ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は専用機説明と剣道対決に行きます。


第4話 専用機と生身の剣技

チュンチュン……

 

 

 

外では小鳥が鳴き、窓からは微かに朝陽の陽射しが差し込む。入学して、初日が経ち二日目の朝。廊下側のベッドで寝ていた俺はゆっくりと体を起こした。隣では、俺の幼馴染である、箒が眠っている。

時間は午前5時。まだ時間までは猶予がある。

 

 

 

(早く起き過ぎたなぁ………。もう、一時間寝ようかな…)

 

 

 

特にする事もないし、以前の習慣…SAO時代の朝の稽古兼狩りの時間が、大体この時間だったのだ…だがしかし、今はそんな事する必要がない。よって残っている選択肢は寝ることだけだ。

そう結論付けて、俺はまた体をベッドに預ける。いつもならば、すぐ隣にカタナがいるのが数ヶ月前までは当たり前だったので、隣に誰もいないこの感覚は何とも言い難い。

 

 

 

 

(カタナは大丈夫かなぁ……同居人に迷惑かけてなきゃいいけど……。あぁ…ダメだ、眠い……)

 

 

 

 

 

一方カタナは……

 

 

 

 

 

「うぅ……お、お嬢様、ちょっ!?……」

 

「うぅーん。チナツ……もっとぉ〜♪……ムニャムニャ…」

 

 

 

 

同居人で、昔からの馴染みである虚に頼みこみ、一緒に寝かしてもらっていたのだが、どうやら虚をチナツと勘違いし、完全拘束している様だ。虚もなんとか振り解こうとするが、すればするほど抱きしめる力が強くなり、中々剥がれない。

 

 

 

「うぅ……一夏君……早くお嬢様と同室になってください……」

 

「えへへ……チナツ〜……♪」

 

 

 

朝から疲れが溜まる虚であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前6時、寮にいる生徒達が目を覚まし、身支度を整え、食堂に向かう。一夏は刀奈を迎えに行くため、一足早く部屋を出る。その姿を後ろから眺める箒…。その顔は、どこか険しかった。

刀奈を迎えに行ったあと、廊下で和人と明日奈にバッタリ会ったので、四人で食堂へと向かう。

そして、食堂に到着し食券を買うのだが、流石は国立高…国際色豊かであるためか、メニューの幅が広い。

 

 

 

 

「うーん、俺はこの『焼きジャケ定食』にしようかな…」

 

「あっ! じゃあわたしもー♪」

 

「キリト君は、朝はパン派だから……この『洋風朝食セット』でいいよね?」

 

「そうだな。アスナは?」

 

「わたしもキリト君と同じのでいいよ♪」

 

 

 

 

夫婦円満なこの光景。アインクラッドの頃から一切変わらない。なので、本人達はどうもしないのだが……他の生徒達は……。

 

 

 

 

「ごめ〜ん!! そこのお塩とって‼」

 

「おばちゃ〜ん!! 七味ある? 大量に欲しいんだけど!」

 

「きょ、今日はブラックコーヒーにしようかなぁ〜……」

 

「あぁ……。ならわたしも……」

 

 

 

と言った具合に、光り輝いている四人を直視出来ないでいた。

 

 

 

 

「わぁ〜! おりむーにたっちゃんさ〜ん!」

 

「お、おはよう、みんな」

 

「となりいい?」

 

 

 

 

席に座り、食事にしているとそこに三人組の女生徒達がやって来た。一人は一夏ももう顔見知りで、虚の妹である布仏 本音……一夏はのほほんさんと呼んでいる。相変わらずだぼだぼでキツネの着ぐるみのようなパジャマ姿での登場だ。

 

 

「おぉ、みんな…おはよう!」

 

「いいわよ! みんなで食べた方が美味しいし♪」

 

「そうだね! みんなで食べよう♪」

 

「俺もそれで構わないぞ」

 

 

 

