ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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長らくお待たせしました( ̄▽ ̄)

みんなストーリーとか覚えてるかな?
ごめんなさい。
次はなるべく早く描きますので……




第106話 開眼

「行くぞっ!!」

 

「ああっ!!」

 

 

 

駆け出す二人。

両手に握る白銀と真紅の双剣。

そして片や鋼鉄のような大型の盾と輝かしいほどの長剣。

二人揃って、魔物に挑もうとするその姿は、まるで童話やある種の物語に出てくる勇者や騎士のようだった。

凍てつく大地を駆ける勇者と騎士は、左右へと別れて、挟撃するようだ。

 

 

 

「はあああぁぁぁッ!!!」

 

「フンッ!!!」

 

「ッーーーー!!!!!!」

 

 

 

渾身の一撃を放つ二人。

しかし、ヒースクリフの斬撃は、右手に持っていた《魔鉄》によって防がれ、キリトの斬撃は、左手に新たに生成した氷の剣によって防がれた。

ただの氷を剣状に生み出したわけではなく、まるで氷の彫刻のように、剣の刀身、柄、鍔、装飾といった部分に至るまで、細やかに形作られている。

その剣の姿は、ALOにて、ユージーン将軍の持つ魔剣《グラム》を彷彿とさせる姿だった。

氷の魔剣……言うならば、『アイスブリンカー』とでもいっておけばいいだろうか……。

 

 

 

「ちっ、武器の生成まで可能なのかよっ……! おっと……!」

 

「これは長期戦になるとこちらが不利だなっ……! 手早く済ませた方がいいだろう……っ!」

 

「わかっているさっ!」

 

 

 

シュタイナーが両剣を振り下ろす。

すると、まるで巨大な氷柱が地面から生えてくるように、そして津波のようにこちらに向かって襲ってくる。

 

 

 

「タンクッ!!!」

 

「ッ!!!!」

 

 

 

キリトの前にヒースクリフが出てくる。

左手に持つその大きな盾をしっかりと持って構える……やがて氷柱の衝撃が襲ってくるか、盾を持ったヒースクリフは、それを懸命に受け止める。

そして、攻撃が一瞬だけ止んだ瞬間……ヒースクリフの背後から、キリトが電光石火の如き勢いで、シュタイナーへと迫る。

 

 

 

「おおおおッ!!!」

 

 

 

両手に持つ双剣から繰り出される圧倒的なまでの手数の斬撃。

双剣の刀身、切っ先がシュタイナーの氷や鎧を斬り裂いていく。

 

 

 

「ギィヤアアアアーーーーッ!!!!!!」

 

「スイッチっ!」

 

「ッーーーー!!」

 

 

 

振り下ろしてくる《魔鉄》を、キリトは右手に持つ白銀の剣で弾く。

そして、その瞬間に、ヒースクリフが間合いに入った。

 

 

 

「おおおおッ!!!」

 

 

 

大きくガラ空きになっている腹部に向けて、盾の先端を思いっきりぶち込んだ。

体勢がよろける魔獣……そこにすかさず剣を振り下ろし、返しに薙ぎ払う。

盾と剣を交互に切り替えて、防御と攻撃を絶やすことなく繰り返すスキル。

鉄壁の防御は、なによりも強い武器になることを、その身で証明している……。

今にして思えば、それを可能にできるプレイヤーはおそらく、ヒースクリフただ一人だったのではないだろうか……。

チナツ、アスナとは全く違う戦闘スタイルであり、槍を使っていたカタナは、当然使えない。

ましてや、キリトも盾を持っての戦闘は、今まで一度もしてこなかった……。

その他には、壁役として優秀なプレイヤーもいただろう……しかし、ユニークスキル《神聖剣》を操れるのは、やはりヒースクリフしか居なかったのではないかと、今になって思う。

 

 

 

「全く、相変わらず硬すぎるぜ……!」

 

「君こそ、相変わらず素晴らしい反応速度だな……!」

 

 

互いの実力の高さは、その身をもって知っている。

キリトの高速の双剣と、ヒースクリフの鉄壁の防御……アインクラッドにおける最強クラスのプレイヤーである二人が、肩を揃えて戦っているのだ。

相手が誰であろうと、遅れを取るはずもない……。

 

 

 

「だが、奴はどうすれば倒せるんだ? ゲームの様にHPゲージがあるわけでじゃないぞ?」

 

「うーん……ゲームの世界なのに、ゲームの仕様が適用されてないか……。

やはり、私はこんな世界、好きになれないなぁ……」

 

「まぁ、たしかに……。変なところだけはゲームなんだよなぁ」

 

「だがまぁ、叩ける時に叩いておかないとね……相手はおそらくレイド級のボスだろうからね」

 

「強さ的には、クォーターポイントのボス並か?」

 

「だろうね……」

 

 

 

