ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回もチナツとカタナの出会い話。

うーん……あと2話くらいは続くかもです……




第58話 Extra EditionⅥ

「…………」

 

「おーい、アスナァ〜〜?」

 

「ひぇっ!? な、なんでもない! 何もしてないからね!」

 

「ん? なに必死になってんのよ。怪しいぃ〜♪」

 

「な、なんでもないって!」

 

 

 

しばし、和人との親密かつ濃厚な記憶に浸っていた明日奈。

そんな桃色の夢なら覚めた途端、急激に顔が熱くなってきた。

必死に否定するも、里香は相変わらずニヤニヤとした顔でこちらを見てくるし、圭子は圭子でむすぅーと膨れている。

 

 

 

「いいなぁ……結婚。それにユイちゃんみたいな子供までいるなんて、羨まし過ぎます」

 

「我が家の自慢の娘ですからね♪」

 

「おーおー、10代にしてもう立派な親バカですなぁ〜♪」

 

「それは褒め言葉として受け取っておきます♪」

 

 

 

結婚してすぐ、二人は第22層にある小さなログハウスを購入した。

そこでの生活は、まさに至福の時だった。

好きな人と同じベッドで迎える朝。いつも図々しいキリトが見せる、可愛らしい寝顔を見るのが、アスナの密かな楽しみだった。

そんなくらしを続けている時、二人はある噂を耳にした。

正確には、キリトが聞いた話だ。

なんでも、この近くの森に幽霊が出るという事だった。

アスナは言わずもがな、幽霊が大嫌いだ。キリトもそれを分かった上で、アスナをそこに連れ出したのだ。

そして、問題の幽霊が目撃された場所にやってきた二人は、そこで……ユイと出会ったのだ。

幽霊ではないと知り、ユイをログハウスへと連れ帰った二人は、ユイをベッドへと寝かせた。

その日一日は、ユイは目をさます事は無かったが、翌朝……アスナの隣で眠っていたユイが、目を覚ましている事に気づいた。

 

 

 

 

「ア……ウナ……キー……ト」

 

「ユイちゃん、お父さんかお母さんはいないの? 何か、覚えてる事、ある?」

 

「うう……わかんない……何にも、わかんない……」

 

「そんな……」

 

 

こんな小さな子供が、自分の名前以外、何もかもを忘れていると思うと、アスナとても胸が痛くなった。

そんなアスナをみて、今度はキリトがユイに話しかけた。

 

 

「やぁ、ユイちゃん」

 

「ん……」

 

「ユイって呼んでいい?」

 

「うん……」

 

「そっか。なら、俺の事も “キリト” でいいよ」

 

「キー、ト」

 

「キリトだよ。キ・リ・ト」

 

「ん〜〜……! キート!」

 

「ははっ、ちょっと難しかったかな? なんでも、ユイの呼びやすい名前でいいよ?」

 

「ん…………パパ!」

 

「えっ? 俺?!」

 

「アウナは……ママ」

 

「へっ?!」

 

「んんっ〜〜!」

 

「うん。そうだよ、ママだよ、ユイちゃん」

 

「っ! ママ! パパ! ママ!」

 

 

 

両手を広げ、アスナを求めるユイ。

アスナはユイを抱きかかえ、優しく抱きしめた。

 

 

 

「お腹すいたでしょうー? ご飯しよ!」

 

「うん!」

 

 

 

その光景は、とても幸せそうな一般家庭のそれと同じだった。

アスナの手料理を食べながら、キリトは新聞を読んでいる。それこそまさしく昔のお父さんたちの様だ。

手に取るサンドウィッチは、アスナがキリトのために作った特別なサンドウィッチ。

どう特別かというと、もの凄く辛いのだ。

ユイはそのサンドウィッチを食すキリトを見ながら、物欲しそうに見ている。

 

 

 

「ユイちゃんのは、こっち」

 

 

ユイにはユイで、子供でも食べられるようにと、アスナが用意したものを出す。

しかし、ユイの視線は、変わらずキリトのサンドウィッチを見ていた。

 

 

「ん……ユイ、これはすっごく辛いぞ?」

 

「んん〜〜……」

 

 

記憶がなくなっている様だが、単語の意味はしっかりと理解している様で、『辛い』という単語に、しばし考え込むが、すぐに両手を広げて……

 

 

「パパと同じのがいい……!」

 

