ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく書けたぁ〜〜!!!


長らくお待たせして申し訳ない!
皆さん話の内容覚えてるかな?




第108話 白雪姫の世界Ⅴ

「おー、おー……派手に始めてやがるなぁ〜」

 

「これからだよ。城の兵士たちを撹乱して、どの程度この事態に対応できるか……。

それを見定めるのが、今回の奇襲作戦の目的」

 

 

 

日時はわからないが、空は黒く代わりに、燦々と降り注いでいた太陽は隠れて、代わりに月が登っている。

今現在、一夏はユコ、シズネと共に森の木々の枝の上に乗って、状況確認していた。

城からそう遠くない場所で、城内の慌ただしい光景をしっかり観察している。

日没とと共に始まった奇襲作戦。

今や城の中では、たくさんの反政府勢力《ダイヤモンドダスト・リベレーター》のメンバー達が、城の中へと潜入し、あちらこちらで火の手をあげる。

今や城内はパニック状態に陥り、兵達は火元へと急ぎ、早急の消火活動に入っている。

だがその一方で、反抗勢力を捉えようとする武装兵達には、ホウキやラウラ、シャル達と言った戦闘に長けた者たちが相手をしており、城の兵たちの方が劣勢になっているようだ。

 

 

 

「俺たちはどうするんだ? ここでのんびりとしているわけにもいかないだろう?」

 

「うん……。あともう少ししたら、姫様がキヨカちゃんたちと一緒に追撃部隊として城内に侵入するから、私たちはそれのサポートだね」

 

「はいぃっ!!?? 姫さんも戦闘に参加するつもりなのかっ?!」

 

「うん。私たちは止めたんだけど……。この戦いが、一体どういう物で、誰が計画したのか……。

それをはっきりとあの女王に知らしめるって、姫様が言ってたから……」

 

「なるほど……それはまぁ、理にかなっているのか……。それで? その姫さんはどこにいるんだ?」

 

「えっと……」

 

 

シズネが右手をゆらゆらとあげ、ある一つの場所を指した。

その指が指したのは…………。

 

 

 

「あの城の中に」

 

「はあああっ!!??」

 

「ちょっ、一夏くん、シィーッ、シィー!!」

 

 

 

思わず大声を上げてしまった一夏に対して、ユコがすかさず一夏の口を押さえに行く。

一夏も慌てて口を閉じ、あたりを見渡すが、特に誰かに気づかれている様子は見当たらなかった。

 

 

 

「もうっ……いくら城から離れているからって、大声出すなんて……!」

 

「悪い……でも、驚きの方がデカ過ぎてな……」

 

「まぁ、気持ちは分からなくもないよ?」

 

 

 

「あはは……」と苦笑いを浮かべるシズネとユコ。

今もなお、城の中では大小様々な爆発が起こっており、騎士隊と武装少女達が戦っている。

 

 

 

「さて、もうそろそろ計画がセカンドフェイズに移行する頃じゃないかな?」

 

「じゃあ、とうとうお城侵入?」

 

「うん。兵隊達は外にいるホウキちゃんたちの相手で手が離せないし、一気に城の中に入って、脅威を晒すのにいい頃合いだと思う」

 

 

 

シズネとユコがそんな会話をしている。

ならば、一夏達は早々にカタナ達と合流して、一気に城の兵力を瓦解させる。

 

 

 

「そんじゃあ、ボチボチ行くとしますか?」

 

「うん!」

 

「そうね……行きましょう!」

 

 

 

一夏が木の枝から飛び降り、シズネ、ユコと一夏に続く。

そのまま木々の間を通り抜け、一気に城の外壁へと到着し、鉤縄を使って、外壁をよじ登る。

ここまでは予定通り……。むしろ、シズネとユコがスムーズによじ登り、そして懸垂下降しているのが驚きだ。

この世界では、二人の運動能力は普通の戦闘系プレイヤーと同等以上の物のようで、これくらいの動きは朝飯前だ。

これが現実世界の彼女たちがやっていたならば、見た目の印象とのギャップで呆然としているところだが……。

むしろ、彼女達は彼女達のままでいて欲しいものだ……。

 

 

 

 

 

 

「一班は私と来い! このまま道を切り開くぞ!」

 

「「「おおおっ!!」」」

 

「三班と五班は本隊の護衛に! 二班は側面から一班を援護しつつ、各所に展開してください!」

 

「「了解!!」」

 

「心得た!」

 

 

 

 

