ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりですね( ̄▽ ̄)

ただいまファントム・バレット編も同時に書いているので、少し遅くなりました。
それでは、どうぞ。




第27話 奈落の回廊

「ちっ! 全員、各個撃破しつつ、味方のフォローを!」

 

「くっ! キリトさん、なんとか行けそうですけど……この数は……!」

 

 

 

戦闘が始まって約20分くらいが経っただろうか……。

後衛に回復してもらいながら、迫ってくるヘルハウンドを斬り倒してていくが。

 

 

 

「リポップ数多いよぉ〜! グランドクエスト並じゃん!」

 

 

 

グランドクエスト。旧ALOに存在した超大型クエスト。

元々のALOでは、飛行時間に制限があったため、長くは飛行出来ない設定であった。しかし、世界樹《ユグドラシル》の根元にあるドームをくぐり抜け、そのドームに現れるというガーディアンたちを倒し、ユグドラシルの頂上まで登り、そこにある空中都市の城の中にいる妖精王《オベイロン》に謁見した最初の種族が、永遠と飛んでいられる種族《アルヴ》へと転生できるというものだった。

しかし、実際のところは空中都市などはなく、その前に現れるガーディアンも、絶対に攻略不可能と言えるほどの物量数で対抗してくるものだった。

だが、キリトとチナツ、カタナとリーファは、シルフの精鋭とケットシーのドラグーン隊との連携により、このグランドクエストを突破。後にALOも新生ALOとして生まれ変わり、グランドクエスト自体が無くなったはずだったが……。

 

 

 

「くっ! レベル的には大したこと無いってのに……!」

 

「これでは、いつレイドが崩壊してもおかしく無いぞ!」

 

「スズさん! ラウラさん! 一旦下がって回復を! フィリアさん、フォローに回ってくださいな!」

 

「オッケー!」

 

「リズも少し下がって! 回復させるから。シリカちゃん、もう少し堪えて!」

 

「オッケー、アスナ! よっと!」

 

「はい! 私は大丈夫です! もう少し頑張ろう、ピナ!」

 

「キュウ!」

 

 

 

 

 

互いに互いを守りつつ進んでいくも、進めば進むほどに増えていく敵の数に圧倒されそうだった。

 

 

 

「くっ! MPが切れそう……!」

 

「カンザシ! 一旦魔法攻撃を中止! カタナと一緒にサイドに回ってくれ!」

 

「は、はい!」

 

「シノアはできるだけ遠方から迫ってくる敵を撃ち落としてくれ! クラインさん、シノアの護衛を!」

 

「了解!」

 

「おうよ! 俺様に任せときな!」

 

 

 

倒しても倒して現れてくるヘルハウンド。

その攻撃は炎を使った攻撃や、その鋭い牙や爪を使った直接攻撃など。これに対しては、魔法攻撃で氷、水、風の魔法で対抗し、近接戦でも動きが単調なため、対処するにはさほど手間取らないのだが、やはり多勢に無勢である。

 

 

 

「っ! みんな! あと少しでゾーンが切り替わる! それまで持ちこたえろ!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

 

 

やっと見つけた次のエリアへと移動するための境界線。

そこまで走って切り抜ければ、ヘルハウンドの群れから逃げ果せる。

 

 

 

「っ! キリトくん、チナツくん! 前っ!」

 

「「っ?!」」

 

 

アスナに指摘されて正面を見る。

そこにはすでに何十体とヘルハウンドが入り口を塞ぐように待ち受けていた。

 

 

 

「ちっ!」

 

「キリトさん、俺が先行して道を開きます。そのあとを追ってきてください!」

 

「なっ!? この数だぞ、大丈夫なのか?」

 

「なら私も行くわ!」

 

 

サイドでヘルハウンドを蹴散らしていたカタナがいつの間にかキリトたちと同じ前衛の位置につく。

 

 

「よし。行くぞカタナーー!」

 

「ええ。私とチナツの突破力なら、この程度切り抜けれるでしょう♪」

 

 

チナツが刀を鞘に納め、カタナが槍を構える。

 

 

「行きます!」

「参る!」

 

 

 

二人が駈け出す。

神速から放たれる抜刀術一閃。一気に間合いに入ったヘルハウンドの数体を斬り払う。

そして間髪入れず、チナツの後方から蒼空の槍の穂先が待ち構えていたヘルハウンド達を突き貫く。

この時点ですでに十体以上を蹴散らしていた。

 