「そうか……そこまでの覚悟なら俺は止めん。何事も経験だからな……」

 

「ええっ?! あっ、ちょっと!」

 

 

アスナの制止も聞かず、ユイは両手でキリトのサンドウィッチを持った。

そして一口。パクリと噛り付き、もぐもぐと咀嚼する。

その段階で、辛さの刺激を受けたのか、顔を若干しかめたが、何度ももぐもぐと咀嚼をして、それを飲み込む。

 

 

「お、美味しい……!」

 

「おおっ……! 中々に根性のある奴だな。よし、今日の晩飯は、激辛フルコースにするか!」

 

「うん!」

 

「もう、調子に乗らないの! そんなの作りませんからね……」

 

「だってさ」

 

「だってさぁー」

 

 

 

父と娘、たわいない事で笑いあえるこの光景が、とても幸せなひと時に感じた。

その後、キリトとアスナの二人はユイの本当の親、あるいは知り合いを探しに、第1層《はじまりの街》へと来ていた。

そこで、軍による圧政に苦しんでいる一般プレイヤーと、そのプレイヤーが保護している子供たちと出会い、また、軍の人間である《ユリエール》と呼ばれるプレイヤーと出会った。

ユリエールは、ギルドマスターである《シンカー》の派閥の人間なのだが、当のシンカーは、キバオウの策略に嵌り、地下迷宮の最奥部におり、ユリエールはキリトとアスナの二人に、シンカー救出の手助けを願い出た。

最初は渋っていた二人だったが、愛娘の言葉を信じ、シンカー救出作戦を敢行した。

その迷宮自体、攻略組であるキリトたちの敵ではなかったが、いよいよシンカーとの対面の際、思わぬ強敵に出会った。

キリトのスキルでも判別がつかないほどの敵……アインクラッドの90層以上のボスモンスターとエンゲージ。

初めから敵うとは思っていなかったが、たった一撃受けただけで、二人のHPゲージは危険域に到達。

絶体絶命のその時、ユイが、記憶を取り戻したのだ。

 

 

 

「パパ……ママ……全部思い出したよ……」

 

 

記憶を取り戻し、二人が敵わなかった敵を、焔の大剣で一刀両断。

一撃で屠ってみせた。

その後、ユイを連れて、システムコンソールのある部屋へと向かった。そしてそこで、ユイという存在の全てを、知る事になる。

 

 

 

「メンタルヘルスカウンセリングプログラム……試作1号……コードネーム《ユイ》……それが私です、キリトさん、アスナさん」

 

 

 

ユイの正体は、SAO……強いては、その根幹となるシステム中枢《カーディナル・システム》が、プレイヤーのカウンセリングプログラムとして用意した《AI》だったのだ。

そして、ユイから今現在のカーディナルがどの様になっているのかを知った。

公式サービスがはじまり、ユイはカーディナルから自由を剥奪され、溜まっていた膨大なエラーに耐え切れず、そのまま壊れそうになっていた……しかし、そこに、二人という希望の光を見出した。

彼らの近くに行きたいと願い、ユイは、カーディナルの管理下を離れ、キリトとアスナの元へと現れたのだ。

それから、もっと……二人と、両親の下に居たいと、ユイはそう願った。

しかし、カーディナルがユイの独断を許すはずがなかった。

ユイの独断を検出したカーディナルは、ユイを、このまま消滅させてしまおうとしていた……だが、そんな事を、キリトが許すはずがなかった。

 

 

 

「カーディナル! いや、茅場‼︎」

 

 

キリトはシステムコンソールに手を伸ばし、そこに表示されたキーボードをタップしていく。

キリトは一体、何をしようとしているのか……アスナこぼれ落ちてくる涙を拭いながら、カーディナルと戦うキリトの背中を見ていた。

すると突然、眩い光が放たれ、その勢いでキリトが後方へと弾き飛ばされてしまった。

一体何が起きたのか……それがわからないまま、アスナはキリトの方へと駆け寄った。

 

 

 

「大丈夫!? キリトくん……ん?」

 

 

アスナの問いに、キリトは拳を出して答えた。

その手には、何かを持っている様にも思え、アスナは両手を出して、キリトの拳から、あるものを受け取った。

それはとても綺麗な雫の様な形をした宝石。

こんなアイテムや装備は、今までに見た事がない。

 

 

「こ、これって……」

 

