ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回から少しISを離れ、シャルとラウラのALOデビュー編をやろうと思います。
それが終わって、臨海学校編に行きます!




第三章 FAIRY WORLD
第23話 妖精の世界


〜Charlotte Side〜

 

 

一夏の言う通りに、アミュスフィアをかぶり、リンク・スタートという言葉を発した。

その瞬間、目の前が明るくなり、いろいろなものが流れ込んでくるような……そんな感じがした。

そして、次にドームのような空間に放り出され、その場に立っていると、アナウンスが聞こえて来た。

目の前には《Welcome to Alfheim Online》の文字が映し出されていた。

 

 

 

「凄い……本当にこれが、ゲーム?」

 

『アルヴヘイム・オンラインの世界へようこそ!』

 

「ひゃあ!」

 

 

 

いきなり目の前に出てきた端末と思しきものと、アナウンスに驚き、変な声が出てしまう。

少し頬を赤らめ、落ち着いてアナウンスを聞く。

 

 

 

『キャラネームを入力してください』

 

「えっと、名前は……」

 

 

 

キャラネーム。その世界での自分を指し示す名前だ。

一夏からは、事前に聞いていたが、基本的には本名は無しだ。なので、何にするかを悩んでいたのだが、今日の昼休みの時に相談しておいたのだ。

自分を指し示す名前であり、いろいろと助けてもらった一夏からつけてもらった名前……。

 

 

「えっと……Chinoa……シノアで!」

 

 

名前ははっきり言って、シャルロット・デュノアという本名の省略に過ぎない。だが、それでも一夏に考えてもらい、この名前が出た時は、何故だか凄く良いと感じてしまった。

シャルル、シャルロット、そしてシノア。母から名ずけてもらったシャルロットと言う名前と一夏から貰ったシノアという名前。この二つは、今では彼女のお気に入りの名前だ。

名前を決めると、今度は九体のアバターの映像が映し出された。

 

 

 

『それでは、種族を選んでください』

 

 

 

手元にある端末を操作し、自身の分身とも言えるアバターを選んでいく。

 

 

『シルフ、ですね? それでは、シルフ領への転送開始します。ご武運を……‼︎』

 

 

 

目の前が明るくなり、真っ白な世界に包まれる。

そして、次に目をさますと、そこには現実ではまず目にできない光景が広がっていた。

 

 

 

「うわあぁ〜〜!!!!」

 

 

 

翡翠色の塔が5つ建てられた都市。

そこを歩く妖精たち。みんな髪の色や瞳の色、姿や着ているもの全てが、現実からかけ離れていて、見るものを圧倒した。

妖精の特徴である先の尖った耳や獣耳や尻尾……腰や背中には、剣や槍、斧などといった武器に、全身を覆う甲冑などなど……目の前の光景に立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

(これって、本当にゲームなの?! 歩いてる人も、肌で感じるこの感覚も、全部仮想……現実じゃないのに……)

 

 

 

これは全てが仮想。現実のものでは無い。にもかかわらず、この手に感じるもの、この目で見ているものは、紛れも無い現実そのものだった。

いつか一夏が話していたことを思い出す……《自分たちは、あの世界で、確かに生きていた》……と。

 

 

 

(えっと、ここってどこなんだろう? 確か《シルフ領》って言ってたような……)

 

 

あたりを見回してみると、どことなく緑色の髪や金髪の姿のキャラ達が多いことに気づく。

少し探索したい衝動にかられ、思い思いに歩いてみる。

そしてふとある姿に気づく。

ガラス張りの建物に写った自分だ。

一瞬だけ、自分だと分からず立ち尽くしてしまう。そこに写るのは、現実と同じ髪型ではあるものの、その髪の色は金髪ではなくライムグリーンのような鮮やかな色で、黄緑色の瞳、そして初期アバターにありがちな初期装備の七分袖のシャツにスカート、腰にはカットラスのような刀剣が装備されたシャルロット……もとい、シノアの姿だ。

 

 

 

「これが……僕……?」

 

 

自分の手で顔や、服を触ってみる。

そこから感じる服の肌触りや、肌に直接感じる感触が伝わる。

 

 

「凄いなぁ〜……まるで神話に出てくるエルフみたい……‼︎」

 

 

その昔、まだ母が生きていた頃のこと、母から貰った本の中に、北欧やケルトの神話が乗った話の内容が書かれていたものがあった。

妖精や神、かつての英雄たちの活躍が記されたその本を読んでいて、飽きることがなかったのだ。

幻想的でロマンチックな話もあれば、とても悲しい話まで色々とあった。

もし自分が、その物語の主人公だったら……どうしていただろうか……などと、子供ながらに考えたことだって少なくはなかっただろう。

だが、今自分はその物語の主人公のように姿が変わっている。

本物の妖精のように……。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

ふと視線をずらして、街並みを見てみる。

すると街の中を歩いているプレイヤーたちは、左手を上から下へと軽く振っていた。

すると、何やら空間ウインドのようなものが飛び出し、あれこれ操作していた。

 

