ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今年最後の投稿ですね(⌒▽⌒)

来年も何卒、よろしくお願いします(⌒▽⌒)




第81話 《剣舞》

「うらあぁぁぁッ!!!!!」

 

「はああぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

双刃剣と日本刀がぶつかり合う。

試合開始早々、《瞬時加速》で肉薄し、互いに渾身の一撃を放つダリルと一夏。

黒刃の《エスコート・ブラック》と白刃の《雪華楼》がせめぎ合い、鋼独特のキリキリと言った削るような音が鳴り、また刃と刃が当たっている部分からは、チリチリと火花が出ている。

 

 

 

「へっ! やるじゃねーの。さすが、織斑の名は伊達じゃねぇってか?」

 

「俺じゃあ、千冬姉の足元にも及びませんけど、ねっ!」

 

「おっと!」

 

 

そう言いながらも、一夏は果敢にダリルを攻め立てる。

今はなんとか防ぎつつあるダリルだが、その額には冷や汗が流れていた。

 

 

 

(なにが「足元にも及びません」だよ…………お前で届かなかったら、他の人間は誰も到達出来ねぇっての………っ!)

 

 

 

おそらく一夏の言葉は、謙虚さを含んだ気持ちから出てきたものだろう……。

だが、ダリルからしてみれば、少し嫌味に聞こえる……。なぜなら、もうすでに、ダリルの太刀筋に対応し始めていたからだ。

 

 

 

「ちっ! この……っ!」

 

「っ!」

 

 

 

上段から振り下ろした双刃剣を、一夏はまるでスケートをしているのかと思わせるように滑って躱し、続いて横薙ぎに払った剣撃を《雪華楼》で受けて後ろへと後退する。

 

 

 

「やろうっーーーー!」

 

 

 

《ヘルハウンド》と言う名の通り、両肩に装備された猟犬の顔……強いては口から、火炎が発生。

それを球体状に生成すると、一気に射出する。

 

 

 

「射撃武器も兼ねてるのか……っ!」

 

「だけじゃねぇーぜ!」

 

「っ!」

 

 

 

火炎が双刃剣に纏わりつくように動く。

やがて、双刃剣の刃は、熱を持ったかのように紅く輝いた。

 

 

「《地獄への導き(ゴー・ザ・ヘル)》ッ!!!!」

 

 

 

再び一夏に肉薄し、双刃剣を振るう。

それを体を捻って躱す一夏だが、すぐにその効力を体感した。

 

 

「熱っつっ!?」

 

「剣撃は防げても、熱までは防げねぇだろっ!」

 

「くっ!」

 

 

剣が接近するたびに、高温の熱が噴き出てくる。

これは中々対処が難しい。

打ち合えば勝機を見出せるだろうが、今接近すれば、熱で一気にやられる。

 

 

「そらそらそらっ!」

 

「チィッ!」

 

 

 

 

攻勢から一転、攻撃を躱し、避ける一夏。

だがその瞳には、まだ光が宿っていた……。

 

 

 

 

 

「おーおー、向こうも盛り上がってるっスね〜」

 

「もう少し、やる気を出してください……!」

 

「いやいや、これでも超〜やる気っスから」

 

 

 

一方、こちらでは、激しい遠距離戦が繰り広げられていた。

両手に展開済みの銃砲を撃ち出す簪と、機体の特殊能力、氷を生成し、盾やランスなどを形作って、攻防バランスよく戦うフォルテ。

簪の《桜星》から、緑色のビームか撃たれると、決まってフォルテが氷壁を作り、これを凌ぐ。

逆にフォルテがランスを撃ち出せば、今度は簪が《流星》を放ち、拡散した散弾が、ランスを粉々に吹き飛ばす。

 

 

 

「いやあ〜、そんな装備作るとか、日本人パナいっスね……!」

 

「それを言うなら、先輩の機体も同じ……。氷を生成するなんて発想、一度はするかもしれないけど、それを実行するのは、大概すごいと思います……」

 

「ですよネー♪ まぁ、わたしもこの機体は気に入ってるんスけど……」

 

 

 

そんな日常会話をしている最中でも、しっかりと狙い撃つ二人。

両銃のトリガーを引き、《山嵐》が射出される。

フォルテは一度降下していき、ミサイルからの追撃を防ぐため、地面すれすれを飛行する。

何発かのミサイルは、地面に接触して爆破したが、まだまだ追尾してくるものがある。

 

