ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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とうとう学園祭の開始です!





第69話 学園祭

「いらっしゃいませ!」

 

 

 

一年一組の教室は、とても活気付いていた。

そんな中、メイド服に着替えたシャルが、にっこりと満面の笑みを浮かべ、入っていた生徒兼お客様に挨拶をする。

今日は待ちに待った学園祭。

長い長い準備期間を終えて、ようやくこの日を迎えた。

準備期間中は、各部活動も活動がほとんど停止していた。

理由はただ一つ。

一夏と和人の獲得による青春謳歌パラダイスを迎えるためだ。

どの部活動も、そのことだけに必死に取り組んだ。

そして、今日この日、学園祭を楽しむのもそうだが、催し物で一位になることを目指して躍起になっている。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様。こちらへどうぞ」

 

「お嬢様2名入ります!」

 

「うっそー! あの織斑くんと桐ヶ谷くんの接客が受けられるの?!」

 

「二人とも執事の燕尾服!」

 

「しかも写真が撮れるって! ツーショットよ、ツーショット‼︎」

 

 

 

 

執事の燕尾服に身を包んだ一夏と和人を見るために、学園祭が始まってから即行で並んだ生徒たちは、二人の姿に羨望の眼差しを送っていた。

普段から互いの恋人、あるいは専用機持ち達によって独占されている現状で、唯一彼らと触れ合える時間だ。

開店から早々、一組の教室の前には、長蛇の列ができていた。

制限時間を持って、テーブルを回転させないと、この列は捌けないほどに。

 

 

 

「ちょっとそこの執事」

 

「ん?」

 

「テーブルに案内しなさいよ」

 

 

列は着々と捌けていたが、そこに新たなお客がやってきた。

はっきりとわかるほど明るい赤色のチャイナ服。

背中がキッチリ見えるそのデザインは、少々扇情感を醸し出していた。

茶色の髪は、ツインテールのように括っているが、髪の根元はシニョンによって丸め込まれていた。

 

 

 

「鈴……その格好は?」

 

「二組は中華喫茶やってんのよ……。なのに、全然客が来ないのよ、あんたらのせいでね」

 

「んなこと言ったってな……」

 

「冗談よ冗談……。まぁ、暇だから、ちょっと視察に来たってわけ。ほら、さっさと案内しなさいっての」

 

「わかったよ。こちらへどうぞ、お嬢様」

 

「お、おじょ……っ?!」

 

 

 

一夏直々に「お嬢様」なんて呼ばれるのが新鮮で、思わずドキッとしてしまった鈴。

頬を赤く染めてはいたが、それを一夏に見られまいと、すぐにポーカーフェイスを作って、一組の教室へと入っていった。

 

 

 

「うわー……流石の繁盛っぷりね」

 

「まぁな。俺とキリトさんは、さっきから走りっぱなしだよ」

 

「働け働けぇ〜。まぁ、最後に一位を獲るのは、あたし達だけどねぇ〜」

 

「ふっ、期待してるよ」

 

「あっ! 鼻で笑ったわね!」

 

「はははっ!」

 

 

 

少々冗談を交えながら、一夏は鈴にメニューを手渡した。

それを開き、メニューに目を通してみる。

すると、中々に充実したメニューだった。

軽食としてサンドウィッチを始め、デザートのケーキもそうだし、コーヒー、紅茶と、本当の喫茶店のようだ。

 

 

 

「鈴のところは中華喫茶だろ? メニューには何があるんだ?」

 

「ジャスミン茶とか、プーアル茶を用意してる。どれも中国からの直送よ?」

 

「凄いな……! 食べ物は?」

 

「そうね……手軽に食べられるものをって事で、肉まんとかフージャオピンとか」

 

「フージャオピン……? ナンみたいなやつだったけ?」

 

「そう。ナンと同じように、貼り付けて焼くの。まぁ、形状は丸いんだけどね……。焼くのはオーブンだから、本場のマネはしてないけど」

 

「でも意外と本格的じゃないか……」

 

「デザートだって色々あるんだけど、こっちに比べると、ちょっとね……」

 

 

 

中国のデザートといえば、饅頭かごま団子しか思いつかない。

だが、見た感じだと、二組とてそこまで暇というわけではなさそうだった。

まぁ、今の一組の現状を見れば、少し暇だと感じてしまうだろうが……。

 

 

 

 

