ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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やっと書き終わったぜ!


今回は、決着です。


第20話 一閃

「くうっ、うわあぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

会場内に響いたラウラの絶叫。

そして、そのラウラの専用機であるシュバルツェア・レーゲンは、大量の紫電を発生させていた。

 

 

 

「っ…………なんだ……」

 

 

 

なんだ……その一言に尽きる。

一夏が放った九頭龍閃のダメージを受け、倒れていたラウラの変貌に、技を放った一夏自身も驚いていた。

だが、それも束の間……。いきなりラウラの絶叫が止むかと思いきや、今度は専用機のほうに変化が起きた。

 

 

 

 

「ううっああっ! うわあぁぁぁ!!!」

 

 

 

更に苦しむラウラ。そして、その専用機であるシュバルツェア・レーゲンは、その形を保てないまま、ドロドロに溶けていき、形無き鉄塊へと変わっていく。

その鉄塊は、ラウラの肢体にまとわり付き、やがてラウラすらも飲み込んでしまった。

 

 

 

「……ぁ……あぁ……」

 

 

言葉が出ない。呆然と立ち尽くす一夏……いや、一夏だけではなく、刀奈も、箒も、そして、観客席で見ていた生徒及び教員すらも、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。

やがて、ラウラを飲み込んだその鉄塊は、形を整えていく。だが、元のレーゲンの形ではない。装甲は薄く、まるで “侍の鎧” のような形になっていき、その手には、“ある刀” が握られていた。

 

 

 

「まさか……! あれは……」

 

 

 

その姿には、見覚えがある。

それは一夏にとって、いや、全世界の人間にとって、象徴的な存在の人物が用いた武具……。

全身が真っ黒な装甲……真っ黒な刀。だが、その機体と、その機体を身に纏っている人型は、見間違うはずのないものだった。

 

 

 

 

「雪片……っ‼︎ 馬鹿な、じゃあ、あれは……暮桜なのか……!?」

 

 

 

 

その刀の銘は、雪片。そして、それを扱える人物は、一夏を除いてただ一人。

その武器一本で、世界の強者達を斬り伏せ、頂点に立った人物……他ならない、一夏の姉の千冬だ。

そして、その武器である雪片も持つ機体は、一夏の白式ともう一つ。その千冬が、現役時代に使っていた専用機。後に訓練機の打鉄のベースとなったそのフォルムは、紛れも無い、《暮桜》のものだった。

 

 

 

「ーーーーッ!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

暮桜擬きは周囲を見回して、一夏の姿を捉えると、構えたのと同時に即座に斬り込んで来た。

一夏はそれに反応し、雪片を雪華楼で受ける。が、先ほどとはまるで別人のようなパワーとスペックの斬撃に、一夏の表情が曇る。

 

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 

鍔迫り合いへと持ち込んでみて、初めてわかったこと。

それは、剣の軌道、捌き方、身のこなし……その全てが、千冬のものと同じだったという事。

 

 

 

「くそったれ……!!!」

 

 

雪華楼を振り切り、一度暮桜擬きを突き放した一夏。まともに正面からやりあったのでは、パワーで劣る自分に不利だと思ったからだ。

 

 

 

(一度距離をおいて、神速でーーー)

 

 

 

だが、一夏の考えが通る事はなかった。何故なら、暮桜擬きと離したはずの距離が既に無かったからだ。

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「ーーーーッ」

 

 

 

暮桜擬きは一気近づくと、下段から一夏の首筋めがけて一閃。迷いの無い剣閃を見舞う。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

だが、一夏とてただ殺られようとはしない。

咄嗟に体勢を後ろへ反らし、顎を上げる事によって、紙一重で斬撃を躱す。

が、それで終わる暮桜擬きでは無かった。

今度は、そのまま左薙に一閃。これを一夏は、体を屈めて避ける。

そこからの上段唐竹に剣を振るう。

これは避けきれないと判断した一夏は、雪華楼で受け止める。

その剣撃を受け止めた瞬間、とてつも無い衝撃が、一夏の体を襲った。

一夏が立っている地面には、今の衝撃で罅が入り、一夏の足も、そのせいで若干埋まってしまった。

 

 

 

「くっ……ッ! なんなんだ、こいつは……っ‼︎」

 

 

 

ジリジリと雪片の刀身が近づいてくる。

もしもその刀……雪片の能力までも同じだったとしたら……。

 

 

 

(バリアー無効化が実装されていたとしたら……一発貰っただけで殺られる……‼︎)

 

 

 

攻め斬られると思った時、真横から真っ赤な斬光が閃く。

その衝撃によって、暮桜擬きは吹き飛ばされるも、すぐに体勢を整えては、正眼に構える。

そして、真横からきた斬光を放った者……それはもう一人しかいなかった。

 

 

 

 

「カタナ……!」

 

「何してるの? 言いように攻められちゃって……」

 

 

暮桜擬きが吹き飛ばされたと同時に、一気に脱力感が襲った為、片膝をついていた一夏。

そこにサッと自然な流れで左手を差し出す刀奈。

 

 

 

「悪い……いきなりだったんでな……それに……」

 

 

キッ、と暮桜擬きを睨む一夏。

そんな一夏の顔からは怒りの色が見えていた。

 

 

「少し落ち着きなさい……。ここで熱くなったら負けよ」

 

「あぁ、わかってるよ。でも、やっぱりこれとそれとは別問題なんだよ……‼︎」

 

 

 