クォーターポイントとは、100層からなるアインクラッドの各フロアに出現していたフロアボス。

その中でも定期的に強さが増しているポイントのボスが、このクォーターポイントにいるボスだ。

第25層、第50層、第75層、そして第100層がそれに該当する。

第25層では、アインクラッド解放軍に所属していた攻略組プレイヤーが大勢死んで、一時は組織強化のために、前線には出られなかった。

第50層でも、熾烈を極めたという戦いの果てに、キリトがラストアタックボーナスとして、《エリュシデータ》を手に入れている。

第75層は、フロアボス『スカル・リーパー』の力に圧倒されつつも、なんとか倒しきった。

しかし、この終盤に来て、名だたる攻略組の高レベルプレイヤーが14人も死んだ。

そして、キリトがヒースクリフの正体を看破し、最後の決闘場所となったのも、この75層だった……。

そしてこのシュタイナーもまた、それらのボスモンスターと同じ存在……それをたった二人でやり合うのは、本来無謀と言われてもいいくらいなのだが……。

 

 

 

 

「ははっ……! なんでだろうなっ……こんな状況だって言うのに……っ」

 

「あぁ……。不謹慎かもしれないが……楽しいものだね……っ!」

 

 

 

 

敵だった存在……しかし、もっとも仮想世界について共有できた感情や価値観が多かった存在だ。

そんな二人がタッグを組んだのだ……楽しいと思わずにはいられない。

 

 

 

「グルル……!」

 

「っ……! これは、怒らせちゃったかな?」

 

「みたいだな……完全にキレられる前に、けりをつけなきゃな」

 

「よかろう。ツーマンセル……私が前衛で足止めする、斬り込めるかな?」

 

「誰に言ったんだ?」

 

「ふむ……失敬、無用の気遣いだったな。では、行こうか……!」

 

「おう!」

 

 

 

駆け出す二人。

シュタイナーが《魔鉄》を振るうと、無数の氷柱が飛び出してきた。

しかし、ただの氷柱では、ヒースクリフの盾を突き破ることなどできない。

 

 

 

「キリトくん!」

 

「おう!」

 

 

 

盾で氷柱を弾き飛ばすヒースクリフの脇を、高速で駆け抜けるキリト。

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 

 

シュタイナーが左手にもっている《アイスブリンガー》を振るい、再び氷柱をキリトに向けて放つが、キリトは自分に当たると思った氷柱だけを的確に斬り落としていく。

だが負けじと、シュタイナーは《魔鉄》も使って、二刀流状態で氷柱を放つ。

 

 

 

「チッ……!!」

 

 

 

シュタイナーまで残り1メートルという距離だが、それでも近づくのが困難を極める。

しかし、それでもキリトは進む。

飛来した氷柱が、キリトの体を掠めていく……。

掠めた所は、猛烈な痛みが襲うが、もはやそれに反応することすら、キリトはしなくなっていた。

 

 

 

(紙一重でいいっ……!! 少しでも前へッ!)

 

 

 

感覚が研ぎ澄まされていく。

飛来してくる氷柱を、両手に握る聖剣二本で斬り裂く。

そしてついに、間合いに入った。

 

 

 

「セヤアァァッ!!!」

 

「グっ?!!」

 

 

 

間合い入った瞬間に、キリトはシュタイナーの顎めがけて前蹴りを繰り出す。

勢いに乗った状態から、剣ではなくフェイントで足技。

それも、体術スキル《弦月》を真似て放ったのだ。

シュタイナーは寸でのところで躱すが、完全に躱しきれたわけではなかった。

顎に伝わる衝撃……微々たるものだが、それでも隙はできた。

 

 

 

「スイッチ!」

 

「おおおおっ!!!」

 

 

 

キリトの声が届く前に、すでにヒースクリフは間合いに入っていた。

右手に持っていた白い十字剣が閃く。

剣と盾……それらを巧みに扱い、ヒースクリフの攻撃がシュタイナーの腹部を直撃する。

 

 

 

「グウアッ?!」

 

「まだまだぁッ!」

 

 

しかし、まだ終わらない。

野獣のような攻めを見せるキリト。

シュタイナーの纏う氷を粉砕するように、両手に持つ聖剣から繰り出される怒濤の剣撃に、今度こそ決まったと思った。

しかし、キリトの繰り出す剣撃を、シュタイナーは《魔鉄》と《アイスブリンガー》で要所要所を凌いでいく。

ダメージ自体は与えているものの、決定打にはなっていなかった。

そして、シュタイナーは背中に生えている氷の翼を大きく広がると、そのまま宙に浮かび上がり、口を大きく開ける。

すると、口の前で氷と、どこから現れたのか不明な謎のエネルギーを収束させていく。

 

 

 

「まずい!」

 

「キリトくん! こちらにっ!」

 

「っーー!!!」

 

 

 

嫌な予感がした。

しかし、一歩遅かった。

 

 

 

「ッーーーー!!!!!!!!」

 

 

 

まるで大出力のレーザー砲でも撃ったのかと疑いたくなるような轟音が響いた。

そして、キリトが急いでヒースクリフの後ろに回った瞬間……シュタイナーの口から発せられた氷のブレス攻撃が地上に着弾。

その勢いは、しっかりと地盤に足をつけ、防御体勢をとっていたヒースクリフとキリトの二人を、軽々しく吹き飛ばしてしまうほどの威力たった。

着弾した部分は瞬時に凍りつき、またパキィ! と音を立てると、《アニール・ブレード》と同じように、バキバキに壊れてしまった。

 