カタナとアスナさんは快くみんなを招き入れる。それに俺とキリトさんも断る理由もないし、みんなの方が楽しいので、了承する。そうして、みんなで食事をしていると、ふと、少し離れた所に一人で朝食をとっている箒の姿を発見する。

 

 

 

(あいつ…あんな所で一人で食べてるのかよ……。はあ、人付き合いが苦手なのは相変わらずか……)

 

 

 

俺は箸を止め、席を立って箒の所へと向かう。

 

 

 

「よぉ、箒。おはよう」

 

「あぁ、おはよう一夏……」

 

 

この間の一件から少し暗い箒。今の内から行動しておかないとな…。

 

 

「なぁ、箒…こっちに来て一緒に食べないか? みんなで食べた方がうまいし」

 

「……別に、いい。わたしはここで……」

 

「はあ、全く……。ほら、いくぞ!」

 

 

 

少し強引ではあったが、箒が食べていた朝食を奪い取る。そして、それを追いかける箒をうまい具合に俺たちがいた場所に誘導する。

 

 

 

「おい! いい加減に返せ!」

 

「はい、到着!」

 

「おはよう箒ちゃん。あなたもどう?」

 

「篠ノ之さんもここに来なよ〜! みんなで食べたら美味しいよ〜♪」

 

「おぉ〜! しののんも参戦!」

 

「いや、戦ってるわけではないぞ?」

 

 

 

思った通り、カタナもアスナさんものほほんさんもキリトさんも、みんなが箒を迎え入れてくれた。

 

 

 

「ん……で、では、お言葉に甘えて……失礼します」

 

 

 

その後、共に雑談を交えながら食事をとっていき、授業に入る。

そして、また昼休みになって集まって、あーでもないこーでもないと話をしながら時間を潰していった。

そして、時間が過ぎて放課後、俺とキリトさん、カタナとアスナさんはアリーナ近くにある格納庫へと脚を運び、今日届いた俺たちの専用機の受け渡しと、フォーマットとフィッティングを行う事になった。

 

 

 

 

「確か、ここで受け渡しするんだっけ?」

 

「えぇ、もうすぐで来ると思うわ」

 

「俺専用の機体かぁ〜。どんな感じになってんだろうな……」

 

「わたしも。ちょっと待ち遠しいね」

 

 

 

その場にはすでに全員が待機している。そして、その他にも担任である千冬姉と副担任の山田先生の姿もある。

そして、やっと格納庫のハッチが開き、そこから二台のトラックが入ってくる。そして、トラックは止まり、荷台は開く。その中から三機のISが姿を現した。

 

 

 

「お姉ちゃん」

 

「あぁ! 簪ちゃん! 運搬ありがとね♪」

 

「ううん…。これくらい、平気」

 

 

 

 

一番最初に入ってきたトラックの助手席から、カタナの妹である簪が降りてきて、それに気づいたカタナはすかさず簪に抱きつく。とても仲睦まじい光景だが、数ヶ月前までは、二人の関係は険悪だったらしい。

 

天才な姉と秀才の妹。そして、更識という家柄。その二つが原因で、簪はいつも姉と比べられていたみたいだ。それからと言うものの、カタナは簪を守りたいが故に『何もしなくていい』とか、『わたしが全部やってあげる』と簪に言ってしまったとか。その後からはその言葉を簪に言ってしまった事に後悔し、何度も仲直りをしたいと思っていたのだが、それも叶わずじまいでいた。そして、ある日、簪の鞄の中からあるものを見てしまった。それがSAOの正規版ソフトだった。初回ロット限定一万本しか出されなかったものの一つ。それを簪が持っていたのだ。そして、それを遊ぶ為にナーヴギアまで購入していた。そして、事件当日……簪は学校の雑用があると言って帰りが遅くなることを両親に伝えた。当然、ゲームをする時間がなく、簪の部屋にナーヴギアとSAOのソフトが置かれたままだった。あの時、ほんの出来心だったのだ。妹の趣味や好みを知る為に、妹が見ている世界を見てみたいと当時の刀奈は思った…そして、ナーヴギアを被り、SAOへとダイブしたのだ。