「ユイがシステムから消される前に、ユイ本体をシステムから切り離して、オブジェクト化したんだ……!」

 

「っ!? じゃあ、これは…………!」

 

「ユイの…………心だよ」

 

「っ!!!!!?」

 

 

 

突如、涙が止まらなくなった。

愛する我が子が、この両手の中にいる……何もできない、守りたいのに守れない……絶望の二文字がアスナ自身を支配していた。

だが、今この両手には、その我が子がいる……その事実は、二人を歓喜させてた。

大粒の涙が、《ユイの心》に落ちていった。

いつかまた、出会えたなら……今度はいっぱい抱きしめてあげよう……いっぱいいっぱい甘えさせてあげよう……親子として、いっぱい楽しい時間を過ごそう。

アスナの中に、希望の光が輝いた。

その後、二人は地上に戻った。事の顛末を、シンカーとユリエールに伝え、二人は22層のログハウスへと戻ったのであった。

 

 

 

 

 

「そうなんですね……ユイちゃんとは、そんな事が……」

 

「うん……あの時から、ユイちゃんは私たちの子供なんだよ♪」

 

 

 

 

ようやく語り終わった明日奈。

兄である和人との出会い、アインクラッドで起きた出来事、そしてユイの事……まるまる全てというわけではないが、ここにいる皆が、一体どんな生活を送って、日々を戦い、生き抜いてきたのか……直葉、箒、鈴の三人は、改めてする事となった。

 

 

 

 

「ふぅ〜……なんだが話してたら疲れちゃったー。でも、今度は隣の人にバトンタッチね♪」

 

「あ、はは〜……そこは見逃してくれるっていう選択肢はない?」

 

「「ありません」」

 

「もったいぶらず、とっとと話しちゃいなさいよぉ〜」

 

「そうですよ! まだカタナさんとチナツさんの事、全然話してくれてないじゃないですか! それじゃあ不平等ですよ!」

 

「まぁ、私もちょっと気になるかな〜……なんて」

 

「もう〜、直葉ちゃんまで……はぁ〜、もうわかったわよ……」

 

 

 

 

ほぼ六対一の戦況に追い込まれた刀奈は、渋々と一体表情で語り始めた。

一夏……あの世界で、チナツとの出会った経緯を……。

 

 

 

 

 

「さっきも言ったけど、私もチナツやキリトと出会ったのは、第1層攻略会議の場でよ。

あぶれた者同士、四人でパーティー組んで、取り巻きの《コボルド・センチネル》を倒して、最後はボスを四人で倒したんだけどね」

 

「にしても、明日奈さんも楯無さんも、いきなりゲームの世界に入ったっていう割には、戦いに慣れていたんですね?」

 

 

 

そう言ってきたのは、この間初めてゲームを始めた箒だった。

剣道以外、全く手をつけてなかった箒だったが、一夏の勧めで、言われるがままALOを始めた。

初めての仮想世界という体験を経て感じことは、まず何もかもがリアリティだったということ。

周りに見える街並みや、行き交うプレイヤーたちの姿、食べ物の熱や匂い、そしてモンスターの存在。

特に、戦闘においては、かなり気を配った面が大きい。

元々剣道の全国チャンプであり、実家は篠ノ之流という流派を説いていることもあり、基本的な戦闘能力の方は、箒は高い方だ。

だが、それでもやはり一発目からうまくいくことはなかった。

それはもちろん、相手がモンスターであるという事もそうだが、何よりも……実戦という事が、大きな要因の一つだ。

仮想世界とは言え、剣道の大会の様に主審や副審たちがいるわけでもなく、ましてや基本となるルールも存在しない。

それに、相手はプログラムされたモンスターだ。ルールなんてわかるはずもないのだ。

そう言った相手との戦い方に慣れていなければ、戦おうにも戦えない。

 

 

 

 

 

「まぁ、基本は私もアスナちゃんも、キリト達に指導してもらったんだけどね」

 

「うん……パーティー戦の基本とか、ソードスキル発動のタイミングとか……生き残るためなら、どんな事だって挑戦したよー」

 

 

 

第1層のボス攻略か始まる前に、キリトから一通りの戦闘の基本を叩き込んだ二人。チナツはすでにキリトから教わっていたため、キリトのお手伝い程度に戦い方を教えていた。

 

 

 

