ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりの投稿ですね(汗)


みんな内容覚えてるかなぁ〜




第110話 白雪姫の世界Ⅶ

「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」

 

 

 

月夜の森。

その中を駆け抜ける人影が一つ。

腰ぶら下げた直刀と、グレーの長袖シャツに黒い袖なしのジャケットを着て、下のズボンも同じ黒色という、どこかの誰かさんを彷彿とさせる出で立ちの少年。

先ほどまで死闘を繰り広げていたその少年は、息を切らしながら、森の中を駆け抜けていき、やがて城が完全に見えなくなると、少し休憩するために、木の陰に入って、疲れ切ったその身を背後の樹木に預けた。

 

 

 

「はぁっ……! はぁっ……! つ、疲れたぁぁ〜〜〜〜!!!」

 

 

 

少年、一夏は、先ほどまで強大な敵と交戦したばかりだった。

その正体も、まさかまさかの自身の姉……千冬と瓜二つの女性。

しかも、一夏の知らない独自剣術まで披露してくる始末……。

正直、一夏もこの結果に、非常に驚いている。

あの獰猛な様子の千冬から、命からがらが逃げおうせたというだけでも驚きなのだ。

実際に、あのまま戦っていたとしても、勝つ見込みは正直無かった……一対一の状況で、千冬に勝とうとするならば、一夏も全身全霊をもって挑まなければ不可能だろう。

しかし、それでも仕留め切れるかどうかは分からず、返り討ちに合うのが目に見えていた。

 

 

「とりあえず、カタナ達と合流しなきゃ……!」

 

 

 

先ほどの戦闘で、カタナやホウキ達の逃走時間を稼ぐことはできたはずだ。

あとは、彼女達がちゃんと逃げ切れたのか、アジトの防衛体制がしっかりしているのか、襲ってくるかもしれない敵を前に、しっかりと死守する事は可能なのか?

上げていけば、キリがないが、今は無事に逃げ延びてくれたことを祈るしかない。

 

 

 

「っと、とりあえずアジトへ…………」

 

 

 

アジトへと道は、なんとなくだが覚えている。

まずは、開けた場所にあったあの巨木の方へと向かう。

そういえば、初めて襲撃されたのも、あの場所だったか……。

とりあえず、この世界に来てからは、ろくなことがない。いきなり死刑判決を言い渡されたり、衛兵に追われたり、かと思ったら反政府勢力の女子ーズに集団で襲われたり。

なによりも、カタナの記憶がなかったり…………。

 

 

 

「カタナの記憶……どうすれば戻るんだろう……」

 

 

 

短時間で記憶を消去するのは、理論的に不可能ではないのか? と思いたくなるが、相手はあの天災科学者・篠ノ之 束だ。

何かとんでもない発明をして、刀奈や和人達を実験体にしているに違いない。

だが、この世界で初めて出会った当初の刀奈の様子を見るに、なんとなくだが、一夏に対して何か思うところがあったようにも思えた。

記憶喪失……というより、封じられているような感覚なのだろうか?

 

 

 

「うーん、どうしたものか……」

 

 

 

夜道……影の中を歩いて、月明りの指すあの巨木の前に来た時だった。

不意に前方からガサッ、という音が聞こえた。

一夏はとっさに距離を取って、抜刀の構え……中腰になり、右脚を前にして、両手は直刀の鞘と柄を握る。

しかし、その正体は意外な人物だった。

 

 

 

「一夏くんっ……?!」

 

「っ!!? 姫さん?! な、なんでこんなところにっ……?!」

 

 

 

何を隠そう、刀奈本人だった。

しかし、城から離れているとは言っても、こんな夜道に一人でいるのは……。

 

 

 

「よかった、無事だーーーー」

 

「何やってんだよっ! こんなところに一人で!!」

 

「っ!!? …………え…………?」

 

 

 

刀奈か安堵した表情を見せた矢先、一夏の顔が怒った表情に変わり、刀奈を糾弾した。

 

 

 

「ここはまだ危ないんだぞ?! それなのに、護衛も付けずにこんなところにいるなんて……!」

 

「えっと、それは……でもっ、みんなもう無事に離脱したわよ! あとは一夏くんだけだったんだからーーーー」

 

「そういう事じゃない!! 君が一番危険な立場にあるんだぞっ、なのに、なんで一人で出てきたんだって言ってるんだ! 危ないだろ!」

 

「そ、それは…………」

 

「君は反乱軍のリーダー……まだあの黒刃だって、君を諦めてないし、君のお母さんである女王だって、きっと何か対策を立ててる。

今回の襲撃が失敗した事で、こちらも多少不利な状況に陥ってるんだ……ここで君が倒れたりしたら、それでこそみんなが悲しむっ……! それがわからない君じゃないだろう……」

 

「っ………………」

 

 

 

いつの間にか、一夏は刀奈の両肩を掴んで、本気で怒っていた。

そんな一夏の態度に、刀奈は驚いたあと、俯いてしまった。

流石に言いすぎたと一夏も思い、即座に我に帰った。

 

 

 

「ぁ……!」

 

「っ〜〜〜〜〜!!!!」

 

