ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく更新できる……フゥ〜、疲れた( ̄▽ ̄)





第43話 試練

『みんな、準備はいいですか?』

 

 

 

通信で簪の声が聞こえる。

冷静な声色ではあるが、その中に鬼気迫るような緊迫感を感じる。

 

 

 

「いつでもいいわ……さぁ、始めましょうかーーーーッ‼︎」

 

 

 

刀奈の声に、全員の身が引き締まる様な感覚を覚えた。

静かに、だがその心情はかなり燃え滾っている様だった……。そんな心の内に秘めた烈火の様な炎が、他のメンバーにも伝染したのだ。

その手に握る武器……剣、槍、銃、拳……それらを握る手に、自然と力が入る。

 

 

 

「ツーマンセル……鶴翼の陣で福音を攻める!」

 

『『『了解!!!!』』』

 

 

 

 

前衛が刀奈、和人、明日奈、箒の四人。司令塔に簪。後衛で前衛四人をサポートするのが、セシリア、鈴、シャル、ラウラの四人だ。

 

 

 

「セシリア、ラウラ! 砲狙撃開始‼︎」

 

 

簪の指示が飛び、セシリア、ラウラ両名は左右に展開し、ラウラは《パンツァー・カノニーア》を展開。小島に着陸し、砲撃態勢に入る。

セシリアはスラスターを全開。超高速化での移動をしながら、超高感度ハイパーセンサー《ブリリアント・クラリアンス》の視界がとらえた福音に、照準を合わせる。

 

 

 

「撃ってえぇぇぇぇッ!!!!!」

 

「もらいましたわッ!!!!!」

 

 

 

二門のレールキャノンと、全長3メートルもあるロングライフルからの一斉砲火。

その場で停滞し、静かに佇んでいた福音に着弾し、大爆破を起こした。

黒い爆煙が立ち込め、福音の姿を見失う。

だが、そう思った数秒後……突如爆煙が吹き払われる。

爆煙を払った突風の中心には、件のIS。『シルバリオ・ゴスペル』の姿があった。

 

 

 

 

「うっひゃ〜……また変身してない?」

 

「うん……さっきよりも装甲やエネルギー翼の形が違ってる」

 

 

前衛四人をサポートする後衛として、鈴とシャルは福音を直に見たわけだが、その姿は異様に思えた。

砕けた装甲は新たに新調された甲冑になり、鋭く尖った指先、第二形態になった時に増えたエネルギー翼は、8枚から10枚に増え……何と言っても驚愕なのが、福音の頭上に出現した光の輪。

純白の……神々しい光に見えるが、その光には、どこか禍々しく思う様な色が見て取れた。

 

 

 

「行きましょう……ミッション《フォーリン・エンジェル》!!!!」

 

 

 

天使を墜とす。

ただそれだけの為に全力を尽くす。持てる手段を全部用いて、ありとあらゆる可能性に対処し、これを看破する。

 

 

「キリト!」

 

「ああ!」

 

 

刀奈の声に反応し、突発的に飛び出す。

二刀流と二槍流……双剣二槍が天使に迫る。

 

 

「箒ちゃん、私たちも!」

 

「はい!」

 

 

その後方からは、紅と白の剣士が迫り来る。

両手に握りしめた二刀と、右手にその輝きを知らしめす美しい細剣。

強くしなやかで美しい刀と剣が、トップスピードに乗って攻め向かう。

 

 

 

「セエエエエッ!!!」

 

 

 

《アニール・ブレード》と《クイーンズナイト・ソード》を両手に、果敢に攻め立てる和人。

両手の剣から放たれる怒涛の剣戟を、福音に浴びせる。だが、その剣戟を阻む物が現れた。

両手をクロスさせ、和人の剣戟を受け止め様とする両腕の装甲に、双剣が傷を刻み付けようとしたところで、突如エネルギー体の壁が出現。

双剣の鋒とエネルギー防御壁とがぶつかり合い、その度に火花が弾け飛ぶ。

 

 

 

「くっ! また新装備か……!」

 

「スイッチ!」

 

 

 

ことごとく剣戟を弾かれ、苦戦している和人に変わり、言葉が発せられた直後、赤い残光が閃く。

容赦なく、躊躇なく放たれた槍は、月の光に照らされており、美しくもより禍々しい姿を見せていた。槍の穂先は、寸分違わず福音の顔面を突こうとしているが、これも防御壁が受け止めてしまう。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 

だが、刀奈も突くだけでは芸がないと思ってか、即座に攻撃を切り替える。槍の真骨頂は突き技ではあるが、そのほかにも色々とできる。

 

 

 

「だああッ!」

 

「ッ!?」

 

 

 

今度は体全体を動かして、左の《煌焔》右側へと振り抜く。穂先は防御壁に防がれるも、“突き” とは違う “斬る” と言う攻撃。

さらに……

 

 

「やあッ!」

 

 

振り抜いた《煌焔》の勢いを利用し、今度は体を時計回りに回転させ、そのままの勢いで右の《龍牙》の石突で福音の腹部を叩く。

咄嗟の機転に福音の防御壁展開が間に合わなかったのか、そのまま両腕の装甲で受け止めた。

槍の使い方には三つある。“突く”、“斬る”、“叩く” だ。

しかも刀奈の場合は、それを左右の槍二本でできる為、左右それぞれの槍で3パターンの攻撃を両手でするため、それを左右別々、または同時に攻撃する事で、いろんなパターンでの攻撃を可能とする。

