ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回で、学園祭は終わりです(⌒▽⌒)




第73話 沈黙の鋭風

その顔を見た瞬間、自分の心臓が、激しく鼓動するのがわかった。

初めて見たISに……初めて見た顔……いや、実際はバイザーで顔の半分が隠れているから、見えるのは髪と口元だけ。

しかし、ニヤリと笑いながら、こちらに視線を向けているのがわかった。

目の前にいる少女は……いったい何者なのか……敵である事に変わりはないが、しかし、それだけではないような気もする……。

 

 

 

「っ…………何者だ……」

 

「答えると思うか?」

 

「だよな…………だが、お前も《亡国機業》の一員ってのとだけはわかる……。仲間を助けに来たか……?」

 

「仲間……ね。あいにく、あいつとはそんな感情は持ち合わせていない……ただ命令が出てるのでな、回収させてもらう」

 

「させると思うか?」

 

「いや……しかし、お前は私に敗北する……だから自ずと引き渡す事になる」

 

「っ……言ってくれるじゃねえか」

 

 

 

 

 

一触即発な雰囲気。

相手の機体の装備は、見るからに遠距離射撃型の機体だ。

接近戦では、まず一夏の方に分がある。

あとは武装だ。

今目に見えている時点で、右手に持つ巨大なスナイパーライフル。

セシリアのと同じか、それ以上に長い。

そして、先ほど見たBTビット。

あれもセシリアの《ブルー・ティアーズ》と同じもの……。

つまりこの機体は……

 

 

 

 

『一夏さん!』

 

「っ、セシリアか?」

 

 

 

 

プライベート・チャネルで、セシリアからの通信が入った。

レーダーで観測された場所を見ると、アリーナの付近にいたのは間違いない。

それは鈴、簪も同じだ。

ではなぜ、彼女たちはこうも易々と敵に侵入を許したのか……。

 

 

『気をつけてください! そのIS……只者ではありませんわ!』

 

 

 

セシリアの声に、もの凄い緊張感が走る。

今から数分前の事だ……哨戒飛行に出ていたセシリア達は、周りを索敵しながら、増援がいないかを確認していた。

 

 

 

『右舷前方、異常なし』

 

「こちら左舷後方、異常はありませんわ」

 

『こちら簪。索敵範囲内に敵影は無し……警戒態勢を継続』

 

「了解ですわ」

 

 

 

IS三機による索敵と、前後方確認を取っていた。

それらしい機影は見当たらず、このまま何も起こらないでおけばいいと思っていた……しかし、そう思っていたその時になって、その機体は現れた。

 

 

 

『っ! レーダーに反応! セシリア、鈴、左舷前方の方角に、距離5000メートルの位置!』

 

「そんな近くにっ!?」

 

『チィッ、IS単機での索敵じゃあ、そこまで遠くへは調べられないわね……!』

 

 

 

簪の専用機《打鉄弐式》をもって、周囲の索敵を行っていた簪からの通信。

三人の間に緊張が走る。

鈴はすぐにセシリアと合流し、その後ろから簪も近づいてくる。

この中で一番遠距離射撃型の装備を整えているセシリアが、超高感度の望遠機能を使って、近づいてくる敵を補足した。

 

 

 

 

「っ!? そ、そんな!」

 

「どうしたの!? セシリア?!」

 

 

 

近づいてくる敵を視認した瞬間、セシリアの顔が青ざめていた。

 

 

 

「あ、あれはイギリスの第三世代型ISの、BT兵器搭載型試作二号機、《サイレント・ゼフィルス》っ!!?」

 

「「っ!?」」

 

 

 

セシリアが驚くのも無理はない。

自国の……それも、自分と同じタイプの機体が、敵側に使われているのだ。

しかし、今は目の前からやってくる敵を、こちらへ近づけてはいけない。

 

 

 

「迎撃するわよっ!」

 

「了解!」

 

 

 

鈴が《龍咆》を起動させ、簪か《春雷》を展開させる。

衝撃砲と荷電粒子砲が火を噴き、サイレント・ゼフィルスに向かって放たれる。

 

 

「セシリア、何やってるのよ! あんたも狙撃しなさい!」

 

「セシリアっ!?」

 

「っ!!? は、はいぃっ!」

 

 

 

