ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりの更新だぁぁぁ!!!!

皆さん覚えてるかな?
申し訳ないですね(>人<;)





第109話 白雪姫の世界Ⅵ

「行くぞッーーーー!!!!」

 

「来いッーーーー!!!!」

 

 

 

 

地を蹴って突進する二人の剣客。

一人は直刀と呼ばれるまっすぐな刀身を持った刀を握る若き剣士。

もう一人は両手に漆黒に染まった日本刀を持ち、淀みない剣技を披露する暗殺者。

その二人が一瞬のうちに接近し、互いの得物を振り抜く。

鋭く研ぎ澄まされた刃がぶつかり合い、甲高い金属音を何度も奏でる。

一夏の直刀が鋭い一閃ならば、千冬は二刀による縦横無尽。

本来ならば圧倒的に千冬が有利な場面なのだが、一夏も必死に食らいついていく。

 

 

 

 

「ほほう? 白雪姫の護衛の中では、やはり貴様が一番のやり手か……!」

 

「さぁね……姫さんの護衛なんて始めたの、ついさっきだし」

 

「ふん……なるほど、姫に惚れたという言葉、嘘ではないらしい……」

 

「あぁ、それに関しては、嘘はつけないなっ!」

 

 

 

 

ギャインッ! という音を響かせると、二人は一気に後ろへと弾かれた。

互いに振るった一閃が、あまりにも鋭い一撃だった為なのか、その威力よって弾かれたのだ。

 

 

 

「な、何をやっているのですっ、黒刃!! 早くその者を斬りなさい!!!

これは、女王の命令ですよッ!!!」

 

 

 

そんな二人のやりとりを聞いて、一番困惑しているのは、他でもない、女王本人だ。

しかし、黒刃……いや、千冬はそんな女王に対して、鋭い目つきで睨み返した。

 

 

 

「黙れ腹黒女王がッ……誰の命令だろうが、わたしには知ったことじゃない! 今はわたしの時間だっ、邪魔するなら、そのうるさい口を斬り落としてやろうかッーーーー!!!」

 

「ヒィッ……!!!??」

 

 

 

ドスの効いた言葉を並べ立て、鋭い眼光を女王に対して向ける千冬。

女王は涙目ながらに腰を抜かし、その場に尻餅をついてしまった。

 

 

 

「そうだ……それでいい……雇ったのは確かに貴様だが、今この瞬間は部外者だ……外野は黙って見ていろ!

貴様のような弱い羽虫が、入って来ていい領域ではない……っ!」

 

「は、ははっ、ハムシっ!!?」

 

 

 

一国の女王に対してもこの態度……元の世界の姉の姿と若干だが似ているところがあるのか……?

威圧だけなら現実世界と同じ……そしてそれに怯える真耶の姿も同じだ。

この仮想世界では、立場が逆転しているが、事実上格上なのはやはり姉の千冬らしい。

どの世界においても、真耶は千冬に頭が上がらないようだ。

 

 

 

「さぁ、余計な邪魔者が入らなくなったんだ……もっと楽しませろよ?」

 

「うわぁ〜…………今すぐ逃げたいぜ…………」

 

 

 

ニヤリと笑う千冬。

ドS人間特有の相手を嬲りたがるような狂気の目……現実世界では、ISを用いた訓練の際に見せることがしばしば。

一夏からすれば、姉がそんな目で自分を見てくるのは、ある意味恐怖でしかなかった。

 

 

 

「そら……止まっていてはつまらんだろう……さっさと来い。来ないというならーーーー」

 

「ッ!!!」

 

「私から行くぞッ!!!」

 

 

 

地を蹴る音が部屋中に木霊した。

千冬が二刀を両手に、一夏が直刀を握りしめて、互いに肉薄する。

右からくる黒刀を受け流し、左脚を踏み込む。

勢いそのままに体を時計回りに一回転……その動作に、直刀による斬撃を加える。

 

 

 

「《龍巻閃》ッ!」

 

「フッーー!!!!」

 

 

 

