ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回はシリカ、リズが、チナツと出会った時の話。
リズとチナツの話しは、少し長くなるかもですので、ご容赦を……




第55話 Extra EditionⅢ

「私は、圭子みたいなドラマチックな出会い方じゃなかったなぁ〜」

 

 

 

思い出しながら、里香は空を見上げた。

あれはデスゲームが開始されて、大体一年が経過した時だった頃だろうか……。

里香……いや、リズは、念願だった自分の店を持つことが出来た。

『リズベット武具店』という小さな鍛冶屋だが、《マスタースミス》のスキルを習得していたため、作れる武器も相当レベルの高いものが多く、攻略組ギルドで、最強の名を冠していたギルド《血盟騎士団》に入団していたアスナも、リズと昔に出会って以降、時々剣の研ぎやメンテをしてもらっている。

そんなリズはその時、少しスランプに陥っていた。

武器を打とうにも、出来上がる装備はそこそこのものばかり……。

一体、どうすれば一流の武器を作れるのか……毎日試行錯誤を繰り返していた。

そんな時、キリトが客として入ってきた。

 

 

 

「リズベット武具店へようこそ!」

 

「…………あっ、その、オーダーメイドをお願いしたいんですけど」

 

 

とびっきりの笑顔で店内へと入ってきた客をもてなす。

それが店を持った者の務めだ。

たが、そこにいたのは、全身黒ずくめの格好した、軽装の男性プレイヤー。

目新しい装備などはつけておらず、豪華で重厚な鎧などを着込んでもいないため、はじめに思った印象は……

 

 

 

(この人……お財布大丈夫かな?)

 

 

 

いくらお願いされたとしてと、その代金を支払ってもらわなければ意味がない。

だから一応聞いてみる。

 

 

 

「あの……今、金属の相場が上がっておりまして……」

 

「ああ、予算は気にしなくていいよ。今打てる最高の一振りが欲しいんだけど……」

 

「と、言われましても……具体的な性能の目標値を出してもらわないと……」

 

「あぁ、そっか……。なら、こいつと同等以上の性能って事でどうかな?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

そう言いながら、キリトは自分が背負っていた片手剣をリズに渡す。

リズも渋々と言うような感じで両手を伸ばし、キリトから剣を受け取る。

と、受け取った瞬間、両手にとてつもない重量がかかる。

 

 

「う、うわあ!?」

 

 

見た目に反してかなり重い剣だったという印象があった。

鍛冶スキルの鑑定を使い、キリトの剣を見てみる。

 

 

 

(《エリュシデータ》……モンスタードロップの中じゃ、魔剣クラスの化け物みたいね……っ‼︎)

 

 

 

鎧なども一切つけていない、見るからにみずぽらしい格好をしているキリトが、こんなすごい剣を持っていることに、リズは少なからず疑問を抱いた。

一体このプレイヤーは何者なんだと……。

 

 

 

「どう? できそう?」

 

「ん……うーん……」

 

 

 

思った以上のプレイヤーに、一瞬戸惑うが、リズは一振りの剣を取る。

それは、店のカウンターに飾られていた片手用直剣。

見た目はレイピアのように細いが、中々の出来栄え。

 

 

「これならどう? 私が鍛え上げた、最高傑作よ!」

 

自信満々に進める。

それだけの自信はあった。

受け取ったキリトは、その剣を二回ほどその場で振るう。

 

 

 

「うーん……ちょっと軽いかな……」

 

「まぁ、使った金属が、スピード系のやつだからね」

 

「……ちょっと、試してもいい?」

 

「試す? 何を……?」

 

「耐久力をさ」

 

「ん?」

 

 

 

耐久力を試す……それはいいが、一体どうやって?

