ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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えぇ、なんとか更新出来た!

ここからは、少しISルートを離れて、ALOをメインしていきます。
と言っても数話分くらいで、すぐに臨海学校編に突入しますが……

それではどうぞ!




第22話 再出発

〜Ichika aud Katana’s Room〜

 

 

チュンチュン……

 

 

 

朝陽が差し込んでくる一室。

レースのカーテンから柔らかく陽射しが当たり、暖かい感覚を覚える。

 

 

 

「ん……うぅん……」

 

 

すぐ隣で自分のものとは違う声が……。

眠気をなんとか払いつつ、目をゆっくりと開ける。そこには、昨日からの同居人である刀奈の姿がある。

スースーと気持ちよさそうに眠る彼女を見ていると、こちらにもまた睡魔が襲ってくる感覚になる。

彼女は相変わらず一夏の腕を枕にして、一夏の体を抱き枕のようにして眠っている。これでもIS学園の生徒会長であり、ロシアの現役国家代表生なのだが、今の彼女は、どこにでもいる普通の女の子にしか見えない。

 

 

 

「ふっ……アインクラッドじゃ、《二槍使い》だとか言われてたのに……こんな顔じゃあな」

 

「うぅん……むにゃむにゃ……」

 

「プフッ……!」

 

 

 

悪戯心で刀奈の頬を指で突いてみたり、引っ張ってみたり、いろいろ試すといろんな反応が入られるので、意外と面白い。

 

 

 

「さてと、もうそろそろ起きないと……な……ん?」

 

 

 

体を起こそうとしたのだが、体が起き上がらない。

首をひねって布団をめくり上げると、その原因がわかった。刀奈の腕だけではなく、脚までもが一夏の体に絡められているからだった。

 

 

 

「うーん……どうしたものかな…これ……」

 

 

 

刀奈の抱きつき癖はもう知っているので問題ないが、もう起きて準備をしないといけない為に、体を剥がさないといけない。

 

 

 

「よいしょっと……! おーいカタナ? カタナさーん? 朝ですよぉー……起きてぇー……!」

 

「んん? なに……?」

 

「『なに?』じゃなくて、朝だよ。もうそろそろ起きないと、準備出来ないぞ」

 

「大丈夫よ。今日必要な分は纏めてあるから……。シャワー浴びればそれでオッケー……」

 

「ん?」

 

 

 

よく見ると、机の上には、既に準備をしてある痕跡があった……いつの間にしたのか……?

 

 

 

「だからあと10分……」

 

「長いよ。じゃあ、俺が先にシャワー浴びてもいいか?」

 

「うーん……オッケー」

 

 

 

眠たそうに目をこする刀奈を尻目に、着替えとバスタオルを持ってシャワー室へ。

時期は6月……夏真っ盛りになるには、まだまだ先になるが、それでもこの頃は暑くなっていている。

寝汗を少しかいたため、ぬるめのシャワーで汗を流す。

 

 

 

「ふぅー……」

 

 

 

朝に浴びるシャワーの気持ちよさに体が応えるように力が抜ける。

 

 

 

 

 

ガチャ。

 

 

 

 

扉の開く音。

シャワーの水が床に落ちる音であまり聞こえなかったが、確かに一夏の耳に届いた。

その瞬間、再び一夏の体から冷や汗が吹き出た。

 

 

 

「ふぅあ〜〜〜……うぅん……私も入るわ……」

 

「いや! 今俺が入ってんだけど!?」

 

 

まぁ、もう読めていたが、刀奈だった。手にフェイスタオルだけもって、眠い目をこすり、欠伸をしながらの登場。だが、今回はタオルで体を覆っていない。一糸まとわぬ恋人の裸を、再び見てしまった一夏。

 

 

 

「な、なにしてんだよ、カタナ!」

 

「一緒に入った方が効率良いし経済的じゃない……時間が無いって言ったのはチナツだし……いいでしょ?」

 

 