ジャリィィーーという刃と刃がぶつかった時に鳴る独特の音。

完全に虚をついた……。

この世界の千冬は、一夏の剣術を知らない……故に、カウンター剣技である《龍巻閃》を見るのも初めて……のはずなのだが、振り切った斬撃は、左手に持っていた黒刀の刃によって防がれていたのだ。

 

 

 

「くっ……!!」

 

「面白い技だな……一瞬だが、貴様の姿を見失った……。あの一瞬で背後に回り、容赦なく斬撃を放つか……。

なるほど、貴様も私と同じ、暗殺剣の使い手だったか……」

 

「っ……!」

 

「ふんっ、図星か」

 

 

 

たった数回剣を交えて、たった一度技を見せただけで、そこまでわかってしまうとは……。

一夏も思わず驚いた表情が出てしまっていたか……。

 

 

 

「驚いたよ……たった数合しか剣を合わせてないのに……」

 

「驚くこともないだろう……真の達人は、たった一合で相手の力量をそれなりに感じ取るという。

剣の世界……いや、武の世界というものも幅広い……そして私も、その頂点を見てきた者の一人だ……!」

 

「くっ……!」

 

 

 

武の世界……確かに、ISも兵器であり、それを扱うということは、武闘の世界に身を置くのと同じ。

そしてその頂点に立ったのは、まぎれもない千冬本人だ。

 

 

 

「さぁ、もっと見せろ……!! あとは何がある? どんな技を見せてくれるっ……!

白雪姫もそれなりに見せてはくれていたが、やはり物足りん……! 貴様の全てをっ、私にもっと味あわせろっ!!!」

 

「ちっ、完全に火をつけちまったみたいだな……っ!」

 

 

 

まるで獰猛な獣の類だ。

千冬は再び地を蹴って、一夏に迫り来る。

一夏も負けじと持ち前の神速で駆け出し、振り下ろされる黒刀に対して、下から斬りあげる。

 

 

 

「ふうっ……!」

 

「ん……?!」

 

「はああっ!!」

 

 

 

振り下ろされた右手の黒刀に対して、一夏は下段からの斬りあげで対抗した。

しかしそこから鍔迫り合いに持ち込む事はせず、すぐさま刀の角度を変えて、相手の勢いを利用して刀身を滑らせて受け流す。

そしてすぐさま刀を返して、一夏はガラ空きになっている千冬の胴へと一閃。

 

 

 

「っ!!?」

 

「ふふっ……やはりいいな……っ、お前!」

 

 

 

完全に一撃貰ったと思った……しかし、一夏の放った斬撃は、千冬の腹部の前……いつのまにか持ってきていた左手の黒刀の柄頭によって塞がれていたのだ。

 

 

(変則ガードっ!!?)

 

「これくらいの芸当が出来なければ、間合いを制する事はできないぞっ!!!」

 

「ちっ!」

 

 

 

左手の黒刀で斬りはらい、もう一度右手の黒刀で斬りあげる。

一夏はとっさに後ろへと飛び、追撃を免れた。

 

 

「はぁ……っ! はぁ……っ!」

 

「そらそらっ! まだ始まったばかりだぞっ!!」

 

「チィッ!」

 

 

千冬が地を蹴った瞬間、右手に持っていた黒刀を投げてきた。

鋭い切っ先は、まっすぐ一夏の顔めがけて飛翔していく。

が、一夏はそれをわずかに体を反らすことで回避し、こちらへと向かってくる千冬に対して力強い一撃を放つ。

 

 

「ぬうああっ!!!」

 

「フハハッ、アッハハハハッ!!!!」

 

 

振り切った一撃が空を斬る。

しかし、返す一撃で千冬の左肩から右腰にかけての一閃。

袈裟斬りを放つも、左手に持っている黒刀を逆手に持った状態で、その一撃を受け止め、空いた右手には、新たなる黒刀の柄が握られている。

 

 

 

「クッ!」

 

「ハアアアッーーーー!!!」

 

 

 

抜き放ったと同時に一閃。

それはまるで一夏の使う抜刀術と同じだった。

その一閃は、吸い込まれるようにして一夏の懐へと薙ぎ払われる。

 

 

 

ギャァーーーン!!!

