ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ええ……今回は、チナツのKoB入団までを話します。



第59話 Extra EditionⅦ

突如響いた叫び声のする方へと向かって走る。

と、そこには、地面に対して仰向けになったり、うつ伏せのまま動かないプレイヤーたちの姿であった。

そして、もう一人。

そのプレイヤーたちをやったのであろう《人斬り抜刀斎》が、その場に佇んでいた。

 

 

 

「弱い……貴様ら弱すぎる……!」

 

 

 

確かに、報告にあった通りだ。

体格の大きい男で、右手には日本刀を持っている。

そして、顔を隠したマスクと頭巾。間違いない……この男が抜刀斎だ。

 

 

 

「弱い……もっと骨のある奴はいないのか……」

 

 

ゆっくりと、その体躯を動かす男。

ゆっくりとゆっくりと、いまだに倒れているプレイヤー達のもとへと歩み寄っていく。

しかし、その時……。

 

 

 

「ちょっと失礼」

 

「ん……?」

 

「おじさん、弱い者イジメというのはちょっと大人気ないと思うんですけど?」

 

「なんだと、小娘……」

 

 

 

不敵な笑みを浮かべながら、長槍の鉾先を向けるカタナに対し、抜刀斎は遺憾の意を示している様だった。

刀を構え、いざ刀槍剣戟の始まりかと思いきや、抜刀斎はふと、周りに視線を巡らせた。

そして、一歩……いや、半歩下がりながら、カタナを睨みつけた。

 

 

 

「なるほど……わざと挑発し、俺の意識を貴様に向けさせておいて、周りを囲んで拘束が狙いか……」

 

「っ…………あら、意外と冷静だこと……」

 

 

 

意外と索敵スキルのレベルは高い様だ。

周辺に配置させようとしていた部下達の気配に気づいたらしい……。いや、ただ単にレベルの高さではない……このプレイヤーは、人との戦いに慣れている。

暗部の、裏の世界で戦いに慣れているのだ。

 

 

 

「あいにく、ここで捕まるわけにはいかんのでな……」

 

「っ! 逃すと思う?!」

 

「逃げてみせるさ!」

 

 

 

野太い声で宣言すると、抜刀斎はあえてカタナの方へと向かって走り出す。

カタナは槍を構え、迎撃態勢にはいる。

 

 

 

「むぅっん!!!!」

 

「っ!」

 

 

 

豪腕とも言えるその太い腕がしなり、強烈な一撃を放つ。

カタナは咄嗟に受けの姿勢を直し、刀の刀身を槍の先端部分で受け流した。体を捻り、衝撃を後方へと流したカタナは、即座に槍を反転。鉾先を左へと鋭き薙ぎ払う。だがこれは、抜刀斎が体勢をひくくして躱し、そのままカタナの後方へと向かい、体を滑らせながら移動する。

 

 

 

「ふむ……中々にいい腕だ。もう少し時間があるなら、もっとやっていたかったがな」

 

「あっ! 待ちなさい!」

 

 

カタナの包囲を抜けて、抜刀斎はチナツの方へと走り去っていった。

 

 

「くっ! チナツくん! その男を止めて!」

 

「えっ!?」

 

「どっけぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

 

まるで獣の咆哮の様だった。

両手で上段に構えた抜刀斎は、チナツを斬るべく勢いを増してチナツに向かって走っていく。

 

 

 

「せやあぁぁッ!!!!!」

 

「うおっ!?」

 

 

抜刀斎は思いっきり振り下ろした。

本来なら、HPの半分を持っていくか、最悪の場合即死するレベルの一撃を……。

ここが圏内である為、HPゲージが減ることはないが、それでも、その恐怖はその身に宿るだろう。

だが、抜刀斎が振り下ろした時すでに、チナツの姿はどこにもなかった。

 

 

 

「んっ?!」

 

 

 

斬りつけたのは、チナツが立っていた地面だけだ。

石畳風になっているこの層の路地。

傷は付けられなかったものの、激しい衝撃を思わせるエフェクトか発生した。

だが、そんな事は今どうでもいい。

目の前にいた男はどこに行ったのか? あの一瞬で消える技なんて、この世界にはない。

あるとすれば、それは未知のスキルか……。

しかし、そんなものではないと、抜刀斎はすぐに気づくことになった。

なぜなら……

 

 

 

「よっ!」

 

 

 

ベキッ!

 

 

 

「ん?!」

 

 

 

バキバキバアッカァーーーーーーン!!!!

