ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく更新できたぜ。

最近仕事も忙しく、ネタもパッとは思いつかずで長引いてしまいました。




第82話 刀槍剣戟

ラウラの身を斬り刻まんとする斬撃。

とっさにAICを発動させようとするも、コンマ何秒か遅れてしまい、数撃食らってしまった。

篠ノ之流剣舞《流水・龍刃の舞》。

それが箒の放った剣技……いや、剣舞の技だ。

流れるように放たれた剣戟は、まるで昇り龍のように高く舞い上がり、そして、龍の牙によって噛み砕かんとするかのように、二刀が挟むように左右から迫ってくる。

今更AICは間に合わない……ならば……

 

 

 

「なんのッ!!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

突如、箒の視界からラウラが消えた。

いや、正確には消えているわけではないが、急速な方向転換によって、箒の視界から外れたのだ。

よく見ると、ワイヤーブレードを地面に突き刺しおり、おそらくはそれを巻き戻す事によって、無理矢理方向転換を行ったのだろう。

 

 

 

「ちっ……! 仕留め損ねたか……!」

 

「ふんっ……私を舐めてもらっては困るな。あの程度、師匠の斬撃に比べれば、他愛ないものだ」

 

「くっ……やはり、まだ私は未熟ということか……」

 

 

 

現に、ラウラは未だに左眼の眼帯を外してはいない。

ラウラの左眼には、《ヴォーダン・オージェ》という特殊な眼がある。

それはいわば、ISの高感度ハイパーセンサーと同等の能力を持つ眼だ。

しかしその能力ゆえに、長時間の使用ができないため、普段は眼帯で覆っている。

だが、ラウラは一度、一夏に対してこの眼の封印を解いた。

一夏の剣速にも対応し、応戦したほどの能力。

最終的には、《九頭龍閃》という破格の技の前に敗れはしたが、それでも、今の箒には、中々に手強い能力。

それを、ラウラはまだ解放していない……となれば……

 

 

 

「ではその眼、解放せざるをえない状況に持ち込むまでっ!」

 

「やれるものならなっ!」

 

 

 

再び接近する二人。

二刀を振るう箒と、今度はワイヤーブレードやリボルバーキャノンを作動させるラウラ。

 

 

「篠ノ之流剣舞《朧蓮華の舞》ッ!」

 

 

左の《空裂》を逆手に持つと、そのままラウラに対して斬りかかる。

それを容易に躱すラウラだが、その次には《雨月》の刃が迫ってきている。

それに多少は驚いたが、プラズマ手刀を滑らせて、自身の体も回転させる事で難を逃れた。

すぐさまリボルバーキャノンの照準を箒に合わせ、なんの迷いもなく撃ち放つ。

ドンッ! という低く鈍い音が響き、砲弾は一直線に箒の元へと飛んで行った。

しかし、箒にその砲弾が当たることはなく、寸でのところで箒が躱した。

 

 

 

「チッ!」

 

「篠ノ之流剣舞《百花繚乱》ッ!!!!!」

 

 

 

砲弾を躱した箒は《瞬時加速》を使って、一気にラウラへと肉薄する。

そして、両手の二刀から放たれる十連撃技を叩き込む。

しかし……

 

 

 

「舐めるなぁぁぁッ!」

 

「うっ!?」

 

 

 

突き出されたラウラの右手。

そこから発せられる見えない壁のような物。

慣性停止結界……アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。通称AIC。

空間を揺らぐ波動のような物によって、体の動きすらも完全にせき止められる。

いかに第四世代の紅椿を持ってしても、この停止結界から逃れるのは至難を極めるだろう。

 

 

 

「ふっ……チェックメイトだ……っ!」

 

「くっ、そお……!」

 

「これで!」

 

 

 

動けなくなった箒へと、リボルバーキャノンの砲口が向けられた。

ニヤリと笑うラウラの表情。

しかし、そんなラウラのところへと、ガトリングガンの弾雨が降り注ぐ。

 

 

 

「チィッ!? 更識 楯無……っ!」

 

「ご名〜答ぉ〜!」

 

 

 

とっさに回避行動をとった為、箒を捕縛していたAICを解除してしまったラウラ。

奥歯を噛み締め、銃弾を撃ってきた刀奈を睨む。

その手には、《ミステリアス・レイディ》の本来の武装、ランス型の槍《蒼流旋》が握られていた。

四門のガトリングガンを搭載した、高周波振動の水を螺旋状に纏っている姿は、霧纏という名にふさわしい装いだ。

 