 

 

 

「キィアアアッ!!!!」

 

 

 

福音が《龍牙》を弾き返す。

そして翼を動かし、エネルギー体である翼は形を変える。

あらゆる物を両断しそうな、エネルギー刃へと変化し、一斉に襲いかかる。

 

 

「くっ! とうとう “ビックリ装備” になっちゃったってわけか!」

 

 

エネルギー体を自在に操る事で、攻撃・防御・機動の全てを可能にしている。

これは第四世代型ISのコンセプトと類似していると同時に、福音の装備として初めから存在していた《銀の鐘》の形態変化は、第三世代型ISのコンセプトである『イメージインターフェイズ』である事を指しているのではないか……。

機体性能そのものが第四世代型の物……基本的な戦闘システムの基盤は第三世代型の物といった具合だろうか。

 

 

 

「でもお生憎様……そんな攻撃じゃあ、私の “結界” だって破れはしないわよ!」

 

 

 

迫り来るエネルギー刃。

だが、これが刀奈に当たることはない。何故なら、その刃を防いでいる物が現れたからだ。

 

 

 

「あなたに『エネルギー防御壁』がある様に、私には『アクア・ヴェール』があるのよ……!」

 

 

 

『ミステリアス・レイディ』の武装《アクア・クリスタル》のナノマシンによって生成された水は、アサルトライフルの弾丸や爆発すらも防ぐ。

ならば、刃とて簡単に防ぐことは可能だ。

だが、なんとも分が悪い。刀奈は二本の槍と体術でなんとか捌いているが、福音はエネルギーを収束させて作った刃を10本に、そこから体術を取り入れている。

 

 

 

「ちっ……そう簡単には落ちないか……!」

 

 

 

迫り来る刃を、二槍と水の障壁で弾き返すも、徐々に刀奈の手数が減ってきている。

 

 

「楯無さん!」

 

「っ!?」

 

 

 

刀奈と福音が斬り合ってる中、その背後を紅い閃光が走る。

鋭く閃いた斬撃が、福音の翼に直撃。

激しい火花とエネルギーが四散する。紅椿の刀《雨月》と、エネルギー刃の刃が、ギリギリッと音を鳴らし、激しい鍔迫り合いをしていた。

 

 

「箒ちゃん!」

 

「私とて、こいつには返さなくてはいけない物がありますから‼︎」

 

 

 

長く艶やかな黒髪は、いつものポニーテールではなくストレート。

その髪が、海風に吹かれてなびく。

その光景が、一時の静寂に包まれていたのなら、幻想的とも言える様な光景だったのだろうが、実際には刀を握り、片方は光の刃を振りかざす……殺伐としたバトルフィールド。

 

 

 

「貴様が一夏にした仕打ちは、私が返す!」

 

 

止められた《雨月》を引き、福音になおも接近して、左の《空裂》を突き出す。

これは福音の刃に阻まれ、逆に福音の拳が飛んでくる。箒はそれを《雨月》で受け流すと、今度は体を左回転させ、福音の側面に回り、回転の勢いそのままに、再び斬り込む。

 

 

 

「でえやあああッ!」

 

 

 

体を回転させながら、《雨月》《空裂》の両刀で斬りつける。

福音もこれに対応し、刃4本で体を防御。

即座に空いた残りの6本の刃で反撃するが、箒は咄嗟に後方へと飛び退く。そしてその背後には、刀身が水色に輝く細剣を手にした明日奈の姿が……。

 

 

「せぇやあああ!!!!」

 

 

下から上へと伸びる様に放たれる刺突。

細剣のソードスキル《シューティング・スター》だ。

重ねてガードしていた福音の刃に直撃し、その勢いで福音を後方へと弾き出した。

だが、それで追撃を止めるほど、今の箒たちは優しくない。

 

 

「おおおおッ!!!!」

 

 

上空から双剣を振り下ろす和人……右側から回り込む様にして蛇腹剣《ラスティー・ネイル》を振るう刀奈、左から斬り込む箒。

二刀流スキル《ゲイルスライサー》が刃2本と弾き合い、《ラスティー・ネイル》が福音の左脚に巻きつき、その動きを一時的に封じる。

箒の両刀もまた、福音の刃と装甲によってせめぎ合っている状態だ。

 

 

 

「ギャアアアァアアアッ!!!!!」

 

「「「ッ!!!?」」」

 

 

 

絶叫とともに、福音の体から光が溢れ出る。

それは衝撃波となり、接近していた和人、箒、刀奈を吹き飛ばす。

福音に一撃入れようと接近していた明日奈も、突然の事に驚き、接近するのを躊躇った。

その隙を知るや否や、福音の翼からエネルギーが再び溢れ、収束する。

 

 

 

「まずい! 砲撃よ!」

 

 

 

刀奈が叫んだが、遅かった。

収束したエネルギーは、大きな粒子砲と遜色ないレベルで発射され、まずは四人……接近していた刀奈、和人、箒、明日奈に向けて放たれた。

 

 

 

「「させない‼︎」」

 

