ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

34 / 118
女子会まで行けなかった(ーー;)





第33話 海に着いたら11時!Ⅱ

「さぁさぁ! 遊び倒すわよ!」

 

「も、もう! お姉ちゃんってば!」

 

 

慌てながらも刀奈のついていく簪。

だが、それはそれで嬉しかったりもする。

二年もの間、一切会話する事が出来ないでいた姉。

体を動かすことも出来ず、こうやって一緒に遊んでいられることが、とても幸せなものに感じる。

昔からこうやって、なりふり構わず人を自分のペースに引きずり込んでいた姉。それは姉のカリスマ性とも呼べる何かで、実現していた。

が、SAO事件より前に、自分と姉の間には、途轍もなく深い溝ができた。

姉だって無理をしていたのかもしれない……。だが、当時の自分は、そんなこと考えもしなかった。

だからこそ悔やんだのだ。あの日、姉ではなく、自分がナーヴギアを被っていれば、と……。

だけど、それはそれで違う。

もしそうなっていたのなら、姉が自分と同じ気持ちになっていたかもしれないからだ。

だから言わない。自分が犠牲になっていれば……何てことを、もう絶対に姉には言わないでおこうと誓った。

 

 

 

「ほらほら簪ちゃん、行くわよ!」

 

 

海に入り、手を付けた海水を思いっきり簪に向けてかける。

簪はその海水を真正面から受ける。

その顔に眼鏡はない。元々視力はいい方なので、眼鏡をかける必要はないが、あれは空間ウインドウを表示するデバイスらしい。

だが、今はそんな物いらない。

今はただ、姉との間に空いてしまった二年間の関係を、取り戻したい……!

 

 

「もう! お姉ちゃん、お返し!」

 

「きゃあ?! やったわねぇ〜!」

 

「お姉ちゃんから先にした! だから正当防衛!」

 

「なんの! ならばこれを喰らいなさい、はあぁっ!」

 

 

普段からでは見られない、大いにはしゃいでいる姉妹の光景。

それを見ていた一夏の顔は、少し微笑んでいた。

 

 

「何を見てるの、一夏?」

 

「え? いや、なんでもないよ」

 

 

と、後ろからシャルロットに声をかけられ、慌てて視線をそらす。

が、シャルロットはニヤリと笑いながら、一夏を覗き込む様に見る。

 

 

「えぇ〜、なんでもなくないよねぇ〜? 今すっごく優しそうに楯無さんと簪のこと見てたし……」

 

「ううっ…………なんでもないってば……」

 

「はいはい、そういう事にしておくよ……。それよりもさ、まだ時間はたっぷりあるんだし、とことん遊ぼうよ!

臨海学校の自由時間も今日だけなんだしさ、遊ばなきゃ損だよ」

「そうだな。にしても、ビーチバレーの方は……もう何が何だか分からない位に盛り上がってるな」

 

 

 

ふと視線をビーチバレーをしている者達に向ける。

コートを挟んで睨み合うセシリアと鈴。

それに応じて熱気が高まる生徒たち……。いつの間にか、大所帯になっていた。

 

 

 

「うわぁ〜! 凄く盛り上がってるね、キリトくん」

 

「あぁ……。まさかここまで白熱しているとはな。でも、その他にもいろいろやってるぞ?」

 

 

 

ビーチバレー以外にも遠泳をしている生徒や、幼い頃に帰って砂で城を作ったり、それ以外にも、用意されていた休憩所でかき氷を食べている生徒もいる。

と、そんなことを思っていると、一際歓声を集めた人物がいた。

それは……。

 

 

 

 

「ビーチバレーですか、いいですね!」

 

「ふむ」

 

 

 

欲張りボディをさらけ出した山田先生と、大人なセクシー水着で生徒達を圧巻させる織斑先生のご登場だった。

 

 

 

「織斑先生かっこいいぃ〜!」

 

「モデルさんみたぁーい!」

 

 

 

特に歓声が上がったのは千冬だ。

普段はスーツ姿か、ISの実習訓練の時にはジャージ姿しか見せないので、こう言った開放的な姿は初めて見せる。

しかも水着のセンスが抜群だと、歓声を上げる生徒達が多かった。

 

 

 

「…………」

 

「ふーん。あれがチナツの選んだ水着なのねぇ?」

 

「うお!? カタナ、いつの間に?」

 

「千冬さんに対する歓声に気づいてね。にしても……」

 

 

 

実の姉に対しても、自分と同じ様な水着を選んだと思うと、刀奈にとっては複雑な感じだったに違いない。

 

 

 

「私と似通った水着ね」

 

「違うって、あれは千冬姉が選んだものなんだよ!」

 

「でも最終的に選んだのはチナツなんでしょう? それに、なんだか私が着ているのより露出度高くない?」

 

「それはもう千冬姉のスタイルのせいだろ……」

 

「なによ、それって私がスタイル悪いって言っているの?」

 

「なんでそうなる!? カタナだって負けてないって」

 

「にしてはねぇー……。どうにも水着姿を見た時の反応が……」

 

