ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

69 / 118


今回から、学園祭に入ります!




第六章 スクール・フェスティバル
第68話 恋する☆舌下錠


夏休みが終わり、IS学園にも活気が戻ってきた。

今まで実家などに帰郷していた者たちも、朝から元気いっぱいに挨拶を交わす。

夏の残暑が未だに続いている中、今日は一年一組と二組の合同演習が行われた。

第一アリーナで今まさに戦っているIS使いが二人……。

白き装甲に紫の装甲を纏った《白式・熾天》と、第三世代型IS特有の特殊武装《衝撃砲》を搭載した機体《甲龍》。

つまり、一組のクラス代表である一夏と、二組のクラス代表である鈴の戦いであった。

 

 

 

「くっ! ちょこまかと!」

 

 

 

悪態をつきながら、鈴は自慢の衝撃砲《龍咆》を連射していた。

《龍咆》の特徴は、目に見えない空気を集め、砲身を作り、砲弾までもを形成して撃ち出すと言うもの。

しかも、それがどんな射角でも撃てるというものだ。

だが、そんな砲弾も、相手に狙いが絞り込めていないのであれば、全くもって意味をなさない。

 

 

 

「見えない砲弾で、この精密射撃……! やるな、鈴!」

 

「あったりまえよ! 今日こそあんたを倒して、昼ご馳走してもらうんだから‼︎」

 

 

 

二人はこの勝負が始まる前に、ある約束をしていた。

前半と後半で、二回戦う機会がある……その試合で負けたは方は、買った方に昼飯を奢るというものだ。

一夏もそれに乗り、今に至る。

 

 

 

「上等だ! けど、お前が負けたら、学食の和風御膳定食だからな!」

 

「なっ!? あれ結構するやつでしょう!?」

 

「おお! 一度食べてみたかったんだよ!」

 

「ふざけんな! そんなの自分で買って食え!」

 

「お前代表候補だろ! 定食の一つくらい奢れっての!」

 

 

 

なんとも子供の喧嘩のような感じになってきたが、その実……二人の戦闘はかなり白熱していた。

《二次移行》によって、ライトエフェクトを斬撃として飛ばす能力を身につけた一夏の白式。

今まで飛び道具はスキル頼りの飛刀くらいの物だったのだが、今はそんな動作を交えなくても、刀を振れば斬撃が飛ぶため、その分速攻性は高まった。

加えて、元々接近戦に強い一夏の技量が合わされば、向かう所敵なし……といった感じになる。

 

 

 

「だりやぁあああッーーーー!!!!」

 

「っ、くっ!」

 

 

 

すでに衝撃砲の対策はできている一夏。

鈴の視線からある程度の射線は読める。

そして、ここぞというときに撃つ瞬間も、長年付き添ってきた経験上、なんとなくわかってしまう。

それは鈴もわかっているため、衝撃砲での牽制はあまり効果を成さないと判断し、近接戦に持ち込む。

くるくると回し、遠心力を十分につけた一撃を、一夏の頭上から振り下ろす。

 

 

 

「ふんっ!」

 

「ぐっ!」

 

 

 

スピードでは白式に軍配が上がるが、パワー勝負になると、鈴の甲龍に軍配が上がる。

一夏も左手にも刀を持ち、二刀で鈴の一撃を受ける。

だが、その身にかかる重圧が、一夏の体を襲う。

すぐに鈴を引き離して、今度は一夏から攻め込む。

二刀になったことで、手数では圧倒的に一夏が有利になり、鈴は青龍刀で一夏の攻撃を受けるに入る姿勢に入った。

 

 

 

「あーもう! しぶとい!」

 

「当たり前だ。この勝負、俺が勝たせてもらうからな!」

 

「勝つのはあたしよ!」

 

 

 

今度は鈴の方から距離をとって、《龍咆》による近距離砲撃を行った。

それにより、一夏を引き剥がすことには成功したが、同時に、一瞬だけだ一夏を見失う羽目になった。

 

 

 

「しまっーーーー」

 

「もらったぜ!」

 

 

 

