ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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第14話 一触即発

シャルルとラウラが編入してから数日。

シャルルは予定通り一夏と同室となった。ラウラの方は部屋は決まったみたいだが、同居人の方はいないらしい。

まぁ、初日からずっと厳しく、冷たい視線を送る彼女と同室になりたいと思う者はまずいないだろう。

それからというものの、一夏たちは男三人で過ごすことが多くなり、とりわけ放課後や実習の授業でも模擬戦をしたり、一緒に訓練をしたりしている。

 

 

 

〜第二アリーナ〜

 

 

 

 

「あっ! 一夏、和人!」

 

「ん? おお、シャルル」

 

「どうかしたのか?」

 

「ちょうどよかった。二人共、今から模擬戦しない? 僕も一夏や和人とやってみたいと思ってて」

 

「どうします? キリトさん」

 

「あぁ、良いんじゃないか? ちょうど俺も模擬戦やりたかったから、望むところだぜ」

 

「あはは! キリトさんなら、そう言うと思いましたよ。OK! じゃあ俺もやるよ!」

 

「じゃあどっちからやる?」

 

「うーんそうだなぁ〜。じゃあ俺とやらないか?」

 

 

 

 

そう言って出たのは和人だ。それをシャルルは了承し、一夏はアリーナのカタパルトデッキに移動し試合を観覧する。

 

 

 

「じゃあ行くぜ。シャルル!」

 

「いつでもいいよ!」

 

 

 

第二アリーナの中央に、オレンジと黒のリヴァイヴが鎮座し、構えを取る。

オレンジのリヴァイヴは右手にサブマシンガン、左手にアサルトライフルを構え、黒のリヴァイヴは右手に黒の片手用直剣を構えている。

 

 

 

「いくよ! リヴァイヴ!」

 

「行くぜ!」

 

 

 

シャルルは一旦距離を取り、サブマシンガンとアサルトライフルを乱射し、和人を追い詰めようとするが、和人は後方に下がったり、左右へと高速移動するとこで弾幕を抜ける。

 

 

「ちっ! 銃相手に戦闘は難しいな……っ!」

 

「逃がさないよ!」

 

「おっと! 危なかった……! 悪いが、これ以上は好きにはさせないぜ!」

 

 

 

和人は刀奈直伝の対銃火器戦闘用のスタイルであるシューター・フローとサークル・ロンドを駆使し、弾幕を抜けて、イグニッション・ブーストで一気に肉薄する。

 

 

「うわっ!?」

 

「せいやあぁぁぁ!!!」

 

 

蒼いライトエフェクトがエリュシデータを染め、水平四連撃《ホリゾンタル・スクエア》がシャルルを斬りつける。

 

 

「くっ!」

 

「まだまだ!」

 

「おっと! そうはさせないよ!」

 

 

再びシャルルに対して斬りこもうと思っていたが、目の前には、右手にサブマシンガンではなく、ショットガンと左手に小型ブレードを持ったシャルルが……。

 

 

「なっ!? いつの間に!」

 

「ふふっ……これが僕のスタイルだよ!」

 

 

 

和人の斬撃を左手の小型ブレードで受け流し、右手のショットガンをほぼゼロ距離の位置から撃つ。

 

 

「くそ!」

 

「当てる!」

 

「ぐっ!」

 

 

咄嗟に急所となる部分をエリュシデータで庇う。

が、それでも飛び散る散弾の全てを防ぐことが出来ず、ダメージを受けてしまう。

 

 

 

「ちぃっ! って言うか、さっきの武器はどうしたんだよ?!」

 

「《高速切替》(ラピッド・スイッチ)って聞いたことないかな? 僕はそれを得意としているだ」

 

「ラピッド・スイッチ……クイック・チェンジみたいなもんか……」

 

「ク、クイック?」

 

「いや、なんでもない! よし、今度は食らわないぜ! 行くぞ、シャルル!」

 

 

 

 

その後は終始二人共善戦し、約20分くらい戦闘を続けた。

 

 

 

「二人共お疲れ様です」

 

 

そう言って、二人にスポーツドリンクを手渡す一夏。

二人はそのドリンクを受け取り、シャルルは一口飲み、和人は大体半分くらいを一気に飲み干す。

 

 

 

「ふぅー。にしても、和人は凄いね! 剣一本であの弾幕を抜けたり、防いだりするんだから……」

 

「そうは言うが、ほとんど被弾してたんだぜ? カタナからシューター・フロー教えてもらえなかったら正直やばかったぜ」

 

