ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりの更新ですね( ̄▽ ̄)

長くなってしまって申し訳ありません!
原作にはない展開を考えるのって、ほんと大変ですね……。
(わかってもらいたいっ、この気持ち……っ!!!)




第105話 勇者と、聖騎士と……

「キリトくん……!」

 

 

IS学園へと戻ってきた明日奈。

シャルの通信と、送られてきた地図を受け取り、彼女は学園の地下区画へと足を踏み入れた。

本来ならば、敵勢力の排除を確認している現状において、ISは解除してもいいのだが、なぜか明日奈は解除せずに、地下区画を《閃姫》を纏った状態で移動している……その訳とは……。

 

 

 

「うぅ……早く着かないかなぁ……ここ本当に苦手なのに……!」

 

 

 

以前、一夏とともにサプライズのバースデー企画を開いてもらったのだが、その催しというか、ドッキリに近い企画が、この地下区画で行われたばかりだからだ。

あの時は箒たちや和人、刀奈が一緒になって悪巧みを考えつき、一夏と明日奈をビックリさせようとしていたのだが、なにぶん明日奈は幽霊が苦手だ。

苦手……というよりは、嫌いだ。

恐怖でしかない。

にも関わらず、彼らはそれを利用してドッキリを仕掛けたのだ。

その時の記憶が、まだ鮮明に残っている状態で、またこの地下区画に入るとなると、気が滅入るのも仕方がないだろう……。

 

 

 

 

 

ガシャーン…………!!

 

 

 

 

「ひっ!!?」

 

 

 

 

どこからともなく音が響いた。

おそらく、襲撃の際に倉庫などに収納していた物が、バランスを崩して落ちてしまった……と言った感じだろうか?

音の反響具合から察するに、結構遠いところから聞こえてきたようだが、明日奈にとっては関係ない。

 

 

 

「ううぅ〜〜〜……! もうぅ、やだぁ……!!」

 

 

 

恐る恐る前に進み、目的地へと急ぐ。

そんな時だった。

 

 

 

「おい」

 

「ひっ……!!?」

 

 

 

いきなり前方から呼ばれた。

それは完璧に人の声だった。

ついでに言うなら、こちらへと近づいてくる足音さえ聞こえてくる。

そしてついに、こちらに近づいてくる人影の様なものを見てしまった……。

その全てを認識した瞬間、明日奈はパニックになり、頭を抱えてその場にうずくまってしまった。

 

 

「いやあぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!!!!!????」

 

「お、おい……っ?! 落ち着け、結城」

 

「いやあぁぁぁ〜〜〜〜っ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 何もしていませんからぁぁ〜〜!!」

 

「落ち着けと言っているっ!」

 

「は、はひ……?」

 

 

 

 

頭を抑えて、身動きが取れなかった明日奈。

しかし、その声には聞き覚えがあって、明日奈はゆっくりと近づいてきた人影の方へと視線を移した。

 

 

 

「あっ……」

 

「なんだいきなり……私はお前にトラウマを残させる様なことをした覚えはないが?」

 

「お、おお、織斑先生ぇっ!?」

 

「いつまでそうしている……さっさと立て」

 

 

 

 

そこにいたのは、あからさまに不機嫌そうな千冬だった。

千冬はいつもの教師服の状態で、腕を組み、明日奈を見下ろしていた。

明日奈は急に恥ずかしくなったのか、耳まで真っ赤にして、その場に立ち上がった。

 

 

 

 

「あ、あの、その……す、すみませんでした……!」

 

「全くだな……私の顔を見るなりいきなり絶叫とは、失礼な奴だ」

 

「だ、だってぇ……! 織斑先生真っ黒な服着てるから、全然分からなかったんですよぉっ!!」

 

「お前はビビリ過ぎなんだ……。一夏から幽霊の類が苦手だとは聞いていたが……」

 

「ううっ……」

 

「しかし、まさかお前まで帰ってくるとは……それになんだ、その機体は……?」

 

「あ……」

 

 

 

 

見たこともない機体。

もともと明日奈が身につけていた専用機《閃華》は白を基調とした装甲に、赤いラインが入っていた機体だったはずなのだが……。

今は白と青のツートンカラーとなり、存在していなかった六本の白いブレードの様なもの……そして背部にある大型のブースター。

この間まで見ていた機体とは思えないほど姿形を変えている……。

 