「普通だって! それに、別にそう言う意味じゃないんだよ。千冬姉の水着姿なんて、俺、見たことなかったからさ」

 

「そう。なら、そういう事にしておくわよ」

 

 

 

納得したかはともかく、これで刀奈の機嫌を損なう事はなくなったわけで、一夏達も再びビーチバレーのコートの方へと向かう。

 

 

 

「先生達もやりませんか?」

 

「私たち代わりますよ!」

 

「だそうですよ? 織斑先生」

 

「ん……まぁ、いいでしょう」

 

 

 

ここへ来て、千冬と真耶がコートに入る。

それぞれ別の面に入り、先生たちと一緒にプレーする様だ。

 

 

「織斑、楯無! お前達も入れ」

 

「「っ!?」」

 

 

千冬からの突然の指名に、驚く二人。

 

 

「なに、そう身構えるな。お前達ならば、もっと試合を面白くできるだろう?」

 

ニヤッと笑う千冬。

少しばかりS気の表情が含まれており、一夏は苦笑いを浮かべるが、隣にいる刀奈もまた、好戦的な笑みで返す。

 

 

「チナツ、やりましょう……!」

 

「マジで?!」

 

「ええ、これは千冬さんからの挑戦状よ。ここで引き退ったら、女が廃るわ」

 

「…………わかったよ」

 

 

 

姉に恋人と、もはや避けられない戦いに巻き込まれてしまったと認め、諦めた。

 

 

 

「よろしい……。ではこちらには、桐ヶ谷、結城。お前達が入れ」

 

「ええっ! 私たちもですか?!」

 

「お前達なら、あいつら二人の動きがわかるだろう? それに桐ヶ谷、お前は決着をつけていなかっただろう……」

 

「っ……見てたんですか……。アスナ」

 

「うん! やるからには絶対勝とうね、キリトくん!」

 

「オーライ、行くぞ!」

 

 

 

急遽始まった先生対生徒のバレー対決。

一夏と刀奈、真耶という織斑チーム陣営と、和人と明日奈、千冬という桐ヶ谷チーム陣営。

注目の一戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

「千冬姉は手強いからな……。最初から全開で行こう!」

 

「オーケー!」

 

「サーブ、来ますよ!」

 

 

 

先攻は千冬陣営。

助走をつけ、空にあげたボールを追いかける様に、天高く飛ぶ千冬。

 

 

 

「いきなりジャンピングサーブかよ!」

 

「フンッーー!!!!」

 

 

 

バシッと思いっきりボールが打たれる音が響き、加速しながら相手のコートへと向かうボールは、凄まじい勢いで飛んでくる。

 

 

「任せて!」

 

 

が、ここは刀奈が動き出していて、そのボール右腕を伸ばしセーブ。

上がったボールを真耶がトスし、これに合わせて一夏が飛ぶ。

 

 

「おりゃあッ!」

 

 

今回は手加減一切なし。

コートの隅の方にアタックしたボールが突き刺さる。

 

 

「ポイント、織斑チーム!!!!」

 

 

審判役を買って出た清香が大声で宣言する。

大きな歓声が上がり、一夏達はハイタッチをする。

まるで、本当のバレーの試合を見ている様であった。

 

 

「さすが、俺たちの動きをしっかりと見てからの判断だったな」

 

「相手の動きを先読みするから、後手に回るのは得策じゃないよね」

 

「なに、すぐに取り戻せばいいだけだ。次はこちらが決めれば問題ない」

 

「「あはは……」」

 

 

 

今のアタックで、千冬のスイッチが入ったのか、より好戦的な眼に変わった。

そして、今度は一夏の方からのサーブ。

これは真耶が行い、無難に普通のサーブを打ち出した。

 

 

「アスナ!」

 

「わかってる!」

 

 

 

互いに掛け声をあげ、明日奈がサーブを受け、そのままあげると、その後ろから助走をつけた千冬が走ってきて、そのままバックアタック。

 

 

 

ドウッ!!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

 

ボール打った瞬間の音が、重く響く様な物で、打たれたボールのスピードも、ジャンピングサーブの比じゃなかった。

ボールはサーブを打った真耶の目の前に突き刺さり、誰もそのボールに反応できなかった。

 

 

「ポイント、桐ヶ谷チーム!!!!」

 

「うおおお!!! すごい!」

 

「織斑先生カッコイイ!!!!」

 

「バックアタックなんて早々出来るもんじゃないよね!」

 

 

一夏が決めた以上に生徒達が興奮する。

 

 

「ガチじゃねぇか……!」

 

「眠れる獅子を起こした……ってところかしらね」

 

「獅子で済めばいいですけどね……」

 

 

千冬の大技に驚き、固まっていた一夏たち。

千冬は余裕の笑みを見せ、和人たちと拳を合わせる。

パワーでは向こうが有利。ならばこっちの取れる作戦は……。

 

 

「スピードで勝負だな」

 

「やっぱりそうなっちゃう?」

 

「で、でも、どうするんですか? 正直織斑先生はディフェンスも硬いと思いますが……」

 

