ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく福音戦も折り返し地点に到達!

ここから一気に夏休みのクエまで行きたいものです……。




第40話 オーバーリミット

「せえぇぇやあぁぁぁッ!!!!」

「おおおおぉぉぉぉッ!!!!」

 

 

和人と一夏が斬り込む。

だが、当の福音には大してダメージが与えられたわけではない。

進化した新しい翼が二人の剣戟を弾き、さらには高エネルギーのランスを形成し、二人めがけて貫く。

 

 

 

「くっ!」

 

「シルバーベルも進化してる……!」

 

 

 

近接戦闘においては、二人に分がありそうだが、もとよりISのスペックが上回っている以上、その差などもはや関係ないのだ。

手刀に加え、シルバーベルが形成するのはエネルギー弾だけではなくなった。

それを高密度に収縮し、近接戦闘用の武装にまで変換し始めた。

 

 

 

 

「簪ちゃん、データは取れてる?」

 

「うん。でも、まだ何かがありそう。お姉ちゃんたちはあまり深追いは禁じた方がいいと思う……」

 

「同感ね。でもどうしようかしら……逃げ切れない上に決めきれないなんて、どう足掻いても勝つ見込みが薄いわねぇ……」

 

 

 

刀奈らしくないといえばらしくない……。

だが、福音にはそれを言わせるだけの実力がある。近接戦のデータを集めてしまった為か、第二形態に移行してからと言うものの、近接戦闘に強い対応を見せ始めた。

現に今もなお、一夏、和人、明日奈が三人がかりで攻め込んでいるが、その内福音にまともに一撃を入れれたのは、ほんの数回。

全然で戦ってきた猛者たちを前にしても、未だ倒れない。

 

 

 

 

「ラウラは距離を詰めて、砲撃に精密性を入れて。シャルロットは牽制、鈴とセシリアは挟んで強襲!」

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

 

 

4機が即座に動く。

左右に分かれる甲龍とブルー・ティアーズ。

砲撃ポイントを交戦位置に近い場所まで移動するレーゲン。

そして、近接戦を行っている一夏たちのサポートに回るリヴァイヴ。

 

 

 

「お姉ちゃんと箒は、スイッチの準備! 私が援護する!」

 

「オッケー! よろしくね!」

 

「了解した!」

 

 

 

 

ここにきて簪が動く。

荷電粒子砲《春雷》二門を展開し、福音に向け照準を合わせる。

 

 

 

「いけっ!」

 

 

左右両門からの荷電粒子砲が放たれ、福音に迫る。

だが、福音は容易くそれを避け、距離を開けようと離脱する。

簪はそのまま《春雷》を撃ち続け、福音の動きを逐一観察していた。

そして、福音の動きを頭にインプットすると、即座に空間ウインドウを表示。

そこにある電子キーボードをタップしていく。

 

 

 

「座標軸固定……目標補足!」

 

 

 

電子キーボードをタップしながら、確認の意を込めているのか、ところどころで言葉が出てくる。

そしてタップが終了すると、今度は《春雷》を収納し、別の武器を展開する。

 

 

 

「ダーゲットロック! いっけえ、《山嵐》!!!!」

 

 

 

打鉄弐式の多弾道ミサイル《山嵐》が、福音に向け発射された。

6機×8門の全48発のミサイルは、それぞれが独立した誘導型ミサイルであるため、福音がどこに逃げようとついてくる。

これが簪の専用機『打鉄弐式』が用いる《マルチロックオン・システム》だ。

しかし、福音も初めは逃げるだけだったが、徐々にその動きに慣れてきつつあり、最終的には、シルバーベルの高エネルギー弾で迎撃。

ミサイル全てを撃墜した。

 

 

 

「っ……! それでも、そうする事は……読めている!」

 

 

 

簪の言葉を発した次の瞬間、爆煙を貫く紅い閃光が走る。

これは福音も躱しきれなかったのか、翼を前方に展開し、自分の身を隠して守った。

飛来した紅い閃光は、福音の翼に弾かれ四散していくが、次には紅い斬撃波が襲う。

 

 

 

「私にも、飛び道具はある!」

 

 

 

二刀を交差し、一気に振り抜く。

紅い閃光と斬撃波が同時に放射され、容赦なく福音に浴びせられる。

が、当の福音はこれといってダメージを受けた様子はない。

紅椿の攻撃力では、福音のシールドエネルギーを貫通するほどの威力がないのだ。

ましてや、残りエネルギーも少なくなってきている最中、無駄撃ちも出来ない……。

なので、やはりここは接近戦に持ち込むしかなくなる。

 

