ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は、バトルはありません。
タッグマッチを前に、準備期間に入っている模様をお送りします(⌒▽⌒)




第七章 バトル・ザ・ダブルス
第77話 シスターズ


急遽開催の決まった、タッグマッチトーナメント。

そのペアを組む相手をどうしようかと悩んでいた時、刀奈から呼ばれた一夏。

その呼ばれた用件とは……。

 

 

「簪ちゃんとペアを組んでほしいの」

 

 

という事だった。

なんでも、簪の方から、刀奈に対して挑戦状を出してきたようだ。

今度本気で、戦ってほしい……と。

それを請け負った刀奈が、簪のペアに一夏を推薦したのは、簪からの要望もあったみたいで、戦力的に考えても、それが一番妥当ではないかという結果になった。

そして、午前の授業が終わり、昼休みになった今。

一夏は四組の教室へと向かっていた。

 

 

 

「あっ!? お、織斑くんっ!」

 

「えっ! うそっ! ほんとにっ?!」

 

 

 

一夏の姿を見た瞬間、四組の教室は慌ただしい雰囲気に包まれた。

いつも教室が離れているのと、合同授業が少ない現状から、彼女たちも、一夏や和人たちとの交流に飢えているのだろうか……。

 

 

「あっ、えっと、ごめん。簪は、いるかな?」

 

「えっ? 更識さんなら、さっき教室を出て行ったよ?」

 

「そうなのか? どこに行ったんだろう……」

 

「多分、整備室じゃない? 最近、更識さんやけに自分の専用機を調整してるみたいだから」

 

「整備室……そうか。わかった、ありがとう!」

 

「あー、もう少しいてくれてもいいのに……」

 

「悪いな、今度のタッグマッチの件で話があるから、あまり時間がなくてな……また今度お邪魔させてもらうよ」

 

「えっ?! ほんとに? よっしゃぁ〜〜! みんな聞いた? 織斑くんが今度はゆっくりして行ってくれるってぇーっ!!!」

 

「「「イエェェェェイっ!!!」」」

 

「あっ、ははは……」

 

 

 

女の子たちが集まれば『姦しい』というが、本当にその通りだと思った。

こんな事ならば、自分だけでなく、和人も一緒に連れて行こうかと真剣に悩む一夏であった。

 

 

 

 

 

 

「さてと、整備室にいるんだよなぁ……」

 

「待ちなさい! 一夏っ!」

 

「げえっ、出たよ……」

 

 

 

この元気ハツラツとした声。

この声の持ち主は、たった一人……

 

 

「『げえっ』ってなによ!? 『げえっ』って‼︎」

 

「やっぱり鈴か……どうしたんだ?」

 

 

 

後ろを振り返り、その人物の顔を確認するが、確認するまでもなかった。

茶髪のツインテールがトレードマークのセカンド幼馴染。

中国代表候補生 凰 鈴音。

しかし、ここでこの鈴が来たという事は、まず間違いなく……。

 

 

 

「今度のタッグマッチトーナメント戦のペア、あたしと組みなさい!」

 

(やっぱり、その話か………)

 

 

 

大方予想はしていたが、まず初めに鈴が来るとは……。

 

 

「悪いな、鈴。俺、もうペアになるパートナーは決まってるんだ」

 

「はぁっ?! なによそれ! まさか、また楯無さんじゃないでしょうね?!」

 

「いや、カタナは今回、俺とはペアにはならないぞ?」

 

「へぇっ?」

 

 

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔とは、この事を言うのだろうか……。

口と目を開け、面食らったような表情をする鈴。

なんだか、見ていて面白い。

 

 

 

「じゃあ、シャルロット?」

 

「いや、シャルは今回、アスナさんと組むみたいだぞ?」

 

「んっ????」

 

 

またしても外してしまったからか、今度は片眉を動かし、口をへの字に変える……。

こいつ、こんなに変顔が上手かったっけ?

