ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回はオリジナル展開で、ALOで肝試し体験をやりたいと思います。
といっても、あまりアイディアらしいアイディアがないので、今回と、次回の二話くらいで終わるとは思いますが……




第50話 肝試し

時期は8月を迎え、早くも中旬に差し掛かっていた。

ここ、妖精の国《アルヴヘイム》も、何事もなく、平穏な日々が流れていた。

そして、そのアルヴヘイムの中央にある巨大都市 央都《アルン》にそり立つ巨大な樹木。

世界樹《イグドラシル》。その樹の周りを、鋼鉄の城がぐるぐると回っている。

かつてSAOの舞台となった鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》。

かの城は、今現在水妖精族であるウンディーネ領の首都《三日月湾》の上を飛んでいた。

かつてのこの城は、一万ものプレイヤー達が命を賭けて戦い、多くの命を散らして逝った場所だ。

しかし、今では新規のALOプレイヤーたちと、かつてのSAOプレイヤー達とが協力して、あるいは競争して、この城を征服せんとしている。

そんな城の中では、ある噂が流れていた。

 

 

 

 

「幽霊?」

 

「そう! 幽霊よ、幽霊!」

 

「…………仮想世界だぞ? 科学の力で作られた世界で、そんな非科学的な存在が闊歩するとは思えねぇけどな……」

 

「本当だっつーの!」

 

 

 

話をしている、一組の男女。少年・一夏と少女・鈴は、ある出来事の事を話していた。事の発端は、今から数分前……。

夏休み……それはIS学園にも当然ある。

今日この日、一夏は珍しく自宅で、有意義なリラックスタイムを送っていた。

掃除や片付けなんかは、昨日のうちにやってしまったので、特にやる事がない。まぁ、夏休みの宿題という難敵がいるが、それも早々やらないといけないほど溜め込んでいるわけではないので、大丈夫だ。

さて、そんな生活を送っていた一夏だが、そこに、来客が一人。

 

 

 

「一夏ぁ〜、いるぅー?!」

 

「ん…………この声は、鈴だな」

 

 

 

またもや何の遠慮もなしに家に上がりこんでくる。

まだ太陽が空の天辺に上ったばかりだが、久しぶりに寝転がって昼寝を堪能していたのだが、これではおちおち寝てもいられない。

リビングへと繋がる扉を勢いよく開け、来客、鈴が現れる。

 

 

「あーいたいた!」

 

「よお、どうしたんだよ………今日何か予定とかあったっけ?」

 

「いや、ちょっとあんたに手伝って欲しい事があんのよ」

 

「手伝って欲しい事?」

 

 

 

それならば、電話で言えばいいのでは?

と思ったが、直に会って相談したい事なのだろうと察し、一夏は体を起こし、とりあえず鈴をリビングのソファーに座らせ、冷たいウーロン茶を出した。

鈴は「ありがとう」と一言いい、コップに注がれたウーロン茶を半分くらい一気に飲み干した。

 

 

 

「プハァー! 生き返ったぁ〜」

 

「今日も暑いもんなぁ……」

 

「ほんと、日本の四季っていうのは嫌なものねぇ……」

 

「そういうなよ。その四季折々で風情が変わるんだからよ」

 

「まぁね……」

 

「それで? 手伝って欲しい事って?」

 

「ああ、そうそう」

 

 

 

夏の暑さにやられ、出されたウーロン茶の冷たさに、危うく本来の目的を忘れるところであった。

 

 

「ALOのクエストなんだけどさ……」

 

「ああ……なんかこの間、《アインクラッド》の方でクエやってきたんだろ?

