ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は福音戦、第一戦です!


それではどうぞ!



第38話 銀の福音

 

 

「ーーーーーー行くぞ!!!!」

 

「ッ!!!??」

 

 

 

一気に加速する。

思いもよらぬGの体感に、一夏は顔をしかめた。

 

 

 

(くっ! なんつー速度出してんだよっ!?)

 

 

 

浜辺から飛び立った紅椿と白式。

海面すれすれを飛ぶ二機のスピードに、海水が弾け飛ぶ様にして舞い散る。

 

 

 

 

 

 

「うそっ!?」

 

「イグニッション・ブーストの比じゃないよ……っ!」

 

「やるな……!」

 

「さすがは第四世代……と言ったところでしょうか」

 

「やっぱり、性能が断然に違う」

 

 

旅館の作戦本部内にいた鈴たちも、紅椿の性能に驚きを隠せない様子だった。

ここにいる全員が、第二世代、第三世代のISに乗っている。自分専用にカスタマイズしてあるため、一般的な量産機に比べると、その性能にも大きく差があるが、紅椿は、その性能すらも凌駕していた。

 

 

「凄いな……!」

 

「もう、こんな所を飛んでるよ」

 

「起動テストの時にも見たけど……この性能、計り知れないわね」

 

 

 

 

ポイントB3に向かっていた和人達も、衛星からの受信により得ている位置情報で、紅椿と白式の位置を特定していたが、既に二機の位置は福音に迫る勢いだった。

 

 

 

「私たちも急いでポイントまで行きましょう!」

 

「ああ!」

「うん!」

 

 

 

刀奈を先頭に、三機は待ち伏せポイントまで急行していった。

 

 

 

 

 

 

「暫時衛星リンク確立…………情報照合完了。目標の現在位置を確認。…………一夏、一気に行くぞ!」

 

「ああ!」

 

 

 

ものの数秒で、目標高度である500メートルに達していた。

だが、紅椿はさらに加速していく。

脚部と背部の装甲が展開装甲という名前通り、装甲が展開し、そこから強力なエネルギー体か噴出し、まるでウイングの様な形に形成された。

これこそが、紅椿の展開装甲を発動させた姿だ。

白式に搭載されていた雪片弐型の完成形態。全身の装甲が展開装甲になっているのだ。

 

 

 

(確かに凄いが、これほどのエネルギーを、一体どうやって……?)

 

 

 

雪片単体でも、エネルギーの消費は激しかった。

まぁそれは、己のシールドエネルギーを攻撃に転化するため、攻撃力を上げる代わりに、自分のエネルギーを消費しているのだが、紅椿のはその基盤が違う。

攻撃・防御・機動。これら全ての能力を底上げし、即時対応させるために、紅椿の展開装甲は全身の装甲に取り付けられていると、束は言っていた。

言うなればそれは、下手をすれば白式の雪片よりもエネルギーの消費が激しいのではないかと一夏は思ったのだ。

だが、そんな一夏の思考を遮って、箒の声が飛ぶ。

 

 

 

「見えたぞ、一夏!」

 

「っ!?」

 

 

 

箒の声で、一瞬にして意識を前方へと向ける。

セシリアから教わっていた超音速下での戦闘状態。ハイパーセンサーと呼ばれる物が起動している今、一夏の視界は驚くほどクリアで、そして、どこかスローモーションの様にも見えた。

そしてその視界がとらえた、目標IS。シルバリオ・ゴスペルの姿があった。『銀の福音』……その名の通り、全身に纏っている装甲が、銀色一色だった。

 

 

 

「あれか!」

 

「ああ! 集中しろ、一夏。目標との接触まで、あと10秒だ!」

 

「っ!」

 

 

 

 

