ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は刀奈・箒ペアと、明日奈・シャルペアの戦いです!




第85話 クロス・コンバット

セシリア・鈴のペアと、一夏・簪のペアとの対戦が終わり、それに勝利した一夏たちが、ベスト4に進出した事になる。

その他のアリーナでも、ベスト8に進出したペアたちとのバトルが繰り広げられており、着々とベスト4行きを決めていった。

そして、残る試合はもう一組の専用機持ち対決だ……。

 

 

「シャルロットちゃん、機体のインストールは終わったの?」

 

「はい、バッチリです! 明日奈さんの方も、チェックは終わったんですか?」

 

「うん! 問題無いって、ユイちゃんとも確認したからねー」

 

 

 

来るべき対戦の相手は、今まで以上に苦戦を強いられるであろう相手。

学園最強と謳われている刀奈と、純粋な最新鋭の第四世代機を駆る箒だ。

先の対戦では、刀奈が和人を、箒がラウラを相手に戦ったが、刀奈の新装備と箒の新たな戦い方……強いて言うならば《剣舞》と呼ばれるものの登場によって、優勝候補の一角であった和人たちが敗北した。

 

 

 

「えっと、確認だけど……シャルロットちゃんが、カタナちゃんの相手をするんだよね?」

 

「はい。現状を考えるなら、僕のスピードじゃ、箒を捉えられないので、同じスピード勝負に持っていける明日奈さんがいいと思います」

 

「でも、今のカタナちゃんは、はっきり言って無敵だと思うよ……。

キリトくんが、あぁ言う風に一方的に倒されるなんて……正直、私もビックリしたよー」

 

「はい……でも、僕なら、それもなんとかできるかもしれません。

和人は剣でしたけど、僕は銃が基本ですから、なんとか食らいついていくことはできます……!」

 

「うん……わかった。じゃあ、カタナちゃんの相手は、シャルロットちゃんに任せるね?」

 

「はい!」

 

「よーし! それじゃあ、いっちょ頑張りましょう〜〜!!!!」

 

「おー!」

 

 

 

ふわふわキラキラしたような雰囲気を醸し出す控え室の室内。

しかしこの二人が、今の今まで開始即行で勝負に出て、悉く相手を叩きのめしてきているのだから、人は見かけによらない。

今回は、シャルも今回は刀奈が相手ということもあり、本国から送られてきた新型のパッケージを既にインストールし終わった。

優勝することが目標ではあるが、ここではある意味で、自分との戦いでもある。

自分が、学園最強の存在にどこまで近づけるのかどうか……。

自分自身の力量を測るのにもいいチャンスだ。

漲る闘志を心の内に秘めて、二人は決戦の舞台へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

「アスナたちは大丈夫だろうか……」

 

「心配してしょうがないだろう……。こればっかりは、戦う者たちの問題だ。その結果が勝敗として出るんだ。

我々は黙って見届けるしかできん……」

 

「でもよぉ……カタナのあれは、ちょっとやりすぎだっつーの」

 

「まぁ、それについては、私も遺憾ながらそう思う」

 

 

 

アリーナの観客席にて、ラウラとともに明日奈たちの試合を見守る和人。

自分たちを負かした、刀奈と箒が相手で、恋人たる明日奈の無事を祈らざるをえない。

 

 

 

「にしても、カタナの奴……本気で俺を殺しに来たのかと思ったぜ」

 

「そうでもしなければ、お前に勝てないと思ったのだろう……。しかし、途中まで見ていたが、お前が終始押されっぱなしだったのは、意外だったがな……」

 

「………」

 

 

 

序盤は良かった方だと思う。

しかし、刀奈が新装備《クイーン・ザ・スカイ》を出した時から、そのバランスが崩れ始めた。

 

 

 

「もう少しやれると思ったんだけどなぁ……」

 

「まぁ……あの女は、そうやって自分の手札を惜しみなく披露するやつだからな。

それに、そもそもの操縦技術が、お前とは違うんだ……伊達に現役の国家代表を名乗っているわけでは無いということだろう」

 

「ラウラでも、カタナを相手にするのは荷が重いのか?」

 