ぽやぁ〜とした顔で微笑み、首を傾けて尋ねる刀奈の姿に、もうなにも言えなかった。

これが彼女にとっての、一夏たちにとっての日常……だと彼女だけが思っている。

一夏にしかやらないと刀奈は言うが、それでも恋人である刀奈の裸を見て、一夏の心は穏やかではいられない。

それに構わず、一夏からシャワーのノズルの先を受け取り、体を洗っていく。

その間、一夏は隅っこの方で頭と体を洗い、沈黙し続けていたのだった。

 

 

 

〜Kazuto aud Asuna's Room〜

 

 

 

「スー……スー……」

 

「ふふっ……♪」

 

 

 

一定のリズムで寝息を立てているのは、この学園で一夏に次ぐもう一人の男子生徒、桐ヶ谷 和人。

そして、それを愛おしそうに眺める女子生徒、結城 明日奈。

アインクラッドの新婚生活の頃からの日課である、夫である和人の寝顔を見る明日奈。

一歳年下の彼なのだが、普段の生活や戦っている姿を見るに、自分たちの先を歩く先駆者のようで、とても頼り甲斐がある人に見えるのだが、どうにも寝ている時だけは別で、年相応の……いや、それ以上にナイーブそうな顔から、愛らしさというものが滲み出ているのだろうか……。

いつまで見ていても飽きない。

 

 

 

「ふふん♪ やっぱり見てて飽きないなぁ〜。キリトくん、寝顔の時だけは、可愛さが前面に出るし……♪」

 

「うぅん……むにゃ……」

 

「さてと、もうそろそろ起こさないと……遅刻したら大変な事になるし……」

 

 

 

和人と明日奈もまた、同じベッドで寝ている。

故に、起こすのもまた妻の務めだ。

 

 

「キリトくん、おはよ。朝だよー」

 

「うぅん? 朝?」

 

「うん! ほら、早く起きてぇー」

 

「お、おぅ……んん〜」

 

 

目をこすり、重たい瞼をなんとか開ける。霞んだ視界の向こうには、最愛の明日奈の顔が見えていた。

 

 

 

「おはよ、キリトくん♪」

 

「うん、おはようアスナ」

 

 

 

起き上がり、寝癖のついた頭を掻く。

 

 

「ほら、早くシャワー浴びてきたら? 寝癖、凄いよ♪」

 

「ん? マジ?」

 

「うん。私は荷物とか準備しておくから、先に入って良いよ」

 

「わかった……じゃあお先に〜」

 

 

 

下着とバスタオルを持って行き、シャワーを浴びる。

その間に、明日奈は自身の準備と、和人の制服を仕立てる。

 

 

 

『ふぅあ〜〜……おはようございます、ママ』

 

「おはよう、ユイちゃん。ふふっ♪」

 

『ん? どうしたんですか、ママ?』

 

「ううん……なんでも無い♪」

 

『ん〜?』

 

 

 

 

愛娘のユイ。本来ユイは、和人とも明日奈とも血は繋がっていない……だが、本人を含め明日奈も和人も立派な家族だと思っている。

そして、その娘でたるユイが先ほどの和人とかぶっていて、明日奈は可笑しかった。

まるで、本物の親娘のようで……。

 

 

 

「さてと、今日も一日、頑張りますか!」

 

『はい! 今日も一日頑張りましょう!』

 

 

 

そう言う二人の姿も、とても似た者同士の親娘のようであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜……みなさん……席について下さい……」

 

 

 

 

朝のホームルーム。既に大半のクラスメイトたちは教室内で待機していた。ここまではいつも通り……。

だが、いつもはテンションが高い真耶が、今日に限ってはテンションだだ下がりである。

その顔には疲労の色が出ており、いつもの彼女ではないとクラスの皆が気付いた。

 

 

 

「山田先生どうしたんだろ?」

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

 

「なんか、死ぬ一歩手前みたいだね……」

 

 

 

そんな生徒たちの心配を聞いて、気丈に振る舞い、仕切り直しと行く。

 

 

 

「えぇっと……今日は、転校生を……紹介します……。って言いますか、転校生っていうのかしら……? これ」

 

 

 

