ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

80 / 118
今回はバトル!
といっても、あまりその描写は少ないですが……(; ̄ェ ̄)

では、どうぞ




第79話 開幕!

刀奈の開会宣言から30分後……。

すでに各アリーナでは、熱戦が繰り広げられていた。

 

 

「はあああっ!」

 

「くっ! やったわねっ……!」

 

 

 

三年生たちは、さすがといって良いほどの腕前だ。

代表候補生や、代表生に比べれば、少々……というべき実力なのかもしれないが、それでも、いずれこの中から新しい代表候補生が生まれる可能性だって大いにあり得るのだ。

それに入学してから、三年に上がるまでに、多くの試験や場数をこなしてきているのだから……。

途中で付いてこれずに辞めてしまった生徒だっていたかもしれない。

いま残っているこの三年生たちは、ある種の努力も天性の才能を認められた者たちばかり……。

たとえ専用機を持っていなくても、勝ち上がるのは道理だろう……。

しかしそれでも、中にはダークホース的存在もいる……。

 

 

 

「フォルテ、右きたぞ」

 

「うぃース……。っていうか、ダリル先輩もちゃんと戦ってくださいっス」

 

「あぁんっ? やってんだろうがよ、ほらっ!」

 

 

 

ギリシャの代表候補生《フォルテ・サファイア》とアメリカの代表候補生《ダリル・ケイシー》。

その専用機《コールド・ブラッド》と《ヘルハウンドVe2.5》。

フォルテは二年生で、ダリルは三年生というペア。

この二人はIS学園の中でも、指折りの実力者。

学園内でも《イージス》の名で呼ばれるほどの手練れだ。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 フォルテ・サファイア、ダリル・ケイシー』

 

 

 

鉄壁の防御を誇る二人の実力の前に、三年や二年の精鋭たちも、たちまち敗れていく。

 

 

 

「まぁ、こんなもんだろうよ」

 

「そうっスね〜。余裕っス」

 

 

 

 

その他にも……。

 

 

 

 

「サラさん。突っ込みますので、お願いします」

 

「わかりました。バックアップは任せてください、和泉」

 

 

 

近接戦闘用IS《打鉄》を駆る二年生の《島崎 和泉》と、後方でスナイパーライフルを手にしているイギリス代表候補生の二年生《サラ・ウェルキン》。

和泉の方は、剣道部所属の中堅派剣士。なので、剣での戦闘は容易い。

しかも、後ろには代表候補生のサラがバックアップに回っているため、容易に陣形を崩す事が出来ない。

 

 

 

「ロック。狙い撃ちます」

 

「一気に決めるよ!」

 

 

 

スナイパーライフル《ストームレイダー》のスコープから目をのぞかせ、一点の狂いもなく相手を撃ち抜くサラ。

そしてその隙を付いて、一気に接近して、斬り込む和泉。

両者ともにバランスが取れた攻防で、勝ち星を挙げた。

 

 

 

『試合終了。勝者 島崎 和泉、サラ・ウェルキン』

 

 

二人の勝利を讃える凱歌が流れる。

 

 

「やったね、サラさん!」

 

「はい。やりましたね、和泉」

 

 

二年生同士、一年間頑張って特訓した成果が、今ここに現れている。

和泉とサラは互いにハイタッチをして、アリーナをあとにした。

 

 

 

 

「流石に、上級生たちは凄いなぁ……」

 

「それはそうだよ……あの人たちは、一年生に比べると遥かにISに触れた経験が長い。

だから、これほどの差が出ても、不思議じゃない」

 

 

 

アリーナの観客席で、一夏と簪は、試合の流れと結果を見て考察していた。

皆動きに無駄があまりない。

それでこそ、三年生は代表候補生たちと実力は拮抗しているようにも思う。

 

 

「でも、簪たち代表候補生も、これくらいはやってるんだろ?」

 

「うん……。でも、私たちが有利なのは、私たちに合った専用機があるからだと思う……。

専用機……すなわち、私たちが戦いやすいように設計された機体なんだから……」

 

「そっか……なら、俺も油断してると、一気にやられてしまうな」

 