 

 

 

「ぬおおおああっ!?」

 

 

 

突如として瓦解する木製の桶の山。

そしてその瓦礫の中に埋まっているチナツの姿に、カタナと抜刀斎は呆然としていた。

 

 

 

「いってててて……」

 

「もう! チナツくん、何やってるのよ!」

 

「そ、そうはいっても……これ、《破壊不能オブジェクト》じゃねぇのかよ……」

 

「ちょっと、大丈夫? って、ああああッ!?」

 

「ん?」

 

 

 

 

カタナが叫んだ先に、チナツも視線を向ける。

と、そこには、背中を見せて一目散に走って逃げる抜刀斎の姿が映っていた。

 

 

 

「こ、こらぁ〜〜! 待ちなさーーい!!!」

 

「俺は人斬り、《人斬り抜刀斎》!! 再び相見えん‼︎」

 

「んなこと聞いてないわよぉーーーー!!!!」

 

 

 

その後、抜刀斎の姿を完全に見逃してしまったカタナは、渋々帰ってきた。

そして、壊れた桶を、どうにか直せないかと四苦八苦しているチナツの姿を見つけ、トップスピードでチナツの間合いを詰めて、思いっきり両手で胸ぐらをつかんだ。

 

 

 

「もう! チナツくんのせいで逃げられちゃったじゃない!」

 

「わあっ、す、すみませんって……。でも、しょうがないじゃないですか!? これが壊れるなんて思ってなかったし……」

 

「あなた本物でしょう?! あんな偽物に名乗らせておいていいわけら!?」

 

「ま、まぁまぁ……別に、構わないですよ……それは。俺は別に、抜刀斎という名前に、未練も愛着も無いんですから……」

 

「…………ごめんなさい。今のは、私が無神経だったわね」

 

「気にしないでください。もう慣れてますから」

 

「そういう問題じゃーー」

 

「それよりも、早々に対策を練った方がいいんじゃないですか? 俺たちが何者であるかは知られては無いみたいでしたけど、それでも、今以上に警戒してくるはずですし……」

 

「…………そうね。私は一度部下を引き連れてギルドホームに戻るわ。チナツくんはどうするの?」

 

「俺はここら辺にある宿屋に泊まって、奴らの動向を探りますよ。ギルドにも入って無いですから、単独調査し放題ですし」

 

「わかったわ。でも気を付けてね?」

 

「わかってますって」

 

「あっ、そうだ! ねぇ、チナツくん。フレンドリストに私の名前入ってるわよね?」

 

「えっ? あ、はい……一応……」

 

「それじゃあ、何かあったら連絡してよ。そうすれば、私たちも動きやすいわ」

 

「そうですね……了解です」

 

「あっ、あと、パーティーも組みましょう」

 

「わかりまし…………えっ? パーティーもですか?」

 

「うん! パーティー。そうすれば、何かと便利だし」

 

「便利? 何がですか?」

 

「まぁ、いろいろよ」

 

「いろいろって……」

 

「とにかく! ほら、早くOKボタン押しなさいよ」

 

 

 

 

急かされるようにして、チナツは目の前に表示されたカタナからのパーティー申請を受諾した。

その後、二人は一旦別れ、カタナはギルドホームのある《グランザム》へ戻り、チナツはそのまま抜刀斎の手がかりを探すために走り出した。

 

 

 

 

(あいつのあの剣技……ゲームのソードスキルの真似事じゃなかった。一から鍛え上げられた、純粋な努力の積み重ねから来るもの……つまり、武道家……)

 

 

 

剣道……おそらく、あの抜刀斎は剣道の有段者だろう。

まっすぐで無駄のない太刀筋は、長い間ひたすら反復で練習を積み重ねてきた賜物……ならば、まず間違いなくプレイヤーというステータスがすでにこの中層域のプレイヤーたちとは段違いだ。

 

 

 

「…………なんとかしなきゃな……」

 

 

 

どことなく怒りを覚えた。

自分の異名を語られた……からではなく、何のためかはわからないが、関係ない一般プレイヤーを傷つけて、それに悪気を感じていないようだった。

その事が、チナツにはどうしても許せなかった。

それからチナツは、抜刀斎と名乗る男が、潜んでいそうな場所を巡って探したが、この日は何も情報は得られなかった。

 

 

 

「はぁ……ここまで来て収穫ゼロか…………今日はもう帰るか……」

 

 

 

あまり長時間調査をしようとしても、相手側に警戒させてしまうだけだ。

チナツは一度その場を離れ、第45層に戻り、安宿へと戻った……戻ったのだが……

 

 

「おかえりなさい♪ お風呂にします? ご飯にします? それともぉ〜、わ・た・し?」

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

思わずドアを閉めた。

いや、当然の反応だろう。だって、すでに借りていた部屋とはいえ、自分が住んでいる部屋に、カタナが私服姿でお出迎え……。

しかも、なぜかエプロンをつけてるし……。

 

 

 

「…………仮想世界でも、幻って見えるのかな?」

 

 

 

深呼吸を一度して、再びドアを開けた。

 

 

 

「おかえりなさい♪ 私にします? 私にします? それともぉ〜、わ・た・し?」

 

「選択肢がない!?」

 

「あるじゃない。一つになっただけで」

 

「って言うかどうやって俺の部屋突き止めたんですか!?」

 

「情報収穫は得意なの♪」

 

「…………よくもまぁ、いちプレイヤーのためにそんな情報を収穫できますね……」

 

「あら、皮肉?」

 

「そういうんじゃないですよ……で、どうしたんです? ギルドホームに戻ったんじゃ……」

 

「うん。ちゃんとギルドの幹部メンバーには報告したわよ。で、終わって暇になったから、遊びに来たってわけ♪」

 

「で、でも、鍵は? ここは俺以外に鍵を開けられないはず……あっ!」

 

