ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は劇後半と、いよいよあいつが出てきます。





第71話 蜘蛛の操り手

劇が開始されて、だいたい数十分は経っただろうか。

シャル、直葉という心優しきシンデレラたちと別れを告げて、一夏と和人は合流した。

 

 

「はぁ……はぁ……マジ、洒落にならんぞ、これは……!」

 

「ぜぇ……ぜぇ……ホントですよ……」

 

 

今二人がいるのは、宮殿風に作られた舞台セットの一室。

周りには、様々な武器が置いてあることから、武器庫の様だ。

手に触れ、感触を確かめる。

 

 

「これは……本物か?」

 

「いえ、形や重さは限りなく近いですけど、鋼じゃないですね。これは鈴たちが持っていた武器と同じ……これも亜鉛合金でできた模造品だと思いますよ」

 

「なら、俺たちも拝借しておくか」

 

「ですね……」

 

 

 

和人は片手剣を取り、一夏は鍔無しの刀を拝借する。

目の前の扉を出れば、まず間違いなく、戦乱に巻き込まれる。

 

 

 

「っていうか、絶対俺の方が不利ですよね、これ……」

 

「いや、それは仕方ないだろう……。ここがIS学園である以上、お前が狙われる確率が高いのは確かなんだし……」

 

「普通に考えて、シャルはまだしも、鈴とセシリアが……あとは、ラウラかな……」

 

「俺もだな……リズとシリカがあんなに来るとは……」

 

 

 

二人してため息をついた。

 

 

 

「こうなったら、腹をくくるしかないないだろう……この劇がどこで終わるのかは知らんが、生き残らないと……」

 

「死…………ですね?」

 

「その通りだ……っ!」

 

 

 

仮に捕まってしまえば、その女子生徒たちからの何らかの要求を聞かなくてはならないだろうし、まず怖いのは、刀奈と明日奈の存在。

刀奈に関しては、この劇を主催したあたり、何か手を打っているのだろうが、明日奈は違う。

この劇に一夏と和人の二人が出ることは知っていても、その参加者たちが二人を襲ってくるのは知らない。

その秘密は、やはりこの王冠……。

 

 

「今取っても電流が流れるんですかね?」

 

「……やってみたら?」

 

「絶対イヤです」

 

「だよな……」

 

 

 

そっと、一夏と和人は、扉に左手を当てた。

 

 

「よし……扉を出たあとは、それぞれ別々に動こう」

 

「ええ、少しでも動きやすくするために……ですね」

 

 

二人は頷き合って、勢いよく扉を開けた。

一旦壁に隠れて、状況を確認。付近に誰もいない事を確信してから、二人は外へと出た。

 

 

 

「よし……行くぞ!」

 

「はい……! ご武運を!」

 

「おう!」

 

 

 

 

二人は左右に分かれて、それぞれ走り出していった。

だが、今回は大丈夫。

ちゃんと武器を携帯し、何とか渡り合える戦力は持った。

あとは、自分たちがどれくらい凌げるのかどうか……。

 

 

 

「頼む……誰にも会いませんように……!」

 

 

 

そう思いながら、一夏は塔の上へと上がっていく。

この中では一番高いところだ。ゆえに、見上げなければならないため、そうそう見つかる事はないだろう。

そう淡い期待をしてみたが、それが最悪の一手となるとは……。

 

 

 

「ん?」

 

 

塔の頂上に登り切ったところで、一夏は目を凝らした。

誰かがいる……。

では誰だろう。

今のところ、下には鈴とシャルがいる。

そしてどこかにセシリアがいるだろう……。

ならば、考えられるのは、ラウラか、箒か、簪か……。

うん、どの三人にも会いたくない。

ラウラは軍人。箒は剣道チャンプ。簪は刀奈の妹で、暗部の家柄。

どれも会えば苦戦を強いられる結果になる。

 

 

(やべぇ〜…………)

 

 

 

心の中でそう思った時だった。

急にスポットライトが当てられ、その光に照らされたシンデレラは、銀髪のストレートで、両手に軍用のコンバットナイフを装備していた。

 

 

 

「あぁ〜……」

 

「待っていた……師匠」

 

「俺は待ってほしくはなかったんだけど……」

 