 

 

「くそ、和人は防ぎきれなかったか……!」

 

「悪いラウラ……抜けられちまった」

 

「いや、それは構わない。しかし、箒を仕留めるチャンスを逃してしまった……」

 

 

 

ラウラと隣に降り立った和人。

刀奈を抜かせてしまったが為に、ラウラの交戦の邪魔に入られてしまった。

ラウラからは気にするなと言われても、やはり少し悔しいのか、双剣を握る両手に力が込められる。

 

 

 

「危なかったわね、箒ちゃん」

 

「はい、すみません……助かりました」

 

「いいのいいの。それより、どう? 剣舞はなんとか使えそう?」

「そうですね……まだ、少しずれがあるように感じます。もともと鍛練をしていたとはいえ、いきなりISでの空中戦闘だったので……」

 

「でもまぁ、ラウラちゃんの方も、まだあなたの剣舞の動きに対応は仕切れてないと思うのよね……だから、あの瞬間にAICを使ったわけだし……」

 

「はい……まだいけます。ラウラの相手は、私にやらせてください……っ!」

 

「……オッケー。頼んだわよ……!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

再び、刀奈が和人に……箒がラウラに迫る。

 

 

 

「そう何度もっ!」

 

「押し通るっ!」

 

 

 

ワイヤーブレード、リボルバーキャノンで応戦するラウラ。

だが、箒の操作技術は、ラウラが思っているよりもはるかに高かった。

弾道予測からの進路変更、ワイヤーブレードの対処、砲弾の対応。

砲撃が来るならば、《空裂》の斬撃波を放って撃墜し、ワイヤーブレードは最小限の動きで躱していく。

 

 

 

「なにっ?!」

 

「ここからは、私の距離だっ!」

 

「チィッ!」

 

 

一気に肉薄する箒。

ラウラもとっさにプラズマ手刀を展開し、放たれた斬撃を受ける。

刃と刃がぶつかった瞬間、閃光が激しくスパークする。

その一方、もう一組のバトルも、激戦の模様だった。

 

 

 

「せぇええやあっ!!!!」

 

「はあぁぁああっ!!!!!」

 

 

 

紅い二槍が唸る。

的確に刺し穿つように出された刺突を、和人は双剣もってして弾き返す。

だが、弾いても弾いても槍の矛先は和人の急所を狙ってくる。

単純はスピードでは、和人の方に分があるが、こと間合いの制圧に至っては、刀奈の方が一枚上手だ。

 

 

 

(よくもまぁ、あんな長い槍を両手で器用に扱うなぁ……)

 

 

 

まるで自分の手足のように槍を振るう刀奈。

槍と一体化しているような……人馬一体……いや、この場合だと、人槍一体と言えばいいのだろうか。

 

 

 

(間合いを詰めて、槍じゃ届かないところへーーーーッ!)

 

 

 

古来より、槍の長さは恐怖を感じさせないと言われている。

いかに戦闘経験がない素人でも、相手が剣を持った武者であろうと容易く倒せるそうだ……。

だが、ゆえに弱点がある。

槍の真骨頂はその間合いの長さ。

剣では届かないリーチで、相手よりも早く攻撃を当てることが出来るのだが、逆にその間合いに入り込んでしまえば、無防備な状態に出来る。

それこそが、和人にとっての勝機……。

しかし……

 

 

 

「って! 付け入るスキ全然無ぇじゃん!!!!」

 

 

和人の攻撃に合わせて、刀奈の槍の矛先が刃を弾く。

まるで剣の軌道に合わせて滑っているかのように、剣撃そのものを流される。

そして、逆にこちらには刺突が迫る。

それを躱して、どう攻めようかと悩んでいると、刀奈は右手の《龍牙》を長めに持つ。

 

 

 

「ふんっ!」

 

「うおっ!?」

 

 

 

地面を抉りながら、横薙ぎに一閃する。

足元を掠め取るように放たれた斬撃を、和人と咄嗟に飛んで躱し、体を捻りながら、着地する。

 

 

 

「どうしたの? 攻めが甘いんじゃない?」

 

「じゃあもうちょっと手加減してくれないか?」

 

「それはダメ♪」

 

「ですよねぇ〜……」

 

 

 

見るからに楽しそうに槍を振るっている。

完全にドSモードへ変身している証拠だ……攻め手を緩めれば、二槍の攻撃を許すし、攻めればより二槍の攻撃を食らう。

付かず離れずの状態で戦う様は、シャルが得意としている《ミラージュ・デ・デザート》のようだ。

 

 

 

(なら、この状況ごとブレイクできればーーーーッ!)

