ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりの更新っ‼








第10話 白い侍と赤き龍

「はあぁぁぁぁッ‼」

 

「うおぉぉぉぉッ‼」

 

 

 

二つの刃がぶつかり合い、激しい火花が空に散っていた。

 

 

今現在。クラス代表対抗戦の第一回戦。

対戦表の発表から大波乱が予想されたこの組み合わせカード。専用機同士による激しいバトルが繰り広げられていた。

片や大型の青龍刀〈双天牙月〉を振るう、中国代表候補生の凰 鈴音。

片や純白の日本刀〈雪華楼〉を振るう、世界初の男性操縦者の織斑 一夏。

白い侍と赤い龍との戦いが行われていた。

 

 

 

 

「うりゃうりゃうりゃッ‼」

 

「ふっ、くうっ! おっと!?」

 

「チィッ、ちょこまかと逃げんじゃないわよッ‼」

 

「そいつは無理な相談だ…なッ‼」

 

 

 

パワーと燃費の良さで押し切る鈴に対し、冷静に攻撃を見極めて躱し、反撃に移る一夏、

スピードでは一夏の方に分があるが、鈴も懐に入らせまいと常に警戒している。

 

 

 

「あーんもうッ‼ 避けるなッ! 当たれぇぇぇぇッ‼」

 

 

 

大振りに双天牙月を振りまくる鈴。

だが、そんな事で一夏に剣戟が当たる事はない。

一夏はただジッと鈴を、鈴の全体の動きを見ている。

そして、一時鍔迫り合いになり、また離れて間合いを図る。

 

 

「凄いな……たったの一年で代表候補生になって、専用機をもらって、ここまでの腕とは……」

 

「何よッ!? 嫌味?! あんたの方が凄すぎてあり得ないわよッ‼」

 

「何がだ?」

 

「あんた、本当にIS動かすの最近の話なんでしょうね? その割りには、動きがあり得なさ過ぎなのよッ‼」

 

「まぁ、ALOでも空中戦闘はあるからなぁ……。もっと言えば、地上戦の方が得意だけど。

あと、強いて言うならSAOでの経験と、その時の動きが出来るのが、一番だけどな」

 

「SAOの動き?」

 

 

 

鈴は頭を捻る。このIS戦闘にSAOの動きが関係しているのか、疑問に思ったからだ。

その疑問に答えたのは、言うまでもない。一夏だ。

 

 

 

「俺の専用機、白式はナーヴギア内部に搭載されていたローカルメモリーを組み込んだ事によって、SAO時代のステータス、それからスキルを完全に再現されているんだ……。

だから、この姿はSAO時代の俺……白の抜刀斎 チナツだと思ってくれてもいい……」

 

「なっ!?」

 

 

一夏の解説に、鈴は驚いた。

ゲーム世界の事がISで実現可能にしている事もそうだが、それを今だに使用している一夏に対しても驚きを隠せていなかった。

 

 

 

「あんた……自分が死ぬ思いをしたって言うのに、何でそんなもんまで使えるのよッ‼

あんたは一体、何を考えてるのよッ!?」

 

 

 

鈴の叫びを、一夏はただ黙って聞いていた。

そして、その問に答える様に、ゆっくりと口を開く。

 

 

「確かに、あの世界ではいろんな事があったよ……。あの世界で失った物、逆に得た物。それに、色々な人達とであって、知って、気づかされた……俺自身の事を…」

 

「…………」

 

「鈴、俺はな、あの世界での事を忘れられないんだ……。たぶん、一生。

なら、それすらも力に変えて、俺の剣を、信念を、ただ貫き通すだけだ……。

それが、俺があの世界で得た物。その思いを……俺は無くす事はしない‼」

 

 

 

語りながら、剣を鞘に納めていく一夏の姿は、妙に様になっていた。そして、中腰に構えるその姿は、一人の剣客。戦場を生き抜いた猛者の姿へと変化した。

 

 

「鈴…」

 

「ッ!? な、何よ?」

 

「本気で行くぞ……ッ」

 

「ッ‼ ……ふんッ! 上等じゃないッ‼ なら私も遠慮はしないわよッ‼」

 

 

 

