ええ、まだまだ続く福音戦。
早く終えて夏休みイベントに行きたいものです(ーー;)
「撃ってえぇぇぇぇ!!!!」
ラウラの声が響く中、二門レールカノンから放たれた砲弾は、真っ直ぐ、寸分の狂いなく福音に向かって飛翔する。
簪が提唱した福音の行動パターンは三つ。回避か、迎撃か、防御か。
だが、四方八方を囲まれているこの状況で、回避するのはあまり得策ではない。
暴走し、システムが最適な行動を取ろうとするのなら、ここで回避はまずしないだろう。
となると、残された選択肢は迎撃か防御の二つ。
そして、取った行動は……防御だった。
「GO!」
「「っ!!」」
砲撃が着弾したと同時に、和人の合図で明日奈、刀奈の三人が仕掛ける。
着弾し、爆煙に包まれた福音の懐に最初に飛び込んだのは、三機の中で最も最高速で動ける明日奈の閃華だった。
「La〜〜♪」
「ごめんね……!」
防御からの奇襲に、福音も対応しようとするが、それよりも先に明日奈の剣が速かった。
「てえぇやあぁぁぁっ!!!!!」
蒼銀の光に包まれた《ランベントライト》
そこから繰り出されるのは、瞬間四連撃《カドラプル・ペイン》だ。
四連撃全てが福音を突き指さる。
「っ!?」
「くっ、浅い!?」
だが、瞬発的に半身姿勢になっていた福音。
四連撃が当たりはしたが、そのダメージは軽微なものだろう。
それに加え、明日奈はソードスキルを使った反動で、硬直状態に陥っているため、その無防備な体めがけて、福音の手刀が振り下ろされる。
「スイッチ!」
「っ!」
だが、その手刀を阻む黒い剣。
《エリュシデータ》から放たれた黄色い閃光《レイジスパイク》。
硬直状態になるのもほんのわずかな時間であるため、すぐに他のソードスキルを発動させ、すぐにでも追加攻撃ができる使いやすいスキルだ。
だが、こればっかりは、当てに行ったのではなく手刀を妨げるためだけに打ったもの故、福音に対してダメージがあったわけではない。
しかしそれでも、その背後からくる三人目がいる。
真紅の長槍を携えた槍の聖女。
その自由自在な槍捌きから、縦横無尽に斬閃が閃く。
「はああああぁぁぁっ!!!!!」
上段からの振り下ろし。
斬りかかる前に、槍を回転させておく事で、通常通りに振り下ろすよりも、遠心運動による力の動きが加わる。
そのため、思っていた以上の威力が出せるのだ。
だが、ここまで来て、複数の対戦者と近接戦を行ってきた福音。
そのためか、その動きは少しずつではあるが、刀奈の槍捌きですら見切り始めていた。
「そう……まぁ、学習するとは予想していたけど。でも、これならどうかしら!」
振り下ろしたその後、突如刀奈は左手一本で長槍を振り回した。
これに福音は対応し、その槍を後方に弾き飛ばすも、槍を背中越しに右手で掴み、体を回転させると、そのまま横薙ぎに一閃。
今度は確実に当たった。
槍の石突が福音の体を打ち貫き、福音は数メートル後方へと吹き飛ばされる。
態勢を整え、反撃に出ようとするも、それを周りの面々が許さない。
セシリアのライフルによる狙撃、シャルの銃弾の嵐、鈴の炎弾の雨。一機に対して行うには、過剰すぎる攻撃だろう。
「逃がしませんわ!」
「このまま押し切る!」
「とっとと落ちろっての‼︎」
容赦のない集中放火。
福音も躱し、防御するも、さすがにこれだけの銃撃、砲撃を食らえば、エネルギーも底をつくだろうと思った。
しかし、福音もただでやれまいと、全方位に向けてエネルギー弾を発射。
溢れんばかりのエネルギー弾の雨を降らせ、一夏たちを自分からひきはがす。
「ちっ! この武装チート過ぎるだろ!」
「ええい! これではイタチごっこだぞ、一夏」
「箒……。それはわかってはいるが、あの速さに追いつける機体がないんだ……」
「だから、それでこそ私の出番だろう! なんなのだ、私が信用できないのか!?」