 

 

 

和人は双剣を手放した。

その行為に、刀奈は一瞬驚いたが、攻撃の手を止めることはなかった。

突き出された《龍牙》による刺突。

だが、その《龍牙》が思いっきり弾かれた。

 

 

 

「うっ!?」

 

「せぇええやあ!!!!」

 

「おっと!」

 

 

 

双剣の代わりに、大剣《ブラックプレート》を取り出し、それを今までと同様に、片手剣の様に振り回す。

しかし、その重量は増しており、一撃一撃が先ほどの攻撃よりも重い。

刀奈も二槍を巧みに操り、なんとか致命傷は避けているものの、力押しでくる攻撃に、ただ防戦一方になるだけだった。

 

 

 

「そこっ!」

 

「くっ!」

 

 

横薙ぎに振るう一閃。

刀奈は咄嗟に上へと翔び、斬撃を躱す。

 

 

 

「くっ……! はああぁぁッ!」

 

「せやあっ!」

 

 

 

体を捻りながら、落下していく勢いと共に放たれたソードスキル。

二槍流スキル《メテオストライク》。

長槍二本を、上段から思いっきり敵に叩きつけるという単純な攻撃だが、それゆえに威力は高い。

その対応技として、和人は《ブラックプレート》を肩に担ぐ様な姿勢をとり、ソードスキルを発動させる。

上段からの袈裟斬り気味に入る斬撃、片手剣スキル《ソニックリープ》だ。

落下しながら放つ二槍と、翔ぶように上昇しながら放つ剣撃。

二つの刃が合わさった瞬間、ライトエフェクトに込められていたエネルギーがぶつかり合い、激しい衝撃と閃光を起こした。

 

 

 

「ちっ、やるわね……!」

 

「そっちこそ、さっ!」

 

 

 

再び接近し、槍を突きつける刀奈。

だが、和人はそれに反応し、《ブラックプレート》を盾のように突き出すと、刀奈の攻撃を受け流して、体を回転させながらカウンターの一撃を放つ。

刀奈も咄嗟に反応するも、《ブラックプレート》による一撃の重さによって、数メートル後方へと飛ばされてしまう。

 

 

 

「くうっ!?」

 

「このままケリをつける!」

 

 

 

弾かれたまま、態勢を崩している刀奈に対して、和人はもう一度重い一撃を放とうと接近する。

しかし、和人は見た………。

向かってくる和人を見ながら、細く微笑んだ刀奈の顔を……。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

何か悪い予感がする……そう思った時だった。

和人の周りを、高速で何か通り過ぎていった。

 

 

 

「なんだ……っ!? うおっ!?」

 

 

突然背後から斬撃を食らってしまい、和人はよろめきながらも、すぐに態勢を整えた。

いきなりの衝撃に何事かと思って、背後に視線を向けると、そこには、たった一本の槍があった。

 

 

 

「なっ……槍が……浮いてる……っ?!」

 

 

 

そう……そこにあったのは、ただ一本の槍。

しかし、それがなんの力もなく、ただ浮いているのだ。

それに驚いていると、目の前の槍が、高速で和人に向かって飛んできた。

和人はそれに反応して躱して見せたが、その驚愕はまだ続いている。

 

 

 

「なんだよ、それは……!」

 

「ふふっ、どう? びっくりした?」

 

 

 

改めて刀奈の方に視線を向ける。

するとそこには、先ほどの和人を襲ってきた槍と、同じものが他にも五本ほど見受けられた。

そこに襲ってきた槍が戻っていき、戦列に加わる。

まるで、刀奈を守っているかのように、六本の槍が、矛先。下に向けた状態で浮遊している。

両手に握る紅い長槍二本……《龍牙》と《煌焔》……それに加え、周りを囲んでいる黒と蒼の長槍《蜻蛉切》が六本。

合計八本の長槍たちが、和人の視界に入っていた。

 

 

 