「わ、悪い……少し言い過ぎた……」

 

「ええ……ほんっと……! この私が心配してたっていうのに……一体何様のつもりなのかしら…………!!」

 

(あ、やべぇ…………)

 

 

 

俯きながらもワナワナと肩を震わせて、怒気をはらんだ声でそう言う刀奈。

彼女の逆鱗に触れてしまったと、一夏は多少焦ったが、その刀奈の顔が少しずつ上がっていく。

 

 

 

「ぇ…………?」

 

「っ〜〜〜〜!!!!!!」

 

 

 

刀奈は……何故か涙を流していた。

 

 

 

「カ、カタナ? ど、どうしたんだ?」

 

「わ……らない、のよ……」

 

「え?」

 

「っ!!! わからないのよっ!!! 自分でも、どうして一人で来てしまったんだろうっ、そう思うのよっ!

だけど、あなたがすごく心配だったからっ! 何故かわからないけど、すっごく胸が張り裂けそうだったのよっ!!!」

 

「ぁ…………!」

 

「おかしいのよっ……あなたに会ってから……私は、自分の心がざわついてるのが分かるっ……!

あなたを見てると、とても平常じゃいられなくなるのっ! ねぇ、どうして!?

あなたは、私のなんなのっ!!? 私はっ、あなたのなにっ?!」

 

 

 

両目から溢れる涙。

その表情は、とても演技には思えなかった……。

この世界での刀奈の役割……それは物語の主人公である白雪姫そのものだ。

白雪姫は王城で大切に育てられていて、本来ならばこの時点で男と関わりを持っていたことはなかったはずだ。

これはやはり、刀奈の記憶が完全には書き換えられていないという証拠だろう……。

 

 

 

「えっと……俺は、俺たちは……」

 

「恋人……」

 

「っ?! も、もしかしてっ、き、記憶がもどったのか?!」

 

「ううん……あなたと、ホウキちゃんが話しているのを偶然聞いてた……」

 

「あぁ、あの時か……」

 

 

 

あの時に初めて自分と一夏の関係を聞いて、驚きを隠せなかったが、何故だか、それもわかっていたような……そんな風にすら思うのだ。

 

 

 

「ねぇ、本当に、ほんとの本当に、私たちは恋人だったのね?」

 

「あぁ、それは間違いない。それだけははっきり言える……! 俺は君が、カタナの事が好きだし、カタナも、俺の事を好きでいてくれてると思う……」

 

「“思う” ってなによ?」

 

「いやぁ、一応な……? まぁ、その……なに? あ、愛してるって、言ってくれたし……」

 

「っ〜〜〜〜」

 

 

 

愛してると言った瞬間に、刀奈の顔がリンゴのように赤く染まっていくのがわかった。

刀奈も刀奈で、両手で顔を覆い隠し、一夏に対して背を向ける。

 

 

 

「えっと、その……とりあえず、帰ろうか……ここは、まだ危ないから……」

 

「………………うん」

 

 

 

一言そう言って、刀奈は歩き出した。

しかし、その道はアジトへと続く道ではなかった。

 

 

 

「あれ? こっちじゃないのか?」

 

「アジトを変えたわ……あのまま戻ったところで、私たちの迎撃態勢が整っていたとしても、逃げた騎士たちをもう一度掻き集めて、襲撃でもされたら、ひとたまりもないわ……」

 

「へぇ〜……第二のアジトがあったのか……。なかなか用意周到だな……」

 

「当たり前じゃない……。あの女を倒すために、いろんな策を練ってきたんだもん……といっても、第二アジトは元々、ホウキちゃんたちのように、あの腐れ女王によって、あの街を追い出された娘たちが寄り添って暮らしていくための生活拠点だったんだけどね。

私が王城から逃げてきたときに、彼女たちが匿ってくれたの……」

 

「へぇ〜」

 

「そして、今回の奇襲作戦のために、あの臨時拠点を作った。

まぁ、あそこでも生活していけるくらいの備蓄はしてたけどね……今はホウキちゃんやリンちゃんたちが主体になって、物資搬入と避難を率先してやってくれてるでしょう」

 

「ははは…………何から何まで用意周到なことで……」

 

 

 

こんな白雪姫は本当にありなのだろうか?

やってる事ややらせてる事が、もはや陸自の特殊部隊顔負けなんだが……。

 

 

 

「それより、あなたは大丈夫なの? その肩の傷は……」

 

「ん? あぁ、大したことはないよ……ただのかすり傷だからさ」

 

「ダメよ。化膿しちゃったら、大変じゃない……ほら、こっちきて、手当てしてあげるから……」

 

「え? いや、大丈夫だって……このくらい」

 

「いいから、見せなさい」

 

「大丈夫だってーーーー」

 

「い・い・か・らっ! 早く見せろっ……!!!」

 

「は、はい…………」

 

 

 

なんだが、最後の凄みを含んだ笑みの背後には、六本腕の阿修羅像が見えたような気もしないでもない……。

目の錯覚か、あるいはほんとうに実在したのか……とにかく、めちゃくちゃ怖かったとだけ言っておこう……。

刀奈の笑みに圧倒されながらも、一夏は左腕を刀奈の方に向ける。

刀奈も、どこからか取り出した包帯を手に取り、一夏の傷口を確認する。

 