 

 

「この機体は、その……」

 

「なるほど、『二次移行』(セカンドシフト)を起こした……という事で間違いないな?」

 

「えっ? あ、はい、そうです……」

 

「はぁ……一夏といい、お前といい……今年の一年には驚かされる……こんなにも早く『形態変化』を起こす例は、過去にはないんだがなぁ……まさしく、前代未聞というものだな」

 

「あ、はは…………」

 

 

 

 

あの時の事は、あまり鮮明には思い出せない。

家族が殺されそうになり、それをさせまいと必死になって戦っていただけだ……。

そして気がついた時には、今のこの姿……『閃姫』へと変貌していた。

 

 

 

「まぁ、何はともあれよく無事に戻ってきた。こんな状況ではあるが、今は休め」

 

「っ! そ、そうだ! キリトく……和人くんはっ?! 今どこにいるんですっ?!」

 

「ん……ぁあ、お前も桐ヶ谷を助けに来た口か……まぁいい、ここの通路を突き当たって、左に曲がれ……そうすれば、ダイブルームがある」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 

先ほどまで怖がっていた明日奈の姿は何処へやら……。

明日奈は急いでダイブルームへと向かう。

そんな後ろ姿を、千冬は微笑みながら見送った。

 

 

 

「さて、そろそろこちらも、カタをつけねばならんか……」

 

 

 

明日奈を見送った千冬……。

気を取り直して、地下区画の “最奥” へと向かう彼女の眼は、真剣を彷彿とさせるほど、鋭くなっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリトくんっ!」

 

 

 

 

千冬の道案内を聞き、ようやくダイブルームへと到着した明日奈。

その中には、横たわる三人の姿。

和人、刀奈、そして刀奈を助けに向かった一夏の三人である。

 

 

 

「これが……電脳ダイブ……」

 

 

 

初めて聞く単語……。

元々のVRMMOのように、機械を頭に装着するなどの動作が不要であり、ISのコアネットワークを使って行っているのだ。

故に、三人の頭の上には、アミュスフィアなどは取り付けられていない……。

明日奈は《閃姫》を解除して、横たわる和人の元へと駆け寄る。

 

 

 

「キリトくん……!」

 

 

 

和人の左手を両手で持ち上げ、自身の右頬に当てる。

左手から感じる体温……脈の音……感触……ありとあらゆる情報が、触れた頬から感じる。

それらを感じた瞬間、明日奈の目に涙が溢れてた。

 

 

 

「キリトくんっ……! 待っててね、今助けに行くからっ!」

 

 

 

明日奈は和人の左隣にあるダイブスペースに座る。

 

 

 

『明日奈さんっ、戻って来てくれたんですね!?』

 

「その声……っ、簪ちゃん?!」

 

 

 

 

すると、突然通信が入り、空間ウインドウから声が聞こえる。

その声の主は、簪だった。

 

 

 

「簪ちゃん、ありがとう……! キリトくんたちを守ってくれてたんだよね?」

 

『いえ、私、は……何も出来ませんでした……っ!和人さんとお姉ちゃんが、敵の罠に嵌るとも考えずに、二人にダイブしてほしいって言ったから……!』

 

「簪ちゃん……」

 

 

 

少々泣き声交じりに話す簪。

自分だって、姉である刀奈が再び囚われの身になっているというこの状態なのに、そう平然といられるわけもないだろう……。

 

 

 

「大丈夫だよ、簪ちゃん」

 

『っ……え?』

 

「チナツくんが、カタナちゃんを助けに行ったんでしょう?」

 

『はい……』

 

「なら、あの子に任せておけば、大丈夫だよ……」

 

『で、でもっ……!』

 

「チナツくんは、必ずカタナちゃんを助けて、戻ってくるよ……! チナツくんにとってカタナちゃんは、私にとってのキリトくんと同じ……。

絶対に守りたい人で、失いたくない人だから……敵なんかに、カタナちゃんをやらせたりはしないと思うな」

 

『明日奈さん……』

 

「だから大丈夫っ! ちゃんと、私とキリトくんと、チナツくんとカタナちゃんっ……四人で必ず帰ってくるから!

