ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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お久しぶりです!

ようやく投稿できるぜ……( ̄▽ ̄)




第83話 第二撃、開幕!

試合は着々と進んでいき、朝から始まって、今もう正午を少し過ぎたあたりだろうか。

昼食休憩を挟んで、午後からは、ほぼほぼ激戦が予想される組合わせとなった。

ダリル、フォルテのペアを破った一夏、簪ペアは、次に鈴、セシリアのペアと対戦することとなった。

また反対側のブロックでは、明日奈、シャルのペアが順調に勝ち進んでいき、先ほどの試合でラウラ、和人のペアを破った刀奈、箒のペアとの対戦が決まった。

そのカードが、また別ブロックで行われ、その他にももう四組……試合をするペアがあるため、今は実質『ベスト8』と言ったところだろうか。

 

 

 

「次の試合に勝てば、カタナ達とやれる機会はあるな」

 

「うん……でも次は……」

 

「鈴とセシリアのペアだな。あいつらとは何度もやってるし、機体の性能はだいたい把握しているが……」

 

「油断は禁物だよ……。鈴もセシリアも、多分、いっぱい特訓してたから……当然、私たちの事も対応策くらい用意してると思う」

 

 

 

近距離パワー型の鈴と、遠距離スナイパーの型のセシリア。

互いのリーチを生かした戦闘になるだろう。

これまで簪は、出力の高い銃火器を使ってきた。

《蒼覇》《双星》……どちらも高出力のビームブラスター。

超ロング銃砲の《蒼覇》と、二挺の銃砲を連結させることで、高出力の砲撃を成し得る《双星》。

これだけ射撃武器に特化したものならば、当然、鈴とセシリアならば、同じ遠距離戦を得意とするセシリアが出てくるはず。

逆に一夏は、近接戦闘に特化し過ぎているので、パワーもあって、近接戦闘向きの性格を持っている鈴が相手になるだろう。

 

 

 

 

「今のところは俺が鈴を、簪がセシリアの相手をするってことでいいか?」

 

「うん。そのために、セシリアと鈴に対抗するための装備をインストール中……」

 

「っ?! すごいな……《覇軍天星》には、まだ砲撃装備があるのか?」

 

「《覇軍天星》は、全部で四つの砲撃装備が、ある……。そして、その四つの装備には、《覇軍天星》のうちの、一つずつに名が付けられている……」

 

 

 

 

確かに、《蒼覇》と《双星》……どちらも『覇』と『星』の字が入っている。

ということは、残り二つ……『軍』と『天』の字だ。

 

 

 

 

「次の試合は、どうするんだ?」

 

「次は……『軍』の字……《破軍》を使う」

 

「今度は『軍』か…………ってことは、カタナ達に当たった時に使うのは、『天』の字か。

どういう装備なんだ?」

 

「それは……まだ、秘密」

 

「ふーん……まぁ、いずれ分かることだしな」

 

「うん……。それより、少し体を休めておかないと……次の試合だって、気を抜くわけにはいかないし……」

 

「そうだな……とりあえず、飯にしようか」

 

「うん……!」

 

 

 

 

 

一夏と簪は、ともに食堂へと向かった。

今日は、いつものランチメニューもあるのだが、この後の試合のことも考えて、『アスリート飯』という名の下、消化にいいものや、栄養価の高いものが作られている。

手軽に食べられるおにぎりやサンドウィッチなどもあるため、残りの試合が控えている生徒たちも、そうでない生徒たちもこぞってやってきた。

 

 

 

「あら、チナツ」

 

「お? カタナ達も、ここで昼食か?」

 

 

 

まぁ、こうなるとは思っていたが……。

いずれ戦うと思っていた刀奈、箒の二人もまた、昼食に入るようだ。

二人はおにぎりの他に、うどんなどの麺類や、焼き魚などで食事を摂るようだ。

 

 

 

「お、天ぷら蕎麦もあるじゃん……俺、これにしようかなぁ〜」

 

「あ、それ私も迷ったのよねぇ〜……でも、きつねうどんも捨てがたくて……ねぇ、後で一口ちょうだいよ」

 

「おお、いいぜ。じゃあまずは場所をとらないとな。ええっとぉ……」

 

「ちょっと待て!」

 

 

 

なんだろう……ものすごく自然な流れで一緒に食べることになっていた。

さすがになんか変だと思った箒が一夏と刀奈の間に入った。

 

 

 

「どうしたんだ、箒?」

「どうしたの、箒ちゃん?」

 

「どうしたの? じゃありませんよ! なんでこれから戦うかもしれない敵と仲良く食事になるんですっ?!