 

 

「うーん……まぁ、たしかに傷は深くないけど、手当てはしてた方がいいわね」

 

「そっか……」

 

「その……とりあえず、傷口に包帯巻きたいから……その、服、脱いでくれないかしら」

 

「お、おう……」

 

 

 

袖を捲るにしては、肩の近くを負傷しているため、捲るよりも脱いだ方が手っ取り早い。

なので、一夏はそのまま上半身裸になると、今度は刀奈がまたしても赤面した。

 

 

 

「うわぁ…………お、男の子って、みんなこんな体なの?」

 

 

 

一夏の肉体は、それほど筋肉質というわけではないにしても、戦いの中で鍛えられた生きている筋肉をしていた。

締まるところは締まっており、無駄がない。

平均的でバランスのとれた肉体美が、そこにはあった。

 

 

 

「え? 別にみんながこんな感じってわけじゃないけど……俺は剣の鍛練をやってるから、こんな感じになってるんじゃないかな?」

 

 

 

SAOから生還してからは、もちろん筋トレなどを主体にしていたが、何もボディービルダー達のようなムキムキの筋肉をつけようとは思っていなかった。

剣を振るのに必要な筋肉をつけるために、食べては筋トレ、食べては筋トレを繰り返していた。

最近では、戦闘訓練などもあるので、自然と全身の筋肉を使う事が多くなったようにも思う。

そんな環境で育った一夏の肉体を前に、刀奈は恥ずかしがりながらも、そっと手を伸ばして、一夏の腹筋に触れてみる。

 

 

 

「か、硬い……!」

 

「そりゃあまぁ……筋肉ですから……」

 

「そ、そうよね…………」

 

 

 

ペタペタと、刀奈の柔らかい指先が一夏の肌に触れる。

一夏もくすぐったいのか、触れられるたびにピクッと動いてしまう。

刀奈は刀奈で、初めて触ったかのような表情で、なんだか感触を確かめていた。

 

 

「あ、あの、カタナさん? そろそろ手当てするなら、してほしい……んだけど……」

 

「はっ……! そ、そうねっ、そうしましょう……!」

 

 

 

刀奈は持っていた手ぬぐいを取り出して、傷口に当て、その上から包帯を巻いていく。

流石に消毒液などは持っていなかったため、本当に簡易的な処置だったが、使っている手ぬぐいは、パッと見ただけでも、かなりの高級感溢れる代物だった。

この時代背景ゆえ、おそらくは全部手作業によるものだろう……そして装飾として施されていた刺繍も、きめ細かく、繊細なものだった。

おそらく、王城に住んでいたときに使っていたものだろう……。

そして、慣れた手つきで包帯を巻いていく。

 

 

 

「はい、これでよし……」

 

「ん、ありがとう」

 

 

 

刀奈の手が離れていき、一夏は軽く左腕を動かして、感触を確かめる。

 

 

「うん、問題ないみたいだ」

 

「そう……それなら良かったわ」

 

 

 

そう言って、刀奈も安堵した。

恋人だと聞かされただろうか……一夏が隣にいる事が、なによりも嬉しいと感じているのだ。

怪我をした一夏の姿を見た瞬間に、ものすごく不安になって、心配してしまったし、今はそれが完全にかき消えて、安心の一言に尽きる。

 

 

 

「さ、帰ろうぜ……みんなが待ってる……」

 

「うん……」

 

 

 

自然と左手を出す一夏。

しかし、これまた自然に手を握る刀奈。

刀奈自身も驚いているのだが、何故か心地いい……。

二人は手を繋いで歩いていく……まるで、デートの帰り道のように。

 

 

 

「ん……なんでだろう……」

 

「ん? どうした?」

 

「わかんないんだけど……すごく、落ち着くというか……なんていうか……」

 

 

 

自身の手から伝わってくる一夏の手の感触や、体温……それらが、非常に安心する。

いつもと同じ感触が伝わってくる。

 

 

 

(ん? いつもと同じ……?)

 

「ほんとにどうした? 大丈夫か、カタナ?」

 

「え……? あぁ、ううん! なんでもないわ……それよりも」

 

「ん?」

 

「いつの間にか『カタナ』って呼んでるけど……」

 

「あ……」

 

 

 

この世界での刀奈は、白雪姫。

なので、ずっと『姫さん』と呼んでいたのだが、いつの間にか元に戻っていたみたいだ。

 

 

 

「あぁ……ごめん、なんか……普通に忘れてた」

 

「プッ……なによ、それ……」

 

 

 

あまりにも気の抜けたことを言うので、刀奈は思わず吹き出してしまった。

先程はあれほどの剣幕で迫ってきたのに……あろうことか、一国の姫君である自分に説教なんてしてきたくせに……。

そして、あんなにも果敢に、強敵に立ち向かっていったのに……。

 

 

 

「はぁ〜あ〜……。それにしたって、まさかあんな化け物を雇っていたなんて……」

 

「…………」

 