 

「なんだろ?」

 

 

シノアも真似してみる。

左手を前方にだし、軽く振ってみる。

すると、さっきのプレイヤーと同じように空間ウインドが表示された。

 

 

「えっと……あ、メインメニューか……」

 

 

表示されたものが何なのかに気づき、あれこれとボタンを押してみる。

ステータス画面や装備品を見る画面、地図にログアウトボタンなどなど……。

 

 

「えっと……ここに一夏が迎えに来るはずなんだけど……やっぱりまだ来てないよね……?」

 

 

一夏は少し遅れると言っていたので、まだこの街にはいない。

そこでシノアは、少し街を探索してみようと思い、街を歩き出した。

その目は、初めの世界を知る好奇心で輝いて見えた。

 

 

 

 

〜Laura side〜

 

 

 

VTシステム事件が終了し、今まであった一夏や周りとの関係も少なからず修復できたラウラ。

同室となったシャルロットと同様にアミュスフィアをかぶり、意識を仮想世界へと持っていく。

シャルロットと同様にまずはアバターを作るための空間に呼び出されたラウラ。

 

 

 

「ん……ここは」

 

『アルヴヘイム・オンラインの世界へようこそーー!』

 

「ッ!」

 

『キャラネームを決めてください』

 

 

 

 

目の前にキーボード式の端末が現れる。

名前を記入するキーボード端末に手をかけると、なんの迷いもなく、キーボードを打ち込んでいく。

その名前は……Laura。

 

 

「うむ、これでよし!」

 

『それでは種族を選んでください』

 

「種族……それもすでに決まっている!」

 

 

 

カーソルを動かし、既に決めていた種族を選択する。

 

 

 

『インプ、ですね? それではインプ領へ転送開始します…ご武運を……‼︎』

 

 

 

 

目の前が明るくなり、真っ白な世界へと包まれる。

そして、ふと目を開けた瞬間、そこは異世界につながっていた。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

その光景は現実とかけ離れていた。

闇妖精族…その言葉が似合うような都市の光景だった。

 

 

 

「闇……だが、何故こんな暗闇でよく見えるんだ……?」

 

 

 

周りを見ると河川地帯であり、山岳地域だと思う木々や山、一部では、山間に覆われ洞窟のような物が見え、それが天を覆い、日の光が全く入ってこないのだろう。

その他にもいるプレイヤーの中にも、インプは多く、みんな普通に歩いている。が、何人かはインプのプレイヤーに手を連れられてなんだかヨロヨロと危なっかしく歩いている。

 

 

 

(……もしかして、この暗闇が見えるのは……我々インプだけなのか? 他の種族のやつでは見えんのか……)

 

 

 

このままここで待っていてもラウラ自身は良かったが、迎えに来る者、カタナではラウラを発見するのは難しいだろうと判断し、ラウラは明かりが思っている喫茶店へと足を踏み入れる。

 

 

 

「ん……中々繁盛しているようだな……」

 

 

 

中に入ると中はインプ以外の他種族のプレイヤーたちで埋めつくられていた。

インプは暗視能力があるため、外でも過ごせないくはないが、他の種族では、魔法によるスキルで暗視能力を付加してもらわないといけないため、できるだけ明るいところで過ごしたいはずだ。

ラウラも空いている席に座り、カタナを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

〜Charlotte Side〜

 

 

 

 

この世界……アルヴヘイム・オンラインの世界に来て、シノアの心は舞い上がっていた。

何せ、全てが可愛らしさや幻想的なイメージで作られたこの世界で、夢でも見ているのではないかと思うほどの現実味溢れるこの光景で、興奮しないわけがない。

 

 

 

「はぁ〜〜凄いなぁ〜。完全に異世界だ」

 

 

あれから、シノアはシルフ領の首都スイルベーンのあちこちを歩き回っていた。

雑貨屋や武具店、鍛冶屋に飯店など様々な店が立ち並んでおり、そこにも多くのプレイヤーたちがいる。

 

 

 

「もうそろそろ一夏は来たかな?」

 

 

待ち人である一夏が来たかどうか、確認するために、シノアは元いた場所へと戻ろうとした。が、それを阻むようにして前に立ちはだかる人影があった。

 

 

 

「うわぁっ! えっと、ごめんなさい」

 

「いやぁ〜ごめんごめん。君が可愛いからつい見惚れちゃっててさぁ〜」

 

「え、ええ?!」

 

 

 

完全にナンパだった。

それもやり口が古く、シノアも少し引いた。

よく見ると、シノアをナンパしているのは、赤髪の青年であったため、シノアはすぐにシルフのプレイヤーではないと気づいた。

その他にも二人……その赤髪のプレイヤーの隣に寄ってくるプレイヤーがいた。その二人も同じく赤髪をしている。

 

 

 

「それにしてもほんと可愛いね君! 初めて見た顔だなぁ〜……もしかして、このゲーム初めて?」

 

「ええ……まぁ、そうですね」

 