「簡単です。真正面から撃ち合わなければいいんですよ」

 

「…………へぇ?」

 

「とりあえず、山田先生はリベロとして、守備に徹してください。あとは私とチナツがやります」

 

「わ、わかりました……!」

 

 

 

 

一夏と刀奈がアイコンタクトで合図を送り合う。

それを千冬たちも確認し、こちらは千冬が背中越しに二人にサインを出す。

 

 

 

「結城、サーブを」

 

「はい」

 

 

 

今度は明日奈のサーブ。

千冬ほどではないが、綺麗な体の動きと流れから、華麗なサーブを打ち出す。

これを作戦通りに、真耶がリベロとして受け止め、ネット前に絶妙なパスボールができた。

 

 

「桐ヶ谷、ブロック!」

 

「はい!」

 

 

ネット前では、刀奈がアタック態勢に入っており、それを防ぐために和人が飛ぶ。

が…………。

 

 

「ほい!」

 

「えっ?」

 

 

 

突如アタック態勢から両手をだし、右サイドへと軽いトス。

そしてそこには、アタック態勢に入った一夏の姿が……。

 

 

 

「オラァッ!」

 

 

バシッ! と強烈な音が鳴る。

一夏のいた右サイドから、急角度で放たれたアタックは、誰もいないコートの隅っこの方へと突き刺さり、そのボールを取れるものはいなかった。

 

 

 

「ポイント、織斑チーム!」

 

「うわおぉ‼︎ 凄ぉ〜い!」

 

「見た?! 今のコンビネーション!」

 

「カッコイイーー!」

 

 

 

フェイントからの強襲。

しかもトスからアタックまでの時間が極端に短い為、反応速度で勝る和人や千冬でも追いつけなかった。

 

 

「ほほう……中々やるな」

 

「あいつら相性いいですからね……!」

 

「それに信頼度も高いし……」

 

「なるほど。だが、それはお前たちも同じなのだろう?」

 

「当然!」

「もちろんです!」

 

「ならばら負けてられないな」

 

「「はい!」」

 

 

 

相性の良さなら、こちらとて負けてない。

ともに最前線を潜り抜けてきた二人だ。そう易々と一夏に負けるつもりはない。

 

 

 

「行くぜ、チナツ!」

 

「望むところ!」

 

 

 

 

 

 

その後、試合は接戦となり、お互いが点を取れば取り返すの繰り返し、アタックの打ち合い、ナイスセーブのオンパレード。そして長々と続いたラリー。

白熱した中にも、背筋がゾクッとする様な緊張感に、包まれていた。

が、それも……決着がつく時が来た。

 

 

 

「フンッ!!!!」

 

「ヤベッ!」

 

 

 

千冬のアタックが炸裂する。

一夏、刀奈、真耶の三人も、全神経を集中してボールを追うも、無情にもボールはコートの地面へと落ちた。

 

 

 

「ポイント、桐ヶ谷チーム! 10ー8で、桐ヶ谷チームの勝利ーー!!!!」

 

 

 

互いに全力を出し切った。

一夏と和人は仰向けに倒れ、千冬以外の女性陣も、その場に座り込んで、息を整えていた。

 

 

「はぁ……はぁ……くそ、負けた……」

 

「でもまぁ、織斑先生相手に、よくやったと思うわよ……」

 

「そうですよ! 二人とも、頑張りましたね。ありがとうございます」

 

一緒に戦ってくれた二人に、真耶は軽くお辞儀をする。

一夏たちも、楽しくプレーできたことに満足している様子であった。

そして一方の千冬たちは……

 

 

 

「はぁ……はぁ……織斑先生、全然、息が上がってないですね」

 

「当然だ。お前たちも、もう少し鍛えておいた方がいいのではないか? 桐ヶ谷、結城」

 

「ふぅー……。これでもしっかりと鍛えてるつもりなんですけど……」

 

「鍛え方が足りないのさ……。だがまぁ、よくやってくれたな」

 

 

千冬が手を差し出して、明日奈はそれをしっかりと握り、立ち上がる。

その後に和人の元へと行き、和人の腕を引っ張って起こす。

 

 

「さて、さすがに私も疲れた。お前たちは熱中症には気をつけて、今のうちに遊んでおけ。

明日からはISの稼働テストもあるからな……。皆も水分はこまめに取っておけ! いいな?」

 

「「「「はぁーーい!!!!」」」」

 

 

 

そう言うと、千冬は颯爽とその場を後にした。

流石というかなんと言うか……。

その後も、海水浴を行い、生徒たち全員が思い思いに過ごし、つかの間の自由時間を堪能したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

時が過ぎ、あたりは夕焼けの色に染まっていた。

海の彼方に向かって沈む太陽を、切り立った崖の上から眺めていた人影が一人。

今日はあまり皆と遊ぶことはしなかった。

いや、できなかったのだ。

先週。とある人物に電話し、ある物を頼んだ。その人物は、快くそれを承諾し、そのある物を持ってきてもらう約束までした。

だが、その人物に会うこと自体、実に六年ぶりとなる。たった一人で世界を変え、世界中から指名手配されている人が、明日……やって来るかもしれない。

そう思うと、とても遊んでなんかいられなかった。

 

