ようやく、投稿することができるぜ( ̄▽ ̄)
オリジナルストーリーを絡めると、どうも長くなるし、設定などがイマイチになって筆が進みませんね。
学校説明会という一仕事を終えた一夏。
中学生たち相手に、少し不安な言い方をしてしまったかと悩んでしまったが、あれでよかったのだと、刀奈から言われた。
そうだ……あれでよかったのだ。
これから先、いつ戦いに巻き込まれるのか、知れたものではない……そんな戦火に、いずれここに来るであろう後輩たちを、巻き込むわけにはいかない。
「チナツくん。あんまり考え込まない方がいいと思うよ?」
「アスナさん……でも、やっぱり不安じゃないですか。俺たちもそうですが……これからこの学園を受験する子たちは、何も知らないままに、ここへとやって来るわけですから」
「うん……でも、だからって受験するな、なんて言えないしねー」
「ええ……。もしもこれから先、また襲撃なんかされたら、今度は犠牲者が出るかもしれませんし……」
「それを考えると、どうしようもないよね……」
今現在、一夏は明日奈とともに、倉庫の片付けを命じられていた。
朝のホームルームが終わり、副担任の真耶に呼ばれて、二人は職員室へと向かった。
すると、放課後に倉庫の整理を手伝って欲しいと言うのだ。
もちろん、二人は断る理由もないと、その申し出を承諾したのだが……。
「それにしても、この部屋どんだけ放置されてたんですかね?」
「うん……ちょっと埃っぽいし、倉庫という割には、置き方が雑なんだよねー」
「これは、掃除もしながらやった方がいいですかね……」
「うん、そうしよっかー」
家事スキルの高い二人は、倉庫内においてあった掃除道具を手に取り、換気扇を回すと、即座に行動した。
マスクをつけ、明日奈は髪を結い上げて、ゴム手袋をはめる。
まずは荷物を棚に持ち上げ、そこから床を掃いて、雑巾掛け。
「アスナさーん、こっち掃き終わりましたよー」
「はーい」
再び荷物を動かし、今度は違うところを掃除する。
そうする事一時間足らずで、倉庫内は綺麗になり、見違えるかのような空間の出来上がりだ。
「やっぱり二人でやると速いねー」
「そうですねー。よし、これで山田先生の依頼は完了っと! 後は……」
「この資料を地下の倉庫に持っていけばいいんだよね?」
そう言って、明日奈が持ち上げた資料は、IS学園の図書室にも置いてある参考書だ。
一夏たちも類似の物を持ってはいるが、明日奈が持っているのは、より詳細な事が記載されているものだ。
「地下区画は、俺たち生徒でも立ち入り禁止の場所があるのに、大丈夫なんですかね?」
「うーん……山田先生に聞いてみたら、一応大丈夫だって言ってたよ」
「ふーん……ならいいんですけど」
二人は資料を手に持ち、その場を後にした。
真耶から受け取っていた、地下の倉庫がある場所までの地図を見ながら、地下区画へ入っていく。
「IS学園って、ほんと広いですよねぇ〜……」
「う、うん……そうだね……」
「こんな施設まであったなんて……。ここって、普段何に使ってるんしかね? 一応、シェルターっぽいものもありましたけど……」
「そ、そうだね……」
「……ん? アスナさん?」
地下区画に入ってから、妙に明日奈の様子がおかしくなった。
一体どうしたのだろうと、一夏が後ろを振り向いた瞬間、それがどうしてなのか、一夏にはわかってしまった。
「ん……んんっ……!」
「………………あの、アスナさん?」
「な、なに? チナツくん」
「もしかしてなんですけど…………怖いんですか?」
一夏の問いかけに、明日奈は体をピクリと震わせると、すぐさま否定した。
「そ、そんなわけないじゃない! ちょ、ちょっと不気味だなぁ〜って…………」
「それを俗に怖がってるっていうじゃ……?」
「ち、違うって! ほ、ほら! 見ての通りに全然平気ーーーー」
カシャーーーン
「ふあっ!?」
「……………………」
どこか遠くで、何かが落ちる音がした。
まぁ、この地下区画に入る前に、整備室の横を通りすぎてきたので、整備室で作業中の生徒たちが、工具か何かを落としたのだろう。
平気だと言った矢先にこれだ……互いに気まずい空気が流れる。
「あの……俺だけで行ってきましょうか?」
「……だ、大丈夫だよ! 私も先生からお願いされたんだし、これくらいならなんとでもーーーー」
ウィィーーーーン!!!!
「ひゃあっ!!?」
「………………」
今度は何かの機械音。
アームでも動かしているのか……それとも電動ドライバーかな?
「アスナさん……」
「ご、ごめん……ちょ、ちょっとだけ、怖い……」
カタカタと震えながら、青ざめて物を言われても……。
っていうか、ちょっとだけ?
どう見ても尋常じゃないくらいに怯えている。
「じゃあ、俺の後ろにいてください。それなら、大丈夫ですか?」
「う、うん……」
涙目になりながら、上目遣いでこちらを見てくる明日奈に、一瞬ドキッとした一夏。
なるほど、刀奈も一夏からしてみれば年上だし、こういった表情をしない事はないが、やはり明日奈と刀奈とでは雰囲気が変わる。
「…………」
「な、なに?」
「あ、いや……ほんとにアスナさんは、こう言うところが苦手なんだなぁ〜って」
「そ、それはそうだよー! だって、不気味じゃない!」
「まぁ、そうなんですけど。でも、ここにオバケなんて出るんですかね? 仮にも、科学の力が結集した区画の中心なんですけどね……」
「それでもだよー!」
一夏の制服の後ろの裾を握りながら、一夏と明日奈は目的地へと進んでいく。
一応、念のためにフォローを入れておいたのだが、どうにもイマイチの効果だったようだ。
でもまあ、科学の世界に、幽霊などのオカルト的なものがいるとは、あまり思いたくない。
「にしても…………」
「な、なに?」
「誰もいませんね」
「そ、そうだね…………」
辺りを見渡しても、あるのは壁につけられた非常灯の光のみ。
それが永遠と思えるほど長い廊下に点々と点在しているのが確認されているだけで、他にはなにも見当たらない。
ましてや人の気配なんてものは一切感じられない。
そう考えていると、一夏自身も、どこのなく不気味に思えてきて、背筋に寒気が走った。
(いかんいかん……俺まで怖がってたら、いつまでたっても目的地に着かなくなる……っ!)