「うふふ……パーティーメンバーなら、いつでもどこでも開けられるってね♪」

 

「まさか……そのためだけにパーティーを組ませたんですか……?」

 

「そんなわけないでしょう。もちろん、今後一緒に活動するために、色々と役立つからよ。そうじゃなきゃ、わざわざパーティーなんて組まないわよ」

 

「まぁ……確かに……」

 

 

 

納得はいったが気がかりだ。

そして、最も気になる物……それは……

 

 

 

「何故エプロンなんか……」

 

「あら、お腹空かせてると思って。色々買ってきたわよ♪」

 

「自分で作ったんじゃないんかいっ?!」

 

「残念ながら私には料理スキルがないのよねぇ〜♪」

 

「じゃあ、何故エプロン姿……」

 

「新婚さんゴッコ♪」

 

「…………」

 

 

 

何だろう……いつの間にか彼女のペースに引きずり込まれている。

チナツはため息をつきながら、自身の部屋へと上り、装備解除のボタンを押した。

だが、何故か日本刀だけは解除せずに、そのまま机に立てかけた。

 

 

 

「あら、武器は仕舞わないの?」

 

「あー……まぁ、これは慣れですね。こうしてた方が、落ち着くんです」

 

「ふぅ〜ん……」

 

 

 

人には色々と抱えているものがある。

ならば、それはその本人が望まない限り、他人がとやかく言う資格はない。

カタナはそれとなく返事をすると、チナツに対して向き合うように座り、ウインドウを操作すると、アイテムストレージから食料を取り出した。

 

 

 

「はい。色々買ってきたから、食べましょう♪」

 

「そうですか? なら、遠慮なく……いただきます」

 

 

 

二人は並ぶ食べ物に手をつける。

そして食べながら、今回の事件について、もう少し詳しく話し合ってみた。

 

 

 

「今回の事件……抜刀斎たちの目的は何だと思いますか? カタナさん」

 

「そうね……。街の人たちからの話だと、ここら一帯を恐怖政治で縛りつけたいのかなって思ったわね」

 

「縛りつけたい……ですか。しかし、それは何のために?」

 

「過激派の連中って言うのは、大抵が大型ギルド……その中でも解放軍とは折り合いが悪いのは、知ってるでしょう?

だから、軍と対抗するまでの戦力がいる。でも、人なんてそう簡単に集まらないし、ましてや、相手は血盟騎士団や聖竜連合よりも多くのプレイヤーが所属しているのよ? なら、それに対抗するためには、ある程度大きな街で、自分の都合のいい集団や組織を作ってしまった方が早い……って思ってね」

 

「確かに……しかもそれが解放軍の圧政の所為だという口実をうまく広められれば、民衆もそれに乗っかってしまうというわけですか……」

 

「まぁ、現状で考えるなら、そう言うことよね。だって、もう私たちって、ここに一年もいるんだもん……」

 

「…………帰りたいとか思ってる人がいるんですかね? 俺はむしろ、そう言う人が減っていっていると思うんですけど……」

 

「そうね……でも、帰りたいとは思っていても、実際に自分が戦おうと思ったりはしてない……つまり、端的に省略して言えば、“帰りたい気持ちはある。でも、自分がやるのは嫌” 。

だけど攻略を進める傍で、圧政に苦しむのは許さない……何もかもが矛盾しているのよね……」

 

「なるほど。ようは、“平等” じゃなきゃ嫌だと思っているんですね……この世界は現実と同じだっていうのに……」

 

「そうね。ここは現実世界と何ら変わりはないわ……人がいて、それぞれの思惑があって、仮想世界なのに、どこか現実味があり過ぎる」

 

「仮想世界……ゲームだと思っているからでしょう。だから現実が見えてこない……いや、見たくないんですよ。

その気持ちがわからなくもないですけど……それでも……」

 

「他人を傷つけていい理由には、ならないわよね?」

 

「ええ、もちろんですよ」

 

 

 

二人は箸をつつきながら、何となくだが、過激派連中の思惑が見えてきたような気がした。

 

 

「まぁ、何にしても、奴らの企てを阻止しなきゃいけない事は確かですね」

 

「でも、その肝心の相手が、どこにいるのかもわからないんじゃねぇ〜」

 

 

 

チナツは今日一日探してみたが、これといって手がかりを見つける事は出来なかった。

カタナも明日以降に調査をする予定ではあるが、正直難航する事は目に見えてわかる。

 

 

「…………これは俺の勘なんですけど」

 

「なに?」

 

「奴らは多分……ゲリラ式に動いているんじゃないかと……」

 

「ゲリラ……? って事は、一般プレイヤーに扮している……ってこと?」

 

「ええ。これは俺の経験上、標的を探る際や自分の存在、身を隠す時には、人気のない場所よりも、逆に人気の多い場所を歩くんです」

 

「なるほど……! 木を隠すなら森の中ってわけね」

 

「はい。多分、この階層や他の階層にも、そういう風に紛れているプレイヤーがいてもおかしくはないと思いますよ?」

 

「よし、わかった! 明日にでも、部下たちにはそう伝えておくわ!」

 