いつの間にか、自分の背後を取っていた一夏。

あまりにも早過ぎる……そう思ったが、今の白式の姿を見て、そのわけがわかった。

8枚の翼が、展開装甲としての能力を発揮し、通常の長さの二倍はあるエネルギーウイングを広げていた。

また、体の装甲に走る紅いライン。

この姿を、鈴は一度見ている。

白式の新たなる単一仕様能力《極光神威》だ。

その能力は、機体の超機動化……だ。

 

 

 

「やばっ!」

 

「逃がさないぜ!」

 

 

 

なんとか一夏に食らいついて行こうとする鈴だったが、時すでに遅し。

いつの間にか目の前まで迫っていた一夏の姿を、捉えるので精一杯だった。

 

 

 

 

「斬ッーーーー!!!!」

 

 

 

 

二刀から放たれた斬撃。

物の見事に甲龍のエネルギーを消滅させた。

つまり、この試合。

一夏の勝利に終わったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ〜〜っ! 次は絶対に勝つからね!」

 

「いいや、次に勝つのも俺だよ」

 

 

 

授業が終わり、時間は昼休みとなった。

食堂では、多くの生徒たちで賑わっていた。久しぶりの学食、一夏は約束通り、鈴の奢りで和風御膳定食を注文し、いつものメンバーで食事をしていた。

 

 

 

「んん〜、美味いなぁこれ!」

 

「美味そうだな……。この卵焼き、一つくれよ」

 

「もう、キリトくんったら……お行儀悪いよ」

 

「いいですよ……じゃあ、キリトさんのもうなんかくださいよ」

 

 

 

 

和人、明日奈もまた通常通りに学校に登校した。

まぁ、和人に至っては強制的なので、嫌とは言えないのであるが、明日奈はこの夏休みの間、家族からも何度となく話し合ったそうだ。

ISの言うもののことは、知っているが、当然危険に晒されることの方が多い。

ISはその技術から多くの物に流用され、今ではIS技術によって、生まれたものだってある。

だが、発表された当初ならまだしも、今現在では、ISは兵器としての役割が多いため、あまりいいイメージを持ってない人だっているのだ。

明日奈の両親は、その中の人たちだ。

ISの事は認めるが、だからと言って、自分の娘をわざわざ兵器を扱う学校に行かせた事を、少し後悔している節があったらしい。

それでも。明日奈は今のままでいいと、きっぱり言い切って、和人とともにこの道を歩む事を決めたのだ。

 

 

 

 

「それにしても、今朝からカタナちゃんの姿が見えないけど……チナツくんは知ってる?」

 

「えっと……確か、もう直ぐ学園祭があるらしいですからね。その準備が大変だって言ってました。

俺も書類のまとめくらいは手伝ってはいますけど、生徒会長ともなると、いろいろと大変なんでしょうね」

 

「そっかぁ……もう学園祭の時期なんだね……」

 

 

 

 

 

夏が過ぎ去り、次にやってくる秋の恒例行事。

学園祭……またの名を文化祭とも呼ばれる祭典は、大抵どの学校にもおる恒例行事だろう。

しかし、ここはIS学園……普通の学校と違い、ここは国際色豊かな学校だ。

そして、ISという貴重なものを扱うという点では、他の学校と類を見ない学園祭を行えると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

「まぁ、明日その事に関して、全校集会があるからって言ってましたし……」

 

「そっかー。なんだか楽しみだなぁ〜、学園祭!」

 

「そうだなぁ……。俺、そういうのにあんまり積極的じゃなかったしな」

 

 

 

SAOに囚われていた二年間に、そのような祭典はなかった。

イベントやクエストで、祭りらしいものはほとんどなかったし、あったとしても、命がけで行わなければならないため、どのみち楽しめなかっただろう。

 

 

 

「まぁとにかく、明日になれば、詳細を聞けるでしょう……」

 

 

 

 

そう一夏が締めくくり、全員何時ものように穏やかな時間を過ごした。

明日から始まる学園祭の準備で、こんなにのんびり出来るのは、今日が最後だろう。

明日からが勝負なのだ……。

だが、その明日に、とんでもない発表がなされる事を……一夏と和人、そして、明日奈はする事になるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなおはよう! こうやって、改めて壇上に立つのは初めてだし、挨拶するのも初めてだろうから、自己紹介をするわね?

