ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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意外と早くかけたので、更新します(⌒▽⌒)




第42話 決行

「はぁ……っ! はぁ……っ!はぁ……っ!」

 

 

 

浜辺で一人、黙々と木刀を振っている少女。

もう何百本と振り続けた木刀。それを握るでも、皮が剥けて血が流れ、柄が真っ赤に染まっていた。

もう一度振り抜こうとするも、流石に振り続けたせいか、脚に力が入らず、その場に膝をついてしまう。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

彼女……篠ノ之 箒は、まるで見えない何かと戦っている様であった。

それは実体のない、幻の様な物。それが何なのか、箒自身にもわからない。

だが、その何かが、箒の心を苛む。

 

 

 

「はああああっ!」

 

 

 

いつもの自分ではない……それは自分でもわかっている。だが、何がどう違うのかと言われると、すぐには答えられない。

もしかすると、その答えを求めて、自分は木刀を振り続けているのかもしれない。

だが、今度はその木刀を握る手にも、力が入らなくなってきた。

砂浜の上に、木刀が手から滑り落ちる。

痛みが手のひらから手全体に広がる。だが、箒は痛みを感じていないのか、特に表情を変えず、そのまま俯く。

髪を結んでいたリボンは焼け消え、結える物がなくなった髪は、だらんとまっすぐ伸びている。

そのままで充分綺麗な髪をしているのだが、やはり何かが違う様に思えた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「何やってんのよ、あんた」

 

「っ!?」

 

 

 

後ろから声をかけられ、咄嗟に振り向く。

そこには、タオルを片手に差し出しながら見ている鈴の姿があった。

 

 

 

「り、鈴!? 何故ここに?」

 

「そりゃこっちのセリフだっつーの。あんたこそ、急に部屋で寝かされてたかと思ったら、ここで何やってんのよ?」

 

「そ、それは……」

 

 

 

いつもの箒らしからぬ、言い淀んだ口調。

鈴は箒の手と、その下にある木刀に目を向けた。どちらも血がついている。

そして、今の箒の状態から、ある程度の事は察したのだろう。

 

 

「なるほどねぇ〜。寝てるだけじゃなくて、ここで鍛練してたってわけか……けどさぁ、それでも限度があるでしょうに」

 

「う、うるさい! そんなの、私の勝手だろう……」

 

「まぁ、そうなんだけどね……」

 

 

 

箒は鈴からタオルを受け取り、汗を拭った。

しばしの沈黙が、二人の間に流れたが、鈴の方から再び口を開いた。

 

 

 

「あたし達はただ逃げただけだからさ、最後に一夏がどんな戦いをしていたのかわかんないんだけど……あんたはあいつを見てたんでしょう?」

 

「……ああ。最後、私はトドメを指されると思った……そしたら、一夏が……。私は、何も出来なかった。一夏の戦う姿を見ている事しか出来なかった……っ!」

 

「そっか……。あいつらしいわ」

 

「……鈴、悪いのだが、一人にしてくれないか……」

 

「何で?」

 

「何でって……それは……」

 

 

 

わからない。だが、何故だかそう言う気分なのだ。

一人で答えを見つけなければ、いけない様な気がするから……。

 

 

 

「あんた……実は怖いんじゃないの?」

 

「な、なにをーーっ!」

 

「見栄張るんじゃないわよ……大体、そんなのあんたの様子見てれば分かるっての。

今日が初めての実戦。それも試した事のない機体で、ぶっつけ本番。それで命の危機を知って、恐怖心が芽生えたんでしょう?」

 

「…………」

 

「正解……みたいね」

 

 

 

そうだ、本当はわかっている。自分は、戦いを恐れている。

初めて実戦を経験して、死への恐怖を味わった。

あの時のことを思い出すと、身震いする。ましてや、目の前で一夏があの様にやられたのなら……尚の事だ。

 

 

 

「箒、今更だけど言っておくわ。あんたは専用機持ちのことを舐めすぎよ……っ!」

 

「な、なに!? 私はその様なことーー」

 

「じゃあ何? あんたにとっての専用機持ちっていうのは、専用機を扱い、周りの人間を見下す事ができる存在だとでもいうわけ?」

 

「ば、馬鹿者! いつ誰がそんなこと言った! 私はただ……」

 

「ただ?」

 

「…………一夏やお前達と、肩を並べて、共に戦える力が欲しかっただけだ……!