鈴は双天牙月をもう一本展開し、柄頭を連結させて、ダブルセイバーの様にするとそれをバトンの様に回しながら、振って見せる。

 

 

 

「あんたの剣がいかに速くたって、この中を掻い潜ってこれるかしら?」

 

「いいぜ。…だが俺の剣は、その程度じゃ折れねぇぞ?」

 

 

 

 

その言葉の瞬間、一夏の姿が見えなくなり、気づいた時には、既に鈴の懐に入って抜刀していたのだ。

 

 

「なっ!? くっ、うわあぁぁぁッ‼」

 

 

咄嗟に反応し、青龍刀を盾にして斬撃を防いだが、攻撃には移れなかった。

何故なら、当の一夏は目にも止まらぬ速さで動いている。狙いのつけようがない。

 

 

「くそっ!」

 

「龍翔閃ッ‼」

 

「くっ! はあッ‼」

 

「龍巻閃ッ‼」

 

「ぐあッ!? こんのぉぉぉッ‼」

 

 

 

真下からの斬り上げ、反撃に移った時は体の回転を使ってのカウンター技。徹底的に一撃をいれてくる。

ダメージ自体は本来、そこまでデカくはないのだが、急所打たれる事によって絶対防御が発動するために、どうしても受けるダメージが多くなってしまう。

 

 

 

「あんまり……調子に乗るんじゃないわよッ‼」

 

 

 

一夏を振り切り、距離を取ったのと同時に甲龍のアンロック・ユニットが作動しはじめる。

妙に思った一夏は、一応警戒して構えるが……。

 

 

 

「食らえッ‼ 龍砲ッ‼」

 

「ッ!?」

 

 

 

鈴が叫んだ言葉。龍砲……。

その言葉のあと、一夏のとなりを何かが通り過ぎ、機体が煽られた。

だが、何が撃たれたのか皆目検討もつかず、唖然としているところに、鈴がニヤリと笑ってこちらを見る。

 

 

 

(なんだ……今のは……っ! 何かが通ったぞ?!)

 

「フフッ……今のはジャブだからね?」

 

「何!?」

 

 

 

そう言って、甲龍のユニットが再び作動し、今度こそ一夏は本当の龍砲をその身に食らうのだった。

 

 

 

「ぐおッ!?」

 

 

 

大出力の龍砲が白式を直撃し、白式は地面に向かって落ちて行くが、激突する寸前にスラスターを噴かせてなんとか体勢を立て直す。

 

 

その光景を、管制室でこの試合を眺めていた面々も驚いていた。

 

 

 

「何だ、今のはッ!?」

 

「衝撃砲……ですわね…」

 

「「衝撃砲??」」

 

 

箒が驚き、セシリアは鈴が使った武器を言い当て、それを聞いた和人と明日奈が同時に聞き返す。

 

 

「中国の専用機開発で作られた兵器でね、空間を圧縮して、見えない砲弾を打ち込む兵器らしわ……」

 

「わたくしのブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわね……」

 

「でもそれって砲弾だけじゃなくて、発射する砲身も見えないって事じゃない?」

 

「そいつは厄介だな……。俺がセシリアのレーザーを避けたり斬ったり出来たのも、銃身や銃口が見えて、なおかつ撃つ瞬間が見れたからだけど……あの武器じゃ、どこに飛んでくるかわからないな…」

 

 

刀奈とセシリアが解説を入れ、明日奈と和人がさらに指摘する。

 

 

「一夏……」

 

 

箒の心配そうな呟きに、全員が沈黙する。

 

 

「しかもあの兵器は、射角に死角が全くない、360度撃てるみたいですね…」

 

 

さらに山田先生の指摘が、その場の空気を重くする。

 

 

 

 

そして、当の一夏は鈴が乱れ撃ちしてくる鈴の攻撃から逃れていた。

 

 

「くそっ!」

 

「へぇー、よく避けるじゃない……。龍砲は砲身も砲弾も見えないのが売りなのに……」

 

 

 

 

動き続けてもうどれくらいになるか、上空、地上、三次元に動きまくってなんとか躱し続けていく。

 

 

 

(くそっ……厄介な兵器だ……。だが、)

