ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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いよいよ最新鋭機登場!

そして、天災のあの人も!

それでは、どうぞ!




第36話 その境界線の上に立ちⅢ

「私が天才の篠ノ之 束さんだよぉ〜〜! 説明終わりー!」

 

「た、束って……!」

 

「ISの開発者にして、天才科学者の!?」

 

「篠ノ之 束……っ!」

 

 

 

 

驚きの声が後を絶たない。

それもそのはずだろう……束は現在、世界各国が血眼で探している指名手配の人物。

本人どころか、束が開発、研究を行っている施設すらも発見できないでいるため、各国の捜査も難航の色を示していたのだが……。

 

 

 

 

「それで? 世界から追い求められている天才様が一体何の用だ? まさか、物見遊山に来ただけとは言わんだろうな?」

 

「そりゃあ、もちろん! ここに来たのにはちゃんっと訳があるんだよぉ〜!

一つ目は、いっくんの体がちゃんと五体満足にあるかを確かめることぉ〜〜! でもそれは昨日確認したからぁ大丈夫!

そして二つ目は、箒ちゃんにあるものをプレゼントするためさ!

さぁさぁ‼︎ 皆の衆、空をご覧あれぇぇっ!!!!!」

 

 

 

徐ろに右手を空に向けて高々と振り上げた束。

そしてその右手に視線を奪われて、一同が空を見上げたその瞬間、空から何かが落ちてきた。

 

 

 

「何、あれ!?」

 

「なんか落ちてきたぞ!」

 

 

一番近くにいた鈴とラウラが、咄嗟に声をあげて、体を後退させる。

すると、退がった二人のいた所のすぐ近くに、正八面体型の大きな物体が地面へと突き刺さる。

 

 

 

「な、何ですの……これ……!」

 

「ただの金属の塊じゃないとは思うけど……!」

 

 

セシリアとシャルロットは、飛び退いた鈴とラウラを支えながら、落ちてきた物体を見ていた。

特に変なところは無い。何の変哲も無い金属の塊だ。

 

 

 

「ジャジャーン! これぞ、箒ちゃんの専用機こと《紅椿》‼︎」

 

 

 

手に持っていたリモコンのボタンを押すと、正八面体の金属塊は、粒子となって消えていき、そこから現れたのは、真紅の機体であった。

 

 

 

「専用機!?」

 

「これ、箒が乗るのか?!」

 

「うん。そうだよー、キーくん、いっくん♪」

 

「キ、キーくん?」

 

「あれあれ? 違ってたかな……? だっていっくんは『キリト』って呼んでなかったけ?」

 

「あ、いやまぁ……そうですが……」

 

「オッケー! ならキーくんていいね♪」

 

「は、はぁ……」

 

 

そんな飄々としている束に翻弄されつつも、やはり新しく登場した紅椿の存在に視線が奪われる。

 

 

「ふっふーん……やはりみんな、紅椿が気になるなぁ〜♪ ではでは教えてしんぜよう……。

この紅椿は、束さん一から組み立て最新鋭機。現行のISを凌駕する第四世代型ISだよーん♪」

 

「「「「「っ!!!!!」」」」」

 

 

 

最新鋭機、現行の機体を凌駕…………とはっきり言い切った束。だが、それだけでは無い。

束が言った言葉に、専用機持ちは再び驚きを見せた。

 

 

「だ、第四世代……!?」

 

「各国で、ようやく第三世代型の試験機が稼働し始めたばかりですわよ!?」

 

「それなのに、もう?」

 

「ありえないわ……!」

 

「ほれぇ〜、そこはこの天才束さんだからさ! さぁ、箒ちゃん?」

 

「はい……」

 

「紅椿に乗って。フォーマットとパーソナライズ、チャチャッとやっつけちゃおうか」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 

箒は束の元に向かい、紅椿に搭乗する。

そして、束は空間ウインドウを出し、紅椿にケーブルを差し込むと、驚愕のスピードで電子キーボードをタップしていく。

 

 

 

「は、早い……!」

 

「流石ね……」

 

 

