ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は一夏・簪ペア 対 鈴・セシリアペアの対決です!




第84話 畏敬

「小銃を二丁……ガン=カタってやつか……?」

 

 

セシリア・オルコット。

イギリスの代表候補生にして、イギリスでも有名な財閥の跡取りにして現会長。

同じ16歳ながら、その生き方は、一夏自身も想像を絶するものだっただろう。

イギリス貴族としてのプライドと、持ち前の負けん気と手腕を用いて、亡き両親……主に母親が残していったものを守ってきた。

そんな彼女が、今は今までの自分を捨てたかの様な姿を見せている。

 

 

 

「ええ……。これが、一夏さんを倒し得る方法の一つだと思いましたので……!」

 

 

 

先ほども言ったが、彼女はプライドが高い。

ゆえに、彼女の機体《ブルー・ティアーズ》の装備などは、一切変えずに、そのまま勝負してくるのではないかと思っていたが……。

どうやら、彼女の中に眠る闘争本能に火をつけてしまったらしい。

遠距離からの精密狙撃に自信を持っているセシリアが、あえてそれを捨て、最も苦手な近距離での戦闘にシフトチェンジするとは、さすがの一夏でも驚愕だった。

 

 

 

(ガン=カタは、てっきりシャルの領分だと思っていたんだが……)

 

 

 

同じ銃火器を使うシャルとセシリアとでは、その戦闘方法が明らかに違う。

実弾を使った面性圧力と《高速切替(ラピッド・スイッチ)》を得意とするシャルの戦い方と、第三世代型IS特有の特殊武装《BIT兵器》を用いて、全方位オールレンジ攻撃と、レーザー光線によるビーム狙撃を得意とするセシリアでは、スタイルが明らかに違う。

しかし、セシリアは今、自分とは明らかに違う戦闘方法で、一夏と対峙している。

 

 

 

「それでは、お付き合いくださいな。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる《六重奏(セクステッド)》をっ!」

 

 

 

そう宣言した瞬間、セシリアの両肩についているアンロック・ユニットから四つのフィン状の物体が飛翔し始めた。

それは今まで何度も見てきた、《ブルー・ティアーズ》の特殊武装《ブルー・ティアーズ》だ。

四機の《ブルー・ティアーズ》からのレーザーに加え、両手に持っている小銃からもレーザーが放たれる。

 

 

 

「っ!? 射撃と誘導の同時操作……っ!! 会得したのかっ!?」

 

「ええ! これでわたくしは、一夏さんに勝ってみせますわ! でなければ、開発局に問いただしてまで、この武器を作ってもらった意味がありませんわ!」

 

 

 

やる気充分なセシリア。

一夏に対して、近接戦闘を仕掛けにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたのよ! いつでも撃ってくりゃあいいじゃない!」

 

「うっ……それをさせてくれないの、鈴の方なのに……!」

 

 

 

一夏とセシリアが、意外な戦いをし始めかけている頃。

鈴と簪の二人もまた、激しい撃ち合いをしていた。

簪の装備《破軍》の特徴は、目に見えている大きな二門の高エネルギー長射程砲だ。

だが、簪は未だにそれを撃ってこない。

その代わり、その砲身の先……砲口とは真反対の位置にある四門のミサイル発射口から、両方合わせて8発のミサイルを放ち、また、スラスターに取りつけられている小型のレールガンを鈴に向け、ミサイルと同時に放っていた。

 

 

 

「ちっ、洒落くさいわ、ねっ!」

 

 

 

対して鈴は、自身の強化用パッケージに取りつけられた大砲。

《四神》の白き猛獣《白虎》を起動させて左手にトリガーを握ると、レールガンを躱して、後続から迫ってくるミサイル群に向かって砲撃。

超特大のエネルギー砲の熱が、迫り来るミサイルをことごとく撃ち落としていき、簪にすらその砲撃が迫ってきた。

 

 

 

「くっ!」

 

「ほらほら! まだ始まったばっかりよ!」

 

 

 