だからそれまで、バックアップよろしくね!」

 

『っ……はい! わかりました! それまで、もう少しだけ、ユイちゃんと、ストレアを借ります!』

 

「うん! ユイちゃんにもよろしく伝えておいて!」

 

『了解……! それでは、こちらでサポートします! 電脳ダイブの準備をしますから、明日奈さんも準備をお願いします!』

 

「わかった!」

 

 

 

 

明日奈はすぐにシートに横たわる。

すると、横たわった状態から見える目線……つまり、天井に空間ウインドウが開き、そこには電脳ダイブ開始までのカウントダウンが表記されていた。

ナーヴギアやアミュスフィアとは、また違った感覚。

しかし、不思議と恐怖はなかった。

むしろ、気持ちは高揚し、臨戦態勢に入っている。

この感覚は、身に覚えがある……。かつては幾度となく味わってきた感覚、自分や仲間たちと共に、命をかけて希望のある明日を迎えるために戦いに赴いた時と同じ感じ……。

階層主……アインクラッドのフロアボス討伐の時と同じだ。

 

 

 

 

『準備が整いました! このまま一気に、和人さんがいる場所に転送します!

中では、激しい戦闘が起こっていますから、注意してください!』

 

「わかった! ありがとう、簪ちゃん!」

 

『装備データも一緒に転送します! 無事にっ、帰ってきてくださいっ!』

 

「うん!」

 

 

 

 

ダイブするための機械が動いている。

ISコアのネットワークを通じて、意識を電脳世界にダイブさせるこの電脳ダイブ。

おそらくは、専用機である《閃姫》との間にネットワークをつないでいるのだろう。

そして、それもすぐに終わる。

目の前の表示が変わり、カウントダウンが刻一刻と迫る。

 

 

『ダイブまで5秒前! 4! 3! 2! 1!ーーーーー』

 

「リンク・スタートッーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

明日奈の視界を、真っ白い光が包み込んでいった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌアアアーーーー!!!」

 

「フンッ!!」

 

 

 

降り止む様子もない雪空の下で、より一層激しい戦闘音が響いていた。

片方は武者鎧を纏い、氷に覆われた妖刀を振るい続けるシュタイナー。

もう片方は、真紅の鎧を身に纏い、大きな盾と片手剣という、いかにも聖騎士と言わしめるような姿のヒースクリフ。

 

 

 

「フハッハッハッハーーーーッ!!!!」

 

「ッーーーー!!!!!!」

 

 

 

奇声とも取れる様な声をあげ、ヒースクリフに斬りかかるシュタイナー。

対してヒースクリフの方は、自慢の盾でシュタイナーの攻撃を全て受け切っている。

攻防一体の剣技……ユニークスキル《神聖剣》。

キリトの持つユニークスキル《二刀流》が、超高速攻撃特化のスキルだとするならば、これは鉄壁の防御特化スキル。

ましてやそれを一から設計し、実践の中で使いこなしてきたヒースクリフのそれは、並みのプレイヤーの物とは比べ物にならないほどの鉄壁さを誇る。

故に、未だにヒースクリフは、妖刀の凶刃には触れてはいない。

 

 

 

 

「ハハッ、途轍もないなぁー……。こんなデータを作ってしまうとは……いやはや恐れ入るよ」

 

 

 

攻撃を受けながら、ヒースクリフそんな言葉を漏らした。

しかし、それが誰に対しての言葉だったのかは、キリトには知る由もなかった。

だが、そう余裕をかましていられる状況でもなかった。

人間にしてはありえない動きと速さで斬り込んでくるシュタイナー……それを何度となく盾で受け切るヒースクリフだが、逆に言えば、ヒースクリフは攻撃しづらいという事になる。

妖刀が振るわれるたびに、途轍もない冷気がその場を駆ける。

そんな幻想的な力を持つ武器なんて言うのは、ソードアート・オンラインやアルヴヘイム・オンライン…………強いては、アインクラッドやイグドラシルなどの世界観には存在しなかった。

たしかに、伝説を模した武器は存在する……。

SAO時代にキリトが使用していた《エリュシデータ》も、レベル的には『魔剣』と呼ばれるくらいのものであり、ALOにも『伝説級』(レジェンダリー)と呼ばれる武器があり、キリトは一度、聖剣《エクスキャリバー》を手にしている。

しかし、その両武器は、炎や氷などといった属性の派生攻撃、またはその属性を生かした遠距離攻撃などはなかった。

 

 

 

 

