ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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福音戦まで行けなかったぁ〜(ーー;)

でも次回は必ず行きますので!
それではどうぞ。




第37話 ゲット・レディ

 

 

 

「これより、政府から通達された重要案件について説明する。単刀直入に言おう……。

お前達に、やってもらいたいことがある……!」

 

 

 

 

今までにないほどに緊張した面持ちで、千冬はそう言った。

現在、旅館の一室〈風花の間〉を完全に貸切、そこに臨時の作戦本部を設置した。室内には、旅館にはまず置いてないであろう最新式のコンピューター類が立ち並んでいる。

そのうちの一つの機器に、副担任の真耶が座り、電子キーボードをタップしていた。

その他にも、他のクラスの担任の先生達が、それぞれ作業をしていた。

その先生方も、真耶も、みんなが真剣な表情で画面を凝視している。

そんな殺伐とした雰囲気に包まれている中、集められた専用機持ち達は、畳の上に正座して座っている。

各人の表情も硬く、一人一人が、今回この臨時作戦の担当になっている千冬を見ていた。

 

 

 

「今から二時間前、ハワイ沖で試験運用中だった、アメリカ・イスラエル合同開発の第三世代型IS《シルバリオ・ゴスペル》が制御下を離れ暴走し、監視空域を離脱したとの報告が入った。

このシルバリオ・ゴスペル……以降を《福音》と呼称するが、その福音の行方だが、離脱後に衛星による追跡の結果、ここから二キロ離れた空域を通過することがわかった……。

時間にして50分後。学園上層部及び政府からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

 

 

淡々と状況説明を行う千冬。

そして、ここからが一番大事なことなのだろう……一度咳払いをすると、先ほどよりも真剣な表情で、一夏達を見下ろした。

 

 

「教員は学園から運んだ訓練機を使用し、空域及び海域を封鎖してもらう。

よって、本作戦の要は専用機持ちであるお前達に担当してもらう」

 

 

 

やはりそうなるか……。と言った面持ちであった。

一夏や和人、それと明日奈、箒を除くメンバーは、より真剣な面持ちになると、自分たちが座っている場所から少し前に投影された空間ディスプレイを凝視し始めた。

それぞれが国家の代表及び代表候補生。例え代表候補生であっても、軍に所属し、あらゆる可能性を持った軍事訓練を受けてきた筈だ。

ならば、今回のこの事態も、一つの一例として訓練を受けているはずだ。

 

 

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

 

「はい」

 

 

早速、手を挙げたのはセシリアだった。

 

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは二ヶ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな、情報が漏洩した場合、諸君らは査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

 

普段の学園生活ではまず聞くことのない単語。

『査問委員会』や『裁判』、『監視』など言った言葉を聞いてしまった。

しかし、何故にそんな重要な案件を、IS学園生徒は言え、自分たちにこのような事態の収拾をさせようとするのか……?

だが、そんな事を言ってられるほど、今は暇ではない。

セシリアの要求に、千冬は真耶に指示して、福音のスペックデータを写した。

 

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのブルー・ティアーズと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動……その両方に特化した機体ね。厄介だわ……しかも、私の甲龍よりもスペックは上だしねぇ……」

 

「この特殊武装ってのが曲者かもね。ちょうど本国から防御用のパッケージが送られてきてるけど、連続での防御は難しいかも……」

 

「それに、このデータ上では近接格闘の性能が未知数だ。持っているスキルもわからん……偵察は行えないのですか?」

 

 

セシリア、鈴、シャル、ラウラの順に話を進めている。

そして、刀奈も、簪が手に持っているタブレット端末を指でタップしながら、簪とともにスペックデータを見ていた。

 

 

「無理だな。この機体は、今現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう……」

 

「一回きりのチャンス……ということは、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかないですね」

 

 

真耶の言葉に、その場にいた全員が一夏に視線を集めた。

 

 

「ま、やっぱりそうなるわな……」

 

「そうね。チナツの零落白夜が、本作戦の要になるわ」

 

さすがにそこまで言われれば、一夏も自分の役目だと気づく。

この中で最も一撃必殺の攻撃力を持ったスキルを持っているのは、一夏の白式だけだ。

 

 

「だが、いくら白式が最強の武器を持っていたとしても、超音速で飛ぶ相手とどうやって戦うんだ?」

 