その後は、テレビで事件の事が報道され、両親は簪の部屋に入り、急いで回収しようとしたが、そこにはナーヴギアを被り、簪の部屋のベッドで横たわる刀奈の姿があった。簪も両親から刀奈が囚われの身になったと聞き、急いで家に戻った。そして、何も反応しない姉の姿を見て、嘆き苦しんだ。自分の所為だと……。

それから二年後、やっと事件から解放された刀奈を、号泣しながら簪は迎え入れた。その時、二年もの時間がかかったが、姉妹の溝はなくなったそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お姉ちゃんッ! せ、説明出来ないから〜ッ!」

 

「あぁ、ごめんなさい♪ それじゃあ説明お願いしてもいい?」

 

「うん! それじゃあまずは和人さんの……」

 

 

 

 

そう言って、簪はキリトさんの専用機である月光の元へ。そのISの出で立ちと言えば、正に『黒の剣士』を再現したかの様な姿。全体のカラーリングが黒で統一されている。

 

 

 

「和人さんの機体…月光はナーヴギア…と言うより、ナーヴギアの内部にあったローカルメモリーを内蔵していて、SAO時代のソードスキルを完全再現した『ソードスキル・システム』を実装した第三世代型のISです……」

 

 

 

元々、リヴァイヴは第二世代型だが、ソードスキル・システムを実装した最新のカスタム型なので、第二世代の性能を凌駕していると言っていい。

 

 

 

「そして、これが明日奈さんの機体……閃華……和人さんと同じく、ソードスキル・システムを組み込む事で、明日奈さんのレイピアスキルが使えます…。あと、この機体はイタリアの第三世代…テンペスタⅡを基本骨子にカスタムした機体です……。機動に特化した機体で、スピードなら、この中では随一だと思います…」

 

 

 

最速を誇るイタリアのテンペスタシリーズの最新型。それを近接格闘型にカスタマイズした閃華。フォルムは全体的にスマートで、カラーリングはSAOと同じく全体のぼぼ九割は白。そして、所々、赤のラインや血盟騎士団の制服にも刻まれていた十字架模様。正しく『閃光のアスナ』を彷彿とさせる機体だった。

 

 

 

 

「そして、最後に一夏の機体……。名前は白式。わたしの専用機……打鉄弐式を開発してくれてる倉持技研が廃棄するはずだった機体を家と明日奈さんの実家のレクト社が一から作り直した機体で……その後は……」

 

「束さんが持って帰ってカスタムしたんだろ?」

 

「うん、そう…。ナーヴギアのローカルメモリーは、既に搭載してたみたいだし、後は出力を調整して、より一夏専用にカスタマイズしたみたい……」

 

 

 

 

もちろんキリトさんやアスナさんの機体だって、より二人のクセや戦い方にあわせて調整はしているだろうが、束さんの手はかかっておらず、更識とレクトの技術者によって調整されたもの……。俺の様に束さんの完全監修の元、作られた訳ではない…。

 

 

 

 

「説明は、大体これくらい…かな?」

 

「ありがと、簪ちゃん♪ ……それじゃあ三人共、それぞれの機体に乗って! フォーマットとフィッティングを始めるわよ!」

 

 

 

カタナの指示により、俺たちはそれぞれの機体に乗り込む。するとISが体にフィットし、システムをスタート。そして、俺たちのデータを読み取って最適化していく。それと同時に俺たちの頭にもそれぞれの機体のデータが入り込んでくる。初めてISを触った時とは違い、これが何なのか、何の為にあるのか、何だかわかってくる。

 

 

そして、フォーマットとフィッティングが終え、機体が変化する。キリトさんの月光はアンロック・ユニットである黒い羽根の様なものがニ枚一対で浮いている。恐らく、ALOのアバター、スプリガンの羽根なのだろうか…