 

 

化け物……。

それを指す言葉はもちろん、千冬の事なのだろう。

やはりこの世界でも、刀奈にとって千冬とは強敵……あるいは、立ち向かっていくには、命の覚悟を必要とする相手として認識されているのだろう。

 

 

 

「これじゃあ、作戦内容をもう少し練りこまないといけないかしら?」

 

「その方がいいと思う。だけど、生半可な作戦じゃあ、あの人は落とせそうにないけどな……」

 

「………………」

 

「……なに? 俺、なんか変なこと言った?」

 

「いいえ……随分とあの化け物の事をわかっているように話すなぁ〜って思って……」

 

「え? あぁ……まぁ、さっきまで戦ってたし?」

 

「なぜ最後を疑問形にするのかしら?」

 

「えっと?」

 

「聞いてるのは私なんだけど」

 

「あぁ……まぁ、なんていいますかね……。カタナには、話してなかったことがあるんだけど……」

 

「なに……?」

 

「以前俺は、俺とカタナが恋人同士で、ここではない世界で過ごしてるって事を言ったよな?」

 

「ええ、まぁ……そんなはっきりとは言われてないけど……そんな風な感じのことは聞いたわね」

 

 

 

少しだけ頬を赤く染めて、一夏の顔から視線を外す。

どこか恥ずかしいような、ムズムズするような……。

 

 

 

「はっきり言うと、この世界は現実の世界ではないんだ……」

 

「…………」

 

「ここは仮想世界。仮の世界なんだ……。電子情報体と呼ばれるもので構築されているただの別世界。

それもカタナ、君が思い描いている世界なんだ」

 

「……私が……思い描いている?」

 

「そう……。ここは白雪姫という童話の物語がベースになっている世界。

で、カタナはその白雪姫自身なわけで……」

 

「そうね」

 

「だけどな? この世界の白雪姫と、物語の白雪姫は、全く別のストーリーなんだ」

「ふぅ〜ん……で? その物語の私はどんな私なの?」

 

「えっとだな……」

 

 

 

 

一夏は簡潔に物語を話し始めた。

白雪姫は、物語に出てくる王国の主、女王の一人娘である。

しかし、今の今まで世界一の美貌と言われた自分の地位を、あろうことか娘の白雪姫が奪ってしまう。

そのことに怒りを覚えた女王は、魔女に頼んで毒リンゴを作らせる。

何も知らずにそれを食べてしまった白雪姫は、命を落とし、それを悲しんだ7人の小人が、魔女を撃退する。

7人の小人たちは魔女を討伐したが、それでも白雪姫は目を覚まさず、悲しみにくれていた時、白馬に乗った王子様が登場する。

小人達から大体の事情聞いた王子も、白雪姫の顛末に悲しみ、彼女の隣へとやって来て……。

 

 

 

「その後は……えっとぉ、どうだったっけ?」

 

「ちょっとぉ〜! 一番大事な部分じゃない! クライマックスシーンなのよ?」

 

「うん、わかってるんだけど……最後は……ええっと、なんだったけなぁ〜……。

えっと、たしか…………そうだ! 王子様が白雪姫にキスするんだよ!」

 

「え……キ、キスっ?!」

 

「そうそう!! その王子様とのキスで、魔女の呪いが解けて、白雪姫は目を覚ますんだ!

そしてその後、その王子様と結ばれてっ、めでたしめでたし……っていうハッピーエンドで終わるんだよ!」

 

「へ、へぇ〜……」

 

 

 

 

なんでもないように見せかける刀奈だが、その実際自分が白雪姫としてここに存在している以上、物語とはいえ、自分の話がそんな風になっていると言われれば、少なからず意識するだろう。

それも、そんなキスだの結婚だのという類の話ならば、なおさらだ。

 

 

 

「王子様かぁ〜……」

 

「あ、あのさ……」

 

「うん? なに?」

 

「カタナは姫なんだろ? なら、もしかしてなんだけど…………」

 

「何よ、もったいつけてないで、さっさと言いなさいな」

 

「その、この時代のお姫様とかって、隣国の王子とか、自国の貴族とかと政略結婚とかするんじゃないかと思って……」

 

「それが何か?」

 

「いや……あの……その……カタナはさ、そういう話は来なかったのかな〜ってさ?」

 

「え?」

 

 

 

 

無論、この仮想世界に今いる国だけしかないのならば、そんな話はないだろうが……。

もしも隣国があり、そこに王子がいるとしたら、刀奈との縁談の話だった無くはないだろう……。

 

 

 

「うーん……私が知る限り、それはないかなぁ〜」

 

「え? そうなのか?」

 

「ええ……。隣国には、一応王子がいるけど、その人すでに三十路だし、妻となる人もいるし……」

 

「そ、そうか……」

 

「なぁ〜に〜? もしかして、私がその人と結婚するとか思っちゃってた?」

 

「へ? いや……そうなったら、ちょっとな……」

 

「へぇ〜?」

 

「…………」

 

 

 

イタズラな笑みを向けてくる刀奈に、一夏は少しだけ視線を逸らした。

 

 

 