「腹立たしいがな……。奴の実力は本物だ。肉弾戦、IS戦ともに奴には敵わなかった」

 

 

 

ラウラとて、ドイツIS部隊の小隊を率いる小隊長を務めている。

それにはまず、その小隊の中でも高い操縦技術を有していなければならないはずだ。

現に軍でも少佐という立場にある。

そのことを踏まえて考えれば、ラウラはIS戦において、高い戦闘能力を有していると言っていいだろう。

以前も、セシリアと鈴の二人がかりで挑んで、圧勝したほどだ。

 

 

 

「まぁ、それを言うならば、師匠もなんだがな……」

 

「チナツか……。あいつ、マジで凄いよなぁ……」

 

 

 

 

ラウラが勝てない相手がもう一人。

刀奈の恋人である一夏だ。

箒と同じ第四世代機を駆り、そのシステムを駆使した戦闘技術と手段の多さには、この学園にいるすべての代表候補生たちが一目置いている。

いや、代表候補生や専用機持ち達だけでは無い……ここにいる生徒や教師達も一様に認めている。

日本刀で戦うその姿は、彼の姉である織斑 千冬を彷彿とさせるし、ここ最近起きた学園襲撃事件でも、単独でテロリストを撃退した。

一夏はもはや、代表候補生以上の実力を持っていると見ていいだろう……。

しかし、問題はそこではない。

それほどの技術を、一夏はいつの間につけたのか……。

刀奈と特訓をしているのは知っている。

ラウラや和人、それ以外の専用機持ち達とも訓練をしているのも知っている。

だが、だからと言って、あまりにもその進歩が速すぎると言う点だ。

 

 

 

 

「あいつが、あそこまで強くなるとは思ってなかったんだけどなぁ……」

 

「……その点で言うならば、師匠と更識 楯無の二人には、共通する点がある」

 

「え?」

 

「師匠は……SAOの中でも、暗部の活動が多かったのだろう?」

「ああ……。そう聞いているし、俺もアルゴから少なからずそういう情報を耳にしていたからな」

 

「おそらくそれが関係しているんだろう……」

 

「ん? どういう意味だ?」

 

「考えてもみろ。私は今まで、ISでの訓練を受けてきた……現実世界で、人間相手に戦闘技術を磨いてきた。

だが、お前達はその逆だ。SAOの……アインクラッドという城の中で、多くのモンスターと戦ってきた。

だから初め、私はALOでの戦闘には違和感があった……いかにリアルに感覚を近づけていると言っても、多少なりとも感覚の誤差を生じるからな。それに、モンスターという異形の存在との戦い方にも、多少手間取ったしな。

和人たちはその逆だろう……モンスターと戦う機会が多く、その戦い方に慣れている……」

 

「つまり、プログラム化されたモンスターたちと戦うのに慣れたから、対人戦になるとダメだっていうのか?

だが俺たちだって、デュエルなんかで対人戦は経験してるんだぞ?」

 

「だがそれは、剣と剣の戦いだろ? ALOには魔法もあるから、遠距離に対応した技もあるが、近接戦に特化した和人や他の者たちが、いきなりIS戦をすれば、その戦い方が染み付いているお前たちでは、最初は良くても、後になればその戦術に慣れてきて、それに対応される……」

 

「チナツとカタナは、それが無いっていうのか?」

 

「私が二人に感じた事で共通した物は、戦い方が自由自在……千変万化であるということだ」

 

「自由自在?」

 

「例えばだが、師匠は決して刀だけでは戦わない……鞘をも打撃武器として使うし、拳に蹴り、常に変わる戦況に対応しているかのように、その戦い方を変えてくる。

おそらく、暗部での活動の中で覚えたのだろうな。

そしてそれは更識 楯無にも言える。あれだけ扱いづらい長槍を、二本使う時点で、奴の器用さが表れているだろう……。

間合いに入る者には槍が繰り出され、離れていてもそのリーチの長さを生かして、自ら間合いに入っていく。

それに、奴は槍以外にも多少の武器は扱える……近代武器である銃も、無手での戦闘もまた然りだ」

 

 

 

 