これには明日奈と刀奈もびっくり。

二人だって、SAOやALOでメールのやり取りや、現実世界の宿題などをやる時に、電子キーボードをブラインドタッチで早くタップするが、束はその二倍近い速度でタップしている。

 

 

 

「あっ、そうだそうだ……ねぇ、キーくん」

 

「は、はい?」

 

「キーくんもおいでよ〜。ISのシステムに興味があるんでしょう? 束さんが少しばかりレクチャーしてあげよう♪」

 

「えっ?」

 

「あれ? 違うの? 昨日一生懸命自分のISのシステムにアクセスして、キーくんのPCに繋げないか頑張ってなかったけ?」

 

「なっ!? 何で、そんな事を……?!」

 

「うふふっ……。束さんは何でも知っているんだよぉ〜♪ 束さんに知らないことは無い」

 

 

 

 

マジか……!

それならもうプライバシーもへったくれも無いな。

それより、どうやってその情報を知ったのか……。

 

 

「まぁまぁ、そんなことはいいじゃ無いか〜〜。どうする? 見たい?」

 

「は、はい! お願いします!」

 

「よぉ〜し! ついでにキーくんのパッケージもインストールしてあげるよ。時間取らせるのも悪いしねぇ〜……キーくん、IS展開しておいてね」

 

 

 

そう言うと、束は和人の月光にもケーブルを差し込んで、レクトから送られた新型武装パッケージをインストールし始めた。

紅椿と月光のシステムを同時進行で進めている。

さすがは天才科学者と言わざるをえなかった。

 

 

 

「…………他の者たちも、急いでパッケージをインストールしておけ。インストール終了次第、各々で稼働データの収集を行え……実戦感覚でやっても構わんが、範囲はここの海一帯でのみ許可する。そこから先は一般の船舶なども通るからな、いいな?」

 

「「「「「了解‼︎」」」」」

 

 

 

千冬の言葉で、各人がそれぞれのパッケージを調整し、インストールし始めた。

セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、明日奈……。

だが、一夏と刀奈だけは、未だに動こうとしない。

だかまぁ、それも仕方の無いことなのだが……。

 

 

 

「私たちは、どうしようか……」

 

「うーん……白式は武装積めないからな……カタナは?」

 

「私のは、ロシア本国の研究所が、まだ武装の製作に手こずってるみたいよ。

まぁ、私のも第三世代型の機体だし、他の機体とは、ちょっと違うからね。

でも、白式も結構難儀な機体よね……」

 

「全くだ。武装は雪片弐型があるから、拡張領域が空いてないしな……」

 

 

 

元々がチートじみた攻撃力を誇る白式と、テンペスタの機体を改造し、アクア・クリスタルを搭載した第三世代型ISのミステリアス・レイディ。

それぞれの都合により、今回のパッケージ導入は見送られた。

一方では、明日奈の作業を手伝っている簪。

そして、各国の代表候補生たちも、それぞれの機体に装備パッケージをインストールする準備をし始めた。

 

 

 

「ありがとう簪ちゃん。にしても、手馴れてるね?」

 

「はい……私も、この間まで、自分の機体をいじってましたから……」

 

「そっかあー。あっ、でも、自分の機体はいいの? 簪ちゃんの機体にも、パッケージは届いてるんだよね?」

 

 

 

先週辺りに、簪の専用機《打鉄弐式》は完成した。

第三世代システムである《マルチロックオン・システム》の稼働データも、今回は収集の対象になっている。

が、簪の機体には、もう一つの装備パッケージがつけられているのだ。

 

 

「はい。装備と言っても、まだ試作段階の物なので……。インストールは、早めに終わらせてたので、もう大丈夫です」

 

「へぇー……。ちなみに、武装って?」

 

「武器……じゃないんですけど、防御用の装備です。いずれ打鉄弐式に正式な装備になる物で……」

 

「そっか……でも、本当にありがとね、簪ちゃん」

 

「い、いえ……! そんな、お礼なんて……」

 

 

 