「カタナ? 誰それ?」

 

「ああ、チナツの彼女だよ。っと、噂をすればなんとやらだな」

 

 

 

和人の指摘で、一夏とシャルルは後ろを振り向く。

そこには、ISスーツ姿でこちらに移動してくる刀奈と明日奈がいた。

 

 

 

「やっぱりここにいたのね」

 

「キリトくんもチナツくんも、シャルルくんが来てから戦ってみたいってずっと言ってたもんねぇ〜」

 

 

 

刀奈も明日奈も、恐らくは確信していたのだろう。自分たちの夫たちは、すぐにでもシャルルとともに模擬戦をするであろうと……。

そして、改めて刀奈はシャルルと自己紹介を交わした。明日奈は以前したことがあり、今ではシャルルの手助けも買って出てるようだ。

 

 

 

「それで? もう模擬戦は終わったの?」

 

 

 

刀奈の指摘に頷く和人。

すると、刀奈は扇子を出して、パアッと開く。

そこには『選手交代』と達筆な字で書かれていた。

 

 

 

「アスナちゃん、私と模擬戦しない?」

 

「え? わ、私と!? うーん……」

 

 

 

刀奈の提案に少し戸惑ったが、了解すると、刀奈と明日奈は自分たちの機体を展開させて、アリーナの方へと飛んで行った。

 

 

 

「あ〜あ……。行ってしまったな…」

 

「そうですね……。よくよく考えてみたら、アスナさんとカタナがデュエルするのってSAO以来ですよね?」

 

「あぁ、そう言えばそうなるのか……」

 

 

 

昔懐かしい話をしているとそこにシャルルが……。

 

 

 

「ねぇ、二人って……って言うか明日奈さんと楯無さんの四人はどう言う知り合いなの?」

 

「え? あぁ、あまり公にはされてないけど、俺たち四人はSAO生還者なんだ」

 

「え?! あ、あのSAO事件の?!」

 

 

 

一夏の返答に驚くシャルル。

シャルルとて、フランスにいた頃に耳にはしていたはずだ。

一万人ものプレイヤーを閉じ込め、突如始まったデスゲーム……ソードアート・オンライン。

そして、そのゲームで約四千人ものプレイヤーが死んだ事は、ニュースなどで聞いているだろう。

その生き残りが、今自分の目の前に四人はいるのだ。

 

 

 

「あぁ、そうだよ。ネット用語で言えば、俺たちは『SAOサバイバー』って事になるな」

 

「あれは僕も驚いたよ……。ゲームなのに死人が出たってニュースでやってたから……。なるほどねぇ、それでみんなは違う呼び方をしてたんだね」

 

 

 

違う呼び方。おそらくまぁ、一夏達の呼び方のことだろう。

 

 

「あぁ、これはつい癖でな。今でも昔のキャラネームで呼んでしまうんだ……本当はマナー違反なんだけどさ、慣れないからついな……」

 

「俺も『和人』って呼べって言ってるんだけどな。まぁ、俺も俺でチナツにカタナって呼んでるから、おあいこだけどな」

 

 

 

そう話をしていると、明日奈と刀奈の準備が整い、構えを取っていた。

明日奈は愛剣《ランベントライト》を胸のあたりまで上げ、そこから切っ先を刀奈に向ける。フェンシングなどで見られる型だ。

一方、刀奈の方は愛槍である紅い長槍《龍牙》を展開し、矛先は低く、左手を添えるように構え、右手は柄をしっかり握り、顔の位置まで上げている。

 

 

 

「楯無さんはあの若さでロシアの国家代表生として活躍してるのは聞いていたけど、明日奈さんは……なんだか意外だよね」

 

「意外というと?」

 

 

 

シャルルの疑問に和人が聞き返す。

 

 

 

「あ、いや、別に変な意味じゃなくてさ! あのぉ、明日奈さんが戦っている姿は、なんだかギャップがある感じがしてさ」

 

「あぁ…」

 

 

 

シャルルの疑問がわかった。

お嬢様気質の明日奈が、武器を手に戦う姿を想像できなかったのだろう。

まぁ、確かに、明日奈は剣術よりも学術などのイメージの方が強い。

 

 

 

「でも、アスナさんはSAO時代、『攻略の鬼』って呼び名があったからなぁ……。

ほとんどの攻略戦も、アスナさん指示のもと今まで戦ってきたからな」

 