城内では、武芸に富んだメンバーによる奇襲作戦が、今もなお続いていた。

一班を指揮するのは、その手に日本刀を携えて、先陣を切って突き進むホウキ。

そしてその側面より支援を行う二班の指揮を執っているのが、執事の燕尾服を纏い、片手に四本……両手で八本の短剣を握り、高速で敵の急所を斬り裂いていくラウラ。

三班の指揮はキヨカが、五班の指揮はシャル。

そして本隊を守護し、総指揮を執っているのは、カタナの隣で眼鏡をクイッとあげながら戦場を見回すカンザシだ。

ここでも、彼女の情報分析能力と判断力に富んだ指揮か行われている。

彼女は今回の作戦で、戦闘力になりそうなメンバーを選りすぐり、六つの戦力に分けた。

自分が護衛し、指揮をする本隊と、その他の五つの班だ。

そして、残る四班の指揮を執っているのが、リンであり、そのメンバーの中には、セシリアも含まれている。

リンの纏める四班は、城の後方へと回り込み、セシリアは隊の後方から弓による狙撃を行い、混乱に乗じてリン達の突撃部隊が後門から攻めるという手はずだ。

これほどの戦力を保有し、それを円滑に動かす采配は、見事という他ないだろう……。

そこに一夏たちも加わり、戦況は思いのほかカタナ達が考えているとおりに進んでいた。

しかし、その城の頂点に君臨する女王は、こんな状況においてもまだ、見下すような冷たい視線を、今もなお戦っているカタナ達に向けていた。

 

 

 

 

 

「全く……困ったものですねぇ〜。私に殺されなかっただけでも幸運だというのに、その私の城に攻め入るなんて……っ、あんな愚劣な娘を産んでしまったと思うと、我が身を呪いたくなりますねっ……!!!」

 

 

 

 

嫌悪感剥き出しの言葉で毒舌を吐く。

女王の視線の先には、槍を携え、堂々を立っている娘……白雪姫がいる。

白雪姫の表情には怯えが一切感じられなかった。

むしろ猛々しく、勇猛な戦士であるかのような毅然とした態度。

女王自身も知らない白雪姫の一面を見てしまった。

だが、だからこそ、そういうところも気に入らないのだ。

 

 

 

「私の娘として生まれ、その母たる私よりも美しいなどとっ〜〜〜〜!!!

許せないっ…………!! その上っ、この私の城を侵攻などとっ、よくもこのような蛮行をしてくれたものですっ!」

 

 

 

振り上げた拳を窓際に置いてあった机に向かって叩きつける。

あまりの衝撃に、机の上にあった花瓶と、そこに生けていた花が倒れ、中の水が溢れてしまった。

 

 

 

「あらあら、いけないわ……私としたことが、あまりの仕打ちに苛立ってしまったわ……。

誰かぁ〜? 早く片付けてくださいなぁ〜!」

 

 

 

 

女王の言葉に、部屋に入ってきたのは、壮年の男性であった。

白髪がちらつく髪をオールバックに整え、主人に仕えていると言わんばかりに、執事の燕尾服を着こなしている。

その男性はすぐさま花瓶を起こして、床を雑巾で拭きあげていく。

 

 

 

「ふぅ〜……。まぁいいですわ……こんなイタズラに一々反応していては、神経がおかしくなってしまいます。

こういう事は、その道のプロにでもお任せするのが定石ですよね……。

そうは思いませんか? 『黒刃(こくじん)』さん?」

 

「ふん……」

 

 

 

女王は窓の外から、部屋の端へと視線を移す。

そこにいたのは、長い黒髪をポニーテールに束ねて、漆黒のボディースーツに身を包んだ女性が一人……。

その腰には、六本の黒い日本刀が差してある。

腕を組み、壁にもたれかかりながら、窓から外の様子を見ていた女性は、女王の言葉に鼻で笑った。

 

 

 

「あんな小娘共を始末しろと? それでこの報酬とは、随分と羽振りがいいなぁ……いや、むしろ何かあるのではないかと警戒したくなるほどだ……」

 

 

 

抑えてはいるが、少しドスの効いた声色で、女王に尋ねる女性は、この世界では知る人ぞ知る暗殺者だ。

その働きぶりは凄まじく、狙った獲物を確実に始末し、その任務成功率は100パーセントというのがもっぱらの噂だ。

確証は何もない……しかし、女王は今の言葉でわかった……その噂は真実だと……。

 

 

 

「凄まじいオーラですね……我が城に常駐している精鋭騎士よりも強い……そのくらいしか私にはわかりませんが、あなたがとんでもない人物である事は理解しました」

 

「ほう? 女王陛下も、なかなかどうして鋭いな……。その辺りの素養が、白雪姫にも受け継がれたのでは?」

 

「ふん……嬉しくありませんわ、そんな言葉……」

 

「これは失敬……」

 

「それで? どうなのです……確実に仕留められますか?」

 