ここには試せるようなものは置いてないし、モンスターだっていないのだ……試しようがないだろう……そう思ったのだが、次の瞬間、キリトは自分の剣《エリュシデータ》を左手に持つと、鋒をカウンターテーブルに乗せ、右手に持ったリズの自信作を振りかぶる。

 

 

 

「ちょっと! そんな事したら、あんたの剣が折れちゃうわよ!?」

 

「そん時はーーー」

 

 

 

右手に持つ剣が、ライトエフェクトを纏い、勢いよく振り下ろされる。

 

 

「ーーーそん時さ!!!!」

 

 

 

パキィィィィィーーーーン!!!!

 

 

 

折れた……確かに折れた。

しかし、折れたのは、リズの自信作の方だった。

鋒から約15センチから20センチくらいの長さだろうか……ポッキリと折れてしまったのだ。

折れた剣先は、武具店の床を転がり、店の隅っこの方へ。

やがてその姿を形取る力を失ったのか、ポリゴン粒子となって消えていった。

 

 

「いやあああああっ!!!!!」

 

 

 

苦労をかけて鍛え上げた一振りが、あっけなく砕けたのだ。

絶叫するのは当然とも言えるだろう……。

 

 

 

 

 

 

「いきなり店の売り物壊されて、第一印象最悪だったわよ……」

 

「ううっ、す、すみません……!」

 

「キリトさんって、時々凄く驚くことをやりますよねー」

 

 

ここは兄に変わって、妹である直葉が謝罪をした。

圭子も一応は知っているみたいで、剣を台無しにされたり里香を同情する。

 

 

「他にも、ドラゴンの巣穴に落っこちたり、ドラゴンのンコを投げつけられたり……ったく、ろくな思い出がないわねぇ〜」

 

「ごめんね、リズ」

 

「いいっていいって。今ではいい思い出よ」

 

 

 

そう、今では良い……というより、深く印象に残っている思い出だ。

剣を折られてから、リズはドラゴンが生成する鉱石で、キリトの剣を作るといい、当初、キリトは一人で行くといった。

だが、鉱石を手に入れるには、《マスタースミス》の称号がないとダメだとリズがいい、キリトは仕方ないといった表情で、リズの同行を認めた。

問題のドラゴンが出るのは、氷雪地帯の山岳地域。

水晶で埋め尽くされた山道に住まい、その水晶を餌に、鉱石を作り出しているらしい。

普段は武具店に篭りっきりで、鉄を打ったり、剣を研いだりしている日々だったため、外に出て、幻想的な景色を見るのは、実に久しぶりだった。

が、はしゃぐリズを、キリトが止める。

問題のドラゴンが出てきたら、すぐに隠れろ。それがキリトの言葉だった。リズも反論し、自分だって戦えるといったが、キリトは頑なにその要求を断った。

その剣幕が異常だったと、リズはすぐに思った。

どうしてそこまでの感情を込められるのか……ここはキリトの言う事を聞くことにした。

そして、ドラゴンと対決することになった。

そこでリズは、キリトと言うプレイヤーの強さを、改めて理解したのだ。たった一人でドラゴンを打ち倒してしまうのではないかと、本気で思った。

しかし、そこで問題が起きた。

キリトの言いつけを破り、リズがドラゴンの視界に入ってしまったのだ。その結果、突風を起こし、軽い吹雪が起こって、リズはドラゴンの巣な穴へと落ちてしまった。

死を覚悟した。しかし、それをさせまいと、キリトの腕が伸びてきた。

リズの体をしっかりと抱きしめ、二人は共に巣穴へと落ちたのだ。

二人は奇跡的に生きていた。

しかし、帰り方がわからない。転移結晶も使えないため、もはや脱出は不可能なのではと、リズは不安になった。

しかし、あまり動揺を見せないキリトにつられ、その日はそのまま野宿をする羽目に。

 

 

 

「ねぇ、手……握って……」

 

「……うん」

 

 

心細く思う日が多かった。

この世界……《アインクラッド》に来てからは、ずっと何か寂しいと思った。

そんな時、キリトの手を握った。

そこから伝わってくるのは、人の温かさだった。

 

