ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

54 / 118

ええ、今回から、ALOの海底ダンジョンに入ります!




第53話 Extra EditionⅠ

7月ももう終わりに近づいていた頃、現実世界での桐ヶ谷家では、和人、及び直葉が、慌ただしく出かける準備をしていた。

 

 

 

「お兄ちゃ〜ん! 早くしないと遅れちゃうよぉ〜!」

 

「はいはい、今行くー!」

 

 

 

すでに妹の直葉は玄関先で待っており、和人は二階の自室から、バイクの鍵を取り、部屋を出ようとした。

が、そんな時、ある物がふと目に入った。

無骨なヘルメット型の置物……ではなく、もう中身が空っぽになった……とあるゲームのハード機器。

その名も、《ナーヴギア》。

世界で初めてのフルダイブ環境に適合し、プレイヤーの意識を仮想世界にトレースする最新式のゲームマシーンだった……二年前までは……。

ナーヴギアを手に入れたプレイヤー達は一万人。その一万人のプレイヤー全員が、ある城に幽閉されたのだ。

世間では《SAO事件》と言われている事件を巻き起こし、約4,000人のプレイヤーを死に至らしめた機械。

それを見ながら、和人はふと思った……もう、半年前の事になるのだなぁ……と。

部屋を出て、階段を一気に下る。

靴を履き、玄関を出ると、妹の直葉が和人のバイクの前に立って待っていた。

直葉にヘルメットを渡し、バイクのエンジンをかける。

独特のエンジン音と、今時珍しいガソリン燃料のバイクに特有の排気ガス。

少し前の年代物のバイクを、エギル経由で貰い、今では移動はほとんどがこのバイクだ。

ただ、直葉には不評で、直葉曰く「排気ガスが臭い」だそうだ。

まぁ、今時は電気自動車を初めて、バイクも電気化に変わり始めた。

音が静かで、排気ガスを排出しないエコ精神の高い乗り物となりつつある。

そんなバイクに文句を言いながらも、直葉は和人の後ろに乗り、和人の体にしがみつく。

家を出て、バイクのアクセルを回す。

風を切り、高速で移動するバイクの乗り心地は、意外にも楽しかった。

そう思いながら、二人はある場所へと向かっていた。

今回のALOのクエストで、どうしても必要になる事があるため、それをそれを為すために、現実世界で習得しておく事がある。

そして、ようやく目的地にたどり着いた。

そこは、綺麗な校舎が立ち並ぶ場所で、とても広い敷地を持った場所だ。

だがあいにく、今この場所には、限られた人間しかいない。

何故なら、今は『夏休み』だからだ。

ここは学校……それも、SAO事件で、虜囚となっていた学生達が集められている学校だ。

本来ならば、和人、一夏、明日奈、刀奈は、この学校に通うはずだったのだが、刀奈はすでにIS学園への入学を決めており、和人、一夏に至っては強制入学。それに託けて明日奈もどさくさ紛れに入学した。

そんな本来くるはずだった場所を、改めて見ると、なんだか感慨深い物がある。

和人は駐輪場にバイクを止め、バイクのエンジンを止めて鍵を引き抜く。ヘルメットをとり、手っ取り早くハンドルにかけると、すぐに待ち合わせの場所へと歩いていく。

 

 

 

「スグ、置いていくぞ?」

 

「もう〜待ってよ、お兄ちゃーん!」

 

 

 

今朝とは立場が逆になった。

バイクからおり、ヘルメットを元に戻して、急いで兄の背中を追いかける。

両手に持った荷物を、少しは持ってくれてもいいんじゃないのか……と思いはしたが、でも、これはこれでいつもの自分たちだと思った。

そんなことを思いながら、二人は校内を歩いていく。

すると、ちょっと駐輪場のある場所から、右へと曲がったところで、待ち人たちを発見した。

 

 

 

 

 

「夏休みの宿題、終わった?」

 

「まだですよぉー……!」

 

「もうすぐ休みも終わっちゃうからね、急いで終わらせておかないと、あっという間に過ぎちゃうよ?」

 

 

 

リズベット……こと、篠崎 里香の問いに、肩を落とし落胆しながら答えるシリカ……こと、綾野 圭子。

もうすぐ夏休みも終わるというのに、いまだに宿題を終わらせていない。だが、二年分の夏休み期間を、かの城の中で費やしてしまった分、今ここで遊び倒したいと思う気持ちは、わからなくもないが……。