一夏! お前もだぞ! 簪も呆れてるじゃないかっ!」

「いや、別に私は……」

 

「簪、こういう時は、はっきりと言っておかないと、いろいろと変なことばかり巻き込まれるぞ?」

 

「「失礼な……。そんなことしないって」」

 

 

 

全く、自覚のない恋人同士で困る。

なんの不思議も感じずに、二人は同じテーブルに座ってしまった。

しかもちゃっかり、簪は一夏の隣へと座っているし……。

必然的に箒は、刀奈の横に座るしか無くなるため、更識姉妹に一夏の両隣を奪われた形になる。

しかもそんな事を気にもせずに、笑顔で食事をしている一夏を見ると、何だか腹が立ってきたが、今はそんな事で気を緩めるわけにはいかない。

 

 

「ほら、いいよ、一口……」

 

「やったー♪」

 

 

そう……緩めるわけには……

 

 

「一夏、私も、もらっていい?」

 

「どうぞ」

 

「うん……美味しい……! なら、私のかき揚げもあげる」

 

「ははっ、ありがとう」

 

 

 

緩める……わけには……!

 

 

 

「ほら、箒ちゃんも。お揚げのお裾分けぇ〜♪」

 

「だから! なんで戦うべき敵とこんな団欒としてるんですかっ!?」

 

 

やっぱりおかしい。

しかも、なんでそんなキョトンとした顔で三人はこちらを見るのか……。

 

 

「箒……。別に食事くらいなら、一緒に食べたっていいだろう? 敵とは言っても、学園の仲間なんだから」

 

「いや……それはそうだが……。なんか、あるだろう!」

 

「もう〜、そんなカリカリしないの! あ、その塩鮭いただき♪」

 

「あああっ!? それは唯一のおかずなんですけど!」

 

「だからお揚げをあげるって♪」

 

「お揚げをおかずに食べる定食なんてないでしょうっ!?」

 

 

 

またいつものペースに飲み込まれる。

なんだか、こんなに気を張っている自分が、バカバカしく思えてくる。

箒はため息をつき、刀奈によって全体の三分の一を取られた塩鮭を突いた。

 

 

 

「それにしても箒……あんな剣技、篠ノ之流にあったんだな」

 

「ん……《剣舞》の事か? まぁ、そうだな……あれは、篠ノ之流を継ぐ者にしか教えてない流派だからな。

お前が知らなくても無理はないだろう……」

 

「いやでもさ、俺も一応は篠ノ之流の門弟だったわけじゃん? それなにのさぁ〜……」

 

「仕方がないだろう。私だって、正式にその流派の継承を認められたわけではないんだ……だからあれも、まだ完全とは言い切れない」

 

「箒が継承するんじゃないのか?」

 

「いずれはそうなっていくかもしれんが、正式には、な……」

 

「じゃあ、どうやってあの剣技を身につけたんだ?」

 

「もともとは、篠ノ之流剣術としての技を、絶え間なく、際限なく繰り出すために編み出されたものだからな。

だから基本的には、篠ノ之流剣術の技が多い。その型自体を取り除き、舞踏としての動きに昇華させたのが、《篠ノ之流剣舞》というわけだ」

 

「なるほどなぁ〜……。もしかしたら、俺もそれを習ってたかもしれないなぁ……」

 

「そうかもな。あれを教えてくれたのは、他でもない……父だからな」

 

「師範が?」

 

 

 

箒が頷くと、昔の事を少し語ってくれた。

まだ小学生の頃、箒は毎日のように鍛練に励んでいた。

他の小学生たちは、帰ってくるや否や、遊びに行っていただろうに、箒はまっすぐ家に帰ると、いつもの道着に着替えて竹刀を振っていた。

一夏とは、その頃の付き合いだったが、当時はあまり仲が良くなかった。

ただ、自分と同じくらいの男子生徒が、家の門下に入った。

悔しいが、実力だけはある……。その程度だっただろう。

 

 

「一夏が私の家から帰って行った後に、私は居残りで鍛練を続けていたんだ……。

そしたら、誰もいない竹林の中で、父が木刀を振っているのを見てしまってな……」

 