私は更識 楯無。このIS学園で、生徒会長をやってる、あなたたち生徒の長よ。

今日は、待ちに待った学園祭の事に関する事について、発表したい事があるわ」

 

 

 

翌朝、全校集会が開かれ、体育館に集められたIS学園全生徒たち。

まずは刀奈が、生徒会長としての挨拶から入り、次に、文化祭についての話に入った。

 

 

 

 

「来週から学園祭が始まるのだけれど、今年は少しルールを変更しようと思います。

と言っても、恥ずかしながら、私も一年生……この学園の学園祭が、どういったものだったのかは、書面に残っているものしか見ていないため、実際に目にしたわけではありません。

しかし! 今年は例年と違う部分が、わかりやすく存在します! それは、一年一組に在籍する、織斑 一夏くんと、桐ヶ谷 和人くんの存在です!」

 

 

 

その言葉と同時に、刀奈の後ろにあったスクリーンに、デカデカと一夏と和人の顔が現れた。

 

 

「「っ?!」」

 

「例年では、各クラス、各部活ごとに、ポイントを競い、その上位のクラスと部活には、予算や特典などが贈呈されていました……。

もちろん、今年の学園祭でも、そういったことは致しますが、今年はそれにプラス! 各部活で、一位になった部活は、この男子生徒2名を! 一ヶ月間仮入部させる事とします!!!!」

 

 

 

 

元気よく、高らかに宣言した刀奈の言葉に、生徒たちは黙り込んでしまった。

静寂が包み込んで……周りを支配していたが、その支配は簡単に破られる事となる。

 

 

 

ええええええええええええええええええッーーーーーーーー!!!!!!!!

 

 

 

会場全体が、うら若き乙女たちの絶叫で響き渡った。

当然、明日奈も目を大きく見開き、刀奈は一体何を言っているのだろうという感じで見ていた。

一夏、和人に至っては、ただただ呆然と見ている事しかできなかった。

 

 

 

「それじゃあ、詳細は各クラスのクラス長にデータを送っておくので、みんな、頑張って準備してね♪」

 

 

 

なんともあざといウインクを混ぜながら、刀奈は壇上を降りた。

だが、こんな事を気にしている者たちなど、今ここにはいない。

 

 

 

「やった! やったわよ! ついにあの二人をゲットできる時がぁーーーー‼︎」

 

「早速会議を開くわ! 部員は即時部室に集合‼︎」

 

「秋季大会? いいわよそんなの! それより男子よ! 全員、全力で頭を回しなさい! どの部活にも負けない出し物を考えるわよ!」

 

 

 

何も言えないまま、二人は教室に帰る事となった。

そして、休み時間になり、一夏、和人、明日奈の3人は、急いで刀奈のいる生徒会室へと向かった。

 

 

 

「おい、カタナ! あれはどういう事なんだよ!?」

 

「俺たち、なんも聞いてないぞ!?」

 

「カタナちゃん!」

 

「まぁまぁ、三人とも、落ち着いて……」

 

 

 

三人からの追求は絶対に来ると思っていたのだろう。

苦笑いを浮かべながら、刀奈は三人をソファーに座らせた。

 

 

 

「虚ちゃん、紅茶をお願いしてもいい?」

 

「はい、かしこまりました」

 

 

 

 

虚に紅茶を入れてもらい、改めて三人と向き合った刀奈。

 

 

 

「さて、事の顛末を話すとしましょう。えっと、ズバリ言うと、全校生徒からの苦情が来ているからです」

 

「「「…………はい?」」」

 

 

 

苦情……いったい自分たちが何をしたというのか……。

そんな風に首をひねっていると、刀奈が右手の指でパチンッ!とクリップする。

すると、生徒会室の奥から、何やら大きな段ボール箱三つに、大量の書類などが詰め込まれ物を台車で運び込んできたのほほんさんが現れた。

 

 

「あれ? のほほんさん……」

 

「おお〜〜おりむー! それにきーりーに、あーさん!」

 

「おりむー……は俺か」

 

「き、きーりー?」

 

「あーさんは……私?」

 

 

 

 

妙なあだ名をつけられたものだ思いながらも、三人はのほほんさんが持ってきたその書類の量に驚いた。

 

 

「カ、カタナちゃん……もしかしてだけど……これ、全部?」

 

「ええ、その通りよ」

 