「私の機体も、セシリアちゃん達とも同じ第三世代……。その特徴は、イメージインターフェイズによって操作する特殊武装。

私の《ミステリアス・レイディ》の特殊武装は、《アクア・クリスタル》なんだけどぉ……それって、セシリアちゃんの《ビット》とほとんど同じ技術なのよねー」

 

「いぃっ?!」

 

 

 

刀奈の説明口調に、和人は嫌気がさした。

つまりセシリアの機体同様に、ビット兵器として、長槍を拵えたようだ。

 

 

 

「《ランサービット》……そのシステムを構築した新武装《クイーン・ザ・スカイ》!」

 

 

六本の長槍が、一気に和人へと向かって飛んでくる。

さすがに防ぎきれないと思った和人は、一旦後ろへと下り、左右に蛇行しながら、槍からの攻撃を躱していく。

 

 

 

(『スカイ』……? なんだ、『スカイ』って……?)

 

 

 

スカイ……普通に考えれば、『空』と呼べるだろう。

だが、なぜ『空』……?

 

 

 

「スカイは『空』じゃない……『影』って意味よ」

 

「っ!? 『影』?」

 

 

 

まるで、和人の心を見透かしたようにいう刀奈。

 

 

 

「スカイとは……『影の国』、『ダン・スカー』のことよ。

ケルトの神話における、『魔境』とも呼べる異界……別名『スカイの国』。

その異界の女王として君臨した女傑の名は……《スカサハ》」

 

「スカサハ……?」

 

「不老不死の影の女王……。魔槍《ゲイボルグ》の持ち主であり、原初のルーン魔術を持ってして、最強の存在たらしめた女傑よ。

その弟子には、アイルランドの光の御子《クー・フーリン》がいたわね」

 

「っ!?」

 

 

 

 

さすがに和人も、《クー・フーリン》という名に心当たりはあった。

魔槍《ゲイボルグ》の持ち主と有名な、ケルト神話の英雄。

ならば、その《スカサハ》とは、その《クー・フーリン》を教え導いた大いなる人物なのでは…………。

 

 

 

「さぁ、行きましょうか……! 私の全身全霊を持って、あなたを影へと落としてあげるーーーーッ!!!!!」

 

「くっ!」

 

 

八本の槍が躍る。

思いがけない新装備に、和人は苦渋の表情を作るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

「さっきまでの威勢はどうした!? 箒!」

 

「なんのぉッ!!!!!」

 

 

 

果敢にラウラへ斬り込む箒。

しかし、その攻撃をことごとく受け流されて行っている。

少し前……まだラウラがこの学園に編入してきたばかりの頃、学年別のタッグマッチトーナメントがあった……。

その時のクジ引きで、神の悪戯にも等しい選択……その頃はそりが合わなかったラウラとタッグを組んだ箒。

あの一戦では敵で、苦い敗北を喫した刀奈と今はペアを組み、反発しながらも共に戦ったラウラとは、今は敵同士。

これもまた、神の悪戯なのだろうか……?

そして、それだからこそわかる……刀奈が、このIS学園の生徒会長に相応しい実力を兼ね備えた『学園最強』と呼ばれる操縦者である事も…………一夏との一戦で敗北を喫し、それから一夏を師と仰ぎ、その教えを身につけようと頑張っていたラウラの実力も……。

 

 

 

「まさか、これほどまでに剣舞に対応するとはな……っ!」

 

「言っただろう……! 師匠とどれだけ鍛練を積んだと思っている。たとえお前が師匠の知らない技を使おうと、私にとっては関係ない!」

 

 

 

 