 

 

 

人間の肉体を斬りつけたには、あまりに相応しくない金属音。

斬られた瞬間を、後ろへと吹っ飛んだ一夏からは、斬られたことによる流血もなかった。

 

 

 

「ほほう……あの一瞬で……!」

 

 

 

膝を抱えながらゆっくりと起き上がる一夏の姿に、千冬も賞賛の感情を含んでいた。

起き上がった一夏の左手には、直刀の鞘が握られており、その鞘で千冬が放った斬撃を防いだのだ。

 

 

 

「ふぅ〜……鞘が鉄拵えでよかったぜ……」

 

 

 

おそらく、中身は木で出来ていると思われるが、表面は飾りなどの関係上、鉄を巻いていたのかもしれない。

今回はその巻いていた鉄のお陰で、難を逃れた。

 

 

 

「やはりいい……貴様、名前は?」

 

「っ…………織斑 一夏だ」

 

「オリムラ……? この辺りでは聞かない名前だな……? 東……いや、そのさらに向こう、極東の国に似たような名前があったか……?」

 

(いや、あんたもその “織斑” なんですけどね……)

 

 

 

この世界では、千冬と一夏は他人同士。

ここで論議をしていても、埒があかないだろう……。

そうなると問題は、いかにこの交戦を避けて、女王を倒すかが問題になってくるのだが……。

 

 

 

「しかしまぁ、もう十分だろうな……私と戦いながら、白雪姫を逃す時間稼ぎを行なっていたのだろう?」

 

「っ……!」

 

「なっ……! 何という小癪な真似をっ!!!」

 

 

 

 

やはりバレていたか……と、一夏は内心ドキッとしていた。

千冬とまともにやりあって、勝てるわけもない……真正面から斬り伏せようとしたところで、それを上回る剣戟が押し寄せる。

だからここは、攻め込むのではなく、なるべく千冬の剣戟に合わせて、刀奈たちが逃げる時間を稼ぐ事を最優先した。

さすがに、戦いの素人たる女王には、一夏の狙いは分からなかったみたいで、千冬の言葉に憤慨しているのは、言うまでもないだろう……。

 

 

 

 

「しかし、これでは追跡はできないな……当初の最優先事項は、白雪姫の命だったのだが……こうも楽しい戦いに興じてしまって、目的を忘れていた……」

 

「っ…………!!!」

 

「こ、黒刃っ! どういうことですか!! よもや、私からの依頼を反故にするつもりですかっ!!?」

 

「まさか……報酬は貰っている……ならばその契約は果たさなければならない。

それが我々暗殺者の流儀というものだ……しかし、ここで深追いしてしまっては、あなたの娘のことだ……何か罠を仕掛けていてもおかしくはないだろう……そうなれば、暗殺はより難しくなる」

 

「くっ……!! 忌々しい娘っ……!」

 

「っ…………」

 

 

 

千冬と女王の会話を聞いているだけだが、一夏の集中力はより一層高まっている。

これもまた、暗殺者のスキルの一つだからだ。

何気ない会話をしていることで、一瞬警戒が緩んでしまう……相手の心理突いてくる巧妙なスキル。

一夏は使ったことはないが、かつてアインクラッドの中に、こういう手段を用いた暗殺者がいた。

その者との戦いの経験が、今ここで発揮できるとは、因果なものだ。

 

 

 

「しかし、ここで何もせずに、ただ刃を納めるのも違うな……せめてーーーーーー」

 

「うっ……!!?」

 

 

 

先程感じていたものよりも、濃密な殺気を感じた。

一夏の全身からは冷や汗が出てきて、体が震えているのが感じられた。

今までの覇気や闘気が可愛く思えてくるような殺伐とした鬼気。

一夏も知らぬうちに、左手の鞘に直刀を納めて、抜刀術の体勢をとっていた。

 

 

 

 

「ーーーーお前の首……この私に寄越せ……ッ!!!」

 

「くっ…………!!!」

 

 

 

 