 

「温かい……」

 

「え……?」

 

「私もキリトも、仮想世界のデータなのに……」

 

そう、仮想世界のデータなのに……。

ただナーヴギアから送られる、電気信号なのに……凄く、暖かかったのだ。

その日、その暖かさをその身に感じながら、リズは眠りについた。

翌朝、キリトが巣穴の地面を掘っていた。

その行動を不審に思ったが、その後、その行動理由が理解できた。

求めていた鉱石を発見したのだ。

その推測が、ドラゴンは食料として水晶を食べ、それを腹の中に蓄積して、鉱石を産み落とす。

つまりは、その鉱石こそが、ドラゴンの排泄物……いわゆる、便だ。

それを手に入れ、ドラゴンからの追跡を逃れ、巣穴からも脱出した。

そして、あの光景を共に見た。

 

 

 

 

「す、すごい……っ! 綺麗ぇ……!!!!」

 

 

 

雄大な雪山に登る朝日。

その輝かしい光が、中に舞う氷の結晶に反射して、ダイヤモンドダストを作り出していた。

そして、伸ばされたキリトの手を、リズは強く握り返した。

 

 

 

「キリトォォッ! 私ねぇーーー!!!!」

 

「なぁにっ!?」

 

「私! キリトの事! スキィィィィィーーーーッ!!!!!」

 

「なんだってっ?! 聞こえないよ‼︎」

 

「なんでもなぁーいッ!!!!! フハッ、アハハハッ♪ フハハハッ♪」

 

 

 

 

キリトに、自身のうちに湧き上がっていた感情を吐露した。

まぁ、本人は聞こえていなかったようだが。

それでも、キリトが好きだと言う気持ちが、心の底から理解できた。

その後、手に入れた鉱石で、キリトの為に剣を打った。

槌を振るう度に、キリトへの思いを込めた。

そして、出来上がった剣は、《エリュシデータ》にも負けない、優れた一品。闇を斬り払う者……その名を《ダークリパルサー》。

青白い、水色のような鉱石の色を反映しているのか、漆黒の《エリュシデータ》に反するような、氷白の《ダークリパルサー》。

キリトは手に取り、その剣の感触を確かめた。その手に伝わる重量感……その重さは、ただ単に武器の重さだけではない。

これを作り出した、リズの気持ち……いや、魂そのものも、一緒に乗っかっているようであった。

それから、キリトに、改めて伝えようとした。自分の気持ちを、キリトが好きだって言う気持ちを……。

しかし、そこへやってきた親友……アスナとキリトの関係性を知ってしまう。

アスナが誰かに想いを寄せているのは知っていた。だが、それが自分と同じ人だったとは……。

リズは耐え切れず、店を出て行ってしまった。

親友の恋路を邪魔したくない……そう思いながらも、親友には絶対に敵わないと思い、悔しさも含めた涙を流した。

だが、キリトはリズを追ってきた。

正直、嬉しかった……でも、追ってきてはダメだと、キリトに告げた。

そして、ある約束をした。

 

 

 

 

「キリトが……この世界を終わらせて……!」

 

「リズ……」

 

 

 

このゲームのクリアを約束した。

少し経てば、またいつもの自分に戻る……そしてその時は、全力で二人をサポートしよう。

そう思ったのだった。

 

 

 

 

 

「なんだかなぁ……今頃、美人先生とイチャコラしてるのかなぁ〜……あいつめ……」

 

 

 

誰に言うでもなく、そう呟いた。

それを誰かが聞いていたかは、わからなかった。

 

 

 

「そういえば、里香さんって、一夏とも知り合いなんでしょう? 一夏とはどうやって知り合ったの?」

 

「ん? えっと……」

 

 

 