ここまで人に感謝されたのは初めての体験だった。

頬を赤らめながら、簪は明日奈の機体を見ていく。明日奈もそんな簪を手伝う形で機体に触れ、作業は順調に進んでいった。

一方、専用機持ち達は……

 

 

 

 

「ふぅ〜……中々いいの送ってきてくれたね……」

 

「あらぁ、我がイギリスの装備の方が十倍上ですわ」

 

「ふんっ、何を言う。我がドイツの装備こそ、実戦でも役に立つ武装だ」

 

「ま、まぁまぁ、今回は稼働テストだけだし……」

 

 

 

互いに国の威信をかけられている以上、いやでも他国には負けられないという意思が働くのだろう。

そして、各国によって、機体のコンセプトは違う。

中国の甲龍はパワーと燃費の良さを……。

イギリスはBT兵器と、イメージインターフェースを使用した、ビット兵器の開発。

フランスは量産機のシェアが第三位……リヴァイヴの利点である汎用性を重視した多種多様の戦闘スタイルを。

ドイツはAIC搭載の、全距離対応型の最新鋭機。主に軍事用としての開発を進めている。

それぞれがそれぞれの機体の特徴を最大限に活かせるようにしているのだ。

 

 

 

「にしてもさぁー、昨日の話、どう思う?」

 

 

 

ふと、鈴がそう呟いた。

昨日の話……それは当然、SAOの中での出来事だ。

ゲームの中でのこととは言え、あまりにも現実味を帯びた世界で、狂いまくったプレイヤー達と、死と隣り合わせの生活を送っていた一夏と、一部の攻略組プレイヤーたちから悪役をかって出て、ソロとしてSAOの世界を戦い抜いた和人。

二人の生き方について。

一夏は、あの世界においては言わずと知れた人斬り。

相手にしていたのが、殺人……レッドプレイヤーとは言え、話を聞く限りでは、数多くのプレイヤーを屠ってきたと推測される。

その多くの命を散らせていった中で、その身に帯びた十字架を、今もなお背負っているのだ。

和人も和人で、たった一人でアインクラッドと言うあの城の中を駆け抜けた。

話のわかる仲間はいただろうが、常に一人で生きていたらしい……そんな極限状態の中で、今の和人の性格が残されているのは、やはり和人自身が優しいからだろう。

 

 

 

 

「正直に言いますと、わたくし達では、どうする事も出来ない……と言う感じですわね」

 

「そうだね……今では僕たちもアインクラッドのボス攻略に参加してるけどさ……昔は魔法での遠距離攻撃はなかったんだよね? 剣や槍で、敵に突っ込んで行かなきゃ行けないんだもん……」

 

「ボスのパラメーターは驚異的ではあるが、所詮はプログラムだろう……?」

 

「でもさ、ラウラ……一度僕たちも、危ない目にあった事があるでしょう?

一夏や和人……ううん、楯無さんや明日奈さん、攻略組のメンバーには、そんな危ない目も死の危険だとしか思えなかったんじゃないかな……」

 

「…………なるほど、確かにそうかもしれんな」

 

 

 

今のアインクラッドは、SAOの時よりもボスの強さが跳ね上がっている。

前衛の剣士役や盾役と、後衛の魔法支援役と分けて戦うのが、今のセオリーであるが、昔は違う。

魔法なんて物は一切ない。あるのは己が身に着けた剣技と、それぞれが持つソードスキルのみ。

使い所と武器の特性を充分に理解しておかなければ、確実に死ぬ。

 

 

 

「一夏たちが話してくれるのを、待つしかないわよね……」

 

 

鈴の言葉には、少し重みを感じた。

それもそうだろう。嘗ては自分が一夏の体の世話をしていて、何度も死の兆候を見てきた。

途中で中国に帰らなければならない状況に陥り、一夏の事を、最後まで見守る事が出来なかったのだから……。

 

 

「殿方の事を待っているのも、淑女の務めでしてよ。わたくし達は、一夏さんと和人さんを待つしかありませんわ」

 

「そうだね。無理矢理聞いたところで僕も、あまりいい感じはしないしさ……」

 

「ああ……。二人を信じて待つしかない」

 