どす黒いオーラのようなものが視認できた。

その背後には、死神のようなシルエットをした幻覚も見える。

濃密な殺気がより固まってできたイメージなのか、それとも御伽噺のの為に用意された、千冬の持つ能力の一部なのか……。

千冬はあろう事か、持っていた黒刀全てを鞘に納めてしまった。

これには一夏も、何事かと思ってしまったが、次の瞬間、千冬は腰を落としたかと思うと、両手を六本の刀の柄へと持っていく。

そして、人差し指から小指までの指四本で三つの刀の柄を握り、一気に引き抜く。

指の間に一刀ずつ差し込み、それを親指で動かないように握っている。

それはまるで黒く大きな鉤爪を持っているような様になった。

 

 

 

「なっ……!!?」

 

『黒死六爪』(こくしむそう)ッーーーー!!!」

 

 

 

 

そう言い終えると、瞬間的にその場から消える。

一夏も反応して、後ろに下がろうとしたが、とっさに頭によぎった直感が、それはやめた方がいい……と告げてくる。

 

 

 

「ちっ!」

 

「はあああああッ!!!!!!」

 

 

 

右手には握られた黒爪が、思いっきり振り降ろされた。

一夏は後ろではなく、咄嗟に右側へと回避行動を取った……するとその瞬間、振り切られた黒爪がソニックウェーブを起こし、一夏のいた場所から、部屋の壁までを真空の刃が三つ……空間や床を斬り裂きながら進んでいき、やがて部屋の壁に大きな爪痕を残した。

 

 

 

「な、なんだそりゃあ……!!?」

 

「やはり避けるか…………私に六爪を抜かせただけでも驚きだというのに、その初撃を躱して見せるとはな……!!」

 

「ちっ!!」

 

 

 

今までの二刀でも危うく殺られるところだったというのに……。

それが三本に増えたことによって、剣圧の重さと斬撃数の増加というまったくもって嫌な事この上ない状態へと変化したものだ。

 

 

 

「おおおおっ!!!」

 

「らあああっ!!!」

 

 

 

六爪になってからの千冬の攻撃は、まるで野性の猛獣のようだ。

六爪が獰猛な獣たちの鉤爪にも見えてくることも含めて、まるで一匹の虎と対峙しているようだった。

黒い影が素早く一夏の背後へと周り、力強く振り切られた三閃の斬撃を、一夏はかろうじて反応し、その斬撃を受け流す。

六爪が振り切られた瞬間には、ソニックウェーブが起こり、再び部屋が斬り刻まれていく。

 

 

 

「なんなんだよ、それっ!? チート過ぎんだろっ!!」

 

「そう言いつつもそれを受け流し、躱し続けるお前も、普通ではないだろうに……!」

 

「うっさい!! 誰かに似たんだよっ!」

 

「ほう? それならば、ぜひ会ってみたいなっ!!!」

 

(あんたの事だっつーのっ!!!)

 

 

 

心の中で毒づきながらも、一夏は千冬との剣戟を交わしていく。

一度距離をとって、態勢を仕切り直そうとするも、それを千冬は逃すまいと、千冬は六爪を構えた。

腰を低く落として、両腕をクロスさせて、でかいタメを作る。

その光景を目にした一夏も、背筋が凍るような悪寒を感じて、とっさに高速歩法『神速』を使い、その場から飛びのく。

 

 

 

「《黒死六爪》ーーーーーー」

 

(マズイッ!!!?)

 

 

 

溜めていた力を一気に解き放つように六爪を振り抜く。

 

 

 

「ーーーーーー『飛刃烈爪』(ひじんれっそう)ッ!!!!」

 

「くっーーーーーー」

 

 

 

振り切られた瞬間、千冬と一夏との間の空間…………いや、そこに集まっていた空気が乱れて、千冬の姿がグニャリと捻じ曲がって見えた……。

そしてその後になって、一夏の立っていた場所が次々と何かに抉られていくように崩れて爆散していく。

一夏も跳び退きながら攻撃を躱していくのだが、すぐに攻撃が目の前まで迫ってくる……。

間に合わなくなると判断して、一夏は思いっきり横に跳び退いた。

着地のことなど考えずに、横に跳び出す事に全てを注ぎ、跳んだ後は、そのまま床にヘッドスライディングをかます。

 

 

 

「つぅ〜〜〜!!!」

 

 

 

