ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回はいろんなメンバーのバトルを書きましたー!

一夏たちのバトルは、また次回になります!




第80話 猟犬と冷血と

第一戦目。

専用機持ちは確実に勝利し、全員が次の試合へと進出した。

 

 

 

「セシリア!」

 

「了解ですわ!」

 

 

 

続いて、別のアリーナでも、専用機持ちによる圧倒的試合が繰り広げられていた。

近接戦闘仕様のIS《甲龍》と、遠距離射撃仕様のIS《ブルー・ティアーズ》。

鈴のパワーに付け加えてセシリアの精密射撃が、次々と相手方にダメージを負わせ、シールドエネルギーを削っていく。

 

 

 

「だありゃあああああっーーーー!!!!」

 

「いや! ちょ、ちょっと待って鈴ちゃん! 死ぬ死ぬ! 絶対死ぬぅぅぅぅーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

 

大振りに上段から振り下ろされた一刀。

二年生である先輩のペアが相手だったのだが、鈴にとってはそんなことお構い無しだ。

全力を持ってして、相手を力尽くで沈める事しか念頭に置いていない。

ある意味では、戦場で一番力を発揮するタイプではあるのだが……。

当の先輩は、涙目になりながらもガードの姿勢。

しかし、鈴の《甲龍》のパワーの前では、あまり意味をなさない。

日本刀型ブレード《葵》を展開し、受け止めるも、勢いそのまま押しつぶされてしまう。

派手な激突音と、土煙が舞い上がる。

煙が晴れてきた時、鈴の眼下にはISが解除され、気絶した先輩の姿があった。

 

 

 

「あうう〜〜〜……」

 

「ふん……」

 

 

 

青龍刀《双天牙月》を一度振り抜く。

その風圧によって、舞い上がっていた土煙が一斉に吹き飛ばされる。

 

 

 

「さて、セシリアはまだやってんの?」

 

 

 

地上で伸びている先輩を抱きかかえながら、鈴は視線を上空へと向けた。

すると、その視線の先には、激しく撃ち合う二つの機影が……。

 

 

 

 

「くっ! 流石はBT兵器の使い手……っ! うわっ!」

 

「あら……それ以外でも、わたくしは何ひとつ引けは取りませんわよ!!!!」

 

 

 

旋回しながら、相手の射撃を躱していくセシリア。

そして、今度はお返しとばかりにセシリアのスナイパーライフルの銃口が向けられ、レーザービームが発射される。

そのスピードは、正直に言うと鉛の弾丸の数倍の速さ。

しかもそれを高速戦闘中に、的確に相手の武器や体に命中させるのだから、末恐ろしいとさえ思える。

 

 

 

「これで、フィナーレでしてよ‼︎」

 

 

 

《ブルー・ティアーズ》の特殊武装。

遠隔操作型ビット《ブルー・ティアーズ》。

四機ある蒼いフィン状の物体が四方を囲み、一斉照射。

最後にセシリアの持つスナイパーライフル《スターライト mkIII》が相手を撃ち抜く。

エネルギーが消失し、相手の先輩は、悔しそうな表情を見せながら、地上へと降りていく。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 凰 鈴音、セシリア・オルコット』

 

 

 

「ふぅー……まぁ、ざっとこんなもんね」

 

「ええ。わたくし達に、死角などありませんわ……!」

 

 

 

近接パワー型の鈴と、精密遠距離型のセシリアという、基本的戦術のパターン。

どちらも第三世代型の専用機……これは苦戦すると思われる組み合わせだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロットちゃん、バックアップはよろしく!」

 

「了解! 明日奈さんはそのまま突っ込んでください!」

 

 

 

 

別のアリーナでも、同じように激戦が繰り広げられていた。

明日奈・シャルロットのペアもまた、三年生のペアと交戦。相手方はかなりの腕を持った二人組で、今回の賭けでも、上位にランクインしているペアだ。

流石に明日奈とシャルロットの二人でも、苦戦は免れないと思っていたのだが……。

 

 

 

「行くよ、リヴァイヴ!」

 

 

 