 

 

「そんな時には、これっス‼︎」

 

 

 

地面に手を触れ、立ち止まったフォルテ。

次の瞬間、地面から氷の柱が現れ、強固な壁として形を成した。

《山嵐》はそんな氷壁に向かって飛翔し、やがて爆発。

爆煙が晴れた瞬間、そこには、多少の傷はついていたものの、未だに健在している氷壁と、ニヤリと笑い、簪を見上げるフォルテの姿が……。

 

 

 

「どうっスか? すごいでしょう〜、すごいっしょ?」

 

「確かに凄いです……でもーーーー」

 

「ん?」

 

 

 

 

簪が一旦距離を置いた。

何をするつもりなのかと、首をひねるフォルテ。

だが次の瞬間、その行為の理由がわかった。

 

 

 

「ーーーーこれなら……ッ!!!!!」

 

 

簪は両銃……《桜星》と《流星》を連結させ、《桜星》の銃口をフォルテに向けた。

 

 

「なっ?!」

 

「《桜閃火》ッ!!!!!」

 

 

 

トリガーが引かれた。

そしてその銃口から、桜色をした高エネルギーを収束したビーム砲が放たれた。

 

 

 

「のわあっ!?」

 

 

 

そのビームは、氷壁を簡単に貫き、フォルテの立っていた地面に容赦なく降り落ちた。

着弾と同時に爆発が起こり、その衝撃でフォルテは吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「あったたた…………って! なんなんすか、それ!!?」

 

「これがこの装備の本来の使い方」

 

「そ、そんな威力、反則っスよ‼︎」

 

 

 

あくまで冷静に淡々と告げる簪に、フォルテは若干驚きつつも、すぐに態勢を立て直す。

簪も、連結していた《桜星》と《流星》を分離して、元のバトルスタイルに戻す。

エネルギーパックを使い果たしたのか、パックの一つをパージして、廃棄する。

 

 

「まだまだ、これから……っ!」

 

 

 

再び銃撃を用いて、フォルテに迫る簪。

そんな簪に対して、変に恐怖心を持ってしまったフォルテは、なくなく逃げ回るしかなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあっ!」

 

「っーーーー!!!!」

 

 

 

攻撃を躱し続けることしかしていない一夏。

その原因は、ダリルの持つ双刃剣が、超高温の熱を発しているためにある。

近づけば、灼熱の息吹をその身に浴びてしまうのだ。

人間が、本能的に危険だとわかると、条件反射で近づきにくくなるのを逆手にとっているのだ。

だが、ダリルは再び、変な不快感に襲われる。

 

 

 

(こいつ、動きが変わった……っ!?)

 

 

 

灼熱の息吹を浴びながらも、引くことをしない。

本能的に危機を察知した瞬間、人は体が力み、あるいは逃げの態勢に入る。

だが、目の前にいる少年からは、そんな物を一切感じない。

ただ伝わってくるのは、今から自分を確実に斬り捨てると言わんばかりの闘気だけ。

 

 

 

「くそっ!」

 

「っ!」

 

 

 

焦ったのか、ダリルが大振りに振り下ろしたので一撃を、一夏は見逃さなかった。

鞘に納め、高速で抜刀。

振り下ろした剣めがけて一直線に刀を振るう。

 

 

 

「《剣殺交叉》ッ!」

 

 

 

パキンッ、と、鋼が弾けたような音が鳴り響いた。

よく見れば、双刃剣の片割れが、ポッキリと刀身の中間から折れていたのだ。

 

 

「なっ?! 武器破壊……だとっ?!」

 

 

抜刀術スキル《剣殺交叉》。

相手の動きに合わせ、流れを読み取り、武器のみを破壊する抜刀術。

折れた刀身は頭上を飛び越え、綺麗な放物線を描いて、地面に突き刺さった。

折られたダリルは一夏から一旦距離を置くと、火炎球を生成して、それを一夏に向けて発砲した。

だが、一夏はその火炎球を容易に斬り裂いていく。

炎の球が、《雪華楼》の刀身によって裂かれていき、やがて虚空へと自然消滅する。

 

 

 

「ちっ、くしょう……っ!」

 