 

 

「今だ! チナツが道を作った隙に、早く中へ!」

 

 

 

 

チナツとカタナが次のエリアへと入る入り口付近まで走り、その場を陣取る。すると、入り口の扉が開き、そこでヘルハウンド達を足止めしながら、仲間達が入っていくのを見送る。

その間に、襲いかかってくるヘルハウンドをカタナが薙ぎ払い、チナツが斬り払う。

そして、メンバー全員が入り口に入った。

 

 

 

 

「チナツ!」

「カタナちゃん! 早く!」

 

 

 

キリトとアスナが二人を呼び、それに応じて互いの顔を見てアイコンタクトを取り、ある程度倒した二人は急いでみんなの元へと走る。

だが、ヘルハウンド達は逃さないとばかりにチナツ達を追いかけてくる。

 

 

 

「急いで!」

 

「早く!」

 

「チナツ!」

 

「カタナさん!」

 

 

 

あと1メートルも無いくらい……何やら入り口の扉が狭まってきているような……。

 

 

 

「っ! チナツ早く! これ、ドアが閉まっちゃうかもしれない!」

 

「くそったれ!」

 

「くっ! 間に合って!」

 

 

 

全速力で走る。背中にはヘルハウンドが迫ってきていたが、もはやかまっている暇など無い。

ただ前を向いて走っていると。目の前から氷の礫と光の矢が飛んでくる。

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

「チナツ、急いで!」

 

 

 

カンザシの攻撃魔法《アイス・バレット》とシノアの弓矢がチナツ達の後方から迫っていたヘルハウンドに命中。

そして二人は、ほぼギリギリで敵の追跡から抜け出し、滑り込んで扉をくぐった。

 

 

「はぁ……はぁ……あっぶねぇ……」

 

「ふぅ……危機一発ってやつね」

 

 

 

二人で背中を合わせあって座り込むチナツとカタナ。

ギリギリの逃走劇。他のみんなもホッと一息ついている。その間、アスナとティアが二人のHPを回復させ、他の皆も一旦休んでいる。

しまった扉の向こうでは、ヘルハウンド達の唸り声や、爪などで扉を引っ掻いているような音も……。

 

 

 

「さっきはナイスタイミングの狙撃だったな、シノア。ありがと、助かっよ」

 

「う、ううん! 二人が無事でよかったよ。僕もなんとかコレの扱いにも慣れてきたしね」

 

 

 

そう言ってシノアは自身が手にしているロングボウを見せる。

ロングボウは扱いが難しい武器の一つで、あまり使っているプレイヤーはいない。

だが、使いこなせれるようになれば、ミドルレンジからの援護及び戦術が可能になってくる。

なのでシノアの存在は、新たな戦術を生み出すことになる。

 

 

 

「カンザシちゃんもありがとぉ〜〜♪ さすが私のカンザシちゃんだわ!」

 

「うう〜ん! わかったから、あまりくっつかないでぇー!」

 

「いいじゃん、いいじゃん! カンザシちゃんとはあまりこうすること無かったし、久しぶりにいいじゃあ〜ん♪」

 

 

こちらはこちらでカンザシが困惑していた。

姉妹として過ごした時間が約二年も無かったのがよほど来ていたのだろう……。

この頃カタナのカンザシに対する思いは爆発して止まらない。

姉妹であるはずのカンザシでさえ若干引き気味なくらいに。しかし、当のカンザシも、嫌がっているわけでは無いようだ。

姉が姉なら妹も妹、と言った感じだろうか。

 

 

 

 

「よし。それじゃあ先を急ごうぜ。ユイ、このダンジョンの最終地点まではどのくらいだ?」

 

「はい、先ほど戦っていたあの道なりを第一層とするなら、残り二層……つまり、この場所を越えた先に、クエストのボスモンスターがいます」

 

「なるほど……ここもやっぱり、ヘルハウンド達の住処のか?」

 

「いえ、ここにはヘルハウンドはいません。類似のモンスターはいますが、ヘルハウンドと同等レベルなので脅威ではありません。

ですが、このエリアを進んでいった先には、妙に開けた場所があります」

 

「なるほど。この場合だと、フィールドボスってわけか」

 