 

「箒ちゃん!」

 

「はい!」

 

 

 

刀奈と箒で左右に回り込む。

刀奈の槍が、福音の急所……正確には、人間の急所を的確に狙うが、福音のシルバーベルがそれを阻み、逆にエネルギー弾を放射され、咄嗟に水の障壁『アクア・ヴェール』を展開して防ぐが、元々がエネルギーの集合体であり、それを爆散させる事が可能なシルバーベルの弾丸。

『アクア・ヴェール』で防ぐが、その衝撃は計り知れない。

 

 

 

 

「んくっ! やってくれるじゃない……!」

 

「楯無さん!」

 

 

 

箒が斬り込む。

上段からの振り下ろし、左から放つ刺突。

だが、どれも福音は躱し切る。まるで弄ばれているかのように……。

 

 

「ええいっ、ちょこまかと!」

 

 

どれ一つとして手を抜いていない。

それでこそ、本気で相手を斬るつもりで振るっている……。だが、擦りはすれど、これといって決定打に欠ける。

 

 

 

「だああぁぁぁっ!!!」

 

「っ!?」

 

 

再び箒が斬り込む。

《雨月》の上段斬りを福音が躱すと、追撃で《空裂》の攻撃を予測する。

だが、その瞬間、箒は体を時計回りに回転させると、福音に向け強烈な蹴りを見舞う。

 

 

 

「舐めるなあぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

箒の怒号とも言える叫びに、紅椿が反応した。

左脚が福音に迫る中、その左脚の装甲が展開した。

そこから伸びた紅いエネルギーブレードは、がら空きになっていた福音の懐を斬り裂き、シールドエネルギーを飛散させた。

エネルギーが虚空へと欠落ち、やがて消えていく。

 

 

 

「箒に続け!」

 

 

 

和人の声に反応し、和人を含め四人が動く。

それぞれの武器が……剣と槍が、ライトエフェクトの光を放つ。

 

 

 

「やあああぁぁぁっ!!!」

 

「はああぁぁっ!!」

 

 

 

細剣の10連撃ソードスキル《オーバーラジェーション》。剣戟乱舞の破格の細剣最多連撃のソードスキル。

そして槍のソードスキルに置いて、最上級スキルである《ディメンジョン・スタンピード》が炸裂する。

縦横無尽に走る剣閃からの最後に高速の刺突と、刺突5連撃からのトドメの上段斬り。

だが、これで終わるほど、彼らは優しくない。

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

二人の攻撃に態勢を崩している福音に対し、迫る機影が一。

その剣は紅いライトエフェクトを放ち、福音を斬り刻む。

 

 

「《龍槌翔閃》ッ!」

 

 

上段からの《龍槌閃》と下段から斬りあげる《龍翔閃》の複合技。

だが、これで終わらない。

 

 

 

「《龍巻閃・旋》!《凩》!《嵐》!」

 

 

 

そこから体を回転させ、回転斬りの応酬。そして、ラストアタックだ。

 

 

 

「でえぇぇやあああっ‼︎」

 

 

 

アイスブルーに輝く《雪華楼》の刀身。

そこから放たれるのは、片手剣ソードスキルの最上級10連撃スキル《ノヴァ・アセンション》

怒涛の15連撃。斬り裂かれた福音の装甲は、今まで蓄積されてきたダメージによってひび割れ、砕け散り、第二形態解放後に比べて、見るも無残な姿と言えた。

だが……それでも止まらない。

 

 

 

「はあああああッ!!!!」

 

 

 

両手に握る《ユナイティウォークス》と《ディバイネーション》が、赤黒い閃光を放つ。

二刀流スキルの上位の高命中率型16連撃《ナイトメア・レイン》が炸裂。

福音の体を突き貫いたライトエフェクトの光。

その光に包まれた福音は、そのままバランスを崩し、再び海へと落ちていく。

福音は軍用機であるが、無人機ではない。故に当然の如く搭乗者がいるため、海に落ちる前に救助する必要があった。

それに、辺りの景色も夕焼けに差し掛かってきており、このまま長引けば自然と夜になり、その場合は捜索が困難になりかねない。

 

 

 

「っ! いかん……!」

 