「すみません、先輩……やるからには、勝たせてもらいます!」

 

「あんまり調子に乗ってっと、痛い目みるぜッ!」

 

 

ダリルは双刃剣を持ち直し、一夏に徹底的なまでに接近戦を仕掛けるつもりらしい。

力任せではあるが、鋭く放たれる剣戟を、一夏も返していく。

攻撃を捌いて、逆に急所へと斬撃を鋭く放つ。

辛うじてそれを防ぐダリルではあったが、それでも、再び防戦一方に陥る。

剣一本、あとは火炎球で一夏を牽制するが、すでに対応しきっている一夏には、足止めにもならない。

離したと思いきや、いつの間にか間合いに侵略されているのだ……。

三次元的な動きで、まるで、空中に足場でもあるのかと思わせるほどに、次の行動が途轍もなく速い。

 

 

 

「《リボルバーイグニッション》かっ!?」

 

 

 

その動きには無駄がなく、高速でダリルの周囲を飛んでいる。

 

 

 

「なんだよこの精度……! こんなの、代表候補以上だろ……!」

 

 

 

ダリルの動揺を突くかの様に、一夏は怒涛の攻めでダリルを斬り刻む。

加えて、その力量に驚くばかりだ。

 

 

「ちょこまかとっ!」

 

 

 

背後から迫る一夏の斬撃に対して、双刃剣を振り向きざまに一閃。

再び激しい鍔迫り合いになる。

双刃剣には、先ほどの熱はこもっておらず、普通の刃に戻っていた。

特殊攻撃というリードをなくし、正真正銘の真っ向勝負だ。

ダリルは一夏を一旦突き放して、再び肉薄し、右薙に一閃。だが、一夏はそれをしゃがむことで躱し、続いてくる左薙の一閃を刀で受け切った。

その衝撃で、後ろに後退した一夏に対し、ダリルは再び渾身の一撃を放つ。

 

 

 

「でえぇぇいっ!!!!!」

 

「っーーーー!!!!」

 

 

 

上段からの袈裟斬り。

しかし、その一撃を振り下ろす瞬間、一夏の姿が消えた。

そして、一夏はいつの間にか、ダリルの頭上を飛んでいたことにレーダーが反応した。

 

 

「うっ!?」

 

「《龍槌閃》っ!」

 

 

ライトエフェクトが輝く。

そして、その一撃をもってして、ダリルの専用機である《ヘルハウンド》の両腕を斬り落としたのだ。

 

 

「くそっ……!」

 

 

 

装甲を斬り裂かれたことにより、これ以上の接近戦が出来なくなったダリルは、一度態勢を立て直そうとするが、それよりも早く、一夏の《雪華楼》が喉元に迫っていた。

 

 

 

「うっ……!?」

 

「これで終わりです……ダリル先輩」

 

「ちぃっ、わかったよ……降参する。リザインだ」

 

 

 

 

ダリルのリタイア宣言が出たため、二人の試合はその場で終了。

それに驚いて、フォルテの動きも一瞬止まってしまった。

 

 

 

「なっ!? ダリル先輩、やられちゃったんスかっ!?」

 

「先輩も、よそ見はダメ……!」

 

「あ、やべっ……!」

 

 

 

とっさに氷の盾を生成したが、もう遅い。

簪は、再び両銃を連結させる。

今度は《桜星》ではなく、《流星》の銃口を向けて……。

 

 

 

「《爆流破》っ!!!!」

 

 

 

銃口が《流星》のもので、連結させることで、より威力の高い攻撃を放てる。

ガンランチャーとしての能力。

拡散弾による広域銃撃。

それを連結によって、《桜閃火》の様に破壊力が増している。

申し訳程度に展開した氷の盾を撃ち抜くなど、容易にできた。

 

 

 

「うわあぁぁっ!?」

 

「フォルテ!」

 

「うわぁー……簪、ほんと手加減なしだな」

 

 

 

いくつも張られた盾は、《爆流破》の対装甲貫通弾によって撃ち抜かれて、本体であるフォルテ本人にまで及んだ。

とっさに身を固めて、防御に入ったフォルテだったが、凄まじい攻撃に、ISのシールドエネルギーが急激に減っていって、たった一度の攻撃だけで、《コールド・ブラッド》のシールドエネルギーは尽きてしまった。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 織斑 一夏、更識 簪』