「それで、ボス攻略の時に思ったんだけど、チナツって、凄く真っ直ぐな剣を振るうのよね。

それは、剣道としては当たり前の事なんだけど、どう言ったらいいかな……いい意味で、型にはまってる感じがしたの。なんていうか、相当努力を積んできたんだなぁ〜って印象だった」

 

 

 

元々暗部の家系で生まれ、育った刀奈にとって、ゲーム世界で戦うプレイヤー達は、どこか素人臭いところがあった。

元々がソードスキル頼りの戦い方である為、発動しやすい型を取ったり、防御と言うより回避しやすい構え方が多かった。

しかし、それでも攻略組になっていくと、その戦う様も、らしくなってくるものだ。その中でも、刀奈が一目置いていたのが、和人と一夏、そして明日奈だった。

刀奈の槍、和人と一夏の剣、明日奈の細剣。みんな武器が違うが、それでもその武器の特性を理解し、それぞれ様になった戦い方をしていた。

特に和人はさすがと言うべきか、とても戦い慣れている様な気がした。後の一夏、明日奈に至っては、どこまでも真っ直ぐな剣技だと思った。剣道を主流にしている一夏の太刀筋は、真っ直ぐでブレが少なく、明日奈の剣技も、正確さと速度が他のプレイヤーに比べて段違いと言ってもいいくらいだった。

 

 

 

「そのボス攻略後は、キリトとチナツは二人でどっかいっちゃって、まぁ、ボス攻略には参加してたから、ちょいちょい会ってはいたんだけどね。

私はアスナちゃんと一緒に団長に声をかけられて、ギルドに入って、キリトは相変わらずソロ……チナツは、前にも言ったけど、アインクラッド解放軍に入ってた。

それからは、大した交流も無かったかなぁ……チナツも軍務で忙しかったし、私も副団長に任命されて、色々とやってたし……」

 

 

 

ある程度の階層までは、四人は常にパーティーを組んで戦っていた。

だが、そこでチナツが攻略に参加しなくなった。

理由はもちろん、軍の暗部での任務についたからだ。

 

 

 

「でも、一年くらい経った辺り……だったと思うんだけど、チナツが軍を抜けて、流浪人として旅をしているって知ったのよね。

それで、リズちゃんのあの事件でしょう? それから、私は団長に頼んで、チナツの捜索をお願いしたの」

 

「一夏の捜索?! それはまたなんで?」

 

「それはもちろん、うちに勧誘する為よ。正直、血盟騎士団だって、人員は欲しかったし、なんといっても、攻略組メンバーが欲しかったっていうのが第一。それに…………」

 

「「それに?」」

 

 

 

箒と鈴が、食いつく様に問いかける。

 

 

 

「なんて言うか、ほっとけなかったって言うか……なんとなくだけど、側に置いておきたいなぁ〜って思ったのよ」

 

 

 

暗部に属していたから、多少の情報が入ってきていた……なにやら軍では、クーデターとまではいかなくても、派閥争いが起こっており、それにチナツも巻き込まれとか……。

 

 

 

「それで、私と部下数名だけで、チナツの捜索を始めたの。そう簡単には見つからないとは思っていたけど……中々探すのに骨が折れたわよ……」

 

 

その後、チナツと思しき人物の情報があれば、カタナは即座に現地に向かい、チナツの事を探したそうだ。片手剣使いの男性プレイヤー……それだけで特定するのは難しい気もしてが、それでも、カタナは探し続けた。

すると、探し始めてから数週間後、ある情報が入ったそうだ。

なんでも、第40層の付近で、《人斬り抜刀斎》と呼ばれているプレイヤーがいると……。

 

 

 

 

「まさか、一夏?!」

 

「私もそう思ったんだけどねぇ〜……」

 

 

 

 

現実はそう甘くは無かった。

その知らせを聞き、カタナが現場に向かった。

そして、その《人斬り抜刀斎》についての情報を聞き出した。

 

 

 

 

 

「はい? 辻斬り?」

 

「おう……まぁ、殺しちゃいねぇが、辻斬りは辻斬りだってよ。全く物騒な話だよ……こちとらにはいい迷惑ってもんさ」

 

 

 

 