 

 

「えっ? じゃあ誰よ………」

 

「っと、悪いな、早く行かないとーーーー」

 

「待ちなさいっ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

あんまり長居するわけにも行かないとと思い、一夏はその場を立ち去ろうとした瞬間、鈴が思いっきり抱きついてきた。

背後を取られ、首を両腕で締める。

足も一夏の体にがっちりとホールドしているため、外すのは容易ではないだろう。

 

 

「教えなさいよ、あんたのペアは誰なのっ!?」

 

「知って、どうすんだよ……ぐあっ!」

 

「そんなの決まってんでしょう! そいつに代わってもらうようにお願いすんのよ。まぁ、《甲龍》の一撃を見せてやれば、いやでも納得すんでしょう」

 

「それお願いしてねぇじゃんっ! 完璧に脅してるだろう!」

 

「いいのよ、そんな事どうでも! ほら、さっさと白状しなさいよ。誰なのっ?!」

 

「ぐうぅ……! それよりも、一旦離せって……! これじゃあ、喋るのも……!」

 

「ああ、そっか……ごめん」

 

 

 

こういう所は、すごく素直な鈴。

ちょっとシュンとなりながら、鈴は一夏の首から降りた。

 

 

「んで? 誰よ?」

 

「ケホッ、ケホッ……あー、全く……。簪だよ……簪が、俺と組みたいって言ってきたから、俺はそれを受諾したんだ」

 

「なっ!? あの腹黒メガネっ……」

 

「は、腹黒……っ?!」

 

「なるほど、簪ね? いいわ……今から行って、簪にそのペアになる権利を私に譲るように言ってくる」

 

「…………一応聞いておくが、聞くだけなんだよな? 実力行使はないよね?」

 

「それは相手の出方次第よ」

 

「手を出す気満々じゃねぇか……」

 

「だからそれは相手の出方次第だっての! さて、簪を探しますか……」

 

「待てって鈴! 今回ばかりは、簪に譲ってくれないか……」

 

「はあっ?! なんでよっ……いつも楯無さんとイチャイチャしてると思ったら今度は妹かっ!」

 

「違うっての! 簪には、今回どうしてもって頼まれたんだ。今回のタッグマッチで、カタナに真剣勝負を挑みたいらしい……」

 

「へぇ〜……意外ね、あの子が?」

 

「ああ。だから少し気になるんだよ……それに、簪だって、今回のこのイベントがあったとしても、なかったとしても、カタナには挑んでたと思う。

だから今回のこのイベントは、ある意味じゃチャンスだったんだよ……」

 

「うーん……」

 

「だから頼む! 今回は、簪に譲ってやってくれないか?」

 

「…………はぁ……わかったわよ。今回だけだからね!」

 

「悪いな、恩にきるよ……」

 

「そう思うんだったら! 今度は私とペア組みなさいよ? いいわね!」

 

「分かったよ……今度な」

 

 

 

「ふんっ」と言いながら、鈴は廊下を歩いて去っていった。

一応は理解してくれたのだと思いたい……。

一夏は踵を返し、再び整備室の方へと向かったのだった。

 

 

 

 

「簪……?」

 

「…………」

 

 

 

整備室に到着するや否や、中からはアームが動く音や、電子キーボードをタップする際に出る音、電動ドリルやドライバーなどが動き、金属と金属が触れ合う際に発する音が響いていた。

一生懸命自分の専用機である《打鉄弐式》に向き合い、調整を施している簪。

よく見ると、制服の上着すらも着ずに、汗水流して作業をしていた。

 

 

 

「簪!」

 

「っ!? わあっ、一夏……っ!」

 

「悪い、驚かせちゃったな……」

 

「ううん……大丈夫。えっと、ここに来たって事は……」

 

「ああ、カタナから大体の話は聞いたよ。簪が俺とタッグを組んで、カタナと勝負したいんだろ?」

 