「無論だ……私が敗れる道理がない」

 

「これは……大きく出ましたね」

 

「事実だからな……」

 

 

 

『黒刃』と呼ばれた女性は、当然のように澄まし顔で答えた。

事実、彼女の任務遂行率は高い。

その手で仕留めてきた暗殺の中には、表沙汰になれば国家の威信にも関わるようなものまである。

本来ならば、自分の娘の暗殺など、別の者でも代用は聞いたはずなのだが、送っていた暗殺者達はみな返り討ちに遭ったようで、ある者は暗殺依頼の撤回を要求し、ある者は暗殺の任務を遂行中に、そのまま帰らぬ人となった者もいた。

当初は不思議に思っていたが、現在こうして城を攻められている事を加味して考えてみれば、当然の結果だったのかもしれない。

 

 

 

 

「しかしながら、よくもこんな部隊を作り上げるほどの勢力になりましたね……。

女王陛下も中々、民衆に嫌われていると見える……」

 

「ふんっ……女王となってからは、そう言った好みの問題など、一々気にしてはいませんよ……」

 

「ほう? では、美に対する執着だけは、気になっているわけか……」

 

「っ……!!」

 

「ふんっ……あれだけ澄ましていた顔が歪み始めているぞ、女王陛下?」

 

 

 

『黒刃』の言葉に女王は顔を歪めた。

美に対する執着……それは女王にとっては切り離せない物。

自分自身が一番でなければ気が済まない。

世界一の美貌の持ち主という地位を、誰にも渡したくない。

その執念とも言える感情だけが、女王を支配している。

 

 

 

「世界一の美貌……その称号は譲れません……それが、私を女王と確立させているものなのですから……っ!」

 

「…………まぁ、あなたのその執着は個人の自由だが、あまり執着しすぎると、足元をすくわれることになると思うがな……」

 

「ご忠告、一応心に留めておきましょう……それじゃあ、そろそろ仕事の方を遂行してもらうとしましょうか……」

 

「……それで、標的は?」

 

「我が娘……白雪姫の首……」

 

「承知した」

 

 

 

『黒刃』はそれだけ言うと、そのまま部屋を後にした。

そして、その場に留まっていた女性の顔は、化けの皮が剥がれたかのように歪み、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

吊り上がった口角は、まるで三日月の様な形を取り、娘の白雪姫を見る眼光も妖しい光を浴びていた。

 

 

 

「さぁ……お仕置きの時間といきましょうか、白雪姫?」

 

 

 

悪魔か、それとも魔女と呼んだ方がいいのか……誰もが知っている笑顔を振りまく美貌の女王の姿は、もう無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怯んだぞ! このまま押し切れ!」

 

「早く第二の城門を開けっ! このまま決定打を与えるぞ!」

 

 

 

 

一方、戦場では早々に決着がつきそうな戦況だった。

一班と二班のリーダーであるホウキとラウラの快進撃も相まって、城内外の騎士団達はほぼほぼ壊滅した。

と言っても、全員殺してしまったわけではない。

その多くが、交戦途中に戦意を損失して逃亡しているのだ……。

だが、逃げ行く者には手を出さないというのが、今回の奇襲作戦の優先事項だった。

今は女王に付き従うしかない騎士団の者たちも、その女王が倒されたのならば、改心して、白雪姫に従属するかもしれないと考えているからだ。

そして何より、無駄な戦闘で命を散らしたくないというのが、本音だった。

これを言い出したのは、他でもない白雪姫本人だった。

この一時の内乱の為に、国に忠誠を誓ってくれている騎士達を斬るのは、白雪姫も本心ではないからだ。

そしてそれは、ホウキ達も同じ思いだった。

 

 

 

 

「リン達はうまくやっているだろうか……?」

 

「先程狼煙が上がったのを確認した……おそらく、侵入している頃だろう」

 

 

 

先陣を切っているホウキとラウラは、互いに背中合わせになった状態で周りの戦況を確認した。

 

 

 

「あらかた片付いたな……」

 

「あぁ、あとは城内部を適度に襲撃し、撤退……その後、姫からの勧告を発令して、女王がどう動くか……だがな」

 

 

 

一人は日本刀を、一人は複数の短剣を握りながら、そんな会話をしている。

そして、総大将である白雪姫が城の内部へと入って行くのを確認した。

 

 

 

 

「姫が入ったな。我らも行くぞ」

 

「了解。私は残りの残党を蹴散らしてからそちらに行く。それまでは姫の警護を頼んでいいか?」

 

「心得た」

 

 

 

 

