ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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第25話 姉、妹を思う

《アルン》にあるリズの武具店に訪れたラウラとシノアの二人は、まずこの世界の仕組み、アスナとカタナ、そしてキリトとアスナの愛娘たるユイに説明をしてもらっていた。

 

 

 

「じゃあ、今と昔ではALOの仕組みが違うんですか?」

 

「うん、そうなの。昔は、世界樹《ユグドラシル》の根本にある大きな門から入って、樹の中にあるグランドクエストを攻略するって言う仕様になってたの」

 

「でもそのシステムは、今はもうないの。今のALOは、各地にあるクエストを進めたり、新しく出た新生《アインクラッド》の攻略を進めているの」

 

「他にも、飛行制限が解除されたり、五月のアップデートでソードスキルも実装されました。なので、運動神経重視のALOでも、充分に戦い様があるシステムに転換したんです!」

 

「なるほどな……」

 

 

 

シノアとラウラがアスナたちにALOの仕組みをレクチャーしてもらっているその隣では、リズがチナツとカタナの武装である刀と槍をメンテナンスをしており、二人はその手伝いをさせられているという状況だ。

 

 

 

「おいリズ、これどこに置いときゃいいんだ?」

 

「それはこっち」

 

「リズさん、これは?」

 

「それはそのままでいいから、こっちの鉱石のやつその棚に戻しておいてぇ〜」

 

 

 

新しく打った武器や盾などをショールームに飾り付ける。

既に持っている武器のメンテや強化だけではなく、リズ自身が打った武具もまた、この場で購入することもできるのだ。

 

 

 

 

「よぉ〜し! だいたいそんな感じでいいわよ〜。お疲れ、二人とも」

 

「ふぅ〜、やっと終わった……」

 

「ほとんどの配置を変えましからね……それに防具とか重いですし……」

 

「何へばってるのよ。こんなのお店を出してる人間にとっちゃ常識なんだからね……ほらチナツ、あんたの武器。それとカタナのもね……メンテ終わってから」

 

「ああ、ありがとうございます!」

 

「あんたまた耐久値ギリギリで持ってきて! いい加減定期的に持ってくる習慣つけなさいよね……!」

 

「あっはは……面目ないです……」

 

 

 

リズの店の展示物や商品の配置を変えるを終え、チナツはリズから《クサナギ》を受け取り、同時にカタナの槍である《蜻蛉切》を受け取る。そしてそのままカタナの元へと行き、直接渡す。

 

 

「ほい、カタナ。リズさんから」

 

「うん、ありがとうリズちゃん!」

 

「どういたしまして。じゃあ今度、欲しい鉱石を一緒に取ってきてもらいましょうか……」

 

「はいはい、お安い御用ですよぉ〜♪」

 

 

 

そんな会話をしている時、再び店のドアが開かれる。

 

 

 

「たっだいまぁ〜!」

 

「ただいまです!」

 

「ふぅ〜疲れたあ〜」

 

「スズさん、ちゃんと礼儀正しくしないとダメですわ……。ただいま戻りましたわ」

 

 

 

中に入ってきたのは見慣れたメンバー。

リーファ、シリカ、スズ、ティアの四人だ。

 

 

 

「よぉ、お疲れさん。スキル上げ頑張ってるみたいだな」

 

「当たり前よ! まだもうちょいあるけど、もうすぐ刀スキルの熟練度150なんだから。このまま一気に行きたいところよね」

 

「わたくしも、詠唱できる魔法も多くなりましたわ。あとは攻撃魔法も多少は使えましてよ」

 

「すげぇな……魔法をあまり使わない俺たちよりは優秀だな……」

 

 

チナツを始め、ほとんどのメンバーが魔法スキルをあまり上げていない。

ほとんどがSAO生還者である為か、魔法を覚えるよりも、モンスターとの近接戦に特化しており、ソードスキルの実装がより一層魔法スキルのあげる事を遠ざけていたのだ。

このメンバーで使える魔法が多いのは、メイジ型のティアと同じウンディーネであるアスナとカタナ、シルフで魔法剣士のスタイルでいるリーファ、それとこの場にはいないが、カンザシも最近ではリーファと同じ魔法剣士のスタイルで頑張っている。

 

 

 

「とは言っても、スズさんだって完全な近接戦オンリーですけどね」

 