「やらせるか!」

 

 

 

だが、和人、明日奈、箒の前に、それぞれシャル、簪、ラウラが出る。

シャルと簪は防御壁を展開し、ラウラはAICを発動。

福音の砲撃から、三人を守った。

刀奈は自前の障壁を張っていたため、ほぼ無傷だ。

 

 

 

「落とさせない!」

 

「この程度じゃ落ちないよ!」

 

「いけ! 鈴、セシリア!」

 

 

 

ラウラが叫んだその先には、ロングライフルで正確無比な狙撃を繰り出すセシリアと、機能増幅型パッケージ《崩山》により、不可視の砲弾から灼熱の炎弾を放てるようになった鈴が、福音を追い詰める。

 

 

 

「逃がしませんわ!」

 

「とっとと落ちろぉっ!」

 

 

 

逃げ場を塞ぐ様にして、鈴の炎弾が雨の様に降り、常に体の装甲だけを狙い続けるセシリアの狙撃。

福音も、こればかりは防ぐしか手がなかった様だ。

だが、その一瞬の間……炎弾とレーザー光が錯綜する合間を縫って、福音は狙撃手たるセシリアの元へと急速に肉薄してみせる。

 

 

「くっ!?」

 

 

 

ブルー・ティアーズにも近接格闘用の装備はあるが、それでも心許ない。セシリア自身、ALOにより短剣スキルを多少は上げている為、近接格闘が全く出来ないとは言わないが、暴走し、近接格闘に特化したSAO生還者たちを一蹴する相手には、正直なところ敵うはずがない。

どうにかして距離を取ろうにも、相手は超音速で飛行する機体。目の前まで接近されたのなら、最早逃げ切れない。

そしてその手が拳が握られ、高速の拳打が放たれる。

 

 

 

「させるか!」

 

 

 

ギンッ という鋼が弾かれる音。

目の前には展開装甲を発動させた紅椿の姿があった。

 

 

 

「箒さん!」

 

「セシリア、今の内に下がれ!」

 

「は、はい!」

 

 

 

紅いエネルギーの羽が出現し、福音と同じ超音速飛行が可能になった紅椿。

これで、速度の面では福音が上回ることはなくなった。

 

 

 

「逃がすか。今度こそ、貴様を討つ‼︎」

 

 

 

箒の気迫が、福音にも届いたのか……紅と銀の機影が同時に動き出す。

エネルギー刃と、紅椿のブレードビットが放たれ、衝突。その後、超接近戦に持ち込み、手に持つ刀の刃と鋼の拳が打ち付けられる。

波紋の様に広がる力の波動……二機が激突した空中からは、とてつもない衝撃と光が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「てえやあああっ!!!!」

 

「はあああああっ!!!!」

 

 

 

 

夕焼け色に染まる水平線。

そこを駆け抜ける二人の剣士と侍。

片や純白の日本刀を振りかざし、片や美しくも鋭利な雰囲気漂う両手剣を振るう。

鋼と鋼がぶつかり合うたびに、激しい音と、大量の火花を散らす。

その衝撃によって、水面が震え、幾度となく波紋を広げる。

 

 

 

「やあっ!」

 

「くっ、ふんっ!」

 

「うわあっ!?」

 

「せやあっ!」

 

 

力と速さで一夏を追随するストレア。

その力を流し、弾く一夏。

互いに一歩も譲らない。その戦闘が、一体どれくらい続いたのかはわからないが、今の今までに相当斬り結んでいる。

その証拠に、一夏とストレア、両方共に肩で息をしている。

だが驚くべき事に、先ほどの剣戟の最中でも、ストレアは一撃たりとも一夏の攻撃を受けていないのだ。

僅かに来ている衣服を斬り裂いたくらいだが、それでも、一夏からすれば、ここまで自分の剣戟に付き合える人物がいた事に、少なからず驚いてもいるし、感動すらしている。

 

 

 

「はぁ……はぁ……凄いな、今まで何度となく勝てると確信した斬撃はあったってのに、まだ捉えられないか……」

 

「はぁ……それは、私も成長してるからだよ」

 

「成長?」

 

「うん……言ったでしょ? 私もユイと同じAIだって。ユイも私も、初めは何も知らないプログラムだった……けど、ユイはキリトとアスナ……私はチナツとカタナの事を見て、色々と学習していたの。

そしてユイは電子系統……主にプログラムに対してアクセスする権限に特化して、私は戦闘に特化したMHCP。私はチナツと斬り合うたびに、チナツの動きを学習してる……つまり!」

 

 

 

 

ストレアは両手剣の鋒を一夏に向けて言った。

 

 

 

「時間をかければかけるほど、私はより実践的な剣術を学ぶ……それだけチナツの不利になるってことだよ!」

 

 

 

自信満々な笑みを浮かべながら、ストレアは一夏に宣言する。

だが、その剣を向けられている一夏は、心のどこかに違和感を感じていた。

自信満々なストレアの笑みの中には、どこか、何かを労わっている様な……そんな感じがしたのだ。

 

 

 

(それに、あれだけのパワーとスペックがあるのに、どうして俺を倒し切らないんだ?)