 

 

「こんなところで何をやっている?」

 

「っ!?」

 

 

 

物思いにふけっていると、突然後ろから声をかけられた。

そこには、自分の担任の先生である、織斑 千冬が立っていた。

 

 

「ちふ……織斑先生」

 

 

 

幼い頃からの癖で、思わず普段と同じ様に呼んでしまいそうだったが、今が職務中だということを思い出して、訂正した。

その人影……篠ノ之 箒は、千冬の問いに、どう答えていいものか悩んでいた。

 

 

 

「姿が見えないと思っていたが……まさか、ずっとここにいたのか?」

 

「いえ、ずっとでは……。でも、気づいたら、いつの間にかここにいて」

 

「そうか……。何か悩み事か?」

 

「いえ、そう言うわけではないんです」

 

「では、束のことだな」

 

「…………」

 

 

 

沈黙。

それは肯定したのと同じことの様に思えた。

 

 

 

「明日は7月7日だからな……」

 

「はい……」

 

「…………これはまだ、未確認事項なんだが」

 

「ん?」

 

「今日、旅館に束が現れたそうだな?」

 

「…………一夏から、聞いたんですか?」

 

「まぁな。時期が時期だ……お前に会うために来たのだろう」

 

 

 

そして、その時に渡すものがある。

 

 

 

「まだ時間はあるが、早めに旅館には戻れよ? 風呂や夕飯の時間は決まっているからな」

 

「はい。もう少ししたら、戻ります」

 

「ああ……」

 

 

千冬はそのまま踵を返して旅館の方へと向かっていく。

残った箒は、再び夕焼けに視線を持って行った。

青い海を紅く染めたその夕日の色に、あの時の会話が蘇ってきた。

 

 

 

ーーーー最高にして規格外! そして “白と並び立つ者” その機体の名前はぁ〜

 

 

 

 

「ーーーー紅椿……!」

 

 

 

 

その目には光が宿った。

まだ不安定で危なっかしい……。だが、一縷の希望を秘めた光が……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

まだまだ一日は終わってないとばかりに、旅館内は活気に満ちていた。

指定の時間となり、今は女子達が一日の疲れと汗をお湯で洗い流している時間。

IS学園の特別措置として、男湯も女子達が占領している。

でないと、さすがに一クラスだけでも女湯単体では全員がお湯に浸かれない。

そして、残る男子二人は、決められた時間でないと温泉には入れない。

なので、夕食後に一夏達は入る事になっているのだ。

夕食もまた同じ。広い部屋をいくつも使って、全員が自由に席を使える。

IS学園は国際色豊かな事もあって、正座が出来ない外国人の生徒達のために、テーブル席まで用意しているみたいだった……。

流石は日本の “おもてなしの心意気” というやつだろうか。

 

 

 

「おお……!」

 

「めっちゃ豪勢……!」

 

 

出された料理は、新鮮な魚介をふんだんに使った料理。

とれたての魚の刺身や、アラで採ったダシ汁で煮込んだ吸い物。

旬の野菜やお肉なども取り揃えてあり、食べ応えのある物ばかりだった。

 

 

「久しぶりだな、こんな豪勢な食事」

 

「そうなの? 家はそうでもないかなぁ……?」

「私も。京都の本家では、こんな感じかな」

 

「お嬢様方の間では、普通なのか……?」

 

 

 

普通の一般家庭で出てくる食事ではないだろうと思ったが、暗部の家系のお嬢様に京都に本家を構える由緒ある家柄のお嬢様方二人からしてみれば、案外食べ慣れた物らしい。

 

 

「刺身も新鮮だな、どれどれ」

 

刺身を一切れ取り、ワサビをのせ、刺身醤油につけて食す。

新鮮な魚の旨味と、ワサビのほんのりツーンとくる刺激がたまらない。

 

 

「んんっ! うまい、さすが本わさ!」

 

「本わさ?」

 

 

一夏の左隣には、もちろんのごとく刀奈が座っており、さらに左に座っていたシャルロットが、一夏の言葉に耳を傾ける。

 

 

「ねぇ、一夏。本わさって何?」

 

「ああ、“本わさ” っていうのは、生ワサビからそのままおろしたやつの事だよ。

普通にスーパーなんかで売られているのは、“練りわさ” って言って、ワサビと別の物を混ぜたやつなんだ。

本わさの方が、風味も味も一段とうまいんだよ……!」

 

「へぇ〜、そうなんだ……!」

 

 

シャルロットはそのまま、視線をワサビの方へと向ける。

そして何を思ったのか、ワサビの山を箸でつまみ、その山を一口で食べてしまった。

 

 

「えっ?!」

 

「ちょ! シャルロットちゃん?!」

 

「んんっ!!!?」

 

 

 