「うん……。一度お姉ちゃんと、真剣勝負をしてみたいって、思ってたから……だから……っ!」

 

「うん……。そういう事なら、俺も簪を応援するよ? それに、俺もペアをどうしようか悩んでたところだし……。

簪、改めまして……俺とペアを組もう。そして、打倒カタナを目指していこう……っ!」

 

「っ……うんっ! 頑張ろうね、一夏!」

 

 

 

整備室で、一夏と簪は堅い握手を交わした。

その様子を、整備室の入り口で眺めている人影が一つ……。

 

 

 

「はぁ〜……簪ちゃん……あんなにイキイキとして……っ! お姉ちゃん、喜んでいいの? それとも、嫉妬すればいいのかしら……っ?!」

 

「楯無さん? 何をしてますの?」

 

「いつもの妹ストーキングか?」

 

「っ!? セシリアちゃんにラウラちゃん……珍しい組み合わせね? っていうか、ストーキング言うな」

 

「ええ、今ばったりと会いまして……ところで楯無さん? 一夏さんを見ませんでしたか?」

 

「ん? どうして?」

 

「はい! 僭越ながら、わたくし一夏さんとペアを組みたいと思っておりまして」

 

「えっ?」

 

「なに? 貴様、私と師匠の邪魔をしようというのか……! 残念だが今回は譲れん! 師匠とペアを組むのはこの私だ!」

 

「何を言いますかっ! 一夏さんの白式には、遠距離射撃型であるわたくしが適任ですわ!」

 

「それを言うなら、全距離に対応できる私だって適任だ!」

 

「なんですのっ!」

 

「なんだ、やるか……っ!」

 

 

 

目の前にいる刀奈をそっちのけで、イギリス・ドイツ間で激しい睨み合いが勃発した。

 

 

「はいはいはい! ここじゃあ他の人に迷惑でしょう? 二人とも、こっちに行きましょう♪」

 

「な、なんですの?! わたくしはまだーーーー」

 

「おいっ! なんだ、私は師匠を探さねばーーーー」

 

「いいからいいから♪ お姉さんと来る♪」

 

 

 

刀奈は二人の腕を掴むと、自身のペースに飲み込んで、急いでその場を離れた。

今がいい時なのだ、邪魔されたくはないだろう……。

 

 

 

「なんだ? やけに入り口が騒がしいな……」

 

「ん〜……みんな、気が立ってるんじゃない?」

 

「まぁ、今回専用機持ちたちは、結構本気だからな……俺たちも、しっかりと準備しとかないとな」

 

「うん! それでね、一夏。ちょっと、手伝ってもらいたいんだけど……」

 

「専用機の調整か?」

 

「うん……今のままの装備でもいいんだけど、この子の装備を、もう少し強化……あるいは、バージョンを増やしたくて……」

 

 

 

 

そう言って、簪は自身の機体《打鉄弐式》を見つめる。

現在の《打鉄弐式》は、第三世代型の部類に入る。

もともとの機体は、日本製の第二世代《打鉄》を改良したものだが、《打鉄》が主に近接戦闘型の機体として量産されて、用途によって、その戦い方を変更できる。

だがそれでも、汎用性の高さと戦闘のバリエーションでは、フランス製の第二世代である《ラファール・リヴァイヴ》に軍配があがるだろう。

《打鉄》のアンロック・ユニットである盾は、損傷した部分から瞬時に治るというシステムを構築しているため、どうしても防御主体の近接戦闘の機体になってしまう。

まぁ、もともとが千冬の専用機である《暮桜》を模倣しているのだから、そのような機体設計になっていてもおかしくはない。

だが簪の機体は、これを排除し、遠距離型の装備を搭載している。

荷電粒子砲《春雷》に、多弾道ミサイル《山嵐》……近接戦闘用の薙刀式ブレード《夢現》。

そして、現行のどの機体にも装備されてない、第三世代システム《マルチロックオン・システム》。

これが、《打鉄弐式》の基本武装。

 