「と……ほら、ご注文をどうぞ」

 

「あ……そうね。うーん…………ん?」

 

 

 

と、メニューに目を通していた鈴が、ふとあるメニューに視線を奪われた。

 

 

 

「ねぇ、この『執事にご褒美セット』ってなによ?」

 

「…………お嬢様、当店一押しのケーキセットなどはいかがですか?」

 

「ん? …………あんた、今変に誤魔化したわね」

 

「さ、さぁ〜? 何のことでしょうー?」

 

「思いっきり動揺してんじゃない」

 

「してませんよ」

 

「ふーん……なんか面白そうね、この『執事にご褒美セット』ひとつね」

 

「…………いやいや、こちらの『メイドにご褒美セット』がいいですよ」

 

「うっさい! お嬢様っていうんだったら言うこと聞きなさいよ‼︎」

 

「はぁ……かしこまりました……」

 

「露骨に嫌そうな顔してんじゃないわよ! 客商売なんだと思ってんのよ!」

 

 

 

 

鈴にガミガミ言われながら、一夏は厨房へと入っていく。

何度かの注文のやり取りを行った後、一夏は戻ってきた。その手には、冷やしたグラスに十数本のポッキーを入れて、紅茶の入ったティーカップをお盆に乗せてやってくる。

 

 

 

「お待たせしました……」

 

「何でそんなに嫌そうなのよ……」

 

「これめちゃくちゃ恥ずかしいんだよ……」

 

「恥ずかしい?」

 

 

 

どういう意味だろう……。そう思っていた時だった、いきなり一夏が鈴の隣に座ったのだ。

 

 

 

「へ? なんで隣に座るの?」

 

「…………」

 

「まぁ、別にいいんだけど……」

 

「……その、これがこのセットのやり方なんだよ……」

 

「そうそう、どういうセットなの、これ?」

 

「…………食べさせられる」

 

「はあ?」

 

 

 

一夏の言葉に、鈴は耳を疑った。

だが、そんな鈴に対して、一夏ははっきりと言ってやった。

 

 

 

「だぁーかぁーらぁー……『執事にお菓子を食べさせられる』ってセットなんだよ、これは」

 

「は、はぁっ?! なによそれ……! 客がお菓子を食べさせるって……!」

 

 

 

顔を赤くしながら、変にもじもじしている鈴。

一夏は「だから他のにしろっていったろ?」と横目で鈴を見ていた。

 

 

 

「嫌なら交代してもいいんだぞ? 『メイドにご褒美セット』もあるし」

 

「い、いいわよ! せっかくなんだし……ほら、アーンしなさいよ」

 

「あーん……」

 

 

 

一夏は頬を赤くしながら、ポッキーを頬張る。

それを見ながら、羨望の眼差しを向けている鈴……いや、鈴だけではない。周りの生徒達もまた、同じように見ていた。

 

 

「ん……やっぱ恥ずかしいんだよなぁ……」

 

「普段から楯無さんとやってる奴に言われたかないわよ……っ!」

 

 

 

なにを今更……と言いたげに、ジト目で睨む鈴。

 

 

「ねぇ……」

 

「ん?」

 

「あたしが食べさせてあげたんだから……その、あたしもーーーー」

 

 

 

あーんと口を開けようとしたその時、鈴の目の前に黒い円形の物体が視界を塞いだ。

 

 

 

「うわっ?!」

 

「お嬢様、当店ではその様なサービスは行っておりません。ふんっ……」

 

「んぐぐ……っ!」

 

 

 

箒が間一髪のところで防いだ。

邪魔された鈴は、仕方なくポッキーを一本取って、自分で食べる。

 

 

 

(バカめ……私たちがそんな事をさせると思ったのか……!)

 

(チッ、よく考えたら、ここは敵の本拠地だった……!)