 

 

 

「ぐうっ……ぉお……っ」

 

「ぬぅっ…………」

 

 

 

とんでもない衝撃と光の爆発。

二人は苦悶の表情を浮かべながら、その場に立ち上がる。

だが、キリトの視界には、とんでもない光景が写っていた。

 

 

 

「っ!? ヒースクリフっ、お前、盾が……っ!!」

 

「あぁ……全く、恐れ入ったよ。君でも突破できなかったはずの、私の盾だったんだがね……」

 

 

 

ヒースクリフの持つ鉄壁の盾。

それが、ヒースクリフを象徴する存在だった。

しかし今は、あの重厚な十字盾の姿は見る影もなく、ただのバックラー並みの大きさの盾になっていた。

あのブレスか直撃していたら、もはやヒースクリフとキリトの体は、粉々になって消えていただろう。

 

 

「そんな……!」

 

「心配ない。まだ行ける……!」

 

「だが、お前の盾はもうっ……!」

 

「心配いらないよっ……! タワーシールドがバックラーシールドに変わっただけだ。

私とて、これを使う前は普通にこれくらいの盾を使って戦ってきたんだよ?」

 

 

 

 

ヒースクリフの表情から発するに、そのことは事実なのだろうが、《神聖剣》の本領を発揮できるとしたら、やはり盾は重要だ。

もはや見る影もなくなってしまった “残骸” とも呼べるような盾では、キリトはおろか、自分を守るのにも苦労するはずだ。

 

 

 

「それよりも、空を飛ぶ相手にどう戦うかね?」

 

「なんとか跳んで、剣を届かせるしかないだろうさ……」

 

「しかし、我々はソードスキルが使えないのだよ? 君が得意としていた《空中ソードスキル》は使えないと思うが?」

 

「っ……今の俺たちのステータスは、SAOの時と同じくらいだとは思うが、流石にソードスキルの様に直線的な攻撃は望めないな……」

 

「建物によじ登って行くしかないな」

 

「あぁ、もう前衛後衛のスタイルは無理だし、挟撃でいくか?」

 

「あぁ……。私は右から、君は左から頼む」

 

「了解だ」

 

 

 

状況を瞬時に把握して、的確な判断をする……。

ボス攻略の際の基本戦術だ。

そして二人は迷いなく動き出す。

ヒースクリフは自分から見て右の方に見える建物の方へと駆け出し、キリトは残っていたわずかな建物の間を通り過ぎて、シュタイナーの眼前から姿を消す。

すると当然、シュタイナーはまず見えているヒースクリフの方へと攻撃を開始する。

ブレス攻撃は、ある程度のインターバルが必要なのか、先ほどの様に攻撃を仕掛けてこない。

代わりに、また《魔鉄》と《アイスブリンガー》の二本を振るい、氷柱の弾丸を射出する。

 

 

「くっ、キリトくんはよくこんな雨あられの中を掻い潜ったなっ……!」

 

 

 

全てを躱しきるのは無理だとは思っていたので、ある程度の被弾は覚悟していた。

しかし、それでも相手の注意を引きつけられたのなら、こちらとしては最低限の仕事はこなしたと言える。

 

 

 

「キリトくん!!」

 

 

 

ヒースクリフが叫んだ。

そして、シュタイナーが完全にヒースクリフに集中砲火している後ろで、超高速で駆け抜けて、建物を登りきり、シュタイナーの背中へとハイジャンプをするキリトの姿が、ヒースクリフの瞳に映った。

 

 

 

「はああああッ!!!!」

 

 

 

背後からの奇襲。

両手に握る聖剣を思いっきり振り下ろして、シュタイナーの背中を斬りつける。

シュタイナーは激痛に表情を歪めて、奇声とも言える様な咆哮をあげる。

 

 

 

「くそっ、浅かったかっ?!」

 

「キリトくん!」

 

 

 

 

再び上空へと飛び立つシュタイナー。

キリトの攻撃によって、若干バランスを崩したものの、完全に決まり切っていなかった。

背中に傷を負わせることには成功したが、それでは足りない。

しかも、シュタイナーはさらに上昇し、キリトへと突撃しようとしている。

未だに宙から地上に向けて落ちていっている状態のキリトでは、躱すのは難しいだろう。

そう思っていた瞬間だった……。シュタイナーは先ほどのキリトと同じように、《魔鉄》と《アイスブリンガー》を頭上へと振りかぶって、斬り下ろそうするが、一瞬……本当に、一瞬瞬きをするのと同じ速さで、シュタイナーの頭上から光が落ちてきた。

 

 

 

「い、やあああああッーーーー!!!!」

 

 

 

生死を分けるような緊迫した戦場に響く、少女の声。

そしてそこから流れる光は、いま感じている絶望を斬り裂く刃にも思えた。

少女の発する気迫のこもった声とともに、少女の右手に持っていた細剣の切っ先が、シュタイナーの胴体を捉えたのだ。

 

 

 

「■■■■■■ッーーーーー!!!!!!!!」

 

「せえやああああッ!!!!」

 

 

 