 

 

 

それが一番気になっていた事だ。

一夏に勝り始めた気合と力。そして、システム外の力である《示現流》を完璧にトレースしている今のストレアは、簡単に一夏を倒し切れるはずだ。

だが、一向にその気配がない。

手を抜いているわけじゃないし、一夏が特別な力を披露しているわけでもない。

しかし、一夏の攻撃を容易く躱し、弾いて、一夏に渾身の一撃を見舞える機会は、何度かあった。ストレアは、一夏を倒し切るチャンスがあったにもかかわらず、それを見逃したのだ。

 

 

 

「どうして、俺を倒そうとしないんだ?」

 

「え? どういう意味?」

 

「ストレア自身の事だ。確かに、ストレアは俺に、「力を証明しろ」って言ったけど……でも、本当にそれだけか?」

 

「…………」

 

 

 

 

不思議に思っていたこと。

確かにストレアと、白い騎士は一夏に言った。“力を欲するのならば、その資格があるか証明してみせろ” と。

ならば、ストレアの戦い方にも納得がいく……だが、手っ取り早くその力を見るならば、一夏を追い込む様にして徹底的に叩く方が早いはずだ。

だが、開始早々ストレアはそんな素振りを見せなかった。

充分に仕留められるくらいの力量くらいは持ち合わせていたというのに……。

問いかけた先いるストレアの表情は、微笑んではいるが、どこか暗い。

少し俯いたその顔は、前髪や影によって表情を隠す。

 

 

 

「……チナツはさ、どうして戦うの?」

 

「…………どうして、か……。そうだな……」

 

 

 

一夏自身が戦う理由……。

それは決まっている。昔から思っていたことだ……自分の力で、助けられる人たちがいるのなら……出来うる限り助けてあげたい。

だが、その結果として、一夏は地獄を見た。

自分の誤りを知り、その身に罪の十字架を背負った。

それからは、罪をすすぐために各階層をめぐる旅に出た。

そして、一夏は運命を変える出会いをしたのだ。

再び、自分に戦う意志を……理由をくれた人と出会った。

 

 

 

「昔から何も変わっていないよ……この戦いを始める前にも言ったが……俺は、大切な物を守りたいから……戦うんだ」

 

「そのせいで、チナツは地獄を見てきたんでしょう? なのに、なんでまたその場に踏みいろうとするの?」

 

「…………」

 

「チナツだって、傷つきたくはないでしょう?」

 

「そうだな」

 

「なら、なんで戦い続けるの? チナツだって苦しかった筈……辛かった筈……チナツの今までの生き方知っている人なら、ここでチナツが戦いを止めたところで、責める人はいないよ?」

 

「そうかも知れない、けど……やっぱり無理だ」

 

「なんで?」

 

「何度も言わせるなよ……俺は、大切な物を守るために戦う。それが人だろうと、信念だろうと、場所だろうと……な」

 

「…………そっか。でも、私は嫌だな」

 

「ストレア……」

 

「ごめんね、チナツ。今まで抑えたけど……やっぱりダメだ」

 

 

 

ぶらりと下げていた両手剣。

だが、それ一振り……左から右へと振り払う。

その瞬間、途轍もない衝撃波が起こった。

 

 

「っ!? これは……っ!」

 

「ここからは、チナツを本気で倒しにいくよ……ッ!」

 

 

どうやら、今がトップギアに入った様だ。

今までにないくらい真剣で、鋭い眼差しを見せるストレアに、一夏は一瞬飲まれてしまった。

 

 

 

「この気迫……っ、闘気? いや、殺気か!」

 

「殺気くらい出さないと、チナツには勝てないでしょう? ほら、何ボサってしてるの、チナツ。

早く構えて……今から私は、チナツを斬り刻むんだから……ッ!!」

 

「…………生憎だが、俺はストレアを斬るつもりはないよ」

 

「どうして?」

 

「俺は、無意味な殺生はしないと決めたんだ。『不殺の誓い』……とても言ってくれ。だから、俺は君を斬らないよ」

 

「そっか……優しいね、チナツは……でもね? 今はそんなこと言ってられるかも知れないけど、後になって後悔しないでね?

やると言ったからにはーーーー」

 

 

 

ストレアが構えた。

 

 

 

 

「ーーーー本気で獲りに行くからねッ!」

 

「っ!?」

 

 

 

爆発的なスピードで、一気に一夏との間にあった距離を縮めたストレア。

右から左へと放たれた左薙の一閃。

先ほどまでの斬撃が、子供のお遊びと思える様なスピードで、一夏の胴体を斬り裂こうとする。

 

 

「ぐっ?!!」

 

 

咄嗟に刀を間に入れ、斬撃そのものを防ぐことはできたが、それでも、その両手剣から伝わってくる重さとも言える衝撃が、一夏の体を痺れさせる。

 

 

(なんーーッ!?)