「はい。その可能性は高いです、パパ」

 

 

 

 

ユイの分析を聞き、キリトはみんなを見回した。

 

 

 

「ここのエリアは、さっきみたいに物量で押してくるようにはなっていないと推測されるが、油断は禁物だ。

さっきのように陣形を保って、互いの背中を守りながら進もう。そしてフィールドボスのいる部屋に入ったら、いつものようにガンガン攻めていこうと思う。

そんで一気にラストボスの部屋までたどり着く! みんな、準備はいいか?」

 

『『『おおっ!!!!!』』』

 

 

 

 

キリトの啖呵を聞いてからの数時間後。

第一層よりも広くなっていた坑道のような道を進んでいき、出会うモンスターを斬り倒していきながら、どんどん先へ行く。

これまでの戦線を潜ってきたからか、初日のラウラとシノアもだんだんと慣れてきたようだ。

ステータス的にはまだまだ駆け出しのプレイヤーではあるものの、ALOはプレイヤー自身の運動神経が反映されるゲームであるため、もともと運動神経のいい二人は、やはりコツを掴むのが早いのか、ビギナーにしては即戦力になっていた。

 

 

 

 

 

「でもやっぱり凄いよねぇ〜。現実世界じゃこれほどの冒険すら出来なかったと思うよ」

 

「あぁ。仮想世界だからこそ出来ること……このゲームにハマる要因が、少しは理解出来た……!」

 

 

 

早くも仮想世界に魅了されているシノアとラウラを、周りは嬉しく思っていた。

スズたちがログインした時もそうだったが、自分たちが見ていた世界を凄いだとか、綺麗だとか言ってもらえると、なんだか嬉しく思う。

 

 

 

「にしても、全然つかないわねぇ〜……そのフィールドボスがいる部屋」

 

 

 

ずっと歩いているが、未だにフィールドボスの部屋を発見出来ずにいた。

スズを始め、他のメンバーにも疲労の色が見える。

 

 

 

「本当に広いですわね、このエリアは……」

 

「はい……私がピナの上に乗りたい気分だよ……」

 

「キュウ?」

 

「あんたが乗ったら、ピナが死んじゃうでしょう」

 

「なっ!? 私はそんなに重くないですよ! リズさん!」

 

「いや、普通に考えて無理だっていう意味よ……」

 

「うへぇ〜……おじさんもう疲れたぜぇ……おい、キリト、まだつかないのか?」

 

「おいおい、言っておくがまだ半分くらいにしか到達してないんだから、弱音を吐くなよ。結構入り組んでいるからなぁ」

 

「マジかよぉ〜……」

 

 

 

 

第一層のヘルハウンドとの追いかけっこが終わり、第二層に到達してからは、ひたすら歩いている。

しかも進めば進むほどに、地下へと向かっていて、さらには分かれ道も多く点在しているため、道を探っては引き返すという工程を結構続けている。

これはSAOのフィールドダンジョンに似ていた。

 

 

 

「でも、なんだかワクワクするよ。これでこそ冒険って感じじゃない?」

 

 

 

その中でただ一人、フィリアだけはテンションが高い。

まぁ、彼女は元々がトレジャーハンターという職業上、こういった探索にこそワクワク感を覚えるものだ。

 

 

 

「フィリアちゃんは昔からこう言うのをやってたのね」

 

 

この中ではフィリアとの面識があるカタナ。

元々出会った時から身軽な子だと思っていたが、一緒に冒険して見て、それがより一層実感出来た。

 

「だってさ、凄く面白いんだよ? 知らない場所に潜り込んで、レアアイテムなんかを見つけた時はほんとテンション上がるだよぉ〜!」

 

「でもあんまり無茶したらダメだからな? 以前もそれで絡まれてたんだし……」

 

「あっはは……。その節は、どうもお世話になりました」

 

「そういえば、あんた達って昔からの知り合いなんでしょう? どういった関係なのよ?」

 

 

 

前々から気になっていたチナツとフィリアの出会い……スズが思い切って聞いてみた。

 

 

 

「ああ〜あれな。SAOで、俺がアインクラッド解放軍から抜けた後、カタナに誘われて血盟騎士団に入ろうかと思ってた時なんだけどな……」

 

 