「一夏くんと私は、恋人同士なんだよね?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「じゃあさ、私がその王子様と結婚するってなったら、一夏くんはどうする?」

 

 

 

ちょっとした意地悪。

そのつもりで聞いてみただけだ。

無論、相手は国の王子だ……少なからず意識するのが普通……だが、一夏は真っ直ぐに刀奈の目を見て、即答した。

 

 

 

「そんなもん、俺が王子から刀奈を奪うに決まってるだろ」

 

「へ?」

 

「相手が誰だろうと関係ないよ。刀奈は俺の恋人だ……それを奪おうとするなら、俺だってそうされないように抵抗するだけさ」

 

「ぁ……え……へぇ〜」

 

「どうしたんだ?」

 

 

 

あまりにも即答するため、刀奈もリアクションに困っていた。

少なからず意識して、戸惑う姿を見たかったのに……。

そういうの見て、もう少しからかってやろうと思っていたのに……。

 

 

 

「えっと……王子様なんだよ? それって、国一つを相手にするってことだよ?」

 

「だから? たしかに国一つに喧嘩をふっかけるようなもんだろう……だが安心してくれ。

俺、真っ正面からの殴り合いだけじゃ無くて、暗殺も割と得意だから」

 

「そんな物騒な話はしてないわよっ!!」

 

 

 

どこまでが本気でどこまでがふざけているのかわからないが、とてもふざけて言っているというわけでもなさそうだった。

根拠は?

見つめていた一夏の瞳には、一点の曇りもなかったからだ……。

 

 

 

「えっと……本気なの? 私を奪うということは、国そのものと戦うってことなのよっ?」

 

「知ってる」

 

「いくらあなたでも、大勢の騎士を相手にするなんて無謀だわ……!」

 

「だろうな……でも、だからって諦める気は毛頭ない。言ったろ? 俺は暗殺も得意だって……。

向こうがその気なら、俺だって全力で排除する。絶対にカタナは渡さない……以上」

 

「っ…………頑固者ね。しつこい男は嫌われるわよ?」

 

「じゃあ、俺を好きになってもらえるように頑張る」

 

「…………はぁ……」

 

 

 

皮肉を言ってもダメな気がした。

どうしてここまでまっすぐなのだろう……。

自分が彼にとって、どんな存在になれば、そういう風に思えるのだろうか……?

 

 

 

「ねぇ、一夏くん……」

 

「ん? なに?」

 

「君にとって……私って、どんな存在なの?」

 

「え?」

 

 

 

俯きながら尋ねる刀奈。

その頬は、少し赤みがかっていた。

 

 

 

「なんだよ、急に……」

 

「お願い答えて……。あなたにとって、私ってなんなの?」

 

「…………うぅ〜〜〜ん」

 

 

 

一夏は頭を掻いて、どう答えたものかと悩んだが……。

しかし、答えはこれ一つしかないと、すでに決まっているのだ。

 

 

 

「その、カタナ……。君は、俺にとって君は…………光なんだ」

 

「ヒカリ?」

 

「そう……光。昔、とんでもない過ちを、俺は犯してしまって……どうしようもないくらいに、気持ちは沈んでいってた。

それはもうドン底……そう、ドン底だったんだ……。そんな時に、俺を導いてくれたのが、君だったんだ……」

 

「私が……」

 

「そう、君が……。君が俺のことをちゃんと見てくれていたから、俺はもう一度、日の当たる場所へと戻る決意をしたんだ。

もしあの時、君が居なかったら……俺はずっとドン底にいたか、それとも、すでにこの世にいなかったか……そのどちらかだったろうな……」

 

「………………」

 

「だから……」

 

「へ?」

 

 

一夏はそっと刀奈を抱き寄せる。

突然のことで、刀奈は対応しきれずにそのまま一夏の腕の中にすっぽり収まる。

 

 

 

「へぇ……?!」

 

「俺には君が必要なんだ……誰にも渡さない……っ!」

 

「イ、イチカ……くん…………???」

 

 

 

顔が真っ赤に染まり、まるでリンゴのようだと思った。

普段は飄々と人をからかい、ミステリアスな様相を纏わせているくせに、こういう時には年頃の少女のような反応をする……。

全く、こういうのは少しズルイと感じる一夏だ。

 

 

 

「あ、あぁあの…………」

 

「なに……?」

 

「わ、わわ私、こういうの、慣れてなくて……」

 

「へぇ? いつもそっちから抱きついてきたりしてきたのに?」

 

「はいっ?!」

 

「昔は水着エプロンで出迎えたかしてくれたのに……」

 

「はえええっ??!!!」

 

「まさか、自分は純真無垢な少女だと?」

 

「そ、そそそそれは…………!!」

 

「あんなに人のことをおちょくって、男心を弄んだのに?」

 

「そ、そんな事してないわよっ……!!!?」

 

「いいや、カタナはそれくらいの事簡単にやってたぞ?」

 

「う、嘘よ!! 私はあの女王とは違うわよ!!」

 

「うーーん……女王さまのことは知らんが、それでも、少なくても俺は、カタナからの被害を受けてるけどなぁ〜」

 