 

 

 

見たところ刀奈がいないため、チャンスと思っていたのだが、そこには鈴と同じ立場の者達が四人いるのだから。

そう思いながら、鈴はポッキーを細かく、まるでリスの様に食べる。

 

 

 

「ふっ……鈴、お前リスみたいでかわいいな」

 

「ぶふっ!?」

 

「んおっ?! 大丈夫かよ!?」

 

「あ、あんたが変な事言うからでしょうが……っ!」

 

「別に変じゃねぇだろ……ほんとにそう思ったんだし……」

 

「…………」

 

 

 

いつから唐変木鈍感朴念仁の一夏が、こんな事を言う様になったのか……。

いや、昔からそうだった。

思わせぶりな事を言っておいて、肝心なところで唐変木スキルを発動させる……。

だが、今のは違う。

刀奈という恋人ができた事で、一夏の心境はかなり変化したと思ってもいい。

だが、それだからこそ複雑である。

一夏に褒められると、とても嬉しい……だが、すでに恋人がいる……生殺しもいいところだ。

 

 

 

「っと、チナツくーん! ちょっと来てくれる?」

 

「あっ、はーい! 悪い、鈴。アスナさんに呼ばれた」

 

「いいわよ、行ってきなさい。お仕事でしょう?」

 

「ああ、ちょっと行ってくる」

 

 

 

そう言って、一夏は席に立つと、厨房の方へと行ってしまった。

 

 

 

 

「ごめんね、鈴ちゃんの相手してたのに……」

 

「いえ、それはいいですけど。どうかしました?」

 

「ほら、もうそろそろ時間だから……」

 

「あっ、もうですか……」

 

「うん。私は少し手が離せないから、キリトくんと一緒に迎えに行ってもらえるかな?」

 

「了解です」

 

 

 

厨房から出てきた一夏は、まず鈴のところに行き、少しの間和人とともに教室を出ると言い、鈴はそれを了承すると、自分の教室に帰って行った。

 

 

 

「キリトさん、迎えに行きますよ!」

 

「おお、今行く!」

 

 

 

和人もお客さんとしてきていた先輩たちに断りをいれ、一夏と共に教室を出た。

 

 

 

「しかし……」

 

「ん? どうしたんです?」

 

「やっぱりこの格好じゃなきゃダメなのか?」

 

 

 

燕尾服を指しながら、本当に嫌そうな顔で言う和人。

 

 

 

「まぁ、仕方ないですよ。着替えてる暇ないし、どうせまた仕事に戻るんですよ?」

 

「そうだけどよ……」

 

 

 

まず間違いなく、今の自分はいい笑い者にされそうで嫌なのだ。

これから迎えに行く連中にだけは、正直こんな格好を見せたくないと思っている。

 

 

「もう仕方ないですよ。どうせみんなが露店を回り始めたら、真っ先に俺たちのところに来るんですから」

 

「だよなぁ……はぁ…………よし! 腹くくるか!」

 

「ええ、一緒に笑われましょう」

 

 

 

そう言いながら、二人は一年の教室棟を出て、来客が来ているであろうIS学園の校門へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわぁ〜〜……凄いわね……っ!」

 

「ほんとですね! さすがは国立校です!」

 

「お兄ちゃん……いませんね……」

 

 

 

 

最寄りのモノレール乗り場から、IS学園の敷地に入ってきた三人の少女達。

初めて目の当たりにするIS学園の光景に、感嘆の声を漏らしていた。

国立というだけあって、外装や施設はどの学校にも負けないくらい綺麗で最新式だ。

こんな所に自分たちの知り合いが、通っているのかと思うと、羨ましいやら、憎たらしいやら……。

 

 

 

「しっかし、あいつらもこんな女子校同然のところで、うまくやってんのかねぇ〜」

 

「だ、大丈夫ですよ! アスナさん達もいるんですから!」

 

「そ、そうですよ! お兄ちゃんは大丈夫です!」

 

 

 

そばかすの少女の問いに、小柄で可愛らしい少女と、短髪のハツラツした少女は答える。

篠崎 里香は、明日奈の招待で、ここIS学園の校門に立っていた。

その他には、刀奈の招待で綾野 圭子と、和人の招待で妹の桐ヶ谷 直葉が立っていた。

そして、もう一人…………

 

 

 

 

「きたぜ……来てしまったぜッ!!!! IS学園ッーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 

 

 

両手を力強く握りしめ、その拳を上へと突き上げる少年。

その叫びは、彼自身の魂が叫んでいるような気がした。

 

 

 

「うっさいわね……そんなに来たかったわけ?」

 

「あったりまえじゃないですかッ! ここは女の花園なんですよ?! マジで一夏と和人さんが羨ましいぃぃ〜〜ッ!」

 

 

 