これまではキリト……和人の事ばっかりだったので、もう一人、一夏の事が気になった鈴。

一夏の事は、前に明日奈と刀奈の二人から聞いた。

元々攻略組の一員で、最前線で戦っていたが、途中で軍に入り、影の人斬り役として暗部に身を寄せていた。

その後、レッドプレイヤーたちに恐れられた、最強の剣士《人斬り抜刀斎》という名をつけられた。

そしてのちに、再び表舞台へと現れ、最強ギルド《血盟騎士団》に入団し、再びボス攻略に励んでいた……。

だが、聞いたのはそこだけだ。

主に一緒にいた二人からの話だけ……だが、その他にも、彼と接していた人物がいるはずだ……その人物から、どんな事でもいいから、色々と聞いてみたい。

 

 

 

「圭子もチナツとは知り合いだったっけ?」

 

「はい。ちゃんとSAOの中で会ってますよ? まぁ、キリトさんみたいな感じじゃなかったですけど」

 

「と言うと?」

 

「ええっとですね……」

 

 

 

鈴に呼応して、箒も圭子に視線を向ける。

圭子はあの日の事を思い出しながら、口を開いた。

 

 

 

「チナツさんに出会ったのは、私がキリトさんに会って、ピナを生き返らせてもらった後ですね。

その時、ピナの好きなナッツを探したりとか、生産系のアイテムを収集するクエストを受けてて、ちょうど、草原エリアを歩いてたんです。その時に、チナツさんに出会って……」

 

 

 

 

キリトからピナを生き返らせてもらい、キリトとシリカはそのまま別れた。

キリトは攻略組。シリカはまだ中層域がギリギリのプレイヤー。

どんなに頑張っても、キリトのいる場所までは早々行く事は出来ない。

でも、もしも望みがあるのなら、もう一度会いたい……。

そう言う想いを込めて、日々クエストを消化し、レベルを上げていった。おかげでピナのキュアブレスの回復力も上がったり、自身も短剣スキルのレベルは上がっていた。

相変わらず、モンスターとの戦闘は怖いが、それでも頑張っている。

そんなある日の事。シリカはいつものように、スローター系の収集クエストを請け負っていた。

内容は、生産系のアイテムを20個ほど集めるというもの。

当然、その辺りを散策していれば、見つかるかもしれないが、特定のモンスターを倒す事でも、そのアイテムは得られる為、武装のチェックも忘れない。

 

 

 

 

「よし! それじゃあ、張り切っていこう!」

 

「キュウっ!」

 

 

 

相棒ピナを肩に乗せ、シリカは出発した。

目指すのは、中層の草原エリア。そこに実る木の実を持ち帰るというクエスト。

当然、モンスターも出る。

だが、以前共に戦ったキリトの教えを生かし、うまく立ち回っては、的確にソードスキルを発動させ、モンスターを消滅させる。

アイテムをゲットしながら、シリカは探索を続けた。

そして、アイテムの収集が折り返し地点に到着したところで、シリカは周囲を警戒しながら、買い置きしていたサンドウィッチを頬張る。

 

 

「ピナもお腹空いたでしょう? ほら、ナッツだよ〜」

 

「キュウ!」

 

 

ピナはナッツが大好きだ。

シリカの肩から降りて、地面に降り立つと、シリカの手からナッツを咥え、カリカリと食べている。

その表情が、なんとも可愛らしく、ずっと見ていても飽きないのだ。

だがそんな時、不意にピナが何かに気づいたらしい……顔を上げて、翼をはためかせ、どこかへと飛んでいく。

 

 

 

「えっ?! ピ、ピナ、どこに行くの!?」

 

 

 

慌ててシリカもピナを追いかけるが、元々体も小さく、空を飛ぶピナを相手に、シリカが追いつくわけもなく。

完全に見失ってしまった。

 

 

「ううっ〜〜、どうしよう……。ピナァァ〜〜! どこぉ〜〜!?」

 

 

 