「あぁ、そうだな。俺も、アスナがいたからこそ、攻略組の面々が、あそこまで上達したと思っているよ。

アスナがいてくれなかったら、攻略はもっと遅くなってたし、犠牲になっていたプレイヤー達も多かったはずだ」

 

「人は見かけによらないとは言うけどねぇ……あ! 始まるよ!」

 

 

 

シャルルの声に、二人は視線をアリーナ中央に向ける。

 

 

 

 

「やああああぁぁぁ!!!」

「はああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

互いにイグニッション・ブーストで近づく。

ランベントライトの剣先と龍牙の矛先が寸分違わぬ位置でぶつかり合う。

それと同時に鋼独特の甲高い音と火花が散る。

 

 

 

「やあ! たあ!」

 

「ふっ! てやっ!」

 

 

 

そこからさらに、明日奈はレイピアの戦法たる連続突きを放つが、刀奈は巧みに槍を操ってはその攻撃を捌く。

そして、今度はお返しとばかりに、槍で薙ぎ払い、突き、明日奈に仕掛ける。

 

 

「くっ! やっぱりカタナちゃんは強いね!」

 

「何言ってるの? アスナちゃんだって、さっきから私の攻撃を躱してる時点で強すぎるわよ」

 

 

 

二人がデュエルをしたのは、SAO時代では数えるほど。言っても十回も行かないくらいだろう。

そして、その数回のデュエルで、互いに本気でやりあったことは一度もない。

SAOでのデュエルは、ほとんどが『初撃決着モード』か『時間制限モード』でのものだった。別に他のでも出来なくはなかったが、『全損決着モード』……HPが全損する事だけは、あの世界では禁じられていた為、プレイヤーたちの中でどこか本気で挑めない者たちがいた。

かく言う一夏と和人も、デュエルをしたが、あまり本気ではなく、互いに稽古代わりとしてやっていただろう。

 

 

 

 

「二槍流は使わないの?」

 

「無理言わないでよ。アスナちゃん相手に二槍流は、逆に自分を追い詰めるだけ……今でも懐に入られないようにするのが精一杯だわ!」

 

「そう? カタナちゃんなら、私の攻撃を軽々捌くと思ったけど……!」

 

「アスナちゃん……あまり自分を過小評価しすぎよ? アスナちゃんの本気の突き、キリトだって躱せなかったんでしょう? なら、私じゃ躱せないわよ」

 

 

刀奈の言葉に、観客席で見ていたシャルルが驚く。

いや、その他にも……。

 

 

 

「お、おい、一夏…」

 

「ん? おお、箒。 それにセシリアに鈴も…」

 

 

 

後ろから、ISスーツ姿の箒と、その後ろからやってくるセシリアと鈴。

 

 

 

「さっき楯無さんが言ったことは、本当なのか? 明日奈さんの本気の突きを、和人さんは躱せなかったと言うのは……」

 

「あぁ本当だぞ。って言うか、俺も単発ならまだしも、ああやって連続突きをされたら、躱せないなぁ……先読みをして、なんとかなっているけど」

 

「い、一夏さんでも難しいんですの?!」

 

「あぁ、チナツもアスナとデュエルした時は、何発か食らってたもんな」

 

 

 

セシリアの問いに和人が答えるように言う。

一夏が血盟騎士団に入団したあと、明日奈は自らデュエルを申し出た。これまでは、自分と対等に剣を震えるプレイヤーが限られていたのと、刀奈は別部署での仕事があり、和人もまた、ソロとして自由気ままに活躍していたために中々デュエルする機会もなかったので、入って来たばかりの一夏と剣を交わした。

 

 

「それで、その時はどっちが勝ったの?」

 

「うーん……あの時は『時間制限モード』でデュエルしてたからなぁ……大体互いのHPが半分くらいになったあたりで決着したから、どっちが勝ったとかはわからない……」

 

 

 

鈴の質問に和人は答え、そのまま視線を一夏に向ける。

どうやら、後のことは本人に確かめる……と言う事らしい。

 

 

 

「うーん…あの時は、正直危なかったですね。最後にアスナさんの剣を見たのは、第25層のボス攻略あたりでしたから、それから更に研きがかかったアスナさんの剣は、全て躱すのは無理だったなぁ……」

 

「じゃあ、なんで楯無さんは、ああも対処出来ているんだ? 特に槍なら、明日奈さんのレイピアとはあまり相性が良くないだろう?」

 

「あれはもう、経験の差……だろうな」

 

「経験の差?」

 

 

箒の問いには、一夏が答えた。

 

 

