ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回はバトル無しです。

ちょっと今月から仕事の方が忙しくなってきますので、更新が遅れる可能性大です(T ^ T)




第74話 学校説明会

一波乱あった学園祭が終わり、もう季節は秋に向かっていた。

9月の終わり。

夏休み前に終わった中間テスト。

それが終わり、夏休みに入り、明けてからはまたテストがある。

俗に言う期末テストだ。

このテストで赤点を取ろうものなら、連日連夜補習を受けなくてはならない。

そして追試の後、合格点を取れたのなら、補習は終了するという流れ。

故に、今各クラスでは、秋季大会などでピリピリとしている部活動生と、テストの猛勉強で躍起になっている生徒たちとでひしめき合っている。

そんな中、学園での行事ごとについての話し合いが、教師たちの間で行われていた。

亡国機業によるISを用いた強襲事件が、ついに学園にまで及んできた事。

それによるISの……強いて言うならば、専用機の強奪は、なんとして避けなくてはならない。

故に、学園祭のようなイベントごとは、警備が手薄になってしまう事を考慮して、自粛すべきではないか……というのが話し合われた様だ。

 

 

 

 

「と、言うわけで。本来行うはずだった、『キャノンボール・ファスト』は延期になったわ」

 

「キャノンボール?」

 

「何それ?」

 

「簡単に言うと、ISを用いたレースみたいな感じですよ」

 

 

 

 

昼休みの一時。

いつものように、一夏を始め、刀奈、和人、明日奈の四人で集まり、昼食を取っていた。

そこで、刀奈が教師陣からの通達を、三人に報告しているところであった。

キャノンボール……直訳すると『砲弾』……になるのか?

そんな物騒な名前のイベントがあるのを知らなかった和人と明日奈が、二人揃って首を傾げた。

そこに一夏が補足として、簡単に説明するという感じである。

 

 

 

「チナツが言った通り、このイベントでは、専用機持ちによるISのレース。

その実態は、各国家が開発した高機動パッケージの試験運用なんだけどね……言ってしまえば、メーカーの利権も絡んでるたわいないイベントよ。

まぁ、わたしもそうだけど、国からの命令じゃ、仕方のない事なんだけどね。チナツたちにも、本来なら『レクト』から新型の高機動パッケージがインストールされて、それを試験運用しなくちゃいけないんだけど…」

 

「そんな事したら、また襲撃されるだろうな」

 

「そういう事。そんな事態を避けるために、今回は『キャノンボール・ファスト』を延期するっていう方針になったわ」

 

「まぁ、妥当な判断だな」

 

「というわけで、これからはテスト勉強に精を出さないとね!」

 

「「ああ〜〜〜〜」」

 

「っ!? なんで二人ともだらけるの?!」

 

 

 

明日奈はさも当然のように言っただけなのだが、一夏と和人に至っては、底抜けに気落ちしているようだ。

 

 

「テストかぁ……」

 

「こればっかりはいつになっても慣れないよなぁ〜」

 

 

テスト……本当、嫌な響きだ。

しかし、これを乗り越えなくては、補習地獄が待っている。

 

 

「はぁ……とにかく、やるしかないか……」

 

「みたいですねぇ〜……」

 

「もうー、二人して面倒くさがらないの! 苦手教科、私が教えてあげるから」

 

「そうね。私とアスナちゃんにかかれば、ちょちょいのちょいよ」

 

「「ういー……」」

 

 

 

 

本当、テストって憂鬱だ。

 

 

 

「さてと、私は先に行くわね。仕事が残ってるんだった」

 

「ん? 今から生徒会か?」

 

「うん。もう少し先の話になるんだけど、ほら、受験じゃない?」

 

「あー……もうそんな時期に入りつつあるのか……。来年IS学園に入る生徒は、どんな子たちなんだろうな……」

 

 

 

 

冬になると、当然一年が終わる。

という事はつまり、新たなる一年生が入ってくるという事になる。

もう早いもので、今は生徒会の方で、学校説明会などにも出席しなければならないため、その準備があるようだ。

 

 

 

「そっか……受験かー。懐かしいなぁ〜」

 

「アスナさんは、そういうの経験あるんでしたよね?」

 