「今日この日……私は師匠を倒し、超えていく!」

 

「くっ!」

 

 

 

 

ナイフ二刀流で突っ込んでくるラウラ。

逆手に持ったナイフを、右に左にと振り抜いていく。

一夏も僅かな動きで攻撃を躱し、いなし、受け止める。

 

 

 

「さすがは師匠……すでに武器を手にしていたか……」

 

「じゃないとな……お前らが襲ってくると思ったんで、ねっ!」

 

「ふんっ!」

 

「あぶっ!?」

 

 

 

右のナイフが、一夏の着ていた衣装に擦り、その部分が綺麗に裂かれた。

 

 

「なっ!? まさか、それって……!」

 

「ん? 私が普段から愛用している物だが?」

 

「って事は本物って事じゃん!」

 

「当たり前だ。師匠を倒すのに、そんなおもちゃでは失礼だろ!」

 

「死ぬかもしれないのに失礼も何もないわ!」

 

 

 

近接戦は、長年の勘が働いて、何とかしのげてはいるが、それがどこまで持つか……。

体力的には、まだラウラの方に分がある。

IS部隊の隊長であり、ドイツ軍の少佐なのだ。

本当なら即座にやられてしまうのがオチだろう……。

 

 

 

「さぁ、師匠! 私にその王冠を渡してくれ!」

 

「ラウラも王冠を!? この王冠いったい何なんだよ!!?」

 

 

 

みんな王冠を狙っている……。

だが、その理由がいまひとつわからない。

いったい……何なのか……。

 

 

 

 

 

 

「ふふふっ……恋には障害がなくっちゃねぇ〜♪」

 

 

 

 

管制室でニヤニヤと笑いながら、あるボタンをポチッと押す刀奈。

すでにドSスイッチが入っているのか、その笑はとても怖い。

 

 

 

 

グイイィィーーーーン

 

 

 

「あ?」

「ん?」

 

 

 

塔の上で戦っていた一夏とラウラは、何やら聞きなれない音に反応し、鍔迫り合いをしている状態で、音の発信源をみた。

と、その正体を見た瞬間、一夏とラウラは驚愕した。

 

 

 

「「アームストロング砲だとっ!?」」

 

『そのレプリカだけどねぇ〜♪』

 

 

 

ゆっくりと砲身が移動する。

射角を揃え、刀奈の押したボタンに反応し、アームストロング砲の砲弾が発射された。

 

 

 

「っ! ラウラ!」

 

「うわっ!?」

 

 

ラウラに覆いかぶさるようにして倒れ込む。

塔の一部に砲弾が当たり、爆発音とともに外壁が崩れる。

だが、やはりこれも配慮したのか、爆発の規模が小さかったのだ。

ならば、今のうちに撤退するのが得策だろう。

 

 

 

「行くぞラウラ!」

 

「へっ?!」

 

 

突然体を抱きかかえられたからか、ラウラは妙に女の子らしい声をあげる。

だが、今はそんな事を考えている余裕がない。

一夏が走り出した瞬間、もう一度アームストロング砲が発射された。

一夏は塔の上からダイブし、取り付けてあった滑車に手を掛けて、勢いよく降っていく。

 

 

 

「あっぶねぇ〜……」

 

「………」

 

「ん? どうした、ラウラ?」

 

「い、いや! な、何でもない……」

 

 

彼女らしくない、今にも消え入りそうな声だった。

ようやく地面が見えてきて、一夏はタイミングを合わせて滑車から手を離した。

着地と同時に、ラウラを下ろして、その場を後にする。

立ち去る瞬間、ラウラが「ぁ……」と名残惜しそうな声をあげたのだが、一夏には聞こえていなかった。

 

 

 

「フゥ〜……キリトさん、大丈夫かな?」

 

 

 

今でもなお、戦っているであろう和人の様子が気になる。

どうにかして隠れないと……そう思っていた時、背後から声をかけられた。

 

 

「一夏」

「っ!? 箒!」

 

 

城のような外壁から身を乗り出し、こちらを見ていたファースト幼馴染。

手まねきをしているので、一夏はそちらへと走っていく。

 

 

「無事のようだな」

 