 

 

 

アリーナに、二人の勝利を知らせるアナウンスが流れた。

拍手喝采のアリーナ内で、ダリルは、急いでフォルテの元へと向かった。

 

 

「おい、フォルテ……いつまで寝てんだよ」

 

「あうう……」

 

「全く……だらしねぇーな……」

 

 

 

ダリルはアリーナの地面でのびているフォルテの元へと行くと、フォルテをお姫様抱っこの状態で持ち上げた。

その動作には一切の無駄がなく、凄く慣れている感じが見受けられた。

 

 

「今回は負けたが、次があったら絶っ対ぇ勝つからな……っ!」

 

「はい! またやりましょう……でも、次に勝つのも、俺たちですけどね」

 

「はっ、いいやがる……」

 

 

その後、フォルテを抱えたダリルは、専用入り口の方から場内を出ていき、一夏たちも、カタパルトデッキへと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……簪ちゃんも、中々クセの強い物を使うわねぇ〜」

 

「あんな砲撃を食らったら、誰だってフォルテ先輩の様になりますよ……」

 

「そうよねぇ〜……。でも、あれが本気、ってわけでもなさそうだし」

 

「っ!? まだ隠し玉があると?」

 

 

 

 

アリーナ控え室で試合を見ていた刀奈と箒の二人。

気になっている一夏・簪ペアの試合を見て、様々な試行錯誤を考えていた。

 

 

 

「一夏は相変わらずとして、簪の砲撃用の追加装備をどうにかしないと……」

 

「まぁ、それは私の方でなんとかするし、別段簪ちゃんの攻撃は、セシリアちゃんやラウラちゃんのような、特殊武装を積んでいるわけでもないしね」

 

 

そう、簪の装備で脅威的なのは、その威力と汎用性の高さ。

《蒼覇》は言ってしまえば、超高火力のスナイパーライフルと同じだ。

それならば、

どうしても射撃の死角を突くことも出来るし、あれだけの高火力ならば、それ相応のインターバルを必要とするはず……。

 

 

 

「さっきの《双星》もそう……。あれは両銃を連結させることで、その威力が格段に上がるうえに、両銃の攻撃方法と同様に、高火力のビーム火線砲と、対装甲拡散弾とを放てる……。

けれど、簪ちゃんはあの連結状態の砲撃を、連続では撃ってないじゃない?」

 

「あっ……!」

 

「つまり、それだけエネルギーの消費も問題ではあるけど、装備そのものも、一度クールダウンさせないといけないんじゃないかしら……?」

 

「確かに……! さっきの試合でも、連結させたのは二回……それならば……!」

 

「ええ、そこを突けば、勝利は見えてくる……でも、当然簪ちゃんも、その事は考えているでしょうから、なんとも言えないけどね」

 

「そうですね……今のところは、一夏をどう対処するのか……それと、簪の新装備にどこまで柔軟に対応できるかが肝心ですね」

 

「うん、そういう事♪ で・も、今は私たちも、目の前の試合に集中しないとね」

 

「そうですね……ここへ来て、さらに手強い相手に当たってしまいましたからね……!」

 

 

 

 

箒の言葉とともに、刀奈と二人して対戦表に視線を移す。

刀奈と箒の名前が載っているプレートの光が、トーナメント表の線を灯していた。

そして、次に相対するペアは…………

 

 

 

 

「和人さんと、ラウラ……!」

 

「ふふっ……楽しくなってきたじゃない……っ!」

 

 

 

ようやく、同学年での専用機持ちたちによる戦闘が開始されることになった。

相手は《ブラッキー》と、『黒うさぎ部隊隊長』。

どちらも黒の機体を有する、和人とラウラのコンビだ。

ここまで、接近戦で圧倒する和人と、オールラウンダーのラウラによるコンビネーションは、うまく噛みあっていたと言えるだろう。

現役軍人のラウラのIS操縦技術は、他の専用機持ちの中でも、高い方だと言える。

以前はセシリア、鈴の二人を相手に圧倒していた。

軍での教練が、凄まじいものだったというのがうかがえる。

そして、ペアとなる和人に至っては、SAOをクリアに導いた『黒の剣士』。

その剣技自体も、刀奈を始め、一夏や最近VRMMOを始めた箒たちですら認めている腕前。

武装全てが剣と、完全にピーキーな機体ではあるが、それでも脅威的な事に違いはない。

 