二人からの声に、ようやく正気に戻ったセシリア。

すぐにスナイパーライフル《スターライトmkⅢ》を構えて、セシリアも狙撃を開始する。

だが、敵は早々と撃ち落とされてはくれない。

サイレント・ゼフィルスから、小さいパーツのようなものが射出された。

それは間違いなく、BT兵器搭載型の特殊武装であるビットだ。

しかも、個別で動かせて、レーダーを放てるタイプの物……その数は6機と、セシリアよりも多い。

そのビットは、一度こちらに面を向けると、そこからビームを傘のように広げ、セシリア達の攻撃を防いだ。

 

 

 

「まさかっ、防御用の機能……っ!」

 

「ちょっ、セシリア! あんな装備あんの?!」

 

「わたくしのブルー・ティアーズには搭載されてません……あれは、サイレント・ゼフィルスにのみつけられた装備ですわ……っ!」

 

 

《エネルギー・アンブレラ》

サイレント・ゼフィルスに搭載されたシールドビットだ。

 

 

 

「こちらとて、BT兵器はありますのよ!」

 

 

セシリアがスカートのように下がっていたミサイル・ビットの砲口をサイレント・ゼフィルスに向ける。

発射されたミサイルは、ジグザグの弾道を描いて、確実にサイレント・ゼフィルスに近づいていた。

しかし、その前で、ミサイルはビットによる迎撃で、爆散してしまった。

 

 

「そ、そんな……っ!」

 

 

今相手のビットは、鈴と簪の砲撃によって、シールドを展開している状態だった。

つまり、その状態からジグザグに動くミサイルをビットから放たれたビームで落とすには、よほどタイミングがあっていないと難しい……。

だが、元々、そうする必要がなかった……。

追加とばかりに、簪が《山嵐》の砲門を開き、ミサイルを射出。

すでにロックされているサイレント・ゼフィルスに、逃げ道はない。

だが、またしてもビットからのビームによって落とされた。

サイレント・ゼフィルス本体は、一切手を出していない。

その理由が、セシリアにはわかった。

ミサイルを落とされる瞬間に見た、真っ直ぐにしか飛ばないはずのビームが、突然 “曲がった” のを……。

 

 

 

 

「あれは……《フレキシブル》っ!? そんな、ありえませんわ! BT兵器の適正値は、私が一番でしたのに……なぜ……っ!」

 

 

 

《偏向射撃》……または《フレキシブル》と呼ばれる技術だ。

BT兵器搭載型のISに出来る可能性があると、そう言われていた技術……なぜ、言われていた……というと、本国イギリスにおいて、BT兵器への適正値が最も高かったセシリアですら、《フレキシブル》を使うことができなかったからだ。

セシリアの操縦技術及び、射撃スキルの腕は高い。

それに付け加え、BT兵器への適正値が高かった事が、セシリアが《ブルー・ティアーズ》のパイロットに選ばれた理由だ。

ゆえに、セシリア以上に、BT兵器を扱える者など居なかったはずなのに……。

 

 

 

「一体……何なんですの、貴方は……!」

 

 

 

 

正直に言うと、恐怖でしかなかった。

自分よりも高度な技術を扱える敵が、今目の前にいる……同じタイプの機体を操っていて、自分は死ぬほど訓練して、ようやくここまで使いこなしたのに対し、相手はおそらく、サイレント・ゼフィルスを手にしてから、さほど時間が経っていないだろうと予測される。

なのに、これだけの差が出たということは、認めたくはないが、目の前の敵は、天才であり……

 

 

 

「化け物ですわ……!」

 

「フッ……」

 

「っ! けれど、こちらとて負けたりはしませんわ!」

 

 

 

セシリアが先行し、ビットを展開。

ビットによる包囲攻撃を行うが、いずれもシールドを展開したビットに防がれ、なおかつこちらの攻撃は全て《フレキシブル》で相殺された。

 

 

 

「射撃の精密さでも、セシリアに劣ってない……!」

 

「鏡撃ちができるなんて、相当な技術よ……!」

 

 

 

射撃戦を見ていた簪と鈴からも、相手の技術の高さに驚嘆の声が上がっていた。

《スターライトmkⅢ》と《スターブレイカー》による狙撃戦。

蒼とピンクのビームがぶつかり合い、空に科学的な光が溢れる。

 

 

 

「私たちも加勢するわよ!」

 

「うん!」

 

 

 

セシリアたちの戦闘に見入っていた二人も、セシリアの加勢に入ろうとこちらに向かってくる。

だが、サイレント・ゼフィルスの操縦者は、一度こちらを向くと、ビットと再び操作し始める。

しかも、セシリアと射撃戦をしている最中で、セシリアよりも多い6つのビットを動かして、鈴と簪を近づけさせない。

 

 

 

「くっ! こいつ、ちょこまかと……!」

 