「まぁ、今のところはな……」

 

「ここを登れ。そうすれば、安易には見つからないだろう……」

 

 

 

そう言って指差したのは、もう一つあったセットの塔。

確かに、こちらには誰もいないかもしれない。

先に箒が登っていき、後で一夏が追随する形だ。

 

 

 

「っ! 一夏、上を見るなよ?!」

 

「はぁ? なん、でぇっ!?」

 

 

そう言われたら、反射的に上を見てしまうのが人の原理だ。

しかし、そのタイミングが悪かった。

なぜなら、見えてしまったのだ。

箒の下着が。

淡いピンクのレース柄の下着。たまたま空調の風が吹いて、ドレスのスカートを扇いでしまったのだ。

 

 

「み、見るな!」

 

「うわっ!? や、やめ、落ちるって!」

 

 

みんな同じ服に、同じ靴を履いている。

つまり、強化ガラスの靴を……。しかもヒールだから、尖った部分が局所的に突き刺さる。

危うく手を外しそうになりながらも、一夏は箒に許しを請い、箒はなんとか怒りを収めて、二人で塔の頂上へと登って行った。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「これで、なんとか誤魔化せるか……」

 

 

 

中々に長い梯子を登り切って、二人は息を整える。

 

 

 

「で、では……その王冠を渡してもらおう……」

 

「…………箒」

 

「いや、これは……! そ、そう! お前を守るためなんだ! だから、報酬として、後で渡してくれればいい! だから、他の誰にも渡すなよ!」

 

「…………まぁ、それならいいけど」

 

「っ!? い、いいんだな?! 後で無しはダメだぞ?!」

 

「ん? まぁ、別にそんな意地悪な事はしないって」

 

「そ、そうか……ははっ、勝った……私は勝ったぞ……っ!」

 

 

 

軽く拳を握って、勝ち誇った顔をした箒を見て、一夏は首を捻っていた。

だがまぁ、箒がこちら側に回ってくれたのは幸いだ。

さっき和人と合流した時に聞いたが、和人にも直葉がついたようだ。

箒と直葉……ふたりとも剣道でチャンピオンであり、ベスト8に春ほどの腕前だ。

まさに、鬼に金棒と言えるだろう。

これで、ようやく安心できる……この時は、そう思っていた。

 

 

 

 

「お姉さん……そんなに甘くないわよぉ〜♪」

 

 

 

再び刀奈がボタンを押す。

その瞬間、一夏と箒のいる塔の頂上で、何か物音が……。

 

 

 

「「んっ?」」

 

 

 

物音がした方向に視線を移す一夏と箒。

すると、今まで壁だと思っていた城壁が、両手開きのドアの様にパカリと開く。

だが、開いた先に問題があった。

どこからそんなものを持ち出したのかと疑いたくなる様な、巨大な鉄球が現れたからだ。

 

 

 

「げっ!?」

「なっ?!」

 

 

現れた鉄球は、コロコロと坂道になっている道を転がってくる。

そしてその行く先に、一夏と箒の二人もいるのだ。

 

 

 

「に、逃げるぞ箒!」

 

「あ、ああっ!」

 

 

慣れないドレス姿だからなのか、箒の足取りが少しぎこちない。

しかもヒールというアンバランスな靴を履いているため、時折バランスを崩しかける。

だから一夏は、とっさに箒の手をとって、一緒に走り回る。

 

 

 

「やばい…! やばいぞこれは……っ!」

 

 

 

坂道になっているため、鉄球はどんどんスピードを増して追ってくる。

このままでは、いずれ轢かれるのが目に見えている……。一夏は咄嗟に箒を勢いよく引き寄せると、箒の体を浮かせ、その体を両手で抱きかかえる…………つまり、お姫様だっこ。

 

 

 

「ぁ……」

 

「悪い箒、少し我慢してくれ!」

 

「う、うむ……」

 

 

 

坂道を下る途中で、横道に逸れる場所を探し当て、一夏はそちらへと飛び込んだ。箒を壁側へと押しやり、自分もその中へと入り込む。

自然と体を近づけあう二人。

一夏は転がっていく鉄球に注意を向けていたのだが、箒はずっと、一夏の横顔を眺めていた。

凛々しく、鋭い視線を向ける一夏の表情は、まるで千冬の様な雰囲気を纏っていた。

幼い頃から見ていた一夏の顔。

今ならはっきりとわかる。

 