背中を串刺しにされた形で、シュタイナーは地面に墜落した。

その後に続くように、キリトは地面へと着地して、一旦その場を離れる。

しかし、気がかりなことがあった。

先ほどの少女の声……キリトにとっては絶対に忘れられない声だ。

 

 

 

「今のは……っ?!」

 

 

 

シュタイナーが墜落した地点からは、もうもうと土煙が上がり、地面には亀裂が入っていた。

それほど威力のある攻撃を直に、それも背後から打たれたと言うことになる。

地面に降り立っていたキリトは、シュタイナーの落下地点を凝視した。

すると、その地点から発せられた光が一つ……。

街並みに降り注ぐ雪と、そこをわずかに吹き抜ける風……。

風が土煙を振り払い、降り注ぐ雪が、まるで絵画のような光景を演出してくれる。

 

 

 

「ぁ……あ……」

 

 

 

 

地面へと縫い付けられるシュタイナー。

そしてその上に立っていたのは、キリトのよく知る少女。

栗色の長い髪が風によって靡いて、シュタイナーの体から引き抜いた細剣が一瞬、まばゆい光を放つ。

 

 

 

「ア……スナ……?」

 

「っ…………!!!!」

 

 

身にまとっていたバトルドレスは、ALOのウンディーネとしてのアスナの衣装。

しかし、髪色や耳の形は、現実の世界と同じなため、少し違和感を感じるのだか、本人はそんなことを一切気にしていないのか、キリトの声を聞いた瞬間、ハッとなったようで、シュタイナーから飛び降り、すぐさまキリトの方へと駆け寄ってきた。

 

 

 

 

「キリトくんッ!」

 

「アスナッ……!」

 

 

 

駆け寄ってくる少女、恋人であるアスナを、キリトはギュッと抱きしめた。

 

 

 

「キリトくんッ! キリトくんっ……よかったぁ……ちゃんとっ、ちゃんと生きてるよねっ……?!」

 

「あぁ……大丈夫だよ。俺は、ちゃんと生きて、ここにいるよ、アスナ……!」

 

「キリトくんっ…………!!」

 

 

 

 

互いの体から熱が伝わってきた。

アスナは涙を流し、キリトの体をギュッと抱きしめて、一向に離さない。

それはまたキリトも同様で、アスナの体を離すまいと、アスナの体を必死に抱きしめていた。

そんな二人だけの空間が広がりつつある中で、そろそろ限界になったのか、この男が現れた。

 

 

 

「いやはや、見ているこちらの方が恥ずかしくなるよ……。相変わらず仲がよろしくて何よりだよ」

 

「「ッッ!!!!???」」

 

 

 

ヒースクリフだった。

空気を読もうとも考えただろうが、流石にこのままというわけにはいかないと思ったのだろう……。

ましてや緊迫したシリアス場面なのに、こんな熱愛、純愛、相思相愛なラブラブ空間に浸っている時間はないのだから……。

 

 

 

「だ、だだっ、団長っ?!! い、いいいいつからそこにっ!?」

 

「だいぶ前からずっといるんだがね……。前々から思ってはいたが、アスナくんは集中しすぎると、急に周りがみえなくなるからね……まぁ、大事な恋人が危険に晒されているのを見たら、そうなるのも仕方がないとは思うが……」

 

「ッッ〜〜〜〜???!!!?!!?」

 

 

 

ボフッ……と、アスナの頭のあたりが蒸発したようにも思えた。

見ればアスナの顔は赤く熟れたトマトのように赤かった。

キリトはキリトで、頬を赤らめながら、ポリポリと人差し指で頬を掻いている。

 

 

 

 

「それにしても、どうしてここに? アスナは京都にいたんじゃなかったのか?」

 

「うん……ちょうど実家に居たんだけど、ユイちゃんが連絡してきてくれて……。

キリトくんとカタナちゃんが危ないって言うから、ISで京都から超特急で帰ってきちゃった……!」

 

「…………ず、随分と強行軍をしたんだな……」

 

 

 

 

本来ならば、ISの無断使用として、国際IS委員会に怒られるところなのだが、緊急事態という事で、後々事情説明をしなくてはならないだろう。

 

 

 

「それで、一体これはどう言うこと? ここって、アインクラッドの中なの?

なんかこの風景の階層、あったような気がしたんだけど……」

 

 

 

アスナの言う通り、今キリト達がいるのは、アインクラッド第49層《ミュージエン》の市街区。

しかし、ここは正確にはアインクラッドの中ではない。

それを模倣した世界だ。

そういえばと、キリトは辺りを改めて見回した。

ここに来た時には、街中にジングルベルが流れていたが、それがいつの間にか聞こえなくなっており、周りの照明なども、街を散々破壊したからか、少し薄暗くなっている気がする。

そんな風に思っていた時、不意に真正面から強烈な吹雪が吹き荒れた。

 

 

 

「くっ?!」

 

「きゃっ?!」

 

「っ……!!」

 

 

 

