ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく来た臨海学校編です!

それではどうぞ!




第32話 海に着いたら11時!Ⅰ

「海、見えたあぁぁぁ〜〜〜っ!」

 

 

 

一組の乗る大型バスの窓を開け、クラスメイトの一人が叫ぶ。

目の前に広がる広大な海。

潮の匂いと共に、夏の陽射しと暑さが体を直撃する。

その時に感じる……。

ようやく、夏が来たのだと……!

 

 

 

「なんだかいいわねぇ〜。夏って感じ♪」

 

「そうだな……これからが本番って感じだけどな」

 

「これ以上暑くなるのか……憂鬱だなぁ〜」

 

「もう、そんなこと言ってまた部屋に閉じ籠ろうとしちゃダメだよ、キリトくん」

 

 

 

海を見ながら、これから始まる臨海学校に思いをはせる面々。

1日目である今日は特に実技はなく、自由日となっている為、皆のテンションもうなぎ登りになっていると言うわけだ。

 

 

 

「宿泊先までは、あと少しだ。全員、すぐに降りられるよう、準備しておけ」

 

「「「「はいっ!!!!!」」」」

 

 

 

千冬の一言で、皆テキパキと荷物の整理し、すぐにでも行動できるように準備し始める。

そして一行を乗せたバスは、IS学園を出て数時間、ようやく目的地である宿泊先の旅館に到着したのだった。

 

 

 

「ここが今回もお世話になる宿泊先の花月荘だ。ここは毎年我々IS学園の臨海学校の際に、宿泊提供してくださっている。

皆、感謝の思いと迷惑にならないよう、しっかりと心掛けろ。いいな?」

 

「「「よろしくお願いしまーす!」」」

 

 

 

千冬の一言で、一年生全員が一斉に挨拶をする。

それに応じて、出迎えに来てくれた女将さんが丁寧にお辞儀をし、迎え入れてくれる。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 

ニッコリと柔らかい笑顔で迎え入れてくれた女将さん。

実際に若いのだが、その優しい笑顔が、更に若々しく見せてくれる。

そして、女将さんが視線を男子二人の方へと向ける。

 

 

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

「ええ、まぁ。今年は男子が二人いる所為で浴槽わけが難しくなってしまい、申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな……。それに、二人ともいい男の子達ではありませんか。どちらもしっかりしてそうですし」

 

「そう思うだけですよ。それもこいつは特に……」

 

 

 

そう言うと、千冬は右手で一夏の頭を軽く押さえた。

 

 

 

「ほら、お前達も挨拶しろ。今回の臨海学校で、一番気を使ってもらっているのは、お前達なんだぞ」

 

「お、織斑 一夏です。よろしくお願いします」

 

「桐ヶ谷 和人です。よ、よろしくお願いします」

 

「ふふっ、ご丁寧にどうも。私は清洲 景子と申します。よろしくお願いします」

 

 

 

そう言って、女将さんは再びお辞儀をする。

 

 

 

「それではみなさん、お部屋へとご案内致します。海に行かれる方は、別館の方にて着替えられるようになっていますので、そちらをご利用下さい。場所がわからない場合は、いつでも従業員にお声をかけて下さい」

 

 

生徒全員の「はーい!」という返事を聞き、景子はすぐさま旅館の中へと生徒達を誘導する。そして、それぞれ割り当てられた部屋へと生徒達が向い、皆自分の荷物を置き始める。

初日は自由行動。

食事は旅館が指定の時間に用意してくれるため、それまでは泳ぐなり、遊ぶなり、思い思いに過ごすだけだ。

 

 

 

「あ、ねぇねぇおりむ〜、き〜り〜」

 

「ん?」

 

「 “き〜り〜” って俺のことか?」

 

 

 

間延びした呼び方。この呼び方をするのは、たった一人。

のほほんさんこと、布仏 本音さんだ。

その呼び声に振り向くと、相変わらずダボダボの制服を着て、一夏と和人の後ろにいた。

 

 

「二人の部屋ってどこ〜? もらったしおりの一覧に名前載ってなかったから〜」

 

「あっ、そう言えば……」

 

「俺たち、どこで寝るんだ?」

 

 

 

そう言えば、肝心のことを忘れていた。

そう、臨海学校が始まる数日前、臨海学校のしおりを一年生の皆はもらっており、そこには当然、臨海学校三日間の予定と各生徒の部屋割りが記されている……はずだったのだが……。

 

 

 