「そうだね……ここから二キロ離れた場所に行くまで、チナツくんのISはエネルギーを維持しておかなきゃいけないし……」

 

 

これを言ったのは、和人と明日奈の二人だった。

二人はこういった軍事的なものとは無縁だと思っていたが故、刀奈と一夏以外の面々は、キョトンとしていた。

 

 

「ん? どうした?」

 

「なんでみんな、そんなにキョトンとしてるの?」

 

「いや、なんでも何も……」

 

「正直、和人さんと明日奈さんは、こういった物とは……」

 

「一番無縁だと思ってたし……」

 

「しかし、いいところを突いてきたな」

 

「とても、慣れてる感じ……さすがは攻略組担当」

 

 

 

最後の簪の言葉に、何故か納得してしまった。

アインクラッド攻略組の指揮官担当、攻略の鬼、最強ギルドの副団長と、この中にいるメンバーの中では、一番場に合っているような気がしてきた。

そして、何よりこういった攻略の要点を知り尽くしている和人。生粋のゲーマーでバトルジャンキー。

目標を知り、より安全に的確な攻略をするために、あらゆる可能性を考え、戦い抜いてきたのだ。

普段は仲良しこよしのまるでおしどり夫婦のような二人だが、人は見かけによらないとはこの事だと痛感させられた。

 

 

「そうだな……。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「それなら、私の閃華か……」

 

「わたくしのブルー・ティアーズですわね。それに、ちょうど本国イギリスから強襲用高機動パッケージ《ストライク・ガンナー》が送られてきたますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

 

 

明日奈の閃華は、元々がスピードを重視したテンペスタの機体をカスタムした物。なので、今回の目標である福音には劣るが、かなりの速度での飛行が可能だ。

だが、今回の事態においては、適任ではない。

それは、明日奈自身が超音速下での戦闘訓練を受けていたない事と、明日奈の機体は近接格闘戦に特化した機体だ。

完全な射撃戦闘型の福音には、さすがに分が悪い。

 

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「20時間です」

 

「ふむ……それならば適任だな……」

 

 

さすがは代表候補生……と言いたかった。

これで作戦は決まった。

セシリアが一夏を福音の元へと届け、一夏が零落白夜で福音を落とす……。

千冬がそう言おうとしたが、それを遮るかの如く、底抜けに明るい声が邪魔をする。

 

 

「待った待ーった! その作戦はちょっと待ったなんだよーん!」

 

 

突如、部屋のど真ん中の天井から、うさ耳がひょっこりあらわれる。

なんと束だったのだ。

千冬のあの猛攻をその身で受け、海に流されていったはずの束が、ピンピンの姿で登場したのだ。

 

 

「…………ちっ、死んでなかったのか」

 

「ちょ!? もしかして、本気で殺す気だったの、ちーちゃん!?」

 

「うるさい、外野は黙っていろ。山田先生、部外者を外に連れ出してください」

 

「うえっ!? あ、は、はいっ。あ、あの、篠ノ之博士? とりあえず、降りてきてもらっていいですか?」

 

「ちょっとちょっと! 束さんを無視しないでよちーちゃん!」

 

 

 

ポーンと天井から飛び降り、くるりと体を一回転させて着地した。

すると、すかさず千冬の元へと走っていく。

というか、よく無事だったな……あんな強烈なボディーブローをもらったのに……。

 

 

「お願いだから聞いてよちーちゃん」

 

「……出て行け」

 

「あ、あの束博士……」

 

 

真耶が束を連れ出そうとするも、束はそれをするりとかわす。

それを見ながら頭を押さえる千冬。

 

 

「だから聞いてってちーちゃん。今回の作戦なら、断ッ然! 紅椿の出番なんだよ!」

 

「なんだと?」

 

「ほら、紅椿のスペックデータを見てよ! パッケージなしでも超音速機動が可能なんだよ!

紅椿の展開装甲を調整すれば、その福音に負けないどころか、それ以上の速度だってだせるんだよぉ〜!」

 

「展開装甲?」

 

 

この単語には千冬も耳を傾けた。

今までのISの装備や武装に、そのような名称を持つ物はなかった。

 

 

 

「おっとっと、その前にこの《展開装甲》について話さないといけないね!