 

 

 

「このままだと、多分お姉ちゃんには勝てない」

 

「そうかな?」

 

「うん……お姉ちゃんの機体も、新しい装備をつけるって言ってたし……」

 

「っ!? マジで? 一体どんな……」

 

「そこまでは、教えてくれなかった。『試合の時のお楽しみ♪』だって……」

 

「ははっ……カタナらしいな」

 

「うん……だから、今のままだと、すぐに態勢が崩される……。だからそうならない為に、新装備をつけようと思って……」

 

「装備……?」

 

「うん……これを……」

 

 

 

そう言って、簪は手元にあったタブレット端末を操作し、取り付けようとしている装備を一夏に見せた。

 

 

「これは……っ!」

 

「これらの装備は、強い力が発揮できるけど、そのために一定時間のインターバルが必要になる……。

謂わばこれは、一撃必殺型の重砲射武装なの」

 

「こんな装備を、IS単体で運用できるものなのか? たとえ装備出来たとしても、それを補えるほどのエネルギーがなかったら……」

 

「大丈夫。それもちゃんと考慮してある……」

 

 

 

 

簪は、再びタブレット端末を操作し、次のページへと移す。

 

 

 

「…………なるほどな。確かにこれなら、エネルギーを消費しようとも、長時間の戦闘は可能になるな……。

にしても、よくこんな装備を開発したよな……開発元は、『倉持技研』だったけ?

こんな大それた装備を作るかね、普通……」

 

「うーん……あそこの人たちは、変人ばっかりだから……」

 

「…………マジか……」

 

 

 

 

簪が言うほどの変人。

会ってみたい気もするが、どうせ碌な事にはならないから、やめておこう。

 

 

 

「じゃあ、俺は何をすればいいんだ? 自慢じゃないけど、整備なんてやった事ないぜ?」

 

「大丈夫……その辺は、私と整備科の先輩たちに手伝ってもらう……」

 

「じゃあ、俺は?」

 

「一夏は…………力仕事」

 

「まぁ、妥当ですよね……」

 

「じゃあ、私は先輩方にお願いしてくる……」

 

「おう……なら、必要な機材だけでも、ここに運んでおこうか? 何が必要なんだ?」

 

「工具一式と……あとは、レーザーアームとかを動かすためのバッテリーとケーブル……かな?

結構重いから、気をつけてね」

 

「了解だ。任せておけって!」

 

「そう……なら、よろしくね」

 

 

 

そう言って、簪は整備科の先輩たちがいる教室へと向かい、一夏は整備室に置いてある工具などを取りに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、シンっとしたIS学園の剣道場。

そこにただ一人、静かに佇む一人の少女がいた。

正座をした状態で瞑想を行い、神経を集中させている。

 

 

 

ーーーーこの一刀にかけて……貴様を討ち取ってやる……一夏……っ!

 

 

 

静かに目を開ける。

するとそこには、まるで真剣そのものの様な鋭い視線が現れた。

触れればあらゆるものを両断してしまう様な視線と、水面の様に澄み切った美しい瞳。

道着を纏い、腰に差してある日本刀《緋宵》をゆっくりと抜刀する少女、篠ノ之 箒。

シュランっ……と鞘から抜き放たれた一刀の刀身は、鏡の様に煌めいている。

中腰になった姿勢から、左脚は後ろに引いている。

抜き放った刀を、ゆっくりと頭上の方へと持って行き、ゆっくりと両手で握る。

真剣での鍛練は、身も心も引き締める。

今の箒は、まさに一振りの一刀そのもの……。

 

 

 

「…………ふっ……!」

 

「箒ちゃん、ゲットだぜぇ♪」

 

「ふあぁぁっ?!」

 

 

 