その事をわかってほしいが、明日奈からの正論には、成す術なく頷くしかなかった。

と、そこで、待ち人である三人も、和人と直葉の姿を発見したようで、こちらに微笑みながら視線を向けた。

 

 

 

 

「おーい! こっちこっちぃ〜!」

 

 

里香が元気よくこちらに手を振ってくる。

それを和人と二人で見ながら、直葉はくすりと笑った。

そして、二人は三人のいる場所へと向かって歩く。

 

 

「今日はみなさん、私の特訓に付き合ってもらって、ありがとうございます」

 

「いいっていいって、どうせ暇だったし」

 

「それにしても意外でしたね。直葉さん、運動神経がいいのに、泳ぎが苦手だなんて……」

 

 

圭子の言葉に、直葉はガックリと肩を落とした。

そう、今日集まったのは、直葉のある苦手を克服するための特訓だったのだ。

その苦手としているもの……それは先ほど圭子が言った、『水泳』だ。元々剣道部にも所属し、運動神経は抜群にいい直葉だが、こと水泳だけは、苦手としている。

 

 

 

「うう……リアルでも向こうでも、水の中だけはダメなの……」

 

「現実世界のプールは、アルヴヘイムの海に比べたらすっごく浅いから、遊びのつもりで気楽に練習するといいよー」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 

明日奈の気品溢れる雰囲気に、直葉も心改まって頭を下げた。

 

 

 

「しっかし、こんなプール日和に、あんたもツイて無いわねぇ〜」

 

「ああ……まったくだぜ。そりゃあ俺もここの生徒になる筈だったけどさ……なんで今日カウンセリングかな……」

 

「私たちの水着姿が見られなくて残念ねぇ〜♪ あっ、だからって、美人の先生に現を抜かさないようにねぇ〜」

 

「なっ、そんぐらい良いだろう!」

 

「…………キリトく〜ん?」

 

「あっ! い、いやいやいや、冗談だって、冗談!」

 

 

 

明日奈の鋭くも怖い視線と笑みにタジタジになった和人は、すぐにでもその場を離れようとあとずさる。

そんな様子を、直葉は苦笑いで見ており、嗾けた里香は「ニシシッ」と笑っている。

 

 

「そんじゃあスグ、しっかり教えてもらうんだぞ」

「はーい」

 

「じゃあ、俺は行くから」

 

「また後でね、キリトくん」

 

「おう」

 

「美人の先生によろしくねぇ〜!」

 

「なっ、おう?!」

 

 

 

里香の言葉に転けそうになったが、そこは堪えて、急ぎ足で校舎の中に入る。

後ろは振り向かないようにした……その先に待つ、般若の恐怖的な笑みを見たくなかったからだ。

足早に去っていった和人を見送った一同は、早速特訓を始める……と思いきや、まだその場にとどまっていた。

その理由は、あと三人……ここに来る者たちがいるからだ。

 

 

 

「そう言えば、カタナ達が遅いわね」

 

「うん……鈴ちゃんともう一人、ここに連れてきてくれるんだって……」

 

「へぇ〜」

 

 

 

一体誰が来るのか……。

そう思っていると、当の本人達が現れた。

 

 

 

「うわっ、ごめ〜ん! お待たせ〜〜!」

 

「ほら! ここまで来たら腹くくる!」

 

「なっ、まっ、待て、まだ心の準備が……!」

 

 

先頭を走ってくる刀奈と、その後ろを付いてくる茶髪ツインテールの少女の鈴と、その鈴に手を引かれ……いや、もはや引っ張られている黒髪ポニーテールの少女の姿があった。

 

 

 

「あっ! 箒ちゃん!」

 

「箒?」

 

「誰ですか?」

 

「えっ!?」

 

 

 

向かってくる三人組、刀奈、鈴、箒の姿を見た明日奈が、大きく手を振って迎え入れた。

箒の事をまだ知らない里香と圭子、箒の姿に驚く直葉。

とにかく、これでようやく全員が揃った。

 

 

 

「いやぁ〜ごめんね、みんな。ちょっと学園の方に提出する書類に手間取っちゃって……」

 