以前一夏が、刀奈と道場で組手をしたことがあるという話を思い出した。

一夏は基本的な合気の型……昔、箒の実家である篠ノ之神社とともにあった篠ノ之道場の門下として教えを受けていた時に習った物らしいが、それに付け加え、SAOで習得した体術スキルを組み込んだ型で勝負を挑んだが、その結果は、惨敗だったそうだ。

一夏から聞いた話だが、刀奈が使った武術は、古流武術、合気柔術、カポエイラ、そして体術スキル……。

まるで武術の展覧会の様だったそうだ……。

一夏も多少は抵抗した様だが、それでも、最後まで刀奈を畳に倒すことは出来なかったと話していた。

 

 

「どうだ? あの二人は、言ってしまえば体そのものが武器と同じだ。

IS自体の機能性も合わせれば、これはもうある種のチートと言う物なのだろう?」

 

「まぁ……だな……」

 

 

 

刀奈のことはわかっていたが、まさか一夏もそれに含まれていたとは……。

自分とて、アインクラッドを攻略する為に最前線で戦ってきたから、多少実力はあると思っていた。

現に、最初の方はその剣技をもって勝ち星を重ねてきた……だが、銃を相手にするとその戦い方だけでは通用しなくなってきたのも事実だ。

 

 

 

「ラウラ……この試合が終わったら、少し付き合ってくれないか?」

 

「ふっ……良いだろう、私もお前の剣技には興味がある。終わったすぐに使われていないアリーナに行くぞ」

 

「あぁ、頼むよ……俺に、ISの戦い方を教えてくれ!」

 

「ISの戦い方か……ふふっ」

 

「ん? なんだよ、なんか変なこと言ったか?」

 

「いや……以前私も、教官に同じことを言ったのでな……つい昔を思い出してしまった」

 

「へぇ〜。それって、ラウラがまだドイツにいた時だよな?」

 

「ああ……。憧れだった教官の強さを知って、私もそうなりたいと思った。そして、教官の教えを一切忘れない様に、必死で習得していた」

 

「じゃあ、その教えを、俺もしっかり学ばなきゃな……!」

 

「ああ。ただし、覚悟はしておけよ? 教官の教えは、誰よりも厳しいからな……!」

 

「お、おう……。お手柔らかに頼むよ……」

 

「ふん……それはお前次第だ、和人」

 

 

 

 

苦笑いをしながら、妙にウキウキとした表情で笑うラウラを見る和人だった……。

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ時間ね。箒ちゃん、行こうか」

 

「はい。行きましょうか」

 

 

 

先の戦い……和人とラウラのペアとの対戦で、何かを掴んだような表情の箒。

そんな箒を見ながら、刀奈は頼もしいと思うように笑っていた。

この戦いで、箒は着実に成長してきている。

それはとても良いことだと思う。

いずれ、この世界では大きな波乱が起きるだろう……。そんな時に、自分の身を守れるのも、大切な何かを守るのも自分でなくてはならないのだから。

しかし、刀奈が懸念せざるをえない人物が一人……。

 

 

 

(チナツ……さっきの戦闘技能は、もう代表候補生のそれを超えている……ヴァルキリー……いや、下手をすれば、ブリュンヒルデに届くくらいに……)

 

 

先ほどモニターで見ていたセシリアと一夏の勝負。

セシリアはここ最近で、ビット操作の腕を上げたと思う。

しかし、一夏の技能がそれを上回っていた。

 

 

(ビット兵器自体、まだ世界でも二機しか採用されてない……。セシリアちゃんのブルー・ティアーズと、チナツを手こずらせたサイレント・ゼフィルス……。私のランサー・ビットも含めれば三機しかない……。なのに、一夏はもうその兵器に対応し始めた)

 

 

 

ここでは、もう何度も見ている兵器とはいえ、ああも対応しきれるものだろうか。

ましてや、一夏はまだ、ISに触れて半年しか経っていない。

今考えればその驚異的なスピードで戦闘慣れしている一夏には、正直恐れすら感じる。

 

 

 

「楯無さん?」

 

「あ、う、うん! 行きましょうか」

 

「どうしたんですか?」

 

「ううん。なんでもない……ちょっと考え事をね♪」

 