「へぇ〜そうなんだぁ……。そうだ! 俺たちこれから冒険に出るんだけどさ、君も一緒に行かない?」

 

「え?! そ、それは……」

 

「いいじゃんいいじゃん! 初期装備でも大丈夫なところを教えるしさ、なんなら、俺たちが買ってあげるよ!」

 

「いや、そんな……悪いですよ……!」

 

「大丈夫大丈夫! 俺たち攻略組だからさ、結構金は持ってんだよ」

 

 

 

そう言って指をさすのは、空の遥か向こうにそびえ立った大きな構造物。

積円型の構造物で、見た目はラグビーボールのようで、一瞬あれが何なのか分からなかった。

 

 

 

「あれって……」

 

「あ〜、あれ? あれは浮遊城《アインクラッド》って言って、かつてソードアート・オンラインって言うデスゲームの舞台になったところなんだ……MMOをやってるなら、聞いたことはあるよね?」

 

「は、はい! …………あれが、《アインクラッド》……一夏たちが戦った、城………」

 

 

 

一夏から聞いていた話では、あの城に一万人ものプレイヤーが囚われた。

そして、命をかけて戦い、生き残ることが出来た。その中でも一万人のうち、約四千人が死んでしまったというのも、最近になって知ったことだ。

 

 

 

 

「何で、そんなデスゲームを起こした城がここにあるんですか?」

 

「うん? あぁ、確か……五月だったかな? ALOも一度サービスが中止になっちゃって、でも再開するって告知が出て、いざログインしてみたらさ、あの城が出てきたんだよ……!

凄かったんだぜ! 夜真っ暗時に、突然光輝いて……‼︎ それからは、あの城を攻略しようってプレイヤーが多くなってね。今じゃあ俺たちもその一員ってわけさ!」

 

「へぇ〜そうなんですか」

 

「おっと、話を戻すけど……一緒に冒険にしない? 君のような可愛い子は大歓迎だよ!」

 

「そうそう。なんなら、俺たちが戦いのレクチャーをしてやるし!」

 

「魔法や羽の使い方だって教えてあげるからさ!」

 

「いや、その……ごめんなさい。ぼ、僕ちょっと人と待ち合わせしてて……そのあなた達とは一緒に行けません」

 

「ええ〜〜そんなこと言わずにさぁ……」

 

 

 

一番前にいた男がシノアの手を強引に掴んで、連れて行こうとする。

 

 

 

「やっ、ちょっと! 離してください!」

 

「いいからいいから!」

 

「ちょ、ちょっと待って! 離して‼︎」

 

「おいおい暴れるなって!」

 

「大丈夫だって!」

 

 

 

初めてきた世界で、ナンパをされ、連れて行かれそうになり、とっさに現実世界で習ったCQCを試そうかと思ったが、キャラの初期設定のせいで筋力値や敏捷値と言ったステータスは、彼らの方が上のため、掴まれた腕を振り払うことが出来ずにいたのだ。

このまま何処かへと連れて行かれるのだろうかと不安な気持ちになり、目を瞑ると自然と名前を叫んでいた。

 

 

 

「た、助けてぇ‼︎ 一夏ァァァ!!!!」

 

「はぁ? イチカって誰?」

 

「そんなやついたか?」

 

「いやぁ?」

 

 

 

 

男達が疑問に思っていたその瞬間、ふと、シノアを拘束する腕の力がスッと抜けた。

何事かと目を開けると、そこには金色の髪に白いコートを羽織った青年が立っていた。

 

 

 

「あァ? なんだてめぇ……」

 

「おいおい邪魔すんなよ……! せっかく仲良くやってたのによぉ〜!」

 

「っていうか、お前誰だよ」

 

 

 

金髪の青年は掴んだ赤髪の男の腕を離して、面と向かって言った。

 

 

 

「俺の名はチナツ。この子とは、待ち合わせをしていたんだよ……そしたら、あんたらがこの子にちょっかいを出そうとしていたみたいだからさ……それに、『助けて』っていうくらいだからな……あんたらが悪いことでもしたんじゃないか?」

 

「あぁ? 意味わかんねえんだけど? って言うか邪魔だよお前!」

 

 

 

チナツという青年の邪魔に苛立ったのか、リーダー格のプレイヤーが腰に差していた両手剣を引き抜こうとした……その時。

 

 

 

ギンっ!!!!