チナツはあの時のことを思い出す。

アインクラッド解放軍を抜け、流浪人としてあちこちを歩いて回っていた時、偶然カタナと再会したのだ。

その時既に、カタナは血盟騎士団の副団長にして、隠密部隊の隊長という地位にまでいた。

元々解放軍でも暗部の地位にいたチナツ。そして初めて出会った時から見違えるように強くなっていたチナツを、見逃すカタナではなかった。

再会してからというものの、お互いにフレンドリストに登録し、連絡を取り合って、チナツはお手伝いとして騎士団の任務をカタナとともにこなした。

そこで、カタナから正式に血盟騎士団の一員にならないかと誘いを受け、チナツはそれを受けたのだった。

そして話はフィリアとの出会いに戻る。

 

 

 

「それでカタナが、俺を血盟騎士団の団員達に紹介するって話になったんだけど、その前に会議があったらしくてな。

少し時間を潰してくれって頼まれて、そのままグランザムの街を見ていた時に、フィリアにあったんだよ」

 

「そうだったねぇ。あの時は性格の悪い血盟騎士団の人たちに色々とされそうになったからね……本当嫌な感じだったよ」

 

「じゃあ、それを助けたのが、チナツってわけね」

 

 

スズの解釈にフィリアは肯定する。

 

 

 

「凄かったんだよ〜。圏内……街の中じゃデュエルをしない限り、HPは絶対に減らない。ソードスキルを使おうにも、当たったって軽いノックバックが起きるだけなんだ。

でも、圏内での戦闘っていうのは、プレイヤーに恐怖を刻み付けるんだ」

 

「だから当然、そいつらもデュエル申請無しで俺に斬りかかってきたんだけど……」

 

「逆にチナツが圧倒しちゃってさ! 相手は7、8人はいたのに、片っ端から倒していってね!」

 

「へぇ〜……」

 

「な、何だよその眼は……」

 

 

 

半眼でチナツを見るスズ。

チナツらしいと納得出来る部分もあるのだが、それこそがチナツのフラグメーカー発動の鍵になっているとわかっているからだ。

 

 

 

「カタナさん……」

 

「ん? 何、ティアちゃん」

 

「チナツさんは、その時から既にあんな感じですの?」

 

「あんなって……あぁ、女の子と関わりを持つようになったってこと?」

 

「はい」

 

「そうねぇ……まぁそうかな? その他にもあるわよ。団員の中にいる女性プレイヤーたちもこぞってチナツと話していた時もあったわね……」

 

 

 

思い出してみて改めて苛立ちを覚えたのか、カタナの顔は引きつっていて、体がプルプルと震えている。

おそらく我慢しているのだろうと見受けられる。

 

 

 

「でも、それがチナツらしさってやつなのよ……困ってる人は放っておけない。力になれるなら、何とかしてあげたいって思える人なの」

 

「ええ……まっすぐで、どことなく食えない方ですが……」

 

 

 

それでも好意を持てる人物だと、ここにいる全員が理解している。

 

 

 

「それでね、レアアイテムを持ってるって知ったその団員が、私にそれを寄越せって言ってきてね」

 

「はぁ? ありえないでしょそれ」

 

「うん、スズの言うとおり……それはちょっとやりすぎ」

 

「うむ。戦士としては許されない行為だな」

 

「でも、場合が場合だったらレアアイテムの一つでも持っておきたいって考えるだろうねぇ……」

 

「シノアは甘いのよ! だいたいアイテムはゲットしたその人のものでしょうよ」

 

 

 

 

いつの間にかチナツの武勇伝が語られていた。

 

 

 

「それで、私も抵抗してたんだけど、いきなり向こうが剣を抜いた時は驚いたよ。でもその時、チナツが来てくれてね。「それは彼女の物なんだから、あんた達がどうこう言う権利はない」ってね!」

 

「「「ヘェ〜」」」

 

「っ、な、なんだよ……」

 

 

一同がこちらを見てくる。

なんだか含みのある笑みを浮かべて。

 

 

 

「それでそれで?」

 

「その後、当然チナツに斬りかかろうとしてね。でも、最初は素手で倒してたの。それで怒り心頭になった人たちがチナツを包囲して痛めつけようしたんだけど、チナツの剣術の前じゃ全然歯が立たないって感じだった」

 

 

 