一夏が許せない理由……それはなんと言ってもその姿、その剣技……全てが千冬のものと同じであるという事。

しかし、奴は千冬本人ではない。ただの偽物、ただ動きを模倣して、意志なく刀を振り回しているだけの存在。

そんな者に、自身の憧れの剣を汚されてしまっている事に、一夏は大いに怒っていたのだ。

 

 

 

「あいつ……! 千冬姉と同じ居合い、同じ剣技を使いやがった……! あれは、千冬姉だけの物なんだ! あの剣は……あんな出来損ないの、錆びついた剣じゃない!」

 

「…………」

 

 

 

一夏の気持ちは分かっている。

長い間一緒に暮らし、気持ちを打ち明け合い、それが通じ、愛し合った。

だからこそ、一夏が何に苛立っていたのかくらい分かる。自身の憧れである千冬の剣を見てきた一夏にとって、それはとても綺麗なものだったはずだ。

だが、目の前にいるのは、同じく千冬に憧れを抱いているラウラであるのにもかかわらず、だだの見様見真似で放たれた千冬の剣を振るう偽物。

その剣技に意志はない。ただ殺す為の剣。そこに自身の心内があるわけではないのだ。

だからこそ、許せないのだ……大切なものを汚されているようで……。

 

 

 

「チナツ……あなたが、織斑先生にどれほど憧れていたか、それは痛いほどよくわかっているわ……。

でもね、だからこそだと思うのよ……。ラウラちゃんも、織斑先生に憧れ、強くなろうとした……その心内が、あの姿なんだと思う……」

 

「それはつまり……あいつの願望、あいつが望んだ姿が、アレだって言うのか?」

 

「ええ、そうね。ヴァルキリー・トレース・システム……アラスカ条約で禁止されている禁忌のシステム。

あれは十中八九それね。そして、ラウラちゃんはあなたに負けて、より力を求めた……その結果があれ……。

力を求め、なりたいと思った願望……それが織斑先生だった……」

 

 

 

その言葉、以前自分が千冬自身に話した事だった。

自分も “千冬のようになりたい” と思い、無理をして人を救おうとした結果、何も守れなかった……。

今度は、それをラウラがやっているのだ。 “千冬になりたい” と願った事で、自分自身を消し、偽りの千冬を生み出した。

 

 

 

「それが本当なら、全くもって酷い話だな……まるで古い鏡を見せられているみたいだ……」

 

「全くよ。私がどれだけ今のチナツに変えたか……本当に大変だったんだからね」

 

「わ、悪かったよ……。でも、ありがとう。カタナがいたから、俺は変われたんだ……。

だから、今度は俺が、あいつの目を覚まさせないとな……‼︎」

 

「あなたに全てを押し付けたりはしないわよ。私は生徒会長、生徒達の長。だったら、私にだってラウラちゃんを止める義務があるんだもの……」

 

「そっか……じゃあ行こう……! 二人で!」

 

「ええ、行きましょう!」

 

 

 

刀奈の右手には、既に展開済みの紅い長槍《龍牙》が展開されている。

そして、今度は左手をかざす……。すると、量子が収束し、新たな長槍が現れる。

 

 

 

「《煌焔》ッ!」

 

 

 

同じ紅い長槍なのだが、所々の細部が龍牙と異なる長槍《煌焔》を展開し、ニ槍を自由自在に振り回す。

左手に展開し煌焔の槍先を暮桜擬きに向け、右脚を引き、中腰の姿勢。右手の龍牙は地面と水平になるように腕を伸ばして構える。

SAO時代、数少ないユニークスキル持ちであり、和人の〈二刀流〉同様に手数で敵を圧倒する攻撃的スキルの一つ、刀奈をカタナたらしめたユニークスキル〈二槍流〉。

元来槍を片手で扱った者がいないために、刀奈の存在は、SAOにおいて貴重なものとなっていた。

左右で槍を振るう規格外のプレイヤー。二刀流同様に、洗練された者にしか習得出来ないスキルだ。

 

 

 

 

「久しぶりだな。カタナの〈二槍流〉……」

 

「ここで出し惜しみはないでしょう? それに、チナツの “奥義” は、流石に使えないでしょうし……」

 

「あぁ……アレを使ったら、“ラウラを殺しかねない” からな……」

 

 

 

 

チナツの奥義……SAOでもたった二回しか使った事のないスキル。その二回もフロアボスという超が付くほどの強力なボスモンスター相手にしか使わなかった……。

だが、逆を言えば、それだけに “強力過ぎる” 為に使うわけにはいかない。

 

 

 

 

「さてと、あいつの剣は、偽物でも千冬姉の剣だ……。あいつは俺が止めるから、カタナはあいつの隙を突いてくれ」

 

「オーケー! それじゃあ、行くわよ!!!」

 

 

 

一夏が駆け出す。それに対抗して暮桜擬きも動く。

上段から振り下ろされる雪片を躱し、一夏は暮桜擬きに対して龍巻閃で対抗。

暮桜擬きはこれに反応し、素早く雪片を返してこの剣撃を受け止める。

カンッ! という甲高い鳴り響く。

だが、受け止めた後、力尽くで一夏を引き離す暮桜擬き。だが、間髪入れずに紅い二槍が暮桜擬きに迫る。

 

 

 

「《ダブル・スピアーズ》!!!」

 

 

鋭い突きが炸裂する。

が、咄嗟に判断し、暮桜擬きは雪片で防ぐ。

そのあとは雪片を振るい、刀奈を攻めていくが、左右の槍を巧みに扱い、追撃を防ぐ。

二槍による刀奈が作り出す防御結界。二槍の間合いに入った攻撃を弾いていく。

 

