ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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やっと更新できたぁ〜……!





第16話 女の意地

シャルル……いや、今はシャルロットと呼んだ方がいいだろうか。

彼女が正体を明かし、デュノア社との関係やそのデュノア社の企みなどがわかった今、対応策を講じなければならなくなった。

 

 

まずシャルロットについてだが、とりあえず、クラス担任である千冬に相談し、今後のことを考えて貰った。

そこで、当面は今まで通り男子として学園に通い、今度のタッグマッチトーナメント戦終了と同時に、学園全体に公表することにした。

何分部屋割りが決まった瞬間にこれだ。

また調整をしなければならなくなると、色々とまた問題が起きてくる。なによりタッグマッチというイベントを控えていることもあり、事が終えて、準備を終えてからの方が一番いいだろうと考えたのだろう。

 

そして、第二にシャルロットをけしかけた黒幕のデュノア社に対する対応。

専用機のデータの奪取は、アラスカ条約違反だ。故にシャルロットの証言をもとに問いただしても良いのだが、それではシャルロットの身も、国際IS委員会に引き渡さなければならない。そんなことをすればシャルロットは投獄の身になるだろう。

本人も、もちろん一夏達もそれを望んでいないため、あまり公にはせず、裏から手回しして、取引材料に使うことにした。

 

 

 

 

 

 

〜一夏の部屋〜

 

 

その後、一夏の部屋にやってきた千冬は、シャルロットに対する対応を一夏達に告げ、そこにいた一夏とシャルロットも含め、和人、明日奈、刀奈も一様にそれで容認した。

 

 

 

「んで? そうとわかっていて、お前はデュノアと相部屋になると?」

 

「あぁ、事が治るまではシャルロットは男として生活するんだろ? だったらいきなり部屋割りしないほうがいいんじゃないか?

タッグマッチが終わった後にでも、部屋を考えればいいし……」

 

「一夏……」

 

 

 

千冬の問いに一夏は答える。

なにより、自由になりたいと願うシャルロットを一人にしておけなかったからだ。

事が治るまでは、シャルロットをサポートする義務があると思ってる。

自身の事を気にかけてくれる一夏に、シャルロットの心はときめいていた。

和人と明日奈の二人は、いつもの一夏っぷりに微笑んでいた……が、刀奈は……

 

 

 

「まぁ、それはお前達で決めればいいさ……だが、それは後ろにいる奴を説得してからにしろよ?」

 

「後ろ?」

 

 

 

 

千冬の指摘に首を傾げながら、後ろを向く。

が、正直見なければ良かったと思った……。

 

 

 

「…………」

 

「……え、えっと……カ、カタナ……さん?」

 

 

物凄く冷徹な瞳で、一夏を見下ろす刀奈の姿があったのだから……

 

 

 

「何かしら、織斑くん……」

 

「苗字!? しかも君付け!!?」

 

 

 

とても怒っていた。尋常じゃないくらい怒っていた。でも、仕方ないだろう? 流石にここでシャルロットを放置するのは、どうなのだと自分の心が言っているのだ。

 

 

 

「あら、彼女の前で平気で他の女の子と同棲するとかほざいている人に対して、親しげに接するのはおかしいと思うのだけれど……」

 

「いやいや! それは誤解ーーー」

 

「黙らっしゃい! 誤解もお懐古様ないわ……。チナツ、私は別に他の女の子との関係をとやかく言うつもりはないのだけど、流石に行き過ぎと言うのは見過ごせないわね。

はぁー……。全く、こんな人の彼女になったのは私の人生の中で最大の汚点かしら……」

 

「お前……俺じゃなかったら自殺する様な事を平気で言うよな……」

 

「はっ、虫が……!」

 

「ぐはっ!」

 

「カ、カタナちゃん……」

 

「虫は言い過ぎだろ……大丈夫か、チナツ?」

 

 

刀奈は一度怒ると中々許してくれない。

特に、一夏が他の女の子と話したりしているのは許せるらしいが、それから進展したりすれば、許さないと一応前もって一夏には言っているのだ。

 

 

 

「べ、別に俺はそう言う目的があって言ってるわけじゃなくてだな、このままのシャルロットを放っておけないって言うか、そうするべきではないような気がしたからだなーーー」

 