大刀《青龍》抜き、簪に斬りかかる鈴。

それをひらりと躱す簪。

躱すついでにそのまま距離をおいて、《破軍》の砲口を鈴に向けた。

 

 

 

「そこっ!」

 

 

二門の砲口から、鈴と同じ高エネルギーの奔流が放たれた。

重い機体を動かして、なんとか躱す鈴。

やはりかなりの重量がかかっているからか、普段通りにはいかないようだ。

 

 

 

(チィッ……! 動きの速さなら、向こうの方がやっぱり上みたいね。しかもあのブラスター……私のとほとんど同じ威力……! こっちが一瞬でも気を抜いたら、撃ち抜かれるのは私の方よね……)

 

(鈴のあの大刀をまともに食らったら、あれだけでエネルギーを削られかねない……! 機動力は私の方が上回ってるんだし、このまま押し切れれば……!)

 

 

 

鈴の大砲も、簪の長射程砲も、どちらも高い威力を持っている。

その分、チャージする時間や、砲身を冷やすために排熱をしなくてはならないため、そう連発はできない。

ゆえに、二人は即座に砲身を格納して、鈴は《青龍》を、簪は《夢現》を展開して、いきなりの接近戦。

 

 

 

「だありゃあああっ!!!!」

 

「ええ〜〜いぃっ!!!!」

 

 

超振動薙刀《夢現》。

それは開発当初から《打鉄弐式》に搭載されていた武装だ。

更識の家に生まれて、姉の刀奈は槍を、妹の簪は薙刀を修練してきた。

姉はその他にも、多くの武術を学び、今ではIS戦、肉弾戦も隙がなく、もはや達人の域に達してもおかしくないのではと思うほどだ。

そんな姉を見ていて、昔ならば嫌気がさして、向き合うことをしなかっただろうが、今は違う。

刀奈がSAOに囚われて、代理とはいえ、先代の楯無……つまり、父親と一緒に、姉の帰りを待っていながら、家の仕事を手伝っていた。

その間も、欠かすことなく、修練を積んでいった。

薙刀術はもちろんのこと、ISにおける戦術や操縦方法、空間把握能力の向上や、姉がしていたように、その他の武術の修練も始めた。

だからこそ、いま簪は、自分の力に自信を持っている。

余計な不安などは感じられない。

もちろん、目の前で大刀を振るっている鈴を相手に、真正面から斬り込むことはしないが、それでも、負ける気はしない。

 

 

 

「なに? 普段おとなしいくせに、今回は熱いじゃない……っ!」

 

「私も、いつまでもお姉ちゃんの後ろにいるわけには、いかない…っ!」

 

「はっ! 上等じゃない。なら、もっとバチバチに張り合おうじゃないの!」

 

「望むところ……ッ!」

 

 

 

鍔迫り合いの状態から、パワーが上の鈴の方から押し返され、簪は一旦距離をとった。

リーチの長さから考えれば、簪の方が優勢ではあるが、鈴の持つ大刀はとても重量のありそうな一撃を放ってくるため、安易に受け止めようとするのは得策ではない。

 

 

 

(受けるんじゃなくて……受け流す!!!!)

 

 

 

振り下ろされる一刀。

しかしそれを、簪は薙刀を少し傾けて、流すように受けた。

そして、返しの刃を懐に向けて一気に振り抜いた。

 

 

 

「へぇ〜。あんたも意外に武闘派なのね?」

 

「っ?!」

 

 

 

完全に決まったと思った。

しかし、振り抜いたと思ったのは間違いだった。

鈴の体……強いて言えば、身にまとう装甲の手前で《夢現》の刃が止まっていた。

一瞬、何故?