「は、はぁ……」

 

「ンフッ、もおぉ〜気にしない気にしない〜♪」

 

「だぁー! 何度も掴もうしないでください!」

 

「良いではないか、良いではないかぁ〜♪」

 

 

 

両の手を閉じたり開いたり、それを見た瞬間に箒の表情は青ざめて行き、絶対に捕まらないように急いでカタパルトデッキへと逃げるのだった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、先に行ってるね、シャルロットちゃん!」

 

「はい、僕もすぐに行きます!」

 

 

 

カタパルトデッキに足を乗せ、高速でアリーナ内へと飛翔する。

白を基調とした機体に、紅いラインの入った超軽量型の機体。イタリアの第三世代機である《テンペスタ》の発展型だ。

接近戦に特化した機体は、明日奈の反応速度に合うように娘のユイと調整してきた。

アリーナの中央に飛んで行き、スカートアーマー部分に自身の愛剣《ランベントライト》を展開し、いつでも抜剣できる状態で待機している。

そしてその後ろから、オレンジの機影がこちらに迫ってきた。

 

 

 

「シャルロットちゃん、システムの具合は?」

 

「問題ないです。ユイちゃんにも少し手伝ってもらいましたから、なんとか間に合いました……!」

 

 

 

明日奈の今回のパートナーであるシャルだ。

今回は、フランス本国にあるシャルの会社の開発部から送られてきたパッケージの試作をテストするようにと通達が来ていた。

会社からの要求ということは、シャルの父からの依頼という事になる。正直気が進まないと思ってはいるが、自分は代表候補生であり、所属はそのデュノア社のテストパイロットという事になっているので、従わざるを得ない状況だ。

しかし、今回ばかりはいいタイミングで来たなというのが印象だった。

まぁそれは、臨海学校の時もそうだったのだが、今回はなんせ学園最強が相手なのだから、新装備がどこまで通用するのかを試すいい機会だ。

 

 

 

(それに今回は、僕自身の挑戦でもあるわけだし……!)

 

 

 

今回の対戦は実にいい機会だと、正直思っていた。

シャルは自身を、まだ大人しい性格だと思っていた。無論、それには理由がちゃんとある。

それは周りの代表候補生たちの面子や性格の事を考えてのことだ。

周りの代表候補生たちは、みんなが個性的……というより、個性が強いと言った方がいいだろうか。

これぞ日本の武士道を歩む者と思わせる言動を行う箒。

貴族であり、そのプライドや騎士道精神、誇りを何より大事にするイギリス出身のセシリア。

その荒々しい性格や、サバサバしたような印象を持たせるが、才能の一端を現している中国の鈴。

一度は落ちこぼれという烙印を押されてもなお、今ではドイツのIS部隊の隊長を務める優秀な少佐殿へと昇進したラウラ。

刀奈の妹と言う比較の対象になりやすい状況でも、刀奈が認めるほどの実力を兼ね備えている簪。

その事を踏まえると、自分も似たような事はあった。

自分は、父と愛人との間に生まれた子供……つまり、本妻の子ではないということだ。

そんな微妙な立場で育った故に、あまり自分から主張をするという事をして来なかった……。

だが、ここ最近では、一応好意を寄せている一夏をめぐって、色々と周りの代表候補生の面々と駆け引きをしながら刀奈のいない時にでも、一夏との交流を積極的に行うようにして行っている。

こうなったのも、ひとえに一夏との出会い故だろう。

そして、いまから戦う相手は、その一夏の最愛の彼女。

その上『学園最強』だ。

少しばかり気が立っているのだろうか……いまから戦うのが楽しみでしょうがない。

 

 

 

「明日奈さん……」

 

「なに?」

 

「僕……とっても楽しみです……!」

 

「っ…………うん。私も……ちょっと、燃えてきちゃったかも……っ!」

 

 

 

 

二人が視線を前に向けた時、反対側のカタパルトから、刀奈と箒の姿を視認した。

 

 

 

「箒ちゃん、どっちの相手をする?」

 

「……本来ならば、以前模擬戦で負けたシャルロットにリベンジを挑みたいところですが、今回は明日奈さんを……」

 