ピナがいなくなると、どうしても以前の記憶が蘇る。

自身の危機に、主人を守ろうとモンスターの攻撃を受け、一度は消滅したピナ。

その時の消失感は、今でもシリカの中に残っている。

だから今も、その消失感に襲われそうになる。

 

 

「ううっ〜〜! ピナァァ〜〜〜!」

 

 

どこかにいるであろうパートナーの名を呼ぶ。

そして、ある古代の遺跡群のある場所までやってきた。

もしかしたら、ここの何処かにいるかも……そう思い、必死にピナの名を呼ぶ。

その時だった。

 

 

 

「こらこら、くすぐったいって……あはははっ♪」

 

「キュウ!」

 

「へっ? ピナ?!」

 

 

 

 

確かに今のはピナの鳴き声。

しかし、誰かが一緒にいる。それも若い男の人の声が……。

不安な気持ちになりながら、シリカは声のする方へと歩み寄っていく。

すると、黒い羽織のような外套を着た男性プレイヤーの頭の上に乗っかっているピナの姿があった。

 

 

 

「も、もう〜、ピナ! その人の頭から降りないとダメだよ!」

 

 

慌てて駆け寄ってくるシリカを見て、その男性はキョトンとしていた。

 

 

「あ、あの、すみません! うちのピナが、ご迷惑を……!」

 

「うちの……? このフェザーリドラの事?」

 

「は、はい……その子、私のパートナーなんです」

 

「っ! 驚いたな……君は《ビーストテイマー》だったのか!?」

 

「は、はい……そうです」

 

 

 

なんだか前に、キリトから助けてもらった時の事を思い出した。

キリトもシリカが《ビーストテイマー》であることに驚き、同じ言葉を言ったのだ。

ああ、キリトさんは一体どこで何をしているのだろう……。別れたあの日から、その事を思う日が絶えない。

 

 

 

「《ビーストテイマー》という職があったのは知っていたけど、君みたいな子が、しかも希少なフェザーリドラをテイムしてるなんてな……!」

 

「あ、はい……! あっ、それよりも! うちのピナが本当にご迷惑を……っ!」

 

 

 

我に返ったように、シリカは再び男性に頭を下げた。

すると、当の本人は怒るどころか、ふわっと笑みを零し、首を横に振った。

 

 

「いやいや、別に気にしてないよ。にしても、ご主人様以外も、結構懐くんだな……」

 

 

 

男性から言われて、ハッと思った。

確かにそうだ。

こう言ったテイムモンスターは、単純なアルゴリズムしか持っていない。ゆえに、ご主人であるシリカにしか、こう言う懐き方はしないはずなのに、目の前にいる男性と、もう一人、キリトには、ピナはすごく懐いているようにも思えた。

 

 

 

「あの、私、シリカって言います! この子はピナ」

 

「ああ、まだ名乗ってなかったね。俺はチナツ……流浪人だよ」

 

「る、るろうに……?」

 

「流浪人。あてのない旅をしている……まぁ、剣客だよ」

 

「そ、そうなんですね……」

 

「ふふっ……ごめんね、そんなに身構えなくていいよ。よろしく、シリカ。それに、ピナもな」

 

「あ、はい! よ、よろしくです!」

 

「キュウ!」

 

 

これが、シリカとチナツの、初めての出会いだったのだ……。

 

 

 

 

 

「それで? 一夏とはそれっきり?」

 

「はい。一緒にクエストを手伝ってくれたり、モンスターの討伐をしてくれたりしてからは、私とチナツさんは別行動でしたから……」

 

「ふーん……」

 

 

鈴は、「意外にもドラマチックじゃない」と言った感じで圭子の話を聞いていた。圭子のこう言う出会い方を、自分もしていたならなぁ〜と思うと、実際の出会い方……学校に転校してきた時に、一度は喧嘩をして一夏の事を殴った過去があるため、結構負い目を感じている部分がある。