箒の言葉通り、紅椿はトップスピードに乗り、福音に確実に近づいていた。

一夏は右手に雪片を展開する。

ギリギリまで物理刀状態で接近する。単一仕様能力『零落白夜』は自分のシールドエネルギーを攻撃に転化して、相手のシールドエネルギーを消滅させる能力。だから、極力エネルギーの消費を避けないといけない。そしてこれこそが、雪片を最も効率よく使う方法なのだ。

かつて千冬がモンドグロッソで戦っていた時には、刃が敵に触れる瞬間に零落白夜を発動させ、瞬殺するという戦略をとっていた。

それは生半可な訓練で出来ることではない事は、同じ雪片を持っている一夏が一番よく知っている。

一夏はまだ、千冬の様に零落白夜を自在に操る事は出来ない。

良くても自身の間合いに入った瞬間に発動させるのが精一杯だ。

 

 

 

「箒、俺はギリギリまで零落白夜を温存したい……だから、接近する時は合図をくれないか?」

 

「わかった。……出来れば、ここで仕留めておきたいが……」

 

「難しいだろうな。あのスピードを出せるISが、そう簡単に剣を受けるとは思えないが……」

 

「まぁ、やるしかなかろう……! 行くぞ!」

 

「応っ!」

 

 

 

紅椿が福音に迫る。

そして一夏は雪片を展開させ、いつでもバリアー無効化攻撃を仕掛けるタイミングを窺う。

だが、後方より迫る二機の存在を、福音も察知し、攻撃態勢が取られているわかると、急速に進行方向を反転させた。

 

 

 

「っ! 逃すかぁ‼︎」

 

 

だが、箒とて逃さずまいと、紅椿の出力を調整し、福音の飛んで行った方向へとルートチェンジする。

最短ルートで飛翔し、ようやく福音の間合い入った。

 

 

「今だ、一夏!」

 

「おおおおおおッーーーー!!!!」

 

 

 

箒の合図とともに、一夏は零落白夜を発動させ、箒は一気に福音の間合いを侵略する。

そして、渾身の力を込めて放たれた一閃が、福音に向けて振り下ろされた。

 

 

 

「La……♪」

 

「「っ!?」」

 

 

 

が、その渾身の一撃を、福音は再び方向転換し、上空へと飛び躱したのだった。

 

 

 

「くっ! なんだあの動きは……!」

 

「流石は軍用機か……。とんでもねぇ反射速度だぜ」

 

 

 

 

作戦前に見せられた福音……シルバリオ・ゴスペルのスペックデータの中にあった、福音の装備。

銀の鐘(シルバーベル)

大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新システムのウイングスラスター。

常時イグニッション・ブーストと同等の速さで飛ぶことができ、更には急加速もできる高出力の《多方向推進装置(マルチスラスター)》だ。

実際に見たそのスピードは、データで見ていた以上に速いと感じられた。

だが、そのシルバーベルの脅威はそれだけにとどまらない。

現に、今にもそのスラスターから放出し始めたエネルギー弾を、一夏たちに向けて発射したのだから。

 

 

 

 

「ちっ! 箒、散開しろ!」

 

「ああ!」

 

 

 

箒の背中から飛び立った一夏。

迫り来るシルバーベルのエネルギー弾を逃れるため、二機は左右に分断し、その砲撃を逃れ様としたが、分断したにもかかわらず、紅椿の方へとエネルギー弾が迫っていた。

 

 

 

「くっ! 追尾式か!」

 

 

 

高速でエネルギー弾を回避する箒だったが、追尾してきていたエネルギー弾は高密度に圧縮されているため、たとえ直撃しなくとも、その近くで爆発させてしまえば、多かれ少なかれダメージを負わせる事は可能なのだ。

 

 

「ううっ!」

 

「箒! 足を止めるな!」

 

 

対して一夏も、上空から大量のエネルギー弾を浴びていた。

雪片を収納し、愛刀である雪華楼を展開して、抜刀。

時には躱し、時にエネルギー弾を斬り裂くなどして、その攻撃を凌いではいたが、あまりにも数が多すぎる。

 