「あぁ。カタナはアインクラッド……血盟騎士団の団員の中では、多分一番多く任務やクエストをこなしたんじゃないかな……。隠密部隊の隊長にして、副団長。隠密部隊の任務でも、ボス攻略のための情報収集に携わっていたからなぁ〜。

多分その次に、俺かキリトさんが来て、アスナさんが来る感じだろう。モンスターとの戦闘や隠密部隊ならではの裏組織との対人戦。場数を踏んでいるのは、圧倒的にカタナだよ」

 

 

 

隠密部隊筆頭でありながら、隠密行動にはあまり向かない槍で生き延びた刀奈は、ある意味『猛者』と呼ばれるに相応しいプレイヤーだったのかもしれない。

 

 

 

「まぁ、そんな感じで、あの二人はそこまでヤワなお嬢様方じゃないってことだな……。っと、そろそろ決めにくる頃合いだな」

 

 

 

和人の言葉で全員がアリーナ中央を向く。

戦闘は、空中、地上、高速移動中と様々な戦闘内容となっていった。

そして、互いに決めに来るとすれば、やる事は一つだ。

 

 

「い、やあああああぁぁぁっ!!!」

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

明日奈のランベントライトの刀身が真紅に染まり、刀奈の龍牙も翡翠色に染まって、互い決めに来た。

閃華から放たれたのは、《フラッシング・ペネトレイター》。閃光のアスナと呼ばれた明日奈の出せる最速の技。

一方、ミステリアス・レイディからは一度腰だめしてからの、体のひねりを加えた槍スキルの突進型刺突スキル、《ソニック・チャージ》。威力もさることながら、刀奈の独特の構えから繰り出されるそのスキルは、スピードでも負けず劣らない。

真紅と翡翠。二つの光がぶつかり合い、二人が交錯しあったところを中心に、大きな爆発と爆煙、爆風が吹き荒れ、会場が唸り、観客席で見ていたギャラリーもまた驚きの声を上げる。

 

 

 

「おいおい! あれ、大丈夫なのかよ!?」

 

「ISを装備してるから大丈夫だとは思いますけど……。とりあえず行きましょうか」

 

 

 

和人と一夏、箒たちも急いでアリーナの中に入っていく。

ISを展開し、未だに爆煙立ち込めるアリーナ中央に行くと、そこにはISを解除し、尻餅をついて座り込んでいたふたりの姿があった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……さ、流石ね……アスナちゃん……!」

 

「カ、カタナちゃん……こそ! 最後のは、キツかったよー……」

 

 

思ったよりも無事であった。

しかし、やはりダメージはお互いに通っていたのか、呼吸がやや荒い。

そんな二人を見て、ほっとした一夏と和人。ISを解除して、二人のところへと向かう。

 

 

 

「全く、まだリハビリを終えたばかりなんだから、無理はするなよなぁ……」

 

「ううっ……ごめんなさい……」

 

「カタナも。大丈夫だとは思ったけど、あまり心配させないでくれよ」

 

「あはは……ごめんなさい……」

 

 

いつもは逆に和人と一夏が、明日奈と刀奈に叱られるのだが、今回ばかりは逆の立場になっている。

そう言いながらも、二人の手を掴み起き上がらせる。

 

 

 

「今日はここまでにしないか? 俺もさっきシャルルとやり合ったばかりだから、疲れたし……」

 

「シャルルも流石に今から俺とやるのは、キツいだろう? 模擬戦はまた明日やろうぜ」

 

「うん、そうだね。じゃあ一夏とは、また明日ね。それに、明日奈さんと楯無さんの試合を見た後だと、どうにもレベルの差を思い知らされちゃうよ……」

 

「全くだな。近接戦闘だけであれ程の試合を見せられてはな…………他のものも、どうやらそうするみたいだぞ」

 

 

 

箒の言葉で周りを見てみると、模擬戦をしていた他の生徒たちも、なにやら撤収作業に入っている。

 

 

 

「じゃあ俺たちも撤収しますか……ん? あれは……」

 

 

 

一夏が最後を締めくくろうとし、皆ISを再び展開した時、不意に殺気混じりの視線を、一夏は感じ取った。

その視線の出処は、アリーナのカタパルトデッキ付近。

そこには、一夏との因縁のある人物が立っていた。

 

 

 

「ねぇ! アレって、ドイツの第三世代じゃない!?」

 

「最近本国からのロールアウトをしたばかりって聞いていたけど…」

 

 

 

そう、ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。そして、彼女の専用機、シュバルツァー・レーゲンがよりその存在感を醸し出していた。