一夏と刀奈が止めようとするも、時すでに遅し。

食べたシャルロットは、涙目になりながら、鼻を摘んでプルプルと体を震わせている。

 

 

「ちょっと、何やってるの……。ワサビはそのまま食べる物じゃないのよ」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

「大丈夫か? シャル」

 

「う、うん……だ、大丈夫。ふ、風味があって、美味しいよ……?」

 

「ほら、お茶飲んで……こんな時まで優等生にならないの。ワサビはあくまで薬味なんだから……」

 

「うう……ごめんなさい……」

 

 

 

ひとまずお茶を流し込んで、ワサビの辛さを和らげる事は出来たが……。

事はそれだけにとどまらなかった。

その原因は、一夏の右隣にいる人物のせいだ。

 

 

 

「んっ……くう……!」

 

「セシリア、大丈夫か?」

 

「な、何がですの? わ、わたくしは、大丈夫……ですわ……!」

 

「いや、結構辛そうに見えるが……?」

 

 

 

 

セシリアだった。

慣れない正座をしているためか、先ほどからずっと体を細く震えさせながら、あちらこちらに態勢を変えている。

どうやら、足が痺れてきているようだ。

 

 

 

「辛いなら、席を代わってもらったらどうだ? テーブル席なら、まだ空きはありそうだけど……」

 

「い、いえ! 問題ありませんわ!」

 

 

 

気を使う一夏だったが、断固としてこの場を離れることをしないセシリア。

 

 

 

「この席を確保するための労力に比べれば、これくらい……!」

 

 

と、いう理由だ。

当然他の子達も同じ考えだったようで、一夏の隣には、必ず刀奈が座ると思っていた……。ならば、もう一つの隣ならば、まだ確保することができるはずと……。

そこからは、早い者勝ちだ。

誰が一番先にその場に座れるか……。一種の椅子取りゲームが、その会場で密かに行われていたのだが、それを一夏が知る由はない。

 

 

 

「なんか言ったか?」

 

「い、いいえ! なんでもありませんわ!」

 

 

幸い、今の発言は聞こえてなかったようで安心したが、その隣では、刀奈がにっこりと笑っていた。

全てお見通し……と言っているかのようであった。

それに付け加え、先ほどからツンツンと自身の足を突いてきている。

それを無視しながら、必死に耐えていたのだが……

 

 

 

「んっ……んあっ!」

 

「うおっ……ほら、だから無理しないほうがいいって言ったのに」

 

「も、もう〜! 楯無さんのせいですわ!」

 

「あらぁ〜? なんのことかしら……?」

 

 

 

だが、今更また正座をする気にもなれず、セシリアは女の子座りのまま動かない。

 

 

 

「セシリア。別に正座は強制ではないんだぞ?」

 

「で、ですが、これが日本の礼儀だと……」

 

「でも、辛い気持ちで食事をしても、美味しくないだろ?」

 

「それは……」

 

「別に正座が出来ない事は恥じゃないさ。それに、せっかく美味しい料理を、美味しく食べてもらえなかったら、旅館の板前さん達が悲しむぞ?」

 

「一夏さん……」

 

 

 

心優しく接してくれる一夏に、セシリアは天啓を授かったと言わんばかりに目をウルウルさせていた。

一夏の説得に従い、無理に正座をすることなく、セシリアは目の前の料理をいただこうとしたのだが……。

 

 

「あ……」

 

「ん? 今度はどうした」

 

「あ、いえ……」

 

 

目の前には美味しそうな料理がたくさん並んである。

今すぐ食べてたかったのだが、問題はその料理を食べるのに使う物にあった。

 

 

 

(わ、わたくし、まだお箸が使えませんわ……!)

 

 

 

そう、外国人のあるあるネタ。

基本的にフォーク、スプーン、ナイフで食べる外国人。箸で食事をするのは、せいぜい日本か中国、ベトナムと言ったアジア諸国ぐらいなものだろう。

ましてや、イギリス出身のお嬢様であるセシリアは、基本的に箸は使わない。

なので、どうやって食べようかと迷っていると、ふと、セシリアの視線は自身の前方へと向かった。

 

 

 

 

「ん! これ美味しいな。なぁアスナ、これ作れないか?」

 

「うーん……出来なくはないと思うけど、色々改良して味を見てみないとわからないかなー」

 

「大丈夫だ。アスナなら出来る!」

 

「もうー、すぐそうやって……。ほんとご飯の事になると目の色が変わるね、キリトくんは」

 

「いやだってさ、うまいんだって! ほら、アスナも食べてみろよ」

 

 

 

そう言って、和人は自身の料理を明日奈の口元へと持っていく。

 

 

 

「ええっ? キ、キリトくん、ここで?」

 

「いいから、食ってみろって」

 

「ん〜〜っ、あ、あ〜ん……」

 

 

頬を赤く染めながら、和人の料理を食べる。

確かに美味しいのだが、それよりも周りからの視線という鋭利な剣が突き刺さるため、恥ずかしいことこの上ない。

 

 

「な? 美味いだろ?」

 

「う、うん……美味しいね……あはは」

 