「…………」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 

 

 

改めてまじまじと見つめる簪に、一夏は少し気になって、思わずそう聞いてみた。

 

 

 

「一夏は……何ていうかその……少しおかしい」

 

「……いきなりだな、おい」

 

「ご、ごめん……! でも、本当におかしいの」

 

「どこがだ?」

 

「一夏……ISに触れ、まだそんなに経ってないのに、その戦闘能力はおかしいよ」

 

「いや、それを言ったら、キリトさんやアスナさんだってそうだろう?」

 

「うん……あの二人も、おかしい。でも一夏は、何だかそれ以上って感じがする」

 

「俺が……おかしいか……」

 

 

 

 

簪に言われて、ふと思い返す。

確かに一夏自身、専用機をもらったのは四月……IS学園に入学してからのことだ。

それも、企業所属のテストパイロットであり、世界で二人しかいないという男性IS操縦者として、そのデータの収集が目的で渡された。

それは和人も同じことで、一夏と二人で、毎回決まった期間にISのデータを《レクト》へと送っている。

その中で、ここ最近の二人はどうだろうか……。

和人は高機動格闘パッケージ《セブンズソード》の導入により、高機動での戦闘データが入手できた。

高速戦闘の中で、剣での戦闘をメインにしているため、その他のデータの収集は望めないが、これでもかなり驚異的なのはわかる。

そして、夏の臨海学校の際、福音の暴走によって起こった《福音事件》。

その時に編み出した《オーバーリミット》。

原理としては、一夏の持っていた《雪片弐型》と同じだ。

自分のシールドエネルギーを攻撃に転化して、相手のバリアーを切り崩し、攻撃する。

この場合、一夏の《雪片弐型》は、エネルギー体を斬るのに対して、和人のは物理的な斬撃になるため、どちらかというと、エネルギーを斬るというよりは、砕くと言ったほうがしっくりくるか……。

だがしかし、一方で一夏は……。

 

 

 

「早くも《二次移行》しちゃったしなぁ……」

 

 

 

本来ならおかしいと思う点はすでにあった。

《一次移行》した時から備わっていた単一仕様能力……《零落白夜》。

本来なら《二次移行》を行った機体にのみ発現するはずの能力のはずなんだが、その時は、《雪片》を装備していたからだと思い、何も考えなかった。

しかし、今度はどうだろうか……早くも《二次移行》を起こし、《白式》は装備が一新した。

《展開装甲》を発動できるカスタム・ウイング。

軽装ながらも体全体に施された薄紫の鎧。

新たに増設された《雪華楼》4本。

そしてソードスキルの代名詞とも言えるライトエフェクトを出現させたり、飛ばすこともできるようになったり、新しい単一仕様能力《極光神威》。

これも、自分のシールドエネルギーをスラスター転化して、超高速戦闘ができるようになった。

その時間は、あまり長くは使えないのだが、今ではだいたい300秒は使うことができる。

さて、ここまできて少しまとめてみよう……。

確かに今までにありえない事が起きすぎだ。

それに、その時は決まって何か良くない事が起きていたようにも思える。

 

 

 

「うーん……」

 

「ほら、やっぱりおかしいと思う……」

 

「そうなのかな……そうかな?」

 

「でも、そんな一夏に、私たちは助けてもらったから……」

 

「…………」

 

 

 

そう、結果がどうであれ、一夏はその力で仲間を守ってきた。

無人機乱入、VT事件、福音事件、学園祭襲撃事件……。

そんな中で、一夏はすでに何度も危機を脱している。

そして、仲間を守り抜いた……それが結果であり、一夏の成果だ。

 

 

 

「ありがとう……。さて、俺たちも準備に入るか」

 

「うん……まずは、目の前の敵……」

 

「おう」

 

 

 

一夏と簪は、その場から立ち上がり、待機室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、箒ちゃん……出番だよ」

 

「はい……」

 

 

 

 

別室。

そこには、待機室にあるベンチにも座らず、ずっと正座をした状態の箒と、待機室の一角に設けられた試合の状況を映し出している空間ディスプレイを見ている刀奈の姿があった。

