ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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長くお待たせしました。

ALO編の次話です!

どうぞ^_^


第24話 央都《アルン》へ

シルフ領を抜け、中立域の森へと入ったチナツとシノア。

その中で、只今シノアの飛行訓練を行っていた。

 

 

 

「そうそう、その調子」

 

「こ、こう? ううーん、ISと違って、難しいね」

 

「ISは、言えば自分の中のイメージで飛んでいたけど、ALOは違うからな。羽と背中の感覚がリンクしてるから、どうしてもイメージだけじゃダメなんだよ」

 

「これは結構大変だね」

 

 

 

ISの操縦には手慣れているシノアも、初めて体験する生身で飛ぶと言う感覚には、流石に慣れないのか、未だフラフラとおぼつかない様子で飛んでいる。

その側で、チナツがシノアの片手を握りながら、ゆっくりと並行している。

 

 

 

「シノア、ちょっと下に降りてみよう」

 

「う、うん!」

 

 

 

二人は下へと降下していき、地面に降り立つ。

すると、チナツがシノアの背後に回り、シノアの背中に右手をつける。

 

 

「ひゃあ!? チ、チナツ? どうしたの!?」

 

「ああ、ごめん! ちょっと感覚を養うための方法を試そうと思って……悪い」

 

「い、いや、いいよ! 気にしないで」

 

「お、おう……ならいいか? 今、俺が触っている感覚は、分かるか?」

 

 

 

チナツに言われ、意識を背中に持っていく。

そこから背中に当たるチナツの手の感覚や温かさを感じる。

シノア自身、悪くない感覚だった。

 

 

 

「どうだ? シノア」

 

「う、うん! ちゃんと感じるよ」

 

「なら、羽が背中の筋肉と繋がっていると思って、強く動かすイメージをしてみてくれ」

 

「ええっと、んっ! ……こ、こう?」

 

 

 

触れられている部分を意識しつつ、四枚ある緑色の羽を少しずつだが、プルプルと震わせながらも動かしていき、一番上の二枚をなんとか振り上げる。

 

 

「よし、その調子だ。今度は、それをもっと強い動きでやってみてくれ」

 

「う、うん!」

 

 

シノアは一旦体の力をぬ抜き、羽を最初の位置まで戻す。そして深呼吸を一回、その直後にもう一度力を込めて、羽を振り上げる。

 

 

 

「ん! んんっ‼︎ ふんうぅぅぅ……!!!!」

 

 

慣れてきたのか、今度は先ほどよりも強く、そして早く持ち上げれるようになった。

そしてそれをみてチナツは、シノアの耳元まで顔を近づけて……

 

 

 

「よし、じゃあ一旦飛んでみようか」

 

「……え?」

 

 

 

チナツの言葉が理解出来ず、思わず変な声で聞き返してしまったシノアだったが、その直後くらいだろうか、いきなりチナツに背中を押される。

その瞬間、体が上空へと持って行かれ、さながらイグニッション・ブーストを行使したかのようであった。

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

どんどんとシノアの叫び声が遠のいていき、森の木々の枝にぶつかりながら飛んで行った為か、衝突した枝が折れて、地面に落ちてくる。

シノアを強制的に飛ばした後、チナツも羽を出して急いで空へと上る。

あたりを見渡して、シノアの姿を探す。

 

 

 

「ちょっ! う、うわぁ?! ま、待ってぇぇ!!」

 

「おお、その調子その調子!」

 

「い、嫌ぁぁぁぁ!! た、助けてよチナツゥゥゥ!!」

 

「大丈夫! ヤバくなったらすぐに止めるから! 今のうちに、飛ぶ感覚を養っておいてくれ!」

「そ、そんなぁぁ〜〜!! 無茶苦茶だよぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

それからどのくらいの時間が経ったであろうか……。

縦横無尽に飛び回るシノアをサポートし、やっとかっと自律制御出来る様になり、なんとか飛行コントロールが上手く出来る様になった。

 

 

 

「…………」

 

「悪かったって、でもあれが一番体に叩き込めるんだよ」

 

「……だったらそう言ってくれればいいじゃない!」

 

「いや……その、悪かった……」

 

「本当だよ! あぁ、もうなんか昔代表候補生育成時代の鬼訓練を思い出したよ……」

 

 

 

何故か一気に表情が曇り、青ざめ始めた。

一体どんな訓練を受けてきたのか、チナツには想像もつかなかったが、相当やばいのだろう。

 