 

 

 

パァーっと顔をほころばせたカタナは、陽気に食料を口に運んでいく。

 

 

 

「ねぇねぇチナツくん! やっぱりうちのギルドにーー」

 

「ごめんなさい。今は入る気がありません」

 

「もう、この優柔不断め」

 

「別にいいじゃないですか……ほら、さっさと食べちゃいましょうよ」

 

「はーい」

 

 

 

カタナが買ってきた料理を二人で食べきり、食後のお茶も出してもらった。

その後、カタナは自分で買った家に帰り、僅かながらの静かで心地よい時間を、チナツは過ごした。

刀を握り、部屋の隅へと移動して、その場に座り込む。

まるで瞑想しているかのように目を瞑っては、なにもせずにひたすら座ったままでいる。

 

 

 

「さて、早々に……片付けないとな……」

 

 

誰も聞いていない部屋で一人。その言葉だけが木霊して響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでそのあとはどうなったんですか?」

 

「その後、チナツの助言のおかげで、過激派の連中を割り出すことに成功して、敵の本拠地も発見することに成功したの」

 

「本拠地?」

 

「うん。これがねぇ〜……《廻天党》の時同様ダンジョンの隠し部屋にアジトを作ってたのよ……」

 

 

 

次からはいよいよチナツがギルドに入る話。

今まで耳を傾けていただけの里香たちですら、刀奈の話に興味津々の様子だった。

その後、カタナたちは何とか過激派組織のアジトを割り当て、血盟騎士団メンバーで捕縛作戦を練ることにしたのだという。

作戦の内容を、チナツも一応聞き、その日はそれだけで終わった。

そして、いよいよ作戦決行を明日に控えた日の夜。チナツは、ある場所を訪れていた。

 

 

 

 

「いらっしゃい」

 

「お久しぶりですね……エギルさん」

 

「おお……! チナツ! 久しぶりだな!」

 

 

 

第50層《アルゲード》にあるエギルの店。

ここには流浪人として旅をしている時に、ちょくちょく通っていて、よく掘り出し物がないかみたり、旅の休憩に使ったりしていた。

 

 

 

「最近来なかったからな……心配してたぞ」

 

「すみません。ちょっと今、カタナさんの任務を手伝ってまして……」

 

「あぁ、そう言えば今、血盟騎士団は過激派組織と一戦交えようって感じなんだろ?」

 

「あれ? なんでエギルさんがそれを知ってるんです?」

 

「そりゃあ、本人から聞いたからな。カタナ、ボヤいていたぞ……お前がギルドに入ってくれないってよ」

 

「あっはは……そ、そうですか……」

 

 

 

チナツはエギルの店のカウンターに座り、エギルはチナツにお茶を出した。

チナツはそれを一口啜り、一息つく。

 

 

 

「それで? 明日なんだろう、その過激派の掃討作戦は……」

 

「はい……」

 

「にしては、なんか浮かない顔してんな」

 

「そうですね……なんか、俺が関わってもいいのかなって……」

 

 

 

エギルはグラスを拭きながら、チナツの話に耳を傾ける。

何でも、チナツは迷っているらしい……このまま、カタナたちと関わり、自分が再び表世界に出ていくのか、それとも、今まで通り、流浪人として、陰ながらこの世界を見て回り、時に手助けする存在になるのか……。

 

 

 

「だが、カタナは必要としてくれてるんだろ? ならいいじゃねぇかよ……」

 

「そういうわけにはいきませんよ。俺は表舞台に出るには、あまりにも汚れすぎてる……そんな俺が、今をときめく最強ギルドのメンバーなんて、笑えないですよ……」

 

「……周りの人間と、うまくいかないと思っているからか?」

 

「っ……そうかもしれないですね……」

 

 

 

 

それも理由の一つであるが、一番の理由はカタナとアスナ……自分が最も関わりの深かった二人に迷惑がかかる事だ。

今や二人は、このアインクラッドを代表する存在にまで上り詰めた。対して自分は、アインクラッドの闇の存在……決して表舞台には出られない存在になってしまった。

全く正反対な存在である自分と二人。そんな対極の存在が、一緒にいられるはずがない……。

 

 

 

「それに、ギルドという存在にも、俺は馴染めなくて……考えれば考えるほど、自分や、他人の醜い部分が見えてしまう……」

 

「まぁ、ギルドと言うものに、人をダメにする部分があるのは確かだな。

だが、それは仕方のない事だと思うぞ……それは人として、当然の事なんだ」

「…………」

 

 

 

エギルは静かに、だが、心に響いてくるのような……そんな言葉を語りかけた。

 

 

 

「生まれてきたものはいずれ腐り、朽ちていくものだ。それを嫌だと言っちまったら、誕生する事を否定しているのと同じだ」

 

「っ!?」

 

「お前だって、以前は俺たちと一緒にパーティー組んで戦った時は、仲間たちとぶつかり合って、もめて……でも、楽しかったろ?」

 

「っ……」

 

 