「いいよいいよ。来れただけでも十分! 鈴ちゃんと箒ちゃんも」

 

「はい……。まぁ、あたしはこれを説き伏せるのに時間がかかったんですけどねぇ〜」

 

「おい! “これ” とはなんだ?! せめて人として扱わんか!」

 

「実際、あんたがいつまでうじうじ悩んでるからいけないんでしょうが!」

 

「うう……だから、それはすまないと……」

 

「まったく……」

 

 

 

IS学園側に、今回の外出届及び、外泊届を提出するのに時間がかかってしまった。

ましてや、今回は箒が初対面ということで、とてもそわそわしていて、連れてくるのに手間取ったのだ。

 

 

 

「こちらは篠ノ之 箒ちゃん。私たちと同じクラスの子で、最近ALOも始めたから、みんな仲良くしてね」

 

「は、初めまして……その、篠ノ之 箒です……よ、よろしくお願いします」

 

「もう〜箒ちゃん表情が堅いよ〜。もっと、笑顔笑顔♪」

 

「は、はぁ……」

 

 

明日奈に絆されるが、逆に恥ずかしくなり、頬を赤く染めて俯く箒。

だが、ふと視線を横にズラし、バッチリと目が合ってしまった人物がいた。

 

 

「あ…………」

 

「えっと……篠ノ之さん……だよね?」

 

 

直葉だった。

箒と直葉は、ちょっと気まずいといった風な感じで、互いに言葉を発しようとするが、中々言い出せない状態に。

 

 

 

「あっ、箒ちゃんと直葉ちゃんは以前にも会ったことがあるんでしょう?」

 

 

 

とそこで、刀奈からフォローが入る。

それにより、里香や圭子からは「そんなんだぁ〜」という声が……。

鈴も、その事は知らなかったらしく、「へぇー」といった感じに。明日奈もそうだったね、と言った感じで手を合わせた。

 

 

 

「あ、えっと、久しぶりだね、篠ノ之さん」

 

「あ、ああ……去年の剣道大会以来だな、桐ヶ谷……息災だったか?」

 

「えっ? あ、うん! 私はいつも元気だよ。篠ノ之さんこそ、あれ以来まったく見かけなかったからさ……凄く心配してたんだけど、元気そうでよかったよ」

 

 

 

 

なんとかファーストコンタクトは成功。

それを見た刀奈が、その場の微妙な空気を吹っ飛ばし、改まって直葉の方を見る。

 

 

 

「さてと、それじゃあ早速始めようか。直葉ちゃんの泳ぎの特訓!」

 

「「「おおー!!!!」」」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

こうして七人は、学校の更衣室へと向かって歩き出した。

一方、校舎内に歩いて行った和人は、案内板を見ながら、呼び出されたカウンセリング室へと向かった。

SAO事件終了後、囚われの身となっていたプレイヤーのうち、約4,000人が死亡し、残りの約6,000人が、現実世界への帰還が叶った。

しかし、ようやくデスゲームから解放されてからも言うものの、彼らSAO生還者たちに待ち受けていたのは、リハビリの毎日と、必要以上のカウンセリングだった。

それもそうだろう……二年間、殺し殺されの世界で生きてきた人々だ、現実世界と、仮想世界との境界線が崩れ落ちているのは、目に見えて明らかになっている。

現に、フルダイブ技術が発展する以前であっても、ゲームと現実の区別がつかず、傷害事件を起こしていた例だってあるくらいだ。

仮想世界に自分の意識をトレースし、剣や槍を持って、モンスター……あるいは人間と斬り合いを興じてきた彼らは、十分に犯罪者予備軍と言って相違ない。

だからこそ、こうやって定期的にカウンセリングを行っていたのだが、それも先月あった臨海学校の事件により、色々と調書を取らなくてはいけなくなったため、今回のカウンセリングは久しぶりだ。

だが、よりにもよってこの日にとは……

 

 

 

「はぁ……まぁ、俺はまだいいか。チナツの奴はずっと山田先生と書類の山を片付けてるんだし……」

 

 

 

