ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりの更新。

今回は、セシリアと鈴が頑張ります!




第17話 黒雨

翌日。

 

この日も何も変わらず一日が始まっている。ただ、その場の雰囲気は今までとは明らかに違い、緊張感が走っている様にピリピリとしていた。

学年別タッグマッチトーナメントまであと二日に迫った……皆それぞれのタッグを組み、訓練に明け暮れている。

特に三年生には各企業や組織、軍へのスカウト。二年生には一年間の成長を示す場。一年生は今現段階での技術の度合いを測ることが目的だ。それ故に皆ピリピリしているのだ。

特に今年は一年生における国家代表候補生の数と専用機の数が圧倒的に多い……それぞれの祖国の威信と誇りを無下にはできない故、例え学生間の対戦であろうと手を抜くことはできない。

 

 

 

「さてと……チナツ、そろそろアリーナに行きましょう。連繋訓練を再度確認するわよ」

 

「ああ、分かった。今行くよ」

 

「アスナ、俺たちも行こうか」

 

「うん! そうだね」

 

「では、私たちも行きましょう」

 

「そうだね。僕も簪を迎えに行かないと」

 

 

刀奈の言葉で一斉に動く。

一夏も和人も明日奈もセシリアにシャルロットも……。

それぞれが教室から出て行ったのを確認し、箒とラウラも動き出す。

それを見送った一年一組の生徒たちは、一斉に脱力感を味わった。

 

 

 

「ふぅー……やっと殺伐とした雰囲気が無くなった……」

 

「なんか……めちゃくちゃ息が詰まりそうだったよぉ〜」

 

「あの連中には、何を言っても無駄でしょ……」

 

「これが当日になるとどうなるのかと思うと……ゾッとするねぇ……」

 

「「「うん、うん……!」」」

 

 

 

このクラスにでさえ、すでに専用機持ちが七人はいる。

そして、その中に国家代表が一人、代表候補生が三人、企業代表が三人……それぞれの国と企業の代表として、負けるわけにはいかないのだ。そして、因縁のある一夏とラウラ、刀奈と箒の存在。深い因縁のことを皆が知っているわけではなくとも、雰囲気から察せる。

今回のトーナメントは……波乱の予感がしていた。

 

 

 

 

〜一夏・刀奈ペア〜

 

 

「チナツ、あなたはまだ射撃武器へと対処法を完全習得してないから、まずはそこをおさえるわよ」

 

「ああ、分かった。でも、連繋はしなくていいのか? VR世界とは違うし、そこも含めていった方がいいんじゃ……?」

 

「何言ってるの。私とチナツでしょう? すでにお互いの動きなんて把握してるじゃない。訓練するまでもないわ……あなたと私なら、誰にだって負ける気はしないわ…‼︎」

 

「…………それもそうだな。だが、油断せずに行こうぜ。必ず、キリトさんたちも倒してやる!」

 

「ええ、もちろんよ!」

 

 

 

〜和人・明日奈ペア〜

 

 

「チナツとカタナのペアは……まぁ、最後まで上がってくるだろうけど……あと注意すべきは……」

 

「シャルロットちゃんと簪ちゃんのペア……それと、あのラウラちゃんも相当強いって噂になってるよ」

 

「セシリアの専用機の情報はもうある程度入ってるし、鈴の機体もチナツとの対抗戦の時に大体は分かった……。

やっぱりあとは戦術だな……こっちはスイッチでどんどん攻めていくしかないだろうな」

 

「そうだね。私たち、遠距離射撃型の武器を一切持ってないし……」

 

「まぁ、その分は俺たち自身の剣技で補うしかないさ……頼りにしてるぜ “副団長殿” ♪」

 

「もう……。でもそうね。なら、私も頼っちゃうからね? “黒の英雄様” ♪」

 

「おいおい……。その呼び名は恥ずかしいからやめてくれよ、アスナ」

 

「良いじゃない♪ 私にとっては、キリトくんは英雄なんだよ?

ほら、早く行こう!」

 

「お、おい! 待ってくれよ!」

 

 

 

〜セシリア・鈴ペア〜

 

 

「いい、セシリア。今回は何としても勝つわよ……!」

 

「もちろんですわ……。やられたら倍にして返すのがオルコット家の教え……一夏さんと和人さんにはしてやられましたもの。今度こそ撃ち抜いてみせますわ!」

 

「そうね。私も一夏には散々斬られまくったし……今度はこっちがボコボコにしてやるわ……!」

 

「あら? 珍しく意見が合いましたわね」

 

「そうね。ホントに珍しいわね。それじゃあさっさと行くわよ! せっかくの特訓が、他の奴のせいで出来なくなったら意味ないしね!」

 

「そうですわね。では、参りましょうか」

 

 

 

〜シャルロット・簪ペア〜

 

 

「ごめんお待たせぇ〜!」

 

「ううん、大丈夫だよ。じゃあ行こう?」

 

「うん。そう言えば、簪の機体って完全に完成してるの?」

 

「基本のプログラムは、出来てるけど、メインシステムは、まだ。

近接格闘の武装に、荷電粒子砲……弾道ミサイルは、使える」

 

「なるほど……一応、全距離に対応した機体なんだね。じゃあ僕のリヴァイヴとは相性がいいかもね」

 

「うん。でも、細かい動作のチェックをしないと、いけない」

 

「そうだね。じゃあ一旦役割分担をしよっか! それからグラウンドで作戦を練りながら、特訓していこう!」

 

「分かった。よろしく、シャルロ……シャルルくん」

 

「あはは……なんかごめんね……」

 

 

 

 

 

各々ペアとなる人物達と合流し、動き出す。今回のトーナメントでは、皆が本気だ。

別にスカウトされるためではない。互いに全力で挑める相手がいる事に歓喜しているのだ。

一夏と刀奈は、和人と明日奈の二人との勝負を……。

和人と明日奈も、一夏と刀奈の二人に勝負し、勝つことが目標だ。

セシリアと鈴は、互いに一夏に負けている。それぞれ因縁を持つ相手と、もう一度対戦し、リベンジを果たす為に。

シャルロットと簪。シャルロットは今まで出せなかった自分を、ここで全て出すつもりだ。簪も、姉である刀奈に対して、今の自分の全てをぶつける為に。

そして、その他にも……

 

 

 

(このトーナメントで、私はどこまで今の自分を出せるか……何を見出せるか……。

全てはこの勝負にある……! 武士たる者、剣で己を知るのみ……!)