そうだ……作戦を考えて、納得いくまで議論して、それでも、楽しかった。それはきっと、陰ながら誰かが見えない努力をしていたからなんだ……。

誰だって不安や恐怖を感じていたんだ……でも、そうであったとしても、見えないところで戦っていたんだ。

そうやって、一緒に過ごし、戦っていたんだ……。

 

 

「っ…………そうか……二人は、ずっと俺を……待っててくれたんだ……!」

 

「ああ……だろうよ。カタナはよくうちに来てくれてたからな……その度に、お前の事を聞いてきたよ。

お前がここに来なかったかぁ〜とか、元気にしてたかぁ〜とかな」

 

「……どこにも行かず…ずっと……待って……っ!」

 

「ああ……そうだ……!」

 

 

 

 

カタナはずっと気にしてくれていたのかもしれない。

カタナも暗部に所属しているプレイヤーだ。どことなく、自分の立場を知っていてもおかしくはなかった……その頃からなのか………。

本人がどう思っているのかは、当の本人に聞いてみなければ分からないが、だがそれでも……もし、そう思ってくれていたなら……。

 

 

 

 

「エギルさん……俺に、一体何が出来ますかね……」

 

「あ? そんなもん、凄えことをやっちまえばいいのさ」

 

「凄いこと?」

 

「ああ……。誰にも出来ねぇ凄いことをやってみせろよ。今回の事件、パパッと解決させる……みないなよ!」

 

 

 

ニカッと笑う黒人オーナーに、チナツはクスッと笑った。

 

 

 

「ありがとうございました……エギルさん。行ってきます……!」

 

「おう、行ってこい」

 

 

 

チナツはエギルの店を飛び出し、《アルゲード》の街を駆け抜けていった。

向かう先は、過激派のいるアジト。

そのアジトの場所は、すでにカタナから聞いていた……ならば、あとは簡単だ。

 

 

「……さっさと決着をつけるか……っ!!!!!」

 

 

 

 

 

凄まじい速さで駆け抜けるチナツの姿は、まさしく神のごとき速さ……《神速》だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタナちゃん、準備できた?」

 

「ええ。夜明けとともに攻撃開始……正直、今すぐにでも終わらせてやりたいんだけどね……」

 

「それって……やっぱり、チナツくんのため?」

 

「ん〜……どうなのかしらね。正直わからないわ……っていうか、“やっぱり” ってどういうこと?!」

 

「え? 違うの?」

 

「違うわよ……これは、その……任務だもの! 早く終わらせるに限るわ」

 

 

 

カタナは頬を赤く染めながら、アスナに反論するが、アスナはそれをニコニコと笑いながら聞いていた。

今二人は、《グランザム》にある血盟騎士団のギルドホール内にある会議室で、作戦前の話をしていた。

いよいよ明日に迫った過激派の掃討作戦。夜明けとともにアジトを奇襲する作戦だ。

もしその時に標的の抜刀斎がおらず、前のように辻斬りめいた行動に出ていたとして、そこはすでに展開している攻略組メンバーで取り押えるという段取りになっている。

ならばあとは、夜が明けるのを待つだけだ。

 

 

 

 

「うん、そうだね。それで、チナツくんの勧誘はどうだった?」

 

「うん……断られちゃった……」

 

「そっか……チナツくんが入ってくれれば、百人力なんだけどなぁ……」

 

「うん。でも、百人力で止まるかしらね……その更に上、一騎当千級になってるかもしれないわよ? アスナちゃんの話を聞く限りだと……」

 

「そうだよね……あの時、リズを助けてくれた時のチナツくん……私が見た限りだと、多分私たちよりも実力は上になってるじゃないかな……。

本気の戦いなら、チナツくんは攻略組の高レベルプレイヤーの頂点に立てるかもしれない…………!」

 

「うん…………でも、今のチナツくんは、昔とは違うと思うの。軍を抜けて……昔のチナツくんに戻って、私達の知ってるチナツに戻ったんだもん」

 

「そうだね……もう、《人斬り抜刀斎》じゃあ……ないんだもんね」

 

 

 

そうだ……もう違う。

出会った頃の、優しく微笑んでいる、正義感の強い少年……。

もう殺伐とした、“最強の人斬り” という名のプレイヤーはいないのだ。

 

 

 

「だから、今回はチナツくんには参加してもらわない方がいいのかもって、私は思うんだけど……」

 

「うん……まぁ、私もチナツくんは、私達の知るチナツくんのままでいてもらいたいからね……。

カタナちゃんの意見を否定したりはしないよ」

 

「ありがとう……じゃあ、早速メッセージを飛ばしてーーーー」

 

「カタナ様‼︎」

 

 

 

アスナと二人……会議室で話していた所に、隠密部隊の隊員が一人現れた。

それも、かなり慌てた様子だった。

 

 

 

「どうしたの、サスケ。もしかして、抜刀斎が動いた?」

 

「はい……しかし、その、標的の方ではなく……」

 

「……ん? どういう事?」

 

「標的の抜刀斎ではなく、その、本物の抜刀斎が、すでに奴らのアジトに向かったと……クロウからの情報です!」

 

「「っ!?」」

 

 

 