 

 

一番近くにいた箒が、落ちていく福音に向かって急ぎ足で救出に向かった。

だが、その瞬間、目を疑う光景が目に入ったのだ。

 

 

 

 

「キィアアァアアアーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

海面に触れる前、再びの絶叫が放たれた。

その声に、誰もが耳を塞いだ。もはや獰猛な猛獣の咆哮を通り越し、この世の生物とは思えないほどの奇声に近かった。

それも、死を直前にした生き物たちが発するような、そんな声だ。

一夏は咄嗟に箒の元へと向かった……。とても、嫌な予感がしたのだ。

 

 

 

 

「なっ、なんだ、これは!?」

 

 

 

 

一番近くで見ている箒は、信じられないと言った表情で福音を見ていた。

何故なら、傷ついた福音の装甲を、まるで補うようにエネルギーの集合体が覆い隠し、削られたはずのシールドエネルギーが、どこからともなく溢れてきていたからだ。

 

 

 

「ば、馬鹿な……っ!」

 

「ガァアッ!」

 

「っ!?」

 

 

 

箒の姿を視界に収めた福音。

その瞬間、箒の視界から福音が消えた。そして、驚いてるのも束の間、その福音が自分よ目の前にいることに気づいた。

そして、今までにない程無骨に、しかし力ずくの拳を、箒に向けて放った。

 

 

 

「ぐうっ! な、なんだ……っ、はぁっ!?」

 

「ギャア!」

 

 

 

咄嗟のことに、箒も手が出なかったため、シールドエネルギーを収束して、先ほどの拳を受けた。

だが、その衝撃が、今まで受けたものより遥かに超えていた。もしあれを生身で受けていたのなら、確実に体に風穴が空いていただろうと予測できる。

そんな衝撃を受けて、後ろへと後退した箒。一旦距離を置かなければ、すぐさま殺られてしまうと思ったからだ……。

だが、再び奇声が聞こえた。それも、箒の背後からだ。

そして今度は、先ほどのお返しとばかりに強烈な回し蹴りを箒お見舞いした。

 

 

 

「ぐわあッ!」

 

 

 

今度は二刀で防いだものの、腕ごと弾かれる程の力だった。

そして、その空いた懐に向け、再度拳が振るわれる。両手は弾かれたばっかりの為、絶対に間に合わない……シールドエネルギーを収束しようにも、もうすぐそこまで拳が迫っている。例え収束に間に合ったとしても、貫通するのは必然。

箒は一瞬、死を予感した。これほどまではっきりと、死ぬのではないかと、そう感じ取ったのだ。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

その恐怖心から、両眼を瞑り、衝撃に備えた……。

だが、その衝撃は一切こなかった……代わりに、金属が……もっと強いて言うなら、鋼と鋼がぶつかる様な音が聞こえてきたのだ。

 

 

「えっ?」

 

 

 

恐る恐る両眼を開いて見ると、そこには、福音の拳を弾く白刃の長刀。

そしてそれを振るう、白き侍の姿があった。

 

 

 

「一夏っ!?」

 

「箒! 今の内に離脱しろ!」

 

「っ!」

 

 

 

一夏の言葉に、自然と体が反応した。

意識したわけでも無しに、咄嗟に紅椿のスラスターを吹かせ、大きく後退する。

そして、そんな箒を援護する様に、簪が前に飛び出し、その前を鈴とシャルが展開する。

一方の一夏は、福音と激しい近接戦闘を繰り広げていた。

 

 

 

「ちっ! 反応速度も上がってる……っ!」

 

「ガァアッ!」

 

「くっ!?」

 

 

 

両手で拳を握り、体術と思しき戦闘スタイルと、進化したシルバーベルとの連携攻撃が一夏を襲う。

一夏も一夏で、福音の間合いとの間合いを詰め、付かず離れずの位置から愛刀を振るう。

 

 

 

「カタナちゃん!」

 

「わかってる! でも気をつけて、恐らく今の福音はリミッターが外れてるわ」

 

「リ、リミッター?」

 

「おい待てよ!? じゃあ、今までのは制限していたって事か?!」

 

 

刀奈の言葉に、和人は驚愕の表情をした。

第二形態になって、力が倍増したって言うのに、それすらもリミッターが付けられていた状態であった事に……。

そして今、その縛りはない。つまり、福音が本気で、ここにいる全員を殲滅する気だということだ。

 