 

 

 

「キリトは私が相手をするわ。箒ちゃんはラウラちゃんの相手をよろしくね」

 

「は、はい。でも、和人さん相手に、槍では分が悪くありませんか?」

 

「うーん……まぁ、そうね。根本的に、槍の方がリーチはあるから、なにかと有利な点ではあるけど……キリトに対しては、あまり関係ないもんねぇー」

 

「では、どうするんですか?」

 

「…………あれを使おうかな」

 

「……あの新装備を、ですか」

 

「うん。キリトだって、あれだけ接近戦仕様にしたんだもん……私もそれくらいしないと、こっちとしては不本意だし。

まぁ、私は負けるつもりないし、そもそも、これはALOのデュエルじゃない…………策略、戦略、駆け引き、フェイント……あらゆる可能性を使ってでも勝ちに行くIS戦なんだから……。

チナツにも、キリトにも、生徒会長である私が負けるわけにはいかないわ……!」

 

「…………相変わらず、怖い人だ」

 

「ん〜? 箒ちゃん、何か言ったぁ〜?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

そうだ……向こうも向こうだが、こちらとて引けを取らない。

和人と同じSAOを生き抜き、同等の力を得ている刀奈がいる。

そして、武においては、引けを取らない気位はある箒。

一夏は…………同じ第四世代型のIS《白式》を扱い、圧倒的な強さを見せている。

同じ第四世代を駆る自分が、負けるわけにはいかない……!

 

 

 

 

「ふふっ……やる気充分ってかんじね?」

 

「ええ……私だって、第四世代に乗っているんです。一夏に負けるわけにはいきません」

 

「チナツは……強いわよ?」

 

「知っています。認めているつもりでしたけど、改めて、思い知りました……。

あいつの強さを……あいつの、凄まじさを。どうすれば、あそこまでの強さを得るのか、私にはわかりませんが……私は、私なりの方法で、あいつと対等の強さを……自分の強さを見つけようと思います!」

 

「……うん! そうだね……その通り! じゃあ、まずはこの試合に勝たないとね!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

気合十分。

刀奈は鉄扇を取り出し、箒は左手のブレスレットを突き出す。

 

 

 

「来い! 紅椿!」

 

「行くわよ、ミステリアス・レイディ!」

 

 

二人を眩い光が包み込む。

再び、ここに紅き武者と、霧纏の淑女が顕現する。

カタパルトデッキから勢いよく飛び出した二人は、一気に加速してアリーナの中央へ。

そこで、今現れようとしている対戦相手を待っている。

 

 

「行くぞ、月光!」

 

「敵を葬る……っ!」

 

 

 

対角線上にあるアリーナのカタパルトデッキの方から、黒い機体が二機……こちらにやってきた。

和人の駆る近接戦闘特化型の機体《月光》と、ラウラの駆る全距離対応型の第三世代の機体《シュヴァルツェア・レーゲン》。

どちらも真っ黒な機体であり、鈴・セシリアのペアと同様に、はっきりと戦術パターンが分かれている。

接近戦による剣戟の間合いは和人が行ない、空間把握に長け、精密射撃と支援対応、近接戦までこなすオールラウンダーのラウラ。

いま二機が、刀奈と箒の前に立った。

 

 

 

「待ちに待った…って感じだな」

 

「ええ……いずれはこうなると思ってたけど、まさか早い段階で当たるなんてね」

 

 

 

和人と刀奈……ともにSAO……《アインクラッド》と言う極刑城から生き延び、生還した伝説の英雄たち。

デスゲームと化したSAOをクリアに導き、約六千人のプレイヤーの命を救った、《黒の剣士》。

《抜刀斎》という忌み名を持つ一夏の伴侶として支え続け、同時に《血盟騎士団》の副団長として、隠密部隊の筆頭としてまとめ上げた《二槍流》。

ともにその身に……自分の分身たるアバターに宿した《ユニークスキル》という名のチート性の高いスキルを、あの男から委ねられた二人。

今のいままで、戦うことをしてこなかった二人だが、今この状況は、絶好の機会と言えるだろう。

 

 

 

 

「ねぇ、キリト」

 

「なんだ?」

 

「どっちが強いのか……今ここではっきりとさせておかない?」

 

「……唐突だなぁ」

 

「まぁ、ここはALOじゃないし、なんでも使っていいIS戦だから、私の方に分があるのは仕方ないけど」

 

「おいおい……俺だって、ここ最近は特訓に特訓を重ねて、少しは戦えるようにはなったんだぜ?

