ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回もチナツとカタナよ思い出話!

あと2話くらいは続くかもです……
早く先に進めよって思うかもしれませんが、ご容赦を……( ̄ー ̄)




第60話 Extra EditionⅧ

「はい! これが、チナツの血盟騎士団入団時のお話♪」

 

「「「「おお〜〜っ!!」」」」

 

 

 

まるで吟遊詩人におとぎ話を読ませてもらったような気分だ。

その当事者である明日奈と刀奈はともかく、その話を初めて聞いた箒達にもとっては、中々に面白い物語だったのかもしれない。

 

 

 

「にしても、一夏ってばギルド二つも潰したって事よね?」

 

「うむ……しかも一人でだぞ。流石は千冬さんの弟……織斑の血がそうさせているのか?」

 

 

 

それがしっくり来るから怖い。

昔、一夏から聞いた話では、千冬は近所の不良グループを、たった一人で複数壊滅させたという逸話があると聞いた。

一夏自身も、その詳細はわからないらしいが、時折買い物に行くと、不良達が一夏を見るなり逃げ出したとか……。

そこで、ある時一人でウロついていた不良に事情を聞いてみると、その不良もまた、所属していたグループを千冬に壊滅させられたらしい……。それも、木刀一本で全員フルボッコだったそうだ。

 

 

 

「血は争えないって奴?」

 

「だな。今の一夏なら、あり得なくもないだろう……」

 

 

 

幼馴染として、頼もしいと思うべきか、常人ではないと引く所なのか……。

 

 

 

「そういえば、鈴ちゃんと篠ノ之さんは、一夏くんと幼馴染だったんだよね?」

 

「まぁーねー」

 

「うむ、その通りだ。といっても、私と鈴は、別に幼馴染ではないぞ?」

 

「ん? それってどういうこと?」

 

箒の言葉に疑問を感じた直葉。

しかし、それを鈴が軽く答えてくれた。

 

 

「あたしと箒は、入れ違いで幼馴染になったのよ。箒は小1から小4まで。あたしが小5から中1まで一夏と一緒だったのよ……」

 

「凄いね……! じゃあ、二人は一夏くんの幼馴染ではあるけど、面識がなかったんだね」

 

「そりゃあね。まぁ、一夏からは、箒の事についてはいろいろ聞いていたけどね」

 

「ほう? 一夏は私のことをなんと言っていたんだ? 少し気になる」

 

「『頑固で無愛想な剣術バカ』って言ってたわよー」

 

「な、なにぃっ!? あいつ……! 今度会ったらただじゃおかんぞ!」

 

「はいはい……冗談だから。一旦落ち着けっての……」

 

「なっ!? 鈴……貴様……っ!」

 

 

 

体をプルプルと震わせ、握る拳がギュウっ、ギュウっと音が鳴る。

だが、これは鈴の悪ふざけだと、箒はもう理解している。だからその怒りを収める、再び姿勢正しく正座して座る。

 

 

 

「まぁ実際は、“剣道の強い幼馴染” って言ってたわよ。それに、綺麗だとかなんとか……」

 

「なっ!? き、綺麗だと……! わ、私が……綺麗……!」

 

「はいはい、そんなのお世辞だから、深く気にしない」

 

「うっ……別にいいではないか!?」

 

 

両手を頬に当てて、ヘヴン状態に昇天する箒を鈴がすぐに現実に戻す。

そんなやり取りを聞きながら、笑う刀奈たち。

 

 

「んでぇ? カタナはチナツとはどうやって結婚まで行ったの?」

 

「え?」

 

 

 

里香がニヤニヤとしながら刀奈に尋ねる。

刀奈は明日奈同様、少し間の抜けた声を出してしまった。

 

 

 

「そうですよ! アスナさんは話してくれたんですから、カタナさんも!」

 

「ああ……やっぱりそこまでいかないとダメ? もう自然な流れで行きましょうよ……」

 

「無理」

「不許可です」

 

 

 

再び鈴と箒の拒否が入り、刀奈はむすぅーと頬を膨らませる。

 

 

 

「はいはい……わかったわよ」

 

 

そして、再び刀奈は語りだす。

今度は、一夏が……ゲーム世界でのチナツが、血盟騎士団に入ってから、その後の事を……。

 