「なんなんだ……あの武器は……! まるで、フロアボスの……!」

 

 

 

 

シュタイナーとヒースクリフが斬り合っている様子を、後ろで片膝をついた状態で眺めていたキリトが呟いた……。

特殊武器……特殊攻撃を持った存在……それは、どこのRPGの世界にも存在する。

それは、ボスモンスターだ。

あらゆるモンスターと戦ってきた……生物型も、人型も、アンデット系、幻想種……そして、それらのモンスターを模倣し、さらに改良を加えて、RPGのボスモンスター達は現れる。

その中には、武器を介して属性を持つ攻撃を放つものや、遠距離から攻撃してくる技を持ったものもいた。

特に幻想種……竜種のモンスターには、ブレス攻撃としてよく使われている。

しかし、目の前にいるサチの姿を模したシュタイナーは、人型でありながら……いや、自分たちと同じ存在でありながら、ボスモンスターの技を繰り出している。

もはやそれは、完全に別世界の技だと思ってもいいだろう……。

そして、接近して斬り合っていた両者が、一旦離れると、再びシュタイナーが妖刀を思いっきり振り抜く。

すると、まるで氷は生物の様に動き出し、怒涛の波を生み出した。

それをヒースクリフは自慢の盾で受けようとするも、あまりの物量に、全てを受けきることはできない。

 

 

 

「ぬうっ……!!?」

 

「ヒースクリフっ!」

 

「ええいっ、厄介なものを作ってくれたなっ、本当にっ!!」

 

 

 

なんとか後ろにいるキリトは守りきることはできたが、ヒースクリフ自身もそれなりのダメージを受けた。

 

 

 

「くっ……!」

 

「お、おいっ……!」

 

 

 

片膝を着くヒースクリフ。

そこにキリトが駆け寄り、ヒースクリフの身を案じた。

昔のことを思えば、本来ならありえない光景なのだが……。

 

 

 

「あいつは一体なんなんだっ……!? お前でも打ち勝てない相手ってなんだよっ?!」

 

「っ……あれは、複数のデータを読み込んで作り上げたデータの集合体だよ」

 

「データの、集合体……?」

 

「そうだ……。元々のSAOサーバーに残されていたわずかなデータを元に作り上げられたアバター……『サチ』と呼ばれる少女のデータを使い、そこに微かな記憶や今までに培ってきた経験値を無理やりねじ込んで、さらに別の仮想世界から得た別のキャラクターの情報を重ねているのだろう……。

だから戦闘能力では、かつてのアバターを凌駕していながら、記憶が曖昧で、別人の性格や記憶を保持した状態になっているわけだ……」

 

「なっ……?!」

 

 

 

ヒースクリフの存在もまた、データの中に生きる茅場 晶彦の人格という奇妙な存在だろう……。

しかし目の前のサチ……そしてシュタイナーという存在は、それすらも超える歪さを含んだ存在となる。

そんな状態のものを、一体誰が、どの様にして作ったのか……。

 

 

 

「そんな、無茶苦茶だろうっ……!」

 

「だが、現実に存在している……。まだ君と邂逅した時点では、その記憶と性格のバランスが保たれていたみたいだが……君からの猛攻を食らって、それが崩れたみたいだな」

 

「じゃあ、サチは……」

 

「あぁ、意志はあるかもしれないが、もはや風前の灯火と同じだろう……」

 

「くっ……!」

 

 

 

淡々とキリトに告げるヒースクリフ。

そう、目の前にいるそれは、もはやサチですらない。

サチの外見も、顔以外は何一つ似ていない。

もうプレイヤーでも、NPCでも、記憶を持った残像データでもない……ただの怪物、モンスターだ。

 

 

 

(なんでっ……、誰がこんな事をっ…………!!!)

 

 

 

キリトの精神を逆撫でするような行為。

しかしそれ以前に、こんな芸当を容易くできる人物とは……?

VRの世界に精通している人物は、茅場のほかに居るには居るが、こんな高等技術が必要になってくる物を作るとなると、茅場と同等が、それ以上の科学者や技術者の手によるものとしか思えない。

 

 

 

(誰だ……?! 須郷? いや、あいつはあり得ない、刑務所に入って居る時点で、そんな芸当はできないはず……なら、元アーガスの人間……? しかし、カーディナル自体は、茅場が設計したものだ……。じゃあ、誰が……?)