「俺たちの名前、載ってないんですよね」

 

「ああ……。じっくり探してたけどなかったな」

 

 

 

そう、無かったのだ。

一夏の名前も、和人の名前も。

そもそも、男子が二人しかいないため、自分たちの名前を見つけるのは容易いことだったはずだ。

二人が首をひねっていると、途端に後ろから声がかけられた。

 

 

 

「あー織斑、それから桐ヶ谷も。お前達はこっちだ」

 

 

 

声の主は、千冬だった。

あまり詳細は言わず、ただついて来いと言っていた。

そう言われたのならば、ついていくしかない。なので、二人は急いで千冬の後を追った。

 

 

「悪い、のほほんさん。また後で教えるから」

 

「はいは〜い!」

 

 

相変わらずマイペースに動いている生き物だ。

まぁ、可愛いからいいのだが……。

 

 

 

「それで織斑先生、俺たちの部屋は……」

 

「いいからついて来い」

 

 

 

有無を言わせないとはこの事だ。

二人は、黙って千冬の後をついていく。その途中、花月荘の中をしっかりと見ていた。

風光明美とはよく言ったもので、中はとても綺麗で、中庭や外へと出れる軒下なども、風情があっていい。

その軒下の付近の天井に括り付けられた風鈴が、海風に煽られてチリンチリンと静かだが、芯のある音を響かせる。

それを聞いていると、この暑さも少しは和らぐように感じた。

 

 

 

「ここが、お前達の部屋だ」

 

 

 

と、旅館を観察しているうちに、目的地である部屋の前に到着したようだ。

だが、その部屋の襖のところには、『教職員』という文字の書かれた張り紙が貼ってあった。

 

 

 

「ここ……ですか?」

 

「ああ、そうだ。とりあえず、中に入って荷物を置いとけ」

 

「は、はい」

 

 

 

そう言って、一夏が襖を開ける。

そして、一夏と和人の二人は、その部屋をみて驚きを隠せなかった。

 

 

 

「「おおー!」」

 

 

 

旅館の部屋はとても清潔で、広々とした空間に、旅館ならではのテーブルと座布団に座椅子。

お茶請けのお菓子やお茶を注ぐ急須に湯のみ。どれもこれもが完璧だった。

 

 

 

「いいですね!」

 

「ああ、こんないい旅館に、毎年泊まってるんだな」

 

「なに、IS学園も国立と言われる学園だ。これくらいしなければ、割に合わん」

 

 

そう言うと、千冬もまた同じ部屋に入り、自分の荷物を部屋の端に置く。

それを見て、二人は改めて確信した。

 

 

 

「って事は、俺たちは先生と一緒の部屋という事ですか?」

 

「ああ……。最初はお前達二人だけ、別館に個室を用意しようという話があったんだが……それでは時間を無視して徘徊する生徒達が出てくるだろうと言う理由で、私と同じ部屋にした。

これなら、おいそれと徘徊する生徒もいない……教師の部屋に入ってこようなどとは思わんだろう」

 

「な、なるほど……」

 

 

 

妙に納得がいった。

普段は二人とも、恋人と一緒にいるか、専用機持ちの面々と過ごしている。

故に、その他の生徒達からすれば、これは二人と接触し話せるチャンスである事には間違いだろう。

なんだかんだで、和人もIS学園の生徒達の間では人気がある。

特に上級生達からの人気が……。

そして一夏も一夏で、同級生、上級生と所構わず人気を集めている。

なので、この強行策はかなり効いているだろう。

 

 

 

「失礼しま〜す、うわぁ!? 織斑くんに桐ヶ谷くん……! そ、そういえば、こちらの部屋でしたね」

 

 

 

と、今度は山田先生が入ってきた。

って言うか、そんなに驚かなくてもよろしいのでは?

 

 

 

「山田先生……。この部屋割りにしたのは、確か先生ではありませんでしたか……?」

 

「あ、ああ! そ、そうでしたね! そうでした……あはは……」

 

 

 

キッ、と睨みを効かせて真耶に対して問い詰める千冬。

どうやら、いつものちょっとしたイジリのつもりだったみたいだ。

その度に仕返しが来るとわかっているはずなのに……。

 

 

 

「では、織斑、桐ヶ谷も。お前達は今から自由行動に入れ。部屋でくつろぐのも良し、海に行って遊ぶのも良し」

 

「はい」

 

「ん? 織斑先生と山田先生は?」

 