 

 

 

「では、里香さんは? 里香さんも、一夏とは会っているんですよね?」

 

「ん? うん、まぁーね。あいつには、色々と助けってもらっちゃってね」

 

「それは、鍛冶屋の?」

 

「ううん。私の命の恩人……かな? ちょっと大げさだけど」

 

「大げさじゃないよー! あの時、チナツくんがいなかったら、リズはもっとひどいことされてたかもしれないんだよー?」

 

「ま、まぁ、終わった事じゃない……! ね?」

 

「もう……」

 

 

 

明日奈と里香は一体何のことを話しているのか……。

箒はさらに聞いてみる事にした。

 

 

「それって、どういう……」

 

「ああ、えっとね。私がキリトと会う前なんだけどさ、ちょっと、トラブルに巻き込まれちゃってね……」

 

 

 

 

 

 

キリトと会う数ヶ月前のこと。

まだリズが、マスタースミスの称号を得たぐらいの時だろうか。

今の顧客は、古くからの友人であるアスナと、他に数人程度。だが、次第にその腕の良さを評価してくれるプレイヤーたちが集まり、リズベット武具店は繁盛し始めていた。

そうなると、当然加工する金属などの買い占めにも行かなければならない。

時折市場に行ったり、街を出てモンスターを倒して、アイテムを得たりする。しかしそんな時、リズはある集団からの再三にわたる勧誘を受けていた。

いや、勧誘とは少し優しい言い方だ。あれもう一方的な強要と言ったほうがいいだろう……。

その日も、鉱石を購入し、他の武具店に行って、武具の市場調査を行っていた。そして案の定、面倒事に巻き込まれる。

 

 

 

 

「だから! 私は自分の店があるって言ってんじゃん!」

 

「その稼ぎよりも倍の値段を支払うと言っているんだ。これ以上何を拒んでいる?」

 

「あいにく、専属になる気はないの。私は今の店があるから十分なわけ……わかる?

だから、そこをどいてくれない? これから帰って、鉱石の練丹しなくちゃいけないから」

 

「待てよ! 話しはまだーーー」

 

「ちょっ、いや! 離してよ! 何なのよまったく!!!!」

 

 

 

無理やり腕を掴み、連れて行かれそうになる。

そんな時、ふと、男の腕が自身の腕から離れたのだ。

リズが何かをやったわけではない。よく見ると、リズの腕を掴んでいた男の手を、また別の手が引っ張っていた。

 

 

「無理やりな勧誘は、あまり良いものとは思えないんだけど?」

 

「え?」

 

 

よく見ると、普通の、どこにでもいそうな少年だった。羽織っている黒衣の羽織や腰にさしている日本刀以外、特に変わり映えのしない少年。

しかし、どこにそんな力があるのかわからないが、剛腕と言っても良いような屈強な男の腕を、片手で封殺している。

 

 

「なんだテメェは……?!」

 

「通りすがりの流浪人です」

 

「アァン? 流浪人?」

 

「はい、流浪人です」

 

「ほほう? ただの流浪人……こんな世界に閉じ込められて悠々自適に旅なんかしているってか?」

 

「まぁね……ちょっとした事情でね」

 

「そうかいそうかい…。だけどよ、だったらなおさらテメェは引っ込んでろ……!