 

「その後は……まぁ、みんな一度フィリアちゃんから聞いてるでしょう? 入団前にうちの団員と揉めたって話。

ほんと、トラブルが絶えなかったのよねぇ〜」

 

 

 

入団を推薦する為に、アスナとカタナの二人は、チナツをギルドホームのある《グランザム》まで来ていた。

そしてその時、次の攻略についての会議があると言い、二人は一度チナツと別れた。

会議室に入った二人は、すでに集まっていた幹部プレイヤーと、団長であるヒースクリフの視線を受けながら、軽く会釈をした。

 

 

 

「遅れてしまい、申し訳ありません」

 

「構わないよ。我々も今しがた揃ったようなものだからね」

 

「恐れ入ります」

 

 

 

代表として、カタナが団長に対して謝罪をするが、当の本人はあまり気にしていない。

二人が揃ったところで、ようやく会議がスタートした。

内容的には、おおよその攻略具合を確かめるシミュレーションだったり、各人員のレベルの上昇率などなど……。

近々迷宮区内に存在するボス部屋の位置の特定も知れる頃だろうから、それまでに準備は整えておきたいものだからだ。

 

 

 

「以上で報告を終わります」

 

「ご苦労」

 

 

ヒースクリフは淡々と話を聞きながら、その物静かな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「先の報告にもあったように、近々またボス戦が行われるだろう……。階層が上がると同時に、ボスのレベルもどんどん上がっている。

現状のままで満足せず、各人には、さらなるスキルの向上を目指してもらいたい。我々は最強ギルドなどと呼ばれてはいるが、戦力は常にギリギリだ。どうか、その事を覚えていてほしい」

 

 

 

 

ヒースクリフの言葉に、幹部たちも、そして、カタナとアスナも頷いた。

これにて会議は終了し、幹部たち共々、ヒースクリフも席を立とうとしたその時だった。

 

 

 

「あの! 少しよろしいでしょうか?」

 

「何かね、アスナくん……」

 

アスナの呼びかけに、全員が立ち上がるのをやめ、再び席に着いた。アスナは一度カタナの方に視線を向けると、それに同調したかのように、カタナもアスナに視線を送っていた。

そして二人で頷き合い、今度はカタナが口を開いた。

 

 

「団長に紹介したいプレイヤーがいるのですが、会っていただけませんでしょうか」

 

「ほう……それで、そのプレイヤーとは何者なのかね?」

 

「おそらく、団長も一度お会いしてると思いますが、名前は《チナツ》と言います。以前、私たちとパーティーを組んで、ボス攻略にも、幾度も参戦しています」

 

「……ほう」

 

 

 

これにはヒースクリフも驚いた顔をしていた。

 

 

 

「なるほど……かの《人斬り抜刀斎》がうちのギルドに入るという事かね……」

 

「っ! 団長、その呼び方は……!」

 

「おっと、そうだね。今のは私の失言だったな。しかし、何故カタナくんたちは、チナツくんと……」

 

「先日、過激派組織を壊滅し、その主要人物たちを《黒鉄宮》に移送したのはお聞きになりましたよね?」

 

「ああ……。なるほど、その事件を解決した人物こそが、チナツくんというわけか……」

 

「はい。そして、リズ……私の友人が、同じ過激派ギルド《廻天党》に人質に取られた時も、それを解決してくれたのが、チナツくんです」

 

「なるほど……つまり我がギルドには、チナツくんに貸しがあるということか」

 

「はい……それに、チナツくんの戦闘能力は、攻略組のプレイヤーたちの中でも、上位に立つものだと思います。

彼が血盟騎士団に入ってくれれば、先ほど団長の言っていた戦力も、少しは安定するのではないかと思います」

 

「ふむ……」

 

 

 

ヒースクリフは右手で顎を触りながら、何か考え込んでいる様子だった。

 

 

 

「わかった。こちらとしても、その様な人材が入りたいと言うのなら、断る理由がない。むしろ大歓迎と言ったところだ。

それで、チナツくんは今どこに?」

 

「えっと、一応会議が終わってから、改めてお話をしてもらおうと思っていたので、今はこの主街区で待ってもらっています」

 

「そうか……。では、ちょうど会議も終わったところだ……彼との面接をしようか」

 

 

 

 

若干ニヤリと浮かんだ笑みで、冗談を言ったつもりなのだろうが、あまり似合わない。

面接……いや、団長ならば意外と似合うか……?