里香が呆れたと言った感じで、赤毛の長い髪をした少年、一夏の親友である五反田 弾を見ていた。

本来ならば男子禁制(例外が2人いるが)の場所に、男である自分が立っているのだから、わからなくもないが……。

周りで見ている生徒達や今回の学園祭に招待されたお客さんたちの視線を集めているので、正直静かにしてほしいと思う。

弾の欲望解放状態を見ながら、圭子と直葉は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「なんだか、クラインさんと似たような感じですね」

 

「男の子って、みんなあんな感じなのかな?」

 

 

 

身近な男子は同じ学校に通っている子達ばかりであるため、なんとなくしか知らない。

男子は男子で連み、女子は女子で集まる。

そんな感じだからこそ、男子の会話の内容は、いつも下ネタや下品なものばかりだと感じてしまうのだろうか?

と、そんな時、ふとこちらへとやってくる女子生徒がやってきた。

いかにも出来る女と思わせるほど、キリッとしていて、知的そうなメガネをかけている。

 

 

 

「すみません、うちの生徒たちからの招待状か何かはお持ちですか?」

 

「え、あ、はい……」

 

 

 

話しかけられた弾は、一夏から送ってもらった携帯のデータを表示し、それを女子生徒に見せる。

 

 

 

「なるほど、織斑くんの招待でしたか……」

 

「っ?! 一夏のこと、知ってるんですか?」

 

「ええ。彼はこの学園じゃあ、有名人ですから……。あと、すみませんが、そちらの方々も、招待状の提示をお願いします」

 

「あ、はい!」

 

 

 

そう言われると、里香、圭子、直葉の三人は、携帯のデータを見せる。

 

 

 

「はい。結城さんと、会長、桐ヶ谷くんの招待ですね。入場を許可します。

ようこそ、IS学園へ。一応、ここは国家機密の場所などもあります。こちらが出している案内板をご確認して、今回の学園祭を楽しんでいってください」

 

 

 

そう言うと、女子生徒は「では、私はこれで」といい、その場を立ち去ろうとした。

すると、弾がその女子生徒を呼び止めた。

 

 

「あ、あのっ!」

 

「? はい、なんでしょう?」

 

「あ、えっと…………今日は、すごくいい天気ですね!!!!」

 

「? はい、そうですね。では、ゆっくりと楽しんでいってください」

 

 

 

 

しばしの静寂が流れたあと、弾は思いっきり両膝両手を地面につけた。

 

 

 

 

「ぐっ〜〜、なんで、なんで俺は肝心な時にぃ……っ!」

 

「もう……あんた本当にクラインといい勝負ね。ほら、弾! さっさと立つ! 恥ずかしいから早く立ち上がる!」

 

 

 

いざという時に男らしいセリフが言えなかった弾に対して、里香はなんだかクラインと同じノリで話してしまう。

そんな弾を、素早く立たせた時だった……校舎の方からこちらに走ってくる男二人を視認する。

 

 

 

「おーい!」

 

「あっ! 一夏くんだ!」

 

「うわっ?! キ、キリトさん、執事になってる!」

 

「えっ!?」

 

 

 

 

こちらに手を振りながら向かってくる一夏と、その後ろをついてくる和人。

直葉は一夏に対して手を振り返して、圭子と里香は和人の執事服姿にかなり動揺していると見える。

 

 

 

「ごめん、迎えが遅くなった……」

 

「ううん、私たちも今着いたところだし。それにしても……」

 

「あっ、はは……やっぱり変だよな、この格好……」

 

 

 

直葉の視線も、一夏と和人の執事服に奪われる。

 

 

 

「ううんっ! すっごく似合ってるよ! お兄ちゃんも!」

 

「は、はい! とってもかっこいいです!」

 

「うひゃー……これはまた、馬子にも衣装?」

 

「リズさん、それ褒め言葉じゃないんですけど?」

 

「おい、チナツ。早く教室戻ろうぜ……ここじゃ目立っちまうって……」

 

「そうですね……みんな、一緒に見て回らないか? 俺たちも少しだけ休憩時間もらえたからさ」

 

「「「賛成ッ!」」」

 

 

 

三人の元気のいい返事をもらえたところで、三人は和人とともに先に校舎の方へと向かった。

見てみると、和人の執事服を、里香たちが執拗にいじっているようであった。

と、ここまではいい。

問題は、目の前でうなだれている男。

一夏の親友にして腐れ縁の五反田 弾だ。

さっきから何かを悔やんでいるようにも見えるのだが、果たしてどうしたのか?