「うん……結構大変だったよー。まぁ、勉強の方は問題ないんだけど、その……その時期になると、みんなピリピリしてくるから……」

 

「うわぁ……」

 

 

 

一夏と和人は経験がないため、わからないのだが、明日奈からしてみれば、幼い頃からある種の戦場に駆り立てられていたわけだ。

そりゃあ、色々と強くなるわけだ。

 

 

「と、言うわけで……チナツ」

 

「はい?」

 

「生徒会長として命令します。今度の学校説明には、チナツも参加しなさい」

 

「…………ええっ!? 俺がっ!?」

 

 

 

相変わらずいきなり過ぎてついていけない。

だが、そんな状況に慣れてしまった自分がいる……ほんと、人間は怖い。

 

 

「ついて行って、何をするんだよ?」

 

「簡単な事よ。チナツが各学校の壇上に上がって、IS学園がどういう所なのかを教えて、試験の申込と、試験の日取りを知らせる。

たったそれだけの簡単なお仕事よ」

 

「うーん……………あんまり目立ちたくないんだけどなぁ……」

 

「何言ってるのよ……散々テレビにネットに新聞と、国レベルで各メディアに報道されているのに、今更でしょう」

 

「そうだけどさ……直に行ったら、大混乱にならないか?」

 

「そこは規制をかけてるから、心配ないわ。それに、もし敵の間者が来たとしても、そこいらの有象無象なんて、あなたの敵じゃないでしょ?」

 

「それは……まぁな」

 

「はい! 決まり♪」

 

「ええっ!? 早くねっ!?」

 

「当たり前よ。そんなに長いこと考えさせてたら、あっという間に日が暮れるわ。それに、あなたとキリトは我が生徒会が獲得したのよ? 覚えてるわよね?」

 

「「ぁぁ……」」

 

「というわけで、二人には、これから色々と生徒会の仕事も手伝ってもらうからね? もしこれを断ろうものならーーーー」

 

「「いいです! やります! やらせてください!」」

 

「はい、いいお返事♪」

 

 

 

このまま彼女の策略に嵌ってはならないと、一夏たちの勘がそう告げている。

 

 

 

「キリトくん、大変な時は言ってね? 私も手伝うから」

 

「ありがとう、アスナ」

 

「大丈夫よ。そんな過剰な肉体労働を強いるわけじゃないし……書類を纏めたり、作成したり。

後は簡単に荷物を運んだりしてもらうだけだから」

 

「それなら……まぁ、大丈夫かな……」

 

「じゃあ、早速なんだけど、チナツはついてきて」

 

「はーい……」

 

 

 

 

生徒会室に連行……いや、連れて行かれ……どちらも同じなのだが、一夏は刀奈に手を引かれて、生徒会室へ歩いていく。

生徒会室に行く間に、刀奈からは大体の仕事内容を聞かされた。

なんでも、地方の方にも、学園の関係者が足を運んだりはしていたみたいで、それもかなり前……夏休み前から動いていたようだ。

残るは都心の方であり、そこからは大きな学校や公民館などの施設を借りたりして、多くの高校の関係者たちが合同で説明会を開き、中学生たちを招いているそうだ。

普通ならば、地域周辺の高校の教師たちが、その地域の中学校に趣、直に説明するはずなのだが、さすがに国立のIS学園が相手となると、用意される舞台は大きいらしい。

 

 

 

「で、チナツに行ってもらうのは、近くのコミュニティーセンターでの説明会だから」

 

「近く……って、俺の地元もここの近くなんだけど……まさか……」

 

「うん……もちろん、あなたの地元の所よ♪」

 

「うへぇ〜……マジですか……」

 

「何よ、ホームグラウンドじゃない」

 

「いや、だから恥ずかしいんだよ……」

 

「何を言ってるのよ……ほらシャキッとしなさい! 生徒会副会長!」

 

「はいはい……って! 俺いつの間に副会長になったのっ!?」

 

「へ? たった今」

 

「適当だなっ?!」

 

「いいじゃない……っ! 現に今の生徒会には副会長がいないんだし、私の補佐なら、チナツ以外にはいないわけで……」

 

「…………」

 