 

 

 

一夏はふと、動きを止めて鈴と相対する。一瞬の事に鈴も驚くが、直ぐに気を取り直して再び龍砲を構える。

 

 

 

(何……? 逃げるのを諦めた? ……まぁ、どっちにしろ斃すんだから一緒よねッ‼)

 

 

 

ただダラリと剣を下げ、正面を向いて鈴を見る一夏に対して、鈴はもう一度龍砲を放った。

 

 

 

「いっけぇぇぇぇッ‼」

 

「………ここか……ッ‼」

 

「えっ?」

 

 

 

大出力の龍砲を放った鈴は、一夏の行動が理解できなかった。

何故なら、ただジッとしていただけなのに放った龍砲を見切り、体を横に捻って完璧に躱したのだから……。

 

 

 

「なっ!? か、かか、躱した……? 嘘でしょッ?!」

 

「やっぱりな……その龍砲の弾道はもう見切った……ッ‼」

 

 

 

確信に満ちた一夏の顔。

鈴はただ驚嘆するばかりだった。

目に見えない空気の砲弾を、完全に見切ったと言ったのだ……目の前の男は……。

 

 

 

「そ、そんなはずないわッ‼ 龍砲は目に見えないのが特徴なのよッ!? それなのに、それが見えるわけないじゃないッ!」

 

「確かにな。どんな奴でも見えない物を見ようとする事は出来ない。そんな事が出来るんだったら、そいつはもう人間を超えている……。

だが、龍砲は見えなくても、“それを撃つ瞬間のお前の表情からどこに撃つのか” ……それくらいは感じ取れるさ」

 

「なッ!?」

 

 

 

龍砲の軌道自体ではなく、それを撃つ操縦者の顔の表情でそれを察知すると言う、離れ技を成し遂げた一夏に、鈴は驚いてばかりだった。

 

 

 

「あ、あああり得ないわよッ‼ たかが顔の表情だけで弾道を予測するなんて事ーーッ!」

 

「鈴、俺とお前は、俺がSAOに囚われるまでに少なくとも三年は一緒にいたんだぜ? だったら、幼馴染の事くらい多少の事は分かるんだよ……。

それに、何をする時もそうだったけど、お前が決めに来る時の顔は、いつも見てたんだ……。だから、撃つ瞬間にその顔と、目線の先が砲弾の射線軸上だってことだ……ッ!」

 

「ーーッ!」

 

 

 

一夏の懇切丁寧な解説で、鈴はもう反論する気にもなれなかった。

今目の前に立っているのは、間違いなく自分よりも強い相手。今まで侮っていたのが、バカらしく思えてくる。

 

 

 

「あんた……本当に変わったわね」

 

「そりゃあ、二年も戦場に立っていたのなら、少しくらいは変わるさ……」

 

「そうよね……たかがゲームでも、命を賭けたんだったら……それはもうゲームじゃない。ただの殺し合いよ……そんな中で生きてきたあんたが、普通なわけ無いか……」

 

「おいおい…俺は人間やめたつもりは無いぞ? これでも立派な人間だと思ってるだから……」

 

「どこがよ? あんたも、あの和人さんだってそうじゃない。セシリアとの試合見せてもらったけど、あんたらが同じ十代だとは思えないわ……ッ」

 

 

 

 

呆れる鈴の表情は管制室で見ていた一同にも見え、それに同意した箒とセシリアが、二人して頷くという奇妙な光景がそこにはあった。

 

 

 

「俺とチナツはそこまで大した事はしてないと思うんだが……?」

 

「いいえ、和人さんも一夏さんも……正直、ギネス記録に載るくらいの称号を与えられるべきですわよ……」

 

「全くだ。レーザーは斬るし、ソニックウェーブは起こすし、見えない砲弾を避けるし……SAOでは一体何をしていたんですか?」

 

「いや、何をって言われてもなぁ……」

 

 

 

返答に困る和人を尻目に、明日奈と刀奈は試合を見る。

もう完全に見切った龍砲では、一夏にダメージを与える事が出来ない。本気になった一夏を止めるのは、生半可なことでは成し得ない。

 

 