 

 

道場に向かい、真剣を手に闘志を燃やす箒と……。

 

 

(今度こそ、完膚なきまでに奴を潰す……!

織斑 一夏……貴様は私が叩き潰してくれる……必ずだ!)

 

 

 

一夏に対して憎悪の様な思念を向けるラウラ。

トーナメントという名の戦争が起こるのも、時間の問題となった。

 

 

 

 

〜第三アリーナ〜

 

 

 

「鈴さん、試合当日の作戦はどうしますの? こう言ってはなんですが、一夏さん達を相手に生半可な作戦では、通用しませんわよ?」

 

「そうなのよねぇ……。普通なら、前衛が私で後衛があんた。そうやって分けながらカバーし合えばいいんだけど……」

 

「あの戦闘慣れしている四人相手に、正攻法は効かないでしょうね」

 

 

 

セシリアと鈴の言う四人とは、もちろん一夏達のことだ。

刀奈以外の三人は、ISに触れてまだ数ヶ月だと言うのに、すでに国家代表候補生と渡り合うレベルに達しているのだ……。

その原動力と思える戦闘能力……強いて言うなら、剣術の腕。これが彼らの力だ。

二人ともALOをプレイしてみてわかったことだが、この四人のレベルは『最強クラス』と言っていいだろう。

現にこの四人が、新ALO及び、新アインクラッドでの戦闘で負けたという話を聞いたことがなく、ましてや、その他のプレイヤーと比較しても、頭一つ……いや、二つ分くらいは飛び抜けていると思ってもいいくらいだ。

刀奈は言わずも知れた学園最強。恐らく、千冬以外の教職員でも、刀奈を倒すまでにはいかないだろう。

槍捌きに至っては、達人クラスと言っていい。明日奈とのデュエルにて、その証明は果たしているゆえ、今更ではあるが……。

一夏は一夏で、見えない砲弾……甲龍の龍咆を見切って躱し、捉え所のない神速の動きで圧倒するバトルスタンス。そして、剣術の究極体である抜刀術を得意としている。少しでも一夏の間合いに入ろうものなら、一瞬にして斬り捨て御免だ。

和人は、なんと言っても常識外れな反応速度の速さと優れた洞察眼だ。

レーザーを斬ると言う神業をやってのけたところから、すでに常識からは外れる。そして、周りには隠しているようだが、それを二刀流と言うさらに奥の手を持ってやってくるのだから、末恐ろしいにもほどがある。

最後に明日奈。一夏と和人、刀奈の三人が畏怖するほどの剣速。正直、刀奈とのデュエルの時にも感じたが、明日奈の剣を目で捉えることが出来なかった。

また、ALOでの異名〈バーサクヒーラー〉の名を知り、二人は合点したくらいだ。

 

 

 

「よりにもよって、あの四人はそれぞれタッグ組んだし……こうなったら、私たちは遠近両方を鍛えないと勝てないわよ?」

 

「そうですわね……わたくしは射撃しかしたことがありませんし……近接格闘となると、瞬殺されますわね……」

 

「だ・か・ら、あんたは近接格闘の訓練を! 私は龍咆と剣技の複合を取り入れなきゃいけないって話‼︎

あんただって、ALOじゃ短剣スキルを上げてんでしょ?」

 

「それはそうですが……。わたくしの主な役目は後方支援ですのよ? 一応、同じ短剣使いのシリカさんと一緒に練習はしましたけど……」

 

「そうね……私も刀スキルを上げてる途中だしねぇ……でもまぁ、あいつらだって同じなのよ? 元は同じソードスキルなんだから。

こっちだってやれないことはないはずよ……!」

 

「そうですわね……。では、今日はお互いに、遠近両方の特訓をしていきますわよ。

わたくしもインターセプターでなんとか応戦しますわ。ですから鈴さんも……」

 

「わかってるわよ。龍咆と双天牙月……見様見真似の刀スキルで応戦してあげようじゃないの!」

 

 

 

 

やるべきことが決まり、互いにISを起動させる。

巨大な青龍刀を携え、構える鈴とスナイパーライフルと短剣と言う型破りなスタイルで構えるセシリア。

目標は、四人に追いつき、勝ち抜く事。その為の訓練だ。

 

 

「いきますわ‼︎」

「行くわよ‼︎」

 

 

 

二人の声はほぼ同時に発せられ、アリーナに激しい爆音が鳴り響く事になった。

 

 

 

 

 

 

〜IS学園グラウンド〜

 

 

 

ここにもまた、二つの影があった。

一人はメガネをかけた水色髪の少女。自身の専用機であるIS『打鉄弐式』を展開し、空間ウィンドウを出して、最後の調整を行っている。空中に投写されたキーボードを素早く打ち込んでいき、武装及び機体のチェックを怠らない。

そしてもう一人の人物。いま学園中の話題の的である三人目の男子と言われている男装少女。

シャルル・デュノア改め、シャルロット・デュノア。ISスーツは未だに男子のものを使ってはいるが、その正体はちゃんとした女の子。そして、フランスの代表候補生。

彼女もまた、今回のトーナメントにおいて、勝ちたいと言う想いを秘めている。

 

 

 

「僕たちができる事は、とにかく一夏達の苦手なところを攻めていく事だね」

 