 

「ちっ! 捌ききれねぇ!?」

 

「一夏!」

 

 

福音が一夏を落とそうと躍起になっている隙に、雨月と空裂の二刀を展開した。

高速で接近し、福音に斬りかかる。

が、福音はその斬撃を回避し、箒の間合いから離れる。

 

 

「おのれ……! ちょこまかと!」

 

「箒、突っ込みすぎた!」

 

 

想定以上の高機動に、驚きつつも、なんとか態勢を整える二人。

 

 

 

『チナツ!』

 

「っ!? カタナか?!」

 

 

と、そこに刀奈からの通信が入った。

 

 

 

『こっちはポイントに到着。いつでもいけるわよ!』

 

「了解、すぐに向かう!」

 

 

 

刀奈からの通信を終え、視線を前方に向ける。

今もなお銀と紅の機影が、激しくぶつかり合い、大きな火花を散らしていた。

 

 

「くっ、硬い……!」

 

「箒!」

 

「っ!?」

 

「ポイントに移動開始だ。福音の攻撃に注意しつつ、全力でポイントまで移動するぞ」

 

「っ…………了解した!」

 

 

 

 

 

正直このまま福音を相手に勝てるかどうかは別にして、このまま攻め続けて行きたかったところだが、作戦の遂行が最優先だ。

箒はなんとも歯がゆいと言った表情ではあったが、一旦間合いを開けると、刀奈達が待つポイントへと向かって加速した。

 

 

 

「よし、このまま全速力でポイントに向かう。シルバーベルには気をつけろ」

 

「わかっている! それより、お前はエネルギーの事を心配しろ。先ほどの攻撃で、だいぶ減ってしまったのではないか?」

 

「いや、まだいける。それに、雪華楼はエネルギーの消費が少ないからな……全然行けるぞ」

 

「そうか。ならば、もう一度私に捕まれ。できるだけエネルギーの消費を抑えた方がいいのだろう?」

 

「ああ……。だけど、箒の方は大丈夫なのか? それだけの速度が出せるんだ……消費も激しいんじゃないのか?」

 

 

 

一夏の指摘に箒は急いでエネルギー残量を調べた。

が、思っていたほどエネルギーは残っていたみたいだ。だが、展開装甲を使っている間は、どうしてもエネルギーの消費が激しいらしく、今は箒も展開装甲を閉じている。

と、そこで安心もしていられなかった。後方より迫っていた福音から、大量のエネルギー弾が発射されているからだ。

 

 

 

「チッ、こっちが逃げる一方だからってよ!」

 

「全部は落とせんぞ?!」

 

「全部じゃなくていいんだ! 俺たちに直撃するやつだけを斬り裂けばいい!」

 

 

 

降り注ぐエネルギー弾。

箒は左の空裂を振り払い、衝撃斬を発生させ、エネルギー弾を斬り裂いていき、一夏は雪華楼を一度鞘に納刀し、両手で腰に装備していた飛刀を掴むと、それを降り注ぐエネルギー弾に向けて投擲。

不完全な投擲で、あまりうまく投擲出来ていたかと言われれば、それは違う。

だが、飛刀は失速することなく、蒼いライトエフェクトに包まれると、一気に加速してエネルギー弾と接触、爆破する。

 

 

 

「っ?! 一夏、今のは?」

 

「《投剣スキル》って言う、ソードスキルの一種だ。文字どおり、投擲の技だ。今のは、飛刀三本を投げて命中させる《トライ・シューター》って言うソードスキル」

 

「な、なるほど……」

 

 

一夏が習得しているのは、何も片手剣スキルだけではない。料理に裁縫、索敵、隠蔽、投剣、体術……そして抜刀術。

とりわけ投剣も、軍に所属していた時には多用していたスキルだ。

投剣自体は、大したダメージを負わせる事は出来ない。使用弾数は限られているし、連射も出来ない。良くても牽制に使うくらいだったが、それはボス攻略や、デュエルでの場合だ。