「このッ、いい加減落ちなさいよッ!」

 

「断るッ!」

 

「龍砲ッ‼」

 

「土龍閃ッ‼」

 

 

龍砲に合わせる形で、地面に思いっきり剣を叩きつける。

黄色いライトエフェクトを纏った雪華楼は、地面を砕き、それによって弾き出された石つぶては、龍砲に直撃して土煙をあげる。

 

 

「もらったッ‼」

 

 

だが、鈴はその土煙を一気に突破し、一夏の間合いに詰める。そして振り上げた渾身の一撃を、一夏に向けて放った。

が……。

 

 

「遅いッ‼ 龍巣閃ッ‼」

 

「きゃあぁぁぁッ!」

 

 

 

一撃重視の鈴に対して、連撃型の一夏の攻撃。

紅いライトエフェクトの剣閃が、神速の速さで8連撃。

鈴の甲龍のシールドエネルギーが半分を切った。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「鈴……」

 

 

 

双天牙月の切っ先を突きたて、杖のつくようにして立っている鈴。

それを見て一夏は刀を下げて、鈴に近づく。

 

 

 

「何よ、情けのつもり?」

 

「鈴、もう終わりだ。降参してくれ……」

 

「はぁ? 何言ってんのよ? 降参? するわけないじゃない……ッ! これでも私は代表候補生よ!? 舐めんじゃないわよッ‼」

 

 

 

ここまで来れば、もう自分の我儘だ。

今の一夏を認めたくないが故に敵対し、剣を交えている。

ISでの戦闘や稼働時間は、鈴の方が絶対的に上回っている……だから、勝負の行方は圧倒的な力を見せつけての自分の勝利を描いていた。

が、蓋を開けてみたらどうだろう……。今は自分が崩れ落ちそうになり、眼前には悠々と立っている一夏が。

自身の努力は、一体何だったのか? っと疑いたくなる。

 

 

 

「くっ…! ううっ……」

 

 

 

力を振り絞り、二つの双天牙月を連結させ、大きく振りかぶる。

 

 

 

「さぁ、構えなさいよ……ッ‼ まだ勝負は終わってないわッ‼」

 

「鈴。…………わかった。ならば、俺も全力で迎え討つッ‼」

 

「当たり前よッ‼ うりゃうりゃうりゃあぁぁぁぁッ‼」

 

 

 

 

双天牙月を振り回し、一気に肉薄する。

そして、渾身の一撃を横薙ぎに一閃。当たれば一溜まりもない一撃だ。

振り抜いた攻撃の剣圧によって風圧が起こり、塵が舞う。

だが、目の前に一夏の姿はない。

 

 

 

「ッ!? どこに……」

 

「大型の武器は、その巨大さ故に攻撃力は凄まじい物を持つーー」

 

「ッ!?」

 

 

声の聞こえた方角……上へと視線を向ける鈴。

 

 

 

「だが、その巨大さ故に小回りが効かず、攻撃の手段は “振り下ろす” か “薙ぎ払う” かの二つに一つ……。

至極読みやすいーーッ‼」

 

 

 

そう言いながら、左腕を前に突き出し、刀はその左腕の上から左肩当たりに並行に伸び、いつでも振り抜ける状態のまま、鈴に向かって落ちていく一夏。

 

 

 

「おおぉぉぉぉッ‼」

 

「くッ‼」

 

「龍槌閃ッ‼」

 

 

 

ブースターの出力と地球の重力。

思いっきりスピードに乗った一夏の一振りが下ろされ、剣閃一閃。

咄嗟に防御に回った片方の双天牙月の刃の部分を、真っ二つに両断して見せた。

 

 

 

「くっーー‼」

 

「………」

 

 

 

斬られた衝撃により、後ろに倒れ、尻餅を着く鈴。そして、ゆっくりと立ち上がり、鈴を見下ろす一夏。

もはや、勝敗は決したかに思えた。

 

 

 

 

 

 

が、その時……。

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオォォォォォンッ‼‼

 

 

 

 

 

 

「へっ?」

 

「ッ!? 鈴ッ‼」

 

 

 

 

