ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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はい、今回は一夏の戦闘がメインです。
次回も多分戦闘がメインになるとは思いますが、よろしくです(⌒▽⌒)




第72話 人斬り抜刀斎

「オラオラオラオラオラッ!!!!!」

 

「ちっ!」

 

 

アリーナの更衣室という、ISの戦闘ではまず狭すぎる場所にて、一方的な銃撃戦が始まっていた。

銃撃を行っているのは、謎のISを纏った、『みつるぎ』営業担当 巻紙 礼子…………と名乗っていた女だ。

だが、ここまで粗暴な態度を表し、明らかに殺意を向けてきている時点で、もう彼女は営業ウーマンでもなんでもない。

ただの敵だ。

一夏は銃撃を喰らわないように、《シューター・フロー》と《サークル・ロンド》を駆使して、攻撃を躱して行っている。

 

 

 

「ちっ! ちょこまかと……! 逃げ回るしか能がねぇのかっ!? おいっ!」

 

「うるせえな……なら望み通りーーーー」

 

「っ!」

 

 

突如、視界から一夏の姿が消えた。

驚いて、銃撃を止める。

すると、今度は自身の近くにやってくる機影を、レーダーで捉えた。

 

 

 

「ーーーーお邪魔するぜッ!」

 

「なっ!?」

 

「せぇやあッ!」

 

 

 

ロッカーの間から、まるで流水のような動きで、自身に近づいてきた一夏に驚き、女は対応に遅れた。

そして、手に持っていたマシンガンを、一夏の《雪華楼》によって断ち切られる。

 

 

「ふんっ! たかだか銃を切ったくらいでーーーー」

 

「っ!?」

 

「調子に乗んなッ!!!!!」

 

 

 

アラクネの脚が一夏の頭上から振り下ろされる。

脚にはブレードが付いており、しかもそれが複数本同時に迫ってくる。

 

 

「お前は近接戦闘が得意なんだって? だが、残念だったな! この《アラクネ》も、接近戦仕様の機体なんだよ‼︎」

 

 

別々の脚で、絶え間なく斬りつけめくる。

しかしそんなもの、次にどうくるのか……動作がわかってしまえば、対処なんて簡単だ。

 

 

 

「大体あんた! 一体何者だ! 『みつるぎ』の営業担当にしては、ちょっと過激すぎねぇかっ!?」

 

「はっ! 企業の人間に紛れるために、『巻紙』なんて名乗っちゃいたがな……今もうそんなダセェ名前を名乗る必要もねぇか……」

 

 

 

銃撃をやめ、一夏から一旦距離を置くアラクネ。

壁際に垂直でへばりつくその姿は、まさに蜘蛛。

 

 

「悪の秘密結社……《亡国機業》のメンバーが一人、《オータム》様って言えばわかるかっ?!」

 

「亡国機業……? 聞かない名だな。それに、悪の秘密結社がそんな事言っていいのかよ?」

 

「ふん…別に構わねぇだろうよ……どうせテメェはここで死ぬんだからな!!!!」

 

「っ!」

 

 

 

アラクネの脚が一夏の方を向き、そこからビーム兵器を射出する。

やはり近接特化したと言っているが、遠距離戦闘用の武器もあるようだ……機動力も悪くないし、さすがは第二世代型ISと言った感じか。

しかし、昔の白式ならばともかく、今の白式の能力を持ってすれば、その程度の攻撃では、倒し切ることは不可能だ。

 

 

 

「オラよっと!」

 

「っ!?」

 

 

 

《雪華楼》と左手の装甲を交互に振るい、ライトエフェクトを展開する。

光の防壁として現れたライトエフェクトは、アラクネの攻撃を無効化しているようだ。

 

 

 

「ちっ、それがゲームの技かよ」

 

「ああ、そうだ……だが、お前はそのゲームの技で倒されるんだよ……!」

 

「生意気言ってんじゃねぇぞ!」

 