「あら、珍しい……。一体どうしたの?」

 

「べ、別に深い意味はありません……。ただ、私では、シャルロットとの相性が合わないので……」

 

「ほほう〜……。そこをちゃんと理解できるのは、えらいことだぞぉ〜♪ 良い子良い子〜♪」

 

「ちょっ、もう! からかわないで!」

 

「いやん♪ 冗談だってばぁ〜♪」

 

 

 

相変わらずこちらも仲が良いことで……。

いつも他人のペースを掴み、自分のペースに持っていく刀奈の事を、以前一夏は『人たらし』だと表していたのを、シャルは思い出した。

確かに、人の心に付け入るのは得意そうだというのが、第一印象だったような気がする。

 

 

 

「じゃあ、私の相手はシャルロットちゃんで……」

 

「もちろん、僕もそのつもりです」

 

「あら、もしかして両想い?」

 

「そ、それはどうかは変わりませんけど……! でも、今一番に、会長に勝負を挑んでみたいと思っているのは、事実です……っ!」

 

「あらら、私ったら大人気? いいわよ、生徒からの挑戦を受けて立つのが長たる生徒会長の務めですもの……。

学園最強、更識 楯無が、その勝負受けて立つ!」

 

「未熟者ですが、更識会長……全力で挑ませて頂きます!」

 

 

 

その手に銃を、槍を握り締めて、二人は互いに構えあった。

今までに使ってこなかった銃を、シャルロットは展開している。

彼女の実家、デュノア社から送られてきた新兵器だろうか?

 

 

 

「私の相手は箒ちゃんかー。お手柔らかにお願いします」

 

「またまたご冗談を……。あなたの力量を見誤るほど、私の目は腐ってはいませんよ、明日奈さん」

 

 

 

対してこちらは冷静に、というよりは神妙に対峙していた。

紅と白……手に持つ武器は刀と剣……互いに機動性を生かした高速戦闘を得意とする者同士。

しかしその眼には、確かな闘志の炎が宿っていた。

 

 

 

「それは箒ちゃんの過大評価だよー。私はキリトくんやチナツくんのように戦えない……。

でもまぁ、それでも勝ちに行くからね……っ!」

 

「望むところですよっ……! 私も、まだ負けるわけにはいかないですからっーーーー‼︎」

 

 

 

両手に二刀を展開する。

対して明日奈も腰に下げている愛剣の柄を掴み、ゆっくりと抜き放つ。

シュランっ……! と、綺麗な音を奏でた剣の刀身は、光輝いて見えた。

切っ先を上に向けたまま、《ランベントライト》を胸元へと持っていく。

その姿はまるで、中世ヨーロッパに実在した聖騎士のようで、いつもお淑やかな雰囲気で包まれている明日奈の姿が、この時ばかりはとても神々しく見えた。

騎士団副団長にまで抜擢されただけの実力を兼ね備えている明日奈の剣技。

それをIS戦という形で体感できるのだ……それも、本気の本気で。

和人ではないが、これはこれでやりがいがあるというものだ。

そして、その四人の戦意が消え去るよりも遥かに速く、アナウンスによるカウントダウンが始まった。

数字が減っていくごとに、四人は距離を少しずつ開けていく。

互いの間合いにの外まで下がっているのだ。

やがてカウントダウンが終わりに近づきつつあるその瞬間、一番先に動いたのは…………明日奈だった。

 

 

 

 

「やあああッ!!!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

開幕速攻。

突然の奇襲に箒は驚きつつも、体が勝手に反応して、体を半歩後ろに引かせた。

だが、それよりも速く、明日奈の剣が箒に届いた。

おそらくは肩口を狙ったのであろう一撃が《紅椿》の装甲を掠る。

装甲の切っ先が触れ合った場所からは、キリリッという擦れたような音が聞こえた。

 

 

 

(速すぎる……ッ!? いつ間合いに入ったっ?!)