吹雪に体が飛ばされそうになるが、キリト、アスナ、ヒースクリフはなんとか脚を地にしっかりとつけて踏ん張り、飛ばされないようにした。

そして、一通り吹き荒れた吹雪が止み、次第に視界が開けてくる。

そこで三人は改めて見直した……。

今から戦わなくてはいけない敵を……。

背中から生えた氷の翼は、片翼が完全に潰されていた。

おそらく、先ほどのアスナの一撃によって粉砕されたのだろう。

しかし、その攻撃を受けた影響なんて関係ないと言わんばかりに、シュタイナーはその場にゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「キリトくん……あれはっ、なに……っ?」

 

「あれは……」

 

 

 

少女のような姿をした体だが、その目は血走っているかのように紅く、こちらを呪い殺すのではないかと思いたくなるほど鋭い眼光で凝視していた。

体を覆う氷は、自分の身を守るためのものではなく、外敵を完全に殺しきるためのものだと、アスナは瞬時に理解した。

しかし、目の前にいる少女の姿をした敵に対して、キリトの表情が曇っているのもアスナは見逃さなかった。

 

 

 

「キリトくん……あの女の子の事……知ってるの?」

 

「…………ぁぁ……」

 

「一体……誰なの……?」

 

「っ…………」

 

 

 

キリトと関係のある事例のようだが、キリトはそれを聞かれると、さらに唇を噛みしめるように顔が強張る。

聞いてはいけない事だっただろうかと、アスナも一瞬躊躇した……が、キリトはその口を開いて、アスナの問いに答えた。

 

 

 

「あれはシュタイナーって名乗っていたけど……あの女の子の方は、サチって言うんだ……」

 

「サチ…………」

 

「かつて、俺が助けられなかった女の子だよ」

 

「っ…………」

 

 

 

名前を聞いた瞬間、アスナの脳裏に過去の出来事が蘇った。

それでこそ、キリトが初めて公の場で、ヒースクリフと決闘した日の事だった。

ヒースクリフを相手に戦い、結果負けてしまったキリトは、そのまま血盟騎士団に入団することになった。

そんな折、アスナはキリトに尋ねた……。

どうして、ソロでの活動を続けてきたのか……仲間が足手まといだと言った彼……しかしそれは、彼なりの配慮と、優しさが含まれた言い回しだ。

彼の行く道は最前線。

つまり、パートナーとなるもの達は、常に危険と隣り合わせとなる。

SAOでの死は、現実世界でも本当の死を意味するものだ。

だからこそキリトは、そんな危険に巻き込まないように、パートナーと組むことはしないと思っていた。

しかし、現実は違っていた。

あるギルドに一時的に参加していたことがあり、そこのリーダーと、キリトを除いたメンバー全員が死亡した。

そして、リーダーも後を追うようにして自殺したことから、そのギルドのメンバー全員を殺したのは、自分だと思った。

そして、そのメンバーの中には、サチという名前の少女がいたはず……。

アスナは再び、目の前のシュタイナーに視線を向けた。

意味はもう変わり果てた姿になってはいるものの、そのサチの姿をした化物が、自分の命を狙ってきてあると思うと、自身の心を抉られているような感覚に陥る。

 

 

 

「あの子が……そうなの? キリトくん……」

 

「違う……」

 

「え?」

 

「違う……。アレは、サチなんかじゃない……! 断じてっ、サチは、あんな姿なんかしていないっ!

断じてっ……こんな事をするような子じゃないんだ……!」

 

「キリトくん……」

 

 

聖剣を握る手が、強く引き締められた。

顔の表情も強張り、目の前にいるシュタイナーを睨みつける。

その敵意の視線に気づいたのか、もはや鎧武者なのか、モンスターなのか見分けがつかないような造形になってしまったシュタイナーが、およそ人間のものとは思えない咆哮をあげる。

 

 

 

「■■■■■■■■ッーーーーーー!!!!!!」

 

「「っ??!!」」

 

 

 

その咆哮だけで、身がすくむような感覚に陥るアスナ。

しかし、隣に立つキリトは、それでも立ち向かわんとする姿勢を見せた。

その姿を見てか、アスナも不思議と立ち上がれるような気がした。

 

 

 

「さて二人とも……どうするね?」

 

「とにかく、この世界から早く脱出したいが、どこかにコンソールのようなものが存在するのか?」

 

「私が見た限りでは、発見できなかったが……?」

 

「そもそもあのシュタイナーっていう奴は、倒せるの? HPゲージもなければ、私の攻撃が効いたような素振りさえ見せてないよ?」

 

「だが、倒さなきゃならないのは確かだと思う……。これ以上、サチの姿であんな暴挙を許してはおけない……っ!」

 

「キリトくん……」

 

 

 

心配そうに見つめるアスナ。

しかし、すぐに気を取り直して、目の前を向く。

手に持つ《レイグレイス》を強く握り、その切っ先をシュタイナーに向ける。

 

 

 

「まぁ、兎にも角にも、まずは目の前のあの敵を倒すの先決なのではないかな?」

 

 

 

ヒースクリフの冷静な言葉に、キリトとアスナは頷いた。

 

 

 

「そうだな……」

 

「うん……今のこの状況で考えたら、それしかないと思う……」

 

「ならば決まりだな……。キリトくんとアスナくんで斬り込んでくれ。私はバックアップに回ろう」

 

「了解した」

 

 

 

 