 

 

 

「おい、弾……早く行くぞ」

 

「一夏……」

 

「なんだよ」

 

「俺、バカだなぁ……」

 

「なんだ、今更気づいたのか?」

 

「ガクッ……そこは嘘でも否定しろよ!」

 

「否定できねぇからいってんだろ?」

 

「お前に親友を思いやる心は無ぇーのかよ!」

 

「そんなもんでいちいちへこたれるなよ……どうしたんだよ?」

 

「いやな、さっきすっごく綺麗な人にあってさ……あっ! 一夏お前、その人のこと知らないか?」

 

「って言ってもな……どんな人だったんだ?」

 

「えっと、メガネかけてて、美人で……」

 

「美人か……っていうことは歳上か? お前が “綺麗な人” っていうあたり、同い年ってわけでもなさそうだし」

 

「ああ! あれは多分高3だな! なぁ、知ってるか?」

 

「んなこと言っても、ここにその条件が当てはまる人なんていっぱいいるからな……」

 

「だよなぁ……」

 

「まぁ、そのうち会えるんじゃないか? 今日は学園祭で、いろいろと忙しいとは思うけど」

 

「そ、そうだよなっ! よし、行くぞ! 女の花園へ!」

 

 

 

 

どうやら、元気を取り戻したようでよかった。

だが、あんまりこの学園でそんな事は言わないほうがいいような気もした……。

 

 

 

 

「うおー……! 凄いわね」

 

「いっぱいお店がありますね!」

 

「しかもレベル高ぁ〜」

 

「うんうん! 女の子もみんな可愛いし!」

 

 

校舎に入り、まず目に入ってきたのは、最先端の技術が織り込まれた学校ならではの催し物や露店の数々。

衣装なども相当手がこんでおり、高校の学園祭というよりは、大学の学園祭のように思えた。

 

 

「各部活ごとにも、なんかイベントとかやってるみたいだから、そっちにも行ってみるか?」

 

一夏の計らいで、和人とともに学園内を案内しつつ、学園祭を楽しむ。

途中、一夏と和人の姿を目撃した生徒たちから、「写真を一緒に撮ってくれ!」という願いが多々あった。

 

 

 

「織斑くん、桐ヶ谷くん、ありがとう! 家宝にするね!」

 

「「フゥ〜……」」

 

「「「「…………」」」」

 

「ん? どうしたんだ、みんなしてそんなに睨んで……」

 

「な、なんだよ……」

 

「やっぱり、あんた達ってここじゃあ憎たらしいほどモテてるみたいね」

 

「はぁ?」

「はい?」

 

「キリトさん、なんだか今の対応も自然だったし……」

 

「お兄ちゃんって、あんなに女の人とかと自然に接してたっけ?」

 

「今のでも十分緊張してたんだよ……! まぁ、少しは慣れたのかも知れないけどさ……」

 

「一夏……俺はお前が憎い……!」

 

「なんだよ藪から棒に……」

 

「お前には楯無さんがいるだろうが! チクショーウ! こうなったら、楯無さんにこの事をバラしてやるからな!」

 

「おい、やめろっ!? それだけは勘弁してくれ‼︎」

 

 

 

 

たった一つの教室に向かうにも、結構な苦労がかかる。

ようやく部活勢が営業しているクラスへと着いた。

まず最初は、美術部。

教室に入ると、まず壁に貼られた垂れ幕に、『芸術とは爆発だッ!』の文字に視線を奪われる。

一体何をしているのか、視線をずらしてみると、そこには多くの生徒が、爆弾の解体処理を行っていた。

 

 

 

「うわおっ! 織斑くんに桐ヶ谷くんじゃないか! いらっしゃいいらっしゃい!」

 

 

美術部の部長さんが、こちらに気づいて、急ぎ足で教室の中央へと通してくれた。

 

 

 

「美術部は、爆弾処理のデモンストレーションをやってるんですか?」

 

「うん! こういうハラハラドキドキするものって、何かと楽しいでしょ?」

 

「まぁ、ある意味では、ですけどね。フィリアを連れて来ればよかったかなぁ……」

 

「じゃあ、織斑くん達も挑戦してみてよ! 大丈夫、失敗しても、テレビでおなじみの冷却ガスが吹き出るだけだし♪」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