 

 

 

明日奈の戦い方は知っている。

細剣という独特の刀身で、突き技に特化した剣を使い、その連続突きの速さは、もはや超速にまで達すると思われる。

そして、彼女の二つ名《閃光》という名は、その驚異的なスピードから、周りのプレイヤーたちのインスピレーションを元につけられた名前だ。

現に今、箒からすれば、光り輝く刀身がまるで流星のように顔の横を通り過ぎたように感じたはず。

その速さは、和人、一夏、刀奈の三人が認めるほど……。いや、SAOでの彼女の戦いっぷりを見ている者たちですら認めている。

 

 

 

「くっ……! これは……!」

 

「行くよ‼︎」

 

 

 

高速で光の雨が降り注いだ。

細剣の上位ソードスキル《スター・スプラッシュ》。

8連撃の高速刺突技が、箒の目にも留まらない速さで繰り出されていく。

急いで展開装甲の一部を盾のように前に出して防ぐが、猛烈な攻撃に反撃の糸口が見つからない。

 

 

 

「ええい……っ! 篠ノ之流剣舞、戦の舞《裂姫》ッ!!」

 

 

《空裂》を逆手に持ち、《雨月》と共に右回りに回転斬り。流れる剣閃が四閃。

だが、明日奈はバックステップで躱し、再び飛び跳ねるように攻め込んでくる。

 

 

 

「くっ!?」

 

「まだまだ!」

 

 

細剣は突き技に特化しているとはいえ、剣は剣だ。

突き技だけではなく、斬り技もある。

上段からの斬りつけかと思いきや、急にしゃがんで斬りつけてくる。

 

 

「なっ、んのっ!」

 

 

飛び跳ねて避けると同時に、右足部分の展開装甲を起動。

足のつま先からエネルギーブレードを生成し、明日奈に対して斬りつける。

明日奈は脚部のブースターを吹かせて、回避行動を取るも、エネルギーブレードの切っ先が《閃華》のアンロック・ユニットのアーマーを掠る。

 

 

 

「うわっ、あっぶない……っ!」

 

「っ……!」

 

 

苦虫を噛んだような表情を作る箒。

あれだけ攻め込まれて、こちらの反撃もあまり与えられていない。

状況判断と反応速度が速いのだ。

 

 

 

「箒ちゃんのその装備は厄介だなー……」

 

「…………」

 

 

 

いやいや、あなたの方がもっと厄介だろう。

そう言いたいが、今はそんな余裕がなかった。

無自覚なのだろうか? ほんわかしたような表情でそんなことを言われるとは思わなかった。

しかし、このままでは、またしても明日奈に攻め込まれてしまう。

明日奈の専用機《閃華》に取り付けられた高機動パッケージである《乱舞》の小型ブースターをうまい具合で使ってきている。

おそらく、シャルと共に特訓を重ねたのだろう……。

もともと人に教えるのがうまいシャルと、それをうまく飲み込める明日奈の二人だからこそこれほどの速さで技術を習得したのだろう。

 

 

 

「さあ、行くよ、箒ちゃん!」

 

「っ! 私こそ!」

 

 

 

出し惜しみをすれば、たちまち持って行かれる。

箒は《紅椿》の展開装甲を機動させる。

紅いエネルギー翼が現れる。

 

 

 

「やあああっ!!!!!」

 

「はあああっ!!!!!」

 

 

 

細剣と日本刀が激しくぶつかり合う。

そしてその周りでは、光りが迸り、また水が形づくって飛び散っている。

 

 

 

 

「へぇ〜、その装備、面白いわね」

 

「はい。父の会社が作った物だというのが、少し癪なんですけどね……!」

 

 

 

そう言いながらも、シャルは新装備である銃を二挺………二門の銃口がついたサブマシンガン。

そこから青白い雷電が奔る。

新武装……リニアサブマシンガン。

絶え間なく迸るリニア……電気による弾丸は、まっすぐ刀奈めがけて飛んでいく。

刀奈はそれを《龍牙》に纏わせた水流で弾いていく。

まるでバトンを振り回して競技を見せる新体操の選手のように、《龍牙》を体全体で振り回す。

一つ一つの雷弾を、確実に断ち切っていく。

 

 

 

「っ! 水は電気を通すものじゃなかったけ……?」

 

「あら? シャルロットちゃんも、もう少し勉強が必要ね……」

 

「と、言うと?」

 