咄嗟に跳んで、受け身もする暇もなかったため、体を強打し、一夏は悶絶していた。

しかし、自身の立っていた場所が、風穴が空いているように抉られていることに気づいた……。

壁も抉られて、よく見ると、外の森が見えていた。

 

 

 

「おいおい……マジで……?」

 

「ほう……回避することだけに専念して、避けたか……」

 

 

 

床や壁の抉れ方から見ても、おそらく先ほど撃ったのは、ソニックウェーブを幾多にも重ねて放った空気の衝撃砲なのだろう。

かつて鈴と一対一で戦って、甲龍の衝撃砲を見ていなかったら、流石に躱せずに、細切れにされていただろう。

 

 

 

(さて……マジでどうしよう…………)

 

 

 

敵は自分よりも格上の存在。

剣技においてはもちろんのこと、元々の戦闘能力が段違いだと言っていい。

にもかかわらず、六爪という異様な戦闘スタイルで攻め込まれる事態……それに付け加えてのソニックウェーブの遠距離攻撃もある……。

 

 

 

(どうにかして逃げることに専念した方がいいよなぁ……正面からはまず、有効打には絶対ならない……斬り刻まれるのがオチだしな)

 

 

 

どうにかしてこの状況を打破しようと、一夏の脳内は何パターンもの脱出ルートを検索しているが、どうしたものか悩んでいる。

すると、千冬はなぜか戦闘モードを解いて、普通に話しかけてきた。

 

 

 

「ふむ…………やはり、お前は死なすには惜しい人材だな……おい、お前……」

 

「な、なんだよ…………」

 

「私とともに来い……! お前は私の物にする」

 

「………………はい?」

 

「なっ、何を言っているのですかっ、黒刃っ?!」

 

 

 

あまりにも突然の宣言に、一夏と女王も言葉を失った。

唯一、女王だけが、気を取り直してツッコミを入れてくれたのだが……。

 

 

 

「いや、何言ってんの……? 俺とあんたは敵同士だろう……?」

 

「あぁ……だが、お前ほどの実力者を、ここで殺めてしまうのは惜しいと思い直した……。

このご時世、暗殺者とて、それほど多くはない……皆が私やお前のように腕の立つ者とは限らん……任務に出て、そのまま生きて帰って来なかった者も多い……。

ゆえに今、見込みがあるやつは我々がその目で実力を図り、呼び込めそうな者は徹底的に呼び込んでいるのさ……」

 

「なるほど……この時代ならではの悩みというわけか…………」

 

「そういうことだ……話はわかったな?」

 

「あぁ……まぁ、一応……いや、しかしだなぁ…………」

 

「何を迷うことがある? お前も元は暗殺者なのだろうが……」

 

「……………………」

 

 

 

すでに千冬にバレている。

カウンターとして《龍巻閃》を放っていた時点で、一夏の剣術の源流を読み取ってしまった。

いや、それだけではないか………この世界の住人たちの中で、剣を扱う者たちの剣術は、正統な騎士剣術……そのほかで言えば、この世界の刀奈やホウキ達のように、独自のスタイルで戦っている者たちばかり。

そのどちらにも属さない一夏の剣術は、自分に似ていると、千冬も感じ取ったのかもしれない。

姉と同じ剣術……そう言われれば、別に悪い気はしないが……それでも、ここにきた目的と意思は、絶対に揺るがない。

 

 

 

「悪いな……」

 

「…………」

 

「確かに俺は元暗殺者だけどさ……それでも、今は違う。別の道を模索して、その道を歩もうって決めた身でね……。

あんたからのお誘いは、正直魅力的ではあったが、謹んで、お断りさせていただくよ」

 

 

 

千冬を正面に、面と向かっての拒否。

千冬は顔の表情をピクリとも動かさず、一夏の答えを最後まで聞いた。

自分の誘いを断られたと再確認すると、目を瞑って、再び闘気を体全身に巡らせる。

 

 

 

「ふん……まぁ、ある程度答えは知れていると思ってはいたが……なるほど、お前の意思は固いと……そういうことか?」

 

「あぁ、その通りだよ……!」

 

 

 