ラウラが駆け出し、城の外部を一回りするように走り去って行った。

ホウキはそのまま白雪姫の後を追うように駆け出し、ラウラの率いていた二班のメンバーも、ホウキと一班のメンバーについていった。

そしてそこに、外壁の外から辺りを監視していた一夏とシズネ、ユコも加わり、全員で城の中へと入っていった。

 

 

 

 

「全く、姫さんが先陣切って走って行くって……一体どういう事だよ……?」

 

「あら? 私が先陣を切ってちゃ悪い? 一応槍使いなんだし、『一番槍』をもらったところで文句を言われる筋合いは無いと思うのだけれど?」

 

「そういう意味じゃないだけどな……っていうかそれで上手いこと言ったつもりかっ?!」

 

 

 

 

そうやって冗談を交える一夏とカタナ。

そんなカタナの手には、立派な聖槍が握られている。

刃渡りが通常の槍よりも長く、まるで剣のような印象を受けるが、柄が長いため、やはり槍なのだろう。

正確に言ってしまえば、『矛』と言ったほうがいいか?

そんな物騒な物を持っている女性を、仮にも『姫』……などと呼んでも大丈夫なのだろうかと問いたくなる。

もしも呼ぶとするならば、『白雪姫』ではなく、『戦姫』と呼んだほうが、むしろしっくり来るだろう。

 

 

 

「それで、この後はどうするんだ?」

 

「そうね……一応あのクソ女王にでも会っておきますか。これがあなたのやったことに対する結果だって、ちゃんと分からせとかないと……!」

 

「そうか……なら、急いだ方がいいかもしれないぞ……?」

 

「え? それってどういう……」

 

「ここに入ってからかな……変な殺気を感じる……!」

 

「っ……まさか、まだ何者かが潜んでいるって事?」

 

「あぁ……俺もまさかとは思ったけど、どことなく視線を感じるしな……」

 

「っ…………そう、なら急いだそうがいいわね。あなたのその直感を信じるわ」

 

「え?」

 

「ん? 何よ……」

 

「え、いやぁ……」

 

 

 

思いのほかカタナが聞き入れてくれたことが予想外だった為、少し驚いてしまった。

出会ってまだそんなに時間が経っていないにもかかわらず、少しは信用してもらえたのだろうか……。

 

 

 

「とりあえず、まずは女王のところに行くわよ。みんな、覚悟はいいわね?」

 

 

 

白雪姫であるカタナの問いかけに、ここまでついてきた反政府勢力のメンバーである女の子たちは、覚悟を決めた顔で一様に頷いた。

 

 

 

「それじゃあユコちゃんとホウキちゃんは、退路の確保を。何かあった時には、すぐに退避するわよ」

 

「承知しました」

 

「了解!」

 

 

 

ホウキとユコがその場から離れ、複数の隊員を連れて退路の確保に行く。

まぁ、先ほどの戦闘で城の兵士たちはほとんど追いやったが、一夏の言った事が気になる……。

それに、最後の最後で何をしてくるかわからないというのが、あの女王だ。

たかだか自分の美貌世界一の座を守るためだけに、自分の娘すらも殺そうとする異常者だ。

自分たちすら想像もし得ない切り札を持っているかもしれない……。

そう思ったのだ。

 

 

 

「じゃあ、行くわよ。一夏くん……」

 

「ん……」

 

「…………ごめん、なんでもないわ」

 

「…………わかってるよ。姫さんは、俺が守る……っ!」

 

「っ〜〜〜〜!!! そ、そんなの、当たり前じゃない! 私を守る為に、あなたを特別に組織の一員にしたのよっ!?」

 

「わかってるって。ほら、早く行こうぜ?」

 

「むむぅ〜〜……!」

 

 

 

頬を赤く染めながら、カタナはふくれ顔になって一夏を睨みつける。

そして、ようやく女王の部屋の前へと到達した。

息を整え、深呼吸をするカタナ。

おそらく本人にとっては、数ヶ月ぶりの再会なのだろう……。

 

 

 

「行くわ……っ!!」

 

 

 

 

ドアの取っ手を掴み、思いっきり開けた。

すると、部屋の奥……外を見渡せる窓のそばに、女王……真耶の姿があった。

いきなり開けられたドアに驚くそぶりを見せず、ただただ静かにその場に佇んでいた。

そして、入ってきたカタナこと白雪姫を見るとニッコリ笑う。

 

 

 

「あらあら、こんな時間に面会する人はいなかったと思うのだけど……まぁ、いいでしょう。

私は寛大ですから、許してあげます……しかし、これはどう言った了見なのかしら? 白雪姫?」

 

「「「っっ…………!!!!!!」」」

 

 

 

柔らかい笑みを浮かべながらこちらに問う女王。

その笑みはあまりにも清々しく、襲撃されたことに対する恐怖や危機感、憤慨などの怒りの感情が現れない……むしろこちらの方が恐怖を覚えるほどだった。

しかし、そんな女王の問いかけに、白雪姫であるカタナは答えた。

 

 

 

「どういう了見ですって……? 自分の胸に手を当てて思い返してみる事ね。

あなたが今までにしてきたことを、私たちは覚えている……たかだか自分の地位を守りたいが為に、何の罪もない少女たちを迫害し、あまつさえ命まで狙ってくるなんてね……っ!