「いいなぁー明日奈さん」

 

「ラブラブねぇ〜」

 

「羨ましい……!」

 

「ちょっ、みんな何言ってるのよ……!」

 

 

 

案の定周りからの指摘が来た。

そして、その視線は明日奈を通り越して和人へと向かう。

 

 

 

「き、桐ヶ谷くん! 私たちも……」

 

「それはダメ!」

 

「ええ〜! 明日奈さんだけずるいですよぉ〜」

 

「そうですよ! 桐ヶ谷くんと織斑くんは、一組の共有財産なんですよ?」

 

「ならば! 私たちにだって食べさせて貰える権利がある筈です!」

 

「ううっ……! で、でも、ダメなものはダメなの! キリトくんは私のなの!!!」

 

 

 

 

必死で和人を守ろうとする明日奈を見て、セシリアが閃いた。

 

 

 

(ーーーーこれですわ‼︎)

 

 

 

セシリアは改めて一夏の方を向き直ると……

 

 

 

「あ、あの、一夏さん?」

 

「ん? どうした」

 

「その、わたくし、まだお箸を使えませんの。ですので、その……」

 

 

 

自然と視線を和人達の方に向けるセシリア。

その視線を追って、一夏は和人達を見る。先ほどの食べさせ合いのことで盛り上がってる事から察するに、そう言う事なのだろうと思ったのだ。

 

 

 

「なるほどな。いいぜ、何が食べたい?」

 

「へぇっ?! いいんですの!?」

 

「あぁ。これくらいなら全然いいぞ? せっかくの料理を食べれないのは、いくらなんでもかわいそ過ぎるよ」

 

「〜〜〜〜っ! ありがとうございます、一夏さん!」

 

 

作戦成功。

一夏はセシリアの箸を持ち、刺身を一切れ摘む。

 

 

「あ、ワサビは少量でお願いします」

 

「おう、わかった」

 

 

マグロの赤身に、少量のワサビを乗せて醤油にに付ける。

 

 

「はい、あ〜ん」

 

「あ〜ん」

 

 

刺身を一口。

新鮮な魚の旨味とワサビの辛味、醤油の味と、一夏から食べさせてもらったという幸福感が、セシリアの口いっぱいに広がった。

 

 

「〜〜〜〜っ!!!! 美味しいですわ!」

 

「あーーっ!! セシリアずるい! 織斑くんに食べさせてもらってるぅー!」

 

「なんですって!?」

 

「抜け駆けはよくないぞ!」

 

「セシリア、そこ代わりなさい!」

 

 

 

たちまち大騒ぎになった。

一方では明日奈が和人を守り、一方では一夏の周りに生徒達が押し寄せてくる。

とても食事なんてしている場合ではなかった。

 

 

 

「ちょ、落ち着けってみんな……!」

 

「もう、チナツが余計な事するから……」

 

「でも仕方ないじゃないか……。セシリアは箸使えないんだし、シャルだって、前に使えなくって、その時も俺がーー」

 

「うわあぁぁっ! 一夏、ダメだよそれ言っちゃーー」

 

「ふーん……シャルロットちゃんもねぇ〜……」

 

「あ……」

 

 

要らぬ墓穴を掘ってしまった感が強かった。

どうしようかと思っていると、いきなり一夏の後ろにあった襖が、勢いよく開かれた。

 

 

 

「お前達は静かに食事をする事ができんのか!!!!」

 

 

 

そこに鬼がいた。いや、正確には鬼教官がいた。

たった一言で、全体が静まり返ってしまった。が、そんな事を気にする千冬ではない。

事の元凶である一夏と和人を睨む。

 

 

 

「織斑、それから桐ヶ谷も」

 

「「は、はい!」」

 

「あまり騒ぎを起こしてくれるな。鎮めるのが面倒なんだ」

 

「は、はい……」

 

「すみませんでした……」

 

 

それだけを言うと、千冬はそのまま襖を閉めて戻って行った。

生徒達みんなで「はぁー」と盛大なため息を一つ。

席から離れていた生徒達は元の席に戻っていき、一夏もセシリアの箸を元に戻した。

 

 

「というわけでセシリア、悪いが自分で……」

 

「む〜〜〜!」

 

「あはは……やってやりたいのは山々なんだか、さすがにこれ以上騒ぎは起こせないよ」

 

「はぁー……仕方ありませんわね。頑張って使いこなすしかないようです」

 

「ああ、俺も手伝うからさ。なあ?」

 

 

 

 

その後、生徒達の食事は滞りなく進み。

じっくり食事を堪能した後は、就寝時間になるまで旅館内で自由に過ごす。

 

 

 

「はぁ〜あ〜、織斑くん達と遊ぼうと思って色々用意してきたのに……」

 

「織斑先生の部屋じゃねぇ〜……」

 

「「「はぁーーー」」」

 

 

 

盛大にため息をついていた。

男子は千冬と同じ部屋であるため、安易に遊びに行けないのだ。

今回の臨海学校で、何かしらのチャンスがあると思っていた生徒達はいただろう……。

だが、その希望も無情に散っていった。

 