確か、蘭と弾、箒がやり始めたから、その付き添いで」

 

 

 

そう、夏祭りの後、箒はALOをプレイする事になった。

種族は火妖精族のサラマンダーにしたそうだ。何故かと聞いたら、「紅椿と同じ色だったから」だそうだ。

その時に、一緒にキャラの育成を手伝ってくれたのが、鈴だ。

一夏のアバターであるチナツとスズ、そして箒のアバター《カグヤ》の三人で、初めは低レベルゾーンで、モンスターとの戦闘や、武器の扱い、パーティー戦における役割などを教えた。

元々が剣道全国チャンピオンの実力があるため、剣技においては申し分ない程の強さを有していた。

あとは、それを実戦式に動けるかどうかが肝心だ。

武装がなんと、《打刀》と《小太刀》を使った《二刀流》スタイルなのだ。

これは本人の希望により、常時装備出来るようにシステムを操作して装備してやった。

服装は、もう見てもわかるくらいに、《サムライ》の様な衣装。

髪が桜色になっており、それを現実世界と同じようにポニーテールでくくっている。

丈が太ももあたりまでしかない白い色の着物に身を包み、濃紺の帯を巻いている。革製のブーツに、ニーソ。腕にもアームフォーマーと手甲を身につけ、それらの色は全てが黒だ。さらにその上から陣羽織を羽織っているのだが、その柄が、紅を基調の色に、丈の縁部分が黒色の段だら模様。

見ていてわかったが、これはもう幕末の動乱で活躍した志士集団《新撰組》衣装そのものだった。

チナツ自身も、「よくこんなアイテムあったな……」と感心してしまったくらいだ。

そこに、なにかアクセントが欲しいと、スズの計らないでマフラーを追加。藍色のマフラーを首に巻き、これで完了。

そんな訳で、新撰組の隊員風の妖精剣士が誕生し、ともにスキルをあげながら、少しばかり冒険をした。

初めは飛行するのにも手間取っていたが、やはり運動神経がいいからか、とても早く使いこなし始めていた。

この分ならば、早々に空中戦闘を行う事も出来るだろう。

そして、注目すべき事がもう一つ。

ついに親友である弾と、その妹の蘭がALOをプレイできるという報告を受けたのだ。

まぁ、主に蘭の手柄だったらしい。祖父の厳さんは、孫娘の蘭にはとにかく甘い。

まぁ、可愛い孫娘の頼みなら、なんでも聞いてあげたくなるのが祖父母というものなのか……。

ちなみに、弾はそれに便乗したものの、アミュスフィアは自腹購入だったらしい……ま、家の手伝いを頑張ってるとの事だったから、お小遣いはもらっていたみたいだが……。

 

 

「それで、弾と蘭は、種族は何にしたんだ? 俺、まだ向こうで二人に会ってないからさ……」

 

「ん? ああ、蘭がケットシーで、弾はサラマンダーね。蘭はトンファー使いの拳闘士スタイルで、弾はバリバリの壁役重戦士スタイルで行くってさ」

 

「へぇー……それで、名前は?」

 

「弾はそのまま《ブレット》。で、蘭は《キッド》らしいわよ」

 

「弾の《ブレット》わかるけど……何で蘭は《キッド》なんだ?」

 

「蘭の花の事を英語で《オーキッド》って言うでしょ? 綴りは《orchid》。で、後ろの《chid》だけ取って、《キッド》らしいわ。

全く、よくもまぁ、そんな面倒な名前つけられるわね……」

 

「弾もお前も似たようなもんだもんな」

 

「あんたも同じでしょうが!」

 

「ハハッ、悪りぃ悪りぃ……。それで、お前も含めたその四人での初クエはどうだった?」

 

「それがねぇ〜、弾は全然ダメね。だって壁役のくせに全然攻撃に耐えられないんだもん」

 

「まぁ、最初のうちはそんなもんだろ……」

 

「違うっての。あいつ、初めて見たモンスターが「リアル過ぎてキモい!」って、即行後ろに回ったのよ?

ほんとでありえないし……!」

 

「まぁまぁ……それは壁役が最初に通る難関だって……で、そのクエ自体は成功したのか?」

 

「そりゃあね。だって私がいたし!」

「そうかそうか……。ん? じゃあ、なんで俺に手伝ってなんだよ?」

 

「…………その後が問題だったのよ」

 

「後?」

 

 

 

 

鈴の話によれば、クエストは無事終了。

その後、四人は街に戻るために、羽根を出して飛ぼうとしたのだとか……だが、そこで問題が発生した。

突如、飛べなくなったのだ。

 

 

 

 

「はぁ? そこって、飛行禁止空域に設定されてたのか?」

 

「そんな訳ないじゃん。ちゃんと飛べたし、来るときだって飛んできたってのよ。でも、何故かあの時だけは飛べなかったのよ……」

 