「俺たちがなんかしたのか?」

 

「普通に生活していただけだと思うんだが……」

 

 

 

もちろん、三人にはそんな自覚はない。むしろ、こちらには刀奈だって入っていてもおかしくはないのだから……。

だが、刀奈が一枚……また一枚と書類を取っていき、それを見て、朗読してくれた。

 

 

「えっと、『会長と織斑くんの仲は知っているけど、あまり目の前でイチャイチャされると、なんだかむかつく』」

 

「え……」

 

「『明日奈さん、もう少し桐ヶ谷くんと離れてくれてもいいのでは?』」

 

「え、ええっ?! 私も?」

 

「『桐ヶ谷くん! 私だって美味しいご飯作れるんだよ?』」

 

「あ〜……前にアスナの弁当が美味しいって言ったからか……」

 

「『織斑くん! 私たちにもマッサージをして!』」

 

「俺なんかがしていいものなのかね?」

 

「などなど、これに類似した苦情が1,000件を軽く超えちゃってね。生徒会としては、これだけの苦情をいつまでも放置するわけにもいかないと判断しました。

なので、キリトとチナツには、今度の学園祭で、懸賞となってもらい、少しでも他の学園生たちと触れ合ってもらおうという事になったわ」

 

「それで一ヶ月間の仮入部か……」

 

「でも、俺たちはマネージャーとかいう柄じゃないだろう……」

 

「大丈夫よ、別にマネージャーだけが仕事じゃないわ。雑用をしたり、少し練習相手に付き合ったり、そんなんでもいいのよ。

なんせ、彼女たちの目的は、あなたたち二人を独占する事なんだから」

 

「ええっ!? それはダメだよ! キリトくん! 絶対にダメだからね?!」

 

「い、いや、俺に言われても……」

 

「だから、今回の学園祭にも、我々生徒会が参加します」

 

「「「え?」」」

 

 

 

 

ポンっ、と刀奈は手を合わせ何かを確信しているように微笑む。

 

 

 

「私たち生徒会も、ある種の催し物をするわ。その結果で、どこの部活にも勝てればいいわけでしょ?」

 

「そう簡単にいうけど、大丈夫なのか?」

 

「ふふっ、我に策有りってね」

 

 

ニコニコと笑う刀奈だったが、まぁ、やると決めた時の刀奈に、何を言っても無駄なのは、一夏たちもわかっている。

ならば、彼女に任せてみるのが一番だろう……。

 

 

 

「わかった。それはカタナに任せるよ」

 

「はいはーい! 任されましたぁ〜♪」

 

 

 

 

元気のいい返事がもらえたところで、虚の入れてきた紅茶が到着。

少しのお茶会を開いたら、授業に入らないといけないため、四人は一組の教室へと向かった。

 

 

 

「それで、催し物は何にするんだ?」

 

「そうねぇ……折角だし、二人に出てもらうのが一番いいかな?」

 

「えっ? 俺たち?」

 

「うん……今考えているのは、二人を主人公にしたお芝居をして、みんなの集客を煽る……。

まぁ、間違いなく我ら生徒会が取れるわね♪」

 

 

 

 

中々に計算高いところがある。

流石は暗部の家系と当主であり、血盟騎士団隠密部隊隊長にして騎士団副団長。

と、三人が関心をしていた時だった……。

いきなり中庭側の窓ガラスが割れ、割れた破片が飛び散る。

 

 

 

「きゃっ!?」

 

「アスナ!」

 

「カタナ!」

 

 

突如として起こったハプニング。

とっさに和人と一夏が、明日奈と刀奈をかばうように体を覆い隠す。

 

 

 

「な、なんだっ?!」

 

「これは……!」

 

 

 

一夏があるものを拾い上げ、和人たちにも見えるように出す。

 

 

 

「それは……矢か?」

 

「みたいですね……俺たちから気配を感知されない場所で、窓ガラスを割るほどの力強さ……射角……」

 

 

 

矢が飛んできて、廊下の壁にぶち当たり、傷が付いている事からある程度の角度はわかるし、窓を破壊するほどの力だ……距離が近いか、それとも弓を引く腕力が強いか……。

 

 

 

「いたわ……あそこね……」

 

 

 