「ふぅーん、そうなの。まぁ、それはいつもの事だし? 別に今更何か言うつもりはないわ。ま、それはそれであなたの良いところであり、私があなたを好きになった瞬間でもあるんだけど……」

 

「う、うん……ありがとう……」

 

 

 

時折見せてくるこの本音がドキッとさせる。

昔はそうまで言ってくれた事はなかったのだが、恋人になってからは時々熱烈なアプローチが偶に飛んでくる。

これには一同苦笑い。

まぁ、一夏と刀奈との間にある関係だからこそ起こりうることなのだろうが……。

 

 

「はぁー、でもこのままじゃあチナツが調子に乗ってしまうかもしれないし……」

 

「そんな事ないから! これは絶対だから!」

 

「本当かしらねぇ……チナツは誰からも愛されまくりのモテまくりだもの……」

 

 

 

 

そう言うと、刀奈はふと一夏を凝視すると、ゆっくりと近づいていく。

何事か思案していると……

 

 

ガシィっ‼︎

 

 

 

「いいっ!?」

 

 

いきなり左手で頭を押さえつけられる。

そして、そのまま上を向かされ、一夏の顔をまじまじと至近距離で見つめる刀奈……と言う絵面になっている。

 

 

 

「いいチナツ、もう一度言っておくけど……私は別に浮気に関しては寛容なところがあるのだけれど……」

 

「いや、浮気はしていませんが? それにこれから先もする予定ないし」

 

「だから、何度何度も言うようだけど、別にチナツが他の女の子のイチャコラしていても別に許してあげる……。

でも、もしもその “浮気” が、少しでも “本気” になったのならば……」

 

 

 

刀奈は静かに言った。

 

 

 

「ーーー殺すわよ……!」

 

「ヒィッ‼︎」

 

 

一夏の短い悲鳴と、周りに流れる不穏な空気。

一応助けを求めて、涙目ながらに和人たちの方を見るも、二人とも顔をそらしてしまった。

 

 

 

「大丈夫、安心しなさい。別にチナツ一人を死なせたりはしないわ……。

すぐに相手の女も送ってあげるから」

 

「お前が死んでくれるんじゃねーのかよ‼︎」

 

「そして、寂しくならないように鈴ちゃんを派遣してあげるから」

 

「お前は鈴をなんだと思ってるんだ?!」

 

「都合のいい後輩」

 

「迷いなく残酷な事言いやがったッ‼︎」

 

 

 

繰り広げられる夫婦漫才。その内容が重々しくなかったのなら、素直に笑えるのだが……。

 

 

 

「冗談よ。鈴ちゃんは可愛い後輩だし、そんな事しちゃったら、私ただの虐殺者だし……」

 

「俺を平気で殺すって言っておいてそれかよ……」

 

「チナツもわかっていた事でしょう? 私と付き合うと言う事は、それだけの覚悟を決めておかないといけないという事だと……」

 

「……わかってるよ。それも含めて、俺はカタナと付き合うと決めたんだから……」

 

「そう、なら良いわ。私もあなたの女である事を覚悟して、努力しているつもりよ? だから、あなたも私の男としての自覚をしっかり持って、努力して欲しいの」

 

「努力ね……。わかってるさ、自分が誰の男かなんて……そして、浮気はしないよ。これから先もずっとな」

 

「そう……」

 

 

 

最後はなんとか治り、刀奈を説得した? 一夏だった。

その後、詳しい事はトーナメント戦終了後に改めてシャルロットに話すとのことだった。

これにて一件落着。千冬も和人と明日奈も、自分の部屋に戻るべく、一夏の出した湯のみを片付ける。

 

 

 

「それじゃあ、俺たちは自分の部屋に戻るからよ」

 

「チナツくん、シャルロットちゃん、また何かあったら言ってね? 協力するから」

 

「はい、そうさせていただきます」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

そして、最後は刀奈。

 

 

「チナツ、とりあえずは今まで通り、シャルロットちゃんの事は頼むわ。キリトにも一応、サポートを頼むけど、一番近くにいるのはあなたなんだし……」

 

「あぁ、わかってるよ。任せろ、」

 

「あぁ、それと最後に、私の思いを伝えておくわね」

 

「え?」

 

 

 

そう言って、刀奈は一夏の両肩を掴むと、自分の体に引き寄せ、抱き寄せ、密着し、耳元で確かに言った。

 