「ん〜……飛行限界高度だったとか?」

 

「それはないわよ。山の上って訳じゃなかったし、確かに周りは暗かったけど、真っ暗闇だったってわけじゃなかったし……」

 

「なるほど……お前ら《迷いの森》でクエストやったのか」

 

 

 

迷いの森……かつてのアインクラッドにも存在したフィールド。

と言っても、マップを更新していけば、全然迷うことはないのだが、初めて見たときは、その雰囲気と全貌に、本気で迷いそうになったのを覚えている。

 

 

 

「あっ、そう言えば……」

 

「なんだ?」

 

「さっき暗かったって言ったじゃん? その時ね、なんか変なくらいに周りが暗くなったのよ、それも急に」

 

「システム的に夜になったんじゃないのか?」

 

「だからって、“いきなり真っ暗になる” ?」

 

「…………それって、いきなり周囲が闇に包まれたみたいな感じか?」

 

「そこまで大げさなものじゃないけど、でも、すっごく不気味でさ……。

そしたら、あいつが出てきたのよ……」

 

「あいつ?」

 

「うん……間違いない……あれは、絶対にそうだった……!」

 

「なんだよ……もったいぶらず言えって」

 

「ゆ……れ……」

 

「ん?」

 

「だから、『幽霊』が出たのよ!」

 

 

 

 

 

と、ここで序盤の話に戻るのだ。

まず間違いなく、仮想世界でそんなものが出るわけはない。

もしそれが出たと思うのなら、それはそのプレイヤー達が見た錯覚が引き起こしたものに過ぎない。

第一、仮想世界で見ている景色は、単なる0と1のデジタルコードの集合体。それらが集まり、形作り、人間の脳にダイレクトに信号を送ることによって、プレイヤーはそれを知覚し、認識することが出来る。

だから、そこには幽霊などと言った、霊的な存在が認識できたとしても、それはそのプレイヤーが見た錯覚的現象であって、それをシステムが創り出すことはない。

それはもはやアンデット系NPCとして登録されているはずだ。

 

 

 

 

「それってNPCじゃないのかよ?」

 

「じゃあ、なんでそのNPCが攻撃してきたり、こっちの魔法攻撃が効かないのよ!」

 

「なに?! 魔法が効かない!?」

 

 

 

そのことに驚いた。

まずクエストを受注していないにも関わらず、全く関係ないクエストNPCがプレイヤーを攻撃する事はほぼない。

そして、魔法属性の攻撃が通らなかったというのは、信じがたい事実だ。

なんせ従来のALOでも、ダメージ判定の大きさは、魔法攻撃 〉物理攻撃となっている。

故に、たとえNPCに魔法耐性の支援があったとしても、ダメージは絶対に受けるはずなのだ。

だが、それが通らなかったとすると……。

 

 

 

「ん? 魔法攻撃が効かないってことは、物理攻撃は効いたのか?」

 

「まぁね。あたしと箒の二人で、なんとか戦ったけど、そいつ近接戦が滅茶苦茶強いのよ。

結局、逃げ回るのが精一杯だったわ」

 

「なるほどな……。で、その後はどうしたんだ?」

 

「とにかく逃げ回ってたんだけど、気がついたらいつの間にか居なくなってたのよねぇ……」

 

「…………そいつの人相と武器は?」

 

「見た感じだと、侍って感じかな? 和装に編笠、マフラーをつけてて……あと、武器も日本刀だったしね」

 

「なるほどねぇ……。わかった、その手伝いやるよ。俺もちょうど暇してたから、ALOでなんかクエストやろうかなって思ってたし……」

 

「サンキュ」

 

「メンバーはどうするんだ?」

 

「そうね……あたしはいけるわ。あとは、箒も大丈夫なんじゃない? あんたに協力を仰ごうって言ったのは、箒なんだし」

 

「とりあえず、そんなもんか……弾と蘭はどうだろう……」

 

「あの二人はトラウマになっちゃったから無理」

 

「まぁ、だよなぁ……」

 

「でもあともう一人くらい欲しいのよねぇ」

 

「じゃあ、カタナでよくないか? あいつも近接戦は得意だし」

 