 

 

(やはりお前は……かっこいいな……)

 

 

 

千冬というかっこいい女性がいて、その弟である一夏もまた、そんな表情をするのだ。

初めて見たのは、剣道の稽古に来た時……二人で素振りをしていた時だ。

真剣に竹刀を振り続ける一夏の横顔を、素振りをしながら眺めるのが、箒の特権だった。

それが今、久しぶり見られた……。

 

 

 

「あ、あの……手を、どけて欲しいんだが……」

 

「っ!? 悪い……!」

 

 

 

改めて箒に促され、一夏は咄嗟に肩に掛けていた手をどけた。

その瞬間に、箒もラウラ同様に「ぁ……」と、なぜか名残惜しそうな声を漏らした。

 

 

 

「しっかし……ホント何なんだよ。何でお前たちはこんな作り物の王冠ごときにそんな躍起になってんだ?」

 

「それは……その……」

 

 

 

口ごもる箒を見て、何ならかの理由でそれは言えないのだとわかった。

王冠には何らかの意味があって……しかし、それを一夏たちには言えない何かなのだろう。

 

 

 

 

「師匠! 王冠を渡してもらうぞ‼︎」

 

「げっ! ラウラ!」

 

「そうさはさせんッ!」

 

 

 

いつの間にか一夏を追ってきていたラウラが、一夏の背後からナイフを振りかぶってきていた。

一夏も持っていた刀で、受けて立とうとしたが、それよりも早く、箒が刀を抜刀。

その刀は、箒が常日頃、稽古で使うために持っている真剣……一夏も前に見たことがあるものだった。

名は《緋宵(あけよい)》。

名匠明動陽(あかるぎよう)の晩年の作で、女剣士を伴侶にしたことから、それまでの刀剣作りの一切を捨て去り、飛騨山中へと移り住むと、そこで『女のための刀』を作り始めたそうだ。

力で劣る女が、男を倒すための刀……それは『柔よく剛を制す』という言葉と似て、刀匠としての生涯のテーマにしていたようだ。

その明動陽が、最後に至った結論は以下の二つ……。

 

『決して受けることなく剣戟を躱し、また己が身に密着して放つ必殺の閃き』

 

と、

 

『相手よりも早く抜き放ち、その一太刀をもって必殺とする最速の瞬き』

 

 

つまり、カウンターを主体にした『後の先』の戦法か、最速の剣として、剣術の究極形態のひとつである抜刀術……居合い斬りを主体にする『先々の先』の戦法だ。

箒の持つ刀は、後者に当たる。

緋宵は、普通の刀よりも、刀身が細く長い。

つまり、抜刀術に向いている刀なのだ。

それゆえに、箒の抜刀が速く、一夏とラウラの間に割り込めたのだ。

 

 

 

 

 

「どういうつもりだ!」

 

「邪魔をするなラウラ!」

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

 

 

 

一度距離を置き、箒とラウラは互いに構える。

《緋宵》を正眼に構える箒と、ナイフ二刀流を軍隊式戦闘術の構えで見据えるラウラ。

互いに一歩も動かない。

相手の出方を待っているようだ。

 

 

 

「まずは貴様から排除してやろう……っ!」

 

「やれるものならな……ッ!!」

 

 

 

一瞬にして険悪ムードに突入。

箒が踏み込んで鋭い突きを放ち、ラウラはそれを躱して、箒に斬りかかる。

ナイフと刀……リーチの差では、箒に分があるが、元々小柄な体形であり、素早く動けるラウラ相手には、その差もあってないようなものだ。

互いに牽制を交えながら、真剣同士の対決が続く。

 

 

 

「二人のことだから、大丈夫だとは思うが……」

 

 

 

一度火がつくととんでもないくらい本気になる二人でもある。

二人の戦いぶりを拝見している一夏。

しかしその後ろから、ひたひたと近づいて来る者がいた。

 

 

「っ!?」

 

「あ……」

 

 

 