「それが《剣舞》だったのか?」

 

「ああ……。正直、私は見惚れてしまったんだ……篠ノ之流剣術には、あんな剣技もあったのかと……ずっと見つめていて、気がついたら、もう陽が落ちていたことだってあったしな……」

 

 

 

あはは、と笑う箒は、とてもいい笑顔で笑っているように思えた。

それはまるで、昔の箒と同じようで……。

 

 

 

「あまりに熱心に見てしまってたからなのか、父にも気づかれてしまってな。

その後に、少しだけ動きや技を押してもらったんだ」

 

「でも、正統な後継じゃないってのは?」

 

「《剣舞》を継承するにあたって、道場内の門下同士で決闘をするんだ。その中で優勝し、師範である父が認めた者に《剣舞》を継承する資格が得られる。

無論、継承するか否かは、本人次第だが、かつての門下たちは、誰一人として継承を断らなかったらしい」

 

 

篠ノ之流の歴史は意外にも深い。

そもそも、剣術道場として存在しているあたり、相当歴史があると思ってもいいだろう。

しかもそれが、武士のいた時代からあったのであれば、なおさらのことだ……。

 

 

 

「しかもそれだけじゃないだろう……。いきなりあんな新装備ができるとか、チート過ぎるだろ」

 

「チートではない。アレは私の機体、《紅椿》本来の仕様だ」

 

「だからって、あんな威力の高い射撃武器が、そうそうできてもなぁ……」

 

「それを言うなら、世代間を超えてまで進化したお前の機体の方がチートではないか…!」

 

「ううっ……それを言われると……」

 

 

 

 

《無段階移行システム》

それが《紅椿》に搭載されたシステムであり、第四世代の特徴である。

一定の戦闘経験を積んで初めて起こる現象。

それは、他のISと変わらないのだが、問題は、そのシステムそのものの違い。

まず、《展開装甲》と呼ばれる特殊装備を持たない第三世代以前のISでは、その特殊武装の改良、あるいは、専用パッケージを装備しない限り、多種多様な戦闘は不可能だ。

しかも、それをするにあたっては、かなりの時間を要する。

しかし、この第四世代のISに至っては、その装甲が変形することで、様々な武器をジェネレートしているのと同じだ。

それによるタイムロスもないため、現行の機体の中ではチートと呼ばれてもおかしくはない。

 

 

 

「第一に、お前の機体だって第四世代なのだから、私の《紅椿》同様に、一定の戦闘経験を積んでしまえば、フェイズシフトしてもおかしくはないだろう………」

 

「っ……確かに、言われてみればそうだな……。っていうか、最初に《白式》が『二次移行』を起こした時だって、武装や特殊能力も、《紅椿》に似たようなもんだったしな……」

 

 

 

エネルギー刃の斬撃を飛ばすのも、展開装甲も、その機動力もまた《紅椿》と《白式》は同等だった。

唯一の違いは、展開装甲が《紅椿》の場合は全身に、《白式》の場合は翼だけについているということだろうか。

 

 

 

「まぁ、チナツも戦闘能力や機体性能は、箒ちゃんの《紅椿》に劣ってないんだから、いいんじゃない?」

 

「まぁな……。しかしカタナ、お前のあの装備も、中々にえぐかったぞ……」

 

「ああ、《ランサービット》のこと?」

 

「あんなに巧みに使っていては、同じビット兵器を持つセシリアは、憤慨していたでしょうね」

 

「あ、はは……」

 

 

箒に言葉に、簪が苦笑いを浮かべた。

実際に、次の対戦表を確認するために、観客席から少し離れた控え室に入った時、そこには鈴とセシリアの二人もいた。

一夏と簪が軽く挨拶をして、鈴はいつもと同じように手を振り返してくれたのだが、セシリアに至っては、刀奈と箒の試合を凝視し、両手の握り拳を、これでもかという力で握っていた。

 

 

 

「それは、そうだよ……。イギリスの開発理念そのものが、ビット兵器の実用化と多様化なんだもん。

なのに、それを他国の代表を務めてるお姉ちゃんに、ああも簡単に使い込まれるところを見せられたら……」

 

「憤慨したくもなるか……」

 

 

 