呼吸を整え、いざ降り切ろうとした瞬間……箒の豊満な胸を、誰かの手が鷲掴みにする。

あまりの驚きに、一瞬両手の力が抜けそうになったが、なんとか持ちこたえ、より強く握りしめる。

 

 

「た、楯無さんっ!?」

 

「うっふふ♪ やっぱりここにいたのね、箒ちゃん」

 

「もう、驚かさないでくださいよ! 真剣を持ってるんですよ?!」

 

「わかってるわかってる♪ にしても、偉いわね……ちゃんと真剣での鍛練は欠かさずにやってるのね」

 

「ええ、まぁ……これも日課としてやっていたので……」

 

「いいわ、それを心がけなさい。真剣っていうのは、身も心も鍛えるけれど、それだけじゃない」

 

「と、言いますと?」

 

「改めて思い知るのよ……その重みを。真剣という武器の重み……そしてそれは、人の命を絶つ物であり、自分の命を預ける物でもある……」

 

「自分の命を預ける物……」

 

「そう……。その武器を手にした時、自分の命と、相手の命を天秤に賭ける事になるわ。

そうした時に、その重みを実感するの……。そしてそれは、真剣に限った話ではないわ……。銃も同じ……槍もまた然り……。

その手に収めた闘うための武器は、それを扱うための資格と、覚悟がいる」

 

「覚悟……」

 

「箒ちゃんにも、もうわかるでしょう?」

 

 

 

 

そう、夏のあの事件以来……専用機を持ち、破格の性能に……力に、箒は一度溺れかけた。

その力の大きさと重さを知り、改めて、鍛練を積み重ねることを考えた。

部活でもそう。

より一層、剣に対して向き合っているようにしている。直葉と再会して、心の余裕が少しは出来たのかもしれない。

だからこそ、その先に行っている二人、一夏と刀奈の姿を見て、学ぼうとしている。

 

 

 

「そうですね……。今にして思えば、最近は真剣の鍛練を多くしています。

私も、間違いを起こさないように……」

 

「…………なら、必死に悩んで決めるしかないわね。何が正しいのかなんて、誰にもわからないんだもん……」

 

「……楯無さんは、そういう時どうやって決めているんですか?」

 

「私はね、自分の心に従っているだけよ。出来ることと、望むことをやりたいって思ってるだけ……」

 

「出来ることと……望むこと……」

 

 

 

 

刀奈の言葉に、納得がいったのか、箒はそっと優しく微笑んだ。

が、しかし……

 

 

 

「あの、楯無さん」

 

「なに?」

 

「そろそろこの手をどけてくれませんかね?」

 

「あー……」

 

 

 

今更になって思い出した。

箒の豊満な胸を掴んだまま、なんとなくしんみりとした話を続けていたことに……。

っというか、何故に気づかなかったのか?

 

 

 

「早く離してくれませんかね?」

 

「あーうん……んっ!?」

 

 

離そうとした刹那……再び刀奈が胸を掴んだ。

 

 

「ふあっ!? だから、なんで掴むんですかっ!?」

 

 

これはさすがに予想してなかったのか、今度こそ箒は《緋宵》を落としてしまう。

さすがにそこで暴れると、床に落ちた刀の刃で怪我をしてしまうので、少しずつ離れていく。

だが、それでも刀奈の手は剥がせない。

 

 

 

「ほ、箒ちゃんっ! また少し大きくなったっ!? この間よりも、なんかこう……」

 

「知りませんよっ! 大したことなんてやってませんしっ!」

 

「いやいやいや、本当に大きくなってるって! 直葉ちゃんもそうだけど、やっぱり大きい……」

 

「んあっ……! そ、そんなに……っ、んんっ」

 

「おお? ここが弱いのかぁ〜?」

 

「ひゃあっ! そ、そこはやめてっ!」

 

「やばい……スイッチ入っちゃいそう……」

 

「ダメですよ! そんなスイッチ入れないでください! というか、早く離れろぉーーーーッ!!!!!」

 