 

 

「ーーーーッ!」

 

「甘いッ!」

 

 

 

雪片の突きを右の龍牙の突きで弾き、逸らす。ガラ空きになった暮桜擬きの頭部に左の煌焔で左から薙ぎ払う。

刃の部分が暮桜擬きの頭部を斬り裂くかと思ったが、あろうことか暮桜擬きは空いた左手で槍を掴む。

 

 

 

「くっ!」

 

「ーーーーッ!」

 

 

 

雪片が刀奈を襲う。

が、その刀身が刀奈を斬る事は無かった……。何故なら、それを阻むかのごとく、“水” が纏わり付いていたからだ。

 

 

 

「ーーッ!?」

 

「カタナ!!!」

 

「っ!」

 

 

一夏が斬り込む。鋭い剣撃が、暮桜擬きの胴を斬り裂く。

強固に纏わり付いた暮桜擬きの装甲の一部が剥がれるも、まだ怯まない。

一度距離を取り、再び剣を向ける。

 

 

 

「くっそ! 装甲硬すぎるだろ!」

 

「反応速度もただのコピーにしては速いわね……二人で攻めるわよ。私とあなたの手数だったら、必ずこじ開けられるわ」

 

 

 

 

一夏と刀奈が構える。それに応じ、暮桜擬きは下段に構える。

刀奈は先程と同じ構えを取り、一夏は切っ先を向けた状態で、八相の構えを取る。

睨み合いも一瞬。相互が駆け出して、衝突する。

その衝突によって、激しい衝撃波がアリーナ内を襲う。

 

 

 

 

「…………凄い……」

 

 

 

 

そう発したのは、打鉄を外し、その場に立ち尽くしていた箒だった。

刀奈にやられた後、一夏とラウラの戦いを見ていた。そして、暴走したラウラが、暮桜擬きと変化した時、咄嗟に戦おうとしたが、すぐに止めた。

その理由は、ISがない事と、刀奈に止められたからだ。

たとえ打鉄が稼働可能な状況にあったとしても、刀奈は止めただろう……。その時は思いもしなかったが、今の戦闘を見るからに、自分の入る余地がないと、箒は悟ってしまった……。

 

 

 

(何故、何故私はここに立っているんだ……私にだって、何かできる事があったはず……なのに……!)

 

 

 

歯を食いしばり、拳を強く握る。

 

 

 

(……っ! 次元が違い過ぎる……‼︎ たとえ打鉄が稼働できたとしても……私は……)

 

 

 

箒とて剣を習い、精進している身だ。

剣道でも、全国大会で優勝できるほどの実力を身につけた……。だが、今目の前で行われている戦闘を見て、正直、絶句した。

次元が違い過ぎる……。自分が歩んできた道だって、そう簡単な道のりでは無かった……だが、目の前の二人の戦闘を見るに、自分のやってきた事がまるで子供の遊びだったのではないかと思ってしまうようだった。

自分も、一夏の隣で戦えると思った。だが、果たしてそうだろうか……。

考えるのと同時に、改めて知らされた……。

一夏と刀奈、また、和人と明日奈は、自分の遥か先を歩んでいると……。

 

 

「私は……」

 

 

苦痛に満ちた箒の言葉は、激しい剣戟の音で掻き消された。

 

 

 

 

 

〜管制室内〜

 

 

 

「山田先生、突入部隊の状況は?」

 

「各員、準備出来てます……いつでも突入出来ますが……」

 

「ん……どうした?」

 

 

 

映像で確認していた真耶は、一旦言葉を切って、再び千冬に向き直って話す。

 

 

 

「これは……突入したところで、二人の邪魔をするんじゃあ……」

 

「ん……」

 

 

真耶の言う事は、冗談ではなく本気だった。

突入したところで、今行っている戦闘に支障をきたさないか……いきなりの突入で戦況が変わり、犠牲が出ないか……それを心配していた。

どうやら千冬も同じだったらしく、言葉に詰まっていた。

 

 

 

「だが、突入しないわけにはいかないだろう……いつまでもこのままにしておくわけにはいかない。いくらあいつらが、他の代表候補生を凌駕し、圧倒できると言っても、あいつらは生徒だ。

我々教師が守らなくてはならない存在だ……。生徒たちを信じた……なんて聞こえの良い言葉だが、そんなのはただの偽善だ」

 

 

 

鋭い目つきでモニターを睨む。

弟である一夏と教え子であるラウラ……。その二人が戦うのだから、何かが起こるかもしれないと思っていたが……まさかこのような事態になるとは思ってもみなかった。

できる事なら、自分でこの事態を収めたいと思っているが、自分がここを動くわけにはいかないため、我慢している。

 

 

 

『織斑先生』

 

「ん?」

 

 

 

 

通信が入り、別のモニターにその発した人物の映像が映し出された。そのモニターには、突入部隊が待機しているゲート内の映像。

だが、そこから聞こえてきたのは、教師の声ではなく、“男子生徒” の声だ。

 

 

 

 

「何故お前たちがそこにいる。桐ヶ谷、結城」

 

 

 

教師部隊の中に、IS学園の制服を着た生徒が二人。

和人と明日奈が、突入部隊の教師たちと一緒に居たのだ。

生徒達の避難は完了したとの報告を事前に受けていたために、まさか居るとは思っていなかった。

 

 

 

 