再び転校生という言葉に、どよめきが起こる。

既にもう転校生のシャルルとラウラが来たばかりだというのに、また一組に来ると言うのだから……。

が、その当の本人たちがいない。一夏の隣に座っているシャルルと、一番後ろの通路側に座っているラウラの姿が見えないのだ。

しかも、真耶の言った歯切れの悪い言葉も気になる。

 

 

 

「えっと……とりあえず、入ってきて貰いましょう……どうぞ」

 

 

 

教室の扉が開く。

そこから入ってきたのは、紛れも無いシャルル・デュノアだった。

だが、その姿は、紛れも無いどこからどう見ても、 “女の子” だった。

 

 

 

「シャルロット・デュノアです! みなさん、改めてよろしくお願いします!」

 

『『『『……………………』』』』

 

 

 

沈黙が、その教室内を支配した。

シャルルが女装して名前がシャルロットで…………

 

 

 

「ええっと、デュノアくんは、デュノアさん……っという事でした……」

 

『『『『………………はい?』』』』

 

 

 

奇跡かな……この事情を知っている一夏たち四人以外の生徒が一斉にハモった。

 

 

 

 

「えっ? と言う事は、デュノアくんって女?」

 

「美少年じゃなくて、美少女だったて訳ね!」

 

「って織斑くん! 同居してて知らなかったわけじゃーー‼︎」

 

「そ、そうよね! って言うか、昨日男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 

 

 

女子生徒……相川さんの一言で、一気に注目を浴びる一夏と和人……特に一夏。

すると、その注目を粉砕するかのごとく、一組の扉が粉砕された。

 

 

 

「一夏ああああ!!!」

 

「り、鈴っ!?」

 

 

 

 

鬼の形相で睨む鈴が、専用機である甲龍を纏い、入り口で仁王立ちしていた。

その気迫に圧倒されそうになり、今の鈴の背後には、鬼より怖い龍の姿が見える。

 

 

 

「あ、あんた……! シャルルは男じゃなかったわけ!?」

 

「ええっと、これには事情があってだな! その、一から話すから、とりあえず鈴、落ち着けって……」

 

「これが落ち着いていられるかあぁぁぁ!!! ましてや風呂も一緒に入ったんじゃ無いでしょうね!?」

 

「いや、違う! シャルロットとは入っていない!!!」

 

『『『とは?』』』

 

「あ……」

 

 

 

急いで口を塞いだが、時既に遅し。

また一気に視線を集めてしまった。

 

 

 

「ちなみに、俺は昨日入ってないぞ……証人はアスナだ」

 

「ちょ! キリトさん!?」

 

 

 

まだ和人と入っていたと言えば、この難を逃れてたかも知れないのに、その本人があっさり自供してしまったために、もう逃れられない

 

 

 

「和人とは入っていない……シャルロットも違う……じゃあ……」

 

 

 

鈴の視線は一点に集中する。

そこには当選、余裕の笑みを浮かべながらニコニコしている刀奈の姿が。

 

 

 

「あ、あんたたち……もう、そこまで……」

 

 

 

さっきの勢いはどこに行ったのか……。今度は体を仰け反り、表情は真っ青になり、少し涙目になっている鈴。

そして、鈴の言葉の意味を理解した一組の面々もまた、手元で口を覆い、その頬を朱に染めているもの達で溢れかえっている。

箒とセシリアも顔を赤くしては、プルプルと震えているようであった。

 

 

「えっと……あの……鈴さん?」

 

「わかってたわよ……あんたと楯無さんの事は分かっていたけど……!

そんな破廉恥な事を平然とするなぁ‼︎ この変態っ‼︎」

 

 

 

感情が爆発した鈴。

甲龍のアンロック・ユニットが両方ともに稼動する。

空気を収束する機械音と、徐々に形成されていく空気の砲弾。

 

 

 

「お、おい! 死ぬ死ぬ! 絶対に死ぬぅぅぅぅ!!!」

 

「このバカ一夏あぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

放たれた衝撃砲。咄嗟に判断し、白式の両手部分の装甲だけでも展開し、腕をクロスさせて待ち構える。

それでも、大怪我を負うのは必然だろう。

覚悟を決め、目を瞑り、全身に力を入れて、その砲撃を受けようとした……が、いつまで経ってもその衝撃が襲ってこない。

そっと目を開けて見てみると、目の前には、黒い機影が一つ。

 