「ぎゃふっ?!」

 

 

 

危険な感じがしたため、これ以上はまずいと、箒は体を動かして抵抗した。

その最中に、偶然動かした右手が刀奈の顔面に直撃。

その衝撃で、刀奈の両手が箒の胸から離れる。

 

 

 

「ううっ〜〜〜……痛いぃ〜〜……」

 

 

鼻を押さえながら、涙目ながらに箒に訴える刀奈。

慌てて箒も駆け寄り、刀奈の顔を覗く。

 

 

「あ、ああっ、ごめんなさい……って、楯無さんが悪いんですよ!? あんなにセクハラをするからっ!」

 

「あっはは……ゴメンゴメン♪ 箒ちゃん可愛いから、ついね♪」

 

「もう……勘弁してくださいよ……」

 

「はーい。っと、私としたことが、大事なことを忘れてたわ! 箒ちゃん、タッグマッチのペアは、もう決まったの?」

 

「えっ? いや、まだですが……」

 

「あら? 誰かと組もうとは思わなかったの?」

 

「それは……その……」

 

「はっはぁーん……さては、チナツと組もうと思っていたわね」

 

「ううっ……」

 

「それで組めなくて、ここで一度心を落ち着かせようと……」

 

 

 

 

そう、箒もまた、一夏とペアを組もうと思い、一夏のことを探していたのだが、そこで少しご機嫌ナナメの鈴と会ったのだ。

そして鈴から、「一夏は簪と組むってさ」と聞き、箒と落胆と同時に、怒りを覚えた。

 

 

 

「何故私に言ってくれなかったのだ……」

 

「ゴメンねぇ〜。今回は、私からチナツに頼んだのよ……簪ちゃんと組んであげてって」

 

「…………まぁ、仕方ないですけどね」

 

「でも、それなら、他の人とは?」

 

「それも考えたんですが、やはり、私の機体と相性が合う人があまりになくて……」

 

 

 

紅椿の性能は、箒の日頃の鍛練を見ている生徒達から見ても、破格すぎる物だと感じ取ってしまったらしい。

まぁ、第四世代という規格外の物を使ってる時点で、その性能に見合った戦術を組むというのも難しく思える。

 

 

 

「そっか。なら良かったわ!」

 

「えっ?」

 

「箒ちゃん、私と組みましょう?」

 

「えっ?! 私が、楯無さんと?」

 

「うん。私も、今回はチナツとは組めないし、アスナちゃんはシャルロットちゃんと組むって言ってたし……。

だから、お姉さん、一人ぼっちなの……ねぇ、いいでしょう箒ちゃん? お姉さんと一緒に、大会に出ましょう?」

 

「えっ、でも……私では、楯無さんとは……」

 

「大丈夫よ、お姉さんに任せておきなさい。すぐに最高のペアだと思わせれるほどに、箒ちゃんを鍛えてあげる。

そ・れ・に〜……チナツを倒したいんてましょう?」

 

「っ……ええ、まぁ。今の一夏に、私の剣がどこまで通用するかはわかりませんが……私だって鍛練を積んできました……あいつに、私の剣を見せるために……」

 

「ほほう? さては、何かを会得してきたなぁ〜?」

 

「ええ……篠ノ之流の真髄……その一端を」

 

「ほう……」

 

 

 

キリっとした表情でこちらを見つめる箒。

その表情は、よほどの自信があると見た。

 

 

「篠ノ之流の真髄か…………なんだか、面白そうじゃない」

 

「楯無さんも、簪と戦うんですよね?」

 

「うん。っていうか、向こうから勝負を挑まれたからね。私だって、お姉ちゃんだもん……負けるわけにはいかないわ」

 

「では……」

 

「うん。私たちも、打倒チナツ&簪ちゃんで、頑張りましょう!」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 

 