刀奈はそっと微笑みながら、箒に対してそう言う。

箒は一度深呼吸をして、ゆっくりと目を開ける……。

刀奈の方へと視線を移し、試合状況を確認した。

やはりというか、勝ち上がっているのは、三年生が多い、その次に二年生の精鋭と、一年の専用機持ち。

今のところ、脱落している専用機持ちたちはいない様だ。

 

 

 

「どう? いける?」

 

「はい……いつでも……!」

 

 

 

刀奈の好戦的な瞳が、箒の瞳を見つめる。

それに応じて、箒も不敵な笑みを浮かべた。

いざ。戦さ場へと赴かん……。

 

 

 

「行きましょう、《ミステリアス・レイディ》!」

 

「行くぞ! 《紅椿》!」

 

 

 

二人の体を、自身のISたちが包み込んでいく。

光の奔流が体を流れていって、それが収まったのと同時に、そこに霧の淑女と、紅の巫女が出現した。

 

 

 

「もう一度おさらいしておくわよ。相手は三年生で、どちらも銃主体の戦闘に特化しているわ。

鈴木 愛佳先輩は、アサルトライフルの使い手。中距離間の戦闘じゃ、確実に勝利を収めてきた先輩よ。

次に、柳葉 多恵先輩。この人は弓道部で、遠方からの狙撃がメイン。でも、精密射撃の精度なら、セシリアちゃんの方が上だから、落ち着いて対処すれば、問題ないわ」

 

「わかりました。とにかく私は、的として絞られない様に動けばいいんですね?」

 

「そう。先輩たちだって、箒ちゃんの《紅椿》の性能を全て把握したわけじゃないから、そうそう対処できるとは思えない。そこが狙いどころね」

 

「わかりました」

 

「よし、それじゃあ、行こっか♪」

 

「はい!」

 

 

 

 

リニアカタパルトに足をつけ、二人は一気に射出される。

アリーナ内に出た瞬間、凄まじい歓声がかけられる。

「頑張れ!」とか、「勝ってくれ!」とか……。

 

 

 

「すごいですね……!」

 

「そうねぇ〜。みんな必死に応援してるわねぇ」

 

「しかし、なんだが、妙に真剣味が強いから、なんだか怖いですね……なんか、殺気というか……」

 

「そりゃあ必死にもなるわよ……裏で賭けてんだから」

 

「………………はああっ!!!?」

 

 

 

刀奈の言葉に、箒は思わず大声で驚いてしまった。

どういうことだろう……。自分たちの知らないところで、賭け事をしているなんて、そんなことが先生方にバレたら……。

 

 

「あー、言っておくけど、お金は賭けてないからね?」

 

「え?」

 

「賭けてるのは学食無料券と、デザートフリーパス。ほら、一学期にクラス代表の対抗試合があったでしょう?

あの時と同じ内容で、みんな賭けてるのよ。ちなみに私たちは一位だから、頑張らないと、みんなが悲しむわよぉ〜?」

 

「は、はぁっ?! 嘘でしょう?!」

「ほんとよぉー……、ほら」

 

「んー?」

 

 

 

 

刀奈から表示された空間ディスプレイ。

そこには学内ネットで中継されているこのタッグマッチトーナメント戦の勝率の順位表だった。

その栄えある一位に輝いたのが、刀奈・箒ペアだった。

 

 

 

「な、なぜ私たちが……っ!?」

 

「そりゃあそうでしょうー。私は学園最強の生徒会長、そして箒ちゃんは最新鋭の第四世代IS保持者……。

それだけ聞くと、私たちが注目されるのはある意味当然の結果ってことになるわね」

 

「そ、それは……」

 

 

 

確かにそうだが、それを言うなら一夏とてそうだろう……。

箒はふと思い出し、順位表を見つめる。

 

 

 

「一夏たちは……余り上位の方には入ってないんですね……」

 

「そうね……まぁ、チナツ単体での戦闘なら、間違いなくトップスリーには入ってたでしょうけど、今回はタッグ戦だし……。

単に簪ちゃんの機体がバージョンアップしてると言っても、未知数だから、賭けてる人は少ないでしょうね」

 