「何よぉ〜。だいたいあんたが後衛ってスタイルなんだから前衛一本で行くしかないじゃん!」

 

「そうですが、回復の魔法くらいは自分で詠唱できるようにしておいてくださいな……せっかくブースト系の支援魔法をかけようとしているのにいつも回復魔法しか使えませんわ」

 

「何よぉー!」

 

「何ですのぉー!?」

 

 

 

突然にらみ合いの喧嘩を始める二人をチナツがなだめる。

その横では、リーファとシリカがリズからのお使いを済ませているところだった。

 

 

 

「はい、リズさん」

 

「注文を受けてたやつは多分揃ってると思うけど……」

 

「おっ、サンキュー! これでまたいいのが作れそうね……‼︎」

 

「これくらいのことならいつでも言ってね。リズベット武具店にはいつもお世話になってるんだから」

 

「あらそう〜? ならバンバン頼んじゃおっかなぁ〜♪」

 

「あぁ……やっぱり、そんなに頻繁にされると、ねぇ……」

 

「冗談よ冗談! それで? 今回もあの触手系統のモンスターが相手だったんでしょう? シリカはまたパンモロしたわけ?」

 

「な、なななってませんよ‼︎ 何ですか “また” って!」

 

「えぇ〜? いつもされてて喜んでるじゃない〜♪」

 

「よ、喜んでないですよ! リズさんのバァーカ‼︎」

 

「何よぉ〜冗談でしょう〜……全く、ほら機嫌なおしなさいよ〜」

 

 

 

こちらもこちらで昔から変わらないやりとりをしている。

 

 

 

 

「あぁそうだ、リーファ、シリカ。新しく入った仲間を紹介するよ……シノア、ラウラ、ちょっといいか?」

 

「あ、うん」

 

「ああ」

 

 

 

 

チナツの呼び出しに快く応じる二人。

アスナとキリト、ティアとスズとは既に現実世界で会っているが、この二人とは初対面だった。

 

 

 

「えっと、今日からALOを始めた二人で、シルフの子がシノア。インプの子がラウラって言うだ」

 

「初めまして、シノアです! こう言うゲームは初めてで……そのわからないこととかが多いんですけど、その、よろしくお願いします!」

 

「私はラウラだ。一……チナツからの紹介で、このALOを始める事になった。不束者だが、よろしく頼む」

 

 

 

二人らしい自己紹介を終えたところで、今度は三人の方から自己紹介をする。

 

 

 

「よろしくねぇ、二人とも! 私はリーファ。一応このメンバーの中じゃあALO歴は一番長いんだよ。わからないことがあったら、私に聞いてね?」

 

 

チナツと同じレアアバターの金髪ポニーテールの少女。

シノアと同じシルフで長刀使いのリーファ。かつてキリト、チナツ、カタナを世界樹に囚われていたアスナ救出の為に共に冒険し、道案内をしてくれた少女だ。

その後、色々あったキリトとの関係を修復し、今ではここにいるみんなと打ち解けあっている。

 

 

 

「は、初めまして、シリカです! よろしくです!」

 

 

 

少し緊張した面持ちのケットシー少女。

ケットシー独特の猫ミミと尻尾がとても似合う小柄な体格と、その少女の頭に鎮座する水色の体毛が綺麗なフェザーリドラが印象深く残る。

SAO生還者の一人である、ビーストテイマーのシリカと、相棒のピナだ。

 

 

 

ALO年長者であるリーファと元々愛らしい印象からいろんな人と交流してきたシリカ。

初めての二人にも少しずつではあったものの打ち解けあってくれたようだ。

 

 

 

「あれ? そういえばカンザシちゃんは?」

 

 

そこでふとアスナが言う。

カンザシとはもちろんカタナの妹である簪のこと。

カンザシもまた、ティアたちと同じ時期にALOを始めたメンバー。

今日はこの武具店に集まる予定だったのだが、まだ到着していないようだ。

 

 

 

「それで、今日はどうする? 最近なんかクエストあったっけ?」

 

「そうだな……めぼしい奴はほとんど消化しちゃったし……」

 

 

アスナとキリトが悩む。

せっかくシノアとラウラがALOデビューを果たしてくれたのだ、ここでもっとALOの楽しさを味わってもらいたいのだが、ほとんどのクエストを最近ではこなしていた為、初心者の二人向けのクエストは何にするか迷ってしまう。

 