簪と箒……妹たちにジト目で見られる姉・刀奈。

しかし、そんなこと気にしていないかのように、刀奈はうどんのダシ汁を飲む。

 

 

「そんな事言ったって、私の特殊武装は、セシリアちゃんの使ってる特殊武装と大体同じなんだもん。

なら、使わない手はないと思うけど?」

 

「でも、それをいきなり試合で出して、なおかつそれを完全に制御していた所を見せられて、セシリアが大人しくしているわけないと思うがな……」

 

 

 

箒の言った通り、一夏と簪が入ってきた瞬間、セシリアは怒っていた。

元々英国貴族の生まれであるため、多少はプライドが高い彼女のことだろうから、いくら相手が学園最強の刀奈であろうと、許せなかったことだろう。

 

 

 

「まぁ、そう言った文句や苦情は、試合で当たった時にでも聞くわ。

まぁもっとも? チナツ達が代わりに聞いてくれるんだったら、それはそれで楽だからいいんだけど?」

 

「セシリア……怒ると意外に怖いんだぞ?」

 

「うふふっ♪」

 

 

本当に楽しそうに笑う恋人に、一夏はため息をついた。

 

 

「まぁ、あなた達なら、大丈夫でしょう」

 

「私と楯無さんも、次の明日奈さんとシャルロットに勝つつもりでいる……。

一夏、必ず決勝で戦おう……!」

 

「私もよ、簪ちゃん」

 

「ああ、望むところだよ、箒」

 

「うん……!私も、必ずお姉ちゃんと戦う……!」

 

「よし! じゃあお互い、ベストを尽くして、決勝戦で会いましょう!」

 

「「「おうっ!!!」」」

 

 

 

 

 

食事を終えて、四人はそれぞれの試合会場へと戻って行った。

来るべき対決まで、それぞれ後二試合勝たなくてならない……。

 

 

 

 

 

 

 

『送っておいたパッケージ装備に目は通しましたか?』

 

「はい……今インストールし終わりました」

 

『では、試合後に、強化パッケージの戦闘データを送ってください』

 

「了解しました、楊管理官」

 

『では、良い報告をお待ちしております』

 

 

 

カタパルトデッキにて、次の試合を今か今かと待っていた鈴。

無線通信で、本国の代表候補生管理官とのやり取りが終わり、その通信を切った。

 

 

 

「強化用パッケージかぁ〜……って言うか、これってうちの開発理念に反してんじゃないの?」

 

 

 

自身のISの待機状態であるブレスレットから表示される新型パッケージの詳細データを見ながら、鈴は毒づいた。

中国の開発理念としては、機体のパワーと燃費の安定性を考慮した機体設計。

しかし、今見ている資料によると、燃費なんてモノは欠片も考えていないのでは? と疑いたくなるようなデータだった。

 

 

 

(そもそも予備バッテリーを積んでる時点で、燃費もくそもないじゃない……! それにこれ! 簪の機体と被ってるし!?)

 

 

 

詳細なデータと実際の画像を見ながら、鈴はさらに毒づいた。

まぁ、簪の機体の場合だと、そもそもが砲撃戦仕様に開発されたパッケージであるため、そもそも戦い方からそれにかかるエネルギーの効率性も違ってくる。

 

 

 

「さて、この強化用パッケージ《四神(スーシン)》を、一体どこまで使いこなせるかが、今回の課題ねぇ……」

 

 

 

ガリガリと頭を掻きながら、ため息をつく鈴。

そして、そのまま後ろを振り向いて、今もなお自身の機体とにらめっこしている相方の方へと向かう。

 

 

 

「いつまで不貞腐れてんのよ……」

 

「誰も不貞腐れなどいませんわ!」

 

「じゃあ何だって言うのよ……。そんなに楯無さんの事が気になんの?」

 

「当たり前です! だいたい、あのビット兵器は何なんですの!? あれは我がイギリスの専売特許なのですよ?!

しかも、あれをわたくしよりも……っ!」

 

「使い熟してたわね……」

 

「キィィィィィ〜〜〜〜ッッ!!!!」

 

「はぁ……」

 

 

 

 

同じビット兵器を、自分より上手く使える者が、二人もいるなんて……。

セシリアにとっては、学園祭以来の屈辱だっただろう。

 

 

 

(あの《サイレント・ゼフィルス》のパイロットの事も気になりますが、今は目の前の敵ですわ……っ!)