『俺たちも突入部隊として中に入ります。許可をいただけませんか?』

 

「何をいっている……。お前達は生徒だ。生徒は避難をするよう指示が出ていたはずだが?」

 

『すみません……分かっていて無視しました。この状況を打破するには、二人だけでも充分だとも思いましたが、念のため、私たちも突入して、チナツくんたちのサポートに入ります』

 

「結城、貴様まで何を言っているんだ。お前達の出る幕は無い。早々に避難場所まで行って待機していろ!」

 

『ですが、今のままじゃ二人とボーデヴィッヒさんを危険に晒すと思います!』

 

「どういうことだ?」

 

 

和人の発言に疑問を持った千冬。

 

 

 

『このまま行けば、確かに数が多いチナツたちの有利かも知れません……でも、囚われているラウラの状態もそうですし、何より “ラウラを生かしたまま” 事を収めようとするには、かなりの神経を使う……!』

 

「っ?! お前は、織斑と更識が、ボーデヴィッヒを殺しかねないと……そういうのか?」

 

『チナツくんの技も、カタナちゃんの技も、私たちの技も……全て殺す為の技、でしたから……。

それに、相手も相当できるみたいですし、手加減ができる状態でも無いみたいです……だったら、より確実に、相手を衰弱させて、この状況を看破したほうが良いと思います!』

 

「…………」

 

 

 

一夏の剣技を見て、そして実際にその剣技と打ち合った。

一夏自身の身体は、まだ万全なものでは無かったが故に、軽くあしらえたが、今は違う。

万全も万全。完璧に整った状態で剣を振るっている。

ラウラともみ合っていたあの時に感じた一夏の殺気。それを乗せて放たれた剣技。手加減ができる相手では無いからこそ、最悪の場合がある……。

今戦っている二人も、モニターに写っている二人も、敵を屠る為に戦ってきた技を習得している。それなりに場数も踏んでいる。

そして何より重要な事は、一夏と刀奈が、“相手を殺す覚悟ができる人間” だという事だ。

一夏の話を聞く限り、一夏は相当な人、プレイヤーとの殺し合いをしてきた……そして刀奈の家の事情、家柄も、当然ながら千冬は知っている。裏に通じている暗部の家系……最悪の場合ターゲットの殺害命令も下る事があるくらいだ……それなりの訓練も施されているに違いない。

ならば、ここは明日奈の言う通りにしたほうが建設的だ。

それに、明日奈の眼を見て、その眼が、普段の彼女と明らかに違う事に気づく。

お淑やかな雰囲気漂う普段の眼が、今はどこか歴戦の戦士の様な雰囲気を戻っていた。

 

 

 

「……分かった。だが、何が起こるか分からん状況だ。一応、教師部隊も突入させる。鎮圧は、お前たちでやれ。

お前たちならば可能なのだろう?」

 

『『はい‼︎』』

 

「よろしい……では、桐ヶ谷、結城を含めた教師部隊は、即座に突入開始‼︎ 戦いには手を出さず、様子を見ろ。暴走機の動きに合わせて、臨機応変に対応しろ。いいな」

 

『『『了解!!!』』』

 

 

 

 

教師と和人、明日奈が返事をし、即座にISを展開。カタパルトデッキから一斉に飛び出していった。

 

 

 

 

 

〜アリーナ中央〜

 

 

 

激しい剣戟の音が鳴り響いていた。

二本の紅い長槍と純白の刀が素早く、鋭い攻撃を仕掛ける。それに応戦し、黒い長刀を振るう機体。

戦闘が始まってもうすぐ10分が経過するかと思った頃合い……その攻防は、激しさを増していた。

 

 

 

「おおぉぉぉ!!!」

 

「ーーーっ!!!!」

 

 

 

白と黒の刀が交錯する。

鋼がぶつかり合う音、そしてその時に散る火花。

一夏が斬り込めば、暮桜擬きもまた同じように斬り込む。

 

 

 

「龍巣閃・咬!!!」

 

 

一点集中型の乱撃技のスキルを放つも、これもまた暮桜擬きの雪片が同じ剣戟で返す。

 

 

 

「くっ! こいつ、学習してるのか?!」

 

 

 

暮桜擬きは、一夏と刀奈を相手にしながら、その動きについていってるのだ。

本来ありえない速度で一夏の剣の速さに追いつきつつあるのだ。

 

 

 

「チナツ、躱して!」

 

「っ!」

 

 

 

真後ろから刀奈の声が聞こえる。

それだけで一夏は動く。左斬り上げで雪片を打ち上げると、いきなりバク宙する。

その数秒後、翡翠のライトエフェクトに包まれた煌焔が暮桜擬きの腹部に突き刺さる。

槍スキルの単発刺突スキル《フェイタル・スラント》。

が、特に暮桜擬きは効いた様子もなく、飛ばされそうになった雪片を両手で掴むと、刀奈目掛けて思いっきり振り下ろす。

だが、刀奈もやられない。

振り下ろされた雪片の刀身を龍牙の槍先で沿わせて逸らし、雪片は空切って、地面に突き刺さる。

これは好機と刀奈は雪片を左足で踏んで、動きを止める。

前傾姿勢になっているため、ちょうど目の前に頭があるので、煌焔で横一閃。首元を斬り裂こうとするも、暮桜擬きは雪片から一旦手を離し、上体を反らせて躱した。

 

 

 

「っ!? なによその上手さ!」

 

 

 