その情報に、アスナとカタナは固まってしまった。

まただ……またチナツの一人に、血盟騎士団のメンバー全員が出し抜かれたのだ。

これな驚かずにいられるわけがないだろう……。

カタナはすごい剣幕で《サスケ》と呼ばれる隊員に迫る。

 

 

「ちょっ、嘘でしょう!確かに場所は伝えたけど、一緒に作戦を開始するって……!」

 

「しかし、現にそれらしきプレイヤーが、アジトの方に由向かうのを見たと、アジト周辺に展開していた隊員たちからの情報が……」

 

「嘘でしょう……」

 

 

 

会議室の机に肘をつき、顔を冷たい机に額をつける。

チナツというプレイヤーの行動に、ここまで踊らされる事になるとは……。

カタナはため息をついた……だが、次の瞬間、バッ!と顔を上げる。

 

 

 

「ねぇ、その報告を送ってきたの、アジトの周辺に展開していた隊員って言った?」

 

「はい、その通りです」

 

「って! それもうアジトに侵入してんじゃないの!?」

 

「あ……そうですね。その通りです」

 

「もうーーッ! 早く準備して! 急いで後を追いかけるわよ!」

 

「ハッ!」

 

「アスナちゃん!」

 

「う、うん! 私も呼びかけてくるね!」

 

「いや、もう遅いと思うわ。だから、アスナちゃんだけでもついてきてくれる?」

 

「うん、もちろん!」

 

 

 

 

結局、連れて行けるメンバーは隠密部隊の面々と、隊長のカタナと、アスナの数人だけだ。

カタナたちは慌ててギルドホールを出て、過激派のアジトへと向かって走り出した。

その頃チナツは、過激派組織のアジトの敷地内に足を踏み入れていた。

 

 

 

「あぁっ? なんだ、お前は……」

 

「…………貴様、昨日の…」

 

 

 

全く生活感の無い場所だ。

それもそうだ。なんせ、ダンジョンの隠し部屋なのだから……ここには最低限のものしか入れてないのだろう……もとよりメンバーのほとんどが、ここ最近調べてみて、街中で見た事のあるプレイヤーたちの顔だ。

そんな中、一際体格のいいプレイヤーが、集団の中央に立っていた。

足元に付いている鞘に収まった日本刀の鞘の端。そしてそれを両手の掌で支えている。

その姿は、プレイヤーの容姿……髭面の強面という事も相まって、まるで歴史の教科書に出てくる歴史の偉人達のような姿だった。

 

 

 

「へぇ……あの時少ししか顔を合わしてないのに、俺のことを覚えてたのか……」

 

「俺の攻撃を躱した奴はそうそういないんでな……」

 

「なるほどね」

 

「それで、何故貴様がここにいる? ここの場所をどうやって知った……」

 

 

 

どうやら、この自称抜刀斎の男が、この過激派を率いているリーダーのようだ。

そのリーダーの問いかけに応じてか、周りのプレイヤー達が剣を抜く。

……最近これと似たような……というよりも、全く同じ光景を見たような気がする。

 

 

 

「まぁ、ちょっと俺も情報通な知り合いがいるんでね……安心してくれていいぜ、ここには俺一人しかいないからな」

 

「そんな言葉を鵜呑みにしろと?」

 

「別に……。それを信じるのも信じないのも、あんたの勝手だよ。そんなことより、俺はあんたに聞きたいことがあるんだ……」

 

「なんだ?」

 

 

 

チナツが自称抜刀斎に問いかける。

何故、辻斬りめいたことをしているのか……と。

すると帰ってきた答えは……

 

 

 

「ここら一帯は、俺の領地だ。軍の連中なんかのいいなりになんかさせてたまるかよ……!

だから教えてやってんだよ、俺という存在がいる事を……この世界では……この場所では、俺が頂点に立っているんだとな……っ!」

 

「……それを見せしめるために、辻斬りをやっていたと?」

 

「それが一番効果的だろうよ。俺は《人斬り抜刀斎》……このアインクラッドの中で最も強いレッドプレイヤーだ!

まだ圏内で暴れまわってるからいいようなものだが、これ以上舐めた真似してると今度は軍の所属兵を皆殺しにしてやるよ!」

 

 

 

 

なんともまぁ、身勝手かつ子供のような言い分だ。

そりゃあ、デスゲームにとらわれて、苛立つ気持ちも分からなくはないが……それでももう一年は過ぎたんだ。

それぞれのプレイヤーが、戦い始めて、その命をもって、ゲームクリアを目指している……まさに命懸けだと言うのに……この男は。

 

 

 

「確かに、俺も元々軍に所属していたからな……軍のやり方全てに納得していたわけじゃない。

だけど、それでもみんな頑張って戦っているんだ……ゲームクリアの為、こんな世界に閉じ込められても、生き抜いてやると思っている……そんな人たちの頑張りを、お前の身勝手な行動で乱されてたまるかよ……!」

 

「なんだと?」

 

「もう少しはっきり言わないとわからないか? なら分かりやすく言ってやるよ……」

 

 

 

チナツは目を瞑り、深呼吸を一回。

そしてその目を見開いた……その、闘気が込められた鋭い眼光を解き放った。

 

 

 

「ーーーーてめぇのくだらない思想に、他人を巻き込むなって言ってんだ!!!!」

 

「っ!!?」

 

 

 

《雪華楼》の鯉口を切った。

それと同時に、相手方もいつでも戦闘可能という感じに、殺気を放った。

 

 

「ふふっ、ふはっはっはっは!!!! なるほどなるほど……! こいつはとんだ馬鹿らしい!