あなたは狂ってるわ……っ! だから正すのよ!貴方みたいな訳の分からない暴君が、この世に居ていいはずもないもの……。

いずれ貴方は、この国を崩壊させかねない……ならばいっそのこと、今ここで壊してしまってもいいでしょう?

遅かれ早かれ、貴方が王位に就いた時点で、この国の崩壊は決まって居た……だからこそ、娘である私が終わらせる……っ!お母様……いや、暴虐の女王っ! 覚悟してもらうわよっ!!!」

 

「………………」

 

 

 

白雪姫・カタナの言葉に、女王はただひたすら聞き耳を立てているだけだった。

一切の反論をせずに、ただ黙ってカタナの話が終わるのを聞いていた。

ようやくカタナの話が終わると、女王は右手で自分のこめかみを抑え、左手を右肘に持っていき、まるで支えているような体勢を取る。

 

 

 

「はぁ…………いけません……。いけませんね、これは……」

 

「っ……!!」

 

 

 

俯いていた顔を上げる女王。

しかし、眼鏡の奥、その瞳の奥にある怪しげな光が、カタナ達を射抜いていた。

先ほどまで笑っていた女王の顔から笑みが消え、鋭い眼光と妖艶な笑みが相まって、妖しげな雰囲気を醸し出してきた。

 

 

「全く……なぜこのような事したのか……弁明があるのなら聞いて上げるのも、親として務めであると思っていたのに……いけませんねぇ、これは……!」

 

「あらぁ? こんな理由じゃ不服だったかしら? 貴方は討たれるべくして討たれるっ……ただそれだけの事よ」

 

「………………ハハ、ハハハッ……ハハハハ…………アッハハハハハッ!!!」

 

 

 

 

カタナの言葉に、今度は箍が外れたように笑い出した女王。

この状況下でこんなにも大笑いが出来るのか……?

本来の人としての判断では、そんなこと出来ないはずだ。

ここまで追い詰められていながら、臆するわけでもなく、泣き叫ぶわけでもなく、許しを請うわけでもなく……。

ただただ笑っている。

それは余裕の現れだからなのか? あるいは、すでに精神的に追い詰められているからなのか?

 

 

 

 

「何がそんなに可笑しいの……っ?!」

 

「あーあ……うふふっ、すみませんね……あまりにも、貴方が愚かだったからよ、白雪姫」

 

「何ですって?」

 

「貴方は私を追い詰めたつもりでいるようだけれど……それは間違っているのですよ?」

 

「っ??!!」

 

「むしろ、貴方は私の張った罠にかかった、哀れなゴミ虫同然です……」

 

 

 

 

先ほどまでの笑みが消え、今度は魔女を彷彿とさせるニヤケ顔へと変わる。

そう……まるで、獲物が来るのを待っていたと言わんばかりに……。

 

 

 

 

ドサ……!

 

 

 

「なっ……!!!?」

 

「っ!? ラウラッ!!」

 

 

 

部屋の中に、一人の少女が投げ込まれた。

その少女の姿に、カタナは息を呑み、一夏が名前を叫んだ。

綺麗な銀色の長い髪は、おそらく本人の血で汚れており、体のいたるところに刃物でつけられた傷が見て取れた。

気が動転し、カタナはすぐさまラウラのところへと駆け寄ろうとするが、一夏がとっさにカタナを止める。

 

 

 

「ちょっ、なんで止めるのよっ!!?」

 

「今は動くなっ! ラウラはまだ生きているっ!」

 

「え?」

 

 

 

一夏の指摘に、カタナはラウラをジッと見つめた。

すると確かに、ラウラの体は呼吸の動作と同じタイミングで上下に動きている……。

息をしている様子が見て取れるので、まだ死んではいなかった。

どうやら致命傷を避けているみたいで、急いで応急処置を施せば、大事には至らないだろう。

ホッと一息をついたカタナはそのまま一夏の方へと視線を向ける。だが、一夏の表情に、カタナは少々不安を覚えた。

険しい表情のまま、一夏は視線を左へと向けていた。

そこには、女王の部屋へと入るもう一つのドアがあり、そこが大きく開かれていた。

おそらく、ラウラはそこから投げ込まれたのだろう。

するとそのドアの向こうから、コツ、コツ、と足音が聞こえてきた。

この城にはもう、大まかな戦力は残されていない……ならば、今近づいてきている者が、先ほど一夏の言っていた視線を送ってきていた者……という事になるのだろう。

 