なんでも武器屋を営んでいる中年おっさんの話だと、毎夜のごとく人気のない路地裏で、通り魔が現れるらしい。

その通り魔は、問答無用で刀を抜いて、出会ったプレイヤーを片っ端から斬り捨てているのだとか……。

だが、幸い事件が起きているのは、すべて圏内である事から、今のところ死亡者は出ていない。

だが、圏内PKはダメージを負わない代わりに、ソードスキルで攻撃した場合、軽いノックバックが起きる。

通常攻撃もまた同様で、圏内で相手を斬りつけようとしても、その衝撃が伝わるだけで、一切ダメージを負わない。ゆえに、圏内PKは死なないが、その分プレイヤーに恐怖を植え付ける。

そのせいか、昼まであるにも関わらず、街を歩く人たちはどこか不安な色が見て取れた。

 

 

 

「《人斬り抜刀斎》か……」

「おいおい嬢ちゃん、悪いことはいわねぇから、さっさと自分のホームに帰ったほうがいいぜ?

どうせこんな事してんのは過激派の連中だ……あいつらと関わってもろくな事がねぇーよ……」

 

 

 

過激派……それは、大中小……どの規模のギルドに所属していないプレイヤーたちが集まり、アインクラッド解放軍と対立している集団のことだ。

そして、どこでその情報が漏れたのかは知らないが、アインクラッド解放軍には、レッドプレイヤー達にひどく恐れられている存在がいるらしい……と。

その名も伝説の剣士《人斬り抜刀斎》。

そして巷では、その《人斬り抜刀斎》が陰ながら再び暗躍しており、今度はレッドプレイヤーではなく、周辺にいるプレイヤーたちを襲い、恐怖を植え付け、軍に対する関心を損なおうと画策しているようだった。

 

 

 

「うーん……考えてる事が子供というか、幼稚というか……」

 

「全くだ。これじゃあ一人で飲みにも行けねぇよ」

 

「ふふっ……夜遊びもほどほどにね? おじさん」

 

「ふん! そんなの言われずとも、だよ。嬢ちゃんも気をつけなよ!」

 

 

 

 

おっさんと別れ、カタナ一旦ギルドホールへと戻った。

身支度を整える、下層に降りる。部下たちも数名連れて、安宿に泊まりながら、この辻斬り事件の犯人逮捕を計画していた。

 

 

 

「それじゃあ、各々《人斬り抜刀斎》の情報を手に入れ次第、私に報告する事。

あくまで報告だからね? 発見したからって、勝手な行動は厳禁。でも、もしも向こうから攻撃してきたなら、取り押さえてもいいわ。

それじゃあ、各員、配置に着きなさい!」

 

「「「「ハッ!!!!」」」」

 

 

 

まだ日が昇っているため、目撃情報のある深夜の時間帯まではまだ時間がある。

その間は、各自目撃情報の場所に行き、目撃者や襲われたプレイヤーたちからの情報を下に、犯人である《人斬り抜刀斎》の面影を作り上げていった。

 

 

 

 

 

「さてと、集めてきた情報だと、賊は大柄な体型で、武器は日本刀。顔を大きなマスクと黒い頭巾で覆っているため判別は不可。

しかし、声の感じだと男の可能性は大……という事でいいかしら?」

 

 

 

部下たちが集めてきた情報と、自分が聞き取った情報を照らし合わせるカタナ。

使っているスキルは刀スキルだったそうだ。

見た目は大柄で鈍そうな成りだが、その剣速は早く、また剛腕であると聞いている。

その強さから、人々からは伝説の《人斬り抜刀斎》などと恐れられているようだった。

しかし、カタナは既にアスナからの報告により、チナツが抜刀斎である事を聞かされていた……。

いや、それ以前に暗部であるが故の、情報網を駆使し、チナツが凄腕のプレイヤーになっている事は知っていた。

しかし、ましてや《人斬り抜刀斎》と呼ばれるまでになっているとは……思わなかった。

 

 

 

 

「もうそろそろ日が完全に落ちるわね……。さて、昼間言った通り……各自、それぞれ指定した場所で待機。抜刀斎と思しき人物を確認したら、即時連絡。いいわね?!」

 

「「「「ハッ!!!!」」」」

 

 

 

 

さっと駆け抜ける暗部の隊員たち。

カタナを含め、隠密部隊に配属されたプレイヤー達もまた、このアインクラッドの中でも優秀なプレイヤー達だ。

それぞれ個性並びにステータス特性にばらつきはあるものの、個々人の能力は高い。

これはカタナが血盟騎士団に入団した際に、改めて隊員達を指導した賜物だといえるだろう。

そして、時間は深夜…………最も目撃例が多い階層に、カタナは陣取っていた。

その他に、目撃例がある階層に数人ほど配置し、見つけ次第メッセージが飛ばせるように設定してある。

 