そして、アスナさんの閃華。純白の装甲に紅い装飾が所々見られるアンロック・ユニットは打鉄のものよりも薄い盾の様なものだ…。だが、恐らくはその盾を使う事もあまりないだろう。何故なら受ける必要がないほどスピードに特化した機体だ…受ける前に避けれる。

そして、俺の白式。先程よりも、装甲が少し増えたのと、アンロック・ユニットが翼の様に開き、大型スラスターに変形していた。

その様子を見ていた千冬姉は腕を組みながら微笑み、山田先生は「わあー」っと言いながら興奮しているようだった。

 

 

 

「それじゃあ、今度は武装を展開してみて! 武装に関しては特注で作ってもらったから!」

 

 

 

再びカタナの指示で俺たち三人は武装を展開する。その武器は……。

 

 

 

「これは……『エリュシデータ』に『ダークリパルサー』か…ッ!?」

 

「えぇ、そうよ! 私たちがそれぞれSAOで使ってた武器を完全再現してもらったのよ!」

 

「すごい…ッ! 私の『ランベントライト』も細かい所まで作られてる…」

 

 

 

キリトさんは片手剣二振りとアスナさんはレイピア…そして、俺は、

 

 

 

「確かにすげぇな……『雪華楼』も完璧に再現されてる…ッ!」

 

 

 

右手に刀、左手に鞘。刀身から鍔、柄の細部に至るまで、純白に染まった一振り…。俺の愛刀、雪華楼…。そして、鞘も白く、所々に雪の結晶…アスタリスクの模様があしらわれており、あの時の光景を思い出す。この四人で戦場を駆け抜け、共に過ごしたあの世界での出来事を…

 

 

 

「確か、ソードスキルが使えるんだよな?」

 

「えぇ、キリトの二刀流も、チナツの抜刀術も、そして、私の二槍流もね♪」

 

「三人ともいいよね〜…ユニークスキル持ち同士だからぁ〜……はあ、私は持ってないし…何だか仲間外れみたい……」

 

 

 

この中でユニークスキルを持っていない明日奈が、少しふてくされる。しかし、ユニークスキル自体、どうやって手に出来るのかがわからないので、何とも出来ないのだが……

 

 

 

「いやいや、アスナさんのAGI型全開の機体だし、『剣速の速さ』と『狙いの正確さ』だけでも、充分ユニークスキル並ですってッ!」

 

「そ、そうよねぇ〜ッ! アスナちゃんのスピードにはここにいる誰もが付いて行けないって!!」

 

「そうそう! アスナはもう充分バーサーク状態だから!」

 

「それ、褒められてる気がしないよッ!」

 

 

 

 

そうして、少し談笑を挟み、各々スキルのチェックをする。

 

 

「じゃあ、俺からいくぜ…………はあぁッ!」

 

 

両手の剣が黄色いライトエフェクトを纏い、二段突きを行う。二刀流の突進型スキル『ダブル・サーキュラー』左手の剣で突き、二撃目は右手の剣で流れる様に相手を突く。

 

 

 

「今度は私ね! ………やあぁぁぁッ!!!」

 

 

キリトさんのスキルを見た後、アスナさんがスキルを発動させる。白いレイピア…ランベントライトが緑色に光り、突く。レイピアの初期スキルである『リニアー』だが、これを『閃光』の異名を持つアスナさんがすると、恐らくどのレイピア使いよりも速く、確実に狙い突くことだろう…。

 

 

 

「最後は俺ですね。…………はあッ!!!!」

 

 

 

雪華楼を鞘に戻し、構える。そして、放たれた蒼いライトエフェクトを纏った刀身が三度、素早く空を斬る。抜刀術スキルの中で、高速抜刀術の部類に入るスキル『飛燕』。

 

 

 

「うんうん! いい感じね。これで一通りの説明と点検は終わったかしら?」

 

「ん? ………あれ? 俺の武装、もう一本、刀が装備されてる…」

 