 

 

 

「失礼します! アスナ様!」

 

「っ!? どうしたの?」

 

 

 

と、そこに血盟騎士団の団員が入ってきた。

アスナの事を、ある意味で崇拝し過ぎているクラディールだった。

 

 

 

「それが、また《カズハ》の奴が……」

 

「また?! もう、勘弁してよー……」

 

「どうしたの?」

 

 

 

アスナの落胆ぶりだと、これはもう何度となく起きているものなのだとは理解できる。

だが、一体どうしたのだろう……。

カタナの問いに、アスナはこめかみを押さえながら言った。

 

 

 

「ほら、最近攻略組として力をつけてきた人がいるでしょう? その人名前が、《カズハ》っていうだけどね。

腕は確かにいいんだけど……なんていうか、いつも問題を起こすんだよー」

 

「ああ……そういえば、この間もなんかギルドメンバー同士で取っ組み合いしたらしいわね……」

 

「自宅謹慎にでもしたほうがいいと思っていたけど、ちょうどボス戦の時だったから……」

 

「なるほど……それで、クラディール。今度はそのカズハが何をやったの?」

 

「ち、違うのです、カタナ様」

 

「「ん?」」

 

 

 

クラディールの顔は、まるでありえないものを見た……といった表情だった。

そして一体、何が違うのか……?

 

 

 

「それが……やられているんです……カズハを含め、複数の攻略組プレイヤーが、たった一人のプレイヤーに……!」

 

 

 

クラディールの言葉に、会議場にいた全プレイヤーが驚いた。

 

 

「やられてる?! ちょっと待ってよ、カズハだって腕利きのプレイヤーなのよ? しかも複数人で、たった一人のプレイヤーに……!」

 

「しかし、それが本当なのです! カズハ以外のプレイヤーも、皆腕の立つ者ばかりです……」

 

「その相手って?」

 

「はっ、私も聞いた情報しかないのですが……長身痩躯の体つきで……」

 

「「ん……」」

 

「珍しい純白の日本刀を使っていて……」

 

「「んっ?!」」

 

「それが、目にも留まらぬ神速剣の使い手だと……」

 

「「…………」」

 

「あとは、白いコートに身を包んだ、若い男という事ぐらいしかわかっていません」

 

「もういいわ、クラディール……ありがとう」

 

「……これって……やっぱり……」

 

「そういうことよねぇ……もう〜〜っ、なんでおとなしく出来ないのかしら……!?」

 

 

 

今度はカタナか頭をかかえる番だった。

そしてすぐさま会議室を抜け出し、騒ぎが起きているという街中まで全力疾走で向かった。

 

 

 

 

「では、私も向かうとしよう」

 

「えっ?! 団長自らですか?」

 

「ああ……ちょうどいい機会だ。新人の顔と、その実力の両方を見れるなら、お得だろう」

 

 

 

そう言いながら、赤い外套に身を包んだヒースクリフをまた、会議室を出て行った。

大丈夫だとは思うが、さすがに団長一人で向かわせるのもどうかと思い、アスナもヒースクリフについていった。

その頃、街中では多くの野次馬と、その中心で戦うプレイヤーたちの熱気で、大盛り上がりだった。

 

 

 

「ふんっ!」

 

「グハァッ!?」

 

 

 

総勢8名からなる血盟騎士団の団員たちとの仕合は、圧倒的とも言える状況だった。

8対1で、圏内戦闘を行った……8人のレベルは、相当高い。普通ならば、フルボッコ確定の仕合だったにもかかわらず、倒れているのは、その8人のうちの7人。

この状況に、握りしめる両手剣を構えたカズハは、冷や汗をかきながら相手を見ていた。

圧倒的な速度で動く敵、そこから繰り出される剣撃。何もかもが自分たちの次元を超えている。

 

 

 

「さて、残るはお前一人だ……」

 

「くっ!」

 

「これ以上この子に関わらないと誓うなら、あとは傷害罪でも公務執行妨害でも、好きにしてくれていいが……?」

 