自分自身にも喝を入れて、一夏は明日奈を連れて歩みを進める。
ーーーこちらA班。ターゲットを捕捉。予定通り目的地へと行軍中。
ーーーB班了解。引き続き監視をされたし……進路の変更があった場合は、対抗措置を許可する。
ーーーA班了解。
ーーーC班、およそ300秒後にそちらに到着する。準備を進められたし。
ーーーC班了解。
闇に紛れた者たちによる、一夏、明日奈に向けてのとびっきりのサプライズ。
メンバー達にだけ開かれた独立したタイムラインでのやり取りが行われている。
その仕掛け人たる人物達は、それぞれの役割をこなし、最終目的地へと二人を誘導していた。
道を変えようものなら、隔壁を下ろして道を遮断し、止まろうものなら先ほどと同じように、何かが落ちる音や、機械音を出してやればいい。
計画は順調に進んでいる。
「ふふっ…………楽しみだわぁ〜♪」
「ああ…………せっかくなんだ、パァーっと驚かしてやろうぜ……っ!」
「ええ、そうね……っ!」
「ククク……」
「ふふふふっ……」
最終目的地で待つ二人の男女が、モニターに映し出された一夏と明日奈の顔を見ながら、楽しそうに笑っていた……。
「ここかな?」
「と、到着?」
「みたいですね」
「よ、ようやくだぁ〜……」
背中にしがみつく明日奈を引き連れ、ゆっくりと行軍していた一夏。
今ようやく、目的地の扉の前にたどり着いた。
真耶から渡された地図には『Bー57』と書かれた場所がゴールとなっているため、目の前にある『Bー57』と書かれた扉が、目的地で間違いないだろう。
一夏はドアノブに手を掛け、扉を開いた。
中は暗く、光が一切ない。
「山田先生ー? 頼まれた資料、持ってきましたよー?」
一夏が声をかけるが、全くもって反応がない。
不審に思い、一夏が中に入ろうとしたら、急に明日奈が背中を引っ張った。
「うおっ?!」
「ちょ、待って! ここに入るの?!」
「え? だって、ここが目的地ですよ?」
「そ、そうだけどさぁー……」
「大丈夫ですよ……山田先生がここだって言ったんだし……」
「じゃあ、なんで明かりもつけずに反応もしないの!?」
「あー…………確かに」
「でしょう?! な、なんか、怖いよー……っ!」
「うーん……でも、ここまで来たんですし、後もうひと踏ん張りですよ、アスナさん」
「えぇ〜……」
本当に嫌そうな顔で言う。
しかし、もうここまで来て、今更帰るなんてことはできない。
明日奈にも覚悟を決めさせて、二人は中に入った。
「とにかく明かりをつけますか」
「そ、そうだね……えっと、ここの明かりって、どこ?」
「えっと…………」
二人は暗い部屋の明かりを点ける為に、その電源を探す。
だが、次の瞬間、二人が入ってきたドアが、勢いよく閉まってしまったのだ。
「いやあぁぁぁっ!!!!! なに!? なにぃぃぃっ!!?」
「っ!?」
あまりの恐怖に、明日奈は両手で頭を抱えてしゃがみこんでしまい、一夏も警戒心を高め、鋭い目つきで周りを見回した。
「ひ、ひいぃぃ……っ!」
「っ……《雪華楼》抜刀」
一夏の左手に、純白の鞘に納められた刀が現れる。
それを腰だめに構え、いつでも抜けるように神経を研ぎ澄ませる。
「っ…………!」
周りには気配を感じない。
だが、何か変な予感が頭をよぎる。
それもこの間の学園祭の時に限って、襲撃を受けたのだ……今回のようなことが起きてもおかしくはなかった。
「ったく……学園の警備体制はどうなってんだよ……っ!」
学園祭の時には仕方がなかったが、今回は状況が違う。
ましてや、今隣には恐怖で震えている明日奈もいる。
何としてでも守らないと……。
「た…………けて…………」
「ひっ!?」
「んっ?」
「た……け……」
「な、ななななに……っ!?」
「この声……どこから?」
不気味な声。
だが、若い女の声だということはわかる。
しかし、暗闇とかした部屋のどの辺りから聞こえてくるのかはわからないままだ。
「た、たすけーー」
「っ!?」
しかし、二人はその声の主を、確かに見てしまった。
「助けてーーーーッ!」
「いやああああああーーーーーーーーッ!!!!!」
「ぎゃああああああーーーーーーーーッ!!!!!」
二人の絶叫が、その部屋に木霊した。
白髪の髪……光る黄色い眼は虚ろなものであり、片方の眼は包帯で覆われていた。
真っ暗闇なのに、どうしてそこまでわかるのか?