その堂々たる姿に、他の一般生徒たちも驚く。

 

 

 

 

「織斑 一夏…」

 

「よう。なんだ?」

 

「貴様も専用機持ちだったな……ならば丁度いい。私と戦え」

 

「「「ッ!!!!!!」」」

 

 

 

ラウラのいきなりの言葉に、一夏以外のメンバーが驚く。

 

 

 

「なによあんた! いきなり出てきて言うことがそれ?!」

 

「そうですわね! 今朝の事も、まずは一夏さんに謝るのが筋ではなくて?!」

 

 

 

鈴とセシリアが今朝の事……一夏に殴りかかろうとした事に対しての追求をするが、ラウラはそれを無視する。

 

 

 

「ふん! そんな事どうでもいい……。もう一度言う……私と戦え、織斑 一夏……ッ!」

 

「…………」

 

 

 

先ほどよりも、より殺気のこもった視線と言葉で、一夏に尋ねる。

だが、一夏は……。

 

 

 

 

「断る」

 

「何?」

 

「聞こえただろ。『断る』と言ったんだ。俺にはお前と戦う理由がない。それに、今日はもうおしまいだ」

 

「ふざけるな‼︎ 貴様には無くても、私にはあるのだ!」

 

「だったら、明日か今度のタッグマッチトーナメントでやればいいだろ。どの道、お前とはやり合うことに変わりはないはずだ……」

 

 

 

 

徹底してラウラとの交戦を避けようとする一夏。

だが、それを聞いて、大人しく退くラウラでもない。

 

 

 

「そうか、なるほど……。では、戦うように仕向ければいいわけだっ‼︎」

 

「っ!」

 

 

 

そう言うと、ラウラはシュバルツェア・レーゲンの主武装であるリボルバーカノンの砲身を一夏たちに向け、照準を合わせる。

咄嗟にシャルルが一夏を庇おうと前に出て、シールドを展開したのだが……。

 

 

「っ!」

 

「へ? い、一夏っ!?」

 

「ふん、自ら当たりに来たか……ならば、吹き飛べっ‼︎」

 

 

 

シャルルの防御行動を無視し、シャルルの前に出る一夏。

それを見て、ラウラも躊躇することなく、リボルバーカノンを発射した。

ドンッ! と言う低く響くような音と共に、放たれた砲弾は、まっすぐ一夏の元へと飛んでいき、一夏に当たると思われた……。が、次の瞬間……

 

 

 

 

「はあああッ!!!」

 

 

ズシャアァァァァァンーーーッ!!!!

 

 

 

「な、何っ?!」

 

 

 

驚愕の表情に見舞われるラウラ。いや、ラウラだけではない。和人たちもまた、目の前で起こっていることに、目を点にして見ている。

放たれた砲弾は、一夏に着弾する直前で、一本の剣閃が砲弾に真っ直ぐ縦に入り、砲弾を真っ二つにしたのだから……。

 

 

 

「なっ……き、貴様……っ!」

 

 

 

斬られた砲弾はそのまま慣性に従い、一夏と後ろにいた和人たちを通り越して、後ろに着弾した。

抜刀一閃……その言葉が正しく相応しい。前に出た瞬間、一気に抜刀し、上段からの唐竹割りで、見事に斬って見せた。

 

 

「こんなに一般生徒たちがいる中で、いきなり大砲をぶっ放すなんて……お前、本当に専用機持ちの代表候補生なのか?」

 

 

今しがた、砲弾を斬り捨てた一夏は、刀を鞘に納めると、今までにないくらいの殺気をラウラに対して放った。

その殺気は、生半可な物ではなく、本気で人を殺そうとしている者の殺気と思う程、濃密なものだった。

 

 

 

「ちっ! まさかその様な芸当が出来るとは……貴様の評価を少しばかりは改めないといけないという事か……」

 

「別にそんな事どうでもいい……。お前が俺のことをどう思おうと構わないさ。が、周りにいる関係のない人まで巻き込むつもりなら、こちらも容赦はしない。全力でお前を斬る……っ‼︎」

 

「ふっ、ははは! 面白い。たかがゲームで二年も寝たきりになっていた貴様と、現役軍人の私と、どちらが上かハッキリさせようではないか!」

 

 

 

ラウラがキャノンを戻し、両腕からレーザーブレードを展開し、それを見て一夏も、雪華楼の鞘に左手を持って行き、鯉口を切る。

 

 

 

「「…………」」

 

『そこの生徒っ‼︎ 何をしているっ!』

 