そう、関係ないのだ。

言ってしまえば、ラウラにとって全てが初めての物なのだ。

IS学園に来て、一夏との対戦は、彼女を変えた一番の要因だろう。

現代兵器を使用し、圧倒的な性能面や技能面で勝敗が決するIS同士の対戦。

まぁ、それは今も昔も変わってなどいないのだが……しかし、ラウラと一夏との戦い方は、根本が大きく異なっていたはずだ。

仮想世界……《ソードアート・オンライン》という名の異世界で戦い続けた果てに、武における頂点の一端に迫った一夏。

ISを初めから武力を保有した兵器だと理解した上で、それを使いこなすことを目指し、今では軍の少佐であり、一個小隊の隊長にまで上り詰めたラウラ。

その二人が戦った時は、お互いにいい経験になったのかもしれない。

かつて世界の頂点に立った千冬を彷彿とさせる一夏の剣技は、それまで認めようとしなかったラウラの一夏に対する不満や怒りそのものを打ち消した。

そして、いつの間にやら、彼女は一夏と同じ場所に立っていた。

ALO……《アルヴヘイム・オンライン》というゲームの中で、彼女も共に冒険をしている。

それは今まで、経験したことのなかったことだろう……。

戦うために、国によって作られて生まれてきた試験管ベイビーであるラウラにとって、そこは未知の領域。

だが、それでも彼女の根本は変わらない。

その時に学んだことを、頭に入れて、体に覚えさせる。

それが、軍人として生き、これまで培ってきたラウラの特性なのだろう。

それはもう、手強いわけだ。

 

 

 

「だが、私とて……っ!」

 

 

 

箒の剣戟の速度、威力が共に上がってきた。

ラウラもそのことに驚き、対応を変えてきた。

このまま打ち合うのもいいが、次第に防戦を強いられると思ったからだ。

距離を開け、リボルバーキャノンの射線軸上に箒を入れようとする。

当然、箒とてそれを許す気はない。

ラウラやセシリア、シャルのように、銃火器を主体に戦う者たちの戦術は、ここ最近で刀奈からみっちり叩き込まれた。

砲口から射線を読んで、その射線軸に絶対に入らない……そのためには……

 

 

 

「っ!」

 

 

 

箒の動きが、急に変わった。

今まで接近戦に見られる蛇行した動きや、素早く懐に入るための直線軌道の動きが多かったのに対し、今は円軌道を描いて、ラウラとの距離を保ちつつ動いている。

 

 

 

「これは……っ! 《シューター・フロー》っ!?」

 

「私にも射撃武器は使えるッ!」

 

 

 

《シューター・フロー》の円軌道から、《雨月》を振るう。

すると《雨月》の切っ先から紅いレーザー光が生まれ、ラウラに向かって光速で飛翔していく。

ラウラは咄嗟にAICを発動させて、レーザーを無効化した。

 

 

 

「前ばかりに気を取られていいのか?」

 

「っ!?」

 

 

背後から箒の声が聞こえた。

振り返った瞬間、今度は《空裂》のレーザーで作られた斬撃波が飛んできていた。

焦って、同じようにAICを展開して、攻撃を防いだ。

だがまたしても、背後から攻撃を受ける。

その度に、同じようにAICを展開して防ぐ……。

しかし、徐々にその攻撃回数が増えてきて、ラウラの反応を持ってしても、追いつけないまでに速まっていた。

 

 

 

「ちっ!」

 

「左腕、もらったぞ!」

 

「舐めるなと言ったあぁぁッ!!!!!」

 

 

 

ラウラの背後を取り、《雨月》による攻撃を敢行した箒。

だが、次の瞬間……ラウラの金色の瞳を目の当たりにした。

 

 

「っ!?」

 

「はあああぁぁッ!!!!!」

 

「くっ!」

 

 

 

向かってきた箒に対し、力いっぱい放ったラウラの剣戟。

咄嗟に《雨月》と《空裂》の二刀を用いて、その斬撃を受け止めたが、あまりの威力に、箒の方が弾かれてしまった。

 

 

 

「ふっ……ようやく、その秘蔵の左眼を解いたな……!」

 

「ああ……。だが、これを解いたからには、貴様に勝つ見込みは無くなったぞ?」

 

 

 

 

ラウラの左眼。

《ヴォーダン・オージェ》は、高感度ハイパーセンサーのような物だ。

ゆえに、ほとんどの攻撃、あるいは、その初期動作の動き自体がゆっくりに見えている。

単純なチート性では、ラウラの眼は最上級になるが、それを出してきたということは、それだけ追い詰めたと言っていい。

 

 

 

(だが、まだだ……っ! 一夏は、本気になったラウラをも倒したんだ……! あいつのような先読みはできないが、それでも、あいつがやったのなら、私だってやってみせるしかないではないか……っ!)