 

でもまぁ、彼女の意見には賛同だ。

長年付き添うってきた一夏にしか、わからない所がある。

それに、これは正当な勝負をして獲得した特権だ。

今更嫌がる理由ない。

 

 

「わかりましたよ……生徒会長」

 

「うん♪ それでよし!」

 

「うおっ!? いきなり抱きつくと危ないぞ?」

 

「ええ〜? いいじゃんいいじゃん♪」

 

「また窓の外から撃たれるぞ……」

 

「そん時は倍返しよ♪」

 

「発想が一貫してるな」

 

「それはチナツもでしょ?」

 

「……まぁ、な」

 

 

 

腕に手を回して、密着しながら歩く二人。

それを見ていた生徒たちが、羨望の眼差しや、殺気が満ちた視線を向けていたとか、なかったとか……。

まぁ、公認のカップルとしての専売特許だ。

 

 

 

「はい、これ。チナツが参加する説明会の会場と、参加学校と、招待されている中学校の一覧」

 

「おう……」

 

 

 

生徒会室に入るなり、刀奈が手渡してきた資料に目を通す。

会場となる場所は、やはり一夏の知っている公民館。

本来ならば、自分も高校受験の際に、その場に行って、筆記試験と面接をやっていたはずの場所だ。

電車で駅2つを越えなくてはいけない場所にあるが、地元といえば地元だ。

それに、その周辺にも中高の学校は存在し、同級生たちも何人かはその周辺の学校に行っていたはずだ。

 

 

 

「ってことは、当然その周辺の学校の生徒たちが、会場設営で来てるってことだよなぁ……」

 

「そうなるわね。まぁ、主に生徒会の面々でしょうけどね」

 

「みんな……元気にしてるかなぁ〜?」

 

 

SAOに囚われての二年間。

多くのクラスメイトたちが、見舞いに来てくれたそうだ。

小学校の時のクラスメイトに、中一の時のクラスメイト。それほど長く関わっていないにもかかわらず、みんな親切に接してくれて、今では本当に感謝している。

SAOから解放された時にも、弾を始め、同級生たちが見舞いに来てくれたが、ちょうど受験シーズンの真っ只中だった為、会えていない面々も当然いる。

なので、ある意味では、そういう面々と顔を合わせられると思うと、楽しみではあった。

 

 

 

「その時は、私にも紹介してね? チナツの彼女でーすって」

 

「ああ……そん時はな」

 

 

 

おそらく驚かれるだろう。

自分で言うのもなんだが、今まで気にしていなかったことが多かった……というより、視野が狭い……いや、これも違う。

とりわけ、考え方が偏っていたのかもしれない……。

男友だちも女の子の知り合いも、一貫して同じように見てきた。

そこに恋愛感情なんて入る余地はまったくない。

ただ友だちとして、日々を過ごしていたのだから……。だが、今となっては、少しだけではあるが、そういった行動に反応してしまう。

好意を持ってくれていると感じると、とても嬉しい。逆に嫌気が指しているとわかると、どうしたものかと悩んでしまう。

全くもって、人付き合いというのは、怪奇なものだ。

 

 

 

 

「ええっと……ん? 『聖マリアンヌ女学院』? たしかここって…」

 

「有名私立の女子校よ。なんでチナツが知ってるの?」

 

「いや、確か蘭がここの生徒だったはずなんだよ……でも、ここはエスカレーター式に大学までいけるだろ?

わざわざIS学園を受けようとしなくてもなぁ……」

 

「でも、IS学園は国立よ? それだけで世間からの関心は向けられるし、それに、ISの技術系統の知識を習得しておけば、その関連企業への就職に有利だし、大学に進学するなら、推薦が取りやすいからね」

 

 

 

そうやって、小さい頃から受験をしているのは、いわば未来の自分に投資しているようなものなんだろう。

将来の事は誰にもわからない……だからこそ、少しで有利になっておこうと考えるのだろう。

特にこのご時世だ。ISという世界最強の兵器の誕生によって、世界の基盤は大きく変わったと思う。

また、VR技術の発展が、ISよりも群を抜いて速いため、これからさらにこの時代変わるだろう。

仮想世界と超常兵器が、これから先の未来を、どう変えていき、自分たちはどう変わっていくのか……。

学生である自分たちは、慎重に考え、悩んで行くしかない。

 