突如、鈴と一夏のいる場所から遥か上空。

そこから、大出力で放たれたビーム攻撃が、二人を狙って撃たれた。

撃たれたビームは、アリーナのシールドを貫通し、アリーナのグラウンドを直撃。

大きな黒煙と轟音をたてる。

 

 

 

 

 

「システムに異常発生ッ‼ 何者かがアリーナの遮断シールドを越えて、侵入しました‼」

 

「試合中止ッ‼ 織斑! 凰! すぐに退避しろッ‼」

 

 

 

 

山田先生、千冬の声により、アリーナ内は騒然としていた。すぐに観客席の防衛機能が発動し、外壁が閉じる。

鳴り響くアラーム音と赤い蛍光ライトが、非常事態である事をより一層際立たせる。

 

 

 

 

「な、何ですのッ!?」

 

「一夏!?」

 

「生徒の避難を最優先ッ‼ 先生方も、誘導員として配置にッ‼」

 

「キリトくん!」

 

「あぁ、俺たちもどうにかしてチナツの援護に行かなきゃな……」

 

 

 

 

セシリアと箒は混乱し、刀奈はすぐに通信機を使って、各地に連絡。生徒と来賓の避難を指示。和人と明日奈は一夏の加勢に行くために、最短通路の割り出しをしていた。

 

 

一方、アリーナ内では……。

 

 

 

 

 

 

「鈴、大丈夫か?」

 

「う、うん……なんとかーーてっ!?」

 

 

 

突然襲ってきたビームを躱した二人は、ビームの着弾地点から少し離れた所で様子を見ていた。

一夏の問いに答える鈴。だが、今自分のおかれている状況を、改めて確認して驚愕した。

何故なら、自分が一夏にお姫様抱っこされている状態だったからだ。

 

 

 

 

「なっ、何してるのよこのバカッ‼」

 

「痛ってぇッ‼ 何すんだッ!」

 

「うるさい‼ うるさい‼ うるさぁーーいッ‼」

 

「バカッ‼ 殴るなッ‼」

 

 

 

緊急事態につき仕方ないのだが、それとこれとは別問題なのが乙女心というやつなのか……。

だが、悠長な事を言ってる場合でもないのも事実である。

黒煙をあげる地点から、煙を掻き分けてくるかの如く歩いて、姿を見せる侵入者。極太の腕をぶら下げ、ズシン、ズシンと一歩一歩が重量感のある歩き方をしている。

 

 

 

 

「何なんだ……あいつ……」

 

「あれでもISなのかしら……?」

 

「わからない…」

 

 

 

侵入者はただただその場に立ち尽くし、こちらの様子を伺っている。

 

 

 

「お前、何者だ!?」

 

「………………」

 

「聞いているのか? お前は何者だ、何が目的だッ!?」

 

「………………」

 

 

 

 

怒鳴りつけるような一夏の問いにも侵入者は何の反応も見せず、ただ見ているだけだ。

さて、どうしたものか……。そう思っていた時、丁度良いタイミングで通信が入る。

 

 

 

「織斑くん?! 凰さん?! 無事ですか?!」

 

「山田先生…ッ! こちらは大丈夫です! それより、これはどういう事なんですか? 観客席の生徒達は?」

 

「今こちらでもその対処をしている所です! すぐに教師部隊が突入しますので、お二人はすぐに退避をッ!」

 

「っと言われましてもね……」

 

 

 

退避しろと言われても、相手の出方がわからない以上、下手に動けば、今まさに避難している生徒達に危害が及ぶ可能性がある。

 

 

 

(くそっ……どうする……。俺一人でも相手になるかどうか……。

おそらくはパワータイプの機体。それにビーム兵器。近づき難いな……)

 

 

 

そう思案していると、先ほどの通信から全く別の声が聞こえてきた。

 

 

 

『チナツさん! 聞こえますか?』

 

「えっ? ……この声……まさかユイちゃんか?!」

 

『はい! そうです!』

 

 

 

白式のプライベートチャネルに、可愛らしい銀糸を弾いたような声が聞こえる。

何を隠そう和人と明日奈……キリトとアスナの愛娘であるユイの声だ。

 

 

 

 

「そうか……ッ! キリトさんの月光からプライベートチャネルに……」

 

『はい、侵入者さんのハッキングで中々割り込む事が出来ませんでした……』

 

 

 

だが、それを見事に看破し、システムに割り込んだのだから凄いという他ない。

こういう所は、父親譲りなのだろうか……?