正直、ヒースクリフの盾には、もう少し頑張って貰いたかったのだが、あれこれ言っていても仕方がない。

三人は改めて構えた。

そして、シュタイナーもまた、臨戦態勢をとっていた。

静かになった街並みの中心で、三人と一体の殺気、闘気、剣気……ありとあらゆるものがぶつかり合う。

そして、両者との間に落ちた割と大きな雪が、地面に触れた瞬間に、キリトとシュタイナーが動いた。

 

 

 

「■■■■ッ!!!!!!」

 

「せぇやあぁぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

 

 

右手に握る聖剣と《魔鉄》がぶつかり合う。

シュタイナーはすぐに左手の《アイスブリンガー》を、キリトの胴めがけて薙ぎ払おうとするが、その氷刃を討ち払う剣が見えた。

 

 

 

「やらせないッ!」

 

 

 

キリトから一拍遅れでやってきていたアスナ。

振るわれた《アイスブリンガー》をうまく力を加えて逸らした。

そしてそのアスナの後ろからやってくる紅騎士。

突き出した剣の切っ先が、シュタイナーの左肩を貫いた。

 

 

 

「■■■■■■ッーーーー!!!??!??」

 

 

 

激痛にのたうちまわっているのか、奇声とも取れる声を上げる。

しかし…………。

 

 

 

「ぬうっ?!」

 

 

 

ヒースクリフの表情が強張った。

なぜなら、左肩を貫いたヒースクリフの剣に、シュタイナーの氷がまとわりついてきたからだ。

やがて凄い勢いで剣を取り込もうとする氷。

一瞬戸惑いはしたが、ヒースクリフはすぐにその手を離す。

すると、斬り込んで行ったキリトを払いのけた《魔鉄》の狂刃が、ヒースクリフに迫ろうとしていた。

しかしまたしても、アスナの《レイグレイス》が割って入り、剣の軌道をうまく変えた。

 

 

 

「団長っ、大丈夫ですか?!」

 

「あぁ、すまない。助かったよアスナくん」

 

「団長はそのままここにいてください! 私、キリトくんを手伝ってきます!」

 

「よせっ、アスナくん! 君たちの攻撃も取り込まれるぞ!」

 

 

 

ヒースクリフの制止は聞かず、アスナは今もなお斬り合っているキリトの元へと駆け出した。

キリトとシュタイナーは、再び二刀同士で激しく斬り合っている。

しかし、シュタイナーはキリトの体よりも大柄な姿を取っているにもかかわらず、キリトの攻撃よりも素早い動きを見せ、キリトの剣撃を交わしている。

 

 

 

「キリトくん、避けてっ!」

 

「っ!?」

 

 

アスナの声が響き、キリトは即座に行動に出た。

振り降ろされる《魔鉄》の斬撃を受け流して、地面に縫い付ける。

 

 

 

「スイッチ!!」

 

「やあああぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

 

 

 

助走をつけて思いっきり走ってくるアスナ。

そしてそのまま放つ剣技は、ライトエフェクトこそ纏っていないが、細剣の最上位のソードスキルである《フラッシング・ペネトレイター》だ。

片手剣スキルの《ヴォーパル・ストライク》同様に、剣による単発刺突攻撃のスキルであるが、おそらく攻撃に加わる破壊力は、《フラッシング・ペネトレイター》の方が上だろう。

音速の壁を超えて、アスナの放った攻撃が、シュタイナーの胸部へと突き刺さる。

氷が砕ける音。

また、着込んでいた鎧だろうか? それらが弾けるような金属音もなり、その衝撃が地面や空気を伝って波のように押し寄せてくる。

 

 

 

 

「なっ?!」

 

「そんな……っ?!」

 

 

 

 

しかし、キリトとアスナの表情が驚愕を示した。

なぜなら、寸でのところで、《レイグレイス》の切っ先が届いていなかったのだ。

対集団戦においても、驚異的な破壊力を見せるくらいの速度で放った最上位スキルでも、シュタイナーを倒し得なかった。

そのことに、キリトはもちろん、放った本人であるアスナも驚きを隠せない。

しかし、そんな暇すら与えないつもりか、シュタイナーはアスナの腹部めがけて、強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

「がふっ……!!!??」

 

 

 

あまりの衝撃に、一瞬意識が飛びそうになった。

しかしその数秒後には、アスナの体は地面へと叩きつけられる。

蹴られた衝撃と地面に激突した衝撃……二つの衝撃をその身に受けて、アスナは苦悶の表情を見せながら、その場で動けなくなった。

 

 

 

「ぅっ……! ぁあぅ…………はぁっ……はぁっ……」

 

「アスナっ!! 貴様ああああッ!!!!」

 

 

 

アスナにされた仕打ちに、キリトは激昂した。

その手に握る聖剣を惜しみもなく振るい続ける。

一切の手加減も、一切の躊躇も、一切の油断も何も無い。

ただただ、相手を切り刻もうと双剣を振るうキリト……しかし、何度目かの斬撃を入れた瞬間、左手に持っていた真紅の聖剣の刀身が、キリトの攻撃に耐えられなかったのか、中間の部分でポッキリ折れてしまった。

 

 

 

「っ?! クソオォォォッ!!!!!!」

 