そう言われると、一夏の挑戦にクラス内がどよめく。里香達からも、期待の視線を感じるため、ここはやらざるを得ないだろう。

 

 

 

「わかりました。キリトさんも一緒にどうです?」

 

「ん? まぁ、いいぜ。ほら、とっとと片付けるぞ」

 

 

 

そう言って、和人と二人で爆弾の解体処理を始めた。

手始めにカバーをそっと外して、爆弾に衝撃を与えないようにする。

次に各配線の位置と、爆弾の種類や形状を調べる。

 

 

 

「なるほど、オーソドックスのやつですね、これ」

 

「あぁ……だが、ここはゴムを噛ませとかないと、電圧感知して即ドカンだぞ?」

 

「おっと、危ない危ない……」

 

 

二人でテキパキと作業を進めていく姿を見ながら、後ろで見ていた四人は忌避の目を向けていた。

 

 

 

「な、なぁ、一夏……」

 

「ん? どうした、弾」

 

「お前ら、そんな事まで勉強するのか?」

 

「ん……まぁな。専用機持ちは強制的に勉強させられるんだけどな……」

 

「じゃあ、和人さんや明日奈さんも……?」

 

「ああ。俺たちも例外なくな」

 

「…………一夏、俺……やっぱり普通の学校でいいわ……」

「ん? そうか?」

 

 

 

あれだけ「いいな」とか、「羨ましい」とか言っていた弾が、ここまで引くとは……。

なんか少し傷つく。

 

 

「キリト、あんた……実際に爆弾処理とかした事あんの?」

 

「ないよ……さすがに現物をやろうとは思わないって」

 

「そ、そうですよね! 触らぬ神に祟りなしって言いますしね!」

 

「あっ、でも爆弾の作り方なら教えてもらったけどな……」

 

「「「えっ?!」」」

 

 

 

里香、圭子、直葉が驚きの声を上げ、和人を凝視する。

 

 

 

「お、お兄ちゃん? もしかして作ったりなんかしてないよね?」

 

「当たり前だろ。でもなー、爆弾って、意外と日用品でも作れるみたいだぜ?

そういう訓練がある授業で、実際に作られたやつとかを見た事あるし……」

 

「に、日用品でも…………お兄ちゃん、絶対に作らないでね……!」

 

「作らないよ! 第一、そういうのはホームセンターとかでしか売ってないし!」

 

 

 

和人が三人の相手をしている間に、一夏が着実に処理をしていく。

コードを切り、残るのはあと一つ。

テレビドラマなどでよくある赤いコードか……それとも青いコードか……。

 

 

「弾、好きなの選んでいいぞ?」

 

「ええっ! 俺が選ぶのか?」

 

「別にゲームだから、失敗したって死にはしないよ」

 

「うーん……」

 

 

 

一夏に催促されて、弾は赤のコードか、青のコード、どちらを切るか悩んでいた。

そんな時、一夏は二つのコードをみて、ふと思った。

 

 

 

(赤って言ったら、箒の紅椿……青はセシリアのブルー・ティアーズ……箒はサラマンダーの侍……セシリアはウンディーネの回復担当魔術師……)

 

 

 

そんなことを考えながら、一夏は弾の方を振り返り、弾に尋ねた。

 

 

 

「弾、お前さ、新撰組風のサムライ美少女と、西洋風の回復術師美少女……どっちが好みだ?」

 

「断ッ然ッ! 魔術師!」

 

「おっしゃ」

 

 

 

その答えを聞き、一夏は即座に青いコードを切った。

しかし直後に、爆弾の中から冷却ガスか吹き出て、一夏の顔に直撃。

一応、この解体処理を行う前に、専用のメガネをかけていたため、目を傷めることはなかったが、それでも顔は冷たい。

 

 

 

「ぶっはっ! くっそー、赤の方だったか……」

 

「お前なんでいきなり青いコード切ったんだよ!?」

 

「お前が魔術師って言ったんじゃないか……」

 

「それでなんで青いコードなんだよ……?」

 

「ウンディーネだから」

 

「はぁっ?」

 

 

 

お前何言ってんの?