「不確定要素が多すぎるんだよ‼︎ 戦力としたは申し分ないが、まだ不安な要素もある。何かが起こった時じゃ遅すぎるんだ!」
「っ!? ……くっ!」
箒としては、もう少し自分に任せてもらえれば、なんとか福音を抑えてみせる……。
そう意気込んでいるのだ。
実際、紅椿の性能は、福音をも凌駕する。だか、それだけで勝てないのは、現状でも理解はしている。
箒も、現実と理想の狭間で揺れているようだった。
自分になら、福音を倒せると思い描いている理想と、これだけ好戦的に戦っていても、未だ福音一機を落とすこともできないでいる現実に……。
「あっ!」
「しまった!?」
「ごめん簪! 抜けられた!」
「「っ!?」」
一夏と箒か言い争っていたその時、福音が周りの専用機持ち達を引き剥がした隙を狙って、包囲網を離脱。ポイントB3から離れ、再び海上を超音速で飛行していく。
「くっ! 速さじゃ追いつけない……セシリアとシャルロットは、ショートカットしてなんとかくらいついて!
二人が再び引きつけた瞬間、もう一度ラウラが砲撃! 明日奈さんと和人さんは、お姉ちゃんと一緒に、福音を追って下さい!」
「「「「「「了解!!!!!!」」」」」」
簪の指示が飛ぶ。
シャルは福音のルートを算出し、通るであろうルートをショートカットで追い詰めようとし、それのデータをセシリアに送る。
強襲用パッケージを搭載しているブルー・ティアーズなら、数回のショートカットで福音に追いつけるだろう。
後は、もう一度包囲網を完成させることができるかどうかだが……。
「俺たちも行くぞ……!」
「うん!」
「先導は私がするわ。二人とも、ついてきて!」
ラウラの砲撃を確認したら、すぐにでも斬り込めるように動いておく。
攻略時の基本の流れだ。
「私も先に行っておくわね!」
「うん。鈴はさっきと同じように、衝撃砲による牽制を!」
「はいよ!」
「ラウラは、砲撃終了後、ポイントE5へ移動開始。ここなら、範囲攻撃の射程ギリギリ外だから、狙い撃ちられることはない……。
でもここからだと、正確な精密射撃が……」
「問題ない。この程度の距離ならば、私の狙いは85パーセントの確率で成功する。
相手が超音速飛行しているなら、もう少し精度が落ちるが、包囲しているのならば大丈夫だ。
私の眼と、腕。舐めてもらっては困るな……っ!」
「わかった。そこはラウラを信じる……。一夏と箒は、遅くなってもいい。相手は軍用機で、プログラムされた動きをしているけど、必ず隙はできると思う……!
だから、二人はーーーー」
「わかってるよ。簪は、急いで指揮に戻ってくれ。俺たちもすぐに追いつく」
「わかった」
ラウラが砲撃態勢に入り、簪も打鉄弐式のスラスター全開で、福音を追ったみんなの元へと向かう。
「っ…………! 私たちは、こんな事でしか役に立てないというのか……!」
「箒……。簪は別に、俺たちを蔑ろにしているわけじゃ……」
「わかっている……! だが………」
悔しさのあまり、歯を食いしばり、今も握っている両手の二刀に、強い力が込められる。
(ようやく一緒に戦えるというのに……! これでは、今までと一緒ではないか‼︎)
今までだって、幾度となくピンチはあった。
鈴と一夏がクラス代表戦で戦っている時に乱入した無人機ISによる奇襲。
ラウラと戦った、タッグマッチトーナメントでのVTシステム事件。
その時箒は、ただただ見ている事しかできないでいた。
その時思ったのだ……自分にも、専用機があればと。
専用機を持ってすれば、ともに戦う事ができただろうという事は、明確にわかっている。
そして、ようやくその力を……専用機を手に入れた。
今回もまた事件が起きた。
ならばその新型専用機の力を持ってして、今まで出遅れた部分を取り戻そうと、躍起になっていたのに……。
(何が足りない……。経験か? 実力か? それとも、性能を活かしきれていない自分の能力か?)