「うん……。正直、あの四人は……別格。ALOでも、ISでも、戦闘を見てきたけど、軽く私たち代表候補生とやり合えるだけの技量をもってる……」

 

「そうなんだよねぇ〜……一夏と和人の戦闘を録画した物を見たけど……正直あれはチート過ぎるよ……」

 

「弾丸を斬って、見えない砲弾を躱して、放った剣を目で捉える事が出来なくて、一撃必殺級の技も持っている……どれを取っても達人クラスだと、思う」

 

 

 

代表候補生の二人……いや、他の代表候補生だって、何もせずしていまの地位にいるのではない。

数多くの人選の中から選ばれ、専用機を持つに相応しいレベルの訓練を行い、血の滲むような努力を行ってきたからこそ、今の自分たちがあるのだ。

だが言い換えれば、あの四人は既に、その血の滲むような努力を通り越し、命を賭けた戦いを二年間やり抜いて来ているのだ。SAOの中の出来事はまだ公にされてはおらず、未だに何があったのか、不明な点が数多くあるが、それでも言える事は、あの四人は常に最前線に立ち、モンスターと戦い、クリアへと導いた猛者達である事は理解できる。

 

 

「一番対策を練らなきゃいけないのは、お姉ちゃん。現役の国家代表であり、ニ槍流がある……。銃器の対応なんかも当然できるし……」

 

「槍を両方の手で使いこなすと言うのは……多分いまこの世で楯無さんしか出来ない事だよね……」

 

「そして次に、和人さん……。あの人の戦闘勘の鋭さは、ある意味脅威でしかない」

 

「僕も前に模擬戦したけど、反応速度があの四人の中じゃ一番速かった……。一夏とはまだやった事ないけど、それでも、あのボーデヴィッヒさんのレールキャノンの砲弾を一刀両断したくらいだし……」

 

「一夏のは、勘がいいって、お姉ちゃんが言ってた。一夏は反応や目がいいんじゃなくて、全体を見渡して相手の動きを先読みする速さがあるんだって……」

 

「先読みかぁ……一体、一夏たちはSAOでどんな経験を積んできたのかな……明日奈さんだって凄いんでしょう?」

 

「うん……。正直、あの人はギャップがあり過ぎる……! あんな人がいると思うと……」

 

「な、なんだか凄そうだね……」

 

 

 

簪の表情からは少しばかり落ち込んでいるように思えた。

刀奈とのデュエルを見ているシャルロットでもそれは感じていた。みんな、相当レベルが高い。そして、確実に仕留めに来る戦略と戦術を加えてくるのだから尚更だ。

 

 

「まぁ、とりあえず考え込んでても仕方ないよ……こっちはこっちで向こうが持ってない火器がある。どこまで通用するかはわからないけど、それでもやってやれない事はないと思うよ?」

 

「シャルロット……うん、そうだね。私だって、お姉ちゃんがいない間に、しっかりと鍛えて来たんだし……!」

 

「よし、じゃあ今から少し肩慣らしに模擬戦しない? 一度簪ともやってみたかったからさ」

 

「うん! いいよ……やろう!」

 

 

 

グラウンドの中央に佇む二人が、指輪とペンダントに意識を持っていく。

 

 

 

「行くよ! リヴァイヴ!」

「おいで、打鉄弐式‼︎」

 

 

 

二つの機体が、上空へと飛び上がる。

銃のマズルフラッシュ、ミサイルの爆炎、荷電粒子砲の可視光線、近接武装同士がぶつかり合うと発する火花。

激しくぶつかり合う橙と鉄の影が、そこにあった……。

 

 

 

 

〜第三アリーナ〜

 

 

「はあぁぁぁっ‼︎」

 

「させませんわ!」

 

 

 

遥か上空、青龍刀〈双天牙月〉を振り回しながら、対戦相手を追い詰めていく鈴と、そうはさせまいとスターライトとビットを駆使して、間合いの内へと入り込ませないようにと狙撃する。

 

 

 

「そんな弾幕じゃ、私は止まらないわよっ‼︎」

 

 

 

放たれるレーザーの弾幕を切り抜け、双天牙月を右手に下げた状態で、セシリアに急接近する。

そこから、双天牙月を右斬り上げ。ALO……元はSAOのメインスキルであった『ソードスキル』その中の刀スキルの一つ〈浮舟〉。

見様見真似ではあるが、それでも元々軍での訓練もあり、鈴も剣術の腕は多少ある。迷いのない剣閃が、セシリアを捉えるかと思われたが……。

 

 

 

「インターセプターっ‼︎」

 

 

 

左手に持ったナイフ型武装〈インターセプター〉。

それを逆手に持って、鈴の斬撃をかろうじて凌ぐ。

 

 

「くっ!」

 

「ほらほら! まだまだ行くわよ!」

 

 

斬撃を防がれた鈴は、立て続けに斬りつけに行くが、セシリアはそうは行くまいと距離をとりつつビットを射出し、鈴を取り囲むと同時に一斉砲撃。

あくまで自分の間合いでの戦闘へと持ち込む。

 

 

 

「くっ! させるかぁぁっ!」

 

 

 

だが、鈴とてやられるだけではない。すぐにユニットを駆動させると、衝撃砲〈龍咆〉を放ち、セシリアと射撃戦闘態勢をとる。

 

 

 

「っ……! 砲弾が見えないというのは、ここまでやりにくいものですのねっ……!」

 

「けど、一夏はコレを避けたけど、ねっ‼︎」

 

「そうでしたわね……和人さんは私のレーザーを斬りました、しっ‼︎ ほんと、ありえません、わっ‼︎」

 

「同感ね‼︎」

 

 

互いに愚痴をこぼしながら、撃ちあっていると、鈴は一気シューター・フローの円軌道からイグニッション・ブーストでセシリアに急接近し、双天牙月を振り抜き、セシリアはそれをインターセプターで防ぎ、競り合う。

 

 

 