 

 

「世界が変わろうとしているのかな……?」

 

「そうね……そんな世界で、私たちがどう生きていくのかが、一番の考え物だと思うわ」

 

「そうだな……今はまだ起きていないが、いずれ、戦争が起きるかもしれないしな……」

 

「戦争……か……」

 

 

 

 

いま、世界の何処かでは、戦争が起きているかもしれない。

女尊男卑という風潮による女性の権力の増加と、それに反する男性たちの不満。

ISという化け物じみた兵器の登場によって、軍関係にもそれが及んでいる。

そして、そういった風潮によって抑圧されていた不満が爆発する……そんな事態になっているのだ。

その起爆剤となるであろう存在こそが、《亡国機業》だろう。

そんな連中と、一戦しあった一夏たちは、おそらく次からも戦いに巻き込まれるだろう……。

そうなった時、IS学園は……そこにいる生徒たちは、いままで通りに過ごせるだろうか……。

 

 

 

「なぁ、カタナ……」

 

「なに?」

 

「俺、思うんだけどさ……この学園はいいところだけど……普通の女の子たちが来るのは……やめたほうがいいのかもしれない……」

 

「どうして……?」

 

「みんな……それぞれ思いは違うと思う。真剣にISについて学びに来ている子達もいるかもしれないし、逆に、そういった内申書とかに有利だからって来てる子達もいる……」

 

「うん……」

 

「でも、これから先、戦いに巻き込まれないという保障はない……だから、そういう事も含めて、考えて欲しいな……て、思ってる」

 

「…………うん。そうよね……だから、その事を含めて、チナツに話してもらいたいの……あなたは、そういうの事を知っている。

戦いの恐ろしさを知っている……だから、あなたが言ってくれるなら、みんな納得するんじゃないかって……正直期待してるの」

 

「カタナ……」

 

 

 

「ふふっ」と笑いながら、こちらを見ている刀奈を見て、一夏は「はっ」と何かに気づいた。

 

 

 

「もしかして……俺がそう言うだろうと思って、こんな話をしたのか?」

 

「さぁ? どうでしょう〜♪」

 

「………………」

 

 

 

見透かされたような気がした。

でも、刀奈にされるなら、嫌じゃない。

 

 

 

「じゃあ、当日はよろしくねぇ〜♪ 大丈夫、付き添いとして私が行くから」

 

「え〜……じゃあ、会長のカタナが説明するもんじゃないの、これ?」

 

「そこはあなたじゃないとダメじゃない……。私よりもあなたのほうが注目浴びるんだし」

 

(まぁ、それもそうか……)

 

 

 

生徒会長直々の申し出ならば、断ることはできないだろう。

そう思い、一夏は資料に目を通し始めた。

説明会に参加する高校と、それを聞きに来る中学校の生徒たち。

どこもいい学校だとか、どのような授業をしていて、どのようなことが学べるのか……。

また、校風や部活動の事なども話してくるだろうから、そこのところを要約してまとめておく。

残る問題は、ISという最先端技術を使うという違いを、どう伝えていけるかどうか、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当日になり、一夏は緊張した面持ちで会場に向かっていた。

学園を出て、刀奈と二人でモノレールに乗り、最寄り駅からタクシーに乗り換えて、会場まで向かう。

その間、一夏はずっと作成した資料に目を通して、緊張感を和らげていた。

 

 

 

「そんなに緊張してたら、体が持たないわよ?」

 

「って言われても……やっぱり緊張はするもんだよ」

 

「しょうがないわね」

 

 

 

タクシーの後部座席に二人。

隣同士に座っているのに、刀奈はもっと一夏の体に自身の体を密着させる。

手を握り、どうやら落ち着かせようとしてくれているみたいだ。

 

 

 

「これで少しは緊張が解れるんじゃない?」

 

「ああ……」

 

 

 

二人して甘い空間に溶け込む。

何故だろう……前の席……まぁ、運転手しか居ないのだが、その運転手から変な視線……もとい、殺気を感じるのは……。

っていうか、何故か赤い涙を流してる……大丈夫だろうか?