 

左手に持っていた刃折れた剣を、キリトはシュタイナーに向けて投げつける。

シュタイナーはこれを《アイスブリンガー》で弾き返し、接近するキリトに対して、《魔鉄》を振り下ろした。

すると《魔鉄》の刀身から、強烈な猛吹雪が吹き荒れる。

当然接近してきていたキリトに、これを躱す術はなく、まともに吹雪をその身に喰らって、キリトは建物の壁にまで吹き飛ばされた。

 

 

 

「ガハッ!!??」

 

 

 

壁に強く打ち付けられたキリトも、その場に膝をついた状態で動けなくなった。

そして、さらに追い打ちをかけるように、シュタイナーがキリトに肉薄する。

 

 

 

「キっ、リトくんっ……! にげっ、て!!」

 

「はっ!?」

 

 

 

アスナの悲痛な叫び声を聞いたキリト。

視線をシュタイナーの方へと向けたが、既に遅かった。

突き出された《魔鉄》の切っ先が、まっすぐキリトへ向けて放たれた。

回避不可能……もうダメだと、キリト自身そう思った……だが。

 

 

「ぐうっ!!!?」

 

「ぁ…………」

 

 

 

 

貫かれると思った瞬間、キリトの前に、人影が割り込んできた。

その影を見た瞬間、キリトとアスナ、二人が目を見張った。

 

 

 

「ヒ、ヒース、クリフ……!?」

 

「ぐふっ……はは……自分を盾に、なんて発想……昔の私には考えつかなかったんだがなぁ……」

 

「ヒースクリフ!」

 

「ぬうあああああッ!!!!」

 

 

 

ヒースクリフの胴体に、深々と突き刺さっている《魔鉄》。

しかし、ヒースクリフは逆にその《魔鉄》の刀身を強く握ると、さっきやられたことへの仕返しなのか、シュタイナーを逃すまいと必死に離さないように力を入れる。

そして、渾身の力を振り絞り、体術スキルでもある《エンブレイザー》を放った。

ヒースクリフの放った《エンブレイザー》は、シュタイナーの右肘あたりに炸裂し、右肘から腕の先を貫いた。

 

 

 

「■■■■■ッーーーー!!!?!!?!?!」

 

 

 

あまりの激痛に、シュタイナーも奇声を発しているのか……。

右手に持っていた《魔鉄》を離して、一旦ヒースクリフから距離をとった。

 

 

 

「おいっ、ヒースクリフ!! 大丈夫かっ?!」

 

「あぁ……なんとかね。急所は避けていたから、なんとも無いが、もうそれ以上は動きたくないね……」

 

「バカなこと言うなよっ……! そのままじっとしていろ……!」

 

 

 

体のバランスを崩し、その場に尻餅を着こうとしていたヒースクリフの体を、キリトは瞬時に抱きとめた。

そのまま地面へと座らせて、腹部に刺さっている《魔鉄》を見る。

 

 

「抜いた方がいいか?」

 

「いや、よそう……。このまま引き抜いて、またこれが奴の手に戻っても厄介だ。

これは私がこのまま持っていくことにするよ……」

 

「持って行くって……っ、一体何を言ってるんだ……?!」

 

「すまないがキリトくん……私がこの仮想世界にいられる時間にも、限りがあったみたいでね」

 

「お、おい!?」

 

 

 

まるで遺言でも言いだすのではないか思った矢先、ヒースクリフの体が、薄くなっていくのを確認した。

 

 

 

「心配することはない……死ぬわけではないのだ。ただ、この空間から除外されるだけだよ」

 

「しかしっ……」

 

「だが、時間がないのも確かだ。君に、渡しておかなくてはならないものがある……」

 

「渡すもの?」

 

 

 

すると突然、ヒースクリフは自身の右腕を上げ始めて、人差し指をキリトの額へと当てた。

 

 

 

「な、なんだよ……?」

 

「こういうのは本来、フェアではないからね……私はあまり好ましくはないんだが、まぁ良いだろう……。

これを君に託す。これを使いこなせるかどうかは、君次第だ……」

 

「だ、だからなんなんだよっ?!」

 

「これは、本来チナツくんに渡そうとしていた物だが、彼は自力でそれを身につけた。

だからこそ、同じ条件を満たしている君に託すんだよ……」

 

「チナツに……? 同じ条件だと?」

 

「君は、仲間が傷つくくらいならば、自分が傷ついた方がマシだと考える……そうだろう?」

 

「………………」

 

「だが、それは間違いだ。昔ならばいざ知らず、今の君は、そんな事をしてはならない存在になった……」

 

「何を……」

 

「そしてそれは、チナツくんも同じだ。だからこそ君たちにこの “ユニークスキル” を渡そうと思っていたんだが、実際には違うスキルで、私の元へと至ったからね……」

 

「ユニークスキルっ?!」

 

「そうだ……これは本来したくないが、今扱えそうなのは君くらいだからね……だから託すよ」

 

「あんた……」

 

「頼んだよ、キリトくん。君は仮想世界を愛してくれている……僕と同じ想いを持ってくれていると感じたからこそ……君に託すんだ……!」

 

 

 