コピーとは言え千冬の動きをトレースしている故に成せる技術なのか……。

結局空振り終わった刀奈の攻撃。

暮桜擬きはそこから、再び上体を戻して、刀奈に蹴りを入れる。刀奈は槍をクロスさせてこの蹴りをいなし、距離を取る。

 

 

 

「くうぅ〜〜。痺れるわね……にしても、着実に織斑先生の動きになってきてるわね……」

 

「あぁ、未だに攻撃を仕掛けないとあまり反応はしないけど、俺たちと打ち合うたびに剣捌きが良くなっている」

 

 

 

二人でどう攻めようか考えていた時、ふと声をかけられる。

 

 

 

「チナツ! カタナ!」

 

「二人とも無事?!」

 

「キリトさん、アスナさん……‼︎」

 

「二人とも! 来てくれたのね!」

 

 

 

一夏と刀奈の両サイドに降り立つ和人と明日奈。

 

 

 

 

「織斑先生から許可もらってきた……! 俺たちも一緒に行く。いいよな、チナツ?」

 

「キリトさん……」

 

「一人で抱え込むのは無し、だよ?」

 

「アスナさん……」

 

「チナツ、あなたは一人じゃない。私もいるから……」

 

「カタナ……」

 

 

 

 

ーーー……一人でなんでも抱え込むな。お前の周りには、お前のことを心配している者がたくさんいるんだ……周りの奴にもっと頼れーーー

 

 

 

 

 

ふと、千冬から言われた言葉を思い出した。

周りの人に頼れ……今がそのときなのかも知れないと、一夏は思った。

 

 

 

「それじゃあ、お願いします! キリトさん、アスナさん、カタナ……力を貸してくれ!」

 

「おお!」

「うん!」

「もちろん!」

 

 

 

 

四人が並ぶ。

それぞれの手には、愛用の武器を持って……。

黒の剣士、閃光、白の抜刀斎、二槍……あの世界に置いて、茅場 晶彦を除く最強の四人。

攻略組の中でも群を抜くその戦闘スキルの高さを有した四人が、再び出揃ったのだ。

 

 

 

「チナツとアスナで奴の動きを抑えてくれ。隙をついて、俺とカタナで押し切る」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 

 

和人の作戦に合意したところで、一夏と明日奈が動く。

閃光の二つ名を持つ明日奈と神速を持つ一夏。四人の中でも最速の二人が、先陣を切る。

 

 

 

「やあぁぁぁぁ!!!」

 

 

神速の刺突が暮桜擬きを襲う。

刺突一点に集中した明日奈の突きは、和人と一夏でも弾けない剣速を誇る。

暮桜擬きもなんとか捌いてはいる様だが、所々その剣先が装甲を抉り、傷をつけられる。

 

 

 

「チナツくん、スイッチ!」

 

「はい!」

 

 

 

明日奈が雪片を弾き、一旦離れる。

すかさず一夏が懐に入り、抜刀一閃。

 

 

 

「紫電、一閃ッ!!!」

 

 

 

真横に薙ぎはらうソードスキル。絶対防御が発動する。

だが、そんなもの御構い無しと言わんばかりに、体制を整えて、上段から振り下ろす暮桜擬き。

一夏はスキル使用後に起こる硬直からまだ抜け出せないため、動けない。

だが、一夏の顔に焦りはない。

その上を飛び越える機影に気づいたからだ。

 

 

 

 

「二槍流……《フレイム・レイン》っ‼︎」

 

 

 

両手の長槍が真紅に染まる。

そして放たれる、連続15回の高速刺突。二槍流スキルの技《フレイム・レイン》。

まさしく烈火の雨の如し……。

 

 

 

「キリト‼︎」

 

「オーライ!!!」

 

 

 

両手に持った白と黒の片手剣。その二振りの剣が、蒼穹に染まる。

そこから繰り出されるのは、左右の剣による連続16回攻撃のスキル……。

 

 

 

「《スターバースト・ストリーム》っ‼︎」

 

 

 

放たれる剣閃。縦横無尽に行き来する蒼穹のライトエフェクトが、暮桜擬きを斬り裂く。

 

 

 

 

「てぇ、やあああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

最後の一撃が、暮桜擬きに命中する。

すると、胸部から腹部にかけて、一本の筋が入る。

そこから、見覚えのある銀色の髪を発見し、やがてその銀髪の持ち主が姿をあらわす。

 

 

 

「ボーデヴィッヒさん!!!」

 

 

 

明日奈がすぐさま駆け寄り、落ちるラウラをキャッチし、その場を離れる。

これで一件落着……かと思ったが……。

 

 

 

「ーーーーーーっ‼︎」

 

「っ! キリトさん‼︎」

 

「っ!?」

 

 

 

斬り裂かれはずの暮桜擬きが再び雪片を手にする。

そして、一番近くにいた和人めがけて剣を振るう。

突然のことに明日奈たちも動けなかった……が、一夏が咄嗟に反応し、暮桜擬きと和人の間に割って入る。

振り下ろされる雪片の一撃を雪華楼で受けようとするが、

 

 

 

「ぬうぅ!? こ、れは……‼︎」

 

 

 

先ほどまでとは違い、格段にパワーが上がっていることに気づく。

そして、そのまま押し切られ、一夏と後ろにいた和人の二人が、勢いよく吹き飛ばされた。

 

 

 

「うわぁっ!」

「が、はっ!」

 

 

 

そして、先ほどの衝撃で雪華楼を手放してしまう。

 

 

 

「チナツ!」

「キリトくん!」

 

 

 