何も出来ず、逃げて、隠れて……そんな自分が嫌だから、私はーー」

 

「だからそれが舐めすぎって言ってんのよ!」

 

「っ!?」

 

 

 

怒り目を箒に向け、怒鳴る鈴。

そんな鈴の気迫に押され、一歩背後に退がってしまった箒。

 

 

 

「私たち専用機持ちは、血の滲むような努力をしてきた。軍の訓練にも参加して、実戦形式の戦闘訓練もしたし、ちょっとした事件なら容赦なく駆り出される。

その中には、戦闘が起こって相手を殺さなきゃいけないものだってあるの! あんたにそれができる!? 今のあんたに!」

 

「わ、私は……」

 

「あたしも、実戦はあまりした事ない。多分、あるとしたらラウラが一番多そうね。あいつは部隊の隊長やってんだもん、自分が隊の指揮を執らなきゃいけないんだから……。

簪だって、特殊な家系なんでしょう? なら、そういった事件の解決に、駆り出された事だってあるでしょう。

その他の候補生も一緒。セシリアも、シャルロットも、みんなちゃんとした訓練を受けて、覚悟を持って、持つに相応しいって認められたの。でもあんたは? ただ力が欲しかったってだけで最新機を用意してもらって、実際に戦ったら素人だから無理でしたーなんて……そんな言い訳が通るわけないでしょうが!」

 

「…………」

 

「一夏や和人はそんな物はないけど、あいつらはあいつらでちゃんと戦う意志も、覚悟も持ってる。

けどあんたにはそれがない……。そんなの、いくら戦ったって、私たちの足元にも及ばないわよ」

 

 

 

吐き捨てる様に叱責する鈴に、箒は何も返す言葉が見つからなかった。

それはそうだ。鈴の言ってる事は、正しくその通りなのだから。ISは兵器……元々の趣旨がどうであれ、今のISは最強の兵器なのだ。ならば、それを扱うのに、意志がいる、資格がいる、覚悟がいるのだ。

だが、今の箒にはそれがない。

ただ力を欲しただけで、何のために力を欲したのか……それが明確ではない。

そのまま戦っていても、何者にも勝てはしないだろう。

 

 

 

「正直あんたの剣の腕は一級品だと思うわ。私が同じ土俵で戦っても、絶対に勝てないと思う。

けど、言い換えればあんたにはそれしかない。いくら剣術が凄くても、それを使うあんたが未熟なら、私の敵じゃないわね」

 

「くっ……!」

 

「けど今更、あんたに専用機を持つな……なんて言えないしね。もらってしまったのなら、それをあんたがどうするか、あんたが決めなさい。

けど、もしまたくだらない事で戦おうとするなら……」

 

 

 

鈴は箒に話しながらその場を去る。だが最後に、一旦止まって、背中越しに箒に言った。

 

 

 

「ーーーーあたしがあんたを叩き潰してあげるから、覚悟しときなさい!」

 

 

 

 

それだけ言い残し、鈴は旅館の方へと歩いて行った。

 

 

 

「覚悟……私の、覚悟は……」

 

 

 

一人残された箒は、自分の心内に問いかけた。

自分は一体、何を求めているのか……何のために、力を欲するのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てやあああ!」

 

「チッ!」

 

 

 

ドオオーーンッ‼︎

 

 

 

 

巨大な水飛沫な上がる。

戦闘が始まって、まだそんなに時間は経っていない。

だが一夏は、目の前の少女の実力に驚嘆していた。

 

 

 