と言う感じで一夏を見ている弾。

その後ろでは、「なるほど」と何か納得しているような表情の直葉たちの姿があったのを、弾は知る由もない。

その後、一夏たちは次の教室へと移動した。次に入った教室には、いろんな本が置いてあった。

おそらくここは文芸部の教室だろう。

 

 

 

「ウワァー! 織斑くんと桐ヶ谷くんだぁーーーー!!!!」

 

 

 

教室に入るなり、大声で叫ぶ生徒が一人。

その生徒の声に反応し、教室内にいた部員らしき生徒たち10名ばかりが一斉に振り向く。

 

 

「うおっ!? 生織桐!」

 

「いい! やっぱり生はいい!」

 

「きゃあ〜! 写真撮って撮って!」

 

 

 

今までとほとんど反応は変わらないのに、なぜか「生」という単語がいやらしく聞こえるのはなぜだろう。

しかも、なぜかみんな頬を赤く染めて、うっとりとした表情で見ている……熱でもあるのだろうか?

 

 

 

「ここは、なんの展示会なんですか?」

 

「ふっふっふ〜〜♪ よくぞ聞いてくださいました。ここは我が文芸部誇る、二次制作担当の生徒たちが描いた、同人誌です!」

 

「へぇ〜、一体どんななんだろう……」

 

 

直葉がそう言いながら、机の上に置いてあった同人誌を一冊手に取る。

同人誌というだけあって、見た目は小冊子ではあるのだが、タイトルに疑問を抱いてしまった。

 

 

 

「『落ちる桐と織の抱擁』……ん?」

 

 

 

どういう意味なのか。

冊子の表紙は、黒を統一しているため、どんな内容なのかはわからない。

だが、ページを開いた瞬間、直葉は度肝を抜かれた。

 

 

 

「なっ!! な、なな……ッ!?」

 

「どうしたの? 直葉」

 

「直葉さん?」

 

 

 

顔を真っ赤にし、目が点になっている直葉の様子を伺うついでに、直葉の持っている冊子の中身を覗き込んだ里香と圭子。

だが、その二人も、すぐに同じような声を上げた。

 

 

 

 

「うえっ!?」

 

「なはっ!?」

 

 

 

二人の視界に映ったもの……それは、半裸状態の和人を、同じく半裸状態の一夏が押し倒し、互いに頬を朱に染め、唇を近づけて行っている場面。

明らかに様子がおかしいと思い、和人と一夏、弾の男三人が覗き込む。

 

 

「なっ!?」

「はぁっ!?」

「うえっ!」

 

 

 

男と男が抱きしめあいながら、素肌を晒している。

しかもこれは同人誌……つまりこの本のジャンルは……

 

 

 

「B……BLって……」

 

 

言葉が出なかった。

 

 

 

「どう? 今作は今まで以上の自信作よ! 今年の同人誌即売会では、開場して即行で完売させる事が目標よ!」

 

 

 

と、言いながら何かと燃えている部員たち。

そんな部員たちに気圧されながら、教室を後にする一夏たちであった。

 

 

 

「…………みんな、何も見なかったことにしてくれないか?」

 

「「「「「………………はい……」」」」」

 

 

 

文芸部の教室から離れて、一行は一年のクラスが軒並み並んでいる教室棟へと足を向けた。

 

 

 

「あっ、そうだ。なぁ、弾……鈴のところによっていかないか? ちょうど喉も渇いたし……。

鈴のところは、中華喫茶をやってるって言ってたからさ」

 

「おう、俺はいいぜ……。あいつとも、久々に会うなぁ〜」

 

「そういえば、一夏くんと弾くんは、鈴ちゃんとは幼馴染なんだっけ?」

 

「ああ、俺はな」

 

「俺はあいつとは、腐れ縁みたいなものだ」

 

 

 

一夏は小5の頃からの付き合いだから、幼馴染と呼べるかもしれないが、鈴は、弾とは中学に進級した時に初めてあった。

意外と家が近かったし、実家は定食屋をしているため、学校帰りに立ち寄ったり、よく遊びにいっていた。

一夏がSAOに囚われてしまってからは、二人で一夏の見舞いにも行ったことがある。

他に代案があるわけではなかったため、全員鈴のいる二組の教室へと向かった。

 

 

 

 

「いらっしゃーーーー」

 

「うっわあっ! 鈴、なんだよその格好!」

 

「げっ、弾!?」

 

「ははぁー……きわどいチャイナドレスとか着てんなぁ〜……かっこつけすぎーーーー」

 

「うっさい、バカ! 死ね!」

 

「ぎゃふんっ!?」

 

 

 

 