 

 

 

茅場をも超えてしまいそうな技術力……それが可能な人物を探り当てていく。

 

 

 

「っ……まさか……!」

 

 

 

しかし、事の次第を思い浮かべた時、その犯人の目星がついたキリト。

そもそも、今回のこの事件……。

ISのコアネットワークを用いて行った電脳ダイブ。

そして、そのISコアや、ISを作った人物は…………。

 

 

 

「篠ノ之 束博士……っ!」

 

 

 

茅場と並び讃えられる天才科学者……いや、天災科学者がいたではないか。

たしかに束はVRの技術には疎いかもしれない。

しかし、現行の軍事力をはるかに凌駕するISを作った人物だ……こんな事の一つや二つ、できないはずもない。

確証や証拠は無いが、ほかにできる人物も見当たらない。

そこまで考えていた時だった……目の前で激しい衝撃が走る。

 

 

 

「うおっ?!」

 

 

 

吹雪のような冷たく強い突風が吹き荒れる。

そして視線をそちらに移すと、またしても強烈な一撃をもらい、ヒースクリフが押されているようだった。

しかし、今回はヒースクリフだけではない。

シュタイナーも同様に、片膝をつき、大きく後方へと弾き飛ばされたようだ。

 

 

 

「何が……っ、起こったんだ……っ?!」

 

 

 

 

ゆっくりと起き上がるヒースクリフの頬や体に纏う鎧には、無数の傷痕を示すエフェクトが表示されていた。

そして、対するシュタイナーの体には、大きく袈裟斬りに斬られたであろう傷痕のエフェクトが現れていた。

 

 

 

「っ……!!!」

 

 

 

何が起こったのかわからないが、想像はつく。

おそらく、シュタイナーは激しい猛攻でヒースクリフを攻め立てていたに違いない。

だが、ヒースクリフはそれを逆手に取った筈だ。

甘く入った一撃に狙いを定め、その攻撃を盾ではじき返し、続けてソードスキルを発動。

そのソードスキルの名は、《ガーディアン・オブ・オナー》。

たった一撃のみのカウンター技だ。

それを上段から振り下ろした事で、シュタイナーの体に袈裟斬り気味に傷痕が残ったのだろう……。

 

 

 

「ヌウウッ……!!!」

 

「ふぅ〜……君はもはやプレイヤーですらないなぁ。ほんと、フロアボスを相手にしているようだよ」

 

「貴様ノ盾、中々二手強イ……!」

 

「お誉めいただいて光栄だなぁ〜。君の持ちうる力を受け止め切っていると言われると、私も自分自身を誇らしく思うよ」

 

 

 

 

キリトでは太刀打ちできなかった相手に、ヒースクリフは苦戦しながらも、未だ戦える状態……。

これでこのままシュタイナーを倒し、IS学園のメインシステムへとハッキングを仕掛けている者を捕らえれば、それで今回は万事解決となる。

しかしそのような事、上手くいかない方が常なのだ。

 

 

 

 

「フム……貴様ノ力、確カ二認メヨウ……。シカシ、貴様モ改メテ貰ワネバナラヌナ……」

 

「ほう? と言うと……?」

 

「一体イツ……我ガ全力ヲ出シテイルト言ッタ?」

 

「なんだって……?」

 

「我ノ力ハ、コンナモノデハナイ……! ソレヲ、今カラ貴様ヲ斬リ刻ム事デ証明サセヨウ……っ!!」

 

「っ……!!!」

 

 

 

あたりの空気が、また冷たくなった。

すでに外気温は氷点下を下回っていてもおかしくはない。

仮想世界のアバターといえども、感覚が直に伝わってくるようだった。

このままではマズイと……自分の中にある本能がそう叫んでいた。

そしてそれは、ヒースクリフもまた同じだったのだろう。

より一層引き締めた表情で、盾と剣を構える。

 

 

 

「ヌウウウウウウワアアアアアッ!!!!!!」

 

「っ!!?」

 

「なっ、なんだっ、アレはっ……!!!?」

 

 

 

周囲の冷気が、シュタイナーに集まって来たかと思えば、それは風を巻き起こし、凄まじい強風を伴って、シュタイナーの体へと巻きつく。

それはそのまま竜巻のように巨大な渦を形成し、周りにある建物の壁を破壊していく。

 

 

 