 

 

 

 

「ん……?」

 

「なっ!」

 

「いつの間に……!?」

 

 

 

抜こうとした両手剣の刀身の柄の部分に別の刀身が当てられており、引き抜こうとする勢いを止めていた。

そして、その止めている刀身をなぞる様にして目線だけで追う。

その刀身……刀抜いていたのは、先ほど助けてくれた金髪の青年だった。

 

 

「て、てめぇ……! いつの間に!」

 

「ん? 悪いが、先にケンカを吹っかけてきたのはそっちだぜ? 後から抜いた俺は、当然正当防衛が適用されるよな……。

まぁ、何故か先に抜いたあんたよりも、俺の方が速かったみたいだがな……‼︎」

 

 

 

自信満々のその顔に赤髪男達は一瞬でたじろぐ。

 

 

 

「ん?! あ、ああ……ああああ!!!!」

 

「な、なんだよ!?」

 

「おい、そいつ……《瞬神》だ‼︎ シルフ最速の‼︎」

 

「え……?」

 

「ええぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

瞬神……その言葉を聞いた途端、三人組は化け物でも見たかの様に後ずさる。

おそらく、その名前は目の前にいる青年のことなのだろう。

 

 

 

「まぁ、そう呼ばれているな。それで? どうするんだ……このまま相手になってほしいなら、付き合うけど?」

 

「い、いいえ!」

 

「申し訳ありませんでしたぁぁぁーーー!!!!」

 

「失礼いたしますーーー!!!!」

 

 

 

 

三人組は、赤い羽根を広げ、空へと飛び立って行った。

それを確認すると、金髪の青年は得物である刀を鞘にしまい、こちらへと視線を向けてくる。

 

 

 

「ごめん、待たせたな」

 

「え?」

 

 

 

待たせた……ということは、自分に対して言っているのか?

そしてシノアは気づく。その青年の顔が、ある青年に酷似している事に。

髪の色や瞳の色が、現実のものと全く違っているために、初めは判断できずにいたが、今ではその人物と目の前の人物が重なって見える。

 

 

 

「も、もしかして……一夏?」

 

「あぁ、そうだ。それと、こっちでは “一夏” じゃなくて “チナツ” な。ここでは、現実の事を出すのはマナー違反だからな」

 

「あ、ごめん! それと、さっきはありがとう……助けてくれて」

 

「良いって。それより、名前は “シノア” でよかったんだよな?」

 

「うん! そうだよ」

 

「ようこそシノア。妖精の世界にーーー!」

 

 

 

屈託のない笑顔と、差し出された手を見て、その手を取る。

その瞬間、もっと世界が広がったような気がした。

 

 

 

 

 

 

〜Laura Side〜

 

 

 

ラウラは鏡とにらめっこをしていた。

店内は慌ただしく、大変賑わっているようであった。

中には酒を飲んでいる者までいる。鏡越しにその顔を見ると、頬が赤く染まっており、相当酔っているようであった。

 

 

 

(電脳世界であっても、酒などで酔い潰れる者がいるのか……。VR世界……興味がなかったとは言え、ここまで進化を遂げていたとはな……)

 

 

 

改めて、このVRMMOという物に関心を抱いた。

人間の五感を再現できており、見る物、触れる物、感じる物全てがそこにある。

正直に言って言葉が出ない。

そしてそれは、今鏡に写っている自分自身にもだ。

インプの特徴は、紫色をパーソナルカラーにしているため、より一層『闇』と言う単語が似合う。

その為、いまのラウラの姿を現実の世界にいる彼女の隊員たちが見たら、なんと言うだろうか……。

腰まできた髪の毛がストレートで伸ばされているのは変わらないが、その髪の色が、混じり気のない闇色の髪色なのだ。

それにプラス、ラウラのトレードマーク的存在の眼帯がない。

両眼ともに黒曜の色に染まっている。

 

 

 

「これが私なのか……」

 

 

 

顔を触れてみる。

その手と顔に感じる肌の感触……それもまた本物だ。

だが、どうしても違和感が拭えない。産まれてからこの方、ずっと眼帯を付けて生活していた身であるが故にだ。

それに……

 

 

(両眼共に同じ色で揃っているのは……なんだが、私では無いみたいだな……)

 

 

 

ラウラの眼は、ドイツでISの適合率を上げる為にナノマシンを注入された事によって、左眼が変色し、オッドアイになっていた。

だが、ここALOではそんな事関係ない。プレイヤー自身がアバターの操作をしない限り、与えられたアバターの容姿のままなのだ。

だが、それがとても不思議なのだ。そして考えてしまう。

もしも自分が、ドイツ軍の強化兵として産まれてくる事がなく、普通に両親のもとで産まれ、ISに全く関わりが無かったら……。

自分は一体何をしていただろうか……と。

 

 

 

(だが、これで良かった。織斑教官に出会い、あの人の下で訓練に明け暮れ、ドイツ軍最強にまで上り詰めた……そして、一夏と出会い、私は更に上へと目指せる……‼︎

これは、決して無駄な出会いでは無かったのだ……!)