 

 

 

「こんなところで暴れるな……騒々しい」

 

「なっ!? あんたは……!」

 

「ラウラ!?」

 

 

 

 

そう、龍砲を止めたのは、あろう事か今まで敵対していたラウラだった。

その身に纏っているのは、彼女の専用機である『シュバルツェア・レーゲン』。恐らくはその手に展開するAICで鈴の衝撃砲を止めたのだろう……。

だが、象徴的な巨大なリボルバーカノンはなく、以前の装甲もやや少なめだ。

 

 

 

「無事か?」

 

「え? あ、あぁ。その、ありがとな」

「なに、礼には及ばん。私はお前に助けてもらった身だ……これくらいは当然の事だ」

 

「そ、そっか……。にしても、お前のISは無事だったんだな」

 

「あぁ、コアは無事だったのでな、装甲は予備のパーツを付けたに過ぎん……また本国と連絡を取り合って、レーゲンを修理せねばならん」

 

「体はもういいのか?」

 

「無論だ。だからここにいる。それより、お前こそ大丈夫なのか? 衝撃砲を生身で受けようなどと、バカのする事だぞ?」

 

「ま、まぁ……それは……」

 

 

 

苦笑いを浮かべながら、一夏は鈴を見る。

すると鈴もバツが悪そうな顔になり、やがては頭を下げた。

 

 

「そ、その……ごめん……混乱しちゃって……」

 

「いいよ。結局怪我は無かったからさ……でも気を付けろよ? 今の千冬姉が見てたら、出席簿アタックが炸裂するんだから……」

 

「あら? 一応生徒会室である私もいるんだけど?」

 

 

扇子を広げ、呆れ顔の刀奈が前に出る。

その扇子には、『厳重注意』の文字が書かれていた。

 

 

「まぁ、私たちがした事も……まぁ、やり過ぎたわね。でも、だからってISで生身の人間を攻撃するのは、厳禁……! それは分かっているわよね? 鈴ちゃん?」

 

「は、はい……すみません」

 

「反省しているならよろしい……! ほら、早く二人ともISを解除なさいな……それからセシリアちゃんと箒ちゃんも、ライフルと日本刀をしまいなさい?」

 

「「っ!?」」

 

 

ばれてたか!? と言わんばかりにビクっ!と体が震える二人。だが、刀奈の説教が効いたのか、すぐに納めてくれた。

鈴とラウラがISを解除し、これで一件落着……とまではいかないかも知れないが、なんとか大きな騒ぎにならずに済んだ。

よくよく見ると真耶の表情もホッとしている様に見えた。

 

 

 

「ん、そう言えば、一つ言い忘れていたことがあったな……」

 

 

急にラウラが自分の席に行くのを止め、再び教壇の前に立った。

そして、クラスの全生徒に対して、頭を下げたのだ。

 

 

 

「えぇー、今回は、私のせいで皆に多大なる迷惑をかけた事を詫びたい。

謝って済む問題では無いのは分かっている。だが、謝らせてくれ、すまなかった!」

 

 

 

かつての彼女なら、謝る事すらもしなかっただろうに……。

今深々と頭を下げる彼女を、誰も責めなかった。

 

 

 

「じゃあ、僕も謝らないとね……」

 

 

そう言って、席を立ち上がったのは、シャルロット。

彼女はラウラの隣に立つと、ラウラと同じ様に頭を下げた。

 

 

「今までみんなを騙す様な事をして、本当にごめんなさい! 僕の家庭の事情で起こした事とはいえ、みんなに嘘をついていました……。

でももう、僕はなにも隠したりしません! これからは、一IS学園の一組の “シャルロット・デュノア” として、一から学び直したいと、思っています……!」

 

 

 

 

二人の謝罪にあっけにとられる一組の面々。

それを見て、一夏と刀奈が立ち上がり、二人の側にいく。

 

 

「俺たちからも頼むよ。この二人も、深く反省しているみたいだし……」

 