お得意の《高速切替》。

アサルトライフルからサブマシンガンへ……またはショットガンからナイフ型ブレードへと多種多様に変化していく。

さっきまで撃ち合っていたかと思えば、いつの間にか接近して格闘戦へ……また、斬り合っていたかと思いきや、今度は銃での射撃戦へ……近づくには遠く、諦めるには近い。

そんな高等技術の戦闘……。

砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)

シャルが得意としている戦術だ。

ましてや、《高速切替》という高等技術を持ち合わせているからそこ、その戦術はより一層凶悪化していると思っていい。

近距離格闘型も、遠距離射撃型も、どちらにも対応しうる技術だ。

 

 

 

 

「くっ!、逃げられない……! ならば!」

 

「っ! その程度じゃ落ちないよ!」

 

 

 

先輩は負けじと、ミサイルパックを展開し、10発もの誘導ミサイルを放つ。

だが、その全弾が連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》で撃墜されてしまう。

 

 

 

「くっーーーーぐあっ!?」

 

 

 

ミサイルを撃ち落とされた事から、周りへの配慮が足りていなかった……。

そんな隙だらけの敵に対し、高速で放たれる刺突なんて躱せるはずもなかった。

 

 

 

 

「まずは一機!」

 

「接近戦なら、私にでも!」

 

 

 

剣道の型から放たれる上段。

だが、明日奈はそれをひらりと躱すと、がら空きになった背中に《ランベントライト》を刺突三連撃。

そこから態勢を崩した相手の足元を二閃。

そこから、真正面に回り込んで、刺突二連撃。

計七連撃。

的確に相手の急所部分を狙う正確性には、味方であるシャルもまた驚嘆する所でもある。

 

 

 

「凄い……!」

 

 

 

思わず、シャルの口からそう漏れた。

 

 

 

(速いだけじゃない……次にどこを突こうとして、次にどう繋げていくのか、一瞬の判断が迅速かつ的確なんだ……!)

 

 

 

一夏と和人が、明日奈の技術を一目置いている理由を、改めて思い知る。

その剣技に圧倒されていると、いつの間にか、明日奈の勝利が決まっていた。

 

 

 

「っと、僕の方も決めておかないとっ!」

 

 

 

残り一機。

明日奈が剣技で見せたのなら、こっちは手数と銃のコンビネーションだ。

ショットガンとサブマシンガンの二丁をコールし、面性圧力による牽制をいれる。

それによって、相手の退路を防いで……最後は……

 

 

 

「でやぁあああああっーーーー!!!!」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 

《瞬時加速》で一気に間合いを侵略し、盾に隠れていた69口径のパイルバンカー……《シールド・ピアーズ》を腹部に向けて連射。

直接ダメージを負わせるため、シールドエネルギーが急激に減少していく。

三発目を入れた瞬間、シールドエネルギーは全損。

目の前の相手は、そのまま片膝をついて動かなくなった。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 結城 明日奈、シャルロット・デュノア』

 

 

 

 

歓声が上がる。

そして、アリーナの中央では、両手を上げてのハイタッチを交わす二人。

 

 

 

「やったねー、シャルロットちゃん!」

 

「はい! 明日奈さんの剣技、しかと拝見させてもらいました……やっぱり、凄いですね!」

 

「ううん……私なんて大したことないよー。シャルロットちゃんがしっかりバックアップしてくれたおかげだよー!」

 

 

 

仲良しの姉妹のような光景だ。

二人は手を繋ぎながら、アリーナのカタパルトデッキに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、射撃型の人を任せられるか?」

 

「いいだろう……ではそちらは頼んだぞ」

 

「オーケー……っ!」

 

 

 

そう言って、剣を二本抜き放って加速する和人。

その後ろから、四本のワイヤーブレードが和人を援護するように射出される。

ラウラが遠距離装備の敵を引きつけている間、和人が一気にもう一人を相手する。

 

 

 

「せやああっ!」

 

「私だって、負けません!」

 

 

 

両手にカタール型のブレードを展開し、和人相手に接近戦を試みるが、一撃の重さと速さ……それが、止めどなく繰り返し放たれる。

武器のリーチの差を考えれば、カタールの方が短く、自分の間合いを制することには適しているだろうが……。

 

 

「くっ! 反撃する暇がない……っ!