 

 

 

セシリア、シャルロット、ラウラも同意見のようだ。

いつか話してくれるのを待つしかない……。そう結論付けたのだった。

 

 

 

「はーい! 調整終了! キーくんのもねぇー!」

 

 

 

突如、束の声が響いた。

よく見ると、すでにパーソナライズを終えた紅椿と、パッケージをインストールした月光の姿が、そこにあった。

 

 

 

「こ、これが……紅椿……」

 

 

誰かがそう言い漏らした。

完全に起動した紅椿は、どことなく圧倒的な雰囲気を纏っていた。

束が一から手をかけて、現行のISのスペックを遥かに凌駕するとされる第四世代型の威圧と言えばいいのだろうか……。

 

 

 

「キリトさんのもいい出来ですね」

 

「ああ……、俺の戦闘スタイルに合わせて作ってもらえたみたいだな……。すっごくしっくり来るな」

 

 

 

月光に追加された新装備。

高機動格闘パッケージ《セブンズソード》。

その名の通り、七本の剣を標準装備したパッケージ。元々装備してあった《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》。

ALOを始めた際に手に入れた《ブラックプレート》に、今現在所持している《ユナイティウォークス》と《ディバイネーション》。

そして、SAO時代に多用していた片手剣《アニールブレード》と《クイーンズナイトソード》。

この七本の剣と増設されたブースターが、月光の新型パッケージ。

月光のアンロック・ユニットである四枚の黒い翼の根元部分に増設されたブースター。

元々がALOの妖精のように広がっていた四枚の黒い翼内、上の二つは鋭角な羽へと変わり、戦闘機の羽のようだ。

下二つの翼にも、小型のブースターが取り付けられており、装備をつける前よりも、月光自体のスペックは倍以上に膨れ上がっていた。

 

 

 

「にしても、キリトさんらしい装備ですよね……」

 

「そうねぇ〜♪ 黒いし、剣がいっぱいだし♪」

 

「べっ、別にいいじゃないか! 飛び道具は苦手なんだよ……」

 

「はいはい。これはまた、チナツと一緒に特訓ね」

 

「「うへぇ……」」

 

 

ニコニコ顔でドS発言をかます刀奈に、一夏も和人も肩を落とした。

何故か? 刀奈の特訓が超がつくほどの鬼特訓だからだ。

 

 

「よし! で、できた……!」

 

「ありがとう簪ちゃん!」

 

「あとは展開して、動作を確かめてみてください……!」

 

「うん!」

 

 

 

ふぅーっと安息の表情を見せた簪。

その視線の先には、こちらも新型装備パッケージをインストールした《閃華》の姿があった。

 

 

「うん……各システムに異常は無い……多分、大丈夫です」

 

こちらは簪が入念にチェックしていた。

閃華のパッケージは、高速機動パッケージ《乱舞》。

両脚とアンロック・ユニットにつけられた四機の小型ブースター。

 

 

 

「これって、やっぱりスピードを重視したテンペスタ向けの装備……でいいのかな?」

 

「それもありますけど、多分これには別の使い方があると思います」

 

「別の使い方?」

 

「はい……この四機のブースターは、同時に使うことで、スピードに乗って、最高速度を出せますけど、個別で使う事で、《リボルバーイグニッション・ブースト》だって出来るようになります」

 

「それって、チナツくんが使ってたやつ!?」

 

「はい」

 

 

 

四機あるブースターを個別で運用する事で、多方向へのブーストが可能になるため、リボルバーイグニッションはもちろんだが、難易度の高い技である《ダブルイグニッション・ブースト》も可能になるだろう。

 

 

「す、凄いねぇー! 流石簪ちゃんだね」

 

「いえ、そ、そんな事は……!」

 

「もう、またそんなに遠慮しちゃって。簪ちゃんは凄いよ!」

 

「は、はい……!」

 

 

 

明日奈に褒められる簪。

その顔は、どことなく赤く染まっていた。

 

 

「それはそうよぉ〜♪ 簪ちゃんは私の妹なんだし。ねぇ、簪ちゃん?」

 