「生徒会としても、私個人としても、二人には学園に残ってもらってもいいと思っているの……みんなは、どうかな?」

 

 

 

ラウラの両肩に両手を置く刀奈とシャルロットの右肩に手を乗せる一夏。

二人からの提案に、クラスの面々はどうしたものかとうねっている様であったが、その場を立った人物がいた。

 

 

 

「私は賛成だなぁ」

 

「俺もだ」

 

「アスナさん……キリトさんも……‼︎」

 

 

 

二人は振り返り、クラスのみんなの顔を見渡した。

 

 

 

「みんなが困惑するのはもっともだけど、私は、シャルロットちゃんにも、ボーデヴィッヒさんにもこの学園に残ってもらいたいと思っているの。

確かに二人は騒動を起こしてしまったし、嘘をついていたけど……でもそれは、二人の望んだ事じゃ無いの。

結果的には、迷惑をかけたのかもしれ無いけど、一度だけでもいいから、二人を、許してあげてくれないかな……?」

 

「俺からも同じだ。人間誰しも一度は間違う生き物だ……。そのまま間違って進むのか、反省してやり直すのかは、その人次第……。

でも二人は、反省してやり直す道を選んだんだ……難しいかもしれないけど、二人をこのクラスに居させてくれないか?」

 

 

 

明日奈と和人の請願を聞き、再び沈黙が流れる。

だが、クラスの面々の顔には、もう迷いの色は見えなかった。

 

 

 

「仕方がありませんわね……」

 

 

 

教室の後方で立ち上がった生徒からの言葉。

そして、それを言った生徒は優雅にラウラ達の元へと歩み寄る。

 

 

 

「セシリア……」

 

「いいですか、ラウラさん、シャルロットさん?」

 

「ん……」

 

「は、はい!」

 

「ラウラさんとは、浅はかならぬ因縁がありますわ……私としては、すぐにそのことを割り切れと言われても、出来ることではありません……」

 

「……」

 

「ですが、もういいですわ……」

 

「なに?」

 

 

 

 

セシリアの言葉に耳を疑ったが、確かに彼女は言った……もういい……と。

 

 

 

「何を言っている? 私が言うのもなんだが、貴様には私を国際IS委員会に突き出す権利があるのだぞ?

それを自ら放棄すると言うことかなのか?」

 

「ええ、その通りですわ。私としては、あなたの挑発に乗り、返り討ちにあったなどと本国の者に伝えるのが嫌なだけです……。

それに、もう既にあなたには一矢報いることができましたもの……それが銃ではなく、剣によるものでしたが……」

 

「だ、だかな……」

 

「くどいですわよ。わたくしは気にしておりませんので、悪しからず。鈴さん? 鈴さんはどうしますか? 今ならラウラさんに一発くらいは許されるのではなくて?」

 

 

 

全員の視線がセシリアから鈴に移る。

鈴は一瞬ドキッとして、顔を硬直させたが、直ぐに元通りになり、真っ直ぐラウラとシャルロットを見据える。

 

 

 

「ちょっと、この状況で私が殴ったら、私が悪者みたいじゃない……‼︎ でもまぁ、私も別にいいわよ……セシリア同様、あんたには力いっぱいの一太刀を浴びせてやったんだから、もういいわ……。

シャルロット……あんたには別の意味で怒ってるわ……!」

 

「な、なに?!」

 

 

 

ムッとシャルロットを一睨みする鈴の視線に、シャルロットが怯える。鈴はシャルロットに近づいていき、その目の前まで迫った。

 

 

「え、えっと……鈴?」

 

「私が許せないのはね……一夏と一緒の部屋で生活した事よ!」

 

「……え?」

 

 

てっきり、嘘をつき続けてきた事に対しての怒りが来るのかと思っていた為、シャルロットは少し拍子抜けしてしまった。

 

 

 

「『……え?』じゃないわよ! 箒と楯無さんとは一夏は一緒に生活してたのに……! なんで私は除け者なのよ!」

 

 

今度は隣にいた一夏にも睨みを効かせる。

 

 

「いや、だって仕方ないじゃないか……。俺だって最初はシャルロットの事を男だと思ってたわけだし……それに、もしばれて、その後シャルロットがこの学園に居辛く無いようにと思って、俺もできるだけサポートしようと……」