「っ……強い……!」

 

 

間違いなく代表候補生と同等……いや、それ以上の技術を持っているかもしれない。

次第にビットに翻弄され、セシリアたちの防衛ラインが崩されていく。

その一瞬の隙をついて、サイレント・ゼフィルスは、急加速でアリーナの方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

『ですから! その敵は、わたくしよりも遥かに凄腕ですわ!』

 

「セシリアよりも遥かに高い技術を持っているのか……!」

 

 

 

セシリアから事情を聞いた一夏は、より一層の警戒を持って、相手を見すえた。

 

 

「おい、オータム……聞こえているか?」

 

『う、うるせぇ……M。呼び捨てにしてんじゃねぇーぞ、クソガキが……っ!』

 

「ふん……それだけ減らず口が叩けるというのであれば、死にはしないだろう。

とっとと支度を済ませろ……ずらかるぞ」

 

『チッ……!』

 

 

 

血反吐を吐きながらも、その場に立ち上がったオータム。

それを逃さないように、刀奈とラウラが逃げられないように囲むが、それよりも先にMと呼ばれたサイレント・ゼフィルスの操縦者が、手持ちのライフルからビームガトリングを放ち、二人を近づけさせないようにする。

 

 

 

「俺を目の前にして、そんな事やってんじゃねぇよ!」

 

 

 

一夏がMに斬りかかる。

だが、Mの右手には、すでにライフルはなく、代わりにピンク色のレーザー光を投射したエネルギーブレードが握られていた。

これもおそらく、ブルー・ティアーズに搭載されている短剣型ブレード《インターセプター》と同じものだと考えていいだろう。

刀とブレードがぶつかり合い、激しい火花を散らす。

 

 

「さすがはオータムを半殺しにしただけはあるな………」

 

「そりゃどうも……!」

 

「だが、お前とまともに殺り合うつもりはない……ッ!」

 

「っ!?」

 

 

 

Mが力を弱めて、一夏から距離を置いた。

一夏は追撃しようと思ったが、その前を、二本のビームが遮る。

右上方からと、左側からの二本。

あと少しでも動いていたら、当たっていたかもしれない……。

 

 

「くそっ!」

 

「フッ……!」

 

 

相手は遠距離射撃型の機体。

自分は遠距離対応の装備と機能がついたとはいえ、元々が近距離格闘型の機体。

ここへきて、初めて間合いの差を感じる戦闘になった。

 

 

「どうした……もっと攻めてこい!」

 

「やろう……! 絶対後悔させてやる!」

 

 

 

白式のスラスターを噴かせて、一夏はMに迫る。

Mは相変わらず、不敵な笑みを浮かべると、再びビットを操作し、一夏の死角を狙って包囲攻撃を仕掛ける。

真上や真下といった、通常ではまずありえない攻撃に、一夏は翻弄される。

 

 

 

(くそ、こいつの攻撃……読みづらい……ッ!)

 

 

 

顔が見えないからなのか……相手の感情も読みづらい。

つまり、一夏が得意の『先読み』がしにくいのだ。

一夏もライトエフェクトを展開し、躱しきれない攻撃だけを盾を生成して防ぐが、息つく暇もないほど、Mの攻撃は多彩で本当の全方位オールレンジでの攻撃を受けている感じだ。

刀奈からの射撃武器の特性や戦闘方法などを習っていなかったら、即座に敗色に持って行かれていただろう。

 

 

 

「だが、パターンは読める……ッ!」

 

「っ!?」

 

 

 

未だにビットの包囲攻撃が続いているにもかかわらず、一夏はその弾幕の中をするりと躱しながら間合いを詰める。

これにはMも、少し驚いた表情で見ていた。

ビットの動きは読めなくても、動かすには、やはり何らかのサイクル……パターン性があると思った。

現に、今の今まで、一夏を攻撃するときは死角をまず突き、その後回避行動次第で、攻撃のパターンを決めている。

後ろに下がれば背後から、左右どちらかに動けば、回避を取った方向から。

 

 

 

「せやあっ!」

 

「っ! 驚いたな……こうも早くパターンを絞られるとは……」

 

「そうでもないさ……実際、お前はビットを使いながら別動作も並行してできるみたいだし? ある意味賭けだったんだよ」

「ふん……そんな勝算もなく賭けに出たと?」

 

「ああ……でも、俺の直感って、意外と当たるんでなっ!」

 

 

 

一夏がMに対して斬りかかり、Mもそれを受けて立つ。

ビームブレードをふりかざし、一夏の《雪華楼》を受け止める。

 