と思ったが、その答えもすぐにわかってしまった。

《夢現》の柄の部分を握りしめる剛腕豪手。

あのとっさの瞬間に、鈴は左手を《青龍》から離して、《夢現》を取りに行っていたのだ。

 

 

 

「あ、あの瞬間に……っ!?」

 

「まぁ〜……勘ってやつ?」

 

 

 

なんとも鈴らしいと言えばらしいのではあるが……。

 

 

 

「まぁ、そんなわけで、捕まえたわよ……っ!」

 

「くっ!」

 

「叩きおとす!」

 

「させない!」

 

 

振りかぶる一刀を、引くのではなくあえて間合いに入り込み、振り下ろされる前に腕を掴む。

これで、互いに得物と腕との摑み合い、完全にゼロ距離で組み合っている。

 

 

「ぐぬううぅぅぅ……ッ!!!!!」

 

「んんん〜〜っ!!!!」

 

 

 

パワーでは鈴が優勢だが、ここまでせめぎ合うと、うまく力を入れることは難しい。

それを計算しての行為なのか、はたまた、鈴と同じように勘だったのか……。

簪の心の奥底に眠っていた戦いの本性が、目覚めているのか錯覚しそうだった……。

 

 

「あんたも……っ、楯無さんと同じってわけね……!」

 

「な、にが……っ!?」

 

「そうやって、戦いになるとっ、熱くなるってところがよ……っ!」

 

「それは……っ、鈴も、同じ!」

 

「ははっ……! そうかもね。だって、いっつも後ろで指示だけ出してた奴が、こんなにバチバチの戦いを仕掛けてくるんだもん……!

熱くならないはずがないじゃないっ!!!!」

 

 

 

また鈴の方から弾き返した。

簪は後退しながら、レールガンを撃ち、鈴との距離をあけていく。

 

 

 

「逃がすかってぇのッ!」

 

 

鈴が大砲《白虎》を構える。

そして、充分にチャージしたエネルギーを、一気に解放した。

 

 

「こっちだって……ッ!!!!!」

 

 

簪も負けじと《夢現》を格納し、《破軍》の砲口を鈴に向け、その引き金を引く。

超強力なエネルギー砲が二閃。

鈴の放ったエネルギー砲と、簪の放ったエネルギー砲がぶつかり合う。

激しい光の拡散と爆発音……。

眩い光が、鈴と簪の二人を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、抜け出せねぇ……っ!」

 

「追い詰めますわよ、ブルー・ティアーズ!」

 

 

 

一方、アリーナの遥か上空では、二丁拳銃と四機のビットを巧みに扱い、一夏を包囲して、戦いを有利に進めているセシリアの姿があった。

以前ならば、ビットと実射撃の同時操作はできなかった……。

そこを一夏、和人に付け入られて、何度となく敗北してきた。

狙撃の腕ならば、ここの学園にいる生徒たちの中で一番だと思っている。

しかし、せっかくの特殊武装も、多種多様に使いこなせなければ意味がなかった。

ビットの操作ができても、自身の動きが制限されては、操作する意味がない。

ゆえに、ここ最近では鈴を練習相手に、何度も操作を行った。

しかし、やはり狙撃に意識を集中すると、ビットの操作が疎かになり、ビットの方に意識を集中すると、狙撃の精密性に支障をきたす。

なので、射撃とビット操作の両方を獲得するため、今回この武器を作らせたのだ。

 

 

 

 

「くうっ!?」

 

「中々しぶといですわね……!」

 

 

 

放たれるレーザーを、ギリギリで躱し続ける一夏。

レーザービーム一本一本は多角的で、他方向から迫り来るが、それらを直前で体を捻ったり、翼を操作して、回避コースを切り替えたりして避けている。

 

 

 

(このままじゃジリ貧だな……! ならば……っ!)

 

 

 

回避を続けていた一夏が、今度は自ら攻めに転じる。

三次元の動きでセシリアの間合いに詰め寄る。

 

 

 

「やはり抜けてきましたわね! ですが、ここまでですわ!」

 

 

ミサイルビットを起動させ、ミサイル四発を発射する。

眼前に迫ったミサイルを、一夏はエネルギー刃の斬撃波を放ち、全部撃墜する。

しかし、爆煙があがり、視界が悪くなったところに、レーザーが現れる。

 

 

「くっそぉっ!」

 

 

精一杯体を反らして、なんとかレーザーを躱すも、その背後からビットに狙い撃たれる。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「終わらせてあげますわ!」

 

 