 

「ふーんだ! 幼馴染なんだからいいじゃん! 一夏のバカ!」

 

「うぅ……なんか、ごめん」

 

「はいはーい! 鈴ちゃんも許してくれたというわけで……みんな、改めて、二人がこの学園に残る事に賛成してくれるかな?」

 

 

 

最後は刀奈が締めくくり、みんなに問いかける。

元々決めていた事が二人の許しを得て、さらに迷いがなくなったようであった。今度こそ、教室にいた全員の声が揃った。

 

 

『『『賛成ーーーーっ!!!!』』』

 

「っ!」

「みんな……!」

 

「よかったな、ラウラ、シャルロット……」

 

「あぁ、そうだな……本当に感謝する……!」

 

「うん、ありがとう……みんな! ありがとう……一夏!」

 

 

 

心より感謝の意を示すラウラと、涙目ながらにお辞儀をするシャルロットをみて、少なからず、一夏の心は晴れたものになった。

そして、改めて、ホームルームを始めようと、真耶が教壇に立とうとし、一夏たちも席に戻ろうとしたその時、一夏の腕が何者かに掴まれた。

 

 

「ん? どうしたんだ、ラウラ?」

 

「一夏、お前に頼みがある!」

 

 

改まってなんなのだろうと首を傾げて待っていると、ラウラは片膝を付いたと思ったその事、両膝を付け、頭を下げ、三つ指にした両手を下げた頭の前に添える。

 

 

「織斑 一夏! 私を、お前の弟子にしてくれ‼︎」

 

「…………え?」

 

『『『『弟子ぃぃぃぃーーーー!!!!??』』』』

 

「えっと、ラ、ラウラさん? 弟子入りしたいとは……どう言う意味で……?」

 

「どう言う意味もこうもあるか……そのままの意味だ。私はお前に弟子入りしたいと言っているのだ……!」

 

「いや、俺は弟子なんて取ったことねぇし、お前の師匠は千冬姉だろ!?」

 

「教官は教官だ。師匠とは違う。だから教官は師匠には反映されない」

 

「無茶苦茶言ってんな、それ!」

 

 

 

しかもどこで覚えたのか、土下座をしっかりと決めている。

それでは一夏が悪者のように見えて仕方が無い。

 

 

 

「え、えっと、ラウラ、とりあえず立たないか? なんか、俺が悪いみたいじゃん?」

 

「いや! 貴様が私を弟子にしてくれるまでは、私はここを動くつもりはない! さぁ、どうするのだ? 弟子にするのか、否か!」

 

「なんでお前が仕切ってんだ?! 頼み込んでるのお前だろう!?」

 

 

 

もはやなんでもありになってきたこの状況で、誰かに助けを求めた買ったのだが、よく見ると、和人と明日奈は苦笑いを浮かべてこちらを見ており、刀奈に至ってはニコニコしながらこちらを見ている。

他の生徒たちもどうするのだろうと、好奇の目で見ている……助けてくれる人間はいないようだ。

 

 

 

「え、えっと……ラ、ラウラ? その、一夏も困っているみたいだし、ここは一旦ホームルームが終わった後でも……」

 

 

 

流石に見かねたのか、シャルロットがラウラの肩にそっと手を添えて諭す。が、ラウラは断固として動く気配がない。

 

 

 

「いいや、私はその言葉を受けるまで動かん……! さぁ、どうするのだ?」

 

「ええ〜……」

 

 

 

このままでは本当に動かないのでは? と思っていると、不意に背中をチョンチョンとされる。

何事かと後ろを向いていると、山田先生が申し訳なさそうにこちらを向いていた。

 

 

 

「あ、あのぉ〜織斑くん? お取込み中に申し訳ないんですけども……早くしないと、ホームルームが終わってしまうんですよ……それに……」

 

 

 

俯いていた真耶の視線が教室の後方に向けられる。そこには、ある人影が一つ……。

 

 

 

「お前たちは何をやっているんだ……」

 

「げっ! ち、千冬姉!?」

 