淡々と話すフィリア。

それを前で歩きながら聞いているチナツには、ちょっと恥ずかしく、両隣で一緒に歩いているクラインとキリトの視線もやや気になる。

しかもスズ達だけではなく、アスナやリズ達、元SAO組まで話を聞いているから尚更恥ずかしい。

 

 

 

「そっか……じゃあチナツの剣技がすごかったのはその時からなんだね」

 

「うん。最後は残り一人になった敵に向かってね、「これ以上この子に関わらないと誓うなら、ここは引いてやる…… 後は傷害罪でも公務執行妨害の容疑でもかけて好きにすればいい」って言っちゃってね!」

 

 

まるでその時のチナツの格好を真似るかの様に、身振り手振りで話すフィリアは、まるで吟遊詩人のようでった。

 

 

 

「うむ。それでこそ男っというものだぞ、チナツ! いや、サムライそのものと呼ぶべきか、さすがは師匠!」

 

「いや、別にそんなつもりはなかったんだけど……」

 

「おうおう〜さすがモテる男は違うねぇ〜」

 

「クラインもそれくらい出来るようになればいいんだけどな」

 

「うるせぇ。これが俺様のやり方ってもんだ!」

 

「いや、それが間違ってるだって……」

 

 

 

クラインは女の人が好きだ。

だがいつもキリトやチナツに持って行かれる。悲しき男の定めというやつだ。

 

 

 

 

「っと……みんな、ちょっといいか?」

 

 

 

今まですっかり話し込んでいて、忘れていたが、ここはダンジョンの中だ。

道のりは続いており、未だにフィールドボスの部屋へは付いていない。だが、一つだけ気になることがあった。それは……。

 

 

 

「キリトさん……」

 

「お前も気づいたか? モンスターの出現数が急激に減ったよな?」

 

 

 

先ほどのヘルハウンドの大群からのこの静けさ……あまりにも妙だった。

 

 

 

 

「っ! あれは……」

 

 

 

と、チナツが向けた視線の先には、赤黒い二つの光が見えた。

 

 

 

「「「ッ!」」」

 

 

 

先ほどのヘルハウンドたちの赤い眼光と似ていたので、全員が臨戦態勢を整えた。

そして、その赤黒い光はゆっくりこちらに歩いてくる。

やがてその光の主を視認した。

 

 

 

「カカカカーーッッ!」

 

 

 

RPGでは一度は見たことが骸骨のシルエットと、身にまとう鎧や佩刀。盾や弓を持って近づいてくる。

その敵は……

 

 

 

「スケルトンか……RPGじゃ定番だよな」

 

「一気に殲滅しますか?」

 

「あぁ。敵の数もそんなに多いわけじゃないからな……後ろから出てきてるアーチャーの攻撃注意しつつ各個撃破!」

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

 

 

そこからは圧倒的技量でスケルトンの集団を蹴散らしていく。

倒しながら先に進んでいき、第二層の終点に近づきつつあった。

終点……つまり、フィールドボスの部屋にだ……。

 

 

 

「えっと……ユイ、ここの近くで間違いないんだよな?」

 

「はい……その筈なんですが……」

 

 

 

スケルトンの集団を倒していった後、第二層のダンジョンの終点に近づきつつあった一行は、立往生していた。

行く手にはいかにも遺跡のような回廊が続いていた。

だが、問題のフィールドボスの部屋が見当たらない。

 

 

 

「部屋……ないわよね?」

 

「ですわね……でも、マップではこの辺りを指していますわよ?」

 

「にしても、この遺跡ってなんなんだろうね? 入ってきた時もそうだけど……」

 

「ああ……。それにこの回廊……どこに続いているんだ?」

 

 

 

不可解に広がる回廊に疑問を抱くが、留まる理由も無いため一行は道なりが続いている回廊を歩いていく。

だが、中は思ったより暗く、また雰囲気も良く無い。

まるでおばけ屋敷に迷い込んだかのようであった。

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたの、アスナ?」

 

「いやさ、なんか変に不気味じゃない? ここ……」

 

「そうかな? あ、そういえばあんた、アンデット系のモンスターがダメだったわね」

 

「ううっ……それ言わないでよー、リズゥ〜」

 

 

 

リズのからかいに翻弄されるアスナ。

攻略の鬼とまで呼ばれた血盟騎士団副団長にも、苦手なものがあったのだ。

 