 

 

 

そう思うと、自然と顔がほころんでしまう。

この様な経験は、いままでに無かった事であり、するとも思わなかったからだ。

そんな事を考えていると、ふと、ラウラの下に歩いてくる人影が見えた。

 

 

 

「嬢ちゃん、ここに相席いいかい? 他がいっぱいで座れないんだ」

 

 

 

よく見ると多種族……青い髪をしているから、ウンディーネだろうと思われるいい年頃のおじさまな男性がラウラの前に現れ、ちょんちょんとラウラの前の席を指差す。

 

 

「あぁ、構わない。私も人を待っていただけなのだ。待ち人が来たら、すぐにここを立つつもりでいた」

 

「そうか、なら失礼するよ」

 

 

 

おじさんプレイヤーの手にはなにやら酒の様なものが入った木製のジョッキがあり、それを豪快にグビクビと飲んで行く。

 

 

「ぷはぁー‼︎」

 

「それは、そんなに美味しいのか?」

 

「ん? そりゃあな……。一応、これビールと同じだぞ? それがどうかしたのか?」

 

「ん……いや、実は私はこの手のゲームをやるのは初めてでな……この世界の事も知らんし……そこであなた方の様なプレイヤーたちがこうやって過ごしている事も、今初めて知ったので、少し驚いている」

 

「あぁ、なるほど。確かによく見たら初期装備だな……。嬢ちゃん名前は?」

 

「ラウラだ」

 

「そうか、俺はツルギだ。ここで会ったのも何かの縁だ。よろしくな」

 

「あぁ、こちらこそよろしく」

 

 

 

 

その後、ツルギの奢りでラウラもドリンクを注文した。

最初は渋っていたものの、もはや強引に注文させられた様な感じになった。

頼んだのはもちろん酒ではなく、ただの果物ジュースだ。

 

 

 

「ん……ほう、中々美味しいな……!」

 

「だろ? 仮想世界とは思えねえくらいにリアルに再現してんだ。嬢ちゃんも二十歳越えたら、酒が飲めるんだがな……まぁ、それは後のお楽しみって奴だわな!」

 

「ところで、あなたはこの世界にどのくらいいるんだ?」

 

「ん? MMOを始めたのは、ずっと前だ。このフルダイブ型のを始めたのは、つい何ヶ月か前でな……いやはや、こんなものに巡り会えたのは、ほんと幸運だったね……‼︎」

 

「そうなのか……」

 

「嬢ちゃんは誰からの紹介でここに来たんだい?」

 

「ん? 現実世界で、このゲームをやっているもの達がいてな……。その者たちに誘われてだな」

 

「ほう。そうかそうか……こうやって仲間が増えていくのは、大歓迎だな!」

 

「仲間?」

 

「あぁ、そうだ。同じ世界を見て、同じ空を飛び、同じ物を探し、戦う者たち……ここにいるみんなが仲間だ!」

 

「……っ!」

 

 

 

 

その言葉は、とても新鮮だった。

仲間と言う括りに自分の様な新参者が、含まれている事に、正直驚きを隠せない。

軍では仲間意識はあったものの、ここまでフレンドリーで、暖かく迎えると言うような歓迎はあまりされない。

これもまた、この世界での事なのだろうか。

 

 

 

カランカラン

 

 

 

再び扉が開く音。

そちらに視線を向けると、そこから入ってきた女性アバターに店内が釘付けにされる。

コバルトブルーの髪は短髪で、その毛先が外側に跳ねている癖っ毛の持ち主。

まるで忍び装束のような服装と思いきや、その背中にある蒼い長槍が存在感を露わにしている。

 

 

 

「おいおい、ありゃあ……《ローレライ》じゃねぇか……‼︎」

 

 

 

ツルギがボソッと言った。

よくよく見ると、周りのプレイヤー達もざわめいていた。

だが、ラウラからしてみれば、そのプレイヤーはこうやって注目を集める事に慣れているし、なんら不思議ではないと考えている。

その自信満々のような顔が、こちらを向き、やっと見つけたとばかりに、顔が明るくなる。

 

 

 

「ふぅ〜やっと見つけたわ……‼︎ ごめんなさい、遅れちゃって」

 

「いや、仕方ないだろう……私の方が早く着いたんだ」

 

「おや? お嬢ちゃんたち、知り合いだったのかい?!」

 

「あぁ。私を誘ってくれたのが、こいつでな……正確には、こいつの恋人の方なんだが」

 

「じゃあ、シルフの《瞬神》の紹介か!? こりゃ魂消たねぇ〜!」

 

「まぁな。では、私はこれで……。中々楽しかった、ありがとう」

 

「いやいや、こちらこそ! 頑張ってな!」

 

 

 

 

快く見送られ、店を後にする二人。

インプ領の入り口……洞窟の外へと向かいながら、改めて紹介をする。

 

 

 

「えっと、名前は何て呼べばいいのかしら?」

 

「ラウラだ」

 

「いや、本名じゃくてキャラネームーー」

 

「だからラウラだ。キャラネームもラウラなのだ」

 

「…………本名をキャラネームにしちゃったのね」

 

「その通りだ。私はラウラ・ボーデヴィッヒ……それ以上でも、それ以下でもない。それよりお前の事はなんと呼べばいい? 確か一夏は “カタナ” と呼んでいたな」

 

「ええ、その通りよ。私はカタナ。ようこそ、ラウラちゃん……アルヴヘイムの世界へーーーー!!!!」

 

「っ……! ああーー!!」

 

 