(なんて技量だ。あんな華奢な腕をしてるのに、軽々と両手剣を振り回してる……)

 

 

 

両手剣は片手剣に比べ、攻撃範囲も広く、相手に与えるダメージも多いが、それ故に取り扱いが難しく、動きも遅くなる。

だが今目の前にいる少女、ストレアは、それを軽々と振り回して、一夏と渡り合うほどの剣戟を見せたている。

 

 

 

「やるな! 両手剣使いとは何度もやってきたけど、ストレアみたいな腕を持った奴は見た事がない!」

 

「ありがと♪ でも、チナツはもっと凄いよ! 私の想像以上に速いし、強い!」

 

 

 

単純な剣技なら一夏の方が上だが、力比べを強いられると、ストレアの方が断然に上だ。

 

 

 

「えいっ!」

 

「くっ!」

 

 

上段から振り下ろされたストレアの一撃を、一夏は何とか受け止める。そのまま鍔迫り合いの状態になり、互いに力を込める。

今にも刀と剣の刃同士が火花を散らしそうだ。

 

 

 

「これだけの技量持っていて、なんで今まで知らなかったんだろうな……!」

 

 

ストレアの技量に驚きつつ、一夏は一旦距離を取るために大きく飛び退いた。

ストレアの剣戟は、豪快にして繊細。一見、ただの大振りに見える剣閃もよく観察してみれば、無駄なく、流れる様に振るわれている。

力の分散もなく、振るわれる一撃一撃が、大きなダメージを負う様な技だ。

だからこそ一夏は、一旦距離を取ることで仕切り直そうとした。

だが……

 

 

 

 

「逃がさないよぉーーッ!」

 

 

 

両手剣を八相に構える。剣の鋒が一夏に向けられ、低く落とした腰を支えるために肩幅より開かれた脚に、力が入る。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

 

一気にその力を解放する。

もはや跳躍と言っていいほどの脚力を持ってして、ストレアは一夏に斬りかかる。

モーションに入った後、いや、入った瞬間、ストレアの両手剣から光が溢れた。

 

 

 

「何っ!?」

 

 

両手剣の刀身が、淡いオレンジ色に染まる。

そしてそのまま、運動力学の様にして、力の流れは、手に持つ両手剣へと注がれる。

上段から……右斜め上から左斜め下へと移動する剣。

その軌跡を、一夏はよく知っていた……何度も見たことのある剣技。いろんな武器が存在し、そのどれにもその光は例外なく発現した。

そして、両手剣から繰り出されたその技も、よく知っているものだった……。

 

 

「ストレア、まさか、君はーーーー」

 

「でえやあああああーーーーッ!!!!!」

 

 

 

振り抜かれた一閃。

両手剣が地面へと食い込むレベルの衝撃。

当然水面は弾け飛び、ストレアが立つ延長線上にある水面が縦に水飛沫を上げた。

その様子から、途轍もない威力で放たれたと理解できる。

しばらくして、吹き上がった水飛沫が落ち着き、ストレアは目の前の光景を注視する。

先ほどまでいた一夏の姿が、今はどこにもいない。

 

 

 

 

「驚いたな……」

 

「あれ?」

 

 

 

ストレアの後方から、一夏の声が聞こえる。

ストレアは目をパチパチさせて、両手剣を握り直し、一夏に対して正眼の構えをとる。

対して一夏は、自然体にして隙のない構え。刀の鋒をストレアに対して向け、間合いを生成する。

 

 

 

「今のは両手剣のソードスキル《アバランシュ》だな? と言うことはストレア、君はアインクラッドに居たんだな?」

 

「あちゃー、バレちゃったかぁ〜。うん、そうだよ。私もチナツたちと同じSAO……ひいては、アインクラッドの中に居たよ」

 