二人は改めて握手を交わし、互いに協力しあうことを約束した。

 

 

 

「じゃあ早速だけど、箒ちゃんのパーソナルデータを取りに行こうか」

 

「えっ? 今からですか? 何の為に……」

 

「もちろん、今の箒ちゃんのデータを参照して、鍛える所、そのまま伸ばしていく所を見分けるの」

 

「は、はぁ……」

 

「というわけで、お姉さんっとぉー、来るぅ〜〜♪」

 

「わぁっ?! ひ、引っ張らなくても……っ!」

 

 

 

落とした《緋宵》を鞘に直すと、刀奈の手が箒の手を掴む。

ある意味有無を言わせない刀奈の強引さに、箒もたじたじだが、ふと思い出した……。

 

 

 

(手を引かれるなんて……いつ以来だろうか……)

 

 

 

小さい頃は、よく姉の束とともに、泥だらけになりながら遊んでいた。

無邪気に駆けずり回る姉に手を引かれて、その後ろをついていった。

しかし、束がISを開発し、家族がバラバラになってからは、そういう事もなくなった……。

 

 

 

(何だろう……凄く懐かしいなぁ……)

 

 

 

手を引かれながら、今はどこにいるのかもわからない姉の事を考える。

その後、二人は検査室へと入り、箒は道着を脱いで、ISスーツに着替えた。

 

 

 

『じゃあ、その装置の真ん中にに立っててね』

 

「はい」

 

 

操作室の中から検査装置に入力をして、刀奈は準備を整える。

 

 

『箒ちゃん、準備オーケー?』

 

「ええ。いつでも大丈夫ですよ」

 

『はい、じゃあ〜行きまーす♪』

 

 

装置が作動し、箒の立っている所の周りを、円状の機械が上昇していく。

足元から頭上まで、全てを行ききった瞬間に、装置は止まり、検査終了。

 

 

 

『っ!? こ、これは……っ!』

 

「っ? どうかしたんですか?」

 

『ほ、箒ちゃん……っ!』

 

「な、何ですかっ?!」

 

『やっぱりおっぱい大きくなってるわよっ!!!!』

 

「なっ!? またそれですかっ! もういいですよ、そんな事は……っ! ほんと真面目にやってくださいっ!」

 

『いやんっ……そんなに怒らないの。検査は無事終了よ……お疲れ様』

 

 

ニコニコとしながら、掴みどころのない雰囲気を醸し出す刀奈。

だが、どうしてかわからないが、そんな彼女のことを嫌いにはなれない。

そう思いながら、箒は検査室を後にした……。

 

 

 

 

 

「にしても……どういう事なのよ、これは……」

 

 

 

刀奈は一人、操作室の中で、驚愕と不審感に見舞われていた。

先ほどの検査で、普段では絶対に崩さないポーカーフェイスを崩してしまった……。

それもこれも、いま表示されている箒のパーソナルデータだ。

ISの適正値項目。

その数値が、驚愕のものだったのだ。

 

 

 

 

入学時 適正ランクーーーー『C』

 

 

検査時 適正ランクーーーー『S』

 

 

 

 

一夏に続き、箒の適正値も急上昇していた。

 

 

 

 

「何なのよ……これは……!」

 

 

 

さすがに、今回ばかりは刀奈も言葉が出ない。

一夏もそうだが、箒はもっと異常だ。

一夏と大して変わらない時期にISに触れた……しかし、一夏にはもとより専用機があり、箒は夏の臨海学校までは、一般生徒と同じように訓練機での鍛練しかできなかった。

なので、他の専用機持ちたちに比べると、箒は専用機での訓練時間が極端に短い。

にもかかわらず、IS適正が一夏を上回る速度で向上し、これまたヴァルキリーレベルの適正を出したのだ。

 

 

 

「専用機……《紅椿》に乗った事で、IS適正が跳ね上がった?」

 

 

 