考えるが、やはり答えは出てこない。
一体自分に、何が足りないのだろうか……。
「箒、このまま悩んでいても仕方がない。俺たちは俺たちのやるべき事をやるしかない……」
「ああ……分かっている。後を追うぞ、一夏」
「ああ……!」
少し出遅れはしたが、すでに福音の足止めには成功している様子だった。
ブルー・ティアーズの青い閃光と、ショットガンのマズルフラッシュが見て取れる。
その銃弾の中を掻い潜るようにして飛翔する銀色の機影もまた然り。
『鈴はもっと攻めて! セシリアは一旦距離を置いて……そのままだと、接近戦に持ち込まれる!』
『簪、準備万端だ。いつでも撃てるぞ……!』
『了解……10秒後に砲撃。その間、各員は少し距離を置いて』
『『『了解』』』
オープンチャネルで飛び交う通信。
みんなの声が緊迫した状況だという事を物語っている。
なんとか福音のエネルギーを削ってはいるが、それでもまだ決定打に欠ける様子だ。
『5秒前! 3……2……1……今!』
『撃ってえぇぇぇぇ!!!!』
再び号砲が鳴った。
二門の砲台から射出される砲弾。
だが、福音はこれをたやすく避けた。やはり距離が遠のいた事で、躱しやすくなってしまったのだろう。
『ちっ! すまん、ポイントE5への移動を開始する!』
無念と言わんばかりの声色を露わにしながら、ラウラは簪の指定したポイントまで移動を始めた。
次第に戦域が拡大していく。
接近戦を行うのが三機。周りから銃撃を行うのが三機。支援が一機。作戦オペレーターが一機。
そして、本作戦の要になりうる機体が二機。
10対1と言う状況の中で、福音はよく凌いでいる。
作戦が開始してから、すでに四時間が経過。
空高く輝いていた太陽が傾き始めた頃合いだ。
「ちっ! 中々落ちない……! 大丈夫か、アスナ?」
「はぁ……はぁ……うん。なんとかね……でも、これボス戦よりきついかも……」
「…………このままじゃ、私たちの方が落とされかねないわ……。簪ちゃん」
『お姉ちゃん?』
「このままじゃあ、いつまで経っても終わらないわ。だから、一気にカタをつけましょう……!」
『…………うん、そうだね。みんなのエネルギー残量も危うい……ここは一点突破で、福音を一網打尽にーーーー』
「ならば私と一夏がやる!!!!」
福音に向かって飛んでいく機影が一。
展開装甲を発動させ、紅いエネルギー翼が生えた機体だった。
二刀を振りかざし、福音に対してより高圧的に、好戦的に攻め立てる。
「箒! 待て、お前エネルギーが……!」
「まだ持つ! それより、お前も零落白夜を起動させろ!これで終わらせるぞ!」
箒の先行に驚く面々。
だが、箒はそんなことに構わず、ひたすら攻め続け、実際に福音の足止めにはなっている。
そこに仕方なしと、零落白夜を起動した一夏が、再び斬り込む。
「来い! 一夏!」
「おおっーーーーっ!?」
零落白夜を展開した雪片を振りかぶり、福音に斬りかかろうとしたその瞬間。
一夏は福音を通り抜け、海上へと向かって飛翔した。
「なっ!? お、おい!」
「チナツ?! どこに行くの!」
『船だ‼︎ 戦闘海域に船がいる!』
そう言うと、一夏の白式は高速で飛翔し、雪片を納刀。雪華楼を再び抜き放ち、船の方へと向かう。
「何言っている! 船より福音の方が優先だろう‼︎」
『ダメだ! 見殺しにはできないだろ!』
「っ〜〜〜!!!! ええい、愚か者めーーうわあっ!!?」
「箒ちゃん‼︎」