二人の下へと行こうとした瞬間、暮桜擬きから大量の紫電が吹き荒れる。

そのために、二人の下へと行くのを防がれた。

 

 

 

「くっ!これは……!」

 

「どうなってるの……? さらに暴走してるみたいだけど……」

 

「おそらく、核であるラウラちゃんを失ったことで、制御を仕切れてないのね……暴走してたっていうのに、更に暴走してるんじゃ始末に負えないわね……」

 

「キリトくん……チナツくん……」

 

 

 

紫電が止み、暮桜擬きの形はより歪な物になったものの……それでも展開された人型としての形と、手に持つ雪片だけは正確に形作られていたままだ。

 

 

 

「大丈夫か……チナツ?」

 

「えぇ、でも……雪華楼が……あ、」

 

 

 

 

そう言った途端、一夏の体が光に包まれ、やがてその光は虚空に消える。そして残ったのは、生身の体だけとなった一夏だけだ。

 

 

 

 

「くそ……雪片にシールドエネルギーを消滅させられたのか……‼︎」

 

 

 

一気に襲ってくる脱力感。

ラウラとの戦闘、そして、暮桜擬きとの戦闘でエネルギーを消費してしまっていた為に、雪片のバリアー無効化攻撃で残りのエネルギーを消滅させられたのだ。

 

 

 

 

「チナツ、ここは一旦引くぞ」

 

「了解です」

 

 

 

和人は一夏を抱えて、その場を離れる。

暮桜擬きがそれを追おうとしたが、周りで控えていた教師部隊のISによる攻撃を受け、停滞する。

その間に、和人たちは明日奈たちと合流し、態勢を整える。

 

 

 

 

「チナツ、大丈夫?」

 

「ああ、怪我は無いよ……ただ白式には少し無茶をさせちまった……」

 

「あとは教師部隊に任せるべきか?」

 

「本当ならその方がいいけど……ボーデヴィッヒさんの容体も気になるし……」

 

 

 

そう言う明日奈の腕の中には、未だ意識の無いラウラの姿が……。

特に外傷は見当たらないが、精神にもダメージを負っていないとは限らない故、ここは一旦引くべきだと思っている。

が……。

 

 

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

「こ、こいつ、操縦者がいないのに……どうしてここまで……!」

 

「一旦距離を置け! 銃で圧力をかける!」

 

 

 

 

教師部隊との戦闘は、あまり芳しく無いようだった。

近づけば雪片による一撃があり、元々クロスレンジは絶対的な暮桜擬きの領域。

だが、ただの銃撃では倒しきれないのも現実だった。

 

 

 

 

「火力が足りてないみたいね……」

 

「わたしやキリトくんが加勢したほうがいいかな?」

 

「ソードスキルによるダメージが通るかどうか……それもわからないから……」

 

「…………いえ、アスナさんは、そのままラウラの保護を……カタナとキリトさんに、頼みがあります」

 

「ん? なに?」

「頼み?」

 

 

 

 

一夏の出した提案は、確かに効果的なものだった……が、それと同時に一夏自身と、和人の危険を伴うものだった。

 

 

 

「チ、チナツくん、本気なの!?」

 

「はい、これが一番の対応策です。これがダメなら、もう打つ手はありません」

 

「俺はいいが、チナツ、お前のエネルギーはどこから持ってくるんだよ」

 

「なるほど……そこで、私の出番ってわけね」

 

 

 

今までの話を聞いていた刀奈が、納得の表情で話す。

 

 

 

「つまり、私の専用機のエネルギーを、全部チナツに譲渡して、その時間稼ぎをキリトがすると……そして、最後のフィニッシュは、チナツが決めると……そう言うこと?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

 

 

刀奈の説明に、一夏が同意する。

 

 

 

「でもチナツ、どうやってあれを止めるの?」

 

「あれもISなら、エネルギーが存在する筈だ……なら、そのエネルギーを全部消してやればいい……そして、それが可能な武器はただ一つだ」

 

「そうか、同じ雪片なら!」

 

 

 

明日奈が気づく。一夏の専用機、白式もまた暮桜の武装である雪片の後継機、『雪片弐型』を持っている。

そして、何と言っても単一使用能力の存在。

対象のエネルギーを全部消滅させる最強の破壊力を持つ技『零落白夜』。

単一使用能力は、操縦者の意思が無ければ発動できない。故に、暮桜擬きにはできないのだ。

 

 

 

「私のエネルギーだってあまりないわよ? 譲渡できたとして、零落白夜にほとんどのエネルギーを消費するから、展開できるのは、最悪武器だけになる可能性が高い……。

あまりにも危険だわ……!」

 

「分かってる……だけど、これしかもう手が無いんだ。頼むカタナ、俺にやらせてくれ!」

 

 

 

最後の請願。明日奈はラウラの保護があり、和人には時間を稼いでもらわなければならない。

そして、エネルギーの譲渡には、お互いの信頼関係が重要になってくる。

明日奈や和人とも出来なくは無いかもしれないが、とても神経を使う作業故に、試したことの無い人同士では、成功率はぐんと下がる。

だが、現役の国家代表生である刀奈ならば、可能性は充分にある。

だが、刀奈とて一夏を危険な目に合わせたくわない。

効率がいいとはいえ、このまま一夏の指示に従っていいものか……。

しかし、もう答えは出ている……。

 

 

 

 

「はぁ……どうせ、私が止めてもやるんでしょう?」

 

「あぁ……」

 

「まったく……右腕を出して。私のエネルギーを受け渡すわ」

 