 

「でええやあああッ!!!!!」

 

「ぐっ!!?」

 

 

 

振り抜かれた一閃。

一夏の体は、まるで豪打者によって打たれた野球ボールの様に、空高く弾かれた。

途轍もない衝撃ーー剣による物と、吹き飛ばされたことで発生したGによる圧力が、再び一夏に襲いかかる。

だが、そんな一夏の事情などお構い無しに、いつの間にか一夏の上を脅威的な脚力で飛翔しているストレアを、一夏は驚愕の眼差しで見ていた。

 

 

 

「えええぇぇいッ!!!!」

 

「があッ!?」

 

 

 

思いっきり上段に構えていた両手剣を、容赦無しに一夏に対して振り抜く。当然、一夏は《雪華楼》で防ぐことしかできないため、防御の姿勢をとるが、あっけなく地面に向かって再び弾き飛ばされた。

 

 

 

「くっ……!」

 

「まだまだッ!」

 

「ちっ!」

 

 

 

巨大な水柱が上がり、一夏が墜落した地点は、小さなクレーターができた。その中心で倒れていた一夏は、体に伝わる痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がろうとしたが、ストレアからの追撃がそれを邪魔する。

咄嗟に右に飛び、ストレアからの斬撃を躱したが、すぐにまた距離を詰められ、今度は左から右へと一閃。

今度は一夏も逃げず、一歩脚をストレアの方に踏み込み、ストレアの斬撃を真正面から受け合う。

 

 

 

「ぐぅっ!」

 

「ふぅっ!」

 

 

互いに両腕に力を込め、相手を押し返そうという腹づもりなのか……。

鍔迫り合いとなり、互いに一歩も引かない。

 

 

 

「なんだよ……えらくパワーが段違いじゃないか……ッ!」

 

「当然だよ。このままチナツが勝っちゃったら、チナツはまた戦いに行くんでしょう!?」

 

「ああ。仲間が戦おうとしてる……戦っているんだ。なのに、俺だけ寝てるわけにはいかないだろ!」

 

「どうして!? チナツ一人が加わったからって、絶対に勝てるって保証はないんだよ? それに怪我してるくせに、戦場に出て、また大怪我をするつもり!?」

 

「そうならない様に戦うだけさ! だけど、なんでそんな事をストレアに言われなきゃいけないんだよ!? 戦うのは俺なんだ、ストレアが心配することじゃないだろう!」

 

「ッ!」

 

 

 

一夏の言葉に、ストレアがキレた。

 

 

 

「どうしてチナツが戦う必要があるの! 他のみんなだって、今必死に戦ってるじゃない‼︎」

 

「ああそうだ。だけど、それじゃあ俺の気が収まらないだよ! 俺だけ安全なところにいて、仲間が死ぬかも知れない戦いを、黙って見てろっていうのか?!」

 

「チナツが戦う必要はないじゃん! 怪我までしてるのに、そんな体で戦って何になるの!」

 

 

 

 

自由奔放で、無邪気な性格をしているというのが、一夏が抱いたストレアの印象。

だが今の彼女は、どこか昔の刀奈に似ていると思った。

どうしてそこまで一夏が力を得ることを拒むのか……その言葉の端々に見える感情……剣から伝わってくる、何とも言えない感性……この感情は一体、何なのだろう。

 

 

 

「私は嫌だよ! チナツが傷つくところなんて、もう見たくないしさせたくない!」

 

「っ!?」

 

「あんな事があって、やっとみんなで楽しくできるっていうのに……まだ戦おうとしている……私には、理解できないよ……!」

 

 

 

その言葉には、はっきりとわかるくらいに、悲しみという感情が含まれていた。

そう、ストレアは知っているのだ……一夏が味わった地獄を……。

そのために、一夏がどの様な生活をしていたのかを……。あの時は、刀奈という鞘がいた。

一夏という一振りの妖刀を納める鞘がいたが、今はその鞘もいない。

なんせ一種の仮想世界の中に、一夏とストレアの二人しかいないのだから。

だからこそ、ストレアはそんな一夏を、戦場に行かせたくないのかもしれない。

もとより、戦って欲しくないのかもしれない……。

 

 

 

「ストレア……」

 

「わかってよ……私にはわからないんだから、チナツが私の、私たちの気持ちをわかってよ……ッ!」

 

 

 

AIとしては、まだまだデータの少ないストレアやユイ。その一番の情報源は、一緒にいる者たちの感情や仕草。

だから、ストレアには一夏の感情を、まだ詳しく知ることはできない。だが、どうしてか、一夏が戦いに向かうのだけは避けたい。

一夏が怪我をするところを見たくない。

一夏が倒れるところを見たくない。

一夏が絶望するところを見たくない。

そんな感情だけが、ストレアの心を埋め尽くしていた。

初めに好戦的な戦いをしていたのは、無意識にこの場に一夏を止めようとしていたからなのかもしれない。

でも、一夏はそれを見破った。なぜ自分を倒し切らないのか……時間を稼いでいる様にしか思えないと思ったのだろう。

だから今度は、一夏に対して立ち上がれないほどの力を見せつけて、戦いに行かせない様に、ここで留まってもらおうとしたわけだ。

その感情に、一夏はようやく気付いた。

 

 

 

 

「ありがとう……でも、それじゃあダメなんだよ、ストレア。それは俺の意思じゃない。

たとえそれが俺の為でも、俺の為に、誰かが犠牲になるのを、俺が見たくないんだ」

 

「…………」

 

「だから悪い。俺の思いは変わらないよ、ストレア。そして力を得る。再び、戦える力を……!」

 

「そっか……じゃあ、私も遠慮はしないね」

 

 

 