咄嗟に後ろを振り向き、刀を構えた一夏。

するとそこには、水色髪の少女が立っていた。

しかも、一夏の頭の上に手を伸ばそうとしていた状態で……。

 

 

 

「……えっと、簪さん? 何をしていらっしゃるのですか……?」

 

「え、えっと……」

 

 

 

一夏の冷静な対応に、一瞬身じろぎした簪。

恥ずかしそうに顔を赤らめて、ドレスの裾を握ってモジモジとしている。

 

 

「あの……王冠を……」

 

「やっぱりか……」

 

 

弱々しくそう言う。

やはり簪も一夏の被る王冠を求めて来たようだ。

そんなに欲しいならあげたい……だけど、あげた瞬間に地獄が待っているので、それはできない。

 

 

「えっと、簪。この王冠に、一体何があるんだ?」

 

「えっと……それは、秘密……」

 

「まぁ、そうだよな……」

 

「でも、私の目的は、話してもいい……」

 

「目的?」

 

「うん……一夏、今度の週末、私に付き合ってほしい……」

 

「週末……なにかあるのか?」

 

「ある。わたしにとって、凄く大事な用事が……っ!」

 

「お、おう……」

 

 

 

 

瞳に映った、静かだか確実に燃えている炎。

こんな簪は初めてだ。

それ程までに本気なのだろう……。

 

 

 

「アニメ専門店で発売される初回限定盤を、どうしても買いたいっ!」

 

 

 

意外にも可愛い目的だった。

しかし、両手を握り拳にしながら言う姿は、本気の姿を現したものだった。

 

 

 

「まぁ、それくらいなら、全然手伝うぞ?」

 

「え……? ほんと?」

 

「うん。ほんとほんと」

 

「…………なら、いい」

 

 

 

ホッとひと安心。

そういった表情で、一夏を見る簪の顔は、どことなく刀奈に似ていた。

刀奈も安心するとき、目を細め、少しだけ微笑むのだ。

やはり姉妹なのだなぁ〜と思っていると、後ろから大きな轟音が響いた。

 

 

 

「「っ!?」」

 

「きゃあっ!?」

 

「な、なんだ?」

 

 

 

 

後ろで戦っていた箒とラウラ、一夏、簪は、突然の地響きと轟音に驚き、その場で固まってしまった。

しかしよく見ると、転がり落ちていった鉄球が、ラウラと出会った塔に激突し、城壁を破壊し、塔を倒壊させていた。

 

 

 

「「「「へぇ……?」」」」

 

 

 

一体何が起こったのか……そんな表情で眺めていた。

しかし、既に最悪な状況が起こっていた。

一般生徒達が劇を見ていた観客席と、舞台の入り口が、一つの桟橋によって繋がったのだ。

ほぼほぼ丸見えの状態で、一般生徒たちと目が合ってしまった。

 

 

 

『さぁっ! ここからは、フリーエントリー組の参加です! みんな、王子様の王冠めがけてガンバってぇ〜〜っ!!!!』

 

「「な、なにぃ〜〜っ!」」

 

 

 

 

刀奈の言葉とともに、雪崩れ込んでくる一般生徒たち。

みんな一直線に、和人と一夏のいる方へと向かって走ってくる。

舞台の広間で、里香、圭子、直葉と対峙していた和人は、一瞬にして包囲され、一夏たちもまた、徐々に包囲されつつあった。

 

 

 

「嘘だろ……これ……!」

 

 

 

絶望の色が支配する中、一夏の背後に気配を感じた。

 

 

「ごめんねぇー、織斑くん。でも、現実なんだぁ〜」

 

「鷹月さん!?」

 

「私と幸せになりましょう、王子様!」

 

「谷本さん……」

 

「王冠をちょうだい!」

 

「相川さんも……?!」

 

「おりむー、待ってぇ〜!」

 

「のほほんさんまで…………」

 

 

 

みんな一組のクラスメイト。

ゆえに、あまり手荒な事はできない。

和人の方はどうなっただろうと思い、そちらに視線を向けると、和人の周りには、ほとんど上級生が集まっていた。

二年生を示す黄色いリボンの他に、赤いリボンをつけた生徒……つまり、三年生の姿まであった。

このままでは、シンデレラ達よりも先に、一般生徒達にやられてしまいそうだ。

どうにか切り抜けなければ……そう思っていた時だった。

いきなり舞台の照明がすべて落ちた。

 