「職員は一度、今回の臨海学校の最終の打ち合わせがあるのでな。それが終われば、我々も後で合流する。

お前達は先に行っていろ。だが、あまり羽目を外しすぎるなよ?」

 

「りょ、了解です」

 

「よろしい」

 

 

 

妙な威圧感を感じたが、二人は気にしないようにして、部屋を後にした。

もちろん、刀奈と明日奈から選んでもらった水着とタオルを持って。

 

 

 

「にしても、海なんて久しぶりだな……」

 

「そうですね。ALOにも海はありますけど、入った事ないですもんね」

 

 

 

男二人で旅館の廊下を歩く。

すると、前方から見慣れた二人が……。

 

 

 

「あ、キリトくん!」

 

「あら、チナツ」

 

 

 

明日奈と刀奈の二人だ。

二人とも両手に手提げ袋を持っている。

もちろん、中身は水着である。

 

 

 

「そういえば、二人はどこの部屋なの?」

 

「ちなみに、私とアスナちゃんは同じ部屋だった」

 

「へぇー、そうなのか」

 

「ちなみに俺たちは……」

 

 

 

二人は若干の苦笑いを浮かべ、明日奈と刀奈に言った。

千冬と同室であると……。

 

 

 

「えっ?! そ、それって……」

 

「なるほど……考えたわね。これなら、私達はおろか、他の生徒も簡単には部屋に入れないわね。

わざわざ鬼のいる間に入ろうとは思わないだろうし……」

 

「おいおい……聞こえるぞ?」

 

「ほんとの事じゃないのよ……。きっと、あなた達二人と遊ぼうと思っていた子達がたくさんいたわよぉ〜。

その子達は、まぁ、なんというか……ご愁傷様ね」

 

「あっははは……」

 

 

 

から笑いをするしかなかった。

 

 

「あら、皆さん。これから海に行くのですか?」

 

 

と、そこにセシリアが合流した。

どうやら、セシリアも海に行こうとしていたらしい。

 

 

 

「では、皆さんも行かれるのですね?」

 

「うん。一緒に行こう、セシリアちゃん」

 

「はいですわ」

 

 

 

こうして五人は、着替えが出来る別館に行こうと思ったのだが、その途中で、ある人物に遭遇した。

 

 

 

「ん? あれは……箒?」

 

 

 

IS学園の制服を着て、長い黒髪をポニーテールでくくっている少女。

篠ノ之 箒。

その箒が、中庭へと通じている廊下で、何やら地面をジッと観察していた。

 

 

 

「ん、一夏。それに皆さんも」

 

「どうしたの箒ちゃん?」

 

「あぁ、いや……その……」

 

 

明日奈の問いかけに、何やら歯切れの悪い箒。

だがその後、その場にいたメンバー全員が、箒と同じように固まった。

その原因は、箒の視線の先にあった物だ。

 

 

 

「えっ?」

 

「なんだ、これ?」

 

「ウサ耳?」

 

「ですが、何故、ウサ耳?」

 

 

 

明日奈、和人、刀奈、セシリアの順に、それぞれが思っている事を口にする。

そう、何故かその場に、ウサ耳が生えているのだ。

いや、生えているではおかしいかもしれない。正確に言うと、突き刺さっている……はみ出している……というか、適切な言葉が思い浮かばない。

だが、確かにそこに、ウサ耳があるのだ。それも羽毛などで出来たものではなく、どこか機械的なパーツであしらったようなウサ耳が。

そしてその後ろには、小さなつい立て看板。

内容は、『引っ張って下さい』……。との事だった。

 

 

 

「えっ、ええ?」

 

「引っ張れと言われてもな……」

 

「明らさまに怪しいわね」

 

「一体誰ですの? こんな事をしたのは……」

 

 

 

四人はウサ耳を見るなり、非難轟々……と言った感じだ。

だが、唯一箒と一夏だけは、そのウサ耳を見てため息をこぼし、箒はその場を立ち去ろうとするも、一夏がそれを止めようとする。

 

 

 

「お、おい、箒」

 

「なんだ。私には関係ない」

 

「いやいや、滅茶苦茶関係アリアリだろうよ」

 

「知らん……! お前がなんとかしろ」

 

「なんとかって言われても……じゃあ、引っ張るぞ?」

 

「好きにしろ。私は行く」

 

 

 

 

そう言うと箒はその場を急ぎ足で後にした。

まるで、何かから逃げるようにして……。

対して一夏は、廊下を降り、そこにあったスリッパを履いて、ウサ耳がある場所へと向かう。

 