そう……今回、一夏も参加することもできたのだが、生憎こちらも調書を取らなくてはいけなくなった。

その原因は、言わずもがな彼の専用機、《白式・熾天》の事だ。

世界でもたった二機しかない第四世代型IS。

それも、ISによる自己進化によって発現したものだ。

こんな希少な存在を、全世界が放って置くわけがなく……学園側も、この対応に追われて、一夏もその作業を手伝っているのだ。

それに比べれば、自分の方がいかにラクか……。

しかしそう思いながらも、やはりため息が出てしまう。だが、ここまで来てしまったのだ……腹をくくるしかないだろう。

 

 

 

コンコン……

 

 

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 

 

部屋の中から女性の声がした。

確かに、声だけでも、色っぽい大人な女性の声。これは里香の言った通りの美人かもしれない。

スライド式のドアを開け、中に入る。カーテンで仕切られた場所を通り抜け、いざ、ご対面。

 

 

 

「…………おお……!」

 

 

 

美人だ……大人の女性。

スタイルがよく、リクルートスーツのような服で、その上に白衣を着ている。

特定の男性層からは大歓声が上がるのではないかと、素直に思う。

こんな女性のカウンセリングを受けれるのなら、大いに大歓迎と行きたいところだが……その目の前で、クルッとソファーイスが回転する。

 

 

 

「……っ!」

 

「やあ」

 

 

そのイスに座っていた人物に、和人は驚きの声を上げた。

 

 

「菊岡さん……?!」

 

「わざわざご足労願って悪かったね」

 

「な、なんで……総務省仮想課のエリート官僚様が、こんなところで何やって……るんですか?」

 

「君たちに、SAO事件の詳細を話してもらいたくてね。こういう場を設けてもらったんだ」

 

「じゃあ、臨時カウンセリングというのは……」

 

「すまないね。こうでもしないと、君たちは来てくれないんじゃないかと思って」

 

「…………ん? 君 “たち”?」

 

「うん。君ともう一人、チナツくんだよ。だけど、チナツくんは今日は外せない用があるんだってね?」

 

「ええ。あいつの専用機がらみのことで」

 

「そうか……ならば、仕方ないね」

 

 

 

そう言って、菊岡 誠二郎は、美人の先生に耳打ちする。

美人先生は和人の隣に来ると、そっと顔を近づけて、「何かあったら、隣の部屋にいるから、いつでも声をかけてね?」と言って、その部屋を退出してしまった。

もう、今にも先生の力を借りたいぐらいだが、もうそれもどうでもよくなった。

この場から立ち去るという選択肢もあったが、それはそれで目の前の男が許してくれなさそうなので、和人は用意されていたソファーに腰掛けた。

 

 

 

「一応言っておきますけど、この後約束があるんで、出来るだけ早めに済ませてもらえるといいんですけど……」

 

「努力するよ。それで、さっきも話したけど君にSAOとALOの一連の事件について、色々と聞きたんだ。具体的に、詳しく」

 

「そんなの、プレイヤーの行動ログを見れば、一発で分かるでしょう……」

 

「行動ログから分かるのは、“誰がいつどこにいたのか” が分かるだけで、“そこで一体何をしていたのか” まではわからないんだ……。

SAO事件の首謀者である茅場 晶彦が死亡したのが確認され、事件の全容は未だ解明されていない。何故あの様な事件を起こしたのか……その肝心な動機も、未だにわかってないからね。

というわけで、協力してもらえるかな?」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「…………」

 

 

 

そう言うと、菊岡は黙りながら、アタッシュケースの中に入っていたお菓子類をテーブルに並べ始め、最後に録音のためのレコーダーを置いた。

そして、こちらに顔を向け、眼鏡が光で反射して見えないが、まるで試すかのような表情で、和人に尋ねた。

 

 

 

「本来なら、廃棄処分されるはずだったナーヴギアを回収しなかったり、明日奈くんの病院の場所を教えてあげたのは、どこの誰だったけ?」

 

「っ…………」

 

「それに、帰還したSAOプレイヤーの現実への復帰支援や、メディアスクラムが起きないようにしているのも……実はうちの部署なんだよねぇー」

 

「…………はぁ……」

 

 

 

あざとい……。

それに実にいやらしい言い回しだ。

だが、この男に借りがあるのは事実であるため、どうにも出来ない。

仕方なく、和人はため息をつくと、菊岡が出してくれたアーモンドチョコレートを一つ頬張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひゃあ〜〜! いいわね、まさに、絶好のプール日和‼︎」