一夏に激昂している隙を突かれ、エネルギー弾を浴びてしまった箒。
福音との距離を開けられ、落ちそうになったところを、明日奈に救出してもらう。
そして、改めて一夏の方をみると、確かに船が一隻。その大きさから、大型船舶ではない為、漁船と考えて良かった。
だが、ISの光学カメラで漁船を照合したが、該当するものが見当たらなかった。
映し出されてウインドウには、『国籍不明』とだけ表示されていた。
「どこの船ですの!?」
「それより、どういう事? この海域って、先生達が封鎖してるんじゃ……!?」
セシリアが怒り心頭と言った様子で言い、シャルも困惑しているようだ。
「まさか……密漁船!?」
「ちっ、こんな時に何てことしてくれてんのよ!」
考えられる限りの可能性を、簪が口にした。
いくら広範囲で教師部隊が包囲し、戦場を確保しているとしても、大型船舶なら兎も角、小型の漁船程度を逐一感知するする事は難しいだろう。
その事を鈴もわかってはいるが、どうしてもそれを無視して死にに来るような馬鹿がいる事に腹をたてた。
そして、その船の存在に、福音も当然気づいている。
作戦海域に入った時点で、ただの密漁船も福音の撃破目標に入っているだろう。
福音は、鈴たちに対してエネルギー弾をばら撒くが、その弾は当然密漁船の進路上にも飛ばされる。
一夏はそれを、一発でも密漁船に当てないよう、雪華楼で斬り裂き、弾き、消滅させる。
だが、いかせん弾数が多すぎる為、全てを弾く事が困難だった。
「ちっ! 弾数多すぎだろ!」
「一夏!」
「箒!?」
福音のエネルギー弾を弾き終えた一夏の元に、箒が駆け寄る。
多すぎる弾を斬り続けた一夏は、肩で息をしながら向かってくる箒に視線を移す。
その箒の表情は、途轍もない怒りに満ちていた表情をしていた。
「この馬鹿者が‼︎」
「な、何だよいきなり?!」
「何故先ほどのチャンスを無駄にしたのだ! お前ならば、確実に決められただろうに!」
「俺が決めたところで、あの船の乗員たちが危険を晒されただけだ」
「何を言っているのだ! あいつらは犯罪者だぞ、それくらい当然の報いだ。奴らには構うな!」
「…………箒、それは……本気で言っているのか」
「なに?」
「犯罪者だから……法を犯したから……別に死んでも構わないと……」
一夏の表情が徐々に険しくなっていくのを、箒は目の当たりにした。
「ああ、そうだ。ここは完全封鎖しているはずだった……なのに、奴らはそれを無視してこの海域に入ってきたのだ。
我々は、危険だとちゃんと通告しているのだぞ? それなに、奴らは……!」
「だからって、見殺しにしていい理由にはならないだろう……!」
「何なのだお前は! 犯罪者を庇い、作戦を放棄すると?! この作戦が失敗したら、福音による破壊活動が始まるのかもしれないのだぞ。
ならば一刻も早く、福音を倒すのが先決だろう! いちいち奴らを庇っていては、勝てるものにも勝てない!」
「確かに、箒の言っている事は正しい……。今は福音を倒すのが先で、あいつらは警告を無視して進入してきたのかもしれない…」
「だったらーーーー」
「だが!」
「っ!?」
「決して……決して、見殺しにしていい理由にはならないし、俺はそんな事したくない……っ!」
今までの一夏らしくない、どこか子供のような台詞。
自分がしたくないからしない。理由なんて、ただそれだけだ。
「お前は子供か! 状況をしっかり把握しろ! お前一人の判断で、全てを無駄にするつもりか!」