 

 

「きゃあっ!? な、なに?!」

 

「ちょっと! 暗くてなにも見えないわよ!」

 

「会長! 照明を早く!」

 

 

 

一般生徒達からの苦情が相次いだ。

しかし、これは好機だと、一夏と和人は思った。

この暗がりに紛れて、素早くこの場から離れれば……そう思っていたのだが……。

 

 

 

『高いところから失礼致します‼︎』

 

『あ、危ないから、みんな、その場を動かないでねっ!』

 

 

 

マイク越しに聞こえる聞き覚えのある声。

これは…………

 

 

「カタナ……?」

 

「アスナ!?」

 

 

 

刀奈は管制室から語り部兼ナレーションとしての役割があるはず。

明日奈は今回の劇では未だに出てこなかった……今になって、しかもどこにいるのだろう……。

 

 

『王子! 様々な刺客溢れるこの舞踏会を、よくぞ耐え抜いてくれたした!』

 

『ご、ご安心ください! わ、我々親衛騎士が、あ、あなたの為に、馳せ参じます!』

 

 

 

急にライトアップされ、テラス席のところに、光が集まる。

そこには、二つの人影があった。

栗色の髪を丁寧に編み込み、洗練された美しさ際立つ白いドレスと甲冑を身に纏った細剣を持つ女騎士と、水色髪に十字架のアクセサリーをあしらい、隣にいる栗色髪の騎士と同じ格好したもう一人の女騎士。

一本の長槍を肩に担ぐようにして持っているこちらの騎士は、その場の雰囲気を掌握し、高らかに宣言した。

 

 

 

『さぁ、民衆よ! 王子を奪いたくばーーーー』

 

『わ、我々を倒してから行け! こ、この王子親衛騎士ある私! アスナとーーーー』

 

『カタナが!』

 

『『尋常にお相手致します!!!!』』

 

 

 

バシュウゥゥーーーー! と白いガスが噴射され、全体照明がつけられる。

テラス席に現れた二人の女騎士は、片や悠然と、片や羞恥に顔を赤らめながら、手持ちの武器を高々と掲げた。

 

 

 

「「「「「はあああぁぁぁっ!!!!???」」」」」

 

 

 

 

会場に集まっていた全生徒達からのブーイング。

ここへきて、本妻達による妨害が入ってくるとは、予想だにしていなかったからだ。

 

 

 

「うふふっ……決まったわね♪」

 

「もう〜……こんな事するって聞いてないよー!」

 

「大丈夫よ。アスナちゃん、やっぱり似合うわねぇ〜♪」

 

「…………それはそうと。キリトくんたちを危険な目に遭わせたのは、怒ってるんだからね、カタナちゃん」

 

「あっはは…………」

 

「…………」

 

「うわぁーん! ごめんなさい! 悪気はなかったのよ、ほんとよ!? だって、どうせ私たちが守れば、二人は取られずに済むでしょう!?」

 

「それはそうだけど、限度ってものがあると思うなー」

 

「うう〜……ごめんってば、アスナちゃん。だから怒らないでぇ〜!」

 

 

 

頬を膨らましながら、刀奈をジト目で睨む明日奈に、刀奈も堪らず許しを請う。

元SAO組の中で、明日奈に一番の年長者であることから、刀奈も明日奈には頭が上がらないところがあるようだ。

 

 

 

「とにかく! 私たちを倒さないと、チナツとキリトの獲得なんて、夢のまた夢!」

 

「うぅ……どうしてもやるの?」

 

「そう、やるの♪」

 

「はぁ……。勝負ならいくらでも付き合ってあげる! さぁ、かかってきなさい!」

 

 

 

 

もう、半ばやけくそ感がハンパない。

細剣を手にした明日奈と、長槍を手にした刀奈は、テラス席から飛び降りると、戦いを挑みに来た武道関連の部活生たちを相手に、戦い始めた。

思わぬ参加に、舞台に押し寄せていた一般生徒たちは混乱している様子だ。

一夏たちも負けじと応戦し、なんとか劇が終わるまでには持ちこたえられそうだった。

 