 

 

 

バッ、と前を向きたセシリアは、右手をピストルの形にすると、その人差し指を自身の愛機《ブルー・ティアーズ》へと向けた。

 

 

「行きますわよ、ブルー・ティアーズ! 必ずや、わたくし達の方が上だと、楯無会長に思い知らせてやるのです!!!!」

 

「どうでもいいけど、まずは一夏達の相手だからね? そこんところ忘れないでよう〜?」

 

「ええ、わかっていますとも。ですから、今回はわたくしが一夏さんの相手をするのですからね」

 

「いやいや……今回ばかりは、甲龍のウエイトがやばいから、あんたには機動力で勝る一夏を抑えてもらいたいだけなんだけど……」

 

 

 

少しばかり気が立っている相方の方は放っておいて……。

鈴は改めて機体を展開した。

今回ばかりは、鈴自身も持て余すかもしれないと感じたパッケージ。

全身の装甲に、黒みがかかった鎧。

衝撃砲を除外し、背部に増設した可変式大型翼の朱色のスラスター。

その右側には、対艦刀という物騒な名が付けられた青みがかった大刀。

左には純白の砲身を持つブラスターが装備されていた。

黒・朱・青・白……それぞれが成す意味……。

東の『青龍』西の『白虎』南の『朱雀』北の『玄武』。

中国ではこの四体が、方角それぞれに鎮座する四聖獣と呼ばれている。

また、その文化などは、日本にも及んでいる。

 

 

 

「データを見たときから思っていましたが、それでまともに動けるんですの?」

 

「ん〜? まぁ、一応大型スラスターがついてるから、ロングジャンプとかできるみたいだけど、その分のエネルギー問題が発生してくるのよねぇ〜」

 

「バッテリーがついているとか、おっしゃってませんでした?」

 

「あぁ……。両肩と両膝の装甲板の裏側と、腰のところの装甲板についてる。だから、全力戦闘の度合いで、活動限界が変わるわね」

 

「だいたいどれくらいですの?」

 

「うーんっと、約10〜30分の間だったかな?」

 

「………随分とアバウトなのですね……」

 

「仕方ないじゃない……これ、まだ試作段階の装備なのよ? だから代表候補生のあたしがその実戦データを取って来いって言われてるんだし……。

それにあんただって、本国に無理言って追加装備作らせたらしいじゃない」

 

「ええ……。これは勝つための手段ですので、本国も了承していることですわ」

 

「今のところ、一夏との対戦で一番負けてるのあんただしねぇ……」

 

「鈴さん? 今なんとおっしゃいましたか?」

 

「なーんでーもなーい……」

 

 

 

カタパルトデッキに取り付けられている電光表示のデジタル時計を見ながら、二人は改まって頷き合った。

 

 

 

「あと10分後には、あいつらとの試合よ……準備はいいわね?」

 

「無論ですわ。今日こそは一夏さんに敗北という結果を突きつけてあげますわ……っ!」

 

「期待してるわよ。あたしも、今回は簪が相手だし? 少しくらい全力でぶっ放してもいいわよね?」

 

「怪我しない程度なら、いいんじゃありませんの?」

 

「怪我で済めばいいけどねぇ〜♪」

 

「滅多なことを言うものではありませんわよ、鈴さん」

 

 

 

セシリアも機体に乗り、システムを起動させる。

新たに追加で装備した武器が、一体どのような結果を生むのか……。

 

 

 

「じゃあ、いくわよ……!」

 

「ええ、いつでも来い……ですわ!」

 

 

 

二人はリニアカタパルトの方へと足を進めた。

その先で待っているであろう者たちとの決戦を行うために…………。

 

 

 

 

 

 

 

定刻となり、アリーナにはすでに、大勢の生徒たちで埋め尽くされていた。

その他、自分のクラスの生徒たちを応援する担任教師や、その他の学科講師。

ここにいる教師陣は、そのほとんどがISに関わりのある人たちばかりだ。故に、生徒たちの模擬戦とはいえ、中々に高いレベルで戦う上級レベルの操縦者たちの事が気になるようだ。

すでに使われている会場は二つ。

第一アリーナと第二アリーナの二つだけとなった。

その後、決勝戦は、いま一夏もいる第一アリーナの方で行われる予定だ。

そんな大観衆が見守る中、この大会で注目を集めているペアが先にアリーナへ登場した。

 