じゃあまずおさらいといこうか……。まず、ISについて。ご存知の通り、束さんの作った発明品の中でも、群を抜いて最高傑作のIS。その中でも、第一世代型のISは、より強力に、ISとしての完成形態に力を注いだもの。そしてそれは、軍備としての発展に力を注いだものになっていった…………それは理解できるよね?」

 

 

 

そう、ISが世界中にその存在を知らしめた当時……宇宙進出という目的とは別に、各国の軍事利用へと流れが変わって来ていた。

その完成形態と言えるのが、第一世代型のISだ。

この代表的な機体が、かつて千冬が世界最強の称号を手にしたモンド・グロッソで搭乗していた専用機《暮桜》だ。

その時の武器が、最大級の攻撃力を有する日本刀《雪片》。

 

 

 

「その後、『後付武装による多様化』……これが第二世代型ISのコンセプトだね。それによって、様々なタイプの武装がつけられてぇ〜、色んな戦い方ができるようになったんだよねぇ〜……。

そんで、次に第三世代型。それはーーーー」

 

「『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』……ですね?」

 

「おー! キーくんわかってるねぇー! そうだよ、《空間圧作用兵器》《BT兵器》《AIC》……それと、キーくんやいっくんたちが使ってる《ソードスキル》も同じだね。あれはみんなのイメージによって形成されたものってことになるね!」

 

「それで、その展開装甲と言うのはなんだ?」

 

「それこそが第四世代型ISの真骨頂! 後付武装……つまり、『パッケージ換装を必要としない万能機』。

現在机上の空論とされているものを、私が実現させちゃったってこと!

そして、その代表格が、この《展開装甲》でーす!」

 

「でも、束姉……束さん。その展開装甲っていきなり実戦に出していいんですか? その、稼働データとかは?」

 

 

普段通りに束の事を呼ぼうと思った一夏だが、千冬が一睨みした為、あえて言い換えた。

だが、これもまたいい問いかけをしたと束は大いに喜んだ。

 

 

「ふっふーん! それならノープロブレム! その稼働データなら、いっくんが充分取ってくれたからね♪」

 

「え? 俺が取っていた?」

 

「うん! たった二回しか使ってはもらえなかったけど、あれでも結構なデータを取れたんだよ?」

 

「……二回? って、まさか!」

 

「その通り! 展開装甲の試作型として作った『雪片弐型』を白式に載せたのは、そのためだよ! つまり、もう充分なデータは揃ってるんだよねぇ!

そしてそして、紅椿の展開装甲は、充分なデータを取った上で作った完成型! 全身を展開装甲にしたほんとのほんとの最新式の機体なんだよーん!」

 

「「「「………………」」」」

 

 

開いた口が塞がらなかった。

たった二回しか使ってない武器のデータで、そんな所まで武装を進化させることができるものなのか?

しかも、それを箒用にカスタマイズしたオリジナルの機体として昇華させているのだから、やはり、天才と認めなければならないか……。

 

 

「はぁ……束、私はいつも言ったはずだ……『やり過ぎるな』と」

 

「あーうん、まぁ、でもさぁー、科学者としての血が騒ぐんだよねぇ〜♪ ごめんごめん」

 

「はぁ……。それで? 作戦に支障はないんだな?」

 

「待ってください先生!」

 

 

と、そこにセシリアが割って入ってきた。

 

「私とブルー・ティアーズなら、確実に戦果をあげてみせますわ! ですから、本作戦は、わたくしにーーーー」

 

「だがオルコット、装備のインストールまでに、あとどれだけかかる?」

 

「そ、それは……まだかかりますわ。最速でも、20分はかかります」

 

「…………束、紅椿の調整にはどれくらいかかる?」

 

「ん? まぁ、ざっと7分かな?」

 

「なっ?!」

 

 

調整だけとはいえ、たったそれだけの時間でやり終えてしまうのだから、さすがと言わざるを得ない。

 

 

「もう一度確認するぞ。作戦に支障はないんだな?」

 

「まぁーね。でも、紅椿もまだ完全体とは言えないねー。なんせ、稼働データがまだ取れてないからね。

でも、超音速戦闘は可能だよ! それに、今回はいっくんが付いているからね!」

 

 

束の発言に、みんなが視線を向ける。

特に、今回から本格的な戦闘に参加する箒も真剣な眼差しを向けていた。

一夏は……。

 

 

 

 

「…………任せてください」

 

「っ!」

 

「と、言いたいとこですけど、今回は別の作戦で行けませんか?」

 