「なるほど……。ですが、あいつらがそこいらで負けるとは到底思えない」

 

「そうね。仮にも箒ちゃんと同じ第四世代だし、簪ちゃんの実力がわからないから、どうしてもチナツの戦闘能力のみで考えちゃうんでしょう……。

と、長話をはここまでね……そろそろ始めましょうか」

 

「はい……っ!」

 

 

 

 

話を中断し、二人は面と向かって対戦相手の先輩二人とにらみ合う。

こちらは専用機持ちとしての意地があるように、向こうには先輩としての意地がある。

相手が誰であろうと、負けるつもりはない…………そう言いたげな表情だった。

 

 

 

 

「久しぶりですね、会長さん」

 

「はい、柳葉先輩。今日はよろしくお願いします」

 

「いえいえ、こちらこそ……。お手柔らかに」

 

 

丁寧な言葉遣いで話しかけてくる黒髪ロングの女性。

名前は柳葉 多恵。

なんともお淑やかな性格をしている先輩だ。

物腰の柔らかさは、刀奈だって負けてはないだろうが、向こうには少々歳上の出すオーラの様なものが見受けられた。

それに、弓道部に所属しているという多恵。

ならば、もともと武道を嗜む者として矜持か、その姿勢は真っ直ぐだ。

 

 

 

「おっすー、タッちゃん♪」

 

「はあーい、愛ちゃん先輩♪」

 

「あ、愛ちゃん先輩?!」

 

「そう、愛ちゃん先輩♪」

 

 

 

鈴木 愛佳……どことなく刀奈に似ているが、刀奈ほどの図太さや腹芸は持ち合わせていない様に思える。

だが、歳上の先輩に「愛ちゃん先輩」というのは……。

 

 

 

「ああ、篠ノ之さんだっけ? 私の事は、タッちゃん同様に『愛ちゃん先輩』でいいからねぇー」

 

「あ、い、いえ、そんな……目上の方には礼儀を持って接するのが、私の中での常識ですので、お、お構いなく……」

 

「あっははっ! これまた礼儀正しいねぇ〜!

 

「は、はぁ……」

 

 

 

カラカラと笑う愛佳。

正直、箒にとって、こう言う先輩は苦手な部類だ。

嫌いではないのだが、自分とは全く正反対の感覚がして、最初から相容れない様な感じを受けてしまう。

これでも少しは免疫がついたと思うのだが、それでもやはり難しい。

 

 

 

「っと……話もここまでだね……!」

 

「っ!」

 

 

 

しかし、箒のその感覚は、すぐに消え失せた。

 

 

 

「そうですね……では始めましょうか、会長、篠ノ之さん?」

 

 

 

多恵と愛佳の雰囲気が一変した。

不敵な笑みを浮かべる相手……その姿は、一陣の長のような……。

 

 

 

「ふふっ……いいわね、そうこなくっちゃ……っ!」

 

「っ……」

 

 

 

刀奈は長槍《龍牙》を展開し、まるで新体操のバトンのようにクルクルと回す。

独特の高い構え。

槍の位置は高く、肩の位置に。

右手で柄を握り、左手は添えるように伸ばす。

半身の姿勢から、鋭い視線だけを相手方二人に向ける。

箒も、両手に二刀を展開。

右手の《雨月》、左手の《空裂》。

そしていつものように、どしっとした構えではなく、右脚を一歩引き、半身の姿勢。

そこから、《雨月》と《空裂》の切っ先だけを向ける。

 

 

 

 

「あっはー! いい気迫じゃん!」

 

「ええ……相手にとって不足はありませんね……っ!」

 

 

 

 

愛佳、多恵の両名も、互いに武器を展開する。

アサルトライフル《ガルム》とスナイパーライフル《撃鉄》。

 

 

 

 

「さぁ、行くわよ箒ちゃん!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

四機がほぼ同時に動いた。銃のトリガーが引かれ、破裂音が響き、火が噴く。

片や双刀が閃き、紅槍が唸る。

箒と刀奈の第一戦目の幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! お姉ちゃんたち、始まったみたい……!」