 

 

「だったらさ、今噂になってるやついく?」

 

「ん? 噂?」

 

「ほら、この間サラマンダー領の近くにある中立域の森の奥地に発見したっていう洞窟! あそこに入った人たちからの噂程度の話なんだけどね……」

 

 

 

そこで、カタナからの提案により、ある一つのクエストのことを聞いた。

場所はサラマンダー領の近くにある中立域の森の奥地。央都《アルン》は町の周りをでかい山脈がぐるっと囲っている中に存在しており、そこから先は、中立域の盛りが広がっている。

その広大な森を抜けることで、やっとそれぞれの領土のある街へと戻れるのだ。

話を戻すと、その中立域の森の中に大きな洞窟があるそうで、そこがなんなのか、何かがいるのか、好奇心に駆られたプレイヤーたちがその場所に入っていくと、一体のクエストNPCと出会ったそうだ。

 

 

「なるほど……向こう側にも、ルグルー回廊のようなものがあるのか……」

 

 

 

とキリトが顎に右手を当てながら頷く。

ルグルー回廊とは、以前シルフ領から《アルン》へ向かう時に活用していた場所。

初めてこの世界にやってきたキリトたち三人を、リーファが《アルン》まで導いてくれた時に、やむなしで通った場所だ。

 

 

 

「そう、それでね、そのNPCのクエストを受注したのはいいんだけど、そのクエストの難易度が高すぎて、クリア出来ないって話らしいわ」

 

「達成不可能なクエストって……グランドクエストじゃあるまいし……」

 

「達成不可能ってわけじゃないのよ。だってそれって簡単なお使い系のクエストだし」

 

「えっ、そうなのか?」

 

 

カタナの言葉につい聞き返しすチナツ。

たいていのお使い系クエストは、特定の場所にあるものを何個以上集めてこいとか、指定されたモンスターを倒し、そのモンスターの破片を持ってくる、というものが多い。

だが、それもこれも別に達成不可能なレベルのものは用意されてはいない。

 

 

 

「うん。並のプレイヤーでは倒せないモンスター……レベルで言えば、フロアボス並って言ってたかな……」

 

「へぇ〜……面白そうだなそれ……!」

 

 

 

カタナの話に一番に食いついたのはキリトだった。

生粋のゲーマーであり、バトルジャンキーなキリトにとっては、願っても無いようなクエストだった。

そして、それに負けず劣らず、「でしょう!」と目を輝かせているカタナ。

彼女も何方かと言えば、キリトと同じ方の人間だ。

どこまでも走り、周りの人間を好きなように振り回しては、いつの間にか自分のペースへと持っていく、チナツ曰く、『人たらし』だそうだ。

 

 

「どうするシノア、ラウラ。一応、二人は始めたばかりだし、無理にクエストに挑戦する必要はないけど……」

 

「大丈夫だよ、チナツ。まぁ、レベルは高そうだけど、正直やってみたいって言うか、なんていうか……」

 

「無論。私とて引くつもりはない。私も参戦するぞ」

 

 

 

チナツの心配もいらなかったようで、シノアもラウラも、やる気満々のようだ。

 

 

 

「はいはい! じゃあ、あんたたち二人の武器も見せてみなさい。ちょうど強化素材も集まってるし、ちょっとだけど強化はしてやるわよ?」

 

ハンマーを片手にシノアとラウラに武器を出すよう手を差し出すリズ。

シノアとラウラもそれに応じて、メインウェポンを渡す。

 

 

「それじゃあ、二人の武器を強化した後で……あと、カンザシが来たら出発って感じでいいか」

 

「そうだね。じゃあ、私はその間に必要なものを買い出しに行ってくるよー」

 

「あっ、アスナちゃん、私も行くわ。一人じゃ大変でしょ?」

 

「ありがとう、カタナちゃん」

 

「ユイちゃん、一緒に行く?」

 

「はい! 行きます、ママ!」

 

 

 

 

そう言うと、ユイはアスナの頭の上に乗っかり、カタナと共に店を出た。

残ったメンバーで、リーファとシリカはティア、スズと世間話に花を咲かせ、シノアとラウラはリズの下へと向かい、それぞれ弓とナイフを渡して、武器の強化をしてもらっている。