そしてようやく……会場となる施設が目に入った。

表の入り口を通り過ぎ、裏の方へと回る。

おそらく、混乱を避けるためだろう。

 

 

 

「みんな表の玄関から入るのに、これじゃあまるで芸能人がプロスポーツ選手だろ」

 

「あなたも含めて、代表候補や代表生というのは、並みの芸能人よりも注目を集めているものよ。

私だって、ファッション雑誌なんかにオファーが来たんだもん」

 

「あー、この間コンビニで見たなー」

 

「あ、そうなの?」

 

「うん、一冊買ったよ」

 

「え……そ、そうなの……?」

 

 

 

刀奈は両手で頬を包み込むと、顔を赤らめてくねくねと体を揺らす。

 

 

「その……どう、だった?」

 

「え……? いや、その……やっぱり、雑誌となると、いい自慢ができそうだよな……うん!」

 

「…………え?」

 

「その、自分の彼女が、こうもでかでかと表紙を飾るとさ、なんかこうー、すっごく嬉しいというか、なんというか……あ、でもなんか、みんなに見られているって思うと、それはそれでなんか嫌なんだよなぁー……うーん……これは、喜んでいいのかな? それとも……うーん」

 

 

 

彼女が美人だということは、一夏自身がよく知っている。

だから、こうして、雑誌の表紙に飾られるのは、とても嬉しい……だが、その反面、自分の彼女がどこの誰とも知らない人たちに見られている……なんていう状況には、何故だか無性に居心地が悪い。

 

 

 

「あ、ありがと……」

 

「え? う、うんまぁ……」

 

 

 

はっきりとしない態度で、褒められてるのか、それとも褒められていないのか……全然わからないのだが、なんだか心がぽかぽかするのは何故だろう……。

最近はいろんなことがありすぎた。

千冬から見せられた一夏のパーソナルデータ。

ISの適性値の大幅アップと、戦闘データの詳細。

ISは、長年蓄積されたその個人の戦闘能力を算出し、その操縦者にあった進化を遂げる。

だが、その年月で言えば、一夏は異常だ。

そもそも女性にしか動かせないISを動かした時点でイレギュラー……その後、ISを手に入れて、半年も経たない内に二次移行。

その専用機《白式・熾天》に至っては、世代間を超越した超進化を果たし、少し前にあった学園祭での襲撃事件。

それによって、一夏と白式の相性はよくなった。

だが、これこそが異常だ。

和人も検査を受けて、データを算出して見たが、多少の上昇はあったものの、やはり一夏よりは良い伸びていない。

これではまるで、一夏が特別な存在であるかのようで…………。

 

 

 

 

「カタナ? どうかしたのか?」

 

「えっ? う、ううん! なんでもないわ……ほら、早く行くわよ! 副会長」

 

「了解だ……会長殿」

 

 

 

 

いまはまだ話せる段階ではない。

なんの情報もなく、その情報も解像度が悪い。

ならば、むやみに知らせて、不安を煽るような事はしないでおこう。

刀奈はぎゅっと、一夏の腕を掴んだ。

 

 

 

「おわっと! おいおい、さすがにここじゃあ……」

 

「いいの。見せつけてるんだから」

 

「ほんと、度胸があるよなぁ〜」

 

「生徒会長で、暗部当主ですものぉ〜♪」

 

 

 

たとえ一夏に何があっても、この手を離さないでおこう……。

刀奈は、その事を改めて強く思った。

 

 

 

 

 

「とりあえず、どこに行ったらいいんだ?」

 

「待合室があったはずだから……そこに行こっか」

 

 

 

二人は待合室に向けて歩みを進める。

中は清潔な佇まいで、どこにでもある地域のコミュニティーセンター。

会議室なども完備しているため、時折ここには会社同士の懇親会の他に、合同発表会や会議が行われるようだ。

そんな綺麗に掃除が行き届いている廊下を歩いて行くと、さすがに人が多くなってきた。

しかも年齢は自分たちと同じくらい……。

近くの高校生たちが、会場設営に来てくれていたのだ。

一夏と刀奈がそこを歩いて行くと、皆の視線は自然と二人に集まる。

それもそうだ。

IS学園の制服は、たった1つしかない。

白をベースとした制服で、しかもテレビで連日連夜報道されている一夏自身もその場にいるとなれば、当然見られるのも無理はない。

 