なぜなら、その少女の体が、青白く光っているからだ。
ゆらゆらと、まるで魂の抜け殻のように、吹けば消えてしまいそうなほど弱い。
だが、その足取りは確かだ。
二本の足で、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
差し出された両手は、大火傷を負っているのか、所々黒くなっており、体の所々を包帯で覆い隠している。
まるで、焼け死んだ人間の亡霊のようなその姿に、明日奈はもちろん、一夏も恐怖した。
「あ、ぁぁ……! た、助けて、チナツくん!」
「っ! は、はい! 逃げますよ、アスナさん!」
完全に腰が抜けている明日奈を背負い、一夏はその場から逃げ出す。
あの亡霊が一体何なのか?
なんてことは二の次だ。
とりあえずここから離れることが先決だと考え、一夏は閉まりきったドアに向かって駆け出した。
開かないのならば、抜刀した《雪華楼》で断ち切るまでだと考えて。
しかし、その道を塞ぐかのように、二つの人影が現れる。
「なっ!?」
「フッ……!」
「ふふふふっ……!」
その手には、日本刀と青龍刀が握られており、二つの武器を持つ二人の手は、全てが包帯に覆われていた。
体の全体は、黒いローブに身を包んでおり、顔もフードを目一杯被っているため、正体はつかめない。
ただ、奇怪に思ったのが、その二つの人影には奇妙なものが付いていた。
日本刀を持っている方は、狐のしっぽがついていて、もう片方の青龍刀を持っている方は、猫のしっぽがついていた事。
そしてよくよく見れば、フードの部分が不自然に盛り上がっている……。
「え、えぇ〜っと…………君たち、亜人間?」
「フッーーーーッ!」
「シャアアアーーーーッ!」
「うおおおおおっ!? こっち来たあぁぁぁッ!」
日本刀と青龍刀を掲げ、ものすごい勢いでこちらに向かってくる亜人間たち。
左右からの剣撃に対し、一夏は後ろに下がって躱す。
だが、やはりそれでは見逃してくれない。向こうも素人とは思えない太刀筋で、一夏と明日奈を狙ってくる。
「やろう……ッ!!!!!」
「「っ!?」」
二人の剣撃を受け止め、スイッチが入った一夏は、その剣撃をだった一刀のもと薙ぎはらった。
鋭い一撃を、亜人間たちはその刀で受け止め、後ろへと追いやられる。
そして、一夏から放たれた鋭い眼光に当てられ、一瞬だけ身が竦んだ。
互いに膠着状態に入る。
どちらが先に攻めて来るのか、対して一夏はどう迎撃しようか……言葉ではない、その戦場の空気が、そうやって語らせていた。
「っ!?」
だが、その場の掛け合いは、すぐに終わった。
何故なら、亜人間たちと一夏たちとの間に、一本の矢と銃弾が降ってきたからだ。
放たれた角度を確認し、一夏と明日奈はそちらへと視線を向ける。
するとどうだろう……またしても奇怪なものを見てしまった。
今度も暗くてよく顔は見えないが、怪しく光る眼光と、その手に握られたロングボウと、リボルバー式の二丁拳銃。
そして、一番の特徴である、細長く伸びた耳。
なびく髪が、ある意味では幻想的な光景を見せていた。
「は、はは…………」
「亜人間の次はエルフですか…………」
もはや笑うしかなかった……。
亡霊に亜人間にエルフ。ここは一体、いつから人外魔境へと変貌してしまったのだろうか。
だが、せめてこんな薄暗い倉庫ではなく、完全な異世界の景色で見てみたかったものだが……。
「ヤッベェ……どうしよう……」
「え、ええっ?! な、なんで、どうしたの?!」
「退路は亡霊によって塞がれて、近接戦の亜人間と遠距離のエルフ……ほぼほぼ詰んでますね」
「えぇ〜っ! 諦めないでー!」
「そんな事言われても…………」
この状態で戦うのは、まず無理だ。
いや、現状の再確認をしても、今の一夏で、これほどの敵に総対して、当てる見込みはほぼゼロに近い。
ISを用いるか、アバターのようにAGI型ビルドのステータスを体が身につければ、勝てるのだが……。
(くそ……ISが起動しない……!)
この部屋に入ってから、何度かISを起動させようとしたが、反応がない。
なんらかの要因があるのだろうが、それを追求しているよう余裕はない。
「アスナさん、立てますか?」
「う、うん……な、なんとか……」
「なら、走りますよ」
「走る……? どこに逃げるの?」
「この区画には、複数の出口があるはずです。そこがないか探しましょう」
「わ、わかった」
明日奈も勇気を振り絞って、その場に立ちあがり、いつでも逃げられるように整える。
「合図をしたら走りますよ……」
「うん」
「3……2……1……GO!」
一夏は明日奈の手を取り、一目散に駆け出した。
それに従って、亡霊も、亜人間も、エルフも、その二人を追いかけ出した。
必死に手を取り、明日奈を連れて逃げ回る一夏。
だが、それをさせまいと、追ってからの攻撃が飛んでくる。
「うおっ!? あっぶねっ!」
「うわあっ!?」
「アスナさん、こっちへ!」
明日奈を自分の後ろへの移動させ、明日奈を守るようにして戦う。
だが、相手側の攻撃が、妙に力強いのはなぜだろう……?
(何なんだよこの殺気は……っ!)