一点集中放火。

ビット、両手の小銃のレーザーを全て撃ち放つ……いわゆる『フルバースト』だ。

 

 

「チィッ!」

 

 

両手の手の甲からライトエフェクトを生成し、それをクロスさせて飛ばす。

最低限の防御壁のつもりだろうが、やはり一点集中で撃たれるレーザーを完全にせき止めることは難しく、多少の攻撃を受けてしまう。

 

 

「っ!? これでも落ちないっ?! ならば……っ!」

 

 

これでもかという火力で、一夏に対して射撃を続ける。

エネルギー切れなんて関係ない。

ここで一夏を倒すことだけを考えているかのように、セシリアは懸命に一夏を狙い撃つ。

 

 

 

(まずい……! このままじゃあ……)

 

 

 

一夏の視界に入る《白式》のシールドエネルギー残量がどんどん減っていく。

まだまだ余裕はあるものの、このまま圧倒的に攻められれば、その余裕もすぐになくなるだろう。

 

 

 

(ダメだ……このままじゃあ、負けてしまう……! カタナと箒が、待っているんだ…………こんなところで、負けるわけにはーーーーッ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーツッ!!!!!

 

 

 

 

 

一夏の中で、何かが弾けた。

 

 

 

「くっーーーー!!」

 

 

 

あの時と同じ感覚……。

学園祭の時、襲撃してきたオータムを、圧倒的な剣技で半殺しにした時と全く同じ感覚だった……。

今まで射撃を避けるために、セシリアから離れつつあったのだが、突如反転させ、猛スピードでセシリアに向かって飛んでいく。

 

 

 

(っ?! なんですの? 急に動きが……)

 

 

 

何かがガラッと変わったような……動き自体が今までと全く違う。

しかし、もうあと一歩というところまで来たのだ……ここで引いては、一夏を倒せるチャンスが二度となくなってしまう。

 

 

「そこですわ!」

 

 

直線的に向かってくる一夏に対して、セシリアは容赦なく再びフルバーストを撃った。

しかし、一夏は減速するでも、ライトエフェクトを生成するのでもなく、ただ一直線に、アリーナの地面に向かって下降していった。

 

 

「っ?! いったい何を……!」

 

 

虚を突かれて一瞬判断が遅れてしまったが、一夏のあとを追うべく、セシリアも一夏と同様に下降していった。

その間も、ビットを駆使して、他方向からの挟撃を仕掛けるも、これもまた、まるで “レーザーがどこを通るのか、また、どこを撃とうとしているのかを、あらかじめ知っているかのように” 躱していく。

 

 

 

「なっ?! どうして……! なんで、あんな攻撃を容易く……!」

 

 

 

一夏はずっと前を見ているのに……一応、ISによる視界のアシストがあるとはいえ、そんなすぐに反応できるようなものでもないだろう……。

ならば、一夏はどうやってこの攻撃を躱して行っているのだろうか……。

そして、とうとう一夏が地上へと到達し、今度は地上と平行に飛んでいく。

 

 

「悪あがきを……! ですが、今度こそおしまいですわ!」

 

 

 

ミサイルビットを起動させ、残りのミサイル全弾を発射した。

上空から地上へと落ちていくので、その分の加速も相まって、ミサイルはどんどん一夏に迫っていく。

 

 

 

「ーーーー《土龍閃》ッ!!!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

ミサイルが着弾するのではないかと思ったその時。

一夏が振り向きざまに、アリーナの地面をえぐるように振り払った。

ドラグーンアーツのソードスキルの内の一つである《土龍閃》。

地面を抉り、石つぶてやら土埃が舞う中を、ミサイルが通過。当然、その衝撃によって、ミサイルは爆破し、また一夏の姿も見失ってしまった。

 

 

 

(っ……! いったいどこに行ったんですの?)