 

 

「まぁ、なんだかんだ言って本音を言うと、自分の彼氏が他の女の子にモテモテなのは、彼女としては最高の気分なのよ?」

 

「本音過ぎるわぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

最後の最後まで、刀奈ワールドは展開されたのであった。

 

 

 

 

「ふぅー……。なんか、どっと疲れたな……」

 

 

 

一同が帰った後、一夏は自分のベッドへと倒れこむ。

シャルロットの事もそうだが、その後の刀奈による尋問(脅迫)だけで9割方疲労が溜まった。

 

 

 

「ご、ごめんね一夏……その、僕の所為で……」

 

「なんでお前が謝るんだよ? これは俺とカタナの間での事なんだ……。シャルロットが謝る必要はないよ」

 

「う、うん……。そのさ、一夏。一夏は楯無さんのどこが好きなの?」

 

「へ?」

 

「ああ、いや! その、気になってさ……あはは……」

 

 

 

まぁ、今のやり取りを見ていては、好きになった理由を知りたくなるのも同然か……。

 

 

 

「んー……。嫌いなところがないな。全部好きだ」

 

「……へぇー…」

 

 

予想外な答えに、シャルロットも苦笑していた。

 

 

 

「なんだよ?」

 

「いや、一夏って結構楯無さんにベッタリなの?」

 

「うーんどうかなぁ……俺もカタナ、どっちもどっちって感じだと思うけど……まぁ、愛してるのは確かだな」

 

 

 

愛してる。その言葉を平気で使える一夏と刀奈は凄いと思った。

 

 

 

「そうなのか……。でも、どうやって楯無さんと知り合ったの? 楯無さんもSAO生還者だって聞いたけど……」

 

「そのSAOの中でだよ。俺とカタナが出会ったのは……」

 

「へぇー……ねぇ、一夏」

 

「ん?」

 

「SAOで、辛い事とか無かったの? 僕はSAOの事をそんなに知らないけどさ、中に閉じ込められた人達が、どれだけ苦労したのか、それは……なんとなくわかる気がするんだ……僕も、似たようなもんだったし……」

 

「……そうだなぁ……」

 

 

 

一夏はしばしの沈黙の後、深呼吸を一回吐いて、その口を開けた。

 

 

 

「悲しい事、辛い事なんて、たくさんあったよ。シャルロット、俺はな、目の前で困ってる人たちを助けたいって……ずっと思ってたんだ……」

 

「目の前で困ってる人を……」

 

「ああ……。だけど、それがなかなか思い通りに行かなくて……結局は、俺の理想を他人に押し付けただけになって、いろんな人を傷つけた……」

 

「…………」

 

「俺も、千冬姉のように、誰かを守れるくらい強くなりたいって思ってた……。もう誰も傷つかないように、守れるようになりたいって……。

でも結局は、守れたものなんてのは、限られたもので、俺は失ったもの、斬り捨てたものの方が多かったんだけどな……」

 

「ごめん……」

 

 

 

一夏の表情は、軽く自傷の様なものを感じた。

だからこそシャルロットは謝った。先ほどの自分と似たようなものだという言葉に、どれほどの重みがあったのか……。自分のよりも、一夏の背負ってきたもの、一夏が経験してきたものの方が、断然重い……。

そんな一夏の事をわかった様な事を言ってしまった自分が申し訳ないと思ったからだ。

 

 

 

「謝らなくていいって……。これは俺が経験してきた一部だ。シャルロットに責任はないし、当事者じゃないシャルロットが謝る必要はないだろう?」

 

「そ、そうだけどさ……」

 

「…………なぁ、シャルロット」

 

「な、なに?」

 

「俺たちが見ている世界、見てみないか?」

 

「え?」

 

「だから、俺たちの見ている世界を、一緒に見てみないかって言ったんだ。

無理にとは言わないけどさ、シャルロットにも見せたいなって思ったんだ。俺たちの歩んできた道を……。そこで、俺たちが見た事、知った事、感じた事……それで、シャルロットが気に入ってくれたなら、それはそれで嬉しいからよ」

 

「あ…………」

 

 

 

そう、気になっていた。正直、SAO事件に際し、世間からもあまり良い印象を持たないVRMMORPG。

それでも、一夏たちは進んでその道をもう一度歩もうとしている。

二年間を犠牲にして来て、得たものは何なのか、そして、その世界では何が見られるのか……。

 