「ううぅ……!!」

 

 

 

あまりにも予想外の反応に、一夏の中で何かこう、嗜虐心みたいなものが湧き上がってくるのを感じた。

しかし、これ以上はかわいそうだと思い、一夏は刀奈を離した。

 

 

 

「えっと……わ、私は……」

 

「だから、俺は君を誰かに渡すなんて選択は一切ないよ。君を他の男に渡すくらいなら、俺は真っ向勝負してでも相手をぶっ倒す……! 以上!」

 

「そ、それはそれでどうかと思うわ……」

 

 

 

一夏の真っ直ぐな物言いに、刀奈は顔が熱くなるのを抑えられない。

そんなことを真っ直ぐに言ってくる者なんて、どこにもいなかった。

だから、あんまり慣れてないのだろう……。

 

 

「ん…………」

 

「えっと、大丈夫か? なんか、言い過ぎたかな?」

 

「ええっ、そうね! 言い過ぎよ! バカッ!」

 

「あっははは」

 

「笑い事じゃないっての! こっちはあの化け物倒すための秘策練らなきゃいけないのに!」

 

「あぁ〜……そんな話ししてたな」

 

「なんで忘れてんのよ! さっきまで殺しあってたのあなたの方でしょう!?」

 

「あはは……」

 

 

 

乾いた笑いが溢れた。

そこで話を戻して、どうすれば千冬を攻略できるかを話し合う。

 

 

 

「まず大原則として、あの女を叩かない限り、女王は殺れないわよね……」

 

「あぁ……だが、あの人の戦闘力は、俺やカタナよりも数段高い……かっこ悪くはあるが、複数人で対峙した方が無難だな」

 

「その戦闘は、もちろんあなたと私が請け負うとして……」

 

「おいおい、カタナが出張っちゃマズいだろ……ホウキ達がそれを許すとも思えねぇし……」

 

「い・や・よ。私が始めた戦争なんだもの……私が決着をつけなきゃいけないわ。

あなたも当然、付いてきてくれるわよね?」

 

「もちろん……姫さまのご命令とあらば、なんなりと」

 

「よろしい……じゃあ…………」

 

 

 

不意に、刀奈の顔が一夏の顔へと近づいていく……。

このままでは、唇同士が重なってしまう……そう思った時、刀奈の顔は軌道を変更して、一夏の耳元へ。

 

 

 

「今からあなたを、私の騎士として正式に認めてあげる……だから、私をしっかり守ってよね?」

 

「っ…………!」

 

 

 

 

耳元から離れていく顔。

その表情は、優しい微笑みを浮かべるお姫様そのものだった。

 

 

 

「っ…………もちろん。君は、俺が守る。たとえ、千冬姉が相手だったとしても、国が相手だろうと、俺は君を守り抜く!

約束だ……。必ず、二人で元の世界に帰る……!!」

 

「ええ……そうできるように、お互いに頑張りましょう……!」

 

 

 

刀奈の一夏に対する警戒心は、今のでほとんど無くなっただろう。

二人は再び歩き始めて、目的地へと進んでいく。

そんな時、ふと刀奈が思い出したように問う。

 

 

 

 

「ん? そういえばさっき、“チフユネエ” って言ってたけど、それって誰?」

 

「え? あぁ、言ってなかったな。あの《黒刃》とかいう人の名前だよ……。

この世界が作り物の世界だって言うのは、さっき説明したろ?」

 

「ええ……本当の私はアイエス学園ってところの、生徒会長? っていうのをやってたのよね?」

 

「そう……そんで、あの《黒刃》は、現実世界の俺の姉であり、IS学園の教師でもある」

 

「ええっ?! お姉さんなのっ?!」

 

「ああ……まぁ、姉弟であんまり顔立ちは似てないかもしれないし、10歳も離れているからな……」

 

「ふぅ〜ん……なるほどねぇ〜、だからあの女が強いって知ってた訳ね?」

 

「まぁ、そういうことです」

 

「弱点は?」

 

「目立った所は特に無い」

 

「何よぉ〜……何か知ってるかもと思ったのにぃ〜」

 

「ごめんね……家庭的なところは欠陥だらけなんだが、戦闘面に至ってはほぼ死角無いと思う。

生身でISと殺り合ってたくらいだしなあ〜……」

 

「うーん……最強の兵器相手に生身で……たしかにそれは、規格外ね」

 

「そうそう……ただのバグキャラだから。ま、セオリー通りに倒せるなんて思っちゃいないから、奇襲、夜襲、強襲、暗殺なんでもござれ、あらゆる手段をとっていくしかないと思う」

 

「了解……それじゃあ一緒に考えましょう」

 

「あぁ、そうしようか」

 

 

 

月明かりが照らし出される森の獣道。

そこを歩く二人の若い男女。

互いに手を握り合い、静寂な森の中を歩いて帰る。

 

 

 

「あ……そういえば……」

 

「ん? どうした?」

 

 

 

ここに来て何かを思い出したように声を発する刀奈。

 

 

 

「ちょっと気になったんだけど、一夏くんはキスとかしたことある?」

 

「………………はい?」

 

 

いきなりの事で拍子抜けしたような声を上げる一夏。

目が半目の状態になり、ジト目で刀奈を見返す。

 

 

 

「え、なに? この状況でなに言ってんの、カタナさん……?」

 

「え? …………あぁ……そのね…………」

 

 

 

自分から尋ねておいて、今度は頬を赤らめて恥じらう白雪姫。

いや、ほんと、どうしたの……?