「もう一本? 雪華楼以外にも刀があったの?」

 

 

 

ウインドウにもう一本の刀が搭載されているのを確認し、量子変換して装備を出す。

 

 

 

「こ、これって……『雪片』!?」

 

 

 

そう、それは紛れもなく千冬が現役時代に使っていた専用機、暮桜の唯一の武器。雪片だった。雪華楼よりも刀身が長く刀と言うより太刀に近い。

 

 

 

「おかしいわねぇ……暮桜の武装である雪片が何でチナツの白式に? 織斑先生は何かご存知ですか?」

 

「いや、あのバカからは何も聞いていない……。むしろ今すぐにでも問いただしたいぐらいだ…」

 

 

 

一番身近で親友同士でもある千冬がわからないなら、後は製作者たる束に聞くしかないが、生憎本人はどこにいるのかわからない。世界中の政府やら技術者やらが探し回っているみたいだが、発見には至ってない。

 

 

 

 

「う〜ん……雪片じゃソードスキルは使えないんだな……。でもこれはこれで……」

 

 

 

雪片を握り、構えると物理刀が前後に裂け、間からレーザーブレイドが展開される。

 

 

 

「「「「おお〜〜〜!!!」」」」

 

 

 

俺と千冬姉以外の全員が口を揃える。そして、その雪片にも鞘が装備されていたのでレーザーブレイドを一度解いてから、剣の柄を鞘に納める。

 

 

 

「はあぁぁ……」

 

 

 

再び抜刀術の構えをとり、意識を集中させる。そして、

 

 

 

「紫電…一閃!!!」

 

 

 

抜刀と同時に雪片の刀身が形成され、横薙ぎの一閃が振るわれる。抜刀術スキルの一つ『紫電一閃』。先程使った『飛燕』の様に連続しての剣技ではないが、その分与えるダメージ量が多い。手数ではなく、威力を高めた一撃だ。

 

 

 

 

「うん…抜刀術は使えなくないし、雪片はここぞって時には一番有利に働くかもな…」

 

「ふう……各自チェックの方は終わったな? では、今日はこれで解散。後は各々、暇があればISを装備しての訓練を忘れない様に……いいな?」

 

「「「はい!!!!」」」

 

「それでは、私からはこれを皆さんにお渡ししておきますね」

 

 

 

千冬姉の言葉で閉め、終わったかと思ったら、山田先生が登場。そして手には広辞苑並みの分厚さを持った本が三冊。それが俺たちの手に渡された。よく見れば、『IS規則』とデカデカの書名が書いてあった。

 

 

 

「う〜ん……これは……」

 

「結構骨が折れそうだね……アハハハ……」

 

 

 

これには流石のキリトさんとアスナさんもこたえるようだ。

 

 

その後、格納庫から出て、俺たちは学校内を散策していた。ここへ来てまだ二日。一通りの建物の場所は覚えたが、実際に見てみるのとそうでないのとでは勝手が違ってくる。カタナと簪にお願いし、俺たちは再び学校案内をしてもらっていた。

 

 

 

「こうして見ると、IS学園って本当に広いよねぇ〜。SAOの圏内エリアぐらいはあるんじゃない?」

 

「そうね…《始まりの街》程はないとは思うけど、それでも広い方よね」

 

「アリーナも多くあるし、プールに体育館、道場にテニスコート。運動場も広かったし、相当金がかかってるんだろうなぁ…」

 

「ですね。寮の部屋も一つ一つがビジネスホテル並みか、それ以上の内装でしたし…」

 

 

 

一通りみて回って、自然と脚は今もなお竹刀がぶつかり合う音のなる剣道場へ。

 

 

 

「おお、やってるやってる…」

 

「近くで聞くと迫力あるよねぇ〜竹刀って」

 

「まぁ、私は小さい頃から聞いてるからあまり気にしないけど」

 

「俺も小学生の頃は剣道やってましたから」

 

 

 