 

 

「ちょ、チナツ?」

 

「それ、どうするんだ?」

 

「まぁ、引っ張れって書いてあるから、引っ張ってみますよ……。まぁ、多分ですけど、引っ張らなくても出てくるとは思いますけど……」

 

「「「「ん〜?」」」」

 

 

 

一夏と箒は何か知っている様子であった為、ここはこの場に残った一夏に任せてみることにした。

そして一夏は、そのウサ耳を両手で握ると、力を込めてそのウサ耳を引っ張った。

 

 

 

「せぇ〜のッ!」

 

 

 

ボシューー!!!!

 

 

 

「のわぁっ!?」

 

 

 

思いの外手応えが軽かった。

と言うか、引っ張る力に反応したのか、ウサ耳は自分から進んで出てきたかのように思えた。

その為、力を込めた一夏はそのまま後ろへと倒れ、尻餅をつく。

そこに、刀奈たちが集まってきた。

 

 

 

「痛ってて……!」

 

「大丈夫、チナツ?!」

 

「あ、あぁ……なんとか……」

 

「それで、ウサ耳は?」

 

「それならここに……」

 

 

あろう事かウサ耳はただ取れただけ。

ウサ耳があった場所には何もなく。ただ植えつけられていただけだったようだ。

だが、その直後。突然空から何かが降ってきた。

 

 

 

「み、皆さん! 早く退避を!!!!」

 

「「「「うわぁぁぁぁ!!?」」」」

 

 

 

ドオォォォォーーーーン!!!!

 

 

 

 

「「うおぉぉっ?!」」

 

「「「きゃあぁぁぁ!!!!」」」

 

 

 

凄まじい勢いとともに落ちてきたのは、なんと、“ニンジン” だった。

 

 

 

「なっ、ななっ?!」

 

「な、何故にニンジン?!」

 

 

明日奈と和人が驚愕し、その場で硬直した。

 

 

「い、一体なんですの?!」

 

「どこからこんなものを……!」

 

 

セシリアと刀奈は、こんなものが空から降ってくること自体に驚愕していた。

そしてーーーー

 

 

 

「…………やっぱりか……」

 

 

 

妙に納得した表情で、ため息をつく一夏。

 

 

 

『あっははは‼︎ 引っかかったなぁ〜いっくん!』

 

 

突如、降ってきたニンジンから声が発せられた。

それも、若い女の声だ。

 

 

 

ブシュウゥゥゥーーーー!!!!

 

 

 

「うわあぁぁぁーー!!!!」

「きゃあぁぁぁ!!!!」

「な、何!!!!?」

 

 

女性陣がとっさに一夏と和人の背中へと隠れる。

それもそのはずだ。

降ってきたニンジンから突如煙が吹き出たのだから……。

その煙が止むと、ニンジンは真ん中から縦一本に割れ、両サイドへと倒れる。

そしてそこから、不思議の国のアリスの主人公、アリスが来ていたような服に、先ほどの機械的なウサ耳を頭に付けた女性が飛び出してきた。

 

 

「やっほぉ〜ッ!! いっくーーん!!!!」

 

「のわぁっ!?」

 

 

女性は飛び出したのと同時に、まっすぐ一夏に向かって突っ込んできた。

一夏もとっさのことにいろいろと頭がついて行かず、対処が遅れてしまい、その女性の抱擁を全身で受け止めた。

 

 

「うわぁーー‼︎ いっくんだ、いっくんの素肌だぁーー!!!!」

 

「ちょっ、何を言ってるんですか!? 離れてください!」

 

「ええー、嫌だ嫌だ! もっといっくんとハグハグするぅ〜‼︎ はぁー、いっくんの匂い、いっくんの体、いっくんの感触、いっくんの温もり〜〜!!!!