 

 

 

「あのさ……今度の決戦が最後になるわけじゃない?」

 

「あぁ、そうだな……」

 

「その決戦でさ、最悪の場合、私は死ぬかもしれないじゃない?」

 

「それはぁ…………ないとはいい切れないが、そんな事にならないように俺が守るって話だったじゃないか……」

 

「それは分かってるわ……でもね、いざとなると、心残りがあるっていうか、なんというか……」

 

 

 

いまいちハッキリしないお姫様に、一夏は呆れて物申した。

 

 

 

「なんなんだよさっきから……?」

 

「そのね? 仮にもお姫様として、殿方からの寵愛がないまま死ぬっていうのはね、それはそれで心残りな部分があって……その……」

 

「…………あぁ、なるほど……」

 

「分かって、くれたかしら……?」

 

「つまり、誰とも結婚しないまま……ましてや、誓いのキスすらもせずに死にたくはない、と……そう言う事ですか?」

 

「ま、まぁ、端的に言えばそういう事になるわね……!!」

 

「しかし、それがどうして俺に対する質問になるんだ?」

 

 

 

問題はそこだ……。

なぜそんな風に聞いてきたのか。

 

 

 

「だ、だって……! 君がしたことあるって言うなら、その相手は当然……」

 

「あぁ、カタナと……と言う事になるぞ?」

 

「っ〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

「つまり、カタナはキスがしたいのか?」

 

「なっ?! ちょ、ちょっとは包み隠して言いなさいよっ!!」

 

「うーーん……でも、そう言う事なんだろう?」

 

「デリカシーに欠けるのっ! 女の子の前でそういう事言わないっ!」

 

「えぇ……? いやでもさぁ〜……」

 

「『でも』じゃないっ!! いいっ?! 女の子とそういう事を話すなら、もう少しオブラートにっ、ロマンチックに話さなきゃいけないものなのっ!」

 

「ロマンチック?」

 

「そう! 女の子なら誰でも、夢見たい時があるのよ!」

 

「そういうもんなのか? なに? お姫様になりたいとか?」

 

「さぁ? 私はもうお姫様だし、その点はわからないけど……」

 

「あぁ、そうだな……お姫様になりたい夢は、今叶っちゃってるな……」

 

「と・に・か・く! 女の子と話し時にはーーーー」

 

「オブラートに包んで、ロマンチックに……だな?」

 

「そう! それでいいのよ……!」

 

「まぁ、それはさておき、本当のところはどうしたいの?」

 

「ガクッ……! あのねぇ……人の話聞いてたのっ?」

 

 

 

飄々としている一夏の受け答えに、呆れて何も言えなくなった刀奈。

ため息を一つ吐いて、改めて一夏の方へと体を向ける。

身長的に刀奈が一夏を見上げる状態になり、少しだけ潤んだ瞳が、一夏の瞳を捉えている。

 

 

 

「ん……」

 

「………………」

 

 

 

一夏に対して少しだけ顔を上げて、両目を閉じた状態て唇を突き出す刀奈。

それが何を意味しているのか、今更問うまでもない。

一夏は無言で刀奈の背中と腰に手を回して、刀奈を抱き寄せる。

一瞬だけピクッと体を震わせる刀奈……しかし一夏は、そのまま顔を近づけて、刀奈の唇に自身の唇を重ねる。

 

 

 

「んっ……」

 

 

刀奈の口から吐息が漏れる。

そこから続けざまに一夏は刀奈の唇を奪っていく。

何度も何度も舌を吸い寄せ、唇を啄む。

刀奈の方は膝や脚の力が抜けているのか、少しだけ体勢を崩すも、それを一夏の腕が支えているため、倒れることはない。

刀奈も最初の方は一夏の勢いに驚き、両肩を掴んで離そうとするが、次第にその力も無くなっていき、今では一夏の口づけを全て受け入れている。

 

 

 

「ぁぁっ……んあっ、んんっ………クチュ……ぁあっ……!」

 

 

 

刀奈を求める思いが、今となって溢れてきたのか……一夏は思いのまま刀奈を蹂躙する。

刀奈はされるがまま……と思いきや、今度は刀奈からも一夏を求める。

月明かりが指す森の中で、二人だけの時間、二人だけの空間が築かれている。

 

 

 

「んっ……ぁあ…………はぁ……はぁ……」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 

呼吸を忘れていたかのように互いを求めあった結果、互いに荒い呼吸をする。

徐々に空気を体内に取り込んでいき、落ち着きを取り戻したその時、俯いたままの刀奈の口が開いた。

 

 

 

「もう……息できないじゃない……“チナツ”」

 

「ごめん……なんか、歯止めが効かなくて…………ん?」

 

「ん?」

 

 

 

 