 

 

 

 

一方その頃、明日奈たちはプールの更衣室へと入り、用意していた水着に着替えていた。

 

 

 

「あの、本当に私がここのプール使ってもいいんですか?」

 

「そうです。さすがに、部外者の我々が堂々と使うのは……」

 

「あー大丈夫大丈夫。ちゃんと許可は取ってあるから」

 

「あっ! 里香さんの水着、かっこいいですね!」

 

 

圭子の指摘に、里香は軽くモデルポーズをとって、自身の水着を見せびらかす。

赤紫のワンピース型。胸元と裾丈に黒のリボンやフリルをあしらった少し大人な感じの水着だ。

 

 

「でしょう?! せっかくだから、思い切って買ってみたんだぁ〜♪ SAO事件の前に買ったやつは、さすがにキツくてさ」

 

「うう…………私は全然変わっていませんでしたけどね……」

 

 

 

そう言う圭子は自身の身体的変化が見られないことに、若干落ち込んでいる様子だった。

たが、その身につけている黄色の水着は、以前臨海学校で鈴が来ていたようなスポーティな水着なので、彼女の雰囲気には合っている様な気がするが、それは乙女心が許さないのだ。

 

 

 

「大丈夫大丈夫、そのうち成長するって」

 

「うう……鈴さん、それ適当に言ってません?」

 

「言ってないわよ。それに、あんたまだ14でしょう? 大丈夫だって……」

 

「そ、そうでしょうか……」

 

「あら、鈴ちゃんが言うと、なんか説得力があるわね♪」

 

「あンっ!? ケンカ売ってんですか、あなたは……っ!」

 

「あらやだ。暴力はんたーい♪」

 

 

 

刀奈の挑発に、血管の一つや二つがブチ切れそうになるが、圭子に言った手前、かっこ悪いと思い、すぐにそのイライラを鎮めようとする鈴。

しかし、目の前でナイスバディーな刀奈の水着姿を見ると、どうにも治らないものがある。

 

 

 

「あっ、カタナちゃんは臨海学校の時の?」

 

「そうよ。アスナちゃんもなのね」

 

「うん……せっかく買ってもらったんだし……」

 

 

 

そう言うと、赤と白のボーダー水着を着た明日奈が登場。

駆けつけた里香がすぐさま茶々を入れる。

 

 

 

「おっほぉ〜! さすがはお二人さん♪ 大胆ビキニでキリトとチナツの二人を悩殺ですか〜♪」

 

「そ、そんなんじゃないわよ……」

 

「って言うか、これチナツたちが選んだのよ?」

 

「「えっ?」」

 

 

 

刀奈の発言に、里香と圭子が振り向きざまに驚いた。

 

 

 

「えっ……カタナの水着も?」

 

「ええ、そうよ。アスナちゃんのもキリトが選んだし……」

 

「アスナさんの、この水着を、キリトさんが!?」

 

 

刀奈の闇色のセクシービキニと、明日奈の赤ボーダーの大胆ビキニを、あの二人が選んだ……。

二人はこういうのが好きなのか……。

 

 

「うーん……あやつら、意外と抜け目ないというか……なんとまたハレンチな……」

 

「キリトさん……こういうのが好きなんですよね? 私……まだダメかも……」

 

「「あははは……」」

 

「あ、あれ? みんな、学校指定の水着じゃないの……?」

 

「「「「ん?」」」」

 

 

 

どこか、弱々しい声が聞こえた。

その声のする方へと視線を移すと、自身の着ている水着……学校指定の競泳水着を、まるで恥ずかしがる様にして腕で隠す直葉の姿が……。

 

 

 

「だって……学校のプールで泳ぐって言ってたから……」

 

「あ、えっと、スクール水着も可愛いですよね!」

 

「そ、そうよね!直葉はスクール水着も似合うわね!」

 

「どういう意味ですか、それっ!」

 

「ま、まぁ、特訓をするんだ。その競泳水着で問題ないのではないか、桐ヶ谷?」

 

「篠ノ之さんもちゃっかりビキニじゃん!?」

 

 

 

そう言う直葉の発言に、箒の方へと視線が集まる。

というか、むしろある一点の箇所に、みんなの視線が集まっている。

 