ストレアの頬を伝う雫が、水面に落ちて波紋を広げる。

それと同時に、ストレアは正眼に両手剣を構えた。これを見て、一夏もまた、《雪華楼》を正眼に構える。

 

 

 

「チナツは私を倒して、力を得る。そして私は、チナツが力を得るのを拒んでいる。

なら、わかってるのね?」

 

「ああ……。互いに譲れないっていうなら、相手をへし折ってでも、前に進むしかない……相手を倒して、自分の心を示すしかないって事だ……ッ!」

 

 

 

二人の気迫が増大し、空中でその気迫がぶつかり合う。

何もない空間から、突風に似た何かが弾け、水面を少しばかり揺らがせた。

 

 

 

「いざ……!」

 

「……尋常に、勝負‼︎」

 

 

 

ゆっくりと、流れる様にして肢体が動く。

二人ともほぼ同時……水面を蹴り、一瞬にして間合いを詰める。

振りかぶった剣と刀が、鋭い一閃の下に、斬り結ぶ。

ジャリッ! という刃同士が削りあうような音が鳴り、それと同時に少量の火花がチラチラと花開く。

 

 

 

「ぐっ……はあぁぁぁッ!!」

 

「ちっ……うおおおぉぉッ!!」

 

 

 

二度、三度と刃が斬り合う。

素早さの中にも洗練されたしなやかさを感じる一夏の刀と、豪快であるが、どこか繊細な印象をもつストレアの剣。

 

 

 

「やあああッ!」

 

 

両手剣が黄色に染まる。

単発上段斬りの両手剣スキル《ブラスト》

対象を斬ればスタンの効果もあるが、当たらなければ意味がない。

《ブラスト》が振るわれる直前に、地面を蹴って上空へと跳び、攻撃を回避した一夏。

そのままドラグーンアーツ《龍槌閃》を放つ。

が、これはストレアも反応し、咄嗟に剣を上方へと向けて捌く。だが、一夏も着地と同時に体を左に回転させ、勢いそのまま一閃。

ドラグーンアーツ《龍巻閃》。対してストレアも体を回転させて放つ単発旋回斬り《サイクロン》で迎え撃つ。

同じ翡翠色に染まった剣と刀がぶつかり合い、光を弾く。

だが、ドラグーンアーツと普通のソードスキルでは、スキル使用後の硬直時間に多少の差が出る。

互いに剣戟を合わせ、その衝撃に弾かれてしまうが、一夏の方が出だしが速い。

持ち前の〈神速〉を使い、一気にストレアの背後を取る。

そこから繰り出された片手直剣スキル《ソニックリープ》。タイミングもバッチリ。ストレアの背後を取ったと思ったのだが……

 

 

 

「そうくると思ったよ!」

 

「なにっ!?」

 

 

いつの間にか緋色に染まった両手剣。

一夏の放った《ソニックリープ》に合わせて発動した様だ。

その剣技。両手剣スキルのカウンター技の一つである、背後を取られ、奇襲を受けた時に使われるソードスキル《バックスラッシュ》。

咄嗟に一夏もブレーキをかけようとするが、一度発動したスキルを中止する事は出来なかった。翡翠と緋色に染まった刃が交錯するが、勝ったのは、ストレアの剣だった。

 

 

「がはっ!」

 

 

愛刀の《雪華楼》の上からではあったが、両手剣スキルをまともにくらってしまった。

数メートル吹き飛ばされ、水面に体を打ちつける。どうにか勢いを殺し、体勢を整え、その足で水面に立つが、ついに膝をついてしまった。

 

 

 

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 

 

 

右の脇腹から、痛みを感じる。

目線だけで脇腹に目を向けると、そこが赤く滲んでいるのに気づく。

 

 

 

ーー血だ……!

 

 

深手ではないものの、白を基調としている血盟騎士団の制服が赤く染まっている。

どうやら、ここでの傷は現実世界同様に、肉体にも如実に現れるということらしい。

この痛みも、この温かさも、現実世界と変わらない。

 

 

 

「ここはある意味、一夏の精神世界ともリンクしいるの……。だから傷つけば、それに応じた傷、痛みを受ける。

わかった? 私に勝てない今のチナツに、力を得て戦いに向かう必要はないって。

わざわざチナツがいかなくても、今のみんななら、絶対に福音を倒すことができる」

 

「…………」

 

 

 

そう、今自分がいかなくても、福音は倒せるかもしれない。

前の戦いでは、予想外の出来事によって、作戦が乱れ、遅れを取ったが、今度はそんな事にはならないだろう。

刀奈も、簪も、より入念な作戦を練っているか、あるいは出し惜しみなしで挑んでいるはず。

だけど、それでも…………

 

 

 

「ぐっ……! ンンッ!」

 

「っ!? まだ……!」

 

 

 

ゆっくり。ゆっくりと、一夏はその身を起こす。

脇腹の痛みに耐えながらも、その場に立ち上がる。それが、一夏の思いだからだ。

 

 

 

「ああそうだ……ここで倒れてたまるか。俺は、俺の意思で、戦うだけだ! たとえそれで、傷ついても、倒れても、俺は後悔だけはしない‼︎ 俺の思いは、俺の信念は、こんな所で終わる様なものじゃないッ‼︎」

 