 

 

「でも、ちゃんと飛べる様になっただろ?」

 

 

チナツに言われて、自分が思った通りに動いてみる。

流れる様に横へ動き、仰向けになった状態で、飛んでみる。

その景色は不思議な光景で、ISでも同じ事が出来るのに、何故だか新鮮で気持ちのいいものだった。

 

 

 

「……凄く、気持ちいいね……♪ 何だか癖になりそうだよ……‼︎」

 

「だろ? ISを介して飛ぶのとはわけが違うからな。自分のイメージじゃなくて、体を動かして飛んでいるからな」

 

「凄い……! 凄いよ、チナツ!」

 

 

 

ようやくコツを掴んだのか、今度は先ほどよりも早く、自由自在に飛んでいく。

翼を与えられ、飛ぶ喜びを知った小鳥の様で、見ているチナツも嬉しく思ってしまう。

 

 

 

「よし、それじゃあ《アルン》まで行くぞ!ずっと飛ばして行けば、時間はあまりかからないし」

 

「うん!」

 

 

 

初めからフルスロットルで飛ばしていく。

飛ぶ事に慣れているチナツの後を追う形で、シノアがスピードに乗る。

 

 

「向こうに着いたら、みんなを紹介するよ! SAO時代からお世話になった人達なんだ!」

 

「うん! 分かった! じゃあ急がないとね!」

 

「ああ! もう少しスピード上げるけど、着いてこられるか?」

 

「あまく見ないでよ、チナツ! 『ラファール』の名は伊達じゃないよ!」

 

「フッ……オーライ! 遅れるなよ!」

 

 

 

更にスピードを上げる二人。

飛ぶ事に特化したシルフの飛行は他の種族よりも段違いに速い。

音速の壁を発しながら、二羽の妖精は、世界樹めがけて一直線に飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

一方、インプ領を出たばかりのカタナとラウラの二人。

出た先の森の中で、ラウラの飛行訓練をやっていた。

 

 

 

「そうそう、上手ね」

 

「ふんっ……この程度、造作もない」

 

 

誇らしげに胸を張るラウラ。

元々ドイツのIS部隊『シュバルツェ・ハーゼ』の隊長にして、代表候補生のラウラ。

飛ぶ事に慣れており、ましてや運動能力も元から高い事もあってか、コツを掴むのが上手いのだ。

 

 

 

「しかし不思議なものだな……同じ様に空を飛んでいるというのに、ISと仮想世界ではここまでの違いがあるものなのか……」

 

「それはそうよ。ISはイメージ。自分の飛びやすいイメージを与えるだけで、ISは思い思いに動かせる事が出来る……。

けど、この世界では、人の体そのものに直接意識が行くから、羽を動かすにも、イメージだけじゃダメなの。背中の筋肉と羽が直接シンクロしているような感覚があるのは当然ね」

 

「あぁ、“自分の翼で空を飛ぶ” ……と言う意味では、ISとは大違いだな」

 

 

 

そう。ISでは、ISを装着していなければ、空を飛ぶ事は出来ない。

確かに、“自分のイメージ通りに飛ぶ” と言う事に関しては一緒であるが、この世界での飛行とは根本的に異なる。

こちらの世界では、本当の意味で “自分の翼で空を飛ぶ” と言うことになるからだ。

 

 

 

「しかし、日本人も凄いものを作るものだな。ISに、仮想世界……まるで魔法だな」

 

「大げさよ……でも、クラークの三法則的に言えば、そうなるのかもね」

 

「そうだ。どちらも優れた科学技術だ。何も知らない者が見ていたら、魔法のようで驚くだろう」

 

 

 

 

そう言い切ると、ラウラはふと北西方面をみる。

そこには、天をも突き破るようにそびえ立つ、世界樹《ユグドラシル》と、その隣に見える、浮遊城《アインクラッド》。

 

 

 

 

「ふぅ〜……。さてと、ラウラちゃんが早く飛行を取得してくれたおかげで、早々に出発出来るわね。

それじゃあ、《アルン》に行きましょうか……‼︎」

 

「うむ。いいだろう」

 

 

カタナも羽を広げ、ラウラがいる場所まで飛んでいく。

ウンディーネ特有の青く透き通る綺麗な翼。背中に背負う長槍『蜻蛉切』。

現実世界で見たミステリアス・レイディの姿と重なる。

 

 