 

 

「な、なんですか……?」

 

「メ、メロンが……」

 

「直葉さんもすごいけど……ほ、箒さんも、中々……」

 

「なんなの? 剣道やればみんな大きくなんの?」

 

「うーん……前々から思ってたけど、箒ちゃん、おっぱい大きいのよねぇ〜。私、ちょっと負けちゃってるかも……」

 

「ちょっ‼︎ どこを見ているんですか!?」

 

 

 

里香、圭子、鈴、刀奈の内心の思いを聞き、箒はとっさに自分の胸元を隠す。

そんな五人を見ながら、苦笑いを浮かべる明日奈と直葉。

 

 

 

「と、とりあえず、今日は桐ヶ谷の特訓なんですから! 早くいきますよ!」

 

 

恥ずかしさを隠す様に体を反転させ、更衣室の入り口へと向かって歩き出し、みんなもそれを追う形で、更衣室を出たのであった。

 

 

 

 

 

「で? 何を話せばいいですかね?」

 

「全部。えっとまずは、事件の当日の話をしようかな……確かあれは……」

 

「2022年 11月 6日……もう二年半になるのか……」

 

 

 

 

思い出す……あの日のことを……。

公式サービスが開始された、2022年 11月 6日の午後14時を回った時だった。

いよいよ待ちに待ったSAO正規版へのログイン。

和人を含め、限定一万人のプレイヤーは早速ログインした。

浮遊城《アインクラッド》の第1層の街《はじまりの街》に、一万人全てのプレイヤーがその場に降り立った。

和人は……SAO内のキリトは、限定千人しか受ける事の出来なかったSAOのβテストのテスターとして体験した知識をフルに生かし、早速行動に移った。

その時だった、その世界で初めて、チナツ、クラインの二人と出会ったのだ。

 

 

 

「おーい、兄ちゃーん!」

 

「っ! …………俺?」

 

「はぁ……はぁ……その迷いのない動き、あんた、βテスト出身者だろう?」

 

「あ、ああ……そうだけど」

 

「その、もしよかったら、レクチャーしてくんねぇか? 俺、このゲーム初めてでよぉ〜」

 

「…………ああ、いいぜ。ついて来いよ」

 

「あっ、あの!」

 

「「ん??」」

 

「えっと、俺《チナツ》っていいます。その、俺もこの手ほゲーム自体はやったことはあるんですけど、VRMMOのゲームは初めてで……その、俺も一緒に参加させてもらっていいですか?」

 

「おう、兄ちゃんか……俺は《クライン》……よろしくな。えっと……」

 

「俺の名は《キリト》。いいぜ、チナツもクラインも、俺がみっちり教えてやるよ」

 

 

 

 

キリト、チナツ、クラインの三人は、《フレンジーボア》……通称《青イノシシ》と呼ばれるモンスターが出現するエリアへと足を踏み入れた。

そのモンスターは、第1層に必ずと言っていいほど出現し、低レベルのプレイヤーにも簡単に倒せるほどだ。

とりあえず、その場で戦闘訓練の実演をやってみたのだが……。

 

 

 

「のあっ!?」

 

 

 

あいにく、始めからうまくいくわけもなかった。

フレンジーボアは、非アクティブ……つまり、プレイヤーから攻撃しない限り、こちらに攻めてくることはない。それに、攻撃が単一化されているため、攻撃を躱し、隙をついて倒すのも簡単だが、初めてのプレイヤーからすれば、中々手強い相手だった。

そんな中、クラインも勇猛果敢に攻めるが、突進攻撃に食らって吹き飛ばされた。

 

 

 

「うおお……! この、くそっ……股ぐらが……!」

 

「だ、大丈夫ですか、クラインさん?!」

 

「大げさな奴だな……痛覚はあんまり感じないはずだぞ?」

 

「え?」

 

「あっ、そうだったな……悪りぃ悪りぃ、ついな」

 

「クラインさん……」

 

 

 

真剣に心配して、バカを見た……と言わんばかりに、チナツはため息をついた。

しかし、やはり難しいみたいで、チナツも攻撃を当てはしたが、未だに一匹も倒せていない。

 

 

 

「しっかりと動作を見極めて、狙いを絞り込まないと」

 

「狙いをって言ったって……あいつ動きやがるしよ?」

 