「な、なに!? どう言う事だ、一夏!」

 

 

 

想定していなかった答えだったのだろう。

箒は一夏の答えに納得出来ていなかった。完全体ではないとはいえ、軍用ISにも引けを取らない自分の専用機と、一夏の攻撃力を合わせれば、今回の作戦だって、成功すると思っていたからだ。

 

 

 

「わ、私では不服なのか!?」

 

「そうじゃない。だけど箒、考えてもみろよ……」

 

「っ?」

 

「確かに、お前の紅椿と俺の白式なら、今回の作戦は成功する可能性が高いだろう……だけど、それは俺たちが、“それに値するだけの技術を持っていれば” ……の話だ」

 

「っ!」

 

「箒はISの訓練を受けてはいるが、超音速下での戦闘訓練はしてないだろう?

それに、紅椿だって、さっき乗って性能を見ただけじゃないか」

 

「だ、だが、この紅椿ならばやれると姉さんは言っているんだぞ?!」

 

「性能だけならな。だけど、その性能が『使える』のと、『使いこなす』のとじゃまた別問題だ」

 

「あ……」

 

「それに、俺も一応、戦闘訓練は受けてるし、実戦も何度かやったけどさ……それでも超音速戦闘は初めてだし、何より空中戦は、まだアマチュアレベルなんだ……。

地上戦闘なら、問題なく任せろって言いたかったが、今回は違う。不確定要素が多すぎる。そんな状態の奴が二人揃ったところで、軍用機に落とされるのがオチだろう……」

 

「…………」

 

 

 

一夏の言っている事は、理にかなっていて、何より適切な対応だと思った。

慣れない新装備に、慣れない戦闘状況の中で、一体自分がどれだけの役割を果たす事が出来るのか……。

それに、紅椿は遠距離用の技が使えるとはいえ、箒専用にカスタマイズしてあるならば、当然紅椿は近接戦闘に向いている機体だ。

それだと、広域殲滅型の福音相手には分が悪すぎる。

 

 

 

「ならばどうするのだ! 今回の要は、あくまでお前の零落白夜だ! セシリアのパッケージのインストールもまだ終わってないし、そんな猶予も残り少ない。

こんな状況下で、今動けるのは私とお前だけなのだぞ?!」

 

「…………確かに、動けるのは俺とお前の二人だけだ。だけど、福音を相手にするには、まだ荷が重い……だったらーーーー」

 

「だ、だったら?」

 

「ーーーー撃墜しない程度に相手をするしかないな」

 

「…………はぁ?」

 

 

 

なんだか子供みたいな事を言う一夏に、箒は気が抜けたような声を出した。

 

 

 

「お前何を言って……」

 

「だから、俺とお前が福音の追跡をするのは変わらない。だけど、俺たち二人だけだと、福音相手には荷が重い……。

なら、二人じゃなきゃいいんだよ……!」

 

「二人じゃなきゃって……ここにいるメンバー全員で、って事か?」

 

「ああ。ここにいるメンバー全員で包囲して、波状攻撃をすれば、俺たち二人だけでやるよりも安定で、万全な作戦を遂行できると思う」

 

「だが、それぞれの装備のインストールまでに、相当な時間がかかるのだぞ?」

 

「そこは俺たちが時間を稼げばいいんだよ。何も、誰一人として武装のインストールをしていない訳じゃない。

インストールはしているが、完了までに時間がかかるだけだろう? でも、それももうすぐ終わる。そのもうすぐを、俺たちでつないどけばいいんだよ。

落とす気じゃなくても、福音の注意を向けられれば、それでいいんだ」

 

「………………」

 

「そして、そのまま福音を誘導し、待ち伏せする。より確実に福音を撃破出来る」

 

 

 

作戦としてはやや不安材料が残るものの、提示された二つの作戦の中では、一夏の作戦の方が何かと上手に思えた。

教師陣の中にも、一夏の作戦に支持する者がいたくらいだ。だが、本作戦の責任者は千冬だ。

その千冬が決定をしない限り、一夏の作戦は無効となる。だが、私情を抜きにしても、一夏の作戦は理にかなっている事は、千冬もわかっていた。

 

 

 

「織斑、最速でも20分は福音を引きつけておかなくてはならないのだぞ? 最悪の場合、その倍の時間がかかるだろう。

それに、フォーメーションはどうする? いかに人数が揃っていたところで、役割分担が出来ていなければそれまでだ」

 