 

 

 

「って、みんな思ってるはずよ」

 

「カタナちゃん、いいのかな……私達が行っても……」

 

 

 

が、その中で廊下を歩く生徒が二人。

明日奈と刀奈の二人だ。

その足取りは軽く、スタスタと千冬たちの部屋の方へと向かって歩いて行った。

 

 

「大丈夫よ。多分、織斑先生も来ることはわかってるだろうし……」

 

「そ、それでも……」

 

「もう、あんまり真面目にならない! こういうのが楽しいんじゃない!」

 

「そ、そう言うものなのかな?」

 

「そう言うものなのよ」

 

 

 

何かとバツの悪そうな明日奈の手を引いて、先導する刀奈。

そして、目的地である千冬たちの部屋の前まで来た。

襖を軽くノックし、中から声がかけられる。

 

 

 

『はーい?』

 

「チナツ、私よ。開けてもいい?」

 

『ああ、カタナか。いいぞ』

 

「失礼しまーす」

 

 

 

元気な声で襖を開ける。

すると、中ではパソコンをいじっている和人と、それを横で見ている一夏。その後ろでは、座椅子に座ってテレビを見ている千冬がいた。

 

 

「なんだ、やはり来たのか」

 

「はい、別に来てはいけない規則はなかったですから」

 

「ふん……。まぁ、いいだろう。だが、ちゃんと就寝時間には戻れよ?」

 

「わかっています♪」

 

 

 

千冬は特に追い返す素ぶりも見せずに、じっとテレビを見ていた。

そして明日奈と刀奈は、パソコンをしている和人の元へ。

 

 

 

 

「何してるの、キリトくん?」

 

「ん? あぁ、俺のISのプログラムを使って、ユイの視覚エンジンシステムにアクセスできないか、試してたんだよ」

 

「ユイちゃんの?」

 

「ああ。ユイは今まで、俺たちと会話をすることは出来ていたけど、ユイがこっちの世界の物を見たりすることは出来いからさ……。

だからどうにかして、それが出来ないかと思っていたんだが……」

 

「難しそうなの?」

 

「うん。でも、もう少しプログラムをいじって、何か代用出来ればいいんだけどな。まぁ、いつかは絶対に作ってみせるさ」

 

「うん! ユイちゃんもきっと喜ぶよー!」

 

 

 

 

娘の為になると、どんな事でもしてあげたくなる若き夫婦。

その為なら、ISの技術だって使う。

例えそれが篠ノ之 束にしかわからない技術だったとしても、必ずその技術を習得してみせる……。

愛する愛娘の為に……!

 

 

 

「おい、織斑。先ほどから桐ヶ谷達が言ってる “ユイ” と言うのは?」

 

「ああ、キリトさんとアスナさんの娘さんの事です」

 

「娘……?」

 

 

千冬は眉をひそめて、和人と明日奈を見る。

確かに二人ともいい夫婦にはなりそうだが、だが、まだ子供を持つとなると早すぎる。

と、いうより……

 

 

 

「おい、桐ヶ谷。お前たちはいつ子供を作った?」

 

「え? あ、ああ、いやそれは……」

 

「えっと、ユイちゃんは……その、ちょっと特殊でして……」

 

「特殊だろうとお前たちの子供なのだろう? しかし、まだ正式に結婚もしていない上で、子供を持つのは、いささか急じゃないか?」

 

「あぁ、えっと……」

 

「そ、そうなんですけど……」

 

 

 

和人も明日奈も、千冬にどう説明すればいいか迷ってしまったが、ここははっきりと言おうと決めた。

 

 

 

「ユイは、人間の子じゃないんです」

 

「ん?」

 

「えっと、ユイちゃんは、私達がSAOの中で出会った、プログラムAI。ある日、一人で彷徨っているところを、私とキリトくんで助けて、そのまま私たちの子供になったんです」

 

「プログラムAI?」

 

 

 

千冬も、自分が予想していた答えよりも斜め上をいく答えが返ってきた為か、少々驚いた様子で聞き返した。

 

 

「ええ。茅場の作ったSAO内で、精神的ダメージを負った際に、それを検査しカウンセリングをするAIとして、ユイは作られたんです。

あ、なんなら、話してみますか?」

 

 

 

そう言って、和人はパソコンのキーボードを打鍵していき、ユイとの通信をつなげる。

 

 

「ユイ、聞こえるか?」

 

『はい。どうしたんですか、パパ?』

 

「あぁ、ちょっと、お前と話したい人がいるんだ。だから、少しいいか?」

 

『はい! もちろんです!』

 

 

 

和人はちらっと千冬を見ると、千冬は改まって咳払いを一回し、パソコンの画面を見つめた。

 

 

 

「初めましてだな。私の名前は織斑 千冬だ」

 

『初めまして、ユイです! えっと、千冬さんと呼んでもよろしいでしょうか?』

 

「あぁ、構わんぞ。にしても、随分と礼儀正しい子だな。これは、母親に似たのか?」

 

 

 