 

 

脚部からのビームでは対応されると判断したオータムは、両手を広げ、そこに備わったビーム砲を展開。

両手についているビーム砲は、脚部のものよりも大口径だ。

 

 

 

「ふっ飛べッ!!!」

 

 

 

大口径のビーム砲が放たれる。

ビームは障壁を貫き、大爆発を起こした。

 

 

 

「はっ……なんだよ…大した事ねぇじゃねぇか……」

 

 

 

今回の作戦を受けるにあたって、オータムは慎重かつ警戒して事に当たれと言われていた。

ゆえに営業者のふりをして、一夏に近づいてISを展開。

圧倒的な暴力で一夏を攻め立て、今に至る。

いうほどの事もなかったと……オータムは爆心地へと歩みよっていく。

 

 

 

「あ?」

 

 

 

近づいて、オータムはあるものを見た。

白木の柄に収まった、一本の刀……

 

 

 

「あのガキが持っていた……模造刀……?!」

 

 

 

確実に仕留めた……そう思っていた矢先だ、一夏の白式の破片などは確認できない。

という事は……

 

 

 

「あいつッ!?」

 

「遅えよッ!」

 

 

 

突如として現れた一夏。

その手に握る《雪華楼》による一閃が、アラクネの脚を斬り裂く。

オータムも驚き、一瞬だけ反応が遅くなった。そんな瞬間を読んでいた一夏は、絶えず二閃目を放つ。

別の脚を斬り裂き、残るは脚が6本と、腕が二本。

 

 

「くそがっ!」

 

 

残った脚のブレードと、両手に展開した短剣型のスピアーで一夏に切り掛かる。

手数では圧倒的にアラクネに分がある……だが、それすらも、一夏の剣捌きによって防がれる。

 

 

「はっ、ははっ! いいぜ、最っ高だよお前! まさかあん時の弱虫小僧がここまで強くなるとわよ!」

 

「あの時?」

 

「あぁ、覚えてねぇのか? なら教えてやるよ……いつだったか、お前を拉致った時があっただろう?

拉致ったのは、俺たち亡国機業なんだよ……っ!」

 

「っ!? な、なんだと……!」

 

「あぁ? 聞こえなかったかぁ? お前を随分昔に拉致ったのは、俺たち亡国機業だって言ったんだよッ!!!!!」

 

 

 

体を回転させ、脚部ブレード全てで一夏を斬りつける。

一夏はとっさに《雪華楼》を構え直し、その斬撃を受け止める。

反動で後方に飛ばされたが、カスタムウイングの出力を調整し、その場に踏みとどまる。

 

 

 

「…………そうか、お前たちか……」

 

「ああ……そうだよ。感動の再会ってやっだな! はっはっはっはーー!!!!」

 

「そうか…………ようやく、会えたな……」

 

「あぁん?」

 

 

 

マスクで覆われていたオータムの顔。

だが、そんな状態であっても、一夏にははっきりと見て取れた。

オータムが息を飲み、表情を強張らせている事を……。

何故そうなったか……理由はただ一つ。

一夏から、一切の感情を感じなくなったからだ…………いや、それは違う。

一夏から、濃密なまでに凝縮した殺気の塊が放たれたからだ。

それを確認した瞬間、オータムの視界から、一夏の姿が消えた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

目の前の敵が消えた事に驚いたが、すぐに気を取り直して構える。

アラクネの索敵範囲を広げ、白式の反応を確認する。

だが、それでも驚愕を拭えない……何故なら……いつの間にか、背後に迫っていたからだ。

 

 

「ちっ!」

 

 

無言で刀を振るう一夏。

スピードでは全く変わっていない……ゆえにオータムはからだをひねり、両手の短剣で受け止める、弾いて刺し貫きにいく。

しかし、一夏はそれを見越していたかのように、悠然と躱し、防ぎ、また距離を置く。

そして、再びオータムの視界から消える。

今度はいつの間にか目の前にまでに迫っていた。

対応できないと感じたオータムは、アラクネの装甲でそれを受け切る。

無論、ダメージは負っているが……。

 