「くうぅぅぅぅっ!!!!」

「ぬうぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 

白熱していたその状況に水を差すように、鈴とセシリアの間を狙うように、一発の砲弾が放たれた。

 

 

 

「ちょっ!」

「なっ!?」

 

 

 

寸前でそれに気づき、二人は勢いよく後退すると、放たれた砲弾の射線を辿ってみる。

そこには、黒いISを纏い、威風堂々と仁王立ちしているラウラの姿があった。

 

 

 

「なっ! あいつ……‼︎」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 

「ふっ……」

 

 

 

鈴とセシリアは、ラウラに対して睨みをきかせる。

だが、当のラウラはそれを軽く受け止め、ましてや鼻で笑ってみせる。

 

 

 

「いきなりぶっ放すなんて、ドイツ人は随分好戦的ね……」

 

「私たちに何かようですの?」

 

「いや? ただ単に熱心に訓練をしていたのを見かけたのでな……私も血が騒いだ……。だから混ぜてもらおうと思ってな……っ‼︎」

 

 

 

あくまで謝る気は無く、まして更に挑発的な発言を発する。

 

 

「何? わざわざドイツくんだりから来たっていうのに、ボコられに来たわけ? あんたも物好きね」

 

「鈴、相手の方は我々の言葉を理解できない様子ですわ……。流石にそれでは可愛そうですわよ……せめて彼女にわかるように話してあげませんと……」

 

 

 

皮肉に皮肉で答える。

だが、それすらも軽くあしらい、アリーナ内に入ってくるラウラ。

 

 

 

「……イギリスのブルー・ティアーズに中国の甲龍か……はぁー、期待はずれだったな。データで見ていた方がよっぽど強く感じたんだがな……」

 

「へぇー……言ってくれるじゃない」

 

「あら? 自分で言うのもなんですが、わたくしもそれなりに出来るつもりなのですが?」

 

「はっ、それなり? 素人同然の奴ら二人にぼろ負けしておいてそれなりか? 面白い事を言うな、お前は」

 

「なんですって!!」

 

「んで? 結局あんた何しに来たのよ」

 

「先ほどから言っているだろう……貴様らの訓練に混ぜてほしいとな……それに、織斑 一夏に敗北した無様な貴様らの実力と言うのも気になる」

 

「「っ!!」」

 

 

今更ながらに思い出したが、ラウラは一夏に対して浅からぬ因縁がある。

教室での事や、以前アリーナの実習中にけしかけてきた事。それが何なのかはわからないが、好印象でない事は確かだ。

 

 

「確かに、私は一夏に負けたわよ。でも、それはあいつが強かったってだけよ……そして、私が弱かったってだけ……」

 

「そうですわね。わたくしも、あんな方々がおられた事にビックリしていますわ……。ゆえに今度のトーナメントでは雪辱を果たすべく、こうやって訓練をしていましてよ?

ただおふざけで場を乱すつもりならば……どうかお帰り願えませんこと?」

 

「…………」

 

 

予想に反して割と落ち着いた対応をする鈴とセシリアに、少しばかり間が抜けたが、それでも二人は怒っていた。

二人にだってプライドがあるのだ……。それを貶されていい気分にはならない。だが、ラウラはそれでもやめない。

 

 

 

「そうだな、貴様らは弱い。織斑 一夏がどれほどのものかは知らんが、“たかがゲームで二年を無駄にした挙句、今もなおそのゲームに興じ、現を抜かしているような種馬” とじゃれあっている内は、貴様らは絶対に勝てんだろうな」

 

「っ‼︎」

「……!」

 

 

 

ラウラの言葉が引き金となり、鈴とセシリアを怒りに染めた。

 

 

 

「あんた……今なんて言った? 私には “どうぞ、好きなだけ殴って下さい” って聞こえたんだけど!」

 

「この場にいない人の侮辱を言うなんて、淑女として失格もいいところですわね……!」

 

「ふんっ、喚いていろ負け犬共……!」

 

「っ‼︎ こいつ、スクラップがお望みらしいわよっ!」

 

「言っておきますが、わたくし、手加減が出来ませんので……ご容赦を……っ!」

 

「ふんっ、御託はいい……。どうせなら、二人まとめて来ればいい。どうした? 早くかかってこい……!」

 

「上等‼︎」

「上等ですわ‼︎」

 

 

 

ラウラの挑発にのる形で始まった二対一の代表候補生バトル。下手をすれば国家問題になりうる事なのだが、この三人の頭には、そんなことどうでも良かった。

鈴とセシリアは一夏を……いや、一夏だけでは無い。和人も明日奈も刀奈すらも馬鹿にし、罵ったラウラの事が許せず、ラウラはラウラで、自分の罵った相手にここまで付いていくこの二人が煩わしいと思ったが故に……。

互いに引き下がれ無いこの勝負は、訓練というよりも、ただのケンカと言っていいほどのものだ……世界最強の兵器を持っていなければの話だが……。

 

 

 

 

 

〜第一アリーナ〜

 

 

鈴たちがバトルを始め出したまさにその頃、一夏と刀奈は対射撃戦闘用のバトルスタンスを復習中であった。

刀奈は言わずと知れたロシアの国家代表生。射撃、格闘なんでもござれだ。

そこで心配なのは、一夏。一夏は近接格闘戦においては、おそらく無類の強さを持っているだろう。やはり血は争えないのか、千冬同様に剣術の腕だけでここまでISを扱って来ただけの事はある。

だが、それでも射撃戦闘となると、話は別になる。

SAOでは経験が全く無く、ALOにおいても、魔法、もしくは弓などの射撃武器はあるにしろ、その二つと銃弾の速さ、面制圧力、戦略は、大いに違いが出てくる。

 

 

 

 

「いい、チナツ。あなたは織斑先生のように、刀一本だけでも脅威に感じる相手……。でもね、あなたと織斑先生の違いは、射撃武器に対する知識があるか無いかよ」

 