 

「さすが……《人斬り抜刀斎》などと煽てられるだけのことはあるな……」

 

「っ!? へぇ……現実世界に俺がその名で通った覚えはないんだけどな……」

 

「お前のことならば、なんだって知っている……。私はお前だ……織斑 一夏……っ!」

 

「なにっ?」

 

 

鍔迫り合いの状態から、一夏がMのブレードを弾き、追撃を入れる。

しかし、それを甘んじて受けるMではなく……まるでバク宙をしたかの様な動きで、一夏の斬撃を躱す。

 

 

「どういう意味だ……っ!」

 

「いずれわかる時がくるさ……だが、その前に……」

 

 

 

Mがオータムのいるところに顔を向けた。

それに応じて、一夏も視線をそちらに向けると、重傷を負っていながらも、ふらふらと足取りの悪い感じではあったが、ISを動かしていたのだ。

 

 

「あいつ、どんだけ執念深いんだよ……」

 

「それだけが取り柄みたいなものだからな……ん? スコールか?」

 

 

 

Mの機体に、プライベート・チャネルがつながった様だ。

その相手の名は《スコール》というらしい。

これもまた偽名なのだろうか……? それともなんらかのコードネームだろうか……?

 

 

 

「わかった……了解。悪いがお前とのお遊びもここまでの様だ……」

 

「っ……逃げるのか」

 

「命令だからな」

 

「行かせるかよ」

 

「何度と言わせるな……これは命令だ。貴様の価値観など知らん」

 

「させるか!」

 

 

 

イグニッション・ブーストで、一気に間合いを詰める一夏。

刀を振りかぶり、上段から一気に振り下ろした。だが、それを阻むビット。

エネルギーシールドを展開しているため、1つ1つが動く盾の様になっているのだ。

一夏の斬撃に、ライトエフェクトの斬撃波も悉く防がれる。

 

 

 

「なろう……! なんども同じ手が使えると思うなよ!」

 

 

《雪華楼》を鞘に戻し、もう一度イグニッション・ブースト。

そこから放たれる剣閃。《紫電一閃》が発動し、シールド・ビットを二機、斬り裂いた。

だが、その瞬間、ビットが強烈な爆発を起こし、それを間近で受けた一夏は、そのまま後ろに吹き飛ばされた。

 

 

「ぐおっ!?」

 

「フッ……!」

 

 

 

爆煙に包まれた一夏。

その隙に、Mは一夏から離れ、急速に下降していき、アリーナの中へと入る。

そこでオータムを捕まえようとしている刀奈たちに向けて、ビットを差し向け、ビームで牽制しつつオータムを回収する。

 

 

「待て!」

 

「ふん……」

 

 

ラウラがAICをもって、Mとオータムを確保しようとするが、Mはブレードを振り切り、ラウラのAIC発動を阻止した。

 

 

「なっ!?」

 

「その程度か? ドイツの『アドヴァンスド』」

「っ?! 貴様……何故そのことを知っている!」

 

「答える義務はない」

 

「あっ、貴様!」

 

 

オータムを抱えたMはその場を急速離脱。

それを追おうと、ラウラ達が動こうとしたその時、舞台のセットがある方から、突如攻撃を受けた。

 

 

「くっ! あれは……!」

 

 

ビームを発射してくる物体。

それは、先ほどまでオータムが操っていた《アラクネ》の装備パーツだ。

4本脚をこちらに向けながら、脚部についているビーム砲で、雨霰と撃ってきている。

 

 

「ええいっ! 小癪な!」

 

 

箒が《雨月》《空裂》の二刀を取り出し、ジグザグに移動しながら、ビームを避けつつ間合いを詰める。

そしてその二刀をもって、アラクネの脚部装甲を斬り落とし、これで攻撃は止みそうだ……そう思った瞬間、残っていたパーツが、急に光を放ち始めた。

何事かと、一瞬戸惑った箒。

しかし、すぐにそれが罠であると気付き、紅椿を後退させたが、遅かった。

強烈な爆発が起こり、舞台のセットの一部を、木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 

 

「「箒!」」

 

 

 

シャルとラウラが、箒の元へと駆けつける。

だが、爆煙が少しずつ晴れていくにつれて、シャルとラウラは不思議な物をみた。

まるでドーム型の噴水の様に、水が上から下へと流れ落ちて行っている。

そしてその中心には、二人の少女の姿が……。

 

 

 

「ん……」

 

「箒ちゃん……」

 

「ん……ぁあ……楯無、さん?」

 