考えられるのはそれだけだ。

無論、箒自身も鍛練は欠かさなかっただろう。

だからと言って、そうそう上がるものでもない。

一夏といい、箒といい、この様な現象はISが出来て以来、初めての事だ。

 

 

「二人の専用機……《白式》と《紅椿》は、束博士が自ら手を加えた機体。

その中でも、《紅椿》に至っては、束博士が完全監修の元に作り上げた機体だし……。

一体、何が起こっているのかしら……?」

 

 

 

共に束が制作に立ち会い、世代も最新世代型のIS。

性能は言わずもがなピカイチ。

どちらも展開装甲をあしらった全距離対応型の最新鋭の高性能機体。

そんな性能の機体に乗り続けているから、適正値も向上したのだろうか……。

 

 

 

「いや……そもそも適正値の方を誤魔化してた……?」

 

 

 

刀奈の脳裏に思い浮かんだ事だ。

入学時の適正値表示自体が、全くの嘘で、本来なら二人は適正ランクは相当高かったのではないだろうか……。

二人の戦い方は一貫している。

銃は使わず、日本刀に近接戦闘。高機動力を生かした、撹乱動作。

その戦闘内容は、現在のIS戦闘では珍しい。

みんな銃やレーザー、大砲、イメージ・インターフェーズ、特殊武装…………どれもが現代では当たり前になってきた技術そのものだ。

しかし、一夏と箒の場合、二人が飛び道具が苦手とはいえ、こうも高機動近接戦闘型という一貫した機体になるだろうか……?

セシリアの駆る《ブルー・ティアーズ》も、遠距離射撃型ではあるが、ビットによるオールレンジ攻撃と、セシリア本人は使わないが、近接戦闘用のブレードが備え付けられている。

シャルの駆る《リヴァイヴ・カスタムⅡ》も、接近戦と中間距離の相互を得意とする様に設計してあるし、その武装もまた然り。

鈴の駆る《甲龍》も、基本的に近接戦闘型ではあるが、目に見えない砲身と砲弾を作り、撃ち出すという特殊武装《衝撃砲》を備えているため、完全な近接戦仕様とは言い難い。

過去にそんな機体があったとすれば…………

 

 

 

「っ…………千冬さんの《暮桜》と《白騎士》……」

 

 

 

どちらも近接戦闘のみの機体だ。

そして《暮桜》の武装に至っては、一夏の《白式》に後継までされた……。

これもまた、束によるもの。

そこから、データを採取して作り上げた《紅椿》。

一連の流れは、関係性があるのだろうか……。

 

 

 

「…………」

 

 

 

刀奈は操作室のPCを操作して、あるデータを探した。

だが、通常通りに探しても、見つかるわけもなく……。

 

 

 

「ちょぉーっと、頑張っちゃおうかなぁ〜」

 

 

 

制服のポケットから、SDカードを取り出し、それを端末に挿入する。

すると、画面が一瞬だけ消えて、また再起動……。

 

 

 

「ハッキング開始♪」

 

 

 

流れる様な指使いで、電子キーボードをタップしていく。

そして、ものの数秒で、見たかったデータにたどり着いた。

 

 

「っ……これは……」

 

 

今回二度目の驚き。

刀奈が見ていたのは、国際IS委員会に残されていた、『織斑 千冬に関するパーソナルデータ』だった。

その項目の真ん中辺りに、刀奈が知りたかった情報が載っていた。

 

 

 

織斑 千冬

 

適正値ランクーーーー『SS』

 

 

 

ありえない数値に、今度こそ言葉が出ない。

織斑の姓を関する千冬と一夏……そして、ISの生みの親たる篠ノ之の姓を関する束と箒。

この二つの家系は、凄く異常で、そしてそれ以上に、まだ何かを隠し持っているのではないかと、この時刀奈は思い知ったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 






次回からは、いよいよタッグマッチ戦に入りたいと思います(⌒▽⌒)

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