 

「お、ほんとだな……。相手は……おぉ、どっちも三年生か」

 

「うん……柳葉 多恵先輩と、鈴木 愛佳先輩。どっちも優秀な操縦者」

 

 

 

簪から指摘を受け、一夏は空間ディスプレイに映る刀奈と箒の試合中継を見ていた。

確かに、量産型の訓練機を使っていながらも、その動きは流麗で、的確に射撃と狙撃を行っている。対して、刀奈と箒も、自慢の機動力と手数を生かし、試合自体は鍔迫り合いのように拮抗している。

 

 

 

 

「凄いな……あの二人とやりあってるぜ……」

 

「うん……だから、私たちも油断なんてしていられない……っ!」

 

「だな……じゃあ行きますか……!」

 

 

 

一夏の言葉に、簪は頷いた。

二人で意識を集中し、共に愛機の名を叫ぶ。

 

 

 

「来い! 《白式》!」

 

「行くよ! 《打鉄弐式》!」

 

 

光が溢れる。

その奔流が体を包み込んでいき、やがて虚空へと消える。

そして現れる、天使と戦士。

 

 

 

「おお……! なんか、凄いものがついてるな!」

 

 

一夏の《白式》は変わっていないが、簪の機体《打鉄弐式》の方は、大きな変化をもたらした。

 

 

「これが、《打鉄弐式》の砲撃用パッケージ《覇軍天星》」

 

 

 

 

調整と共に、新たにつけた新装備。

重砲撃型武装のパッケージだ。

多弾誘導ミサイル《山嵐》が装備されたアンロック・ユニットの間に、さらにブースターを装備して、そこから伸びる銃砲。

長さはおよそ二メートル……セシリアが駆る《ブルー・ティアーズ》の高機動パッケージ《ストライク・ガンナー》の《スターダスト・シューター》と同じ長さだ。

それがどれほどの威力なのか、簪以外にはわからない。

 

 

 

 

「じゃあ、行くか……!」

 

「うん……っ!」

 

 

 

リニアカタパルトに脚を付け、二人は一気に射出する。

アリーナに入り、大歓声を受けながら、二人はアリーナ中央へと入る。

そして、第一回戦となる相手方二人を捕捉する。

 

 

 

「おお〜! 本当に織斑くんじゃあ〜ん!」

 

「うっひゃー! これはラッキーだったかも〜!」

 

 

 

共に二年生の先輩。

ボクシング部所属の藤原 愛音と、剣道部の先鋒担当篠原 唯。

どちらも部ではムードメーカー的存在だ。

しかし、その雰囲気に似合わず、実力は本物だ。

 

 

 

 

「こうしてちゃんと会うのは、初めてですね……よろしくお願いします」

 

「いやいやこちらこそ〜♪」

 

「どっちかって言うと、こちらがお手柔らかにぃ〜って頼みたいくらいだし」

 

 

意気投合して、話に夢中になっていると、不意に左手を掴まれて後ろに引かれる。

 

 

 

「一夏、浮気はダメだよ」

 

「いや、してねぇーだろ! なんでこれが浮気になんだよ!」

 

「とにかく、ダメ……」

 

「いやまぁ……ご、ごめんなさい……」

 

「おお〜、小姑さんからの監視が付いてるんだったねぇ〜♪」

 

「わぁ♪ それは大変だぁ〜♪」

 

「そ、そんなんじゃありませんっ〜〜〜〜!!!!」

 

 

顔を赤くして否定する簪。

しかし、簪が小姑さんか……これは下手に怒らせると大変だなぁ……。

姉であり、嫁になる者もそうなのだが……。

 

 

 

「さて、これ以上喋ってると、織斑先生に怒られちゃうから……」

 

「そうだね、始めようか!」

 

 

 

 

そう言うと、愛音は鋼鉄製の手甲を両手に展開し、唯は刀を展開する。

 

 

 

「おおっと、相手方はやる気十分って感じだな……簪」

 

「うん……」

 