あまり身に覚えがない事で殺されるのは勘弁願いたいものだ。
どうにかして攻撃を捌き、退路となる通路を発見。
そのドアを開け、すぐさま明日奈を入れる。
「チナツくん! 早く!」
「はい!」
何とか振り切って、一夏もそのドアの向こう側へと入る。
そしてドアをしっかりと締め、開かないようにロックまで施した。
やはり向こう側では、ドアを蹴破ろうとしているのか、先ほどからものすごい衝撃が伝わってくる。
今のうちに身を隠そうと、一夏と明日奈はその場から離れた。
「はぁ……はぁ……こ、怖かったぁ〜……」
窮地から脱した瞬間、体全体から力が抜けた。
その場にへたり込んで、少し涙目になっている目をこすり、ようやく落ち着いてきた明日奈。
「よく、走りましたね。大丈夫ですか?」
「うん……何とか……」
「とりあえずは、ここから離れて、また地上に戻りましょうか」
「そうだね……そうしようか……」
差し出した一夏の手を取り、明日奈は立ち上がって、その場から離れていった。
相も変わらず薄暗い通路を、一夏が先導して歩いている。
明日奈はそんな一夏の制服の上着の裾を掴んで、後をついていく形だ。
「ごめんね、チナツくん。私がもっとしっかりしてれば……」
「………………」
目に見えて落ち込んでいる明日奈に、一夏は優しく返した。
「アスナさん…………アスナさんは、しっかりしてるじゃないですか……」
「え?」
「アスナさんがいなかったら、俺たちは、SAOを攻略できなかったんですよ?
アスナさんが、頑張ってくれたから……俺たちは、また出会えたんです……」
「そ、そうなのかなー?」
「そうですよ。キリトさんも言ってましたけど、アスナさんが居てくれた事で、あそこまで攻略が進んだんだって。
俺は、途中で前線から離脱して、横道に逸れてしまいましたけど……そんな俺を、また攻略組として誘ってくれたアスナさんとカタナには、本当に感謝しているんですよ?」
「チナツくん……」
「だから、少しくらい、気を抜いてもいいんじゃないですか?」
「え……?」
「アスナさんはいつも頑張ってるんですから……だから、ほんの少しだけでも、ゆっくりと気を抜いてもいいと思うんですよ」
「…………ふふっ」
「アスナさん?」
「あー、ごめんね? チナツくんが、キリトくんと同じ事を言うから、懐かしいなぁーって」
「え? キリトさんが?」
「うん……第74層の迷宮区を二人で攻略する時にね、キリトくんが私に言ってくれたの。
私は頑張ってくれたんだから、自分のようないい加減な人と、息抜きするくらいは、許されるじゃないかって……ふふっ♪」
「ははっ、キリトさんらしいですね、それ♪」
「ふふっ、チナツくんもだよ♪」
「え、そうですか?」
「うん♪」
懐かしい思い出話に花を添えてながら、二人は出口を探して彷徨う。
何度かそれらしきものを見つけてはみたものの、違う通路へと入ってしまうため、余計に迷う。
「まるで迷路だな……」
「うーん……VRみたいに、地図があればいいんだけど……」
「ISも展開出来ないみたいですしね」
「えっ? うそ……!」
「ええ……。さっき襲われた時に確認してみたんですけど、何故か反応しなかったんですよね……今はどうかわかりませんけど……」
「じゃあ、試しに展開してみる?」
「そうですね……」
二人は自身の待機状態となっているISに意識を集中させ、その名を叫んだ。
「来い! 白式!」
「来て! 閃華!」
待機状態から眩い光が放たれたが、それもすぐに収まる。
「……やっぱりまだ……」
「ダメみたいだね……」
「でも、武装だけは出せるんですよね……」
「あっ、そうだよね……チナツくん、さっき《雪華楼》を出して戦ってたんだし……」
「なら、なんらかのジャミングのようなものを受けているんでしょうかね……?」
「うーん……困ったなぁー。これじゃあいつまで経っても抜け出せないよ……」
いずれは戻ってこないことに気づいた真耶あたりが探し出してくれるであろうが、こうも長時間地下に閉じ込められるというのも、あまりいい気分ではない。
「こっちは……まだ行ってませんでしたよね?」
「え? あ、うん……そうだね」
一夏が指さした方向は、何やら一際目立つように青色のライトで脇道を照らしていた。
「な、何なのかな……あの部屋」
「うーん……あの部屋だけ、道が照らされてるっていう事は、より機密が重視している部屋なのか……あるいは、出口への道標なのか……?」
「後半だったら、迷わず進むんだけどなー」
そう言いながらも、一縷の希望を持って、二人は部屋の中に入った。
『ふふふ……』
「「っ!?」」
『よくぞここまでたどり着きましたね……織斑 一夏くん……結城 明日奈さん?』
「っ……なんで、私たちの事を……!」
「何者だ!」
どこからともなく響いた若い女性の声に、明日奈と一夏は反応した。
だがその後、二人はふと、その声に聞き覚えがあるのに気づいた。
「今の……」
「ええ……たぶん……」
二人の思考を読んでいたかのように、その部屋の明かりが、一斉に点灯した。
「きゃっ?!」
「ううっ!?」
急に眩い光が、視界に飛び込んできて、二人は即座に目を瞑り、腕で視界を遮った。
しばしの時間をおいて、一夏と明日奈が目を開いた時……そこに、奇怪な光景が広がっていた。
『はーい! ようやくここまで辿り着いたお二人には、報酬として、特別サービスが受けられる権利をプレゼントでーーす♪』
「は、はい?」
「は……?」
目の前にいた眼鏡で幼顔の副担任……真耶の姿を見た二人は、一体何がどうなっているのか、全くわからないという感じに呆然としていた。