 

 

「でもでも、やっぱり不気味ですよ……ねぇ、ピナ」

 

「キュウ……」

 

 

普段ピナを頭の上に乗せているシリカも、この回廊内ではピナを抱き寄せながら歩いている。それに応じてか、自身の体の一部である尻尾もそり立っていた。

 

 

 

「でもさぁ、この回廊進んでも、何もねぇんじゃな……どうするキリト」

 

「とりあえず進んで行くしかないよ。さっきみたいに陣形を保ちつつ、先を急ごう」

 

 

 

戦闘にキリト、チナツを配置し、その後ろに中衛二班と後衛、その後ろにクラインとリーファが護衛に回る。

 

 

 

「この先のフィールドボスは、一体どんな奴なんですかね……やっぱりゴースト系なんですかね?」

 

「どうだろうな……これまでヘルハウンドに、スケルトンだろ? まぁ、確かにゴーストっていうか、“地獄” みたいだな」

 

「“地獄” ですか……」

 

 

 

キリトの指摘にわずかばかり納得したような気がした。

地下へと進んでいくダンジョン。出会ってきたモンスターは地獄に関連していそうなモンスター達……。

では、このまま進んだら……

 

 

 

 

「まさか……この先って……地獄?」

 

「まさか……な。ははっ……」

 

「で、ですよねぇ……」

 

 

 

 

全く笑えなかった。

 

 

 

ピシッーーーー!

 

 

 

「うおっ、おおっ?!」

 

 

 

回廊を進んで行っている途中、回廊の床にヒビが入った。

そのヒビを作った張本人であるクラインが大げさに足を退ける。

 

 

 

「おいおい、なんだよ怖えなぁ……!」

 

「見た目以上に老朽化しているみたいだな……」

 

「あまり激しい戦闘は出来ませんね……これ」

 

 

 

下手に動き回って床が陥没した場合、そこに待ち受けるのは奈落の底だ。

全員が慎重に進もうと思ったその時。

 

 

 

カカカカカーーーーっ!

 

 

 

 

「「「「っ!!!!!」」」」

 

「この声は……」

 

「さっきのスケルトン達だろうな……やっぱ、この回廊内でも出るよな」

 

 

 

 

剣を抜き、全員戦闘態勢を整える。

そして、前方からスケルトンが十三体。後方からはスケルトン十体が接近してくる。

 

 

 

「前方に十三、後方に十。まぁ、防ぎきれない量じゃないな。前方は俺とチナツ、中衛第二班。後方はリーファ、クラインと中衛第一班。後衛は順次回復と迎撃を繰り返してくれ!」

 

 

 

迫り来るスケルトン達に向かって走り出す一同。

NPCとはいえ、流動的な鋭い一撃や、細かながらも連携をとりつつ攻め入るスケルトン達。ましてや今は一直線に広がる回廊の中のため、先ほどの洞窟内で戦うよりも戦術が練りにくい。

一番手慣れているSAO攻略組がスケルトンを複数体相手をしているも、中々に苦戦していた。

 

 

 

 

ピシッ……!

 

 

 

 

「へ?」

 

「こ、これって!」

 

 

 

回復を行っていたティアとアスナが、変な音に気づく。

 

 

 

 

ピシャッ……ピシピシピシッッ‼︎

 

 

 

「ね、ねぇ……これって」

 

「まさか、崩れている…のか?」

 

 

スケルトンの相手をしながら、フィリアとラウラは辺りを見回す。

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴォォォーーーー!!!!

 

 

 

「うわあっ!?」

 

「ゆ、揺れてる!」

 

 

 

シノアとカンザシが叫んだ。

そして、その言葉を待っていたかのように、回廊の崩落がはじまってしまった。

 

 

 

 

「へっ?! ちょ、ちょっと待っーー」

 

「嘘でしょう!?」

 

「カタナ! スズ! 逃げろ!」

 

 

 

 

ちょうど崩落が始まった地点にいたカタナとスズに手を伸ばしたチナツ。

だが、その手が届く前に、その場にいた者たちすべてが奈落の底へと叩き落とされてしまった。

 

 

 

「「「「きゃあああああーーーーッ!!!!」」」」

「「「うわあああああーーーーッ!!!!」」」

 

 

 

 

 