「さぁ、行きましょう‼︎」

 

「ああ!」

 

 

 

加速し、音速を超える二羽の妖精。

世界樹の根元の街。央都《アルン》まで一直線に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

「シノア! 支援頼む!」

 

「り、了解!」

 

 

 

 

 

シルフ領を発ったチナツとシノア。

現在中立域の森にて、出現したMobと交戦中。

前衛をチナツが勤め、シノアは後方で弓で援護射撃を行っていた。

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

対戦しているMobは、小さなドラゴン擬きの様なもので、飛行速度も早く、突進攻撃を仕掛けてくるタイプのものだった。

だが、その攻撃をいとも簡単にか躱し、逆に刀で胴体を斬り裂いていくチナツの姿に、シノアはただ呆然としていた。

 

 

 

「こ、これ……僕が戦線に入る必要あるのかな? あっ!」

 

 

 

前面に群がるMobの対処をしているチナツの後ろから、突進攻撃を仕掛けようとするMobがいた。

シノアは急いで矢を取り、弓の弦に番える。

 

 

 

「させないよ!」

 

 

 

放たれた矢は、綺麗な軌道を描きながら、チナツのすぐ後ろにまで来ていたMobの体を撃ち抜き、HPを全損させてポリゴン粒子となって消え去った。

 

 

「や、やった!」

 

「ナイス援護、シノア」

 

「うわあ!? チ、チナツ?! あれ、他のモンスターは?」

 

「あぁ、それなら全部倒したぞ?」

 

「ええ?!」

 

 

 

いつの間にか隣へと降りてきたチナツの姿に驚くシノア。

チナツに言われて、よく見ると、周りにはMobの姿が見えず、チナツが全部食ってしまったのだろうと予測できた。

 

 

 

「す、凄いなぁ〜。僕、いらなかったんじゃ……」

 

「そんな事無いって! シノアの援護が無かったら、俺がMobにやられてたよ……ありがとう、シノア」

 

「そ、そんなぁ〜……たいした事ないよ」

 

「いやいや、弓だってちゃんと命中させてたじゃないか……中々一発で当てるのは難しいんだぜ?」

 

「うん……でも、銃と同じだよ。相手の動きを予測して射撃するのは、弓も銃も変わらない。ただ、射程や精度は大きくズレてくると思うけどね……あはは」

 

「そうだな。だから少しここらのMobと少し戦いながら《アルン》に向かおう。少しでも熟練度を上げていけるしな」

 

「うん! じゃあ行こう!」

 

 

 

二人は再び羽を羽ばたかせ、《アルン》方面へと向かう。

 

 

 

「そう言えば、向こうには、鈴やセシリアたちもいるんだよね?」

 

「あぁ、二人は最近スキル上げに忙しいみたいでな……」

 

「でも、そう簡単にスキルって上がるものだっけ?」

 

「いや、中々根気のいる作業だよ。でも、効率よく稼げる方法がないわけじゃないからな……狩場なんかで戦って、効率よくスキルを上げられるし、武器だって強化したり、強力なやつを作ってもらったり、手に入れたり出来れば、数レベルは底上げ出来るからな」

 

「ヘェ〜」

 

「まぁ、レジェンダリー級になると、スキル熟練度が設定されてるから、その熟練度を取るまでは、入手できていても使えないんだけどな」

 

「なるほど……工夫次第ってわけか」

 

「そういうこと。っと! 話してるうちに、早速お出ましだ」

 

 

 

 

目の前にワイバーンの群れ。

先ほどのMobよりも手強そうな相手だが、二人は恐れずに敵陣に突っ込んでいく。

 

 

 

「さて、蹴散らすぞ!」

 

「おお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラちゃん!」

 

 

 

インプ領を抜けた中立域の森の上空にて、カタナ、ラウラの両名は発生したMobと交戦に入っていた。

ウンディーネであるカタナが後方で支援魔法をかけて、ラウラが前衛で斬り込んで行っている。

が、予想以上に敵Mobの攻撃が激しく、動きも速いため、後手に回るしかないラウラ。

 

 

 

「チィッ! 獣の分際で、ここまでやるとは……‼︎」

 

 

 

相手はプログラムされたMob。だが、その動きに慣れていないビギナーにとっては、戦い辛い相手だった。

 

 

 

「ならば!」

 

「ちょっ! だから、あまり過剰に攻めないの! もうっ……!」

 

 

 