「っ! わかった。キリトさん、お願い出来ますか?」

 

「了解だ。時間はどれくらいかかる?」

 

「そうかからない……1分くらいで終わるわ」

 

「そっか……なら、初めっから全力でいくぜ!」

 

 

 

 

 

和人が再び双剣を構える。

そして、イグニッション・ブーストで暮桜擬きに接近し、エリュシデータで斬りつける。

 

 

 

「悪いが、もう少し付き合ってもらうぜ‼︎」

 

 

 

暮桜擬きが和人を弾き、引き離すも、再び和人を攻め入る。

右に左にと黒と白の剣閃が、縦横無尽に煌めく。

暮桜擬きもなんとか凌ぎ、いなしていくが、超攻撃特化されている上に超高速で放たれる剣技に、段々と反応しきれなくなっていっている。

 

 

 

「てぇやあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

双剣が翡翠に染まる。

二刀流スキル《インフェルノ・レイド》

命中率を重視した9連撃スキル。反撃されやすいスキルではあるが、斬り刻んだ相手が吹っ飛んでしまえば、何の問題もない。

通常攻撃からのソードスキルに対応出来ていなかったのか、9連撃をまともに食らった暮桜擬き。

しかし、また何事も無かったかのように立ち上がる。

 

 

 

「……っ、ダメージはある筈なんだがな……やっぱり、チナツの一撃じゃなきゃダメなのか?」

 

 

 

和人が視線だけ一夏達に向ける。丁度その頃、一夏は刀奈からエネルギーの供給を受けているところだった。

 

 

 

「後もう少しで完了か……ユイ、いるか?」

 

『はい! パパ』

 

「チナツ達の準備が終わるまで、もう少し時間がいるんだけど、それまでサポート頼めるか? なんだか、これで終わる予感がしないんだ……」

 

『わかりました! 大丈夫です、敵の動きは先ほどから観察してましたので、予測できます!』

 

「よし! なら、もう少し頑張るか!」

 

 

 

 

和人が突っ込む。

ユイに暮桜擬きの動きを逐一報告してもらうことで、さらに動きが良くなる。

 

 

 

『上段からの一撃! 来ます!』

 

「おっと!」

 

『続けて右から、立て続けに左下、刺突!』

 

「っ‼︎ 食らうかよ!」

 

 

 

 

和人とユイの連携がうまくいっている頃……一夏達は……

 

 

 

 

 

 

「コアバイパスの接続を確認。エネルギーの譲渡、開始」

 

 

 

刀奈の専用機からプラグを取り出し、それを一夏の専用機の待機形態であるガントレットへと差し込む。

プラグから、エネルギーが注ぎ込まれていく。

 

 

 

「ありがとな、カタナ」

 

「はぁ……もう、なんであなたとキリトはこう、面倒ごとに関わろうとするのかしらねぇ……」

 

「いや、好きで関わってるつもりは無いんだが……」

 

「チナツくん、それ、キリトくんと同じこと言ってる」

 

「うぅ……」

 

「本当、キリトくんもチナツくんも、私たちのことを考えてよね……二人が無理してでも戦いにいくたびに、私たちは心配してるんだから」

 

「はい……ごめんなさい。でも、だからこそですよ」

 

「「ん?」」

 

「俺もキリトさんも、大切だから、守りたいから戦ってるんです。

でも、簡単に死のうだなんて、もう思っていませんよ……ここにも、向こうにも、大切なものが一杯ありますから」

 

 

 

そう言って笑みを浮かべる一夏を見て、同じく微笑む刀奈と明日奈。

 

 

 

「分かってる。もう止めないわ。だけどね、チナツ。これだけは約束して」

 

「ん?」

 

 

腕の装甲を無くし、素手で一夏の手を握る刀奈。

 

 

 

「絶対に勝ちなさい。そして、ちゃんと私の、私たちのところに、キリトと二人で帰って来ること。

これだけは、ちゃんと守って……!」

 

「うん……約束する。絶対に勝って、必ず帰ってくる」

 

 

 

握られた手を、優しく握り返す。

そして、丁度その時、エネルギーの譲渡を終え、刀奈の専用機が量子となって虚空に消える。

 

 

 

「よし、行くぞ……!」

 

 

 

右手のガントレットを左手で掴む。

意識を集中させ、その名を呼ぶ。

 

 

 

「雪片、抜刀!」

 

 

 

右手に集まる量子。

やがて形を成していき、一振りの太刀が姿を現わす。

 

 

 

「頑張って、チナツくん!」

 

「はい、行ってきます!」

 

「チナツ!」

 

 

刀奈が呼ぶ。その顔は不安に満ちた表情だった。

止めはしないと言ったものの、やはり、一夏を危険な戦いには投じたくない気持ちがあるのだ。

 

 

 

 

「大丈夫だよ、そこで待っててくれ……」

 

 

 

 

優しい表情で言い切る。

そして、視線を暮桜擬きに向け、歩き出す。

 

 

 

「零落白夜、発動!」

 

 

 

一夏の体を覆う、金色の輝き。

物理刀状態だった刀身は、前後に別れ、その間からエネルギーで収束された刀身を形成する。

 

 

 

 

 

……一夏、剣とは振るうものだ……振られているようでは、剣術とは呼ばないぞ。

 

 

 

ふと、昔のことを思い出してしまった。

昔、まだ一夏が幼い頃、学生でありながら、自分を守ってくれていた千冬の姿。

篠ノ之道場で、初めて真剣を握り、感じた重み。

 