一般的な勝負ではあまり役に立たないが、一夏の場合は違った。

こんなスキルでも、今までにたくさん役に立ってきた事があった。

 

 

 

「よし、このまま攻撃に耐えて、合流しよう」

 

「ああ!」

 

 

 

二人は福音の攻撃をなんとか躱し続け、ポイントB3まで急いで飛行する。

福音も二機を撃墜しようとエネルギー弾を撃ち続けるが、二機は時折反撃しながら直撃を避ける。

そして、そんな一進一退の様な攻防を繰り返してきたが、周りの光景が少しずつ変わってきだした。

今まで何もない、ただただ大海原が広がっているだけの光景だったが、今は所々に無人島らしきものがちらほらと見えていた。

 

 

 

 

(よし……ポイントB3の区画内に入った!)

 

 

 

 

福音の攻撃を躱しながら、一夏は開いていた空中ディスプレイに移られた地図を見ると、その後、箒の方を見て、アイコンタクトで合図する。

それを箒も理解し、作戦は第二フェーズへと移行する。

 

 

 

「箒、散開! 福音は俺が引き受ける!」

 

「了解だ!」

 

 

 

ここで一旦、一夏が反転。そのまま飛翔していく箒を尻目に、一夏は雪華楼を抜刀し、福音に斬りかかる。

 

 

 

「さて、第二ラウンドを始めようか!」

 

「La………♪」

 

 

 

 

先ほどから、まるで歌声の様な機械音を発する福音。

それ自体に一体なんの意味があるのか、それはわからないが、ただ言えるのは、暴走しているにもかかわらず、IS自体の性能はズバ抜けているという事だ。

先ほどからも、一夏は果敢に福音に攻め込むが、シルバーベルの推力が、一夏の抜刀術よりも僅かに速い。

ましてやあまり得意ではない空中戦を強いられているため、一夏自身も攻めあぐねている様だ。

 

 

 

「ちっ、さすがに動きの速さでは分が悪いか……! ならーーッ!」

 

 

目的ポイントまで誘導しつつも、一夏は福音に向かってイグニッション・ブースト。

福音の飛行スピードにはついていけなくとも、瞬間的なスピードでは、一夏だって負けてはいない。

 

 

 

「おおッ!」

 

「っ!?」

 

 

この日、初めて福音が狼狽した。

いや、バイザーをかぶっていて、なおかつ機械的な動きをしているから、狼狽しているかはわからないが、それでも、はっきりとわかる様に、身構えたのだ。

 

 

「だああッ!」

 

 

上段から福音に斬りかかる。

タイミングはばっちり……。これは福音も躱し切れず、両手を交差させて受け止めた。

だが、一夏はそのまま鍔迫り合いに持ち込む気はない。

一度その刀を振り抜き、今度はガラ空きになっている胴に左薙一閃。

が、これは福音も反応して、再び右腕の装甲で防ぐ。しかしそれを見越して、一夏もそのまま体を時計周りに回転させ、福音の後頭部目掛けて一閃。

ドラグーンアーツ《龍巻閃》を叩き込む。

だが、これは福音がシルバーベルを動かし、雪華楼を食い止めた。

決して生半可な速度で放ってはいなかったが、それでも福音は一夏の攻撃を止めたのだ。

これは、福音の方を褒めるべきか……。

 

 

 

 

「くっ! 結構攻めてみたんだがな……」

 

「La〜♪」

 

「うおっ?! またかよ!」

 

 

 

ヒットアンドアウェイ……一撃必殺の剣術故に、一撃で仕留めなくては意味がない。

それが特殊武装を積んだ射撃装備を備えた福音相手なら、なおさらだ。

福音は一夏との間合いを開けようとして、エネルギー弾を再び撃ち始めた。

一夏も躱し、弾き、斬り裂きながら、後退していく。

 