 

 

「くそっ、なんだこいつ……! 急に動きが……!」

 

 

 

明らかに変わっている。

そして、こちらは相手の動きが読めない……。

未だにビーム砲で攻撃すれば、《シューター・フロー》によって回避されるし、今度はいつの間にやら間合いに侵略されている。

先ほどまでと戦術は同じ……だが、オータムは感じていた。

常に喉元に刃を突き立てられているような…………身がすくみあがるような、そんな感覚を……。

 

 

 

「どうした……動きが鈍ってるが?」

 

「っ! ウルセェッ!」

 

 

頭に血が上ったのか、オータムは一夏に対して斬り込んでいく。

だが、それこそ一夏の術中だ。

感情的な人間にこそ、一夏の『先読み』と『直感』は冴えるし、近接戦は一夏の領域。

この二つが合わさった時点で、オータムの勝率が下がる。

 

 

 

「おおおっ!」

 

「ふっ……!」

 

 

 

短剣を突きたてようと、軽快に攻め立てるオータム。

だが、一夏はそれを軽くいなし、最小限の動きと力で躱していく。

《雪華楼》を右から左へと振り抜き、オータムの短剣を弾く。

懐がガラ空きになったその瞬間、一夏は右手を《雪華楼》から離し、自分の右腰についている《雪華楼》を逆手に持ち、それを勢いよく抜刀。

オータムの胴体に一撃を見舞った。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

「安心しろ……お前ごときに、俺の十八番を使うつもりはねぇから」

 

「んだと……っ!」

 

「はっきりと言ってやらねぇとわからないか……? お前みたいな雑魚に、本気になるつもりはねぇって言ったんだよっーーーー‼︎」

 

「っ!!!!!? このガキがぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

二刀状態になった一夏は、手数では負けるが、スピードとパワーで上回っている。

 

 

 

「くっ! この俺が……こんなクソガキに……っ!」

 

「どうしたよ……それが本気ってわけじゃねぇだろ!」

 

「黙れ!」

 

 

 

攻撃を繰り出そうにも、一夏の剣速の方が速い。

しかも、打ち付けるたびに、手持ちの武器や脚部ブレードが打ち負け、その形を維持するのも限界にきている。

 

 

「クソっ! クソクソクソッ! なんなんだよテメェはッ!」

 

「ーーーーーただの “人斬り” だよ……ッ!」

 

「うっ!」

 

「らあぁぁぁッ!」

 

 

 

 

二刀による連続攻撃。

もはや、戦況は一変した。

次第に力の差を見せつけられるオータムは、一夏から距離をとりながら、なんとか反撃の糸口を探している。

 

 

「くそっ……ただのゲーム廃人に、この俺様が……!」

 

 

現状に不満を隠しきれない。

こちらはアメリカから機体を強奪し、戦線を拡大させてきたプロのテロリストだ。

だが、そんなプロが、学生相手に押されているこの状況……。

認めたくはないが、目の前の男は……

 

 

 

「化け物野郎がッ!」

 

 

脚部ビームで間合いを離す。

だが、一夏のアクロバティックな動きに翻弄され、仕留めることができない。

ロッカールームという閉鎖的な空間が、自分にはうってつけの場所だと思ってはいたが……まさか自分よりも、この戦況に対応しうる操縦者がいるなんて……まるで悪夢を見ているようだった。

 

 

 

「フッーーーー‼︎」

 

 

 