刀奈が指差すその先には、隣の校舎の二階から、まっすぐこちらを直視、次の弓に矢を番えている弓道の道着を着ている生徒がいた。

 

 

 

「なっ、まだ射るつもりなのかよ……!」

 

「たぶん、狙いは私ね……」

 

「えっ? なんでだ?」

 

「私が生徒会長だからよ……前に言ったでしょう? この学園で生徒会長になる手っ取り早い方法……」

 

「生徒会長である者を倒した者が、新しい生徒会長になるって、あれか?」

 

「うん、そうよ……」

 

「だけど、そう言って決闘を挑んできた人なんていなかったじゃないか……」

 

 

 

刀奈が生徒会長に就任した時から今まで、誰一人として決闘を挑んできた者なんていなかった。

その理由の一つとしては、刀奈の圧倒的な強さだ。

入学する前に決闘を申し込んで、速攻でケリをつけた。

その圧倒的強さと、現役の国家代表生としての名が通っているためか、挑もうと思うものはいなかったはずだ……。

 

 

 

「でもほら、今回の学園祭で、私が二人の所有権を一ヶ月だけ譲るって言ったでしょう?

だから、その生徒会長である私を倒して、自分たちが生徒会長になって、生徒会長権限を奪おうって算段でしょう……ほら、まだ来るわよ……」

 

「はっ!?」

 

 

突如、前後を二人の生徒に防がれた。

一組の教室がある方向からは、両手にグローブをつけたボクシング部の生徒。そして、刀奈たちの後方からは、剣道の道着に、竹刀を正眼に構えた剣道部の生徒が立っていた。

 

 

 

「おいおい……確かこの二人……」

 

「ええ……ボクシング部、および剣道部のエースと謳われている先輩方よ」

 

 

 

一夏も一度顔を見ているため、すぐに何者なのかはわかった。

まさか、エース級の二人がこんな行動に出てくるとは……。

 

 

 

「っていうか、窓の外にいる弓道部の人も、確か部長さんだったような……」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 

明日奈が指差す先、一番最初に弓を射ってきた弓道部の生徒の顔を確認する。

まじまじと見られて、少し恥ずかしがっているようだが、間違いなく弓道部部長さんだ。

 

 

 

「会長ッ!」

 

「お覚悟ッ!」

 

「……ふーん……いい踏み込みね……。でも、甘いわよーーーー!!!!」

 

 

 

向かってくる二人の攻撃を、的確に読み取って躱していく。

強烈なジャブも、高速の斬撃も、体をわずかに動かすだけで、刀奈は躱していく。

 

 

 

「喰らえ‼︎ ウルトラボロパンチッ!!!!!」

 

 

 

左のフック気味で放たれた拳を、刀奈は軽く右手を添えるように伸ばし、体をまるで回れ右をしたかのように回転させ、パンチの勢いをそのまま利用し、そのまま腕を掴んで一本背負いを決めた。

 

 

「のわあぁぁぁ!!!!?」

 

「おのれ! ならば!」

 

 

 

 

投げ飛ばされたボクシング生徒は、剣道部員の横を通り過ぎ、そのまま掃除用具のロッカーの中へとすっぽりと入ってしまい、それを見た剣道部員が、今度は刀奈に斬り込んできた。

 

 

 

「やああああーーーー!!!!」

 

「おっと!」

 

「なっ?! お、織斑くん!」

 

 

 

両手をクロスさせ、剣道部員の上段から打ち込みを受け止めた一夏。

力が全力で伝わる前に、一歩前に出て受け止めたこともあり、大したダメージは負っていなかった。

 

 

「織斑くん、どうして?!」

 

「すいません、先輩……でも、彼女が襲われて、いい気分じゃないのだけは確かなんで!」

 

「あっ!」

 

 

てこの原理を使い、剣道部員から竹刀を奪うと、それを逆手に持って柄頭で剣道部員の腹を強打する。

 

 

 

「ぐっ……!? ぁ……」

 

「よっと……」

 

「あらら……良かったの? 女の子にそんなことをして」

 

「正直気が引けたけど、カタナがやられるよりはマシだよ」

 

「ふふっ、ありがと♪ さて、最後の一人を片付けますか……」

 

 