 

 

ーーー重いだろう。それが、人の命を絶つ武器の重さだ。

 

 

 

 

その言葉を、一度あの世界で思い返したことがある。

そして、その時、初めて知った……人の命を絶つ武器の重さと言うものを……。

 

 

 

 

(でも、なんでだろうな……IS専用の武器なのに、人を殺しかねない武器なのに……今は重さを感じない。

いや、むしろ、怖いくらいに手に馴染む……)

 

 

 

雪片を両手で握り締める。

そして一歩、また一歩と近づいていく。

 

 

 

 

『パパ、チナツさんの準備が整ったようです!』

 

「了解……んじゃ、あとは任せるぜ、チナツ……」

 

 

 

迫り来る雪片を弾き、後方へ引く和人。

そして、一夏と暮桜擬きは、対峙した。

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

何かをするわけでも無いのに、ただその場に緊張が走っている。

雪片を構え、いつでも行けるように臨戦態勢をとった。

 

 

 

「行くぜ、偽物野郎……‼︎」

 

 

 

先に仕掛けたのは、一夏だった。

それに応じ、暮桜擬きも動く。速さは当選、暮桜擬きの方が上だ。

右に腰だめていた雪片を、一夏に対して振り抜く。

 

 

 

ーーー止まるな! 剣に怯えず、そのまま攻め入れ!

 

 

 

また、昔を思い出していた。

数少ない時間の中で、千冬に剣を教えてもらった時の事を……。

迫り来る刀身。だが、一夏は止まらない。

 

 

 

(止まるな、攻め入れ……)

 

 

 

 

ーーー “受ける” のではなく、“受け流せ” 。そして、その力さえも利用しろ。

 

 

 

迫り来る刀身に、自身の握る雪片の刀身を合わせ受け流し、弾く。

そして、もう一歩踏み込む。

 

 

 

ーーそのまま踏み込み……

 

 

 

 

「一刀ーーッ」

 

 

 

ーーーー敵を絶てッ!!!!

 

 

 

「一閃ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

ズシャアァァァァーーーーン!!!

 

 

 

振り上げた上段からの一閃。

暮桜擬きの頭部から股下にかけて、一切の迷いもなく、一刀両断にしてみせた。

その衝撃によって、暮桜擬きはエネルギーを完全に消失してしまったのか、体を形成していた鎧は形を崩して行き、雪片もまたドロドロの状態になり、形すら残らないかった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………やった……のか……?」

 

 

 

 

一夏の体を覆っていた金色の輝きが消失し、雪片弐型は元の物理刀状態になる。

この一撃に意識を集中させていた為か、終わった途端に体の力が抜ける。

 

 

「んぁ?」

 

 

気づいたら尻餅をつき、座り込んでいた。

 

 

 

「ふぅー……」

 

 

 

そのまま仰向けに大の字で寝そべる。

そこに刀奈がやってくるのが見えた。明日奈はラウラを教師に任せ、急いで和人の元へと向かっていた。

そして、視線を戻す。一夏のすぐ隣に座り込む刀奈へと。

 

 

 

「お疲れ様。よくやったわね」

 

「あぁ、ドッと疲れたよ……」

 

「そう? なら、こうしてあげる♪」

 

 

 

一夏の頭を持ち上げると、そのまま自分の膝の上にポンと置く。

いわゆる膝枕だ。

 

 

 

「お、おい、カタナ……」

 

「いいじゃない。よく頑張りました♪」

 

 

 

刀奈の柔らかい手が頭を撫でる。

最初は恥ずかしさの方が勝っていたが、どんどん恥ずかしさよりも気持ちよさの方が勝っていく。

 

 

 

「…………ありがとう、カタナ」

 

「どう致しまして♪ さっきの後ろ姿、カッコよかったわよ。チナツ♪」

 

 

 

一方、もう片方は……

 

 

 

「キリトくん! 大丈夫だった!? どこもケガしてない?!」

 

「だ、大丈夫だよ。ユイも手伝ってくれたし……なぁ、ユイ?」

 

『はい! 私が付いていましたので、パパにケガは一つもありません!』

 

 

 

えっへんと言った表情で胸を張る愛娘。

愛娘の言うことに間違いは絶対ないと信じるバカ親の二人。明日奈もユイの言葉に安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

「そっかぁ〜……よかったよー。チナツくんも危なかったけど、キリトくんだって……」

 

「大丈夫だって……アスナとユイがいてくれるだけで、俺は頑張れるんだ……絶対に負けないし、絶対に死なないよ」

 

「キリトくん……」

『パパ……』

 

 

 

明日奈が和人の腕にしがみつく。

そしてユイもまた、ディスプレイの中で、映像に映る和人抱きつく。

 

 

 

「あっ! でも、一応検査はしよう? さっき織斑先生もそう言ってたし……」

 

「ん………そうだな。じゃあそれが終わって、飯でも食ったら、ALOに行くか……ユイも頑張ってくれたしな。今日一日は、ユイと一緒にいるよ!」

 

『本当ですか?! じゃあ良い子にして待ってます♪』

 

 

 

相変わらず可愛い愛娘に、緊張の糸が切れ、自然と微笑む二人。

 

甘々の雰囲気が漂う中で、謎の暴走事件はここで、一件落着と言うことになったのだった…。

 

 

 

 

 






どうだったでしょうか?


次回は、暴走事件終了直後から、臨海学校前までのお話…とさせていただきます^o^


感想お願いしまーす^_^


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