洞窟を抜けるのと同時に、ラウラの中にも少なからず光が差した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これから《アルン》に行くんだけど、シノアはまず、武器を揃えないと……あぁ、あと飛行の仕方もな」

 

「はい! よろしくお願いします」

 

「そんなにかしこまらなくていいって……普段通りで頼むよ」

 

「う、うん! そうだね……‼︎ じゃあよろしくね、チナツ」

 

「よし、そんじゃあまずは武器屋だな」

 

 

 

チナツはシノアを連れ、初期装備のシノアの装備を整える為に、シルフ領にある武器屋へと向かう。

武器屋に着いてまず、シノアの戦闘スタイル決めていく。

武器屋にあるあらゆる武器を手に取りながら、シノアの意見を聞いていくのだ。

 

 

「シノアは、武器のリクエストとかあるか?」

 

「うーん……そうだねぇ。一応コレがあるけど……僕、剣より銃がしっくりくるだよね」

 

 

腰に付いているカットラス型の片手剣の柄に手を置いてみせる。

 

 

「あ……そっか、そうだよな。でもALOに銃なんて無いし……」

 

「そうだよね。仮にも “妖精の国” なんだし……」

 

「ん? 妖精の国?」

 

「うん。アルヴヘイムって言うのは、北欧神話に出てくる妖精の国って意味の名前なの。だから、そんな世界に銃なんて言う近代兵器があるわけ無いよねぇ……」

 

「まぁ、そうだな……。遠距離だと、魔法スキルを上げて後方支援に徹するか……」

 

「そうだよねぇ……でも、僕は後方からの支援狙撃はあんまり……」

 

「だよな……シノアはどっちかと言うと中距離での遊撃型だもんな……そうなると接近戦はあまり向かないし、魔法の遠距離からの支援も違う……となるとだ……」

 

 

 

チナツは武器屋の中を歩き、あるブースのところで止まった。

 

 

 

「近距離攻撃の中で、一番リーチが長いのは、『槍』。ならそれ以上であり、魔法以下の攻撃手段となると……コレだな!」

 

 

 

壁に飾ってあった物を手に取り、シノアに見せる。

 

 

 

「ヘェ〜……『ロングボウ』かぁ〜……‼︎」

 

「あぁ。弓なら、後方支援も出来るし、前衛とともに攻撃態勢も取れる。遊撃にはもってこいだな。ただ、銃みたいに連射機能は当然無いし、シノアは弓を使った事無いだろ?」

 

「うん、そうだね……。弓なんてテレビでしか見たことないし……でも……」

 

 

 

チナツが持っているロングボウを、シノアはゆっくりと手に取り、それを眺めている。

 

 

 

「でも、これってなんだかエルフみたいに見えるよね!」

 

「エルフ? あぁ、森に住んでいる種族か……。確かにそう見えてもおかしくはないな。

まぁ、弓もシステムアシストが付いているから、命中精度をスキルと一緒に上げて行けるし、今はまだ難しかもしれないけど、二本三本とまとめて矢を撃てるようにもできるんじゃないかな」

 

「……うん! じゃあ、僕はコレにするよ!」

 

「弓でいいのか? 他にもいろいろあるけど……」

 

「チナツが僕の為に選んでくれたんだもん……‼︎ だったら、僕はコレで頑張るよ!」

 

「そうか? なら、メインアームはそれで、矢もいろいろと揃えないとな……あ! あと、防具だな。今の装備だと《アルン》に行くまでにぶっ続けで戦闘があったら、保たないしな」

 

 

 

チナツは武器屋のNPC店員に話しかけ、選んだ弓を渡す。

NPCがそれを確認し、値段を提示する。

その他にも、シノアの好みと意見を聞き、一緒に選んだ防具も一緒に添えて出す。

値段は装備一式のため、そこそこの値が付いたが、チナツは迷わず購入のボタンを押した。

 

 

 

 

「あぁ! ぼ、僕払うよ! いくらだったの?」

 

「いいよ。ここは俺が持つから」

 

「だ、ダメだよ! こんなにいっぱい買ってもらうなんて……」

 

「いいのいいの! 今日はシノアたちの歓迎なんだから、これくらいはさせてくれ」

 

「ええ〜、でも……」

 

「いいって。これから一緒に冒険する仲間が増えたんだし、俺がそうしたいんだ……記念日みたいなものだと思ってくれ。だから受け取ってくれないか、シノア?」

 

「〜〜〜〜ッ!」

 

 

 

優しく微笑みかけるチナツの顔に、シノアの顔が紅潮していく。

 

 

 

「も、もう……そういう所、ズルイよチナツは……」

 

「ん? なんか言ったか?