『さぁ、二人とも、壇上に上がってきてください!』
「え、いや、あのぉ〜……」
「山田先生? これは一体どういう…………」
何がと説明をしてもらいたい二人だったが、真耶はそんな二人の問いかけには答えず、ただ手元にあった資料で口元を隠し、頬を赤らめてこう言った。
『それは…………秘密です♪ あなたたち自身が、ちゃんと感じとってください』
「「っ??????」」
真耶は何を言っているのだろう……そう思いながら、一夏と明日奈は、目の前にある部屋……赤い暖簾に桜の模様をあしらい、一夏という名前が載っていた部屋と、黒に白い字で明日奈と書かれた暖簾をそれぞれくぐった。
入り口が別々になっているため、その先からは一人で行かないといけないらしい……。
明日奈の事を心配しながらも、一夏は足を前へと進めた……そして……
「…………え?」
「おかえりなさいませ、旦那様♡ この良妻《玉藻》が、疲れた身も心も、癒して差し上げます♪」
奇妙な格好だ……まず、和装……蒼を基調にしていて、帯や裾のあたりは黒になっている。
だが、その着方に少し問題がある。
早い話、着崩しているためか胸元は見えそうだし、丈が短いのか、裾丈が足の太ももの中腹……膝上10センチくらいのところまでしかないため、なんだかこう……すごくエロい。
しかもそれにニーソで、なぜなのかはわからないが、狐の耳と尻尾を装備していると来たもんだ。
一夏は、目の前にいる自分の恋人……刀奈の姿に、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
美しい形でお辞儀をする恋人の姿に、魅了はされるのだが、その格好が凄いので、ギャップで正気に戻った。
「あ……えっと、カタナ、さん……?」
「はい! なんでしょうか旦那様♡」
「あ……うん、その……こ、これは一体?」
「ここに来るまでに、幾多の困難を乗り越えた旦那様を、この玉藻! 少しでも癒して差し上げたいと思いまして……。
ですので、旦那様は今一度ゆっくりとくつろいでいてくださいませ……」
「あぁ……うん……」
「ふふっ♪」
ただ言われるがまま、刀奈……いや、玉藻さんの指示に従い、一夏はちゃぶ台が備え付けられている居間へと座らされた。
「少し、お腹が減ってませんか?」
「ん? …………ああ、そうだな。ちょっと減ってきたかも」
「なら、少し小腹を満たしておいたほうがいいですね♪」
そう言って、玉藻さんは尻尾を左右にフリフリさせながら、台所から食べ物を持ってくる。
「このあとはメインディッシュですから、これくらいでよろしいでしょうか?」
ちゃぶ台の上にポンと置かれたものは、湯飲みに入ったお茶と、炊き込みご飯で作ったおにぎりが二つ。
「おお……っ!」
「さぁ、召し上がれ♪」
「うん……いただきます」
おにぎりを取り、一口頬張る。
ちょうどいい加減に出汁が効いており、きのこや人参などの具材の旨味や甘味が、口の中で広がっていく。
「うん……っ! 美味しい……美味しいよ、カタナ!」
「っ〜〜〜〜!!! ほんとっ!? よかったぁ〜〜……あっ、ち、違う! んんっ! それは大変よかったです♪」
「いや、もう……言い直さなくても良くない?」
「はて……何のことでしょうー?」
そういうやりとりをしながらも、おにぎり二つを完食し、お茶を啜る。
すると、玉藻さんが後ろへと回ってきて……。
「旦那様。さぁ、こちらへ」
「え?」
ちゃぶ台に湯飲みをおいて、一夏は振り返った。
すると、玉藻さんはそこで正座をして、そのすらっとした自身の膝をポンポンっと叩く。
「えっと……」
「早く寝てくださいな♡」
「う、うん……」
いつもの彼女と雰囲気が全然違うため、どこかこう、戸惑ってしまう。
一夏は言われた通りに、頭を玉藻さんの膝に乗せた。
俗に言う膝枕だ。
「はい、向こうをみてくださいねぇ〜」
「えっと、こう?」
「はい♪ そして、リラックス……リラックス……」
「うん……」
ここからどうするのだろう……そう思っていた時、自分の耳に何が入ってきた。
「っ!? って、耳かきか……」
「そのままね……旦那様は、そのままゆっくりしてて……」
「……」
今の声は、玉藻さんではなく、刀奈の声の様な気がした。
それからしばし、一夏は耳掃除をしてもらった。
丁寧な作業で、痛みなんて感じないし、それどころか気持ち良かった。
時折吹きかける息が、とても艶めかしいと感じて、ドキドキする事も。
そして今度は反対側。
反対側も同じ様に丁寧にしてもらい、これで耳掃除は終了した。
「ありがとう……カタナ……じゃあ、ないのか。ありがとう、玉藻」
「ふふっ……どういたしまして、旦那様♪」
あまりよくわからない状況だが、ゆったりとできたので、何でもいい……そう思いながら、一夏は玉藻さんの膝で、安らいでいった。
「えっと……キリトくん? 何やってるの?」
「ん、んんっ! お、おかえりなさいませ、お嬢様。さぁ、こちらへどうぞ」
一方、明日奈も同じ状況下に陥っていた。
なぜだな執事の燕尾服を纏い、洋館をモチーフにした様なセットの真ん中で立って、右手を胸に、左手を後ろへと回して、軽くお辞儀をする。
「あ、あの……キリトくん?」
「お嬢様、私はキリトではありません」
「え?」
「私の名前は……キ、キ……キ〜〜、キラとお呼びください」
「絶対っ、今考えたよねっ?!」
「ん、んんっ! ま、まぁ、立ち話もこれくらいにして、お嬢様はこちらへ」
「うーん……」
とりあえず、このまま立っているのも何なので、明日奈はキリト……もとい、キラの言葉に従い、キラが引いたイスに腰掛ける。