突如として、ヒースクリフの右手人差し指が光り始めた。

そして、何かわからないが、キリトの体の中に、何かが入ってくるような感覚を確認した。

 

 

 

「ふむ……ちゃんと受け渡しはできたね……それじゃあ、あとは頼むよ……『黒の剣士』」

 

「っ…………!!!!」

 

 

 

それだけ言い残して、ヒースクリフの体は、ポリゴン粒子になってその場から消えていった。

 

 

「………………」

 

 

その場に残されたキリトは、ただじっと目を閉じて、右手に残っていた彼の剣を強く握りしめた。

 

 

「ヒースクリフ……いや、茅場……あんたの作った世界は、憎しみもあった…………だけど、それだけじゃなかったんだ……あの世界がなければ、俺はアスナやチナツ達に出会っていなかった……!

スグとやり直すことも出来なかった…………たくさんの仲間と、出会うこともなかった……だからっ……!」

 

 

 

キリトはまた改めて立ち上がる。

 

 

 

「守ってみせるっ……アスナも、この世界も……ッ!!!!」

 

 

 

見開いたその両眼には、キラリと輝く水色の光があった。

一方、右腕に損傷を受けたシュタイナーは、所構わずに暴れまわっていた。

地団駄を踏み、左手に持つ《アイスブリンガー》を振るい、放った氷柱が、家屋や地面をえぐる。

 

 

 

「くっ……早く、ここから逃げないと……!!」

 

 

 

アスナはまだ、苦悶な表情をしていたが、なんとか立ち上がり、その場を離れようとする。

しかし、その動作をみたシュタイナーが、再びアスナに襲いかかろうとしていた。

本来ならば、アスナも躱すか、迎撃できるはずだが、まだシュタイナーから受けたダメージが残っていたため、その動きは鈍い。

 

 

 

「■■■■■ッーーーー!!!!!!!!」

 

「くぅっ………………!!!!!」

 

 

 

斬られる事を覚悟した。

しかし、そこに一陣の風が吹き抜けた。

 

 

「えっ…………」

 

「………………」

 

 

 

怖くて瞑っていた目を、恐る恐る開けるアスナ。

すると、どうしたわけか、アスナの体をお姫様抱っこするキリトの姿が、目の前に広がっていた。

 

 

 

「え? え、あぁ、えっと……どうして……??!」

 

「ふふっ……」

 

 

何が起こったのか、わからないと言った表情のアスナに、キリトが優しく声をかける。

 

 

「アスナ……心配かけて悪かったな」

 

「キリト……くん?」

 

「だが、もう心配しなくていい……後は、俺に任せてくれ……!」

 

「っ…………!!!」

 

 

 

優しく言い放ったその言葉。

そしてその表情は、以前ALOの《イグドラシル》の上で妖精王オベイロンを名乗っていた須郷 伸之に犯されそうになった時に助けに来たキリトと同じものだった。

そう認識した瞬間、アスナの体は自然と力が抜けていき、キリトに全てを託すように預ける。

 

 

 

「気をつけて……」

 

「ああ……!!」

 

 

 

アスナを近くの建物の横に座らせて、アスナの持っていた《レイグレイス》を左手に受け取る。

そして、改めてシュタイナーと対峙したキリト。

もう、その目に迷いの様なものは一切ない。

眼前の敵であるシュタイナーを倒さんと言わんばかりの闘気を纏って、キリトらシュタイナーに近づいていく。

 

 

 

「■■■■ッ!!!!」

 

 

 

シュタイナーは左の《アイスブリンガー》を振り抜く。

すると、またしても氷柱を発生させて、それをキリトに向かって勢いよく放った。

氷柱が地面や壁に打ち付けられ、砕けた氷の粒ともくもくと立ち込める土煙が、キリトの姿を覆い尽くした。

何発かはキリトにも直撃しているはず……そう思ったのであろうシュタイナーは、攻撃せずに、その場に立ち尽くした。

しかし、次の瞬間、煙から現れる人影を確認する。

 

 

 

「っ?!!」

 

「………………」

 

 

 

煙から出てきた人影……それは何を隠そう、キリトだった。

しかも、ほぼ無傷の状態で、今もなお歩いて来ている。

 

 

 

「■■■■ッーーーー!!!!」

 

 

 

シュタイナーが叫び、再び《アイスブリンガー》を振るい、氷柱を放つ。

しかし、そのことごとくが、キリトの持つ双剣によって斬り払われ、その場で無残にも転がり落ちる。

 

 

 

「悪いが、もうお前の攻撃は、俺には届かないぜ……?」

 

「っ…………!!!!」

 

 

 

薄っすらと開けるキリトの眼。

そしてそこには、キラリと輝く水色の光りが写っていた。

 

 

 

「まさかこんなものまで作っていたとはな……ヒースクリフ……」

 

 

 

ヒースクリフの残していったユニークスキル。

それは……

 

 

 

「《天眼通》……開眼……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回でキリトの方を終わりにして、再度チナツとカタナの方に戻りたいと思います!

それが終われば、ワールドパージ編は終了し、ちょっと閑話に入って、また本編を進めるって形にしたいなぁと思っております。


では、また!
感想よろしくお願いします!!


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