その間にカンザシを待ち、チナツとキリトでパーティー編成とポジションなどを再確認し始める。

そんな時、再び店のドアが開かれた。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 

入ってきたお客さんは、どうやら相当急いできたらしく、荒い息遣いで膝に手をつきながらドアを開けていた。

よく見ると、水色の綺麗な髪が印象的であり、その背中に背負っている薙刀が、誰なのかを教えてくれる。

 

 

「おお、カンザシ! 大丈夫か?!」

 

「う、うん……はぁ……はぁ……だ、大丈夫……だよ?」

 

「いや、全然大丈夫そうには見えないんだが……」

 

「ううぅ……えっと、遅くなってごめんなさい! ちょっとリアルでバタバタしちゃって……」

 

 

 

そう言って顔を上げる。

リアルと違うのは眼鏡をかけていない事だろうか……しかし、それだけでもだいぶ印象が違って見える。

やはり姉妹なのか、どことなく顔のバランスやそれぞれのパーツがカタナと似ている。

申し訳なさそうにみんなを見るカンザシに、すかさずリーファがフォローする。

 

 

「全然大丈夫だよ。ちょうど今、アスナさんとカタナさんがアイテムの買い出しに行ったばかりだし」

 

「あ、そうなんだ……入れ違いになっちゃたんだね」

 

「そういうわけで、もう少し経ってから出発する事になってるから」

 

「出発……今日はどこに行くの?」

 

「サラマンダー領近くの洞窟。最近少し噂になってるクエストをやりに行くの!」

 

「あぁ、あの噂か……」

 

 

 

なんだかんだでリーファとはすぐに仲良しになったカンザシ。

そして、話題は今日行く洞窟で行われるクエストの話しだ。リーファからその事を聞くと、カンザシも思い出したかのように話す。

そこに、キリトとチナツも加わる。

 

 

 

「なんだ、カンザシも知ってたのか?」

 

「はい……本当に、噂程度なんですけど……」

 

「どういうクエストっていうのは、流石にわからないよな……カンザシ」

 

「うーん……でも確か、お使い系だっていうのと、あと……」

 

「「「あと?」」」

 

「なんか、変に凝ったような設定のクエスト……だったって、どこかで聞いた、ような……」

 

「変に……」

 

「凝った……」

 

「設定ねぇ……」

 

 

 

カンザシの言葉にキリト、リーファ、チナツの順で頭を捻る。

クエスト自体は大抵北欧神話をベースに、クエストは生成されている。

神話をベースにしているからなのか……。

 

 

「まぁ、それは行ってみたらわかるだろう……。カンザシもスキル熟練度は上がったのか?」

 

「う、うん……最近は、リーファと一緒に行ってて、いろいろ教えてもらってる」

 

 

最近ではカンザシもリーファと同じ近接戦と魔法戦を併用する魔法剣士スタイルでスキルを上げている。

武器は薙刀であるため、ミドルレンジからクロスレンジ、また魔法でのロングレンジも対応出来るようになるのが、カンザシの理想のようだ。

 

 

「カンザシって凄いんだよキリトくん! あっという間に魔法覚えちゃってね、タイミングや魔法の使い分けなんかも的確で……もう、私の方が習いたいぐらいなんだよ!」

 

「へぇ〜凄いなカンザシ。今度俺たちともクエストとか行こうぜ」

 

「え?! あ、はい! えっと、まだ拙いですけど、今度は、よろしくお願いします〜〜〜〜っ!」

 

「全然拙くなんかないよ! 戦闘中のカンザシって、凄くかっこいいんだから!」

 

「うん……ありがとう、リーファ……!」

 

 

 

 

ベタ誉めのリーファにカンザシの顔がみるみるうちに赤くなる。

だが事実、リーファの言う通りカンザシも姉・カタナに負けず劣らずのセンスの良さを感じさせる。

戦闘においての状況判断、分析はカタナも認める程の実力者だ。

 

 

 

「そんじゃ、今回はカタナも前衛に加わってもらうから、後衛はカンザシに任せるぜ」

 

「え、ええぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!! そ、そんな、いきなり……」

 

 

 

キリトの発言に本気で驚いているカンザシ。

今までリーファやティアたちと一緒にいても、常に互いが互いをカバーし合ったいた為、一つの役職を任されると言うの慣れないものだったからだ。

だが、キリトだけじゃなく、追撃するかの様にチナツとリーファも後押しする。

 

 