「ふ、ふざけるなっ! こんな舐められたまま、そんな無様な真似ができるか!」

 

 

 

カズハは両手剣を振り上げ、ソードスキルを発動させた。

単発重突進攻撃《アバランシュ》。

 

 

 

「チェストォォォーーーー!!!!」

 

 

 

勢いよく振り下ろした一撃。

だが、目の前からチナツが消えていることに、カズハは気がついた。

 

 

「んっ!?」

 

 

そして、それを遠目から、仕合場に向かって走ってきていたカタナやヒースクリフたちも、驚嘆の声を上げている。

 

 

「ほう……」

 

「はぁ……いくら豪剣でも、チナツくんの前では無意味だというのに……」

 

 

 

 

カタナの言葉が終えると同時に、真上に飛翔していたチナツが、全力を持ってカズハの脳天めがけて上段唐竹を打ち込んだ。

砂煙りが起こり、地面にうつ伏せで倒れたカズハは、ピクリとも動かない。あまりの衝撃に、気を失ったのだろう。

 

 

 

「ふぅー……ケガはない?」

 

「あっ、うん! ありがとう……おかげで助かったよ」

 

「別に……。大したことじゃないから」

 

「それでも、本当にありがとう! 私、フィリア。君は?」

 

「俺はチナツ。とにかく、無事でよかった」

 

 

 

 

そう言いながら、チナツは《雪華楼》を鞘に納めた。

その瞬間に、周りからは大歓声が起こる。たった一人のプレイヤーが、横暴な騎士団員を懲らしめたというある種の活劇に、周りは賞賛しているのだ。

しかしその歓声も、次第に治まった。

何故なら、野次馬たちの周りを、血盟騎士団の団員たちが囲んでいたからだ。野次馬たちの壁が、綺麗に分かれていき、そこを通ってくる人物が二人。

また額に怒りマークを出して笑っているカタナと、その横を憮然とした表情で歩いてくる騎士団長のヒースクリフの二人だ。

 

 

 

 

「チィ〜ナァ〜ツゥ〜く〜〜ん?」

 

「ひぃ!?」

 

 

 

目の前から魔女が歩いてくる。

目に見えて怒っている……怒気のオーラを身に纏って、こちらに近づいてくる。

 

 

「あ、いや……その…」

 

「君はどうして大人しく待つという事が出来ないのかしら?」

 

「いや、だから……! っていうか、仕方ないじゃないですか!」

 

「そうだけど……! はぁ……もういいわ。こちらにも落ち度があったわけだし。

そこのあなた、大丈夫? うちの団員が迷惑をかけたみたいで、申し訳ないわ」

 

「い、いえ、そんな大丈夫ですよ!」

 

 

 

カタナはフィリアに対して頭を下げて、謝罪の言葉を言い、すぐに倒れているカズハへと視線を向けた。

 

 

 

「この者たちを連行しなさい。地下牢につないで、目が覚め次第、処遇を伝えます」

 

「ハッ!」

 

 

 

カタナの指示のもと、カズハを含め8人の団員たちが連行されていく中、野次馬たちはヒースクリフ、アスナの存在を確認すると、これまでとは打って変わって、静寂という雰囲気に呑まれていた。

他の団員たちが野次馬たちを促し、その場から離れるよう指示している。

ちょうどその瞬間、ヒースクリフがチナツの所へと歩み寄ってきた。

 

 

 

「久しいな、チナツくん」

 

「お久しぶりです、ヒースクリフ団長」

 

「そうだな。君とこうして会うのは、いつぶりになるだろうね……」

 

「さぁ……俺が前線を離れて、だいぶ経ちますからね。俺も正直覚えてないですよ」

 

「しかし、またこうして会えたのも、何かの縁だな。それに、君が我がギルドに入りたいと言っていたそうだね」

 

「はい」

 

「理由を聞いても?」

 

「理由は……特にないですよ。俺の事を必要だと言ってくれた人がいて、俺はそれに答えたいと思ったからです」

 

「……なるほど」

 

 

 

 

チナツの答えを聞き、ヒースクリフは体を反転させ、来た道を戻っていく。

だが、すぐに立ち止まった。

 

 