「射撃武器の知識か……」

 

「ええ。織斑先生も射撃くらいはできるけど、山田先生に比べたら、そこそこもいいところ……剣技は人並みを外れてるけどね」

 

「まぁ、確かに。前に言われたけど、俺も千冬姉も、“一つの事を極める方が向いている” って言ってたなぁ……」

 

「ふふっ……やっぱり姉弟ね」

 

「まぁな。それでも、千冬姉は射撃の知識は豊富にありそうだったな……」

 

 

 

以前、千冬が真耶の射撃の技術を高く評価していた時、真耶から少し聞いた事があったのだ。

なんでも千冬は、刀一本と言うハンデを背負っているが故に、射撃武器に対する耐性として、射撃の戦闘技術を学んでいた……と。

 

 

「苦手なものだからこそ、織斑先生はそれを克服する事にして、相手の動きを見切った……。そして、雪片……延いては、零落白夜の特性も自分の中で戦術を構築していったみたいね……」

 

「なるほど……。はぁーあ……全く、千冬姉の背中は、まだ遠いな」

 

「そうね……だって世界最強だもの」

 

「だよな……。俺も、何か最強の称号くらい取っておくか?」

 

「ん? なんで?」

 

「だって、千冬姉は『世界最強』、カタナは『学園最強』だろ? 俺だって、二人に追いつきたいなぁ〜と思ってるんだぜ?」

 

「…………ぷふっ! アッハハハっ‼︎」

 

 

 

自分の言葉のどこが面白かったのかと疑問に思う一夏。

刀奈はそんな一夏の顔をマジマジと眺めては、細く微笑んだ。

 

 

 

「ん〜? なに? ちょっと嫉妬しちゃってるの?」

 

「いや、嫉妬とは……違うな。ただ、俺も、二人のようになりたいって思っちゃたんだよ……」

 

 

 

 

少し恥ずかしくなったのか、頬を赤くし、視線を逸らす一夏。そんな一夏の顔を、両手で触れて、刀奈は強制的に自分の方へと向かせる。

大人の雰囲気を纏う刀奈の顔が近くにあり、しかも少々上目遣い気味にこちらを見てくるあたり、正直心臓がドギマギしてきているのが自分でも分かる。

 

 

「そんな事思ってたんだぁ……頑張る男の子は、お姉さん大好きだぞ♪」

 

「ん……そんなんじゃないって……」

 

「ううん……。そんなあなたは素敵よ……私が言うんだもん。間違いないわ」

 

「そうかな……」

 

「絶対そうよ! ほら、早く始めましょ? 勝つ為に、最善を尽くす……今も昔も変わらないでしょ?」

 

「あぁ、そうだな。それじゃーー」

 

 

 

 

ドオォォォォーーーーン

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「なに?」

 

 

 

 

上空へと飛翔し、刀奈が蒼流旋を構え、一夏の射撃対応訓練をしようとした矢先、一夏の後方に位置するアリーナの内部から、大きな爆発音と立ち込める黒煙を見る。

 

 

 

「なぁ、あっちって鈴とセシリアがいたところじゃないか?」

 

「ええ……何してるのかしら? より実戦感覚でやるのは別に構わないけど……でもねぇ〜」

 

「なんだか、ただ訓練してるにしては、爆発が大きくないか?」

 

「そうね……様子、見に行く?」

 

「あぁ……。なんか、嫌な予感がする……」

 

 

 

鋭い目付きになった一夏を見て、ただ事ではないと感じた刀奈は、一夏とともにカタパルトデッキへと戻り、ISを解除して爆発音のした第三アリーナへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

〜第二アリーナ〜

 

 

 

第三アリーナからの爆発音が聞こえる数十分前。

そこには、黒い機体と白い機体が激しく斬り合っていた。

 

 

 

「やあぁぁぁぁっ‼︎」

「てぇぇぇぇぇっ‼︎」

 

 

 

スピードの乗った鋭い刺突と、重さのある攻撃的な唐竹……。

二つの剣にはそれぞれ翡翠と黄色の光が纏われており、衝突するたびに派手な音と光が霧散し、空を彩る。

明日奈が放つ《カドラプル・ペイン》と和人の放つ《バーチカル・スクエア》二人の放つソードスキルが、互いの機体にも命中する。

 

 

「きゃっ!」

 

「くっ! まだまだ!」

 

 

 

互いの技が衝突し、その衝撃によって一旦二人は距離を置く。

だが、和人が纏うIS『月光』は、右手に持った黒い片手剣〈エリュシデータ〉を構え、スキル発動のモーションへと入る。

対して明日奈の纏うIS『閃華』はそれを確認すると、同じようにレイピア〈ランベントライト〉を構え、スキル発動のモーションを取る。一度、和人の放つソードスキルを躱し、一気に加速して、技を放つ。

 

 

 

「これでっ!」

 

「しまっーー」

 

「やあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

閃華から放たれる連続8連撃技《スター・スプラッシュ》。ハイレベルなその剣技は、明日奈の得意技でもある。それにより、だいぶ和人にダメージを与えることが出来だが……。

 

 

 

「くっ! やったなぁ! ならば、今度はこっちの番だ!」

 

 

 

ダメージを受けてもなお、向かってくる和人。

そして、スキル使用後に出る硬直により、明日奈は少しの間動けない。

 

 

 

「てぇぇやあぁぁぁっ‼︎」

 

「くうっ!」

 

 

 

今度は和人の放つ《シャープ・ネイル》が、明日奈を捉える。ソードスキル独特のライトエフェクトが、まるで獣の爪痕のように見えるスキルだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……やっぱり強いなー、キリトくん」

「いやいや、アスナだって相当腕上げただろ……前にやった時よりも更に剣速が速くなってるぜ?」

 

「そ、そんな事ないよー。私なんてまだまだよ」

 

「そう謙遜すんなって……確実に腕は上がってる。 それだけは確かだぜ?」

 

「ふふっ……ありがと♪ でも、ちょっと疲れちゃったねー」

 

「あぁ、少し休憩にしよう。それからまたやればいいし……」

 

「そうだね。今度は射撃戦を想定した動きを入れようか……」

 

「そうだな。じゃあひとまず降りよーーー」

 

 

 

 

ズゥゥゥゥン!!!