本物のいっくんだぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

「当たり前じゃないですか!!? 一体なんだと思ってるんですか‼︎」

 

 

 

一夏の渾身のツッコミも、アリスうさぎは無視して、一夏の腹に顔を埋めて……

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉーーーーッ!!!!!」

 

「うおおっ?!! 腹で叫ぶなあ‼︎」

 

 

 

 

堪らず一夏はアリスうさぎを引き剥がす。

だが、そのアリスうさぎは、にんまりと笑って一夏を見つめる。

改めて顔を見ると、中々の美人っぷり。

その顔を間近で見て、一夏も少しドキッとした。

 

 

「ねぇねぇいっくん」

「ん?」

 

「おかえり♪」

 

「っ! あぁ、ただいま…… “束姉”」

 

「っ〜〜〜〜‼︎ お姉ちゃんは寂しかったんだよぉ〜‼︎」

 

「だあぁーー! わかったからくっつかないで!」

 

「はーい! まぁ、今は箒ちゃんのことも気になるしねぇ〜。じゃあいっくん、また後でねぇ〜!」

 

 

 

 

アリスうさぎは即座に立ち上がると、すぐにその場を後にした。

まるで嵐のようなひと時だった。

一瞬にして現れ、また一瞬にして消えていった。

取り残されてメンバーは、ポカンとした表情で、アリスうさぎの後ろ姿を眺めていた。

 

 

 

「えっと……チナツくん? あれは、誰?」

 

「お前と箒の知り合いだったみたいだが……?」

 

「一体何者ですの?」

 

「ねぇ、チナツ。もしかしてあの人って……」

 

 

 

四人は尻餅をついている一夏に集中して問いただす。

そして、一夏それに力なく答えるしかなかった。

 

 

 

「……あの人の名前は、篠ノ之 束。

箒の姉さんにして、ISを開発し生み出した人で、“茅場 晶彦” と並ぶ日本を代表する天才科学者ですよ」

 

「「「ええぇぇぇぇーー!!!!??」」」

 

 

一夏と刀奈以外の三人の驚愕の声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、束の行方はわからないままだった。

一応、千冬に簡単な報告をしておいたが、千冬も「はぁー」と頭を抱えてため息をついていた。

だが、「その事は忘れろ。お前たちは海にでも行って来い」と言われた為、今現在……浜辺で日差しに焼かれている。

 

 

 

「んん〜〜! いいねぇ〜。凄くいい天気」

 

「ほんとねぇ〜。でも、日焼け止めしっかり塗っておかないと、肌が焼けちゃうわ」

 

 

 

空は晴天。

波も穏やか。遊ぶには絶好のチャンス。

明日奈と刀奈は、一度サンオイルを塗る為に、日陰に集まっている。

 

 

 

「にしても、暑いなぁ……」

 

「夏ですからねぇ……」

 

 

 

とそこに、和人と一夏の登場。

恋人二人に買ってもらった水着を着用し、砂浜を歩いてくる。

白い和人と青い一夏。

今まであまり着てこなかった服の色に、最初は戸惑ったが……。

 

 

 

「やっぱキリトさんも白、似合うじゃないですか」

 

「そうか? あんまり目立ちたくないんだけど……」

 

「いやいや、全然。結構自然体ですよ?」

 

「ならいいんだけどなぁ……。お前も青っていうのはあまり見ないよな?」

 

「そうですね……。あんまりこういう色の物を着ないですからね。ほとんど白とか黒とか……。

赤とかこういう青っぽいのは普段着でも持ってないですね」

 

 

 

SAOでは互いに黒一色と白をベースにした服装。

一夏は一度、アインクラッド解放軍に所属していた頃があったが、それでも、色は地味な深緑色の軍服。

こう言った明るい色の青物は着たことがない。

そしてALOでも同じ。

スプリガンは黒一色の種族。

フィリアは青っぽいジャケットを着ていたが、キリトは全部黒。それでこそ、SAOを彷彿とさせる姿だ。

それはチナツも同じで、旧ALOの頃からアインクラッドが出現した頃までは、白を基調とした燕尾服のようなジャケットコートだったが、今は違う。

肩周りは黒いが、それ以外は全部真っ白で統一されたコート。

裾の丈もキリトの着ているコートと同じぐらいの長さで、これは血盟騎士団の頃の服装と何も変わっていなかった。

その為、元SAO組のメンバーからは結構いじられているようだ。

 

 

 

 

「わわっ!? 織斑くんに桐ヶ谷くん!」

 

「うそっ! やだ私、水着変じゃないよね?!」

 

「それにしても織斑くんと桐ヶ谷くん、男の子って感じぃ〜! 凄く体が引き締まってるね」

 

 

 

 

和人と二人で話していると、周りから一気に視線を浴びた。

それもそのはずだ。

周りはみんな女子。そして男は二人だけ……となれば、自然と注目を浴びるのは必至だ。

そして何より二人が水着姿なのがより効果的。

普段は制服やISスーツで覆われている男の肌を前面に出しているわけだから、IS学園に入る以前から男の子との交流が少なかった女子達からすれば、貴重な時間なのだ。

 