 

 

(そろそろか……もう充分に引きつけたと思うけど……)

 

 

 

箒に一夏と、二機が充分にタゲを取ってくれていたおかげで、福音を誘い出す事に成功。

あとは、このまま包囲してやればいい。

 

 

 

 

「スイッチーーッ!!!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 

一夏は福音を、目的のポイントまで誘導しきっていた。

まるで双子のように佇む小さな無人島。決して人が住めるほどの大きさではないが、一時的に身を隠すだけなら、充分に持ってこいな場所。この島に隠れ、悟られないようにISをステルスモードにしていた刀奈、和人、明日奈。

無人島の間を、福音がすり抜けた瞬間、背後からの強襲を仕掛けた。

 

 

 

 

「せえぇぇぇやああッ!!!」

 

 

 

新装備《セブンズソード》を装備し、機動性と近接戦に特化した和人の月光が斬り込む。

右手に掴んだエリュシデータ。そこから片手剣スキルの水平四連撃《ホリゾンタル・スクエア》が炸裂する。

 

 

「スイッチ‼︎」

 

 

和人のソードスキルが直撃し、よろめいている所にすかさず追撃を叩き込む。

こちらも新装備として取り付けた四機のブースターが噴く。

《乱舞》の速度をトップまで引き上げ、その速度のまま神速の細剣の上位八連撃スキル《スター・スプラッシュ》が、福音の翼、体を突き刺す。

 

 

「っ!!?」

 

「まだまだ!」

 

 

 

さらによろめいた瞬間に、今度は右サイドから、槍を構えて突っ込んでくる刀奈。

そこから繰り出された三連撃刺突スキル《トリプル・スラント》。

これも確実に福音に入った。

 

 

 

「よし、強襲成功だ! 箒、俺たちも行くぞ!」

 

「了解した!」

 

 

 

 

と、ここで福音を誘導させるために離脱していた箒と一夏が反転。

三機に攻められている福音の元へ、急いで向かう。

箒は二刀を展開し、ご自慢のスピードであっという間に福音の間合いに入った。

 

 

 

「はああぁぁぁ‼︎」

 

「La〜♪」

 

 

箒の雨月による一太刀を左腕の装甲で受け、右手に指をまるで手刀のように構えると、一切の躊躇なしにそれを箒の顔目掛けて突き刺す。

箒もこれには驚き、咄嗟に左の空裂を当てて、なんとか軌道を逸らした。

 

 

「なるほど、接近戦もできるというわけか……!」

 

 

 

データ上では発覚していなかった近接戦闘におけるスペック。

特にこれといった武装はないが、それでも軍用機。

特に、シルバーベルはオールレンジ攻撃が可能なため、たとえ近接戦闘用の武器がなかったところで、エネルギー弾を発射すれば、たとえどの距離にいようと、当てることは可能なのだ。

 

 

 

「Laーー♪」

 

 

 

と、言っているそばからエネルギー弾を撃ち始めた。

しかし、今度は一方向ではなく、機体自体を回転させ、全方位に向けて満遍なくエネルギー弾を降り注いだ。

 

 

「っ! 回避!」

 

「うわあ!?」

 

「アスナちゃん!」

 

 

 

大量のエネルギー弾がばら撒かれる中、和人はブラックプレートを展開し、その巨体に身を隠すようにしてエネルギー弾を受け、刀奈が明日奈の元へ行き、アクア・クリスタルを起動。水の障壁を展開し、エネルギー弾を打ち消していく。

一夏は、最も近くにいた箒を連れ、上空へ離脱。間一髪のところで、直撃を免れた。

 

 

 

「ったく、あんな範囲攻撃まであるなんて……チートもいいところだろ……!」

 

「ゲームの話で片付けるな。しかし、これは厄介だぞ……どうするのだ」

 