一夏も鞘に戻していた直刀の柄を握り、抜刀術の体勢。

集中力が増していき、その場の空気が一気に圧迫されていく。

 

 

 

「ならば交渉決裂……躊躇いなくお前を殺れるということだな?」

 

「言っておくけど、俺、死ぬつもり無いからな?」

 

「上等だ……」

 

「ハッ……」

 

 

 

姉弟喧嘩にしては、いささか危険極まりないものになっているが、それを止められるものなどいるはずもない。

 

 

 

「お前の首を貰うッーーーー!!!!」

 

「俺は生きてカタナと帰るッーーーー!!!!」

 

 

 

二人が駆け出したと同時に、とてつもない衝撃波が生まれる。

直刀と六爪が交差し、ギリギリと鋼が軋む音がする。

鍔迫り合いに持ち込んだと思いきや、千冬の方が一夏を離し、再び斬り込む。

一夏は剣戟を躱し、返しの一撃を右下段からすくい上げるように斬りあげる。

衝撃が波のように伝わっていき、部屋全体に振動が響く。

その衝撃に女王・真耶は目を真っ白にしてその場に倒れてしまっている。

 

 

 

「はあああっ!!!」

 

「おおおおっ!!!!」

 

 

 

縦横無尽に迫り来る黒刀の斬撃。

それを一夏は、体に染み付いたソードスキルで弾き返していく。

垂直四連撃《バーチカル・スクエア》、三連撃技《シャープネイル》、二連撃技《スネーク・バイト》。

ドラグーンアーツである《龍巻閃》、《龍翔閃》、《龍槌閃》……自分の持てる技全てを出していく。

 

 

 

「なるほど、暗殺技以外にもこれほど持っているとはなっ!!」

 

「まだまだっ、これじゃあ終わらないさっ!!」

 

「ならばもっと見せてみろっ!!!」

 

 

 

ただの打ち合い。

剣戟を重ねるごとに、その速さ、重さ、鋭さが徐々に増していく。

一撃一撃が必殺。

気を抜いた瞬間が自分の死……。

千冬の六爪が下段からすくい上げるように振り切られ、斬撃とともに破砕された床の破片が飛んでくるが、その破片が当たるよりも速く一夏は動き回り、巧みに破片を躱し、千冬の懐に入る。

 

 

 

「だああああっ!!!!」

 

「っ!!?」

 

 

 

腰だめの姿勢から、渾身の袈裟斬り。

元々体格的には、一夏の方が千冬よりも背が高く、力も、女の千冬よりも男の一夏の方が強い……。

故に千冬は、六爪全てで一夏の斬撃を受け止める。

 

 

 

「ハハッ、いいぞっ……! この力、この剣戟っ……! 全てが私をそそらせてくれるっ!!!」

 

 

 

一夏が全力を出せば、これを受けてさらにニヤける千冬。

さらに千冬の戦闘能力が上がるのだ。

 

 

 

「おおおっ!!!」

 

「くっ!?」

 

 

 

一夏の斬撃を跳ね返し、千冬は大きく振りかぶった両手の六爪を、上段から一気に振り下ろす。

千冬の半径1.5メートルの範囲の空間が揺らぎ、その後にとてつもない衝撃波が発生する。

一夏はその衝撃に吹き飛ばされて、一旦距離を開ける。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

着地をしっかりと決め、千冬を睨みつける一夏。

しかし、一夏の左肩には、浅いが傷つけられたため、左肩からは血が少しだけ滲んでいた。

 

 

 

(ちっ……さすがに避けきれなかったか……)

 

 

 

痛みはある。

現実世界と同様の痛み……しかし、傷は浅いため、致命傷とまではいかないが、一夏はより一層警戒を強める。

その姿に、千冬も獰猛な笑みで答える。

 

 

 

「今の一撃でわかっただろう……まだまだやれるようだが、お前では私を殺る事はできんよ……!!」

 

「…………まぁ、そんな事、はなから分かっている事なんだけど……」

 

 

 

千冬はニヤリと笑いながら睨みつける一夏に対して、警戒心を最大にして、構え直す。

左脚を前に体を半身の姿勢、そのまま中腰になり、左手に持っている六爪を下から上に刃を向けて、右手の六爪は顔の高さまで持っていき、刃を下に向けて、切っ先を一夏に向けた状態で構えている。