 

 

 

「っ……この感覚は……!」

 

「何者なの?」

 

 

 

やがて足音が大きくなり、部屋から照らし出された照明の光が姿を捉えた。

 

 

 

「っ〜〜〜!!!? やっぱり、そうなるのかよ……っ!!」

 

「ぁ……っ!!?」

 

 

 

圧倒的なまでの風格。

ただそこにいるだけで、息が詰まりそうな感覚だった。

言葉を発することもできないような……全身が強張っているのが分かる。

 

 

 

「なんなんですか? この床に転がるゴミは?」

 

「この辺りをウロチョロしていたのでな……障害になる前に消しておこうかとも思っていたのだが、中々どうして腕が立つ……。

ただの小娘達の集まりだと思っていたが、これでは評価を改めねばならないな……」

 

「貴方が仕留めそこなったと? それは確かに凄いですね……見るからに侍従……どこかの家に仕えている者のようですね?

しかし、何故メイドではなく執事の服を?」

 

 

 

床に転がるラウラを見て、女王は見るからに不機嫌になった。

自分の部屋を血で汚されてしまったからなのか、ラウラの事もゴミ扱いだ。

それに憤りを感じる組織のメンバーやカタナを、一夏は手で制するが、いつまで保つかはわからない。

 

 

 

「あんた……何者だ……っ!?」

 

「ん?」

 

 

 

ラウラをボロボロにした人物に、一夏は問いかける。

艶やかな黒髪をポニーテールに結って、腰に六本の刀を差し、くっきりと体のラインを見せれるような構造になっているボディースーツを見にまとった女性。

その人物は、一夏も、それにここにいるカタナやユコ、ホウキ、シズネ、ホンネ、キヨカ達ならば誰もが知っている人物。

IS学園一年一組担任にして元日本代表のISパイロットで、世界最強の称号《ブリュンヒルデ》と呼ばれた女性。

一夏の姉である織斑 千冬の姿が、そこにはあった。

この世界は、カタナの深層意識に作用して作られた空間。

ならば、この世界における千冬もまた、カタナにとっては強者であり、絶対的な力を持った人物に違いない。

一夏の問いに、千冬は答えた。

 

 

 

「名など無い。名はこの稼業を継いだ時に捨てたからな……だがそうだな……私を知る者たちは、『黒刃』と呼んでいた」

 

「コク、ジン……なるほど、見たまんまってわけね……」

 

 

 

 

一夏は飄々とした表情で返すが、その手はすでに腰の刀へと持って行ってた。

左手で鞘を握り、鯉口を切った状態で右手で柄を握る。

腰を落とし、いつでも抜刀可能な状態へと入った。

 

 

 

「ほう? その構え……身のこなし……貴様も中々の手練れと見たが……?」

 

「それほどでも無いよ……あんたに比べたら、俺の強さなんてたかが知れてるよ」

 

「ふん……そうか、残念だ。ある程度やれるのなら、少々楽しめると思っていたんだがな……っ!」

 

「っーーーー!!?」

 

 

 

殺気を混ぜた眼光。

全身の筋肉を視線と言う名の針で突き穿たれたような感覚に、一夏の額から汗が流れ出た。

只者では無い……そんな事、言われるまでも無いと思ってはいるが、実際に面と向かって会ってみると、その佇まい、雰囲気だけで斬られそうだった。

昔、誰にも心を開こうとしなかった千冬と同じだ。

誰にでもしていた鋭い眼光……触れればなんでも容易く斬り裂いてしまいそうなナイフを連想させる雰囲気。

実の弟である一夏でも恐怖したくらいだ……。

今ではそんな事は無くなってはいるが、敵に見せる姿というのは、こういうものなのだろうと感じ取った。

隙を見て行動を起こそうかと思ってはいたが、その一歩が踏み出せない。

 

 

 

(っ…………ダメだ……っ、隙と呼べるようなものが何一つ無いっ……!!」

 

 

 

改めて千冬を観察して、相手の出方を伺っていた一夏だが、千冬の何の気ない姿勢には、全く隙が無いことに気づく。

しかも、間合いに入った瞬間からに、首が吹っ飛ぶという直感まで脳裏によぎった。

 

 

 

 

(やっぱりダメだ……っ! 付け入る隙は無い……っ、間合いに入った瞬間に、あの黒い狂刃の餌食だっ……!!?)

 

 

 

 

まっすぐ突っ込むか、それとも足元に倒れているラウラの救出が先か……?