 

 

 

 

「ユイちゃん。他のみんなの様子は?」

 

『それが、あまり良く有りません……』

 

「どう言うことだ? もう避難は始めてるんだろ?」

 

『いえ、それが……その侵入者さんのハッキングの所為で、すべての通路のシャッターが閉鎖。解除に時間が掛かっているために、教師部隊の突入が大幅に遅れていますッ!』

 

「何だってッ!?」

 

 

 

つまり、侵入者のハッキングを解除するか、その侵入者を倒すしかないわけだ。

 

 

 

「………ユイちゃん。パパと通信は繋げられる?」

 

『はい! 大丈夫です!』

 

 

 

そう言って一夏のプライベートチャネルから離れていく。

そして、数秒後。今度は和人と共に通信が入る。

 

 

 

『チナツ! ユイから話は聞いた。システムクラックの方は、IS学園三年の精鋭の先輩方がやってくれてはいるが、時間が掛かるらしい。俺たちも突入して、加勢したい所だが……』

 

「それも無理でしょうね……。

キリトさん、ユイちゃんと一緒にシステムクラックの作業に入って下さい。少しでも早く生徒の避難を急がないとッ!」

 

『お前はどうするんだ?』

 

「この場であいつの相手が出来るのは、俺か鈴だけです。

だから、時間稼ぎは俺たちでやります!」

 

『まぁ、お前ならそう言うよな……。

わかった。俺も出来るだけの事はやってみるが、無茶だけはすんなよ? あとで怒られるのはお前だからな』

 

「わかってますよ。それじゃあシステムクラックの方、よろしくお願いします」

 

『おう!』

 

 

 

 

 

通信を切り、再び侵入者を見る一夏。

 

 

 

 

「話は終わった?」

 

「あぁ。今のところ、避難が遅れているらしい……。どうやら、あいつがハッキングしている所為で、システムに異常が起きているみたいだ…」

 

「そう……なら、私達でぶっ潰した方が速いってわけね?」

 

「まぁ、概ねそうなのだが……」

 

「つーかッ! 早く離しなさいよっ‼ 動けないじゃないッ!」

 

「あぁ、そうか! すまない。……っ‼」

 

 

 

 

 

鈴の指摘に慌ててお姫様抱っこを解除したその時、侵入者からの高出力のビーム砲撃が行われ、鈴と一夏のいた場所を通り過ぎる。

 

 

 

「ッ! 危ないわね……! どうやら、向こうもやる気見たいよ?」

 

「みたいだな……」

 

「一夏、あんたが突っ込みなさい。武器 “ソレ” しかないんでしょう?」

 

 

 

 

そう言って、鈴は一夏の右手に握られている刀を見る。

自分をここまで追い詰めた、一夏にとっての “最強の武器” を……。

 

 

 

 

「あぁ。まぁ、 “もう一本” あるんだが、それはいざと言う時に使うさ……。

そんじゃあ、行くとするか……。バックアップ頼んだぜ……鈴!」

 

 

 

 

鈴を一目見て、はにかむ一夏の顔は、とてもかっこよく思えた……。

二年前、一夏を奪われ、何も言えないまま中国に帰り、そして、再び再会した。

恋人がいて、いまだゲームの世界に身をおいている一夏に嫉妬し、怒り、刃を向けた。

だが、何故だろう。

今の一夏を見ていると、とても安心する。

何故かわからないが、負ける気が全くしない。一夏の強さを知っているから? 絶対勝つと信じているから?

それは鈴自身もわからない。

でも、一緒に戦える事が、今は嬉しい。

この戦いが終わったら、自身の気持ちを打ち明けよう……。そのためにも、今は戦って勝つ‼

それだけだ。

 

 

 

「任せなさいっ‼」

 

 

 

 

意気や良し。白い侍と赤き龍は、強大な敵に向かって戦いを挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 






次回は、決着ですね……。


感想よろしくお願いします^_^


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