 

 

対して一夏も《雪華楼》を抜刀し、簪も銃砲を展開させる。

 

 

 

「《覇軍天星》……高エネルギー収束放射砲《蒼覇(そうは)》」

 

 

折りたたんであった砲身が伸びて、銃の形を形成する。

 

 

「簪、どっちの相手をする?」

 

「できれば、手数の少ない篠原先輩がいいかも……」

 

「オッケー……俺は藤原先輩を相手するよ」

 

 

 

ボクシング部の愛音が相手だと、接近戦に向いていない簪では手に負えない。

ならば、少しでも間合いの開く唯と戦ったほうがやりやすいだろう。

 

 

 

ーーーーカウントダウン開始……5……4……3……2……1……

 

 

 

 

カウントダウンを告げるアナウンス。

一夏たちは互いに闘気を集中させる。

手に握る武器を握りしめ、拳を振りかざし、銃口を向ける。

 

 

 

ーーーーBattle Startーーーー!!!!

 

 

 

「行くぞ!」

 

「うん!」

 

「しゃあー、こい!」

 

「いざ、勝負!」

 

 

 

 

双方共に動き出す。

一夏と愛音は接近戦で、簪は距離を置き、唯の間合いから離れてからの砲撃へ。

それをさせまいと、唯も射線から外れて、徐々に距離を詰めていく。

 

 

 

「おっしゃあー! 行くぜぇーー!!!!」

 

 

 

リヴァイヴを纏った愛音が、自慢の拳を一夏に対して振るってくる。

右の高速ジャブ。

一夏は愛音の動きに合わせて、それをギリギリに躱していく。

 

 

 

「こんのぉ……! そんな簡単に避けちゃってくれてぇー!」

 

「いやいや、結構躱すのも大変なくらい、鋭い拳ですけど、ねっ!」

 

 

 

一旦距離をおいた一夏。

今のはどうやら様子見といったところだろうか。

愛音の放つ拳の速さと威力……どれほどのものなのか、それが今ので大体はわかった。

あとは、その拳と刀を合わせるだけ……。

 

 

 

「正々堂々と打ち合いなさいッ!」

 

「では……遠慮なく!」

 

「ううっ!?」

 

 

 

鋭く放たれた左ストレート。

それに合わせる感じで、一夏の《雪華楼》のライトエフェクトが煌めいた。

片手剣スキル《スラント》

通り抜け様に放たれた左拳を斬るようにして放った一撃。

だが、その手応えは、あまりいいものではなかった。

 

 

 

「っ……その手甲……中々に硬いですね……」

 

「ふっふーん♪ そうだろう、そうだろう。なんせこいつは、最近開発された近接格闘武具だからね!

こいつには亜鉛合金やら、セラミックプレートやらがいくつも折り重ねて作ってあるからね。

たとえ織斑くんの刀でも、早々には斬られないよっ!」

 

 

 

再び迫り来る、愛音の拳。

 

 

 

「喰らいな! 最新手甲《玄武爆》の威力をっ!」

 

「…………残念ですけど、動きは見えるっーーーー!!!!」

 

「およっ?!」

 

 

 

右のフックの一撃を、軽く躱した一夏。

体を時計回りに回転させると、煌めく閃光が愛音の背部を襲う。

 

 

 

 

「《龍巻閃》ッ!」

 

「ぎゃふんっ!?」

 

 

 

殴ろうとした勢いも相まって、愛音は斬られた衝撃で地表へと落ちていく。

一方、簪たちの方は………。

 

 

 

「はあぁぁぁッ!!!!!」

 

「っ!」

 

 

 

気迫のこもった一撃を放つ唯。

だが簪は、躱すのではなく、あえて受け止めた……今手にしていいる銃砲で。

 

 

 

「いぃっ!?」

 

「はい」

 

「ぐほっ!?」

 

 

 

 