「う、うん! で、でも、あんまりくっつかないでよお姉ちゃん!」

 

「ええ〜〜! いいんじゃない!」

 

 

 

相変わらず妹には甘々な姉。

自慢過ぎる妹の才能に、刀奈も誇らしげだ。

 

 

「簪のは、どう言う武装なんだ?」

 

「 “武装” じゃなくて、“武具” って言ったほうがいいかも……。私のは、防御用パッケージの試作版。このパッケージのデータを収集して、正規版の物を完成させるみたい……」

 

「へぇー。いいよなぁ〜、俺は何も積めないんだよなぁ……」

 

「あんたは《雪片》と《雪華楼》があるじゃない」

 

「でもよぉ、俺だって欲しいぞ……新装備」

 

「あんたに射撃武装は必要ないでしょ? 射撃テストの成績も悪かったし……」

 

「うう……」

 

 

 

 

学園で行われた射撃訓練。

その訓練中に発覚したことだったのが、一夏の射撃精度低さだ。

和人、明日奈の二人は刀奈から一応の動作や姿勢を教えてもらい、そこそこの成績を出したものの、一夏は思うように行かなかった。

撃って命中はするものの、精密射撃の分野では、あまりいい成績を残せずにいた。

元々が近接格闘型の戦闘スタイルのため、慣れていないと言えば慣れていなかったのだろう。

 

 

 

「俺も、別に射撃武器は要らないんだよなぁ……。投剣スキルもあるんだし……《ピック》で充分さ」

 

「俺だって、《飛刀》があるんだし、投剣スキルだってちゃんと習得してんだ」

 

「でも、やっぱり銃の方が面制圧力で分があると思うよ?」

 

「まぁ、シャルやセシリアと一対一で射撃戦はやりたくないなぁ……」

 

 

 

 

だが、一夏と和人はそれでいいと思っている。

いつか言われた、千冬姉の言葉を思い出していた。

それは、臨海学校前。アリーナで特訓をしている時のことだ……和人とともに、千冬から対射撃戦闘の動きや戦略を学んでいた時。

 

 

 

 

「お前達に出来るのは、接近戦だけだ。ならば、相手の間合いに常に入り、クロスレンジ入った瞬間に一気に叩くしかない。

なので、お前達にはブースト系統の技を身につけておいた方がいいだろう」

 

「でも、俺たちにも一応飛び道具はあるんだぜ?」

 

「投剣スキルもありますし、ソードスキルの発動ができれば、あとはシステムが照準して、命中させることはできますけど……」

 

「馬鹿者。向こうだってその時の対策はちゃんと立ててるに決まっているだろうが……。

第一、お前達のその投剣スキルは、連発出来るのか?」

 

「「あ……」」

 

「それに、どっちの飛び道具も “投げる” ものであって “撃つ” ものではない。

そうすると、いちいち動作に入らなければならないお前達と、射撃戦の訓練をし、命中精度と機体操作も卓越した相手と対峙した時、確実にお前達は負けるぞ?

そして、お前達には射撃戦は向いていない」

 

「そ、それは……」

 

「そうですけど……」

 

「けどなんだ? 反動制御、弾道予測、イチゼロ停止、アブソリュートターン……その他にも、弾丸の種類によっては戦術を変えんといかんし、天候や状況に応じて使い分けをしなければならない。

出来るのか? お前達に……」

 

「「す、すみませんでした!!!!」」

 

 

 

千冬に論破された一夏と和人。

頭を深々と下げ、己の間違いを認めた。一方千冬はそんな二人を見て、フッと笑う。

 

 

「お前達はいろんな事を覚えるより、一つの事を極めることに向いている……なんせ、一夏は私の弟であり、桐ヶ谷、お前は剣を極めた方が確実に伸びしろがあるからな……!」

 

 

 

 

世界最強《ブリュンヒルデ》からのお墨付きをいただいたのだ。

なら、迷う事はないだろう。

今目の前にいる人は、刀一本で世界の頂に立ったのだから……。

 

 

 

 