悲鳴と驚愕の叫びが木霊しながら、妖精たちは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

ピチャ……ピチャ……

 

 

 

「ん、んん……」

 

 

 

かすかに聞こえる雫が滴るような音。

奈落の底に落とされて、その後どうなったのかわからない。気を失ってしまい、その後からくる脱力感に見舞われた為だ。

 

 

 

「……ナツ! チ……ツ!?」

 

「ん……!」

 

 

 

誰かが自分を呼ぶ。

いや、誰かではない。自分が最も知っている人。

何度も近くで聞いた、慣れ親しんだ声だ。

 

 

 

「カタナ……?」

 

「あ……よかった……! チナツ、大丈夫?! 怪我はない?! これ何本に見える?!」

 

 

 

 

チナツの両肩を掴んで起き上がらせるカタナ。

そしてチナツの目の前で指三本を見せつける。

 

 

 

「起き抜けにその質問攻めは勘弁だな……。えっと、怪我は……まぁ、無いな。それに指三本だろ? 大丈夫だよ」

 

「よかった……! って、咄嗟に私とスズちゃんの下敷きになっていたでしょ! もの凄く心配したんだから! ねえ、スズちゃん」

 

「そうよ、この馬鹿! あたしたちだってそんなヤワじゃ無いっての! 全く……」

 

「あぁ……そうだったな、悪い。二人は無事か? それに、他のみんなは?」

 

 

 

 

チナツは改めて周りを見回した。

どうやら落ちてきた場所には水場があった様で、全員そこに落ちた為、軽い打ち身や衝撃で済んだのだろうと推測される。

ゆえに、周りにいた全員が無事であったのを確認できた。

そして、今いる場所を確認する。

また洞窟の様な場所に落とされてきたようだが、特別真っ暗と言う訳ではなく、中にあるいたるところに水晶が散りばらめられているためか、光を乱反射し、ある意味では幻想的な光景ではあった。

 

 

 

「しっかし、いきなり崩れたよなぁ〜。これどうやって戻りゃあいいんだ?」

 

「さぁな……。なぁ、ユイ。ここはどこになるんだ?」

 

「そうですね……ちょっと待ってください」

 

 

 

 

ユイがキリトの肩から飛び立ち、少し上へ飛んだところで静止。そこで目を閉じて、何かを感じ取っている様だ。

 

 

 

 

「そうですね……ここは、私たちが向かおうとしていたフィールドボスの部屋と、さらに下層にあるこのクエストの最終ボスがいる階層のちょうど中間地点に位置する場所の様です」

 

「ってことは、ここを下れば、クエストボスと遭遇出来るのか?」

 

「いえ、今のところ確認できるのが、この階層から登る道しかありません。最も広範囲を探索すれば、あるいは下層へと向かう道があるかもしれませんが……」

 

「そうか……まぁ、一度ここで休憩しよう。どのみちHPもMPも回復させなきゃいけないだろうし」

 

「そうですね。では、ここで一旦休んで、体力を回復させた後、どうするかを考えましょう」

 

 

 

 

その後、メンバーは回復薬や治癒魔法などを使って、HPもMPも順調に回復させて、今後どうするかを考えた。

 

 

 

 

「それで、ユイの情報だと、このままこの階層から下層に向かうのは難しいらしい。

唯一確認できているのが、さっきいた俺たちが歩いていた遺跡の階層へと登る道のみ。危険を冒して降りれる道を探して降るか、一度上がってフィールドボスを倒してから、再び降るかの二つに一つだな」

 

「でもよ、また登ったはいいが、またここに落ちるんじゃねぇのか? あそこ見た目以上にボロボロだったぞ?」

 

「そうだよな……ユイ、あの遺跡は元々ボロい設定なのか?」

 

「いえ、見た目通り、確かに古い遺跡ですが、あそこまで老朽化しているとは思えません。何らかの要因で遺跡の耐久性が落ちているのかもしれません」

 

「そうか……」

 

「キリトさん、その原因がフィールドボスなんじゃないかと思うんですけど」

 

「チナツもそう思うか?」

 

「はい。見た感じ、回廊に入ってた時には、どこもただ古いだけの遺跡の石でしたけど、奥に進むにつれ、だんだんその石が風化している様な感じになってたのが、気になって」

 

「それとさ……」

 