「大丈夫です。雪片だけならともかく、俺の得物は他にもある。飛び道具相手の対処は、嫌という程訓練しましたし……。

それに、フォーメーションならもうみんなわかってると思いますよ?」

 

 

 

一夏が微笑みながらみんなに視線を移した。

そうだ、みんなそれぞれの役割を理解している。今回送られてきた装備の具合も、それぞれの役割に合わせた物が多い様にも思えた。

そんな一夏の言葉に、全員意気投合したかの様に笑う。

やってやる……そう言いたそうな表情だった。

 

 

 

「なるほど……。わかった、代表候補生組は急いで装備のインストールを完了させろ。時間は早ければ早い方がいい。

織斑、篠ノ之両名は、いつでも出撃できるよう待機。残るは……」

 

「私たちも先に出撃します」

 

 

 

そう言ったのは刀奈だった。

そして、刀奈同様その要求に応じた和人と明日奈。

 

 

 

「俺とアスナはもうすでにインストール済みです。なんなら、俺もチナツと一緒に即時戦闘可能ですよ?」

 

「ダメだよキリトくん。私じゃあ超音速飛行できないんだから、私達はカタナちゃんと一緒に待ち伏せる方に回るよ」

 

「わかってるよ。それまで落ちるなよ、チナツ」

 

「落ちませんよ。って言うか、落ちる気全くないです」

 

 

 

やや好戦的なノリになったところで、千冬が作戦決行の指示を出した。

一夏と箒が福音を引きつけておく間に、刀奈、和人、明日奈の三名が待ち伏せポイントまで移動。

その後、福音をポイントまで誘導し、五機で福音を攻める。その後、インストールを完了させた代表候補生組が合流し、一気に畳み掛けるというシナリオになった。

箒はあまり納得はしていなかったが、より確実な作戦という一夏の言葉に従い、この作戦に同意した。

 

 

 

「話はまとまったな? では、解散!」

 

 

千冬の指示に従い、それぞれ即座に行動に移した。

一夏と箒は、インストールを行っている間に、セシリアから超音速飛行下での戦闘に関するノウハウを教えてもらって、和人と明日奈も、刀奈とともに作戦内容を入念にチェックしていた。

そして簪は、それぞれの代表候補生たちから、送られてきた装備に内容を聞いていた。

それぞれがどのような武装で、どんな内容のものなのか、どれくらいの出力、機動性を出せるのか。

 

 

「へぇ〜、中々みんな優秀だね」

 

「まぁ、な」

 

「ん? どうしたのちーちゃん。やけに濁すね」

 

「いや、なんでもない。束、お前は紅椿の最終調整に入れ。それから、妹ともしっかり話しておけよ?

力に溺れ、痛い目をみた者たちを……私もお前も、もう見てきただろう」

 

「そうだねぇ……。まぁ、そこは箒ちゃんの頑張り次第かな。お姉ちゃんとして、いろいろサポートはするけどさ」

 

「頑張り次第……か」

 

 

 

千冬はそう口ずさんだ。

その言葉を尻目に、束は颯爽と箒の元へと飛んでいく。

そして千冬は、そんな天災科学者の背中を見ながら、そのまま視線を一夏へと移した。

作戦の立案に、理論的に看破させた物言い。

少し前までは、ベッドで寝たきりになっていた中学生だったのだが、ここまで変わる者なのかと、改めて実感した。

力に溺れた者…………一夏もそれに含まれるのかわからないが、少なくとも、一夏の過去になんらかの出来事が起き、その事件が一夏の心に刻み込まれているとなると、その成長ぶりも伺えるかもしれない。

そう思ったところで、千冬は思考を切り替えた。

今は福音の迎撃が最優先事項だ。

千冬は体を反転させ、作戦開始の為の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

紅椿を展開し、各武装のチェックを行いながら、箒はあることを考えていた。

セシリアから受けた超音速飛行下での戦闘のノウハウを聞き、一夏とともに役割を決め、今は自分の相棒とも言える新型機、紅椿のスペックデータを見ていた。

 

 

 

(一夏め……私の実力では足りないというのか? 運ぶだけなら私にだってできる。それに戦闘だって、今までずっと訓練してきたんだ……そう遅れは取りはしない……なのに、何故)