「いきなりで荷が重いって感じるかも知れないけど、俺たちはみんなカンザシは出来るって信じてるんだぞ?」

 

「そうそう! それに、私達だってただ守られるじゃないからね。ALOじゃ、私たちが先輩なんだから……逆に安心して後衛してよね!」

 

「二人共……うん、が、頑張るね!」

 

「その意気だぜ、カンザシ……!」

 

 

 

 

これでメンバーが全員揃い、あとは買い出しに出たアスナとカタナが戻ってくるのを待つだけという事になった。

その間に、シノアとラウラの武器の強化を終え、今度はカンザシがメンテをしてもらう番。

入れ替わりでこちらにやってきたシノアとラウラは、自分の武器を大事そうに抱えてこちらにやってくる。

 

 

 

「凄いねぇ……なんだろう、見た目はあんまり変わってないのに、何か違う気がする」

 

「ああ。言葉で表しにくいが……なんとも言い難いな」

 

 

 

ひたすら強化してもらった武器を眺める。

 

 

 

「二人共、こっちに座ったらどうだ?」

 

 

 

チナツがチョイチョイっと指で空いた席を指す。

そこにシリカも座り、みんなでプチお茶会の始まりだ。

 

 

 

「改めまして、シリカです。よろしくお願いします! こっちはパートナーのピナです!」

 

『キュウ!』

 

 

シリカの紹介に合わせるように、ピナが声を上げる。

美しい水色の羽と、愛らしいその姿にシノアとラウラも夢中だった。

 

 

 

「か、可愛い〜〜っ!」

 

「あぁ、これは……なんとも……」

 

「よかったら抱いてみますか?」

 

「えっ? いいの!?」

 

 

 

 

そう言うと、シリカはピナを抱きかかえると、シノアの腕の中へと持って行き、シノアのシノアで落とさないようにと、少し焦りながらもしっかりとピナを抱きしめる。

 

 

 

『キュウゥゥ?』

 

「〜〜〜〜っ‼︎ 可愛いよぉ〜!」

 

 

 

すっかりピナの可愛さに負けているシノア。

そして、ラウラはジィーッとピナを眺めている。

 

 

 

「ん……」

 

『キュウ?』

 

「お前、中々いい目をしているな」

 

『キュウ!』

 

「ふふっ。いいだろう……お前を今日から私の部下にしてやる」

 

『キュウ〜〜! キュウゥゥ〜〜!』

 

「えっ?! ピ、ピナっ!!?」

 

 

 

 

 

今までに見たことのないラウラの姿とピナの新たな関係性が観れたので、良しとしよう。

 

 

 

 

「ただいまぁ〜〜」

 

「ただいま帰りましたぁ〜〜」

 

「カ・ン・ちゃぁ〜ん!」

 

「うわっあ!? お、お姉ちゃん!」

 

 

丁度その頃、買い出しに出ていたアスナたち二人と、ユイが帰ってきた。

早速ユイはキリトの肩の上へと乗っかり、それを笑顔で見るアスナ。

カタナは入ってくるなり、カンザシの背後に忍び寄りって抱きつく。

 

 

 

 

「も、もう、びっくりしたよ……」

 

「あはは♪ ごめんごめん。入れ違いになっちゃったのね」

 

「うん。さっきついたばかりで、今リズさんに武器見てもらってる」

 

「今日はちょっときつめのクエスト行くけど大丈夫?」

 

「うん。今回は後方で魔法支援をするから、大丈夫だよ? それよりお姉ちゃんの方が心配……」

 

「あはは……しっかりバックアップよろしくね♪」

 

「うん! 頑張るね!」

 

 

 

今ではすっかり仲良し姉妹に戻った二人。

今まで険悪だったと言われても、その光景を見るに信じられないだろう。

そんなことを感じながら、チナツは二人を微笑ましく思っていた。

やはり唯一の姉妹なのだから、仲良くしててもらいたい。

 

 

 

 

「さてと、全員揃ったな……。今日はサラマンダー領近辺の中立の洞窟に行くけど、みんな準備はいいか?」

 

 

一同を見回し、改めて確認するキリト。

 

 

 

「大丈夫だよ。キリトくん」

 

「私もしっかりナビゲートします!」

 

 

先に名乗りを上げるアスナと愛娘のユイ。

 

 

 

「俺も異論はないです」

 

「オッケーよ」

 

 