 

 

 

圧倒的な速さゆえに、防御ができても、こちらから反撃する事が出来ない。

防戦一方になっていく現状を、どうにか覆してやりたいと思ってはいるが、それこそ自分の首を絞めるような行いだ。

 

 

 

「一旦離れて……っ!」

 

 

一度離れて、態勢を立て直す。

だが、和人がそんな隙を与えるわけがない。

 

 

 

「逃がすかっ!」

 

 

右手に持つ《エリュシデータ》を振りかぶり、上段から振り下ろす。

だが、相手もこれを読んでいたのか、あえて引くことはせず、和人に向かって飛んでいく。

左のカタールで《エリュシデータ》を受け止め、防御に入ろうとした左手の《ダークリパルサー》を右のカタールを突き出して弾くことに成功した。

 

 

「っ!?」

 

「もう一丁ぉッ!」

 

 

《ダークリパルサー》が宙に舞い、態勢が崩れた和人の《月光》。

だが、和人は慌てることなく、左手を頭の後ろへと持って行き、何かを掴んだ。

そしてその掴んだ何かを引き抜いて、思いっきり右手の装甲を斬り裂いた。

 

 

「っ!? しまった……っ!!」

 

 

 

左手に持っているのは、またしても剣。

《クイーンズナイト・ブレード》だった。

和人の《月光》が装備している高機動格闘戦用のパッケージ《セブンズソード》は、その名の通り七本の剣が装備されている。

そして、剣による戦闘では、和人の戦力は学園の上位にランクインするほどの腕前だ。

そのことを失念していたわけではないが、彼もまた、ISでの戦闘が慣れ始めている証拠だった。

 

 

 

「悪いな……先輩っ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 

 

右手の《エリュシデータ》が真っ赤に染まる。

連続八連撃のソードスキル《ハウリング・オクターブ》が放たれる。

高速の刺突五連撃からの斬りおろし、斬り上げ、そこからラストに躍動感ある跳躍からの斬りおろし。

八撃全てが決まり、相手のエネルギーを全損させた。

 

 

 

「ううっ……負けた……」

 

「いやぁ〜……中々すごかったぜ、先輩」

 

「…………ふっ……君にはまだまだ遠く及ばないけどね……」

 

 

 

その場に尻餅をついていた先輩に、手を差し伸べて立ち上がらせる和人。

残りはラウラと、もう一人の先輩。

だが、もう勝敗は決まっているようなものだった……。

 

 

 

「くっ! AICね……!」

 

「その程度の攻撃では、私の停止結界は破られない!」

 

 

 

 

マシンガンを撃ってくる敵に対して、《シュバルツェア・レーゲン》の真骨頂とも言える慣性停止結界……通称《AIC》で立ちはだかる。

逃げたいのは山々といった感じだろうが、相手の腕には、ラウラのワイヤーブレードが巻きついているため、逃れることができない。

しかも、攻撃でも通らないというこの現状は、ある意味では地獄だ。

 

 

「さて、そろそろ終わらせよう……」

 

 

 

大きな起動音がしたと思いきや、巨大なリボルバーカノンの砲口が、相手の先輩に狙いを定める。

 

 

 

「ひっ……!」

 

「撃ってぇーーーー!!!!」

 

 

 

 

ドンーーーー!!!!

 

 

 

「きゃあああーーーー!!!!」

 

 

 

ドカーーーーン!!!!

 

 

 

 

リボルバーカノンの砲弾が直撃。

爆破を起こした……。

土煙が舞い上がり、相手の先輩の安否が気になる所であったが、生命反応に異常はないため、生きている。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 桐ヶ谷 和人、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 

 

アナウンスが二人の勝利を決める宣言を放った。

アリーナの地上で、仁王立ちするラウラの元へと向かう和人。

今でも土煙が立ち込めている砲弾の着弾点に視線を向けながら、苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「ちょっと、やり過ぎたんじゃないのか?」

 

「ふん……あれくらいでは死にはしない。それに、我がドイツの軍隊では、教習過程の新人たちの頃から必ず教えていることがある。

それが、『敵対する者に出し惜しみする必要無し』だ……っ!」

 

「どこのテログループだよ……」

 

「そんな野蛮な者たちと一緒にするな……。これは祖国を脅威から守る上で、とても重要なことなのだぞ!」

 

「はいはい……」

 

 

 

 