 

 

「あはは……もしかしたらとは思ってましたけど……」

 

「予想以上に注目されてるなぁ……」

 

「お〜い! おりむー、きーりー!」

 

 

 

と、そこへのほほんさんと別にクラスメイトが二人やってくる。

谷本 癒子と鏡 ナギの二人。

 

 

「お〜! 二人とも水着かっこいい〜!」

 

「うんうん!」

 

「男の子って感じ!」

 

「あはは……」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 

普段とあまり変わらずに接してはいるが、問題は彼女達が水着姿だという事。

自分たち同様、普段は制服で見えていないところがあるが、ISスーツでもやばいのに、水着になると迫力が違う。

まぁ、のほほんさんは相変わらずダボダボの服だが、狐の着ぐるみのような水着。

どこで売っている物なのだろうか……?

 

 

 

「ねぇねぇ、何して遊ぶぅ〜?」

 

「そうだな……。せっかく海に来たんだし……」

 

「だったらさ、ビーチバレーやろうよ! ボールも持ってきたんだ」

 

「おお! いいじゃん。チナツ、勝負しようぜ」

 

「やはりそうなりますか。いいですよ、やりましょう!」

 

「オッケー。じゃあ、織斑くんと桐ヶ谷くんが分かれて、あと二人づつに分かれて、三対三でやろっか!」

 

「了解ー! じゃあボール取ってくるねぇー!」

 

 

 

そう言って、癒子がパラソルの下に置いてあるであろうビーチボールを取りに走っていった。

 

 

「いやー、久しぶりだなバレーなんて」

 

「そうだな。俺も中学の時の体育でやったくらいか……」

 

 

バトルとなると燃える二人。

しっかりと入念に準備体操を行う。

すると、一夏が脚の裏を伸ばしていると、その上から影がかかる。

 

 

「なぁーに真面目に準備体操なんてしてんのよ」

 

「うお?! って、鈴か……。これからビーチバレーやるからな。しっかり筋肉ほぐしとかないと、怪我するからな」

 

「ふぅーん。じゃあさ、私が組んでやるわよ!」

 

「えっ、いいのか?」

 

「あったりまえじゃない! 私が入ったからには、勝ちは決まったものよ!」

 

「ああ。鈴がいれば百人力だな」

 

 

スポーティーな水着に身を包んだ鈴。

その身軽そうなイメージに合いそうな、短パン型の水着。

そしてそんな鈴が、一夏と同じチームに入ると言っている。

今のところメンバーは和人、一夏、鈴、本音、ナギ、癒子と六名が揃った。

 

 

「よし! そんじゃあ、行きますか!」

 

 

 

三人ずつに分かれて、設置したコートに立つ。

一夏、鈴、ナギのチームと、和人、本音、癒子のチーム。

男子は綺麗に分かれ、運動神経のいい鈴と癒子が分かれる。問題は、本音がどこまで動けるか……。

 

 

 

「ふっふっふ……。《7月のサマーデビル》と呼ばれた私の実力を見よ!」

 

((なんかよくわからんが、二つ名持ちだったのか!?))

 

 

 

驚く一夏と和人をよそに、癒子からのサーブ。

それをナギがレシーブ。ナギは陸上部である為、そこそこに運動神経がいい。癒子の強烈なサーブを難なく受け止め、宙に浮かせる。

そこに鈴が入ってきて、短くトスする。

 

 

 

「一夏!」

 

「オーライ!」

 

 

続けて飛ぶ一夏。

ルールとしては基本的に普通のバレーと変わらない。

点数制で、先に10点を取ったほうが勝ち。

相手のコートにボールを返すのには三手まで。

強すぎるアタックは無しと言うアマチュアルールで行っている。

 

 

 

「それっ!」

 

 

一夏の放ったアタックは、まっすぐ本音の元へと飛んでいく。

本音は驚いた様子でジタバタしていたが、たまたま伸ばした左手にボールが当たり、これまた偶然にもネット前に程よいトスが上がる。

 

 

「もらった!」

 

 

そのトスに合わせるようにして、今度は和人が飛ぶ。

そして、誰もいないスペースに向けて、アタックを放つ。

 

 

 

「任せなさい!」

 

 

 

が、そこに滑り込んでくる鈴。運動神経の塊と言ってもいいくらいの反射神経で、ボールを宙に浮かせる。

 

 

「織斑くん! もう一度……!」

 