 

「う、ううん! なんでもない! えっと、その、じゃあ、ありがたく頂くね……」

 

「おう、早速着替えて見てくれよ」

 

「うん! えっと、装備欄を開いて……」

 

 

 

シノアは一旦物陰に隠れて、指をタップしていき、自身の装備欄を開く。

そこに映し出された新たな装備品を選び、また指をタップしていく。

その後、シノアの体が粒子に包まれ、一瞬にしてその姿が変わる。

初期装備独特のシャツは、半袖に首から肩の部分が翡翠色の生地で残りの部分が白色のツートンカラーの服に変わり、その上から、腰あたりまでの丈で長袖の薄い黄色のジャケット。

スカートは黒に裾丈のところに黄色いラインが入ったもの。その下には黒いスパッツをはいている。

そして、新たに購入した武器である弓《ミストラル》と、胸当てに使う鋼の甲冑を身につけた状態で、新たな姿に生まれ変わったシノアがそこには立っていた。

 

 

 

「ど、どうかな……?」

 

「おお……‼︎ 中々様になってて、似合ってるぞシノア!」

 

「え? そ、そう? な、なんか照れるなぁ〜♪」

 

 

 

お世辞抜きに、今のシノアの姿はさながら本物エルフのようにも思えた。

元々がヨーロッパ圏の出身であるシノアの容姿がそれを際立たせているのか、日本人であるチナツの雰囲気とは完全に異なって見えた。

 

 

 

「さてと、それじゃあ武器も揃えたし、あとは飛行の練習だな。それができれば、あとは実戦あるのみだ」

 

「よろしくお願いします♪」

 

「よし! それじゃあ行こうか」

 

「うん♪」

 

 

 

 

期待に胸を躍らせ、チナツとシノアは《スイルベーン》を抜け、《アルン》のある北東方面に向かって歩み出した。

 

 

 

 

 

一方ラウラ達もまた、装備品を整えるために武器屋へと向かっていた。

 

 

 

 

「ラウラちゃんは武器何にするか決まったの?」

 

「この世界には、銃が無いのだろう?」

 

「そりゃあまぁ……幻想的な武器しか扱って無いと思うわよ?」

 

「ならば、これしかあるまい」

 

 

 

ラウラは自身の腰に差してあったものを抜き出す。

その手に握られているのは、一般的なダガーであった。

それをラウラは慣れた手つきでくるくると回しては逆手に持ったり、順手で持って思い思いに動かす。

 

 

 

「うむ……これも中々いいものだが、戦闘では少し頼りなさげだな……」

 

「まぁ、初期装備だしね。だから、ここに来たのよ♪」

 

「ここは……」

 

 

 

目の前にある建物。

インプ領にある小さな武器屋に目を奪われるラウラ。

あらゆる武具を品々を見て、感激しているようであった。

 

 

「ふむ……中々にいいものを揃えているな……。しかし、やたらと短剣の類が多いな……」

 

 

そう、よく見ると、武器屋の店内は半分くらいは刀剣類……それも短剣型の武器が多いようであった。

 

 

「まぁ、インプは闇の属性を持っているからね。暗視も暗中飛行も出来るのか特徴なんだけど、スプリガンと同じように、正面からやり合うことはなく、相手の裏や隙をついて仕留めるって合う具合の戦闘スタイルだからねぇ……」

 

「ほう? では各種族で向き不向きがあるのか?」

 

「ええ、そうよ。私はウンディーネで、そのスタイルは主に後方支援型。マナゲージが九つの種族のうち二番目に高くて、回復魔法を得意にしてるの。あとは……水属性だから、水中活動も得意ね」

 

「なるほど……しかし、貴様は前線で戦っていたのだろう? 何故に後方支援に回ったんだ?」

 

「そりゃあもちろん、ガチガチの前線での格闘戦専門の人たちが多いからね〜。

キリトにチナツ、クラインにエギル。男共は魔法スキルをあまり上げないから」

 

「なるほどな……それは困ったものだな」

 

「そうなのよ! キリトなんてスプリガンなのにチナツと一緒にすぐ斬り込んで行くのよねぇ……。

だから、私とアスナちゃんがウンディーネで後方支援に徹しているの」

 

「スプリガンは確か、戦闘向きの種族ではなかっただろう……?」

 

「そうね、スプリガンはトレジャーハント系で、幻惑魔法に特化した種族だから戦闘には向かない。逆にシルフは風魔法が得意で、聴音と飛行技能に特化した種族。

サラマンダーは攻撃に特化した種族。武器の扱いにも長けてるし、火力が強い火属性魔法が得意ね。

ノームは土属性の種族。持ち味は大柄な体格と、その腕力ってところかしら」

 

「ふむ」

 

「まぁ、さっきも言ったけど、結局は本人の戦いやすさが重要だからね。ほら、早く選んじゃいましょう? 武器はダガーでいいのよね?」

 

「あぁ、それで構わんぞ」

 

 

 

様々な短剣類を見ていき、気になるものはすかさず手に取る。

刀身がクネクネと捻れている物や歪な形をした物まで、現代では絶対にお目にかかれない物で溢れていた。

そこでようやく、ラウラが納得する物に出会った。

 

 

 

「ほう、これはいいではないか!」

 

「どれどれ?」

 

 

 

カタナがラウラに近づき、ラウラの手に持つ物を見る。

 