 

 

「あの状態になったら、何が起こるかわからない……っ! エネルギーの事もそうだけど、もはや相手も、一撃必殺の心得があると思ったほうがいいわーーッ!」

 

 

 

ここでの敗北は、死を意味する。

そんな事を言いたかったのだろう……。

ここは現実……あの世界とは違う。だが、だがそれでも、この雰囲気は同じだ。

死ぬかもしれない戦いを、生き延びるために足掻き続けた、あの戦いと……。

 

 

 

「だが、行くしかない! このままじゃチナツが保たないだろう」

 

「そうだね。行こう!」

 

 

 

 

和人と明日奈も、福音の所へと飛翔していく。

 

 

 

「くっ! 強いーーッ!」

 

「チナツ!」

 

「っ! キリトさん」

 

「スイッチ!」

 

 

 

 

福音の攻撃を弾き、即座に好手交代。

《ユナイティウォークス》の鋭い一撃が、福音に迫る。だが、福音にとってはそれすらも容易いのだろう……何の驚きも見せずに躱してみせる。

 

 

「ちっ……、ならっ!」

 

 

腰に装備していた《アニールブレード》を逆手に持ちに引き抜く。

二刀流剣戟で福音を攻める。

だが、どれもシルバーベルのエネルギー翼によって弾かれ、逆に反撃を受ける。

 

 

 

「くっ! チナツが苦戦するわけだな……!」

 

 

 

迫り来るエネルギー翼が形成したランスやブレードをかろうじて身を躱し、剣で受け、流しながら反撃の隙を窺うが、その猛攻に、自身の武器が保たなくなる。

《アニールブレード》はアインクラッドの中でも下層のフィールドでしかほぼ使わない。

故に、耐久性もそのレベルに応じたものしかない。

左手に持つ《アニールブレード》にも、幾度となく刃同士が打ち付けられ、やがてひびが入り始めた。

 

 

 

「くっ! やっぱ耐久性の問題か……!」

 

 

 

迫り来るランスを受け流した時、その反動で、とうとう《アニールブレード》が砕けた。

和人はすぐにそれを捨て、再び新たな剣を抜く。

《ディバイネーション》……ALOにある刀身が深緑色になった、初心者級の冒険者が多用している片手用直剣。

 

 

 

「はあああぁぁぁッ!」

 

 

 

たとえ剣が折れようとも、また新たな剣を用意し、斬り伏せる。そのコンセプトと、和人の戦闘スタイルに合わせた装備。

今回の稼働テストで装備していて助かった。

だが、以前状況は変わらない。

和人たち以外でも、何らかの対策を練ってはいるが、未だに全容を見せない福音に、容易に攻撃を仕掛ける事を躊躇っているのだ。

 

 

 

「ギャアアァアッ!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 

福音が和人の猛攻を弾き、腹部に蹴りを入れて突き放す。

そして、目にも止まらぬ速さで上昇すると、一夏たちを見下ろす。

ある程度上昇したところで止まると、エネルギー翼を目一杯広げ、エネルギーの収束を始めた。

 

 

 

「何をする気だ……っ!?」

 

 

 

一夏の声が、みんなに聞こえたかはわからない。

だが、それでも、福音がどんどんエネルギーを収束していき、やがてそれが大きな球体の形をとった。

 

 

 

「いけない! みんな、躱してっ!」

 

 

 

簪が叫んだ。

その直後くらいだった……大量のエネルギー弾が一夏たちに向けて放たれた。

それはまるで豪雨のようで、躱す隙も逃げる隙がなかった。

ほとんどの者は、防御態勢に入り、その攻撃を受け切る態勢を取った。

簪、シャル、箒、刀奈、ラウラの五人には、防御用に特化した装備があるが、他の五人にはそれがない。

しかもラウラに至っては、他の皆から離れた距離にいるため、守れるのは自分自身ただ一人。

そこで、刀奈が和人と明日奈を……シャルは鈴を、簪がセシリア、箒が一夏を守るようにして、それぞれバリアーや装甲を展開。

 

 

 

「くっ!?」

 

「カタナちゃん!」

「カタナ! 大丈夫か!?」

 

「な、何とか……っ! 保ちこたえられると思うけど……っ!」

 

 

アクア・クリスタルを用い、『アクア・ヴェール』を最大限に展開しながら、自身と二人を守る刀奈。

その表情にも、苦悶の色が見え隠れしていた。

 