「教官‼︎」

 

 

 

一夏の姉にして、ラウラの教官にして、このクラスの担任である織斑 千冬の登場により、笑いに満ちていた教室内が一気に静まりかえった。

千冬はそのままツカツカと一夏のところに歩いて行くと、右手に持った出席簿を振り上げる。

 

 

 

「『織斑先生』だ! 馬鹿者共が‼︎」

 

「ってぇ!」

「ううっ!」

 

「何やら騒がしいと思ったら、何をしているか……。ボーデヴィッヒ、お前は何故土下座をしている?」

 

「えっと、こ、これは……弟子入りしようと思っておりまして!」

 

「は? 弟子入り? 誰のだ……」

 

「一夏です!」

 

「ほう? お前が弟子を取ると?」

 

「いや、俺も今初めて聞いたんだよ……弟子なんて取ったことないから、どうしていいのかわからないし……」

 

「なるほどな……全く、何かと思えば……。おい、織斑。弟子の一人くらいいなくては、お前の成長は止まったままだぞ? こんなことでいちいち狼狽えるな、情けない」

 

「えっ?! 俺が悪いのか?!」

 

「別にそうは言わんが、いずれ社会にでれば、そう言う風にお前を習いたいと言う人間が現れるだろう……その都度狼狽えていたら、お前の印象は悪くなるだけだぞ……男なら、『任せろ』の一言くらい言ってのけろ」

 

「は、はぁ……わかりました……」

 

「はぁ……ほら、ボーデヴィッヒ。よかったな、織斑が弟子入りを許可したそうだぞ?」

 

「ほ、本当か?!」

 

「まぁ、俺がどれくらい出来るかはわからないけど……わかった。ただし、あんまり期待しないでくれよ?」

 

「いや、大丈夫だ。それでも私はお前の強さの秘訣を知りたいのだ……何も気張る必要はない。私の方から勝手に学ばせてもらうとする!」

 

「そ、そうか……えっと、こういう時は、よろしく? でいいのかな?」

 

「ん? まぁ、いいのではないか?」

 

 

 

差し出した一夏の右手に合わせるように、ラウラの右手が重なる。

ここに二人の因縁の解決と仲直り、そして、師匠と弟子という新たな関係が築けたのだった。

クラスの面々も、気づけば二人のことを祝うかのように拍手を送っていた。

 

 

「やれやれ、ようやくか……山田先生、申し訳ないが、あと五分でホームルームを終わらせてもらいますか?」

 

「は、はい! わかりました!」

 

 

 

 

長い間時間を使ってしまって、真耶に謝罪したあと、問題なくその日の一日の学園生活を過ごし、一日の終わりを迎えた。

放課後からは、また忙しくなる。

なんと、シャルロットに続き、ラウラまでもがALOに興味を示したということだった。

 

 

 

「でもラウラ、お前アミュスフィアをどうやって買ったんだ? 今まで興味を持ってなかったのに、いきなり湧いて、もうすでに揃えられているなんて……どうやったんだ?」

 

「それは、我が黒うさぎ部隊の副隊長であるクラリッサが用意したものだ。

クラリッサは、日本の文化に詳しいのでな、すでにゲットしていたものを、私が興味があると言った瞬間、国際便にてこれをドイツから送ると言われてな……。もちろん、すでにALOというMMOのソフトもインストール済みだ」

 

「…………用意周到だな……」

 

「まぁ、そこは優秀な部下を持った私の人徳だな……!」

 

「あはは……まぁ、それなら一緒に行けるってわけだな……今から俺はINしようと思ってるんだけど……どうする?」

 

「もちろん行く……シャルロット、お前はどうする?」

 

「もちろん行くよ! 寮の部屋の中からでも入れるんだよね?」

 

「あぁ、俺たちはいつもそうしてるぜ。そんじゃ、INしてからのやり方は、説明した通りだから、キャラネームを決めて、種族を選ぶ、そうしたら、各種族のホームタウンに転送されるから……あ! その前に、二人は種族は何にするのか、決めたのか? 出来れば教えてくれないか? 俺とカタナで迎えに行くからさ」

 