鋭い眼つきとは裏腹に、獰猛な笑みを見せ、オータムの攻撃を軽快に躱していく一夏。

ロッカーの間に入り込んだり、跳んで壁や天井を足場に、三次元的な動きで、オータムを撹乱させる。

壁を蹴り、三角跳びのように迫ってくる一夏。

右手の《雪華楼》が振り下ろされ、オータムはとっさに両手で受け止める。

装甲はアラクネの方が厚いため、何度かなら簡単に防げる。

一夏を弾いて、距離を置き、今度はオータムから攻める。

だが、一夏は退くどころか逆にオータムの間合いに入ってくる。

右手に持っていた短剣は、一夏を貫こうと伸ばしきったままで、そこを一夏は左手の《雪華楼》で斬りつける。

白い刀身が、同じ鋼をまるでバターのように斬り裂いてしまった。

 

 

 

「っ!?」

 

「逃がすかーーーーッ!」

 

「くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生! アリーナのロッカールームに、敵ISの反応を確認! たった今、《白式》と交戦に入りました……しかし……」

 

「ん…………」

 

 

 

非常用作戦室にて、千冬、真耶を含めた少数の教師たちが、非常事態を確認し、その対処に当たっていた。

モニターでは、ロッカールームの映像が流されており、そこでオータムと一夏が交戦している様子が映し出されていた。

真耶を含め、その場にいた教師たちからは、驚嘆……と言う言葉があっているだろうか……驚きを隠せない、といった風な表情と声が現れていた。

敵は『亡国機業』……ここ最近になっている、アメリカ、イギリスの軍事基地へと強襲を掛け、専用機を強奪したとされている組織。

IS学園には、文字どおり宝の山と呼べるほどの専用機が点在している。

その中でも、一夏の白式と、和人の月光には、当然ながら注目が集まってきていたはず……。

だからこそ、この学園祭の時に乗じて、強奪を図ってくると思ってはいたが……。

 

 

 

「まさか、単騎で乗り込んでくるとはな……」

 

 

あまりにも無謀……そう思いたいところだが、向こうとてこう易々と強奪出来るとは思っていなかっただろう……故に、なんらかの形で増援がやってくる可能性を示唆した。

 

 

「お、織斑先生……」

 

「なんですか、山田先生……」

 

「織斑くんは……いったい、何者なんですか……」

 

「ん? それはどういう意味ですか? あれは私の弟で、私たちの生徒ですが?」

 

「そ、それはそうなんですけど……」

 

 

 

真耶や他の教師たちが言いたいことはわかる……。

今目の前に写っている少年……織斑 一夏は、何故こうも戦い慣れしているのか……と言うことだろう。

相手は一介のテロリストであり、ISでの実戦経験は、この学園にいる教師、生徒全てを含めても、上位に入るくらいだろう。

だが、たった数ヶ月前にISを起動させ、実戦なんて限られた数しか行ってきてない一夏が、どうして渡り合って……いや、むしろ圧倒しているのか。

 

 

 

「……何も変わりませんよ。あいつは私の弟で、私たちの生徒です。

それよりも山田先生……各専用機持ちと、代表候補たちに連絡。敵の増援に警戒と、一般生徒たちの避難を最優先するよう、連絡を」

 

「は、はい!」

 

 

 

各教師陣にも連絡し、停止しているシステムの再起動と、避難経路の確保、また迎撃システムの起動を指示をする千冬。

その最中、千冬は流れている映像を見ていた。

鋭い眼つきをしていながら、その顔は笑っている……獰猛かつ狡猾な笑みを浮かべた、弟・一夏の姿を……。

 

 

(やはり……これも血筋なのか……)

 

 

強者との戦いの際には、決まって感情が昂る。

それは自分の中にもある感情だ。

織斑の血筋は、こうも似たような場面で出てくるものらしい……。

 

 

(殺すなよ……一夏……!)