 

 

「ヤベェ……俺はパンダじゃないってのに……」

 

「ここじゃあ、パンダでしょ」

 

「…………早く入ろうか」

 

「そうね」

 

 

 

待合室と書かれた部屋の前に行き、前を歩いていた一夏が軽くノックをする。

 

 

「失礼します」

 

扉を横にスライドさせて、一夏は部屋の中に入った。

すると、部屋にはすでに、大勢の学校関係者たちが佇んでいた。

その全員が、スーツを着た大人……つまり、教師たちだ。

まぁ、大体そういうものである。

プレゼンするのは、あくまで教師の役目で、生徒たちはその手伝いでしかないはずなのだ……。

 

 

 

「あ、えっと……IS学園の代表としてきました……織斑 一夏です……」

 

 

 

静寂が支配するその部屋に、突如としてざわめきが走った。

 

 

 

「「「うおおおおおーーーーっ!!!!!??」

 

「っ!?」

 

「お、織斑 一夏!!?」

 

「本人か!?」

 

「やばい! やばいやばいやばいッ!」

 

「あ、握手してもらっていいかい!」

 

「わ、私は写真を! 娘がファンなんだよ!」

 

「ああ……えっと……!」

 

 

 

 

予想はしていたが、まさかここまでとは……。

一夏もなされるがままに、一緒に写真を撮ったり、握手をしたり、挨拶をしたり……。

 

 

 

「こ、こんど、うちの学校にも来てください!」

 

「そ、そうですね! うちの学園にも!」

 

「は、はぁ……まぁ、一応は考えておきます……」

 

 

 

 

他校に行って何をするのだろうか……?

そう思いながら、一夏はとりあえず握手をしておいた。

そして、彼らの気が収まったのか、ようやく落ち着いて椅子に座れた。

 

 

 

「ふぅー……」

 

「お疲れ様」

 

「カタナの方には、誰も行かなかったな……」

 

「そりゃあね。私よりも目立つ人がここにいるんだもの」

 

「これ、毎回こんなんだったのか?」

 

「うーん、どうだろう……。まぁ、IS学園自体が珍しいからね。にしても、やっぱり反応は良かったわね。チナツを連れてきて良かった良かった♪」

 

「…………お前、まさかこういうのがあるって知ってて、俺を呼んだんじゃないだろうな……」

 

「さぁ〜? なんのことでしょう〜♪」

 

「ぐふっ…………」

 

 

 

 

どこまでも計算高いなと、改めて思った一夏であった。

そして、ようやく、学校説明会の始まりだ。

参加した高校は、全部で六校だ。

地域の進学校に、工業や商業といった実業系の高校や、私立の高校、また聖マリアンヌ女学院も参加しており、そこにIS学園が組み込まれていた。

発表する順番は、なんともレトロなくじ引きで行われ、一夏が引いた数字は『6』……つまり、最後のトリを務めることになった。

 

 

 

 

「マジか……」

 

「私はプロジェクターを動かすから、天幕の裏にいるわね。頑張って!」

 

「了解……」

 

 

 

会場内が騒がしくなってきた。

今日来た中学生たちにとっては、大事な選択肢を決めるための、大事な日だ。

中には、もうすでに志望校を決めて、その内容や理由を、より自分の中で固めに来ている生徒もいるだろうし、とりあえず聞いて、なんとなく聞いとけばいい……なんて思っている者をいるだろう。

ただ、女子校ということで、『IS学園』と『聖マリアンヌ女学院』がいるから、ここは男子たちには関係ないと思っている部分はあるだろう。

だから、一夏の目的は、女子生徒たちに向けて、IS学園の入学の前に、もう一度自分の中での考えを固めてもらうという事。

これから先、何が起こるかがわからない。

ISという兵器を扱うということは、それ相応の知識と覚悟がいる。

だから、一夏自身のために来たと言われても、納得はできないし、そもそも責任を取れない。

だからこそ、厳しく言うかもしれない……ただ、それは正しいと思いたい。

 