 

 

「いくぞ、白式っ!」

 

「頑張ろうね、打鉄弐式っ!」

 

 

 

先に飛び出してきたのは、世界で希少な男性操縦者にして、最新鋭の第四世代を駆る一夏だった。

その後ろから、再び装備を換装してきた簪が現れた。

 

 

 

「簪、いけるか?」

 

「システム起動……パワーフロー良好、火器管制システム……オールグリーン……いけるよ……っ!」

 

 

 

 

巨大な二門の特殊火砲。

それを支える巨大なスラスター。

《打鉄弐式》の配色と同じ、鉄色の新装備……《覇軍天星》の三つ目の装備。

 

 

 

「高エネルギー長射程砲《破軍》! 起動……!!!!」

 

 

 

図太い砲身を持った二門の銃砲。

見るからに高威力の砲撃を放てるような見た目をしている。

この為に《山嵐》を取り除いて、専用のスラスターまで装備したのだ。

対して、一夏たちとは反対側のカタパルトからも、二機のISが出てくる。

やたらと重装備をした《甲龍》を纏う鈴と、特に変わった様子のない《ブルー・ティアーズ》を纏うセシリア。

両機ともに、アリーナ中央へとやってきた。

その姿を見て、周りの生徒たちのボルテージも上がっており、大きな歓声が聞こえてくる。

 

 

 

「よう……くるとは思ってたけど、まさかこんなところで当たるとはな」

 

「そう? あたしはもっと早くに当たる可能生を考えてたんだけど。まぁ、いいわ。こいつのテストには、あんたらが一番相手にとって不足ないし」

 

「そういえば、すごく気になってたんだが…………そんなに武装積んで大丈夫なのか?」

 

「…………すごく重い」

 

「だろうな」

 

 

 

まず何と言っても目を引くのが、背部のスラスターだ。

以前、何かの資料で見たことがあったが、《ラファール・リヴァイヴ》の高機動パッケージの中に、ロケット燃料を用いたブースターがあったが、鈴が付けているのはそれに類似した何かなのだろうかと思ってしまう。

さらには、そのスラスターの両側に、大刀と大砲を装備してると来た。

防御力を上げるための鎧も、中々に重そうな印象持っている。

いくら大型のスラスターがあるとは言え、いくらなんでも積みすぎではないだろうか……。

 

 

 

「まぁ、今回はあたしの実験に付き合ってよね」

 

「試合だぞ? 一応……」

 

「まぁ、今回はセシリアが頑張ってくれるし? あたしもそこそこ頑張るから、そこんところヨロシクね〜」

 

「適当だなぁ〜……」

 

 

 

まぁ、鈴は大抵こんなもんだったような気がする……。

しかし、今回はやたらと装備を整えてくる者たちが多いように感じられた。

簪や刀奈の姉妹はもちろんの事、まだ未確認ではあるのだが、シャルも何やら仕入れたという話も上がってきている。

そして目の前の鈴と、セシリアもまた然り。

セシリア自身は何も言ってないが、鈴がこの調子では、セシリア自身も何らかの対応策を練っているに違いないだろう。

 

 

 

「それじゃあ、時間も時間だし……とっとと始めるか……!」

 

「うん……絶対に、勝つ……っ!」

 

「残念〜。勝つのは……」

 

「わたくし達ですわっ!」

 

 

 

 

両者方、距離をおいて、戦闘準備に入った。

一夏が刀を抜き、セシリアが銃を構え、鈴が抜剣し、簪が戦闘態勢をとる。

 

 

 

「それじゃあ……」

 

「互いに全力で……」

 

「いざ、尋常にーーーー」

 

「ーーーー勝負っ!!!!!」

 

 

 

試合開始を告げるアラームがなった。

一気に飛び出したのは、一夏だった。

その行く手には、同じように動き出していた鈴の姿があった。

自分の相手は鈴がする……そう思っていた一夏は、なんの迷いもなく鈴に向かって飛翔して行った。

だが、当の鈴は、一切こちらを向いていなかった。

不思議に思っていたのもつかの間、一夏の視線から見て左から、青いレーザーが横切った。

 

 

 

「あら、一夏さん……。わたくしを無下にするなんて、ちょっとひどいのではなくて?」

 