 

 

 

追いつくと誓い、ともに並び立つと決めた。

だから、どうしてもラウラには勝ちたい……。

だが、こちらにも射撃武器があるとは言え、それは刀を振らなければならない。そんな事をすれば、当然のようにラウラは反応し、回避もしくはAICによる防御に徹するだろう……。

ならば………。

 

 

 

「近接戦のみで押し切るしか……っ!」

 

 

ジグザグに蛇行しながら、箒はラウラに向けて飛翔していく。

しかし、その動きを、ラウラが見逃すはずはない。

 

 

 

「その行為は失策だったぞ……箒」

 

 

リボルバーキャノンを起動させ、照準を合わせる。

すると、何の躊躇いもなくキャノンを発砲。

しかし、その砲弾は、吸い込まれるように箒の元へと飛んで行った。

 

 

 

「なにっ!? ぐあっ!!」

 

 

咄嗟に《紅椿》のアンロック・ユニットを突き出して、盾代わりに使用するが、砲弾を撃たれた距離が近かったため、思いの外威力が高かった。

態勢を立て直し、もう一度攻め込む箒。

しかし、またしてもその行く手を阻まれる。

今度はワイヤーブレードを巧みに操り、箒の進路を妨害してきた。

 

 

 

「くそっ、私の動きを……っ!」

 

「ああ……見えるぞ。お前の動きにはまだ無駄があるからな……。だから言っただろう? これを解いてしまえば、お前に勝利はないと」

 

 

 

距離を取り、攻め手を変えようにも、ラウラの反応速度は上がったままだ。

後退しようにも追ってきて、リボルバーキャノンを撃つ。

それを回避しても、ワイヤーブレードによる強襲を受けてしまう。

逃げれば逃げるほどに、退路を断たれていく感じがした。

 

 

 

(くそっ……! こんな所で……こんな所で、負けたくないっ……!!!!)

 

 

 

たとえ自分が負けても、刀奈が生き残っていれば、勝つとは思うが……しかし、そう言う問題ではない。

ここで負ければ、自分はここまでなのだと、そう言われるような気がしていた……。

だから、負けたくない……。

せめて、何か打つ手があれは…………。

 

 

 

「紅椿ィィィィーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

心の奥深くにある魂からの叫びを、箒は発した。

最後の力を振り絞って、大声で、会場全体に響くほどの重圧な声で、叫んだ。

 

 

 

 

『戦闘経験値の獲得を一定量越えました。これより、《無段階移行システム》を起動します』

 

「っは……!」

 

 

 

 

突然発せられた、《紅椿》からの音声。

そして、《紅椿》から送られてくる情報に、箒は驚愕した。

 

 

 

「こ、これは……!」

 

 

 

あの時……臨海学校の際に、この機体《紅椿》を姉である束にもらった。

その最終調整の際に、束から聞いていたことがあった。

この機体……《紅椿》には、形態変化がないということを。

初めは意味がわからず、姉に聞き返してしまった。どういうことなのか……と。

しかし、束はそんな妹、箒に対して、いつものように微笑みながら答えた。

この機体は、無段階で進化し続ける……そのためには、より多くの戦闘経験を積まなければならない……と。

そしてそれが今、ようやく叶ったというべきなのだろうか。

《紅椿》から送られてくる情報を、箒は何の迷いもなく理解していった。

 

 

 

《穿千|うがち》

クロスボウ型の射撃武装。

出力可変型のブラスターライフル。

 

 

 

箒はこの情報だけで、ある程度は理解してしまった。

 

 

 

「これだけあれば充分だ! 見せてみろ、紅椿! お前の力をッ!」

 

 

両肩の展開装甲が動き出し、本当に弓のように変形していった。

突如、腕に収束するエネルギー。

それが鏑矢のような形を描き、弓の弦のようにできたエネルギー体を引っ張り、いつでも射出できる態勢へと移行した。

 

 

 

「なんだ、あの武装はっ!?」

 

 

 

その一部始終を見ていたラウラは、驚きと同時に、恐怖を抱いていた。

突如、箒の叫びに呼応するかのように、《紅椿》が進化した。

しかしそれは、従来の進化とは違い、《紅椿》だけが見せる、全くもって未知の進化の過程だった。

展開装甲という、破格のシステムが搭載されていることは知っている。

それが今、世界で最も最新鋭の機体と言われているISの特殊武装なのだから。

だが、その第四世代の進化を、まだ誰も見たことはないはず……。

 

 

 

「《穿千》……これならば、行ける!」

 

 

両手を伸ばし、射撃用の照準システムが、箒をサポートする。

腰だめの状態から、こちらへと向かってくるラウラに照準を合わせる。

 

 

 

「っ! 射撃武装か!」

 

「行けっ!」

 

 

 