ともに賛同するチナツとカタナ。

 

 

「ウチらもいいわよ!」

 

「うん! もちろん!」

 

「頑張ろうね、ピナ!」

 

『キュウ!』

 

 

その後ろでは、リズとリーファとシリカが。そしてフェザーリドラのピナも賛同したかのようにシリカの頭の上で両羽を広げる。

 

 

「問題ありませんわ!」

 

「こっちもよ。上がった腕前、見せてやるわ!」

 

「私も、抜かりはないです!」

 

「僕も! 頑張るよ!」

 

「無論だ。ここで留まる理由がない」

 

 

 

ティア、スズ、カンザシ、シノア、ラウラも同様に賛同する。

この五人は初めての大型クエストの挑戦になる。

その意気は上々。やる気に満ち溢れている。

 

 

 

「よし! それじゃあ、いっちょ頑張ろう!」

 

「「「「おおおっ!!!!」」」」

 

 

 

店を出て、目的地であるサラマンダー領の方角。南東の方へと向かって、12人の妖精達が大空へと羽ばたいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、現実世界の方では………。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ! はっ!」

 

 

 

 

学校が休みになっているその日。ただひとり、黙々と木刀を振り続けている人影がひとり。

場所はIS学園の剣道場。

その日は部活も休みなのか、その人影の人物以外は誰もいない。故に、とても静寂に包まれている。

その中を、木刀が振り抜くたびに風を切るような音が聞こえる。

額から頬を伝い、床へと落ちる汗。相当長い時間木刀を振り続けているのがうかがえる。

 

 

 

「はあぁぁっ!」

 

 

 

踏み込んだ足が床に着くと、ダンッと激しい音が鳴る。

振り下ろされた上段からの一撃は、今までのよりも強く、風を切った。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

一通り素振りを終えたところで、体が疲労を訴える。

もうどれくらい振っていたのかわからないが、100本や200本程度の素振りでは、こんな疲労は訪れない。ゆうに1000本以上は木刀を振り続けていただろうか……。

一旦呼吸を整えて、タオルを手に取り、汗を拭う。その隣に置いてあったスポーツドリンクで水分を補給し、一度外に出て、流れ吹く海風に吹かれながら、ふと思い出す。

 

 

 

 

(一夏は、一体どうやってあれだけの力を得たのだろうか……)

 

 

 

そう、思い出すのは先に起きたVTシステムの事件。

そしてその前のタッグマッチ戦での一夏の強さについてだ。

一切の抜け目もない、速く、強く、そして美しいとさえ思えた一夏の戦いぶり……。

自分の知らない一夏の一面を見た。六年前に離ればなれになる前は、確かに箒よりも強かったが、それは小学生の時の話だ。

今の自分は、剣道の全国大会でチャンピオンになるほどの実力をつけた……だが、一夏は二年間寝たきりだったにも関わらず、自分よりもだいぶ先に居る。

その二年間で何があったのか……過酷な日々を送っていたと、小耳に挟んだが、詳しい事はまだ知らない。

だが剣の道を歩んでいこうと思っている箒にはわかった。一夏の使う剣は、生粋の暗殺剣だということが……。

敵を一撃で倒すことが出来る剣。敵の急所を躊躇無く突いていくような残忍さ。

今までの一夏ではあり得ないと思った。

優しく正しいと言う子供の頃からの一夏の印象はまだ残っているものの、戦いになった時の一夏は、千冬よりも恐ろしく感じる自分がいる。

 

 

 

 

(一夏、お前は一体どうやって変われたのだ……私は、私はその方法が……知りたい)

 

 

 

ふと思い出してしまった去年の全国大会での出来事。

決勝まで駒を進めた箒。相手も相当な実力差があったが、箒は難なく勝つことができた。

だが、その選手が悔し涙を浮かべている時、箒は気づいてしまったのだ。

その涙は、ただ悔しいだけのものではなかったということを。

その証拠に、微かに言われた言葉……

 

 

 

ーーあなたの剣道は剣道じゃない。ただの憂さ晴らしだ。

 

 

 

 

心に深く突き刺さった。

そんなつもりは毛頭なかった。しかし、そうではないとも言い切れなかった。ISが出来て、家族はバラバラになり、箒自身も何度も転校させられた。

友達を作ろうにも、すぐに転校してしまうため、心を繋げれる相手がいなかった。

独り身となったその身に、過剰なストレスと疲労が襲い、自分でも知らないうちに、その心情が剣にも移っていたようだ。

それからだった……自分の剣とは、一体何だったのだろうと……。

そう考え始めたのは、あの時からだった。

 