「破壊不能オブジェクトがっ……?!!」

 

「っ…………!」

 

 

 

アインクラッドの世界が壊される。

そういう風にヒースクリフには映ってしまう。

そして破壊不能オブジェクトすらも破壊するその力と現象に、キリトはまたしても衝撃を受ける。

その破壊をもたらした原因は、未だに猛烈な竜巻の中で動こうとしない。

強風が吹き荒れる中、キリトはやっと立ち上がり、あたりを見回す。

すると、先ほどの強風で破壊された武器屋の屋台の中から、それとなく武器がこぼれ落ちているのを目撃し、その場に急いで駆け寄って、剣を取り出す。

 

 

 

「壊されるとしてもっ、何か武器くらいはっ……!」

 

 

 

シュタイナーの能力の中には、相手の剣を凍りつかせて、粉々に破壊するというなんともチートじみた能力がある。

しかし、何も持たずに素手で立ち向かうよりかは、武器があったほうがいい。

 

 

 

「んっ? 待てよ……っ」

 

 

 

そんな時、キリトはあることに気がつき、自分から見て後ろにいるヒースクリフへと再び視線を向けた。

 

 

 

「ヒースクリフっ!! 一つ聞きたい事があるっ!」

 

「何かねっ? 今は悠長に話している暇はないはずだがっ?!」

 

「あんたの剣と盾っ、なぜあいつの攻撃を受けても凍りついたり、破壊されないんだっ?!」

 

「あぁ、その事かねっ? 答えは簡単だっ! 武器のランク値が高い物だからだよっ!」

 

「ランク値っ?!」

 

「私の武器は、言うまでないがかなり高ランクの物だっ! そしてこの仮想世界は、あらゆる情報やデータを集積して作られた空間っ……ならば、私の武具に、いろんなバフ効果を持たせれるとして不思議ではないだろうっ!?」

 

「はぁっ?!」

 

 

 

つまりそれは、ヒースクリフの持つ武具がかなりチート仕様になっていると言うことだ。

何よりもフェアネス精神を持っていた男が、やるとは思えなかった。

 

 

 

「チートだと思うかいっ? だが、奴はもっとチートだろう……こんなものを作ってしまう人物には、正直言って賞賛を送りたいところだがっ、私の世界をここまで歪めてしまったことは許せないのでねぇ……っ!!

それに、相手が思う存分チートを使ってくるんだ、こちらもチートを使って、何か問題があるかね?」

 

「………………」

 

 

 

まるで子供の言い訳、言い分といったものだ。

しかし、それがヒースクリフ、茅場 晶彦の本性……なのかもしれない。

子供の頃に帰ったように、凄く目を輝かせながら言っている。

それに、『私の世界』というセリフ……。

たしかに、彼の夢、目標、野望……そう言ったものの体現が、あのアインクラッドという世界だ。

それを成し遂げ、彼自身が思っていなかった奇跡を見ることができた。

そんな彼に持っても、キリトにとっても、心や記憶の中で息づいている世界を歪められては、落ち着いてもいられない。

相手がチートならば、こちらもチートを使って立ち向かうまで……。

 

 

 

 

「ははっ……。あんた、思ったよりもガキっぽいんだな?」

 

「失礼だな、君は……。童心に帰ったと言ってもらえんかね?」

 

「まぁ、いいさ……。俺も、あんたと同じ思いではあるからな……!」

 

「ふふっ……」

 

 

 

キリトは両手に剣を掴み取った。

が、どちらの剣もランク的に言えば低いものばかりだ。

 

 

 

「ここにある物じゃあ、ランク値が低いなぁ……。ヒースクリフ、あんたの持ってる片手剣で余ってるのないのか?」

 

「やれやれ、私の武器をよこせと?」

 

「しょうがないだろ? ここにあるものは、みんな中層レベルなんだから……。

あんたも《神聖剣》を使う前は、普通の片手剣スキルを使って戦ってきたんだろっ?」

 

「まぁね……。全く……仕方がないが、今はそうも言っていられないか……少し待ちたまえ……」

 

 

 

 

十字剣を地面に突き刺し、ヒースクリフは右手を操作し始めた。

すると、SAOの時と同様に、メニュー画面のウインドウが現れた。

コマンドを操作して、剣を二本取り出した。

 

 

 

「これを使うといいっ……私が使っていたものだ!」

 