伸ばした両腕から、高速で射出された鏑矢。

その軌道を見極め、ラウラは瞬時にAICを展開した。

 

 

 

「っ!?」

 

 

しかし、寸での所でAICを解除し、その場から飛び退く。

そして、誰もいない地面へと鏑矢が突き刺さった瞬間、凄まじい爆音が響いた。

 

 

 

「くうっ!? この威力は……っ!」

 

 

 

大きな土煙を上げて、その場をクレーターにしてしまった箒の射撃武装。

エネルギー可変型の高出力ビームブラスター。

機体性能のみならず、その出力もまた、現行の機体と比べると凄まじいものに思えてくる。

 

 

 

「あれを連射されれば、こちらが不利になるな……!」

 

 

 

攻撃方法は変わらない。

《ヴォーダン・オージェ》による視界情報で敵の動き、はたまた軌道を読んで、リボルバーキャノンで迎撃する。

 

 

 

「先手を打つ! 撃ってえぇぇぇぇッ!!!!!」

 

 

 

箒に照準を合わせて、リボルバーキャノンを放つ。

砲弾は真っ直ぐ、ドンピシャで箒に命中し、爆煙が上がる。

 

 

(やったか……?)

 

 

手ごたえはあった。

そう思った瞬間、背後からの射撃をくらった。

 

 

 

「ぐあっ!? な、なんだ……?!」

 

 

 

射撃を受けた角度から察するに、自分から見て右後方の上空。

そちらの方に視線を向けた瞬間、ラウラは驚愕の色を顔に表した。

何故なら…………。

先ほど砲撃を受けたと思われていた箒が、ラウラの死角から射撃してきたからだ。

 

 

「くっ!? いつの間に……!」

 

 

一瞬であの場所まで行ったのだろうか……?

しかし、そうとしか考えられない。

ISに瞬間移動術でもない限り、そんなことありえない。

ならば、高速移動を会得したのだろう。

その証拠に、《紅椿》の背部と腰部の展開装甲が全て開いている。

それをスラスターとして使えば、まず間違いなく、《瞬時加速》並みの推力は出せるはずだ。

 

 

 

「このまま押し切るっ!」

 

「させるかっ!」

 

 

 

左手は《穿千》の状態で、右手には《雨月》を展開している。

《穿千》で射撃をしながら、どんどん間合いを攻めてくる箒。

ラウラはそれを《ヴォーダン・オージェ》を駆使して、ギリギリの位置で躱していた。

しかし、避けるば避けるほどに、後退する意識が削がれ、いつの間にか箒に背後の侵入を許してしまった。

 

 

「しまっーーーー」

 

「はあああぁぁッ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 

振り返った瞬間に、リボルバーキャノンを《雨月》で断ち切られた。

爆煙を上げ、使用不可能になってしまったリボルバーキャノンを格納して、ワイヤーブレードで牽制を入れつつ後退する。

だが、そんな牽制が、そうそう通じるわけもなく、全てを掻い潜られ、いつの間にか間合いに侵入されてしまった。

 

 

 

「もらったあぁぁッ!!!!!」

 

 

 

上段からの袈裟斬り……そこから返して横薙ぎ一閃。

 

 

「篠ノ之流剣舞《一刀華閃》!!!!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 

まともに入った二撃。

そのままラウラは地面に倒れこんでしまった。

《シュバルツェア・レーゲン》のシールドエネルギーが尽き、この瞬間に、箒の勝利が決定した。

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

「くっ……見事だった。あの速さでの高速戦闘は、なかなか出来るものではないのだがな……」

 

「はぁっ……ただの、意地だったさ……! 最後には、ほとんど、何も考えてなかった、からな……」

 

 

 

荒い息を整えながら、ラウラに手を差し出す箒。

ラウラはそれを握って、倒れた体を起こす。

 

 

 

「何はともあれ、貴様の勝ちだ。しかし、次はこうはいかんぞ」

 

「無論、次も私が勝つがな」

 

「ふっ……言ってろ」

 

 

 

ラウラは左眼を眼帯で覆い、箒は《雨月》を納刀し、《穿千》を解除した。

二人戦いが決着した頃、上空で戦っていた刀奈と和人の戦いも、ようやく決着がつきそうだった。

八本の槍によって間合いを制された和人。

容赦なく攻撃を続ける刀奈。

逃げ切りたい和人であったが、それを許すわけもない。

 