たった一言。

その一言が、二人の会話を途切れさせた。

 

 

 

「え? カタナ……今、なんて言った?」

 

「え…………息できないじゃない、チナツ……」

 

「チ、チ、チナツっ?!! カ、カタナっ、お前っ……!!!?」

 

「え、ええ……なんか、急に思い出しちゃった…………」

 

 

 

あっけない結末。

どうすれば刀奈の記憶を取り戻すことができるのか、この仮想世界を脱出すれば、自然と解けるのか、あるいはなんらかの条件があったのか……色々と頭の中で考え、検討していたのに……。

 

 

 

「え? 嘘だろ……こんな簡単に解けるものだったのっ!!!???」

 

 

 

 

あまりのあっけなさに、一夏はその場で叫んでしまった。

 

 

 

 

「うーーん……まぁ、ファンタジー世界なんだし、これはこれでいいんじゃない?」

 

「えぇっ、いいのかっ?! こんな簡単でっ?! シナリオ手抜きすぎじゃないっ?!」

 

「仕方ないわよ……この世界を作り出したのがどこの誰かはまぁ、考えればわかることだけど、そんな複雑にストーリー組み込む時間も技術もなかったってことじゃないの?

あのヒースクリフ団長ならいざ知らず、それ以外の人物が見様見真似で作ったとしても、これくらいが限界でしょ」

 

「そ、そういうもんか……まぁ、一理あるな」

 

 

 

記憶を取り戻した刀奈は、いつもの刀奈だった。

白雪姫で、反政府勢力のリーダーとしての記憶は、失ってしまったのだろうか……?

 

 

 

「それにしても、なんだか面倒な事巻き込まれたわね……ごめんなさい、チナツにも危険な目を合わせる事になったわね」

 

「何言ってんだよ……危険なのはカタナも同じじゃないか。今更俺だけ除け者扱いは困るぞ?」

 

「そうだけど……でも確か、私は侵入者を追っていたはずなんだけど……」

 

「もしかして、記憶がないのか?」

 

「ううん……今まで起きていたことは記憶しているわ。山田先生……いえ、私、白雪姫の母親である女王に殺されかけて、反政府勢力をまとめ上げて、今さっき奇襲をかけたけど、千冬さんに邪魔された所は覚えているんだけど……」

 

「囚われた時の記憶がないのか……」

 

「うん……なんだか、暗闇に引きずり込まれた様な感覚だけが、体に残っているのよねぇ……。

なんか、ちょっとゾッとするけど、特に異常は見当たらないわね」

 

 

 

 

そう言いながらも、刀奈は自分の両腕を高く、体を震わせた。

そんな刀奈を見て、一夏は自分の方へと刀奈の体を抱き寄せた。

 

 

 

 

「ぁ……!」

 

「今はそんな事考えなくていい……とにかく、ここから出る算段を考えよう……」

 

「うん……そうね。ありがとう、チナツ」

 

 

 

抱き寄せられた際に感じた一夏の体温が、刀奈の恐怖心を優しく溶かしていくようだった。

互いに抱き寄せた後、二人は再びアジトに向かって歩き始めた。

 

 

 

「それにしても、カタナの記憶が戻ったのに、これどうやって出ればいいんだろうな?」

 

「私の目的を完遂すれば、道は開くのかしら?」

 

「目的?」

 

「ええ……この世界の私……白雪姫は、母親である女王を倒そうと考えた。

その為の組織であり、それに必要な人材を集めたんだもん」

 

 

 

つまり、この戦いに終止符を打たなければならないようだ。

 

 

 

「なら、早く戻って作戦を立てなきゃな」

 

「ええ……しっかり働いてもらうからね、チナツ」

 

「オッケー。ドンと来いだ……!」

 

 

 

 

二人は手を繋いだ状態で再び歩みだした。

相当歩いた思っていると、森を抜け、今度は切り立った岩肌が見えてきた。

 

 

「ここは?」

 

「この辺りでは大きな山岳地帯ね。それも火山があって、噴火によって出た溶岩が流れて固まったりしてできた地形になってるのよ」

 

「ほう? って、そこら辺の知識は覚えてるんだ?」

 

「うーん……そうねぇ〜、なんか、ふと思い出した……って感じかしらね。

あまり思い出すことは出来ないんだけど……」

 

「なるほど……。その場その場で記憶が蘇るって感じなのか」

 

「うん、そんな感じ」

 

「じゃあ、ここにアジトを?」

 

「ええ……いわば自然の要塞よね。いくつもの通路を開拓して、脱出も可能だし、守りに固く、攻め辛い……。いい立地だと思うのよねぇ〜」

 

「たしかに……基地にするなら持ってこいだな」

 

 

 

二人はそのまま、アジトの入り口方面へと歩いていく。

 

 

 

「さぁ、作戦会議を始めるわよ! 今度こそーー」

 

「あぁ、今度こそあの人たちを倒すっ、そしてーー」

 

「「一緒に帰るっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 






次でラストにしたいところですね。
そして、ワールド・パージ編を終えて、少し閑話を交えてからの、京都編に行こうかと思います!


感想よろしくお願いします!


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