あらゆる手を考えるが、何かしら行動すれば千冬が動く。

そうなると一気にこの形成は崩れ、何人犠牲なるかわからない。

そしてそれは、組織の長であるカタナもわかっていた。

 

 

 

「姫さん、逃げるぞっ……! ここは一時撤退だ……っ!」

 

「くっ……! あの女を目の前にして撤退だなんて、屈辱な事この上ないけどっ、仕方ないわね……!」

 

 

 

一夏が前に出ている間に、カタナが後方に下がる。

そして、後ろに控えていたメンバーに向けて、大声で叫んだ。

 

 

 

「総員撤退!! 急いでポイントDに向かってっ!」

 

 

 

白雪姫の言葉に、各班長たちは即座に指揮を執る。

シャル、カンザシの二人が率先して殿を務めて、他の隊員たちを逃がしていく。

その先には、退路を確保していたホウキとユコたちがいる。

相手が千冬一人ならば、なんとか押さえつけて逃げ延びれればそれでいい。

そう思っていたが……。

 

 

 

「逃がさんよーーーーーーッ!!!!!!」

 

「っーーーー????!!!!!!!!」

 

 

 

二回目の戦慄。

目の前にいたはずの『黒刃』が、いつのまにか白雪姫の眼前に迫ってきていたからだ。

 

 

 

「なっ?!!」

 

「標的を確認……任務を遂行する」

 

 

 

 

冷たく、落ち着いた声が聞こえ、黒刃は左腰に差していた日本刀の一つを掴み、勢いよく振り抜いた。

 

 

 

 

「カタナッ!!!」

 

 

 

ガキィンッーーーー!!!!!!

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

鈍い金属音と、鋼同士がぶつかり合った時に発生する火花が散る。

黒刃の放った斬撃は、間違いなく白雪姫の首を狙ったものだった。

しかし、白雪姫の首は落ちていない。

むしろその両手には、しっかりと宝槍が握られていた。

あの瞬間に、槍を構えて斬撃を防いだのだ。

 

 

 

「くっ!!?」

 

「お見事。初見で私の斬撃を受け切ったのは貴様が初めてだ、白雪姫……誇ってもいいぞ」

 

「くっ、このぉっ!!」

 

 

 

黒刃の剣気に当てられたのか、白雪姫は手にしている宝槍を振り回して、逆に黒刃へと攻撃を仕掛けた。

しかし、槍の穂先は黒刃には届かず、ほとんど躱されるか、ほとんど刀によって弾かれるかだ。

 

 

 

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

「ふむ……槍の扱いも悪くない……。姫という立場でありながら、どこでそれほどの腕を磨いたのか気になるな?」

 

「そんなの当然っ、この城の中でよっ!!」

 

 

 

槍を肩の高さまで上げて穂先をゆっくりと黒刃に向ける。

左手は柄に添えるように構える。

正しく、カタナが取る構えだった。

そこから槍を思いっきり回転させて、遠心力を付加した一撃を放つ。

本来ならば、その槍の一撃は強力なものになるはずだ……しかし、そんな一撃を、なんの苦もなく受け切るのが、千冬という人物だ。

脳天めがけて放った渾身の一撃に対して、千冬は左手にさらに一本日本刀を抜き取り、刀を交錯して受けた。

 

 

 

「チィッ!!?」

 

「ふははっ! 私に二本目を抜かせたかっ! 姫の分際でよくやるッ!」

 

「ガハァッ?!」

 

 

 

突然嗚咽を漏らすカタナ。

その原因は、カタナの腹部に千冬の強烈な蹴りが入っていたからだ。

カタナの体はくの字に曲がり、そのまま仰向けに倒れた。

なんとか頭をこらえている様だが、すぐには立ち上がれない。

しかしそんな悠長な時間を、千冬が与えるわけもなかった。

 

 

 

「終わりだっーーーー!!!」

 

「っーーーー!!!!??」

 

 

 

右手に握る黒い刃が、カタナの心臓目掛けて振り下ろされた。

カタナの目には恐怖が写り、全身が恐怖によって強張っていくのがわかった。

強張ってしまった体は、意図的に力を抜かない限り動かしにくい。

そしてもう、千冬の剣が、すぐ目の前にまで迫ってきていた。

 

 

 

「ぅうっ!!!!??」

 

 

 

 

死を覚悟し、両目を閉じた。

しかし、そんなカタナの耳に、鋼がぶつかり合う特有の金属音が響いた。

 

 

 

 

「ん…………ぁ……っ!?」

 

「………………ほう?」

 

 

 

 

カタナが驚いて目を見開いた先には、直刀で振り下ろされた黒刀を受け止める一夏の姿があった。

 