「っ……?! これは意外だな……てっきり、俺は鈴の相手をするのかと思ってけど……」

 

 

 

当然、そのレーザーを放ったのは、鈴の相方であるセシリアだった。

しかし、だからこそ解せない。

今まで、セシリアとは何度か戦った経験があるため、ある程度の彼女の弱点は知っている。

むしろ、機体の装備が、それを物語っているからだ……。

彼女の機体《ブルー・ティアーズ》は、遠距離射撃型の機体だ。

その有効射程距離は、2,000メートルと言われているが、それはあくまで、遠方への狙撃がメインだからである。

なので、言ってしまえば、近接戦闘による攻撃には弱い。

一応、小型のナイフ型ブレードと、遠隔操作型ビットの他にもミサイルビットがあるため、完全な丸腰とは言い切れないが、それでも、機動性と接近戦に秀でた一夏の相手は、少々分が悪いのではないかと思った。

 

 

 

 

「ご心配なく、わたくしとて訓練はしてきたんですのよ? 今日こそは勝たせていただきますわ……一夏さん!」

 

 

 

距離をおいて、大型のスナイパーライフルを振り上げ、照準を合わせるセシリア。

スコープ内に一夏の姿を捉えた瞬間、なんの迷いもなく引き金を引く。

大口径のライフルの銃口から、再び青いレーザーが射出され、凄まじい速さで飛んでくる。

一夏それを躱すも、二射目、三射目と的確に狙撃してくる。

 

 

 

「さすがはセシリアだな……ならばっ!」

 

 

以前戦った時と同様、縦横無尽に飛翔して、徹底的に狙撃の射線に入り込まないようする。

セシリアも何度か撃ってはきているものの、やはり外れてしまう。

 

 

 

「くっ、そう何度も!」

 

「躱してやるさ! 何度でも!」

 

 

今度はあえて突っ込んでくる一夏に対して、セシリアは迷わず引き金を引いた。

高速で放たれたレーザーは真っ直ぐ飛んでいくが、一夏はそれ身体を捻るだけで躱して、そのままセシリアの懐に入っていく。

 

 

「くっ!」

 

「遅いぜ!」

 

 

一旦距離を取り、再びライフルを向けたセシリアに対して、一夏は蹴りを入れる。

ライフルを蹴られ、態勢を崩したセシリア。

 

 

 

「レディに蹴りを入れるなんて……っ!」

 

「悪いな! でもこれは、真剣勝負だからなっ……!」

 

「っ!? インターセプター!!!!」

 

 

 

振り下ろされた一夏からの一撃を、普段はあまり使わない短剣型ブレードで受け止める。

 

 

 

「へぇー、いい反応じゃないか……!」

 

「お褒めにあずかり、光栄ですわっ!」

 

「っ!?」

 

 

 

一夏はセシリアの行動に、一瞬だけ驚愕を覚えた。

なぜか?

それは、彼女が、メインアームであるスナイパーライフルを放り投げてしまったからだ。確かに、この間合いではスナイパーライフルは意味をなさない。

逆に邪魔になってしまうだろう。

だが、だからと言って、こうもあっさり捨ててくると、別に何かがあると思ってしまう。

 

 

 

「ちっ!?」

 

「逃がしません!」

 

 

 

セシリアの右手に、新たな銃が握られていた。

しかしそれは、スナイパーライフルではなかった。

大きさからして、スナイパーライフルの半分の長さにも満たない小型の銃。

小銃型のレーザー銃が、その小さい銃口から光を放った。

一夏は距離を取るのと同時に、左手からライトエフェクトを生成して、そのレーザーを防いだ。

 

 

「っ!? この距離で防いだんですの?!」

 

「あっぶねぇ〜!」

 

 

完全に距離をおいた一夏。

セシリアは悔しい表情を見せながら、左手に握っていた《インターセプター》を格納し、右手と同じ小銃を取り出した。

 

 

 

「この手合いの銃は、あまり得意ではないのですが……致し方ありませんわね」

 

 

苦手だと言っておきながらも、その表情を見るに、確実に一夏を倒しに来ている。

 

 

「さぁ、所々手荒いダンスになりますが、ちゃんと付き合っていただきますわよ、一夏さん……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





これから一夏たちとセシリアの対決を行った後、刀奈たちと明日奈たちの試合をして、決勝戦ですね\(^o^)/


感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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