「動かなきゃゲームとして成り立ってないですよね、それ……」

 

「うーん……なんていうかな……こう “タメを作って、バーンと放つ” 感じかな?」

 

「「タメ?」」

 

「そう。モーションを起こして、タメを作る。あとは、放つだけ……そうすれば、あとはシステムが自動で当ててくれるから……さっ!」

 

 

 

 

 

キリトはすぐ近くにあった石ころを拾い、構えを取る。

すると、たちまち握っていた石が赤色に染まり、投げた瞬間、石は強烈なスピードで飛翔し、フレンジーボアのお尻部分に命中した。

当てられたフレンジーボアは、まずターゲットをキリトに絞り、キリトに対して突進攻撃を仕掛ける。

だが、キリトは自分の片手剣を抜き、その突進攻撃を正面から受け止めた。

大した衝撃が来るわけではないが、油断すると先ほどのクラインのように吹き飛ばされてしまう為に、ずっとフレンジーボアを抑えつけている。

 

 

 

「タメを作る……」

 

 

 

キリトからのアドバイスを聞きながら、クラインは持っていた曲刀を、まるで肩に担ぐかの様な姿勢をとる。

すると、その刀身が先ほどの石と同じ様に赤く染まる。

それを確認したキリトは、フレンジーボアに蹴りを入れて、進行方向を変更。

クラインを狙って走る様に仕向ける。

だが、その突進も意味はなさない。何故なら、強烈な突き技を放ったクラインの姿が、もう目の前にまで迫ってきたのだから。

 

 

 

「うおりゃあぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

気合の入った声を叫びながら、クラインの体は、まるで矢の如き速さで、フレンジーボアを貫いた。

そのダメージ量が高かったのか、フレンジーボアは青いポリゴン粒子と変化し、虚空へと消えていった。

 

 

 

「お……うおっしゃあぁぁぁっ!!!」

 

「おおっ! 凄いですね、今のなんですか?!」

 

 

 

初のモンスター討伐に歓喜の声を上げるクラインと、その感動が伝わり、子供の様に興奮するチナツ。

そしてチナツもまた、フレンジーボアにタゲを取らせて、先ほどクラインがやった様に、剣の鋒をフレンジーボアに向ける様にして構える。

青い光に包まれる剣。

向かってくるフレンジーボアをこれまた高速に斬り捨てた。

 

 

「はあああぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

高速の突き技。

片手剣スキルと呼ばれるソードスキルの一種。

その迫力を間近で体験した者は、その魅力に囚われるという。

 

 

 

「うおおっ! 凄え! これがスキルですか?!」

 

「ああ。それぞれの武器には、それぞれ固有のスキルが備え付けてあって、レベルを上げていくにつれ、使える技もどんどん増えてくるんだ」

 

 

 

キリトの話を聞きながらも、それぞれの出せるスキルを反復で練習していく。

基本的な戦闘の動作、スキルの発動ポイント、硬直時間を考慮した上で選択するスキルの種類。

そしてそれを自身の体を直に動かす事で、その爽快感は増す。

 

 

 

「このゲームには、魔法の類はないんだろう?」

 

「ああ。一応飛び道具としての武器もあるけど、魔法はないな」

 

「RPGで魔法無しっていうのも、珍しいですけどね」

 

「でも、その分自分の体を動かすから、爽快だろ?」

 

「ああ、違いねぇ……!」

 

「ですね……最高に気持ちいいです!」

 

 

 

 

その後、三人は一通りの戦闘訓練を終え、モンスターのでない丘の上から、夕焼けへと景色を変えた世界を見ていた。

 

 

 

「しっかし凄えもん作ったよな……ここがゲームの世界だとは思えねぇぜ」

 

「そうですね。ほんと、SAOを作った茅場 晶彦は天才ですよ」

 

「だな……ほんと、この時代に生まれてきてよかったぁー」

 

「大げさだな……まぁ、VRMMO自体が初めてじゃあそんなもんか」

 

「まぁ、俺もこのゲームの為に、慌ててハードを揃えたからな」

 

「俺もですね。このゲームの存在を知って、今まで溜め込んだ貯金を崩して、ようやく手に入れた感じです」

 