「うん……ちゃんとわかるみたいだね。よかったよかった♪」

 

「って、なんですかこの体勢は?!」

 

 

 

刀奈が箒を押し倒しているかの様な体制。

これでは女の子同士で………………ご想像にお任せします。

 

 

 

「あら? 何をそんなに慌ててるのよ……あっ、ひょっとして期待しちゃった?」

 

「んなわけないでしょう! いいから、離れてください!」

 

「ええ〜! だって、箒ちゃんおっぱい大きいからぁ〜、そのままおっぱい枕を抱きしめようと思ってるのにぃ〜」

 

「お、おっぱい枕って……!」

 

「こういうことよ。とりゃあっ!」

 

「ふあっ!? ちょ、ちょっと!」

 

「ふあぁ〜……至極……とはこの事を言うのねぇ〜。適度な柔らかさと弾力が堪らないわぁ〜……♪」

 

「なに変態発言をしてるんですか!! ちょっ、やめーーーーんあっ!」

 

「あっ! ここが弱いのかぁ〜♪ うふふふふ……!」

 

「ちょっ、何するんですかぁ! や、やめてぇぇぇーーーー!!!!」

 

「あっははは〜♪ 良いではないか、良いではないかぁ〜♪」

 

 

 

女同士で一体何をしているのやら……シャルはその光景を苦虫を噛んだ様な表情で見ていたが、その手はしっかりとラウラの目を覆っていた。

 

 

 

「おい、シャルロット! なぜ目を隠すのだ!」

 

「ラウラは見ないほうがいいからだよ……見たらきっと誤解を生むから……」

 

「そ、そうか? ならば、仕方がないな……」

 

 

 

こういう時、変に素直なラウラに感謝しているシャルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛っつ……!」

 

 

 

 

 

IS学園の校舎と校舎の間に設けられた中庭の一角に、一夏は座り込んでいた。

Mのビットを斬り裂いた瞬間、ビットは異常なほど爆発を起こした。

以前セシリアと対決したことがあり、その時もビットを破壊したが、それほどの爆発は起きなかったはずだ……しかし、Mのビットは……。

 

 

 

「…………あいつの機体は、遠距離射撃型の中でも、一撃離脱型の機体だったのか……」

 

 

爆発機能のついた高性能ビット。

そしてそれで射撃と防御の動きを一人でしていたとなると、Mはとんでもない操縦者の一人だということがわかる。

そんな相手とやりあえたのは、相手が白式の性能をまだ理解しきっていなかったことと、一夏の戦闘能力を把握しきっていなかったことがあったからだ。

 

 

 

「次やったら……多分……」

 

 

苦戦は免れえない。

そんな憂鬱に考えをしていた時、後ろから誰かがやってくるのがわかった。

 

 

「よお、無事か?」

 

「キリトさん……」

 

 

和人だった。

ISスーツの姿で、他には誰もいない様だ、

 

 

「無事っちゃ、無事ですけどね……凄い衝撃だったんで、体が痛くって……」

 

「ったく……考えなしに突っ込むからだぞ」

 

「あっはは……そうですね。少し、そこんところを見誤ってましたよ」

 

「ふ…………」

 

 

周りは、突然の襲撃に大騒ぎとなっているが、肝心の襲撃者たちは、すでに撤退した後だ。

今は教員たちが、被害状況の把握をしているところだろうか……。

周りを見ると、慌ただしく走っている姿がちらほらと見える。

 

 

 

「お前あの時、あの襲撃者を……殺そうとしたのか?」

 

「え?」

 

 

 

突然、和人からの言葉に、一夏は思わず聞き返した。

 

 

「なんでです?」

 

「あの時のお前の眼……尋常じゃなかったからさ……。俺も、初めて見た……《人斬り》だなんて、どこの歴史の話だと思っていたけど……正直、俺も鳥肌が立ったぜ……」

 

「…………やっぱ、そういう目をしてましたか……俺は」

 

「うん……リズ達なんかも、結構怖がってたかもしれないな」

 

「ううぅ〜……ですよねぇ……。後で謝っとかないと」

 

「…………あの襲撃者は、お前がそんなになるほど、やばい奴だったのか?」

 

「ええ。悪の秘密結社……だそうですよ。それに、俺の誘拐事件の犯人だったんですよね……」

 

「っ……! まぁ、そりゃあそうなるか……」

 

「ええ……でも、自分でもびっくりするくらい、アドレナリン出まくってましたね。

今までで一番動けたかもしれないです」

 

「洒落になんねぇぞ、それ……」

 