「ほほう〜! これはレアだなっ……!」

 

 

 

《神聖剣》を使う前に愛用していた剣。

それを二本も貸してもらえるとは……。

投げ渡された剣を、正確に柄を掴んで見比べる。

二本とも、同じ十字の形をした片手剣だった。

片方は青色の柄に、白銀の刃が眩しいくらいに輝いているもので、もう片方は、真紅の刃が特徴的な片手剣。

 

 

 

「ははっ……俺には眩しすぎるくらいの武器だな……こりゃあ……」

 

「君は黒が好きなんだったね……。すまないが、黒い剣は持っていないのでね。

それで我慢してくれたまえ」

 

「まぁ、ここへ来てわがままは言わないさ……ありがたく使わせてもらうぜっ……!!!」

 

 

 

右手の白銀の剣を取り、左手に真紅の剣を持ち、振り抜く。

自身の愛剣である《エリュシデータ》よりは軽く感じるが、手に感じる手応えは悪くない。

 

 

 

「さて、準備が出来たところで……そろそろお出ましのようだよ? キリトくん」

 

「みたいだな……っ」

 

 

 

吹き荒れていた竜巻が、徐々に晴れて来た。

強烈な風塵があたりを蹂躙するが、キリトとヒースクリフは、ジッと立ったまま、物怖じしない。

そして、その風が吹き止んだとき、その中から “魔獣” が現れた。

 

 

 

「…………ほう……っ」

 

「これは……っ!」

 

 

 

踏み出した足がガシャリと音を立てる。

その足には、まるで何か獣の鉤爪のような形をした氷が纏わりついていた。

いや、それだけではない。

足だけではなく、腕にも同じものが現れていた……両腕から手にかけて、まるで籠手のような形をした氷が付いており、両肩には、先ほどの身につけていた鎧甲冑と同じ形をしたパーツが取り付けられている。

頭部に付けられていた兜はいつのまにか無くなっており、先ほどよりも顔を認識しやすくなった。

そして、何より眼を見張るのは、背中から生えた大きな氷の翼と、氷で出来た尻尾だ。

足の爪、大きな翼に尻尾……それはまるで……。

 

 

 

「ドラゴンのようだね……」

 

「ドラゴンと鎧武者が合わさった……って感じか? とことんチートを集めてる感じがするな」

 

「ならばもう、アレはプレイヤーやNPCとして捉えるは無理があるかな?」

 

「だろうな。もはやフロアボスと思ってもいいんじゃないか? サチの風貌をそのまま使っているのは、ちょっと腹立つけどなっ……!!」

 

 

 

ヒースクリフとキリトは、そんなたわいない話をしながらも、その表情には油断がなかった。

 

 

 

 

「ギィオオオオオオオオーーーーッ!!!!!!」

 

 

 

 

先ほどの人間らしい奇声とは全く違う、本当にドラゴンのような咆哮を放つシュタイナー。

これが、本来の姿だとでも言うのだろうか……。

 

 

 

「久しぶりだな、あんたと肩を並べるっていうのは……」

 

「そうだね……第75層のボス攻略以来ということになるからな……」

 

「不思議な気分だよ…………敵だと思っていた奴が、こんなに頼もしい味方だと思うなんてさ……!」

 

「私も複雑な気分なのは否定しないさ……。しかし、君やアスナくん、チナツくんにカタナくん……誰かとこういう風に共に戦うのは、正直言って、悪くないとは思っているよ……!」

 

「ははっ……」

 

「ふふっ……」

 

 

 

 

今の二人は、かつて殺しあった宿命の相手ではなく、ただ単に、同じ目標を倒そうと、共に強敵に挑戦しようとしている歴戦のパートナーの様だった……。

 

 

 

「行くぞっ、ヒースクリフッ……!!!」

 

「よかろうっ……。遅れを取らない様にな、キリトくんっ……!!!」

 

 

 

 

まるで疾風の如き勢いで駆け出す二刀流の勇者と盾持ちの聖騎士。

これより開始されるのは、最後の戦い……。

生き残るのは、果たして…………。

 

 

 

 

 






あともう少しで、ワールド・パージ編が終わるかな?
って感じですね……。

もうすぐキリト側の方が肩が着きそうなので、それが終わったら、チナツ側に戻って、物語を進めようと思います!

感想よろしくお願いします!


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