 

 

 

土煙が待っている箇所を、上空から見ていた。

未だ、一夏の姿は確認できず、セシリアは最大限の警戒態勢をとった。

ビットを各所に配置して、いつでも射撃できる態勢に入った。

すると、その土煙から、こちらに向かってくる影が一つ………。

 

 

 

「見つけましたわッ!!!!!」

 

 

 

ビット四機からの一斉掃射。

レーザーが着弾した瞬間、飛んできた影は、土煙の中からその正体を明かす。

 

 

 

「へっ……!?」

 

 

 

飛んできた物……それは、一夏の愛刀《雪華楼》だった。

レーザーによる攻撃によって、半ばあたりが黒焦げて、刃こぼれなどが見受けられた。

その《雪華楼》を見た瞬間、セシリアは罠であることに気づいた。

が、少し遅かった…………。

 

 

 

「シッーーーー!」

 

「なっ!?」

 

 

 

土煙から出てきた一夏は、自分から最も近い距離にいたビットの一つを斬り裂き、爆破させた。

一瞬のこと過ぎて、セシリアも対応が遅れてしまったが、残りの三機と両手の銃を撃ち放ち、再び一夏を包囲殲滅しようと試みるも、再びレーザーを全て躱される。

 

「そ、そんなーーーっ?!」

 

「二つ目ッ!」

 

 

背後に回っていたビットに向け、一夏は二本目の《雪華楼》を放り投げた。

切っ先がビットを貫き、二つ目も爆散する。

 

 

 

「そんな小細工で!」

 

「まだだッ!」

 

 

 

セシリアの射撃を躱して、向かってくるビットを通り過ぎる瞬間に抜刀した三本目の《雪華楼》で斬り刻む。

背後から狙い撃とうとしているものに対しては、左手で最後の四本目の《雪華楼》を抜き、エネルギー刃を飛ばして斬り裂いた。

 

 

 

「そ、そんな……っ!」

 

 

 

ありえない……。

セシリアの心の中は、その言葉だけで埋めつくされていた。

あれだけ優勢に動いていたというのに、何故、この様な事が起こってしまったのか……。

ビット四機は撃墜され、残るはミサイルビットが二機と、両手の小銃……間に合わないかもしれないが、スナイパーライフルと、あまり使ってない短剣。

手段なら、一夏以上に持っているが、刀だけを武器に、これらの防衛線を容易く飛び越えくるのが、目の前にいる少年、織斑 一夏だ。

もう武装と呼べるものは、両手に持っている二刀だけだというのに、どうしてこうも不安が拭いきれないのだろうか……。

同じIS操縦者……いや、言ってしまえば、一夏とセシリアとでは、ISを起動させてから使いこなすまでに相当な時間の差があったはず。

にも関わらず、初戦で自分に勝ち、今もまた、圧倒的な強さを持っている……。

 

 

 

「一夏さん……あなた、本当に何者ですの……っ!?」

 

 

 

これは、ある意味では恐怖に近い感覚だ。

自分の知らない事が起きすぎている様に見受けられる。

それは、一夏が男であるからなのか? そして、彼の扱う機体が、未知である第四世代型ISであるからか?

だが、そんな簡単なことで収まるだろうか?

何かもっと別の物……一夏という少年の存在そのものが、自分たちと違うのではないか……。

そういう風に思ってしまった。

 

 

「これでーーーーッ!」

 

「っ!?」

 

 

 

二刀を振り切り、再びセシリアに肉薄する一夏。

セシリアもそれに対抗して、ミサイルビットを起動させて、再びミサイルを撃ち込む。

 

 

 

「《極光神威》!!!!」

 

 

 

《白式》の翼が羽ばたく。

蒼い翼が顕現し、一瞬にして一夏の姿が消えた。

次に目にした時には、すでにセシリアの間合いに侵略していた時だった。

ミサイルは全部爆破されており、あの瞬間に、全弾を斬り裂いたのだろう。

そんな光景すら、セシリアの目には留まらなかった。

 

 

 

「フッーーーー!!!!」

 

「あっ?!」

 

 

 

一閃、二閃と剣閃が走り、両手の銃を真っ二つに断ち切られる。

せめてもの抵抗として、《インターセプター》を取り出してはみたものの、すでに喉元に刃が迫っていた。

 

 

 

「ッーーーー!?」

 