「ならば歓迎しよう。ギルドの案内は、カタナくんに聞くといい。これからは君も団員だ。我々の指示には、従ってもらうよ?」

 

「ええ……もちろん」

 

 

 

 

それだけを言い残し、ヒースクリフは再び歩き出した。

広場では血盟騎士団の団員たちによって、問題を起こした団員たちが連行され、チナツはカタナとともにギルドまで移動し始めた。

 

 

 

 

「まったく……次からはちゃんと考えてから行動するように! ほんと、トラブルに愛されてるの? 君は……」

 

「そんな事言われてもですね……別に俺がトラブルを引き起こしてるわけじゃ無いんで、なんとも……」

 

「まぁ、そうね。でもやっと、チナツが正式にギルドに所属できるようになったわねぇ〜!」

 

「はい。これからよろしくお願いします」

 

「ええ、こちらこそ。ここでは私は副団長だから、私の命令に従ってね♪」

 

「……無理難題じゃなければ……」

 

 

 

 

苦笑いを浮かべながら、チナツはカタナに言うのだが、そんなカタナの顔は満面の笑みだ。

それがどうしようもなく怖いと感じてしまうのは、なぜだろう……?

その後、チナツはカタナの直属の部下となり、血盟騎士団の制服を渡された。

今着ているコートとは、若干デザインと色合いが違うだけなので、なんの抵抗もなく着れた。

 

 

 

「うんうん! いいじゃない、似合ってるわよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

かくして、血盟騎士団所属になったチナツは、その後隠密部隊として活動する事が多くなった。

そして、それは必然的にカタナと行動を共にする事が多くなり、いろいろと大変な日々を送っていたが、なんとかやって行った。

時折カタナと二人きりでの任務もあり、その時には、いろいろとカタナの話を聞いたり、チナツ自身の事を話したりした……。

そんなある日の事だ。

その時も二人きりで任務に出ていた時、突然の大雨に晒された。

二人はダンジョンの近くにあった洞窟へと入り、雨が止むまで雨宿りしていた。

そんな時、ふと、カタナから質問が投げかけられた。

 

 

 

 

「ねぇ、チナツくん。チナツくんは、何の為に戦ってるの?」

 

「何ですか? いきなり……」

 

「いや、まぁ……その、チナツくんは軍の中で、暗部として戦ってたんでしょう?

それもその……暗部として、レッドプレイヤーを斬ってきたわけじゃない……」

 

「そうですね……。何の為、ですか……それは、俺自身の理想が、そうさせていたのかもしれません」

 

「理想?」

 

 

 

 

そこでチナツは、今まで誰にも話していなかった、心の内に秘めた思いをカタナに打ち明けた。

 

 

 

 

「俺には、両親がいないんです。正確にはいるんですけど、でも、物心つく前から、二人は俺と姉を置いて、どこかへと消えてしまったんです……

姉は強い人で、その時はまだ高校生だったっていうのに、頑張って働いて、勉強して、剣術の稽古も人一倍頑張ってた……俺の事を見てくれてた。そんな姉に、俺は心底感謝していますよ……今でもね」

 

「…………」

 

「でもある時、姉が出場するある試合の決勝戦の日……俺は、謎の組織に誘拐されました。

犯人たちの目的は、姉の試合を妨害し、出場させない事だったんだと思いますけど……。その状況の中、姉は俺を助けに来てくれました。

誰よりも速く、一番に会いに来てくれた……でも、その所為で、姉は大事な試合を欠場……結果、不戦敗になって、優勝を逃しました……」

 

「そんな事が……」

 

「はい。その時に思ったんですよ……俺は、なんて無力なんだろうって……。

俺が捕まってさえいなければ、姉は試合に出場し、優勝していたはずですからね。だからこそ、俺は力を求めたんです……強さを持つ……強くなりたかった……!」

 

「でもそれは、チナツくんの所為ではないでしょう? なのに、そんな……」

 

「確かにその通りです。それは、姉にも言われましたよ……「お前が気にする事はない」ってね。

でも、やっぱり無理じゃないですか……どんなに忘れようとしても、あの時の無力感は消えないんです。だから、それを払拭しようと思って、俺は姉を目標にして、強くなると誓ったんです!