「犯罪者だから死んでもいいというなら! 俺だって同じだ‼︎」
「っ!? な、何を……?!」
「人を斬り続けた俺は……お前の言う犯罪者と同じだ」
「っ……だが、それは……!」
「SAOでは、HPがゼロになった瞬間、現実世界のプレイヤーも死ぬ。俺は、それがわかっていて人を斬り続けた。
そうすれば、救いがあると思ってやった事だ……。だが、殺人は殺人だ。俺は決して許されない事をした……だから、俺もお前の言うところの……死んでも仕方のない、報いを受けるべき人間の部類に入るんじゃないのか?」
「ち、違っ、お前は……!」
「なら密漁船の奴らとどう違う? 俺も犯罪者だぜ……」
「…………それはっ……」
真っ直ぐ見つめられる箒は、一夏の顔を直視できなかった。
その悲哀に満ちた顔を向けられて、箒自身、どのような顔をして向き合えばいいのか、わからなかったのだ。
「俺はもう、人を殺したくはない。だけど、もしそれを強要されたのなら、俺は再びこの剣を振るだろうよ。
それは誰の為でもない……俺自身の為だ……! 箒、お前はどうなんだ……なんの為にその力を使うんだ?」
「わ、私は……」
一夏とともに戦う為……ただそれだけだ。
「それに、そんな事……お前が言うなよ」
「え……?」
今度は、とても苦痛な……だが、とても情愛を感じる表情に変わる。
それもこれも、箒の為に……。
「箒……お前までそんな事言わないでくれ。力を身につけた途端に、弱い人や、守るべきものを見失わないでくれ……。
俺と……同じ道を、お前に歩ませないでくれ……っ‼︎」
「一夏……!」
強さとは……?
それは、箒が一番欲していたものだ。
だがそれは、本当に必要なものだったのか……それとも、手に入れたものが、本当に強さなのか。
本当の意味での強さとは、一体何で、どういう物なのか……?
「わ、私は……っ、そんな、つもりは……!」
一夏の一言に、動揺を隠し切れない箒。
自分が一体、何を求めていたのか、どうしたかったのか……それすらも分からなくなってきていた。
ーーーーあなたの剣道は剣道じゃない!!!!
「はっ!?」
ーーそんなの、ただの暴力だよ! そんな剣、とても剣道とは呼べない‼︎
「ぼ、暴……力……?」
二刀を握っていた力が、徐々に弱まる。
そうだ、箒自身、そんな事とうの昔にわかっていた筈なんだ。
中学時代の剣道全国大会。
そこで箒は優勝した……。さすがに全国レベル、強い選手は大勢いた。だが、最初から負ける気などはなかった。
だが、その時ですら、箒の心情は少し、ぐちゃぐちゃになっていたのかもしれない。
姉がISを世界中にその存在を知らしめてから間もなく、政府によって、箒は保護観察プログラムという名目上、何十回にも及ぶ引っ越しを続けた。
幼馴染であった一夏との別れ、新しい学校に来ても、人との関わりを持たないようにしていた日々。
どれもこれも苦痛でしかなかった。
一夏とともに励んでいた剣道も、隣いた筈の一夏が……いない。一人孤独に竹刀を振るい続けた。
そんな事を続けているうちに、その怒りが、不満が、自身の剣にも表れていたようだ。
だからこそ思い知った。力に溺れ、他人を傷つけるだけの剣を、自分はよく知っている……。
誰でもない、自分がその剣を振るっていたのだから……。だからこそ、そんな自分を変えようとしてきたのに、また自分は、同じ事を繰り返そうとしていた……。
「わ、私は……私は……っ!?」
「箒…………っ!?」