「ここまで頑張ってこられたお嬢様を労う為、このキラ、精一杯尽くさせていただきます」
「…………」
「な、なにか……?」
キラの言葉を聞いた途端、明日奈はジーっとキラの事をガン見している。
キラの額から、ポツっ、ポツっ、と冷や汗が落ちる。
「ねぇ、キリトくん?」
「わ、私は、キラです…………」
「ねぇ〜、キラくん……?」
「はい、何でしょう」
明日奈の声色が、1オクターブ下がった。
しかも、顔は笑顔なのに光がない。これは…………最恐モードの《バーサクヒーラー》アスナの状態だ。
「どうして私がここに来るでに大変な目にあったのかって、あの場にいなかったキラくんが知ってるのかなぁ〜〜?」
「っ…………」
冷や汗が流れ出る。
全身の細胞が、その身に受ける恐怖によって、早く離脱しろと言っている。
「あ、あーえっと……その、ものすごぉーく疲れていらしてたので……」
「うんー……確かに疲れたかなー。一体何でだろうねぇ〜?」
「さ、さぁ?」
顔はニコニコとしているのに、どことなく殺気を帯びている。
そして、手にはいつの間にか握られていた《ランベントライト》。
その切先が、自然とキラに向けられる。
「あ、あの……お嬢様?」
「なに?」
「なぜ、切先を向けるんですか……?」
「そんなの決まってるでしょー?」
ニコっ、と一旦笑って、明日奈はその場に響く様な大きな声でさけんだ。
「本当に怖かったんだからっ! キリトくんのバカーーーーッ!!!!」
「ああああああああっーーーー!!!!?」
その場に、キラ……もとい、和人の断末魔の叫びが響いた瞬間だった。
「あー、やっぱりアスナちゃんは怒ったかー……」
「やっぱりって……怒ると分かっててやってただろうよ……」
「うん……でもまぁ、チナツもいたしー」
「アスナさん……相当怯えていたぞ」
「うん。見てたから知ってるー♪」
「…………後で怒られても知らないぞ?」
「その時はチナツか守ってね♪」
「さすがにバーサク状態のアスナさんは無理だって……っ!」
「ええ〜〜! 私のことを守ってくれるんじゃないのぉ〜!」
潤った目が、間近に迫る。
今着ている衣装と相まって、どこか儚げで、愛おしく思える。
「…………出来ることはするけど、もうバーサク状態だったら、難しいからな?」
「うん♪ チナツ大好き♡」
「うわあっ!」
抱きついてくるカタナ。
和装なのにもかかわらず、露出度が意外にあるので、艶めかしい生肌が、体の所々に触れる。
暑くなっていく顔…………そして、それは抱きついてきた刀奈も同じで、頬か朱に染まっていく。
段々と顔が近づいて……互いの唇が、触れそうになって…………
「ねぇ、即行で二人だけの世界に入るのやめてくんない?」
「「っ!!?」」
突如、その場に現れた、真っ黒ローブの人影が一……いや、その後ろにももう一人と、その後ろからは全身包帯巻きの亡霊が……。
「…………って、やっぱりお前らだったのかよ……」
戦っている最中、何となくだが太刀筋に憶えがあったので、もしかしたらと思っていたが……。
「鈴……それと、後ろは箒とラウラだろ?」
「ほほう〜……よくわかったわね」
「なんだ? その脇役の様なセリフ……」
「誰が脇役か……! で? いつまで待たせんのよ……」
この口ぶりだと、少しばかりご機嫌ナナメのようだ。
フードを脱ぎ、包帯を外す。
やっぱりと言っていいのか、鈴と箒の頭には、猫と狐の耳が……。
ラウラに至っては、火傷と思われた肌をひとつまみすると、まるでテープを剥がしているかのように肌を引き剥がす。
特殊メイク道具だったようだ。
しかも目もよくよく見れば、普段からしていた眼帯を、左目から右目にシフトチェンジしていただけだ。
「むー……あのまま行けば、チュー出来たのに……」
「いつも嫌という程してるでしょう……」
「まったくだ。目を離せばすぐに口づけをしているな」
頬を膨らませて小言をいう刀奈に対して、呆れたように言い返す箒とラウラ。
だが、確かに時間的な問題もあるため、そろそろ移動を開始する。
「ほら、和人が廃人になる前に、とっとと行くわよ」
「そうだったな……キリトさん、大丈夫かな? かなりの絶叫だったが……」
「まぁ、生命反応はあるから、死んではないだろう……」
「だが、きっちり半分は殺されているだろうがな……」
ISの索敵システムを開き、平気で物騒なことを言う弟子とファースト幼馴染をいうことは置いといて、心配になった和人の状態を見に行くために、一夏たちはその場から移動をし、隣にいるであろう明日奈と和人を迎えに行く。
「あらぁ…………」
「うわぁ…………」
迎えに行ったはいいが、やはりというかなんというか……明日奈の機嫌は悪かった。
《ランベントライト》を手に持ち、腕組みをして和人に対してそっぽを向いている。
頬を膨らませながら怒る姿は、ある意味では愛らしいが、その背後で倒れている和人を見る限り、なんとも言い難い光景だ。
「ア、アスナさん……」
「あー、チナツくん。って、カタナちゃんのその格好はなに?」
「あー、うん……チナツへの愛情が形になったっていうかー」
「え、ええっ? あれ、みんなも何かの仮装を…………」
明日奈が刀奈の後ろにいた箒たちを見た瞬間、何かを悟ったような顔になった。
「あー、そう……なるほどねぇ〜。大体は理解したよー……みんながそんな格好をしてる理由は……」
明日奈の表情が、一気に冷たくなった。
にこやかに笑うその笑顔も、どことなく冷気を感じさせるものへと変わった。
「みんなそこに正座しなさい!!!!」
「「「「は、はいぃっ!!!!」」」」