姉のように、大切なものが守れるくらいに、俺自身が強くなりたいって……」

 

「でも……そうはならなかった……?」

 

「はい……」

 

 

 

チナツの話を聞いていくうちに、カタナには、チナツの正体がわかって来ていた。

暗部の家系として、それなりの情報網を持っているし、その頃はカタナだって更識の当主になるべく、早い段階で任務に従事していた。

武術の強い姉を持ち、大事な大会での誘拐事件……それが示すのは、今や世界を根底から覆した存在、ISを用いた世界大会《モンド・グロッソ》だけだ。

そして決勝戦を辞退せざるをえなかった選手はただ一人。世界中の人々と、全てのIS操縦者からつけられた《世界最強》という称号の持ち主。

日本代表『織斑 千冬』ただ一人。

ならばその弟とは、必然的に…………。

 

 

 

「今でも、お姉さんを目標にしてるの?」

 

「そうですね……今でも、強く根付いていますよ。あの時助けてくれた、姉の姿……それに、救い出された時に生まれた、嬉しいという感情と、姉のように強くなると決めた決心が、その時に生まれたんです」

 

「そう……」

 

 

 

 

カタナはだだ、そう呟いては、未だに晴れない雨空を眺めている。

 

 

 

「やっぱりさ、お姉さんが優秀だと……弟としては、特別な物に感じるの?」

 

「え? なんでです?」

 

「…………私にも、妹がいるの。とっても可愛い……私の自慢の妹が……」

 

 

 

今になって、何故あんな事をチナツに話したのかはわからない。

でも、話していいと思えたのだ……何故だか、この人には話せると思った。

 

 

 

「その妹さんと、何かあったんですか?」

 

「うん……ちょっと、ケンカしちゃってね。うちの家って、ちょっと複雑というか、特殊な家なの。うーんと、簡単に言うと、名家……かな?

そんな家に生まれたんだから、私と妹も、後継者争いに巻き込まれちゃってね。まぁ、結果的に言えば、私が後継者に選ばれた……それから、妹とは、すれ違ってばっかりで……」

 

「妹さんとは、仲が良かったんですよね?」

 

「うん! 仲良し! 超ぉぉぉ仲良しよ!? でも、その……」

 

 

 

急にうつむき、両手で顔を覆い隠した。

 

 

 

「私が、妹に……何もしなくていいって……言っちゃって……」

 

「何もしなくていい?」

 

「私は、妹を、守りたかった……だから、できるだけ危険な物から離したかった……でも、それ以来、妹とは……」

 

 

声のトーンが徐々に低くなっていってるのがわかる。

この時、チナツにもわかった。カタナが、その妹の事を、何よりも大事だと思っていることに……。

それ自体、自分の姉……千冬が自分にしてくれていた事と、何も大差ない事だ。

だけど……その妹の気持ちも、チナツにはわかった。

 

 

 

「確かに、それはカタナさんも悪いですね」

 

「……うん」

 

「さっきも言いましたけど、俺は、姉が気にするなと言っても、気にしないなんて出来ない。それなりの責任を感じているんです……だから、目標にして、いつか必ず追いついて、追い越したいって願い、求めるんです。

いや、それだけじゃないな……自分の事も、自分の力も、知って欲しいんです」

 

「自分の……力?」

 

「姉には持っていない才能……姉とは違った物を持っている……だから、自分は姉とは違うんだ……姉には負けたくない」

 

「…………」

 

「俺は、そう思った事があります。どうしても、頭からは離れないんですよ……特に、俺には親がいませんでしたからね。

姉を助けられるような弟になりたい……そう願っても、そこにはやはり、優秀な姉という存在がいます……だから、そうやって気を使ってくれるのは、嬉しいですけど……逆に、それが罪悪感に思えるんです」

 

「…………そうよね。ほんと、私って馬鹿よね……大事なのに……簪ちゃんの事、大好きなのに……!」

 

 

カタナの瞳から、涙が溢れ落ちた。

よほどその妹……簪の事が大事なのだろう。その思いが、ひしひしと伝わってくる。

 

 

 

「だから、ちゃんと帰らないといけませんね」

 

「…………うん。そうよね……ちゃんと生き残って、簪ちゃんにちゃんと言う……ごめんなさいって」

「はい……」

 