これが真剣味のある顔で言うから、なんとも言い難いのだが……。

現役の軍人であり、特殊部隊の隊長を務める少佐殿の考えあってのことなのだろう……。

 

 

 

「とりあえず……」

 

「ああ……初戦はこんな感じだな」

 

 

 

黒い両機は、ともにカタパルトデッキへと帰還していった。

その間も、二人の口からは他の専用機持ち達に関する戦術的な言葉が出ていた。

もはや迷いはないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一通り、専用機持ち達の試合を見てみたものの……」

 

「うん……みんな、手強い」

 

 

 

アリーナの控え室にて、それぞれの試合中継を見ながら、一夏と簪も、各々の戦術を分析していた。

 

 

「まず驚いたのは、箒のあの剣技だな」

 

「うん。あれは、《篠ノ之流》なの?」

 

「そうだと思う……だけど、俺が見たのは初めてだ。それにあいつ、『剣術』じゃなくて、『剣舞』って言ってたしな」

 

「剣舞……」

 

 

剣舞…… “けんぶ”、“けんまい”、“けんばい” などと呼ばれている。

一般的には、剣を持って踊る踊りの事を指す言葉であり、日本でも、『日本舞踊』として登録されている。

剣だけではなく、薙刀や太刀を用いて踊ることもあるとか……。

 

 

 

「しかし、剣舞ってのは踊りだろ? あんな剣技として通用するものなのか?」

 

「確証はないけど、古来より武の真髄を隠してきた先人達は、敵に自分の流派などを悟られないように、踊りや日常動作の中に浸透させて行ったと言われている……。

それは、私の家も同じ……。更識も、もともとが暗部……つまり、影で動く忍びの末裔に近い存在だから、それらの技や技術も、いろんな動作や仕草に溶け込んでいる……」

 

「なるほど……それで、《篠ノ之流》の場合は、“神楽舞” に浸透させて行ったってところかな……」

 

 

 

 

夏休みの際に、一度だけ箒の舞を見ている一夏。その時にも、左手に扇と、右手に宝剣を持って、優雅に舞っていたのを思い出した。

しかし、《篠ノ之流剣術》という流派があるため、それこそ、使ってくるとしたら、剣術流派のものかと思っていた。

 

 

 

「なるほどな……」

 

「ん? どうかしたの?」

 

「いや……改めて、箒の実家の剣術を思い出してみてな、確かに《篠ノ之流》には、舞に精通しているものがあったなぁ〜って」

 

「例えば?」

 

「簪も、以前見ていたと思うんだけど、ラウラのISが暴走した時、俺はソードスキルを使わずに、《篠ノ之流》の剣術を使って、あいつを倒した。

その技が、《一刀一閃》と呼ばれるものなんだけど、それはもともとは、《一刀一扇》と呼ばれるものなんだ」

 

「ん?」

 

「ああ、えっと、要するに……日本刀と鉄扇と、二つの武器を両手に持ち、それによって、攻防一体型のスタイルで戦っていたんだよ」

 

「刀と扇……」

 

「ああ。扇で相手の攻撃を防ぐ、あるいは受け流すことによって無効化して、もう一つの手に握る一刀を用いて、敵を両断する……。

それが、篠ノ之流の《一刀一扇》。その要素を取り入れたのが、刀一本、一太刀目で攻撃を流し、ニノ太刀目で相手を断ち斬る技、《一刀一閃》なんだ」

 

「なるほど……全て根幹は同じってこと」

 

「ああ……。だが、あの剣舞については、俺はほぼほぼ知識ゼロだと思ってくれ。

最後に使った技なんて、俺は聞いたこともないんだぜ?」

 

「《十六夜桜花》……だったね。名前、かっこいい……!」

 

「二刀から繰り出される十六連撃か……キリトさんの《スターバースト・ストリーム》じゃあるまいし……」

 

「うん……あれも、いい……っ!」

 

「簪さん? 話聞いてる?」

 

「う、うん! だ、大丈夫だよ……」

 

 

何故だろう……なんで名前を言っただけで、拳を握るのだろうか……。

そして、何でそんなに目がキラキラしているのだろうか……。

 

 

「とにかく、箒は俺が相手をするとして、あとはカタナだな」

 

「それは大丈夫……私の新装備も、ちゃんと稼動はできてるから」

 