腹を強打され、その場で気を失った剣道部員を、危険地帯から逃がすため、一夏は剣道部員を抱きかかえて、少し離れた場所に連れて行く。

その間、刀奈が一夏から竹刀を受け取り、未だに窓の外から狙いを定めている弓道部部長と、正面から向かい合う。

 

 

 

「さぁ、来なさい!」

 

「っ! 喰らいなさい!」

 

 

放たれた一本の矢。

それは真っ直ぐな軌道のまま、刀奈の体を目指して飛んできた。だが、突如として、その矢は弾かれる。

刀奈が竹刀で、飛んでくる矢を打ち落としたのだ。

 

 

 

「っ?! そんな芸当、いつまで続くかしら!」

 

「何度でも‼︎」

 

 

 

続く二の矢、三の矢と、正確に矢を射る弓道部部長。

だが、その矢をことごとく打ち落す刀奈。

もはやこれはイタチごっこだ。

 

 

 

「ぬうっ! は……っ、しまった、矢が!?」

 

 

 

刀奈を射る事に夢中で、矢が尽きてしまった。

そんな隙を見逃すほど、刀奈も甘くはない。

 

 

 

「いっけぇええっ!!!! 《グングニル》ッ!!!!!」

 

「なっ!? ぎゃふっ!!!!?」

 

 

 

 

竹刀の刀身を持ったかと思うと、それを槍投げのように投擲する。

すると、投げた竹刀は一直線に弓道部部長の眉間にぶち当たり、弓道部部長はそのまま後ろに倒れてしまい、起き上がってこないところを見ると、どうやら気絶したみたいだ。

 

 

 

「フゥ〜、一件落着!」

 

「もおぉー、一件落着じゃないよー!」

 

 

やり切った感を出し、刀奈が額の汗を拭う。

だが、こんな日常に全く出くわしたことの無い明日奈からしてみれば、異常事態にも等しい。

 

 

 

「やんっ、アスナちゃんが怒った〜」

 

「そ、そりゃあ……なぁ……。とりあえず、ここの二人と、向こうで伸びてる部長さんたちを保健室に連れて行きますか……」

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

 

和人はボクシング生徒を、一夏が剣道部員を抱えて、保健室に連れて行き、刀奈と明日奈の二人で、弓道部部長を抱えて、同じように保健室に連れて行った。

後日、ことの顛末を知った千冬に、三人は大目玉を喰らい、反省文30枚と、千冬が用意したそれぞれの地獄の特訓メニューが課せられることになったのは、言うまでも無いだろう……。

その後、四人はなんとか授業に間に合うことができた……。

そして、まず最初の時間……それは一組の出し物について。

そこでクラス委員長である一夏が、何をするのかクラスの全員にアンケートを取ってみたのだが……。

 

 

 

『織桐のホストクラブ!』

『織桐と王様ゲーム!』

『織桐とポッキーゲーム!』

 

 

などなど……。

 

 

 

 

「えー……全部却下」

 

「「「「えええええーーーー!」」」」

 

「アホか……誰が嬉しんだよ、こんなの」

 

「私は嬉しいわね、断言する!」

 

 

 

そういったのは谷本さん。

 

 

「はあっ?!」

 

「そうそう! せっかくなんだしさぁー」

 

 

と言ったのは、鏡さん。

 

 

「いやいやいやいや……!」

 

「織桐は一組の共有財産である‼︎」

 

「「「そうよ、そうよぉ〜!!!!」」」

 

「うぐっ……!」

 

 

 

岸原さんの言葉に、クラス中が賛同する。

これでは多勢に無勢……。いくらクラス委員長とはいえ、さすがに勝てないだろう。

 

 

「おーい、委員長? 頼むぜぇ、俺たちの未来はお前にかかってんだぞ?」

 

「他人事みたいに言わないでくださいよ、キリトさん!?」

 

 

 

 

男同士で、どうにか対策を練りたいところだったが、今回の話し合いに対して、刀奈と明日奈の二人からの助言は禁止された。

理由は、どうせ二人は一夏と和人の保護に回るような言動を取るから……だそうだ。

 

 

 

「山田先生……こういうのは、えっと、ダメですよね?」

 

「ええっ?! 私に振るんですか?!」

 

「いや、教師でしょう!?」

 

「ううっ……そ、そうですね……」

 

 

 

ちなみに、今現在一組の教室に千冬はいない。

ホームルームが終わるなり、「私がいては話し合えないだろう……」と言って、そそくさと教室を出て行った。

確かにそうかもね……ほんと、気の利く優しいお姉さんだ……。

うん、ほんとだよ?