「キリトくんも! いつまでも寝てないで、さっさとこっちに座る!」
「げっ!? バレてた?」
「それからそっちで見ている三人も!!」
「「「っ!!!?」」」
明日奈が指さした方向には、長耳のエルフ姿をした人影が二つと、もう一人、ただ一人だけなんの仮装もしていない人物が……。
「なるほど、エルフはセシリアとシャルだったのか……」
「え、ええ……まぁ……」
「あっははは……実は、そうなんだよねぇ〜」
「それで、簪は一体何をしてたんだ?」
「わ、私は……その、一夏たちを見張る監察官……それと、指示を出す首脳部……だった」
「なるほどなぁ〜……いつの間にかここに誘導させられてたってわけだ」
「ううっ、ごめん……」
呼び出された三人も加わり、一夏以外のこの場いるメンバー全員が、明日奈からのお説教を食らった。
「はーい! みなさんお疲れ様でーす!」
「ああ、山田先生……」
「はい。二人とも、楽しんでいただけましたかぁ〜?」
「全っ然っ! 楽しみなんてこれっぽっちも感じませんでした!」
「あははは……」
真耶に対してもこんな感じ憤慨する明日奈だったが、一応刀奈との約束だった為、一夏も何かとフォローを入れて、なんとか怒りを鎮めてもらった。
「それで、今日は一体なんだったの?」
「時期外れの肝試しはどうかと思って……」
「なんでわざわざ……!?」
「二人には、後で説明するから!」
刀奈の言い分に、追求を求めたい気持ちがあったが、それをする前に、真耶がポンッと手を叩いた。
「あっ! そうでした! みなさーん、これから最後のイベントがあるますから、こちらに集合して下さ〜い!」
真耶の言っていることがさっぱり分からず、一夏達だけではなく、箒達ですら首を捻っていた。
箒が「これで全部終わりじゃなかったか?」と言っていたが、真耶からは強引に進められた。
一同は一箇所に集められて、一夏と明日奈の二人だけは、みんなから離れて、用意されていた壇上の上に上がる。
すると、壇上の床から、光が溢れ出してきて…………やがて、舞台の床下から、何かが上がってくるのを感じた。
おそらく、舞台などで使われる『奈落』のようになっているのだろう……そこから現れたのは、意外な人物だった……。
「えっ!?」
「はっ?!」
一番近くで見ていた明日奈と一夏は、自分達の目を疑っているかのような表情で見ており…………。
「「「「「「「「えええええええええええええっーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」」」」」
それを後ろで見ていた残りのメンバーもまた、驚きのあまり絶叫してしまった。
「え……! うそ……なんで……?」
「ち、千冬、姉……っ?!」
メイド服を着て、左手のお盆にパフェを乗せた千冬が登場。
スタイル抜群の千冬が、メイド服なんで物を着れば、どうなることか…………そんなもの、世にいる男性達全員が、振り返って見直すであろうと思うほど、様になっていた。
普段結っている髪も、全て解いて自然のままに流している。
しかもそんな格好で、本人も恥ずかしさからか顔がほんのりも赤くなっていて、恥じらう表情がまた千冬のイメージに反して、可愛く見えてくる。
「えっ? 千冬姉……何やってんだ?」
「………………な…………うなよ」
「え? なんだって?」
少し俯きながら、こちらに何かを言う千冬だが、あいにくと声が小さくて聞こえなかった。
これもまた、千冬のイメージに反していることだ。
だが次の瞬間、一夏は千冬の本質を見た。
「ーーーー何も言うなよ……何か言ったら殺すぞ…………っ!」
「は、はい…………っ!!!!」
明日奈の冷気を超える絶対零度の鋭い殺気が、一夏を襲った。
そんな千冬が、一夏と明日奈の元へと歩いてくる。
「お前達、口を開けろ」
「へっ?」
「口?」
近づいてきながら、千冬は乗せていたパフェにスプーンを入れる。
そして一夏の口、明日奈の口にと、パフェを無理やりねじ込んだ。
その瞬間、千冬の後方にあった舞台の壁に、突然文字が浮かび上がった。
ALOなどで、クエストクリアのさいに流れるファンファーレを聞きながら、一夏と明日奈は、その文字を読んだ……。
「お誕生日…………」
「…………おめでとう……あっ!」
そこで、ようやく気がついた。
9月の終わり…………それは、一夏と明日奈、二人の誕生日の日付だ。
一夏が27日。明日奈が30日。
もう10月に入るため、一夏の誕生日は過ぎてしまっていたが、それでも、めでたくお祝いの席を設けていたということだ。
「「「「「「「ハッピーバースデーっ!!! 一夏っ! 明日奈っ!」」」」」」」」
いろいろあった地下区画の倉庫から出て、メンバー全員は、食堂に来ていた。
するとそこには、テーブルいっぱいにご馳走が並んでおり、食堂には、一年一組のクラスメイト全員が参加していた。
「うわぁー……っ!!!」
「凄いな、これ……」
「ふっふーん♪ 織斑くん! 私たちだって料理できるんだからねーっ!」
「えっ!? ってことは、これみんなで作ったのかっ!?」
谷本の言葉に一夏は仰天し、思わず聞き返してしまった。
その答えとしてか、クラスメイト全員がピースサイン。
本当にパパっと簡単に作れるしながら、結構手の込んでいそうな料理と、幅広い。
「凄いねー♪ みんな、ありがとう!」
「ああ、このお返しは、いつか必ずするよ!」
「「「「「「「イエェェェェェェイッ!!!!」」」」」」」」
「そんじゃあ! みんなで乾杯するわよーっ!!!」
「みんなー! コップと飲み物準備してーっ!」
「「「「「「「ハーーーーイっ!!!」」」」」」」」