ボス攻略にも参加しねぇ、強くなるつもりもねぇ、テメェのような暇人にいちいち構ってる時間はねぇんだよ!」

 

「そうそう。腰抜けはとっとと消えろってんだ」

 

 

 

 

男性プレイヤー二人から、あれこれ罵声を浴びる少年。

さすがにリズも、それは言い過ぎだろうと思い、反論したい気持ちになったが、当の本人はまったく気にしていない様子だった。

 

 

 

「はいはい、消えますよ。まぁ、と言っても……」

 

「へぇ?」

 

 

 

少年はさっとリズをお姫様だっこすると、一目散にその場から離れた。

 

 

 

「やっぱり強要するような勧誘はいけないと思いますよぉ〜〜!」

 

「あっ! 待ちやがれこの腰抜け‼︎」

 

「逃げてんじゃねぇーよ!!!!」

 

 

 

 

二人の男性プレイヤーは、少年とリズを追う。

しかし、少年の足の速さは尋常ではなかったみたいで、二人は必死に追いかけるも、どんどんどんどん引き離されていく。

やがて居住区の細道などを利用し、少年は二人からの追跡を捲いた。

 

 

 

「さてと、ここまでくれば安心だろう……」

 

「…………」

 

「ん? どうしました?」

 

 

 

何故かジト目で少年の顔を見るリズ。

はて? 一体どうしたというのだろう。

 

 

 

「あのさ、もういいなら……とっとと下ろしてくんない?」

 

「ん? …………ああっ! す、すみません!」

 

 

慌ててリズを地面に足つかせる。

 

 

 

「す、すみません。なんか、強引に……ですので、その、ハラスメント警告をタップするのだけは……」

 

「…………はぁ、まぁいいわ。一応助けてくれたんだし、それは見送ってあげる」

 

「ふぅー。ありがとうございます」

 

「それにしても、あんた足速いのねぇ〜。ステータスはAGI型?」

 

「ええ、まぁ……。っと、まだ自己紹介もしてなかったですね。俺はチナツ。よろしくです」

 

「こちらこそ……私はリズベット。よろしく、チナツ」

 

 

 

改めて握手を交わし、話しは先ほどの男たちについて。

 

 

 

「しかし、あの人たちは一体何なんですか? 結構強引でしたけど……」

 

「最近ねぇ、私を専属のスミスにしたいって……。ほんと、しつこいのよねぇ〜、私は店があるっていうのに……」

 

「へぇ〜、リズベットさんはお店を持ってるんですね」

 

「リズでいいわよ? そうだ! どうせなら、あんたのその剣。私に見せなさいよ。お礼も兼ねてメンテしてあげるわよ」

 

「えっ? いや、そんないいですよ! そこまで大した事やってないのに……!」

 

「別にいいっての。さっきも言ったでしょう……助けられたって。あんまり貸借りは作りなくないのよ。ほら、私の店までついてきなさい」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

意外と肝が据わっているというか何というか……。

とにかく、リズに付いて行くままに、チナツはリズの店まで同行した。

水車が回っている風情ある店の佇まい。

プレイヤー個人が運営している店は数多く見てきたが、ここまで立派なものは初めて見たかもしれない。

店内に入ると、ショーケースの中に所狭しと剣や防具が並べられており、壁際には甲冑や槍、斧と言ったものまで飾ってある。

大抵はNPCがやっている鍛冶屋……あるいは道具屋で、武器の強化やメンテナンスをしてもらってきたチナツだが、NPCとプレイヤー自身が行う《鍛冶スキル》の技量は、天と地ほどの差がある。

それに、本人から話を聞けば、マスタースミスとしてのスキルも持ち合わせている。

これはかなり優秀な鍛治師に出会えたようだ。

 

 

 

「ほい、あんたの刀見せて」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 

剣帯から刀を抜き取り、リズに渡す。

リズは慣れた手つきで刀を鞘から抜き、刀身を鑑定するように魅入る。

 

 

(へぇ〜……変わった刀。刀スキルカテゴリーに入ってないなんて……片手剣スキル……ってことはこれは片手用直剣として成り立ってるのか……)

 

 

見た目は刀のような姿。柄の拵え、刀身の反り、刃に映る刃紋。唯一ないといえば、鍔だけだ。

黒塗りの鞘に納められた刀。しかし、その刀身は、不思議な色をしている。

鋼にしては、どことなく白いのだ。鋼の輝きとは違う、変わった色合いの光を放っている。

こんな武器を、リズは今まで見たことがなかった。

 