 

 

「はっ!?」

 

「鈴!」

 

 

 

一方、鈴を寸での所で守護できたシャル。今回に限って、本国から送られてきた、防御用パッケージ『ガーデン・カーテン』の力が役に立った。

展開したエネルギーバリアーの内側に、素早く鈴を取り込み、福音の弾雨を受ける。

だが、シャルも衝撃を受け、苦悶の表情を見せる。

 

 

 

 

 

「セシリア! できるだけ隠れて!」

 

「は、はい!」

 

「無事か、一夏!」

 

「ああ……ギリギリセーフだ……っ!」

 

 

 

 

簪と箒は割と近くにいたため、二機で固まり、簪が防御結界を張り、防御が紅椿の展開装甲を発動させ、防御装甲を展開させる。

その後ろで、一夏とセシリアが二人の後ろに隠れてやり過ごしている状況だ……。

さらにその後方では、ラウラがAICを展開しているが、AICは止める対象物に集中しなくてはならないため、ラウラも苦戦していると見える。

 

 

 

「くっ! このままじゃあ……!」

 

『織斑、聞こえるか!?』

 

「この声は……千冬姉か!?」

 

 

攻撃を凌いでいる最中、白式宛に通信が入った。

その相手は、臨時の作戦本部で式をとっている姉、千冬からのものだった。

 

 

 

『状況を報告しろ』

 

「福音の撃墜を試みたが、福音は今、リミッターを解除した上で暴走している状態。

その攻撃を、防御装備があるメンバーで防いでいるが、いつまで保つかわからない!」

 

『くっ……一旦撤退しろ! 今から教師部隊の精鋭を送り込む!』

 

「精鋭って……、ここを包囲している先生たちを、ですか?!」

 

『彼女らには、引き続き警戒に当たってもらう。精鋭はそれ以外にもいるからな……。お前たちは福音の攻撃を凌ぎつつ、作戦本部まで後退しろ』

 

「りょ、了解! だが、これをどうやって……っ?!」

 

 

 

 

攻撃は収まりつつあるが、これ程の攻撃仕掛けてくる相手だ。簡単には逃げられないだろう。

だが、今の状況を鑑みるに、今は撤退の指示が最も有効的な手段だろう……。

一夏は即座に、簪に千冬からの通達を伝える。

簪はそれを聞き、小さく頷くと、他のメンバーにもその旨を伝えた。

 

 

 

 

「でも、どうやって逃げんのよ。こいつ超音速飛行も出来んのよ?!」

 

「とにかく逃げるしかないよ。あいにく、僕もエネルギーが心許ないしね……」

 

 

 

そう言いながら、シャルは少しずつ後方へと引き下がる。

弾雨をシールドで受ける反動も利用しながら、少しずつではあるが、確実に後退し、鈴もそれに伴って、少しずつ下がり始めた。

 

 

 

「すまんが、私は高速飛行ができない。先に撤退を始めるぞ」

 

『了解。なら、ラウラは退路の確保を! その後で、私たちもすぐに撤退を始める』

 

「わかった」

 

 

 

一番遠いところにいたラウラも、『パンツァー・カノニーア』を収納し、即座に後退し始めた。

エネルギー弾の雨を躱し、時にAICで受けながらも、退路を確保しながら下がる。

 

 

 

「私たちも下がるわよ」

 

「ああ」

 

「でも、どうするの?」

 

「それは、こうするの!」

 

 

 

刀奈が指をクリップする。

すると、前面に展開していた『アクア・ヴェール』が、上下左右に広がって、やがては『月光』と『閃華』……『ミステリアス・レイディ』までをも包み込む、大きな水の球体を形成した。

 

 

 

「これを展開していられるのも数分だけだから、今のうち全速力で逃げるわよ!」

 

 

 

そういうと、刀奈は《龍牙》を収納し、両手で和人と明日奈の手を掴む。

そこからは、ただひたすら引き下がるのみ。

ブーストを全開にし、福音から離れる。

 

 

 

 

「私たちも参りましょう」

 

「うん……セシリア、『ミサイルビット』は使えるよね?」

 

「ええ、問題ありませんわ」

 

「なら、私と一緒に弾幕を張って……。その隙に、できるだけここを離れる。

一夏と箒も、それでいい?」

 

「ああ。考えてる余裕はなさそうだからな……」

 

「うむ。私も異論はない」

 