いつでもカタナが生徒会長をやってられるとは限らないぞ?」

 

「あらぁ? 言うじゃない……なら、その言葉が真か否か、確かめさせてもらうわね……」

 

 

 

 

刀奈の両手に、《龍牙》と《煌焔》……二つ槍が現れる。

それをまるで手足のように、なんの滞りもなくスムーズに、そして素早く回し始める。

 

 

 

「更識17代目当主 更識 楯無! 推して参ります!」

 

「オッケー、なら、俺も全力で行くぜ!」

 

 

刀奈が二槍の矛先を和人に向けるようにして構える。

対して和人も、背中に装備されている二本の直剣を抜剣し、中腰に構える。

 

 

 

「では、私の相手は貴様と言う事だな」

 

「ああ……全力で行く」

 

「ふっ……いい顔つきだな。あの時とは違うようだ」

 

 

 

 

ラウラの言っているあの時……それはおそらく、臨海学校の時の事だろう。改めて、自分の力の無さを知ったあの時……初めて、戦いの恐怖を知ったあの時……そして、力を持つという事の重さや覚悟を知ったあの時。

あれからずっと、箒とて鍛練を続けて来た。

一夏に追いつくために、もう一度、自分と向き合って、そして……《篠ノ之流剣舞》の使用を決断したのだから……。

 

 

 

 

「《篠ノ之流剣舞》門下 篠ノ之 箒。いざ、参る!」

 

「いいだろう。《シュバルツェア・レーゲン》と、『黒うさぎ部隊隊長』の私の実力……その身にとくと味あわせてやる!」

 

 

 

両者、気合十分。

箒もゆっくりと、両手に刀を握りしめ、両刀の切っ先をラウラに向ける。

ラウラも今回は箒との真っ向勝負を挑むつもりなのか、プラズマ手刀を展開し、軍隊式格闘術の構えをとる。

 

 

 

5……4……3……2……

 

 

 

まるで、タイミングを見計らったかのように、カウントダウンが開始される。

会場全体に、緊張が走る。

 

 

 

1……Battle Startーーーー!!!!

 

 

 

「「「「っーーーー!!!!」」」」

 

 

 

四人が一斉に動き出す。

全員が完全に近接戦に持ち込むつもりらしい。

刀奈の二槍が、和人の双剣が、箒の二刀が、ラウラの両刀が鋭く放たれる。

 

 

 

 

「はあああッ!」

 

「くっ!」

 

 

 

二槍と双剣。

どちらも両手に武器を持ち、絶え間なく繰り出される刀槍剣戟。

だが、元々リーチが長い分、刀奈の方が間合いを制するのに分があると見える。

本来ならば、長槍を片手で操るという事が、どれだけ難しい事なのか……簡単に想像できるだろう。

しかしそれをやってのけているのだ……目の前の少女は。

鋭い刺突が放たれたかと思いきや、もう一本の槍で上段からの斬りおろし。

それを躱しても、今度は真横から槍の矛先が迫る。

それを身を屈める事で躱すも、今度は同じ軌道で、二本目の槍の矛先が和人に迫る。

これを躱せるか否か……とっさに体の上体だけを後ろに逸らして、迫り来る矛先を薄皮一枚のところで躱す。

だがそんな和人の眼の前で、刀奈の《龍牙》が、和人の前髪を少しばかり斬り裂いた瞬間を目撃する。

 

 

 

「あっぶねぇ……っ!」

 

「惜っしいぃ〜!」

 

「何がだよっ!? そのまま行ってたら首飛んでだぞっ!?」

 

 

今のは完全に獲りに来ている一撃だった。

いや、今もなお続いている。

接近して、間合いに入り込めばこちらが優勢。

間合いに入り込まれた槍は、防戦しかできないのだから。

しかし、それをさせないのが刀奈であり、刀奈が会得した《二槍流》というスキルのいやらしいところでもある。

まるで槍が生き物のように…………いや、どちらかというと、刀奈の手の一部であるかの様に扱う為、スキらしいスキが見つからない。

だが、ここで引くのは性分じゃない。

和人は武器を変え、《エリュシデータ》をしまうと、増設ブースターに装備されていた《ブラックプレート》を抜き放ち、思いっきり斬りかかる。

 