 

 

 

 

「っ……!」

 

「なんだろ……いまの……」

 

「分からない……。でも、確実に爆発音だよな?」

 

「うん……。向こうは……第三アリーナだよね? チナツくんとカタナちゃんは第一で、シャルロットちゃんと簪ちゃんはグラウンドに行ったから……鈴ちゃんとセシリアちゃんかな?」

 

「相当激しい訓練してるなぁ……大丈夫なのかな?」

 

「…………ちょうど休憩する所だし、見に行ってみる?」

 

「ん〜〜……あんまり他人の特訓を覗き見するのは感心しないが……気にならないと言うのも嘘になるしなぁ……」

 

「だったら行くしかないでしょう。ほら、早く行くよキリトくん!」

 

「ちょ、待ってくれよアスナ……」

 

 

 

明日奈の後を和人が追う形で、二人はアリーナを出る。

そこでグラウンドから歩いてきていたシャルロットと簪に合流し、お互いに爆発音が気になって見に行く事を知り、四人で第三アリーナの方へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

〜第三アリーナ〜

 

 

 

その頃、一足早く到着していた一夏と刀奈は、アリーナの中へと入り、そこの観客席で見ていた一年生の生徒に事情を話してもらっていた。

 

 

 

「ごめん、一体何があったのか教えてもらっていいか?」

 

「あっ、織斑くん、会長!」

 

「ごめんね、あそこで何が起こってるの?」

 

 

 

刀奈はまっすぐアリーナの中央へと指差す。

 

 

 

「えっと……二組の凰さんと一組のオルコットさんが訓練してる時に、その……一組のボーデヴィッヒさんが乱入してきて、それで……」

 

「ボーデヴィッヒ?! ラウラの奴が?」

 

「うん……いきなり攻撃して、それから、二人がボーデヴィッヒさんと言い争って……」

 

 

 

 

そこまで説明されて、ようやく納得がいった。

つまりはラウラが二人を挑発し、二人がそれに乗ったのだと……。

そして、その二人とラウラが、バトルを繰り広げていた。

 

 

 

「こんのぉぉっ! とっとと墜ちなさいよっ!」

 

「逃がしませんわっ‼︎」

 

「ふんっ、誰が逃げるか。この程度 “片手” で充分だっ‼︎」

 

 

 

二人の攻撃がラウラに対して命中するかと思ったその時、ラウラは右手を上げ、放たれた龍咆とビームに向けて手を開く。

すると、その二つの攻撃は着弾する瞬間に、まるで見えない壁か何かに阻まれる様にして、ラウラへの攻撃が通らなかった。

 

 

 

 

「っ!? なんだあれ? 何かが防いだ?」

 

「なるほど……AICか…」

 

「AIC?」

 

 

 

刀奈の言った単語が気になり、一夏が刀奈に問う。そして、それとほぼ同時くらいだったか……和人たちもアリーナの観客席に到着し、事態に驚いていた。

 

 

 

「おいおい……これは、どうなっているんだ?」

 

「鈴ちゃん、セシリアちゃん……」

 

「戦っているのは……ボーデヴィッヒさん?」

 

「二対一で……」

 

 

 

和人の後に続く形で、明日奈、シャルロット、簪が入ってくる。

訓練にしては殺伐とした一戦に、見ていた生徒たちは心配そうな表情で見守る。

 

 

 

「チナツ、これはどういう事だ?」

 

「それは……」

 

「あの二人が、ボーデヴィッヒの挑発に乗ったみたいです」

 

 

 

そこに、第三の声が聞こえ、その方向へと顔を向けると、この事態を聞いてきたのか、箒も来ていた様だ。

 

 

 

「挑発に乗ったって言うのは?」

 

「私も初めから見ていたわけではないので、詳しくは分かりませんが……あの三人が戦い始めておよそ十分くらいでしょうか……未だにボーデヴィッヒの優勢に試合が動いています」

 

「二対一で、ボーデヴィッヒさんが勝ってるの?!」

 

 

箒の発言に明日奈が驚く。二人はラウラと同じ代表候補生だ。にもかかわらず、それをもろともしないラウラの技量は、本物なのだと感じた。

 

 

 

「明らかに機体の性能が違うわ。あのIS……『シュヴァルツェア・レーゲン』は、ドイツが完成させた新型機。AICを搭載した全距離対応型の機体よ……」

 

 

 

そこに刀奈の補足も付け加えられる。

 

 

 

「そうだ、そのAICって言うのはなんだ?」

 

「AIC……アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略。日本語訳だと、『慣性停止結界』と呼ばれるものよ」

 

「確かそれって、PICの発展型で、物体の動きを止めるとか言うあの?」

 

「ええ、アスナちゃんの言う通り。一対一での対決じゃあ反則的な能力ね……。それに、鈴ちゃんたちとの相性も最悪ね」

 

「鈴……セシリア……」

 

 

一夏が気になっていた事を和人が問い、刀奈が答え、明日奈が解説する。そして、二人とラウラの相性が悪いと言う刀奈の発言に、一夏が心配そうに中央に目を向ける。

 

 

 

 

「ちぃっ! まさかここまで相性が悪いなんて……!」

 

「ふははっ! この程度で代表候補とは、笑わせてくれる!」

 

 

 

ラウラの機体から何かが射出される。その物体の数は二個。まっすぐ鈴に向かって飛んでくる。

当然鈴は躱そうとするが、躱そうとするたびに、その物体は鈴を追いかけていく。そして、間近で見てはっきりわかった。追いかけてくる二本の物体。それはワイヤーブレードだ。