そうかいそうかい……そんなに死にたいっていうなら……望み通り殺してやるよ!」

 

 

 

リーダーの男が手を振りかざした。

その瞬間、剣、槍、斧、棍棒……あらゆる武器を構える部下達。

それに合わせ、チナツも《雪華楼》の柄に右手を持って行き、ゆっくりと握る。

カチャ! と握ったの同時に音がなる。

 

 

 

「引け‼︎ あまりけが人は出したくない!!!!」

 

「はあっ!? 何言ってんだこいつ?」

 

「この世界でけが人が出るかよ!」

 

「出るのは死人! てめぇ一人だけだぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

斬り込んでくる大勢のプレイヤー達。数の差では圧倒的に不利。

だが…………

 

 

 

「ッーーーーーーーー!!!!」

 

「「「「っ!!!!!!!?」」」」

 

 

 

 

斬り込んできていたプレイヤー達は、驚愕に表情を歪めた。

何故なら、さっきまで数メートル先にいた男が、もうすでに自分の目の前にいるのだから……。

 

 

 

「なっ!?」

 

「おおおおおおおッ!!!!!」

 

 

 

鞘から迸る剣閃。

横一文字に、複数のプレイヤーを斬りとばす。

凄まじい衝撃が、その場から発生する。衝撃が波紋のように広がり、宙に舞い、仰向けに倒れるプレイヤーたちの姿を見て、改めてリーダーの男は、自分の部下たちが斬られたのだと気付いた。

 

 

 

「な、なんだ……これは……!?」

 

 

 

周りから複数の悲鳴が聞こえる。

その悲鳴がする方へ、視線を移す度に目にする、部下たちの倒れていく姿……。そしてその部下たちを斬り刻んでいく、白い影。

 

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 

激しい音が鳴り、最後に生き残っていた部下たちが倒された。

相手の男は汗ひとつかいていない。

涼しげな表情で刀を左右に振り、こちらに視線を向けてきた。

 

 

 

「残るはお前一人……」

 

「貴様……いったい何者だ……!?」

 

「…………《人斬り抜刀斎》の振るう剣は、お前のような剛壊剛打の力技で叩き潰す剣技じゃねぇよ。

常に相手の動きを先読みし、一撃の下で敵を倒す “神速の暗殺剣術” だ…………。今の俺が使っている剣と同じようにな……」

 

「ッ!!? 貴様、まさか……本物……!」

 

 

 

 

ようやく正体に気付いた。

この少年こそ……この男こそが、アインクラッドのレッドプレイヤーたちに恐れられた最強の人斬り、《人斬り抜刀斎》その人だと。

 

 

 

 

「ふ、ふふっ、ふはっはっはっは!!!! そうか! 貴様、昨日は実力を隠していたな?!」

 

「まぁね。俺はあんたと違って、力を誇示するような戦い方が嫌いなんだ」

 

「ふん……よもやこんなひ弱そうな小僧が抜刀斎だったとはな……だが、今の貴様は抜刀斎ではない……抜刀斎という名前は、俺にこそふさわしい!!!!」

 

 

 

 

刀を引き抜き、両手で握りしめ、振り被る。

 

 

 

「俺の名は《ヒルマ》! 貴様を倒す男の名だ! 俺は、抜刀斎だあぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

刀を振り下ろそうとした。

だが、振り下ろせなかった……。

 

 

 

「んっ!?」

 

 

 

それは何故か……目の前に、斬るべき相手がいないからだ。

 

 

 

「どこに……?!」

 

「ーーーーここだ‼︎」

 

「っ!!?」

 

 

 

 

上から声が聞こえた。

底冷えするような、冷徹で、殺気が混じった声だ。

 

 

 

「ふんッ!!!!!」

 

「がああああぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

スドオオオオーーーーンっ!!!!!!」

 

 

 

途轍もない衝撃が走る。

地面を伝って、壁を伝って、周囲にあるもの全てに、その振動が伝わっていった。

そしてそれは、アジトに向かっていたカタナ達にも認識することができた。

 

 

 

「っ!? 今のは?」

 

「凄い衝撃だったねー!」

 

「もしかして、チナツくん……?」

 

「とにかくいそごう!」

 

「ええ!」

 

 

 

 

ようやく到着し、中の現状を確認した。

そこには、あたり一面に倒れているプレイヤー達と、街を騒がしていた、偽抜刀斎に対して刀を振り下ろしていたチナツの姿。

 

 

 

「くっ……間に合わなかった……」

 

 

 

がっくりと肩を落とすカタナ。

アスナが恐る恐る、倒れているプレイヤーのところに歩き、その顔を見る。

 

 

 

「っ!? カタナちゃん! この人たち、まだ生きてる!」

 

「えっ?!」

 