「よーしよしよし! それじゃあ箒ちゃん、いっちょ飛んでみようか!」

 

「はい!」

 

 

 

束に言われ、目を閉じる箒。

精神を統一して、意識を集中する………自分の体と、身に纏っている紅椿とを繋げる。

 

 

 

「スー……ッ!!!!!」

 

 

 

息を吸い込み、一気に加速するイメージを立てた。

すると、ゆっくりとした動作で浮遊した後、一気に空高く加速し続ける。

 

 

 

「何、これ……っ!」

 

「これが第四世代の加速力ってこと……?!」

 

 

 

何もしていないのに、いきなりのトップスピード。

その速度も、ほぼイグニッション・ブーストに近いほどの速度であったため、専用機持ちの面々もただただ驚く事しか出来なかった。

 

 

 

「どうどう? 箒ちゃんのイメージ通りに動くでしょう?」

 

『ええ、まぁ……!』

 

 

 

束の問いかけに、通信機器から箒の声が聞こえる。

その声色は、驚嘆に満ちていると言ってもいいだろうか……。紅椿の性能に、乗っている本人も驚いているようだ。

 

 

 

『それじゃあ今度は武器を出してみて!右のが《雨月》で、左が《空裂》ねー! 武器のデータも送るよーー‼︎』

 

 

 

地上から約500メートル以上離れた位置にいた紅椿に、束から送られた武器のデータが表示される。

どちらも日本刀型のブレードで、右の《雨月》に左の《空裂》。

雨月の方が空裂よりも少し長く、左右非対称の二刀流スタイルだ。

箒は両手に刀を展開すると、その場で立ち止まり、束から送られたデータに目を通した。

 

 

 

「雨月……行くぞ!」

 

 

 

まずは右の雨月から。

勢いよく振り抜いた雨月。するとそこから、四つの紅いレーザー光線が放たれた。

レーザーは凄まじいスピードで空を駆け、目の前にあった雲を貫き、消えていった。

 

 

 

「おおっ……!」

 

 

 

あまりの性能に箒の口から驚嘆の声が漏れた。

すると、すかさず束から通信が入る。

 

 

 

『うんうん、いいねぇ〜♪ じゃあ、今度はこれを撃ち落としてみて! はぁーーい!!!!』

 

 

 

と、今度は束の後方から多弾道ミサイルが現れ、そこからありったけのミサイルが射出された。

ミサイルは紅椿を追尾するかのようにくねくね動き、紅椿を追い詰めようとするも、箒はそのミサイルに向かって、今度は左の空裂を振り抜いた。

 

 

 

「空裂っ!」

 

 

 

雨月がレーザー光線を射出したのとは違い、今度はレーザーの斬撃波を形成し、ミサイルに向かって飛ばす。

見事ミサイル全機を真っ二つにして、爆散させた紅椿。

爆煙の中から覗くその真紅の機体が、その存在感を醸し出していた。

 

 

 

「す、凄え……!」

 

「やるな……」

 

 

 

一夏と和人からも、自然と言葉が漏れていた。

現行のISの性能を遥かに凌駕すると言わしめるその実力を、今目の前にしたのだから。

 

 

 

「あっ! そうだったそうだった、ねぇ、いっくーん!」

 

「は、はい?」

 

「ちょっ〜とこっちにおいでぇ〜♪」

 

 

 

ニコニコと笑いながら束は一夏を呼んだ。

それに応じて、一夏が束の元へと歩み寄る。その間に束は、箒に通信し、降りてくるように指示する。どうやら、もっと細かい調整をするつもりなのだろう……。

 

 

「実はいっくんの機体も見てみたいって思ってたんだよねぇ〜♪」

 

「白式ですか? でも、これって確か、束姉が一回見た奴じゃ……」

 

「うんうん! でもさぁ、やっぱり実戦を経て成長している思うし、それにそれに、まず第一に男であるいっくんがどうしてISを動かせれるのかも気になってたしー!」

 

「やっぱり、束姉でもわからないの?」

 