 

 

「僕は……」

 

「まぁ、とりあえずは考えてみてくれ。もしも、それで知りたくなったら、俺たちがいろんな事を教えてやるよ! いろんな事をして、楽しく遊んで、冒険して、シャルロットが願ったものを叶えられるかはわからないけど……。

それでも、楽しいのは、間違い無いからよ!」

 

「ーーーーッ!」

 

 

 

 

一夏の曇りのない笑みに、ドキッとした。

自分の知らない世界が、その中にあると思うと、ワクワクした。自分の求めているものがそこにあると思うと、なんだか嬉しくなった……。

 

 

 

「うん……考えてみるよ……! その機械……アミュスフィアだっけ? 他に何か必要なのかな?」

 

「んーと、アミュスフィアを買えば……あとはソフトかな、インストールするソフトを買えば、あとは無線LANでゲームが出来るし……あとはインターネットに接続するための契約だな。でも、手続きも簡単だし、問題ないと思うぞ?」

 

「そうなんだぁ……。うん、ありがとう」

 

「いやいや、買ったらまた教えてくれよ。色々とレクチャーしてやるからさ」

 

「うん!」

 

 

 

 

とりあえず話は終わり、夕食を取っていない事に今気付いた。

なので、刀奈に連絡を取り、一緒に夕食をしようと誘う。

 

 

 

『わかったわ……じゃあ外に出てるから』

 

「おう。じゃあまた後でな」

 

 

 

 

携帯を切り、準備する。

 

 

 

「よし、じゃあ行こうぜシャルロット」

 

「うん!」

 

 

 

その後、刀奈と合流して食堂に向かう。

ちなみに和人と明日奈は自室で夕食だそうだ。

それを聞くと、自室で刀奈と夕食してもいいなぁと思う。

そして、食堂に入ってからはいつも通りシャルロットはシャルルとなり、みんなと食事を取る。

 

 

 

「そう言えば、みんなはタッグマッチは誰と組むの?」

 

 

 

シャルロットの素朴な疑問にその場にいた全員がハッとなった。

 

 

 

「「「お、織斑くん!!!」」」

 

「は、はい?!」

 

「「「私と組んで下さい!!!」」」

 

「あはは……いや、その……」

 

 

 

 

まぁ、当然こうなるわけで。

 

 

 

「ちょっと一夏! それなら私と組みなさいよ! 幼馴染なんだから!」

 

「お待ちになって! それでしたら同じクラスであるわたくしと組む方がよろしいに決まってますわ‼︎」

 

「み、みんな落ち着けって……」

 

 

 

この場に和人がいたのなら、この場にいた内の半分くらいは和人の方に行っただろうが、あいにく和人は自室であり、既にタッグは明日奈とのペアを組んで、申請書を提出している為、実質的に不可能だ。

ならば、残っている一夏に希望を持って賭けてみたのだ。

そして、そこに偶々居合わせた鈴とセシリアも立候補する。

 

 

「それと悪い……俺はもうカタナと組むことにしてるんだ……」

 

「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」

 

「なんでよ!? 私じゃダメなわけ?!」

 

「そうですわ! わたくしだって、一夏さんの苦手な遠距離戦の援護も出来ましてよ?!」

 

「ふっふ〜ん♪」

 

 

 

ブーイングの嵐が鳴り、鈴とセシリアが抗議する。

対照的に、余裕の笑みを浮かべるのは刀奈だった。

 

 

「残念だけど、もう既に申請書は書いて今朝提出させて貰ったわ……♪

それに、鈴ちゃんとセシリアちゃんの言葉を借りるなら、私はチナツと同じクラスであると同時に、チナツの恋人でもあるのだから、私が組んでもいいでしょう?」

 

「ぐっ…」

 

「そ、それは……」

 

 

 

自分達の発言を利用されては、言い返すことが出来ない。諦めきれないが、諦めるしか無かった。

 

 

 

「ちぇ、何よ。一夏のバーカ」

 

「楯無さんだけずるいですわ……」

 

 

 

一夏を諦め、曇った表情になる一同。

そこで、ある事に気付く。

 

 

 

「あ! デュノアくんは?! もう組む人決まってるの?」

 