 

 

「これで終わりねっ!」

 

「にゃろうっ!?」

 

 

多数の槍による重撃で、吹き飛ばされてしまった和人は、態勢を立て直した刀奈の槍を見て、異様な恐怖を覚えた。

 

 

 

「なっ?! う、嘘だろ……!」

 

 

 

“全ての槍が真紅に染まっていた” のを、和人は見た。

 

 

 

「刺し貫き、穿ち抜け!! 《ゲイボルグ》ッ!!!!」

 

 

 

八本全てが真紅に染まった。

その光には見覚えがある。

何より、自分たちもそれを使うものだからだ。

ライトエフェクト。

真紅のライトエフェクトが八槍を染めて、刀奈は両手の二本を、《煌焔》、《龍牙》の順で投げ込んだ。

そのに続いて、六本の《蜻蛉切》が和人に向かって飛んでいく。

《ゲイボルグ》

一刺必殺の魔装の槍。

因果を逆転させ、必ず心臓を穿ったと言われる魔槍。

しかしその本来の使い方は、手に持って振るうのでなく、その投擲による、大軍に対する広範囲攻撃だったそうだ。

一本の槍から無数の棘が生まれ、それが敵軍の将たちの心臓をことごとく穿ったという逸話がある。

現実世界において、そんな逸話のような話ができるわけもない。

だが、今まさに、和人が見ているのは、その逸話に出てくる《ゲイボルグ》を彷彿とさせる光景だろう。

八本の槍が、自分の心臓を穿とうとしているのだから……。

 

 

 

「くっーーーー!!!!」

 

 

 

咄嗟に……そう、本当に咄嗟に、和人は両手に持っていた《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》を展開し、それを十字になるように防御の構えに徹した。

その瞬間、八本の槍の矛先が一点の狂いなく、和人の双剣……いや、心臓めがけて飛んできたのだ。

 

 

 

「ぐうおおおおおッッッ!!!!???」

 

 

 

大投擲……《グングニル》ですら、凄まじい勢いと威力を誇るというのに、この《ゲイボルグ》は、それを上回る勢いだと和人は感じた。

 

 

 

「くっ、お、抑えきれねぇ……っ!?」

 

 

 

《月光》の出力を上げて、なんとか耐えようとするが、槍の勢いは止まらず、先ほどから《月光》が限界を示すアラートが鳴り続けている。

 

 

 

「くっそぉぉぉぉおっ!!!!!」

 

「ーーーーふっ……!」

 

 

 

刀奈の微笑みが見えた瞬間、和人はライトエフェクトの光に飲み込まれた。

大爆破が起きて、アリーナ内に土煙が舞った。

解除全体に土煙が覆いかぶさり、観客席にいた生徒たちは、一体何が起きたのかと目を点にしていた。

やがてその土煙が晴れてきて、ようやく状況が確認できた。

アリーナに佇んでいるのは、刀奈だった。

その近くに和人が膝をつき、両手に持っていた《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》を見ていた。

両剣ともに半ばからポッキリと折れており、その折れた破片は、和人の後方の地面に突き刺さっていた。

 

 

 

「これで、私の勝ち♪」

 

「はぁ……はぁ……。なんだよ、さっきの……」

 

「《グングニル》を超える二槍流スキルのオリジナル、《ゲイボルグ》よ。

単発の《グングニル》と違って、これは重撃を兼ねた複数の敵を仕留めるための魔槍。今回は相手がキリトだったから、少し本気を出してみたってわけ」

 

「何が “本気” だよ……ものすごく “殺す気” でいたじゃないか!」

 

「それくらいの勢いがないと、IS戦では勝てないわよ?」

 

「………」

 

 

 

さも当然のように言う刀奈に、和人は何も言えなかった。

まぁ、ましかにその通りではあるのだが……。

 

 

 

「とにかく、これで私の勝ちが決まったわね……キリト♪」

 

「ん……わかったよ。俺の負けだ」

 

 

 

 

和人が両手を挙げ、敗北を宣言した。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 更識 楯無、篠ノ之 箒』

 

 

 

 

場内アナウンスが、勝者たちの名を高らかに宣言したのだった。

 

 

 

 





次回は、一夏たちの試合に戻り、また刀奈たちの試合をやって、そろそろ決勝戦へと持ち込みたいと思います。


感想よろしくお願いします(^O^)/


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