と、話は戻って、今ここにいるのは、副担任である山田先生ただ一人。

だがこの先生も、どうにも押しに弱いというかなんというか、度々頬を赤らめながら、変な妄想へと陥る。

そして、今現在もそう。

長らく考えたかと思うと、急に頬を朱に染めながら……

 

 

 

「ポッキーなんか……いいと思いますよ……?」

 

「ごめんなさい、聞いた人を間違えました」

 

「えっ、うえっ?! お、織斑くん?!」

 

「さてみんな、もう一度考えてくれ」

 

「織斑くーーーんッ!!!!!」

 

 

 

ポカポカと一夏の背中を叩く真耶。

まるでいいように操られている子供のようだ。

 

 

 

「じゃあ、何がいいんだろう……」

 

「織桐とツイスターゲーム‼︎」

 

「もう一考お願いします……」

 

「織桐とおしくらまんじゅう!」

 

「もう一考しろ!」

 

 

 

 

なんやかんやで話し合いは続き、色々と案は出たものの、一夏と和人の気持ち次第で合否が決まるため、中々決まらない。

 

 

 

「えっと、その……もっとまともな意見をだな……」

 

「メイド喫茶はどうだろうか」

 

「え……?」

 

 

 

 

誰かがそう言った……。

その声の主の方へ、一組全員の視線が集まる。

なんと、発言をしたのは、ラウラだったのだ。

 

 

 

「メイド喫茶……飲食店ならば、経費の回収を賄えると思うのだが、どうだろう……師匠?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 

あまりの意外性に、声が出ない。

それは、他の子達も同じなのか、全員がポカーンと口を開けて聞いていた。

 

 

「いいじゃないかな? 一夏や和人には、執事として接客して貰えば、絶対にお客さんが来ると思うし!」

 

「「ええっ?!」」

 

「それに! 明日奈さんに厨房に入って貰えば、料理の面でも絶対的な効果がありそうだし!」

 

「うーん……まぁ、私はそれでもいいけど……」

 

「みんなはどう?」

 

 

 

 

シャルの思わぬ援護射撃によって、クラスの女子が活気に満ち溢れた。

 

 

 

「いいじゃん! さすがシャルロット!」

 

「織斑くんと桐ヶ谷くんの執事姿よ! いいわ、実にいい!」

 

「料理上手な明日奈さんも入れれば、一組優勝間違いなしね!」

 

「じゃあ、一組はご奉仕喫茶という事でいいですかー?」

 

「「「「賛成ぇぇぇぇッ!!!!!」」」」

 

「あ……えっと、ちょっと……!」

 

 

 

 

 

鷹月さんによって締めくくられた。

もう一夏が何を言っても、この集団は止まりはしないだろう……。

一夏は黙って和人の方へと向き直り、両手を合わせて頭を下げた。

 

 

 

ーーーーすみません……もう無理です。

 

ーーーーいや、よくやったよ……お前。

 

 

 

この中で唯一と言えるほどの相棒同士……恥ずかしいイベントにならずに済んで、まぁ、良かったと思っている。

 

 

 

「鷹月さん……」

 

「ん? なに、織斑くん」

 

「えっと、鷹月さんが、委員長やる?」

 

「えっ? い、いやぁ〜、そこは織斑くんじゃなきゃダメだと思うよ?」

 

「どうしても……ですかねぇ……?」

 

「うんうん! 織斑くんと桐ヶ谷くんは、この一組の顔なんだから! ねぇ、みんな?」

 

「「「「そう、そう!」」」」

 

 

 

 

流石は女子高生だ。

そう思わざるをえない。

 

 

 

 

「あっ、じゃあ、メイド喫茶なんだから、メイド服を調達しないと!」

 

「そうだね。私、演劇部の先輩たちに相談して、貸してもらえるか聞いてくるね!」

 

「なんだったら、私、縫えるよ?」

 

「メイド服ならアテがある。そこに聞いてみるとしよう……」

 

 