「わかった……。セシリア、合図をしたら、ミサイル全弾を福音に向けて撃って」

 

「了解ですわ」

 

 

 

簪がカウントを数え始める。

そして、ゼロの合図を聞き、セシリアが動いた。

一瞬の間に飛び出し、BTライフルで狙撃後、ミサイルビットの照準を福音に合わせ、誘導ミサイルを発射。

それを皮切りに、簪も《山嵐》の砲門を開き、ありったけの誘導ミサイルを撃ち込む。

そのほとんどはエネルギー弾によって撃墜されてしまうが、この際そんな事を気にしてはいられない。

大爆破が起こり、爆煙で視界が遮られている今のうちに、残っていた一夏たちも、即座に撤退を開始した。

 

 

 

 

「よし、今!」

 

 

 

全機が高速で飛行し、戦闘海域を離脱。

やがて爆煙が晴れてきだして、そこにはただただ呆然と撤退していく専用機持ちたちを眺める福音の姿があった。

だが、そう簡単に逃がす福音でもなかった……。

 

 

 

「キィアアアアアーーッ!!!!!」

 

 

 

再度の咆哮。

その後、持ち前の超音速飛行で、一夏たちを追いかける。

 

 

 

「くっ、来たぞ!」

 

 

 

全機が散開し、福音の出方を待つ。

だが、その福音が向かったのは、あろう事か最もエネルギーを消費している一夏と箒の下へと向ったのだ。

 

 

 

 

「ちっ! 先に潰しやすい俺たちからという事か……!」

 

「舐められたものだな……!」

 

 

 

だが、そう迂闊に手は出せない。

それに、今の第一目標は撤退だ。エネルギーの消費が著しく、とても今の福音を相手にするのは厄介な話だ。

だが、そんな事もお構い無しに福音は何故か、箒に向かって接近戦を仕掛けて来たのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

「箒!」

 

 

 

超音速からの突撃。

流石の紅椿でも、この衝撃には耐えられず、福音の出力に押し負ける。

 

 

 

「くっ! おのれ……!」

 

「キィアアア!!!」

 

「うわあっ!」

 

 

 

エネルギーを収束し、剣のようなものが生えた。

とても大きく、太い両手大剣だ。それが四本もある。

その瞬間、箒の背筋に悪寒が走った。そして、その巨大な剣を一気に箒めがけて振り抜いた。

 

 

 

「うわああああ!!!」

 

「キィアアア!」

 

 

 

幾度となく振るわれる大剣。

その鋒が容赦なく紅椿の装甲を斬り裂き、やがて箒の生身すらも浅く斬りはじめた。

そこから少量ではあるが、真っ赤な血液が流れ出る。

その時、箒はようやく、本当の意味で『死』というものに恐れおののいた。

 

 

 

「う、うわあああっ!!!!!」

 

 

 

福音から繰り出される大剣を弾き、両手に握る二刀で斬り込む。

その恐怖心を、心のそこから知ってしまった。

目の前にいる敵が、今はどんなものよりも強いと感じてしまったのだ。

だが、無情にもその二刀は空を斬り、やがて振るわれた大剣によって左の《空裂》は砕かれ、右の《雨月》も弾き飛ばされた。

 

 

 

「ぁ…ぁあっ………!」

 

 

体が震える。

このままでは、自分は本当に死んでしまうと、思うよりも先に体が反応したのだ。

そして、福音はトドメという事なのか、一振りの大剣を振り上げた。

 

 

「っ!」

 

 

恐怖心から、箒は再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

「やぁめろぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 

 

 

刹那の瞬間、その場に響き渡る慟哭のような叫び声。

先ほどと同じように、右手に愛刀《雪華楼》を、左手に箒が弾かれた《雨月》を握り、箒にトドメを刺そうとしている福音めがけて斬り込む一夏の姿を、箒は見た。

 

 

 

「い、一夏!?」

 

「おおおおッ!!!!!」

 

 

 

箒の声にも耳を傾けず、一夏は二刀を振るい、福音に肉薄する。

だが、その太刀筋は先ほどの一夏の物とは全くの別物だった。

確かに素早く、あらゆる物を両断してしまうような、強烈な剣技ではあるが……そこには、さっきまであったどこか人を魅了するような “美しさ” がなかったのだ。

 

 

「らああッ!」

 

 

 

まるで獣の如き太刀筋。

そしてその瞳からは、敵を殺すという “殺意” しか感じ取れなかったのだ。

 

 

 

「一夏!」

 

「でぇえやあああッ!!!」

 

 

 

箒の言葉は……今の一夏には届かない。

だが、福音は一夏の太刀筋にようやく慣れてきた………。

その証拠に、一夏の猛攻を防ぎ、あまつさえ反撃までしてきた。一夏もその動きから、先読みをし、受け流しながら戦う。

だが、一夏の動きや力に、とうとう武器の方が悲鳴をあげたのだ……。

 

 

 

パリィ……!