まさに臨戦態勢……という事だろう。

 

 

 

「さぁ、どうする? 第二ラウンドと行こうか?」

 

「っ…………」

 

 

 

未だにやる気十分の千冬。

しかし、一夏にとってはそれはごめんだ。

暗殺の鉄則でもあるが、目標を仕留めきれないのならば、即座に後退し、次の機会に備える。

それが暗殺の鉄則……しかし、相手は最も暗殺のターゲットにしにくい相手だ。

自身よりも戦闘力が高い相手の暗殺など、至難の業である。

 

 

 

(ならば、俺のやるべき事は一つ……)

 

 

 

一夏はそっと視線を横へと向ける。

一夏の正面から向かって右には、今いる部屋へと入って来た廊下へと出れる扉が……左には、先ほど千冬が風穴を開けた部屋の壁。

そこからならば直接外への脱出が可能。

しかし、それは千冬も警戒している事だ。

 

 

 

「ふっ……この私が逃すとでも?」

 

「いや……。だけど、是が非でも逃げさせてもらおうと思ってる」

 

「言っておくが……」

 

「ん?」

 

「私は狙った標的は逃さんぞ……!!」

 

「そうか……なら、急いで逃げなきゃな……!!」

 

 

互いに譲らない。

緊張感が再び部屋の中を包み込む。

そんな静寂を打ち破ったのは、その場から逃げようと画策していた一夏だった。

一夏はまっすぐ外へと脱出できる風穴の方へと向かって駆け出す。

当然、それを阻止しようとする千冬。

 

 

 

「逃さんと言った!」

 

「けど、それでも逃げるって言ったぜ、俺はっ!!」

 

 

 

直刀を握りしめて、斬り込んでいく一夏。

千冬もそれに対抗して、一夏に対して斬り込んで行く。

左右から迫りくる六爪。

回避、防御をさせないための包囲技『咬牙』(こうが)

しかし一夏はあえて回避することなく突っ込む。

迫りくる両サイドからの斬撃に対して、一夏は身を屈めて、まるで野球のスライディングの要領で滑り込み、千冬の股下をかいくぐって背後を取った。

 

 

 

「くっ……!?」

 

「《龍巻閃・凩》ッ!!」

 

 

スライディングした後に、体勢を起こしてからの、間髪入れずに反時計回りに回転して放つ回転斬り《龍巻閃》の派生技を繰り出す。

しかし千冬は、振り切った右手の六爪を左肩の方へと持っていき、そのまま刃だけを背中に添えるように突き出す。

結果、《龍巻閃・凩》の斬撃は、その六爪によって阻まれ、千冬に傷をつける事は無かった。

そして、千冬はお返しとばかりに、時計回りに体を反転させ、六爪を振り切った。

 

 

 

『六刃双撃』(りくじんそうげき)ッ!!!」

 

「っ!!」

 

 

 

 

当てつけとばかりに回転斬りをお返しする千冬。

一夏は直刀で六爪の攻撃を受けきるが、なにぶん受けた体勢が悪く、攻撃をうけた瞬間に弾かれてしまった。

しかし、そんな一夏の表情には、笑みが浮かべられていた。

 

 

「くっ……!!?」

 

「ははっ……悪いねぇ、黒刃さん……」

 

 

一夏の弾き飛ばされた先には、ぽっかりと空いた城壁の風穴が……。

 

 

 

「貴様っ……!!」

 

「あんたとの勝負は、ここまでだっ……!!!」

 

「逃さんと言ったっ!!!!」

 

 

必死で一夏を追いかける千冬。

しかし、一夏の体はすでに城外へ。

あとは自然の力……つまりは重力に任せて、下に落ちるだけだ。

 

 

 

「言ったろ? 急いで逃げるってさ……!」

 

 

 