「しかし、あれは大会で使ってもいいようなものなのか? どっちかっていうと、拠点制圧用の装備だと思うんだけど……」

 

「それを言ったら、ISそのものが、国を転覆させかねない代物。だから別に問題はないと思う。

ようは、使い方次第だもん……」

 

「使い方次第……か……」

 

 

 

確かにその通りなのかもしれない。

一機あれば大隊を滅ぼし、二機あれば軍隊そのものを潰せて、三機以上あれば、国すらも転覆させられる兵器。

それがISだ。

ならば使い方によっては、身を守る鎧にも、世界を滅ぼす脅威にもなりうる。

 

 

 

「と、それよりも……」

 

「ん?」

 

「今は私たちも、目の前の試合に集中しないと」

 

「あぁ、そうだよな」

 

 

 

 

簪に促されて、改めて試合の対戦表に視線を向ける。

トーナメント戦になっている今大会。

初戦を勝ち抜き、だいたい思惑通りに勝ち抜いてきたペアが多い。

そんな中、早くも専用機持ち同士の戦いが始まろうとしていたのだ……。

 

 

 

「二年の専用機持ち……アメリカのダリル先輩と、ギリシャのフォルテ先輩か……」

 

「炎熱系の能力を持つ《ヘルハウンド》と、氷結系の能力を持つ《コールド・ブラッド》……かなり癖のある機体だと思う」

 

「そんな二人が、《イージス》なんて呼ばれてるんだもんな……」

 

 

 

学園内屈指の実力者でもある二人。

しかもそれぞれ専用機が渡されている国家代表候補生だ。

 

 

 

「炎熱系のヘルハウンドと、氷結系のコールド・ブラッドねぇ……。RPGじゃあるまいし……」

 

「それ、一夏が言う?」

 

「え? なんでだ?」

 

「ソードスキルとか、滅茶苦茶使ってるし……」

 

「ああ……それはだってさ、元々が《白式》の機能だし……」

 

「それで盾を作ったり、斬撃を飛ばしたりしてるし……」

 

「ああ……うん。そうだな……」

 

「人の事言えない」

 

 

 

理論整然と言われると、どうにも弱い……。

しかも相手が簪だとなおさらだ。

何故だが、簪にもあまり頭が上がらない感じがするのだ……刀奈の妹だからだろうか?

 

 

 

「じゃあ私も、これから装備の最終チェックに入るね。一夏も機体の調子を見ておいたほうがいいよ」

 

「そうだな。特に損傷はないが、なにが起こるかわからんし……」

 

 

 

 

二人ISを展開して、各駆動部の調整に入った。

 

 

 

「ここがこう……で、これがこうで……」

 

「ストレア、カスタムウイングの出力調整はどうだ?」

 

『今のところ問題ないよー! にしても、この機体ってほんとピーキーだよねぇー』

 

 

 

 

簪は電子キーボードを表示して、高速でタップしていく。

一夏は《白式》のサポートAIとして存在するストレアと共同で、各部のチェックを行い、不具合などがないかを確認している。

 

 

 

『チナツってさー、よくこんな機体でも戦えるね』

 

「こんなって……一応ストレアもその一部なんだけど?」

 

『それはそうだけどさー。だって今の戦闘なんて、銃がメインでしょう? どれだけ強力な火器を用いてー、どのタイミングで、どの様に使うのか……それが現代の戦い方だと思うんだよねー』

 

「仕方ないだろう、俺は正直、銃の扱いが下手なんだ……そりゃあ、シャルとかカタナには一応特訓として使わせてもらったり、習ったりはしたけどさ」

 

『でもある意味、刀一本で戦えるんだから、それはそれで凄いのかもねー』

 

「俺なんてまだまださ……真の意味で、刀一本で戦って優勝した人が、俺の近くにあるからな……」

 

『おおー、そうだったね! お姉さん……千冬さんが世界チャンプだったね!』

 

「ああ……銃相手でも、本当に刀一本でなんとかしたんだもんな……俺の場合《白式》の特殊能力に助けられてるからな……」

 

『そう悲観することもないんじゃない? チナツの戦い方だって、ある意味常軌を逸しているし』

 

「それは喜んでいい事なのか?」

 