 

 

 

弟の瞳から、光が消えている事に、千冬は気づいてしまった……。

あの目は、ただ戦う者の目ではない……あれば、修羅の道を知っている、人斬りの目だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、一夏のやつはどこに行ったのよ!」

 

「まったくだ……逃げ足の速い奴め」

 

「だいたい、貴様らが私と師匠の邪魔をするからいかんのだぞ」

 

「というか、シャルロットさん! あなたが一夏さんを庇ったりなんかするからですわ!」

 

「ええ……そんなこと言われても……」

 

「大丈夫……ある程度の約束なら、一夏はちゃんとしてくれた……私も、ちゃんと約束できた……」

 

 

 

舞台の広間にて、専用機持ち達……狡猾なシンデレラたちは、一夏を探すために集まっていた。

一方では、和人をめぐって、今もなお戦闘が継続中である。

 

 

「もうー、リズ! そんなもの振り回したら危ないでしょう!」

 

「あ、あんただって同じでしょうが……」

 

「ア、アスナさんだけずるいですよ! いっつもキリトさんを独り占めして!」

 

「シ、シリカちゃん!?」

 

「し、シリカ……ちょっと露骨過ぎじゃ……」

 

「じゃあ、リーファさんは、今のままでもいいんですか?」

 

「うえっ!? そ、それは……私も、お兄ちゃんと出かけたいなあ〜って思ってみたりは……」

 

「リーファちゃん……」

 

 

 

普段から一緒にいるから、周りがそんな風に思っていたなんて、あんまり感じて来なかったが……。

しかし、和人は自分の彼氏だ……恋人だ……夫なのだ。

いずれは正式結婚して、幸せな家庭を持つと言う目標を持っているのだ。

今ここで盗られたような感じになるのは、正直嫌だ。

 

 

「そ、それはーーーー」

 

 

 

ヴヴゥゥゥゥゥゥーーーー!!!!

 

 

 

明日奈が何かを話そうと思った瞬間、アリーナ全体に非常事態を知らせる警報がなった。

 

 

 

『緊急事態です! 未確認のISが学園に侵入。現在、白式と交戦中です』

 

「「「「「ッ!!!!!?」」」」」

 

『専用機持ちは、直ちにISを展開! 一般生徒及び、来客の避難誘導と、周囲の警戒を行ってください!』

 

 

 

マイク越しに真耶の緊迫した声が聞こえた。これは間違いなく、訓練ではない。

 

 

 

「みんな! 緊急事態よ……専用機持ち及び、代表候補生は、即座に事態に対処してちょうだい!

セシリアちゃんと鈴ちゃん、簪ちゃんは、ISを展開後、空域の索敵と哨戒に入って!」

 

「「わかった!」」

「わかりましたわ!」

 

「箒ちゃん、シャルロットちゃんとラウラちゃんは、急ぎこの場にいる一般生徒たちをシェルターに避難!

キリトとアスナちゃんも、他の代表候補生たちと一緒に、避難誘導を行って!」

 

「「「了解!!!」」」

「うん!」

「了解だ!」

 

 

 

生徒会長たる刀奈が、テキパキと的確な指示を飛ばす。

自身もIS《ミステリアス・レイディ》を展開して、今もなお混乱の最中にいる里香たちに向きなおる。

 

 

「リズちゃん、それからみんなも。たった今、IS学園に不届き者が侵入したの……念の為、みんなには、事態が落ち着くまで、シェルターに待機してて欲しいの」

 

「そ、それはわかったけど……大丈夫なの? あんたたちも、これから戦うんでしょう?」

 

「もちろん……危険がないって言ったら、嘘になるわ。それでも、私たちはその覚悟を持って、ここにいるの……。

だがら、何があっても、あなた達のことは守るわ……だから、ね?」

 

 

 

最悪な事態にならないよう……それを守るのが、自分たちの務めだ。

そして、目の前には大切な友人達がいる。

ならば、全力で守るだけだ。

 

 

 

「わかった……気をつけなさいよ」

 

「うん♪」

 

「シリカ! リーファ! ほら、早く行くわよ」

 

「あっ! 待ってくださいよ、リズさん!」

 