SAOで剣を振るってきた四人にとって竹刀を振るう剣道部員たちを見るとやはり懐かしんでしまうみたいだ。

 

 

 

「あっ! 織斑君と桐ヶ谷君だ!」

 

「結城さんに会長もいる!」

 

 

 

俺たちに気づき、部員達が近寄ってくる。その中に一人、黙々と竹刀を振り続ける生徒が…。

 

 

 

「箒! やっぱり剣道部に入ってたんだな!」

 

「あぁ、ずっと続けてきたからな…ところで何でここにいるのだ?」

 

「ん? あぁ、何だか懐かしく思えてな。ちょっとよってみたんだよ」

 

「そうなのか…」

 

 

 

まるで昔に戻ったみたいで、箒も喜ばしかったのだろうか、顔が少し明るくなった気がする。

 

 

 

「久しぶりにやってみたいなぁ…剣道…」

 

「な、なにッ!?」

 

「いや、なんかさ見てたらやってみたくなってな…。でも、道着が無いしな…」

 

「そ、それなら予備でおいてあるやつがあるぞ! せっかくだ、やって行けばいいだろう!」

 

「おぉ! 篠ノ之さんがいつになく積極的だあぁぁ!!!」

 

「ああ、でも織斑君が竹刀を振るう姿も見てみたいし…」

 

「織斑く〜ん‼ はい、道着! これ着てみてよ! たぶんサイズは合ってると思うよ〜ッ!」

 

 

 

 

箒の一言に周りが便乗し、ますますやらなきゃいけない空気になる。仕方なしに道着を受け取り、着替えに行った。

そして、数分後、防具と竹刀を借りて、俺は箒と対峙し、箒は剣道の基本の構え、正眼の構えをとる。それに対して俺は…。

 

 

 

「一夏! なんだその構えはッ!」

 

「いいんだよ。俺流剣術ってやつさ…」

 

 

 

左脚を後ろに引き半身に、左手は腰元に。そして、竹刀は、右腕を軽く伸ばし、地面に向かって平行…そこから切先が少しだけ上に上がった状態…。抜刀術スキルを使っていた頃の名残……クセで今でもやってしまう。

 

 

 

 

「まぁいい。では、始めるぞ」

 

「いつでも……」

 

 

 

周りが静寂に包まれる。お互い慎重に相手の出方を見る。

 

 

 

(なんなのだ! あの構えは! あれでは胴を防げたとしても、面と小手を容易く取られるではないか……ッ!)

 

 

 

箒はそう思い、先制して面か小手を取りに行こうと、すり足で間合いを測っていく。

 

 

 

(ん? なんだ? やっている事は剣道としてはめちゃくちゃなのに、意外と様になってるような……。それに、よくよく見るとスキがあまりない……)

 

 

 

どれほど対峙したのか、数十分か、はたまた数秒か…。そして、二人同時に動きだした。

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「…………ッ!」

 

 

 

上段に大きく振りかぶった竹刀を、箒は一気に振り下ろす。流石、全国一位の実力を持つ者の迷いのない踏み込み、そして、無駄のない軌道と速度で振り下ろされる竹刀。だが、チナツにとってそれは軽く避けれるものだ。

 

 

 

「ふうッ!」

 

「なッ!?」

 

 

 

箒は確信していた。自分の振り下ろしたこの一撃で終わるか、終わらないにしても、反撃をする暇も与えずに一方的に試合を進められると……。だが、現実は振り下ろされた竹刀の先に一夏の姿が無く、あろうことか竹刀を躱してすぐ、箒から見て、右側面に回り込み、左足を軸に体の回転を入れた勢いのある胴を打ちにいく。

 

 

 

「くッ! なんのォォ!!!」

 

 

 

だが、箒とて負けてはいない。すぐに体勢を立て直して、一夏の一撃を受け、すぐさま反撃するが、体を捻ったり、バックステップなど素早い動きで一夏は躱し続ける。

 

 

 

「流石はチナツ君だね。篠ノ之さんの攻撃をあれだけ躱すなんて…」

 