「そうね……わかった。あたしから箒には連絡しておくから、あんたは楯無さんに連絡しておいて」

 

「了解。じゃあ、また向こうでな」

 

「よろしく!」

 

 

 

 

 

と、ここで鈴も一時帰宅……。と言っても、学園の寮に帰っただけなのだが……。

その間に、一夏は刀奈に連絡を取り、今回のクエストのことを話した。幽霊だなんて、絶対に信じられないと思うが、一応事情を説明すると、これがまた思いのほか食いついた。

刀奈曰く「夏に幽霊は肝試しでしょう?! ならやらない手はないって!」……だ、そうだ。

だがまぁ、刀奈はすぐにログイン出来る様だったので、詳しい話はALOで行おう。

そして、鈴からの連絡で、箒もログイン可能との事だった。

なので今回は、一夏、刀奈、鈴、箒の四人で、謎の心霊体験を実施することになった。

 

 

 

「ほんとにいるかどうかは怪しいが……まぁ、行けばわかるか」

 

 

あっ、そういえば……

と、一夏はインする前にある事を思い出した。鈴が家から出る前に話してくれた事だったのだが、件のNPC……侍の装いをしていた幽霊が、何かを口走っていたとか……。

逃げるのに集中していて、正確には聞こえなかったらしいが、鈴が聞いた言葉は、こうだったそうだ。

 

 

 

ーーーーBAT TO SAY

 

 

意味がいまいちわからなかったが、何かのヒントになるかもしれないと思い、一夏はその意識を、仮想世界へと向けた。

 

 

 

「リンクスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、意外と遅かったわね」

 

「いやいや、カタナが早すぎるんだよ……」

 

「ええ〜、そうかしら? でも、チナツから聞いたあの話、思い出しちゃっら止まらなくてさ! もう10分以上前からログインしたのよね〜」

 

 

 

気が早いな〜と言う感想は心の内に秘めておいて、現在チナツは、ALOの象徴とも言える存在、世界樹《イグドラシル》に築かれた空中都市《イグドラシル・シティ》の酒場にて、先に待っていたカタナと合流する事ができた。

チナツからの話を聞き、居ても立っても居られなくなったカタナは、その話を聞いてすぐにログインしたのだとか……。

 

 

「それで、スズちゃん達は?」

 

「今メッセージ入ったよ。あと数分で着くってさ」

 

「そう……。それで、今回その幽霊が出るのってどこなの?」

 

「確か、アインクラッド第4層の迷いの森だったらしい……」

 

「第4層か……たしか、あそこって……」

 

「墓地があったな……」

 

 

 

 

そう、アインクラッドの各階層には、それぞれ山や草原、湖畔と言った自然豊かな情景が展開されている。

その中で、第4層には豊かな森、草原などといったものとは明らかに雰囲気の違うステージになっていた……。

それが、『墓地エリア』だ。

昔を思い出す。まだチナツがキリトとともに行動していた頃、その時は、アスナやカタナとともにダークエルフのクエストを受けていたのだ。

そして、臨海学校前に行ったクエストでもわかっている事だが、この時、アスナがオバケや幽霊と言ったものが大の苦手なのだ。

今回の事も、カタナが密かに誘ってみたらしいのだが、答えは当然、NOだった。

 

 

 

「でもスズたちがその幽霊にあったのは、墓地じゃなかったらしい……」

 

「でも、その墓地が鍵なんじゃないの? 墓地から出てきた亡霊……なんて事もあるんじゃ……」

 

「うーん……まぁ、詳しい事は俺もわからないからなぁ……スズ達が来てから聞いた方がいいかもな」

 

「そうね。じゃあ、それまでここで時間を潰しておきましょうか……チナツは何飲む?」

 

「うーん……いつもので」

 

 

 

そう言って、チナツはカタナの向かいの席に座り、カタナはNPCの店員に飲み物を注文。

その後、店員が運んできたティーカップに入ったお茶。

抹茶の様な色をしているが、その風味はどちらかというと紅茶に近い飲み物だ。

対してカタナ、淡い青色をしたシャンパンの様なものを飲んでいる。

 

 

 

「それ、美味しい?」

 