「あっ……箒ちゃん!」

 

「ん?」

 

「その、気をつけてね?」

 

「ああ、もちろんだ。今度、またゆっくり会おう、直葉」

 

「うん! 約束だよ!」

 

 

 

三人をシェルターへと誘導し、セシリア、鈴、簪の三人は上空へ……箒、シャル、ラウラ、和人、明日奈の五人は、それぞれ周囲を警戒しつつ、逃げ遅れた者がいないか、確認する作業に入っていた。

 

 

 

「さてと……私はチナツの加勢に行きますかね……」

 

 

 

そう言いながら、刀奈は今もなお続いているであろう一夏の戦闘区域に向かおうとした。

だが、そんな事をするまでもなく、刀奈は一夏たちと合流する事になった。

次の瞬間、舞台のセットを突き破り、二機のISが出現した。

 

 

「っ! あれは……っ!」

 

 

6本脚になった赤黒い奇怪な姿をしたIS《アラクネ》と、それを追う二刀を持ったIS《白式》。

避難する途中だったため、この場には、空へと偵察に出たセシリア、鈴、簪以外のメンバーが全員揃っていた。

もちろん、里香、圭子、直葉の三人の姿もだ……。

突然現れたIS……しかも今もなお戦闘中と言う事で、事態は一変。

箒たちは、里香たちに戦闘による影響がないよう、すぐに守りを固める。

不安な様子を浮かべる里香たちを囲み、守りながら、戦闘中の一夏の姿を捉えた……。

そして、絶句した……一夏の表情と、戦闘姿……それらが明らかに、今までの一夏とは別人のように思えたから……。

 

 

 

「くっ!」

 

「はあっ!」

 

 

 

迷いなく二刀を振るう一夏。

それを紙一重で、ギリギリ躱して行っているオータム。

だが、オータムはふとニヤリと笑う。

 

 

 

「調子に乗ってんな! クソガキが!」

 

「っ!?」

 

 

 

オータムが両手を前に突き出した。そしてそこから、ビームではなく、白い糸のような物が現れ、一夏の持っていた二刀に絡みつく。

 

 

「んっ!?」

 

「はっはーっ! 蜘蛛の糸だよ! こいつは絡みつくとなかなか外れねぇんだ!」

 

 

両手に持った武器を封じられ、一瞬だけ動きを抑えられた一夏。

そんな一夏に向けて、アラクネの脚部ブレードが迫る。

 

 

「蜘蛛の糸を甘く見るからだよっ‼︎」

 

 

一夏の脳天へと振り下ろされるブレード。

オータムは確実に殺ったと思っただろう……。

だが……。

 

 

「グブッ!!?」

 

 

突然変な声を上げたオータム。

そのフルフェイスのヘルメットのような物を被った顔には、白式の拳が抉りこまれていたからだ。

 

 

「ガハッ!」

 

 

あの瞬間、二刀を即座に捨て、一気にオータムの懐に入り込んだ一夏。

糸を出しているため、両手が使えないオータムの顔を殴るのは、とても容易な事だった。

 

 

「ぐっ……く……っ!」

 

「どうした……さっさと立てよ……テロリスト」

 

「っ、くそ……!」

 

 

 

よろよろと拙い足取りで、オータムは立ち上がる。

そんな様子を、腰に下げていたもう二刀を抜刀しながら、眺める一夏。

その眼に慈悲などの感情は入っていない。

敵と見定めたのなら、あらゆるものを斬り捨ててしまう……鬼気を含んだ澄み切った瞳。

今の一夏の姿は、ある意味……神のような姿だった。

あらゆる物を斬り裂く、災厄の神……まるで『禍津神』そのもの。

 

 

 

「くそっ、ぶっ殺すッ!」

 

「やれるもんならな……っ!」

 

 

 