「ナノマシンで出来た水は、確かに電気を通す……でも、それを水の中のナノマシン同士で電流の流れを作って、『滞留』させておけばどうでしょう?」

 

「っ! あ〜……じゃあ、それって……」

 

「そう……電気は水の中で止まり、私は感電しないって事なのよ♪」

 

「ううっ〜……! それは計算外でした!」

 

「それはまた、残・念・賞ッ!」

 

 

 

なるべく距離を保ちたいシャルは、付かず離れずの戦法をとっていくが、刀奈がそれを許さない。

水を自在に操り、『アクア・ヴェール』を生成して雷弾を防ぐ。

そして、左手に蛇腹剣《ラスティー・ネイル》を召喚し、それを振り切る。

 

 

 

「もらったあぁぁッ!!」

 

「やばっ!」

 

 

 

水で出来た刃が、まるで鞭のようにしなって、シャルに迫ってくる。

後ろに引くのは無理。上昇して躱すにはタイミングが遅すぎる……。ならば、どうするか……。

 

 

「ふうっ!」

 

 

全身から力が抜けたかのように、シャルは《リヴァイヴ》と共に降下していく。

その上を、刀奈の《ラスティー・ネイル》が横切る。

あのままだったなら、間違いなく斬られていただろう……。

 

 

「集中を切らさない!」

 

「くっ!」

 

 

 

しかし、その上から再び槍が落ちてくる。

槍の5連撃ソードスキル《リヴォーヴ・アーツ》。

シャルは咄嗟に盾を構え防ぐも、元々体勢が悪い上に、重攻撃系のスキルを使われては、バランスを維持することはできない。

スキルの衝撃によって、シャルは地面に向かって叩き落される。

 

 

「ぐっ……ぐうぅぅ……ッ!!!?」

 

 

《リヴァイヴ》のアンロック・ユニットについている四枚の翼を広げ、空気抵抗を調節して落下を免れた。

しかし、それに追い打ちをするように、再び《ラスティー・ネイル》が振り下ろされる。

 

 

「これ以上はやられない!」

 

「あら、対応が速いこと」

 

 

 

《ラスティー・ネイル》の刃が落ちてくる前に、シャルは体勢を立て直して横に跳ぶ。

 

 

 

「接近すればッ……! 行くよ、リヴァイヴ!」

 

 

両手のリニアガンを連射しながら、シャルは刀奈との距離を詰める。

 

 

 

「ヘェ〜……。いいわ、来なさいな……!」

 

「その余裕を、今から打ち消してみせます!」

 

 

そう言いながら、シャルは右手に持っていたリニアガンを量子変換して格納し、《リヴァイヴ》の腰部アーマーから何やらスティック状のものを取り出した。

一瞬のことで、ちゃんと確認は出来なかったのだが……シャルがいつも使っている短剣《ブレッド・スライサー》よりも小さいブレードのようだ。

しかし次の瞬間、その短い刀身からリニアガンと同じ青白い雷電が現れた。

それは剣のような刀身を形成していき、やがて、細長い剣……細剣……いや、サーベルのような形へと成していった。

 

 

 

「やあああああッ!!」

 

「ふふっ……その意気や良しッ!」

 

 

 

刀奈は《ラスティー・ネイル》を捨て、即座にもう一本の槍《煌焔》を取り出し、右手の《龍牙》と共に、シャルの斬撃を受け止めた。

 

 

 

「ふっ……! リニアサーベルってとこかしら?」

 

「これなら、実弾だけしか装備のない僕のリヴァイヴでも、やりあえる!!!!」

 

「ほう? 随分大きく出たものね……。ならばその力、存分に見せてもらおうかし、らッ!!!!」

 

 

 

シャルを両槍で弾き、仕切り直し。

 

 

 

「シャルロット・デュノア! 行きます!」

 

「更識 楯無!来ませい!」

 

 

 

再び接近戦へと持ち込む。

真紅の長槍と、蒼白の剣が合わさりあう。

そのアリーナに、再び閃光が閃いた。

 

 

 

 





次回でこの試合の決着をつけて、ようやく準決勝。
サクサクと終わらせて、決勝戦へと持っていきたいですね(⌒▽⌒)

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