 

ほとんどゼロ距離に近いくらいに迫っていた一夏の顔。

その目を見た瞬間、セシリアの体は戦慄した。

瞳からは光らしきものは映っておらず、その眼光は、今の今まで見たことのないくらいに澄み切った蒼色をしていた……。

 

 

「……っ……っ……あ、ぁあ……」

 

「っ……あ、す、すまん! だ、大丈夫だったか、セシリア?」

 

「へ? あ、は、はい…………」

 

 

呆気にとられた。

普段と何も変わらない一夏の声……一夏の顔……一夏の目だった。

さっきまでの一夏の姿は見受けられず、今まで何度となく話し、セシリア自身も知っている一夏の姿が、そこにあった。

 

 

 

「セシリア? 大丈夫か?」

 

「あ、はい……だ、大丈夫ですわ」

 

「あの、それでさ、セシリア」

 

「はい?」

 

「その……このままリザインしてくれると……俺は、嬉しいんだけど……」

 

「へ……? あ、はい」

 

「え、えぇ? いいのか? 聞いといて何だけど、降参するって意味だぞ?」

 

「は、はい……か、構いませんわ。降参ですわ」

 

 

 

 

 

ここで、セシリアの降参宣言が出たため、セシリアの試合続行不能ということで、一夏が勝利した。

残るは…………。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「ぜぇっ……ぜぇっ……」

 

 

 

 

周りにクレーターが多数存在し、その中央部に、鈴と簪の姿があった。

互いに向けあっている砲身からは、蒸気が噴き出しており、エネルギー砲を撃った後に行われる砲身冷却を行っているようだ。

向き合う二人は、肩を上下に動かしながら、荒い呼吸を整えている。

 

 

 

「まったく……ほんとしつこいわね、あんた……っ!」

 

「り……鈴こそ……!」

 

 

 

先ほどからずっと撃っては躱し、近づけば斬り合い、離れてはまた撃ち合いを繰り返していた。

その結果が、二人を取り囲む様にできたアリーナのクレーターだ。

しかし、もうそうな悠長に戦えることもできなくなった。

それは何故か……?

 

 

 

((やばい……エネルギーが…………))

 

 

 

どんなに強力な攻撃を放ち、機動性に優れていようとも、それもこれも、それらを動かすエネルギーあっての話だ。

それらがなくなってしまえば、たちまち試合続行不可能となり、その場で敗北する羽目になる。

 

 

 

(なら、次で……)

 

(……ラストアタック……!)

 

 

 

 

互いに思っていることは同じ様だ。

二人はゆっくりとにじり寄って、簪は《夢現》を構え、鈴は《青龍》を握りしめる。

 

 

 

 

「次で決めるッーーーー!!!!」

 

「これでッーーーー!!!!」

 

 

 

二機がほぼ同時に動き出す。

大刀を振り上げ、真上から叩きつける様に振るう鈴。

それを迎え撃つ様に下から突き上げる様な攻撃。繰り出す簪。

互いの刃が擦れて、摩擦の衝撃と火花が散り、互いに狙いを定めていた目標とすれ違う。

互いに勢い余って、通り過ぎる。

鈴は刃を返して、横薙ぎに一閃するが、簪はそれを上に跳ぶことで回避した。

背中のスラスターと一体になっているレールガンの砲門を鈴にむけ、発射した。

 

 

 

「ぐうっ!? やったわねぇッ!!!!!」

 

「っ! きゃあっ?!!!」

 

 

 

鈴の放った渾身の回し蹴り。

咄嗟に《夢現》で防いだが、パワー任せの強引な蹴りを受けて、簪はそのまま仰向けに倒れた。

 

 

 

「しゃあんなろッ!!!!!」

 

 

 

バキッ という音がなり、鈴の体から装甲板が離れていく。

強化用パッケージ《四神》の一角である《玄武》がパージされ、《甲龍》本来の装甲板が露わになった。

少しは身軽になったこともあり、すぐに簪の間合いに入った。

 

 

 

「もらったあぁぁッ!!!!!」

 

 