「はいよ!」

 

「させるか!」

 

 

アタックを打とうとする一夏に対して、それをブロックしようとする和人。

だが、一夏は咄嗟に打点をズラしてアタックはせずに、ゆるりと和人の頭を超える打球を打った。

そしてそれはゆっくりと砂浜のコートに落ちていき、一夏たちのチームが先制点を取った。

 

 

「よし!」

 

「まぁ、こんなもんよねぇ〜」

 

「流石織斑くん!」

 

三人集まってハイタッチ。

反対側のコートでは、悔しがる癒子と本音、和人の姿が。

 

 

「あの瞬間に打ち方を変えてくるとはな……」

 

「あと少し早く動けてたらね」

 

「うむ〜〜、おりむーもやるなぁ〜」

 

 

 

そして、その後一進一退の攻防が繰り広げられた。

その熱気に誘われたのか、生徒たちがどんどんと集まってきて、もはやスポーツ観戦状態になった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……ちょっと休憩したいな……」

 

「何よ、もう息あがってんの?」

 

「無茶言うなよ……散々飛びまくってんだぞ?」

 

「まぁ、向こうにいる和人も同じか……」

 

 

 

鈴の視線の先には、一夏と同じように荒い息を整えようとしている和人の姿が。

 

 

「それでは、ここはわたくしにおまかせくださいな!」

 

「ん、セシリア?」

 

 

和人の元にセシリアがやってきて、どうやら交代するようだ。

青い水着が、見事なプロポーションのセシリアにとても似合っている。

モデルなどで雑誌の撮影もやるセシリア。

魅力的なそのスタイルに青い色が映える。ブルー・ティアーズ……ウンディーネと、青と水がよく似合うセシリア。

つけていたパレオを取り、コートの中へと入っていく。

 

 

 

「それじゃあ、私も参加するね」

 

「本音ちゃん、変わって変わって!」

 

「はいはいはい! 私もー!」

 

「理子が行くなら私も行くよ!」

 

 

一夏の代わりはクラスメイトの鷹月 静寐が務め、ナギのところには、ハンドボール部の相川 清香が。

そして、癒子の代わりは国津 玲美が務め、本音の代わりを岸原 理子が務める。

 

 

「へぇー、セシリアもやるの?」

 

「ええ。勝負事となると、わたくし黙っていられませんので」

 

「ふぅ〜ん。じゃあ、返り討ちにしてやるわよ」

 

「出来るものなら……の話ですわよ!」

 

「上等じゃない!」

 

 

もはや二人だけの対決になり、一緒にチームになっている面々もたじたじだが、一緒にやるからには負けないと言う勢いが感じられる。

 

 

 

「すげぇ熱気だな……」

 

「はい……。本気になった女の子達って、凄いですね……」

 

 

一夏と和人は、日陰のところへと行き、癒子と本音もまた、自分たちの荷物が置いてある場所までいく。

 

 

 

「あっ、一夏! 和人! お疲れ」

 

「ん……シャル」

 

 

と、そこへシャルロットがやってくる。

両手にスポーツドリンクを持って、それを一夏と和人に手渡す。

 

 

「二人とも、汗かいてるでしょう?」

 

「おう、助かる」

 

「ありがとう、シャル」

 

「どういたしまして♪」

 

 

ニッコリと笑うシャルロット。

シャルロットもセシリアに負けず劣らずのプロポーションの持ち主だ。

そしてセシリア同様、胸を強調するようなオレンジ色の生地に、黒い線がチェック柄のようになっている水着を着ている。

先週レゾナンスで会った時に買った物だ。

 

 

「ど、どうかな……僕の水着……」

 

「お、おう。すごく似合ってると思うぞ! シャルはセンスがいいからな! ねぇ、キリトさん?」

 

「あ、あぁ。シャルロットもその、魅力的だと思うぞ?」

 

「そ、そっかぁ……。あ、ありがとう」

 

 

 

シャルロットは頬を赤く染めながら俯く。

二人の表情からは、お世辞や洒落といった様な言葉を用いたとは思えなかった。

だからより一層嬉しいと思ったし、なんだから気恥ずかしい気持ちにもなった。

それは一夏たちも同じだった様で、一夏は慌てて話題を変える。

 

 

 

「シャルもやってきたらどうだ? シャルならいい試合できそうだけど」

 

「うん。でもその前に……」

 

 

一夏がビーチバレーを進めるが、そこでシャルロットが後ろからあるものを取り出す。

 

 

「いいっ!?」

「うおっ?!」

 

 

それは全身包帯姿の何かだった。

 

 

「な、なんなんだ……このミイラお化け……!」

 

「ほら、やっと一夏の前に出られたんだから、せっかくだからちゃんと見せなよ」

 

「ちょっと待て! まだ心の準備が……」

 

「ん? その声、ラウラか?」

 

 

声の主はラウラだった。だが、何故に全身を包帯で覆っているのか……?