 

 

「よし、このまま劇が終わればーーーー」

 

「そうはさせるかぁーーーー!!!!!」

 

「うおっ!?」

 

 

 

なんとか振り切って、逃げようと思っていた矢先に、一組のクラスメイトたちに行く手を塞がれる。

 

 

「織斑くん、観念しなさい!」

 

「織斑くんたちは一組の共有財産!」

 

「ゆえに!」

 

「私たちにだって、織斑くんと戯れる権利がある!」

 

「どういう理屈なんだよ、それ!」

 

 

 

ここへきて諦めが悪い……いやもとい、執念を見せる十代乙女たち。

これもIS学園という特殊な学園へと入学した者たちの特性なのだろうか……。

 

 

 

「そっか……みんな、そこまで……」

 

「っ!? じゃ、じゃあ…………!」

 

「でもごめん! やっぱ、逃げる‼︎」

 

「あっ! こらぁー! 待ちなさぁーい!!!!」

 

「追えっ! 追えぇぇぇぇッ!!!!!」

 

 

 

塔の頂上から、少し下ったところにある屋根を伝って、下の方へと降りる。

今回の劇で用意された舞台は、かなり精巧に作られているため、逃げることなんでいくらでもできる。

一つ問題があるとすれば…………

 

 

 

「「「「「まぁーてぇーーーーーッ!!!!!」」」」」

 

「数が多すぎねぇか!?」

 

 

 

 

一夏を追ってくる生徒達が多いことだろうか。

 

 

 

「くっそぉー、このままじゃあ…………」

 

 

 

そう思い、進路を変えて、急速に曲がってみた。

だが、その行動が、自分の首を絞めてしまう羽目になる。

 

 

「げぇっ!? 行き止まり!」

 

 

周りはセットに囲まれている。なんとか崖のようになっているところを登れば、時間ぐらいは稼げるだろうが……。

 

 

「最悪、白式を使うか?」

 

 

そう考えながら、周りを確認している時、ふと、足を掴まれた。

 

 

「っ!?」

 

「織斑さん、私です」

 

「っ?! 巻紙さん?! どうしてここに……」

 

「早くこちらへ! そこまで迫ってきているのでしょう?」

 

 

 

 

確かに、もう追っ手がそこまで迫ってきている。

だから、もう躊躇している暇はない。

 

 

 

「すいません! 入れてもらえますか?」

 

「はい、急いで」

 

 

よく見ると、地面の部分が、まるで潜水艦の入り口のようになっており、そこから下へと飛び降りる。

 

 

 

「はあ…………助かりました、巻紙さん」

 

「いえ、礼には及びませんよ……」

 

「にしても、巻紙さんがどうしてここに?」

 

「あ、えっと……お恥ずかしいながら、化粧室を探して、こんなところまできてしまいまして……。

そしたら、何やら上が騒がしかったもので……」

 

 

 

改めて周りを確認してみると、今一夏たちがいるのは、ロッカーがたくさん設置られている場所。

どことなく見覚えがあると思ったら、ここはアリーナの更衣室だった。

ちょうどその上に、舞台のセットが敷かれていたのだ。

 

 

 

「はぁ……でもまぁ、ずっとここにも居られませんからね……少し休憩したら、また戻りますよ」

 

「そうですか……なら、私も……そろそろ自分の仕事を完遂させなくてはいけませんね……」

 

「…………え?」

 

 

 

その言葉の意味が理解できず、一瞬の間が空いた。

だが、一夏の思考よりも、体が先に反応した。

彼女……巻紙 礼子から放たれる異常な雰囲気を……。

 

 

「ま、巻紙さん?」

 

「織斑さん……どうか、私に譲ってはいただけませんか?」

 

「…………一体、何を……?」

 

「はぁ……そんな物、決まっているじゃないですか……」

 

 

 

顔は笑っている。

だが、今の笑顔は、さっきまでの彼女とは全く違っていた。

どこか含みのあるような、底知れぬ暗闇を帯びているような……そんな気がしてならなかった。

 

 

 

「…………いいから、とっととそいつをよこしやがれよッ!!!」

 

「っ!?」

 