「俺に聞かれてもな……俺はバリバリの前衛型だし……」

 

「だからゲームの話で片付けるな!」

 

 

どこか緊張感のない一夏にカッとなる箒。

だが、一夏の言う通り、何も手立てがないのは確かだ。

 

 

「こう言うのは、担当に任せるしかないだろ」

 

「ん? 誰の事を言っているのだ?」

 

「なに、嫌でもわかるよ……」

 

「ん?」

 

 

 

一夏はただじっと待ち構えていた。

その時が来るのを……。

 

 

 

「撃ってぇぇぇぇぇッ!!!!!」

 

 

 

ドン!!!!

 

 

 

「「「「ッ!!!?」」」」

 

「来たか!?」

 

 

 

 

突如、その場に響いた号砲。

軌道を描いた二つの砲弾は、見事福音に命中。

大きな爆煙を上げた。

 

 

 

「ラウラちゃん!?」

 

『すまない、遅くなった』

 

 

 

ISの高望遠映像で、砲弾の発射地点を見ると、そこには、新たな装備、砲撃用パッケージ《パンツァー・カノニーア》を展開したラウラのシュバルツァ・レーゲンの姿があった。

明日奈の驚いた様な声に、ラウラは冷静に返答する。高速で飛行する福音に対し、ラウラは眼帯を外し、露わになった金色の瞳で捉える。

 

 

 

「なるほど、さすがは軍用機だな……!」

 

 

 

初弾は命中したものの、もう二発目にして福音はラウラの砲撃を躱し始めた。

そして、砲撃直前になって手薄になっていたラウラの方面に高速で接近。

シルバーベルを起動させると、ラウラ一人に対して圧倒的とも言える物量のエネルギー弾をばら撒いた。

普段ならAICを展開し、攻撃を防ごうとするが、AICは止める対象に意識を集中させなくてはならない為、数多くばら撒かれたエネルギー弾全てに意識を集中させるのは、さすがのラウラでも難しい。

この間までは、早くもラウラは撃墜されてしまう……。

だが、そのラウラの前方に、一つの機影が割って入る。

 

 

 

「防御障壁、展開!」

 

 

突如エネルギーシールドが出現し、エネルギー弾の雨からラウラを守った。

 

 

「簪ちゃん!」

 

「ここは任せて! お姉ちゃん達は、早く福音をっ!」

 

 

 

試作型の防御用パッケージを搭載した打鉄弐式に乗る簪。

長方形型に展開されたエネルギーシールド。

まだまだ試作型とはいえ、高い防御力を誇る。元々打鉄のアンロックユニットに使っていた技術を応用して作ったものだ。

 

 

 

「その程度の攻撃なら、いくら撃っても無駄……!」

 

「きゃあ〜♪ 簪ちゃーん! かっこいい〜〜♪」

 

「も、もう! 作戦中……ッ!!!」

 

 

だが、その頬は朱に染まっている。

思いの外嬉しい様だ。

 

 

 

「全く、緊張感の欠片もないですわね……」

 

「でも、これが僕たちらしいよね……」

 

「辛気臭いのは面倒なだけよ。ほら、私たちも行くわよ!」

 

 

新たに三機が作戦海域に入る。

 

 

「行くよ、リヴァイヴ!」

 

 

両手にショットガンを展開し、満遍なく散弾をばら撒くシャル。

だが、福音の装甲を砕くには、まだ威力が足りない。

そうしている内に、福音は射線上が離脱していき、高速で飛翔し始めた。

シャルは右手に持っていたショットガンを収納し、今度はサブマシンガンを展開。

サブマシンガンの高速連射と、ショットガンの面制圧力で、どんどん福音を追い込んでいく。

 

 

「もらいましてよ!」

 

「ッ!」

 

 

シャルの銃弾の雨を掻い潜っていると、今度は真横から青白いレーザー弾が通りすぎだ。

これは福音が咄嗟に気づいて、躱すが、とんでもない出力で発射されている。

 