 

 

 

「続いて、『聖マリアンヌ女学院』の説明の番です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

放送室に入っている進行係の人による進言で、一人、また一人と壇上に上がっていく。

まぁ、話す内容と言えば、うちがどんな学校で、どんな校訓の元に教育し、どのような成果を上げてきたか……。

あとは部活動での事や、行事面での事などを伝え、生徒たちに魅力を伝える……。

その辺は、IS学園も同じだ。

非常に倍率が高いゆえに、本当なら、こういった説明会などは不要だろうと思ったが、先の襲撃事件も然り、臨海学校での事件も然り……常に危険と隣り合わせなのだという事を、その身で改めて実感したからこそ、それを次の後輩たちにちゃんと伝えなくてはならない。

 

 

 

「ありがとうございました。では、最後に、『IS学園』の説明の番です……よろしくお願いします」

 

「っと! もう回ってきたのか……」

 

 

 

それほど時間は経っていないかのように思ったが、時計を見ると、きっちり自分の出番の時間だった。

 

 

 

「さてと、行きますか……」

 

 

 

一夏は立ち上がり、壇上に向かって歩き出す。

途中、プロジェクターを動かすPCの前に座っていた刀奈と視線を合わせ、互いに頷きあう。

そして、壇上に上がった瞬間、会場内が騒がしくなった。

 

 

「えっ!?」

「う、うそ、あれって、もしかして……!」

 

「ま、まさか……っ!」

 

「い、いっ…………」

 

 

 

一番前に座っていた女子生徒が、思わず叫んでしまった。

 

 

 

「一夏さんっ!!!!!!?」

 

 

 

蘭だった。

聖マリアンヌ女学院の中等部で生徒会長をしているのだから、まぁ、いても当然と思われるのだが……まさか、一番前にいるとは……。

そう思っている間にも、会場内は一夏の登場によって、全生徒たちが盛り上がり、その場に立ち上がったり、思いっきり叫んでいたりと、まるでコンサート会場のようである。

 

 

 

「あー、んんっ! みなさんこんにちは。本日、IS学園より参りました……生徒会副会長を務めています、織斑 一夏です」

 

 

 

一夏からの自己紹介に、中学生たちのテンションはマックス。

まぁ、地元の有名人がいま目の前にいるのだから、当然といえば当然か……。

 

 

「本日は、学校説明会という事で、私たち生徒会が、直々に赴いての説明を行う事になり、自分も正直、緊張と不安でいっぱいですが、精一杯頑張らせていただきます」

 

 

 

とても緊張しているようには見えなかったが、額の汗や、左手をグーパーに開く癖が出ているところを見るに、本当に緊張しているんだろう。

そう思いながら、刀奈はPCを操作し、スクリーンに映し出された画像を動かす。

 

 

「みなさんも知っている通り、我がIS学園は、『インフィニット・ストラトス』通称『IS』を扱うための知識を身につけるために作られた施設です。

日本国によって設立された当校は、国立校となりますので、その他の設備や、施設は、なんら不自由のない状態だと思います。

そして、また勉学や部活動にも力を注いでいるため、当校の生活は、基本的には、他校と同じように過ごせると思います」

 

 

 

思ったよりも、中学生たちの聞く姿勢がよく、一夏も心置きなく話すことができた。

まぁ、当然といってはなんだが、女子校であるIS学園の説明なんて物を、男子生徒たちが効くわけもなく……。

首をゆらゆらと揺らしながら、寝息を立ててる者までいる。

 

 

 

「また、行事においても、一年生には臨海学校、二年生は修学旅行があり、先日行われた学園祭や、体育祭もありますので、その辺は安心してください。

しかし、やはり当校では、ISによる実習が多く、入試の内容にも、テストなどの筆記試験の他に、面接とISを装着しての実習試験があります。

年々当校を受験するという生徒たちも増えてきていて、倍率も高くなっていますし、ISの適性値のランクにおいても、仕分けられる可能性がある事だけは、まずはわかってもらいたいと思っています」

 

 

 