ニヤリと笑い、オータムを嘲笑うように攻撃を躱していく。

感情の昂りが激しいオータムは、一夏にとって仕留めやすい相手。

飛んでくるビームを躱しながら、二刀を振るい、次々に脚を斬り落としていく。

 

 

「くっ……! だあぁっ!」

 

「遅えよ……っ!」

 

 

 

振り下ろされる拳。

だが、一夏はそれを悠々の躱して、逆にオータムの顔面に回し蹴りを入れる。

蹴りを受け、吹っ飛ばされたオータムは、舞台のセットへと激突し、瓦礫の山に埋もれてしまう。

すぐにその山を破壊して、現れたオータムは、荒い呼吸を整えながら、一夏を視界に入れる。

悠然と立っている一夏の姿に、オータムの感情が爆発した。

 

 

 

「この化け物野郎がぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

脚部ブレードを再び斬り落とされ、残っているのは4本。

これ以上斬られれば、こちらの機動力が落ちてしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。

ゆえに、オータムはもう一度、両手に剣を展開した。

しかし、今度は短剣型のブレードではなく、片手用の直剣だ。

刀身が細く、どちらかというと、細剣に分類される剣ではないかと推測できるが、それを取り出し、オータムは再び一夏に斬りかかる。

同じ二刀流スタイルで、脚部ブレードを入れれば、手数ではまだオータムに部がある。だが、それだけで勝てる相手ではないと、オータムもすでにわかっている。

だから、ここは慎重を期して相手をする。

 

 

 

「オラァ‼︎」

 

「っ?!」

 

 

アラクネの腕が、廃棄された脚部と連結し、通常よりも倍の長さに変化した。

よって、振るわれる剣の間合いも、倍に伸びたと思ってもいい。

だが、一夏も一瞬虚を突かれたが、すぐに対応し剣を弾いてオータムほ間合いに入る。

 

 

「フッーーーー!」

 

「んっ!」

 

 

だが剣を弾き、間合いに入ったのもつかの間、すぐにもう片方の剣によって防がれる。

そうしている間にも、伸ばしきっていた腕をたたみ、もう一度斬りつけてくる。

射程が倍になって、一夏も攻めづらくなった。

 

 

「オラ! オラオラオラァっ!!!」

 

「っ!」

 

 

だが、一夏は動揺する事なく、その剣撃をいなし続ける。

相手は脚部ブレードを使ってこない。

これ以上斬られるとまずいとわかっているから……。

だからこそ、動きも単調になってくる。

一夏の顔付近に放たれた鋭い刺突を、一夏は体制をまるでイナバウアーのように上体を反らして躱し、すぐに体制を整えて左の《雪華楼》で腕を斬り落とす。

 

 

 

「まずは一つ……!」

 

「うっ!?」

 

 

 

片手を潰され、残る剣でなんとか応戦したものの、手数ではもう一夏に負けている。

そんな状態で、一夏に勝つ事なんて……到底無理な話だった。

今度は離れた間合いから、一夏の頭上から勢いよく振り下ろされる一撃を、一夏は左脚を後ろに引いて、半身姿勢になって躱し、その後になって、振り下ろされた一撃が地面を抉る。

そして右の《雪華楼》で、腕を串刺しにして、地面に縫い止める。これで身動きを取れなくする。

 

 

 

「しまっーーーー」

 

「《極光神威》ーーーーッ!!!!」

 

 

 

一夏の口から言葉を聞いた瞬間には、もうオータムの視界に、一夏の姿はなかった。

 

 

 

 

バアカアァァァァァァーーーーッ!!!!