 

 

 

その後、二人は雨上がりの空を見ながら、ギルドホームへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何かっこつけてんのよ、あいつ」

 

「だな。なんだか一夏らしくない感じがする」

 

「二人は一夏君のことをどう思ってるのかな?」

 

「朴念仁」

「唐変木だな」

 

「うわぁ……」

 

 

 

辛辣な言葉の投げかけに、直葉は一夏に同情するしかなかった。

まぁ、即答するあたりが、鈴と箒のらしいところではあるのだが……。

 

 

 

「でも、そんな唐変木でも……いいとこあんのよ♪」

 

 

 

刀奈は再び語りだす。

今度は……自身の気持ちの変化についてを……。

 

 

 

 

 

「チナツくーん、マッサージィ〜♪」

 

「はいはい」

 

「チナツくーん、お腹減ったぁ〜!」

 

「了解しました」

 

「チナツくーん♪」

 

「もうっ、仕事出来なんですけど!」

 

 

 

 

それからというもの、カタナのチナツに対する思いが変わった。

というのは、周りから見ても、火を見るよりも明らかだった。

いままで以上にチナツとの接触が多くなり、任務にも同行することが多くなり、最近ではチナツがカタナにお弁当を作ってきているという話しも持ち上がるくらいに……。

 

 

 

 

「カタナちゃん、なんだか楽しそうだねー」

 

「え? そう? まぁ、確かに楽しいかな〜……チナツくんをいじるのは♪」

 

「あ、えっと……別にそっちの意味じゃ……ううん、なんでもない」

 

 

 

ニコニコと微笑みながら楽しそうにしているカタナの顔を見ていると、聞こうとしている方が野暮だと思ってしまう。

今現在、カタナの仕事部屋にいる二人だが、今日も今日とてカタナの仕事が早い。

普段から仕事の早い方なのだが、今日は一段と早い。

最近分かってきた事なのだが、カタナは良い事があると色々と調子がいい。仕事の事もそうなのだが、攻略の事にも力が入る。

普段はミステリアスな外見に包まれているが、こうして見ると、普通の女の子のそれだ。

 

 

 

「この頃、チナツくんと一緒にいる事が多いね?」

 

「うん……まぁ、ね」

 

「……はは〜ん♪」

 

「な、なに……? なんでそんなニヤニヤしてるの?」

 

「なるほどねぇー♪」

 

「だ、だからなによ?! アスナちゃん、ちょっと怖いわよ?!」

 

「いやさ、なんか良いなぁーって思って。カタナちゃん、チナツくんに恋してるみたいで♪」

 

「………………」

 

「あ、あれ? カタナちゃん、どうしたの?」

 

「こーー」

 

「こ?」

 

「コイィィィィィィィィッ!!!!!?」

 

「うわぁっ!?」

 

 

 

 

急に叫び出し、その場に立ち尽くした。

アスナは急な絶叫に驚き、目をギョッとさせて、カタナの顔を見ていた。

天井を見ながら、わなわなと顔を赤くしながら震えているカタナは、その視線を徐々にアスナへと向ける。

 

 

 

「な、な、何をいってるのよ! こ、恋ってそんな……」

 

「いや、でもねカタナちゃん。本当にそう見えるよ? もしかして、自覚なかったの?」

 

「へぇ……?」

 

 

 

改めて思い返してみる……確かに最近チナツといると嬉しいし、なんだかドキドキする……でも、いやそれは……

 

 

 

「ば、馬鹿な! ありえないわよ! チ、チナツくんは、私の部下で! え、えっと、えっと、その……そう! 弟みたいなものなのよ?!

そ、そりゃあ確かに、ちょっとからかうとすぐに慌てるし、そんな慌ててるチナツくんって、ちょっと可愛いんだけど、なんていうか、そういうのを見ると、もっとからかいたくなっちゃうっていうか!」

 

「…………」

 

「そ、それに、こう飄々としているんだけど、実は優しくて、頼りになって、いつまでも側に置いておきたいって思うときも……まぁ、あるわね!