 

 

 

単純に一夏の言ったことの意味は理解できる。

だが、自分は今までの自分とは違う。紅椿という新たな剣を得た……それも、かなり強力な剣をだ。

その性能の良さは、乗った自分自身が一番よく知っている。

この力を使えば、福音なんて恐れるに足りないと思っていたくらいだ。

だが、それでも一夏は冷静に、より確実な方法を選ぼうとした。

それは確かに確実な方法だったが、いまいち自分の力を認めてもらえていないようで、とてもいい気分にはなれなかった。

しかし、作戦として命令されたのならば、それに従わなくてはならない。これは実戦なのだと、箒自身もわかっているからだ。

 

 

 

(そうだ……これは実戦……戦いなのだ。心を乱すな……落ち着け……いつもの私通り戦えば、きっと成功する……っ!)

 

 

 

抜き身の刃の如く、凛とした立ち姿の箒。

武道の道を歩み、己を律するその姿勢は、とても美しかった。

 

 

「おやおやぁ〜? 瞑想ってヤツですかい?」

 

「…………なんですか、今集中しているので後にしてください」

 

「冷たいなぁ〜。久しぶりに会ったお姉ちゃんともっと親睦深めようよぉ〜」

 

 

と、調子のいい事を言いながら、束は箒の隣へと立った。

特に邪魔をする気配はないが、今の箒は少しピリピリしていた。

 

 

「大事な作戦前にそんな事出来ませんよ」

 

「そっか……。なんだか……箒ちゃんも変わったねぇ〜」

 

「え?」

 

「でも、変わってないところもあるかな〜」

 

「な、なんですか、急に?」

 

「そうやって、真っ直ぐな所……素直になれない所……まったく変わってない」

 

「な、なんの話をしているんですか!?」

 

「箒ちゃん……それは箒ちゃんのとってもいいところだとは思うけど、悪い所でもあるの。

今回は、お姉ちゃんとして箒ちゃんの望みを一つ叶えてあげたけど、これ以上の事は、お姉ちゃんにはしてあげられないからね……」

 

「…………」

 

「あとは、箒ちゃん次第だよ。頑張ってね……お姉ちゃんは、何時でも箒ちゃんの事を見てるから、ね?」

 

「…………はい」

 

 

 

 

なんとも束らしくないと思ってしまった。

だが、姉としてなら、らしいと言えばらしいと感じる。

姉は少し変わったと思う。それは自分も成長し、考え方も変わったとは思うが、それ以前に、束自身が少し変わったのかもしれない。

特定の人としか関わりを持とうとしなかったあの姉が、今ではそれ以外の人とも話している……。

とても異様な光景でありながら、どこか当たり前に感じる……とても変な感じだった。

一体何が、姉を変えたのだろうか……?

深まる謎に頭を悩ませていたが、箒はすぐに切り替えた。

自分次第……そう、この作戦も、自分次第で成功か失敗か……それが決まるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

時が経ち、現在午前11時30分。

作戦開始の時間となった。

誰もいない無人の浜砂を独り占めにして、ゆっくりと歩く一夏。

照りつける夏の日差しが眩しく、暑い。空は晴天に恵まれ、絶好の海水浴日和となったが、今は遊んでいられない。

右手で降り注ぐ太陽の光を遮りながら、一夏は真っ直ぐに空を眺めた。

そして、その後ろから、誰かが歩いてきた。

砂を踏みしめる音。その足取りは、とても軽いとは言えない。

振り向き、その人物を見る。

新たにISスーツを新調し、黒色から白色にチェンジし、イメージが変わった箒の姿が、そこには会った。

真剣な表情で一夏を見つめる箒。それに従って、一夏も箒の目を見る。どうやら、覚悟は決まったようだ。

 

 

 

「行こう、箒」

 

「ああ……やってやる!」

 

 

 

一夏が右腕を、箒が左腕を伸ばす。

白いガントレットと金と銀の鈴がついた、赤と黒の紐。それぞれ相棒たるその機体に、意識を集中させる。

 

 

「来い、白式ーーーーッ!!!!!」

 

「行くぞ、紅椿ーーーーッ!!!!!」

 

 

赤と白の閃光が閃く。

そして、そこには新たな鎧をまとった大和撫子と、鮮烈な姿の侍が誕生した。

 

 

 

 

『二人とも、準備はいいか?』

 