 

 

「大丈夫だよ。せっかく選んだ水着なんだから、見せなきゃもったいないよ」

 

「だ、大丈夫かどうかは、私が決める……!」

 

 

ラウラはどこか落ち着かない様子だった。

声には余裕がなく、それを見ていたシャルロットは、なんだか楽しそうだった。

 

 

「へぇ〜。じゃあ、僕だけ一夏たちと遊んじゃうけどぉ〜……いいのかなぁ?」

 

「なっ?! そ、それはダメだ! ええい!」

 

 

耐えきれないとばかりにらラウラは覆っていた包帯を全て取り除いた。

そして、その中からは黒いレース生地の水着に身を包み、顔を赤らめてモジモジしているラウラが出てきた。

 

 

「っ……おお!」

 

「こ、これは……!」

 

 

小柄なラウラにしたら、あまりにも扇情的な水着だった。

一夏が刀奈に進めた水着と似たような色合いで、胸元のリボンやレース生地が、ラウラの銀髪とよく映える。

 

 

「笑いたければ、笑うがいい……」

 

「いや、その……」

 

「笑えないよ……。その、とてもよく似合ってるからな」

 

「な、なにっ?!」

 

「いや、だからなーー」

 

「いっ、一夏、か、和人! その……」

 

 

こういうことに慣れていないせいか、普段からは想像できないほど混乱しているラウラ。

だが、そんなラウラにとどめを刺す様に、一夏が褒める。

 

 

 

「とっても似合ってるよ、ラウラ。可愛いと思う」

 

「か、かわっ?! そ、そそそ、そんなわけあるか! わ、私が可愛いなどと……」

 

「ねぇ、キリトさん。可愛いと思いますよね?」

 

「あぁ。ラウラらしい可愛さだと思うぜ」

 

「へ、へぇ?!」

 

「ほらぁ、良かったじゃないラウラ! 二人とも可愛いってさ」

 

「そ、そうか……。私は……可愛いのか……」

 

 

 

もはや今のラウラには何も聞こえない。

先ほども赤かった顔が、さらに赤くなり、胸の前で両手の人さし指指の先をツンツンとしている。

 

 

「あらぁ、ラウラちゃん可愛いじゃない!」

 

「うんうん! なんだお人形さんみたいだよ!」

 

 

と、そこへ明日奈と刀奈がやってくる。

その後ろには、黒い生地に緑色のドット柄のビキニ水着を着た簪の姿があった。

スカート型になっているため、フリフリのついた装飾が、とても可愛らしく見える。

 

 

「カタナ、遅かったな」

 

「うん。簪ちゃんの水着を鑑賞してました……♪」

 

「いろいろと大変でした…………」

 

「あはは……」

 

 

オイルを塗るだけにしては、中々戻ってこないと思っていたが、げっそりとしている簪の姿を見れば、なんとなく納得がいった。

 

 

「簪ちゃんが可愛くて可愛くて……♪」

 

「簪……大丈夫か?」

 

「うん……なんとか……」

 

 

簪のことになると、歯止めがきかなくなる姉。

もうそんな姉の行動には、簪も慣れて来てはいたようだが……。

 

 

 

「ほらほら簪ちゃん! 思いっきり遊ぶわよ!」

 

「うわぁ! ちょ、ちょっと待って、お姉ちゃん!?」

 

「ほぉら、キリトくんにチナツくんも! 今のうちに遊んでおかないと!」

 

 

 

元気に海へと走り出す刀奈と簪を追いかける様に、明日奈が和人と一夏を連れ出す。

 

 

「はいはい……よっと!」

 

「シャルとラウラも……。一緒に行こうぜ」

 

「うん!」

 

 

シャルロットがラウラの手を引き、全員海に向かって一直線に走り出したのだった。

 

 

 

 




中途半端で終わったので、次も海での遊泳になります。
もちろん、千冬と箒達による女子会もなりますので、お楽しみに!

感想、よろしくお願いします(^o^)


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