「ん、飲んだこと無いか?」

 

「う〜ん……なんか、見た目と聞いた味のギャップがあり過ぎて、頼むのを躊躇うわね」

 

「そうか……でも、意外とハマれば美味いぞ、これ」

 

「そうなの? じゃあ、ちょっと頂戴」

 

「うん、いいよ」

 

「いただきまーす」

 

 

 

一口啜る。

すると、しっかりとした茶葉の風味が、舌に伝わってきた。

見た目は抹茶なので、もっと和のテイストになっているかと勘違いしてしまうが、完全に味は紅茶のそれだ。

 

 

「うん……確かに美味しい! でも、なんで抹茶の色なのかしら……味が台無しだわ」

 

「ああ……これはもう、見ずに飲んだ方がいいぞ?」

 

「そうね。確かに、味は美味しかったわ。あっ、こっちのもどうぞ」

 

「ありがとう、いただきます」

 

 

 

お返しに、チナツはカタナの飲んでいたシャンパンを飲む。スッキリとした甘みが舌に感じる。

一応アルコールの様な味はするが、それはシステム的に味として伝わって来るだけで、実際に酔うことはない。

 

 

 

「これも美味しいよな」

 

「そうよね! 私、これ好きなのよねぇ〜」

 

 

 

二人で飲み物を交換したり、お菓子をつまんだり……なんだかデートをしている様にしか見えない。

そんな二人だけの世界に入りそうになった二人を、こっちの世界に引き戻した者がいた。

 

 

「んっ、んんっ!」

 

「「…………あっ……」」

 

「あのさ、イチャイチャするのはいいけどさ、今回の目的忘れてないわよね?」

 

 

 

いつの間にか二人の座っていた席の隣に立ち、ピクピクと片眉を動かしながら、腕を組んで仁王立ちしていたケットシーの少女。

茶髪のツインテールと、ピンッと立ったネコ耳と尻尾が、今現在の少女の感情を表してくれている。

ケットシーの曲刀使いのスズは、イライラした表情でこちらを見ていた。

 

 

 

「あら、スズちゃん。もう着いたのね」

 

「なに? 着いちゃいけなかったの?」

 

「もう、そんな事一言も言ってないじゃない。それで、カグヤちゃんは?」

 

「ここにいます」

 

 

 

その言葉がする方へ視線を向ける。そこには、すらっとしたスタイルで酒場の店内を歩いてくる、一人の剣客の姿があった。

桜色の髪、藍色のマフラーをなびかせ、堂々とこちらに向かって歩いてくるサラマンダーの少女。

名を《カグヤ》と言う。最近ALOを始めた、箒のALOでのアバターの姿だ。

 

 

 

「あらぁ〜! カグヤちゃん似合ってるじゃない!」

 

「そ、そうですか? 私は、ちょっと派手じゃないかと思ったんですが……」

 

「そんな事ないわよね、チナツ?」

 

「おう。やっぱりお前は和装が似合うな」

 

「そ、そそそうか?! あ、ありがとう……」

 

「ちょっと! なんでカグヤの時とあたしの時とでリアクションが違うのよ‼︎」

 

「あれ? 俺、お前にも似合ってるって言わなかったっけ?」

 

「言ってないわよ‼︎ あんたあたしに向かって「ネコっぽくていいな」ぐらいしか言わなかったしでしょうが!!!」

 

「あ、あれ? そうだったけ…………?」

 

 

 

そんな事を言った様な……言わなかった様な……。

まぁ、とりあえず、ここでようやく四人が揃った。

しかし、今にして思えば、この四人だけで会うのは初めてかもしれない。

カタナは何と言っても、チナツの恋人であり、カグヤとスズは、チナツの幼馴染であり、チナツに対して恋心を抱いていた二人だ。

一度は一悶着があったり、気持ちが整理できなかったりと、様々な事があったが、今こうして会う事に、さして抵抗がなくなった。

 

 

 

「とりあえず、二人とも座ったら? 今日は時間大丈夫なんでしょう?」

 

「はい、私は今日は特に予定はないので……」

 

「あたしもね。今回の事がなかったら、今頃ブレットとキッドの面倒見てたと思うし。今日は一日中付き合ってられるわよ」

 