 

「逃がしませんわ!」

 

 

スターライトを手に、新装備の《ストライク・ガンナー》を装備して、高速戦闘が可能になったセシリア。

超高速下でも、的確に福音を狙い撃つ。だがやはりと言っては何だが、福音の速度が速く、肝心なところで避けられる。

 

 

 

「くっ! 狙い通りにいきませんわね……っ!」

 

「そんなみみっちぃ事してるからよ!」

 

 

今度は福音が逃げる前方から巨大な炎弾が放たれる。

これも福音に躱されるが、途端に福音の動きが止まった。

そこにすかさずもう一度炎弾を撃ち込む。

 

 

「ええい、ちょこまかと……!」

 

 

新装備、機能増幅パッケージ《崩山》。

二機から四機に増えた《龍砲》を絶え間なく連射する鈴がいた。

 

 

 

「鈴、そのまま福音を撃ち続けて。シャルロットは反対側から……!」

 

「はいよ!」

 

「了解!」

 

 

簪からの指示入った。

鈴とシャルが左右から福音を狙い撃つ。

片方はマシンガンによる実弾の雨を、片や炎を纏った弾丸の嵐。

これには福音も逃げ出し、左右交互に躱しながら離脱していく。

 

 

「逃すと思いまして!」

 

「悪いな、逃がさないぜ……!」

 

 

 

だが、その回避先にも、すでにセシリアと和人が待ち構えていた。

ライフルと剣を構え、福音の進行を阻む。

いや、和人とセシリアだけではない。

すでに展開していた一夏、箒、刀奈、明日奈もまた、福音の背後を囲み、そこから少し離れたところに、鈴とシャルが待ち伏せ、その後方では砲撃態勢を整えたラウラと、それを守る様に布陣する簪の姿もあった。

つまり、福音を完全に袋のネズミにした事になる。

 

 

 

「さぁて、ここからどう攻めたものかな……」

 

「一気に叩くのが定石だろう」

 

「でも、チナツくんを相手に近接戦を凌いでた様にも見えるけど……」

 

「そうね……。でも、どうやっても止めないと。福音がここから離れ、街であんな物をぶっ放したら、それでこそ殲滅されちゃうわ」

 

 

 

福音の背後からどう攻めていいのか探る一夏たち。

正面から様子を見ていた和人たちも同じ様で、慎重な対応をしていた。

作戦が始まって、早くも一時間以上経っていた。

時刻は1時50分。まだまだ夏の日差しが眩しく感じるが、少しずつ陽も傾いてきだしていた。

それに、問題が一つ。

白式と紅椿のエネルギー残量だ。最初から今までフルスロットル状態で福音と戦ってきている為、そろそろ決めないと致命的なダメージを負った際、取り返しのつかない事になりそうだ。

その事は、後方から様子を見ていた簪が監督している。

常にエネルギー残量の数値を各機から送信してもらっている為、逐一把握しているが、やはり白式と紅椿の消耗が激しかった。

 

 

 

「このままじゃジリ貧になっちゃう……一夏と箒は、一旦下がって。前衛は、和人さんと明日奈さん。そのサポートを、お姉ちゃんと鈴で!

シャルロットとセシリアは、福音を海域から逃さない様にしてて……ラウラも、砲撃はいつでもできる様にしておいて……!」

 

 

 

全体のバランスが取れるよう、簪の指示が飛ぶ。

戦術としてもこれがベストだと、皆が指示に従い、一夏も箒を連れて後退する。

 

 

 

「おい、一夏! 私はまだやれるぞ?!」

 

「無茶を言うな。簪は俺たちの機体データの一部を完全に把握してる……。その中に、エネルギー残量だってちゃんと認識しているんだ。俺と箒をあえて下げたって事は、一番消耗が激しいと思っているからだ」