 

 

「さてさて……今日は出てくるかしらねぇ〜……」

 

 

 

いくら目撃例が多いと言っても、そう連日連夜襲い続けるのにはリスクが伴う。

ならば、今回はその襲撃そのものがない可能性だってある。

だが、何故だかわからないが……その襲撃は、今夜にも起きるのでないかと、カタナは心中でそう思っていた。

時間が経過し、空は少しずつ明るみを増してきた。

夜目に慣れていたためか、少し明るくなっただけで、カタナには十分に街並みが見て取れた。

するとその時、ウロウロとしているプレイヤーを発見した。

しかも、頭に編笠までかぶって……服装を変えて、また路地裏に来たのだろうか……。

 

 

 

 

「とりあえず尾行しなきゃね……」

 

 

 

隠蔽スキルを発動させ、相手に気配を気取られないように、少しずつ近づいていく。

男は路地裏までくると、急に辺りをチラチラと見渡した。

もしかして、襲う相手でも探しているのだろうか……?

ならば、自分が囮になるという選択肢とある。一応部下達に向けてメッセージは飛ばしたので、すぐに急行してくれるだろう。

 

 

 

「では、いざご対面……」

 

 

 

わざと男の前に出て、カタナは槍の穂先を向けた。

 

 

 

「ちょぉーっとごめんなさい、お兄さん」

 

「っ!?」

 

「こんな時間に、こんな場所で何をやっているんですか? ここら辺には辻斬りが出るから危ないですよ?」

 

 

 

男は咄嗟に後ろに飛び退き、刀の鯉口を切ったが、カタナの顔を見て、その動きを止めた。

 

 

 

「あれ、もしかして……」

 

「ん?」

 

 

 

男の方から声をかけてきた。

よく聞けば、若い男性の声。そしてよく見ると、長身痩躯な好青年の顔だった。

 

 

 

「カタナさんですか?」

 

「…………あっ!」

 

 

 

まさかまさかのこの再会。

なんともあっさりと待ち人を見つけてしまったのだ。

 

 

 

「もしかして、チナツくん?」

「はい! ご無沙汰ですですね、息災でしたか?」

 

 

編笠をクイっと上げて、笑顔を綻ばせた少年、チナツとの再会はこんな単純であっさりとしたもので終わった。

 

 

 

 

 

 

「…………なんて言うか……面白みに欠けるわね」

 

「仕方ないじゃない! 私だってもっと感動的な出会い方したかったわよ!」

 

 

 

鈴の退屈そうな表情に、刀奈は顔を赤くしながら抗議した。

 

 

「だいたい、軍を抜けたんなら、連絡くらいしてくれればいいのにさぁ、それをしなかったから、私が苦労して探す羽目になったんだし!

でもなんでまたあんな……はぁ……」

 

 

 

自分は明日奈の様にびっくりするドラマの様な出会い方はしなかった。

何気ない、何の気ない感じでの微妙な再会の仕方だった。

 

 

 

「で、その後は、その偽抜刀斎は出たんですか?」

 

「うん。というより、チナツも探してたみたいよ?」

 

「なるほど、だから周りを見回していたんですね」

 

 

 

 

箒が納得した様に頷く。

そして、刀奈はさらに語る……その後に起きた事件と、さらにその後の……チナツの騎士団入団の事について……

 

 

 

 

 

 

 

「チナツはどうしてここに?」

 

「え? まぁ、何というか……俺、いま旅をしてるんですよ。その、色々と思うところがありまして……」

 

「そうなの……ごめんね、いきなり槍なんて突きつけて」

 

「いえ、そんな……カタナさんはどうしてここに?」

 

「うん。ちょっと、任務でね。でもその半分は達成しちゃったんだけどね♪」

 

「半分? じゃあもう半分は?」

 

「それがまぁ、いまも任務続行中のことなんだけど……チナツくん、この辺りに、《人斬り抜刀斎》という名を騙る辻斬りが出たのは、知ってる?」

 

「はい。俺がここにいたのも、それが原因ですし……」

 

 

 

 

チナツもその噂を耳にする様になり、ここに来たらしい。

まぁ、その当の本人がここにいるのだから、偽抜刀斎も腰を抜かすことだろう……。

 

 

 

 