 

 

突如、アリーナ内に声が響く。

どうやら、騒ぎを聞きつけた教員が、アリーナの放送室から怒鳴っているようだ。

 

 

 

「ふん、卿が削がれた。いずれ貴様とは必ず決着をつけてやる……‼︎」

 

 

 

その言葉だけを残し、ラウラはISを解除して、アリーナの出口へと向かって行った。

その背中を、苦虫を噛んだような表情で見る一夏。

 

 

 

 

「チナツ! 大丈夫か?!」

 

「キリトさん……はい、俺の方は大丈夫です。みんな大丈夫か?」

 

「何を言っている。攻撃されたのはお前なのだぞ?」

 

「そうですわね。ですが、もしも一夏さんがあれを斬っていなかったら……」

 

「私たちもまとめてドンッ! だったわね」

 

「僕が盾になろうと思ってたんだけど、余計だったかな?」

 

「いや、そんな事ないぞ。ありがとうシャルル」

 

「別に僕は何もやってないよ。しかし凄いね一夏! 大砲よ弾丸を斬るって……やっぱり一夏も和人も普通じゃないよ」

 

箒、セシリア、鈴とシャルル。四人が共通で思っていることを、シャルルが代弁した。

SAOプレイヤーとしての二年間が、一夏たち四人の戦闘技能を凄い速度で向上させて行ったのだ。

他のIS操縦者たちでは絶対に見られない絶技に、ただただ舌を巻く事しかできない箒達であった。

 

 

 

「さてと、厄も去った事だし、帰るとするか……」

 

「そうだな……アスナ、立てるか?」

 

「うん、ありがとうキリトくん」

 

「カタナも大丈夫か? ほら、掴まれ」

 

「ありがとう、チナツ」

 

 

 

 

一夏と和人は、刀奈と明日奈を立たせ、一夏達はシャルルと共に男子更衣室へと向かい、刀奈たちは箒たちと共にアリーナの更衣室へと向かって行った。

 

 

 

 

「ふぅー……」

 

「いきなりだったな……あいつ」

 

「キリトさん……」

 

 

 

男子更衣室の中で、先に制服に着替え終わっていた一夏。

ベンチに座って、先ほどの事を考えていた。

そこへ、着替え終わった和人が、後ろから声をかけてくる。

 

 

 

「そうですね。あいつのは……なんか、昔の俺に似ているんですよね……千冬姉の存在が、とても大きくて、眩しくて、だからこそ意識してしまうんでしょうけど……」

 

「まぁ、俺も茅場の作り出した世界に、いち早く惹かれて、SAOにログインした身だからな……その気持ちは分からなくもない」

 

 

 

 

SAOでの経験……それも、暗い過去の事を思い出してしまう。和人も一夏も〈黒の剣士〉〈白の抜刀斎〉……そう呼ばれる代わりに多くのものを失った。

何かを信じ、求めた結果、最悪な事態を生み出し、失い、孤独に苛まれた経験があった……。

ラウラは、そういった自分たちとどこかが似ている。

これは、先ほどの騒動の時に気付いたことであった。

 

 

 

「はぁ……まぁ、それもこれも俺が決着をつけるべき何ですけどね」

 

「そうだな……だが、あまり無茶はするなよ? どんなことが出来るかはわからないけど、俺もアスナも、お前がピンチなら、助けに行くんだからよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「そんじゃあ、俺は一足先に行くわ」

 

「え? どこにですか?」

 

「整備室……機体のチェックしてから帰ろうと思って……」

 

「あぁ、なるほど……。シャルルはどうするんだ?」

 

「うん、僕もこのまままっすぐ寮に帰るよ。一夏はどうする?」

 

「俺はもう少しここにいるよ。色々の考えたい事があるから……」

「わかった。じゃあ先に帰ってるね」

 

 

そう言って、和人とシャルルは更衣室を後にし、残った一夏は、更衣室内にあるベンチに座る。

 

 

 

「『いずれ決着をつけてやる』……か。そうだな、俺がつけるべき決着だな……」

 

 

 

一度は揺らぎそうになったが、再び決心する。

自身と同じものを見ている女の子。ならば、その同じものを見ていたものにしかわからないものがある。

だからーー

 

 

「次に戦うときは、本気で行くか……!」

 

 

 

一夏は、昔と同じ抜刀斎の眼で、そう宣言した。

 

 

 

 

 

「…………チナツくん、大丈夫かな?」

 

「ん……そうね。あの人も、色々と背負ってるものがあるから……ちょっと心配」

 