「でも、君の様な高レベルプレイヤーを俺は知らない。まぁ、俺は途中でボス戦には参加してなかったし、その間なら、俺が知らないのも無理はないが……。

でも、ボス攻略をしていたキリトさんやアスナさんからも、君の話は聞いていない。それに君なら、間違いなく血盟騎士団が勧誘してたはずだ。だけど団員の中にもいなかったし、他の有力ギルドにも君の名前はなかった。

一体君は何者なんだ……? 俺の事もそうだが、どうしてキリトさんやアスナさんのことを知っているんだ?」

 

「うーん……」

 

 

 

一旦考える様に両眼を閉じるが、すぐに両眼を見開き、さらには優しく微笑んできた。

 

 

「私はずっと見てきたよ……。チナツの事も、キリトやアスナ、カタナのことも……ううん、全プレイヤーの生活を」

 

「全、プレイヤー……?」

 

「そう、一万人すべての生活をモニタリングしてた。ユイと一緒に……ね」

 

「っ! 待て、それじゃあ、君はーーッ!?」

 

 

 

 

一夏の言葉に、ストレアは構えを解き、右手で握った両手剣をだらりと下げ、左手をその豊満な胸に当てる。

 

 

 

「メンタルヘルスカウンセリングプログラム……MHCP02。コードネーム『ストレア』

それが私の正体だよ、チナツ」

 

「ユイちゃんと、同じ……AIか」

 

「うん……流石に一万人のカウンセリングをするのは、ユイ一人じゃ無理があるからね。

ユイは子供タイプのAIだけど、私のお姉ちゃんなんだよ?」

 

 

 

システム的にはそうなる。

ユイが試作1号なら、ストレアが2号になる。ならば、外見が逆でも、ストレアはユイの妹という事になる。

 

 

 

「じゃあ君は? ユイはあくまで、できるのはプレイヤーのサポートくらいだ。

けど君のは違う。俺たちと同じ様に、ソードスキルを発動させて、前線で戦えるほどの強さを有しているじゃないか」

 

「私はそういうタイプなんだよ。私は戦闘にも参加できる様に、独自の判断で戦闘行為ができる。

私が両手剣なのも、パーティを組みやすい様に設計されてるんだと思う」

 

 

 

両手剣使いが担うのは、主にアタッカーか、前衛盾役だ。

その破壊力とは裏腹に、取り回しがし辛いのが両手剣の特徴。故に、両手剣使いのソロプレイヤーはあまりいない。

両手剣の利点は、パーティ戦で発揮されるものだ。

 

 

 

「そうか……そう言う事だったんだな。ようやく納得がいった。でも、どうして君はここにいるんだ?

ユイちゃんはキリトさんのナーヴギアに転送されたされたって聞いたが……でも、君は本来ーー」

 

 

 

あの世界と一緒に消えるはずだった……。

 

 

 

「うん……でも、どうしても消えたくなかった……。だって、チナツ達に会いたかったんだもん」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「うん、そうだよ。ユイがキリト達に会いたくなったのと一緒で、私はチナツ達に会いたかった……そして、チナツのナーヴギアに入り込んだ。結構大変だったんだけどね♪」

 

 

 

わざとらしく舌を出して片目を瞑るストレアだが、それがどれほど凄い事か、本人は気づいているのだろうか……。

与えられた役目を放棄するだけでも、プログラムとしては異常な事だ。しかし、それに付け加え、生き残った約六千人の中から、チナツの……現実世界での一夏のナーヴギアに進入し、ユイ同様にデータの保存をしたと言うのだから……。

 

 

 

「でも、そんな無茶をしたから、今まで話しかけられなかったんだけどね♪」

 

「なるほど、休眠期に入ってたのか」

 

「うん。流石に疲れたから……さぁ、もうネタばらしここまでだよ! さっきの続き、やろうか!」

 

「っ! そうだったな……!」

 

 

再びストレアが構える。

今度も八相の構え。だが、今度はその鋒が空を向いている。

その姿から、現実世界にも存在する剣術を、一夏は思い出した。

 

 

 

「その構えは……《示現流》!」

 