簪の行動に隙を突かれた唯。

まさか、銃で斬撃を受け止めると思ってはいなかったためか、一瞬驚いた瞬間に、砲口を向けられていた《春雷》二門からの荷電粒子砲を直で食らってしまう。

爆煙が起こり、そこから慌てて出てきた唯。

今ので倒れるかと思いきや、さすがは二年の実力者たち。

早々には倒れない。

しかし、唯は気づいていなかった。

自分の後ろから、勢い余って落ちてくる愛音が迫ってきたことに。

 

 

 

「げえっ!? 唯ちゃんどいてぇー‼︎」

 

「えっ? うわあっ!?」

 

 

 

ガシャン! と音を立てて、その場で二機は静止してしまった。

そしてそこに、《雪華楼》の斬撃波と、《山嵐》の誘導ミサイル群が迫り来る。

 

 

 

「「わきゃあぁぁぁっ!!!?」」

 

「これで、チェック・メイト……っ!」

 

 

 

大きくせり出した砲身を振り上げて、まっすぐに愛音たちに砲口を向ける簪。

そしてその指にかかったトリガーが、なんの迷いもなく引かれた。

 

 

 

「バースト……っ!」

 

 

 

エネルギーが収束し、《蒼覇》の砲口から名前の色と同じ蒼い高エネルギーの塊が、まっすぐに愛音たちに向かって放出された。

 

 

 

「「うえっ?!」」

 

 

 

駄目押しとばかりに飛んでくる高エネルギー体の光を見た瞬間、二人の顔は硬直し、やがて二人は、その光に呑まれた。

爆破を起こし、爆煙の中から巨大な塊がアリーナの地面へと落ちていく。

煙が晴れてきて、地面に横たわる愛音と唯の姿を確認できた。

二人とも目を回しているのか、立ち上がるのも困難といった状態のようで、うまくろれつも回っていない。

 

 

 

 

『試合終了。勝者 織斑 一夏、更識 簪』

 

 

 

 

戦闘続行不可能という判定の下、一夏と簪の勝利が確定した瞬間だった。

割れんばかりの大歓声。

圧倒的な力と、驚異的な速さでついた決着に、観戦していた生徒たちからも賞賛の声が鳴り止まない。

 

 

 

「やったな、簪」

 

「うん……うまく機能できてて良かった」

 

「しかし、ちょっとやり過ぎたかな……?」

 

 

 

 

ISの絶対防御が発動し、操縦者たちの命は守られはしたが、それでも気絶させるほどの攻撃を仕掛けたのだ。

今回導入した《打鉄弐式》の砲撃用パッケージの破壊力の高さには、誰もが目を瞠る物があった。

 

 

 

「荷電粒子砲に、誘導ミサイルとエネルギー体の斬撃波、最後に高エネルギー収束砲……」

 

「うん……確かに、ちょっとやり過ぎたかも……」

 

 

 

いや、ちょっとどころではないだろう……。

二人とも内心そんなことを思ってはいるが、いかせんそんなことを認めるのも……。

といった感じで、二人は倒れている先輩たちの下へと降りていく。

担架をもってやってくる救護班の人たちに先輩たちを任せて、二人ともアリーナのカタパルトデッキに戻っていった。

 

 

 

 

「とりあえず、初戦はこんな感じか……」

 

「うん……これから先も、こんな具合に進めばいいけど……」

 

「勝てば勝つほど、相手は強くなっていくばっかりだからな……」

 

 

 

それはそれとして、戦いがいがあると言うものだが……。

とりあえず、初戦突破ということで、二人はハイタッチを交わした。

 

 

 

「あ、お姉ちゃんたちは……」

 

「おっと、そうだったな……ええっと……?」

 

 

 

 

そう言いながら、二人は刀奈と箒が試合をしているであろう会場の中継に目をやった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ! 的が絞りきれない……っ!」

 

 

 

多恵が苦虫を噛んだような表情で、スナイパーライフルのトリガーを引く。

が、その標的である箒には、一向に当たらない。

 

 

 

「《シューター・フロー》……っ!」

 

 

 

まだまだ未完成ではあるが、箒が使っているのは、間違いなくそれだ。

対射撃戦闘用の操作技術。

接近戦の訓練はもちろん、刀奈は箒に、対射撃戦闘の技術を仕込んでいたのだ。

それにより、まだまだ未熟ではあるものの、多恵の狙撃を掻い潜る事くらいは出来るようにはなった。

 