「あっははは……ですね。じゃあ、この話は、もうお終いにしましょう。

俺たちも、みんなのところに合流しないと……」

 

「ああ……後でリズ達と会う約束したからな……そん時にでも、謝れよ?」

 

「わかってますよ」

 

 

 

和人が右手を差し出し、一夏はそれを握る。

立ち上がった一夏は、和人とともに、みんなのいるアリーナの元へと向かった。

その後、アリーナに集められた代表候補生及び専用機持ち、教師陣達に向け、今回の襲撃犯の事への報告がされた。

亡国機業……または、ファントム・タスクと呼ばれている一組織が、今回の襲撃事件の黒幕だという事。

そしてその組織は、ここ最近ニュースになっていた、各国のIS実験施設襲撃者であるという事も。

テレビでは、何者かが判明していないなどと言われていたが、当然、被害にあった施設、及びその各国の政府首脳陣たちは、亡国機業の存在を知っていたと目されている。

そんな相手が、今回の学園祭に乗じて、この様な襲撃を行ってきた……そこで、これからは、より対テロ意識を持つように、関係各員に通達されたのであった。

 

 

 

 

「まったくもう……頭に血がのぼるとすぐに斬り込んで行くんだから……!

 

「ごめんって……あの時は、その……俺にも説明出来ないんだけど、あいつは危険だと思って……」

 

「危険だとわかっているのに、わざわざ戦いに行くんだ?」

 

「あ……いや、その……」

 

「………………」

 

「ほ、本当に! 申し訳ありませんでした!」

 

 

 

普段ドS気味に仕掛けてくる刀奈も強いのだが、何も言わないまま、ただ睨まれる続けられるのも怖い。

特に、目の座った状態で睨まれるのは……本当、怖いです。

 

 

 

「はぁ……でも、大した怪我がなくてよかったわ……。あと、リズちゃんたち怖がってたわよ。

特にシリカちゃんとリーファちゃん。チナツのあんな姿、初めて見たって言って、正直引いてたわ」

 

「引いてたのっ?!」

 

「うん……それももう、ドン引きって感じに……」

 

「マジで……?」

 

「マジで」

 

 

 

 

いやあ…………なんか、すみません。

とりあえず、里香は以前、本気モードの一夏の姿を見ているため、ある程度の耐性がついていると思うのだが、圭子と直葉に至っては、未だに見た事のない鬼人モードの一夏の姿に、怯えている様子が目に浮かぶ……。

 

 

 

「はい、今からみんなのところに行くわよ」

 

「はーい……」

 

 

 

刀奈に背中を押されながら、一夏は里香たちがいる場所へと向かった。

シェルターからの一時的な解放が許され、その後は、今回の事件に際し、機密情報の漏洩などを行わないよう取り計らう事になった。

 

 

 

「あ、リズ……さん。それに、みんなも……」

 

「ああ、チナツ」

 

「「っ?!」」

 

 

 

予想通り、里香はなんとも思っていなかったが、圭子と直葉には、少々驚かれているようだった。

一夏は三人に対して、頭を下げた……今回の事、そして、あの戦闘での事を。

 

 

 

「ごめんなさい。みんなに楽しんでもらいたかったのに……あんなものを見せてしまって……」

 

「…………べ、別に気にしてないよ! ねぇ、シリカ?」

 

「は、はい! チナツさんは、私たちを守ってくれたんですもん!言うなら、お礼ですよね」

 

「二人とも……」

 

「とか言って、終始ビビりまくってたじゃないのよ、あんた達」

 

「そ、それとこれとは……」

 

「また別問題ですよ!」

 

「でもまぁ、あんたも気をつけなさいよ? チナツ」

 

「え?」

 

「向こうでも危険な事をやってきたってのに、こっちでもそんな事してたら……カタナが泣くわよ?」

 

「…………そ、そうですよね」

 

「戦うなとは言わないけど、それでも、カタナが不安にならないようにしてやりなさいよね……分かった?」

 

「はい。肝に銘じておきます」

 

「よろしい! じゃあ、この埋め合わせは、向こうできっちり返してもらうからね?」

 

「わかりましたよ……精神的に、お礼ははずみますから」

 

「いっえ〜い!」

 

 

 

 

はてさて、今度は何をねだられるのやら……最新の鍛冶道具か? それとも鉱石か?