 

「だが、私でないと福音はーー」

 

「それもわかっている。だからこうやって布陣しているんだろう……。無闇にこんな策を思いつく様な奴じゃねぇよ、簪は……」

 

「………」

 

 

 

箒としては、まだまだやれると思っていたが、一夏の指摘に紅椿のエネルギー残量を確認してみると、どこか心許ない。

 

 

「俺のエネルギーも、あまり無駄遣い出来ないからな……」

 

「っ! もう、まずいのか?」

 

「零落白夜にイグニッション・ブースト……微量だけどソードスキルも使ったしな……。

零落白夜だったら、あと二、三回が限度だろうな。雪華楼だけで押し切るなら、もっといけるけどよ……」

 

 

 

零落白夜を使えば、一撃必殺の攻撃に期待したいところだったが、残り少ないチャンスで福音を落とせるとは言い難い。

ここにいる全員を相手に、いまだに墜ちないほどの性能だ。殲滅型の軍用機と言うのもの伊達ではない様だ。

 

 

 

『和人さん。合図をしたら、ラウラに砲撃をしてもらいます。その瞬間に斬り込めますか?』

 

 

簪からの通信が入る。

和人は少し考えると、すぐに簪に返答した。

 

 

「斬り込むのは良いが、福音がまともに砲撃を食らうとは思えないぞ?」

 

『大丈夫です。その場合、福音には選択肢が三つあります。一つは躱すこと……もう一つは、防御。最後に迎撃です。

でもこの場合、わざわざ回避するのは難しいと思います。これだけ囲まれている中で、さすがに高速飛行をしようとも、狙撃に有利なセシリアと、面制圧力を持つシャルロットに鈴もいます。それに、お姉ちゃんがいるから、その手で防ぐことはできない。

だったら、動くとした防御に専念するか、迎撃して砲弾を落とすかのどちらかだと思います』

 

「なるほどな……確かに、一理ある」

 

 

 

理論整然と肩られる簪の解説に、和人も納得せざるを得なかった。

 

 

 

「わかった。砲撃のタイミングは簪が決めてくれ。それに従って、俺たちで斬り込む」

 

『わかりました……って、“俺たち” ?』

 

「ん? ああ、アスナも一緒にってことなんだけど……なんかおかしい事言ったか?」

 

『あ……いや、なんでも無いです……』

 

 

 

 

首を傾げる和人だったが、正直簪は、和人一人に対して言ったつもりだったのだが、まさかそこで明日奈まで自然に共に行くとは思ってもみなかった。

まぁ、普段の生活風景や、仮想世界での活動でも、ほぼ一緒にいる二人だ。

ましてや明日奈が、その事を承諾するのは難しいだろうと考えられた。

 

 

 

「アスナ」

 

「どうしたの、キリトくん?」

 

「今からラウラが砲撃を行う。その砲撃に、福音がどういう行動を取るかはわからないが、必ず隙が出来ると思う。

その瞬間を狙って、俺と一緒に斬り込む……。だからーー」

 

「皆まで言わなくでいいよ、キリトくん」

 

「っ……ありがとう。簪、こっちはいつでも行けるぞ」

 

『了解です。私の方から、皆には通信を入れてあります。合図したら、よろしくお願いします』

 

「ああ……!」

 

 

 

準備は整い、それぞれがそれぞれの役割を果たすまで……!

 

 

 

「ーーーーラウラ、お願い!」

 

「撃ってぇぇっーーーー!!!!」

 

 

 

簪の合図と共に、パンツァー・カノニーアから強烈な号砲が鳴り響く。

福音撃破の狼煙が上がったのだった。

 

 

 

 

 





なんか微妙なところで終わったけど、次回からはもっと白熱したのを書きたいですね( ̄▽ ̄)
(願望であって、決定では無い……(ーー;))


感想よろしくお願いします( ̄▽ ̄)

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