ニヤニヤとしながら明日奈を見る千冬。

明日奈は明日奈で、褒め言葉としてそれを受け取り、「えへへ〜」と笑っている。

 

 

 

『千冬さん……。どこかで名前を……あっ! ありました、モンド・グロッソ優勝者にして、《ブリュンヒルデ》の称号を持つ、世界最強のIS操縦者さんですね!』

 

「ん……よくもまぁ、そんな簡単に見つけ出すものだな」

 

『えへへ♪ 私はある程度の事なら、なんでも検索できますから』

 

「そうか……」

 

『あと、いつもパパとママがお世話になってます!』

 

「お、おい、ユイ?!」

「ユイちゃん?!」

 

「はっはっは! これは、とんだ子供を持ったな、お前達は……! 何、当たり前だ。私は教師で、お前の両親は生徒だからな……」

 

『はい! これからも、よろしくお願いします!』

 

「ふん……まぁ、お願いされるとしよう」

 

 

 

普段はあまり見られない千冬の顔。

幼い子供を相手にした千冬は、こんなにも優しそうな顔をするのか……。

 

 

 

「そう言えば、うちの弟とも面識はあったんだな……」

 

『弟……ああ、チナツさんですね?』

 

「あぁ……。こちらこそ、不出来な弟がいつも世話になってるな」

 

「ちょっ?! 千冬姉!」

 

「ぷっ、うふふ……♪」

 

 

今度は千冬からユイへと謝辞を送る。

話の話題にされた一夏は、慌てて弁解しようとするが、千冬は取り合ってくれない。

刀奈も刀奈で、笑いをこらえるのに必死といった状態だった。

 

 

『いえ、チナツさんには、ママと一緒に美味しいご飯を作ってもらってますから!』

 

「ほう? そうか、弟の料理は美味いか……」

 

 

それはそれで嬉しかったのか、妙に頷く千冬。

すると、パソコンの中のユイがクスクス笑う。どうしたのかと一同が首を傾げていると……。

 

 

 

『千冬さんは、チナツさんの事がとっても大切なんですね!』

 

「ぶふぅ!?」

 

 

ユイの言葉に、思わず吹き出してしまった千冬。

そんな千冬の姿に、思わず驚愕する面々。

 

 

「な、何を言う!?」

 

『あれ? 私、何か変なこと言いましたか?』

 

「いや、別に変ではないが……」

 

『なら、そうなんですね! 千冬さんはチナツさんのことが大好きなんですね』

 

「なっ!? 何故そういう話になる!」

 

『先程から、千冬さんの声を聞いていて思ったんです。チナツさんの話になると、どこか声が優しくなったり、明るくなったりしてて。

こう言う時は、その人が大切な人であったり、好きな人であったりします』

 

「だ、断じて違う! その様な事はない!」

 

『え? でもーー』

 

「違うと言ったら違う!」

 

 

 

意外にも断固として否定する千冬。

それを見ながら一夏と刀奈はヒソヒソと小声で話していた。

 

 

「だってさ、チナツ。よかったわねぇ、千冬さんはあなたが大事だって♪」

 

「ま、まぁ、それは嬉しいけど……。あんなに動揺している千冬姉を見るのは、俺初めてだぞ?」

 

「流石の世界最強も、ユイちゃんみたいな小さい子には敵わないか♪」

「楯無! 聞こえてるぞ!」

 

「きゃあぁぁ♪ お姉さんが怒ったぁぁ♪」

 

 

 

赤面し、動揺する千冬。

ユイの純粋無垢な答えには、さすがに対応できない。

 

 

「もういい……。桐ヶ谷、お前の子供はとんでもないな……」

 

「す、すみません……!」

 

「いや、別に謝ることではないさ。ただ、ちゃんと教育はしておけよ? あれこれ好き放題言われては、体が保たん……」

 

「あはは……」

 

 

 

おそらく、今日一番で疲れたかもしれない。

そう思う千冬だった。

 

 

 

「千冬姉」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 

パシッと一夏の頭を叩く。

しかも先ほどのユイの指摘があったからか、いつもより少しだけ強く叩いてしまった。

 

 

「別にいいじゃないか、今の時間は職務じゃないだろうに……」

 

「臨海学校が終わるまでは職務の時間だ」

 

「はいはい。とりあえず、そこに寝てれよ。“久しぶりにやってあげるから” ……!」

 

「…………はぁ」

 

 

 

敷かれた布団を指差す一夏。

その顔は笑みを浮かべており、その顔を見た千冬は力なくため息をすると、そのままうつ伏せに寝た。

 

 

「ま、俺も千冬姉の事が大事だからな! 今日はサービスしてやるよ」

 

「要らん、そんなもの……」

 

「まぁまぁ、そんな固いこと言うなって……。ほら、行くぞ?」

 

 

 

少々強引に言い聞かせた一夏。

千冬は再びため息を一つついたが、それでも、千冬の顔は、少しばかり嬉しそうに微笑んでいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次はちゃんと女子会はやります!

感想、よろしくお願いします!



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。