「あいつの “先読み” の速さは俺以上だからな」

 

「だからこそ、抜刀術スキルを託されたのかもしれないわね…」

 

 

 

 

SAOメンバーからしてみれば、いつものチナツの戦いぶりを見ているに過ぎないのだが、周りの生徒や箒からしてみれば、驚きを隠せないだろう。

 

 

 

その後も打ち合いは続き、先に一夏の体力が尽きかけてきた。

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

「めえぇぇぇんッ!!」

 

「ぐあッ!」

 

 

 

最後の面が見事にヒットし、この勝負は箒の勝ちに終わった。

 

 

「いててて……」

 

「あッ! す、すまない一夏! ついッ!」

 

「いや、大丈夫だよ…。しかし、ホント強いな箒は…結構頑張ったんだけどなぁ〜」

 

「それは普段から鍛えているからだ。お前も、もう少し鍛えた方がいいぞ?」

 

「そうだな…リハビリ、もう少し頑張らないとな…」

 

 

そう言って、一夏は竹刀を上から下へと一度振り下ろし、腰元に添える様に置いていた左手親指に竹刀の刀身部分を滑らせ、左手で作った輪っかの中に竹刀を納める。

 

 

その光景にキリト、アスナ、カタナは苦笑し、他のみんなは「ん?」っと頭に?マークを出し、一夏を見ていた。

 

 

 

「ん?……あ…」

 

 

 

一夏もみんなの反応に気づき、一度どうしたのかと頭を捻るが、自分のやった事に気づき急に気まずくなった。

 

 

 

「アハハハ……」

 

「だ、大丈夫か? やっぱり頭を強く打ったから…」

 

「ああッいや、違うんだ! そ、そのぉ〜長年の習慣がな…アハハハ…」

 

「なんか…すげぇデジャヴってるんだが……」

 

 

 

一夏と箒のやり取りをみていて、何かを思い出したキリトだった。

 

 

 

「キリトさん! 一戦、どうですか?」

 

「ん? そうだなぁ…。道着がまだあるならやってみようかな」

 

 

 

チナツの提案にキリトが乗る。それを聞いた女生徒達はすかさず新しい予備の道着を持ってくる。それはチナツが着ている白い物ではなく、黒の道着だ。

 

 

 

「やっぱキリトさんは黒ですよね…」

 

「あぁ、俺もこっちの方が落ち着くし…」

 

 

 

そして、一夏が和人に二本の竹刀を渡す。和人もそれを快く受け取り、指定の位置に付く。

 

 

 

「ん? 桐ヶ谷は二刀流なのか?」

 

「うん。あれがキリト君のスタイルだよ…」

 

「さてさて、見ものねぇ…二刀流 対 抜刀術…今回はどっちが勝つのかしら?」

 

 

 

 

刀奈の言葉で全員が息を呑む。先程の試合で、負けはしたが、一夏の動きは、まだ体が元の状態まで回復していないとは言え、明らかに別次元の動きだった。そして、今度は二刀流なんて物で勝負する和人。同じSAO生還者である者同士…剣道部員の全員が注目を二人に集める。

 

 

 

 

「今までの戦績はほとんど引き分けで終わってだからなぁ…」

 

「そうですね。生身なのがちょっといただけないですけど…」

 

 

 

 

 

二人とも構えを取る…。キリトは右脚を少し引き、二刀は体の前に自然体で構える。一方、チナツは先程と違い、竹刀を納刀した状態…いわゆる抜刀術の構えだ。

 

 

 

二人の構えを見ていた道場内の全員が緊張に包まれる。ジッと動かず、ただひたすらお互いを見つめる二人。

そして、しばらく硬直していた二人が一気に駆け出し、竹刀を打ち合わせた。

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁ!!!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

パアァン!!!