『さぁー? それはチナツ次第♪』

 

 

 

と、言った感じではぐらかすストレア。

天然で、どことなく自由な猫を彷彿とさせる彼女の雰囲気には、時折悩み事も吹っ飛ぶくらいだ。

 

 

 

「じゃあ、問題はないんだな? 《極光神威》は?」

 

『問題なく稼働可能ー! でもやっぱり、5分が限界かなぁ〜』

 

「5分も使えるなら、それはそれで有用だよ」

 

『まぁ、はっきり言ってチート染みてるからねぇー』

 

 

 

画面の中に現れているストレアは、悠々自適に過ごしている。

時に寝そべったり、時にもファイルのフォルダーを椅子代わりに座ったり、ダラーンとまるで洗濯物の様に干されていたり……。

これもAIだから出来る特権みたいなものなのだろうか……?

 

 

 

「よし、とりあえず、こっちは終わったな……簪はどうだ?」

 

「問題ない。これで正常に作動する……」

 

 

時計に視線を送り、時間を確認する。

 

 

「試合まで……残り20分」

 

「そろそろ、スタンバイしとかないとな……」

 

 

控え室から移動し、カタパルトデッキへと移動。

そこで、再びISを展開する。

 

 

 

「来い、《白式》」

 

「来て、《打鉄弐式》」

 

 

 

まばゆい光が放たれ、二人の体を包み込む。

装着された鎧やら銃やら刀などなど……武装がどんどん現れてくる。

 

 

 

「ほう……今回はこんな感じか……」

 

 

簪の機体には、先ほどとは全く違う装備が付いていた。

《覇軍天星》の《蒼覇》は、高エネルギーを収束して撃ち出す砲台だった……。

だが、今度のは全く別のものが付け加えられていた。

両手左右に一本ずつ銃砲を携行しているのだが、その銃砲が左右で違うのだ。

右手に持っている銃砲は、やや銃口が大きく、見た目からして重火器を彷彿とさせる姿をしており、左手の方は、ほっそりとした見た目だ。だが、これもまた、高エネルギー収束砲であると、一夏もわかってしまった。

 

 

 

「《覇軍天星》……重砲撃戦仕様エネルギー銃砲《双星(そうせい)》」

 

 

 

確かに、重砲撃戦仕様のパッケージと言えるだろう。

両手に持つ銃砲と、誘導ミサイルの《山嵐》があるのだから、これもまた高い攻撃力を有しているみたいだ。

 

 

 

「前の《蒼覇》と違うのは、銃砲が増えたくらいか?」

 

「それもあるけど、この二つは連結させる事で、その力を思う存分発揮できる」

 

「へぇー! 連結できるのか、これ」

 

 

 

 

マジマジと《双星》に視線を落とす一夏。

そんな一夏に、簪が捕捉する。

 

 

 

「左のは、高エネルギー収束火線砲《桜星》で、右のが、ガンランチャー《流星》」

 

「それで《双星》ってわけか……」

 

「そういう事……」

 

 

 

なかなかに洒落た名前だ。

その機能と威力に反して様な綺麗な名前に、一夏は少し驚く。

 

 

 

「性能は名前に反して超強力だけどね」

 

「だろうな……でも、そんなにエネルギーを消費する武装ばかり使って大丈夫なのか?」

 

「それなら、大丈夫……。このエネルギーパックがあるから、数時間は戦闘可能」

 

「へぇー」

 

 

 

そう言って、簪は背中についてあるエネルギーパックを見せてくれた。

まるで白い棘の様な物体が、五個付いており、エネルギーが切れると、それぞれが個々にパージしていく仕組みになっているそうだ。

 

 

 

 

「と、そろそろ時間だよ」

 

「みたいだな……じゃあ、行くか……」

 

「うん……!」

 

 

 

 

再び、二人はカタパルトデッキに足を乗せる。

そして、高速で移動し、アリーナの中へと射出されて行った。

 

 

 

 

「おお? きたっスよ、ダリル先輩」

 

「みたいだな……」

 

 

 

すでにアリーナには、対戦相手であるダリル・ケイシーと、フォルテ・サファイアの二人が待ち構えていた。

その二人の専用機《ヘルハウンド》と《コールド・ブラッド》。

その二機を初めて見た一夏は、じっと機体を観察していた。

 