 

突如、礼子からの蹴りが放たれた。

咄嗟に一夏は、持っていた模造刀で弾き、蹴りの威力によって浮き上がった体制を整えて、その場に立ち上がった。

 

 

 

「あんた……一体……!」

 

「ったく……痛ってぇな……!」

 

 

蹴りを放った足のつま先を、床にトントンと突きながら、一夏のことを睨む礼子。

弾いた時、模造刀から感じた感触……どうやら、タイツ越しに何かの金属を隠し持っている……そう感じた。

それに先ほどの蹴りは、一般人の放つそれとは、一次元違っていたように思えた。

 

 

 

「何者だ……っ!」

 

「あぁ? そんなもん決まってるだろう……てめぇの専用機をもらいに来た、謎の美女だよッ!!!!!」

 

 

 

突如、礼子の上着のスーツが膨れ上がる。

そして、それを突き破り、中から8本の金属の棒が現れた。

 

 

 

「どうだ……嬉しいだろう?」

 

「っ…………自分で美人とか言っている様な人とは、初めて会うんでね。そんなの分かんねぇわ」

 

「ちっ! 歳上への言葉遣いがなっちゃいねぇーな!!!! このクソガキがッ!」

 

「っ!?」

 

 

 

奇怪な姿となった礼子が、一夏に飛びかかる。

一夏は模造刀を構え、礼子の攻撃をいなしていく。

 

 

 

「ほう? 意外としぶといねぇ〜……ゲームにどっぷりはまって動けなくなってた奴とは思えないくらいだ」

 

「生憎、うちの教官殿はスパルタでね……日々しごかれてんだよ」

 

「はっ! まぁ、いいや……とっととてめぇから白式奪えばそれでいいわけだし? だから即座に死んで、そいつをよこしなッ!」

 

「断る!」

 

 

飛びてくる鉄の棒は、まるで一本一本が意志を持っているかの様に、左右上下から一夏を挟み込む。

一夏も体を捻って躱したり、模造刀で打ち払ったりするが、それでも手に負えないでいた。

模造刀では斬ることができない。

一応、亜鉛合金という金属でできてはいるが、刃引きをしてしまっているので、切れ味はもともと悪い。

そして、相手の武器が、普通の鉄パイプなど、日常的にあるものだったのなら、傷をつけ、下手をすれば斬ることすらできたかもしれないが……

 

 

 

「ちっ! この金属……ISの装甲か!」

 

「あっははーーーッ! 今頃気づいたか!? そうだよ……だから、てめぇも白式を出さねぇ限り、絶対に勝てねぇぜ‼︎」

 

「…………」

 

 

 

明らかに白式を出させたがっている。

白式を渡すには、待機状態のままもらったほうが効率的だ………。

なのに、あえて出させるということは、何か策があるのだろう。

 

 

 

「…………いいぜ、望み通り……使ってやるよ。来い、白式っ!」

 

 

模造刀を床に投げ捨て、右手首に意識を集中する。

すると、凄まじい光が放たれ、一夏の体に白と薄紫の鎧が装着された。

白式第二形態……《白式・熾天》だ。

 

 

 

「クックク……! 待ってたぜぇーーーーッ!!!!!」

 

 

 

礼子の体にも、光が溢れてくる。

光が収まると同時に、その姿にも変化が……。

赤黒い色と黄色という、とても不気味な色合いを基調としたIS。

先ほどから攻撃していた8本の棒は、全て地面に着き、脚のようなっていた。

その他に、自身の腕につけられた装甲。

全ての手足を合わせると、10本にも及ぶ。

この姿……もはや人型のISではない……これはまるで……

 

 

 

「アラクネ…………」

 

 

 

蜘蛛と女性が合体したような怪物。

蜘蛛王などと呼ばれているものだ。

 

 

 

「さぁ、IS同士……楽しい殺し合いをしようぜッ!!!!!」

 

 

 

ISを用いた第二戦が、今開始されたのだった……。

 

 

 

 

 






次回は、学園祭終了まで行けばいいかな……。
もう時期仕事の方が忙しくなってきますので、更新が不安定になるかもしれませんが、ご容赦下さい( ̄▽ ̄)

感想、よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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