「うーん……今のところは何ともねぇ〜。それでこそ、いっくんの体を隅から隅までズズズイッと調べさせてもらえたらぁ、お姉ちゃん嬉しいかなぁ〜♪」

 

「あぁ……えっと、遠慮しとくよ……」

 

「だよねぇー! まぁ、いいさ。とりあえず、白式展開してみて!」

 

 

 

 

束の指示通り、一夏は白式を展開し、束は白式にたくさんのケーブルを繋げる。

空間ウインドウを出し、再び高速で電子キーボードをタップしていく。

 

 

 

「うーん……中々面白いシステムになってるねぇ〜。束さんが今まで見たことのない物になってるよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。やっぱり、いっくんが男だからかな? でも、キーくんのとも違うし……これは色々と調べてみたくなるなぁ〜」

 

「実験動物はごめんだよ?」

 

「わかってるわかってる♪ はい、もういいよ」

 

「もういいのか?」

 

「うん。あ、でもでも、いっくんは雪片が気に入らなかった?」

 

「へっ? 何で? ………あっ、そう言えば、束姉が雪片載せたんだっけ?」

 

「うん! まぁ、ちょっとした試作機としてね。でも、実戦での使用がたったの二回じゃなぁ……」

 

「あー、その、ごめん……」

 

「いいっていいって! もういっくんの戦い方、見つけたんでしょう?」

 

 

 

その言葉に、一夏は小さく頷いた。

誰の真似でもない、自分が選んだ戦い方。その事を見出すまでに、途方もない時間と労力を割いてしまったが、その過去と後悔の先に、一夏も見出すことができたと思っている。

 

 

 

「ならいいって事さ。束さんもいっくんの力になれば……なんて思っての事だったけど……むしろ邪魔しちゃったかな?」

 

「いいや……雪片だって、充分に役にたったよ。邪魔だなんて、思うわけがないじゃないか……」

 

 

 

そうだ……鈴との決闘の時、謎の無人機ISが襲ってきた。

ラウラとの決闘の時、VTシステムに呑まれ、自我を失い、嘗ての世界最強の偽物と成り果てたラウラとの対決。

そのピンチを救ったのが、他でもない……雪片だ。

 

 

 

「その、ありがとな……束姉」

 

「〜〜〜〜っ! きゃあああ〜〜いっくんが、いっくんがや・さ・しぃ・いーー!!!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 

 

突如一夏に抱きつき、押し倒す束。

一夏は白式を展開していたのだが、それでも耐えられないほどの衝撃がその身に降りかかった。

 

 

 

「ちょ、ちょっと……っ!」

 

「ウヘヘ……良いではないか良いではないか〜〜♪」

 

 

 

こうなった束は、この衝動が治るまで絶対に離れない。

周りにいる専用機持ちの目も気になるこの状況下で、どうしたものかと思考を巡らせていると……。

 

 

 

「おい……!」

 

「あらら?」

 

 

 

グワシッ。

と聞こえるような圧力が、束の後頭部にかかった。

そして、そこから異常なまでの剛力が、束の頭を襲う。

 

 

「うんぎゃあぁぁぁ!? 割れる! 割れちゃうよぉ〜!!!!!」

 

悲鳴にも似た何かを発する束の後ろには、鬼と表現するにはあまりにも恐れ多い何かが、そこには立っていた。

 

 

「貴様……教師であり姉であるこの私の前で、一夏に何をしている……?」

 

 

千冬だった。

言葉を発する度に、束の後頭部を握る手の力はどんどん強くなっていき、それに合わせて束の表情も険しくなっていく。

 

 

「にゃあぁぁぁ‼︎ 痛い! 痛いよちーちゃん! ほんとに割れちゃうって!」

 

「そのまま割れて、一度死ねぇっ!!!!!」

 

「ぎゃふっ‼︎」

 

 

 

束を一夏から引き剥がし、体が浮いた瞬間を狙って強烈なボディーブローが、束の鳩尾に入った。

束はそのまま弧を描いて宙を舞い、勢いそのままに頭から海にダイブ。

大きな波音を立てて、束の体は海水に消えていった。

 

 

「ふん……」

 