 

 

「いや〜、まさか織斑くんたちと戦う事になるなんてネ〜」

 

「俺もですよ。専用機持ちの先輩方と戦えるのは、とても光栄です」

 

「またまた〜♪ そんなにおだてても、手加減なんかしないっスからねぇ〜!」

 

「もちろん……全力で戦いましょう……っ!」

 

 

 

どことなく親しみやすそうなギリシャ代表候補生のフォルテ。

その専用機……《コールド・ブラッド》は、その名の通り、《冷血》を意味する。

機体自体、あまり装甲らしい装甲はつけられておらず、その周りを氷を模したアンロック・ユニットが囲んでいるようや感じだ。

 

 

 

(カタナの《ミステリアス・レイディ》みたいだな……)

 

 

 

刀奈の機体も、《アクア・クリスタル》を搭載した第三世代型独特の機体になっている。

装甲らしい装甲は、他のISに比べると少ない方なのだが、そこは《アクア・クリスタル》の《アクア・ヴェール》によって、カバーできているため、問題はない。

 

 

 

 

「おいおい、フォルテの相手はそっちの眼鏡っ娘だったろうが……織斑の相手は私がするって約束だろう?」

 

「はいはい。わかってるっスよー、ダリル先輩」

 

 

 

と、その横から三年のダリルがやってくる。

専用機《ヘルハウンドver2.5》。

ダークグレーを基調とした装甲を持ち、両肩には名前の由来でもあるかの様な猟犬の頭が二つ付いており、ダリルとの雰囲気に合っている様な気がした。

 

 

 

「じゃあ、俺の相手は、ダリル先輩でいいんですか?」

 

「おうよ……。私じゃ不服かい?」

 

「いえ。カタナからも聞いていますよ、ダリル先輩たちの実力は高いレベルにあるって」

 

「はっはー、さすがは会長殿だ。にしても、相も変わらず仲がいいことだ」

 

「ま、まぁ……」

 

「だがまぁ、うちらのコンビには負けるだろうがな……」

 

「ふぁあっ?! ダ、ダリル先輩っ〜〜〜〜!」

 

「「っ!?」」

 

 

 

突然、ダリルはフォルテの背後に回ると、後ろから抱きついて、フォルテの耳たぶを甘噛みしたり、舐めだしたりする。

フォルテも口では嫌がっている様だが、それらしい抵抗もないあたり、そこまで嫌がっている様子ではない様だ。

 

 

 

(ま、まさか……この二人は………)

 

(本当にいたんだ……女の子同士で……)

 

 

 

一夏は若干引き気味に、簪は顔を真っ赤にしてそれぞれの感想を心の中にとどめておく。

 

 

 

 

「と、こんなことしてる場合じゃなかったんだった……ほら、さっさと剣を抜けよ、織斑」

 

「っ……」

 

 

 

ダリルの目つきが変わった。

そして、手には双刃剣《黒への導き(エスコート・ブラック)》が握られていた。

どうやら、向こうもやる気充分といった感じだ。

 

 

 

「了解……織斑 一夏、全力で相手させていただきます……っ!」

 

 

 

ゆっくりと、だが、自他共に身が引き締まるかの様に、ゆっくりと刀を抜刀する。

シャラン……と鞘から抜き放った刀身は純白。

降り注ぐ太陽の光を跳ね返し、《雪華楼》はここに顕現した。

 

 

 

 

「じゃあ、私たちも行くっスかねー」

 

「よろしくお願いします」

 

 

両手を伸ばし、周囲に氷を生成するフォルテ。

やがてそれが盾のように形を作る。

対して、簪も両手の銃砲の安全ロックを解除。

いつでもフルブラストできる準備は万全だ。

 

 

 

5……4……3……2……1……

 

 

 

 

タイミングを見計らったように、カウントダウンが始まる。

そして…………

 

 

 

ーーーーBattle Stert!!!!

 

 

 

双方共に動き出す。

一夏とダリルの剣がぶつかり、火花を散らし……簪の銃撃と、フォルテの氷が舞い散る。

ここに戦いの火蓋が、切って落とされたのだった。

 

 

 

 






次回はダリル、フォルテ VS 一夏、簪のペア。

感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)



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