「言ったでしょ、私はチナツを戦場になんか行かせない。ここで引かないっていうなら、私も今度こそ手加減しないよ」

 

「ああ……それでいい。言葉でわからないなら、剣で語らうまでだ。それが剣士ってもんだろう……。

さぁ、決着をつけようぜ……ストレア!」

 

 

 

愛刀《雪華楼》を鞘に納めた。

そして腰だめに体を捻り、右手を刀の柄に添える。

 

 

 

(っ……抜刀術か。なら、この場面で出すのはあの技……一か八かの勝負ってわけか)

 

 

 

ストレアは知っている。

一夏の奥義を……抜刀術という限定された力に秘められた、究極の一撃を。

おそらく、あの世界でこの奥義を使えたのは、一夏だけだろう。

そんな一夏が、ここで決着をつけようとしているなら、ストレアだって、望むところだった。

 

 

 

「いいの? 最悪、命まで奪うかもしれないよ?」

 

「それは仕方ない事だ。互いに真剣を向けあって挑んだ立合いだ。そうなってもおかしくはないよ」

 

「そう……なら、もう決めるね」

 

 

 

ストレアも腰だめに両手剣を構える。

一夏の使う技が、今ここで出されるなら、それよりも速く、一夏を斬らなくてはならないだろう。

そんな速さ、ストレアには出せないが、手傷を負っている今の一夏に、果たして奥義が使えるかどうか……。

 

 

「ーーーー疾ッ!」

 

 

先に動いたのはストレアだった。

両手剣持ちの中でも、トップクラスの駆け出し。剣に込める力が、より一層増す中、ストレアの動きを見て、未だに動かない一夏に対し、ストレアは疑問を浮かべた。

 

 

(どうして斬り込んでこないんだろう……? チナツの間合いには、もう入ってるはずなのに……。誘い込んでる?)

 

 

だが、すぐその考えを捨て、一夏の姿を自分の間合いの中に捉えた。

しかし、その瞬間、一夏も動いた。

だがそれは、ストレアに向かって走るのではなく、真上……空に向かって飛び出したのだ。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

一夏の行動に、一瞬気が削がれたが、またすぐにそれを振り払いら一夏の後を追う様にして、ストレアも跳躍した。

 

 

 

(奥義じゃない? じゃあ《龍槌閃》? でも、鞘に納めてる……)

 

 

《龍槌閃》は上空に飛んでから放たれる上段斬り。

しかし、今《雪華楼》は鞘に収まっている。これは明らかに抜刀術の構えだ。

 

 

 

「でも、これで私の勝利は決定したよ!」

 

 

ストレアの言葉を剣が拾ったかの如く、ストレアのもつ両手剣……白い騎士から借りた両手剣が、赤黒い色の光を帯びる。

そしてそこから放たれた、両手剣スキル最上級スキル《カラミティ・ディザスター》

両手剣スキルの中で最も多い6連撃の大技だ。

あとは、自然に降下してくる一夏に全連撃を打ち込めば、ストレアの勝ち。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

だが、ストレアは奇怪な光景を見た。

何故なら、落下しながらも、まるで今から抜刀術をする様な仕草をしている一夏の姿が、そこにあったからだ。

 

 

 

「っ! はあああッ!!!!!」

 

「うっ!?」

 

 

 

体を高速に回転させる一夏。

そこから放たれた抜刀術……。それはストレアの知らない、未知の抜刀術スキルだった。

抜刀術スキルの奥義でもなければ、《龍槌閃》でもなく、はたまた回転斬りである《龍巻閃・旋》でもない。

一夏の放たれた抜刀術は、ストレアの放った剣戟よりも速く、ストレアの体を斬り込んだ。

そして二人は、そのまま地面へと着地する。

一夏はそのまましゃがみこんだまま……ストレアは、片膝をつき、両手剣の柄を、まるで杖をついている様にしていた。

 

 

 

「くっ……今のは……!」

 

「この技は……お前も知らないだろう。たとえ奥義を出そうが、俺と戦うことで学習して強くなるストレアに、決定打を与えることはできないって思ってな……あの時、咄嗟に思いついたんだ」

 

「思いついたからって、それをいきなりやってのけるなんて……!」

 

 

 

一夏もどちらかとも言うと、和人と同じ様に、思いがけないことをしでかす人物だと、改めて認識したところだった。

 

 

 

「はぁ……それで、どうする? まだやるか……」

 

「…………」

 

 

一夏の問いかけに、ストレアは自身の体を見て考える。

確実に入った一夏の一撃。

右の脇腹から左肩にかけて、一筋の刀傷が入っていた。

出血は思ったよりも大したことないが、この状態で一夏と戦うのは、もう無理だと思った。

 

 

 

「私の負けだよ……」

 

「そうか……」

 

 

 

俯くストレアを見ながら、一夏はゆっくりとストレアの方へと歩み寄っていく。

 

 

 

「ストレア……その……」

 

「ほんと、チナツもキリトも無茶ばっかりなんだから……」

 

「ああ……そうだな、ごめん」

 

「謝らなくてもいいよ……私こそ、ごめんなさい……痛かったよね?」

 

「俺を言うなら、今のストレアだってそうだろ?」

 

 

 