「そう! 薩摩……今の鹿児島県に位置するところで発展した剣術。『二の太刀要らずの示現流』と謳われてるものだよ♪

さぁ、第二回戦を、始めるよッ!!!!!」

 

「ッ!」

 

 

 

突進してくるストレア。

そこから繰り出される斬撃……《示現流》の剣速は、『雲耀』を超えると言われている。

そこにストレア自身のパワーと技量が加われば、それは今までいた使い手たちを凌駕する《示現流》を使える事に等しい

 

 

 

「はあああああッ!!!!!」

 

「おおおおおおッ!!!!!」

 

 

 

三度剣が交錯する。

幻想的な景色の中で、その剣戟だけが、その場に再び響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、福音の位置は変わってないのよね?」

 

「ああ。衛星とリンクして、映像を確認したが……。二時間前と変わらない位置で駐留しているようだ。やはりやるのか? 鈴」

 

「当たり前でしょ。あたしはあのままじゃ終われないわ……落とし前はちゃんとつけないとね……ッ!」

 

 

 

 

日も落ち、あたりが夕闇に包まれている頃。

旅館の庭に集まっていた代表候補生たちは、今もなお戦闘海域で駐留している福音に対する再度の撃墜作戦に乗り出そうとしていた。

 

 

 

「で、でもさ鈴、確かに僕たちのISも稼働可能な分のエネルギーは補給出来たし、出撃するのはやぶさかじゃないけど……」

 

「けど何よ、シャルロット?」

 

「出撃しても、さっきと同じ戦い方じゃ、一夏の二の舞になっちゃうよ……!」

 

「そこはまぁ……簪が考えることでしょう?」

 

「か、簡単に言わないでよ……!?」

 

 

 

半ば感情論で言っている鈴。だが、そこにいるメンバーのほとんどが、その感情論で集まった。

一夏の受けた仕打ちを許せない……だからその仕返しをする。ただそれだけのためだ。

 

 

「でも私も、一夏の仇を取りたい……!」

 

「あ、あのぉ…簪さん? 一夏さんは死んでるわけではありませんわよ?」

 

「ううっ……そ、それはその、言葉のアヤで……と、とにかく! 私も、何とかしたいと思ってる……!」

 

 

 

 

今までの簪にはない、やる気に満ちた表情。

一夏が倒れた事……そして、その一夏の事で苦しんでいる姉の事が、簪にとってはどうしても許し難い事実だった。

だからこそ、姉のそんな顔を見たくない……ましてや、自分も一夏を怪我させた福音を許せない。

だったら、やることは一つだ。

 

 

 

「福音にリベンジする!」

 

「そう言うと思ったわ……っ!」

 

「面白そうだ……私も参戦しよう。師匠の仇を取るのも弟子の務めだ」

 

「だから一夏さんは死んでませんのよ? はぁー……わかりましたわ。わたくしも参加させていただきます」

 

「ええっ!? セシリアも?!」

 

「あら、シャルロットさんは参加しませんの? それは残念ですわぁ〜、シャルロットも一夏さんの事を思っていると思っていましたのに……ホントに残念ですわ」

 

「ちょっと待ってよ! 別に僕は参加しないなんて言ってないよ!」

 

「あら? でしたら……」

 

「ううっ……わかった! わかったよっ……僕も参加する!」

 

 

 

ここにいるメンバー……簪に始まり、鈴、ラウラ、セシリア、シャルの五人の意思は決まったようだ。

福音を倒す……もう同じ過ちを繰り返さないと……!