《青龍》を振りかぶり、思いっきり振り下ろした……。

 

 

 

「ーーーーんっ!!!!」

 

 

 

《青龍》が届くよりも先に、《破軍》の砲口二つが、鈴に向いていた。

 

 

「くっ?!」

 

「バーストッ!!!!!」

 

 

高エネルギーの収束砲が火を噴いた。

ビームは鈴の持っていた《青龍》と、《四神》の一角《朱雀》の可変翼を撃ち抜いた。

《青龍》はエネルギー砲に貫かれて溶解し、《朱雀》の可変翼の一部も消失した為か、鈴の態勢が悪くなった。

だがーーーー

 

 

 

「舐めんなぁああああ!!!!」

 

 

 

ガシャンッ! と重たい金属音が響いた。

簪が視線を向けた時には既に、《四神》の一角《白虎》の砲口が、簪に向けられていた。

 

 

 

「ッ!!!!!」

 

「っ……!!!! うわあああぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

鈴がトリガーを引くのと同じタイミングで、簪は寝た状態から後ろ周りに体を転がし、直撃は避けた。

だが、背中に設置してあった《破軍》のスラスターに、鈴の砲撃が当たってしまった。

スラスターの一部が消失したのが確認できて、なおかつそこは動力部にも近い位置だった。

これが意味することは、あと数秒で爆発してしまうという事だ。

 

 

 

「くっうぅッ!」

 

 

 

簪は即座に、《破軍》と自身とを切り離した。

その後、《破軍》は爆発し、鈴と簪の間で、大きな衝撃波が生まれた。

前方からとてつもない衝撃が遅い、その勢いに従う様に、簪から離れる鈴。

逆に、背中からの衝撃を受けて、地面に落ちそうになる簪。

咄嗟に《打鉄弐式》の方から『自動姿勢制御』の表示が出されたが……簪は、これを拒否した。

 

 

 

「いっけぇええええええッーーーー!!!!」

 

 

 

地面とは逆さになった状態で、それでもなお、体に捻りを加え、鈴の方へと体を向けた。

そして、その手に握っていた《夢現》を握りしめて、思いっきり投げ込んだ。

 

 

 

「あーーーー!!!!??」

 

 

 

爆炎の中、その中を通ってくる一筋の光。

その正体が、簪の持っていた《夢現》だと、鈴が理解したのは、その刃が既に、鈴のシールドエネルギーを貫いた瞬間だった。

 

 

 

「ああああぁぁぁぁッーーーー!!!!!」

 

 

 

シールドエネルギーを貫かれた衝撃と反動が、鈴の体を遅い、そのまま仰向けに倒れた。

《甲龍》のシールドエネルギーが完全に消失した為、この試合に決着がついた。

 

 

 

『試合終了。勝者 織斑 一夏、更識 簪』

 

 

 

アリーナのアナウンスが、この激闘の勝者を告げる。

その瞬間、アリーナからは割れんばかりの大歓声が投げかけられ、凄まじい戦いを繰り広げた両ペアには、賞賛の声も投げかけられた。

 

 

 

「ううっ〜〜〜……また負けてしまいましたわ……」

 

「ふぅ〜……。でも、今回はギリギリだったぜ? セシリア、いつの間に同時操作なんて会得したんだよ……」

 

「うふふっ。それは秘密ですわ♪ 女は時として、一つの目標に向かって走るのに、がむしゃらになる事だってあるのですわ!」

 

「あっははっ……。なるほど、じゃあ、今回俺が苦しめられたのも頷けるな。でも、結果的には俺の勝ちだがな」

 

「くうぅっ〜〜〜〜!! 次は勝たせていただきますわ! 次こそは、ほえ面をかかせてあげますわ!」

 

 

 

ピシッと指をさして宣言するセシリア。

たとえ負けようとも、イギリス貴族としての誇りを守る……。

紳士よりも毅然とした態度で言い放つ彼女は、とても凛々しく見えた。

 

 

 

 

「鈴! 鈴! 大丈夫っ?!」

 

「ん、んん〜〜……!」

 