短剣一つで果敢に攻めていくラウラを、後方から魔法支援するカタナ。

ラウラ自体は飛ぶことに慣れてきて、ビギナーの中では有力プレイヤーの中に入るが、それでも少し直情的な感じで、力で押さえつけようとしている。

 

 

 

「ええい! 落ちろぉぉぉ!!!」

 

「突っ込んだらダメ!」

 

「なっ!?」

 

 

 

カタナの叫びも虚しく、Mobの体から発せられた爆散的な光。

それをまともに食らったラウラは、後方へと大きく飛ばされてしまった。

 

 

 

「くっ! おのれ……!」

 

「スー フィッラ フール アウストル フロット スバール バーニ!」

 

 

なんとか羽根を動かし、体勢を整えたラウラ。

その直後、ラウラの体が淡い光に包まれた。その光に驚いていると攻撃を受けて減っていたHPが、元に戻っていることに気づく。

そして、後方からカタナが飛んできて……

 

 

 

「コラッ!」

 

「ううっ……‼︎」

 

 

 

頭を小突かれた。

頭を抑えて、カタナをひと睨みするラウラ。その瞳には抗議の色がうかがえた。

 

 

「何をする!」

 

「考えなしに突っ込まないの! 私たちくらいのプレイヤーならともかく、ラウラちゃんはまだ始めたばかりの新人なんだから、あんな攻撃まともに何回も食らってたら、即死もいいところよ」

 

「う……む…」

 

「ラウラちゃんの動きは悪くないんだか、あとは相手の動きをよく見なさい。

Mobの動きは、チナツのそれとは天と地ほどの差があるんだから……動きをよく見て、隙を見せたらぶっ潰す! 軍でもそうでしょう?」

 

「…………そうだったな……すまない、個人戦闘の方が慣れていたからな……そんな初歩的なことまで忘れていた……」

 

「反省したのならよし! さ、私が続けて援護するから、フィニッシュはラウラちゃんが決めてね♪」

 

「ふん、いいだろう……。では行くぞ!」

 

「了解♪」

 

 

 

再びカタナが魔法の詠唱を始め、ラウラは先ほどとは違い、相手の出方を見るように慎重に飛ぶ。

 

 

 

「はっ!」

 

 

カタナの放った風魔法《ウインドカッター》がMobを斬り刻み、怯ませる。

その隙にラウラは背後に回り、逆手に持ったソードブレイカーでMobの脳天を突き刺す。

 

 

「ぬうぅん‼︎」

 

 

暴れるMobに食らいつきながらも、決して退くことはなく、最後は上下左右に四閃。

四つに裂けたMobが四方に散り散りになり、やがてポリゴン粒子になって消えていく。

 

 

「よし! 次だ!」

 

 

一匹目を倒した後、すぐに後方へと振り向き、短剣を構える。

ちょうどその頃を狙って、Mobがラウラに対して突進攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「ふんっ! 甘い!」

 

 

 

突進攻撃を躱し、隙を突いて短剣を突き刺し、体を回転させてMobを蹴り飛ばす。

 

 

 

「ナイスパス♪」

 

 

 

そして、蹴り飛ばしたその先には、魔法の詠唱を終えたカタナの手から光の矢が現れる。

聖魔法《ライトニングアロー》。

放たれた光の矢が、Mobを貫き通して、そのMobもHPを全損させて虚空へと消えていった。

 

 

 

 

「さぁ、早く残りを殲滅して、《アルン》へ行きましょう!」

 

「了解した!」

 

 

 

それから程なくして、二人はあたりに湧いて出たMobを倒していき、央都《アルン》へと一直線に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

一方、一足早くMobを狩り終えたチナツとシノアの二人は、山脈を越えて、ALOと言う世界の中心にそびえ立つ、世界樹《ユグドラシル》を、その目で捉えていた。

 

 

 

 

「うわあ〜〜〜♪ 凄い! 大っきいぃぃ〜〜‼︎」

 

「あれが世界樹《ユグドラシル》だよ。この世界の象徴……みたいなものかな」

 

「ってことは、あの樹の根元にある街が……?」

 

「あぁ、あれが央都《アルン》だ」

 

 

 

 

《スイルベーン》をはるかに凌ぐ大きな街並み。ALO最大の都市《アルン》にようやく到着できた。

街の入り口付近まで近づいていき、そこでスピードを緩めて、ホバリングしながら地上へと降りていく二人。

初めは四苦八苦していた飛行も、今では馴染んできたのか、着陸もまた難なく成功できたシノア。

チナツもその隣に着陸し、羽根を納める。

 