 

 

 

「やっぱりみんなも同じ事を考えてたかー」

 

「まぁ、そうじゃなきゃ面白くないしな」

 

 

旅館の廊下から陽気な声が聞こえる。

全員が振り向く。そこには制服姿で立っていた明日奈と、その隣でズボンのポケットに両手を突っ込んだ和人が立っていた。

 

 

 

「同じ……って事は……」

 

「和人と明日奈さんも?」

 

 

 

簪と鈴が聞き返す。そして聞かれた二人は当然と言った具合に首を縦に振る。

 

 

 

「当たり前よ。私たちだって、負けたらそれで終わりー……なんて考えてないんだから!」

 

「そうそう。こんな事で諦めてたら、アインクラッド攻略組の名が泣くってもんさ。

それに、俺としてはまだ暴れたりなかったしな…!」

 

 

 

二人の意思も決まっている様だ。

 

 

 

「そんじゃあ作戦参謀? 作戦の立案、お願いねぇー」

 

「もう、簡単に言わないで……。でも、それが私の役目だもんね。うん……考えとく。作戦が決まったら、みんなに連絡するね……」

 

「オッケー! じゃあ、今度こそあのふざけた天使を落とすわよ! いいわね!?」

 

『『『おおっ!!!!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は……」

 

 

 

夕日が落ちた空。

あいにく空には薄く雲がかかっているためか、星の一つも見えない。

遥か彼方にいるであろう福音の存在が、今の箒の心を傷める原因だ。

呆然と立ち尽くし、潮風に吹かれるたびに、血の滲んだ両手が痛む……。結っていたリボンがなくなり、だらりと垂れた長い黒髪がふわりと浮く。

そんな中、箒は随分と考えさせられた。鈴から言われた事もそうだが、自分の心内を、何を望んでいるのかを……執拗に考えていたのだ。

 

 

 

(私は何の為に力を欲した? それは一夏と共に戦うために? いや、それならば他にやりようはあった……では何故、専用機を求めた?

一夏が専用機を持っていたから? いや……それも違うな……)

 

 

 

姉という偉大な姉妹を持って、その所為で色々と迷惑を掛けさせられたとは思っている。その所為で、一夏と離れ離れになってしまい、連絡すら取れず、挙げ句の果てには定期的に引越しを繰り返すというふざけた事までさせられた。

だから、そんな中で、自分と世界との間に不快感を持ってしまった。

自分の望んだことができず、望まないものを強制される……そんなふざけた事をさせた大人たちが、姉が、大嫌いだった。

唯一続けた剣道だって、その思いを注ぎ込んで打ち込んだ。相手の選手が、自分の敵だと……あの大人たちの様な、自分の邪魔をする敵だと……自分でも知らない内に、そう思い込んでいた。

 

 

 

ーーーーあなたの剣は剣道じゃない!!!!

 

 

 

全くもってその通りだ。

剣道とは剣の道……武の道を歩き、義を持って礼を重んじるための道だ。

そこから外れた剣は、術理の中でしか生きられない、剣術と呼ばれるもの。それすらも外れてしまっては、ただの『外道』。

自分はまだ、剣の道から外れただけだ……だが、福音との戦いの時、その剣術の術理すらも外れてしまおうとしていたんだ。

それを止めたのが、他の誰でもない……一夏だ。

 

 

 

ーーーー箒、お前は俺の様にはなるな。

 

 

 

修羅の如く戦い抜いた一夏には、それがわかっていたのだ。

何を持ってして、力を振るうのか……その剣は、一体何のために学んだものだ……

 

 

 

 

ーーーー箒、剣は凶器だ。そして、それ扱う剣術は殺人術。どれだけ綺麗に言い繕っても、それは変わらない。

 

ーーーーお父さん……なら、何の為に剣術ってあるのですか?

 

ーーーー守るためだ。

 

ーーーー守るため?

 

ーーーーそうだ。少なくとも、私はそう信じている。理由のない力など、ただの暴力……それでは、野獣と変わらん。

だが、人には、想いの力というものがある。誰かを……何かを守るために、その力を必要とするものだ。

 

ーーーー想いの力……。

 

ーーーー箒、剣術は己の魂が宿る。その魂を使い、どの様にして相手に知り、自分を知るか……それが武の道を歩く者の所作だ。

 

 

 

 

 

 

