。

静寂に包まれた会場であったが、それは、すぐに破られる事となった。

 

 

 

「この一刀に、全てを賭けるっっーーーー!!!!」

 

 

 

先に動いたのは、箒だった。

《紅椿》の展開装甲に掛けるエネルギーを最大限使い、超高速機動に乗った。

それを見て、明日奈もスラスターを全開。

高機動パッケージ《乱舞》のスラスターを、限界までフルブースト。

それと同時に、《ランベントライト》にライトエフェクトか灯る。

蒼みのかかった白い光。

その光芒が、とても眩しく思える。

対して箒も、刀を左の腰の方へと持って行き、下段の構えをとった。

二人とも、限界まで技は出さない……。

まだ間合いが遠いと言うのと、最大級の威力を放てる機会を待っているのだ。

そうしている間にも、どんどん近づいて行き、二人は間合いに入った……。

 

 

 

「篠ノ之流剣舞 《雷鳴》ッ!!!!!」

 

「《フラッシングペネトレイター》ッ!!!!」

 

 

 

互いの白刃が迫る。

雷と閃光……刀と剣が、交錯する事なく、互いの体に向けて放たれていく。

互いの刃が、互いの体に当たろうとしている瞬間だった。

 

 

 

(ここで引いてはダメだっ……! 避けるのでなく、まだ、そのまた一歩ーーーーッ!!!!)

 

 

 

箒の体が、脚が、一歩踏み込んだ様に見えた。

右斬り上げの斬撃が、より強く、より速く、放たれた。

 

 

 

「でぇやああああああああッーーーー!!!!」

 

「い、やああああああああッーーーー!!!!」

 

 

 

一瞬の交錯。

振り抜いた一刀と、駆け抜ける一撃が放たれた後に残ったのは、静寂だけだった。

 

 

「ぐっ……!」

 

「ぁ……!」

 

 

二人同時に体勢が崩れた。

空中であるため、自然にアリーナの地面へと落ちていく二人。

なんとか激突前に体勢を整えて、その場に降り立った。

そして、アリーナのアナウンスが、この試合の勝者を告げた。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 更識 楯無、篠ノ之 箒』

 

「っ?!」

 

 

 

 

アナウンスの告げた勝者の名。

自分たちである事に驚く暇もなく、アリーナからは喝采の声が響く。

視線を後ろに向けて、明日奈の様子を見る。

明日奈も箒と同じ様に、アリーナの地面に膝をついて、肩で息をしていた……。

どうやらあの一撃で、明日奈の《閃華》のエネルギーが尽きたようだ。

では、《紅椿》はどうなのか……?

 

 

 

「エネルギー残量……『1』…………っ?!」

 

 

箒は、その数字に戦慄さえ感じた。

ほぼ奇跡だったのかもしれない……。もしも、交錯の瞬間に、一歩前に踏み込んでいなかったのなら、完全に自分が押し負けていただろう……。

あの瞬間が、この勝負の決め手になったのかもしれない。

 

 

 

「おめでとう、箒ちゃん」

 

「あっ、明日奈さん……」

 

 

 

後ろから声をかけられ、振り向いたその先には、ISを解除した明日奈の姿があった。

額に汗を流しながら、微笑んだ表情でこちらを見ていた。

 

 

 

「やられちゃったよー。最後の瞬間、箒ちゃんの方が速かったんだね」

 

「いえ、その……楯無さんの指導のおかげですよ……」

 

「なるほど。やっぱりカタナちゃんやチナツくんには、まだまだ及ばないかな」

 

「ん? どうしてそこで一夏が出てくるんです?」

 

「え? あぁ、ほら、私がシャルロットちゃんに、『止まっちゃダメだ』って言ったでしょう?

あれ、チナツくんから教わった事なの」

 

「っ?! 一夏に、ですか?」

 

「うん……。対人戦、またはモンスターと戦うことにおいて、一番大事な事は何? って聞いたら、そう教えてくれたの。

だから、あの二人以上に、戦いに関する事で精通している子達っていないんじゃないかなぁーって思ってね」

 

 

 

抽象的な教えではあるが、その教えを聞いたシャルロット、そして箒自身もまた、確実に強くなったはずだ。

ゲームでの経験だけではない……あの二人には、他の者には無い決定的な何かがあるのだろう。

それが何なのかまではわからないのだが……。

 

 

 

「とにかく、この後も試合は続くんだから、気を抜いちゃダメだよ? そして、チナツくんとの対戦も、頑張ってね……っ!」

 

「っ……はい!」

 

「よろしい!」

 

「明日奈さん」

 

「ん? なに?」

 

「その……ありがとうございました!」

 

「ふえっ?! な、なにが?」

 

 

 

いきなり頭を下げる箒に驚き、明日奈はオロオロとした。

 

 

「あ、いえ。その……明日奈さんの剣技、しかと拝見させていただきました。

この経験を生かして、必ず一夏に勝って来ます!」

 

「箒ちゃん……」

 

 

 

その目は、明日奈が今まで見た事がないほど、強い意志を含んでいるように思えた。

臨海学校で挫折を味わって、その時からずっとひたむきに努力を重ねてきたのだろう。

今の彼女になら、あるいは…………

 

 

 

 

「うん……頑張ってね、箒ちゃん。私、応援してるから……!」

 

「はい……!」

 

 

 

両手を明日奈に握られ、約束をした。

もう今は、誰にも負ける気がしない……。

箒はそう感じ、来るべき相手……一夏の事を思いながら、空を見上げるのだった……。

 

 

 

 

 





次回はいよいよ決勝戦を行います。
そしてその後、ワールドパージ編、京都編へと行って、いよいよGGO編へと行きます。
しばらくIS戦が続きますが、ご容赦ください…>_<…

感想、よろしくお願いします(^O^)/


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