「「「ッ!!!!」」」

 

 

 

みんな、それだ! っと言わんばかりに一斉にシャルロットに視線を向ける。

 

 

「え、えーと……僕は……」

 

いきなり振られて戸惑いを見せるシャルロット。

それもそうだ。タッグを組むとなると、シャルロットが女性だということが暴露る可能性がある為だ。

仮に暴露たとして、その事が公な事になれば、国際IS委員会が黙ってないだろう。

そして、この事を知っているのは、一夏達だけだ。

どうするか迷っていた時、そこに希望が舞い降りた。

 

 

 

 

「んん〜‼︎ 疲れた……」

 

「やっと終わったよぉ〜……疲れたねぇ〜かんちゃん……」

 

「うん…ありがとね本音。なんとか完成間近にまで来ることが出来た」

 

 

 

食堂に入ってくる二人の生徒。

刀奈の妹である簪と、その付き人である本音だ。

 

「あら、簪ちゃん……本音ちゃんも、遅かったわね」

 

「お姉ちゃん。うん、打鉄弐式の基本フレームに、システムの構築が出来たの。あとは、データが欲しいから、実際に飛んでみなきゃわからないけど……」

 

「そうなの? じゃあ、タッグマッチには……」

 

「うん! 間に合うかも!」

 

「ホント!? やったわね簪ちゃ〜〜ん♪♪ 凄いわぁ〜!」

 

「お、お姉ちゃん! 恥ずかしいよぉ……」

 

 

 

感極まって簪を抱きしめ、喜びをあらわにする刀奈。

その笑顔は、まるで自分のことのように喜んでいるようだった。

 

 

 

「ん? 間に合うのはわかったけど、簪はパートナーはいるのか?」

 

「「あ……」」

 

 

刀奈と簪。一夏の疑問に姉妹揃ってあっけらかんとした返事をする。

 

 

 

「そ、そうだった……私、パートナーいなかった」

 

「申請は明日までだから、それまでに見つかればいいんだけど……」

 

 

 

明日の放課後が申請の最終期日。

それまでに見つけなければならないのだが、しかし、最終期日前ともなると、流石にある程度の生徒たちはパートナーを決めているものだ。

まぁ、一部の例外(一夏や和人、シャルロットと組みたいと思う生徒たち)を除けば、もう既に申請書は提出し、タッグマッチの訓練に入っているだろう。

 

 

 

「えっと……じゃあ、僕じゃダメかな?」

 

「え?」

 

 

 

だが、そこに希望があった。

そう、シャルロットはまだ決まっていない。

故に皆申し込みに来たのだから。

 

 

「おお! そうだよ! シャルルはまだパートナーいないからオッケーだよな!」

 

「そうね! 簪ちゃん、シャルルとのペアでどう?」

 

「え、えっ?! わ、私と、シャルルくんが?!」

 

 

 

これまたいきなり振られて戸惑う簪。

そこで思い出した。簪はまだシャルルが女の子……シャルロットってある事を。

そして、同時に思った。簪以外の人に組ませると、シャルロットの事が公になると。

 

 

 

「えぇぇぇ‼︎ シャルルくんもダメなの?!」

 

「そんなぁ〜……」

 

「専用機持ちずるい〜…」

 

 

 

これまたブーイングが起きる。

だが、シャルロット自身の身の安全がかかっていること故に、ここは大人しく引いてもらうほかないのだ。

 

 

 

「ごめんねみんな……。みんなの気持ちは凄く嬉しい……けど、僕もこのトーナメントで、どれだけ自分の実力が通じるか、試してみたいんだ……。

だから、今回は、更識さんと組みたいんだ……。ごめんね」

 

 

 

優しく微笑んだ様な笑顔、誰もが聞き入るような声音で、説得するシャルロット。

それが功を奏したのか、さっきまでのブーイングの嵐はぱったりと止み、中にはそんなシャルロットを応援する声も上がる。

 

 

 

「なんともまぁ、あっさり終わったな」

 

「女の子なんて、結構単純なものよ? 特に十代の乙女はね」

 

「あはは……ここまで言ってくれるみんなにも……なんか、申し訳ないなぁ……」

 

「そうね。だからこそ、トーナメントでは、全力を出さないと、失礼よ?」

 

「はい。もちろんそのつもりです……。ね、更識さん」

 