 

 

 

 

鋼が砕ける音。

飛び散る装甲の破片と、四散する鮮血……。

それはつまり、ISの絶対防御を破り、オータムの生身の体を斬り裂いたという事だ。

 

 

 

「がっはぁーーーーッ!?」

 

 

 

口から鮮血が零れ落ちる。

荒い吐息を吐きながら、オータムは信じられないと言った感じて、途切れ途切れに言葉を発する。

 

 

 

「な、なんで……、シールドエネルギーが……!」

 

「いきなり消滅したか……か?」

 

 

 

オータムの疑問に答えるように、一夏は《雪華楼》を見せた。

僅かばかりに黄金の光を纏っている刀身を見せ、一夏はオータムに言った。

 

 

「俺の白式には、元々バリアー無効化攻撃を行える機能があった……その究極形態が、単一仕様能力《零落白夜》。

第二形態に進化してから、その能力が攻撃特化から機動特化になっただけで、バリアー無効化攻撃は今も使えるんだよ……。

だから、今までダメージで削ってきたエネルギーを、今の一撃で完全に消滅させたんだよ」

 

 

 

一夏の言葉に、オータムは言葉を失ったかのように絶句する。

戦闘経験では、自分の方がはるかに上だと思っていた……いや、実際には場数を踏んでいるのは自分だ。

なのに、こうもあっさりと負けてしまった。

困惑した状態でいると、それも一夏に悟られていたかのように、問いかけられる。

 

 

 

「確かにお前と俺とじゃ、潜り抜けてきた修羅場の数は違うだろう…… “場数” じゃ俺はお前に絶対に勝てない。

だが、俺とお前とでは、潜り抜けてきた “修羅場の質” が違うんだよーーーーッ!」

 

 

もっとも冷酷かつ残忍な眼光を、オータムに向けて放つ一夏。

そこにはもう、織斑 一夏という少年はいない。

ただただ凄まじい剣戟と、修羅の如き力を持った最凶の剣士の姿……それは…………

 

 

 

 

「ーーーー人斬り、抜刀斎……っ」

 

 

 

 

誰かそう言うのが聞こえた。

SAO生還者組か、それとも、専用機持ち組か……初めて見る者も、噂に聞いていた者も、実際に見た事がある者も……誰もが恐怖という感情を向けている存在が、今目の前にいた。

 

 

 

 

「お前にはまだ聞きたい事が山ほどある……このままおとなしくお縄についてもらうぞ?」

 

「ぐっ……ぬうっ……!」

 

「ほう? まだ動こうとするのか……大した根性だぜ。だが、もう少し寝てろ」

 

 

 

一夏か《雪華楼》をくるっと回して、刀の峰をオータムの首に添えた。

そして軽く振って、首に当てて衝撃を送り、そのまま昏倒させようかと思ったその時だった。

 

 

 

「っ?! くっ!」

 

 

 

殺気に気づいた。

上空から……強いて言うならば、アリーナの外壁の向こう側からだ。

何が来るかはわからない。

だが、何かが来るという感覚だけはわかった。

一夏はとっさにその場を離れた…………すると、その場に無数のレーザー光線がふりそそがれる。

薄い紫のような、細いレーザー光線が……。

アリーナの外壁を貫通し、破壊したレーザー光線を発した者の顔を見ようと、一夏は即座に顔を上にあげた。

そしてそこに、もう一機……一夏の知らないISが存在した。

まるで蝶を彷彿とさせる姿……手に持っているライフルや、そのISの周りで飛んでいる小さいパーツの様なもの……まるで、セシリアの駆る《ブルー・ティアーズ》と似通った装備。

だがその顔は、バイザーによって覆い隠され、はっきり顔は見えない。

だが……

 

 

 

(なんだ……あいつは……っ!?)

 

 

 

一夏は自分の心臓が、激しく鼓動したのを感じた。

視線を向けている相手……その姿を、強いては顔を見た瞬間にそうなった。

何かを感じ、一夏はいてもたってもいられなくなった。

 

 

 

「カタナ! この女のことを頼む!」

 

「あっ、ちょっと! チナツ!?」

 

 

 

アリーナの外で立ち止まっているISに向かって、一夏は超高速の速さで飛んで行ったのだった……。

 

 

 

 






次回はついに、Mとの対戦。

感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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