突如、一夏が動いた。
放心状態になっている箒を抱えて、すぐにその場を飛び去る。
箒も一瞬のことで頭が回らなかったが、咄嗟のことに左手の空裂を離してします。すると、宙に漂っていた空裂にエネルギー弾がぶつかる。空裂は幾度となくエネルギー弾を浴びせられ、爆散してしまった。
エネルギー弾の雨が降り注いだ方角を見てみると、機械的な動作でこちらを直視している福音と目が……いや、顔を合わせてしまう。
「くっ! 野郎っ……!」
「い、一夏離せ、私はまだ!」
「いいや! 今のお前は、とても戦える状態じゃない。一旦引くぞ」
「い、一夏!?」
「死にたくないだろ‼︎」
「っ!?」
「これが戦いだ……殺し合いなんだ……。力がある者が背負うべき責任と覚悟だ。それが持てないなら、戦っちゃダメだ!」
必死に箒に問いかけるように……または、自分に言い聞かせているかのように、一夏は言葉を紡ぐ。
白式と紅椿の戦線離脱。それをカバーすべく、和人達が動く。
両手に《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》を展開し、超攻撃モードへとシフトチェンジをした和人。
絶え間なく続く剣戟に、福音も対応し辛くなってきているようだ。
しかしその背後からは、猛烈な突きを浴びせられる。
刀奈と明日奈による猛攻。
刀奈の両手に握られた《龍牙》と《煌焔》の二槍と、強くしなやかな刀身をした《ランベントライト》による連続突きの猛襲。
大きく態勢を崩したところに《双天牙月》を振りかざした鈴の一撃が入った。
「これでッ!!!!」
福音の背後より飛来してくる白い機影。
その両手には、《雪華楼》に加えもう一つの刀、《雨月》を交差させながら迫り来る一夏の姿があった。
「おおおおぉぉぉぉっ!!!!!」
通り過ぎる瞬間、二つの剣閃が閃く。
交差していた両刀が、福音のウイングスラスター《銀の鐘》を斬り裂き、その衝撃で福音はバランスを崩し、真っ直ぐ海面へと落ちていく。
「これで!」
「ダメ押しの!」
「トドメだッ!!」
さらには遠方から……。
シャル、セシリア、ラウラの声が木霊する。
リヴァイヴが展開したグレネードランチャーと、ブルー・ティアーズのスターライト、レーゲンのパンツァー・カノニーアの砲撃が、一点集中で福音を直撃。
超巨大な大爆発を起こして、爆煙に包まれた福音は、今度こそ海に沈んだ。
「やった……のよね?」
「ええ、手応えはバッチリでしたわ! このセシリア・オルコットの射撃ですのよ! 外すわけありませんわ!」
「一応、僕たちもいるんだけどねぇ……。でも、大丈夫かな? 絶対防御があるとはいえ、さすがにやり過ぎたんじゃ……」
「お前が言うのかシャルロット……この中ではグレネードランチャーが一番の破壊力を誇ると思うのだが?」
「ラウラのだって、大砲そのものじゃんっ!? 僕だけ悪者扱いはちょっと酷いよ!」
「だがまぁ、一番派手にやらかしたのは鈴だろうな……」
「はぁ?! なんでよ!」
「隙が出来たとはいえ、あれだけ強烈な一撃を福音に入れたんだ……もうその時点でやり過ぎている……」
「仕方ないじゃない! だったらラウラ、あんた何発もその大砲ぶっ放してるじゃないのよ‼︎」
「簪からの指示だ。仕方あるまい……」
「えっ、ええ?! だって、あれは戦術で……!」
「あーうん。わかってる、わかってるわよ……。っていうか、やり過ぎてるならみんな一緒じゃない!