それに、意外に思うかもしれないんだけど、チナツくんって肌プルプルなのよ! 特に耳たぶとか触ってると、ちょっと落ち着くの! ねぇ、アスナちゃんにこの気持ちわかる?!」

 

「……分かりたいけど……ちょっとわからないかな〜……」

 

「ええ!? アスナちゃんだってキリトといるときはそうでしょう?!」

 

「ええっ?! わ、私の話!? ま、まぁ、それはともかくよ? さっきからカタナちゃんの話を聞く限り、やっぱり、カタナちゃんって、チナツくんのこと……好きなんでしょう? っていうか、そうとしか思えないし……」

 

「うえぇぇっ?! ちょっ、ちょっと待って! ほんとに待って!」

 

「待つって言われても……」

 

「いや、だってぇぇぇぇ!」

 

「だっても何も、だって普通耳たぶ触ってる落ち着くなんて、普通の上司と部下って関係じゃまずないでしょう?

心を許しているから、そんな事をするわけであって、まずカタナちゃんが、見ず知らずのプレイヤーとそんな事しないでしょう?

て事はだよ? そんな普通はしない事を、普通にやってる間柄はなのは、もう恋人っていう感じだと思うんだけど……」

 

「っ…………そ、そんな……そんなの、私の予定には入ってないわよっ?!」

 

「いや、予定通りに恋愛をするのもどうかと思うよ?」

 

「あ……そっか……」

 

 

 

ようやく正気に戻ったのか、カタナは呆然としながら、天井を見上げていた。

確かに、自分はチナツの事を気に入っている。

それに、普段から何をやっているのか、何が好きなのか、どれくらいの強さを持っているのか……最近では、そんな事しか思いついていないくらいだ。

それに、最近弁当を作ってきてくれるのは、チナツが料理スキルを上げたいと言ったからだが、よく考えてみれば、この世界で料理スキルを持つ者は少ない。

カタナの知る限り、チナツとアスナの二人。その他にも所持はしているが、前の二人ほどの熟練度に達している者はいないプレイヤー……それでも二人だけ……計四人だけということだ。

料理の出来る男子で、なおかつ顔も中々良いと団員の女性プレイヤー達からの評判も上がっている……それに、カタナやアスナに匹敵するほどの剣の冴え。

何度か任務に同行させてみてわかったが、カタナも何度か危機を救ってくれたときがあった。

いままで背中を任せてきた事が少なかった……だが、チナツといる時だけは、なぜか安心してしまう。

常に警戒していた……背中を預けられる者がいないと思っていた……だが、チナツはその背中を、何度だって守ってくれた。

そして、優しく微笑みながらこちらに手を差し伸ばしてくれる。

その手に触れるのが、今ではすごく好きだ。

何度だって触れたい。笑っている顔を見るとホッとする……とても、安心する。

 

 

 

「あぁ……そっか……」

 

 

 

 

ここで、カタナは初めて気づいた。

 

 

 

 

「私……本当に、チナツくんの事が……好きなんだ!」

 

「うん……多分、好きなんだよ」

 

「そっか、好きなんだ……」

 

 

 

改めて認めてしまうと、なんだか顔が熱くなってきた。

次第に、どんどんチナツの事を考えてしまう。チナツと付き合って、いろんなところへと行って、一緒に戦って、いずれは同じ家を買って、一緒に住んで……そして……

 

 

 

「………………」

 

「カタナちゃん」

 

「……なに?」

 

「顔、ものすごく赤いよ?」

 

「うん…………知ってる……」

 

 

 

 

 

 

だめだ、完全に上の空になってしまった。

その後、カタナを正気に戻したアスナと、カタナの二人で、どうすればチナツの事を落とせるのかを協議した。

すでにギルドでも上がっている、あまりにも唐変木過ぎるチナツに対して、どのようにアプローチすれば、チナツの心にカタナという存在を刻ませることができるのか……。

それを協議して、ようやく答えを見つけられるかと思ったその時、アスナがあることに気がついた。

 

 

 

 

「そういえばチナツくん……たしか、彼女がいるとかいないとか噂になってたような……」

 

「………………は?」

 

 

 

 

 

カタナの心に、少なからずヒビが入った瞬間だった。

 

 

 

 

 






次は、チナツとカタナが結婚する話まで行けば良いかな。

感想よろしくお願いします( ̄▽ ̄)


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