 

 

「あんたのこの刀って、モンスタードロップなの?」

 

「まぁ、元々はそうなんですけど、強化を続けている内に、そうなりましたね」

 

「へぇ〜」

 

 

 

自身が見たことのない刀を見られて、少し興味が湧いた。

鑑定スキルを使って、この武器の特性や名を見てみる。

 

 

 

「名前は……《白楼(はくろう)》……打ち手は……っ!? ジンテツ!!!!?」

 

 

 

刀の作成者の名を見た途端、リズは飛び上がった。

《ジンテツ》……それは、このアインクラッドの中に存在する鍛治師の中では名匠中の名匠、《天匠》の名で知られる有名な鍛治師の名だ。

彼の作る作品はどれも一級品だと、攻略に出ているプレイヤーはもちろん、鍛治師たちの中でも高い評価を受けている。

しかし、とても気難しいおっさんと言う噂で、自分が興味の湧いた者にしか武器を提供しないと聞く。

しかも、今では《アインクラッド解放軍》の傘下に入っているため、武器のオーダーメイドを頼もうにも、軍の許可なくしては出来ない決まりになっている。

 

 

 

 

「あ、あんた! 一体どうやって?!」

 

「えっと、昔、軍にいたことがあって。抜けるときに、餞別だって……」

 

「でも、軍の許可が無くちゃ、作ってもらえないんじゃ……」

 

「まぁ、表向きには……ですよ。軍の人間も、あの気難しいおっさんの手綱なんて、ちゃんと握れてるわけじゃないですから。

あの人は自由に自分の鍛冶屋を運営できるから、軍の傘下に入っただけで、普通に商売してますよ?

まぁ、作る相手を選ぶのと、作る作品の値段の高さゆえに、あまり客は来ないんですけどね」

 

 

 

くすくす笑いながら話すチナツを見て、リズ自身も、これはとんでもない人物に会ったのではないかと思ってしまう。

そして、再び視線を刀に移す。

あの名匠《ジンテツ》が打った刀。それをこの手に出来ようとは……。

メンテナンスをすると言った手前、今更断ることができないが、それが稀代の名匠の逸品となると、一つ一つの作業に慎重さが増していく。

 

 

 

「すぅー……ふぅー……よし!」

 

 

 

一呼吸付いて、刀の手入れを始める。

より慎重に、より真剣に……刃を研いで、耐久値を治し、万全の状態で持ち主に返す。

これが鍛冶屋のやるべきことだ。

 

 

 

「…………よし、オッケー」

 

 

 

緊張のひと時が終わり、リズは慎重に刀を鞘に戻した。

 

 

「まったく、こんなに神経使ったのは初めてかも……」

 

「ありがとうございます。いくらですか?」

 

「あー、いいよ。今回はタダで」

 

「ええ!? そ、そんな、それはダメですよ!」

 

「いいっていいって……助けてくれたお礼と、その稀代の名匠の作に触れられただけでも、十分に嬉しかったし……」

 

「で、でも……」

 

「あー! もう、いいって! その代わり、これからはうちをご贔屓に、お願いするわ!」

 

「…………わかりました。これからは、この店で色々とお世話になりますよ。『リズベット武具店』……確かに覚えました。これからもよろしくお願いしますね、リズベットさん」

 

「リズでいいわ。よろしく、チナツ」

 

 

 

二人は再び握手を交わし、その場は別れた。

新しい顧客を手に入れたリズと、優秀な鍛治師と出会えたチナツ。

今日は色々とあったが、いい一日だったと思った。

しかし、その日の夜……。

リズが何者かによって拉致されてしまったのだった……。

 

 

 

 

 




次回は、チナツとリズの話を終わらせて、できれば、アスナとキリト、カタナとチナツが出会った話までいければと思います。


感想よろしくお願いします!


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