「はい!」

 

「問題ありません」

 

 

 

オープン・チャネルから聞こえる千冬の声。

その問いかけに、どこか緊張感のある声で答える箒と、冷静な一夏。

そのまま作戦内容を今一度確認する。

 

 

『お前達の第一目標は、福音の注意を引くこと。そして、ポイントB3にて待機している桐ヶ谷たちの所まで福音を誘導する事だ』

 

「「了解!」」

 

 

既に和人たちはポイントB3に向かって出動している。

なのでまずは、一夏達がうまく福音のヘイト値を稼がなくてはならないのだ。

 

 

「織斑先生、私は状況を見て、一夏のサポートをすれば良いですか?」

 

「箒?」

 

『…………そうだな。だが、お前はあまり無理をするな。紅椿の性能を把握しきれていない内は、その力を持て余す事になる』

 

「わかりました」

 

「…………」

 

 

 

普段の箒からは、あまり想像できない高揚したような発言だった。

その事にいち早く気づいた織斑姉弟。

どこか浮ついているような感じがした。

 

 

 

「ねぇ、なんだかあの子、妙にテンション高くない?」

 

「そうですわね……どこか声のトーンが高かったような……」

 

「わからなくは、ないけど……」

 

「…………」

 

「大丈夫、かな?」

 

 

 

 

旅館の部屋で待機していた他の専用機持ち組も、通信から聞こえてきた箒の声に疑問を感じ取ったようだ。

千冬はそんな会話を聞いて、すかさず一夏に通信を繋げた。

 

 

 

『一夏』

 

「っ! 千冬姉か、どうした?」

 

『一応プライベート・チャネルだが、大声は控えろ。篠ノ之に聞かれるからな』

 

「ああ……悪い。それで、どうしたんだ?」

 

『ん……どうやら篠ノ之は少し浮かれているな。あの状態だと、何かを仕損じるかもしれん。もしもの時は、お前がサポートしてやれ』

 

「……やっぱり千冬姉もそう思ったか。まぁ、わからなくはないけどな……だが、今回ばかりはそうも言ってられないな。

わかった、意識しておくよ」

 

『頼んだぞ』

 

 

 

 

何事もなければ、それでいいのだが……。

そんな不安を追いやり、一夏は箒の背後に回る。

 

 

 

「本来なら、女の上に男が乗るのは私の主義に反するのだが、今回は特別だぞ?」

 

「ははっ、悪いな箒」

 

 

冗談交じりの談笑を交わし、一夏が箒の肩を掴む。

 

 

「箒、何度も言うが、これは実戦だ。ちょっとした事でも命に関わる……」

 

「わかっている。お前は私の母親か何かか?」

 

「何度でも言ってやるさ。頼む箒、ちゃんと聞いてくれ……!」

 

「あ、ああ……」

 

 

いつになく真剣な一夏の声色。

その声に、どことなく気掛かりを覚えた箒は、そのまま首だけを後ろに回した。

そこには真剣な表情の一夏の顔があった。

 

 

 

「俺は今までこういう修羅場みたいなものをたくさん味わった……だからこそわかるんだ、このままだと、箒が危険だって」

 

「わ、私がか?」

 

「ああ……。だから、約束してくれ、箒。絶対に無理をしないって……俺は、もう目の前で誰かを失うのはごめんだ」

 

「…………」

 

 

 

悲哀に満ちた目だった。

過去にそう言う体験をしているからこそ、この様な目が出来るのだろう。

とてもふざけている訳でも、わざとやっているのでもない。

真剣そのものだ。

 

 

 

「わかった……その言葉、肝に銘じておく」

 

「ありがとう……。それじゃあ、行くか……っ!」

 

「ああ!」

 

 

 

今度は待ったなし。

目を閉じ、すべての意識を自分の背中や足元に集中する。

全ての力を込めて、空を駆け抜けるイメージを……。

 

 

 

「ーーーー行くぞ!!!!」

 

 

 

強烈なスピードで、海を駆け抜ける紅椿と白式。

その後瞬く間に、二機は空の彼方へと飛んで行ったのだった。

 

 

 

 





ええ、前書きで書いた通り、次回は必ず福音戦やります。
ただし、紅椿と白式の二機だけでは戦いません!
普通に無理だろうと思ったので、ここは変えていきます(^ ^)

感想よろしくお願いします。


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