 

 

「い、一夏、くん…………?」

 

「立てッ!!」

 

「っ?!」

 

「立って走れッ! ここからすぐに脱出しろッ!」

 

「え、えっと……っ!」

 

「急げッ!!!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

一夏の言葉に、強張っていた体が一瞬にして解きほぐれた。

その後、一夏と千冬は幾度となく刃を合わせ、斬り結ぶ。

その隙にキヨカが倒れているラウラを確保し、部屋から離脱していく。

 

 

 

「一夏くんっ!!」

 

「先に行けっ!」

 

「えっ……?!」

 

「後で必ず追いつく! 先に行って待っていてくれ!」

 

「そ、そんなっ?! あなた一人じゃーーーー」

 

「大丈夫だっ!」

 

「っ…………」

 

 

 

相手はとてつもなく強い暗殺者。

いくら一夏が腕が立つと言っても、勝てるかどうかは怪しい……。

にも関わらず、加勢せずに逃げろと言う……このままでは……。

 

 

 

「ダ、ダメよっ! 死んじゃうっ!!」

 

 

胸が締め付けられそうな感覚に陥る。

何故なのか……どうして一夏を目の前にすると、そういう事が起きるのか?

彼が言うように、元の世界の自分は、彼の恋人だからか?

記憶が曖昧になっている今のカタナには、それがわからない。

だが、どうしても失って欲しくないと、心の底から思っている……。

 

 

 

「大丈夫だ……カタナ。俺を、信じろッーーーー!!!」

 

「ぁ…………」

 

 

 

どこからそんな自信を持ち上げて来ているのか……。

なんの根拠もありはしない……しかしどうしてか、とても安心してしまった……。

 

 

 

「わかったわ……必ず、戻ってきてっ……お願い」

 

「了解っ……!!」

 

 

 

 

それだけ聞いて、カタナ達は急いで城を出て行く。

その場に取り残されたのは、一夏と千冬、そして女王である真耶の三人だ。

 

 

 

「やれやれ、我が娘もすみに置けませんね……。男を拐かして仲間に引き入れていたなんて……」

 

 

 

 

そう言うのは、女王である真耶だった。

大体の物語などに出てくる王族の女性というものは、その美貌を武器に、才気ある貴族の子息や、他国の王子などと婚約を交わすもの。

ならば、白雪姫であるカタナが、男である一夏を誘惑し、仲間に誘ったところで、何もおかしくはない。

 

 

 

「それで? 我が娘はどうやってあなたを拐かしたんですか?」

 

「別に……? 彼女はこれと言って何かをしたわけじゃないよ……ただ、俺が惚れたってだけだよ」

 

「…………なるほど。あなたも白雪姫の美貌にやられたという口ですか……」

 

「んなわけねぇだろ」

 

「はい?」

 

「あんたと姫さんを一緒にするな。あんたは自分の美貌しか見ちゃいないが、彼女は人となりをしっかりと見ている……!

あんたの娘だなんて、本当に不幸としか言いようがないぜ……っ!!!」

 

「っ〜〜!!!?? 一度ならず二度までも……っ!! 何をやっているんですかっ、黒刃っ!!

さっさとそのものの首を刎ねなさいッ!!!!」

 

「了解……標的の追加を受諾、任務を更新する……っ!」

 

「っ……!!」

 

 

 

 

千冬がそう言い終えると、さらに殺気が増した。

両手に握る黒い刀が、一夏に向けられた。

 

 

 

 

「せいぜい楽しませろよ? 姫に仕える騎士殿?」

「さぁてね……楽しませれるかどうかはわかんないけど、負けるつもりは毛頭ないねっ……!」

 

「上等だ…………っ!!」

 

 

 

二人の剣気が凄まじいくらいに高まる。

その勢いに、女王が息を呑んだ。

そして、額から零れ落ちた汗つぶが、頬を伝わり、床に落ちた瞬間…………一夏と千冬は、剣気を一気に解き放った。

 

 

 

「行くぞッーーーー!!!!!!」

 

「来いッーーーー!!!!!!」

 

 

 

駆け出す両者。

そして激突する。

とてつもない衝撃と、金属音。

その衝撃によって、部屋の一部がひび割れてしまった。

隠して、最終戦へと向かう運命の歯車が、今動き出したのだった……。

 

 

 

 

 






次回は千冬との壮絶な斬り合いを書きたいと思っています。
そしてワールドパージ編を完結させて、数話くらい閑話を挟んで、京都編に行こうかと計画中です。
例のごとく、リアルが忙しいため、また亀更新になるかもしれませんが、よろしくお願いします!!


感想、よろしくお願いします!


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