 

「どうだ、これならば私の戦い方にもフィットするはずだ!」

 

「なるほど、『ソードブレイカー』か……‼︎」

 

 

 

ラウラが手にした短剣。その名前を『ソードブレイカー』。普通の短剣と違うところ、それは剣の片刃がまるでノコギリのような凹凸でできている事。

その凹凸部分の溝に相手の剣を噛ませ、武器の破壊または奪取を行い、敵を無力化する物だ。

ラウラが普段軍隊で使っていたサバイバルナイフよりも少し長めだが、ラウラのナイフ捌きがあれば難なく扱えるだろう。

 

 

 

「じゃあ、それでいいかしら?」

 

「あぁ、構わんぞ。ふむ……中々にいい物だな……」

 

 

 

手にした短剣を見ながら呟くラウラを、そばで見ていたカタナはクスクスと笑う。

とてもついこのあいだまでゲームを否定していた物とは思えないからだった。

 

 

 

「後は装備よね……」

 

「あぁ、それなんだが……」

 

 

一旦短剣をしまい、カタナの方に向き直ったラウラ。

今度は自身の服装を見て、何やら渋い顔をしている。

 

 

「このスカートはどうにか出来んのか? 出来ればズボンがいいんだが……」

 

「ええ〜! もったいないじゃない! せっかく女の子としてログインしたんだし、現実世界とは違う感じで行けばいいのに」

 

「いいや! これでは戦いに支障きたす恐れがある! その点ズボンならば動きやすくていい。それに、私は昔から戦闘にはズボンしか履かないのだ!」

 

「うーん……ラウラちゃんももう少しおしゃれに気を使うべきよ?」

 

「何を言う……! 私は軍人だぞ、戦いの時に動けなければ意味がないだろ」

 

「うーん……まぁ、人それぞれってさっき言ったばっかりだしねぇ……。仕方ないかぁ〜……なら、ズボンでいきましょうか」

 

 

 

 

少し残念な気持ちを隠せず、仕方無しに装備品コーナーを物色する。

本人の希望あって、軍人らしい黒を基調としたボトムスを選ぶ。

後は上着を何にするかが悩みどころだった。

ラウラの頑な希望と格闘しながら、カタナは装備を選んでいき、やっと全てが出揃った。

 

 

 

「これならいいでしょ!」

 

「うむ。動きやすし、戦いやすいな……これは……!」

 

 

 

軍隊式格闘術をニ、三度繰り出す。

動く度に風を切るような拳打と蹴りを放ち、性能の確認をする。

 

 

 

「あ……そう言えば、代金はどうした? 私は払ってないぞ?」

 

「あぁ、お金の事なら心配ないわよ。私が払っておいたから♪」

 

「何?! それを何故言わないのだ! 今すぐ払う!」

 

「いいわよ。今日はラウラちゃんたちが初めてこの世界に来てくれたんだもの……装備品の一つや二つ、プレゼントするわよ♪」

 

「し、しかしだな……」

「それに、ラウラちゃんはこのゲーム始めたばっかりでしょう? ならお金なんてないじゃない」

 

「あ……」

 

 

言われて初めて気づいた。

ゲームを始めたばかりのラウラ達は、当然お金を持っていない。なので、払えないのだ。

 

 

「うむ……」

 

「だから、今回は私からのプレゼントってことで……ね?」

 

「…………そうだな……ありがたくいただくとしょう」

 

 

 

カタナに言いくるめられる形となってしまったが、ラウラ自身も、この装備は気に入っている。

タートルネックのノースリーブの白色の上着に、手には黒いオープンフィンガーグローブ。下のズボンも黒で、膝や太ももの一部分がダメージカットのようになっており、そこからラウラの素足が覗かせている。

そして、腰に差したソードブレイカー……。そこに銃があれば、名高い殺し屋風のスタイルの出来上がりだ。

さらに、ラウラのトレードマークである眼帯を左眼に装備する。

 

 

 

「何もわざわざ眼帯までしなくてもいいんじゃない?」

「まぁ、そうかもしれんが……私はもうそれの方が慣れてしまっているからな。それに、これが私なのだ……だれでもない、ラウラなのだ……‼︎」

 

 

 

そう言うラウラの顔は、以前の頃には絶対になかっただろう安らぐような、穏やかなような微笑みだった。

 

 

 

「よし、それじゃあ行こうか。チナツ達も、そろそろ準備出来てるでしょうし」

 

「行くって……どこへだ?」

 

「央都《アルン》。あそこには、みんないるから、ラウラちゃんにも紹介しておきたいの。っと、まずは飛行の特訓からね。さぁさぁ、いきましょう♪」

 

「お、おい! 引っ張らないでもついていく……!」

 

 

 

 

困惑した状態で腕を引っ張られて歩くラウラの姿は、さながらお姉さんに引っ張り回れている妹さんのようで、とても微笑ましいものであった。

 

 

こうして、シノアとラウラのALOデビューが成された記念の日が始まったのだった。

 

 

 




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