刀奈とシャルの指示によって、みんなテキパキとコップにジュースやらお茶やらを手にしていく。
「みんなー、飲み物はあるー? よし! それじゃあ、二人の誕生日を祝って! カンパァーーーーーーイッ!!!!」
「「「「「「「カンパァーーーーイッ!!!!」」」」」」」」
こうして、二人には秘密にしていたサプライズ誕生日会が、今始まったのだ。
「なるほど……俺たちにあんな任務をさせたのは、これのためだったのか……」
「そういう事。だから、二組の鈴ちゃんと、四組の簪ちゃんに手伝ってもらってたの」
「にしても……」
一夏は周りをぐるっと見回すと、そっと微笑んだ。
そんな様子を、同じように微笑みながら見ている刀奈。
「どうかしたの?」
「いや……こうやって、みんなで賑やかに誕生日会をやるの、初めてだからさ」
「…………」
「なんか……楽しいなぁ……って思ってたんだ」
「チナツ……」
「ありがとう、カタナ」
「ううん……これは、みんなでやろうって言って、みんなが協力してくれたのよ……。
最近は、いろんな事があったから……特にあなたは、一番大変な目にあったんだし」
「そんな事ないよ……でも、本当、ありがとう」
「どういたしまして♪ みんなにも、その言葉を言ってあげてね?」
「もちろん」
一夏は刀奈から離れ、クラスメイト達のところへと向かった。
料理に夢中になっていた子や、話に夢中になっていた子……一夏と話したくて、うずうずしていた子たちのところにも……。
こんな大勢に祝ってもらったのは……本当に初めてだ。
小さい頃は、姉の千冬と篠ノ之家のみんな。
中学時代は、鈴や弾、蘭たちが家に遊びに来て、そのまま誕生日会。
SAOに囚われていた二年間には、誰一人として自分の誕生日を知る者はいなかった。
そんな事を考える余裕すら、あの時にはなかったのだから……。
だから思う……和人や明日奈、SAOで出会ったメンバーと、最愛の恋人……刀奈に会えて、本当に良かったと。
そして、誕生日会はつつがなく進み、みんながそれぞれ思い思いに楽しく過ごしていったのだった。
「あれ? ケータイがない」
「ん? あー、部屋じゃないの? 今日忘れてたとか言ってなかった?」
「あ、そうだった……。悪い、ちょっと取ってくるわ」
「はーい」
突然、一夏は食堂を飛び出した。
自室と同じ建物の中に食堂はあるため、そのまま廊下を歩いて行き、自室に戻って、スマフォを確保する。
そして部屋を出て、鍵をしっかりと閉めてから、再び食堂に戻ろうとした時だった。
「ん?」
ふと、中庭の方に視線が移った。
中庭は、一応街灯が置かれているため、真っ暗というわけではないのだが、廊下の明かりの方が強いのであまりちゃんと見通せない。
だが、そんな中でも一夏には見えたのだ。
(誰かいる……?)
学校の敷地にいるという事は、生徒か教師……だが、どうしてこちらに来ないのか……?
ずっと木の陰……街灯の光がギリギリ届かないような場所に立っている。
気になった一夏は、一度外へと出て、その人影が立っているところまで歩いて向かった。
「誰かいるのか?」
問いかけてみたが、何も返事はない。
仕方ないと、一夏はさらに近づいて行った……が、その足がいきなり……そう、急に止まったのだ。
「っ……!!」
「ふっ……」
一夏の目が、今にも飛び出すのではないかというくらいに見開かれた。
目の前の光景を、その人物の姿を見た途端、一夏の身体中に変な寒気が走ったのだ。
「なっ……なんだ、おまえは……っ!」
「ふふっ……この間は世話になったな……織斑 一夏」
「この間……? はっ! お前は、《サイレント・ゼフィルス》のっ!」
そう……この感覚、あの時と同じ……。
初めて《サイレント・ゼフィルス》を見た時……一夏の体には、変な衝撃のような物が流れた。
あの時、少なからずも会話した時に聞いた声……その声の持ち主が今、目の前に立っているのだ。
だがそんな事は、今はどうでも良かった……何故なら、目の前にいた敵パイロットの顔には、見覚えがあったからだ。
「なんで……! なんでお前は、千冬姉と同じ顔をしている……っ!」
そう、瓜二つ……なんてレベルではない。
おそらく、初めて間近で見たのなら、目の前に立っている者が千冬だと名乗っても、その人たちは信じるだろう……。
それくらい似ている。
だが千冬からは、そもそも同じ顔をした者がいるなんて、聞いたことすらない。
世界には、自分に似た顔の人が、三人はいると言われているが、全く同じ顔を持った者がいるのは、あまり聞いたことがない。
それも、唯一血を分けた姉弟である一夏ですら、一瞬姉だと思うほどの者など……。
(ん……姉弟……?)
一夏の頭の中に、『妹』……と言う言葉が思い浮かんでしまった。
しかし、姉弟は、姉と自分の二人だけ……そう聞いた。
いや、考えてみれば、聞いただけだ。
もしも、その情報に、一部でも嘘が紛れ込んでいるとしたら……。
「おまえは誰だ……!」
「…………」
「一体、誰なんだっ!!!?」
「…………私はお前だ……そう言っただろう、織斑 一夏」
「っ?!」
「私が私でいるために……その命ーーーー」
「っ!?」
「ーーーー貰い受けるっ!!!」
取り出されたのは、拳銃。
躊躇なく引かれた引き金……鳴り響く銃声が、静寂に包まれていた夜に、亀裂を生じさせた……。
次回からは、タッグマッチ戦……それからは……ちょっとだけ閑話を入れたりでもしようかなって思っています。
その後はワールドパージ編で、修学旅行編をやって、ようやくGGOにでも行こうかと思います(⌒▽⌒)
感想、よろしくお願いします!!!!