「そうか……そうだな……私は闇妖精種のインプにしようと思っているんだが……シャルロットはどうする」

 

「ん? 僕はシルフかな……これでも《疾風》を語ってるわけだしね……!」

 

「疾風……なるほど、リヴァイブのことか……! オッケー……じゃあ俺はシャルロットを、カタナがラウラを迎えに行くからさ、INしたら、しばらくの間待っていてくれるか? そうかからないとは思うんだけど……」

 

「うん! わかった」

 

「いいだろう……こちらが頼んでいる以上、そちらの要求に従う」

 

「よし、じゃあ向こうで会おうぜ」

 

「うん!」

「あぁ!」

 

 

 

 

その後の詳しい説明は中で話すとし、三人は寮の部屋へと戻っていった。

 

 

 

「あら、おかえりなさい」

 

「あぁ、ただいまカタナ」

 

 

部屋に入ると、すでに刀奈はアミュスフィアの準備を整えていたようだった。

 

 

 

「はい、準備はしておいたから、とりあえず着替えたら? 流石に制服のままじゃ皺になっちゃうし……」

 

「そうだな……じゃあ着替えるから少し待っててくれ」

 

「なんならぁ〜手伝ってあげようか♪」

 

「いや、それは流石に……!」

 

「ほらほら、はやく脱いで脱いで!」

 

「いや、一人で大丈夫だって……っ!」

 

「良いではないか♪ 良いではないか〜〜♪」

 

 

 

 

なんだかんだで抵抗はしてみたものの、結局脱がされ着替えさせられてしまった……。

好きな相手であり、結婚し、ともに生活していたとはいえ、流石に自分の着替えを見られるのは恥ずかしいことだ。

 

 

「さ、はやくダイブしましょ♪」

 

「あぁ、そうだな。二人を待たせるのも悪いしな……それで、カタナはラウラのところに行ってくれるか……? ラウラは、インプを選んだらしいんだけど……」

 

「インプね……了解。シャルロットちゃんは?」

 

「シャルロットはシルフらしい。だったら、同じ種族の俺が言った方がいいだろう」

 

「そうね。それじゃあ、行きましょうか」

 

「おう」

 

 

 

 

 

二人はベッドに横たわると、頭にアミュスフィアを被る。そして、互いに一度アイコンタクトを取り、頷きあう。

 

 

 

「「リンク・スタート!!」」

 

 

 

 

その言葉とともに意識が一気に現実から離れていく。

次の瞬間、目を開ければ、そこは幻想的な世界が広がっていた。

 

 

 

 

「ん……着いたか……」

 

「チナツ」

 

「おう、カタナ」

 

 

 

 

 

二人が今居るのは、アルヴヘイム・オンラインの世界観の中で中央部の都市にあたる《央都アルン》の《ユグドラシル・シティ》だ。

その都市を中心に、周りには九つの種族のホームタウンが存在する。

 

 

 

 

「さてと、それじゃあチナツは《スイルベーン》に行くんでしょう? 気を付けてね……」

 

「おう、カタナも気を付けてな、ラウラと合流したら、また《アルン》で落ち合おうぜ」

 

「了解!」

 

 

 

 

二人の背中から、それぞれ緑と水色の羽根が出現し、それを羽ばたかせ、上空へと上がっていく。

充分に上昇したあと、互いに手を振り、超高速で飛行する。

カタナはインプ領へ。チナツはシルフ領へと向かって飛んで行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どうでしたでしょうか?

ここから、ラウラとシャルのALOデビューが始まります!
それはそうと、この間やっとISの最新ゲーム『ラブ・アンド・パージ』を買えました!
しかも限定版で、中身はオリジナルサウンドの入ったCDと、猫の着ぐるみパジャマが愛らしいラウラのSDフィギュア、バニーのコスプレをしたセシリアが写ったタペストリーでした!
なかなか可愛かった(*^_^*)

そして、ゲームをかなり進み、現在楯無、箒、鈴、簪と攻略していき、今セシリアルートを攻略中であります!
いや〜、みんな可愛い♪
一番好きな楯無さんは、もうマジで可愛い過ぎです!


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