「こっちの人も……あっちの人も……みんな、HPが半減しているだけで、死んでる人はいないよ!」

 

 

 

アスナの言葉に、我に返ったカタナは、すぐさま部下達に指示し、他のプレイヤー達の事も確認し始めた。

すると、アスナの言う通り、死んでいるプレイヤーはいなかった。

むしろ、本当に一撃しか入れてないようで、斬られた痕のライトエフェクトの数は、綺麗に一本だけだった。

そして視線を、今まさに《雪華楼》を鞘に納めようとしているチナツの方へと向ける。

 

 

 

「別に抜刀斎と言う名前に、未練も愛着もないけど……それでも、てめぇのような雑魚にやる気はねぇよ……っ!」

 

 

 

チンッ! と、刀の鍔と鞘口がぶつかる音が鳴り、それが静寂と化した隠し部屋へと響き渡る。

チナツはカタナの姿を確認すると、ゆっくりとカタナの元へと歩いて行く。

 

 

 

「カタナさん……」

 

「チナツくん……。っ! このバカ‼︎」

 

「ええっ?! な、なんですかいきなり!」

 

「私、作戦は明日……って言ったわよね?」

 

「え、ええ……言いましたね……」

 

「で? この状況はいったいどういうことかしら?」

 

「いやあ〜はっは〜……なんと言うか、ちょっと舞い上がっちゃって……」

 

「…………」

 

 

怒ってる。完全に怒っている……今も、現在進行形で。

顔は笑顔だが、片眉がピクピクと動き、よく見ると血管が浮き出ているような……気のせい、かな?

 

 

「もう……なんでそうやって無茶するかなぁ……本当なら、この事件から、手を引いてもらおうって思ってたのに……」

 

「え? なんでですか? パーティーまで組んで、手伝ってくれって言ったのに?」

 

「気が変わったのよ! それに、パーティーになったのは、チナツくんの宿屋に行っていたず……遊ぼうと思っただけだし!」

 

「今『いたずら』って言おうとしましたよね? 初めからそのつもりだったんですね……」

 

「とにかく! 後はこちらに任せてくれていいわ……事件解決に協力してくれて、ありがとう……血盟騎士団副団長として、心から感謝するわ」

 

 

 

微笑み、軽く頭をさげるカタナ。

それを見て、アスナもこちらに走ってきた。

 

 

 

「チナツくん! もう、無茶しちゃダメだよー! 一人でこんな数のプレイヤーを相手にして!」

 

「あっはは……すみません……」

 

「もう……君といいキリトくんといい……」

 

 

 

腕を組んで叱りつけるアスナの姿は、優しいお姉さんのように感じた。

そこでようやく、チナツはあることを思い出した。

 

 

 

「あっ、そうだ……あの、二人に……聞いてもらいたい話があるんです」

 

「ん?」

 

「なに?」

 

 

 

 

チナツは一度俯いた。でも、また二人の目を、強く見つめて言った。

 

 

 

 

「俺、ギルドに入ろうと思うんです!」

 

「「っ!?」」

 

「それで、俺はその……軍から抜けた身ですから、再び軍に戻る事は出来ませんし、聖竜連合とは、あまり仲良くありませんし……その……」

 

 

 

 

非常に気恥ずかしい気持ちだ。

こんな事を言うのが……たったひと言を言うのが、こんなにも恥ずかしいとは……。

 

 

 

「その、カタナさん!」

 

「は、はい?!」

 

「その……昨日あんな断り方をしておいて、本当に申し訳ないんですけど……俺を、血盟騎士団に入れてもらえないでしょうか!!!!」

 

 

 

 

頭を下げるチナツの姿を、アスナとともに見下ろしたカタナ。

アスナはカタナの方を見て、カタナはアスナの方を見る。

その瞬間、二人はそっと微笑んだ。

 

 

 

「チナツくん……」

 

「っ!? は、はい!」

 

 

 

チナツの頬に、何かが触れた。

暖かくて、柔らかい……頭を下げていたので、その正体がわからなかったが、顔を上げ、目を開いた瞬間に、それがカタナの手だという事を知った。

 

 

 

「ほんと、一度フった相手のところに来るなんて、男としてはどうなのかしらね……ねぇ、アスナちゃん?」

 

「ふふっ♪ でも、私はいいと思うよー」

 

「うん……。チナツくん、あなたの血盟騎士団への入団。前向きに検討させてもらうわ。

入団したら、あなたは私たちの部下……それすなわち、“私のもの” になるからね♪」

 

「そ、そこはせめて物扱いじゃなくて……」

 

「よろしい……歓迎するわ。チナツくん♪」

 

「うん! 歓迎するよー、チナツくん!」

 

 

 

 

手を差し伸ばす二人。

その手を、チナツは両手を伸ばして答えた。

こうして、チナツは晴れて、血盟騎士団への入団を果たしたのだった。

 

 

 

 






ああ……長い……。

このExtra Edition編はいったいいつまで続くのか……作者自身の私でも分からないという、この不始末。
これからまだまだ続くと思いますが、皆さん、どうか温かい目で見守ってほしいです!
できるだけ早く、海底ダンジョンまで行きますから!


感想、よろしくお願いします!


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