 

 

 

チナツの抜刀術によって放たれた竹刀とキリトが振り下ろした右の竹刀が交錯し、大きな音が鳴り響いた。

その後も、キリトが左の竹刀で打ちつけようとするが、すぐさま返す竹刀で受け流すチナツ。そして、体をかがめ、下段から切先部分に左手をあてて竹刀を打ち上げる。

 

 

 

「龍翔閃!!!」

 

「おっと‼」

 

 

 

顎付近に打ち込まれた打撃を躱し、バックステップで距離を取る。

 

 

 

 

「な、なんだ今のは!?」

 

一夏の使った技に箒が反応する。篠ノ之流のものではない。しかし、筋力が衰えてるとは言え、鋭い攻撃に箒は驚いたのだ。

 

 

 

「あぁ、あれはチナツがSAO時代に使っていた剣技。抜刀術スキルについてたサブスキル《ドラグーン・アーツ》よ」

 

「ド、ドラグーン・アーツ?」

 

 

 

箒の言葉に刀奈が反応し、チナツが今使った技の説明をする。

 

 

 

「抜刀術スキルだからと言って、なにも抜刀術だけの技しかない訳じゃないのよ…。あれは刀を抜いた状態で使える一種のソードスキル…チナツ専用の技って所かしら?」

 

「は、はぁ…。しかし、ドラグーン・アーツという名前は……」

 

「それはさっきチナツがキリトに使った技名を聞けば分かるけど、さっきチナツは『龍翔閃』って技を使ったわよね?」

 

「は、はい…」

 

「そして、さっき箒ちゃんとの試合で、箒ちゃんの初撃を躱して打ち込んだ回転を入れた攻撃……あれは確か、『龍巻閃』って技だったかしら?」

 

「……つまり、『龍』の名が付く技である事から『ドラグーン・アーツ』……『龍剣技』と言われているわけですか…。何だか安直過ぎませんか?」

 

「ま、まぁ、それはチナツが付けた名前じゃないし…仕方ないわよ…。あッ! そろそろ決着がつくわね」

 

 

 

再び視線を向けると、二人ともかなり打ち込んでいた様で、肩で息をしている状態だ。

 

 

 

「はあ…はあ…はあ…」

 

「はあ…はあ…そろそろ決着をつけようぜ…」

 

「えぇ、望むところです!」

 

 

 

和人の言葉に一夏が反応し、再び構えを取る…。

 

 

開始した時と同じ構えだ。

 

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

数分の静寂の後、和人が駆け出した。

 

 

 

「おおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

右の竹刀を振り上げ、上段から振り下ろそうとしているのだろう…。だが、近づけば近づく程に、それはチナツのキリングレンジに足を踏み入れているのと同義だ。

 

 

 

(……ここだッ!)

 

 

 

間合いに踏み込んだキリトの胴を打つため、今まで動かなかったチナツが動く。しかし、それを待っていたかの様に、キリトの左の竹刀が刺突攻撃を仕掛けてくる。

 

 

(もらった!!!)

 

(くッ! だが、それでもここは…俺の距離だ!!!)

 

 

刺突に合わせる様に、チナツも抜刀する。そして、そのまま柄頭でキリトの放った左の竹刀の腹部分を打ち、軌道をずらす事で、攻撃を免れ、抜刀した竹刀はそのままキリトの胴に向かっていく。

 

 

 

 

パアァン!!!!!!

 

 

 

 

 

竹刀が防具を打つ強い音が鳴り響いた。勝負は一夏の勝ちだと思われたのだが……。

 

 

 

 

「くッ……相討ちですか…」

 

「あぁ、今のは流石に危なかったぜ……」

 

 

 

よく見ると、一夏の竹刀が和人の胴を打ち、和人の竹刀が一夏の面を打っていた。そう、あの瞬間、和人は反応し、右の竹刀で一夏の面を打ったのだ。

つまり、勝負は引き分けに終わったのだ。

 

 

 

 

「試合終了‼ 両者一本のため、引き分け!」

 

「「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

刀奈が判定を下し、道場内は拍手で包まれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想待ってマース^o^

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