 

 

「お覚悟ッ!」

 

「くっ!?」

 

 

 

《瞬時加速》を使い、一気に間合いに入ると、両手に持った二刀が閃いた。

 

 

 

「篠ノ之流 “剣舞” 《十六夜桜花》ッ!!!!!」

 

 

縦横無尽……流れる水流の如く放たれた剣撃。

計十六連撃にも及ぶ斬撃は、スナイパーライフルを細切れにし、多恵のISを斬り刻む。

その様子は、まるで、舞を踊っているかのようで…………。

 

 

 

「綺麗…………!」

 

 

 

誰かがそう漏らした。

《紅椿》の展開装甲が発動し、独特の紅いエネルギー翼が出現した状態で、白銀に輝く《雨月》と《空裂》の刃が奔る。

《雨月》を振り抜き、逆手に持った《空裂》でトドメを刺す。

多恵の駆るリヴァイヴのエネルギーが尽き、戦闘続行不可能となった。

 

 

 

 

「ふぅ……さて、楯無さんは……」

 

 

 

エネルギー切れによって、地表へと降りていく多恵から視線を外し、箒は刀奈の方へと視線を移した。

アサルトライフルの弾丸を、水の障壁で受け止めると刀奈。

相手の愛佳もまた、苦虫を噛んだような表情だ。

 

 

 

「ちぃ……っ!」

 

「そろそろ……私たちも終わりにしましょうか……!」

 

 

 

刀奈も一瞬で愛佳の間合いに肉薄し、《龍牙》の穂先でアサルトライフルを叩き、跳ね上げる。

愛佳はアサルトライフルを手放し、即座に右手に拳銃と、左手にナイフ型ブレードを展開する……が、それよりも先に、《龍牙》が銃を両断し、ナイフを弾き飛ばした。

そして、がら空きになった愛佳の喉元に、その刃を突き立てる。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

ドウッ! と空気が衝撃によって唸る音を鳴らした。

寸でのところで、刀奈は槍を止めていた。

寸止めによって、エネルギーは削れないものの、相手の戦意は容易に崩せた……。

 

 

 

「愛ちゃん先輩、まだ続けられますか?」

 

「むう〜〜っ! 次は絶対勝つからね、タッちゃん」

 

「いつでも……お相手するわ♪」

 

「くう〜〜! 悔しい! リザインッ!!!」

 

 

 

 

降伏宣言を聞き入れ、アリーナ内にアナウンスが流れる。

 

 

 

「試合終了。勝者 更識 楯無、篠ノ之 箒』

 

 

 

これまた大歓声を受ける二人。

箒が刀奈の元へと駆けつけて、勝利を確信した。

刀奈は右手を伸ばし、箒がそれに合わせる。

ハイタッチ……かと思いきや、手を掴んだ刀奈が一気に自分の方へと箒を引き寄せて、思いっきり抱きしめた。

 

 

 

「やったねぇ〜〜! 箒ちゃん、やったよー!」

 

「わ、わかりましたから! ほ、ほんと、勝てて良かった……」

 

「にしても、あれが “篠ノ之流の真髄” ってわけね」

 

「はい……たぶん、一夏もこの “剣技” ……いや、《剣舞》は知らないと思います」

 

 

 

 

篠ノ之流の真髄………同門の一夏ですら知らない剣術。

その一端のものを目の当たりにした刀奈。

そして、刀奈の新装備もまだ出していない現状……戦いはまだ、これから苛烈になっていくようだ……。

 

 

 

 




次回は……そうだなぁ……他の候補生たちの試合をした後、再び一夏たちの試合に戻る……という感じにしますかね。
今回のタッグマッチは、ゴーレムⅢの介入はなしにしようと思います( ̄▽ ̄)

ちなみに、簪の追加パッケージ《蒼覇》は、ガンダムSEEDdestinyのガナー・ザクウォーリアーの銃砲をイメージしてますので、あしからず( ̄▽ ̄)

感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。