「そうか。なら、まずはお前たちが見たって言う幽霊の情報が欲しい」

 

 

 

ここからは、今回の本題へと入る。

スズたちを襲ったと言う幽霊の正体と、その目的はなんなのか……。

 

 

 

「そいつは、確か侍みたいな格好をしてたんだよな? 他に気づいた事とかないのか?」

 

「そうだな……。とにかく、武器の扱いが無茶苦茶だった様な気がした。それに、なんだかお前と似た様な感じだったぞ」

 

「俺と?」

 

 

 

カグヤの指摘の意味がわからず、思わず聞き返してしまった。

しかし、当のカグヤもまた、どう説明していいものかと悩んでいる。

 

 

 

「いや、お前があの化け物もどきと同じと言う意味ではなくてな、なんというか……太刀筋がな」

 

「それが同じなのか?」

 

「うむ……お前と比較すれば、大した事はないと思うが、それでも……なんと言うか、“凄く戦い慣れている様な”……あれは本当にNPCの挙動なのかと疑ってしまうくらいに……」

 

「…………」

 

 

 

確かに、そんなNPCはほとんどいないだろう。

NPCは、フィールドに徘徊しているモンスターや、アインクラッドのフロアボスも含め、全てがシステムで管理された独自とアルゴリズムで動いている。

故に、HPゲージの総数や攻撃力は絶大だが、行動パターンはある程度限定されている。

その弱点を突き、チナツ達もアインクラッドを攻略して行ったのだから……。

 

 

「うーん……気になる事が多すぎだな」

 

「気になる事?」

 

「ああ。その侍の亡霊の戦闘能力と挙動の凄さもそうなんだけど………目的がイマイチわからないんだよな。

どんなクエストに属している訳でもないただのNPCが、そう簡単に徘徊するものなのか?」

 

「だが、厳密には徘徊してたのだ。それも、私たちに襲いかかってきたのだぞ?」

 

「カグヤの言う事は分かっているんだ……。だけど、そんな好戦的なNPCは、迷宮区くらいにしか居ないと思うんだよな……。だって、お前達の誰かが、そのNPCのヘイトを稼いだわけじゃないんだろ?」

 

 

チナツの疑問に、三人が首をひねった。

そう、大抵フィールドにいるモンスターは非アクティブ……つまり、攻撃しなければ向こうも攻撃してこないものが多い。

ましてや、クエストのために周囲にいるモンスターを掃討してしまった後なんかは、リポップまでの時間がいる。

もちろん、ある程度迷宮区に近づけば、発見次第攻撃に移ってくるモンスターが多くなるが……。

しかし今回の場合、スズ達を襲った幽霊NPCの挙動からいって、どうやってスズ達の居場所を知ったのか、そして、どこから現れたのか……。

 

 

 

「そう言えば、周囲の森が、不自然なくらい暗くなったって言ったよな?」

 

「ああ。そうだったな……ようやくクエストが終わって、街に戻ろうとした時だった」

 

「それは、だいたい何時くらいだったんだ?」

 

「えっと……」

 

 

 

チナツの問いに、ガグヤがその時の事を思い出しながら、うねっている。

確かあの時は、珍しく夜更かししてしまったのだ。

ゲームの中故に、いきなり止めることも出来ず、帰ろうとした時には、現実世界ではもうすっかり日付が変わっていたのに気づいた。

そう、故にその時の時間は……

 

 

 

「午前2時過ぎた辺りだったな……」

 

「……丑三つ時か……」

 

 

幽霊というから、特定の時間に発生するクエストのフラグが立ったのかもしれない。

そう考えるのが、一番しっくりくるだろう……。

 

 

 

「そんじゃあ、とりあえずその墓地付近に行きますか」

 

「そうね。いやぁ〜楽しみねぇ〜♪ 肝試しってこういう感じなのね」

 

「「いや、違うと思う……」」

 

 

 

幼馴染二人からの華麗なツッコミを入れながら、一同は店を出る。

そして、目の前を飛んでいる浮遊城《アインクラッド》の第4層めがけて、トップスピードで飛んで行った。

 

 

 

 

 

「……うーん懐かしいなぁ……まだあの城が残ってるよ」

 