戦いの最中に付けてしまったとは言え、女の子の体を斬ってしまった事に、一夏はもの凄い罪悪感を覚えてしまった。

急いでストレアの元へと向かい、彼女の正面に座り込んで、彼女の両肩に手を添え、少し身を起こすが、いつの間にか付いていたはずの傷が、完全に消えていた。

 

 

 

「え?」

 

「ああ……傷ならもう治したよ?」

 

「そんな簡単に治せるのかよ?!」

 

「うん。だってここは精神世界の一瞬だっていったじゃん。現実の様に傷を負うけど、その代わり、意識すれば治りだって早いんだよ」

 

「何つうチート技だよ、それ……」

 

 

 

この世界のことを、少し甘く見すぎていたらしい。

すると、ストレアは一夏の顔をまじまじと見て、再び尋ねる。

 

 

 

「本当に……行くだね……」

 

「ああ……みんなが待ってる」

 

「そっか……分かった……チナツは私に勝ったんだもん。私はチナツを止められなかった……だから、チナツは戦いに行く権利を得たんだもんね」

 

「どうして……そこまで俺を?」

 

「…………正直言うとね、わからない。でもこれは、いろんな人の感情なんだと思う。

今までモニタリングしていた、プレイヤーたちの感情の中から得られた、『人を心配する』っていう気持ち……うーん、これもなんか違うな」

 

 

 

先ほどとは打って変わり最初に会った時の様な、飄々として、掴みどろのない天真爛漫と言う言葉がよく合う少女の様に思える。

では、さっきの戦いで見せた彼女は一体何だったのか……?

 

 

 

 

「あの時は、その……何だろう、感情がそのままトレースしてたって言うのかな?

これは多分、カタナのだと思うんだけどなぁ〜?」

 

 

 

 

などと言うストレア。

なるほど、確かに刀奈の感情を一身にトレースしたのならば、あの豹変っぷりは納得だ。

そしてそこで気づいた。

ずっと思っていた事……ストレアと戦っている最中、一夏はどこか、ストレアの表情、あるいは言動が誰かに似ていると思ったのだ。

それはそのはずだ。何せ、自分と一番近くにいる人と似ていると感じたのだから。

 

 

 

「なるほどね。あれはカタナだったのか……」

 

 

 

おそらく対峙していたストレアの姿は、刀奈の内に秘めた思いの丈……だったのかもしれない。

そう思うと、また自分は、彼女を不安にさせていたのだと、自覚せざるを得なかった。

 

 

 

「はぁ〜あ〜。試験だったとは言え、やっぱり負けるのは悔しいなぁ〜」

 

「まぁな……」

 

「さて、じゃあそろそろ終わりにしようか……」

 

 

 

 

そう言うと、ストレアはその場に立ち上がり、後ろを振り向いた。

 

 

 

 

「もう終わったよ」

 

『ようやくですか……』

 

 

 

 

どこからともなく声が聞こえたと思ったら、いつの間にか、一夏の背後に、例の白い騎士の姿があった。

 

 

 

「それで、どうでしたか?」

 

「うん……やっぱりチナツは強いや」

 

「そうですか……。では、彼に新たな剣を授ける……という事でよろしいのですね?」

 

「うん。私も心配だけど、今のチナツなら、大丈夫だと思うから」

 

「わかりました」

 

 

 

短いやり取りを終えた騎士とストレアは、一夏の方を向く。

そして騎士の方が右手を出し、水面に向かって手のひらを向けた。

するとそこに、真っ白……ただただ真っ白くて、ゆらゆらと炎の様に揺らめく、剣の形をしたものが現れた。

 

 

 

「資格を持つ者よ、この剣を取りなさいーーー!!!」

 

 

 

その言葉に、一夏は息を飲んだ。

自分でもわかるくらい、体が強張っているのがわかる。

すると、そんな一夏を見て、ストレアがいきなり真正面から抱きついてきた。

 

 

「お、おい?!」

 

「騎士さんが剣をあげたんなら、私も、身を護る甲冑くらいはあげないとね♪」

 

 

その言葉を発した直後、ストレアの体が、淡い紫色に発光する。

その光はやがて一夏の体をも包み込み、数秒後、その光は消えた。

 

 

「私からも贈り物をしておいてあげたからね♪」

 

「ありがとう、ストレア……それに、騎士殿も」

 

 

 

この二人には、感謝の心でいっぱいだ。

すると、今度は左手を、誰かが握る。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

ストレアは抱きついているし、騎士の両手は一夏の目に見えるところにあるので、騎士ではない。

ならば誰なのだろうと思い、一夏は視線を左に向ける。

するとそこには、水面に立ち、空を見上げていた、白髪の少女がいた。

 

 

 

「君は……!」

 

「ほら、みんなが呼んでるよ」

 

「…………ああ、そうだな」

 

「だから、行かなきゃね……!」

 

「ああ……行こう、みんなで!」

 

 

 

 

空いていた右手で、その剣を握る。

その瞬間、一夏の視界は真っ白い光に包まれ、やがてその世界もまた、純白の光に覆われていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






次でようやく福音戦は終わりかな?

そのあとは、夏休みイベントですね。
一夏の家に行ったり、プールで遊んだり、ALOのクエスト。
色々と書きたいのが多くて大変です(⌒▽⌒)

感想、よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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