「ねぇ、チナツくん?」

 

「なんですか?」

 

「ふふ〜ん♪」

 

「えっ? な、なんですか?」

 

 

 

ニコッと笑いながら、カタナはチナツの周りをグルグル回りながら、チナツの装備や顔を見る。

 

 

 

「私たち、お互いに利害が一致してるわけじゃない? ならさぁ〜、お願いなんだけどぉ〜……」

 

「…………今回のこの事件のことを手伝って欲しい……ですか?」

 

「ふふっ♪ 物わかりのいい子は、お姉さん大好きよ♪」

 

「いやいや、もうそういう風な顔してたじゃないですか……」

 

「えー? なんのことー?」

 

「その棒読みがなんとも…………まぁ、いいですよ、手伝います。正直、一人で探すのも大変でしたから」

 

「よろしい。今、私の部下たちを呼んでるから、ちゃんと紹介するわね」

 

「はい」

 

 

 

 

チナツの協力を得て、カタナはチナツとともに、路地裏や人気の少ない場所へを見てまわる。

そんな途中で、カタナは聞いてみたいと思ったことがあったのだ。

それは……

 

 

 

 

「ねぇ、チナツくん?」

 

「ん……なんですか?」

 

「チナツくんはさ、ギルドに入る気はない?」

 

「…………ギルド、ですか……」

 

「うん。正直言うとね、実はうち、攻略組のメンバーがちょっと欠けそうになってるのよ」

 

「えっ? 攻略組最強の血盟騎士団がですか?! そんなまさか……」

 

「……本当に、そのまさかなのよ。いくら高レベルプレイヤーが多いと言っても、うちだって、戦いで消耗していくプレイヤーたちは多いし、戦いに身を晒して、モンスターとの戦闘の際に、底知れぬ恐怖感を知ってしまって、攻略に参加しなくなったプレイヤー達だっているの」

 

「それは……でも、そう言う人たちは、今はどうしてるんですか?」

 

「ギルド自体はやめていないんだけど、ほとんどが生産職にチェンジしたりとか、後方支援に回ったりとか……」

 

「なるほど、前衛に回る人員が不足し始めたって事ですね?」

 

「うん。今は団長もあまり攻略には参加しないし、私とアスナちゃんで指揮をとって、なんとか戦っていけているんだけど、この状況がいつまでも続くとは思えなくて……。

だから、チナツくんにお願いしたいの。うちに、血盟騎士団に入ってもらえないかしら……」

 

「…………」

 

 

 

カタナの心境は理解した。

今現時点で、攻略の速度を遅めたりしたら、攻略そのものを諦め、この世界に拘束されてしまおうと考える人達が多くなるだろう。

そしてここはゲームの世界。

現実世界のように、法律と呼ばれる絶対的な縛りに縛られていないこの世界で、人々が生きていく事になる。

それはあまり得策とは思えない。この世界にだって、大切なものなどができただろう……しかし、やはり現実世界への帰還こそが、自分たちの本来あるべき姿であり、目標なのだ。

その事は分かっている……わかっているのだが……

 

 

 

 

「ごめんなさい……カタナさん。俺は、まだ……そう言うのに入るのはちょっと、抵抗があるという……その……」

 

 

 

いつものチナツらしくない、濁したような返答。

だが、それについても、カタナにとっては予測の範囲内だった。

 

 

 

「そう、だよね……。ごめんね、無理に誘っちゃって……」

 

「い、いえ!? そんな事は……むしろ、誘ってくれて、ありがたいくらいです」

 

 

恐縮しながら頭をさげるチナツを見て、カタナは小さく笑った。

久しぶりに会っても、彼は彼のままだったのだと思うと、どこか安心した気持ちになった。

 

 

 

 

「じゃあ、とりあえず、今回の任務を終わらせようか……」

 

「そうですね、じゃあ早速、こっちの方からーー」

 

 

 

そう言って、チナツが別の方へと指をさした瞬間、どこから悲鳴に似た声を聞いた。

 

 

「っ……抜刀斎ですかね?」

 

「たぶんね……今までの犯行時刻と近いし……行きましょう」

 

「はい」

 

 

 

二人は全速力で駆け抜けて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 






次回はチナツが血盟騎士団に入った所と、出来れば、二人が距離を詰めて、結婚する所まで書きたいですね。

まぁ、後半のは、怪しいかもしれませんが……(ーー;)

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