父から言われた事……あの時はわからなかった。

だが、今になって、少しわかってきた気がした。一夏の剣を見たとき、美しいと感じたのは、それが、一夏の信念の塊だからだ。

守るために戦う……簡単に言うが、とても難しい事だ。だがそれでも、一夏ならばそれができると、そう信じてしまう自分がいる。

それは一夏の魂が、噓偽りなくそう言っているからだろう。

 

 

 

「ならば、私が求めた力とは……」

 

 

 

そんな一夏の姿を、もっと近くで見たい……。一夏と一緒に、その信念を信じていたい。

ただそれだけだ。

 

 

 

「そうか……私は、その為に……!」

 

 

 

ようやく見つけた様な気がした。

自分の信念を……振るうべき力の意味を。

 

 

 

 

「あら、箒ちゃん」

 

「っ!? た、楯無さん!?」

 

 

 

音もなく、いつの間にか近くにいた刀奈の存在に驚愕し、心臓が飛び跳ねる様な思いをした箒。

刀奈に至っては、悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべている。

こう言う人は、正直苦手だ。だが、どうしても刀奈を嫌う事が出来ない。それは、この人のそういうカリスマ的なものなのだろう。

 

 

 

「こんな所で何をしてるの? みんなはやる気満々みたいだけど?」

 

「ええ……そうですね。さっきの鈴を見ていたら、何となく、察しはつきました」

 

「それで、答えは出た?」

 

「え?」

 

 

 

一瞬なんの事なのかわからなかった。

だが、刀奈の視線が、今の自分の両手を見ている事に気づいて、ようやく納得した。

 

 

「まだ、正確な答えはわかりません。自分でも、これが合っているのかどうか……」

 

「そう……でも、それでいいんじゃないかしら」

 

「え?」

 

「チナツは今でも迷ってる……何が正しいのか……迷いながら戦ってる」

 

「えっ?! 迷っている!?」

 

「ええ。あの人は迷いだらけ……でも、それでも後悔しない様に、自分の信念を貫いて戦っている。

覚悟を決めた時のチナツは、たぶん、私なんかよりもずっと強いわよ?」

 

「そう……なんですか……」

 

「それで、箒ちゃんは決まったの?」

 

「私は…………」

 

 

 

全く笑っていない……。

その眼が、表情が……一人の生徒としてではなく、一人の軍人、あるいは武人の様な人達と同じ様な雰囲気を醸し出していた。

真剣に、聞いているのだ。箒の答えを……。

 

 

 

「楯無さん」

 

「何?」

 

 

 

箒は一旦言葉を止め、深く息を吸った。

 

 

 

「私は、今でも一夏の事が好きです!」

 

 

 

言った。今の……今までの自分の気持ちを。一夏が愛している人に、一夏を愛している人に向かって。

 

 

 

「昔からあいつといて、共に剣道に勤しみ、共に強くなっていく事が、私は嬉しかった。

姉さんがISを作って、離れ離れになった時は、とても苦しかった……でも、また会えた時に、あなたの事を紹介された時は、もっと苦しかった……悔しかった……!」

 

「そうよね……あなたにとって、私はチナツを……一夏を奪った様なものなんですものね」

 

「はい……でも、あいつが戦っているのを見た時、自然とそれを認めていた自分もいました。

今の私では、到底辿り着けない場所に、あなたと一夏はいる。だから、私もそこに行きたいと思って、力を求めた」

 

「でも、その力は危険よ? それは、あなたももう知ってるでしょう?」

 

 

 

 

一夏の昔の話を聞き、つい先ほど福音との戦いで知り、鈴には怒鳴られた。

そしてそれが間違いだと、一夏が教えてくれた。

 

 

 

 

「だから、ただ力を求めるのをやめます。いや、今やっと見つけました……私にとっての力が、一体何なのかを……」

 

「へぇ〜」

 

「私は、一夏を守りたい……! あいつと同じ景色を見て、同じ空を飛ぶ。その為に、私はあいつを守りたい! 私の剣は、守る為にあるのだと……ッ!」

 

「っ!」

 

 

 

 