「はぁー……どうしてこうキリトくんもチナツくんも、厄介事に巻き込まれるのかなぁ〜」

 

「そうなのよねぇ〜。でも、そんな人達を好きになっちゃった時点で私たちの負けよ」

 

「あはは♪ まぁ、そうなんだけどね……」

 

 

 

女子更衣室で明日奈と刀奈、箒に鈴にセシリアと、着替えを済ませていっている。

 

 

「それにしても、あのドイツ人は何なのよ? どんだけ一夏を目の敵にしてるわけ?」

 

「それは私にもわからん……。一夏も初めて会ったと言っていたし……」

 

「ですが、いきなり平手打ちをしようとするくらいですもの……一夏が彼女の勘に障るような事をしたとしか……」

 

 

 

同じクラスである箒とセシリアは、初めの自己紹介の時点でラウラの一夏に対する接し方に疑問を抱いていたが、流石に今回のような騒動を起こすとなると、どうにも……

 

 

 

「腑に落ちんな……」

 

「そうですわね……一体、一夏さんとラウラさんの間に、何があったんでしょうか?」

 

 

 

その答えを知るのは、ラウラと恐らくは一夏だけだろう。

いくら考えても答えが出ないまま、一行は着替え終わった。

 

 

 

「ああ、そうだ鈴ちゃん、セシリアちゃん」

 

「はい?」

「何ですの?」

 

 

 

更衣室を出たところで、二人は明日奈に呼び止められた。

 

 

 

「えっと、二人は今日、時間ある? 出来れば、ALOで一緒に参加してほしいクエストがあるんだけど……」

 

「そうなんですか……。私は大丈夫です」

 

「わたくしもですわ。では、夕食を頂いてからでよろしいですか?」

 

「うん! それでいいよ。助かるよぉ〜! カタナちゃんも一緒にどう?」

 

「あぁ、ごめん。私ちょっと調べ物があって、また今度ね」

 

「あぁそっかぁ〜……わかった。じゃあまた今度ね」

 

 

 

 

そう言って、明日奈達と刀奈は別れて帰る。明日奈達は食堂に、そして刀奈はーー

 

 

 

 

「さてと、そろそろ暴かなきゃねぇ〜……シャルル・デュノアくんの正体を……」

 

 

 

 

 

 

一方、ようやく考えがまとまった一夏は、アリーナの更衣室を出て、帰路についていた。

 

 

 

「はぁー……疲れたぁ〜。腹も減った……」

 

「何故この様なところで教師などやっているのですか教官!」

 

「ん? 今の声は……」

 

 

 

一年寮の手前で、聞き覚えのある声がする。

その声のする方へと歩いて行くと、そこには千冬と先ほどの声の主、ラウラの姿があった。

 

 

 

「ラウラと千冬姉? 何を話してるんだ?」

 

 

 

一夏はコソッと近づき、近くにあった木の陰に隠れて、話を聞く。

 

 

 

「何度も言わせるな。必要な事だからやっている……それだけだ」

 

「この学園で教官が教師をする事に、どんな意味があると言うのですか!? ここではあなたの実力の半分も生かされませんっ‼︎」

 

「ほう?」

 

 

 

ラウラの言葉に、千冬はまっすぐな視線をラウラに向ける。これから語られる彼女の気持ちをまっすぐに受け止めようしているのか。

 

 

 

「大体、この学園の者たちは、少しばかりおかしいです! 危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている!」

 

「ふむ…………」

 

「お願いします教官! もう一度我がドイツで、ご指導を!」

 

(なるほど、そう言う事だったのか……)

 

 

 

今の言葉でようやく理解できた。

彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒにとって、千冬は絶対的存在なのだ。彼女に何があったかは知らないが、形は違えど、彼女と一夏は似ている。憧れであり、目標だった人が同じで、力を求めている……。

だからこそ、千冬の栄光を汚した一夏の事を、ラウラは許せないのだ。

 

 

 

 

「はぁ……いい加減にしろよ小娘」

 

「っ!」

 

「十五歳で、もう選ばれた人間気取りか? 片腹痛い……」

 

「で、ですがーー!」

 

「今日はここまでだ。私も色々と仕事が立て込んでてな、忙しいんだ」

 

「〜〜〜ッ‼︎ くっ!」

 

 

 

 

千冬にバッサリと切られたラウラは、遣る瀬無い気持ちを抱えたまま、寮へと戻って行った。

そして、その場に残った千冬は、ふとこちらを向いて……

 