「本当ね……たしか、ダークエルフの貴族が住んでいたのよね?」

 

 

 

 

そうだ。昔のSAOでは、ここはダークエルフの城主《ヨフィリス》が住んでいた。

第3層に到達し、森エルフとダークエルフとが対決していた場面に遭遇。そこでキリトはダークエルフの味方をし、そこでクエストを開始した。

そのクエストが終了し、第4層に向かって、城主のヨフィリスからクエストの報酬をもらうといった具合で、クエストは完了したのだ。

しかし、そこからだ。

キリトが街の地下墓地にあるクエストをやると言い出したのだ。

墓地と言うからには、当然あっち系のモンスターやNPCが出てくるわけで……

 

 

 

「今でもあるのかしら?」

 

「わからない。まぁ、とりあえずその辺で情報収集だな」

 

 

 

 

四人は二手に分かれて、この近辺で起こった幽霊事件で何か知らないか、聞き込みを開始した。

しかし、その遭遇数が極端に少なく、そう言った話は聞いた事がある……ぐらいで、実際に体験したわけではないらしい。

その遭遇者に話を聞こうにも、噂が広まっただけであって、特定の人物が話した所を見たわけじゃない。

これからその人物を探すのは、結構な時間がかかる。

 

 

 

「手がかりは……早々掴めるものじゃなさそうだな……」

 

「そうねぇ……昔よりも人が多いんだもん……仕方ないわ」

 

「しかし、あれだけ無差別に襲っていたとしたら……」

 

「あたし達みたいなプレイヤーがいてもおかしくないはずなんだけどねぇ……」

 

 

 

有用な情報が入手できなかった事に、スズもガグヤもご不満のようだ。

 

 

 

「といってもなぁ……この辺って迷いの森なんかあったっけ?」

 

「そうよね。ただの《遺跡エリア》だったと思うけど……」

 

 

周りを見渡してみるが、確かに森や川は多く存在する。

しかし、迷いの森と呼べるほど、広大で密集しているようなフィールドはなかったはず……。

となると、そもそもここ第4層で遭遇したかどうかから怪しい……。

 

 

 

「本当にここだったのか?」

 

「そんなこと言ったって……あの時は逃げるのに夢中だったし……」

 

「だが、私たちがここでクエストをやったのは、間違いない」

 

「それって、どういうクエスト?」

 

「スローター系ですね。アイテム採取のクエストで、ここに出るモンスターを20匹くらい狩ったと思います」

 

「なるほど……でも、このクエストも関係があるとは思えないな……」

 

 

森のフィールドといっても、それは色々なところに点在する。

現に第1層ですら、森のフィールドは存在した。

攻略会議を行った《トールバーナ》と言う街から、迷宮区へと向かう途中で、チナツとカタナはそこを通った。

しかし、あの場所は暖かな木漏れ日が注ぎ込んで来るほど豊かな雰囲気だったが、今回スズ達が言った状況とは、あまり似つかわしくない。

と、そこで、チナツがある事を思い出した。

 

 

 

「そう言えば……なぁ、スズ、お前達が幽霊と遭遇した場所って、霧がかかってなかったか?」

 

「霧? えっと……そうね……」

 

 

チナツの指摘に、ガグヤと二人で思い出すスズ。

 

 

「そう言えば……霧がかかってたかもしれない……」

 

「なるほど……じゃあ多分、お前達がその幽霊にあったのは、この第4層じゃなくて、第3層だ」

 

「はぁ? なんでわかるのよ……?」

 

 

 

スズの問いに、チナツは「ふっ」と笑い、その理由を述べた。

 

 

 

「第3層には、お前らがら言った条件に合うフィールドがあるんだよ……」

 

 

 

 

 

そう、第3層にある森のフィールド。

《迷い霧の森》……《フォレスト・オブ・ウェイバリング・ミスト》と呼ばれるフィールドが……。

 

 

 

 

 

 




次回はいよいよ幽霊と遭遇します。

それと、箒のアバター《カグヤ》の格好ですが、手っ取り早く言うなら、Fate/Grand Orderに出てくる沖田総司の格好を思い浮かべてくれれば幸いです。

感想、よろしくお願いします!


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