 

 

 

「だいぶ飛行も慣れてきたな。俺たちなんか、最初の頃は補助コントローラーで飛んでたのに……」

 

「え、そうなの?」

 

「あぁ。そんな時、キリトさんの妹のリーファって子に、キリトさんとカタナと俺と、三人で飛行の仕方を習ったんだよ」

 

「そうだったんだぁ…」

 

「まぁ、カタナはすぐにコツを掴んでたんだけど……」

 

「あっははは……あの人は、色々とコツを掴むのがうまいんだよね……人の心とかも」

 

「だな……それに比べて、俺とキリトさんは酷い目にあったんだぜ? さっきシノアがやったやつ、覚えてるか?」

 

「さっきって……いきなり背中を押されたやつ?」

 

「そうそれ。俺もキリトさんもカタナとリーファにやられてな……おかげですぐに制御の仕方を理解できたんだけどな……」

 

「でも本当に危なかったんだよ、あれ」

 

 

 

思い出したのか、思いっきり抗議の目をチナツに向けるシノア。

それを苦笑いで受けるチナツ。だが、悪意がなかった事は確かなので、それ以上の追求はしなかった。

 

 

 

「ごめんごめん。まぁ、そのおかげで俺たちもなんとか飛行を習得出来たんだよな。

でも、着地するためのランディングが出来なくてな……そのまま《スイルベーン》の中央の塔に激突したっけな……」

 

「だ、大丈夫だったの? それ……」

 

「ああ、大丈夫大丈夫! ちょっとHP減っちゃったけど、すぐにリーファが回復してくれたからな。

さて、そろそろ行こうか。みんなを待たせるのも悪いしな」

 

「そうだね。この道を真っ直ぐでいいの?」

 

 

 

シノアが指差すその先は、一本道で、アルンの入り口付近から街中までずっと通っている。

 

 

「あぁ、空を飛んでいくのもいいけど、せっかくだから少し街を案内しながらの方がいいと思ってな」

 

「ありがとう。そう言えば、カタナさんと待ち合わせしなくていいの?」

 

「ん、ああそうだな。えっと……そろそろ着く頃だと思うけどな……」

 

「チナツゥ〜〜!」

 

「っ!」

 

 

 

 

飛んできた時間から察するに、もう既に着いていてもいいだろうと思い、辺りを見渡してみる。

と、チナツ達から見て東に位置するところから、自身を呼ぶ声が聞こえ、そちらに視線を向ける。

二つの影がそのままチナツ達の元へと近づいて来て、その姿を捉える。

ウンディーネの青い翼を広げたカタナと、インプ独特の闇黒の翼を広げたラウラ。

二羽の妖精がこちらに向かって急降下してくる。

 

 

 

 

「っておい、そのまま突っ込んだら……‼︎」

 

「受け止めなさーい♪」

 

「そんな無茶なーーッ、おわっ!?」

 

 

 

少しは減速していてくれたようだが、それでも重力に従い、落下してきたカタナの衝撃でチナツは地面に仰向けに倒され、その上にカタナが覆い被さるように寄り添って伏せている。

 

 

 

「痛ってぇ〜〜。危ないだろ、カタナ」

 

「大丈夫よ。チナツが受け止めるんだし」

 

「俺が大丈夫じゃない!」

 

 

 

 

《アルン》の街中で起こった夫婦漫才。

ラウラ、シノアの二人はもちろん、その街中を歩くプレイヤー達から一斉に注目を浴びる。

 

 

 

「んんっ! いつまで乗っている。惚気もそこまでにしろ……!」

 

「チ、チナツ、はやく起きなよ! みんな見てるし……」

 

「あ、ああ、そうだな……。ほら、カタナ行くぞ。早くしないとリズさん達に怒鳴られる」

 

「それもそうね。それじゃあ行きましょうか♪」

 

 

 

まるで何事もなかったように起き上がり、スタスタと先頭を歩くカタナ。

それを追う形で、チナツ、シノア、ラウラが歩いていく。

一行は、《アルン》の街並みを見ながら、今回の目的地であるリズベット武具店へと向かった。

 

 

 

 

「そう言えば、ラウラは何て呼んだらいいんだ?」

 

「ん? 何をだ?」

 