 

 

「せやあぁぁッ!」

 

「それは流石に無理かな、っと!」

 

 

 

一応ではあるが、片手剣のカテゴリーに入っている《ブラックプレート》。

本来なら、両手剣として扱われてもおかしくはないだろうその剣を、和人は何ら変わらない速度と正確さで放ってくる。

刀奈も二槍をうまく利用して受け流すが、それでも、一撃一撃の重さが段違いな為、すべてを弾き返す事が難しい様だ。

 

 

 

「このまま押し切る!」

 

「まだまだッ!」

 

 

 

二槍と双剣がぶつかり合う。

その瞬間、とてつもない光が煌めいた。

 

 

 

 

 

「どうした! 貴様の《剣舞》とやらの実力はその程度かっ!」

 

「なんのっ! これからだ!」

 

 

 

 

 

刀奈と和人が鍔ぜり合ってる最中、また別のところでは、ラウラと箒の二人による、激しい斬り合いが行われていた。

《篠ノ之流剣舞》という未知の剣術を前にして、最初は戸惑っていたラウラであったが、未だに皆伝まで行っていない箒の《剣舞》では、すぐに対応し始めていた。

だが、それでもまだ、ラウラの方も箒を攻めに攻めあぐねている様子だった。

 

 

 

 

(チッ、型にはまってないからこそ、動きが読みづらい……っ!)

 

 

 

 

そう……箒の《剣舞》は、剣術としての型はほぼほぼない。

全てが舞の型。

つまり、踊り……舞踊なのだ。

それを剣技として昇華させることによって、剣戟を放つ事ができる。

実際、ラウラの正統派格闘術の攻撃を、緩やかな動きで躱し、時に素早く剣戟を放つ。

縦横無尽……自由自在……その動き、まるで水流の如し。

 

 

 

「くっ、この……っ!」

 

「ふっ……!」

 

 

 

ラウラの手刀が箒の体を貫こうと繰り出されるが、箒はとっさに左足を引き、体をずらす。

《空裂》の刃をプラズマ部分に当てると、円軌道を描いて、攻撃を躱す。

続いて放たれた攻撃もまた、《雨月》を横薙に振るい、攻撃の軌道をずらす。

必然的に、攻撃は箒の体には当たらず、ずっと躱され続ける。

 

 

「チッ!」

 

「篠ノ之流剣舞《流水の舞》……!」

 

「なんだ、この剣技はっ!?」

 

 

 

真っ向からの斬り合いだけでは、攻めきれないと判断したのか、ラウラはワイヤーブレードを射出し、箒の四方から責める。

だが、それですらも、直撃はない。

防御をしていたかと思うと、いつの間にか間合いに入って、攻撃に転じてくる。

間合いを詰めた状態からならば、リーチの長い刀よりも、ナイフなどの小回りのきく武器が有効だ。

しかし、箒はそれを刀の柄頭や、リーチの短い《空裂》でラウラからの攻撃に対応し、《雨月》で斬りつけてくる。

何物も拒まず、すべてを柔らかく包み、あるいは流し……時にその身を刃に変えて、あらゆる物を斬り裂き、打ち砕き、沈める。

水とはどんな物よりも柔らかいものだ……しかし、時には頑丈な岩ですらも容易に打ち崩す。

流水……穏やかなもの、激しいもの。場所によって、条件によって様々に変わる水の流れ。

それはつまり、あらゆるものに変わる千変万化の舞。

 

 

 

「篠ノ之流剣舞 《流水・龍刃の舞》ッ!!!!!」

 

「ッ!?」

 

 

 

怒涛の如く放たれた剣舞の斬撃。

進化した箒の剣技を、ラウラはその身に体感する事になったのだった……。

 

 

 




ええ、前書きでもかきましたが、これが今年最後の投稿です。
来年からも、この調子でゆったりとした投稿になると思いますが、皆さん! 新年もよろしくお願いします\(^o^)/
皆さんも、良いお年をo(^▽^)o


感想よろしくお願いします!


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