一夏も和人も明日奈さんも楯無さんも私たち全員も!! 皆等しくやり過ぎた‼︎ これで終わり!」
やけになって締めくくる鈴。
それを見ながら、皆が作戦成功を確信した。
「くそっ……私はまた……何も出来なかったというのか……!」
一夏の隣で共に戦う……。
ただそのために力を求めた。だが、その結果がこれだ。
力の使い方を間違え、結局最後まで戦えきれず、また戦場を遠くから眺めているだけだった。
「私は……また……」
箒かそう言ったそのすぐ後だった。
福音が落ちたその海面が、凄まじい光の球体によって一気に弾かれた。
「な、なんだ?! あれは……っ!」
光の球体の中に、確かに見えた。
人型の形をした何か……8枚の光の翼を顕現させた天使の姿を……。
「なんだ、アレっ!?」
「どうなってるの?! 福音は今……!」
「カタナ! これは……!?」
「っ‼︎ まずいわ! これはーーーー」
刀奈が何かに気づいた。
ISの進化の過程に見られるこの現象を、すでに見ているからだ。
「ーーーー《
翼を広げ、光の球体を弾き飛ばした福音の姿は、特に変わった様子はなかった……だが、刀奈が言い切った言葉に反応したのか、無機質なバイザーに包まれたその顔を刀奈に向け、その敵意を全面に表した。
「キアアアアアアアーーーーッ!!!!!」
今までの美しい歌声とは全く異なる、獰猛な猛獣を彷彿とさせる咆哮。
周りの空気が震え、その叫びが波動となって体を震撼させる。
誰もがその咆哮に身を固めていると、福音は顔を合わせていた刀奈めがけて、超高速で飛びかかった。
「くっ!」
「カタナ!」
咄嗟に二槍を構える刀奈。
繰り出される手刀を槍で捌くが、先ほどとは比べものにならはいスピード、パワーに、防ぐ二槍を持つ両手に痺れが走る。
「なっ、なんなのよ! このスペック、あり得ない!?」
いくら軍用機と言えど、これほどのスペック上昇は常識外だった。
そんな化け物じみた敵相手に、攻撃特化の二槍では不利と感じ、刀奈は即座に《煌焔》を収納する。
「くっ!やってくれるじゃない……っ!」
《龍牙》を振るう刀奈。独特の構えからの縦横無尽に繰り出される槍撃が、福音を斬りつけようとするも、進化したシルバーベルがそれを阻む。
今度は槍を蹴飛ばし、ガラ空きになった刀奈の腹部に、鋭利に尖った手刀で、貫こうとする。
「くっ!?」
「カタナッ!」
ジャリッ! と刃が刃を削るような音がなる。
福音の手刀は、下からすくい上げるよう振るわれた一夏の《雪華楼》に阻まれ、弾かれる。
その一瞬出来た隙に乗じて、一夏と刀奈は福音から距離を取る。
「大丈夫か、カタナ?」
「ええ……、助かったわチナツ。一応絶対防御があるとはいえ、今のは貫通してもおかしくなかったわ……!」
「っ……! 一体なんなんだ、どうしたって言うだ?」
「わからないわ。ただ、これは暴走してるんだと思う……」
「暴走? もしかして、ラウラの時みたいな?」
「あれとは異なるわ。でも、似たような現象かも……。福音は無人機じゃない……なら、当然搭乗者がいる。なら、IS自身がその搭乗者のバイタルチェックだって当然してる……。
おそらくだけど、あの猛攻を受けたせいで、搭乗者の許容レベルが突破して、それを保護しようとしたんじゃないかしら……」
「じゃあ、まさか……福音は、自分の意思だけで強引に第二形態に移行したってことなのかっ!?」
「……そう考えていいと思うわ」
ここへ来て未知数の敵に生まれ変わった。
こちらはとても万全の状態とはいえない。むしろ、第一形態の福音相手に10機がかりで挑んでようやく落としたのだ。
安全性を考え、マージンを取って戦っていたため、エネルギー残量はまだ十分にはあるが、それでも、目の前にいる天使相手に、それがどこまで保つかもわからない。