 

 

 

「くっ!」

 

「逃がさん!」

 

 

 

ワイヤーブレードの一本が、甲龍の左脚に巻きついて離れない。鈴は捕らわれて、上手く身動きが取れない状態になってしまった。

が、その後ろでは、ラウラに向かって飛翔する四つの物体。ラウラが確認し、左手をかざして物体を止める。そこにあったのは、蒼いフィン状の物……ブルー・ティアーズのビットだ。

 

 

 

「これで身動き出来ませんわっ!」

 

 

 

今度はラウラの死角を突いて、セシリアがスターライトで狙い撃つ。

が……。

 

 

 

「それは貴様も同じ事だ」

 

 

 

巨大なレールカノンがセシリアを捉え、レーザーを相殺する形で砲弾が発射される。

二つの弾丸は寸分違わぬ狙いで、着弾と同時に大爆破が起きる。

だが、その爆炎の中からセシリアに向かって飛来してくる物が一つ。

 

 

 

「きゃああぁぁぁっ!!!!」

 

「なっ!? きゃっ‼︎」

 

 

 

その物体は声をあげ、勢いよくセシリアとぶつかる。その正体は、ワイヤーブレードに捕まっていた鈴だった。

ラウラはワイヤーを操り、鈴をセシリアにぶつけたのだ。

そのまま二人は地上へと落ちていき、やがて地面に衝突する……土埃が舞う中で、二人は何とか無事を確認すると、空を見上げる。

そこには、堂々と見下す視線をこちらに向ける。冷氷の姿があった。

 

 

 

「こんなものか? だとしたら、期待外れもいいところだな」

 

「こんのぉぉ……っ!」

 

 

 

鈴は龍咆を起動させ、空気を圧縮していく。だか、それが発射される事はなく、その前に放たれたラウラのレールカノンの砲弾によって、右のユニットを破壊されてしまった。

 

 

 

「きゃっ‼︎」

 

「遅い……っ‼︎」

 

「ではこれならどうですの!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

視線をセシリアに向けた瞬間、ブルー・ティアーズの腰部から二本の白い筒のような物が飛び出す。ブルー・ティアーズのもう一つのビット兵器のミサイルビットだ。

しかもかなり近くにいたラウラ。このミサイルが外れる余地はない。

 

 

 

「貰いましたわっ‼︎」

 

「くっ‼︎」

 

 

 

 

ミサイル二発が発射され、その両方が命中。

着弾地点からは爆煙が立ち込める。その場をなんとか凌いだセシリアと鈴は、その場を離れ、一旦距離を置く。

 

 

 

「あんたも中々無茶するわねぇ……」

 

「お説教は後……これで、多少のダメージはーーー」

 

「なるほど……今のは惜しかったな」

 

「「っ‼︎」」

 

 

 

 

 

セシリアの言葉を遮るかの様に、爆煙が晴れていく。そこには、“傷一つない” ラウラの姿があった。

 

 

 

「そ、そんなっ! どうして……!?」

 

「チッ、またAIC……ッ!」

 

「その通りだ。しかし、最後のあがきにしてはよくやったものだ……。

だが、これで理解した筈だ。貴様らと私とでは決定的な差があると……。機体の性能、パイロットの腕、経験の差……それら全てが私と貴様らでは、全く違うッ!」

 

 

 

ラウラはワイヤーを二本射出し、それぞれを鈴とセシリアの首に巻きつける。

 

 

 

「くっ!」

 

「ううっ!」

 

「これで貴様らのターンは終わりか……。ならば、今度はこちらから行くぞ!」

 

 

 

 

ラウラはワイヤーを自分に引き寄せ始める。

鈴とセシリアは、なんとかそれを振り解こうとするが、完全に巻きついている為、外すことが出来ず、セシリアはその場に倒れたまま引きずられ、鈴は両手でなおも引き剥がそうとするが、どんどんラウラに引き寄せされる。

そして、自分に引き寄せた瞬間、鈴の顔面を殴りつけ、セシリアを蹴り上げる。

二人とも腕の装甲で防御するも、元々エネルギーが枯渇してきている上に直接的なダメージを負っている為、絶対防御が発動する……。そうなれば、さらにエネルギーの消費は大きくなるだけだ。

 

 

 

「ひどい……! あれじゃ機体が保たないよ‼︎」

 

「このままじゃ、二人が危険‼︎」

 

 

 

シャルロットと簪が叫ぶ。それほどまでに最悪な事態に陥っているのだ。

すかさず一夏と和人がラウラに対して叫んだ。

 

 

 

「おいラウラ‼︎ やめろッ‼︎」

 

「もうよせっ! 鈴もセシリアも、戦える状態じゃないっ‼︎」

 

 

 

本当に命の危機を感じ、ラウラに呼びかけるが、それでもラウラはやめない。むしろその声を聞き、こちらに振り返ったかと思うと、こちらにニヤッと笑って見せた。

 

 

 

 

「あいつ……っ、わざと……!」

 

「アスナさん! 誰でもいいんで先生を呼んで来てください! シャルルと簪は救護班を!」

 

「う、うん! わかった」

 

「了解!」

「うん!」

 

 

 

ラウラの行為に和人は歯軋り、一夏はすかさず指示を出した。その手にはギュッと硬く握り締められており、血が出るのではないかと思うほどだった。

 

 

 

「チナツ、どうするの?」

 

「あいつの相手は俺がする……。元々俺が決着をつけなきゃいけない相手だ。カタナとキリトさんは鈴とセシリアの救助を」

 

「オッケー! 早く行ってやらないとな……!」

 

「はい! カタナ、そこを退いてくれ」

 

 

 

そう言うと、刀奈は後ろに下がり、代わりに一夏が前に出る。そして、ガントレットを突き出し、その名を呼んだ。

 