 

またしてもそう言ったのはラウラだった。

今までそんな物に興味すら抱いていなかった彼女が、一体どういう経緯でそんな事を言えるようになったのか……。

流石に今度は恥ずかしくなったのか、ラウラは頬を赤くして、咳払いを一回すると、シャルロットに視線を向ける。

 

 

 

「あー、えっと……シャルロットがな」

 

「ええっ?!」

 

 

 

いきなり振られた為、驚きながら、シャルロットはラウラに耳打ちする。

 

 

「ラウラ、もしかして、この間の?」

 

「ああ……向こうとて、こちらに借りがあるんだ……嫌とは言うまい」

 

「それはそうだけど、なんで僕に言うのさ……」

 

「私よりもお前の方が向いているだろう……」

 

 

 

僅かな時間、二人でコソコソと話しあって、シャルロットだけがこちらを振り向く。

 

 

 

「一応、聞いてはみるけど……あの、もし無理だったとしても、怒らないでね?」

 

「「「「怒りませんとも!」」」」

 

 

 

これまた綺麗にハモった。

こうして、一組の出し物は、コスプレご奉仕喫茶となった。

一夏は書類に、その事を記入し、早速教室を出て、千冬のいる教員室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、一組の出し物は『ご奉仕喫茶』になりました」

 

「ほう? また随分と無難なものを選んだものだな」

 

 

 

教員室の一角に、千冬のデスクは存在する。

ここIS学園は、国際色豊かだと言われているが、それは生徒に限った話ではない。

教員もまた、外国人の教員が多数いる。

しかもその中には、元国家代表候補や、代表クラスの教員だっているくらいだ。

 

 

 

「と、言いたいところだが、これを発案したのは誰だ? 谷本か? リアーデか? あそこら辺の連中は、こういう時に馬鹿騒ぎをしたい連中ばっかりだからな」

 

 

 

 

流石は担任。

生徒の事をよく見ていらっしゃる。

だが、そんな千冬でも、今回のことについては予想していなかったようだ。

 

 

 

「いや、それがですね……発案者は、ラウラなんです」

 

「………………」

 

 

 

千冬が呆然と一夏の顔を見た。

予想外の答えを聞いたというような顔をしている。

すると、今度はその顔を崩し、「ぷっ」と笑うと、我慢しきれなかったのか、大声で笑いだした。

 

 

 

「アッハハハハッ! なるほどなるほど……そうかそうか。しかし、あいつがご奉仕喫茶? 変われば変わるものだな……!」

 

「ははっ……やっぱり、意外でした?」

 

「ああ……私はあいつと付き合いも長いし、あいつの昔を知っているからな……想像すらしていなかったよ……しかし……ぷっ、くっふふふふふふっ〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

今度は、腹と口を押さえながら笑っている。

そんな様子を、周りの先生方が見て、驚いていた。

なんせ、普段から千冬がこんなに笑っているところなんて、絶対に見られながらだ。

いつも毅然としてて、凛々しい姿の千冬だからこそ、意外性抜群なのだろう。

だが、そう言った視線に気づいた千冬は、すぐに咳払いをして、いつもの千冬に戻る。

 

 

 

「さて、報告は受け取った。この書類を渡しておくから、ここに必要になる機材などを記入して、期限までには提出しろよ?」

 

「はい」

 

 

 

そう言って、一夏は千冬から複数枚の書類を受け取り、教員室を後にしようとした。

 

 

 

「織斑」

 

「はい?」

 

「学園祭には、各学生一人ずつ学園に招待してもいいことになっている。

無論、ここは機密事項の多い学園だからな、それなりの制約はある。しかし、それを守るというのであれば、学園祭に招待しても構わんからな。

あとはお前の好きな相手を選んで決めろ」

 

「あ……、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

一夏はそう言って、職員室を出て行った。

 

 

 

「誰を誘おうかな?」

 

 

 

一夏はそう考えながら、ある程度の目星はつけていた。

和人、明日奈、刀奈……三人の協力が必要になるが、もっとも三人は快く承諾してくれるだろう。

そう信じて、一夏は一組の教室に戻ったのだった。

 

 

 






次回は、いよいよ学園祭スタート!
その後は演劇と、亡国機業襲来と行きます。


感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。