「え? あ、あぁ、うん!」

 

 

 

明らかに動揺している簪。

それを見て微笑んでいる刀奈。まぁ、元来刀奈はシスコン故に、簪の事を可愛がって見ているのだろうが……。

 

 

 

「おい、カタナ……簪には、教えとかないと不味いんじゃないか?」

 

「ええ、もちろんそのつもりよ。簪ちゃん、ご飯食べ終わったら、一緒にチナツの部屋に来てもらっていい? ちょっと相談したいことがあるの」

 

「相談? ここじゃあダメなの?」

 

「うん、今後のことで、ちょっと……。僕からもお願い出来ないかな?」

 

「え? う、うん……わかった」

 

 

 

何事かわからない簪は、頭を傾げるだけだった。

その後、みんなで楽しく食事をし、約束通り一夏の部屋へ行き……

 

 

 

 

「ええぇぇぇぇっ!!!!」

 

「簪ちゃん! しーっ! しーっ!」

 

「あ、あうぅ……ご、ごめんなさい……」

 

「簪、気持ちはわかるが、シャルロットの話を聞いてやってくれないか?」

 

「ごめんね更識さん……その、ちゃんと説明するから……」

 

「う、うん……。あの、簪で、いいよ。お姉ちゃんも、『更識』だから……」

 

「え? あ、う、うんわかった。じゃあ簪…さん」

 

「あ、さんは付けなくていいよ……同じ学年だし…」

 

「そう? じゃあ、簪。その、僕の事について……いいかな?」

 

「う、うん……!」

 

 

 

 

そこからは、ずっと真剣な雰囲気に包まれていた。

シャルロットは、一夏たちに話した事を簪に話す。そして、簪もまたそれをただ黙って聞いていた。

 

 

 

「こんなところかな……。ごめんね、なんか騙した様な形になって…」

 

「ううん……。シャルロットの、事情はわかった。お姉ちゃんと一夏は、シャルロットの保護を優先するんでしょう?」

 

「ええ、そのつもりよ。シャルロットちゃん自身が望んでいることだし、ここの長たる私の使命でもあるからね」

 

「俺たちだけじゃない。キリトさんとアスナさんもだ。巻き込む形で悪いんだが、簪もトーナメントが終わるまでの間、シャルロットの事は他言無用にしてもらえないか?」

 

「うん、もちろん。協力する」

 

「ありがとう、簪」

 

「ううん……困った時には、お互い様……」

 

「それでも、ありがとう……」

 

 

 

交渉が成立したところで、具体的な訓練は明日考える事にし、今日は解散となった。

 

 

 

「それじゃあ、私と簪ちゃんは戻るわね。また明日、お休み〜」

 

「お休みなさい」

 

「ああ、お休み。ありがとうな簪……カタナも」

 

「うん、お休み。明日からよろしくね」

 

 

 

 

手を振って、部屋を出て行く二人を見送り、一夏達も明日に備えて休む。

 

 

 

「良かったな、シャルロット」

 

「うん。トーナメントまでは、一夏達にも迷惑が掛かると思うけど……それまでは、よろしくね」

 

「ああ、わかってるよ。はぁー、なんだかんだで今日も疲れたなぁ……」

 

「そうだね……」

 

「お茶飲むか? 緑茶で良ければ淹れるぞ?」

 

「うん。お願いします」

 

 

 

そう言って、一夏は台所に向かい、慣れた手つきで緑茶を入れていく。そして、シャルロットはそれをうっとりとしながら一夏の後姿を見ていた。

 

 

 

 

 

〜一年寮・廊下〜

 

 

 

「お姉ちゃん、機体データありがとう」

 

「どう致しまして♪ それにしても良かったわ……簪ちゃんの機体が完成して」

 

「うん…でも、まだ形だけなの。マルチロックオン・システムは、まだ……とりあえず、武装と機体の基本プログラムはなんとか……」

 

「それでも凄いわ。さすがは私の簪ちゃんね♪」

 

「うん……ありがとう……♪」

 

 

 

 

そこには、今までのが嘘みたいに仲良くじゃれ合う仲良しの姉妹がいた。

二人の笑顔は、どんなものよりも輝いて見えた。

 

 

 

「でも、本戦で当たったなら、手加減はしないわよ?」

 