そうだ……初めからわかっていた……。

篠ノ之流の剣は、人を守り活かす『活人剣』。その術理は人を斬るものではなく、人を活かすため……守るための剣なのだ。

 

 

 

「そう……なら、もう大丈夫そうね」

 

「はい。これなら、私も戦えますよね……っ!」

 

「ええ、もちろん……でも、それはそうと……」

 

「へ?」

 

 

 

刀奈が箒の首に腕を回し、自分の額を箒の額にぴったりとくっつける。

 

 

 

「私に直接喧嘩を売ってくるとはねぇ〜」

 

「あっ、いや、そういうつもりは……っ!」

 

「いいのいいの。久しぶりにこんな気持ちを味わったわ……。箒ちゃん?」

 

「は、はい!?」

 

「チナツが……一夏が欲しい?」

 

「は?! な、何を!」

 

「でも残念。一夏はあげない……絶対にね。だってあの人の心は、私が完全に掌握してるから……。欲しかったら、私から奪うくらいの根性で来るといいわ。

まぁ、そっちがその気なら、私も全力で応戦してあ・げ・る♪」

 

「あ、ははは……」

 

 

 

まるで挑発している様に箒に問いかける刀奈だが、その目は全く笑っていない。

奪うくらい……とは言ったが、それはおそらく力づくで……と言う意味だろう。まぁ、まず学園最強の力をもつ刀奈相手に力づくというのが無茶な話なのだが。

 

 

 

「いつでもかかってらっしゃい♪」

 

「は、はぁ……考えておきます……」

 

「うふふ♪」

 

 

 

心の中で、早まった事をしてしまったと後悔する箒だった。

その後、二人は共に旅館へと戻った。

二人を除くメンバーが、福音へのリベンジを考えている中、まず初めにやったのは、箒の手の治療だ。

正直感覚が戻り始めて、両手が痺れ始めていたのだ。

そしてその後で、二人は中庭に集まった。

 

 

 

「それで? ちゃんと戦う覚悟は決まったんでしょうね?」

 

 

 

鈴がジッと睨みつける様にして箒を見る。

だが、箒はその睨みに臆する事なく、その視線を真正面から受けてたった。

 

 

「ああ、もちろんだとも……。たとえ無茶であろうが、今回ばかりは私も引けん……。福音は、私の手で倒すーーーーッ!」

 

「ふぅーん……言う様になったじゃない。まぁ、それくらいの気概がないと、背中なんて預けられないしねぇ。

いいわ、箒。あんたの覚悟、しっかり見させてもらうわよ……ッ!」

 

「いいだろう……刮目して見ているがいい!」

 

 

 

右手の拳を突き出す鈴に、箒も合わせる。

そして、視線を簪に移し、作戦内容を聞く。

 

 

 

「作戦は、さっきとほとんど変わらない。福音を包囲してからの集中攻撃。今度の福音は、現行のIS全てを凌駕するほどのものと思ってくれていいと思う。

だから今回は、接近戦仕様と遠距離戦仕様の機体でツーマンセルの陣形を整える……ていうのでどうかな?」

 

「それで大丈夫ですの?」

「さっきの作戦は、自分たちの役割を全うし過ぎた……。だから、今度はみんな、全力で攻撃に転じる。躊躇なく、遠慮なく、福音を攻撃して欲しい。

その攻撃のタイミングは、私が指示する……遠近両方……やれるだけの手は、全部使う!」

 

 

 

 

簪がここまで言い切ったのだ。

もはや疑念を持つ事もないだろう……。頼もしい限りと思いながら、和人が締めくくった。

 

 

 

「よし! みんな覚悟は決まったみたいだな。これで最後の戦いにしよう……ラストバトル、全開でぶっ放そうぜッ!!!!!」

 

『『『おおおおおッ!!!!!』』』

 

 

 

 

 

 

 






次回はいよいよ白式第二形態登場!
そして福音戦の決着。と言ったところでしょうか……。

感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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