「いや、キャラネームだよ。お前もキャラネームを考えーー」

 

「ラウラだ」

 

「へ?」

 

「ラウラだ」

 

 

 

二度言われた。

何を言っている? と言うような視線でチナツを見るラウラ。チナツもまたどうしたものかと困った表情でラウラを見る。

 

 

 

「ああ、ラウラちゃん、本名をキャラネームにしちゃったらしいのよ」

 

「はぁ…そういうことか。でもなんで本名にしたんだ? あまり本名の人はいないんだが……」

 

「ん? 明日奈はしていただろう。それに、私はラウラ・ボーデヴィッヒ。それ以上でもそれ以下でもない。だから私はラウラなのだ……‼︎」

 

 

 

自信満々に胸を張って言い切るラウラに、チナツはもちろんシノアも何も言えなかった。

それを側から見ていたカタナだけは微笑ましいと思いながら笑み浮かべていた。

 

 

 

「まぁ、ラウラらしいって言ったら、ラウラらしいけどな……。ところでシノアはその名前で良かったのか? 今更だけど、自分で決めたかったんじゃないかと思って……」

 

「ううん! 全然! むしろ嬉しいくらいだったよ……その、何ていうか、凄く気に入ってるんだ……この名前……」

 

「そっか…それは良かったよ」

 

「うん……チナツが、付けてくれた名前だからね……」

 

 

 

最後の方は凄く小さな声だったので、チナツは聞こえなかったが、目の前を歩くカタナには聞こえたのか、振り向きチナツをジト目で睨んでいたのは言うまでもなかった。

 

 

 

「えっ、と……どうしたんだ、カタナ?」

 

「……別に」

 

「えっと、何で怒ってるんだ?」

 

「……別に」

 

「お、おい! 待てよカタナ!」

 

 

 

 

急に早歩きになってチナツ達を置いていくカタナ。そしてそれを追うチナツ。更にはそれを眺めるシノアのラウラと言う絵面だ。

 

 

 

「まったく……あいつらはいちいちイチャイチャしなければ気が済まんのか?」

 

「何だろうね……。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうよ……」

 

「まったくだな」

 

「それよりラウラ、早く行かないと置いてかれちゃうよ」

 

「そうだな……では行くぞ」

 

 

 

 

 

二人の背中を見ながら溜息を漏らすシノアとラウラ。

ここでも現実でも相変わらずの二人の姿に、少し安心した気持ちにもなり、自然と微笑む姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

《アルン》の街並みを歩いて数分くらい経ったぐらい……一行は、目的地に到着した。

目の前にあるのは立派な建物。このALOと言う世界独特の西洋の風情漂う外観がシノアとラウラを魅了していた。

 

 

 

「ここが……その、リズベットさんがやっている武具店?」

 

「ずいぶんと立派なものだな。個人営業をやっていて、ここまでの物があるとはな……」

 

 

第一印象は上々。

ALOの中でもその腕前は健在。SAO時代からキリト達攻略組の武具をメンテしてきたマスタースミスの店だ。

 

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

「リズさ〜ん、こんにちは!」

 

「お、お邪魔します……!」

 

「失礼する」

 

 

 

カランカラン! っとドアに備え付けられた鈴がなる。

ドアを開け、まず最初に目に入ったのは、そこに集まっていた面々。

武具店の中にあるテーブルに集まる多種族のプレイヤー達だった。

 

 

 

「いらっしゃいませ! リズベット武具店へようこそ!」

 

 

元気ハツラツな声で迎え入れる片手剣を手に剣を鑑定しているレプラコーンの少女。

このリズベット武具店の店主であり、マスタースミスでマスターメイサーのリズベット。

 

 

「よぉ、待ってたぜ二人共!」

 

 

椅子に座って、こちらを見ながら片手を上げているスプリガンの少年。リアルと同じ髪型だが、少し毛先はツンツンと尖っているようで、リアルとは少しだけ違う印象に思えた。

このALOでも数々の伝説を作っている少年、キリト。

 

 

 

「いらっしゃい! よく来たね!」

 

 

そのキリトの真ん前に座っているウンディーネの少女。

これまたリアルと同じ姿だが、その水色の髪色がまた、リアルとは違った雰囲気を醸し出していた。キリトの恋人であり、閃光の名で呼ばれた少女、アスナ。と、その肩に乗っている……。

 

 

 

「 “初めまして” ですね! よろしくです♪」

 

 