どちらにしろ、安くですみそうにはないな。

その後、学園祭の方はグダグダではあったが、閉会式を終え、あとは片付けを行うのみ。

楽しい学園祭のはずが、襲撃事件という大事件の為に、少々台無しになった感じが否めなかった。

しかし、それでもみんなはいい思い出だと言いながら、小道具やセットの片付けに入った。

そのあとは、学園生みんなでの後夜祭。

クラスごと、部活ごとに分かれて、それぞれが喋って、食べて、騒いでと、一日中賑やかになった。

そして、翌日…………。

 

 

 

 

「昨日の学園祭……みんな、本当によくやってくれたわ。襲撃事件があったとはいえ、今までで一番楽しい学園祭になっていたと、各職員の方々からも好評を得ました!

さて、今日この場にみんなを集めたのは、他でもありません……学園祭の目玉であった、織斑 一夏と、桐ヶ谷 和人の獲得権についてです!」

 

 

 

朝早くから、再び全校集会。

その内容は、壇上に上がって話をしている刀奈の言う通り、学園祭の事について。

襲撃事件があり、予想だにしてなかった事が起きた今回の学園祭。

しかし、それでも全てをやりきり、無事終える事が出来た。

そして、すべての生徒達が注目していただろう事案……一夏と和人の獲得権。

そのために、各クラス、各部活動の出し物を頑張ったのだ。

我こそは一位だと確信している者達も、集められたこの中には絶対いただろう。

だが、一夏だけは、なんとなくこの後の流れがわかってしまった。

何故か?

何故なら、壇上に上がっている刀奈の表情が、いかにも小悪魔のような顔をしていたからである。

 

 

 

「では結果を発表いたしましょう! 学園祭で、最も票を集めた出し物はーーーーッ!」

 

 

 

みんなから緊張感が伝わってくる。

そして、いつの間に用意したのか、ドラムロールのBGMまで……。

 

 

 

「生徒会主催! 『演劇《シンデレラ》』ですッ!!!!!」

 

 

 

バッ! と開かれた扇子には、達筆な字で、『優勝』と書かれていた。

 

 

 

「「「「「えええええぇぇぇぇッ!!!!!??」」」」」

 

 

 

会場全体からのブーイング。

それもそうだろう。

確かに一夏と和人が出た劇ではあったが、絶対に自分たちの方が上だと思っていた者達は多かったはずだ。

だがそれこそ、刀奈の策に嵌っている証拠だ。

 

 

「あらあら……我々生徒会は、ズルなんて一切してないわよ? 我々の主催した劇には参加は自由だけど、その際に、“参加者は生徒会に投票する” という条件で参加してもらったわ♪

これはあくまで任意であって、強制ではない。それをみんなにわかってもらったうえで、生徒会はみんなの参加を許可したわ。

ここまでで反論がある人〜〜〜?」

 

 

 

誰も手を上げない。

それもそうだ……みんな嵌められたと思って、膝を屈しているのだから。

それを見て、扇子で口元を隠し笑っている刀奈の姿は、どこぞの時代劇に出てきそうな、悪代官を彷彿とさせる姿だった。

全く…………お主も悪よのぉ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の襲撃者は、また新たにアメリカから機体を強奪していたようです」

 

「やはりな……先月発表されたばかりの機体だろう? このアラクネは」

 

 

 

生徒達が全校集会に出ている最中、真耶と千冬の二人は、地下にあるIS研究施設へと潜っていた。

真耶が電子キーボードをタップしていきながら、今回の襲撃者の画像を画面に映し出す。

二人ともバイザーやヘルメットで顔を覆っているため、ちゃんとした顔は移されてはいなかったが、機体データは、各国のIS研究所の資料を取り寄せ、照合できた。

 

 

 

「はい。アメリカで開発された、近接戦闘特化型の第二世代《アラクネ》と、イギリスのBT試作二号機、遠距離一撃離脱型の第三世代《サイレント・ゼフィルス》。

どちらも発表されて間もない時に強奪された機体ですね」

 

「全く……学園祭の時にでも来るのではないかと忌避していたが……本当にそうなってしまうとはな」

 

「本当ですよ……おかげで、事後処理の山です……」

 

「だな……今日中に終わらせて、早く寝酒にありつきたいものだな……」

 

「その前に、織斑くんのことについてなんですが……」

 

「ん? なんだ……?」

 

「彼の戦闘能力……映像だけで見ただけでは、判断しかねるんですが……これを見てください」

 

 

 

真耶が操作し、あるデータを画面に映し出した。

それは、一夏のパーソナルデータだった。

入学時に測定した、ISとの適正値のデータと、先ほどの戦闘でのデータを照合したもの……。

そこに映し出されていたのは…………

 

 

 