城外へと投げ出された一夏は、そのまま体勢を入れ替えて、落ちた場所の下に迫り出していた城の屋根へと着地する。

そのまま屋根を滑り落ちていき、城の外壁に向かって飛び出した。

外壁との距離はそれほど近くはない……しかし、飛び込んだ場所は外壁ではなく、城内に建っていた監視塔だ。城の外はジャングルのようになっており、ゲリラ戦を仕掛けるにはもってこいだ。

その対策なのかは知らないが城の周り数カ所に監視塔が設置されており、一夏はそこに向かって跳躍していた。

木材でできている監視塔の最上階へと転がるようにして着地し、先ほどの部屋を確認する。

するとそこには、一夏の事を鋭い視線で睨みつける千冬の姿があった。

 

 

 

「うわぁ……超怖ぇ…………!」

 

 

 

今にも出席簿アタックかゲンコツが飛んで来そうで身構えてしまう。

しかし、これが好機なことに変わりはない。

一夏は急いで監視塔から降りて、城門から外へと向かって駆け出した。

 

 

 

 

「ちっ……まさか私の攻撃を利用して、そのまま逃げるとはな……こんなこと、今までに経験したことなかったな……」

 

 

 

一夏の姿が森へと消えていくのを見ていた千冬は、両手の六爪を腰の鞘に納めて、感慨にふけっていた。

今までの経験から、自分が標的を必ず仕留め、逃したことなど一度もなかったし、そんな自分自身とここまでやり合える者などもいなかった。

故に一夏を自分の物にしようと思ったわけだが……。

標的を逃してしまったというどこからともなく溢れてくる違和感と、自分が仕留めきれなかった相手の存在からくる興奮が千冬の中でごちゃごちゃに入り乱れていた。

 

 

 

「ううぅ〜〜〜…………ハッ! えっと、ここは……一体……!?」

 

「ふっ……ようやく目を覚ましたか、女王」

 

「黒刃? これは一体……?」

 

 

 

先ほどまでノビていた女王が目を覚まして、騒然としている部屋の様子に、目を丸くして、言葉を失っていた。

 

 

 

「なっ、ななっ……何ですかこれはっ!!?」

 

「あぁ? お前が殺せと言ったあの少年との戦いでできた爪跡……と言えばいいか?」

 

「ど、どうしてこのような惨状になるのです!! 私の城に何ということをっ!!?」

 

「仕方がないだろう……私も思わず楽しませてもらったぁ……今までに感じたことのないほどの命をやり取りをな……!!」

 

「うぅ……!!」

 

 

 

ニヤリと口角を上げて笑う千冬に、女王は顔を引きつらせてしまった。

しかし、どうしようかと悩んでしまう。

衛兵はそのほとんどが倒されたか、その場から逃げたかのどちらかだ。

世話をしてくれる侍従たちはまだ残ってくれてはいるが、戦力としては乏しい……。

 

 

 

「黒刃……あの男は仕留めたのですか?」

 

「いや……残念ながら」

 

「っ〜〜〜!!! ほほう? 任務を達成することができなかった……と言えることでしょうか?」

 

「…………」

 

「契約は……まだ続いていますよ? しっかりと果たして貰わなければいけませんよね?」

 

「…………無論、そのつもりだ。安心しろ、必ずあの少年と白雪姫の首は取る……お前はこの城の片付けでも考えていればいい」

 

「っ〜〜〜!!! ええっ! そうさせていただきますわ!!」

 

 

 

 

千冬の言葉に、怒りを露わにしながらその場から去る女王。

そして千冬は、まるでなにかを感じ取ろうとしているのか、目をつぶって、自身の神経を鋭敏にさせていた。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

なにかを考えているのか、それとも、何か聞こえてくるのを聞き取ろうとしているのか、それとも第六感で全てを悟ろうとしているのか……。

 

 

 

「ふっ…………捉えた……!」

 

 

 

 

ニヤリと獰猛な笑みを再び浮かべた千冬。

その目は、すでに人間のものとは思えず、その姿は、まさしく猛獣そのものだった…………。

 

 

 

 






とりあえず、あと二、三話程度で、このワールド・パージ編を終わらせて、さっさと次に進もうと思います。

とりあえず閑話を書いて箸休め……そこから今度は京都編に行き、そっからはSAOサイドに戻るような形ですかね。


感想よろしくおねがいします!!



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