キリトとアスナの愛娘であるナビゲーションピクシーのユイ。

 

 

 

 

 

「えっと……和人と明日奈さんでいいんだよね?」

 

「あぁ。それと、ここでは俺はキリトな」

 

「私はそのままアスナでいいよ。二人共、よく来てくれたね、歓迎するよ!」

 

「あ、あぁ……よろしく頼む」

 

 

 

手厚い二人の歓迎に、少し気恥ずかしさを覚えるシノアとラウラ。

奥から先ほどまで作業していたリズベットが剣を置いてこちらに歩いてくる。

 

 

「えっと、二人は初めましてだな。ここで武具店を開いている……」

 

「リズベットよ、よろしくね二人共!」

 

「は、はい! えっと、シノアと言います! よろしくお願いします」

 

「ラウラだ。よろしく頼む」

 

「って、ラウラはそのまま本名にしたのかよ……」

 

「む? 別にいいのだろう? アスナだって本名ではないか」

 

「私のは……そう言うの知らなかったからで……別に合わせなくてよかったんだよ? ラウラちゃん」

 

「いいや、もう決めた事だ。私はリアルでもこっちでも『ラウラ』だ! これは絶対だ」

 

「なんか……また個性的なのを連れてきたわねぇ〜」

 

「あっははは……」

 

「そこは、笑って許してやってね……」

 

 

 

新メンバーの個性豊かな性格に苦笑交じりに話すリズと、それを同じ苦笑で返すチナツとカタナであった。

 

 

 

「あれ? 他のみんなは?」

 

 

チナツが気づき、周りを見渡す。

中にはこの四人しかおらず、他のメンバーがいないのだ。

 

 

 

「あぁ、リーファとシリカは武器強化の為の素材集め。スズ達は今日もスキル上げだ」

 

「この間一緒にクエストやったけど、ティアちゃんもスズちゃんもカンザシちゃんも、みんな凄く強くなったんだよー! やっぱりみんな筋がいいんだよ!」

「そうね〜。カンザシちゃんも一生懸命頑張ってたし……これは、アインクラッド攻略も夢じゃないかもね♪」

 

「そうだな。それに、みんながこの世界の事を知って、気に入ってくれるのが、一番嬉しいしな……‼︎」

 

 

 

 

チナツの言葉に、誰もが頷いた。

一度は否定され、煙たがられていたVRMMOと言う世界。

だが、自分たちが過ごした世界を見て、知ってもらい、そして、自分たちと同じ様に大切にしてくれる……。そう思うととても嬉しく思った。

 

 

 

「ほぉ〜ら! あんた達の武器、メンテ終わったよ!」

 

「あ! ありがとうリズ!」

 

「サンキュー、いつも悪いな」

 

「いいわよ。それが私の仕事だし! それじゃあ、今度何取ってきて貰おうかなぁ〜♪」

 

「結局それかよ……」

 

「リズさん……」

 

「ほら、あんた達の武器も見せなさい。メンテしてあげるから」

 

 

今度リズはチナツとカタナの方を向き、手を差し出す。

 

 

 

「えっと……見返りに何を?」

 

 

ゴツ!!!

 

 

 

「痛ってぇ!!!」

 

 

 

殴られた。思いっきり頭を。

 

 

 

「あんたは私をなんだと思ってるのよ!」

 

「いや……だって……ねぇ、キリトさん」

 

「あぁ……『ボッタクリ鍛冶屋リズベット』の名は……有名だしなぁ〜」

 

「あんた達ねぇ!!」

 

「うわっ! ヤベェ!」

「に、逃げろ!」

 

「こら待てぇー!!!!」

 

 

 

そう広くない店内を走り回る三人を尻目に、カタナはシノアとラウラをアスナが座るテーブルへと案内する。

 

 

 

「もう、キリトくんったら……」

 

「まあまあ。好きにやらせたら?」

 

「あいつらいつもあの感じなのか?」

 

「っていうか、ボッタクリ鍛冶屋って……」

 

「そこは気にしない、気にしない♪」

 

 

 

カタナが二人の背中を押し、席に座らせる。

すると、アスナがティーカップを二つ出し、お茶を注ぐ。

 

 

 

「「改めて、ようこそALOへ! 二人とも!」」

 

 

 

 

暖かく迎え入れるアスナとカタナの姿が、二人をシノアとラウラにはとても明るく、暖かく思えたのだった。

 

 

 

 

 

 




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