入ってくるなり、弾による友人同士の掛け合いが始まり、最終的には鈴のお盆による鉄盆制裁が下された。

うん、中学の頃と同じ光景だな。

 

 

 

「イッテェ〜……商売道具で、お客様を殴るなよ! 罰当たりめ!」

 

「黙れお客様……とっとと席に座れ」

 

「ツンデレカフェですかっ!? ここ!」

 

「おーい二人とも、一応後ろ塞がってんだけど?」

 

「「あ……」」

 

 

 

一夏の声でようやくおとなしくなった二人。

 

 

 

「ご、ごめんなさーい……それと、いらっしゃいませ」

 

「鈴ちゃん久しぶり! 凄いね、本場のチャイナドレス!」

 

「とってもお似合いですよ!」

 

「流石は本家! 中国出身の奴が着こなすと、自然体ね」

 

「でしょう〜♪ まったく、ほんとあんたって人を見る目が腐ってんじゃない?」

 

 

 

 

そう言いながら、鈴は再び弾に視線を送る。

するとまた弾がそれに突っかかっていく為、再びいつもの感じのノリで騒いでしまう。

すると、教室内のすべてから、ものすごい視線が集まってきているのがわかった。

 

 

「「あ……」」

 

「んっんん……! 鈴さん」

 

「は、はい……」

 

「ケンカするなら、外でやってください」

 

「は、はい……ごめんなさい」

 

 

 

一人の生徒に怒られてしまい、仕方ないと思い、鈴は全員を開いていたテーブルへと移動させた。

 

 

 

「にしても、こうして鈴と一夏と集まったのは、中一の頃以来だよなぁ……ほんと、久しぶりだな」

 

「そうねぇ〜……あんたは相変わらずバカっぽいけどね」

 

「バカとはなんだ! バカとは」

 

「ほんとのことじゃない。それに、人を見る目が腐ってるじゃない」

 

「腐ってねぇ! まったく、やっぱりお前は女の子としてなってない! やっぱりここに来た時に、校門であったあの人の方がよっぽど女性らしいと思ったぜ、俺は……」

 

「はぁ? 一夏、こいつ頭大丈夫?」

 

「大丈夫決まってんだろ!」

 

「俺に聞かずとも、すでにアウトだろ」

 

「だよねぇ〜」

 

「お前ら揃って友人貶してんじゃねぇーよ!」

 

 

 

友人三人で、何の気ない会話。

それを見ていた和人たちは、どことなく、羨ましいと感じていた。

何の気を使うことのない、ある意味では、信頼しあっているような三人。

だからこそ本音を話せるし、それを聞いても、今までのように接していける。

そんな気がしたのだ……。SAOで出会った自分たちと似たような……でも、それ以上の何を感じる。

 

 

 

「っと、電話だ」

 

「誰からだ?」

 

「ええっと……シャルですね。少し席を外します」

 

 

 

マナーモードに設定していた携帯が震え、電話の主はシャルロットだということに気づく。

さて、隣のクラスは大丈夫なのだろうか?

 

 

 

『あっ、一夏! 今大丈夫?』

 

「あぁ、構わないぞ。どうかしたのか?」

 

『それが、一夏と和人がいないって事で、お客さんたちからのクレームが多くって……っ!

ごめん、急いで戻ってきてもらうことって、出来る?』

 

「ああ、大丈夫だよ。今はすぐ隣の二組の教室に行くから」

 

『ほんとっ?! わかった、みんなにはそう伝えておくね!』

 

 

 

電話を切り、和人たちの元へと向かう。

 

 

 

「シャルロットは何だって?」

 

「俺とキリトさんがいないから、今一組ではクレームの嵐だそうですよ」

 

「マジかよ……」

 

「じゃあ、とっとと戻りなさいよ、あんたたち」

 

「そうだそうだ。しっかり働けよ」

 

「うっせぇな……わかってるっての。キリトさん、俺たちだけでも戻りましょう……」

 

「そうだな……。スグ、俺たちはもう戻るから、後で一組に来てくれな」

 

「うん、わかった! 頑張ってね、お兄ちゃん」

 

「キリトさん、後で必ず行きますね!」

 

「サボんじゃないわよー」

 

「わかってるっての……」

 

 

 

そう言って、一夏と和人の二人は、二組の教室を後にしたのだった。

 

 

 

 






次回は演劇まで行きたいかな……


感想、よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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