適性ランクが低いからと言って、落とされる事はないとは思うが、それでも、なるべく適性ランクの高い者を取ろうとはしているようだ。

何故なら、ISを動かせる人材を見つける事と、それをどの程度扱えるのかを精査するためだ。

それが二年生になれば、整備科の生徒としての進路が許されているため、実力主義とまではいかないが、それでも、動かせないよりは、動かせた方がいいからだ。

 

 

 

「それと……これは、みなさんの今後について、よく考えておいてもらいたい事なんですが……」

 

 

 

一夏の声色に、少し不安に思った生徒たちが、今までの目の色を変えて、一夏に視線を送っていた。

 

 

 

「みなさんの中にも、IS学園を受験しようと思っている人達はいると思います……ですがもう一度、その選択が……本当に正しいのかを、もう一度だけ考えて欲しいです」

 

 

 

一夏の言動に、会場が違う意味でざわつく。

それもそうだ。

学校の説明会に来ているのに、何故そんなことを言うのか……。

本来ならば、うちに入学して欲しいと言ってもいいくらいなのに。

 

 

 

「みなさんは、ISについてどれくらいの知識を持っていますか? できた当初は、宇宙活動用のパワードスーツとして認知されていましたが、その後は、各国の防衛の要としての力を振るい、いまではスポーツとして落ち着いています。

実際に自分の姉は、そのISの大会……『モンド・グロッソ』で優勝し、《ブリュンヒルデ》の称号を手にしました。

ですが、その輝かしい功績に隠れて、みなさん忘れているとは思いますが、あれは……兵器であることを、みなさんにはもう一度、理解して欲しいです」

 

 

 

これは、驚くべき事だった。

IS学園の生徒が、そのISを兵器だと言ったのだから……。

 

 

 

「みなさんは、自分が何を言っているのかわからないと思います……ですが、これだけは本当にわかって欲しい……。

ISは兵器と同じなんです。たった数機で、国1つ滅せるくらいの、現行の最先端兵器の頂点をいく物なんです。

だからこそ、それを扱うために、IS学園は作られました。ISという超常の力を持った物を使うのは自分たちなんです。その手に、その行動に、自分や、大切な人たちの命が関わってくる事だってあるんです。

だから、そのための責任と、覚悟が必要なんです。自分は……俺は、今年の四月に入学して、様々な経験をさせてもらいました……ISに乗って戦った事もあります。

その時は、もちろん命がけで戦いました……」

 

 

 

 

一夏の言葉には、噓偽りなどない。

しかし現状では、それを認めようとする物はいないだろう。

ISはあくまでスポーツとして落ち着いたのだから……命がけの戦いなんて……。

絶対防御という存在や、シールドエネルギーなんて単語くらいは知っている。

最低限、操縦者自身の命を守るくらいの事もできると……。

 

 

 

 

「だから、みんなにはもう一度考えて欲しい。ISを……兵器を扱うという事の重さを。

そして、それを使うという事は、責任と覚悟が必要になってくるという事を……その事を踏まえた上で、IS学園を受験するという人は、頑張ってください……俺たちも、少なからず、応援します……!

長々とすみませんでした……以上です」

 

 

 

壇上から降りていく一夏は、どことなく大人に見えた……様な気がした。

他の生徒たちは、一夏の話に困惑している様だったが、一番前に座っていた蘭は、その話が真実だと思えた。

ISは兵器……それを扱っている一夏たちは、一体どれほどの重荷を背負っているのだろうか。

しかもその学園に通っているのは、自分たちと2、3歳しか離れていない人たちだ。

操縦者の年齢層が若くなっていっている……これは、本当なら、まずい事なのではないだろうか……

自分も、IS学園への入学を希望していた内の一人だ。

だが、今の言葉を聞いた後だと、なんだかその選択が正しいのか、よくわからなくなってきた。

 

 

 

「進路……かぁ…………」

 

 

 

ざわつく会場の中にポツンと、蘭の口から言葉が漏れた……。

 

 

 

 





次回は、誕生日会にしようかと思います。
その後、Mことマドカとの遭遇に、簪との和平イベントは無しで、タッグマッチ戦をしようかと思います(⌒▽⌒)

感想よろしくお願いします( ̄▽ ̄)


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