「もちろん……私も、お姉ちゃんには負けない……!」

 

「ふふっ……! それでこそ、私の妹だわ」

 

 

 

仲良し姉妹でも有るが、それでも次のトーナメントでは、敵同士だ。狙うは優勝という二文字のみ。

っと、そんな時。前方から、こちらにやって来る人物が……。

 

 

「あら、箒ちゃん」

 

「あ……こんばんは、楯無さん。それと……」

 

「あ、こんばんは。妹の更識 簪と言います」

 

「ああ、これはご丁寧に……。私は、篠ノ之 箒だ」

 

 

 

今しがた夕食を終えたのか、箒とばったり出会ってしまった。

初めて顔をあわせる簪と箒は、互いに挨拶を交わし、名前で呼び合うようにした。

 

 

 

「箒ちゃんは、今帰り?」

 

「ええ、先ほど食事を終わらせましたので……」

 

「ええっと……それは?」

 

「ん?」

 

 

 

 

簪が指差す方を見ると、箒の手には、何やら細長い物を持っていた。そして、よく見るととても綺麗な包みで、よく剣道部員たちが使う竹刀などを入れる包みにも見えた。

箒は、「ああ」というと、その包みの紐を解き、中の物を見せてくれた。

 

 

 

「私の刀だ。食事の前に、少し稽古をしてきたんだ」

 

「それって……真剣?」

 

「? ああ、もちろんだが?」

 

 

 

 

何で当然の事を聞いて来るのだろうかと箒は思ってしまったが、女の子が真剣片手に廊下を歩いている絵面など、あまりに奇怪……と言うかほとんど無いので、仕方がない。

 

 

 

 

「ヘェ〜。箒ちゃんって真剣での稽古もするだぁ……」

 

「ええ、まぁ。うちは実家が神社であり、道場ですし、篠ノ之流剣術という剣を持ってますから……今は、あまり門下生もいないですけどね……」

 

「ふ〜ん。でも、なんだか顔が浮かないわねぇ……」

 

「えっ?」

 

「真剣での稽古ってね、如実にその人の心理を写すものなの……なんだか箒ちゃん、あまり元気が無いみたいだし……」

 

「そ、そんな事は……」

 

 

 

無いとは言えなかった。ここのところ、いろいろな事があり過ぎて、自分がどうすればいいのかわからない事だらけだったのだ。

一夏と6年ぶりに再会し、また同じ時間を過ごせるかと思いきや、目の前にいる刀奈とは『恋人』。そして、他にもいた幼馴染の鈴の存在。その他にも、セシリアやシャルルと言った専用機を持つ国家代表候補生と親しくなっていく一夏。

そして、未だに続けているVRMMO。

その繋がりで知り合った和人と明日奈の二人。聞く話によると、その他にも色々と知り合いが多いみたいだ……。

そんな一夏を見ていると、自分だけが取り残されていく感じがして、堪らなかった。

いや、恐怖しているのかもしれない……。

 

 

 

 

「……ここのところは、自分でもどうしたいのか、分かりません……。

ただ、今の自分は、何がしたいのか……それを見つけ出したいだけです……」

 

「……そう。そうよね、あなたからすれば、私はチナツを奪った人間だもの……。許せないのは当然だわ」

 

「それは……」

 

「否定は出来ない……でしょ?」

 

「…………」

 

「まぁ、それも含めてトーナメントでは、戦えるといいわね」

 

「え?」

 

「私はチナツとタッグを組んだ。だからいずれ、どこかでは戦うことになると思うわ」

 

「っ‼︎」

 

「その時は、全力で相手してあげる……。あなたに譲りたくないものがある様に、私にだってプライドがあるわ……。あの人の隣で生き、支えると誓った……。その想いに嘘はない…だから、あなたも本気で来なさい……箒ちゃん」

 

「……分かりました……。私の剣が、どこまであなたに通用するか……試させていただきます」

 

 

 

互いに一夏を想う心は変わらない。

女同士にしかわからない意地やプライド。それらを賭けた戦いが、もう数日後には始まるのだった。

刀奈と箒……二人の視線からは、激しい火花が散っていた。

 

 

 

 

 




次回は多分、セシリア&鈴 VS ラウラからの、トーナメント開催当日までは行こうかと思っています。


感想よろしくお願いします^o^



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