「ほんと運がよかったよなあ!  限定一万人に選ばれるなんて……まぁ、βはそれよりも少ない、限定千人ぽっちだけどな……。

なぁ、キリト。βの時は、どのくらいまで進んだんだ?」

 

「…………二ヶ月で8層までしか行けなかった。でも、今度は違う。もっと早く、もっと上に登ってみせる。

この世界は、こいつ一本でどこまでいけるんだ……!」

 

 

 

 

自身の剣を抜き、高らかに掲げるキリトを見て、クラインとチナツは苦笑を漏らした。

 

 

 

「お前さん……相当このゲームに浸かってるな」

 

「まぁな……なんていうか……仮想世界なのにさ……現実世界よりも、生きてるって感じがする」

 

 

 

その言葉は、当時のキリト自身の本心。

仮想世界……偽りの世界なのに、現実世界と同様、人がいて、物語があって、それに自分が巻き込まれ、巻き込んでいく。

そんな世界の方が、どこか生きているという実感が持てた。

そして、いよいよあの瞬間がやってきたのだ。

問題の時刻午後17時 30分。

この時、キリトたちは初めて、自分たちが、ログアウトできない事を知ったのである。

 

 

 

「あれ?」

 

「どうした?」

「どうしたんですか?」

 

「……ログアウトボタンが無ぇ」

 

「……良く探してみろよ」

 

「…………いや、やっぱり無ぇよ」

 

「「…………」」

 

 

 

不審に思ったキリトも、自身のメインメニューを開き、設定ボタンを押す。

すると、本来あるはずのボタンが、確かになかったのだ。

 

 

 

「どういうことだ?」

 

「俺のもないですね……」

 

「三人同時に無い……何かのバグか?」

 

「そうだ! GMコールを鳴らせば……」

 

「それももうやってるよ……でも反応が無ぇ。なんか、他に脱出する方法無かったっけ?」

 

「…………無い」

 

「そんな……!」

 

「いや、なんかあるだろう……! 停止! ログアウト! 脱出!」

 

 

 

 

何度となく試すも、一向に現実世界の帰還は叶わない。

 

 

 

「無いって言ったろ? 中から出る際、ログアウトボタン以外の方法は無いんだ」

 

「で、でも、これって、ゲームとしては異常事態ですよね? 運営側は一体何をして……」

 

「そうなんだ……こんなの、今後の運営に関わる大事な事なのに、アナウンスすら流れないなんて……」

 

「じゃあ、いっその事、ナーヴギアを自分で外すか?!」

 

「それも無理。今の俺たちは、ナーヴギアによって、脳の信号を全部、このうなじのところで止められているんだ。

だから、外すとなると、家の中にいる誰かに外してもらうしか……」

 

「んな事言ってもよぉ……俺、一人暮らしだしよ……お前は?」

 

「俺は母親と妹がいるけど、この時間帯だと、仕事に部活……まぁ、気づいた時に外して貰えるかもだけど……」

 

 

そこまで言った瞬間、クラインが血相変えてキリトの両肩を掴む。

 

 

 

「キ、キリトの妹さんっていくつ?!」

 

「いや、あいつ体育会系だし、俺たちみたいな人種とは、絶対合わないし……えいっ!」

 

 

何やら危機感を覚えたキリトは、クラインの金的に向けて膝を打ち込んだ。

 

 

「ぐふぉッ!? …………と、痛くなかったんだっけか」

 

「チナツは?」

 

「俺は姉と二人暮らしですけど、今は仕事中ですし、帰ってこない事なんてザラですから……」

 

「チナツのお姉さんはいくつだ?!」

 

「うおっ!」

 

「あふぅッ!?」

 

 

 

チナツも危機感を覚えたので、金的に膝をぶち込んだ。

痛みは全く無いのだが、その行為事態が痛みを伝えてきそうで、クラインは再び股を抑える仕草をとる。

そんなクラインに、申し訳ないという思いを抱きながらも、キリトとチナツは、底知れぬ不安感に襲われ、自然と身構え、辺りを見渡した。

その時だ。三人の体が、淡い光に包まれて、強制的にテレポートを起こした。

それから先が、このゲーム……《ソードアート・オンライン》の本質に迫るものだとは、誰も気づかずに……。

 

 

 





感想、よろしくお願いします(⌒▽⌒)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。