 

 

「ん…………」

 

 

 

箒はふと、自分のスマフォを見つめる。

そして手に取り、あるフォルダーを表示した。そこには、箒以外誰も知らない。ある人物と連絡を取れる番号が入力されている。

その人物と別れてから数年後、箒のスマフォに勝手に入っていた。

 

 

 

(力が欲しい……自分が変われる力が……一夏達のように、強くなるための力が欲しい……!)

 

 

 

剣術家として、武芸者として強さを求めるのは当然の心理だ。

だが、今手にしている強さではダメだ。

それではただの暴力であり、真の強さではない。

それがわかるとしたら、それは…………。

 

 

 

(一夏や他のみんなのそばで見ていれば、何か見えてくるだろうか……。そのためには……)

 

 

 

躊躇いはあった。

だが、それでも変わるきっかけが欲しかった。

そして、フォルダー内の番号をタップし、コールする。

 

 

 

 

『もすもすひねもすぅぅぅ〜〜! はぁーい! みんなのアイドル、篠ノ之 束だよぉ〜!』

 

「……」

 

 

 

しばらく沈黙が続いた。

 

 

 

 

『ちょっと箒ちゃぁん‼︎ 無視なんてひどいよぉ〜!」

 

「いえすみません。長い間会わないうちに、人が変わっていたようなので……ごめんなさい、失礼しました」

 

『いやいやいや‼︎ ちゃんと箒ちゃんのお姉ちゃんの束さんだよ!? 昔からこんな感じだったと思うよ!?』

 

「そうでしたっけ?」

 

『だよだよ! んで? 話は変わるけど、箒ちゃんがやっと束さんの番号に電話してくれて嬉しいんだけど、どうしたのかなぁ?』

 

 

どこか嬉しそうで、なんだか楽しそうな声音で尋ねてくる束に、少なからず苛立ったが、用があったのには変わりない。

 

 

 

「えっと、それは……」

 

 

 

どうやって、何をどう伝えていいのか悩んでいると、束は『ははぁ〜ん』と何かに感づいた様で……。

 

 

 

『箒ちゃんは、“力” が欲しいんじゃないかな?」

 

「っ……」

 

 

 

流石は姉である。妹である箒の事は、まるで手に取るように分かっている様だ。

 

 

 

『今までそういう事を言ってこなかった箒ちゃんだけど、一体全体どうしたのかな?』

 

「ん……」

 

『…………いっくんかな?』

 

「……わかりますか」

 

『そりゃねぇ〜。束さんは箒ちゃんのお姉ちゃんだよ? わからない事はほとんどないも同然だよぉ〜! そっかぁ〜いっくんが原因かぁ〜……。

つまり、箒ちゃんはいっくんとどうしたいのかな?』

 

 

束の質問に一瞬戸惑いを見せたが、それでも、はっきりと答えた。

 

 

 

「私は、一夏の様に強くなりたいです。ただの暴力的な意味ではなく、本当の意味での強さが欲しいです……!」

 

『なるほどね〜…………』

 

 

 

束は納得したと思ったのか、一度「ふむ…」と考えて、改めて箒に伝えた。

 

 

 

『分かった! 今度そっちに行くから、その時に束さんのとっておきを箒ちゃんにプレゼントしよう〜〜‼︎』

 

「姉さんの……とっておき、ですか」

 

『そうそう! いっくんの白式とはまた別に、完全に束さんのカスタム機を、箒ちゃんのために作っておいたからさ! 今度臨海学校だっけ? その時に持っていくから楽しみにしててねぇ〜!』

 

「そ、それってつまり……!」

 

『そう、箒ちゃんだけの専用機。白と並び立つ者……その名はーー』

 

 

 

 

束のお手製。

全てが妹、箒のために作ったカスタム機体。

そして、束の中では、変わろうとしている妹を応援するために作った渾身の作だ。

 

 

 

『ーーーー紅椿ッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次は、ALOのクエストに入ります!

オリジナルで考えたクエストだからなぁ……穴があったらどうしよう……
とりあえず、暖かい目で見てください(^O^)
感想よろしくお願いします^_^


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