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

福音の攻撃を受けた《雨月》が、刀身の半ほどで砕け散った。

残るは、右手に持っている愛刀のみ。

《雪片》の展開は間に合わない……間に合ったとしても、福音との距離が近い為、《雪華楼》よりも刀身が長い《雪片》では分が悪過ぎる。

故に一夏は、そのままの勢いで、《雪華楼》を振り抜いた。

 

 

 

「はあああああーーーーッ!」

 

 

 

深紅に染まった刀身。

片手剣ソードスキル、重突進刺突攻撃《ヴォーパル・ストライク》。

矢のようにまっすぐと福音の懐へと、その刀身が迫り来る。

 

 

 

 

パキィィィィーーンッ!!!!!

 

 

 

 

その場に、再び鋼が砕ける音が響いた。

見れば、《雪華楼》の刀身が……鋒に近い部分から、完全にへし折れてしまっていた。

驚愕の光景を目の前に、両目を見開く一夏と、その光景を見せられ、唯一の希望を失ったかのように、瞳から光が消え失せ、絶望に打ちひしがれている箒。

最後の一撃……福音は、四本の大剣全てで応戦したのだ。

その巨大な剣で、《雪華楼》を囲むかのようにして振り抜き、その刀身を砕き、断ち斬ったのだ。

 

 

 

「な……っ!?」

 

 

 

その絶望は、一夏自身にも迫った。

目の前で砕かれた愛刀。それは一夏自身の力そのものと言っていい……。

それが砕かれた。なおかつソードスキルを使った反動で、体は硬直した状態だ。

そんな一夏に対し、再びエネルギー翼が形成される。

そして、隙だらけになった一夏の体に、幾十、幾百にも及ぶエネルギー弾が降り注いだ。

 

 

 

「うわあああああッ!!!!!」

 

「一夏ァァァァッ!!!!!」

 

 

 

至近距離からの爆発。

一夏の体は吹き飛ばされ、身に纏っていた白式の装甲は、見るも無残にボロボロだ。

そんな一夏の体を、箒は夢中に追いかけた。

海へと落ちる一夏を、絶対に掴むと言わんばかりに、紅椿のスラスターを全開にして……。

その甲斐あって、箒は一夏の体を掴んだ。

そして、福音の攻撃を浴びながらも、その場を急速に離脱していく。

 

 

 

「一夏! 一夏、目を開けろ! 開けてくれッ!!?」

 

 

 

ぐったりとした一夏の体を抱き抱え、箒は何度でも叫ぶ。

だが、一夏は一向に目を覚まさない……。

頭に傷が入ったのか、鮮血が流れ、一夏の顔を汚していく。

息は一応あるみたいだが、それでも弱々しい……急いで処置しなければ、一夏が死んでしまう。

箒はそんな予感を感じてしまった。

 

 

 

「一……ぐあっ!?」

 

 

 

何度目かの呼びかけの最中、後ろから撃たれた。

よく見れば、後ろからずっとエネルギー弾を撃つ福音の姿。

その攻撃は、幾度となく箒の体を打ちつけるが、そんな事になりふり構ってはいられない。

今は、一夏の体の方が心配だ……。

 

 

 

「くうっ、うおおおぉぉーーーーッ!」

 

 

 

最後の踏ん張り所……。

紅椿に残された最後の力を、スラスターの一点に振り絞り、展開装甲を展開し、一点突破で飛翔した。

トレードマークである、ポニーテールを結っていた緑色のリボンが燃え尽き、虚空へと消えていったが……。

そんな事も、今はどうでもよかった……。

その後、教師部隊と入れ替わるように、箒は旅館へと帰還したのだった……。

 

 

 

 

 






次回からは、白式との対話……というか、意識領域内での話を書きたいと思います。

感想よろしくお願いします( ̄▽ ̄)


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