「ん?」

 

「もしかしてだけど、部屋がちゃんとあったのなら、どうして私たちは見つけられなかったのかな? 地図ではそれが確認出来ていたのに、目視じゃ確認出来ていなかったよね?」

 

「たしかに……」

 

「言われてみればそうね」

 

 

フィリアの発言には、アスナとカタナか賛同した。

ユイに頼み、この辺りの地形を教えてもらった時には、だしかにフィールドボスの部屋は確認出来た。だが、それを “見つからない” とみんなは判断していたが、本当は……

 

 

「何らかのトラップによるものだとしたら? それか、別にキーとなるアイテムがあったのかも……」

 

「なるほどぉ〜」

 

「流石はトレジャーハンター!」

 

「じゃあどのみちそれの確認も兼ねて、一度上がるしかないよな……」

 

 

 

 

ザッ、ザッ、ザッ…………

 

 

 

 

「っ?」

 

「ん、どうしたのよチナツ」

 

「…………なんか、足音が聞こえる様な……」

 

「はぁ?」

 

 

 

チナツに言われてスズも耳をすませるが、ただただ洞窟内の天井から雫が落ちる音しか聞こえない。

 

 

 

「わたくし達にも聞こえませんわよ?」

 

「いや、でもさっき確かに……」

 

「空耳などではないのか?」

 

 

 

ザッ、ザッ、ザッーーーー!

 

 

 

「っ!」

 

 

 

チナツが刀の鯉口を切り、構えをとった。

それをみたメンバーが、何事かとチナツを見ている。

 

 

 

「ど、どうしたのチナツくん……」

 

「リーファ、なんか聞こえないか? その、足音みたいな音」

 

「足音?」

 

「たぶん、シルフの聴音力の高さから来るものだと思ったんだが……どうかな?」

 

「うーん、シノアちゃんは?」

 

「え? えっと、僕は……」

 

 

 

シルフであるリーファとシノアもチナツに言われて耳を傾ける。

シルフは九つの種族の中でも、飛行速度と聴音力に優れている。チナツはそれに付け加え、視線や気配の読み取りなどで広範囲を見ているが。

 

 

 

 

ザッ、ザッ、ザッーーーー‼︎

 

 

 

 

「「っ?!」」

 

「どうだ?」

 

「確かに、なんか聞こえる」

 

「たぶんこの音だと、一人だと思うけど、どんどん近づいてきてる……!」

 

 

 

リーファとシノアの確認も取れたことで、全員が警戒態勢を敷く。

キリトとチナツ、クラインが前に立ち、武器を抜いて構える。

やがてその足音らしき音がする方から、蠢めく影の様なものが見える様になった。

 

 

 

「な、何なのかなぁ、あれ……」

 

 

 

不安そうにアスナが言う。

それも一番後ろでカタナの背中に隠れながら言う。

 

 

 

「まぁ、こんな場所で出会う確率があるものって言ったら……幽ーーーー」

 

「いやぁぁぁあああーーーーーッ! やめてよカタナちゃん! 私お化け嫌なの知ってるじゃんーーーーーッ!!」

 

「…………ごめん。結構冗談のつもりだったんだけど……でも……」

 

 

 

 

カタナの背中隠れてプルプルと震えながら、怯えているアスナの姿は、ある意味で………可愛かった。

そして、問題の人影の姿が視界で捉えられた時、誰もが警戒した。

その人物は、汚いフード付きのローブに身を包み、軽快な足取りでこちらに歩いてきた、若い男だった。

 

 

 

「いやぁ〜どうもどうも。こんなところで妖精さん達に会えるなんて、珍しいこともあったもんだ♪」

 

 

 

男は見た目通りに若々しく、よく通った声であり、とても陽気な性格だと思えた。

 

 

 

「えっと……あなたは……?」

 

 

 

メンバーを代表して、キリトが尋ねる。

 

 

 

「俺の名前はメテス! 旅の冒険者ってところかな!」

 

 

 

 

頭に被っていたフードを脱いだ。

ボサボサの赤い髪が、腰の辺りまで伸びており、それをうなじの辺りで一本に結んでいる。

後ろから見れば女と間違えそうな……そんな男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 





次回はやっとフィールドボス戦。
そこからのクエストボスまで行ければと思います^o^

感想よろしくです^_^


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