 

 

 

「盗み聞きとは感心しないな……そんな異常性癖をもたせた覚えはないのだがな」

 

「っ!? と、流石に気付いていたか」

 

「当然だ。それで? こんなところで油を売ってていいのか? もうすぐタッグマッチ戦なんだぞ?」

 

「問題ねぇよ、順調だ」

 

「そうか。ならば、タッグを組む相手もちゃんと考えているんだろうな」

 

「もちろん。カタナとタッグを組む事にしてるよ。俺の動きに一番合わせられるのは、カタナだからな」

 

「ふん、お熱いことだな」

 

「からかうなよ……」

 

「まぁその調子ならば大丈夫なのだろう。ではな」

 

「あ、ちょっと待ってくれ千冬姉」

 

 

立ち去ろうとする千冬を止める一夏。

すると、千冬は立ち止まりはしたが、振り向いた瞬間、その手にはどこから出したのか、出席簿がーー

 

 

バシィィン!!!

 

 

 

「いってぇッ!!!」

 

「学校では『織斑先生』だ」

 

「えぇ〜……今更?」

 

 

 

バシィィンッ!!!

 

 

二発目を食らってしまった。なので、素直に謝る。

 

 

 

「それで? なんだ?」

 

「あいつ……ラウラの事なんだけど……」

 

「…………まぁ、そうなるな」

 

 

 

ある程度予測していたのか、千冬は待ってましたとばかりに口を開く。

 

 

 

「あいつが俺を憎んでいるのって、やっぱり三年前の……」

 

「終わった事だ。お前が気にすることではない」

 

「そういうわけに行くかよ……現に今、それのせいでこんな問題を起こしてるんだからよ」

 

「だが、だからと言ってもうどうしようもないだろう……私は現役を引退し、専用機も持ち合わせていない」

 

「……あいつは、千冬姉に現役に戻って欲しいんじゃなくて、もっと修行したいって言ってるんだろ?

って事は、あいつはもっと強くなりたくて、力が欲しいと思っているわけだ……」

 

「…………そうだろうな。あいつもまた、色んな過去を持った奴だ。それをわかっていたのに、どうにも上手くいかんな……人に教えるというのは……」

 

 

 

千冬はどこか儚げな表情で空を見上げる。

そして、その表情を見た一夏は、プフッと笑ってみせる。

 

 

 

「何を笑っている?」

 

「い、いやぁ〜、千冬姉がそんな顔をするのは初めて見たからさ……。

心配いらねぇよ。あいつとの決着は、必ず俺がつける。千冬姉は、試合が終わった後に、あいつとの和解のネタでも考えとけばいいさ」

 

「小生意気な事を言いおって……。まぁ、そうだな。お前を信じよう……。さて、もうそろそろ部屋へ戻れ。門限が近い」

 

「あぁ、わかった」

 

 

 

そう言って、一年寮へと戻って行く一夏。

その背中を見て、複雑な表情で見送る千冬。

あの二年間で、一体何があったかはまだ聞いていないが、それでも目に見えて精神的に成長した弟に対して、喜んでいいのか、寂しい気持ちになればいいのか、よくわからない。

だが、今の一夏になら、自分の教え子の事を任せられる……そう思ったのだ。

 

 

 

「任せたぞ……一夏」

 

 

ただ一言そう言って、千冬も寮へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

〜生徒会室〜

 

 

 

 

「虚ちゃん。それで、どうたった?」

 

「はい、お嬢様の睨んだ通りでした。こちらが、その詳細データになります」

 

 

 

刀奈が会長椅子に座り、机を挟んで会計の虚が机の上に資料を置く。

そこに書いてあった『デュノア社に関する報告書』という文字に眉を釣り上げる刀奈。

その資料を手に取り、読み上げる。

そして、全てを知った刀奈は、「ふぅー」と溜息をつき、資料を机に戻す。

 

 

 

「やっぱりそう言う事だったのね……。デュノア社の社長夫婦に、『シャルル・デュノア』なんて息子は存在しない……」

 

「はい。と言うより、彼……いえ、彼女は社長夫婦の子供ではありません」

 

「ええ、そうみたいね。とにかく、ありがとう虚ちゃん。後は私の方で何とかするわ」

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

 

 

虚の返事を聞いてすぐ、刀奈は部屋を出る。

もちろん行き先は、夫の元だ。

 

 

(狙いはチナツの白式……そうはさせないわっ‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、シャルの正体を暴くところから始まります。


感想よろしくお願いします^o^



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