「鈴!」

 

「うっさいわねぇ……聞こえてるっての……」

 

 

 

アリーナの地面に倒れていた鈴。

エネルギーが切れ、IS展開もままならなくなったのが、その体からは既にISが消えていた。

そんな中、ゆっくりと上体を起こす鈴を、簪は隣で心配そうに見ている。

そんな表情を見せる簪の顔を、鈴は両手を引っ張った。

 

 

「い、いひゃい、いひゃい! な、なにふるの、鈴っ?!」

 

「よくもやってくれたわねぇ〜〜っ! 結構痛かったじゃないのよ……っ!」

 

「だ、だから、ごふぇんなふぁい〜〜……っ!!」

 

 

 

普段は大人しくてぶっきらぼうな簪が見せる、面白い顔。

そんな顔を見ていたら、鈴も自然と笑っていた。

 

 

 

「ハァーア……負けちゃったなぁ〜。それに装備自体もこんなになっちゃったし……」

 

「そ、それは、仕方ないよ……戦いの結果だもん」

 

「まぁ、いいわ。どうせこれ試作品だし、データは十分に取ったから、上には文句言われないでしょう」

 

「苦情は、くるんじゃない?」

 

「それは責任者が取るからいいのよ」

 

「それ、勝手だよ」

 

「いいのよ。データを取るのが私たちの仕事でしょう? なら、責任取るのが責任者の仕事よ」

 

 

 

鈴は立ち上がり、パタパタと体についた砂を払う。

 

 

 

「ほら、あんたもこんな所にいないで、さっさと次の試合の準備に戻りなさいよ。

そのままで戦うっていうんなら、止めはしないけどさ」

 

「う、うん……体は、大丈夫だよね?」

 

「ん。全然平気よ……。むしろまだやり足りないくらいだし」

 

「そっか。それだけ元気なら、大丈夫だね」

 

「そういう事。ほら、一夏が待ってるわよ」

 

 

 

簪の後方を指差し、こちらに向かってきてる一夏とセシリアの姿を視認した鈴。

それにつられて、簪もそちらに視線を持っていく。

鈴との対戦に集中していたため、二人の戦いを見ていなかったが、言うまでもなく、一夏が勝ったのだろう。

笑顔の一夏と、拗ねたような表情をしたセシリアの姿を見た。

 

 

「簪」

 

「ん? なに?」

 

「勝ちなさいよ……楯無さんにも」

 

「っ……!? ……うん。頑張るよ……っ!」

 

「そう……その意気よ!」

 

 

 

 

鈴の出した手のひらを、簪も同じように手を出す。

パァン! と大きくハイタッチを決め、鈴はセシリアに抱えられ、一夏と簪はともに飛んで行った。

 

 

 

 

「ハァーア……で? あんたはどうだったの? 少しは一夏を追い詰めた?」

 

「ええ……。ですが、最後の最後に、目測を誤りましたわ」

 

「ん?」

 

 

 

 

どこか怯えたような……それでいて、恐れを感じさせるような声色だった。

ただ恐怖しているというわけでは無い。

その中には、畏敬という敬意のにも満ちた何かを感じた。

 

 

 

「どうしたのよ?」

 

「鈴さん……一夏さんは、ほんとにとんでもない方ですわ」

 

「……いきなりなに?」

 

「いえ……。わたくしの考えすぎかもしれません。ですが、鈴さんも、一夏さんと戦う時があれば、自ずと分かると思いますわ……」

 

 

 

 

ゴクリの息を飲むセシリアの表情は、なんとも迫真に思えた。

 

 

 

「一夏さんは……わたくしたちよりもはるかに上……国家代表レベルの技術を持っているかもしれませんわ……!」

 

 

 

 

 

 






次回は、明日奈・シャルペア 対 刀奈・箒ペアの試合をします。

その後、決勝戦へと行き、今回のタッグマッチ戦は終了となります。
その後は、ワールドパージなんかをやって、運動会、京都編へと行き、ファントム・バレット編へと行きたいかなぁ〜と思っております。

感想、よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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