 

まるでゴミを排除したかの様に振る舞う千冬。

その後ろでは、千冬の所行に恐れ、震えている少年少女達の姿があった。

 

 

「こ、怖え……」

 

「あ、あれって本当に、織斑先生……だよね?」

 

「ええ……間違いなく」

 

「千冬さんね」

 

 

顔を引き攣る和人と明日奈の問いかけには、幼馴染である箒と鈴が答える。

幼い頃から、一夏と悪さをしては、鬼よりも恐怖する千冬の説教を聞いてきた二人。と言ってもそれは鈴だけで、箒の場合は、一夏の悪戯に巻き込まれたに近いが……。

 だが、それでもその身に受けてきた恐怖は、中々消えるものでは無い。

 

 

「な、何ですのあの人は……オーガですの!?」

 

「いや、それ以上だと思うよ……?」

 

「魔人、だと思う……!」

 

「ひ、久々に教官のあんな姿を見てしまった……!」

 

 

 

他のメンバーも同様に怯えていた。

唯一刀奈だけは、颯爽と一夏の元へと向かって行ったが、それでもその顔は焦りの色が見えた様な気がした。

 

 

「あ、相変わらずおっかないわねぇ〜」

 

「あ、ああ。やっぱり千冬姉だな」

 

 

幼い頃、弟である一夏でさえ、千冬には近寄りがたい雰囲気を悟っていた時があったのだ。

それはまるで、“触れれば切れるナイフ” の様だったと……。

 

 

「さて、邪魔者がいなくなったところで……。あいつには構わず作業を終わらせろ、いいな?」

 

『『『は、はい!!!!!』』』

 

 

 

いつもと変わらない口調……だからこそ怖い。

たが、千冬の言う事は絶対だ。

だって、死にたくないもの。

 

 

 

「にしても、何故お前はあいつを『姉』と言う?」

 

「えっ?! あ、いや、その……」

 

「ん?」

 

 

 

一夏に対しては、さっきと同じ気迫を込めて睨みつける。

 

 

 

「えっと、ずっと前に、その『束姉』って呼んでって……言われて……」

 

「…………はぁ……なるほどな、まぁいい。だが、あまりあいつを調子付かせるなよ?

調子に乗ったあいつを抑えるのがどれだけ大変か、お前も知っているだろう……わかったな?」

 

「は、はい……」

 

 

 

念には念を入れておけ。

ということらしい……。まぁ、その後はつつがなく装備のインストールを続けていった。

あともう少しで終えるであろうというその時、一般生の指導をしていた真耶が、こちらに走ってきているのが見えた。

 

 

 

「お、織斑先生ぇぇ〜〜!!!!」

 

「ん? どうした、山田先生」

 

「こ、これを!」

 

 

 

急いできた真耶は、息を荒げながら千冬に自分のタブレット端末を見せた。

それを見た千冬は、一気に顔をしかめると、「チッ」と舌打ちを一回。

 

 

 

「全員、作業を一旦中止! たった今、日本政府から厳戒態勢の指示が出た。詳細は旅館の一室で話す。急いで旅館に戻れ!」

 

 

千冬は専用機持ちの方へと視線を向け、険しい表情そのままに、そう言った。

厳戒態勢……しかも今のこの時代だと、ISが関わっていることが明白だ。

それも、国からの指示となれば、ただ事ではない。

 

 

「これより臨時の作戦本部を立てる。山田先生、他の教職員達に連絡は?」

 

「もうしてあります。他の先生方には、生徒達の誘導を行ったあと、旅館の方に集合し、旅館の女将に許可を取ってもらうよう指示してあります!」

 

「よろしい。お前達も急げ! 事は一刻を争うぞ!」

 

「「「「「了解!!!!」」」」」

 

 

 

慌ただしくなってきた臨海学校2日目。

そして、今回のこの騒ぎの重大性を、一夏達は思い知るのであった。

 

 

 

 

 

 

 






次回から、バトルシーンへと行きます。

福音戦、頑張って書きます!
感想よろしくお願いします( ̄▽ ̄)


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