「どうするカタナ……あまり攻勢に出ない方がいいかもしれないけど……」
「どのみち相手も私たちを逃すとは思えないわ……。それに、シルバーベルも進化してるし……あの超音速飛行で逃げ切れるとは思えない……っ!」
「ちっ、どの道やらなきゃいけないって事か……!」
これは勝算が少ない戦いだ。
だが、そんな戦いは、今まで嫌という程やってきた。
未知数の敵……システムで管理されていたとはいえない、自分たちよりも凶暴で強烈な敵と渡り合ってきた。
あの浮遊城で……何度も……。
「前衛は俺たちで固めた方がいいかな……?」
「そうね。チナツはいつも通り……私はこのまま槍一本で行くわ……。キリト、アスナちゃん、聞こえる?」
『ああ、話は聞こえてたよ』
『それで、前衛はキリトくんとチナツくんがするとして、スイッチはどうする? こう素早い敵だと、私たちだけじゃまかないきれないよ?』
「それは大丈夫。簪ちゃん、今伝えた通り……行ける?」
『うん……やれるだけ、やってみる!』
すでに指示を受けていた簪。
そこから通信を入れ、福音を包囲しているメンバー全員に作戦内容を伝える。
一夏、刀奈、和人、明日奈の四人が完全的な近接戦を持ち込む代わりに、他のメンバーが遠距離からの支援及び迎撃を行う。
また、近接戦が可能な機体は、随時スイッチを仕掛ける。
この場合、スイッチ可能な機体は鈴の甲龍と……
「箒、まだ戦えるか?」
『一夏……私は……』
「無理だけはしないでくれ。この戦いは、今までにないくらい危険だ。クラス代表の時と乱入戦闘や、ラウラの暴走の時とは全然違う。
本当に死ぬかもしれない……。だから、無理強いはしないがーーー」
『やる』
「箒……」
『やってやるさ……こんなところで怖気づいて、みっともなく待っているだけならば……それは死んでいるのと同じだ!』
「……本当に、いいんだな?」
一夏はただひたすら福音に視線を向ける。
一切の油断は見せない。一瞬の隙が命取りになる戦いだ。一夏の表情も、戦場に出る武士を彷彿とさせる顔だ。
そんな一夏からの問いに、箒は迷った……。だが、それでも、逃げるのは嫌だった。
『私も行く……。武器ならばまだある。手も足も動く。ならば問題ない……迷いはまだあるが、気持ちで負けていただけだ。この戦い、私も参戦させてもらう……っ!』
ふと、視線を箒の方に向ける。そこには、先ほどよりも、強い信念にも似た何かを持った、箒の姿があり、既に左手には再び量子変換して展開させた《空裂》が握られている。
「わかった。なら、スイッチ要員は鈴と箒。セシリアとシャル、ラウラは射撃に専念。簪、あとの指示は頼む」
『了解。くれぐれも注意して……敵の全容がわかっていない今、迂闊に攻めるのは自殺行為と思った方がいい』
「わかってるさ。じゃあ、よろしく」
通信を終え、一夏は左手に持っていた《雨月》を箒に放り投げ、それを箒が右手に掴む。
エネルギーはそう多くない。
無駄な一撃を撃たず、より確実に攻略する。
「話は終わったか?」
「キリトさん……。はい、行きましょうか」
「ああ……」
「私たちもね、カタナちゃん」
「ええ。しっかりと二人をサポートしましょう」
両手に展開していた《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》を構え、《雪華楼》が鞘に納められる。
準備は整った。
真正面に向き直った福音と、本当の意味での第二ラウンドが、始まったのだった。
「キアアアアアアーーーッ!!!」
「行くぞ!」
「「「おうっ!」」」
次で終わればいいかなって感じですなんですが、まだ色々と書きたいものがあるので、後二話くらいは福音戦になると思いますが、どうか長い目でお付き合いください(ーー;)
感想よろしくお願いします!