入学時:適正ランク B

 

測定時:適正ランク S

 

 

 

 

「…………なんだ、これは……」

 

「私も聞いたことがありません。この短期間で、ランクが2つも上がるなんて……」

 

「測定機の不具合は?」

 

「ありませんよ、そんなの……。これも一応は最新機材なんですよ?」

 

「………………」

 

 

 

適正ランクがSという事は、ランク値だけでも歴代のモンド・グロッソの《ヴァルキリー》達に匹敵する。

それを、ISに触れてまだ一年も経たない学生で、しかも男である一夏が、ここまで伸ばすというのは、もう何もかもが前代未聞だ。

 

 

 

 

「まぁ、そのことをいくら考えても仕方がない……ISには、謎な部分が未だに多い。

とにかく、この事はあまり他言しないようにしましょう」

 

「そうですね…」

 

 

最後にそのデータを、機密ファイルへと保存し、残りは抹消……。

先に事後処理の書類を提出しなくてはならないため、真耶は早々に部屋から立ち去った。

残ったのは、千冬ただ一人。

千冬はもう一度、電源のついた機材を動かし、先ほど保存したばかりのデータを開いた。

 

 

 

「ランクS…………コレはお前の仕業か? AI娘」

『うわぁ〜! もしかして、気づいてたの!?』

 

「声がでかいぞ……」

 

 

突如、画面に紫が印象的な少女が現れた。

どこか異世界を思わせるバトルドレスを身に纏い、甲冑をつけ、頬には独特のペイントらしき模様まである。

薄みがかった紫の髪に、紅い眼……どことなく明るい印象を持つ彼女は、画面の中で中に歩き回っていた。

 

 

「お前も、桐ヶ谷たちの娘の……ユイと同じなのか?」

 

『うん! そうだよ。ユイは私のお姉ちゃん!』

 

「お姉ちゃん? 妹ではないのか……」

 

『まぁ、ユイが一号で、私は二号だから……順番じゃ、ユイの方がお姉ちゃん』

 

「なるほどな……それで、お前は名をなんという?」

 

『私はストレア……えっと、チナツのお姉ちゃんなんだよね?』

 

「ああ、そうだ。さて、お互いに名乗ったということで、そろそろ本題に入るぞ……。

ストレア、このとんでもない適正ランクは、お前の仕業か?」

 

『それはないよー。私ができるのは、あくまでバックアップだけ……ユイのように、システムにアクセスする事は出来るけど、チナツ自身のパーソナルデータを改竄するならまだしも、向上させる事は出来ないよ』

 

「…………いいだろう。その点に関しては信用してやる。だが、お前が白式に入り込めると言ったのなら、お前は会っているな……あいつらに……」

 

 

あいつら……それは無論、白式の中で出会える人物……いや、意識ということになるため、その存在は限られている。

白式のコア人格と……その大元となったコア……白騎士のコア人格。

 

 

 

『うん。まぁね……』

 

「奴らは……何を考えている?」

 

『さぁ……そこまでは……でも、白騎士の方が何かを見定めているのは、確かかな?』

 

「………………」

 

 

 

一夏の戦闘能力に、白式……強いて言うならば、白騎士の方が反応している。

別段とりわけ何かが起こると断定はしていないが、何も起こらないと断定するのも難しい。

この状態が続いて行った時、果たして一夏は……一夏と白式の存在は、一体どうなってしまうのか……。

ただでさえ襲撃者の存在がちらついている中、こんなことにまで気を使わなくてはならないとは……。

 

 

 

「はぁ……まったく、世話がやける……」

 

『でもぉ〜、心配なんだよね? お姉さんは』

 

「うるさいぞ、ストレア。だが、お前には色々と協力してもらうことになる……これは、一夏のためだ……」

 

『了解♪ 私も、チナツの事は大事だからね。それについては賛成だよ』

 

「そうか……。では、いずれお前にはまた話す機会があるかもしれん……その時は頼む」

 

『イエス、マム♪』

 

 

 

 

それだけ告げると、ストレアは画面から消えた。

千冬も機材の電源を落とし、その部屋を頭にした。

こうして、散々な一日が終わりを告げたのだった…………そして、これからが、再び波乱の幕開けになるのを、まだ誰も知らないでいる…………。

 

 

 

 

 





次回からは……そうですね。
誕生日会から、タッグマッチトーナメントでもしようかと。
その後は、ワールドパージをやって、修学旅行ですね。
あとは、SAOルートに入り、GGO編。
と言った具合で進むと思います( ̄▽ ̄)


感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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