 

 

「来い! 白式!」

 

 

 

 

 

 

一方、そんな事も気に留めず、二人を殴打し続けているラウラ。

流石に、これ以上の抵抗がないと思い、その手を緩める。

 

 

 

「さて、そろそろ負けを認めたらどうだろ? これ以上やったところで、無意味な事ぐらいわかるだろう」

 

「っ!」

 

「ううっ!」

 

 

 

倒れる二人に対してなおも辛辣な言葉をかける。

その言葉も二人に届いているであろう……だが、それでも二人は認めなかった。震えている体に喝を入れ、なんとか立ち上がる。

 

 

 

 

「ほう? まだやる気か? 戦力差は歴然だと、骨の髄まで叩き込んだ筈だが?」

 

「……なに、言ってんの? まだ、私は……戦える……!」

 

「あまり……わたくしを舐めないで、もらえまして? これでも一国を代表する者ですの……あなたなんかに、負けたりなど……しませんわ!」

 

 

 

互いの機体はボロボロ。武装も潰され、装甲だって罅がはいっている。そしてなおかつ操縦者の二人の意識も朦朧となっていて、かなり危険な状態だった。

だが、鈴は双天牙月を握り締め、セシリアはインターセプターを突きつける。

 

 

 

「最後まで戦おうとするその姿は褒めてやろう……。だが、雑魚の分際で……調子にのるなぁッ‼︎」

 

 

右のプラズマ手刀を展開し、二人に斬りかかる。

そして、振り上げられたその手刀が鈴に直撃しそうになった時、セシリアが動く。

元々は近接戦は苦手だ……だが、体が動いた。両手でインターセプターを握り締め、ラウラの攻撃を防ぐ。

ラウラも一瞬判断が遅れてしまい、セシリアに間合いの侵入を許してしまう。

 

 

 

「この距離なら……わたくしにだってっ!」

 

「なっ!?」

 

 

ブルー・ティアーズのブースターを吹かし、インターセプターの切っ先をまっすぐラウラに向ける。

〈ラピッド・バイト〉短剣スキルの中級突撃技。元々SAOにおけるスキルの一つで硬直時間が短いため、技をつなげやすいスキルだ。

セシリアはALOにおいて、魔法での支援を受け持つメイジ型だが、もしもの場合を考え、短剣スキルを習得していた……。同じ短剣使いのシリカに短剣を習っては、ともにレベル上げを行ってきた……。

行ってきた努力が、今身を結び、ラウラに初めてダメージを与えた。

 

 

 

「くっ!」

 

「ふふっ……一矢報いましたわよ……」

 

 

 

懐に突き刺さったインターセプター。

そのため絶対防御が発動し、ラウラに大ダメージを与える事が出来た。

が、セシリアはそのまま仰向けに倒れ込み、ISが解除される。

 

 

 

「く、くそがぁっ‼︎」

 

「あんたの相手は、まだいんのよっ!」

 

「っ!?」

 

 

 

倒れたセシリアに気を取られ、判断が遅れる。

声のする方を見てみると、双天牙月を振り上げた鈴が、すぐ目の前に迫っていた。

 

 

 

「私の分まで貰っときなさいっ!!!」

 

「このっ!」

 

 

振り下ろされた一撃。刀スキル〈辻風〉。

ラウラは咄嗟に腕をクロスさせて防御するが、元々が重量のある青龍刀の一撃。そして、見様見真似とは言え、敵を屠る事に主眼を置いたスキルの使用により、さらにダメージを負う。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「くっ! こんな雑魚どもに……っ!」

 

 

 

鈴もまた、セシリア同様に両膝をついた瞬間、ISが解除されてしまった。

意識は朦朧とし、そのまま倒れ込んでもよかった……。が、どうしても言っておきたかったことがあったのだ……それはーーー

 

 

 

 

「ーーー後は任せたわよ……一夏……っ!」

 

「…………ああ、任せとけっ‼︎」

 

「っ!」

 

 

 

 

ラウラのすぐ後ろで、第三者の声が聞こえた。

それはラウラにとって因縁のある相手の声だ……聞き間違えるはずが無い。

そして、咄嗟にプラズマ手刀を展開し、後ろを振り向く。そこには、修羅の如き形相で睨みつけ、純白の刀を振り下ろす一夏の姿があった。

 

 

「チィッ!」

 

「おおおぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

渾身の龍槌閃を放つ一夏。そしてそれを両手に展開したプラズマ手刀で受けるラウラ。

凄まじい衝撃が、アリーナの中央で弾ける。

 

 

 

「くっ! なるほど。貴様、今まで力を隠していたのか……」

 

「別に……。ただ俺は、あまり力を行使する事を良しとしないんだよ……。だが、お前はやり過ぎた……」

 

 

 

ただ静かに、一夏は雪華楼の切っ先を向ける。

その刀身に乗せた殺気と剣気とともに。

 

 

 

「そんなに俺と戦いたいなら、喜んで相手をしてやる。だが覚悟しておけよ? これからは一切の容赦はしねぇ……!」

 

「っ! ほう? そうか……それならば話は早い。元々私もそのつもりだったのだ……ここで貴様を討つのもいいだろう……!」

 

「やれるもんならやってみな。お前が馬鹿にした剣技……その身をもってしかと思い知るといいさ……」

 

 

 

ゆっくり正眼の構えを取る一夏。そして、プラズマ手刀二刀流で、徒手格闘気味の構えを取るラウラ。

互いのその動きに一切の無駄がない。

そして、互いに睨み合う。

 

 

 

 

「「行くぞっ‼︎」」

 

 

 

ほぼ同時。同じ言葉を発した事によって、一夏とラウラの斬り合いが始まったのであった。

 

 

 

 

 




次回は……どこまで行くかな?

とりあえずラウラの暴走ぐらいまでをめどに頑張ります!

感想よろしくお願いします(≧∇≦)

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